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自閉症の児童の社会性を高める指導の工夫 - 感覚運動遊びを通して -

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自閉症の児童の社会性を高める指導の工夫 - 感覚運動遊びを通して -
自閉症の児童の社会性を高める指導の工夫
- 感覚運動遊びを通して - 山口県立防府養護学校 教諭 中村 剛
1 研究の意図
一般に自閉症の特性は、「 小・ 中学校における LD、ADHD、高機能自閉症の児童生徒への教育支
援体制の整備のためのガイドライン (注1)(以下ガイドライン)」
(文部科学省 2002)に示されるよ
うに、
「人への反応やかかわりの乏しさ」、
「言葉の発達の遅れ」、
「興味や関心が狭く特定のものに
こだわること」の3点が挙げられる。また、その他の特徴として、ガイドラインの中では光や音、
身体接触などの刺激への過敏性による影響を指摘し、自閉症の特性に対応した指導の大切さにつ
いて述べている。最近の研究(Dunn,W.1999;訳書 2004 (注2) )でも自閉症の一般的な特性以外に、
(1)体の柔軟な動きが苦手であること、(2)感覚器からの入力がうまくいかないこと、(3)感覚器か
ら得られた情報をうまく活用できないこと、という感覚の入力や調整及び運動のコントロールに
課題があり、これらに対する適切な対応の必要
特性から生じる影響
性が指摘されている。
さらに、感覚の入力や調整及び運動のコント
身辺の処理が苦手
ロールを適切に行うことができないと、身辺の
外で遊べない
感覚の入力や調整
運動のコントロール
処理動作に問題が生じるだけでなく、友だちと
疲れやすい
外で遊びたがらない、決まった場所以外には行
日常生活が円滑に送れない
こうとしない等、日常生活を円滑に送ることが
できず、社会への参加にも影響を与えることや
感覚運動遊びを通して
周り
からの
非難
自己評価の低下
学習・生活意欲の低下
身体を滑らかに動かしにくい点を周りから指
摘され、非難されることで劣等感を抱き、自己
劣等感
他者とのかかわり
社会性の向上
図 1 研究の仮説
評価及び学習意欲や生活意欲の低下につながることもある(辻井・宮原 1999(注3))。
そこで本研究では、自閉症の児童が感覚運動遊びに取り組むことを通して、感覚の入力や調整
及び運動のコントロールをできるようになることが、社会性の向上にどのように結び付いていく
のかを検証することとした。また、児童が主体的に課題に取り組み、指導者に対しても自ら積極
的に働きかけることができるように、遊びという活動形態を重視し、児童と指導者との交流を大
切にした支援の工夫についても検討することとした(図 1)。
2 研究の内容
(1) 研究の進め方
ア 実態把握の方法
保護者や担任から児童の学習面及び生活面についての聞取り調査を行った。また、感覚や
運動の力は MEPA-R 検査 (注4) を用い、社会性に関する力は S-M 社会生活能力検査 (注5) を用いて
測定した。
イ 指導方針及び実践
感覚の入力や調整及び運動を自分でコントロールできるようになるための感覚運動遊びを
中心に児童とかかわった。その際、児童が主体的に取り組もうとする課題を設定し、自己選
ー 113 ー
択の機会を設けながら児童と指導者との交流を深めた。
ウ 評価
実態把握と同様の方法で再評価した。
エ 考察
感覚や運動の力の向上と社会性の向上の関係について考察した。
(2) 実践事例
ア 事例1
(ア) 児童の実態
a 感覚の入力や調整及び運動のコントロールについて
(a) 生活の様子から
担任からの聞取りによると、小学校高学年のAさんは、遊具遊び等で身体の回転を
伴った動きに対して怖がる傾向があり、身の回りの位置関係の把握等、空間認知に困難
さがあることが分かった。
(b) MEPA-R 検査を用いた評価から(図2)
MEPA-R 検査を用いて感覚や運動の力の評価を行ったところ、身体全体が回転する動き
や姿勢の変化に関する課題が苦手であることが分かり、担任からの聞取りによる情報を
裏付ける結果となった。
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凡例: 達成 もう少しで達成 図2 MEPA-R 運動・感覚分野プロフィール(Aさん 5月)
姿勢に関しては、閉眼片足立ちといった身体を静止させた状態でのバランス(静的な
バランス)感覚を要求される課題は達成できていたが、「立ったままでぐるっと回る」、
「階段の2段目から飛び降りる」、「ぶらんこの立ち乗りをして、1人でこぐことができ
る」といった、身体を動かしながらバランスをとること(動的なバランス)を要求される
課題に困難さを示した。また、
「言葉の指示により『 左手で右足を押さえ、右手で左足を
押さえる』ことができる」、
「象、鳥等の動物の姿勢のまねができる」等、言葉からイメー
ジを描き、運動(身体の動き)につなげていくことを要求する課題にも困難さを示した。
移動に関しては、
「 両足でぴょんぴょん跳ぶ」といった身体の大きな関節や筋肉を使う
動きはできるが、
「前方に回れる(でんぐり返し)」、
「幅 10cm の直線の上を踏み外さない
で歩ける 」、
「 片足でケンケンが数歩できる」、
「スキップができる」等のバランスをとり
ながら、より身体の各部を協調させた動きを要求される課題に困難さを示した。
技巧に関しては、
「積み木で簡単な物をまねして作ることができる」、
「点や線に沿って
紙を切ることができる」といった対象をよく見る必要のある課題に困難さを示した。 ー 114 ー
b 社会性について
(a) 生活の様子から
担任からの聞取りによると、日常よく使う言葉や教師からの指示は理解できるが、行動の
切替えができにくく、周りからの働きかけに対してストレスを感じることがあり、結果的に
トラブルに発展してしまうことがあることが分かった。
(b) S-M 社会生活能力検査を用いた評価から(図3)
S-M 社会生活能力検査を用
いて社会性に関する力の評
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Aさんの中で得意な領域と
して表れたのは、作業、自己統
制の領域であった。これらの項
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図3 S-M 社会生活能力領域別プロフィール(Aさん 5月)
目を見ると、作業領域に関しては、のり付けをすることや手本を見て円、三角、四角を書くことが
でき、手先を使った課題は達成していることが分かった。また、自己統制領域に関しては、
買い物等で欲しい物があっても説得されれば我慢する力があることが分かった。
一方、Aさんの中で困難さを示したのは、移動、意志交換、集団参加の領域であった。
移動領域に関しては、
「近所の友だちの家や遊び場等に1人で行ける」や「交差点を信号に
従って渡ることができる」等の社会的なルールを踏まえ移動することに困難さを示した。
意志交換領域に関しては、
「自分の姓と名を言える」、
「見たり聞いたりしたことを自分から
話せる」等他人に対して自ら働きかけていこうとすることに困難さを示した。
集団参加領域に関しては、
「おもちゃ等を友だちと順番に使い、貸し借りができる」といっ
た社会的なルールに従って集団に参加することに困難さを示した。
(イ) 指導方針 行動の切替えが困難な理由の1つに、言葉で理解したことが空間認知を伴う身体の動きにつな
がりにくいことが挙げられ、この背景として、
「対象をしっかりと見る」という目的となる物の把
握が不十分なことや動的なバランスの困難さがある。また、身体の移動に関する技能が低いた
め、言葉で理解できても動作として的確に反応することが難しいと考えられる。さらに、家庭や
地域での生活経験や、順番や貸し借りといった人とのかかわり合いの経験が不足しており、こう
した経験を蓄積していく必要性もある。
そこで、感覚運動遊びを取り入れ、理解した言葉の内容と身体の動きとの連係が的確に行われ
るようになることをねらいとした。また、主体的に周囲へのかかわりをもとうとする意識の向上
を図るため、Aさんが身近な大人(指導者)へ要求を伝え、その要求に基づいて活動を選択し、適
切な支援により課題が達成されるという一連の経験(「要求 - 活動の選択 - 達成」)の積み重ねを
大切にすることとした。
(ウ) 実践での様子
本事例は、Aさんの興味を生かし、活動のねらいを柔軟に変更しながら感覚運動遊びを十分に
ー 115 ー
経験させることを心掛けて指導に取り組んだ。具体的には校外における公園での遊びや自転車に
乗る活動を行った。
また、Aさんとの取組を3つの期間に分けることで、Aさんの変容をとらえやすくなると考え、
それぞれの期間における状況の変化を読み取り、下記のとおり整理した。
a 第1期(Aさんが活動の流れを理解する時期)
感覚運動遊びを取り入れた学習を、Aさんの自己選択によって成立させていくため、Aさんが
活動の流れを理解することを主な目的とした時期である。
Aさんは、授業にかかわる指導者のメンバー構成が変化したことや、授業の導入において活動
を選択する場面が新たに取り入れられたこと等、新しい学習環境に対してとまどいを見せた。そ
のため学習の流れをつかみやすいように、行き先や活動内容について絵や文字で尋ねたが、自ら
の要求を伝えることに困難さを示した。
そこで担任は、Aさんが自ら選択しやすいように行き先や活動内容について、一つ一つ指さし
を行いながら、ゆっくりと言葉を掛けていった結果、Aさんは公園へ遊びに行くことを選択し
た。公園では、ぶらんこ遊びに集中し、それ以外の遊具を使った遊びは見られなかった。ぶらん
こ遊びでは、担任に押してもらおうと要求する場面が見られたが、それ以外の要求はなく「要求 活動の選択 - 達成」の流れをつくることはまだ不十分であると感じられた。
また、授業後の指導者間での話合いにおいて、Aさんに様々な感覚の刺激を感じてもらうため、
好きなぶらんこ遊びだけでなく、揺れとは異なった動きをする遊びへも活動を徐々に広げていく
ことを確認した。
b 第2期(Aさんが流れを理解し活動を楽しむ時期)
活動の流れを理解してきたAさんは、自らの要求に基づき活動を選択することや課題を達成す
ることが増え、
「 要求 - 活動の選択 - 達成」の一連の流れに見通しをもつようになった時期である。
担任は、第1期の支援の方法を見直し、どのような方法で活動内容等を提示するとより選択し
やすくなるか検討し、絵や文字だけでなく写真も用意し、活動の内容を具体的に把握しやすくす
るとともに、その日の活動予定を一覧できるように示し、活動の流れを視覚的にとらえやすくす
る等の工夫を行った。また授業開始後に、まず課題を選択し、留意事項を確認してから活動に移
るという展開を繰り返して行うことで、Aさんが流れをつかめるよう配慮した。その結果、Aさ
んは自転車に乗る活動について興味を示し、この活動を積極的に選択することが増えた。こうし
て新しい学習環境に慣れてきたAさんは、本学習の開始を楽しみに待つようになっていった。
ある日の授業開始時には、Aさんは担任が確認している活動予定に対し、笑いながらわざと違
う受け答えをして担任の反応を楽しむ姿が見られた。担任もその行動を予想しており、互いに相
手の反応を楽しんでいた。このように、Aさんと担任は、活動内容の選択場面ではお互いの反応
を楽しみながら、活動予定を決めていくといった温かい雰囲気の中で人間関係を築いていった。
また、別の日Aさんは、公園への移動中に車が前方から迫ってきたことに驚き、自転車から飛
び降りてしまい、自転車を放置したままその場を離れてしまうことがあった。自転車を安全に走
行させるための判断と操作を身に付けさせるため、担任は「約束カード」を導入することとした。
このカードには、
「車が来たら自転車を止める」、
「担任の後に続いて1列で走る」というルールが
書いてあり、Aさんと担任は互いにこのカードを見て読み合わせを行い、言葉で確認をしてから
出かけるようにした。回数を重ねる度にこのルールが定着し、道路の端を安定して走れるように
なっていった。その後も、自転車に乗る機会を増やし、その他のルールも実際に体験させるため
ー 116 ー
運転する距離を徐々に延長していった。不意の出来事にも対応できるようになっていったAさ
んは、自転車に乗ることをより楽しめるようになった。
Aさんは活動に対する充実感をもち、次の回の活動への期待が高くなっていくとともに、他
の学習場面でも、次の活動への切替えが円滑になった。
c 第3期(Aさんと担任との間に深まりのある人間関係を築く時期)
担任との人間関係を築いていったAさんは、担任に対して明確な意思表示をするようになっ
た。そして、納得するまで担任と意見のやり取りを続ける場面も増え、今までより更に深い人
間関係を築くようになった時期である。
担任は活動を開始するに当たり、いつものように留意事項の確認をしておきたかったが、A
さんはお気に入りのおもちゃを手にしたままであった。担任は、このおもちゃを手から離して
話を聞く方が集中できると考え、片付けることを提案した。しかし、Aさんはおもちゃから手
を放そうとはせず、担任はその行動の理由や背景を明確にとらえることができなかった。しか
し、担任はAさんが早く活動に取り組みたいという思いと、その活動へおもちゃを携行したい
という思いを抱いていることを大切にしながらやり取りを続けていった結果、次第におもちゃ
を手放さなかった理由や背景が分かってきた。Aさんは別の学習において、このおもちゃを用
いることで安心して活動に取り組んでおり、本学習においてもおもちゃがAさんの心の安定に
つながっていることが分かった。担任は、更にAさんとのやり取りを続け、おもちゃを使う際
には許可が必要であることを理解させた上で携行することを認め、互いの考えの一致点を見出
すことができた。互いのやり取りを通して決めたことについてAさんも納得し、留意事項の確
認ができ、そのことが心の安定につながり、安心して活動に取り組むことができた。
また、Aさんは学習経験を積むことで、自転車に乗る際のふらつきが次第に見られなくなっ
た。さらに、担任がAさんのスピードに留意しながら、「もう少し速くペダルをこいでね」や
「先生のちょうど後ろに付いて来てね」等の言葉を掛けたことにより、道路の端を一定の速さで
走ることができるようになり、自転車を安全に走行させるための操作が的確になった。
(エ) 評価
a 感覚の入力や調整及び運動のコントロールについて
(a) 活動の様子から Aさんの要求に基づき、自転車で公園に行くことが主な活動となり、バランスの取り方や
操作の力が向上し、自転車を運転するときのふらつきが見られなくなった。
(b) MEPA-R 検査を用いた評価から(図4)
MEPA-R 検査を用いて感覚や運動の力の再評価を行ったところ、すべての領域において向上
し、実践の中で見られた変容を裏付ける結果となった。
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凡例: 1回目
5月 2回目
図4 MEPA-R 運動・感覚分野プロフィール(Aさん 5月と 11 月の比較)
ー 117 ー
11 月
姿勢に関しては、
「立ったままでぐるっと回る」、
「階段の2段目から飛び降りる」といった、
身体を動かしながらバランスをとる課題に向上が見られた。
移動に関しては、
「前方に回れる(でんぐり返し)」は達成できなかったが、
「幅 10cm の直線
の上を踏み外さないで歩ける 」、
「スキップができる」、
「平均台の上を後ろ向きに歩ける」等、
バランスをとりながらより身体の各部を協調させた動きを要求される課題に向上が見られ
た。
技巧に関しては、
「積み木で簡単な物をまねして作ることができる 」、
「風船を連続してつく
ことができる」等、対象をよく見る必要のある課題に向上が見られた。 b
社会性について
(a) 活動の様子から
自転車に乗ることを通して社会的なルールの学習を重ね、自転車を安全に走行させるため
の判断と操作が、実践開始時と比べ的確になっていった。また、行動の切替えが必要な場面
で、周囲からの働きかけに対し、適切に応じられるようになっていった。
(b) S-M 社会生活能力検査を用いた評価から(図5)
S-M 社 会 生 活 能 力 検 査
を用いて社会性に関する
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や「交 差 点 を 信 号 に 従 っ
て 渡 る こ と が で き る」等
凡例: 5月、 図5 S-M 社会生活能力領域別プロフィール(Aさん
11 月
5月と 11 月の比較)
の社会的なルールを踏まえ移動することに向上が見られた。
意志交換領域に関しては、
「自分の姓と名を言える」、
「見たり聞いたりしたことを自分から
話せる」等他人に対して自ら働きかけていこうとすることに向上が見られた。
(オ) 考察
本事例では、第1期から第2期にかけて感
覚運動遊びを取り入れた活動の中で人間関係
が築かれ、次第に身体を動かす活動に熱中す
るようになり、第3期では人間関係が更に深
まるという展開となった。
自転車に乗る活動が中心になったが、これ
はバランス感覚、的確な方向の判断、目や手
足等の身体各部を複雑に協調させて動かすこ
とが求められる感覚運動遊びである。この活
自転車遊び
バランス
交通ルール
を
言葉で理解
信頼関係
状況判断
行動化
意図の把握
動でAさんは、自転車で公園に行く時間を楽
しみに待つようになり、活動後、次の行動へ
ー 118 ー
図6 事例 1 のまとめ
円
滑
な
行
動
の
切
替
え
充
実
し
た
学
校
生
活
の切替えも円滑になっていった。これは、自ら選択した活動で満足感が得られただけでなく、
身体を十分に動かし、自転車の操作や社会的なルールについて理解した言葉の内容と身体の
動きとの連係が的確に行え、状況判断と安全に走行することについて自信が得られたことによ
り、次の活動に対する適応力が高まったためと考えられる。また、担任との信頼関係が更に強
まり、担任の意図をくみ取れるようになったことも、行動の切替えが円滑にできることにつな
がったと考える。
こうした活動の結果、学校生活の中で、以前起こっていた行動の切替えができにくいために
生じるトラブルやイライラを感じる場面が減り、充実した日々が送れるようになってきたこと
から、本事例では自転車を用いた感覚運動遊びを通して、Aさんの社会性が高まったと考える
(前ページ図6)。
イ 事例2
(ア) 児童の実態
a 感覚の入力や調整及び運動のコントロールについて
(a) 生活の様子から
保護者からの聞取りによると、小学校中学年のBさんは、言葉の理解力は高いが日常生
活で左右を間違えることがある等、空間認知に困難さがあることが分かった。
(b) MEPA-R 検査を用いた評価から(図7)
MEPA-R 検査を用いて感覚や運動の力の評価を行ったところ、おおむねどの分野も課題を
達成しているが、左右の認識に関する課題が苦手であるということが分かり、保護者から
の聞取りによる情報を裏付ける結果となった。
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凡例: 達成 もう少しで達成
図7 MEPA-R 運動・感覚分野プロフィール(Bさん 5月)
姿勢に関しては、バランス感覚を要求される課題はほぼ達成できているが「一方の手を
上げ、他方を横に伸ばす」、
「片手で反対側の耳を押さえる」、
「言葉の指示により『左手で右
足を押さえ、右手で左足を押さえる』ことができる」等、身体各部の位置関係や左右の認識
を行い、動作として正しく表現する課題に困難さを示した。
移動に関しては、おおむね課題を達成しているが「前方に回れる(でんぐり返し) 」、
「平
均台の上を後ろ向きに歩ける」といったボディイメージ(自分自身でとらえる姿勢や動き
に関する身体のイメージ)を把握し動作に結び付ける課題に困難さを示した。でんぐり返
しでは、首や背中を曲げることができず、身体全体が伸びてしまった。また、平均台上を
後ろ向きに歩く課題では、進むことに不安を感じ、最後まで歩くことができなかった。
技巧に関しては、おおむね課題を達成しているが「風船を連続してつくことができる」、
「ピンセットで大豆をつまむ」といった、対象をよく見る必要のある課題に困難さを示し
た。
ー 119 ー
b 社会性について
(a) 生活の様子から
保護者からの聞取りによると、周囲の音や周りの子どもたちの様子が気になり、そのこと
が集団に対する不安となって不登校が続いていることが分かった。
(b) S-M 社会生活能力検査を用いた評価から(図8)
S-M 社会生活能力検査を用いて社会性に関する力の評価を行ったところ、個人で行えることが得意
であり、他者に自ら働きかける
ことが苦手であると分かり、保
護者からの聞取りによる情報
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Bさんの中で得意な領域
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図8 S-M 社会生活能力領域別プロフィール(Bさん 5月)
体的には、掃除機及び洗濯機
を使用すること並びに調理器具を使って簡単な調理をすることができることが分かった。
一方、Bさんの中で困難さを示したのは、移動領域であり、項目を見ると「近所の友だちの
家や遊び場等に1人で行ける」等、自分1人の力で他者とのかかわりの必要な場へ出ていく
ことに困難さがあることが分かった。 (イ) 指導方針
一般に、空間認知に困難さがある場合、社会生活上の混乱や失敗体験が重なり、社会的な活動
への参加意欲の低下につながることがある。例えば、身近な場所への移動は、日常生活において
多くの場面で必要となるが、空間認知に困難さがあると、道に迷う等目的地へたどり着きにくく
なり、結果的に外出を控えてしまい、社会的な関係を築きにくくなってしまうことがある。これ
らのことは、Bさんにも当てはまる傾向であった。
そこで感覚運動遊びを取り入れ、身体各部の位置関係やボディイメージを把握することをねら
いとした。また、自ら選択したことが承認される環境を整えることで自己決定への意欲を高め、
他者とのかかわりやルールのある活動に参加することへの不安感の軽減を図ることとした。さら
に、この不安感を軽減するために2人で協調して行う動きも取り入れることとした。
(ウ) 実践での様子
本事例は、感覚運動遊びを中心としながら空間認知の力を育て、指導者とのコミュニケーショ
ンの要素を含んだ遊びヘと発展することを心掛けて指導に取り組んだ。具体的には、プール、ト
ランポリン、ボールを用いた活動を行った。
また、事例 1 と同様にBさんとの取組を3つの期間に分けることで、Bさんの変容をとらえや
すくなると考え、それぞれの期間における状況の変化を読み取り、下記のとおり整理した。
a 第1期(Bさんと指導者との間に信頼関係を育む時期)
Bさんと指導者は初対面であり、Bさんは人に対する不安感が強かったため、信頼関係づく
りにはゆっくりと時間をかけ、精神的な負担にならないよう配慮しながら行った。第1期は、
こうした配慮を行いながら感覚運動を楽しく経験できるよう取り組んだ時期である。
ー 120 ー
Bさんとの話合いに基づき、プールでの活動、トランポリン等の運動遊具を用いた活動及び
ボール遊びを行った。この活動内容の決定について、学習の終わりに次回やりたいことを聞き、
Bさんの気持ちを理解しながら、自分の意思を表現させるように努めた。活動の中では、好きな
ことに熱中するあまり、終わりの区切りが付けられなくなり、その結果、情緒が不安定になって
しまうことが何度かあったので、活動内容だけでなく、時間と場所に関するルールを決め、Bさ
んに確認してこれらを守ることができるように働きかけた。このように、Bさんは活動内容等を
理解し、主体的に行動するための一定の枠組みを得ることで、活動全体に対する見通しをもち、
安心して活動に取り組むことができるようになっていった。
プールでの活動は、水中において水平、回転の姿勢をコントロールすることや、浮くこと、泳ぐ
ことに必要なボディイメージを把握することができた。また、輪くぐりや2人で同時に水中に潜
る活動は、相手と息を合わせて行う必要があることから協調性を身に付けることができた。プレ
イルームでの活動では、順番や役割についてルールを決め、バッティング練習に取り組み、指導
者と息を合わせて活動することやボールの動きに身体の動きを協調させることができた。また、
トランポリンを用いた活動では、ロープを跳び越えることで空中でのバランスを上手に制御する
ことができるようになり、手をつないで跳ぶ活動を体験することで、2人で協調した動きを行う
ことができた。このように2人で協調した動きを行うことを積み重ねることで、信頼関係を築い
ていった。
b 第2期(Bさんが自分の意思を表現する時期)
指導者との信頼関係を築いていったBさんが、自らの意思を指導者に伝えようという意欲をも
ち、自分なりに意思を表現するようになった時期である。
プールでの活動では、更衣室で最近関心の高いアニメの話題を問いかけてくる、水中に潜って
指導者の水着を触る、意図的に水を掛ける等、Bさんから指導者への働きかけが多く見られるよ
うになった。また、第1期には更衣の際に、指導者に着替えを見られないように陰に隠れていた
が、いつの間にか同じ場所で、指導者の目を気にすることなく平気で行うようになっていた。し
かし、水遊びをしていて、Bさんにとって手助けが必要な状況において、そこには指導者しかい
ないと分かっていても、
「だれか(ビニールプールを)押してー!」というように、直接指導者に
向けて要求を表現する言い方をすることにはまだ抵抗があった。
また、今まではその場での潜水はできるが、息継ぎをしながら泳ぐことはできない状態であっ
たが、10 m先まで足を着けずに泳ぎきることができるようになった。水中では水平な姿勢をとる
ことや回転をすること等、不安定な状態の中で余裕をもって姿勢の変化に対応することができる
ようになった。第2期の終わりには、体力も付いてきたように感じられた。
プレイルームでの活動では、後ろ向きに平均台を渡ることができるようになったが、指導者の
指示に従って左右の認識を行い、マットの左や右の端を歩くことは難しかった。
c 第3期(Bさんが自分の判断や行動に自信をもち、指導者に対し主体的に働きかける時期)
Bさんと指導者との人間関係が深まり、自分の判断や行動に対する自信を深めるようになり、
指導者に対しより主体的に働きかけることができるようになった時期である。
指導者との時間を共有し、共に経験することが増えるにつれ、Bさんは行動全体に積極性が見
られるようになり、大きな声で話をすることができ、行動を選択する場面でも自信をもって主体
的に自分の意思を伝えることができるようになってきた。トランポリンを用いた活動では、ジャ
ンプしながら長縄を跳び、空中でポーズを決めて指導者にアピールして見せるようになった。
ー 121 ー
また、この時期には、指導者の名前を呼びかけた上で要求を伝えるようになった。さらに、
達成感が得られたときには、ハイタッチをすることや「 やったー!」と言う等、そのときの感
情を言葉やジェスチャーで表現することができるようになった。さらに、人が近付くと不安に
なることの多かったBさんが、自分から指導者にいたずらをして、積極的に追いかけられるよ
うな状況をつくり、楽しむようにもなった。
第3期の終わりには、家から学校までの道順について、左右の認識を以前と比べて正しく行
い、より詳しく説明することができた。
(エ) 評価
a 感覚の入力や調整及び運動のコントロールについて
(a) 活動の様子から
感覚の入力や調整に対する配慮をしながら、Bさんが選択する感覚運動遊びを十分に行っ
た結果、不得意であった課題(水平な姿勢に慣れて泳ぐことや、空中での姿勢をコントロール
してジャンプを楽しむこと等)を達成することができるようになった。
(b) MEPA-R 検査を用いた評価から(図9)
MEPA-R 検査を用いて感覚や運動の力の再評価を行ったところ、すべての領域において向上
し、実践の中で見られた変容を裏付ける結果となった。
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凡例: 1回目
5月 2回目
11 月
図9 MEPA-R 運動・感覚分野プロフィール(Bさん 5月と 11 月の比較)
姿勢に関しては、「一方の手を上げ、他方を横に伸ばす」、「片手で反対側の耳を押さえ
る」、
「 言葉の指示により『左手で右足を押さえ、右手で左足を押さえる』ことができる」等、
身体各部の位置関係や左右の認識を正しく行い、動作として表現する課題において、とま
どいや間違いが見られなくなった。
移動に関しては、
「前方に回れる(でんぐり返し) 」や「平均台の上を後ろ向きに歩ける」
課題が達成され、ボディイメージを的確に把握し動作に結び付けることができるように
なった。
技巧に関しては、
「 風船を連続してつくことができる」や「ピンセットで大豆をつまむ」と
いった、対象をよく見る必要のある課題ができるようになった。
b 社会性について
(a) 活動の様子から
Bさんは、ルールのある活動に安心して取り組めるようになり、指導者への主体的な働き
かけも増え、やり取りを楽しむ場面が見られるようになった。また、活動から得られた達成
感を、言葉やジェスチャーで伝えようとするようになった。
ー 122 ー
(b) S-M 社会生活能力検査を用いた評価から(図 10)
S-M 社会生活能力検査を用いて社会性に関する力の再評価を行ったところ、複数の領域に
おいて向上が見られた。
移動領域に関しては、
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要点をメモできる」ように
凡例: 5月、 11 月
なり、外部からかかってき 図 10 S-M 社会生活能力領域別プロフィール(Bさん 5月と 11 月の比較)
た電話の内容について、家の人に伝えることができるようになった。
自己統制領域に関しては、
「 幼児や老人をいたわることができる 」等、地域での人間関係
に広がりが認められた。
(オ) 考察
事例1と同様に本事例でも、第1期から第2期にかけて感覚運動遊びを取り入れた活動の中で
人間関係が築かれ、次第に身体を動かす活動に熱中するようになり、第3期では人間関係が更に
深まるという展開となった。
感覚運動遊びを通し、姿勢のコントロールができるようになり、空間認知の力が伸び、ボディ
イメージも豊かになった。また、ルールのあ
る活動や2人で協調して行う課題に安心し
プールやトランポリンでの
活動を通して
て取り組めるようになるとともに、主体的に
指導者にかかわることができ、達成感を味わ
える活動が増えていった。
Bさんにとって、要求をすべて言葉で説明
しなくても活動が成立したことで、人とのか
かわりが過剰な負担になることを避けるこ
とができた。また、動きを通してかかわり合
姿勢の
コントロール
ボディ
イメージ
協調した動き
信頼関係
達成感の味わ
える活動
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安
感
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軽
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域
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家
庭
生
活
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化
える状況があったことで、無理なく要求を相
手に伝えることができたと考える。そして、
図 11 事例2のまとめ
学習環境に慣れてくることで、身体の動きを通してコミュニケーションを図る段階から、言葉を
介してコミュニケーションを図る段階へと移行しており、感覚運動遊びの果たす役割は、感覚や
運動の力の発達だけでなく、コミュニケーションの発達にも関与していたと考える。
人に対する不安が強かったBさんにとって、活動の中で指導者の名前を呼びかけた上で要求を
伝えることができるようになったという変化は大きい。また、外部からの連絡に応じ要件をメモ
して家の人に伝えることもできるようになった。さらに、以前は学校に関する話題について消極
的であり、道順を説明することも困難であったBさんが、詳しく説明できたことから、空間認知
の力が伸びただけでなく、少しずつ学校への不安感も軽減していると考える。
ー 123 ー
本事例では、プールでの活動、トランポリン等の運動遊具を用いた活動及びボール遊び
等の感覚運動遊びの活動を通して、Bさんの社会性が高まったと考える(前ページ図 11)。
3 まとめと今後の課題
本研究により、感覚運動遊びを取り入れた活動は、コミュニーションが苦手な自閉症の児童に
とって、感覚の入力や調整及び運動のコントロールができるようになるとともに、相手の意図を
読み取り、自分の意思を伝える上で大きな手助けとなることが分かった。事例1、2とも、まず、
感覚運動遊びを取り入れる中で人間関係が築かれ、次第に身体を動かす活動に熱中し、その後、
人間関係が更に深まるという展開であった。これらは、自閉症の児童が無理なく楽しくかかわり
合うことができる環境の中で、社会性を身に付けたことを示している。
このように、自閉症の児童の感覚や運動面に配慮した感覚運動遊びを学習活動に取り入れ、指
導者との交流を深めることによって、児童の主体的な行動や社会性が高まることを検証すること
ができた。今後は、児童の社会性を日常生活の中で更に幅広く育んでいく方策について検討した
い。
【引用文献】
(注1) 文部科学省、『小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症
の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)』、2004
(注 2)Dunn, W. (1999). The sensory profile: A contextual measure of children's responses to sensory
experiences in daily life. San Antonio, TX: The Psychological Corporation. ブレンダ・スミス・マイルズ
ナンシー・E.ミラー リサ・A.ロビンズ キャサリーン・タプスコット・クック ルーアン・リナー 萩原 拓訳、『アスペルガー症候群と感覚敏感性への対処法』、東京書籍、2004
(注3) 辻井正次 宮原資英編著、『子どもの不器用さ その影響と発達的援助』、ブレーン出版、1999 (注4) 小林芳文、『MEPA-R - ムーブメント教育・療法プログラムアセスメント -』、日本文化科学社、2005
(注5) 三木安正監修 旭出学園教育研究所 日本心理適性研究所、『新版 S-M 社会生活能力検査』、日本文化科
学社、1980
【参考文献】
坂本龍生 花熊 曉 『新・感覚等合法の理論と実践』 学習研究社 1997
ブレンダ・スミス・マイルズ ジャック・サウスウィック 『アスペルガー症候群とパニックへの対処法』 東京
書籍 2002
榊原洋一 『特別支援教育のためのアスペルガー症候群の医学』 学習研究社 2005
バル・クミン ジュリア・リーチ ギル・スティーブンソン 齋藤万比古監訳 『教師のためのアスペルガー症
候群ガイドブック』 中央法規 2005
ー 124 ー
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