...

生徒がシナリオを 作成して学ぶ消費者問題

by user

on
Category: Documents
32

views

Report

Comments

Transcript

生徒がシナリオを 作成して学ぶ消費者問題
第
生徒がシナリオを
作成して学ぶ消費者問題
34 回
-
「だます側」
に立って考えるロールプレイによる授業-
谷 昌之
Tani Masayuki
大阪府立貝塚高等学校 教諭
家庭科を担当。
「好奇心」
を中心に据え、生徒が主体的に学ぶ授業づくりに取り組む。
教科外では総合的な学習の時間において探究活動を推進。ICTの活用にも取り組む。
このコーナーでは、消費者教育の実践事例を紹介します。
本校は生徒自身の選択によって多様な科目を
② 契約について(1時間)
受講することができる総合学科です。家庭科は
一度結んだ契約は守らなければならないこと
1年次に必修科目として
「家庭基礎」を2単位
を確認し、消費者保護の制度によって解約や取
(週に 50 分授業を2回)
履修します。その後の科
り消しができる規定があるけれども、安易に契
目選択によりますが、これが学校教育において
約を結ばないようにすることを学習しました。
「生活」
を学ぶ最後の機会となる者も多くいます。
③ 悪質商法のロールプレイ(2〜3時間)
授業で消費者問題を扱ううえで
「生徒が巻き
本稿で紹介する授業です。
込まれる可能性があり得る」という意識を強く
悪質商法のロールプレイ
持ち、悪質商法について重点的に授業で扱うこ
とにしています。これまで消費生活センター等
〈1時間目の授業の流れ〉
が発行するパンフレットやビデオ教材を活用し
⃝導入
た授業など、さまざまなアプローチを試みまし
年齢の近い大学生などの被害事例を紹介して、
たが、生徒自身に“当事者意識”が芽生えにくく、
悪質商法の被害にあう可能性が身近にあること
単に知識を蓄えるだけの状態でした。しかし、あ
を感じさせました。
るとき既製シナリオを使って生徒が教室で演じ
⃝展開1 悪質商法について概要を解説
るロールプレイの手法に出会い、授業に取り入
次の9種類の悪質商法を取り上げて、それぞ
れてみたところ一定の手応えを得ました。そこ
れの手口を簡単に紹介しました。
で、さらに “ 当事者意識 ” を持たせるために生徒
①アポイントメントセールス
自身にシナリオを作成させる授業を計画して実
②キャッチセールス
施しました。
③マルチ商法
本校の消費生活領域の授業計画
④デート商法
⑤資格商法
(就職商法)
2015 年度は、次のような計画で授業を実施
⑥不当請求
(架空請求)
しました。
⑦開運商法
(霊感商法)
① 収入と支出(2時間)
⑧催眠
(SF)
商法
ある若者の
「給与明細」と
「1カ月の支出の内
⑨ネガティブ・オプション
訳」をあえて “ 赤字 ” の状態で提示し、家計の改
そして、取り上げる悪質商法に関連する資料
善策や将来への問題点を検討させることで、収
として消費生活センターのパンフレットなどを
入と支出について学習しました。
2016.11
30
配布しました。シナリオに幅を持たせるために、
最後に学んだことを個人で振り返る時間を確
資料は1つの手口に対して複数用意しました。
保し、
「ふりかえりシート」
にまとめました。
⃝展開2 グループでのシナリオ作成
主体的に取り組み、学ぶ効果
4~5名のグループを作り、悪質商法を1グ
ループに1つずつ割り当て、シナリオ作成の条
件を次のⓐ ~ ⓒとしました。
短い授業時間数にもかかわらず、生徒は自発
的にグループで集まって準備を進め、中には小
道具まで用意するグループもあり、生徒が主体
ⓐ被害者を 10 代として、だます側がどの
的に取り組むことができる課題設定であったと
ような言葉をかけたり、状況を作り出し
感じています。
たりするか、だます側のポイントが伝わ
シナリオの内容も資料として配布した事例か
るようにシナリオを作成すること。
ら発展して、生徒にとってリアルな設定や決め
ⓑ被害者にどのような
「心の動き」
が起こっ
ゼリフが盛り込まれており、演者だけでなく見
てだまされるかが伝わるようにシナリオ
ている生徒も具体的な事例を通して悪質商法の
を作成すること。
種類や手口を学ぶことができていました。提出
ⓒグループ全員に出番があること。
されたふりかえりシートには
「悪質商法になん
ねらいとして、ⓐは自分だったらどのような
かだまされない、と思っていたけれど、ちょっ
ことを言われたらだまされるか? を真剣に考え
との金額だとつい買ってしまいそうだと思っ
てもらうため、ⓑは被害者の心情をセリフにす
た」
「発表を見て、だまされているという感じが
ることで「自分は大丈夫」と思っている生徒に
しなくて怖かった」
などの記述が見られました。
「もしかしたら被害にあうかもしれない」
という
授業を行って感じたことは、生徒が情報収集
意識を持たせるため、ⓒは登場人物を多くして
に苦労していることです。一定の資料はこちら
シナリオを充実させるために設定しました。授
から提供しましたが、各グループで悪質商法の
業時間数に余裕のあるクラスは、次の1時間を
「解説」
と
「事例」
について追加して情報を入手し
準備作業に充てました。
ようとしていました。学校教育は次期学習指導
要領改訂で
「主体的・対話的で深い学び
(アクティ
〈2時間目の授業の流れ〉
かじ
順番に各グループが作成したシナリオによる
ブ・ラーニング)
」
に大きく舵を切ることが検討
ロールプレイを行っていきます。内容に不十分
されています。今後、主体的な学習という観点
な点や誤っている点があった場合は、発表後に
で、生徒自身が情報を自ら入手して学習する場
指摘し、訂正を行いました。
面が増えることが予想されます。これまでにも
その後、授業のまとめとして次のような点を
一般向けや教員向けに多くの資料が諸機関から
指導しました。
提供されていますが、印刷物に限らずウェブ
ページなど多様な情報提供の方法を駆使して、
・「自分は大丈夫、関係ない」
と思いがちだ
生徒に直接提供することを意識した事例や学習
が、だます側に立ってみると、巧妙な手
につながる資料が増えることを希望します。
口をしくんでおり、気づかぬうちに被害
今回の授業で意識した
「敵を知る」
という視点
にあってしまうことを実感させる。
は、消費者教育において大きな効果があること
・被害にあってしまったときの相談窓口と
が実感できました。これは、学校教育だけでな
して地域の消費生活センターや消費者
く、さまざまな消費者教育の場面で応用できる
ホットライン
「188」
を紹介する。
と思います。
2016.11
31
Fly UP