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2012 年度黒田ゼミ卒業論文 ワーキングママの仕事と家庭の両立

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2012 年度黒田ゼミ卒業論文 ワーキングママの仕事と家庭の両立
2012 年度黒田ゼミ卒業論文
ワーキングママの仕事と家庭の両立
4 年 4 組 10 番
1720081082
小川
恵理
0
も く
じ
はじめに ・・・・・2
第 1 章 女性でもママでも働く社会
・・・・・3
第 1 節 女性も働く社会
(1) 性別役割分業意識の変化
(2) 女性の進学率と就業率の上昇
第 2 節 ママも働く社会
(1) 働くママの割合
(2) ママが働く理由
第 2 章 仕事・子育て両立のための制度・サービス等 ・・・・・8
第 1 節 産前産後休暇と育児休暇
第 2 節 認可保育所・無認可保育所
(1) 認可・無認可の違い
(2) 認可保育所数と待機児童
(3) 全国共働き率と待機児童数の関係
第 3 章 ママの産後~社会復帰・進出までの問題
・・・・・16
第 1 節 ママの認可保育所事情
(1) 有職ママのケース ~兼業主婦から産後復帰編~
(2) 求職ママのケース ~専業主婦から兼業主婦編~
第 2 節 友人 A の保育所争奪体験談
第 3 節 認可保育所・待機児童問題解決の手立て
第 4 章 ママの社会復帰・社会進出後の問題
・・・・・23
第 1 節 育休期間中の解雇、育休切り
第 2 節 急な休みや早退
第 3 節 育休切り問題解決等の手立て
第 4 節 仕事と子育てと家事の両立
第 5 節 仕事と子育てと家事の両立問題解決の手立て
(1) 仕事と生活の調和(ワークライフバランス)
(2) ワークライフバランスの取り組みと成果
(3) ワークライフバランスの今後
あとがき
・・・・・30
参考資料・参考文献
・・・・・31
1
はじめに
近年、働きながら子育てをする女性や現在は働いていなくてもいずれは子育てをしなが
ら働きたいという女性が増えている。
それは「男は仕事、女は家庭(育児や家事)」といった性別役割分業の意識に変化が出てき
ているからである。どういった変化かというと、近年この性別役割分業に反対する人が増
えていて、女性でも働くという考え(逆の男性でも家事というのはあまり多くない)が広まり、
そのことが子育てをしながら働く、もしくは働きたいという女性を増やしている。
ただ仕事も子育ても家事も、となると当然女性の負担は大きくなる。両立をするために
はサポートが必要となってくる。家族のサポートや保育所や託児所のサポート、そして企
業のサポート。一見、これらのサポートがあればスムーズに両立ができるように思われる。
しかし、実際にはこのサポートを受けるために困難を極めることもあり、サポートがあっ
てもなお両立が難しいこともある。
その一例として、認可保育園に入ることのできない待機児童の存在。子供を預かっても
らうことができなければ働くことができない。もはや仕事と子育ての両立以前の問題であ
る。加えて、働き始めることができてもまた別の問題もある。
今回はそうした問題点を指摘し、その解決策を提案したいと思う。
そもそも私がこのテーマを選んだ理由は 2 つある。
ひとつは知り合いが「認可保育所がどこもいっぱいで受け入れてもらえない。」と言って
いたのを聞いたのがきっかけだった。彼女は今の私の状況にとても似ている。学生で生後 3
か月(2011 年 10 月時点)のお子さんがいる。彼女が認可保育園に子供を預けたい理由はハロ
ーワークの職業訓練校に通い資格を取り就職したいからだそうだ。認可保育所には、調整
指数ポイントと呼ばれる認可保育所入園希望者の保育の必要性を点数化したものがある。
この指数ポイントが高くつくほど保育の必要性があると見なされ、優先的に認可保育所に
入園することができる。この指数ポイントの基準は地域によって異なるが、彼女の住む練
馬区では彼女の場合指数ポイントは満点に近いそうだ。それにも関わらず入園を断られて
しまっているのだそう。さらに無認可保育所も電話をかけても断られてしまうそうだ。
私はいずれ子育てをしつつ働きたいと思っていたため、このことが他人事とは思えなか
った。子供を預かってもらうことができなければ働きに行くことができない。認可保育所
は足りていないのだと思う。この足りていない保育所問題に関して私なりに解決策を考え
てみたいと思った。
もうひとつは働くことができてからの問題についての解決策を考えたかったからである。
この問題というのは具体的には子供が急に体調を崩したときの問題、そして共働きによる
2
夫婦の休日が合わない問題などが挙げられる。つまり職業を持ちながら日常的な家庭生活
をどのように調和のとれたものしていくかという問題である(ワークライフバランス)。
これらの問題についての解決策を考え、将来私が働く際に役立つものにしたいと思う。
第1章 女性でもママでも働く社会
第1節
女性も働く社会
(1) 性別役割分業意識の変化
序章でも述べたように、子供がいても働く女性・子供がいても就職を希望する女性が増
えている。
「男は仕事、女は家庭」という考えである性別役割分業に反対の考えを持つ女性
が増えているからだ。
平成 4 年から平成 21 年までの 17 年間で性別役割分業の意識がめざましく変化している
ことがわかる。男女合同で見ると、17 年間で賛成派の割合は 60.1%から 41.3%と 3 割以上
減り、逆に反対派の割合は 34.0%から 55.1%と 6 割以上も増えている。(図-1-1 参照)
男女別(平成 21 年実施)に見ると男性の反対派は 51.1%、女性の反対派は 58.8%であり共
に半数を越えている。(図-1-2 参照)
特に女性は例年男性よりも反対派の割合が多くなっている。年々、女性を中心に近年「男
は仕事、女は家庭」という考え方に反対の考えが広まってきていることがわかる。「男は仕
事、女は家庭」という考えは古いのではないだろうか。近年その考えに対する反対の考え
が増えているのは女性の高学歴化、社会進出、また社会で活躍する女性が増えてきている
ことからわかる。
3
図-1-1 性別役割分業意識について(全体)
・男女共同参画社会に関する世論調査(平成 21 年)より転載
図-1-2 性別役割分業意識について(男女別)
・男女共同参画社会に関する世論調査(平成 21 年)より転載
(2) 女性の進学率と就業率の上昇
下記の図-1-2 は昭和 26 年から平成 22 年までの男女の進学率の推移である。女性の高学
歴化についてみていきたいが、どの学校のレベルから高学歴といったラインを決めるのは
難しいため、今回は大学、大学院に進学するレベルを高学歴としたいと思う。
女子の大学(学部)進学率を見てみると昭和 46 年までは一桁の進学率だったのが 51 年には
二桁になっている。とは言っても平成に入る頃まで横ばいになっており、平成になってか
ら 5 年間隔でおよそ 5~8%増加していっていることがわかる。この増加は昭和 61 年頃か
ら尐しずつ見られることから 1985 年(昭和 60 年)に制定された男女共同参画社会基本法、
4
1986 年(昭和 61 年)に制定された男女雇用機会均等法、及び 1997 年(平成 7 年)の同法の改
正が影響したものだと思う。
図-1-3 女性の進学率
・男女共同参画白書(概要版) 平成 23 年度版より転載
また女性の就業率の変化を見てみると、ここ 10 年間で全体的に約 5~10%上昇している
ことがわかる。(図-1-3 参照)
この女性の就業率は一般的に M 字カーブと言われている。平成 12 年の結果からよくわ
かるように 30 代になると就業率が落ち込み、英字の M のように見えることからこのよう
な名前がついている。10 年前までの 30 代は出産を機会に仕事を退職をする女性が多かった。
しかし近年(平成 22 年)の結果を見てみると子供を出産する女性が多い年代である 20 代後半
から 30 代後半までの就業率がいちじるしく上昇している。特に 30~34 歳は 10 年間で 10%
以上増えていて、まだ 30 代は 20 代、40 代よりも就業率が低いものの、10 年前と比較する
とその差は縮まってきている。このグラフから出産後も働いている、とは言い切れないも
のの、近年社会で活躍する女性が増えていることがわかる。
5
図-1-4
女性の就業率
・厚生労働省 平成22年度版 働く女性の実情より転載
第2節
ママも働く社会
(1) 働くママの割合
働く女性が増えていることはわかった。しかしこれらの働いている女性が必ずしも子供
がいるわけではない。そこで次に母親全体の仕事の有無をあらわしたグラフを見てみる。(図
-1-4 参照)
今回、仕事の有無であるが正規社員であるか非正規社員であるかは問わない。子供の年
齢が上がるにしたがって母親が働いている割合が上がっているのは明らかであるが、出産
後 1 年以内に働いている女性(末子の子供の年齢が 0 歳)の割合が 9 年間で 5%以上増え、3
割近い母親が有職であることがわかる。
さらに育児休暇を取得していた場合、子供が満 1 歳になるまで休暇を取ることができ
るが、1 歳の子供がおり働いている女性の割合は 3 割を超えて 4 割近い。末子が 1 歳の母親
の場合 9 年間で 8%近く増加している。その後は末子の子供が 4 歳で半数以上の母親が働い
ており、10 歳で 7 割に達している。全体(総数)を見ても半数以上、6 割が仕事ありの母親で
あり、近年働くママが増えていることがわかる。
6
図-1-5
末子の年齢階級別にみた仕事ありの母の割合
・Garbagennews.com より転載
(2) ママが働く理由
ところで何故子供がいても働くのだろうか。そして働く必要があるのだろうか。このこ
とについて以前から疑問に思っていた。子供が幼稚園や学校に行っている間に働くのなら
わかるし子供の年齢が上がるにつれて就業する母親が増えるのもわかる。しかし子供が幼
いうち、それも 0 歳や 1 歳から預けてしまうのは可哀そうだと感じる。現に認可保育園の
申込みが多いのは 0 歳児や 1 歳児である。子供を幼いうちから預ける。そうまでして働か
なければならないのだろうか。働く理由は人それぞれである。
育児雑誌「Baby-mo」のアンケート統計によると家計を支えるために働いているという
ママの割合は全体の 4 分の 1 だった。残りは家庭だけでなく外に出たい・外に出て働きた
いといった回答である。(図-1-5 参照)
この回答から本当に働かなくてはならない(金銭的に)ママは 2 割程度で、あとの 8 割近く
のママは自ら働きたいという意思で働いている。
やはりもはや「男は仕事、女は家庭」という考えは現代的ではない気がする。子供がい
ても仕事志向のママが増えてきていることがわかる。
7
図-1-6 子育てママが働く理由
子育てママが働く理由
家庭の外の世界にも触れ
たいから
5.9
働くことが当たり前だと
思っているから
29.4
17.7
夫の給料だけでは家計が
苦しいから
今の仕事にやりがいを感
じているから
23.5
23.5
その他
・育児雑誌「Baby-mo」9 月号をもとに作成(アンケート回答人数不明)
第2章
仕事・子育て両立のための制度・サービス等
第1節
産前産後休暇と育児休暇
子育てママをサポートする制度として産前産後休暇(産休)、育児休暇がある。(図-2-1 参
照)
まず産前産後休暇、いわゆる産休とは、労働基準法で定められている制度である。産前
休暇とは、本人から請求があれば出産予定日の 6 週間前(多胎妊娠の場合は 14 週間前)から
休暇を取得することが可能である。
また産後休暇とは出産後 8 週間を経過しない女性を働かせてはならないという制度であ
る。こちらは産後休暇は産前休暇と異なり、本人からの請求がなくとも休暇を与えなくて
はいけないことになっている。ただし例外として産後 6 週間が経過した場合、本人が請求
すれば医師が支障がないと認めた業務に就くことはできる。産前産後休暇の期間が過ぎる
と、産前の業務に就くことができ、また継続して育児休暇という休暇を取得することがで
きる。
育児休業、いわゆる育休は、
「育児・介護休業法」で定められている制度である。子供が
誕生してから満1歳になる誕生日の前日までの 1 年間休暇を取ることができる制度である。
これは必ず取らなければいけないものではないが、きちんと申し出をした際、企業はこの
申し出を拒むことはできない。
8
この制度は女性だけでなく、男性も取得可能である。しかし、同時に 2 人が取得するこ
とはできない。家庭に子供を見ていることができる者がいる場合には取得することができ
ない。同時には取得することができないが、例えば母親が産後 6 か月まで、父親が産後 6
か月から子供が満 1 歳になるまで、といったようにすれば 2 人とも育児休暇を取得するこ
とが可能である。
図-2-1 仕事・子育て両立のための制度
産前休暇
6週間前
産後
休暇
育児休暇
8週
間
or
1年間
仕事復帰
ただしこれらの制度は正規雇用であればスムーズに取得できる制度である。これが非正
規雇用の場合は必ずしも取得できるとは限らない。
非正規雇用でも産休、育休を取得する権利はある。本来、産休は無条件で取得でき、育
休は「継続した雇用期間が 1 年以上あり、かつ子供が 1 歳を超えても継続して雇用する見
込みがあること」この 2 条件がそろえば取得可能である。しかし実際には休暇の申し出を
した途端、雇用契約を解除する企業も尐なくない。
実際に平成 22 年度雇用均等基本調査によると、正規雇用の女性の育休取得率が 83.7%な
のに対し男性の育児休暇の取得率はわずか 1%である。「ただこの女性の育児休暇取得率は
在職している女性が対象であり、妊娠が発覚し就業が困難と判断し退職した女性や無職の
女性は含まれていない。第一子を出産した女性のうち有職は約 74%であったため、退職を
した女性や無職も含めると取得率は約 67%。さらに出産半年後の有職女性の割合は出産一
年前に有職であった女性の約 32%にすぎない。このことから退職した女性・無職の女性を
含んだ育児休暇取得率は約 21%であると推測されている」
(東京新聞 平成 22 年 5 月 9 日)
とは言ったもののそれでも男性の取得率の方が圧倒的に尐ない。子育てをしながら働く
ママが増えているのに、働きながら子育てに参加する(仕事から帰宅後手伝っているパパも
もちろんいると思うが、ここでは育休を取得して子育てをすること)パパはあまり増えてい
ないことに疑問を感じる。この問題についてはまた後(第 4 章)で考えたい。
9
図-2-2 男女の育休取得率
100
90
89.7
90.6
80
70.6
70
83.7
72.3
64
60
50
85.6
56.4
女性
49.1
男性
40
30
20
10
0
1.72
1.56
1.38
1.23
0.56
0.5
0.42
0.33
0.12
平成8年 11年
14年
16年
17年
19年
20年
21年
22年
・雇用均等基本調査結果概要 平成 22 年度版をもとに作成
第2節
認可保育所・無認可保育所(認可外保育所)
(1) 認可・無認可の違い
保育所には「認可保育所」と認証保育所、事業所内保育所、ベビーホテルなど認可保育
所以外の保育所を総称した「無認可保育所」がある。(図-2-3 参照)
この認可保育所と無認可保育所の違いは広さ、設備、職員数、資格、保育内容について
国が定めた児童福祉施設最低基準を満たしているか否かである。これを満たしているのが
認可保育所であり、公立・私立で多尐差はあるが国から保育所運営の補助金が出ているた
め無認可保育所と比べると保育料が安い。認可保育所は無認可保育所よりも保育料が安く、
資格を持った保育士が多く、また設備が充実しているという理由から人気がある。
保育所の利用を必要とする人のほとんどが認可保育所の入園を希望する。そのため認可
保育所は定員オーバーとなり、認可保育所に入れない待機児童が多く存在していることが
問題視されている。
10
図-2-3 認可保育所と無認可保育所の違い
認可保育所
無認可保育所
国が定めた「児童福祉施設最低基 国が定めた「児童福祉施設最低基
準」を満たし都道府県が認めた施 準」を満たさない施設
3 分の 1 以上保育士がいれば運営可
設
運営
・公立保育所
市区町村(自治体)
個人や民間業者等
・私立保育所
社会福祉法人
受入年齢
産休明け(生後 43 日)からが基本。 生後 4 か月のところや生後 6 か月か
保育所により異なる。
らのところが多い。保育所により異
なる。
保育料
各世帯の収入と子供の年齢によ
収入に関らず一律。子供の年齢や利
り決まる。地域によっても異な
用時間等により決まる。延長料金有
る。
り。
2~5 万円程度
7~8 万円、+αで 10 万円近くなる
こともあり
入園条件
保護者が就労している、就職活動 特に条件は無し。
をしている、日中に就学や技術習
得をしている。子供の集団保育の
適応性、健康面も見られる。
・手続きネットをもとに作成
11
(2) 全国共働き率・保育所数の関係と待機児童
ここでは問題となっている待機児童の数について見ていきたい。待機児童の定義は認可
保育所に入園できない児童のことであり、保育所自体に入ることのできない児童を指すわ
けではない。保育所自体に入れないのならば子供を預かってもらうことができないため問
題であるが認可保育所に入れないだけならばそれほど問題ではないのでは?と思う人もい
るだろう。認可外保育所が悪いというわけではない。問題なのは認可保育所の数が明らか
に足りていないということである。
平成 22 年 9 月 6 日に厚生労働省が発表した「保育所関連状況取りまとめ(平成 22 年 4 月
1 日)」
によると、
平成 22 年 4 月 1 日時点での認可保育所数は 23,068 か所、
定員は 2,157,890
人であり、平成 21 年 4 月から保育所数は 143 か所、定員は 25,809 人と大幅に増加してい
る。それにも関わらず待機児童の数は平成 21 年 4 月 1 日には 25,384 人だったのが平成 22
年 4 月 1 日の時点では 26,725 人と 891 人増加している。(図-2-4、図-2-5 参照)
また待機児童のうち、0 歳から 2 歳の待機児童が全体の 82.0%を占めている。このこと
から産休・育休明けの保育所利用希望者が多いことが明らかである。(図-2-6 参照)
しかしこの待機児童、日本全国どこでもいるのかというとそうではない。待機児童が多
い都市としては、首都圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)と近畿圏(京都府、大阪府、
兵庫県)の 7 都府県とその他の政令指定都市・中核市と大都市に集中している。その数は計
22,107 人と全待機児童の 84.1%を占めている。一方で統計上待機児童数が 0 人の都道府県
もある。(図-2-7 参照)
東京都は全国で最も待機児童の数が多く 8435 人もの待機児童がおり 2 位の神奈川県の倍
以上でダントツである。逆に最も待機児童が尐ない都道府県は新潟県、富山県、石川県、
福井県、山梨県、長野県、鳥取県、香川県、宮崎県の9県で統計上 0 人である。具体的に
どの地域に待機児童が多いかというと一番は神奈川県横浜市、次いで神奈川県川崎市、北
海道札幌市、東京都世田谷区、愛知県名古屋市である。都道府県で見るとダントツで待機
児童の数が多かった東京都だが個々の地域ごとで見ると最も保育所の激戦区なのは神奈川
県横浜市であり 1552 人もいる。東京都で最も待機児童の多い世田谷区は 725 人である。
実はこの待機児童の数と共働き率が深く関係がある。共働き率が高い地域では待機児童
の数は尐なく、逆に共働き率が低い地域では待機児童の数は多い。
都道府県別統計とランキングで見る県民性の地図は都道府県別に共働き率の偏差値(偏差値
が高いほど共働き率が高いということである)にあらわし、色分けしたものである。(図-2-8
参照)
この地図を見ると待機児童の多い首都圏や大都市の共働き率は平均か平均より尐し低い。
逆に統計上では待機児童が 0 人の富山県や石川県、福井県のあたりは共働き率が高いこと
がわかる。
12
さらに共働き率ランキングを見ると全国の共働き率の平均は 44.43%。共働き率全国 1
位は福井県で 58.15%。以下、山形県(2 位:57.78%)、富山県(3 位:56.57%)、石川県(4
位:55.07%)、鳥取県(5 位:54.75%)とやはり統計上待機児童数が 0 人の地域が上位を占め
ている。一方、最下位は奈良県で 36.30%、46 位は大阪府で 36.50%、兵庫県は 39.02%
となっていて関西の共働き率が低い。また、東京近郊の都市部も神奈川県(45 位:38.99%)、
東京都(41 位:40.34%)、千葉県(40 位:41.23%)、埼玉県(38 位:42.44%)と下位のほうは待
機児童数が多い地域が占めている。(図-2-9 参照)
認可保育所は足りていない地域には本当に足りておらず争奪戦となっている。この足
りない保育所問題についての解決策も後に考えたい。
図-2-4 保育所数・定員と利用児童数
・全国保育士委員ニュース 厚生労働省保育所関連状況取りまとめ
(平成 22 年 4 月 1 日)
より転載
図-2-5 待機児童数
・厚生労働省 平成 22 年 保育所関連状況取りまとめより転載
13
図-2-6 年齢区分別待機児童数
・厚生労働省 平成 22 年 保育所関連状況取りまとめより転載
図-2-7 全国待機児童数ランキング
9000
8435
8000
新潟県
7000
富山県
6000
5000
石川県
東
京
都
福井県
4117 沖
4000
縄
山梨県
大
千
埼
阪
葉
玉
府
県
県
3000
神
2000
奈 1680
1396 1373 1310
川
県
長野県
1000
大
青
分
森
県
県
12
0
待機児童
多
5
鳥取県
香川県
宮崎県
0
待機児童
・保育園・保育所における待機児童の現状(2010)をもとに作成
14
尐
図-2-8 全国の共働き率
・都道府県別統計とランキングで見る県民性より転載
図-2-9 全国共働き率ランキング
70
60
58.15 56.57
55.07 55.07
50
40
30
福
井
県
山
形
県
富
山
県
石
川
県
39.02
兵
庫
県
20
36.5
36.3
大
阪
府
奈
良
県
10
0
上位
下位
・都道府県別統計とランキングで見る県民性をもとに作成
15
第3章 ママの産後~社会復帰・進出までの問題
第1節
ママの認可保育所事情
(1) 有職ママのケース ~兼業主婦の産後復帰編~
出産前から働いていて産後も継続して働き続けるというママ(産休や育休明け)について
見ていく。有職者といっても就業形態は様々である。正規雇用の場合は産前産後休暇や育
児休暇を取得する人が多い。そのため今まで見てきた 2 章からもわかるように 0 歳や 1 歳
で子供を預けることが圧倒的に多い。また認可保育所事情と言ってもこれも 2 章で見てき
てわかるように地域によって保育所の数や待機児童の数に差がある。今回は全国の認可保
育所の最大激戦区である神奈川県横浜市の認可保育所を見ていくことにする。
まず保育所は希望すれば必ず入れるものではない。当然入園できる人数は限られている。
そこでどこの地域でも認可保育所の入園を決定するための基準が設けられている。これは
児童の入園の優先順位をつけるためのものである。地域によって基準内容が異なり、また
ランク制のところもあればポイント制のところもある。横浜市の入所選考基準はランク制
である。ランク制の場合の優先順位は A>B>C>D>E・・・となる。(図-3-1 参照)
就労を理由とした場合の最高ランク A はフルタイム(だいたい週 5 日、1 日 8 時間以上勤
務)の場合である。就労日数や時間がそれより尐ないとランクは B,C・・・と下がっていく。
ただし就労理由以外にも A ランクになる理由や状況はいくつかあり、A ランクの人数は尐
なくない。
さて、入園の優先順位が最も高い A ランクならば待機児童の数は 0(ゼロ)もしくは尐数と
考える人もいるだろう。しかしなんと驚くべきことに A ランクでも待機児童となっている
児童は平成 22 年 4 月の時点で 378 人もいる。(図-3-2 参照)
この表を見ると A ランクの待機児童は全体の 1,552 人の約 2 割強も占めていることがわ
かる。ランクが下がるほど待機児童の数が増えていくものかと思っていたがランク B から
F は F が尐ないものの、だいたい同じくらいの割合である。ランク E,F と待機児童の数が
尐なくなっているところ、入所の優先順位が最も低い G ランクの待機児童の数がきわめて
多くなっている。その数は 627 人、待機児童全体の 4 割も占めている。優先順位が最も低
い G ランクの待機児童数が多いのはわかるが最も優先順位が高い A ランクでも 400 人近い
待機児童がいることが驚きである。しかも全体として平成 21 年よりも平成 22 年のほうが
待機児童の数が増え保育所入所がより厳しくなっている。子育てをしながらフルタイムで
働くというのはママにとって負担が大きい。しかしフルタイム労働ではなくなるとランク
が B,C ・・と下がっていき、入園がますます困難となる。しかもランク A だとしても優先
順位でいうと最も優先されるべきランクではあるが必ずしも入園ができるとは言えない。
仮に待機児童になっても保育所に空きが出ると入園できるように予約ができるが、それも
これだけの待機児童がいると実際は入園は難しいと言える。このような状況では働くママ
16
の労働意欲が停滞し、性別役割分業の意識も「女性は家庭」派へと拍車がかかっていくの
ではないだろうか。
図-3-1 横浜市の入所選考基準(1)
・横浜市ホームページより転載
図-3-2 入所選考基準別の待機児童の状況
(上段・児童数 下段・構成率)
・平成 22 年版 横浜市の保育所待機児童等の状況についてより転載
(2) 求職ママのケース ~専業主婦から兼業主婦編~
第 1 項では子供を出産する前から働いているママについて見てきたが、第 2 項では出産
前から働いておらず、産後求職をするママの保育所事情について見ていく。私は今後求職
をする予定であるため、このケースは今の私の状況に近い。次に神奈川県横浜市の認可保
育所を例に見ていく。
求職活動を理由として子供を入園させたいとなると横浜市の場合、ランクは H ランクにな
17
る。(図-3-3 参照)
前項のグラフからわかるように A~G ランクの待機児童の数は 1.552 人である。H ラン
クはそれよりも優先順位が下になるため入園は本当に難しいと思われる。しかも仮に入園
をすることができたとしても求職中の場合は入園できる期間が 3 か月間と決められている。
3 か月以内に就職先が見つからなければ保育所は退園しなくてはならなくなってしまう。
しかし優先順位がかなり低いため求職のために認可保育所に入れることは不可能に近い。
待機児童が多く存在する地域での本格的な求職活動をするならば認可外保育所の利用を視
野に入れざるを得ない。すでに職を持っていて復帰を目的としたママと比べて、産後求職
をして働くママへの認可保育所のサポートはほぼゼロに近い。求職ママにとっては状況で
あると言える。
図-3-3 横浜市の入所選考基準(2)
・横浜市ホームページより転載
第2節
友人の保育所争奪体験談
序章で尐し紹介した私の友人・彩加さん(仮名)は東京都練馬区に住む 21 歳。彩加さんは
ご両親、妹さん、生後 3 か月(2011 年 10 月時点)の彩加さんのお子さんの 5 人で暮らしてい
る。彩加さんは職業訓練校に通うため認可保育所への入園を希望していた。
どこの地域でもたいてい認可保育所の入園を決定するための基準が設けられている。こ
の基準はポイント制である。児童の保育に欠けるレベルを点数化して、点数が高いほど保
育に欠ける、つまり保育所の入園が必要とされるレベルであると言える。認可保育所では
このポイントが高い児童が優先して入園することができる。
彼女の住む練馬区でも保育所保育実施基準という名称で保育所の入園基準ポイント(保育
指数)が設けられている。(図-3-1 参照)
彼女の場合、職業訓練校の授業は週に 4 日、1 日 7 時間(月に 16 日程度)である。また、
未婚で母子家庭扱いとなる。ただしご両親とは同居している。
週に 4 日、1 日 7 時間(月に 16 日程度)となると、保育実施基準の分類番号 9「就学・技術
18
習得」に当てはまる。この場合の保育指数は分類番号 1 に準ずる。彼女の状況は分類番号 1
の(7)月に 16 日以上 19 日以下、1 日 7 時間以上 8 時間未満の就労に匹敵するため保育指数
は 34 である。(図-3-4 および図-3-5 参照)
また、母子家庭扱いとなるため、世帯に関わる調整指数区分によると祖父母と同居して
いるひとり親世帯ということになり、保育指数は 4 である。(図-3-6 参照)
よって彼女の場合の保育指数は 38 ということになる。
保育所の入園基準には通常の区分に加えて世帯に関わる調整指数などによる指数の加減
がある。この項目の追加点があり彼女の保育指数は 38、通常の満点の 40 に近い指数になっ
たわけである。しかし満点ではないため最優先で入園できるわけではない。しかも彼女の
話によると途中入園の場合は満点でもかなり厳しいとのこと。それは保育所に入園する児
童のほとんどは 4 月の募集で入るからだ。その時点ですでに定員になる保育所がほとんど
で途中入園となると空きができなければ入ることができない。もはや途中から入園するこ
とは奇跡に近いとまで語っていた。
認可保育所の入園は難しいそうでやむなく彼女は現在、無認可保育所を利用している。
その無認可保育所に入ることも難しく何件も何件も問い合わせをしてようやく現在の保育
所の入園にこぎつけたのだという。入園の問い合わせをした数は区外も含めて 15 件以上。
区外の場合は無認可保育所でも区内の児童の入園が優先される。立て続けに断られ続けて
保育所探しの日々は辛かったそうだ。彼女の言葉から保育所の数が足りないという現実が
改めて認識できた。
ところで彼女の通う無認可保育所だが児童が尐人数のため、あらかじめ用意したミルク
を飲ませてくれるといった融通が利くというメリットは魅力的だそう。しかしデメリット
として敶地が狭いということと、なんとその保育所のほとんどが外国人の保育士で日本語
が通じないということがある。その日の子供の様子を聞いたりといったコミュニケーショ
ンをとることが難しく 100%安心して預けることはできていないのだという。またやはり無
認可保育所は認可保育所よりも保育料が高い。彼女の保育所は国や地域から一切補助金が
出ていない無認可保育所のため保育料が高いそうだ。
「就業しても子供が 3 歳未満だと保育
料は割高のため、子供が小さいうちに働くというのはとても大変だと思う。無認可保育所
なら給料の半分は保育料でなくなるだろうし認可保育所が羨ましい。
」とも語っていた。保
育所にもよるが 1 か月の給料の半分が保育料としての出費となるのは苦しいと思う。そう
考え認可保育所の入園を断られた場合退職を考えてしまうワーキングママも尐なくはない
だろうと思った。
19
図-3-4 練馬区保育所保育実施基準表(1)
・練馬区公式ホームページより転載
図-3-5 練馬区保育所保育実施基準表(2)
20
図-3-6 練馬区保育所保育実施基準表(3)
第3節
認可保育所・待機児童問題解決の手立て
今まで見てきてわかるように、一部の地域では認可保育所の数が足りていない。無認可
保育所に預けるとなると保育料が高くなる。そのため近年(平成 19 年)は育児サービス利用
料の補助や事業所内保育所の導入を希望するワーキングママが多い。(図-3-7 参照)
このグラフは縦が回答率、横が企業の規模(企業の従業員の数)を表している。このグラフ
から明らかなようにどの企業規模を見てもワーキングママが求めているのは保育所等の育
児サービス利用料の補助、事業所内保育所、在宅勤務など直接子供に関する制度ばかりで
ある。逆に短時間勤務やフレックスタイム制等といった子供に直接関わらない制度に関し
ては導入の希望が尐ない。
というものこれらの制度は規模が大きい企業を中心にすでに導入されているからである。
企業規模が 5000 人以上のところでは 8 割近くの企業が取り入れている。しかし逆に子供に
直接関係のある制度の導入率は低い。育児サービス利用料の補助に関しては企業規模が 500
人未満の企業だと 1 割以下であり、5000 人以上の企業でも 4 割以下である。さらに事業所
内保育所に関しては企業規模が 5000 人以上のところでも 1 割に満たない。(図-3-8 参照)
子供を預けることに関して、認可保育所の数が増えていき待機児童の数が減っていくこ
とが望ましいが、認可保育所激戦区での待機児童の数を見てみると認可保育所を 1 件 2 件
増やして解決できるものではない。今後導入を求められている保育サービス利用料の補助
21
や事業所内保育所の設置をすることが重要だと考える。保育料の補助があれば仮に待機児
童となり無認可保育所を利用することになっても金銭的な負担が減る。事業所内保育所に
関しては条件がある。事業所内に保育所を設置するにあたって保育士を雇う必要や最低限
の保育に必要な備品や道具が出てくる。それらの費用を賄うために保育料を高く設定し無
認可保育所の保育料と差がないのであれば意味がない。そこで認可保育所が国や自治体か
ら補助金(運営費)を受け取って運営しているように、積極的に事業所内保育所を設置した企
業には国から運営費の一部として補助金がでれば導入の兆しが見えてくるだろう。
ワーキングママが増えている今、なんらかの対策をしなくてはならない。子供がいる女
性でも安心して働ける環境を企業が、企業だけでなく国の問題でもあるため、国も協力し
ていく必要がある。
図-3-7 今後導入してほしい制度
・gooリサーチ 育児と仕事に関する調査
22
図-3-8 現在ある制度
・gooリサーチ 育児と仕事に関する調査
第4章
ママの社会復帰・社会進出後の問題
第1節
育休期間中の解雇、育休切り
育児休暇中や復帰してからの問題点のうちのひとつは職場復帰後の解雇である。育児休
暇中の解雇に関しては育休切りと言われている。なぜこのような育休切りが起こるのかと
いうと、人件費の削減、また企業の法令知識不足が理由として挙げられる。前者の人件費
削減については、育休期間に賃金を支払うわけではないが(賃金ではなく、雇用保険から給
付金という形で支給される)休暇を取っている間のキャリアのブランク等を考えた上で、継
続して勤務してくれる従業員を雇いたいと考える企業もある。また後者に関しては、育休
切りが禁じられていることを「知らなかった」と話す企業もある。すべての企業がすべて
の経営や雇用等に関する法の知識を網羅しているとは限らない。
本来このような育児休暇の取得などを理由に解雇することを不利益取扱いとして法律で
禁じられている。しかし退職後、再就職の際の妨げにならないために泣き寝入りをするワ
ーキングママも尐なくない。このような育児休暇取得を理由とする解雇をはじめとする不
利益取り扱いに関しての相談件数は年々増加している。(図-4-1 参照)
資料の関係上、神奈川県における相談件数を見ていく。今回の育休の解雇の不利益取扱
いに関する相談は棒グラフの真ん中の育児・介護休業関係にあたる。このグラフからだと
育児だけでなく介護に関する相談件数も含まれているため正確な相談件数はわからないが、
過去 3 年間の推移を見るとその数は急激に、特に平成 21 年度から 22 年度の 1 年間で倍以
23
上の相談件数となっており深刻な問題となりつつあることがわかる。
育児・介護休業に関わる紛争解決援助の申立内容を見ると育児休業等に関る不利益取扱
いに関するものが圧倒的に多く、6割以上を占めている。(図-4-2参照)
しかし占める割合は多いもののその申立件数はわずか41件である。紛争解決援助の申立
件数を全体で見ても62件である。育休の不利益取扱い以外も含まれているが6508件もの相
談があったにも関わらず、実際の紛争解決援助の申立の数がこれほど尐ないのは泣く泣く
黙って会社に言われたとおり辞めていくワーキングママが多いからではないかと思われる。
育児休暇を取得する権利があり、またそれを理由とした解雇がされないよう法律で守ら
れるべきであるが、実際には禁止行為だとわかっていても解雇を申し立てる企業もある。
働くママが増えている一方で、働きづらい環境になりつつあることが問題である。
図-4-1 相談件数の推移
・神奈川県労働局発表
平成 22 年度 雇用均等行政関係の相談・個別紛争解決相談援
助・是正指導の概要より転載
24
図-4-2 育児・介護休業に関わる紛争解決援助の申立内容
・神奈川県労働局発表 平成22年度 雇用均等行政関係の相談・個別紛争解決相談援助・
是正指導の概要より転載
第2節
急な休みや早退
保育所は基本的に体調不良の子供を預かることはできない。体調不良の判断基準は認可
保育所や無認可保育所は保育所によって異なる。子供の見た目の様子や子供が集団活動を
できるかどうかで預かりを認めるところもあれば、子供が発熱(一般的に子供の平熱は 36.5
~37.4℃であり、それ以上は発熱をしているとみなされる)している場合には預かりを認め
ていないところもある。
子供は免疫が低いため体調を崩しやすい。個人差はあるが 5 歳までは 1 年間に 4~7 回ほ
ど風邪をひくと言われている。さらに保育所に入園し始めたころは頻繁に風邪をひくとい
う話もよく聞く。入園して半年間は月に 3,4 回休む子供もいれば、最初の 1 か月は 6 日し
か通うことができなかったという子供もいる。そのため人によっては子供が保育所を休む
頻度が多い。しかも朝起きて体調が悪くて休むことになったり、保育所に預けている間に
体調を崩し迎えに行かなければならなくなったり、これらは突然起こりうることである。
月に数回、しかも急に仕事を休むもしくは早退するとなると、ほとんどのワーキングママ
は休みづらく負い目を感じる。育児休暇明けであれば立場上なおさらである。有給休暇を
すべて消化しても足りない、頻繁に仕事を休むため職場に居づらい、解雇されるのではな
いかという不安の声もあがっている。中には職場に居づらくなったため自ら退職や転職を
する人もいる。
25
第3節
育休切り問題等解決の手立て
育休切り問題を解決するためには企業のワーキングママに対する理解が必要である。子
供の体調不良による休みからの気まずさも根本的な解決(子供の体調不良の回数を減らすと
いったこと)は難しいが、職場の周囲の理解である程度は解消できる。ワーキングママは
76.4%が職場の上司や同僚、後輩から理解を得られていると回答している。(図-4-3参照)
予想以上に職場の周囲の理解を得ている人は多いが、企業規模別に見てみると尐し理解
度にバラツキが見えてくる。(図-4-4参照)
企業規模が10人未満という小規模な企業では80%ものワーキングママが周囲の理解を得
ている。しかし企業規模が大きくなるにしたがって徐々に理解を得ている割合が減ってい
く。そして企業規模が500人以上1000人以下を境に理解を得ている割合が増加している(理解
を得られていない割合も減っている)
私の推測だが、これは小規模だと従業員の数が尐なく、周囲とのコミュニケーションが
とりやすいため子育てをしながら仕事をするということに対して理解をえやすいのではな
いか。逆に大規模だと従業員も多様である。社内にはワーキングママも尐なくない。その
ため仕事と子育てのための制度を積極的に取り入れているのだと思う。
どの企業もというわけではないが、最も理解を得にくいのは中小企業である。ではこの
中小企業を中心にワーキングママの理解を深めるためにはどうしたらよいか。私はワーキ
ングママを部署やチームのリーダーとして配属する必要があると思う。このリーダーに配
属するのは幼い子供(未就学児や幼稚園児)のママではなく、ある程度大きな子供を持ったマ
マである。子供が幼いうちは体調を崩しやすいが、小学生、中学生ともなれば免疫もつい
てきて体調を崩すことが尐なくなるだろう。同じ仕事と子育ての両立の経験もあるため、
育児休暇についてや子供の体調不良について理解を得やすいだろう。またリーダーとして
ワーキングママを配置することで他のワーキングママのモチベーションアップにも繋がり、
今後ますます働く女性・ママの活躍に期待できる。リーダーとして配置されたワーキング
ママは仕事面でのフォローはもちろんのこと、子育てとの両立に関するフォローをするこ
とが重要となってくる。
図-4-3 職場の周囲の理解
・gooリサーチ 育児と仕事に関する調査より転載
26
図-4-4 企業規模別理解
・gooリサーチ 育児と仕事に関する調査より転載
第4節
仕事と子育てと家事の両立
実際に仕事を始めると仕事と子育てと家事に追われて忙しい日々を過ごすこととなる。
共働き夫婦の1日の平均労働時間を見てみると夫全体は11.5時間(残業時間を含む)、妻全体
は(8,2時間)である。細かく見ると正規社員とパート・アルバイトを除く非正規社員の妻は8.8
時間であり、パート・アルバイトの妻は7.4時間である。これに通勤時間を加えると夫は13
時間を超え、正規社員の妻は10時間を超える。9時始業と考えると夫の場合だいたい8時ご
ろ家を出て、帰宅はだいたい10時半。正規社員の妻は8時15分に家を出て、帰宅はだいたい
7時ごろといった生活になる。(図-4-5参照)
これに家事を育児の時間が加わる。夫の家事・育児の時間は1.6時間で労働・通勤時間と
合わせると14.9時間。一方正規社員の妻は5.1時間で労働・通勤時間と合わせると15.5時間。
労働時間・通勤時間だけを見ると夫の方が時間は長いが家事・育児時間も加味すると妻の
方が30分ほど長くなる。大雑把であるが夫と妻の労働・通勤時間の割合は6:4である。と
ころが家事・育児の分担割合は2:8である。これでは妻の方の負担が大きくなる。
平日は毎日このような生活となると仕事・育児・家事の両立をするのは決して楽ではな
い。この負担を軽減しワーキングママが無理なく仕事も家庭も両立できる方法はないだろ
うか。
27
図-4-5 夫と妻の1日の平均労働・通勤時間
・第一生命 NEWS宅配便(2005年7月)より転載
図-4-6 平日の夫婦の家事・育児時間
・第一生命 NEWS宅配便(2005年7月)より転載
28
第5節
仕事と子育てと家事の両立の手立て
(1) 仕事と生活の調和(ワークライフバランス)
その結論として、仕事と生活の調和(ワークライフバランス)がある。第 1 章で述べた
ような性別役割分業の意識に関して、近年男性は仕事、女性は家庭という考えに反対す
る人が増えてきているものの、いまだに男女の固定的な役割分担の意識は残っている。
その結果は第 4 章で述べたような分担比率や時間差に表れている。働きながら家事や育
児もこなす女性は負担が大きく、両立が困難である。このような問題を解決するために
考えられものがワークライフバランスである。
ワークライフバランスは国民ひとりひとりが仕事と家庭生活のバランスを保ち、各々
が望むような充実した生活を送れるようにすることである。ワークライフバランスに関
しては企業だけが取り組むものではないが、ここでは企業の取り組みについて見ていく。
政府や経済界、労働界、地方公共団体等が協力して取り組む必要がある。平成 19 年 12
月 18 日にはそれらの代表等からなる「官民トップ会議」において「仕事と生活の調和(ワ
ークライフバランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定さ
れた。前者の憲章の中に「仕事と生活の調和が実現した社会」を実現させるための条件
のひとつとして「子育て中の親、働く意欲のある女性や高齢者などが、子育て期、中高
年期といった人生の各段階に応じて多様で柔軟な働き方が可能となる制度があり、実際
に利用できること」とある。
すなわち、ワークライフバランスを実現するには子育をしている女性、また男性が仕事
と育児を両立できるような柔軟な働き方が必要となる。
(2) ワークライフバランスの取り組みと成果
まずは従業員のニーズにこたえた労働時間管理をすること。具体的には週に3日勤務であ
ったり、1日当たりの勤務時間を4割削減したりといった短時間労働や週2日在宅勤務等の柔
軟な労働時間を管理することである。実際にこの労働時間管理の取り組みはP&Gが行った
ものである。この取り組みにより柔軟な働き方ができるようになり、P&G社内で活躍をす
る女性が増え、全社員の62%、総合職の34%、課長相当の25%、部長相当の26%を占めて
おり、他社と比較して高く、子供を持つ管理職も多い。
また育児に関する制度を充実化することも挙げられる。この取り組みを行っている企業
として平和堂が挙げられる。平和堂では法律で定められた期間を超える育児休暇制度があ
る。通常子供が満1歳になるまでのところを、ここでは子供が2歳の誕生日に属する月の月
末まで利用することができる。この取り組みにより子供が2歳になる月まで育児に専念でき
るため生活の充実、また保育所に預ける経済的負担も減るため女性の退職者が減った。ま
た女性の管理職も出て従業員の満足度やモチベーションのアップへとつながった。
さらに事業所内保育所の設置もある。これはサタケが例として挙げられる。事業所内保
29
育所を設置し、さらに社員のニーズにこたえて保育時間にも柔軟に対応している。この取
り組みにより保育先が確保されるため育児休暇を早めに切り上げて職場へ復帰する女性が
増えた。これらを見てみると子育てをしている両親にとって安心して子育てをでき、かつ
仕事にも取り組めるものに見える。しかし、ここまで従業員のニーズにこたえていて企業
の業務に影響は出ないのだろうか。
もちろん仕事量があるにもかかわらず短時間労働等に対応することによって仕事が終わ
らなくなる可能性があることも否めない。しかし、企業にとってもワークライフバランス
に取り組むことにはメリットがある。まず従業員は仕事と子育ての両立ができる環境が出
来上がるためモチベーションが上がる。また、このような充実した労働環境・条件は社会
的に企業の評価を高め、また両立を望む人にとってとても魅力的なものに映る。そのため
優秀な人材を獲得することができる。
(3) ワークライフバランスの今後
第3章の第3節であったように、短時間労働制や1年以上の育児休暇制度が設けられてい
る企業は規模の大きいところではあるものの、在宅勤務や事業所内保育所が設置された
企業というのは数尐ない。そのためワークライフバランスの取り組みを積極的に行って
いる企業にばかり目が行きがちになり、ワークライフバランスの取り組みを行っている
企業(大企業に多い)とそうでない企業(中小企業が多い)の人材の偏りが大きくなってしま
う恐れがある。
憲章にある「子育て中の親、働く意欲のある女性や高齢者などが、子育て期、中高年
期といった人生の各段階に応じて多様で柔軟な働き方が可能となる制度があり、実際に
利用できること」は一部の企業がその条件を満たしていればいいというわけではない。
どの企業においてもこの条件を満たしていなければ「仕事と生活の調和がとれた社会」
であるとは言えない。前述したように、ワークライフバランスの取り組みというのは本
来企業だけが行うものではなく、政府や企業、地域等が互いに協力し合って取り組むも
のである。つまり、企業がワークライフバランスへの取り組みを努力することも不可欠
であるが、政府や地域が一体となって今後さらに取り組みの支援をしていく必要がある。
あとがき
仕事も子育ても家事もこなす。これは非常に大変なことだと思う。はじめは深く考えて
いなかったため女性の勤務時間を短くすればその分負担が減るだろうと。しかし家庭だけ
でなく仕事もするママが増えてきている一方、仕事をして家庭も、というパパはあまり多
くない。イクメンという言葉が普及してきている今子育てに積極的に参加をするパパも増
えつつあると思う。しかし平日の育児や家事の時間、育児休暇取得率から判断するとまだ
30
それほど多くはない。第4章で述べたように、今後育児休暇は女性が取るものという考えが
変わっていくことを望んでいる。
この論文を書いていて学べたことがありそこから考えられることもあった。認可保育所
については知らないことが多々あり首都圏や大都市の待機児童の数は想像以上であった。
認可保育所に入るのは難しい、しかし無認可保育所では保育料の負担が大きいため子供が
できたら退職する人も尐なくないこともわかった。保育所に関しては認可保育所に入れな
かった場合企業のサポートがなくては厳しい。ワーキングママが増えている今各々の企業
のサポートがなければ地域の保育所を増やしてもとても間に合わないだろう。企業のサポ
ートとして事業所内保育所があるのが理想的だと思う。もしも子供に何かあった場合すぐ
に駆けつけることができるし何かと安心である。事業所内保育所がある企業は今はほんの
わずかだが今後増えていってほしい。私もいずれ子育てをしながら働きたいと考えている
がワーキングママとして働きやすい環境の企業に出会いたいと思う。
参考資料
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http://www8.cao.go.jp/survey/h21/h21-danjo/index.html
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http://www.gender.go.jp/whitepaper/h23/zentai/index.html
・厚生労働白書 平成22年度版働く女性の実情 (アクセス日 2011/10/24)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/10.html
・都道府県別統計とランキングでみる県民性 (アクセス日 2011/10/04)
http://todo-ran.com/t/kiji/11891
・Garbagennews.com (アクセス日 2011/10/26)
http://www.garbagenews.net/archives/1828567.html
・赤ちゃんの出産・準備に役立つサイト (アクセス日 2011/10/30)
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http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001ihm5.html
・東京新聞(2010年5月9日)変わる育児休業制度 (アクセス日 2011/12/02)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/seikatuzukan/2010/CK2010050902000115.html
・手続きネット (アクセス日 2011/11/03)
http://www.tetuzuki.net/life/nursery.html#_01
・保育園を考える親の会 (アクセス日 2011/11/03)
http://www.eqg.org/oyanokai/hoikukiso.html
31
・全国保育士委員ニュース
(アクセス日 2011/10/04)
http://www.z-hoikushikai.com/kikansi/news/10009_r.htm
・厚生労働省 平成22年 保育所関連状況取りまとめ
(アクセス日 2011/11/08)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000nvsj.html
・保育園・保育所における待機児童の現状 (アクセス日2011/11/10)
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・横浜市ホームページ
(アクセス日2011/11/13)
http://www.city.yokohama.lg.jp/front/welcome.html
・平成22年版 横浜市の保育所待機児童等の状況について
(アクセス日2011/11/13)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/taikijidou/dai3/siryou3.pdf
・練馬区公式ホームページ
(アクセス日 2011/11/09)
http://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/shussan/hoikuen/index.html
・保育所入園後の風邪 教えてgoo! (アクセス日 2011/11/24)
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/2819263.html
・子供を保育園に預けながら働いているママさんへ YAHOO! JAPAN知恵袋
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1255215062
・厚生労働省 神奈川労働局発表 平成22年度 雇用均等行政関係の相談・個別紛争解決
相談援助・是正指導の概要
(アクセス日 2011/11/26)
http://kanagawa-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/kanagawa-roudoukyoku/press/110527.pdf
・gooリサーチ 平成19年育児と仕事に関する調査 (アクセス日 2011/11/28)
http://research.goo.ne.jp/database/data/000690/
・総務省統計局ホームページ 統計からみた生活行動とワークライフバランス
(アクセス
日 2011/11/27)
http://www.stat.go.jp/info/guide/asu/2011/21.htm
・第一生命 NEWS宅配便(2005年7月)保育所に子供を預けている共働き夫婦に聞いた『共働
き夫婦の仕事と家庭生活に関する調査』(アクセス日
2011/12/01)
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/news/news0507.pdf
・スーパービジネスマンの常識 (アクセス日 2012/01/28)
http://www2.ocn.ne.jp/~g-net/ikujikyuuka-kyuyo.htm
・仕事と生活の調和の実現に向けて(アクセス日 2012/01/29)
http://www8.cao.go.jp/wlb/towa/index.html
・企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット(アクセス日 2012/01/29)
http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/wlb/pdf/wlb-0.pdf
・男性も育児参加できるワークライフバランス企業へ―これからの時代の企業経営―(アク
セス日 2012/01/29)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/s1013-3a.html
32
参考文献
・『Baby-mo』2011年9月号 pp132-133 ワーキングママリポート 主婦の友社,2011
・坂東眞理子・辰巳渚編著『ワークライフバランス
今日から買われる入門講座』朝日新
聞出版,2008
・奥津眞里著『専業主婦のキャリア再開発―もう一度仕事に戻るには―』風間書房,2010
33
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