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プロバイダ責任制限法に係る事業者対応 及び係争事案等の動向調査
禁無断転載複写 プロバイダ責任制限法に係る事業者対応 及び係争事案等の動向調査報告書 平成18年2月 FMMC 財団 法人 マルチメディア振興センター Foundation for MultiMedia Communications は じ め に 平 成 1 4 年 5 月 に プ ロ バ イ ダ 責 任 制 限 法 が 施 行 さ れ て か ら 、早 く も 4 年 を 迎 える。 本 実 態 調 査 は 平 成 1 4 年 度 以 降 毎 年 、プ ロ バ イ ダ 責 任 制 限 法 に 関 す る「 ガ イ ド ラ イ ン 等 検 討 協 議 会 」及 び「 対 応 事 業 者 協 議 会 」の 事 務 局 で も あ る( 社 )テ レ コ ム サ ー ビ ス 協 会 に 調 査 を 委 託 し 、プ ラ イ バ シ ー や 著 作 権 な ど の 権 利 侵 害 情 報に対するプロバイダ等の対応や裁判上の係争事項の動向等を継続的に調査 し 、事 業 者 や 関 係 者 に 十 分 活 用 し て い た だ け る よ う な 視 点 で 報 告 書 と し て 取 り まとめてきた。 そ の 結 果 、同 法 が 目 的 と す る イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の 権 利 侵 害 情 報 へ の 対 応 に つ い て は 、プ ロ バ イ ダ 等 に お い て「 プ ロ バ イ ダ 責 任 制 限 法 ガ イ ド ラ イ ン 等 検 討 協 議 会 」が 作 成 し た ガ イ ド ラ イ ン の 活 用 や 本 実 態 調 査 等 を 通 じ て 集 積 し た 対 応 事 例 の 参 照 等 に よ り 、年 々 よ り 適 切 な 対 応 が 行 わ れ る よ う に な っ て き て お り 、本 実 態 調 査 が い さ さ か な り と も こ の 点 で 貢 献 で き た と す れ ば 、望 外 の 幸 せ で あ る 。 し か し 、一 方 で は 、当 初 想 定 し て い な か っ た よ う な 新 た な 権 利 侵 害 の 態 様 等 も 発 生 し て お り 、今 後 と も 引 き 続 き 各 分 野 の 動 向 把 握 と 新 た な 対 応 方 策 の 検 討 等 を 通 じ 、権 利 侵 害 へ の 円 滑 な 対 応 と い う 社 会 的 要 請 に 応 え る と と も に 、イ ン ターネットのより健全な普及発展に資することが必要である。 本 年 度 の 調 査 で は 、昨 今 、特 に 大 き な 社 会 問 題 と な っ て い る 商 標 権 な ど 知 的 財 産 権 の 侵 害 に つ い て も 、で き る だ け そ の 動 向 等 を 調 査 し 、報 告 書 に 盛 り 込 ん だところである。 本 報 告 書 の 利 用 に 当 た っ て は 、各 年 度 の 報 告 書 や 添 付 の 参 考 資 料 な ど を 多 面 的 に 活 用 さ れ 、調 査 報 告 書 の 意 義 が 最 大 限 に 活 か さ れ る こ と を 願 う も の で あ る 。 平成18年2月 財団法人マルチメディア振興センター 理事長 白井 太 [目 次] 1. 平成17年度における動向概要······················································ 1 1.1 商標権など知的財産権侵害への対応について······························ 1 1.1.1 制度の概要····································································· 1 1.1.2 商標権関係ガイドラインの策定・公表等······························ 1 2. 名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査································· 4 2.1 プロバイダ等、事業者相談センターの対応状況··························· 4 2.1.1 法務省人権擁護機関、その他公的機関からの申し立てと対応 ··· 4 2.1.2 被害主張者、第三者からの申し立てと対応事例····················· 6 2.2 判例・裁判上の係争事項等(名誉毀損・プライバシー関係)······· 18 [第3条関係] 2.2.1 ニフティサーブ「現代思想フォーラム」事件(原審)·········· 2.2.2 都立大事件··································································· 2.2.3 ニフティサーブ「本と雑誌フォーラム」事件(原審)·········· 2.2.4 ニフティサーブ「現代思想フォーラム」事件(控訴審)······· 2.2.5 動物病院事件(原審)···················································· 2.2.6 ニフティサーブ「本と雑誌フォーラム」事件(控訴審)······· 2.2.7 動物病院事件(控訴審)················································· 2.2.8 DHC事件··································································· 2.2.9 木材防腐処理会社事件···················································· 2.2.10 動物病院事件(上告審)·············································· 20 21 25 26 27 35 35 40 45 46 [第4条関係] 2.2.11 2.2.12 2.2.13 2.2.14 2.2.15 2.2.16 2.2.17 2.2.18 3. 錦糸眼科事件····························································· 羽田タートルサービス事件(原審)······························· TBC−パワードコム事件··········································· 羽田タートルサービス代理人事件·································· TBC−So-net事件(原審) ································ 羽田タートルサービス代理人事件(控訴審)··················· TBC−So-net事件(控訴審) ····························· 木材防腐処理会社事件················································· 50 54 57 62 69 70 70 71 著作権侵害に関する動向調査······················································· 72 3.1 プロバイダ等、事業者相談センターの対応状況························· 3.1.1 著作権侵害の対応事例···················································· 3.2 判例・裁判上の係争事項等(著作権関係)······························· 3.2.1 2ちゃんねる小学館事件(控訴審)·································· 3.2.2 ダスキン議事録事件······················································· 3.2.3 アイピーネットシステム事件··········································· 72 72 77 77 84 87 3.2.4 3.2.5 3.2.6 3.2.7 3.2.8 3.2.9 4. ファイルローグ事件(控訴審)········································ 92 代ゼミTVネット事件···················································102 WinMX発信者情報開示請求事件································· 104 バナー広告事件····························································109 ニュースヘッドラインサービス事件(控訴審)·················· 111 米国グロックスター事件(上告審)································· 116 商標権侵害に関する動向調査······················································120 4.1 プロバイダ等、事業者相談センターの対応状況························ 120 4.1.1 商標権侵害及びその他の対応事例···································· 120 4.2 判例・裁判上の係争事項等(商標権関係)······························ 128 4.2.1 eサイト商標権侵害事件················································ 128 4.2.2 タビタマ商標権侵害事件················································ 133 5.調査結果の分析···········································································139 5.1 プロバイダ等事業者の対応状況の動向分析······························ 139 5.1.1 調査の概要··································································139 5.1.2 プロバイダ責任制限法に対する事業者の対応能力··············· 140 5.1.3 商標権関係ガイドライン等の運用状況······························ 141 5.1.4 発信者情報開示請求の対応状況······································· 142 5.1.5 訴訟となった又はなっている事案の状況··························· 146 5.1.6 裁判所からの仮処分命令の内容······································· 147 5.1.7 事業者が対応に苦慮している点等···································· 148 5.1.8 事業者の対応·······························································152 5.2 判例、裁判上の動向分析······················································156 5.2.1 名誉毀損・プライバシー侵害関係の動向分析····················· 156 5.2.2 著作権侵害関係の動向分析············································· 164 ○別紙1 ○参考資料 プロバイダ責任制限法に係るアンケート······························ 171 ①プロバイダ責任制限法 商標権関係ガイドライン··············· 183 ②商標権関係信頼性確認団体の認定手続等··························· 205 1.平成17年度における動向概要 1. 平成17年度における動向概要 1.1 商標権など知的財産権侵害への対応について 1.1.1 制度の概要 「プロバイダ責任制限法」は、ウェブページや電子掲示板等、インターネット 上において不特定の者により受信される情報の流通について、著作権やプライバ シーなどの権利侵害に対し円滑に対応するため、平成14年5月27日に施行さ れた。 この法律の施行に合わせ、平成14年2月、プロバイダの団体、著作権関係の 団体等を構成員とし、学識経験者、関係省庁等をオブザーバとして「プロバイダ 責任制限法ガイドライン等検討協議会」が設置された。同年5月に「名誉毀損・ プライバシー関係ガイドライン」及び「著作権関係ガイドライン」を作成、公表 し、その後も必要な改訂等を行っている。 以降、同協議会は、プロバイダ等に対しガイドラインに沿った対応が期待され ることを啓発してきた。 1.1.2 商標権関係ガイドラインの策定・公表等 このような中で、昨今、インターネットのネットオークションにおいて、商標 権(いわゆるブランド)などの知的財産権の侵害が大きな社会問題になっていた。 このため同協議会は、平成16年12月、協議会の下に新たに「商標権関係WG」 を設置してガイドラインの策定等の検討を進め、平成17年7月21日付けで商 標権関係ガイドラインを策定、公表した。 また、同年8月11日には、商標権関係信頼性確認団体の認定手続等を公表し、 9月12日には、商標権に関する信頼性確認団体の第1回認定を行い、1団体が 認定を受けている。 (1)検討の背景 近年、インターネットオークション上に掲載されている出品情報が商標権等を 侵害しているとして、権利者及び権利者団体からネットオークション事業者に対 して当該情報を削除するよう申出がなされるケースが増大していた。このような 背景を踏まえ、知的財産及び消費者自身の利益を保護する観点から、政府の知的 財産戦略本部が決定した「知的財産推進計画2004」においても、インターネ ットオークションサイト等の管理者による、権利を侵害している出品物のサイト からの削除等を円滑にする方策等について幅広く検討を行うこととされていた。 (2)ガイドラインの概要 「商標権関係ガイドライン」の構成は、 「Ⅰはじめに」において、ガイドライン 1 1.平成17年度における動向概要 の「目的や位置づけ、情報の流通による商標権の侵害等」について規定し、「Ⅱ」 から「Ⅵ」において「ガイドラインの適用範囲や申出の手続、信頼性確認団体」 等について具体的内容を規定している。 ここでは、 「Ⅰはじめにーガイドラインの趣旨」についてその概要を(ⅰ)∼(ⅱ) に、また「Ⅱ」∼「Ⅵ」の骨子を(ⅲ)に記載する。 (ⅰ) ガイドラインの目的・位置づけ 本ガイドラインは、ネットオークションへの出品情報等の流通によって商標権 が侵害されている場合、速やかに削除等の送信防止措置を講じることができる場 合を可能な範囲で明らかにした上で、権利者及びネットオークション事業者等の 行動基準を明確化し、商標権を侵害する情報の流通に対するネットオークション 事業者等による迅速かつ適切な対応を促進し、もってインターネットの円滑かつ 健全な利用を促進することを目的としている。 また、プロバイダ責任制限法3条2項に規定する「権利を侵害されたとする者 から違法情報の削除の申し出があったことを発信者に連絡し、7日以内に反論が ない場合」でなくとも、ネットオークション事業者等が責任を負わずにできると 考えられる対応を可能な範囲で明らかにしたものである。 なお、本ガイドラインは、ネットオークション事業者等の義務を定めたもので はなく、また本ガイドラインで定めた場合以外については何ら影響を及ぼすもの ではないが、ネットオークション事業者等が、少なくとも本ガイドラインに従っ た取扱いをした場合については、裁判手続においてもネットオークション事業者 等が責任を負わないものと判断されると期待されることから、ネットオークショ ン事業者等は、通常本ガイドラインに沿った対応をとることが期待される。 (ⅱ) 情報の流通による商標権の侵害について プロバイダ責任制限法は、「情報の流通によって権利の侵害があった場合」を 対象とするが、これは「情報の流通」と「権利侵害」との間に相当因果関係があ る場合を意味する。相当因果関係があるか否かの判断は、民法等の一般則による。 一方、商標法の解釈上、 (A) 業として商品を譲渡等する者が、 (B) 商標権者の商標登録に係る指定商品又はこれに類似する商品について、 (C) 商品を譲渡するために商標が付された商品の写真をウェブページ上に掲載 する行為、又は登録商標と同一又は類似の商標をウェブページ上で表示する 行為 は、商標権を侵害していると考えられるが、このうち(C)については、「情報の 流通」が直接「権利侵害」を引き起こしていると考えられる。 (ⅲ) 「Ⅱ∼Ⅵ」の骨子 「Ⅱガイドラインの適用範囲」では「1申出の主体」、 「2 対象とする権利侵害の 態様」、「3送信防止措置の対象とする商品の情報」について規定。 2 1.平成17年度における動向概要 「Ⅲ申出の手順等」では「1商標権者等における申出の際の手続」、「2オーク ション事業者等における申出を受けた際の手続(確認事項等)」について規定。 「Ⅳ申出における確認事項及びその方法」では「1申出主体の本人性」、「2商 標権者等であることの確認」、「3侵害情報の特定」、「4商標権等侵害であること の確認」について規定。 「Ⅴ信頼性確認団体を経由した申出」では「1信頼性確認団体の基準、範囲等」、 「2信頼性確認団体による確認」、「3信頼性確認団体の確認手続に過誤等があっ た場合の対応」について規定。 「Ⅵネットオークション事業者等による対応」では「申出及び確認が本ガイド ラインの要件を満たす場合」、「申出及び確認が本ガイドラインの要件を満たさな い場合」について規定している。 3 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 2. 名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 2.1 プロバイダ等、事業者相談センターの対応状況 2.1.1 法務省人権擁護機関、その他公的機関からの申し立てと対応 平成16年10月に、 「名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」の一部が改 訂された。インターネット上において重大な人権侵害行為が多数発生しているこ とから、被害者自らが被害の回復予防を図ることが困難と認められる重大な人権 侵害事案について、法務省人権擁護機関からの削除依頼がプロバイダ等になされ た場合の手続が明確にされたものである。 同ガイドラインの改訂後の運用状況がどのようになっているか、平成17年1 0月から同年12月末までの間の対応状況について事業者にアンケートを行った が、この間で、事業者が対応したとの回答は得られなかった。これとは別に、ガ イドライン改訂後1年が経過したことを踏まえ、法務省がプロバイダ責任制限法 ガイドライン等検討協議会に対し、同省の人権擁護機関が同ガイドラインに基づ き権利侵害情報の送信防止措置を依頼した状況等について報告を行っているので、 その状況を以下に記載する。 【インターネットによる人権侵犯事件の動向】 (1)全体概況 法務省の人権擁護機関によるガイドライン改訂後1年間(2004年10月1日 から2005年9月末日)のインターネットによる人権侵害事件の動向(速報ベー ス)は、下表のとおり。 受理 名誉毀損 処理内訳 援助 要請 その他 104 104 3 プライバシー侵害 88 74 15 5 その他 45 37 3 5 237 215 21 15 合計 計 18 件 5 (注1)処理内訳には、ガイドライン改訂前に受理した案件で当期間に処理した案件 を含み、かつガイドライン改訂後の受理案件で処理未済案件を含まないので、 受理件数と一致しない。 (注2) 「援助」とは、法的助言等を行う措置のことをいい、プロバイダ等への送信防 止措置等の依頼方法の教示なども含む。 「要請」とは、権利侵害情報の削除をプ ロバイダ等に依頼する措置のことをいう。 (注3)処理内訳中、「その他」には、調査の結果、権利侵害性が認められず、又はそ の認定が困難な事案が含まれる。また、名誉毀損、プライバシー侵害以外の「そ の他」の事案とは、差別を助長、誘発する目的で、不特定多数の者が、人種、 4 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向の共通の属性 を有することを容易に識別することを可能とする情報を流通させる差別助長行 為等である。 (2)ガイドラインに基づく送信防止措置依頼の実施状況 (ⅰ)ガイドライン改訂後1年間(2004年10月 1 日から2005年9月末日) ガイドラインに基づきプロバイダ等に対し、法務省の人権擁護機関が送信防止 措置の依頼を行ったのは6件あり、いずれも直ちに削除された。なお、いずれも プライバシー侵害の事案であった。 (ⅱ)個別事例 (A)ホームページ上に、少年事件の加害男性であるとして、氏名や写真等個人 を特定する情報が掲載されていた事案(2004年10月、2005年8 月) → プロバイダ4社及びホームページ開設者1名に対し、それぞれ送信防 止措置を依頼し、いずれも直ちに削除された。 (B)掲示板上に、一般私人である被害者の意に反して、同人の氏名及び電話番 号が掲載され、同人宅に対し、不特定の者から同人を中傷する電話がかけ られ、同人が自ら被害救済を図ることが困難と認められる程度に事態が切 迫していた事案(2005年2月) → プロバイダ1社に対し、送信防止措置を依頼し、直ちに削除された。 【法務省の評価と今後の課題】 ・法務省の人権擁護機関がガイドラインに基づく送信防止措置を依頼したプロバ イダ等は、いずれも迅速に送信防止措置を実施しており、依頼の過程で法務省 の人権擁護機関が困難を感じることはなかった。 ・なお、当該プロバイダ等は、1社を除き、ガイドライン等検討協議会を構成す る事業者3団体のメンバーではない。 ・しかしながら、法務省の人権擁護機関が送信防止措置の依頼をした総数18件 に対し、ガイドラインに基づく送信防止措置の依頼は6件(3分の1)にとど まっている。その主たる原因は、送信防止措置依頼書の送付先が判明しないこ とにあり、そのような場合は、当該プロバイダ等が指定する掲示板上での削除 依頼等の方法によらざるを得ない。 協議会の名誉毀損・プライバシー関係WGでは、以上の報告内容を検討した結 果、送付先が判明し、同ガイドラインに基づき対応が行われている分については、 人権擁護機関及びプロバイダ等の双方において適切な運用がなされていることを 確認した。 その他の公的機関からの申し立てと対応についても、アンケートの調査期間が 短かったため、プロバイダ責任制限法が対象としている権利侵害関係については、 ほとんどなかった(1社1件のみ)。 5 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 2.1.2 被害主張者、第三者からの申し立てと対応事例 法務省人権擁護機関やその他公的機関からの申し立てと対応状況については、 前述のとおりであるが、被害主張者や第三者からの申し立てと対応事例について 以降に記述する。 事例 № 03001 タイトル 申立者が誰なのか発信者にわからないよう対応することの依頼 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・プライバシー侵害関係 情報表示場所 ・ウェブページ プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 当社会員開設ウェブページ 申立内容 申立人は、当社の提供するホスティングサービスを通じて当社顧 客が公開していたホームページのコンテンツに自分の顔写真が無断 使用されたことに対し、肖像権の侵害を受けたと主張し、プロバイ ダ責任制限法に基づく送信防止措置を当社に要求した。 また、申立人から本件要求に際し、自身が送信防止措置の依頼者 であることが「絶対に」わからないように手続を進めて欲しいとい う要望があった。 事業者の対応 当社はまず、依頼元が絶対にわからないように対応を進めること は案件の性質上困難であることを申立人に対し説明し、申立人は匿 名性が不可能なことを認め妥協した。 次いで当社は、発信者(当社顧客)に対して意見照会を行ったが、 なんらの意思表示もなかったため、送信防止措置を当社で実施し、 当該顧客には、その旨を書面で通知した。 後日、当該顧客より当社に連絡があり、当社の提供するホスティ ングサービスを解約する旨の申し出があった。 対応上の留意点 等 6 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03002 タイトル 権利侵害に当たるか判断の難しい送信防止措置請求 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・プライバシー侵害関係 情報表示場所 ・電子掲示板 ・名誉毀損関係 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 当社会員管理電子掲示板 申立内容 被害主張者(会社)から、当社設備上で運営されている掲示板上 で、事実に反する経営状況、誹謗中傷、脅迫、侮辱、関係者の個人 情報の公開等が行われていることが、プライバシー侵害、名誉毀損、 グループ全体の信用喪失、損失、社員の退職による業務上の損害、 会社関係者が精神的苦痛を受けているとして、送信防止措置請求が あった。 事業者の対応 当社より発信者に警告、注意喚起、及び送信防止措置依頼を行っ たところ、発信者は警告に応じ自主的に該当箇所の削除を行ったが、 しばらくすると再掲示するため、同一申立者から再三、類似の依頼 がある。しかし、明確に権利侵害に当たると判断できないため、法 に基づく措置または利用規約に基づく利用停止の措置ができない。 対応上の留意点 等 7 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03003 タイトル 会員設置のサーバに記録された膨大な情報に対する送信防止措置請 求 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・プライバシー侵害関係 情報表示場所 ・ウェブページ ・名誉毀損関係 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 当社会員開設ウェブサーバ 申立内容 発信者となる当社顧客は、当社が提供する常時接続サービスを利 用して個人的にウェブサーバを公開していた。このサーバは、他の 様々な電子掲示板が蓄積した膨大な過去記事を巡回することで次々 と情報を蓄え、オリジナルの投稿記事が仮に削除されたとしても、 長期に渡ってその検索・閲覧を可能ならしめるサービスを無償で提 供していた。 ひところ、申立人のプライバシー情報を某掲示板において取り沙 汰されたことがあり、当社顧客が運用する上記サーバは、それらの 記事についても蓄積しており、公に検索可能な形で保存していた。 申立人は、上記サーバが記録したそれらの情報のうちには、申立 人の特定を可能とするものや、特定につながりやすいものが含まれ ており、それらが検索可能な形で公開されていることは自身のプラ イバシー権の侵害や名誉毀損等につながると主張。上記サーバに記 録・保存された該当情報に関する送信防止の措置を当社に対して要 求した。 なお、申立人は当該顧客に対して直接の削除要求を事前に出して いた。当該顧客も「削除に値する」と判断したもの(氏名等が明示 されたもの等)については自ら削除を済ませていた。しかしながら 申立人はこれになお満足できず、残余の情報に関する送信防止の措 置をプロバイダ責任制限法に基づいて当社に要求したものである。 事業者の対応 本件は、当社の提供する常時接続回線を用いて公開された、当社 会員の管理下にある特定電気通信(ウェブサーバ)より流通してい た侵害情報の送信防止依頼案件である。当社では下記の点について 検討した。 ①当社会員の管理下にあるウェブサーバより流通していた侵害情報 に対し、当社は同法 3 条にいう「関係役務提供者」に該当するか。 8 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 ②申立人より提示を受けた情報から、プライバシー権の侵害や名誉 毀損に関する違法性阻却事由の存否までを判断できるか。 これらの点について顧問弁護士に相談した結果、本件に対する同 法の適用を全面的には踏まえない方針の下、対応を進める運びとな った。 まず当社は発信者である当社顧客に対し、上記のような申し立て があったこと、ならびに、該当情報の流通については当社の契約約 款に抵触する危険性も指摘できるため、任意にてその削除を願いた いことを旨とする意見照会を実施した。発信者の意思による自主的 な送信防止措置を期待した。 しかしながら当該顧客は、 「本件において削除すべきと判断した情 報は全て削除が完了しているので、その要請には応じられない」と する意思を表示した。そこで当社は申立人に対し、当社としての削 除依頼を行なったが理解を得られなかったこと、ならびに、本件送 信防止の可否については当該顧客の一存に強く左右される形となる 旨を回答した。 その後、申立人からはなんの音沙汰もなかった。その後に本件は 進展なく結了となった。 対応上の留意点 等 9 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03004 タイトル 名誉毀損の事実認識が不可能な送信防止措置請求 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・プライバシー侵害関係 情報表示場所 ・電子掲示板 ・名誉毀損関係 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 当社会員管理掲示板 申立内容 当社会員の発信者が、男女の交友関係について、自己の管理する 電子掲示板に自ら書き込んだことに対し、被害主張者から送信防止 措置請求が当社になされた。 事業者の対応 名誉毀損との申し立てであったが、弁護士に確認をとり、名誉毀 損になりうる事実の認識が不可能(事実か否か不明・認識できず) であったため、発信者には当社からクレームがあったことと誤解を 受けるような表現および個人のプライバシーを侵害するおそれのあ る書き込みは止めるよう注意喚起を実施した。数日後には、当該書 き込みは削除されていた。 対応上の留意点 等 10 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03005 タイトル 他社検索エンジンで検索した権利侵害情報に対する発信者情報開示 請求 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・名誉毀損関係 情報表示場所 ・ウェブページ プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 他社会員 有 検索エンジン 他社 申立内容 当社の広告用ホームページには、閲覧者の便宜を図る目的から他 社の提供による検索エンジンと提携した検索ツールボックスが設け られている。本件の請求者(団体)は、当該ツールを用いて自身の 名称を検索したところ、自身を誹謗中傷する内容の検索結果を得た。 これを受け、請求者は損害賠償請求訴訟の提起を予定し、プロバイ ダ責任制限法に基づき、検索結果で得られた侵害情報の発信者に関 する個人情報の開示を当社に要求した。 事業者の対応 申立人が「侵害情報」として当社に提示した各情報の所在を確認 すると、それらの全てが当社の管理外にあたる他社のウェブサーバ (=検索エンジン自体のサーバ、若しくは検索エンジンが自ら採取 した各情報の発信元サーバ)にて記録・公開されていたものであっ た。このため当社は本件請求者に対し、同法に基づいた請求権を認 めることは相当でない旨を回答し、発信者情報の開示を拒否した。 対応上の留意点 等 11 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03006 タイトル 発信者情報開示請求訴訟での開示命令(その1) 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・名誉毀損関係 情報表示場所 ・電子掲示板 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 有 権利侵害等の発 [申立者] 代理人弁護士 生状況 [情報の表示場所詳細] 他社管理電子掲示板 [発信者] 当社会員 申立内容 被害主張者の代理人弁護士から当社に対して、虚偽の事実を並べ 立て当社の名誉・信用を著しく傷つけた、としてプロバイダ責任制限 法に基づく発信者情報開示請求があった。 事業者の対応 当社は、会員である発信者に意見照会を行ったが、開示拒否の回 答があった。明らかに節度を越えた違法の疑いのある発言ではあっ たが、最終的に発信者情報開示請求訴訟となり、判決で開示を命じ られた。 対応上の留意点 等 12 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03007 タイトル 発信者情報開示請求訴訟での開示命令(その2) 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・名誉毀損関係 情報表示場所 ・電子掲示板 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 有 権利侵害等の発 [申立者] 代理人弁護士 生状況 [情報の表示場所詳細] 他社管理電子掲示板 [発信者] 当社会員 申立内容 当社の管理外にあたる他社の電子掲示板において、当社顧客が若 干の伏字を用いながら請求者の業務(転職前)が怠慢である旨を投 稿した。請求者はこれによって自身の名誉が毀損され、転職先にお いて不利益を被ったと主張。請求者は当該顧客に対する損害賠償請 求訴訟の提起を予定し、代理人弁護士を通じて、プロバイダ責任制 限法に基づく発信者の情報開示を当社に対し要求した。 事業者の対応 当社に対する要求当時から、代理人弁護士は裁判所ルートによっ てでも開示請求を検討している旨を言明していた。当社は顧問弁護 士に相談のうえ、発信者である当該顧客に対して当社より意見照会 を実施した。 当社からの意見照会に対し、当該顧客は情報開示に同意しない旨 の意思表示をした。当社はこの照会結果を踏まえ、当社が同法にい う「特定電気通信役務提供者」に該当するとはただちに判断し得な い状況にあること、ならびに、本件投稿行為による名誉毀損の成否 については「権利侵害の明白性」という点で疑わしさが残ることを 理由とし、同法に基づいた請求権を認めることは相当でない旨を回 答。発信者情報の開示を拒否した。 これを受け、代理人弁護士は同法に基づく当該顧客の情報開示請 求権(ならびに当社の開示遅延による損害の賠償)を求め、当社を 相手取り裁判所に訴えを起こした。裁判所(地裁)は原告に対して 同法に基づく請求権が存在することを認めたため、当社はこれに従 い発信者の氏名ならびに住所を請求者に対して開示した。 対応上の留意点 等 13 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03008 タイトル 申立者の提示情報で判断が困難な場合の対応 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・名誉毀損関係 情報表示場所 ・電子掲示板 ・ブログ プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 無 他社管理電子掲示板 ブログ 申立内容 当社会員による他社電子掲示板や申立者のブログに、申立者を中 傷する書き込みが半年に及び、ついに殺害予告や襲撃予告に発展し、 被害主張者から当社に対して発信者の特定の依頼があった。 事業者の対応 当社は提示された情報では対象者が絞り込めないため、申立者に 対してさらに詳細な情報の提供を依頼した。提出のあった情報から は、名誉毀損にあたるか当社では判断が困難であったため、当社か ら申立者に対して発信者情報の開示はできないが、会員に対して注 意喚起を行うことを回答した。 対応上の留意点 等 14 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03009 タイトル 名誉毀損の申し立てに対する発信者情報開示請求の対応 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・名誉毀損関係 情報表示場所 ・電子掲示板 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 他社管理電子掲示板 申立内容 請求者は大学病院の代表者。当社の管理外にあたる他社の電子掲 示板において、当社顧客が同大学病院のサービスに対する評価をい たずらに貶める旨の記事を投稿した。請求者はこれによって病院の 信用が毀損され、 「集客力に悪影響が及んだ」と主張。請求者は当該 顧客に対する損害賠償請求訴訟の提起を予定し、プロバイダ責任制 限法に基づく発信者の情報開示を当社に対し要求した。 事業者の対応 本件つき当社はプロバイダ責任制限法に準拠した対応を進めるこ ととし、発信者である当該顧客に対して意見照会を実施した。当該 顧客は当社に対し、本件請求者に対するお詫びの言葉とあわせ、発 信者情報の開示について同意しない旨の意思表示をした。 本件請求者の主張によれば「集客力に悪影響が及んだ」とのこと であるが、提出資料(当該投稿を証する画面のハードコピー)のみ からでは、そのような事実の存在について当社としての確証を得る ことができなかった。 当社はこの照会結果を踏まえ、当社が同法にいう「特定電気通信 役務提供者」に該当するとはただちに判断し得ない状況にあること、 ならびに、本件投稿行為による名誉毀損の成否については「権利侵 害の明白性」という点で疑わしさが残ることを理由とし、同法に基 づいた請求権を認めることは相当でない旨を回答。発信者情報の開 示を拒否した。その後請求者からは特段の反論等がなく、本件は結 了した。 対応上の留意点 等 15 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03010 タイトル 申立者と発信者双方の代理人弁護士を通じた話し合い 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・名誉毀損関係 情報表示場所 ・電子掲示板 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 有 権利侵害等の発 [申立者] 代理人弁護士 生状況 [情報の表示場所詳細] 他社管理電子掲示板 [発信者] 当社会員 申立内容 某日、請求者は当社の管理外にあたる他社が運営・管理する電子 掲示板にて請求者自身の名前を騙った記事が当社顧客によって投稿 されていたことを確認した。 当該記事の内容は、請求者と同じ勤務先に勤める女性従業員を通 称で挙げ、彼女に対する強姦を計画するかのような内容であった。 請求者によれば、この記事を見た当該女性従業員は職場において安 心して勤務することができないほどの精神的苦痛を余儀なくされた という。 請求者は、当社顧客が自分になりすましたうえで、いかがわしい 内容の記事を投稿したことにより、その名誉が毀損されたと主張。 当該顧客に対する損害賠償請求訴訟の提起を予定し、当社に対して 発信者の情報開示を依頼した 事業者の対応 本件につき当社はプロバイダ責任制限法に準拠した対応を進める ことを決定。発信者である当該顧客に対し当社より意見照会を実施 した。当該顧客は自ら弁護士に相談。自らの所業と責任を認め、当 社による開示に同意をした。 これを受け当社では、当社の顧問弁護士に事の経緯を報告。その アドバイスに従い、当社が情報を開示することに先んじ、まずは請 求者側代理人弁護士の連絡先を発信者側代理人弁護士に伝えた。 結果、発信者は代理人弁護士を通じて請求者側と連絡をとりあい、 本件の解決に向けた当事者同士の話し合いが実現される運びとなっ た。当社は上記の経緯を踏まえ、当社が自ら発信者の個人情報を開 示しなかった。 対応上の留意点 等 16 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 事例 № 03011 タイトル 営業妨害と言えない送信防止措置請求 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・その他( 情報表示場所 ・電子掲示板 営業妨害 ) プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 当社会員管理掲示板 申立内容 申立者が自己のウェブページで実施している昆虫のネット販売に ついて、誹謗・中傷が当社会員が管理する電子掲示板に掲載された ことに対して、その掲載内容により売り上げが落ちたとして、当社 に送信防止措置請求があった。 事業者の対応 当社では、発言の内容について弁護士に確認をとったが、名誉毀 損、誹謗・中傷といえる内容ではなく、この発言による売り上げの減 少との関係性も確認できないため、発信者にはクレームがあったた め、誤解を受けるような発言は控えるよう注意喚起した。 対応上の留意点 等 17 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 2.2 判例・裁判上の係争事項等(名誉毀損・プライバシー関係) 今年度は、プロバイダの違法情報の媒介責任をめぐる状況に大きな変化のあった 1年であった。ブログやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の急速 な浸透である。これらは基本的には、ウェブホスティングや掲示板と同じ性質を有 するものであり、他人の発信した違法情報を媒介する媒体となりうるものである。 中でも匿名掲示板における違法性の高いスレッドを編集してフリーのブログに転 載する行為が散見された。裁判にまで至った事例は知られていないものの、遠から ず事件になると推測される。ブログや SNS のサービス・プロバイダやユーザーの法 的責任は、違法情報の媒介責任の問題に新たな一項目を追加するものである。 世の中が動いた割には、公開された裁判例については、注目すべき追加が少ない。 動物病院事件の最高裁判決となりすましに関する1件を除いては、重要な追加はな い(著作権関係においては、小学館事件の控訴審判決が重要な問題提起となってい る。)。数の上では、前年度からの追加(公開された判決は原則としてすべて本報告 書で紹介する)は、第 3 条関係では 3 件、第 4 条関係では 2 件である(共通の事件 が1件ある。原告が削除と発信者情報開示を共に求めたためである。)。 第 3 条関係は前年度同様、すべて送信防止措置(以下単に「削除」という。)を 講じなかったことによる責任(第 3 条 1 項関係)に関するものであり、削除したこ とによる責任に関するもの(第 3 条 2 項関係)は依然として登場していない。 第 4 条関係の追加判決については新しい争点を提供するようなものは見られな かった。他方で判決に関する分析が進んでおり、実務対応にフィードバックされて、 プロバイダの足並みもある程度揃ってきた。多くのプロバイダは発信者情報開示請 求訴訟の提起に対して落ち着いて対応できるようになっている。 今年度報告書の名誉毀損・プライバシー関係「判例・裁判上の係争事項」では、 判決文の紹介を減じて、その分解説を増やしている。個々の判決ごとに、含まれる 論点を解説するが、今後注意すべき重要な問題については、本報告書5「調査結果 分析」において詳細に論じることにする。 【第 3 条関係】 初めに第 3 条の基本構造を確認しておく。第 3 条は、違法情報を削除しなかった ことにより、また、適法な情報を誤って削除したことにより、プロバイダに生じ得 る債務不履行責任・不法行為責任を免責する条項である。 まず、第 1 項は、プロバイダが違法情報を削除しなかった場合であっても、以下 のいずれかでない限り、責任を負わない旨を規定する。 (a) : ①削除が技術的に可能であり、かつ②情報の流通および権利侵害 の両方を知っていた場合 (b) : ①削除が技術的に可能であり、かつ③情報の流通を知っていること に加えて権利侵害を知ることができたと認めるに足りる相当の理 由ある場合 18 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 (c) : プロバイダが情報の発信者と評価できる場合 (a)、 (b)、 (c)のいずれかでない限り、プロバイダは、誤って違法な情報を 放置したことを理由として、被害者に対して本来負う可能性のある不法行為責任を 負わないのである。 次に、本条第 2 項は、適法な情報を誤って削除してしまった場合に生じ得るプロ バイダの発信者に対する債務不履行責任・不法行為責任を免責する規定である。 第 2 項は、同項所定の場合には、プロバイダが責任を負わないことを規定する。 すなわち、 (d) : 必要な限度での措置であること (e) : 他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由が ある場合 (f) : 発信者に対する意見照会到達後7日を経過しても防止措置に同意し ない旨の申出が来ない場合 のうち、(d)かつ(e)、または(d)かつ(f)であれば免責される。 各判決の分析にあたって注意を要するのは、以下のような点である。 第一に、理論的には、債務不履行責任・不法行為責任の発生可能性を前提とした うえで、プロバイダの免責を図る第 3 条であるが、同法はプロバイダに特権的な免 責を与えるものではないと説明されている。すなわち、第 3 条 1 項および第 3 条 2 項 1 号は、もともとプロバイダに法的責任が生じないラインを確認的に明らかにし たものに過ぎないというのである。裁判例においても、裁判所は初めに不法行為責 任の成否を検討し、その後に、第 3 条の成否を検討するという順序を踏んではいる ものの、不法行為責任の成立を認めつつ、第 3 条で免責したものは一例もない。つ まり、裁判例には、この説明に反するような事例は存在しないのである。 第二に、第一の点と関係するが、不法行為成立の基準と第 3 条による免責の基準 が原則として同一であることから、第 3 条が問題になる事案における中心争点は不 法行為の成否を決する削除義務の存否であることになる。削除義務があれば、放置 した行為は当該義務に違反する不法行為となり、不法行為が成立した以上は、第 3 条で免責されることはない(もちろん第 3 条 2 項 2 号の発信者に対する意見照会の 回答が返ってこなかった場合は別である。)。このため、結局は削除義務の存否が唯 一の争点となる。削除義務の存否は、厳密にいえば、第 3 条の解釈の問題ではない が、このような事情がある以上、プロバイダの法的責任を画するうえで、最も重要 な問題であるから、本稿でも正面から取り上げることとしたい。また、この問題は 責任制限法施行以前から存在するので、本稿では施行以前の裁判例も簡単に紹介す ることとする。 第三に、削除義務に関するすべての判決は、どのような場合に削除義務が生じる かの基準について、緩やかな基準(プロバイダの責任を広く認めるもの)と制限的 19 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 な基準(プロバイダの責任を制限的に認めるもの)に大きく分かれている。本年度 においては、著作権関係のものではあるが、小学館事件の高裁判決がでたことによ り、この問題についての検討課題が増している。同判決の本格的な評釈が待たれる ところである。 以上の 3 点が、特に重要であるが、その他にも、各判決の分析の際には、①ネッ トワーク特性はどのようなものか、フォーラムか、掲示板か、ウェブホスティング か、②違法情報に対する積極的な関与が認められるか、を重視している。 本項で検討する裁判例は、以下のとおりである。★印が昨年度版からの追加であ る。 ①ニフティ現代思想フォーラム事件(原審)東京地裁 H9.5.26 ②都立大事件 東京地裁 H11.9.24 ③ニフティ本と雑誌フォーラム事件(原審)東京地裁 H13.8.27 ④ニフティ現代思想フォーラム事件(控訴審)東京高裁 H13.9.5 ⑤動物病院事件(原審) 東京地裁 H14.6.26 ⑥ニフティ本と雑誌フォーラム事件(控訴審)東京高裁 H14.7.31★ ⑦動物病院事件(控訴審)東京高裁 H14.12.25 ⑧DHC事件 東京地裁 H15.7.17 ⑨木材防腐処理会社事件 名古屋地裁 H17.1.21★ ⑩動物病院事件(上告審)最高裁 H17.10.7★ 2.2.1 ニフティサーブ「現代思想フォーラム」事件(原審) 東京地裁 平成9年5月26日 (1)ネットワーク特性: ニフティ・フォーラム (2)事案: ニフティ・フォーラムの一つである「現代思想フォーラム」において名誉を毀損 された同フォーラム会員が、発信者、フォーラムのシスオペ、ニフティのすべてに 対して名誉毀損に基づく損害賠償請求を行った事件である。フォーラムのシスオペ に対しては、削除すべきであったにもかかわらず削除しなかったことについて端的 に不法行為の成否が争われ、ニフティについては、シスオペの使用者として使用者 責任(民法 715 条)の成否が問題とされた。 違法情報を媒介したことについてのプロバイダの法的責任が問われたわが国初 の事件であり大きな注目を集めた。 (3)判決のポイント: 本件は、責任制限法施行前の事件である。フォーラムは一種の掲示板と見うると ころ、掲示板運営者に相当するのはシスオペであり、シスオペの削除義務違反の有 無の議論は今日でも先例性を失っていない。判決は、シスオペとフォーラムの関係 20 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 について述べた後、シスオペの特性に照らすと、会員から名誉毀損の発言があった 場合には、条理上の作為義務(削除義務)を負う場合もあるとした。また、どのよ うな場合に削除義務を負うかについては、事前の監視義務を認めるべきでないこと や、名誉毀損にあたるか否かの判断が困難であることなどを認定したうえで、「少 なくともシスオペにおいて、その運営・管理するフォーラムに、他人の名誉を毀損 する発言が書き込まれていることを具体的に知ったと認められる場合には、当該シ スオペには、その地位と権限に照らし、その者の名誉が不当に害されることがない よう必要な措置をとるべき条理上の作為義務があったと解するべきである」とした。 違法な書き込みを具体的に知った場合は削除すべき、との基準は、フォーラムが 特に違法な発言を誘発するような性格のものではないことを考慮すれば、管理者の 責任をかなり広範に認めるものといえる。もっとも、フォーラムにおけるシスオペ は、「誹謗中傷の発言に対応する」といった役割を期待される存在であるため、通 常の掲示板の管理者に比べると、広く責任が認められてもやむをえないと考えるこ ともできる。 ニフティについては、使用者責任(民法 715 条)を基礎づけるに足る指揮監督関 係が認められることを根拠として、簡単に使用者責任が認められた。 参考文献 ・判例時報 1610 号 22 頁 ・松本恒雄「違法情報についてのプロバイダーの民事責任」(ジュリ スト 1215 号 107 頁) ・新美育文 法教 205 号 73 頁 2.2.2 都立大事件 東京地裁 平成11年9月24日 (1)ネットワーク特性: ウェブホスティング (2)事案 学生グループ間の抗争に関連して、大学の学内に設置された大学の管理するサー バにホストされたホームページ上に名誉毀損の情報がアップロードされた事案で ある。 違法情報に気づいた原告は、大学に対し、情報が名誉毀損に当たるものであるこ とを指摘して謝罪を求める抗議文書を送付しており、大学はこの抗議文書を受領し た時点で本件ホームページ上の違法情報の存在を知るが、文書を削除する措置はと らず、発信者らに対して抗議の趣旨を伝えるにとどめている。 (3)判決のポイント 本件も、責任制限法施行前の事件であり、削除すべきであったにもかかわらず削 除しなかったことについて、不法行為の成否が争われた。 この点に関する裁判所の判断は以下のとおりである。まず、ホスティングを提供 21 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 しているプロバイダは、通常社会通念上許されない内容の情報の削除権限を有する が、この削除権限は、被害者保護のために認められるものではなく、当該ネットワ ークの信用維持のために認められたものである。したがって、プロバイダに削除権 限があるからといって直ちに被害者との関係で削除義務ありということにはなら ない。次に、いかなる場合にネットワーク管理者が被害者との関係で削除義務を負 うかについては、「事柄の性質に応じて、条理に従い、個別的ないし類型的に検討 すべきもの」である。名誉毀損の場合は、犯罪行為であり、私法上も違法な行為で はあるが、基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事者である こと、当事者以外の一般人の利害関係を侵害するおそれが少ないこと、問題の情報 が名誉毀損に該当するか否かをネットワーク管理者が判断するのは困難であるこ とから、被害者との関係で削除義務を負うのは、①名誉毀損文書に該当すること、 ②加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び③被害の程度も甚大であること などが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られる、との基準を示し た。そして本件については、①ないし③のいずれも一見して明白とはいえないとし て、原告に対する削除義務を否定した。 ①②③のような要件が満たされることは実際にはまれであり、本件裁判所はニフ ティサーブ「現代思想フォーラム」事件原審に比べて、プロバイダの不法行為の成 立範囲を極めて限定的にとらえている。この理由を、本件プロバイダが大学であり、 ホスティングの提供が教育行為の一環であったことに求める意見もある。しかしな がら、本判決理由のどこにもこれらの事由によって本件プロバイダの責任を制限し ようとする記述は見られない。また、本判決の判断基準は小学館事件原審にも踏襲 されており、本判決は、違法情報に積極的に関与することのないコンテンツ・ニュ ートラルなプロバイダに関する一般的な削除義務の基準を定立したものと見るべ きである。 なお、余談ながらインターネットに関する事案の判決においては、裁判官のリテ ラシの不足により、不合理な判決理由が見られることが少なくない。第 3 条が問題 になる事件も例外ではないが、本判決は、一般論が多いものの、総じて納得できる 内容であり、インターネット・リテラシの高い裁判官の判決として高く評価できる ものである。 【都立大の責任に関する裁判所の判断】 (項番1、2は省略) 3 都立大担当職員が原告らとの関係で本件文書の削除義務を負うかどうか (一)原告らは、都立大担当職員は、教養部システム内のホームページ上の 名誉毀損文書を削除する権限を有するから、そのような名誉毀損文書の 存在を知ったときにはこれを削除すべき義務を負うと主張する。 教養部システムについてのものではないが、都立大教育研究用情報処理 システムにおいては各ホームページに記載された情報については作成主 体が責任を負うが運営委員会は社会通念上許されないと判断した公開情 報の除去を命じることができると定められていることは前記認定のとお 22 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 りである。そして前記認定事実によれば、教養部システムにおいても、 条理上、各ホームページに記載された情報については作成主体が責任を 負うが、情報教育担当教員は社会通念上許されないと判断した公開情報 を除去することができるものと解される。 ところで、大学におけるコンピューターネットワークのように、ネッ トワークを管理する者が、インターネットで外部に流される個々の情報 の内容につき一般的に指揮命令をする権限を有しない場合においては、 情報の内容についてはその作成主体が責任を負うのが当然のことである が、それでもなお、ネットワークの管理者は情報の削除権限を有すると されるのが通常である。管理者が削除権限を有するのは、社会通念上許 されない内容の情報が当該ネットワークから発信されると当該ネットワ ーク全体の信用を毀損するので、そのような信用の毀損を防止する必要 があるからであり、都立大教育研究用情システムについていえば、被害 者保護のために運営委員会に情報の削除権限が認められているというよ りは、都立大教育究用情報システムの信用を維持するという都立大構成 員全体の利益のために運営委員会に情報の削除権限が認められているも のとされる。 そうすると、社会通念上許されない内容の公開情報につい ての管理者の削除権限の定めは、社会内に存在する諸団体がインターネ ットに接続することのできるコンピューターネットワークを管理する際 の常識的な内容を定めたものであるということができる。 これと同様に、本件の教養部システム内において情報教育担当教員が 有する社会通念上許されない内容の公開情報の削除権限も、被害者保護 のために認められたものというよりは、教養部システム(ひいては都立 大教育研究用情報処理システム)を維持するという都立大構成員全体の 利益のために認められているものというべきである。 したがって、都立大職員である情報教育担当教員が社会通念上許され ない内容の公開情報の削除権限を有することからただちに右情報担当教 員が原告らに対する関係において本件文書の削除義務を負うという結論 を導き出すことはできないものというべきである。 なお、社会通念上許されない内容の公開情報を削除すべき権限の行使 は情報教育担当員の合理的裁量に委ねられ、裁量権の逸脱、濫用がない 限り、情報教育担当員の削除権限の行使が教養部システム内部の関係者 に対する関係において違法になることはないものというべきである 。 (二)しかしながら、自ら管理するネットワークからインターネット経由で 外部に情報が流れる場合において、右の情報の流通を原因として外部の者 に被害が生じたときであっても、ネットワーク管理者は常に外部の被害者 に対して被害発生防止義務を負うことがないとまでいうことはできない。 管理者の被害発生防止義務の成否は、事柄の性質に応じて、条理に従い、 個別的ないし類型的に検討すべきものである。 23 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 ところで、インターネットにおける秩序が刑罰法規に触れてはならない とか、私法秩序に反するものであってはならないとかいうのは、理念とし てはそのとおりである。しかしながら、刑罰法規や私法秩序に反する状態 が生じたからといって、そのことを知ったネットワークの管理者が被害者 との関係において被害の防止に向けた何らかの措置をとる義務が生じるか どうかは、問題となった刑罰法規や私法秩序の内容によって異なると考え られ、事柄の性質に応じた検討が不可欠である。犯罪行為であり私法上も 違法な行為であるからといって、当該情報の存在を知った管理者に一律に 当該情報を排除すべき義務を負わせるのは、事柄の性質によっては無理が あるからである。 (三)例えば、ネットワークからインターネット経由で外部にコンピューター ウィルスを流す行為がされたり、ほかのコンピューターに不法に侵入して システムを破壊する行為がされたりした場合には、事柄の性質に照らして 管理者は、右の行為がされたことを確定的な事実として認識した時点にお いて、条理上の義務として、右の行為を妨げるための措置を可能な限度で とるべき義務が生じるものというべきである。このような行為は他人の財 産に巨額の損害を与える蓋然性の高い行為であるとともに様々な装置がコ ンピューターによる何ら力の制御に依存していることが通常となった今日 の社会においては、一般人の日常の様々な生活利益を侵害するおそれの強 い行為でもあるから、そのような行為の実行を妨げる手段を有する者は、 社会全体から被害発生防止のための一定の責任を負うことが要請されてお り、私法秩序王も、可能な限度において、被害者に対す被害発生防止義務 を負わせることが条理にかなうからである。 (四)これに対して、名誉毀損行為は、犯罪行為であり、私法上も違法な行為 ではあるが基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事 者であり、当者以外の一般人の利益を侵害するおそれも少なく、管理者に おいては当該文書が名誉毀損に当たるかどうかの判断も困難なことが多い ものである。このような点を考慮すると加害者でも被害者でもないネット ワーク管理者に対して名誉毀損行為の被害者に被害が発生することを防止 すべき私法上の義務を負わせることは、原則として適当ではないものとい うべきである。管理者においては、品位のない名誉毀損文書が発信される ことによるネットワーク全体の信用の低下を防止すべき義務をネットワー ク内部の構成員に負うことはあっても、被害者を保護すべき、私法秩序上 の職責までは有しないとみるのが社会通念上相当である(なお、管理者が 名誉毀損文書を削除するに当たり被害者の利益にも配慮した上で削除の決 断がされることが通常であろうが、このような削除権の行使は、いわば被 害者に対する道義上の義務の履行にすぎず、これを怠ると損害賠償義務を 負うべき私法秩序上の義務の履行とはいえないと解される。)。 24 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 そうであるとすれば、ネットワークの管理者が名誉毀損文書が発信され ていることを現実に発生した事実であると認識した場合においても、右発信 を妨げるべき義務を被害者に対する関係においても負うのは、名誉毀損文書 に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度 も甚大であることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限 られるものというべきである。 (五)本件行為は、本件文書が名誉穀損に当たるかどうかも加害行為の態様の悪 質性も、被害の甚大性も、いずれもおよそ一見して明白であるとはいえない ものというべきであるから、都立大担当職員が本件ホームページに本件文書 が掲載されたことを知った時点において、被害者である原告らに対してこれ を削除するための措置をとるべき私法上の義務を負うものとはいえないとい うべきである。 参考文献 2.2.3 ・判例時報 1707 号 139 頁 ・松本恒雄「違法情報についてのプロバイダーの民事責任」(ジュリ スト 1215 号 109 頁) ニフティサーブ「本と雑誌フォーラム」事件(原審) 東京地裁 平成13年8月27日 (1)ネットワーク特性: ニフティ・フォーラム (2)事案 「本と雑誌フォーラム」において、名誉毀損の発言・プライバシー侵害がなされ たとして、原告がニフティに対して損害賠償請求と発信者情報の開示を求めた事案 である。原告は、責任制限法施行前でありながら、発信者情報の開示を命じる判決 を求めており、その点で注目を集めた。原告が主張する発信者情報開示請求の理論 的根拠となったのは、発信者情報が開示され発信者から謝罪等がなされない限りは、 被害者の人格権侵害が継続するため、人格権侵害状態の差止を求めるというもので あり、騒音公害の差止請求などにヒントを得た極めて技巧的なものであった。仮に 責任制限法による発信者情報開示制度の導入がなければ、本件に見られるような工 夫が継続したことであろう。 損害賠償請求についても、削除義務違反の根拠としてニフティのサービス提供行 為に伴う安全配慮義務を取り上げた点で工夫が見られた。 (3)判決のポイント 裁判所により名誉毀損・プライバシー侵害そのものがなかったと認定されたため、 発信者情報開示、損害賠償請求のいずれについても裁判所の判断はなされなかった。 本判決のポイントの第一は、フォーラムにおける発言による名誉毀損の成否に関 25 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 する議論である。発信者による名誉毀損の成否は、プロバイダの責任の議論の出発 点である。そもそも発信者の情報発信が違法でなければ、プロバイダの責任は問題 とならない。その意味で、発信者による名誉毀損の成否は重要であるが、本判決は、 フォーラムにおいては、発信者による発言の違法性を独立して判断するのではなく、 前後の文脈、特に被害者の先行する発言との関係で判断すべきであるとし、双方が 悪口を言い合う形になった場合には、社会的評価が低下しないという特殊な判断を 示した点で注目すべきである。 本判決のこの法理は、後の事件で被告となった匿名掲示板の管理者によって援用 されたが、そちらの事件では「対等な言い合い」とは程遠いものであったため認め られなかった。現在多くの被害が見られる匿名掲示板については「対等な言い合い」 のような状況は生じにくいかもしれないが、「対等な言い合い」の場合の特別な名 誉毀損の判断基準を示したものであり、当否について慎重な検討がなされるべきで ある。 本判決のポイントの第二は、発信者が自己を表示するハンドルとして、被害者の 実名を用いたことがプライバシー侵害ないし嫌がらせの不法行為にあたるかとい う点である。判決は、伝統的なプライバシーの3要素である、①私生活上の事柄又 はそのように受け取られるおそれのある事柄であること、②一般人の感受性を基準 にして公開を欲しないと認められる事柄であること、③一般人に未だ知られていな い事柄であることに加えて、④公表された事柄をみた一般人が、特定の人物を指し ていると認識できることが必要であるとして、本件におけるプライバシー侵害の成 立を否定している。近時、プライバシー侵害や自己情報の利用に関する不法行為の 成立が広く認められる傾向があることを考慮すると、伝統的な要件をさらに加重し て、プライバシー侵害や嫌がらせによる不法行為を否定した判断には議論の余地が ある。 2.2.4 ニフティサーブ「現代思想フォーラム」事件(控訴審) 東京高裁 平成13年9月5日 (1)ネットワーク特性: ニフティ・フォーラム (2)事案 ニフティサーブ「現代思想フォーラム」事件の控訴審である。 (3)判決のポイント シスオペの削除義務について、原審の「他人の名誉を毀損する発言が書き込まれ ていることを具体的に知ったと認められる場合」には削除義務が生じるとの緩やか な基準を廃し、「フォーラムの円滑な運営及び管理というシスオペの契約上託され た権限を行使する上で必要であり,標的とされた者がフォーラムにおいて自己を守 るための有効な救済手段を有しておらず,会員等からの指摘等に基づき対策を講じ ても,なお奏功しない等一定の場合,シスオペは,フォーラムの運営及び管理上, 26 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 運営契約に基づいて当該発言を削除する権限を有するにとどまらず,これを削除す べき条理上の義務を負う」として削除義務の成立範囲を限定した。その結果として、 本件シスオペの削除義務違反に基づく責任は否定された。さらにその結果としてニ フティの使用者責任も否定された(発信者の責任のみ肯定)。 違法な書き込みを具体的に知った場合は削除すべき、との原審の基準はフォーラ ムとシスオペの特性を考慮したとしても緩やかに過ぎるものであり、被害者に自己 を守るため他の手段がない、会員等からの指摘等に基づく対策を講じても奏功しな い、などの「最終手段性」を持ち込んで責任の成立要件を限定した控訴審判決の方 向性は妥当であるといえる。他方で、双方向的なやり取りを通じた被害救済の状況 によって削除義務の有無を判定するこの基準は、かなり不明確であるといわざるを えないであろう。 参考文献 2.2.5 ・判例タイムズ 1088 号 94 頁 ・大谷和子 別冊 NBL サイバー法判例解説 98 頁 動物病院事件(原審) 東京地裁 平成14年6月26日 (1)ネットワーク特性: 匿名掲示板 (2)事案 本件は、原告である動物病院とその獣医兼経営者が、匿名掲示板2ちゃんねるの 本件掲示板の「ペット大好き掲示板」内の「悪徳動物病院告発スレッド!!」と題 するスレッドにおいて、「過剰診療,誤診,詐欺,知ったかぶり」、「えげつない病 院」、「ヤブ(やぶ)医者」、「精神異常」、「動物実験はやめて下さい。」、「責任感の かけらも無い」、 「不潔」、 「被害者友の会」、 「腐敗臭」などの侮辱的表現による名誉 毀損の書き込みをうけた事案である。原告は2ちゃんねる管理者に対し、名誉毀損 の書き込みを削除すべきであると依頼したが容れられなかったため、書き込みの削 除と損害賠償を求めて提訴した。 (3)判決のポイント ポイントの第一は削除義務の有無であり、第二は責任制限法第 3 条の免責の適用 があるか否かである。 (ⅰ)争点1 削除義務の有無 (A)削除義務の基準 この点について裁判所は、(a)管理者に削除権限があること、(b)削除手続き が存在するものの削除の基準がはっきりせず救済として不十分であること、 (c)管理人がアクセスログを保存せず発信者情報の秘密が保てることを明示 しているため違法な書き込みが多数存在することが容易に推測されること、 27 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 (d)常時監視は不可能であることを認定し、これらの事情に照らせば、管理者 が「遅くとも本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がなされたこと を知り,又は,知り得た場合には,直ちに削除するなどの措置を講ずべき条 理上の義務を負っているものというべきである」と判断した。 なお、本判決が上記(a) 管理者に削除権限があることを削除義務を積極的 認める根拠として認定していることは、プロバイダが仮にウェブホスティン グである場合には、異なる認定がなされる可能性があることを示唆するもの として重要である。 【削除義務の有無と基準に関する裁判所の判断】 ア 前記1で認定した事実及び前記第2の2(5)の事実によれば,次のよ うにいうことができる。 (ア)被告は,本件掲示板を設置し,本件掲示板上の発言を削除する際の 基準,削除依頼の方法等について定めるなどして,本件掲示板を運 営・管理している。そして,本件掲示板においては,削除人は削除ガ イドラインに従って発言を削除することができる旨が定められてい るところ,削除人は被告によって適任であると判断された者が任命さ れているのであるから,被告は当然に本件掲示板における発言を削除 する権限を有していると認められる。 (イ)本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がなされた場合,名 誉を毀損された者は,その発言を自ら削除することはできず,本件掲 示板において定められた一定の方法に従って,本件掲示板内の「削除 依頼掲示板」においてスレッドを作って書き込みをするなどして発言 の削除を求め,削除人によって削除されるのを待つほかない。 被告が定めた削除ガイドラインは,個人に関する書き込みについて, 個人の性質に応じて3種類に定義して分類した上,発言の内容につい て, 「個人名・住所・所属」に関する発言,誹謗中傷発言等に分けて, 上記各分類ごとに削除するか否かの基準を定めているが,そもそも個 人の性質に関する3種類の定義が不明確である上,各分類ごとの削除 するか否かの基準も不明確であるほか,管理人である被告の判断に委 ねている部分も存在する。また,法人に関する発言の削除の基準につ いても,電話番号を除き,削除されない場合についてしか定められて おらず,削除されない場合についても,その内容は不明確である。結 局,本件掲示板の削除ガイドラインは,その表現が全体として極めて あいまい,不明確であり,個人又は法人を誹謗中傷する発言がい かなる場合に削除されるのかを予測することは困難であるといえる。 このように,削除人が削除する際の基準とされている削除ガイドラ インの内容が不明確であり,しかも,削除人は,それを業としないボ 28 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 ランティアにすぎないことから,本件掲示板における発言によって名 誉を毀損された者が,所定の方式に従って発言の削除を求めても,必 ずしも削除人によって削除されるとは限らない。 (ウ)本件掲示板においては,管理者である被告において,利用者のIP アドレス等の接続情報を原則として保存せず,その旨を明示している ことにより,匿名で利用することが可能であり,利用者が意図しない 限り,利用者の氏名,住所,メールアドレス等が公表されることはな い。したがって,本件掲示板における発言によって名誉を毀損された 者が,匿名で名誉を毀損する発言をした者の氏名等を特定し,その責 任を追及することは極めて困難である反面,発言者は,自らの責任を 問われることなく,他人の権利を侵害する発言を書き込むことが可能 である。そして,このような匿名で利用できる電子掲示板においては, 他人の権利を侵害する発言が数多く書き込まれることが容易に推測 され,証拠(甲1,2,21)によれば,現に,本件1,2のスレ ッドに限っても,原告らのほかに,多くの動物病院,獣医等の名誉を 毀損する発言が書き込まれていることが認められる。 (エ)本件掲示板は,約330種類のカテゴリーに分かれており,1日約 80万件の書き込みがあること,削除人はそれを業とする者ではない いわゆるボランティアであることからすると,被告が本件掲示板にお いて他人の権利を侵害する発言が書き込まれているかどうかを常時 監視し,削除の要否を検討することは事実上不可能であった。 イ 以上のような諸事情を考慮すると,被告は,遅くとも本件掲示板に おいて他人の名誉を毀損する発言がなされたことを知り,又は,知り得 た場合には,直ちに削除するなどの措置を講ずべき条理上の義務を負っ ているものというべきである。 (B)違法性阻却事由に関する被告の反論 管理者からは、公共性、公益目的および真実性の違法性阻却事由が管理者 には分からない以上、他人の権利を侵害する情報かどうかさえ不明であり、 管理者が削除義務を負うのはおかしい、との反論がなされた。これに対して 裁判所は、違法阻却事由の有無がはっきりしなければ削除されないのでは、 被害者の保護に欠けることから、公共性、公益目的、真実性の立証責任は被 告である管理者にある(どちらとも認定できないときは削除義務あり)と判 断した。この点は、重要であるので若干詳しく論じることにする。 そもそも名誉毀損とは、人の社会的評価を低下させるような表現であるが、 表現の自由との均衡上、人の社会的評価を低下させる表現であっても、公的 地位にある人物に対する批判的報道など一定のものは保護すべきであること 29 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 から、一定の違法阻却事由(社会的評価を低下させるものであっても違法で なくなる事由)が認められている。すなわち、①公共の利害に関する事実で あって、②公益目的に出た表現が、③真実である場合には、当該表現が対象 者の社会的評価を低下させるものであっても、正当な表現行為として違法性 が阻却され、名誉毀損は成立しない。仮に真実でなかったとしても、④発言 者が真実であると信じたことについて相当の理由があれば同様である。これ は、しっかりした取材に基づくものであれば、結論として真実ではないかま たは真実であることが証明できない場合であっても保護に値する表現となる からである。①公共性、②公益目的、③真実性(または④相当性)の3つす べてが揃って初めて違法性が阻却され、この3つについては、一般には、発 言者側で立証責任を負うものとされている。発言者が立証責任を負うのは、 一旦人の社会的評価を低下させる表現を行った以上、例外的に違法性が阻却 される理由については、発言者のほうで立証させるのが公平であり、また、 発言者は、これらの事情に通じているはずであるから、立証責任を負わせて も、酷ではないからである。 以上は、被害者(原告)対発言者(被告)の伝統的な名誉毀損をめぐる紛 争の場合である。社会的評価を低下させるような表現であることを被害者(原 告)が立証し(このことは表現自体から容易になしうる)、これに対して発言 者(被告)は、①②③の全てを立証して対抗することになる。しかしながら、 責任制限法第 3 条が問題となるような、被害者(原告)がプロバイダ(被告) を提訴する場面では、状況がいささか異なることになる。なぜなら、プロバ イダは、発言者(ここでは発信者)と異なり、表現をめぐる事実関係につい て、情報を有していないからである。 確かに、①公共性と②公益目的については、表現自体から推知できる場合 もあるであろう。たとえば、公職の候補者に関する事実であれば、①公共性 ありといえるであろうし、内容が公職の適格性を疑わせしめるような事実に 関する真面目な批判であれば、②公益性も認められる場合があろう。しかし ながら、被害者の事情や表現の背景を知らなければ分からないことは多いは ずである。さらに、③真実性については、プロバイダはなんら情報を有して いないのである。 本件における管理者の主張はこの点を問題にするものであった。すなわち、 管理者は、①公共性、②公益目的、③真実性について知りうる立場にないこ とから、結局問題となる情報が違法なものかどうか分からず、そのような状 態で削除義務を負わせるのは妥当でないとしたのである。 【違法性阻却事由に関する被告の主張】 ア 本件掲示板における情報は,当該情報の公共性,公益目的,真実性の 有無が不明な段階では,他人の権利を侵害する違法な情報であるか否か も不明であり,このような場合には,被告において削除義務を負うとは いえない。そして,本件各発言についても,その内容が真実であるか否 30 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 かは不明であり,原告らの権利を侵害する違法な発言かどうかも不明で あるから,被告は本件各発言の削除義務を負わない。 この主張は、ある意味で当を得たものであった。ホスティング・プロバイ ダであれ、掲示板の管理者であれ特定の情報について削除要請を受けたもの の、当該情報が違法かどうか分からないため対処に困るという事態にしばし ば直面する。 プロバイダは、発信者と異なり、情報の周辺事情を知らないから、③真実 性や③’相当性については、そもそも知ることができない。①公共性や②公 益目的についても、前記の例の公職の候補者のような分かりやすいものは実 務的にはむしろ稀であり、自称被害者は、会社の管理職であったり、予備校 の講師であったりするのである。これらの場合、自称被害者は部分社会にお いて一定の影響力を有しており、これに対する批判的な表現は、①公共性② 公益目的を肯定されることもあれば否定されることもあるのである。プロバ イダは、削除要請に際して、違法性を確実に判断する方法を持ち合わせてい ない。 仮に被害者から求められているのが発信の差止のみであれば、裁判所の決 するところに従って送信防止措置をとればよいから、プロバイダの立場が酷 なものとなることはない。しかしながら、本件のような損害賠償請求の場面 で、情報の適法性について、確たる情報を持たないプロバイダに削除要請の 時点に遡って削除義務を肯定することは、一般論としては酷であり、本件管 理者の主張は、当を得たものである。 裁判所は、このような本件管理者の主張に対して、裁判所の判断は大要、 「① 公共性、②公益目的、③真実性を被害者が立証しない限り削除を請求できな いのでは,被害者にとって酷なので、これらについての立証責任は、プロバ イダが負うべきである」と判断した。 【違法性阻却事由に関する被告の主張に対する裁判所の判断】 (項番ア、イは省略) ウ この点につき,被告は,本件掲示板における発言の公共性,公益目的, 真実性等が明らかでない場合には,削除義務を負わないと主張する。 ところで,事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の 利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあっ た場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの 証明があったときには,上記行為には違法性がなく,仮に上記事実が真 実であることの証明がないときにも,行為者において上記事実を真実と 信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定され,ま た,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあ っては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が 31 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提として いる事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには, 人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限 り,上記行為は違法性を欠くものとされ,上記意見ないし論評の前提と している事実が真実であることの証明がないときにも,行為者において 上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過 失は否定されると解されている(最高裁平成6年(オ)第978号同9年 9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804ページ参照。以下, 合わせて「真実性の抗弁,相当性の抗弁」という。)。 被告の主張は,被告において上記の真実性の抗弁,相当性の抗弁につ いて主張・立証責任を負うことはなく,むしろ原告らにおいて反対の事 実を主張・立証することを要求するものと解される。 しかしながら,本件掲示板における発言によって名誉権等の権利を侵 害された者は,前記のとおり,被告が,利用者のIPアドレス等の接続 情報を原則として保存していないから,当該発言者を特定して責任を追 及することが事実上不可能であり,しかも,被告が定めた削除ガイドラ インもあいまい,不明確であり,また,他に本件掲示板において違法な 発言を防止するための適切な措置を講じているものとも認められないか ら,設置・運営・管理している被告の責任を追及するほかないのであっ て,このような被告を相手方とする訴訟において,発言の公共性,目的 の公益性及び真実性が存在しないことを削除を求める者が立証しない限 り削除を請求できないのでは,被害者が被害の回復を図る方途が著しく 狭められ,公平を失する結果となる。 このことからすれば,本件において,本件各発言に関する真実性の抗 弁,相当性の抗弁についての主張・立証責任は,管理者である被告に存 するものと解すべきであり,本件各発言の公共性,公益目的,真実性等 が明らかではないことを理由に,削除義務の負担を免れることはできな いというべきである。 よって,この点に関する被告の主張を採用することはできない。 このような裁判所の判断に対しては、異論がありうるであろう。特に、被 告の主張が「被告には違法性阻却事由について判断する術がないから、被告 に削除義務を負わせるべきではない」というシンプルな実体法上の問題提起 であったのに対し、裁判所が立証責任の分配という証拠法的解決をもって答 えている点は疑問である。このことは、裁判所が被告の主張に対して十分に 反論できていなことと無関係ではないであろう。 「違法性阻却事由について判断する術がなく違法性の判断ができない」と いう被告の主張に対する「削除できないと原告=被害者がかわいそう」との 反論は、理論的にはもちろん、実質的にも、およそ十分なものではない。 本報告書5「調査結果分析」において詳述するが、本件を含む「2ちゃん 32 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 ねる」に関する各事件を判決した裁判所は総じて、 「2ちゃんねる」を通常の 掲示板と十分に区別することなく、各争点に関する判断を行っている。その ため、被告である2ちゃんねる管理人による掲示板一般に関わる主張に対し てうまく対応できていない。それは、この問題にも端的に現れているのであ って、被害者がどれほどかわいそうであっても、管理者が情報の適法性につ いて判断できない以上、管理者に削除義務を負わせるべきではないことは明 らかである。なぜなら、第一に、落ち度のない管理者に対する義務としては、 過重に過ぎるし、第二に、結果的に適法な情報についても削除義務を負わせ ることになるため、発信者の表現の自由を不当に制約するおそれがあるから である(もっともこの点は被告も明示的に主張しておらず、DHC 事件において 同一の被告により主張される)。この結論を正当化するロジックがない限り、 裁判所は反論に成功したとはいえない。 仮に本件が通常の掲示板に関する事件であれば、これらの理由により、被 告の責任は否定されるべきであった。しかしながら、裁判所が不十分ながら 認定しているとおり、本件掲示板は特殊であり、書き込みを行う利用者に対 して匿名性をことさらに強調して違法情報の発信を促進・助長する性格を有 していた。この点に着目することにより、初めて「違法性阻却事由について 判断することができないから削除義務を負わない」という被告の主張に対し て反論することが可能になる。 第一に、管理者に対して過重な義務となるという点については、管理者自 身で違法情報の発信を誘発した以上、過重な義務ではないということができ る。本件において管理者自身が進退両難の地位に立ち至ったことは、管理者 自身の責任であって、それによる危険は管理者に帰すべきである。また、本 判決には言及がないが、被告は、第 3 条 2 項 2 号の発信者に対する意見照会 の機会を確保していない。同号は、問題とされる情報に関する発信者の考え 方を知る重要な機会であるが(したがって違法阻却事由の存否について判断 する数少ない手がかりである。)、本件被告は、メールアドレスを書き込ませ るなどしていないため、第 3 条 2 項 2 号の意見照会を行うことができない。 発信者に対する意見照会の機会の確保が管理者の義務と解されたり、あるい はその不備が管理者に責任を負わせる要素として過大に評価されることがあ ってはならないが、被告の違法情報に関する積極的な関わり合いを前提とす るならば、不特定の発信者から違法情報が発信される可能性を十分に認識し つつも、発信者に対する意見照会の機会を求めようとさえしなかった被告の 態度は、 「違法阻却事由の判断材料がなかった」という点に関しては、完全に 被告の自業自得である。 第二に発信者の表現の自由を不当に制約するという点については、本判決 は何の言及もなく(被告も具体的には主張していないが、裁判所としてはこ の点まで立ち入って検討すべきだったのではなかろうか。)、裁判所の答えは、 33 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 DHC判決に待たなければならない。同事件のところで詳しく述べるが、裁 判所は、匿名の媒体を利用する発信者は、適法な情報の削除も予想すべきで あり、削除しても表現の自由の不当な制約にはならないとしたのである。 本争点は、管理者と被害者のどちらが気の毒か、といったこととは別の角 度から検討がなされるべきであった。 (ⅱ)争点2 責任制限法の免責の適用 裁判所は、本件の口頭弁論終結時においては、責任制限法がまだ施行され ていなかった。そのため、同法が本件に直ちに適用されるものでないことを 認めつつも、「その趣旨は十分に尊重される」として第3条の要件を検討し、 同項により免責を受けるべき場合にあたらないことを認定している。 法施行前ではあるが趣旨を尊重して免責の可否を検討する本判決のアプロ ーチは、第3条の性質に照らして妥当である。すなわち第3条は、不法行為 責任が発生する場合にプロバイダの責任を特別に免責するという「法の与え た特権」の性質よりも、同条 1 項または 2 項 1 号に該当する場合には不法行 為が成立しないことを確認する確認規定としての性質をより強く有している とされるからである。 【責任制限法の適用に関する裁判所の判断】 (項番ア、イ、ウ、エは省略) オ なお,被告は,本件にはプロバイダー責任法が適用され,同法の制定 経緯,規制範囲等に照らすと,被告が本件各発言を削除しなかったこと につき削除義務違反はないと主張する。 プロバイダー責任法は,平成13年11月30日に公布され,本件口頭 弁論終結後の平成14年5月27日に施行されたことは,当裁判所に顕 著な事実であり,本件に直ちに適用されるものではないが,その趣旨は 十分に尊重すべきであるところ,同法は,3条1項において,特定電気 通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは,プロバイ ダー等は,権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措 置を講ずることが技術的に可能な場合であって,当該プロバイダー等が 当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されてい ることを知っていたとき,又は,当該プロバイダー等が,当該特定電気 通信による情報の流通を知っていた場合であって,当該電気通信による 情報の流通によって他人の権利が侵害されている ことを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなけ れば,当該プロバイダー等が当該権利を侵害した情報の発信者である場 合を除き損害賠償責任を負担しない旨定めている。 しかしながら,被告は,前記のとおり,本件掲示板上の発言を削除する ことが技術的に可能である上,通知書,本件訴状,請求の趣旨訂正申立 書等により,本件1ないし3のスレッドにおいて原告らの名誉を毀損す 34 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 る本件各名誉毀損発言が書き込まれたことを知っていたのであり,これ により原告らの名誉権が侵害されていることを認識し,又は,認識し得 たのであるから,プロバイダー責任法3条1項に照らしても,これによ り責任を免れる場合には当たらないというべきである。 参考文献 2.2.6 ・町村泰貴 別冊 NBL サイバー法判例百選解説 42 頁 ニフティサーブ「本と雑誌フォーラム事件」(控訴審) 東京高裁 平成14年7月31日 (1)ネットワーク特性: ニフティ・フォーラム (2)事案、判決のポイント 前記、「本と雑誌フォーラム事件」の控訴審である。名誉毀損・プライバシー 侵害・嫌がらせによる不法行為自体が認められないとの原審の判断が肯定された ため、シスオペ、ニフティの責任についての言及はなかった。 2.2.7 動物病院事件(控訴審) 東京高裁 平成14年12月25日 (1)ネットワーク特性: 匿名掲示板 (2)事案 前記、動物病院事件(原審)の控訴審である。 (3)判決のポイント 争点は基本的に原審と共通であるが、控訴審では、そもそもの前提となる書き込 みによる名誉毀損の成否が新たに議論されている。 (ⅰ)争点1 名誉毀損の成否 掲示板における名誉毀損の成否は、掲示板管理者の責任を基礎づけるもの であり、重要な問題である。 控訴審において、管理人はまず、本件書き込みは匿名であり、読者は各発 言に根拠があるとは限らないことを十分認識していると考えられるから、被 控訴人らの社会的評価を低下させるものではなく、書き込みは名誉毀損にあ たらないと主張した。しかし裁判所はこれを認めず、ある発言の意味内容が 他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般人の普通の注意 と読み方とを基準として判断すべきものであり、掲示板における匿名の発言 であっても、不正を告発する体裁を有している場での発言である以上、その 読者において幾分かの真実も含まれているものと考えるのが通常であるから、 35 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 書き込みの対象者の社会的評価が低下させられる危険が生ずるとした。 次に管理者は、掲示板における論争には「対抗言論」による対処を原則と すべきであり、本件においても原告を擁護する趣旨の発言がされ、十分な反 論がされているから、原告の社会的評価は低下していないと主張した。これ に対して裁判所は、言論に対しては言論をもって対処することにより解決を 図ることが望ましいことはいうまでもないが、それは,対等に言論が交わせ る者同士であるという前提があって初めていえることであるとしながら、掲 示板のようなメディアは、それが適切に利用される限り、言論を闘わせるに は極めて有用な手段であるものの、本件のように発信者が匿名という隠れみ のに隠れて自己の発言については何ら責任を負わないことを前提に発言して いるのであるから、対等に責任をもって言論を交わすという立場に立ってお らず、このような発信者に対して言論をもって対抗せよということはできな い、として管理者の主張を否定した。 匿名掲示板における対抗言論の法理が否定されたことは注目すべきである が、前記2.2.3 ニフティサーブ「本と雑誌フォーラム」事件(原審) において、名誉毀損の成立が否定されたこととの整合性をどのように考える べきか問題となる。フォーラムも実質的には匿名掲示板だからである。 そもそも違法な発言を助長するような匿名性を特徴とする本件匿名掲示板 とフォーラムでは、その発言の場としての性質・雰囲気が全く異なり、また 実際に行われたやり取りも、 「本と雑誌フォーラム」事件では、ある程度丁々 発止の応酬がなされたのに対し、本件では一方的に原告が誹謗中傷を受けた という違いを認めることができる。その意味で、本判決を「匿名掲示板には 対抗言論の法理が適用されないことを明らかにしたものである」と要約する ことは、本判決の射程を見誤るおそれがある。 裁判例全般について言えることであるが、匿名性を重視しすぎである。重 要なのは、管理者が違法情報に対してどのようなスタンスをとるかであって、 匿名性は、それをことさらに強調して違法情報の発信を促進するような場合 に初めて意味をもつのである。 【名誉毀損の成否に関する裁判所の判断】 (項番(1)は省略) (2)控訴人は,本件各発言について,匿名であり,読者は各発言に根拠 があるとは限らないことを十分認識していると考えられるから,被控訴 人らの社会的評価を低下させるものではなく,各発言は名誉を毀損する ものではないと主張する。 しかし,ある発言の意味内容が他人の社会的評価を低下させるもので あるかどうかは,一般人の普通の注意と読み方とを基準として判断すべ きものであり(新聞記事についての最高裁判所昭和31年7月20日第 二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照),インターネットの電子 掲示板における匿名の発言であっても, (省略)と題して不正を告発する 36 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 体裁を有している場での発言である以上,その読者において発言がすべ て根拠のないものと認識するものではなく,幾分かの真実も含まれてい るものと考えるのが通常であろう。したがって,その発言によりその対 象とされた者の社会的評価が低下させられる危険が生ずるというべきで あるから,控訴人の上記主張は採用することができない。 (3)控訴人は,電子掲示板における論争には「対抗言論」による対処を 原則とすべきであり,本件においても,被控訴人らを擁護する趣旨の発 言がされ,十分な反論がされているから,被控訴人らの社会的評価は低 下していないことになると主張する。 言論に対しては言論をもって対処することにより解決を図ることが望 ましいことはいうまでもないが,それは,対等に言論が交わせる者同士 であるという前提があって初めていえることであり,このような言論に よる対処では解決を期待することができない場合があることも否定でき ない。そして,電子掲示板のようなメディアは,それが適切に利用され る限り,言論を闘わせるには極めて有用な手段であるが,本件において は,本件掲示板に本件各発言をした者は,匿名という隠れみのに隠れ, 自己の発言については何ら責任を負わないことを前提に発言しているの であるから,対等に責任をもって言論を交わすという立場に立っていな いのであって,このような者に対して言論をもって対抗せよということ はできない。そればかりでなく,被控訴人らは,本件掲示板を利用した ことは全くなく,本件掲示板において自己に対する批判を誘発する言動 をしたものではない。また,本件スレッドにおける被控訴人らに対する 発言は匿名の者による誹謗中傷というべきもので,複数と思われる者か ら極めて多数回にわたり繰り返しされているものであり,本件掲示板内 でこれに対する有効な反論をすることには限界がある上,平成13年5 月31日に被控訴人らを擁護する趣旨の発言(本件1のスレッドの番号 857)がされたが,これによって議論が深まるということはなく,こ の発言をした者が被控訴人Bであるとして揶揄するような発言(発言1 −882)もされ,その後も被控訴人らに対する誹謗中傷というべき発 言が執拗に書き込まれていったのである。 このような状況においては,名誉毀損の被害を受けた被控訴人らに対 して本件掲示板における言論による対処のみを要求することは相当では なく,対抗言論の理論によれば名誉毀損が成立しないとの控訴人の主張 は採用することができない。 (ⅱ)争点2 削除義務の有無 削除義務の有無および基準に関する裁判所の判断は原審と同じである(基 準について、一般的な規範定立はしていないが、あてはめにおいて「具体的 に知った時点」以降を削除義務違反としている)。ただ、判決の理由において、 37 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 匿名掲示板が違法な発言を助長していること、したがって管理者が被害を防 止する義務を負うべきであることについて、原審よりも積極的な表現が見ら れる。 「匿名性という本件掲示板の特性を標榜して匿名による発言を誘引して いる控訴人には,利用者に注意を喚起するなどして本件掲示板に他人の権利 を侵害する発言が書き込まれないようにするとともに,そのような発言が書 き込まれたときには,被害者の被害が拡大しないようにするため直ちにこれ を削除する義務があるものというべきである」との判決理由は、削除義務の 根拠を違法情報の誘引に求めるべきことを裁判所が理解していることを示し ている。 なお、被告は、違法阻却事由について判断できず情報の違法性を知りえな い管理者=被告に削除義務を負わせるべきではないとする原審と同様の主張 を行ったが、原審と同様に、違法性阻却事由の立証責任は被告にあるとの判 断が示されている。 【削除義務の有無に関する裁判所の判断】 (項番(1)は省略) (2)本件掲示板が,現在,新しいメディアとして広く世に受け入れられ, 極めて多数の者によって利用されており,大方,控訴人の開設意図に沿 って適切に利用されていることは,本件の各証拠並びに弁論の全趣旨に 照らして容易に推認し得るところであるが,他方,本件掲示板は,匿名 で利用することが可能であり,その匿名性のゆえに規範意識の鈍麻した 者によって無責任に他人の権利を侵害する発言が書き込まれる危険性 が少なからずあることも前記のとおりである。そして,本件掲示板では, そのような発言によって被害を受けた者がその発言者を特定してその 責任を追及することは事実上不可能になっており,本件掲示板に書き込 まれた発言を削除し得るのは,本件掲示板を開設し,これを管理運営す る控訴人のみであるというのである。このような諸事情を勘案すると, 匿名性という本件掲示板の特性を標榜して匿名による発言を誘引して いる控訴人には,利用者に注意を喚起するなどして本件掲示板に他人の 権利を侵害する発言が書き込まれないようにするとともに,そのような 発言が書き込まれたときには,被害者の被害が拡大しないようにするた め直ちにこれを削除する義務があるものというべきである。 本件掲示板にも,不適切な発言を削除するシステムが一応設けられてい るが,前記のとおり,これは,削除の基準があいまいである上,削除人 もボランティアであって不適切な発言が削除されるか否かは予測が困 難であり,しかも,控訴人が設けたルールに従わなければ削除が実行さ れないなど,被害者の救済手段としては極めて不十分なものである。現 に,被控訴人Bは,本件掲示板に本件各発言の削除を求めたが,削除し てもらえず,本件訴訟に至ってもなお削除がされていない。したがって, このような削除のシステムがあるからといって,控訴人の責任が左右さ 38 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 れるものではない。また,控訴人は,本件掲示板を利用する第三者との 間で格別の契約関係は結んでおらず,対価の支払も受けていないが,こ れによっても控訴人の責任は左右されない。無責任な第三者の発言を誘 引することによって他人に被害が発生する危険があり,被害者自らが発 言者に対して被害回復の措置を講じ得ないような本件掲示板を開設し, 管理運営している以上,その開設者たる控訴人自身が被害の発生を防止 すべき責任を負うのはやむを得ないことというべきであるからである。 (ⅲ)争点3 責任制限法の免責の適用 第 3 条は反対解釈を許すものではない。つまり「○○の場合には責任を負 わない」との規定文言を「○○でない場合には責任を負う」と読んではいけ ないのである。この点は、責任制限法の第 1 条を見れば明らかである。第 1 条(趣旨)は、 「この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の 侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限 及び発信者情報の開示を請求する権利につき定めるものとする」と規定して いる。同法の目的は損害賠償責任の制限なのであるから、同法を根拠として、 積極的にプロバイダの責任を認めるのは、不合理である。 本判決は、以下に引用するとおり反対解釈を行っているかのように読める 点で重大な疑問がある。 【責任制限法の適用に関する裁判所の判断】 プロバイダー責任法3条1項には,特定電気通信による情報の流通 により他人の権利が侵害されたときは,プロバイダー等は,権利を侵 害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずること が技術的に可能な場合であって,当該プロバイダー等が当該特定電気 通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを 知っていたとき,又は,当該プロバイダー等が,当該特定電気通信に よる情報の流通を知っていた場合であって,当該電気通信による情報 の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができ たと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ,当該プロバイ ダー等が当該権利を侵害した情報の発信者である場合を除き損害賠 償責任を負担しない旨が定められている。 これは,当該情報の内容が,人の品性,徳行,名声,信用等の人格 的価値について社会的評価を低下させる事実の摘示,又は意見ないし 論評の表明であるなど,他人の権利を侵害するものである場合に,プ ロバイダーが当該情報が他人の権利を侵害することを知っていたと きはもちろん,プロバイダーが当該情報の流通を知り,かつ,通常人 の注意をもってすればそれが他人の権利を侵害するものであること を知り得たときも責任を免れないとする趣旨であり,権利侵害の認識 又はその認識可能性の主張立証責任を被害者側に負わせたものと解 39 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 されるが,それ以上に権利侵害についての違法性阻却事由,責任阻却 事由の主張立証責任についてまで規定をしているものではないと解 される。 参考文献 2.2.8 ・町村泰貴 別冊NBLサイバー法判例解説 58 頁 DHC事件 東京地裁 平成15年7月17日 (1)ネットワーク特性: 匿名掲示板 (2)事案 本件は、化粧品の輸出入・製造販売を目的とする会社とその経営者が匿名掲示板 2ちゃんねるで名誉毀損を受けた事件である。原告は、削除を命じる仮処分決定を 得て間接強制を行うが奏功せず、その後も書き込みは掲示板に残ったため、損害賠 償(計6億円)・書き込みの削除を求めて掲示板管理者を提訴した。 (3)判決のポイント 今回も事件の舞台は2ちゃんねるであり、被告となった掲示板管理者は動物病院 事件と同一人である。裁判所の判断は上記動物事件判決(原審)および同事件控訴 審に近いが、何点か特筆すべき違いが見受けられる。 (ⅰ)争点1 名誉毀損の成否 今回も管理者は書き込みが真実とは限らないことにより、名誉毀損にはあ たらない旨の主張をしたが、裁判所は、閲覧者がすべて真実でないと認識す るとは限らない以上、真偽を問わず対象の社会的評価に直接的な影響を及ぼ すとして、この主張を退けた。 【書き込みが真実とは限らないとする被告の主張に対する裁判所の判断】 この点に関し,被告は,本件ホームページの性質上,利用者が発言の すべてを真実であると理解するとは限らないから,原告らの名誉又は信 用が毀損されることはないと主張するけれども,本件発言1及び2を閲 覧した者がすべてこれを真実でないと認識するとは限らないのであって, その真偽を問わず,原告らの社会的評価(原告会社に対する経済的な側 面における評価である信用を含む。)に直接的な影響を及ぼす事柄である ことに照らすと,これを採用することはできない。 (ⅱ)争点2 削除義務の有無 本判決は、動物病院事件とほぼ同様に、管理人が「他人の名誉や信用を毀 損する発言が書き込まれたことを知り,又は,知り得た場合には,直ちに当 該発言を削除すべき条理上の義務」があるとした。 40 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 その理由として裁判所が認定した事実は以下のとおりである。(a)削除権限 があること(被害拡大を防ぐことのできる立場にいる)、(b)削除手続きがあ るものの基準不明かつ範囲が不適当でありしたがって有用性に問題があるこ と、(c)アクセスログを保存せず違法な書き込みを助長したこと、(d)書き込 みを放置したことの被害は甚大であること。(e)違法情報の監視義務はないこ と。 【削除義務の基準に関する裁判所の判断】 (項番ア、イ、ウは省略) エ そこで,以上に検討した諸点にかんがみ,被告が本件ホームページ 上の発言により名誉や信用を毀損された者に対する関係において,当 該発言を削除すべき作為義務を負うか否かを検討する。 前判示第2の1の(2)ウ及びエの事実によれば,本件ホームペー ジ上に書き込まれた発言により名誉や信用を毀損された者は,本件ホ ームページを閲覧しても,発言者に関する情報を得ることができず, 被告に問い合わせても,IPアドレス等の接続情報が保存されていな いため,これを入手できないことから,当該発言を書き込んだ者を特 定することができず,事実上,その者に対する責任追及の途が閉ざさ れることにならざるを得ない。そして,その反面,本件ホームページ の利用者は,当該発言を書き込んだ者が誰であるかを他人に探知され るおそれを抱くことなく,自由に発言をすることができる利点があり, これが行き過ぎると,他人の名誉や信用を毀損するなどの違法な発言 に対する心理的抵抗感が鈍磨し,これを誘発ないし助長することにな ることは容易に推測できるところである。 そして,本件ホームページ上に前判示の違法な発言が書き込まれた 場合,インターネットが持つ情報伝達の容易性,即時性及び大量性と いう特徴を反映し,このような発言が一瞬にして極めて広範囲の人々 が知り得る状態に置かれることになり,その対象になった者の被害は 甚大なものとならざるを得ず,また,時間が経つほど被害が拡大し, 被害の回復も困難になる傾向があるところ,前判示アないしウのとお り,本件ホームページには有効適切な救済手段が設けられていないの であるから,本件ホームページ上の発言により被害を受けた者の被害 拡大の抑止は,被告による削除権限の行使の有無に係っているといっ てもよい。 そうすると,本件ホームページを管理運営することにより名誉や信 用を毀損するなどの違法な発言が行われやすい情報環境を提供して いる被告は,本件ホームページに書き込まれた発言により社会的評価 が低下するという被害を受けた者に対し,条理に基づき被害の拡大を 阻止するための有効適切な救済手段として,当該発言を削除すべき義 務を負う場合があるというべきである。 41 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 もっとも,前判示第2の1(2)イのとおり,本件ホームページ上 の発言の数は膨大であるから,被告がこれらの発言を逐一監視して違 法な発言を直ちに削除することは事実上不可能である。 したがって,被告は,本件ホームページにおいて他人の名誉や信用 を毀損する発言が書き込まれたことを知り,又は,知り得た場合には, 直ちに当該発言を削除すべき条理上の義務を負っているものという べきである。 被告は削除義務の存在を否定すべく、本件においても違法性阻却事由の 問題を主張したが、その内容は、動物病院事件とは若干異なるものであっ た。すなわち、真実性が判断できない被告が削除義務を負うことは、真偽 不明の段階での削除をもたらし、発信者の表現の自由を制約するというの である。動物病院事件のところで述べたとおり、真偽不明の段階で管理者 に削除義務を負わせることは、結果として適法な情報についても削除義務 を負わせることになる。そのためには、前提として、発信者との関係で適 法な情報を削除することが正当化されなければならない。被告は、動物病 院事件における主張を一歩進めて、発信者の表現の自由を持ち出してきた のである。 これに対して裁判所は、2ちゃんねるに書き込む以上、真偽不明の削除 も発信者の想定範囲内であり、発信者の表現の自由を不当に制約すること にはならないとして、この反論を認めなかった。 【真偽不明の情報の削除と発信者の表現の自由に関する裁判所の判断】 (項番ア、イ、ウ、エは省略) オ なお,被告が指摘するように,書き込まれた内容が真偽不明の段階 で名誉等を毀損する発言について被告に削除義務を課すことは発言 者の表現の自由を実質的に大きく制約することになりかねないと考 えられないではないが,これらの発言によって被害を受けた者といえ ども,当該発言をした者に対して直接的に責任の追及を行うことが事 実上できないことから,本件ホームページの管理人である被告に対し てその削除を求めることしか実効的な救済手段がなく,削除義務を認 める必要性が高いと考えられる一方,当該発言をした者は,削除の対 象になることを予見することができる立場にありながら,あえて本件 ホームページ上に当該発言を書き込んだものであるといえるから,こ れが削除されることになったとしても,予測可能な範囲内にあり,当 該発言者の表現の自由を不当に制約することにはならないと解する ことができる。 さらに被告は、裁判所の判断がない状況では、管理者が名誉毀損にあた るか否かを判断することは困難であり、そのような管理者に削除義務を負 42 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 わせるべきではないと主張した。裁判所はこれに対し、そもそもそのよう な判断は困難ではないとしたうえで、 「人の名誉や信用に関する情報を社会 的に伝播させる媒体に関与する者は常にその判断をすべきことが求められ る」としてこの主張を否定した。 動物病院事件においても述べたが、被告のこの主張は、すべてのプロバ イダに通じる問題であり、違法情報媒介責任の検討における中心的な課題 である。この問題提起に対する裁判所のこの回答は、いささか簡略に過ぎ るといわざるをえない。まず、判断が容易であるとしたことについては、 裁判所は、違法性阻却以外の部分、すなわち人の社会的評価を低下させる か否かの部分のみを問題にしている。これは①公共性、②公益目的、③真 実性の違法性阻却事由については、被告が立証責任を負うとすることによ り、守備範囲を分けているのかもしれない。しかしながら、被告の主張を 合理的に理解すれば、管理者が立証の素材を持たない違法性阻却事由につ いて、管理者に立証責任を負わせることの当否自体も問題としていると見 るべきであろう。管理者に違法性阻却事由の存否が分からないことは、名 誉毀損の成否の判断が困難であることの核心である。この意味で、判断が 容易であるとの裁判所の判断には、疑問が残る。 次に後半の「人の名誉や信用に関する情報を社会的に伝播させる媒体に 関与する者は常にその判断をすべきことが求められる」にも違和感がある。 個人が管理する一般の掲示板でも「伝播させる媒体」であることには変わ りないが、そのような掲示板でも判断が求められるのであろうか。 「分から ないなら削除すればいい」という選択肢が確保されているのであればとも かく、常に判断して正しい答えを出さなければいけないのであれば、掲示 板管理者一般にとって酷に過ぎるように思われる。本件管理者の責任を肯 定するためには、管理者が違法情報を促進・助長する行為を行ったことに 着目し、むしろ一般の掲示板との違いを強調すべきであった。 【名誉毀損の判断の困難性に関する裁判所の判断】 被告は,裁判所の命令が発せられていない段階においては,当該発 言が名誉又は信用の毀損に当たるかどうかを判断することは困難で あると指摘するけれども,人の社会的評価を低下させるかどうかは一 般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従っ て判断すべきものであり,人の名誉や信用に関する情報を社会的に伝 播させる媒体に関与する者は常にその判断をすべきことが求められ るのであって,被告についても,本件ホームページに書き込まれた発 言の意味内容を認識し又は認識し得る状態にあれば,その普通の注意 と読み方を基準として判断することができると考えられる。 (ⅲ)争点3 責任制限法の免責の適用 第3条1項に関して、本判決は注目すべき解釈を示している。同条同項は、 43 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 (a)①削除が技術的に可能であり、かつ②情報の流通および権利侵害の両方 を知っていた場合かまたは (b)①削除が技術的に可能であり、かつ③情報の流通を知っていることに加 えて権利侵害を知ることができたと認めるに足りる相当の理由ある場 合 でなければ、責任を負わない旨規定しており(プロバイダが発信者である場 合を除く)、いずれにしても「情報の流通を知っていること」が要求されてい る。ところが規模の大きな匿名掲示板のようにあるスレッドに他人の名誉や 信用を毀損する多数の発言が書き込まれているような場合には、管理者が削 除義務が問題となる情報の流通をすべて具体的に知っていることはむしろま れであろう。 この問題について、本判決は、本件のように特定のスレッドに他人の名誉 や信用を毀損する多数の発言が書き込まれているような場合においては、そ の中の個々の発言を具体的に認識するまでの必要はなく、当該スレッド内に なんらかの危険性を有する発言が存在しているとの認識があれば、他人の権 利を侵害するような性質の情報が流通しているとの認識があったといって差 し支えないとして、第3条1項の適用を否定している。 そもそも違法情報の具体的な認識が責任の前提として要求された趣旨は、 プロバイダの一般的監視義務の否定にある。情報流通・権利侵害の事実を認 識していなかった場合にはその理由の如何を問わず責任を負わないとされる ことにより、プロバイダは、自身が知らない間に違法な情報が流通するリス クから解放される(「プロバイダ責任制限法−逐条解説とガイドライン」総務 省電気通信利用環境整備室著 30 頁。責任の前提として要求される違法情報の 認識を本判決のように緩やかに解すると、違法な情報が存在する可能性があ れば、探し出して削除しなければ法的責任を問われるということになりかね ず、プロバイダの監視義務を否定した法の趣旨を没却するおそれがある(こ の点につき、森亮二「プロバイダ責任制限法−近時の裁判例と問題点−」コ ピライト 525 号 30 頁)。 【責任制限法の適用に関する裁判所の判断】 (項目番号ア、イ、ウは省略) ウ なお,プロバイダー責任制限法との関係で,削除義務違反の有無に ついて検討してみるに,同法3条1項は,インターネット上の電子掲 示板の情報の流通により他人の権利が侵害された場合,プロバイダー 等が当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知 っていたとき,又は,そのような情報の流通を知っている場合であっ て,これによる他人の権利侵害を知ることができたと認めるに足りる 相当な理由があるときでなければ,賠償の責めに任じない旨規定して いるのであるが,本件のようにあるスレッドに他人の名誉や信用を毀 損する多数の発言が書き込まれているような場合においては,その中 44 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 の個々の発言を具体的に認識するまでの必要はなく,当該スレッド内 に前判示のような危険性を有する発言が存在しているとの認識があ れば,他人の権利を侵害するような性質の情報が流通しているとの認 識があったといって差し支えない。そして,本件においては,被告に このような意味での認識があったことは前に判示したとおりである。 参考文献 2.2.9 ・森亮二「プロバイダ責任制限法−近時の裁判例と問題点−」 コピライト 525 号 30 頁 木材防腐処理会社事件 名古屋地裁 平成17年 1 月21日 (1)ネットワーク特性: 掲示板 (2)事案 上場企業の株式に関する掲示板「Yahoo!ファイナンス」において、発信者が原告 代表者の名義を冒用した書き込みを行った事案である。スレッドは、原告会社の株 式についてのスレッドであった。本件掲示板は ID 登録をした者のみが書き込むこ とができるものであり、書き込みの「投稿者」欄には ID が表示される。ID は半角 アルファベットと数字の組み合わせであるところ、本件書き込みの ID は、「(原告 会社名)-shacho-(原告代表者名)」という原告代表者名を冒用したものであった。 書き込みの「題名」は「なめとんのか?」であり、書き込みの内容は、「今更、ワ ンルームマンション、誤った新規事業、最低」であった。 原告は、東京都豊島区でマンション建設計画を有しており、反対する住民が本件 スレッドにしばしば書き込みを行っていた事情がある。 原告は、掲示板の管理者である被告に対し、当該書き込みの削除、訴訟提起前の 削除要請に応じなかったことに基づく損害賠償請求および発信者情報の開示を求 めた。 (3)判決のポイント 本判決においては、本件書き込みの権利侵害性自体が否定されたため、管理者の 違法情報の媒介責任についても、発信者情報開示についても検討はなされなかった。 その意味で、本件は、前記ニフティ「本と雑誌フォーラム」事件同様、間口どまり のケースである。しかしながら、本件は、いわゆる「なりすまし」による情報発信 について、違法性の判断基準を裁判所が示したものとして極めて重要な意義を有し ている。 裁判所は、まず、名義を冒用した表現行為の結果、非冒用者が当該表現の主体で あると誤認されること自体により、非冒用者の名誉、信用、プライバシー権、人格 権が害されうる場合がある、としたうえで、そのような権利侵害が発生するために は、「少なくとも、通常の判断能力を有する一般人が、当該表現行為の主体と非冒 45 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 用者が同一人物であると誤認しうる程度のものであることを必要とする」とした。 さらに、その判断にあたっては、掲示板の性質や表現内容等から、表現行為全体を 観察して、同一性誤認の有無を判断すべきであるとした。 本件へのあてはめとしては、ID に表示された社名に誤りがあること、原告の評 価を下げるようなものであって原告代表者が書き込むとは考えられないこと、など を認定し、同一性誤認はなく、権利侵害は認められないと判断した。 本判決については、裁判所が同一性の誤認のみを基準として権利侵害性を判断し ている点に注意すべきである。表現内容はあくまでも同一性誤認が生じるか否かの 判断に供されるのみであり、同一性誤認が生じる場合であっても表現内容が穏当で あれば権利侵害が認められない等の留保はしていない(もっとも同一性誤認がある 場合に表現内容を問題にすべきでないと明示的に判示しているわけではないが)。 一般に、なりすまされた被冒用者にとっては、たとえどのように当たり障りのない 表現であっても、不快感・不安感は非常に強く、人格権の侵害が認められることが 多いであろう。同一性の誤認がある場合に、表現内容に問題がないからといって削 除を躊躇するプロバイダは、削除義務違反の責任を負うリスクをとっていることを 自覚すべきである。他方でどのように価値の高い表現であっても、他人名義を冒用 して行った表現行為は保護されない。この点は匿名表現とは大きな違いであり、な りすましの情報を削除したことによって、プロバイダが法的責任を問われる場面が あるとは考えがたい。 本件裁判所の判断は、今後プロバイダが「なりすまし」を理由とする削除要請を 受けた場合の参考となるであろう。 参考文献 2.2.10 ・判例時報 1893 号 75 頁 動物病院事件(上告審) 最高裁 平成17年10月7日 (1)ネットワーク特性: 匿名掲示板 (2)事案、判決のポイント 上記動物病院事件(原審、控訴審)の上告審である。最高裁は、原審、控訴審の 結論を支持し上告を棄却した。本件は、パソコン通信時代も含めて初の違法情報の 媒介責任(民事)に関する最高裁判決であり、その意義は大きい。なお、判決は公 開されていない。 以上が、裁判例の解説である。著作権関係も含めて、各裁判例における削除義務発 生の基準を一覧にしたものを末尾に添付した。 46 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 裁判例における不法行為成立の基準 事件名 ネットワーク 侵害利益 削除義務発生の基準 特性 ニ フ テ ィ 現 代 思 ニ フ テ 名誉毀損 【シスオペについて】 想フォーラム事件 ィ・フォ 違法な発言を知ったときから条理上の削除義務を負 (原審) ーラム う。 東 京 地 裁 H9.5.26 都立大事件 ウェブ・ホス 名誉毀損 ①名誉毀損文書に該当すること、②加害行為の様態 東京地裁 ティング H11.9.24 が甚しく悪質であることおよび、③被害の程度も甚 大であること等が一見して明白であるようなきわめ て例外的な場合にのみ削除義務を負う。 ニ フ テ ィ 現 代 思 ニ フ テ 名誉毀損 【シスオペについて】フォーラムの円滑な運営及び 想フォーラム事件 ィ・フォ 管理というシスオペの契約上託された権限を行使す (控訴審) ーラム る上で必要であり、標的とされた者がフォーラムに 東京高裁 おいて自己を守るための有効な救済手段を有してお H13.9.5 らず、会員等からの指摘等に基づき対策を講じても、 なお奏功しない場合 動物病院事件 匿 名 掲 名誉毀損 遅くとも名誉毀損の書き込みを知りまたは知り得た (原審) 示板 場合には直ちに削除する等の条理上の義務あり。 東京地裁 H14.6.26 動物病院事件 匿 名 掲 名誉毀損 同上 (控訴審) 示板 東京高裁 責任制限法第 3 条 1 項にも言及し、同項の免責を否 定。最:決平成 17.10.7 により上告棄却。 H14.12.25 小学館事件 匿 名 掲 著作権 発信者である場合を除き特段の事情がない限り防止 (原審) 示板 措置を講じるべき作為義務を負わない。 東京地裁 H16.3.11 47 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 DHC 事件 匿 名 掲 名誉毀損 遅くとも名誉毀損の書き込みを知りまたは知り得た 東京地裁 示板 場合には直ちに削除する等の条理上の義務あり。 H15.7.17 ファイルローグ事件(中 PtoP ファイ 著作権 ①被告の行為の内容・性質、②利用者の有する送信 間判決) 可能化状態に対する被告の管理・支配の程度、③被 ル交換 東京地裁 告の行為によって受ける同被告の利益の状況等を総 H15.1.29 合斟酌して判断すべきである。 ファイルローグ事件(終 PtoP ファイ 著作権 (中間判決に同じ) 局判決) ル交換 東京地裁 H15.12.17 小学館事件 匿 名 掲 著作権 匿名掲示板の管理者は、著作権侵害となるような書 (控訴審) 示板 き込みをしないよう,適切な注意事項を適宜な方法 東京高裁 で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく, H17.3.3 著作権侵害となる書き込みがあった際には,これに 対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき 義務がある。掲示板運営者は,(中略),著作権侵害 であることが極めて明白なときには当該発言を直ち に削除するなど,速やかにこれに対処すべきもので ある ファイルローグ事件 PtoP ファイ 著作権 (控訴審) ル交換 原審に同じ 東京高裁 H17.3.31 48 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 【第 4 条関係】 初めに、第 4 条の基本構造を確認しておく、第4条は、不特定多数に対する情報 発信によって権利を侵害された被害者に対して、当該情報の発信者を特定するため の情報の開示を受ける実体的権利を付与するものである。この権利が認められる場 合、プロバイダには、通信の秘密の保護に優先して発信者情報を被害者に開示する 義務があることになる。 権利が認められるための要件は、(i)情報の発信による被害者の権利の侵害が明 白であり、かつ(ii)開示を必要とする正当理由があることである。(ii)の正当理由 については、発信者を突き止めてこれに対する損害賠償請求をする必要があること でも足りるから、比較的緩やかに認められる。 このような制度である以上、本来、裁判例における争点もこの2つの要件の存否 であることになりそうだが、実際にはそうではなかった(要件の存否が最も重要な 争点として争われたのは、わずかに後述の錦糸眼科事件のみである。)。第 4 条関係 における裁判例上の最大の問題は、(a)発信者側のアクセス・プロバイダが発信者 情報開示請求の対象である「特定電気通信役務提供者」にあたるか、という「経由 プロバイダ」の問題と、(b)PtoP ファイル交換ソフトを利用した情報発信が同条の 適用のある「特定電気通信」にあたるか、また発信者側(PtoP ファイル交換ソフ トユーザー)のアクセス・プロバイダが「特定電気通信役務提供者」にあたるか、 という PtoP ファイル交換の取扱いの問題の 2 つであった。これらは、いずれも要 件論以前の段階で発信者情報開示請求の制度の射程範囲を探るものであった。 前年度報告書では、この2つの問題について、今後の裁判例の方向性を示すこと はできなかった。しかしながら今日では、公開判決こそ少ないものの事業者間の情 報交換などの結果から、この2つの問題は、収束の方向にあるということができる。 まず、経由プロバイダについては、特定電気通信役務提供者であることがはっきり しつつある。また、PtoP ファイル交換についても、特定電気通信として認められ、 PtoP ファイル交換ソフトのユーザーである発信者側のアクセス・プロバイダが特 定電気通信役務提供者であることも、ほぼ固まりつつある(著作権関係ではあるが、 音楽の mp3 ファイルが PtoP ファイル交換ソフトによって放流されたことに関する 東京地判平成 17 年 6 月 24 日は、比較的簡単に原告の発信者情報開示請求を認容し ている)。 ここで取り上げる裁判例は、 ①錦糸眼科事件 東京地裁 H15.3.31 ②羽田タートルサービス事件(原審)東京地裁 H15.4.24 ③TBC−パワードコム事件 東京地裁 H15.9.12 ④羽田タートルサービス代理人事件(原審) 東京地裁 H15.9.17 ⑤TBC−So-net 事件 東京地裁(原審) H16.1.14 ⑥羽田タートルサービス代理人事件(控訴審)東京高裁 H16.1.29★ ⑦TBC−So-net 事件 東京高裁(控訴審) H16.5.26 49 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 ⑧木材防腐処理会社事件 名古屋地判 H17.1.21★ である。⑥および⑧が昨年度分からの追加である。発信者情報開示については、 その射程範囲が重要な問題であることから、第 4 条関係においてもネットワーク特 性を各事件の冒頭に記す。 2.2.11 錦糸眼科事件 東京地裁 平成15年3月31日 (1)ネットワーク特性: 掲示板(被告は掲示板管理者) (2)事案 原告は、近視治療を行う眼科医院である。発信者は被告プロバイダの掲示板「近 視治療について」板で原告の名誉を毀損する書き込みを行ったため、原告が被告プ ロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起。提訴後、被告プロバイダは、発 信者の同意を得て原告医院に対して発信者のメールアドレスを開示。これを受けて 原告医院が発信者に送信したメールに対し、発信者は謝罪メールを返信したうえ、 損害の賠償に関する和解・謝罪広告を提案する。さらに発信者は、原告医院と面談 し、発信者の住所・氏名は原告医院の知るところとなる。ところが原告医院と発信 者のやりとりにおいて、発信者が原告医院と競合する他の医院の関係会社の従業員 であることが判明する。原告医院は、発信者の住所・氏名が判明した後も本訴を維 持し、IP アドレスとタイムスタンプの開示について請求を継続した。 本件は、初の発信者情報開示請求訴訟であったが、およそ立法時に想定されてい たとは言い難い困難な問題を提示するものであった。 (3)判決のポイント 本件では、発信者情報開示請求権の2つの要件(i)権利侵害の明白性と(ii)開示 の正当理由が正面から争われた。 (ⅰ)争点1 権利侵害の明白性 通常の名誉毀損では、名誉毀損の違法性阻却事由の存在は、被告が主張立証責 任を負う。①公共の利害に関する事実であり、②公益目的があり、かつ③-(a) 情報が真実であるかまたは③-(b)発信者が真実と信じるに足りる相当な理由が あること、の3つがすべて満たされれば、仮に情報が対象者の社会的評価を低下 させるものであっても、その違法性が阻却される。ちなみに、開示請求権の要件 は単なる「権利侵害」ではなく、権利侵害の「明白性」である。この「明白性」 の解釈が問題となったが、裁判所は、あえて権利侵害とせずに権利侵害の明白性 としたのは、違法阻却事由の不存在についても原告側が立証責任を負う趣旨であ るとした。ただし③-(b)の真実と信じる相当な理由がないこと(いいかえれば、 虚偽であることについての故意・過失があること)については、以下の理由によ 50 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 り、原告は、主張・立証をするまでの必要性はないとした。理由の一は、第 4 条 1 項 1 号の規定と不法行為の成立要件を定めた民法 709 条の規定とを比較する と、同号の規定には「故意又は過失により」との不法行為の主観的要件が定めら れていないことであり、理由の二は、主観的要件に係る阻却事由についてまでも、 原告にその不存在についての主張・立証の負担を負わせることは酷であること、 であった。 裁判所は、本件においては①公共の利害に関する事実であることは認められる ものの、②公益目的がなく、③-(a)真実でもないとして、権利侵害の明白性を肯 定した。 【権利侵害の明白性についての裁判所の判断】 (1)原告は,本件メッセージの流通により,原告の名誉,社会的信用及び営 業利益が侵害されたことは明らかであるから,プロバイダ責任制限法4条1 項1号の要件を充足すると主張する。そこで,この点についてみるに,プロ バイダ責任制限法4条1項1号は,同項所定の発信者情報の開示請求の要件 の一つとして, 「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵 害されたことが明らかであるとき」と定めている(以下,この要件を「権利 侵害要件」という。)。この権利侵害要件は,発信者の有するプライバシー及 び表現の自由と被害者の権利回復の必要性との調和を図るため,その権利の 侵害が「明らか」である場合に限って発信者情報の開示請求を認めるものと したのである。したがって,同項に基づく発信者情報開示請求訴訟において は,原告(被害者)は,この権利侵害要件につき,当該侵害情報によりその 社会的評価が低下した等の権利の侵害に係る客観的事実はもとより,その侵 害行為の違法性を阻却する事由が存在しないことについても主張,立証する 必要があると解すべきである。 もっとも,同号の規定と不法行為の成立要件を定めた民法709条の規定 とを比較すると,同号の規定には「故意又は過失により」との不法行為の主 観的要件が定められていないことが明らかであり,また,このような主観的 要件に係る阻却事由についてまでも,原告(被害者)に,その不存在につい ての主張,立証の負担を負わせることは相当ではないので,原告(被害者) は,その不存在についての主張,立証をするまでの必要性はないものと解す るのが相当である。 すなわち,名誉毀損行為を理由とする不法行為については,その行為が① 公共の利害に関する事実に係り,②専ら公益を図る目的に出た場合には,③ 摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったと きには,上記行為の違法性が阻却され,不法行為は成立しないものと解され ているが,発信者情報開示請求訴訟においては,権利侵害要件の充足のため には,当該侵害情報により原告(被害者)の社会的評価が低下した等の権利 の侵害に係る客観的事実のほか,当該侵害情報による侵害行為には,上記の ①から③までの違法性阻却事由(名誉毀損行為を理由とする不法行為訴訟に 51 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 おいては,上記の①から③までの事実がすべて証明された場合に,違法性が 阻却されるものと解されている。)のうち,そのいずれかが欠けており,違法 性阻却の主張が成り立たないことについても主張,立証する必要があるもの と解すべきである。しかしながら,名誉毀損行為を理由とする不法行為訴訟 においては,主観的要件に係る阻却事由として,④摘示された事実が真実で あることが証明されなくとも,その行為者においてその事実を真実と信ずる について相当の理由があるときには,当該行為には,故意又は過失がなく, 不法行為の成立が否定されると解されているが,このような主観的要件に係 る阻却事由については,発信者情報開示請求訴訟における原告(被害者)に おいて,その不存在についての主張,立証をするまでの必要性はないものと 解すべきである。 以下,上記のような見地に立って,権利侵害要件の充足の有無について検 討する。 (中略) (6)以上のとおり,本件メッセージの内容は,原告の社会的評価を低下させ るものであり,かつ,本件においては,本件事実が真実ではないこと及び訴 外人による本件メッセージの書込みが専ら公益目的を図る目的で行われたも のではないこと(違法性阻却事由が存在しないこと)が認められるから,本 件メッセージの流通により少なくとも原告の名誉が侵害されたことは明らか というべきであり,権利侵害要件を充足するものと認めるのが相当である。 (ⅱ)争点2 開示の正当理由 本件は、口頭弁論終結時において、発信者が誰であるかが原告に判明していた 事案である。ただ、当該発信者が原告医院と競合する他の医院の関係会社の従業 員であることが判明したことから、違法情報発信の背後関係を知りたい原告医院 は情報発信の IP アドレスとタイムスタンプの開示を求めた。仮に違法情報が問 題の関係会社の端末から発信されていたのであれば、「真の発信者」は当該会社 であるとの推認が働くためである。この点について、裁判所は、具体的な事案に おいて「発信者」が誰であるかを特定する場合には、当該侵害情報を流通過程に 置く意思を有していた者が誰かという観点から判断すべきであり、例えば、法人 の従業員が業務上送信行為を行った場合には、当該法人が「発信者」である、と したうえで、たとえ送信行為自体を行った者が特定されているような場合であっ ても、その余の発信者情報の開示を受けることにより、当該侵害情報を流通過程 に置く意思を有していた「真の発信者」の存在が明らかになる可能性があるので あるから、原告がこれを特定し、その者に対して損害賠償請求権を行使するため には、すべての発信者情報の開示を受けるべき必要性があるものというべきであ るとして、開示の正当事由あり、との判断を示した。 この判決に対しては、発信者情報開示制度を違法情報発信の背後関係の探求に まで利用させるのは制度趣旨を不当に拡大するものであるとの批判もなされて いる。しかしながら、現実に情報を発信したものが特定されている以上、背後関 52 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 係云々についてはもはや通信の秘密は残っていないというべきであり、同制度を 利用して被害者が真犯人を追及することを否定する理由はないように思われる。 【開示の正当理由に関する裁判所の判断】 (1)弁論の全趣旨によれば,原告は,訴外人その他の本件メッセージの書込 みに関与した者に対して損害賠償請求権を行使するために,被告に対して本 件発信者情報の開示を求めていることが認められるから,原告には,本件発 信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものというべきである。 (2)この点に関し,被告は,訴外人が原告に対して損害賠償及び謝罪・訂正 文の掲載を提案しているのであるから,原告には本件発信者情報の開示を受 けるべき正当な理由はないと主張する。 しかしながら,原告と訴外人との間で和解が成立して損害の賠償が行われ, 原告の損害賠償請求権が消滅した等の特段の事情が存する場合は格別,訴外 人が原告に対して上記の損害賠償等の提案を行ったとしても,今後,原告, 訴外人間の交渉がまとまらず,原告において訴訟等の法的手続をとらざるを 得なくなることも十分あり得るのであるから,上記の訴外人の損害賠償等の 提案の事実は,これをもって,原告について本件発信者情報の開示を受ける べき正当な理由を否定するに足りるものとはいえないので,被告の主張を採 用することはできない。 (3)また,被告は,原告が既に被告から訴外人の電子メールアドレスの開示 を受けている上,訴外人の氏名及び住所等の情報をも把握しているのである から,原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はないと主張 する。 しかしながら,発信者情報開示請求訴訟において,原告(被害者)が既に 発信者情報のうちの一部の情報を把握している場合であっても,そのことに よって,直ちにその余の発信者情報についての開示を受けるべき正当な理由 の存在が否定されるものではないと解すべきである。その理由は以下のとお りである。 すなわち,プロバイダ責任制限法は,同法4条1項所定の要件を充足する 場合には,特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された とする者は,開示関係役務提供者に対し,その保有する当該権利の侵害に係 る発信者情報(氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報で あって総務省令で定めるものをいう。)の開示を請求することができる旨を定 めている。ここにいう「発信者」とは,上記の開示関係役務提供者の用いる 特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の 送信装置に情報を入力した者をいうと定義されているのであるが(同法2条 4号),具体的な事案において, 「発信者」が誰であるかを特定する場合には, 当該侵害情報を流通過程に置く意思を有していた者が誰かという観点から判 53 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 断すべきであり,例えば,法人の従業員が業務上送信行為を行った場合には, 当該法人が「発信者」に当たるものと解すべきである(なお,法人の従業員 (発信者)が自己の所属する法人の通信端末を用いて業務外で侵害情報を発 信した場合における当該法人の特定に資する情報も上記の開示請求の対象と なる発信者情報に該当するものと定められている。特定電気通信役務提供者 の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発 信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)1号,2号参照)。し たがって,本件のように,発信者情報開示請求訴訟において,原告(被害者) が既に発信者情報の一部を把握しており,送信行為自体を行った者が特定さ れているような場合であっても,その余の発信者情報の開示を受けることに より,当該侵害情報を流通過程に置く意思を有していた者,すなわち,当該 送信行為自体を行った者以外の「発信者」の存在が明らかになる可能性があ るのであるから,原告(被害者)が当該侵害情報の「発信者」を特定し,そ の者に対して損害賠償請求権を行使するためには,上記の総務省令が定める すべての発信者情報の開示を受けるべき必要性があるものというべきである。 以上の理由により,発信者情報開示請求訴訟においては,原告(被害者) が発信者情報の一部を既に把握している場合であっても,そのことにより, その余の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の存在が否定されるもの と解することはできない。 したがって,本件において,原告が既に訴外人の氏名及び住所等の情報を 把握しているとしても,そのことにより,本件発信者情報の開示を受けるべ き正当な理由の存在が否定されるものではないから,被告の上記主張を採用 することはできない。 参考文献: 2.2.12 金融商事判例 1168 号 8 頁 羽田タートルサービス事件(原審) 東京地裁 平成15年4月24日 (1)ネットワーク特性: を付与したプロバイダ) ウェブホスティング(被告は発信者にメールアドレス (2)事案 原告は、アルバイト派遣事業者である。本件発信者は、無料ホスティング事業者 のホスティング・サービスを受けてウェブサイトを開設しており、当該ウェブサイ トにおいて、原告の名誉を毀損する表現を行った。原告は、無料ホスティング事業 者に発信者情報の開示を請求する。無料ホスティング事業者は、ホスティング・サ ービス利用者の登録情報として保有していた発信者のメールアドレス、ID および パスワードを原告事業者に開示した。この中で、発信者のメールアドレスは、本件 の被告となるプロバイダからインターネット接続サービスの提供を受ける会員の 54 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 ものであったため、原告は、被告プロバイダに対し、本件メールアドレス保有者の 氏名、住所および電話番号の開示を請求した。被告プロバイダはこれを拒否したた め訴訟となった。 本件は、事実関係において際立った特徴を有している。すなわち、発信者情報開 示請求においては、被害者は違法情報の現実の流通経路に残された痕跡をたどって 発信者を特定することが予定されている。ところが、本件では違法情報は現実には、 ①発信者→②無料ホスティング事業者→③受信者の経路をたどって発信されたこ とははっきりしているものの、被告プロバイダが発信者のアクセス・プロバイダと して発信者による発信者ウェブサイトへの書き込みを媒介したかどうかは、明らか ではないのである。被告プロバイダが発信者情報開示請求を受けたのは、発信者ウ ェブサイトをホストしていた無料ホスティング事業者が保有していた発信者のメ ールアドレスが被告プロバイダによって割り振られたものであったからに過ぎな い。この点については、当事者間では争いがあったが、裁判所はこの点について判 断していない。この点において、本件がそもそも発信者情報開示請求訴訟の俎上に 乗るものであったかについて(法解釈論としては、被告プロバイダが開示関係役務 提供者にあたるのかについて)は、決定的な疑問がある。 (3)判決のポイント 本判決における争点は、(i)「経由プロバイダ」は、開示関係役務提供者にあた るか、(ⅱ)法の遡及適用があるか(問題の情報は本法施行前に削除された。)の2 点である。 (i)争点1 「経由プロバイダ」は開示関係役務提供者にあたるか 最も紛争の多発する掲示板を例にとると、発信された情報は、①発信者→②発信 者のアクセス・プロバイダ(「経由プロバイダ」)→③掲示板等→④受信者の経路を 辿って流通する。発信者を突き止めるためには、被害者はまず③の掲示板等に書き 込みの時刻と IP アドレスを照会し、それを元に IP アドレスを割り振った②の経由 プロバイダに対して発信者情報開示を求めることになる。したがって、発信者情報 開示制度が期待された役割を果たすためには、②の経由プロバイダに対して情報開 示が求められることが前提とされている。ところが、本判決は、条文解釈上、経由 プロバイダは開示請求の対象となる開示関係役務提供者に該当せず、したがって開 示請求の対象となりえないとしたのである。この経由プロバイダの問題は、かつて は発信者情報開示制度における最大の問題であったが、その発端となったのが本件 である。経由プロバイダが開示関係役務提供者にあたらないとする本判決のロジッ クは、以下のとおりである。 まず、第一段階として、本法は、本法の「発信者」を「情報を…に記録し・・・ま たは入力した者」と定義する一方で、「特定電気通信」については「…の送信」と 定義している。ここで法があえて「記録」「入力」と「送信」という異なる表現を とっているのは、これらを区別する趣旨であり、発信者の行為である「記録」「入 力」は「・・・の送信」と定義される特定電気通信とは異なることになる。要するに 55 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 先ほどの①発信者→②発信者のアクセス・プロバイダ(「経由プロバイダ」)→③掲 示板等→④受信者の流通経路のうち、①発信者から③掲示板等までの「記録」「入 力」のプロセスは、特定電気通信ではなく、最後の③掲示板等から④受信者までの みが特定電気通信であるとするのである。(図参照) 羽田タートルサービ ス事件④ 違法情報媒介のリスク 36 受信者 記録媒体 送信装置 経由プロバイダ 発信者 送信 記録・入力 特定電気通信 (図 独立した1対1の通信 74 インターネットウィーク 2005 チュートリアル「ネット事業の法的リスク」森亮二より引用) 次に第二段階として、「特定電気通信設備」は「特定電気通信の用に供される設 備」と定義されており、 「開示関係役務提供者」は、 「特定電気通信設備を他人の通 信の用に供する者」と定義されている。そのため、仮に①発信者から③掲示板等ま でが特定電気通信でないのなら、その間の流通経路における設備は、特定電気通信 設備ではないことになる。設備が特定電気通信設備でなければ、それを他人の通信 の用に供する者も、開示関係役務提供者ではないということになる。②の経由プロ バイダの設備は、第一段階の考え方によれば、特定電気通信ではない通信=「記録・ 入力」に供される設備であり、そのような設備を他人の通信の用に供する経由プロ バイダは開示関係役務提供者ではないことになる。 このような純然たる文言解釈に加えて、発信者情報開示が通信の秘密の例外であ ることなども理由として、本判決は、経由プロバイダである被告は(実際には本件 通信を媒介したとの認定がなされておらず、本件情報についての「経由プロバイダ」 でさえないかも知れないことは「①事案」で述べたとおりであるが。)、発信者情報 開示の対象にならないと判断した。 詳しくは、本報告書5「調査結果分析」において述べるが、大いに物議をかもし 56 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 た本判決のこの考え方は、後の裁判例で否定され、現在ではほとんど支持されてい ない。メールアドレスを割り振ったプロバイダをアクセス・プロバイダと決めてか かっていること(実際には両者が異なることはごく普通にありうる)、発信者から 受信者までの一つの通信をノード間ごとに分断して異なる性格付けを行っている こと(パケット通信の仕組みに着想をえたものと推測されるが、この裁判所は IP 電話の発信者・受信者間でも分断して考えていいとするのであろうか。)など、本 判決は、未だ裁判所がインターネットについての十分な理解を有していないことの 一例であるといわざるをえない。 (ⅱ)争点2 遡及適用の可否 本法施行時には、本件違法情報は抹消されており、判決は、第 4 条 1 項の遡及適 用を否定した。この点から見ても争点1について判断するまでもなく本訴は棄却す ることができた事案ではないかと思われる。 参考文献: 2.2.13 金融商事判例 1168 号 8 頁 TBC−パワードコム事件 東京地裁 平成15年9月12日 (1)ネットワーク特性: イダ) PtoP ファイル交換(被告は発信者のアクセス・プロバ (2)事案 大手エステティックサロン TBC が顧客・アンケート回答者に関する情報約5万人 分を漏えいした。漏えい情報は、PtoP ファイル交換ソフト WinMX によって放流さ れ、さらに転々流通する事態となった。この事態に対して TBC がイニシアティブを とり、WinMX による放流行為を行った発信者を突き止めるべく行った複数の訴訟の うち、パワードコムを被告とするものである。 (3)判決のポイント 本件の争点は、第一にそもそも WinMX による放流行為を「特定電気通信」として 発信者情報開示請求の対象とすることができるか、第二に、権利侵害の明白性が認 められるか、第三に開示の正当理由が存在するか、である。しかしながら、議論の ほとんどは、第一の点に費やされており、特に、①WinMX によるファイル送信は特 定電気通信にあたるか、②被告は開示関係役務提供者にあたるか、③羽田タートル サービス事件における「経由プロバイダ」問題との整合性の3点が争われた。 (ⅰ)争点1−① WinMX によるファイル送信は特定電気通信にあたるか 特定電気通信であるためには、「不特定の者によって受信されることを目的と する電気通信の送信」でなければならないが、被告プロバイダは、WinMX による 57 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 情報送信は送信側ユーザーと受信側ユーザーとの間の1対1の通信であるから 「不特定の者によって∼」とはいえない旨主張してこの点を争った。 本判決は以下の理由により、WinMX による情報送信も「不特定の者によって∼」 にあたることを肯定した。(a)送信側ユーザーが自己のコンピュータ内の WinMX 共有フォルダに情報を記録することによって、同ソフトのユーザーであれば誰で も当該情報を取得することができる状態に置いたといえる。(b)送信側コンピュ ータから受信側コンピュータに対する情報の送信は、受信側ユーザーの送信要求 に応じて自動的になされるものに過ぎず、送信側ユーザーは、送信するか否か・ 誰に送信するかについて関与しない(これについて本判決は、「本件のような原 則的な設定の場合」という留保をつけている。WinMX には、送信側ユーザーが送 信相手を確認してから情報を送信することを可能にする機能があり、この機能を 有効にした設定の場合は本判決の射程外である)。(c) 送信側コンピュータから 受信側コンピュータに情報の送信がなされた時点を基準としてみれば1対 1 の 通信のように見える点は、特定電気通信の典型例である掲示板の閲覧のような場 合でも同じであって、「不特定の者によって受信されることを目的とする」か否 かは共有フォルダへの記録・送信・受信の全体を観察して判断すべきである。 (ⅱ)争点1−② 被告は開示関係役務提供者にあたるか 被告は、開示関係役務提供者であるためには、情報の送信について主体的関与 を行うものであるか、情報の送信についての管理権が必要であると主張した。裁 判所はそのような限定は条文の文言にもなく、不要であるとして、被告が開示関 係役務提供者にあたると判断した。 (ⅲ)争点1−③ 羽田タートルサービス事件との整合性 被告が羽田タートルサービス事件を援用し、同事件判決と被告の主張が整合す るとしたことから問題となった。具体的な「整合」の内容がはっきりしないが、 同事件判決が、特定電気通信の始点に位置するのは特定電気通信役務提供者であ って、特定電気通信は特定電気通信役務提供者によって送信されるものであるこ とを要する、と判断したことにかんがみれば、本件放流行為は、特定電気通信役 務提供者によって送信されるものではないため、特定電気通信にあたらないとい うことのようである。 (前出 図参照、同判決の考え方によれば、 「記録」 ・ 「入力」 を受けた掲示板等から情報が「送信」されるのであり、掲示板等から先のみが「不 特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の『送信』」である特定 電気通信にあたることになる。) これに対して、原告は、そもそも羽田タートルサービス事件判決の考え方自体 が誤っていると主張し、裁判所も原告の主張を容れて被告の主張を退けている。 すなわち本判決は、(a)通信とは、文言の意味からして、発信から受信までの一 連の流れを全体として意味するものと解するのが自然であり、法が分断的観察を 予定しているとは解しがたいこと、(b)そもそも発信者情報開示制度は、一定の 情報が「発信者」の手によって流通の場に投げ出された場合に、それにより権利 58 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 を侵害された者が当該「発信者」を特定することを目的とする制度であるから、 制度の適用範囲を画する特定電気通信の概念は「発信者」から受信者までの全体 と解すべきであることを理由として、羽田タートルサービス事件判決の考え方自 体を否定している。 ウェブサーバからの情報発信である羽田タートルサービス事件と PtoP ファイ ル交換ソフトによる放流ではネットワーク構成が違うため、このような議論が必 然的なものであったかについては疑問なしとしない。しかしながら、この議論に より、本判決は、羽田タートルサービス事件の考え方を最初に否定した判決とし て重要なものとなっている。 (ⅳ)争点2 権利侵害の明白性 判決は、原告のプライバシー権が侵害されていることおよび違法性を阻却する ような事情がないことを認定して、この要件を肯定した。 (ⅴ)争点3 開示の正当理由 判決は、原告が損害賠償請求権を有していることから開示の正当理由が認めら れることは明らかであるとする。 参考文献: 森亮二「パワードコム事件」NBL771 号 6 頁 【特定電気通信にあたるかについての裁判所の判断】 (項番(一)∼(五)は省略) (六)これに対し、被告は、①ウインエムエックスにより送信側コンピュータ から受信側コンピュータに対して電子ファイルが送信される際、送信側プ ロバイダの通信装置は、送信側ユーザーと受信側ユーザーとの間の1対1 の通信を媒介しているにすぎないから、ウインエムエックスによる電子フ ァイルの送信は、 「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通 信の送信」に該当しない、②「特定電気通信」とは、「特定電気通信設備」 を用いる「特定電気通信役務提供者」が始点に位置することを前提として、 「特定電気通信役務提供者」によって送信されるものであることを要する などと主張するので、判断を示す。 (1)被告の上記主張①について ア ウインエムエックスによる電子ファイルの送信は、送信側コンピュー タが、受信側コンピュータからの送信要求を受けて、自動的に行うもの であり、その送信先は受信側コンピュータに特定されている。そうする と、ウインエムエックスによる電子ファイルの送信については、当該送 信の時点を基準として当該電子ファイルの送信それ自体についてみた場 合、確かに、受信側コンピュータと送信側コンピュータとの間の1対1 の通信と解することもできないではない。 59 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 イ しかしながら、前記(五)において説示したとおり、ウインエムエッ クスのユーザーが、自己のコンピュータ内のウインエムエックス共有フ ォルダに電子ファイルを記録し、当該電子ファイルが他のウインエムエ ックスのユーザーに送信されるまでの一連の情報の流れ全体が、 「不特定 の者によって受信されることを目的とする電気通信」なのであるから、 このような一連の情報の流通過程の一部のみを切り取った上、当該部分 だけを見て「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」 であるか否かを検討しても意味はないというべきである。そうすると、 ウインエムエックスによる電子ファイルの送信は、このような一連の情 報の流通過程中の一場面にすぎないのであるから、その電子ファイルの 送受信だけを見れば、送信側ユーザーと受信側ユーザーとの間の1対1 の通信と解することができるからといって、これを「不特定の者によっ て受信されることを目的とする電気通信の送信」に当たらないというこ とはできない。 いい方を変えるならば、送信側ユーザーは、電子ファイルをウインエ ムエックス共有フォルダに記録することによって、だれでも当該電子フ ァイルを取得することができる状態に置いたのであり、送信側コンピュ ータと受信側コンピュータとの間の当該電子ファイルのやりとりが1対 1の通信にみえることは、このように不特定の者へ向けられて送信され た電子ファイルに含まれた情報が、実際に受信された時点における当該 受信のみを基準としてみれば、1対1の通信であるようにみえることを 意味するにすぎないのである。したがって、1対1の通信にみえること は、何ら当該通信が「不特定の者によって受信されることを目的とする 電気通信」であることを否定する理由となるものではない。 さらにいうと、例えば、プロバイダ責任制限法2条1号にいう「特定 電気通信」に該当することが明らかであるいわゆる電子掲示板について みても、ある者(以下「書込者」という。)が、ある電子掲示板に他人の 権利を侵害する書込をした場合において、当該電子掲示板を閲覧した第 三者(以下「閲覧者」という。)が、その書込による情報を受信すること 自体は、当該受信のみについてみれば、書込者と閲覧者との間の1対1 の通信にすぎないのである。いわゆる電子掲示板が「不特定の者によっ て受信されることを目的とする電気通信の送信」であるとして、 「特定電 気通信」に該当するのは、書込者が、電子掲示板に書込をすることによ り、だれでも当該電子掲示板を閲覧して当該書込に係る情報を取得する ことができる状態とするからにほかならない。このような事例にかんが みても、ウインエムエックスによる電子ファイルの送信が当該送信自体 についてみれば1対1の通信にみえることは、ウインエムエックスによ る電子ファイルの送信が「不特定の者によって受信されることを目的と する電気通信の送信」であることを否定する理由となり得ないことは明 らかである。 60 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 ウ 被告は、プロバイダ責任制限法の解釈として、電子メールの送信につ いては、その送信者がメールアドレスをランダムに作成して多数の者に 電子メールを送信する、いわゆる迷惑メールという態様であっても、こ れは1対1の通信であるから「特定電気通信」に該当しないものと解さ れており、ウインエムエックスによる電子ファイルの送信についても同 様に考えるべきである旨主張する。 しかしながら、電子メールの送信は、その送信者自身において、相手 方のメールアドレスを入力して、その相手方を特定した上で、これを送 信するものであるから、その情報の流通を客観的にみれば、上記の迷惑 メールの態様であっても、基本的には、1対1の通信が集合したものに すぎないというほかない。 これに対して、ウインエムエックスによる情報の流通の場合には、前 述したとおり、ウインエムエックスのユーザーは、電子ファイルを自己 のコンピュータのウインエムエックス共有フォルダに記録することによ って、だれでも当該電子ファイルを取得することができる状態に置いて おり、これ自体が「不特定の者によって受信されることを目的とする電 気通信の送信」の一部というべきものである。そして、送信側ユーザー は、電子ファイルをウインエムエックス共有フォルダに記録した後は、 当該電子ファイルに含まれた情報を実際に送信するのか否か、また、だ れに対して送信するのかについて関与しないのであるから、ウインエム エックスによる電子ファイルの送信と電子メールの送信とは本質的に異 なる情報通信手段であることは明らかである。 (2)被告の前記主張②について ア 被告は、別件判決を援用した上で、プロバイダ責任制限法2条1号に いう「特定電気通信」とは、 「特定電気通信設備」を用いる「特定電気通 信役務提供者」が始点に位置することを前提とした上で、 「特定電気通信 役務提供者」によって送信されるものであることを要する旨主張する。 イ しかしながら、プロバイダ責任制限法2条1号は、その文理上、 「特定 電気通信」の行為主体が「特定電気通信役務提供者」である旨を定めて いるとは、直ちに解することができない。むしろ、前示のとおり、 「通信」 とは、文言の意味からして、ある情報が発信されてから、これが受信さ れていくまでの一連の流れを全体として意味するものと解するのが自然 であり、 「電気通信」の性質上からも、同様に解すべきである。プロバイ ダ責任制限法が、このような「電気通信」について、例えば、発信者か ら特定電気通信役務提供者までの通信、特定電気通信役務提供者から受 信者までの通信というように、一連の流れを物理的現象ごとに区切って 分断し、各段階ごとに「特定電気通信」であるか否かを吟味することを 予定していると解することはできない。また、このような分断的理解を 許すと、システム構築等を技術的に変更することにより、いかようにも、 61 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 プロバイダ責任制限法の適用の有無が左右されることにもなりかねず、 不合理な結果をもたらしかねない。 さらに、プロバイダ責任制限法とは、一定の情報が、 「発信者」によっ て、 「不特定の者」を対象とする情報の流通の場に投げ出され、その結果、 権利が侵害された場合、通信を「媒介」するなどしてこれに関与した「特 定電気通信役務提供者」は、その発信者の住所、氏名等の発信者情報は 知っているであろうが、その情報の内容は予知していないことが多いで あろうことを考慮して、 「特定電気通信役務提供者」の損害賠償責任を制 限するとともに、当該情報の流通によって権利を侵害されたとする者が 上記「発信者」に対して責任の追及等を行うことができるようにするた め、 「特定電気通信役務提供者」に対する発信者情報の開示の請求権につ いて定めた法律と理解することができる。このようなプロバイダ責任制 限法の趣旨からみても、プロバイダ責任制限法の適用を画する概念であ る「特定電気通信」とは、 「発信者」から発信された情報が「不特定の者 によって」受信されるまでの一連の情報の流れ全体を意味するものであ ると解すべきである。 また、プロバイダ責任制限法2条1号にいう「電気通信」とは、電気 通信事業法2条1号の規定する「電気通信」と同じであるところ、電気 通信事業法2条1号は、「電気通信」について、「有線、無線その他の電 磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることを いう」と定義している。そして、電気通信事業法が、テレビ放送、ラジ オ放送等に関する法律であることにかんがみれば、同法にいう「電気通 信」とは、ある情報が発信されてから受信されるまでの一連の情報の流 れ全体を意味しているものと解するのが相当である。 ウ 以上の検討によれば、 「特定電気通信」とは、ある情報が発信されてか ら、これが「不特定の者によって」受信されるまでの一連の情報の流れ 全体を意味しており、「特定電気通信」の始点は、当該情報の「発信者」 であると解すべきである。 よって、被告の前記主張②を採用することはできない。 2.2.14 羽田タートルサービス代理人事件 東京地裁 平成15年9月17日 (1)ネットワーク特性: 匿名掲示板(被告は発信者のアクセス・プロバイダ) (2)事案 前記羽田タートルサービス事件の原告代理人弁護士が匿名掲示板2ちゃんねる において名誉毀損を受けた事件である。発信者は、同事件に関連して2ちゃんねる において、同弁護士について「プロバイダに対して脅迫を行った」などの書き込み を行った。2ちゃんねるが同弁護士に対して、当該書き込みに関するアクセス・ロ 62 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 グの開示を行ったため、被告プロバイダが本件発信者のアクセス・プロバイダであ ることが判明。同弁護士が原告となり、被告プロバイダに対して発信者情報開示請 求訴訟を提起した。 (3)判決のポイント 経由プロバイダ、すなわち発信者のアクセス・プロバイダが第 4 条 1 項の開示関 係役務提供者にあたるか否かが正面から争われ、判決は、羽田タートルサービス事 件とは反対の立場をとり、経由プロバイダも開示関係役務提供者に該当するとの判 断を示した。 (ⅰ)争点1 経由プロバイダは開示関係役務提供者にあたるか。 裁判所は、以下の理由により、これを肯定した。 (ア)発信者からウェブサーバへの情報の送信は、この部分だけ見れば1対1の 通信となるが、それだけでは独立の通信としての意味を有するものではない。発信 者からウェブサーバへの情報の送信とウェブサーバから不特定多数の者への情報 の送信は一体不可分であり、全体として1個の通信を構成すると考えるのが相当で ある。 (イ)本法律には「発信者」についての定義規定はあっても、 「送信」及び「発 信」に関する定義規定はない。そして、本法律2条各号の規定だけから、本法律が 「送信」と「発信」のそれぞれについて、あえて異なった意味付けを与えたとは解 されない。(ウ)無料掲示板等が発信者の住所・氏名を把握していることは少ない 一方、経由プロバイダは、課金の都合上ほとんど住所・氏名を把握している。開示 請求の対象から経由プロバイダを除外し、問題の情報を記録しているサーバ保有者 等に限定すれば、発信者の住所・氏名を把握していない者に対して開示を命じるこ とができる一方、情報を保有している者に対しては開示を命じることができない結 果となる。(エ)侵害情報は経由プロバイダの設備に記録されず、経由プロバイダ は開示の要件具備について十分判断できない。しかし、特段の事情がない限り、裁 判外の開示に応じないことについて責任を問われないので問題はない。 本訴における被告の主張は、前記羽田タートルサービス事件の裁判所の判断を援 用したものであり、本訴裁判所の判断は、そのまま羽田タートルサービス事件判 決への反論となっている。両者の違いにつき、図参照。 63 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 羽田タートルサービ ス代理人事件③ 違法情報媒介のリスク 39 特定電気通信 受信者 経由プロバイダ 発信者 記録媒体 送信装置 特 (図 羽田タート ルサービス 事件 定 電 気 通 信 羽田タート ルサービス 代理人事 件 77 インターネットウィーク 2005 チュートリアル「ネット事業の法的リスク」森亮二より引用) (ⅱ)争点2 権利侵害の明白性 本件書き込みは社会的評価を低下させるものであること、また、公益性も真実 性もないことから、この点を肯定した。 【経由プロバイダが開示関係役務提供者にあたるかに関する裁判所の判 断】 ア 本法律2条1号は,特定電気通信の意義につき, 「不特定の者によって 受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法 律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号にお いて同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気 通信の送信を除く。)」と規定している。本件被告のような経由プロバイ ダが本法律にいう「開示関係役務提供者」に当たるか否かを判断するに 際しては,経由プロバイダが関与する通信が「特定電気通信」に当たる か否かが問題となる。 イ 一般に,インターネットを用いて情報発信をする際には,経由プロバ イダを介してインターネットに接続し,ウェブサーバ上の記録媒体に情 報を記録し,あるいはウェブサーバの送信装置に情報を入力することに よって,当該情報をインターネット上で閲覧可能にする,という方法が 採られる。 64 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 この場合,ウェブサーバの記録媒体ないし送信装置に情報を送信する 必要があるが,この情報送信は,飽くまで発信者が不特定多数の者に対 し情報を送信するためだけに行われるものである。ウェブサーバに要求 されている役割は,あくまでも当該情報の通過点の1つとして当該情報 を不特定多数の者へ送信する作業を行うことのみであり,ウェブサーバ ないしはその管理者が当該情報の最終的な受け手となって,自ら当該情 報を利用することは想定されていない。 すなわち,発信者からウェブサーバへの情報の送信は,この部分だけ を取り出して見れば,1対1の通信となるが,それだけでは独立の通信 としての意味を有するものではなく,発信者から不特定多数の者へ情報 発信を行う過程の不可欠な一部分としてのみ意味を有するものである。 したがって,発信者からウェブサーバへの情報の送信とウェブサーバ から不特定多数の者への情報の送信を,それぞれ別個独立の通信である と考えるべきではなく,両者は一体不可分であり,全体として1個の通 信を構成すると考えるのが相当である。 そして,両者が一体となって構成された1個の通信は,発信者から不 特定多数の者に対する情報の送信にほかならないものであるから,これ が「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」である ことは明らかである。 したがって,発信者からウェブサーバへの情報の送信は,発信者から 不特定多数への情報の送信という「特定電気通信」の一部となると解す るのが相当である。 ウ そして,本法律2条2号は, 「特定電気通信設備」の定義につき「特定 電気通信の用に供される電気通信設備」と規定し,また本法律2条3号 は,「特定電気通信役務提供者」の意義につき,「特定電気通信設備を用 いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に 供する者」と規定しているところ,経由プロバイダの保有する交換機な どの設備は,発信者から不特定多数への情報の送信の用に供されるもの であり,経由プロバイダは,発信者に対し,それらの設備を用いてイン ターネット接続を提供し,これにより発信者から不特定多数への情報の 送信を媒介していることは明らかである。 エ 被告はこの点につき,本法律においては2条1号の「送信」と2条4 号の「発信」が区別されており,ウェブサーバの記録媒体への情報の記 録は,特定電気通信役務提供者から不特定多数への情報送信と別個の通 信であり,発信者と特定電気通信役務提供者の1対1の通信にすぎない から,経由プロバイダがこの通信を媒介しても,経由プロバイダが特定 電気通信役務提供者に該当することはないと主張する。 しかし,本法律には「発信者」についての定義規定はあっても, 「送信」 及び「発信」に関する定義規定はない。そして,本法律2条各号の規定 だけから,本法律が「送信」と「発信」のそれぞれについて,あえて異 65 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 なった意味付けを与えたとは解されないのであって,被告の主張は採用 できない。 (2)経由プロバイダを特定電気通信役務提供者に含めて解釈することの必 要性及び許容性について ア 名誉毀損の被害者が法的救済を求める場合,加害者を特定し,その者 を相手に訴訟を提起することになる。そして,加害者を特定するために は,その者の住所及び氏名を知る必要がある。 しかし,インターネット上では,自らの名前を明らかにしないで情報 発信をすることが可能であり,このような匿名で行われる情報発信によ ってインターネット上で名誉毀損が発生した場合,その発信された情報 を見ただけでは,発信者の住所及び氏名を特定することは困難である。 本法律に定められた発信者情報開示制度は,このように匿名性の高い インターネットにおける情報発信による名誉毀損が発生した場合に,当 該情報発信を媒介し,あるいはそれに関与した者に対し,その発信者に 関する情報を開示させることで,被害者が加害者の身元を特定し,法的 救済を求める道を確保するために制定されたものであると解される。 イ ところで,一般的に個人がインターネット上で不特定の者に対し情報 発信を行う際に,自らウェブサーバなどの設備を用意して行うことは一 般的ではなく,大半の場合は他の者からウェブサーバの記録媒体の一定 領域について提供を受けたり,あるいは他の者が運営する電子掲示板を 利用したりという手段を用いることになる。 特に無料でウェブサーバの記憶領域や電子掲示板を提供する者が,利 用者に対して正確な住所及び氏名を要求することは少なく(甲24ない し39),多くは連絡先としてメールアドレスを要求するのみである。こ のような点を考慮すれば,これらの者に対して,本法律に基づき発信者 情報開示を命じても,元々それらの者は情報発信者の住所及び氏名を把 握していない以上,実効性はない。 一方,経由プロバイダの場合,課金の都合上ほとんどの場合利用者の 住所及び氏名を把握している。 以上のような現状に照らすと,仮に「開示関係役務提供者」から経由 プロバイダを除外し,これを実際に名誉毀損を生じる情報を記録してい るサーバを保有している者に限定した場合には,発信者の住所及び氏名 を把握していない者に対して情報開示を命じることができることになる 一方,現実に情報を保有している者に対しては情報開示を命じることが できないという結果になる。これでは,名誉を毀損された被害者に対し, 事実上,権利救済の道を閉ざすことになりかねない。 ウ 被告は,発信者情報開示は通信の秘密に係る守秘義務を解除するもの であり,憲法上保護されている権利についての守秘義務を解除するにつ いては明確な規定を要し,安易な拡張解釈は許されないと主張する。 66 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 しかし,立法の明確性は通常の判断能力を有する一般人の理解を基準 に検討すべきであるところ,本法律の「特定電気通信役務提供者」の定 義に「媒介して」という言葉がある以上,まさに他人間の通信を「媒介」 している経由プロバイダが特定電気通信役務提供者に該当すると読み取 ることは,一般人の理解として不自然なものではない。 また,経由プロバイダを特定電気通信役務提供者に含めて解釈しても, それは本法律4条1項に定められた,発信者情報開示の対象となる情報 発信の範囲自体を拡張するものではない。そもそも本法律4条1項に該 当する情報発信をした者は,同条に基づいて発信者情報を開示される可 能性のあることを覚悟すべき立場にある。このようなことを考慮すれば, たまたまサーバの管理者が発信者情報を保有していなかったために,発 信者情報の開示を免れるということになるのは,合理的であるとはいえ ない。 したがって,本法律において経由プロバイダが「特定電気通信役務提 供者」に該当するとの解釈は,通常の判断能力を有する一般人には十分 想定可能な範囲に属するものであって,明確性を欠くものではなく,被 告の主張するような「安易な拡張解釈」というべきものではない。 エ また,本件で経由プロバイダを開示関係役務提供者に含めて解釈した 場合,経由プロバイダとしては,名誉毀損をもたらす情報は自己の保有 する設備に直接記録されることはなく,単に設備内を通過するのみであ ることから,経由プロバイダは侵害情報に関する十分な情報が得られな いのであって,開示の要件具備について困難な判断を迫られ,その判断 の誤りについて法的責任を問われかねない危険な立場に置かれる,とも 考えられる。 しかし,本法律4条4項においては,開示の請求に応じなかった場合 には,故意又は重過失がある場合を除き賠償責任を負わない旨定められ ている。そして,特段の事情がない限り,侵害情報について立場上十分 な情報を有しない経由プロバイダに関して,裁判外の開示請求に応じな いことに関して重大な過失が認められることは考えにくく,経由プロバ イダを開示関係役務提供者に含める解釈をしたとしても,経由プロバイ ダの保護に欠けるところはないというべきである。 オ 以上より,経由プロバイダを特定電気通信役務提供者に含めて解釈す ることには合理性が認められ,そのことにより発信者及び経由プロバイ ダに不当な不利益が生じるとは認められない。 (3)立法者意思について ア 本総務省令によれば,開示されるべき発信者情報として,発信者の氏 名及び住所のほか,侵害情報にかかるIPアドレス(本総務省令4号) 及びタイムスタンプ(本総務省令5号)が定められている。 イ IPアドレスは,いわばインターネット上の住所ともいうべきもので 67 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 あり(甲19),これによって侵害情報の発信元が特定されることになる。 ところで,経由プロバイダを介してインターネットに接続する場合, 利用者は,経由プロバイダからその保有するIPアドレスの割当てを受 け,そのIPアドレスを用いることになる(甲57)。 したがって,一般の発信者の場合,IPアドレスから発信者の氏名や 住所を割り出そうにも,特定できるのは利用された経由プロバイダまで であり,経由プロバイダの協力なき限り発信者の割り出しは不可能であ る。 ウ そして,経由プロバイダからのIPアドレスの割当ては接続1回ごと に行われるものであり,また一度誰かに割り当てられたIPアドレスが 別の人間に割り当てられることもある(甲19)。 そうすると,経由プロバイダが侵害情報発信者の割り出しを行うため には,当該IPアドレスからの送信が行われた日時であるタイムスタン プの特定もまた必要であり,IPアドレスとタイムスタンプがそろうこ とによって経由プロバイダは侵害情報発信者を特定できることになる (甲57)。そして,IPアドレスの割当ては経由プロバイダの内部で行 われているものであり,その追跡作業は当該経由プロバイダのみが可能 なものである。 このように考えると,本総務省令においてIPアドレスとタイムスタ ンプの開示が定められた趣旨は,それらを用いて経由プロバイダに発信 者の追跡作業をさせ,それによって侵害情報発信者を特定するところに あると解される。 エ これに対し,被告は,発信者情報を定めた総務省令におけるこのよう な規定から,逆に本法律が経由プロバイダを開示関係役務提供者として いると解するのは本末転倒であると主張する。 しかし,本総務省令は本法律の条文上も本法律と一体として機能する ことが予定されており(本法律4条1項),その規定内容は,本法律を解 釈する上で検討の対象とすべきことは明らかである。 (4)まとめ 以上によれば,本件発信者がウェブサーバに別紙記事目録記載の情報を 記録した行為は,発信者と不特定多数の者との間で行われる通信の不可欠 な一部であって,それは「特定電気通信」の一部分をなすものであるから, 経由プロバイダである被告は,交換機などの特定電気通信設備を用いて, 発信者と不特定多数の者の間で行われる通信を媒介した者であり, 「特定電 気通信役務提供者」に該当することは明らかである。 68 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 2.2.15 TBC−So-net事件(原審) 東京地裁 平成16年1月14日 (1)ネットワーク特性: PtoP ファイル交換(被告は発信者のアクセス・プロバ イダ) (2)事案 TBC より漏えいした個人情報について、TBC がイニシアティブをとり、WinMX に よる放流行為を行った発信者を突き止めるべく行った複数の訴訟のうち、So-net を被告とするものである。事案は、TBC-パワードコム事件とほぼ同じである。 (3)判決のポイント 争点も TBC-パワードコム事件とほぼ同じである。もっとも、TBC-パワードコム 事件においては、「羽田タートルサービス事件との整合性」等の不明確な表現にと どまっていた主張がかなり整理された感がある。具体的には、(a)本件ファイル送 信が特定電気通信の送信にあたるか、(b)特定電気通信の送信であるためには、開 示関係役務提供者が送信について主体的な関与・一定の管理権限を有することが必 要か(開示関係役務提供者であるためには、送信について主体的な関与・一定の管 理権限を有することが必要か)、(c)開示関係役務提供者であるためには、不特定の 者に送信されることを前提とした記録媒体または送信装置を有する「特定電気通信 設備」を用いて送信行為を行うことが必要か(特定電気通信設備には、記録媒体・ 送信設備があることが必要か)が争点とされた(羽田タートルサービス代理人事件 のところで添付した図を参照)。 また、第 4 条 1 項の解釈論とは離れるが、漏えい情報が発信者によって送信され た事実が認められるかも争点となった。 (ⅰ)争点1-(a) 特定電気通信にあたるか 本件ファイル送信は、形式的に観察すると、送信側ユーザーと受信側ユーザー の1対1の通信であることから問題となった。裁判所は、法が「不特定の者」と 規定しており「多数の者」と規定していないことから、特定電気通信については、 1対「多数」間において行われる送信に限定されないとしたうえ、本件ファイル 送信は、不特定の者によって受信されることを目的とするものと認められるから、 特定電気通信の送信にあたるとした。 (ⅱ)争点1-(b) 主体的な関与・一定の管理権限を有することが必要か 裁判所は、第 3 条に関しては、送信防止措置をとりうるか否かの関係で、プロ バイダが、情報の送信における主体的な関与や一定の管理権限が前提にされてい る、としたうえで、第 4 条については、送信防止措置とは関係がなく、主体的な 関与・一定の管理権限は前提とされていないと判断した。 69 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 (ⅲ)争点1-(c) 特定電気通信であるためには特定電気通信役務提供者がその始 点に立つことを要するか 裁判所は、第 2 条各号において、「特定電気通信」の始点は、第 2 条 3 号にい う「特定電気通信役務提供者」に限ると解すべき文言がないことを理由に、特定 電気通信役務提供者が始点に立つ必要はないとした。 (ⅳ)争点1−(d) 記録媒体または送信装置を有する「特定電気通信設備」を用い て送信行為を行うことが必要か 被告は、第 4 条 1 項にいう「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設 備」は、不特定の者に送信されることを前提とした(ァ)記録媒体または(ィ)送信 装置を有するものに限る、と主張したため問題となった。裁判所は、そのような 限定がなされているとは認められないとして、経由プロバイダの有するルータそ のものが「特定電気通信設備」にあたるとした。 (ⅴ)争点2 違法情報が発信者によって流通した事実が認められるか 原告が実際に問題のファイルを受信することができなかったため問題となっ たようである。裁判所は、本件違法情報が長期間にわたり発信者により公開され ていることなどから、本件違法情報が発信者により流通したと認められると判断 した。 参考文献: 2.2.16 判例タイムズ 1152 号 134 頁 羽田タートルサービス代理人事件(控訴審) 東京高裁 平成16年1月29日 (1)ネットワーク特性: 匿名掲示板(被告は発信者のアクセス・プロバイダ) (2)事案・判決のポイント 前記羽田タートルサービス代理人事件の控訴審である。判決は公開されていない が、原審の判断が肯定された。本判決により、高裁レベルでも、経由プロバイダが 開示関係役務提供者にあたることが認められた。 2.2.17 TBC−So-net事件(控訴審) 東京高裁 平成16年5月26日 (1)ネットワーク特性: PtoP ファイル交換(被告は発信者のアクセス・プロバ イダ) (2)事案 前記、TBC−So−net 事件(原審)の控訴審である。 70 2.名誉毀損・プライバシー侵害に関する動向調査 (3)判決のポイント 上記原審の各争点についての控訴審の判断も、ほぼ上記原審の判断と同じであ った。なお、控訴審では、上記原審の争点1−(d)「記録媒体または送信装置を有 する「特定電気通信設備」を用いて送信行為を行うことが必要か」については少 し議論の枠組みを変更して、これを「発信者」の定義の問題として扱っている。 すなわち、法 2 条 4 号は、「発信者」を「特定電気通信役務提供者の用いる特 定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信 されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当 該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を 入力した者をいう。」と定義しているところ、経由プロバイダの有するルータは、 上記のような特定電気通信設備の送信装置に該当するものと解され、WinMX の送 信側ユーザーは、その送信装置に情報を入力した者に該当するから、「発信者」 に該当すると判断した。 参考文献: 2.2.18 判例タイムズ 1152 号 131 頁 木材防腐処理会社事件 名古屋地裁 平成17年1月21日 (1)ネットワーク特性: 掲示板(被告は掲示板管理者) (2)事案・判決のポイント ヤフーの株式に関する掲示板「Yahoo!ファイナンス」において、発信者が原告代 表者の名義を冒用した書き込みを行った事案である。原告が掲示板管理者であるヤ フーの削除義務違反と発信者情報開示を共に求めたため、本報告書の第 3 条関係で 詳しく述べたのでそちらを参照されたい。 情報の権利侵害性自体が否定されたため、削除義務違反についても、発信者情報 開示についても、要件の検討はなされなかったが、「なりすまし」の違法性に関す る基準を裁判所が判断したものとして、重要な先例性を有している。 参考文献: 判時 1893 号 75 頁 71 3.著作権侵害に関する動向調査 3. 著作権侵害に関する動向調査 3.1 プロバイダ等、事業者相談センターの対応状況 3.1.1 著作権侵害の対応事例 事例 № 03021 タイトル 海外の団体からの申し立てに対する信頼性確認団体と認定された団 体からの連絡 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・著作権侵害関係 情報表示場所 ・ウェブページ プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 無 権利侵害等の発 [申立者] レコード関係の国際組織 生状況 [情報の表示場所詳細] 当社のサーバ [発信者] 当社会員 事業者からの相 当社サーバ上に掲載されたmp3形式の洋楽のファイルについ 談内容 て、世界のレコード会社で構成される団体から当社に対して、認証 されていない通常の電子メールで送信防止措置依頼が届いた。同時 に写しが国内の加盟団体にも送信されていた。 上記団体は、信頼性確認団体でもないし、メールで指摘のあった 音楽は、聞いたことがなく、権利者名などの情報が記載されていな いことから、侵害であることが判然としない。このため、必要箇所 を埋め込んでもらい、それに署名してもらう書式を作成し、返信し てもらうよう依頼した。 その後、国内の加盟団体からもプッシュの連絡が入った。国内の 加盟団体は、信頼性確認団体として認定されているが、どのような 対応をとればよいか。 事業者相談セン 国内の加盟団体が、信頼性確認団体として認定されているからと ターの回答 いって、今回の連絡が、信頼性確認団体としての書式等に基づく、 送信防止措置請求ではない。 したがって、御社の対応で特に問題はないと思われる。 対応上の留意点 等 72 3.著作権侵害に関する動向調査 事例 № 03022 タイトル 信頼性確認団体からの送信防止措置請求 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・著作権侵害関係 情報表示場所 ・ウェブページ プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 有 権利侵害等の発 [申立者] 信頼性確認団体 生状況 [情報の表示場所詳細] 当社会員開設ウェブページ [発信者] 当社会員 申立内容 信頼性確認団体から、当社会員開設のホームページに掲載してい る音楽データに対して、当社に削除要請が届いた。 事業者の対応 信頼性確認団体からの申し立てなので、申し立て内容の形式的な 確認を行い、当社にて該当データを削除した。その後、当社会員に は警告のメールを送信し、申立者にはその旨回答した。 対応上の留意点 等 事例 № 03023 タイトル P2Pファイル交換での発信者情報開示請求 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・著作権侵害関係 情報表示場所 ・P2Pファイル交換 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 有 権利侵害等の発 [申立者] 代理人弁護士 生状況 [情報の表示場所詳細] 当社会員PC [発信者] 当社会員 申立内容 被害主張者の代理人弁護士から当社に、当社会員のPCで、P2 Pでファイルが公開されている、損害賠償請求のため、発信者の情 報開示請求があった。 事業者の対応 当社顧問弁護士に相談し、発信者に開示請求文書を引用し意見照 会を行ったが、当該事実なしとの回答であったため、開示請求には 応じられない回答をした。 対応上の留意点 等 73 3.著作権侵害に関する動向調査 事例 № 03024 タイトル 裁判で開示命令のあった場合の発信者への対応 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・著作権侵害関係 情報表示場所 ・P2Pファイル交換 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 有 権利侵害等の発 [申立者] 代理人弁護士 生状況 [情報の表示場所詳細] 当社会員PC [発信者] 当社会員 事業者からの相 著作権侵害による発信者(弊社ユーザー)情報開示の裁判におい 談内容 て開示せよ、との判決がおりた。 弊社顧問弁護士と協議の上、開示する予定であるが、開示前に弊 社ユーザーに対して何かアクションする必要があるか。可能であれ ば教えていただきたい。 事業者相談セン 一般論としては、発信者に対しては、特に何らの手続を踏むこと ターの回答 なく、誤りのないよう以下のような観点から注意して情報を開示す るということになると思われる。 ただし、サービス約款に発信者情報の開示について何らかの約定 がある場合は、その解釈によって開示前の事前通知が要求されるこ ともありうると思うし、また、開示請求訴訟の際に、発信者とプロ バイダが事実上一体となって活動していた(表には出ていないが) ような場合は別であろうが。 ①法律上、請求があった際の意見照会義務はあるが、判決に基づく 開示に先立ち、発信者に何らかの通知を行う義務はないこと。 ②開示請求訴訟において、権利侵害の明白性、開示を受ける正当な 利益の存在については、裁判所の一応の判断(プロバイダが防御 しているので、必ずしも十分とはいえないが)を経ていること。 ③発信者に、判決に基づき開示する旨を告知した場合、場合によっ ては発信者が住所の変更、訴状の受領拒否、その他の手段を講じ ることにより、被害者の訴訟が阻害されるおそれがあること。 ④発信者との関係においては、会員サービスないし会員保護の観点 があるが、前記②、③を考えた場合、会員サービスないし保護の 必要性は低いこと。 ⑤④が現実化した場合は、被害者から、プロバイダの責任を問われ るおそれがあること。 ⑥開示を受けた者には、当該情報を不当に利用してはならない旨の 74 3.著作権侵害に関する動向調査 法的義務が定められており、この点で、発信者の情報が開示され ることによる不利益の発生は予防されていること。 いずれにしても、最終的には御社の顧問弁護士と相談して、判断 されるのがよろしいと思う。 対応上の留意点 等 75 3.著作権侵害に関する動向調査 事例 № 03025 タイトル 発信者が退会していた場合の発信者情報開示請求の対応 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 有 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 事業者からの相 プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求が当社に届い 談内容 た。 ①発信者である当社会員が、既に当社を退会していた場合。 ②発信者である当社会員が、退会処理中であった場合。 (退会の手続は既に完了し、契約上の退会日(月末)待ちの場合) 以上のいずれかの状況であった場合でも、ガイドラインに沿った 発信者情報開示依頼の照会手続を行うべきか。あるいは、発信者情 報開示依頼そのものを受けない、という選択は可能か。 また、諸注意などがあれば知りたい。 事業者相談セン プロバイダ責任制限法は、特段、会員制等を前提としていないの ターの回答 で、現実に、発信者にかかわる情報を、プロバイダが事実状態とし て保有しているか否かで考えればよく、仮に退会してしまった会員 や、退会手続き中の会員であっても、請求対象の情報が存在してい れば、法に則った手続を行うことになると思われる。 ただし、会員情報については、既に退会した会員分については、 その情報を現に保有していることの正当性が、個人情報保護や契約 の観点から問題になる可能性がある。一般的には、残存債務の請求 の必要性の他、会員契約に関する債権債務関係が将来トラブルにな ったときに備えて、消滅時効成立までの間は情報を保有することに ついて正当性が認められる(その意味ではかなり長期間)のではな いかと考える。 一方会員規約等で、保有期間が定められている場合は、その間を 超えて保有していることは問題になるので、この点注意すべきかと 思う。 対応上の留意点 等 76 3.著作権侵害に関する動向調査 3.2 判例・裁判上の係争事項(著作権関係) 3.2.1 2ちゃんねる小学館事件(控訴審) 東京高等裁判所平成 16 年(ネ)第 2067 号・平成 17 年 3 月 3 日判決 ・・・プロバイダに対する差止請求および損害賠償請求の事案 (1)事案 X1は,少女漫画「罪に濡れたふたり∼Kasumi∼」の作家であり,X2 は,少女漫画の出版社である。X2が平成14年4月に出版した書籍「ファンブ ック 罪に濡れたふたり∼Kasumi∼」 (「本件書籍」)は,X1とX2編集者 などとの対談記事(「本件対談記事」)を掲載していた。本件記事は,X1とX2 の共同著作物である。 Yは,インターネット上に「2ちゃんねる」と称する電子掲示板(「本件電子掲 示板」)を開設し,運営している。本件電子掲示板は,だれでも無料で,インター ネットを介して自由に閲覧・書き込みなどして利用することができる。また,本 件電子掲示板の利用者が,発言の書き込みをする際には,氏名,メールアドレス, 利用者ID等を記載する必要はない。 本件電子掲示板の匿名利用者は,平成14年5月3日∼13日,本件対談記事 (合計29頁分)を丸ごと転記して(ただし,書き込みのつなぎの一部に「対談 うぷ続きです。」など,利用者によるコメントが入れられている),本件電子掲示 板に書き込み(「本件各発言」)を行った。その結果,公衆に送信可能化され,ま たアクセスした者に自動公衆送信された。本件各発言は,本件電子掲示板におけ る書き込みが一定数を超えた時点で「過去ログ倉庫」に移されたが,同じく公衆 がアクセス可能な状態に置かれている。 X2は,Yに対して,平成14年5月9日,ファクシミリにより,また同月1 0日,電子メールにより,本件各発言の掲載が著作権侵害であることを通告し, その削除を求めた。これに対して,Yは,同月12日に「削除依頼板へおねがい します。」とのみ記載した返信の電子メールをX2宛てに送信し,その後のX2か らの要請に対しても同様の対応を行った。 なお,Yは,本件掲示板における発言の削除について「削除ガイドライン」を 定めて運用している。同ガイドラインによれば,発言の削除を希望する者は,本 件電子掲示板にある「削除要請板」ないし「削除依頼板」と称する電子掲示板に あるスレッドに削除要請の旨を書き込むという方法によってのみ発言の削除を求 めることができることとされている。実際の削除については,Y以外に「削除人」 ないし「削除屋」 (「削除人」)と呼ばれている特定の利用者に,発言の削除を行う 権限を与えている。この「削除人」は,いわゆるボランティアであって, 「削除ガ イドライン」に従って,本件掲示板における発言を削除することができるが,削 除すべき義務や,削除・放置について責任を負わないものと「削除ガイドライン」 において定めている。 そこで,Xらは,①過去ログ倉庫からの本件各発言の送信可能化・自動公衆送 77 3.著作権侵害に関する動向調査 信の差し止め,②損害賠償を求めて,東京地方裁判所に提訴した。東京地裁は, 平成16年3月11日,Xらの請求をすべて棄却する判決を言い渡した。しかし、 控訴を受けた東京高裁は、平成 17 年 3 月 3 日、以下のとおり、Xらの請求を認容 する判決を下した。 (2)争点 ①Yによる著作権侵害の成否 ②Yに対する差止請求の可否 ③Yの損害賠償責任 (3)判旨 (ⅰ)著作権侵害の成否について、東京高裁は以下のように判示した。 【東京高裁の判示】 (1)自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は, これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるとき には,そのような発言の提供の場を設けた者として,その侵害行為を放置 している場合には,その侵害態様,著作権者からの申し入れの態様,さら には発言者の対応いかんによっては,その放置自体が著作権侵害行為と評 価すべき場合もあるというべきである。以下,本件の事実関係に即してこ れをみてみる。本件発言の前後の発言内容は,甲2及び弁論の全趣旨によ る認定である。 (2) 【略】 (3)本件各発言は, 「みんなうんざりだって★X1」と題する本件スレッド におけるものであり,その最初の発言には,「「罪に濡れたふたり」Cheese にて只今,連載中! みんなでうんざり語りましょう。 ・・・」とあり,前 記(2)に摘示した発言内容からすると,本件各発言は,これを一読するだけ で, 「ファンブック」すなわち本件書籍の対談記事を,著作権者の許諾なく ほぼそのまま転載したものであることが,極めて容易に理解されるのであ り,本件掲示板を開設し運営しているYにとっても,本件各発言が,その 内容自体によって,公刊された書籍のかなりの頁部分をそのまま転載した ものであり,デッドコピーとして著作権侵害になるものであることを容易 に理解し得たものといわざるを得ない。 そして,編集長Aが,会社名,肩書,そして電話番号ファックス番号を 明記した上,出版社として著名なX2の代理人又は使者として,Yに対し, ファクシミリで著作権侵害通知をし,ファクシミリでしたのと同一内容の 通知を電子メールでもしており(通知内容には,X2刊行の「ファンブッ ク 罪に濡れたふたり∼Kasumi∼」の18頁にわたる座談会頁の全文が公 78 3.著作権侵害に関する動向調査 開されていることの指摘がある。甲3,4),Yとしては,本件各発言につ き,著作権者から著作権侵害であることの通知を受けている。さらに,X ら代理人弁護士伊藤真は,内容証明郵便により,本件各対談記事が著作権 侵害に該当するとの警告書を,Yが当時住民登録していた東京都北区のマ ンションあてに差し出し,これは平成14年7月17日Y方に配達されて いる(甲7,8及び弁論の全趣旨)。 (4)インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を 開設し運営する者は,著作権侵害となるような書き込みをしないよう,適 切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでな く,著作権侵害となる書き込みがあった際には,これに対し適切な是正措 置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある。掲示板運営者は,少なくと も,著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には,可能なら ば発言者に対してその点に関する照会をし,更には,著作権侵害であるこ とが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど,速やかにこれ に対処すべきものである。 本件においては,上記の著作権侵害は,本件各発言の記載自体から極め て容易に認識し得た態様のものであり,本件掲示板に本件対談記事がその ままデジタル情報として書き込まれ,この書き込みが継続していたのであ るから,その情報は劣化を伴うことなくそのまま不特定多数の者のパソコ ン等に取り込まれたり,印刷されたりすることが可能な状況が生じていた ものであって,明白で,かつ,深刻な態様の著作権侵害であるというべき である。Yとしては,編集長Aからの通知を受けた際には,直ちに本件著 作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識 することができ,発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべき であったというべきである。にもかかわらず,Yは,上記通知に対し,発 言者に対する照会すらせず,何らの是正措置を取らなかったのであるから, 故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない。 Yは,一人で数百にものぼる多数の電子掲示板を運営管理し,日々,刻々 とこれに膨大な量の書き込みが行われるため,すべての書き込みに目を通 すことは到底不可能であるから,個々の著作権侵害の事実を把握すること はできない,と法廷で繰り返し強調していたが,仮にYの主張することが 事実であったとしても,著作権者等から著作権侵害の事実の通知があった のに対して何らの措置も取らなかったことを踏まえないままにこのように 主張するのは,自らの事業の管理態勢の不備をいう意味での過失,場合に よっては侵害状態を維持容認するという意味での故意を認めるに等しく, 過失責任や故意責任を免れる事由には到底なり得ない主張であるといわざ るを得ない。 以上のとおりであるから,Yは,著作権法112条にいう「著作者,著 作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該 79 3.著作権侵害に関する動向調査 当し,著作権者であるXらが被った損害を賠償する不法行為責任があるも のというべきである。なお,著作権者が発言者に対して著作権侵害に係る 発言の削除の要請をするのが容易であるならば,掲示板の運営者が著作権 侵害をしていると目すべきでないこともあり得ようが,本件掲示板におい ては,発言者の実名,メールアドレスなどの発信者情報を得ることはでき ず,本件各発言の削除要請が容易であるとは到底いうことができない。 この点に関連し,Yは,本件掲示板の発信者は,IPログから追跡可能 であると主張する。Yの主張は,IPアドレスの記録によって発信者が特 定できるとの趣旨と理解できるが,IPアドレスによって特定されるのは 当該発言がいずれのプロバイダーから発信されたかにとどまり,発言者ま での特定は当該プロバイダーが厳格に管理している個人情報を得て初めて 可能になるものであることは,公知の事実である。Yの上記主張をもって しても,Yの著作権侵害による責任についての上記判断を左右することが できない。 また,Yは,本件掲示板の運営者として,削除依頼は削除依頼掲示に記 載すべきものとするガイドライン(甲9)を設定しており,これ以外の方 法による削除要請を受理しなくともよいかのごとく主張するが,これは, Yが一方的に取り決めた通告方法にすぎず,本件掲示板に何ら特別な関係 を持たないXらに法的な効力を及ぼすことはできない。Yは,少なくとも, 著作権者と称する者から通知があった場合には,その通知者が連絡を取れ る実在の者であることが明らかに分かり,かつ,当該発言を読んで明らか に著作権侵害の可能性が高いと判断されるときには,発言者にその旨を通 知して対応策を問い合わせる必要がある。なお,Yは,ファクシミリや電 子メールを読んでおらず,内容証明郵便も家族が受領して自らは見ていな いと主張するが,信用することができない。仮に,Yが上記のとおり一人 による事業で管理態勢が不十分であるため,自己に対する電子メールや内 容証明郵便も読むことができないのが事実であるとしても,これによって, 不法行為責任等の判断においてYが有利に評価されることはあり得ない。 さらにまた,Yは,著作権が侵害された本件書籍の送付を受けていない こと(弁論の全趣旨)から,著作権侵害の確認をすることができなかった と主張するが,上記のとおり,本件各発言の内容のみから,本件書籍が実 際に刊行されたこと及びその内容がどのようなものであるかを容易に知る ことができたのであるから,Yが本件書籍の提示を受けていないとしても, 著作権侵害の責めを免れるものではない。 (5)したがって,Yは本件各発言を本件掲示板上において公衆送信可能状 態に存続させあるいは存続可能な状態にさせたままにしている者として, 著作権侵害の不法行為責任を免れない。 80 3.著作権侵害に関する動向調査 (ⅱ)差止請求の可否について、東京高裁は以下のように判示した。 【東京高裁の判示】 前記のとおり本件各発言は自動公衆送信されていたものである。現在のと ころは,本件掲示板に掲載されておらず,一般人に対し自動送信される状態 にないが(弁論の全趣旨),これは,Yが本件各発言の公開を保留しているに すぎず(原審Y準備書面1),将来送信可能化される可能性のあることは明ら かであるから,本件各発言の自動公衆送信又は送信可能化についてXらが請 求する差止請求は理由がある。 (ⅲ)損害賠償責任について、東京高裁は以下のように判示した。 【東京高裁の判示】 (1)弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができ,これに反する 証拠はない。 ア 本件書籍は,X1及びその作品である本件漫画のファンを主要な読 者とする書籍であり,本件各対談記事は,その性質上漫画家であるX 1の個性が発揮されていること,本件各発言は,本件書籍が発売され た平成14年4月下旬からほどない平成14年5月3日から掲載が開 始されたもので,本件対談記事を全文転載しているものであること, 他方,X2は,本件書籍の本件各対談記事,書き下ろしの漫画などが 書店で立ち読みされないように,フィルムで包装する態様で本件書籍 を出荷していた。 イ 本件書籍は,本体価格940円で,平成14年4月24日に書店で 販売が開始されたものであり,その実売は数万部であった。 ウ 本件スレッドには,4か月余りで1000件弱の書き込みがあり, その後も,継続してX1に関する独立したスレッドが存在しているこ と,したがって,これらスレッドにアクセスした者は本件各発言のあ る本件スレッドにもアクセスした可能性が高いこと,本件各発言は, 本件電子掲示板の中のX1に係る本件スレッドに掲載されたものであ り,X1及び本件漫画のファンの多くが,書き込み(発言)をしない で本件掲示板にアクセスして本件各発言を読んだものである一方で, 複数回にわたって本件掲示板にアクセスした場合も存する。 (2)これらの事実に,平成14年5月3日からYが本件各発言の公開を留 保していると主張した平成16年1月19日(原審Y準備書面1の受付日) までの間に,8か月余り経過していること,インターネット情報が一般に 拡散しやすく,直接アクセスした者から本件各発言が広まった可能性を否 定できないこと,したがって,直接間接に本件各発言に接することができ 81 3.著作権侵害に関する動向調査 た者はかなりの数に上ると推認されること,他方で,相当多数のアクセス が本件掲示板にあったとしても,300円の著作物使用料が徴収されるの であれば,掲示板閲覧者の中にはこれを支払ってまではアクセスしない者 も多いものと推認できること,などを総合勘案し,編集長AがYにあてて 前記ファクシミリを送信して以降,本件各発言にアクセスがあった件数を 3000件と認定した上,週刊誌「サンデー毎日」がファクシミリによる バックナンバー記事提供サービスの情報料を記事1回当たり300円とし ていること(甲14の1,2)にかんがみ,本件対談記事の著作物使用料 を200円と認めた上で,各Xが被った損害額を算定するのが相当である。 なお,本件対談記事1は,X1,X2の従業員のCとD,そして読者代 表としてEの4名によるものであり,X1以外の著作権については,職務 著作あるいは著作権の譲渡によりX2に帰属していることから(甲10∼ 12),本件対談記事1の著作権は4分の1がX1に,その余の4分の3が X2に帰属しているものと認められる。 また,本件対談記事2は,X1とBの2名によるものであるが,BはX 2に著作権を譲渡しているので(甲13),本件対談記事2の著作権はX1 とX2に,それぞれ2分の1の割合で帰属しているものと認められる。 そうすると,次の計算式により,本件著作権侵害により被った損害額は, X1について45万円であり,X2について75万円と認めるのが相当で ある。 (計算式) ① X1関係 本件対談記事1について 200円×3000件×1/4= 15万円 本件対談記事2について 200円×3000件×1/2= 30万円 合計 45万円 ② X2関係 本件対談記事1について 200円×3000件×3/4= 45万円 本件対談記事2について 200円×3000件×1/2= 30万円 合計 75万円 (4)解説 (ⅰ)プロバイダに対する差止請求権について この事件において、東京地裁は、掲示板に書き込みを行った利用者が著作物の 公衆送信権侵害の主体であり、掲示板を運営するプロバイダはその幇助者である。 著作権侵害に対する差止請求権を定める著作権法112条は、幇助者には適用が ないと判示して、プロバイダに対する差止請求を否定した。 82 3.著作権侵害に関する動向調査 これに対して、東京高裁は、掲示板に著作権侵害の書き込みが為され、掲示板 を運営するプロバイダがこれを知りながら放置する場合には、プロバイダは不作 為による公衆送信権侵害の主体であり、著作権法112条の適用を受けると判示 したものと思われる。 不作為を作為と同視するには、作為義務と作為可能性が必要である。東京高裁 は、掲示板を運営するプロバイダに著作権侵害に対する注意義務について、 「イン ターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を開設し運営する 者は,著作権侵害となるような書き込みをしないよう,適切な注意事項を適宜な 方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく,著作権侵害となる書き込 みがあった際には,これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義 務がある。」と認定した。 この注意義務には、 「掲示板運営者は,少なくとも,著作権者等から著作権侵害 の事実の指摘を受けた場合には,可能ならば発言者に対してその点に関する照会 をし,更には,著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに 削除するなど,速やかにこれに対処すべき」義務が含まれる。著作権者等から著 作権侵害の事実の指摘を受けたとき、①明らかに著作権侵害の主張に理由がない 場合と、②明らかに著作権侵害の主張に理由がある場合と、③いずれとも判然と しない場合がある。したがって、プロバイダとしては、①の場合には、そのまま 放置しても注意義務違反とはならない。②判示どおり、速やかに削除しなければ 注意義務違反となる。そして、③の場合には、著作権侵害の主張に理由があるの かないのか明白になるまで、権利者に必要な主張立証を促すなど合理的手段によ って調査を行わなければ、注意義務違反となる。 プロバイダに対する差止請求を巡っては、判例学説上、さまざまな見解がある。 すなわち、①著作権法112条の定める「著作者,著作権者,出版権者・・・を 侵害する者又は侵害するおそれがある者」を著作権等の直接侵害者に限定する解 釈を取りつつ、プロバイダを幇助者にすぎないとしてこれに対する差止請求を否 定する見解(本件の地裁判決)、②著作権法112条の定める「著作者,著作権者, 出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」を著作権等の直接侵 害者のみならず侵害を支配する幇助者等にも拡張する解釈を取って、プロバイダ を幇助者にすぎないがこれに対する差止請求を肯定する見解(ヒットワン事件・ 大阪地裁平成15年2月13日判決)、③著作権法112条の定める「著作者,著 作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」を著作権等 の直接侵害者に限定する解釈を取りつつ、最高裁クラブ・キャッツアイ判決の実 質的行為者論をとってプロバイダが著作権侵害の主体であるとしてこれに差止請 求を肯定する見解(後掲ファイル・ローグ事件の東京地裁平成15年1月29日 判決)、④著作権法112条の定める「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害 する者又は侵害するおそれがある者」を著作権等の直接侵害者に限定する解釈を 取りつつ、プロバイダが不作為による著作権侵害の主体であるとしてこれに差止 請求を肯定する見解(本件の高裁判決)。しかし、⑤いさぎよく、著作権法112 条の定める「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそ 83 3.著作権侵害に関する動向調査 れがある者」を著作権等の直接侵害者のみならず教唆幇助者をも含むとの解釈を とって、プロバイダを幇助者にすぎないがこれに対する差止請求を肯定するのが 問題の抜本的解決とも考えられる。 (ⅱ)プロバイダに対する損害賠償請求権について この事件において、東京地裁は、掲示板に利用者が著作権を侵害する書き込み を行った場合に、掲示板を運営するプロバイダには「特段の事情のない限り,送 信可能化又は自動公衆送信の防止のために必要な措置を講ずべき作為義務を負う ものではない。」と判示して、Yに対する損害賠償請求を否定した。 これに対して、東京高裁は、前述のとおり、掲示板を運営するプロバイダに「著 作権侵害となるような書き込みをしないよう,適切な注意事項を適宜な方法で案 内するなどの事前の対策を講じるだけでなく,著作権侵害となる書き込みがあっ た際には,これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある」 と判示して、Xらからの著作権侵害事実の指摘を漫然と放置したYに対して損害 賠償請求を肯定した。 東京地裁が採ったプロバイダに対する注意義務論は、これまで裁判例で確立さ れてきた過失論から大きく外れるものであった。 3.2.2 ダスキン議事録事件 大阪地方裁判所平成 16 年(ワ)第 6804 号・平成 17 年 3 月 17 日判決(一審) 大阪高等裁判所平成 17 年(ネ)第 1300 号・平成 17 年 10 月 25 日判決(控 訴審) ・・・取締役会議事録等のウェブサイトへの掲載について著作権侵害の成 否が争われた事案 (1)事案 X1(原告ダスキン)は、 「ミスタードーナツ」の名称で食品小売販売業のフラ ンチャイズビジネスを展開する企業であり、X2は、その従業員である。Yは、 X1の株主であり、X1が食品衛生法違反を秘匿したことによって会社に生じた 損害について、取締役の責任を追及して株主代表訴訟を起こした。Yは、その審 理過程でX1から開示を受けた弁護士の意見書および取締役会議事録を、自己の ウェブサイトに掲載した。 そこで、Xらは、大阪地裁に当該取締役会議事録等のウェブサイト掲載差止を 求める仮処分を求め、認容された(大阪地方裁判所平成 16 年(ヨ)第 460 号・平成 16 年 4 月 22 日決定)。 また、Xらは、大阪地裁に、名誉・情報プライバシー・信用の毀損および著作 権侵害に基づいて差止および損害賠償を求める本案訴訟を提起した。大阪地裁お よび大阪高裁は、名誉・情報プライバシー・信用の毀損について一部認容したが、 以下のとおり、著作権侵害については弁護士の意見書(本件文書1)の著作権を 否定しまた取締役会議事録(本件文書2∼11)の創作性を否定した。 84 3.著作権侵害に関する動向調査 (2)争点 ①X1の名誉・情報プライバシー・信用に対する毀損の有無 ②X2の名誉・情報プライバシー・信用に対する毀損の有無 ③X1の名誉・情報プライバシー・信用の毀損に基づく差止の当否 ④X1の著作権に対する侵害の有無 ⑤X1の不正競争防止法違反に基づく請求の当否 ⑥違法阻却事由の有無 ⑦損害額 (3)判旨 著作権侵害について、大阪地裁は以下のとおり判示した。 【大阪地裁の判示】 (1)本件文書1について Xは,本件文書1を作成した弁護士は本件訴訟のX訴訟代理人であり,X 訴訟代理人が本件訴訟手続において一貫して本件文書1の著作権がX1に 属すると主張していることから,本件文書1の著作権は,それを作成した 弁護士又はその弁護士の属する弁護士法人からX1に黙示に譲渡されたと 主張する。 本件文書1の著作権は,元々はこれを作成した弁護士に帰属していたも のと認められる。そして,弁護士が依頼者の依頼を受けて裁判手続上作成 した文書の著作権が依頼者に譲渡されることは通常行われないところ,本 件文書1を作成した弁護士であるX訴訟代理人が,本件訴訟手続において 一貫してその著作権がX1に属すると主張していたからといって,これを 裏付ける客観的証拠は全くなく,また,本件訴訟追行上X1に本件文書1 の著作権を帰属させる必要があるという以外に,そのような譲渡行為が行 われることを首肯させるに足りる合理的事情は証拠上全く窺えない。した がって,X1の主張する上記事情のみから,本件文書1の著作権が作成者 である弁護士又はその弁護士の属する弁護士法人からX1に黙示に譲渡さ れたと認めることはできず,他に,そのような譲渡を認めるに足りる証拠 はない。したがって,本件文書1の著作権は,X1に属するものとは認め られない。 (2)本件文書2ないし11について 著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるところ(著 作権法2条1項1号参照),乙第45ないし第47号証によれば,本件文書 2ないし11に記載された文章は,取締役会議事録のモデル文集の文例に 取締役の名称等を記入しただけのものではないものの,使用されている文 言,言い回し等は,モデル文集の文例に用いられているものと同じ程度に 85 3.著作権侵害に関する動向調査 ありふれており,いずれも,日常的によく用いられる表現,ありふれた表 現によって議案や質疑の内容を要約したものであると認められ,作成者の 個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。また, 開催日時,場所,出席者の記載等を含めた全体の態様をみても,ありふれ たものにとどまっており,作成者の個性が表れているとは認められず,創 作性があるとは認められない。 本件文書5には,「全体スケジュール(案)」,「ダスキン再生委員会と分 科会テーマについて(案)」と題する表が付されているが,前者は,再生委 員会の答申の予定時期等についてありふれた手法によって表現したもので あり,後者も,再生委員会の構成と分科会のテーマをありふれた方法で列 挙したものにすぎず,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性 があるとは認められない。 本件文書6には,「ダスキン再生委員会と分科会テーマについて(案)」 と題する表が付されているが,再生委員会の構成と分科会のテーマをあり ふれた方法で列挙したものにすぎず,また,「再生委員会」,「分科会委員」 と題する書面も付されているが,目的,権限,役割,議案等をありふれた 表現で記載して列挙したものにすぎず,さらに, 「ミスタードーナツカンパ ニー組織図」と題する図が付されているが,これも,各部門とその構成員 をありふれた構成図の形で表現したものにすぎず,いずれも,作成者の個 性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。 したがって,本件文書2ないし11は,いずれも創作性があるとは認め られず,著作物であるとは認められない。 (3)前記(1)のとおり,本件文書1の著作権がX1に属するものとは認 められず,前記(2)のとおり,本件文書2ないし11は,いずれも著作 物であるとは認められないから,X1の本件文書1ないし11についての 著作権に基づく請求は,いずれも理由がない。 (4)解説 著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、 学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(2 条 1 項 1 号)と定義する。し たがって、創作性を欠くものは著作物としての保護を受けない。 判例・学説上、 「創作性」とは、著作者の個性の表われと解されている(たとえ ば、東京地判昭 61.3.3(判例時報 1183 号 148 頁))。創作性を否定した裁判例を分 析してみると、次の4つの類型に整理できる。①「単純な模写」−既存の表現を 単純にひき写したにとどまる場合、②「ささいな改変」−既存の表現を改変して いるがそれがささいなものにとどまる場合…地球儀用世界地図事件東京高判昭 46.2.2 判例時報 643-93、③アイデアの不可避的表現」−アイデアや事実(以下「ア イデア等」という)の表現として他の表現形式をとりうる余地がない場合…発光 ダイオード事件大阪地判昭 54.9.25 判例タイムズ 397-152、④「アイデアの平凡な 86 3.著作権侵害に関する動向調査 表現」−アイデア等の表現として平凡な表現形式にとどまる場合…簿記仕訳盤事 件大阪高判昭 38.3.29 下民集 14-3-509、アメリカ語要語集事件東京地判昭 59.5.14 判例時報 1116-123。 本件で問題となった取締役会議事録は、記載事項は千差万別でありうるが、そ のことは事実自体であって保護されず、その表現方法における創作性のみが著作 権による保護の対象となる。取締役会議事録に利用される形式はそもそも一般的 に決まっているうえに、芸術作品と異なってそこに作成者の個性を表現する余地 がほとんどない。したがって、一般的に利用される形式を採っている限りは、平 凡な表現ないしはありふれた表現として創作性を欠く。また、軸や行間に些細な 工夫を加えても、ささいな改変にとどまり、創作性を認められない。 3.2.3 アイピーネットシステム事件 大阪地方裁判所平成 14(ワ)第 4484 号・平成 17 年 3 月 29 日判決 ・・・写真のウェブ配信およびサムネイル画像のウェブ掲載が公衆送信 権・同一性保持権を侵害するかなどが争われた事案 (1)事案 Xは、プロの写真家である。訴外D(ディザイン)は、Xとの出版契約(「本件 出版契約」)に基づいて、Xの写真を収録したCD−ROMを制作し、Y1がこれ を販売した。Dが使用料を未払いのまま倒産したので、Y1がXとの間で、当該 CD−ROMの複製販売について覚書(「本件覚書」)を締結した。同覚書におい て、「甲と乙は,甲が発売している Visual Disk(CD.ROM)中,乙が著作権 を有する写真は別紙甲が平成9年6月作成のカタログ中のコードナンバー一覧表 (別添同カタログに赤丸を付した写真)の144点であることを確認する。」こと が規定されていた。 ところが、Y1は、D制作にかかる上記以外のCD−ROMを制作し販売した。 また、Y1は、そのウェブサイトに、当該CD−ROMに収録されている写真(デ ータの解像度350dpi)を低解像度72dpiのウェブ用画像データで掲載 し、Y1の関連会社Y2がその管理を行った。Yらは、有料の会員制で、当該写 真(解像度350dpi)をダウンロードさせ、また、訴外Mに当該写真のダウ ンロード販売をライセンスした。 そこで、Xは、自己の写真1254点に対する著作権侵害に基づいて、Yらに 対する当該CD−ROMの制作販売およびウェブサイトでの公衆送信の差止を求 めて、大阪地裁に訴えを提起した。大阪地裁は、ほぼ原告の主張を認容する判決 を下した。 (2)争点 ①Xが主張する写真1254点に対する著作権の保有 ②覚書によるウェブサイトに対する許諾の有無 ③本件出版契約による著作権の譲渡の有無 87 3.著作権侵害に関する動向調査 ④Mのダウンロード販売行為に対する責任 ⑤権利濫用 ⑥差止めの必要性の有無 ⑦損害賠償額 ⑧謝罪広告の必要性の有無 (3)判旨 (ⅰ)著作権の保有について、大阪地裁はつぎのように判示して、写真1222点 に対する著作権の保有を認定した。 【大阪地裁の判示】 Xは,約40年にわたり写真家として活動し,国内外において相当程度 の評価を得ている職業写真家である。 また,Xは,収入を得るために,①エージェント会社に自らが撮影した 写真を預けて貸出等を行ってもらい,エージェント会社から使用料相当額 を受け取る方法,②自らブレーンセンターを通じて出版社等にXが撮影し たポジ写真を貸し出し,使用料相当額を受け取る方法,③第三者からポジ 写真を預かり,ポジ写真を貸し出して使用料が支払われた場合にその一部 を手数料等として受け取る方法,を採っている。特に③については写真を 預けている第三者との権利関係が問題となるため,写真を預かったときに は預かり証を渡し,返却するときにはその旨の証書を第三者より受け取っ ているほか,保管や貸出の際にXの撮影した写真と混同することのないよ う,マウントに特定のアルファベットを記載することによって区別してい た。アルファベットにおいて識別していなかったものは,保管経緯等の特 殊性から十分に識別可能であったものに限られていた。 このように,Xは写真の著作権やその帰属について常日頃より相当慎重 に配慮していたということができるから,Xが,ポジ写真を確認し,Yら 側に提示した上で,自分が当該写真を撮影したと明言しているものについ ては,その内容は十分信用できるというべきである。また,仮にポジ写真 を確認することができなったとしても,Xのような長年に亘り活動して相 応の評価を得ている写真家であれば,写真撮影における癖や工夫等によっ て自ら撮影したのか第三者が撮影したのかを判別することが可能であると 考えられるから,弁護士に対して自ら撮影した旨あるいはその撮影場所に ついて明言できているものについても,Xが撮影したものと認められる。 これに対し,ポジ写真が提示できず,Xが弁護士に撮影したこともその場 所も明言できないものについては,Xが撮影したXが著作権を有する写真 であるということはできない。 そうすると,別紙目録第2記載の画像データの基となった写真のうち, Xが第三者の撮影であると述べた写真を除き,Xがポジ写真をYら側に提 示できた写真あるいは提示できなくとも弁護士に対してXが撮影した旨明 88 3.著作権侵害に関する動向調査 言している写真である別紙目録第11記載の画像データの基となった写真 1222点については,Xが撮影したXの著作物であると認められるが, その余の写真についてはXが撮影したXの著作物であると認めることはで きない。 (3)Yらは,Xが本件覚書締結時にX撮影の写真はX写真144点である と述べていたのであるから,これ以外の写真についてはXの撮影したもの とは認められないと主張している。また,当初は第三者の著作物をXの著 作物であると述べており,第三者の著作物たる写真であってもマウントに イニシャルが記載されないまま保管されていることからしても,Xが自分 の著作物であると主張する写真の中にまだXの著作物とはいえないものが 含まれている可能性があるし,とりわけポジ写真の存在を明らかにできな いものについては,Xの記憶を記載した報告書(甲35)が提出されてい るにすぎないから,X写真以外の本件写真についてXが撮影したX著作物 であるということはできないと主張する。 しかしながら,本件覚書は後記2において詳述するとおり未払使用料の 支払の交渉においてその額を確定するために作成されたものであって,厳 密にXが著作権を有する写真を限定することを目的としたものではないか ら,本件覚書において, 「乙(X)が著作権を有する写真は(中略)144 点であることを確認する。」との記載があるからといって,それ以外の写真 をXの撮影したXが著作権を有する写真から除外したものということはで きない。 (ⅱ)ウェブサイトによる著作権侵害およびこれに対する許諾の有無について、大 阪地裁はつぎのように判示した。 【大阪地裁の判示】 ア 著作権及び著作者人格権侵害行為について (ア)職業写真家が撮影したポジ写真を,CD−ROMに収録するためにA3 サイズに拡大印刷しても明瞭さが維持できる程度の高解像度(約350d pi・120mm×95mm)のデジタル画像データにする行為は,ポジ 写真をその内容において実質的同一性を維持したままデジタル画像データ にする行為であるから,ポジ写真の複製行為ということができる。 したがって,Y1が本件CD−ROMをXの許諾を得ることなく制作販 売すれば,Xの写真の著作権(複製権)の侵害行為となる。 (イ)また,当初の写真と比較して,撮影の構図,撮影対象の配置等を変えず に,また,カンプやプレゼンテーションのためであれば特段使用に支障が 生じない程度の低解像度(約72dpi・120mm×95mm)の本件 ウェブ用画像データを作成して本件ウェブサイトに掲載する行為は,外面 的に表現形式が変化するものではなく,また,表現についての本質的な部 89 3.著作権侵害に関する動向調査 分を変更するものではないから,やはりポジ写真と実質的に同一の別のデ ジタル画像データを作成する行為というべきであり,ポジ写真の複製行為 ということができる。 したがって,Y1のホームページ(本件ウェブサイト)等を管理してい るY2が,Xの許諾なく本件ウェブ用画像を作成する行為も,Xの写真の 著作権(複製権)を侵害するものである。 なお,本件ウェブ用画像データがポジ写真と実質的な同一性を維持して いる以上,上記行為が同一性保持権侵害行為となることはない。 (ウ)そして,本件ウェブ用画像を対象とする本件ダウンロードサービスを行 い,第三者が所定の手続を採りさえすればその画像データを入手すること ができるような状態において,同サービスを使用して第三者がこれを入手 した時点で,本件ウェブ用画像が自動公衆送信されたということができる。 したがって,YらがXの許諾を得ることなく本件ダウンロードサービス を行う行為は,Xの写真についての著作権(自動公衆送信権)を侵害する ものである。 (エ)さらに,本件CD−ROM及び本件ダウンロードサービスにおいては, Xの氏名が一切表示されていないところ,Xとの黙示の合意なく,Xの氏 名を表示しないまま本件CD−ROMの制作販売や本件ダウンロードサー ビスを行ったYらの行為は,Xの写真に関する著作者人格権(氏名表示権) を侵害するものである。 …… オ 氏名表示権不行使特約,同一性保持権侵害について (ア)Xは,本件覚書等によって氏名表示権を行使しない旨を黙示に合意した ことはないと主張し,Xは本人尋問において本件CD−ROMに収録され たデジタル画像データに氏名が表示されていないことについてディザイン に抗議したが改善されなかったと供述する。 しかし,Xは,Cの説明によって当初よりビジュアルディスクが著作権 フリーの画像素材集であることを認識していたのであるから,著作権行使 が初めから予定していない商品であることを当然認識していたと認められ る。そして,そうである以上,CD−ROM等に著作権者の氏名が表示さ れない可能性があることを認識していたと認められ,このことは,本件覚 書を締結する上での当然の前提事項とされていたというべきである。また, Xは,ディザインからCD−ROMの現物を見せられた際,CD−ROM 本体にも収録されている画像データにもXの氏名が表示されないことを知 っていたはずである。しかるに,Xは,そのことについて何ら異議を述べ ないままディザインへの写真の貸与を継続していた上,その間,CD−R OM等の確認を行っていなかったのであるから,Xがディザインに氏名の 表示を求めていたとは考えられない。さらに,仮に氏名の表示を求めてい たのであれば,Xは,Y1と本件覚書を締結するにあたって,改めてY1 に対して氏名の表示を求めるべきところ,そのような行動に出たことを窺 90 3.著作権侵害に関する動向調査 わせる証拠はない。 そうすると,Xは,当初よりビジュアルディスクにおいてはCD−RO Mやデジタル画像データにXの氏名が表示されないことを認識し,そのこ とを了解していたというべきであって,本件覚書締結時においても,特段 この点を指摘しなかったものである。以上の事情に照らせば,Xが許諾し た本件CD−ROMの販売に関しては,XとY1との間において,Xが氏 名表示権を行使しないことについて黙示の合意が成立していたというべき である。 ただし,本件覚書が解除により終了したことに伴い,上記黙示的合意も 失効したというべきであるから,その後においてXの氏名を表示しないま ま本件CD−ROMを販売することがXの氏名表示権を侵害するものとな ることは当然である。 (イ)また,Xは,本件ウェブ用画像が粗い粒子の画像データであることをも って,その基となった写真を同画像へ改変する行為がXの同一性保持権を 侵害するものであると主張する。 しかしながら,大きく引き延ばして印刷等をすればその繊細な色彩や陰 影等の相違が明らかになるとしても,その前の本件ウェブ用画像の作成や 本件ウェブサイトへの掲載において,カンプやプレゼンテーションにおい て使用するに支障が生じない程度に解像度を低下させたにすぎないのであ れば,表現において同一性が失われているということはできない。その他, 本件ウェブ用画像においてその基となったXの写真と比較した場合に,表 現において同一性が失われてると認めるに足りる証拠はない。 (ⅲ)Yらが本件出版契約によって著作権が譲渡されたと主張したが、大阪地裁は これを退けた。 (ⅳ)Mのダウンロード販売行為に対する責任について、大阪地裁はつぎのように 判示した。 Y1は,Mの行うダウンロードサービスにより,Xの有する複製権・公衆 送信権・氏名表示権の侵害行為がなされることを知りながら,また,販売促 進活動である以上Xの写真の同一性を失わしめる行為がなされる可能性があ ることを認識しながら,漫然とこれを許諾したというべきである。したがっ て,Mの行為に伴い生じる損害賠償責任をMと共同して負うというべきであ る。 (ⅴ)権利濫用についての判示については省略する。 (ⅵ)差止めの必要性の有無について、大阪地裁は、Yが在庫 CD-ROM を廃棄し、ウ ェブでの画像掲載を中止したが、つぎのように判示し差止の必要性を認めた。 91 3.著作権侵害に関する動向調査 これらの事実に照らせば,Yらが,本件CD−ROMの制作販売等Xが本 件訴訟において差止めを求める行為を行うおそれは相当に低いものといえる。 しかし,他方,Yらは,本件CD−ROMに収録したり本件ウェブ用画像 にしたりするための基となる画像源データについては,ビジュアルディスク として商品化された時点で消去するとの取扱いをしていたものの,担当者レ ベルにおいては,これを保管している可能性がある(乙28)。 このような画像源データが存在すれば,今後も,CD−ROMに収録し, あるいはウェブサイトに掲載し,ダウンロードサービスを行うことは極めて 容易である。またBは,写真の著作権の存否等が重要となるCD−ROMを 商品として制作販売する立場にありながら,著作権者が誰かについて関心が ないなどと法廷で述べるなど,著作権侵害行為に対する規範意識が著しく低 いと認めざるを得ない。 これらの事情を考慮すると,本件においては,Yらが,本件CD−ROM の制作販売等Xが本件訴訟において差止めを求める行為を行うおそれはいま だあると認められ,差止めの必要性がないということはできない。 (ⅶ)損害賠償請求について 大阪地裁は、CD−ROMに関して、複製権侵害による財産的損害を写真1点 あたり7500円(通常の使用許諾料を5000円と認定しながら裁判所として は珍しくそれより高額の損害を認定)、精神的損害なし、氏名表示権侵害による損 害を30万円、また、ダウンロードサービスに関して、複製権・公衆送信権侵害 による財産的損害を写真1点あたり1000円、氏名表示権侵害による精神的損 害を100万円、さらに、弁護士費用相当の損害を前記損害の1割などと認定し た。 (ⅷ)謝罪広告の請求について、大阪地裁は、これを退けた 3.2.4 ファイルローグ事件(控訴審) 東京高等裁判所平成 16 年(ネ)第 405、446 号・平成 17 年 3 月 31 日判決 ・・・集中管理型P2Pプロバイダの責任が問題とされた事案 (1)事案 Xらは、音楽著作物について著作権を保有する管理団体とレコードについて著 作隣接権を保有するレコード製作者である。Y1は、 「ファイルローグ」の名称で 電子ファイル交換システム(「本件システム」)を提供していた。本件システムは、 ユーザー同士がMP3形式などの電子ファイルを交換することを可能にするもの である。Yは、そのためのソフトをユーザーに提供するとともに、ユーザーが交 換に供している電子ファイルのインデックスを作成して、ダウンロードを求める ユーザーが探している電子ファイルを当該インデックスで探しこれをクリックす 92 3.著作権侵害に関する動向調査 ることによって自動的にユーザー間で電子ファイルの交換ができるようにしてい た。ユーザー同士間で交換された電子ファイルのほとんどは、Xらが著作権およ び著作隣接権を保有する音楽であった。 そこで、Xらは、Y1およびその代表取締役であるY2に対して著作権侵害に 基づいて差止および損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。東京地裁は、実質的 行為者論(代位責任論)に基づいて、ユーザーによる公衆送信権の侵害の主体性 をYらに認めて、請求を認容した。Yらが提起して控訴に対して、東京高裁は、 以下のとおり、Yらの控訴を棄却した。 (2)争点 ①本件システムに対する認定 ②公衆送信権侵害の主体に対する認定 ③差止を命ずる主文 ④損害賠償義務 ⑤適用法令 (3)判旨 (ⅰ)本件システムに対する認定について、Yらは本件システムを使わなくてもユ ーザーは公衆送信が可能であるから、本件システムは本件侵害に不可欠であると は言えないと主張したが、東京高裁は、つぎのように判示して、Yらの主張を退 けた。 【東京高裁の判示】 ……『ファイルローグ・サーバーは,コミュニティー内の有効なすべての ファイル情報,およびすべてのユーザーのログインの有無をリアルタイムで 把握しています。ユーザーPC内のクライアントは,サーバーと対話しなが ら,ファイルの検索やメッセージのやり取りを行います。』との記載がある。 これらの記載からいっても,本件サービスによりファイルの交換をするに は,Y1サーバに接続している必要があることは明らかである。 利用者において,他の手段によりファイル交換をすることができるとして も,そのことは,本件サービスにおいてY1サーバへの接続が不可欠である ことを否定することにはならない。 (ⅱ)公衆送信権侵害の主体について、東京高裁は、つぎのように判示した。 【東京高裁の判示】 本件で請求されているのは,本件管理著作物の送信可能化権及び自動公衆 送信権の侵害に基づく,本件管理著作物の本件サービスによる送受信の差止 め及び損害賠償である。そして,本件サービスのように,インターネットを 介する情報の流通は日々不断にかつ大量になされ,社会的に必要不可欠なも 93 3.著作権侵害に関する動向調査 のになっていること,そのうちに違法なものがあるとしても,流通する情報 を逐一捕捉することは必ずしも技術的に容易ではないことなどからすると, 単に一般的に違法な利用がされるおそれがあるということだけから,そのよ うな情報通信サービスを提供していることをもって上記侵害の主体であると するのは適切でないことはいうまでもない。しかし,単に一般的に違法な利 用もあり得るというだけにとどまらず,本件サービスが,その性質上,具体 的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起す るものであり,Y1がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して,その ような侵害行為を誘発し,しかもそれについてのY1の管理があり,Y1が これにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるとき は,Y1はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いてい る者として,その責任を問われるべきことは当然であり,Y1を侵害の主体 と認めることができるというべきである。 (1)本件サービスの性質について ア 甲第6号証及び甲第20号証並びに弁論の全趣旨によれば,本件サー ビスは,キーワードと拡張子でファイルを検索できるものと認められる。 このことと,2で摘示した記載及び前記引用に係る原判決認定の事実(中 間判決36頁イ(ア)a)からは,本件サービスは,インスタントメッセー ジサービス機能もあるものの,基本的にはファイルの交換に特化したも のであって,ファイルを特定するための情報の収集・整理(検索のため のデータベースの構築),検索(特定の語をその名称に含むファイルない しフォルダの検索要求を受付け,その所在を回答する。),利用者同士の 直接のファイルの送受信の仲介という,ファイル交換に必要な基本的機 能を一体的に有するものであり,また,この機能を実現するためのハー ドウェア(サーバ)を備え,ソフトウェア(本件クライアントソフト) を個々の利用者に提供しているものであるということができる。 また,本件サービスがファイルの交換ツールであると自ら説明し,さ らに「ユーザーは,他ユーザーと共有する自分のファイルを任意で選ぶ ことができ,また,他ユーザーが共有設定しているファイルを検索,閲 覧,交換することができます。ファイルローグを利用すれば,どんな種 類のファイルも共有可能で,世界中どこにいる相手ともファイル交換を することができます。」(甲第4号証の1)としていることからすれば, 本件サービスは,各ユーザーが単にファイルを取得するだけでなく,自 分の有しているファイルを他者に対して提供することをも勧めるもので あることは明らかである。 イ 本件サービスの検索機能は,ファイルの拡張子のほかは,各クライア ント機の共有フォルダ内のファイル及びフォルダの名称しか対象としな いものであるから,多くの人が知っている語がその名称となっているフ ァイル及びフォルダしか検索できないものであり,逆にいうとそのよう 94 3.著作権侵害に関する動向調査 なファイル及びフォルダの検索に適しているといえる(例えば,文書フ ァイルのように,あるファイルが検索キーワードをその内容に含んでい ても検索により抽出されないから,検索結果がより絞られて利用者に提 示されることになる。)。 楽曲に係る電子ファイルは,基本的に単語をファイル自体の内容とし て含まないものであり,その内容を他のファイルと区別して端的に表現 する語を想起するのは必ずしも容易ではなく,例えば作成日時で特定す ることも有効でないといえるから,それを管理する(他の同種ファイル と区別する)ための最も典型的な方法は,そのファイル名自体に楽曲名 ないしアーティスト名を採用し,あるいはそれを蔵置するフォルダ名に アーティスト名等を付することであることは明らかである(甲第6号証, 第17号証及び第20号証によれば,現実にそのように扱われているこ とが認められる。)。また,楽曲に係る電子ファイルの種類(フォーマッ ト)が複数あるとしても,MP3ファイルが,そのファイル容量と音質 のバランスから広く用いられており,かつ,その拡張子がmp3である ことは一般的なルールである(甲第6号証,第7号証,第9号証,第1 7号証,第18号証,第20号証,乙第10号証,第11号証等)。 以上からは,広く世間に知られた楽曲に係る電子ファイル,すなわち 市販のCD等の複製に係るMP3ファイルは,本件サービスによる検索, ひいては送受信されるのに非常に適したファイルの一つといえ,しかも, 有償のものが無償で入手できるものであるから,本件サービスはその性 質上,利用者にそのような利用をさせる強い誘引力を有しているといえ る。 現実に,本件サービスにより送信可能化されていたMP3ファイルの ほとんどが,市販のCD等の複製であったこと(甲第6号証,第17号 証,第20号証,なお,Yらはこれら各報告書の証明力を否定する主張 をするが,具体的な根拠を欠き採用できない。)は,このことを裏付ける ものである。 ウ ア及びイで述べたとおり,本件サービスは,ファイルの交換に特化し てそのための機能を一体的に備え,市販のCD等の複製に係るMP3フ ァイルという特定の種類のファイルの送受信に非常に適したものであり, そのような利用態様を誘引するものであるという事実に鑑みれば,本件 サービスは,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信を惹起 するという具体的かつ現実的な蓋然性を有するものといえるから,MP 3ファイルの交換に関する部分について,利用者をして,上記のような MP3ファイルの送信可能化及び自動公衆送信させるためのサービスと しての性質を有すると優に認定することができる。 …… (2)管理性について ア 前記2,3(1)の認定説示及び引用に係る原判決認定の本件サービ 95 3.著作権侵害に関する動向調査 スのシステム(中間判決39頁から40頁のaないしd,f及びg)か らすれば(なお,上記gの事実については,Y1サイトで本件サービス の利用方法を説明している以上,その程度や態様はともかく,何らかの 形で利用者がその説明を参考にすることは,経験則に照らして明らかで ある。),Y1は,ファイルの交換に必要な機能を有する本件サービスを 一体的に提供しており,本件サービスは,市販のCD等の複製に係るM P3ファイルの送受信に適し,それを具体的かつ現実的な蓋然性をもっ て誘発するものであって,Y1も本件サービスがそのように利用される ことを予想していたものということができるから,Y1としては,MP 3ファイルに限っては,著作権を侵害するものを除去するよう監視し, 必要な措置を講ずべき立場にあるというべきである(侵害の結果の発生 を100パーセントは防止することができないとしても,部分的にせよ 著作権を侵害するMP3ファイルの交換を阻止できるならば,そのよう な措置を講じるべきことは当然である。)。 そして,カナダの会社を介しているにせよ,Y1は,本件サービスに おいて送受信の対象とされているファイルの所在及び内容を把握でき, 必要に応じてファイルの送受信を制限(特定のファイルの送受信を禁止 する)したり,特定の利用者の利用自体を禁止する等の措置を講じたり することができるといえるから(前記(1)キにおいて認定した本件利用規 約の内容参照),Y1は,送受信の対象とされているファイルの内容を管 理する権能を有していると認められる。 イ Yらは,Y1は本件サービスにおいて送受信の対象となるファイルを 決定できないから,本件管理著作物のMP3ファイルが送受信の対象と なっても,Xに適切な利用の許諾を求めることができず,Xの著作権を 侵害するMP3ファイルを排除することもできないから,管理性は否定 されるべきであると主張する。 本件サービスにおいて,クライアント機の共有フォルダに蔵置するM P3ファイルの数・種類を決定するのは個々の利用者であり,また,本 件サーバに接続するか否かも個々の利用者が決定するものである。しか し,Y1は,どの程度の数のMP3ファイルが同時送信可能化されてい るかは最大値や平均値等で把握可能であり(甲第16号証),アクセスを 制限するなどして同時送信可能化ファイルの最大数をコントロールする こともできること,同時送信可能化されたMP3ファイルのうち本件管 理著作物の数がどの程度であるかは,ファイル名及びフォルダ名を基準 にして,個別に把握することも,不作為抽出による推計で概数として把 握することも可能であること,100パーセントではないにせよ,やは りファイル名及びフォルダ名を頼りに違法なMP3ファイルを除外する こともできること(これが可能なことについては後記4参照)からすれ ば,Y1は送受信の対象となるMP3ファイルの範囲を相当程度コント ロールすることができるといえるのであり,その管理性を肯定すること 96 3.著作権侵害に関する動向調査 ができる。なお,これが,送受信の対象とされるファイルの範囲を具体 的に決定することができるという意味での管理ではないにしても,その ようなシステムを採用し,提供しているのはY1自身であり(Y1は, このシステムが有する,多数ないし容量の大きいファイルの交換を,大 容量の記憶装置を持たないサーバ等安価な装置と,比較的低速の回線で 実現できるというメリットを享受している。),上記のようなコントロー ルが可能である以上,送受信されるファイルを決定していないからとい って,その管理性を否定することはできない。 ウ Yらは,クラブキャッツアイ事件において示された判断の妥当性や, その本件への適用の誤りなどについて縷々主張するが,Y1が侵害主体 と認められることは,前記のとおりである。 また,著作権法の解釈上,著作権の侵害主体は現実に著作物等の利用 それ自体の物理的行為を行っている者に限定されるべきであるとはいえ ないし,これと異なる前提に立って憲法29条2項違反をいうYらの主 張は,その前提を欠き失当である。 エ 本件サービスにおいて,ファイル情報の取得,検索要求の受付と結果 の回答,利用者間の直接のファイルの送受信の仲介が機械的かつ自動的 に処理されるものであるとしても,そのことは,前記ア及びイで認定し た,Y1の管理性を否定するものではない。本件サービスのシステムが, そのような機械的な処理をするものであっても,なおY1は,手動を含 めて,一定程度は送受信されるファイルの内容を把握し,コントロール でき,かつそのようにする責務を負っているのである。 (3)Y1の利益の存在について Y1サイトにある広告バナーをみるのが,基本的にアカウントを取得 し(本件利用規約参照),本件クライアントソフトをダウンロードすると きだけであるとしても,それらが本件サービスの利用において不可欠で ある以上,本件サービスの提供に関し,Y1は広告料という直接の利益 を得ているといえるし,本件サービスが広告媒体としての価値を有しな いともいえない。 また,本件サービスにおいて,市販のCD等の複製に係るMP3ファ イルの送受信ができることはその利用者を吸引し増やす最も大きな力で あり(なお,利用者が増えることと,本件サービスにより送受信される MP3ファイルの数・種類が増えることは相互にプラスの効果を及ぼし 合う,すなわち前者が増えると,MP3ファイルの数・種類が増え,そ うなると,ますます本件サービスの魅力が増し利用者が増える。),利用 者が増えれば,将来的には,サービスの有料化ないし広告媒体としての 活用等により,本件サービスの商業的価値を増すことは明らかである。 (4)以上の点を総合考慮すれば,Y1は,本件サービスによる本件管理 97 3.著作権侵害に関する動向調査 著作物の送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害主体であると認めるこ とができる。 (ⅲ)差止を命ずる主文について、東京高裁は、つぎのように判示した。 【東京高裁の判示】 (1)Xの請求は,要するに,本件サービスにより,本件管理著作物が送受 信の対象とすることを差し止めるというものである。 そして,本件差止主文が差止の対象としているものもそれであって,本 件差止主文が送受信の対象としてはならないとしている「MP3(MPE G1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル」が本 件管理著作物の複製に係るもの以外のものまでも含む趣旨でないことは, 前記引用に係る原判決の説示に照らしても明らかであり,本件差止主文が 処分権主義に反するということはない。なお,Y1主張のような誤解を避 けるために,念のため,本件差止主文の趣旨をより明確にする趣旨で,主 文第3項【「原判決主文第1項中「MP3(MPEG1オーディオレイヤー 3)形式によって複製された電子ファイル」とあるのを「MP3(MPE G1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイル(同楽 曲リスト記載の音楽著作物の複製に係るもの以外のものを除く。)」と訂正 する。」】のとおり,本件差止主文の一部を訂正することにする。 (2)Y1は,本件差止主文を実行することは不可能であると主張する。 しかし,本件サービスで検索の対象となるファイル名及びフォルダ名は, ほとんどの場合,原題名ないしアーティスト名だけから成り立つものと理 解されるから(甲第6号証の別紙1ないし9,甲第20号証の別紙2ない し13),例えばファイルの頭文字「宇」から始まる原題名及びアーティス ト名に絞って(原題名及びアーティスト名を表記する漢字,ひらがな,片 仮名及びアルファベットそれぞれについて逐一合致するか否かを判定する などという処理をする必要はない。),フィルタリングにより除外すべきも のか否かの判断を繰り返す方法などを用いることにより,それ程の時間を 要することなく(上記各証拠及び弁論の全趣旨),本件差止主文で送受信の 対象とされているファイルを判定することができるのであり,本件差止主 文の実行が不可能であるということはないし,また,そのようなフィルタ リングを通過したものを逐次データベースに加えて,受信者からの検索要 求に応じることも可能なのであって,本件差止主文を実行するのに,本件 サービス全体を停止せざるを得ないことにもならないのである。 (ⅳ)損害賠償義務について、東京高裁は、つぎのように判示した。 98 3.著作権侵害に関する動向調査 【東京高裁の判示】 (1)過失の有無について ア 3で認定したとおり,本件と同じハイブリット型のP2Pシステムで あるナップスターが極めて多数の利用者を擁し,そこでは市販の音楽著 作物の交換がされており,そのことは日本でも周知となっていたもので あり,本件サービスは,このナップスターと同一のシステムを採用する ものとして,サービス開始の前後に新聞やテレビニュースで紹介されて いたから,日本国内でこれを利用しようとするユーザーも,そのような 利用(市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換)をするものと 強く予測でき,現実にもそのような利用がされていたものである。 Yらも,具体的な曲数やユーザー数はともかく,上記利用態様がなさ れることを予測していた(むしろこれを認容していたとも窺われる。)も のであり,このことは,3(1)ケで認定したY2の言動に加え,以下の事 実から明らかである。 …… イ 前記のとおり,本件利用規約においてノーティス・アンド・テイクダ ウンの手続が定められており,また,著作権を侵害するファイルの送受 信を禁じる旨の注意が記載されているとしても,これは実効性のあるも のではなく,それら手続の定めないし注意の記載をもって,結果回避義 務を尽くしたとするに足りないことは当然である。 なお,ISP等が利用者の身元確認をしていないとしても,本件サー ビスはそれらと異なり,その性質上無許可の市販のCD等の複製に係る MP3ファイルの送受信をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を有するも のであり,Y1はそのような違法な利用実態の発生を容易に予見できた といえるのであって,そのようなサービスを提供するY1が,より高度 の結果回避義務を課されるのは当然である。 (2)プロバイダ責任制限法の免責規定の適用について ア 前記のとおり,本件サービスは,市販のCD等の複製に係るMP3フ ァイルの送受信をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を惹起させるもので あって,Y1はそのことを十分予測していたのみならず,その代表者で あるY2は,それを勧めるかのような発言もしていること,Y1は本件 サービスにより直接ないし間接の利益を得ていることなどからみても, Y1は,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルを流通過程に置くこ とに積極的に関わっている者であり,発信者に該当することを免れるも のとはいえない。 Y1が個別にどのような内容のMP3ファイルが送受信されているか 認識していなかったとしても,そのことは,上記判断を左右することに なるものではない。 イ プロバイダ責任制限法の発信者が,その者に係る情報開示請求の対象 99 3.著作権侵害に関する動向調査 となる者であり,この点で関係役務提供者と異なるとしても,同法の免 責規定は,関係役務提供者も発信者となることを前提にしているもので あり,その場合関係役務提供者が発信者情報開示請求の対象とならない ことは当然である。発信者情報開示請求の対象とならないことをもって, 発信者となり得ないとはいえない。 ウ プロバイダ責任制限法は,その2条2号で「特定電気通信設備 特定 電気通信の用に供される電気通信設備・・・」と規定し,同条4号で「発 信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録 媒 体・・・」と定義している。 これからは,特定電気通信設備と記録媒体は別のものであることが明 らかであるとともに,記録媒体が特定電気通信設備の一部であり得るこ ともまた明らかである。そうすると,電子ファイルを共有フォルダに蔵 置した状態の送信者のパソコンと一体となったY1サーバが記録媒体と いえることも明らかである。 (3)損害額について ハイブリット型P2Pシステムの長所の一つは,サーバがファイル情 報だけを持ちファイルそのものを持たないため,アクセスがサーバに集 中しないこと,換言すると,ファイルの交換が個別のクライアント機同 士で行われ,ファイルを持つコンピュータが特定の,少数のものに限定 されない,ということである。そして,本件サービスのシステムも,受 信者の出した検索条件に合致するファイルを複数提示し,受信者はその うちのどれを選択して受信するのも自由である(甲第6号証,第20号 証)。すなわち,同一の楽曲に係るものであっても,その電子ファイル数 が多いほど,送信可能化の数が増し,その結果,円滑にファイルの送受 信ができるという,本件サービスの長所がまさに生かされることになる。 したがって,電子ファイル数を基準にして損害額を考慮することは当然 である。 なお,Yらは,XとNMRCとの協議の結果に言及して,楽曲数を基 準にすべきであると主張する。しかし,同じ楽曲名・アーティスト名で あっても,同一の内容であるとは限らないし,また,仮に全く同一の楽 曲であっても,MP3ファイルの音質は様々であるから(エンコードす る際に自由にビットレートを設定できることは公知の事実である。なお 甲第27号証参照。),上記協議の結果を斟酌しても,ファイル数を基準 に考えるべきであるとする結論は変わらない。 また,同じ楽曲に係るものであっても,様々な音質,サイズのMP3 ファイルが存在し得るものであるから,利用者がより高音質のファイル を求めたり,あるいは再生に用いる機器の記憶容量に適した小さめのサ イズのファイルを求めたりすることもあるということができ,あるユー ザーが特定の楽曲のMP3ファイルを取得したからといって,それ以後, 100 3.著作権侵害に関する動向調査 同一の楽曲に係るMP3ファイルの受信をしなくなるとは必ずしもいえ ない。 (ⅴ)適用法令について、Yのサーバがカナダに存在するから送信可能化権の準拠 法はカナダ法であるとYが主張したのに対して、東京高裁は、つぎのように判示 した。 【東京高裁の判示】 Y1は日本法人であり,Y1サイトは日本語で記述され,本件クライアン トソフトも日本語で記述されていることからは,本件サービスによるファイ ルの送受信のほとんど大部分は日本国内で行われていると認められる。Y1 サーバがカナダに存在するとしても,本件サービスに関するその稼動・停止 等はY1が決定できるものである(乙第8号証1)。以上からすると,Y1サ ーバが日本国内にはないとしても,本件サービスにおける著作権侵害行為は, 実質的に日本国内で行われたものということができる。そして,被侵害権利 も日本の著作権法に基づくものである。 上記の事実からすれば,本件においては,条理(差止請求の関係)ないし 法例11条1項(不法行為の関係)により,日本法が適用されるものという べきである。 (4)解説 プロバイダに対する差止請求を巡っては、判例学説上、さまざまな見解がある。 すなわち、①著作権法112条の定める「著作者,著作権者,出版権者・・・を 侵害する者又は侵害するおそれがある者」を著作権等の直接侵害者に限定する解 釈を取りつつ、プロバイダを幇助者にすぎないとしてこれに対する差止請求を否 定する見解(前掲2ちゃんねる小学館事件の地裁判決)、②著作権法112条の定 める「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがあ る者」を著作権等の直接侵害者のみならず侵害を支配する幇助者等にも拡張する 解釈を取って、プロバイダを幇助者にすぎないがこれに対する差止請求を肯定す る見解(ヒットワン事件・大阪地裁平成15年2月13日判決)、③著作権法11 2条の定める「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するお それがある者」を著作権等の直接侵害者に限定する解釈を取りつつ、最高裁クラ ブ・キャッツアイ判決(昭和63年3月15日判決、民集 42 巻 3 号 199 頁)の実 質的行為者論をとってプロバイダが著作権侵害の主体であるとしてこれに差止請 求を肯定する見解(本件の東京地裁平成15年1月29日判決)、④著作権法11 2条の定める「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害する者又は侵害するお それがある者」を著作権等の直接侵害者のみならず教唆幇助者をも含むとの解釈 をとって、プロバイダを幇助者にすぎないがこれに対する差止請求を肯定する見 解、⑤著作権法112条の定める「著作者,著作権者,出版権者・・・を侵害す る者又は侵害するおそれがある者」を著作権等の直接侵害者に限定する解釈を取 101 3.著作権侵害に関する動向調査 りつつ、プロバイダが不作為による著作権侵害の主体であるとしてこれに差止請 求を肯定する見解(前掲2ちゃんねる小学館事件高裁判決)。 「本件サービスが,その性質上,具体的かつ現実的な蓋然性を 本件高裁判決は、 もって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり,Y1がそのこ とを予想しつつ本件サービスを提供して,そのような侵害行為を誘発し,しかも それについてのY1の管理があり,Y1がこれにより何らかの経済的利益を得る 余地があるとみられる事実があるときは,Y1はまさに自らコントロール可能な 行為により侵害の結果を招いている者として,その責任を問われる」との見解を 採る。すなわち、前段の侵害惹起(侵害の教唆ないし幇助)のほかに、後段の侵 害に対する管理および利得があるときに、侵害の実質的行為者と判断している。 このアプローチは、最高裁クラブ・キャッツアイ判決の実質的行為者論とも、本 件の東京地裁平成15年1月29日判決の実質的行為者論ともニュアンスを異に する。いずれにしても、著作権法112条の定める「著作者,著作権者,出版権 者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」を著作権等の直接侵害者に 限定する解釈を取りながら、侵害の教唆ないし幇助に対して著作権法112条の 差止請求を認めるための苦肉のロジックと思われる。 3.2.5 代ゼミTVネット事件 東京地方裁判所平成 16 年(ワ)第 26771 号・平成 17 年 4 月 27 日判決 ・・・違法複製物をネットオークションで販売した事案 (1)事案 Xは、テレビ番組「代ゼミTVネット」を通信衛星放送で放映した。Yは、こ れをビデオテープに録画し、ヤフーオークションにて販売した。 そこで、Xは、Yに対して著作権(複製権および頒布権)侵害に基づく損害賠 償金100万円の支払を求めて、東京地裁に提訴した。東京地裁は、請求の一部 (損害賠償額22万円)を認容した。 (2)争点 Y欠席。 (3)判旨 東京地裁は、著作権(複製権および頒布権)侵害の事実については自白したも のとしてX主張のとおり認定したが、損害賠償額についてはつぎのように判示し た。 【東京地裁の判示】 (1)視聴料相当の損害 ア 民法709条の損害 (ア)Yは,請求原因(6)ア(ア)aないしcの各(a)(再放送)及び(c)(視 102 3.著作権侵害に関する動向調査 聴料)の事実を明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。 (イ)しかしながら,本件違法行為とE,F及びGの視聴料の不払との間 の因果関係を直ちに認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証 拠もない。 (ウ)したがって,民法709条の損害をいうXの主張は,理由がない。 イ 著作権法114条3項の損害 (ア)Xが,本件番組に係る複製権,頒布権の行使につき受けるべき金銭 の額は,前記収録内容,収録時間等を考慮すると,番組1本当たり30 00円が相当である。 (イ)したがって,著作権法114条3項の適用により,Xが番組30本 分の複製権,頒布権の行使につき受けるべき使用料相当の損害は9万円 であると認められる。 (2)調査費用 ア 継続的監視 (ア)Yは,請求原因(6)イ(ア)(継続的監視)の事実を明らかに争わない から,これを自白したものとみなす。 (イ)Xの主張によっても,ヤフーオークションを監視するXの行為は, 本件と同種の侵害行為を発見するためにXの担当者等が日常的に行っ ていたものと解されるから,継続的監視のための人件費20万円を本 件違法行為と相当因果関係のある損害と認めることはできない。 イ 収録内容の確認 (ア)Yは,請求原因(6)イ(イ)(収録内容の確認)の事実を明らかに争わ ないから,これを自白したものとみなす。 (イ)Xが本件ビデオテープに本件番組が収録されているか否かを確認 する作業を行うために支出した人件費27万円のうち1人分9万円は, 本件違法行為と相当因果関係のある損害であると認められる。 (ウ)しかしながら,その余の2人分の人件費18万円について,本件 違法行為と相当因果関係を有することを認めるに足りる特段の事情の 立証はないから,収録内容の確認に関する損害のうち,その余の2人 分の人件費は本件違法行為と相当因果関係のある損害と認めることは できない。 ウ 出張費用 (ア)Yは,請求原因(6)イ(ウ)(出張費用)の事実を明らかに争わないか ら,これを自白したものとみなす。 (イ)Xの担当者がYの居住する札幌へ赴き,Yと面談することが,X の権利行使のために必要不可欠であったことを認めるに足りる証拠は ないから,Xの支出した出張費用を本件違法行為と相当因果関係のあ る損害と認めることはできない。 103 3.著作権侵害に関する動向調査 (3)弁護士費用 ア Yは,請求原因(6)ウ(ア)(弁護士費用)の事実を明らかに争わないか ら,これを自白したものとみなす。 イ 本件における認容額,審理の経緯等の諸般の事情を考慮すると,本 件違法行為と相当因果関係のある弁護士費用分の損害額を4万円と認 めるのが相当である。 (4)解説 民法の原則によれば,Yによる著作権侵害によってXが失った利益額について 損害賠償が認められる(民法709条)。しかし,Yによる著作権侵害がなければ Xがいくらの売上を上げていたか,したがっていくらの利益を上げていたかは, 仮定の話になるので立証が困難となる。そこで,著作権法114条は,3つの代 替的損害立証手段を設けている。すなわち,①Xの著作物販売における1つ当た りの限界利益に,Yの著作権侵害物の販売数量を乗じた額を,損害賠償額とする ことができる(114条1項)。②Yが著作権侵害物の販売によって得た利益を損 害賠償額と推定する(114条2項)。③Xの著作物の利用許諾料相当額を損害賠 償額とすることができる(114条3項)。 通常,①と②による損害賠償額は高額になるが,本件では,Xによる損害額に 立証がないので,裁判所は③による損害賠償のみを認容したものである。 3.2.6 WinMX発信者情報開示請求事件 東京地方裁判所平成 16 年(ワ)第 22428 号・平成 17 年 6 月 24 日判決 ・・・経由プロバイダに対してWinMX利用者の発信者情報の開示を 求めた事案 (1)事案 Xは、レコード会社であり、二つの楽曲を録音したレコードに対する著作隣接 権を保有する。Y1およびY2は、いずれも接続サービスを提供するインターネ ット・プロバイダである。ユーザーZ1、Z2は、WinMXにて当該レコード の電子ファイルを公開していた。 そこで、Xは、Zらの行為がXの保有する著作隣接権(送信可能化権)の侵害 であることを理由に、プロバイダ責任制限法に基づき、Yらに対してZらの発信 者情報(特定の日時に特定のインターネットプロトコルを使用してインターネッ トに接続していた者の氏名および住所)の開示を求めたが、Yらがこれを拒否し たため、東京地裁に提訴した。東京地裁は、Xの請求を認容した。 (2)争点 (ⅰ)経由プロバイダの電気通信がプロバイダ責任制限法の「特定電気通信」に該 当するか (ⅱ)Xの著作隣接権が侵害されたか 104 3.著作権侵害に関する動向調査 (3)判旨 (ⅰ)経由プロバイダの電気通信がプロバイダ責任制限法の「特定電気通信」に該 当するかについて、東京地裁は、つぎのように判示した。 【東京地裁の判示】 (1)法4条1項は、 「開示関係役務提供者(特定電気通信の用に供される特 定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者)」に対する発信者情報開 示請求権を規定しているところ、本件においては、Yらのような経由プロ バイダを通じて行われるWinMXを利用したファイル送信が法の定める 「特定電気通信」に該当するか否かが争点となっている。 そして、法2条1号は、「特定電気通信」の意義について、「不特定の者 によって受信されることを目的とする電気通信の送信」と定めているので、 WinMX送信がこれに該当するか否かについて判断することとする。 (2)WinMX送信について 前記第2、1(3)に認定したところによれば、WinMXを利用した ファイル送信において、受信側ユーザーの送信要求に応じて送信側ユーザ ーのパーソナルコンピュータから受信側ユーザーのパーソナルコンピュー タに対して電子ファイルが送信されるという物理的現象のみを取り出して みた場合、それが送信側ユーザーと受信側ユーザーとの間で行われる1対 1の通信であることは否定できない。 しかしながら、前記第2、1(3)に認定したところによれば、WinMX 送信においては、発信側ユーザーのパーソナルコンピュータ内の共有フォ ルダに蔵置された電子ファイルは、その時点でインターネットに接続して いる限り、WinMXのユーザーに対し自動的に公開され、WinMXの ユーザーは、検索条件を設定しさえすればそれに合致した文字列を含むフ ァイルを検索することができ、受信側ユーザーが当該電子ファイルのダウ ンロードを希望した場合には、特別の設定変更を行わない限り、順番待ち の列(queue)が終了次第、受信側ユーザーに対して自動的に、当該 電子ファイルが送信される仕組みとなっていることが認められる。 このようなWinMXの仕組みに即して検討した場合、WinMXユー ザーにおいては、送信側ユーザーが当該電子ファイルを自己のパーソナル コンピュータ内の共有フォルダ内に蔵置した時点で、当該電子ファイルを 不特定の者によって受信され得る状態においたものとみるべきであるから、 電子ファイルの共有フォルダ内への蔵置とこれに引き続いてなされる受信 側ユーザーへの送信とは、一連の情報流通過程として一体的に把握するの が相当である。 そうすると、WinMX送信は、送信側ユーザーを基準として判断した 場合、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」 105 3.著作権侵害に関する動向調査 に該当すると解すべきである。 (3)経由プロバイダを通じたWinMX送信について ア Yらは、たとえ送信側ユーザーからみてWinMXによる送信が「不 特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」に該当 したとしても、経由プロバイダにとってみれば当該送信は個別のIPア ドレスによって明確に定まっており、 「不特定の者によって受信されるこ とを目的とする電気通信の送信」には該当しないと主張する。 Yらの主張するとおり、WinMXに限らず経由プロバイダが行う電 気通信は、送信者のコンピュータから経由プロバイダの用いる電気通信 設備に入力された電子情報を、送信の際に指定されたIPアドレスが割 り当てられた受信者のコンピュータに送信するのみであって、経由プロ バイダの視点を基準とした場合、送信者から受信者に対する電子情報の 送信は1対1でなされる電気通信であることは否めない。 イ しかしながら、経由プロバイダが行う情報の送信は送信者と受信者の 通信を「媒介」するものにすぎず、送信者とは異なる独自の目的に基づ いて行われるものではないから、法2条1号にいう「特定電気通信」に 該当するか否かは、送信者から経由プロバイダを経由して受信者に至る までの通信全体を1個のものとして包括的に評価すべきものであるし、 同号の文字からすると、その評価はもっぱら送信の目的が不特定の者に よって受信されることにあるか否かによって決すべきものと考えられる。 そうすると、経由プロバイダ自体の送信行為の態様やその目的のいかん にかかわらず、送信者の送信目的が同号に該当するものである以上、送 信者から受信者に至るまでの通信全体が同号にいう「特定電気通信」に 該当すると解すべきこととなる。 ウ また、Yらの主張するところによれば、情報をあらかじめプロバイダ のサーバに蔵置しておく電子掲示板等を用いるものを含めて、およそ経 由プロバイダが関与する通信は「特定電気通信」に該当しないこととな るが、立法の経緯等からして電子掲示板を用いた送信行為が特定電気通 信に該当することは明らかであるから、このような主張は到底採用でき ない。 エ Yらは、スパムメールの送信者が「不特定の者」に対して電子メール を送信しているにもかかわらず、 「不特定の者によって受信されることを 目的とした電気通信の送信」に該当しないと解釈されているのは、まさ に経由プロバイダによる送信の態様が1対1の通信であるからだと主張 する。 しかしながら、スパムメールの場合は、確かに送信者において受信者 がいかなる者かは確知していないものの、送信者としては、自ら電子メ ールアドレスを作成した上、そのメールアドレスを有する者に向けて送 信行為を行っているのであるから、それがたとえ多数同時に行われたと 106 3.著作権侵害に関する動向調査 しても、あくまで特定の相手方に向けた送信と評価できるのであり、ス パムメールによる送信行為が特定電気通信に該当しないのは、このこと に基づくものである。したがって、この点に関するYらの主張はその前 提を欠くといわざるを得ない。 オ なお、Yらは、Yらのような経由プロバイダの電気通信が「特定電気 通信」に該当するかは、立法過程で十分に検討されていないのであるか ら、守秘義務の解除について安易な拡張解釈は許されないと主張する。 しかし、前述のとおり法2条1号の文言と経由プロバイダの行為の性 質からすると、経由プロバイダを経由する通信につき、 「不特定の者によ って受信されることを目的とする電気通信」に該当するか否かを判断す る際、送信者の送信目的を基準とすることは、必ずしも不自然な理解で はなく、安易な拡張解釈というものには当たらない。 (4)そうすると、WinMX送信が「特定電気通信」に該当することは前 述のとおりであるから、この点に関するYらの主張は理由がない。 したがって、本件におけるWinMX送信は法2条1号の「特定電気通 信」に該当し、その送信が経由プロバイダの電気通信設備を経由して受信 者に到達する以上、当該電気通信設備は特定電気通信の用に供されている のであり、これを用いて他人の通信を媒介する経由プロバイダは法4条1 項の定める「開示関係役務提供者」に該当すると認められる。」 (ⅱ)Xの著作隣接権が侵害されたかについて、東京地裁は、つぎのように判示し た。 【東京地裁の判示】 (1)証拠及び弁論の全趣旨によれば、甲第3号証の1及び4号証の1のC D−Rに記録されたデータは、それぞれ本件ファイル1及び本件ファイル 2を複製したデータであり、これらのデータはパーソナルコンピュータで 再生することができるmp3形式(ファイル圧縮形式の一つ)サウンドの ファイルであり、それぞれ楽曲「真夜中は純潔」及び楽曲「Ring m y bell」と同一の音楽であること(甲1の1、2の1、3及び4の 各1及び2)が認められる。 したがって、本件ファイル1はXレコード1の中の楽曲「真夜中は純潔」 を、本件ファイル2はXレコード2の中の楽曲「Ring my bel l」をそれぞれmp3形式によって圧縮して複製したデータであることが 認められる。 (2)証拠及び弁論の全趣旨によれば、 「MX調査隊」は、WinMXを使用 するときに使用するポートを経由して、ポートのアクセス記録から、Wi nMX使用時の接続先のIPアドレス及び接続ホストを検索し、表示する 107 3.著作権侵害に関する動向調査 フリーソフトウェアであり(甲8ないし11)、Cは、本件ファイル1及び 2のダウンロード中に、 「MX調査隊」と題するソフトウェアを起動してお り、「MX調査隊」は、本件ファイル1のダウンロード先の接続ホストを 「◇◇◇◇◇(省略)」、接続IPアドレスを「○○○○○(省略)」と表示 し ( 甲 1 の 1 )、 本 件 フ ァ イ ル 2 の ダ ウ ン ロ ー ド 先 の 接 続 ホ ス ト を 「□□□□□(省略)」、接続IPアドレスを、「△△△△△(省略)」と表 示したことが認められる(甲2の1)。 そして、「MX調査隊」の信頼性について検討するのに、証拠(甲12) によれば、X代理人EがWinMXを用いて公開した電子ファイルを、別 のパーソナルコンピュータからWinMXを用いてダウンロードし、その 際に「MX調査隊」を用いてIPアドレスを確認した結果、3回の確認を 行って3回とも、その時点でX代理人Eに対し実際に割り当てられていた IPアドレスが正確に表示されたこと(甲10及び11)、「MX調査隊」 及びその他3種類のIPアドレス調査ソフトを同時に起動して、WinM Xへの接続を繰り返してその都度表示されるIPアドレスを確認した結果、 100回とも同一のIPアドレスが表示されたこと(甲12)が認められ、 その他これらのIPアドレス調査ソフトの信頼性に疑いを挟む証拠もない。 したがって、 「MX調査隊」が接続先として表示したIPアドレスは正確で あると認められる。 これらの事実及び前記2、1(4)の事実を総合すれば、平成16年4月1 3日午後4時51分ころ、Z1が本件ファイル1を送信した際に同人に割 り当てられていたIPアドレスは「○○○○○(省略)」であり、接続ホス ト名は「◇◇◇◇◇(省略)」であること(甲1の1、7ないし12)及び Z2が本件ファイル2を送信した際に同人に割り当てられていたIPアド レスは「△△△△△(省略)」であり、接続ホスト名は「□□□□□(省略)」 であったこと(甲2の1、7ないし12)が認められる。 (3)なお、Y2は、Y2の検索システムでは、平成16年4月6日午後8 時13分ころ、「△△△△△(省略)」というIPアドレスを使用する者が Y2のインターネット接続サービスを利用してインターネットに接続して いたかどうかについて、技術上確認できないと主張し、前記第2、1(6)に 認定した事実及びY2のPC監視履歴(丙1)によれば、同日午後5時4 8分及び同月7日午前5時48分において、「△△△△△(省略)」という IPアドレスを使用する者がY2のインターネット接続サービスを利用し てインターネットに接続していた事実が認められるにとどまり、その間の 通信履歴は確認されていない。 しかし、前記第2、1(6)に認定した事実を総合すれば、同月6日午後5 時48分から同月7日午前5時48分の間に「△△△△△(省略)」という IPアドレスを使用して行われた通信は、同一の端末を経由して実行され たものであることが認められる。そうすると、これらの通信を行った人物 108 3.著作権侵害に関する動向調査 と、平成16年4月6日午後8時13分ころに同じIPアドレスを使用し ていたZ2とは同一人物であると認められ、Y2は同日午後5時48分に 上記IPアドレスを使用していた者の氏名及び住所に関する情報を保有し ている旨を自認している。 したがって、Y2はZ2の氏名及び住所に関する情報を保有しており、 それは同日午後5時48分に上記IPアドレスを使用していた者の氏名及 び住所に関する情報と同一のものと認めることができる。 (4)上記の事実、前記第2、1(4)の事実及び弁論の全趣旨によれば、Z1 は本件ファイル1を、ユーザーcrownは本件ファイル2を、それぞれ インターネット回線を通じて自動的に送信しうる状態においていたことが 認められるから、これによってXレコード1及びXレコード2に対するX の送信可能化権がそれぞれ侵害されたこと、Z1及びZ2の発信者情報が Xの損害賠償請求権の行使のために必要であること(法4条1項1号、同 項2号)は明らかであり、他にこれを覆すに足りる証拠はない。」 (4)解説 名誉毀損やプライバシー侵害の事案であるが、プロバイダ責任制限法4条1項 に基づいて,経由プロバイダに対する発信者情報の開示請求が裁判例上認められ てきた(東京高裁平成 16 年 5 月 26 日判決,東京地裁平成 16 年 1 月 14 日判決, 東京地裁平成 15 年 11 月 28 日判決,東京地裁平成 15 年 9 月 17 日判決,東京地裁 平成 15 年 9 月 12 日判決など)。 本件は、著作権侵害の事案についても、同様の解釈が採られた事案である。 3.2.7 バナー広告事件 名古屋地方裁判所平成 16 年(ワ)第 3697、48344 号・平成 17 年 6 月 30 日 判決 ・・・バナー盗用の事案 (1)事案 Xは、文字と図柄からなるバナー1と連続映像と文字からなる動画バナー2を 作成し、自己のサイト内に掲載して、公衆送信していた。Yは、自己のサイトに バナー1を6ヶ月間、バナー2を3ヶ月間、Xに無断で掲載して使用していた。 利用者がバナー1もバナー2をクリックすると、第三者のサイトにリンクするが、 バナー2についてはXもYもリンク先の第三者と広告掲載契約を締結して広告料 を受け取っていた。 そこで、Xは、Yに対して著作権侵害に基づき損害賠償(715万円余り)を 請求して、名古屋地裁に提訴した。名古屋地裁は、請求額の一部(56万円)を 認容した。 109 3.著作権侵害に関する動向調査 (2)争点 (ⅰ)損害賠償額 (3)判旨 名古屋地裁は、損害賠償額についてつぎのように判示した。 【名古屋地裁の判示】 2 著作権法114条2項による損害額の推定について 著作権法114条2項は, 「著作権者……が故意又は過失によりその著作権 …を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場 合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その 利益の額は,当該著作権者……が受けた損害の額と推定する。」と定めている ところ,同項は,著作権侵害行為によって得た利益をもって著作権者が受け た損害額と推定するにとどまり,損害の発生自体を推定するものではない。 ところで,前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,本件各バナーは,X 及びYの開設に係る各サイトに掲載された長方形状のグラフィック表示であ って,そのサイトにアクセスして開いた人が,サイト内の本件各バナーをク リックすることによって別のサイトが開くものであること(そのサイトを開 設している者との間で広告掲載契約が締結されている場合には,広告料収入 を得ることができる。),したがって,Y各サイトに本件各バナーが掲載され て公衆送信されても,本件各バナーそれ自体が受信複製物として利用価値を 有するものではなく,現に,Xサイト及びY各サイトのいずれにおいても, 本件各バナー自体をアクセスした人等に有料で利用させているものではない こと,しかも,Xサイト及びY各サイトを開いて初めて,そこに掲載された 本件各バナーを認識することが可能であること,以上の事実が認められる。 そうすると,Yが,Y各サイトにおいて,本件各バナーを掲載することに より公衆送信したからといって,Xサイトにアクセスする人数やXサイトに 掲載された本件各バナーのクリック数が減少するという関係を認め難いから, 得べかりし利益喪失によるXの損害発生はあり得ず,したがって,本条2項 を適用する余地はないと解するのが相当である。 3 著作権法114条3項による使用料相当額について (1)前記前提事実に証拠(甲A4の1,A5ないし7,甲B2ないし12, 乙1の1・2,2の1・2,4の1ないし27,5)及び弁論の全趣旨を 総合すると, …… (2)前記認定事実によれば,本件バナー1については,その制作費見積額, バナーの形状・機能,これ自体によって利益が発生するものではないこと, Yによる侵害状況,侵害期間が約6か月間であること等を総合考慮すれば, 110 3.著作権侵害に関する動向調査 Xが著作権の行使について受けるべき金銭の額は,総額で3万円であると 認めるのが相当であり,本件バナー2については,そのバナーの形状・機 能,収入状況,侵害状況,延べ侵害期間が約11か月間であること等を総 合考慮すれば,Xが著作権の行使について受けるべき金銭の額は,総額で 44万円と認めるのが相当である。 4 慰謝料について 法人については,一般に,不法行為による精神的苦痛を想定することが できないことから,慰謝料請求権の発生を観念することは困難というべき である。もっとも,法人についても,信用毀損による無形の損害の賠償請 求権を肯定することはあり得るが,本件においては,Yの著作権侵害行為 によって,Xの信用が低下したことを認めるに足る証拠はない。 5 弁護士費用について Xが,本訴の提起,遂行のため,弁護士であるX代理人に訴訟委任した ことは記録上明らかであるところ,本訴請求の認容額,原・Yの主張立証 状況,本訴提起によってYが本件各バナーの使用を中止したこと,その他 本件に顕れた一切の事情を考慮すると,Yの著作権侵害の不法行為と相当 因果関係のある弁護士費用としては,甲事件について1万円,乙事件につ いて8万円とするのが相当である。 (4)解説 民法の原則によれば,Yによる著作権侵害によってXが失った利益額について 損害賠償が認められる(民法709条)。しかし,Yによる著作権侵害がなければ Xがいくらの売上を上げていたか,したがっていくらの利益を上げていたかは, 仮定の話になるので立証が困難となる。そこで,著作権法114条は,3つの代 替的損害立証手段を設けている。すなわち,①Xの著作物販売における1つ当た りの限界利益に,Yの著作権侵害物の販売数量を乗じた額を,損害賠償額とする ことができる(114条1項)。②Yが著作権侵害物の販売によって得た利益を損 害賠償額と推定する(114条2項)。③Xの著作物の利用許諾料相当額を損害賠 償額とすることができる(114条3項)。 通常,①と②による損害賠償額は高額になる。本件では,Xが②による損害賠 償を求めたが、裁判所は、Xによる損害額に立証がないので②による損害賠償の 請求を棄却し,③による損害賠償を認容したものである。 3.2.8 ニュースヘッドラインサービス事件(控訴審) 知的財産高等裁判所平成 17 年(ネ)第 10049 号・平成 17 年 10 月 6 日判 決 ・・・新聞見出しをウェブページに無断掲載した事案 111 3.著作権侵害に関する動向調査 (1)事案 Xは,日刊新聞の発行等を業とする株式会社であり,その運営するホームペー ジ「Yomiuri On-Line」(以下「ヨミウリ・オンライン」という。)において,Xの ニュース記事本文(以下「YOL 記事」という。)及びその記事見出し(以下「YOL 見出し」という。)を掲出している。Xはヤフーに対し,ヨミウリ・オンラインの 主要なニュースを有償で使用許諾することなどを内容とする契約を締結し,この 契約に基づき,ヤフーサイト上の「Yahoo!ニュース」には,YOL 見出しと同一の記 事見出しが表示されており,同記事見出しをリンクボタンとして,ヨミウリ・オ ンラインの YOL 記事のウェブページにリンクし,YOL 記事と同一の記事が表示され る。なお, 「Yahoo!ニュース」には,Xの YOL 見出し以外に,他の報道機関の記事 見出しも表示されており,それらの記事見出しも,提供先の各報道機関のニュー スサイトにおける記事本文のウェブページをリンク先としたリンクボタンとされ ていた。 Yは,デジタルコンテンツの企画・制作等を業とする有限会社であり,インタ ーネット上で「ライントピックス」と称するサービスを提供していた。当該サー ビスにおいて,Yは,自己のウェブサイトに,ヤフーサイト上の「Yahoo!ニュー ス」へのリンクを張り,そのリンクボタンの多くを「Yahoo!ニュース」記事の「見 出し」語句と同一の語句を使用していた。Yは、当該サービスとして,Yは,利 用者登録した者にYリンク見出しのデータを送信し,また,Yサイトにおいて, 当該Yリンク見出しを表示していた。 そこで,Xは,東京地裁に訴えを提起し,著作権(公衆送信権・複製権)侵害 に基づいて,また,予備的に不法行為(控訴審で、不正競争防止法違反を追加) に基づいて,Yによる YOL 見出しの複製・頒布などの差し止めと損害賠償を求め た。東京地裁民事第29部がXの請求をいずれも棄却したが、知財高裁は、不法 行為に基づいて損害請求額の一部を認容した(23万円余り)。 (2)争点 ①著作権侵害 ②不正競争防止法2条1項3号違反 ③不法行為 ④損害額 (3)判旨 (ⅰ)著作権侵害について、知財高裁は、つぎのように判示して、Xの記事見出し について著作物として成立する可能性を否定しはしなかったが、具体的にXの記 事見出し検討し結局すべてについて創作性を否定し、著作権侵害の主張を退けた。 【知財高裁の判示】 一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の 内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約がある 112 3.著作権侵害に関する動向調査 ほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現 の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないこと は否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易では ないものと考えられる。 しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにす べてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべ きものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないでは ないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創 作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。」 (ⅱ)不正競争防止法2条1項3号違反について、知財高裁は、つぎのように判示 して、その成立を否定した。 【知財高裁の判示】 不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」とは,需要者が通常 の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部 及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感である と解するのが相当である(平成17年6月22日成立の平成17年法律第7 5号「不正競争防止法等の一部を改正する法律」は,上記と同旨の定義規定 を設けた。本件に同改正法が適用されるものではないが,上記改正は,従来 の判例などにより一般に受け入れられた解釈に基づいて規定を明確化したも のと解されるので(産業構造審議会知的財産政策部会不正競争防止小委員会 「不正競争防止法の見直しの方向性について」平成17年1月),改正前の法 律の解釈としても相当なものである。)。 そうすると,仮に,YOL見出しを模倣したとしても,不正競争防止法2 条1項3号における「商品の形態」を模倣したことには該当しないものとい うべきであって,その余の点について判断するまでもなく,Xの不正競争防 止法違反を理由とする本訴請求は,理由がない。」 (ⅲ)不法行為について、知財高裁は、つぎのように判示して、その成立を認めた。 【知財高裁の判示】 (2)不法行為(民法709条)が成立するためには,必ずしも著作権など 法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保 護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するも のと解すべきである。 インターネットにおいては,大量の情報が高速度で伝達され,これにア クセスする者に対して多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。 しかし,価値のある情報は,何らの労力を要することなく当然のようにイ ンターネット上に存在するものでないことはいうまでもないところであっ 113 3.著作権侵害に関する動向調査 て,情報を収集・処理し,これをインターネット上に開示する者がいるか らこそ,インターネット上に大量の情報が存在し得るのである。そして, ニュース報道における情報は,Xら報道機関による多大の労力,費用をか けた取材,原稿作成,編集,見出し作成などの一連の日々の活動があるか らこそ,インターネット上の有用な情報となり得るものである。 そこで,検討するに,前認定の事実,とりわけ,本件YOL見出しは, Xの多大の労力,費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したも のといえること,著作権法による保護の下にあるとまでは認められないも のの,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,簡潔な表現によ り,それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解 ができるようになっていること,YOL見出しのみでも有料での取引対象 とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があるこ となどに照らせば,YOL見出しは,法的保護に値する利益となり得るも のというべきである。一方,前認定の事実によれば,Yは,Xに無断で, 営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成 されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL 記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーな いし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自ら のホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設 置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的 にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピ ックスサービスがXのYOL見出しに関する業務と競合する面があること も否定できないものである。 そうすると,Yのライントピックスサービスとしての一連の行為は,社 会的に許容される限度を越えたものであって,Xの法的保護に値する利益 を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。 (3)損害についてみるに,XがYに対し請求し得る損害は,Yが無断でY OL見出しを使用したことによってXに生じた損害である。 (a) …… 以上のように,XにはYの侵害行為によって損害が生じたことが認め られるものの,使用料について適正な市場相場が十分に形成されていな い状況の現状では,損害の正確な額を立証することは極めて困難である といわざるを得ない。そうであってみると,民訴法248条の趣旨に徴 し,一応求められた上記損害額【Xの契約実例】を参考に,前記認定の 事実及び弁論の全趣旨を勘案し,Yの侵害行為によってXに生じた損害 額を求めると,損害額は1か月につき1万円であると認めるのが相当で ある。 そうすると,Xに生じた損害額は,侵害期間が23か月24日間で, 1か月につき1万円であるから,23万7741円(1万円×(23+ 114 3.著作権侵害に関する動向調査 24/31))であるということができる。 (b)Xは,無形的損害として1000万円を主張するが,本件全証拠によ っても,Yの前記行為に起因して,Xの社会的信用及び信頼並びに報道 機関としての公平性,中立性に関する評価などが毀損されたことを認め るには足りない。よって,Xの無形的損害の請求は理由がない。 (c)弁護士費用については,上記(a)の認定額がXの当初の請求額や減縮 後の請求額(いずれも差止請求部分を含む。)に照らし,著しく僅少であ る上,YもXの請求額に対応しないまでもある程度の弁護士費用の負担 を余儀なくされていることが容易に想像され,しかも,Xが当裁判所が 判断したような相当額の支払いを求めて適切な事前交渉をしているとは 認められない本訴においては,YにXが要した弁護士費用を負担させる のは相当ではない。 (d)以上のとおりであるから,認容されるべき損害額は,23万7741 円である。 (4)不法行為に基づく差止請求について検討する。 一般に不法行為に対する被害者の救済としては,損害賠償請求が予定 され,差止請求は想定されていない。本件において,差止請求を認める べき事情があるかを検討しても,前認定の本件をめぐる事情に照らせば, Yの将来にわたる行為を差し止めなければ,損害賠償では回復し得ない ような深刻な事態を招来するものとは認められず,本件全証拠によって も,これを肯認すべき事情を見いだすことはできない。 よって,Xの不法行為に基づく差止請求は理由がないというほかない。 (4)解説 (ⅰ)記事見出しの著作物性 小説や論説に著作物性が認められることについては争いがない。では,著作物 性はどこまで短い文章に認められるか。短歌や俳句が,著作物性の認められる最 も短いものといわれている。問題は,短い文章に,創作的な表現が可能か,であ る。 短歌や俳句に創作性があることは明らかである。他方,事件記事の見出しは, 実際に起こった事件内容を伝えるという使命から,その文章表現には限りがある。 したがって,事件記事の見出しは,その文章表現がありふれたものであって創作 性が認められないこととなる。 本件の高裁判決は、本件の地裁判決と同様、記事見出しについて創作性を検討 し、結果においてすべての記事見出しの創作性を否定した。 (ⅱ)非著作物に対する不法行為法による保護 本件の記事見出しのように、著作物性が認められず、著作権の保護が否定され るものについて、そのコピーに対して不法行為の成立を認めて保護を与えるべき 115 3.著作権侵害に関する動向調査 か。 タイプフェイスについて、タイポス書体事件の東京高裁昭和57年4月28日判 決は、国民の共有財産であるべき文字が事実上私人の独占するところとなり国民 による文字の自由使用が不可能のなるとの理由で、不法行為の成立を否定した。 他方、写真植字文字盤製造事件の大阪地裁平成1年3月8日判決は、結局不法行 為の成立を認めなかったが、 「前記判示の著作物性の認められない書体であっても、 真に創作性のある書体が、他人によって、そっくりそのまま無断で使用されてい るような場合には、これについて不法行為の法理を適用して保護する余地はある」 と判示した。本判決は、この肯定説に一事例を付け加えるものである。 なお、他人所有物の無断撮影について、ガス気球事件の東京地裁昭和52年3 月17日判決(過失を否定)、クルーザー事件の神戸地裁伊丹支部平成3年11月 28日判決、競走馬事件の名古屋地裁平成12年1月19日判決および同名古屋 高裁平成13年3月8日判決は、不法行為の成立を肯定した。たとえば、ガス気 球事件の東京地裁判決は、 「そもそも、所有者は、その所有物の範囲を逸脱しもし くは他人の権利・利益を侵害する等の場合を除いて、その所有物を、如何なる手 段・方法によっても、使用収益することができる(従って、所有物を撮影してそ の映像を利用して使用収益することもできる)、と解すべきである。」と判示した。 しかし、競走馬事件の最高裁平成16年2月13日判決は、 「競走馬等の物の所 有権は,その物の有体物としての面に対する排他的支配権能であるにとどまり, その物の名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能に及ぶものでは ないから,第三者が,競走馬の有体物としての面に対する所有者の排他的支配権 能を侵すことなく,競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物と しての面における経済的価値を利用したとしても,その利用行為は,競走馬の所 有権を侵害するものではないと解すべきである(最高裁昭和58年(オ)第17 1号同59年1月20日第二小法廷判決・民集38巻1号1頁参照)。」と判示し て、このような考え方を真正面から否定している。 3.2.9 米国グロックスター事件(上告審) 米国連邦最高裁 2005 年 6 月 27 日判決 Metro-Goldwyn-Mayer v. Grokster, 125 S.Ct. 2764 (2005) ・・・非集中管理型P2Pソフトの配布者の著作権侵害責任が問われた 事案 (1)事案 Xらは,多数の作詞家,音楽出版社および映画会社であり,米国内の大半の音 楽および映画の著作権を保有している。 Yらは,非中央管理型ファイル・シェアリング・システムである Grokster およ び Morpheus のプログラムを配布する会社2社である。 Xらの調査によれば,Yらのプログラムを使ったファイル・シェアリング・シ ステムによって交換されているファイルのうち90%以上が著作権侵害物であり, 116 3.著作権侵害に関する動向調査 うち70%についてXらが著作権を保有しているものであった。 そこで,Xらは,Yらのプログラムの利用者による著作権侵害について,Yら が寄与侵害責任および代位侵害責任を負うと主張して,カリフォルニア中部地区 連邦地方裁判所に,著作権侵害訴訟を提起した。Yらが寄与侵害責任および代位 侵害責任の不成立を認める事実審理省略判決を申し立てたのに対して,連邦地裁 は,Yらの主張を認めて,寄与侵害責任および代位侵害責任は成立しないと判示 した。控訴審の第9巡回区連邦控訴裁判所も,連邦地裁の判断を正当として,改 めて寄与侵害責任および代位侵害責任は成立しないと判示した。 上告を受理した連邦最高裁は、以下のとおり、寄与侵害責任を認める判決を下 した。 (2)争点 (ⅰ)寄与侵害責任の成立 (3)判旨 (ⅰ)法廷意見 連邦高裁は、ソニー・ベータマックス判決を反対解釈して、実質的な非侵害用 途のある物を頒布する者には具体的侵害について認識がない限り寄与侵害が成立 しないと判示したが、連邦最高裁はこれを誤りであると判示した。 そして、以下のように、実質的な非侵害用途のある物を頒布する者は、侵害を 扇動する意図で行うときには、具体的侵害について認識がなくても、寄与侵害責 任の成立に必要な「認識」の要件を満たす、と判示した。 【連邦最高裁の判示】 ソニー判決の法理は、頒布された製品の性質または用途から、法律上、不 法の意図を擬製する場合を限定したものである。しかし、ソニー判決は、そ のような意図が存在する場合にこれを無視することを裁判所に要求するもの ではないし、コモンローに由来する帰責事由に基づく責任の法理を排除しよ うとしたものではない。……したがって、侵害の用途に使われうるという製 品の性質や認識を越える証拠があり、かつ侵害の促進に向けた表現や行動の 証拠がある場合には、ソニー判決の汎用製品の法理は責任を排除しない。 …… ソニー判決が特許法の汎用製品法理を著作権の責任制限法理のモデルとし て採用したのと同じ理由に基づいて、侵害教唆の法理も著作権に当てはまる 法理である。当裁判所は、これをここに採用し、著作権を侵害する使用を扇 動する目的(侵害を扇動するために採られた明白な表現や積極的な行動によ って示されるような)をもって装置を頒布する者はその結果生じる第三者に よる侵害行為に対して責任を負うことを判示する。 以上の侵害教唆の法理に従って、連邦最高裁はYらに侵害を扇動する言動があ 117 3.著作権侵害に関する動向調査 ったかを検討し、これを肯定する証拠が存在すると判示した。 その上で、原判決を破棄し差し戻した。 (ⅱ)ギンズバーグ判事の賛成意見 ギンズバーグ判事は、実質的な非侵害的用途があると認定するだけの証拠がな いので、そもそもソニー判決の法理に従っても寄与侵害を否定する事実審理省略 判決を下すことはできないと述べる。 (ⅲ)ブレイヤー判事の賛成意見 ギンズバーグ判事の賛成意見に反対して、実質的な非侵害的用途があると認定 するだけの証拠があるとし、本件は、ソニー判決の法理ではなく侵害教唆の法理 を採用する必要があると述べる。 (4)解説 (ⅰ)米国著作権法における寄与侵害の法理 米国の寄与侵害の法理は,日本法における侵害の教唆・幇助と特許法 102 条の 間接侵害の理論を含んだ理論である。すなわち,(i)侵害行為にも非侵害行為にも 使えるものを提供する場合には,その提供者は,被提供者が侵害行為に使用する ことについて故意または過失があったときに責任を問われる(=日本法における 侵害の教唆・幇助)。また,(ii)侵害にしか使えないものを提供する場合には,そ の提供者は,被提供者が侵害行為に使用することについて故意・過失を問わず責 任を問われる(=日本法における特許法 102 条の間接侵害の理論)。 寄与侵害の成立要件は、①侵害の認識(knowledge=know or have reason to know) と、②侵害への重要な寄与(material contribution)である。①侵害の認識は、 行為類型によって、必要とされる行為者の主観が異なる。 第1は、侵害専用物類型(Sony Corp. v. Universal City Studios, 464 U.S. 417 (1984))であり、実質的な非侵害用途のない物の提供者には、侵害の認識が擬制 される(constructive knowledge)。 第2に、不作為犯類型(Religious Technology Center v. Netcom, 51 PTCJ 115 (N.D. Cal. 1995))であり、侵害行為にも非侵害行為にも使えるものを提供し、 意図せずして侵害行為を幇助する結果を生じた場合には、具体的侵害行為 (specific infringement)について現実の認識(actual knowledge)が必要とさ れる。本件の控訴審は、本件事案を第2類型と解して、被告に現実の認識を欠く から寄与侵害は成立しないと認定した。 第3に、侵害扇動者類型(本件のグロックスター最高裁判決)であり、侵害を 扇動する意図を持って、侵害行為にも非侵害行為にも使えるものを提供した場合、 扇動意図(intent to promote infringing use)の立証で侵害の認識を満たすと 考えられる。 118 3.著作権侵害に関する動向調査 (ⅱ)豪州カザー事件(Universal Music Australia Pty V Sharman License Holdings Ltd, No. FCA 1242, September 5, 2005) オーストラリアの連邦地方裁判所(ニュー・サウス・ウェールズ)も、グロッ クスターと同様の非集中管理型P2Pシステムであるカザーを配布する被告に対 して、ユーザーが著作権侵害に利用することを知りながらかつこれを防止する手 段を執りうるのにこれを執らずさらにはこれを扇動したとして、著作権侵害を認 定した。 119 4.商標権侵害に関する動向調査 4. 商標権侵害に関する動向調査 4.1 プロバイダ等、事業者相談センターの対応状況 4.1.1 商標権侵害及びその他の対応事例 事例 № 03031 タイトル ネット・オークションでの送信防止措置請求の対応(その1) 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・商標権侵害関係 情報表示場所 ・ネット・オークション プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 ネット・オークション 申立内容 申立人の登録商標を付した携帯電話端末の機能のうち、他社との 携帯電話加入契約に自社用の携帯電話端末を使用できないようにす るための機能(SIM ロック)を解除したうえで、当該携帯電話に申 立人の登録商標を付したまま、インターネット・オークションに当 該携帯電話を出品する行為は、申立人が商標の使用を認めた当初の 品質と異なる品質の商品に申立人の登録商標を付して販売する行為 であり、申立人の登録商標を侵害する。 事業者の対応 ①当該携帯電話はいったん商標権が消尽した商品ではあるが、改造 により当初の品質と異なる品質の製品として原商標を付したまま 販売に供する行為は、商標の品質表示機能を害する行為である。 ②「SIM ロック解除済み」の商品として出品しているものであり、 購入者が出所や品質を誤認混同しないとも考えられるが、購入者 からの転得者等が誤認混同するおそれはあり、また、改造により 改造部分以外に不具合が生じることもあり、これにより商標権者 の製品の品質対する評価が低下するおそれもあり、商標の品質表 示機能が害される。 ③任天堂ファミリーコンピュータの改造品を、原商標を付したまま、 混同防止措置をとった上で販売した事案について商標権侵害を認 めた東京地裁平成4年5月27日判決と類似の事案である →以上より、商標権侵害といいうると判断し、送信防止措置をとった。 対応上の留意点 等 120 4.商標権侵害に関する動向調査 事例 № 03032 タイトル ネット・オークションでの送信防止措置請求の対応(その2) 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・商標権侵害関係 情報表示場所 ・ネット・オークション プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 ネット・オークション 申立内容 申立人の登録商標と同一または類似の標章を付した申立人の商品 (有名ブランド品)の模倣品をインターネット・オークションに出 品する行為が、申立人の商標権を侵害する。 事業者の対応 ①申告者は侵害を主張している商標の権利者である ②出品物は上記登録商標の指定商品に該当する ③本件出品物に付された標章は申告者の上記登録商標と類似してい る ④当該標章の付された本件出品物を出品する行為は商標法 2 条 3 項 2 号に該当する ⑤権利者の申告内容から、無許諾での使用と認められる →以上により、情報の流通による商標権侵害が明白といえると判 断し、送信防止措置を採った。 対応上の留意点 等 121 4.商標権侵害に関する動向調査 事例 № 03033 タイトル ネット・オークションでの送信防止措置請求の対応(その3) 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・商標権侵害関係 情報表示場所 ・ネット・オークション プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 無 ネット・オークション 申立内容 インターネット・オークションに、申立人の登録商標を付した商 品(衣類)が数百点出品されていたことにつき、 「当該商品は同社運 営のインターネット通販以外の流通経路がないことから、本件出品 物は商標権者の意に基づかずに流出した商品であり、申立人の商標 権を侵害するものである」との主張があり、弊社が提供する知的財 産権保護プログラム B(知財権利者に、弊社に対して簡易な方式で 出品削除要請をすることを許可するプログラム)に参加したうえで、 本件出品物の削除請求をしたいとの申出があった。 事業者の対応 ①弊社にとっては、当該商品につき、他の流通経路があるか否か、 明らかではない ②仮に権利者の主張とおり、他の流通経路がなかったとしても、な んらかの方法により中古品が大量に集積される可能性は一定程度 存在し、数百点の出品が商標権侵害に当たることが明白とはいえ ない。 →以上より商標権侵害が明白とはいえないと判断し、知的財産権 プログラム B への参加は断り、商標権侵害が明白であることにつ いて詳細な主張・立証をするように求めたところ、申立人から、 本件出品物の出品者および弊社を被告とする訴訟が提起された。 対応上の留意点 等 122 4.商標権侵害に関する動向調査 事例 № 03034 タイトル ネット・オークションでの送信防止措置請求の対応(その4) 対応依頼内容 ・送信防止措置請求 権利侵害の種類 ・商標権侵害関係 情報表示場所 ・ネット・オークション プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 ネット・オークション 申立内容 インターネット・オークションにオートバイを出品し、出品画面 に出品したオートバイの写真を掲載するとともに出品物のタイトル に「DAX110」と表示する行為が、二輪自動車を指定商品とす る「DAX」という申立人の登録商標を侵害する。 事業者の対応 ①出品された商品自体には申立人の登録商標と同一または類似の標 章は付されていないが、出品画面において出品物を指し示すもの としてタイトルに「DAX110」と表示されている ②商品説明部分に「エンジンは・・・モンキー用110CCと同じ」 とあることから、 「DAX110」のうち「110」の部分はエンジ ンの排気量を示すもとの理解されることを考えると、「DAX11 0」の要部は「DAX」といえ、 「DAX110」と申立人の登録商 標「DAX」とは類似するといいうる ③インターネット・オークションの出品画面は出品商品の広告といえ、 当該画面中に出品物を指し示す標章を表示する行為は、商標法 2 条 3 項 8 号に該当する →以上により商標権の侵害が認められると判断し、送信防止措置 をとった。 対応上の留意点 等 123 4.商標権侵害に関する動向調査 事例 № 03035 タイトル ネット・オークションでの発信者情報開示請求の対応(その1) 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・商標権侵害関係 情報表示場所 ・ネット・オークション プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 ネット・オークション 申立内容 インターネット・オークションに二輪自動車を出品し、出品画面 に出品した二輪自動車の写真を掲載するとともに出品物のタイトル に「DAX110」と表示する行為(「DAX110」は出品タイト ル文字列の一部)が、二輪自動車を指定商品とする「DAX」とい う申立人の登録商標を侵害する。 事業者の対応 ①商品自体には登録商標と同一または類似の標章は付されていない ②また、商品説明の中に「DAXタイプ」とあり、自他商品識別機 能を害しない可能性もある →以上により、権利侵害が明白とまではいえないと判断し、開示相 当ではないと判断した。 対応上の留意点 等 124 4.商標権侵害に関する動向調査 事例 № 03036 タイトル ネット・オークションでの発信者情報開示請求の対応(その2) 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・商標権侵害関係 情報表示場所 ・ネット・オークション プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 ネット・オークション 申立内容 インターネット・オークションに、申立人の登録商標と同一また は類似の標章を付した申立人の商品の模造品を出品する行為が、申 立人の商標権を侵害する。 事業者の対応 ①発信者に意見照会を行い、回答無し ②申告者は侵害を主張している商標の権利者である ③出品物は上記登録商標の指定商品に該当する ④本件出品物に付された標章は申告者の上記登録商標と類似してい る ⑤当該標章の付された本件出品物を出品する行為は商標法 2 条 3 項 2 号に該当する ⑥権利者の申告内容から、無許諾での使用と認められる →以上により、情報の流通による商標権侵害が明白といえると判 断し、発信者情報開示を行った。 対応上の留意点 等 125 4.商標権侵害に関する動向調査 事例 № 03037 タイトル 企業秘密権の侵害の対応 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求 権利侵害の種類 ・その他( 情報表示場所 ・電子掲示板 企業秘密権 ) プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 被害主張者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 有 他社管理電子掲示板 申立内容 本件の請求者は携帯電話機を販売する企業である。請求者は、近 日発売予定となっていた携帯電話機の外観を撮影した画像ファイル が、公式発表前であるにもかかわらず、当社顧客により当社の管理 外にあたる他社の電子掲示板にアップロードされていることを確認 した。 請求者は上記の事実によって「企業秘密権」の侵害を受けたと主 張。当該顧客に対する損害賠償請求訴訟の提起を予定し、プロバイ ダ責任制限法に基づく発信者情報の開示を当社に対し要求した。 事業者の対応 請求者によれば「企業秘密権」の侵害を受けたとのことであるが、 手続の中で提示を受けた証拠資料(=当該投稿の存在を証する画面 のハードコピー)のみからでは、当該機器がいかような位置づけを 受けていたのかにつき、当社としての確証を得られなかった。 意見照会にあたり、当社では当該顧客に対して権利侵害に関する 事実を一応において裏付ける情報を必要に応じて摘示せねばならな い場合がある。そこで、これらの点に関する確認と追加資料の提出 を当社より求めたところ、請求者から返答が返ってこなかった。こ のため当社はそれ以後の対応を保留・凍結した。 対応上の留意点 等 126 4.商標権侵害に関する動向調査 事例 № 03038 タイトル 電子掲示板への自殺をほのめかす書き込みの対応 対応依頼内容 ・発信者情報開示請求関連 権利侵害の種類 ・ 情報表示場所 ・電子掲示板 ・その他 プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及 制限法の言及 権利侵害等の発 [申立者] 第三者 生状況 [情報の表示場所詳細] [発信者] 当社会員 無 電子掲示板 事業者からの相 第三者から当社宛に、電子掲示板に自殺をほのめかす書き込みが 談内容 あったと申告があった。これまで、警察より同じような問合せがあ り、対応した事例があるが、第三者から申告があった例は覚えがな く、現在対応に苦慮している。申告者に対する対応、該当者(書き 込みを行った者)に対する対応で何かあれば、助言いただきたい。 事業者相談セン 第三者からの申告ということで、第三者にも、書き込みを行った ターの回答 者にも確認するには、対応を慎重に行わないと難しい。 第三者に対して、警察に通報していただくよう回答するのがよい のではないか。 対応上の留意点 自殺をほのめかす書き込みについては、警察に通報していただき、 等 警察から連絡のあった場合は、 「インターネット上の自殺予告事案へ の対応に関するガイドライン」に沿って対応するのが、迅速な対応 が可能となる。下記 URL に同ガイドラインが掲載されている。 http://www.telesa.or.jp/consortium/other/guideline_suicide_0 51005.pdf 127 4.商標権侵害に関する動向調査 4.2 判例、裁判上の係争事項等(商標権関係) 4.2.1 eサイト商標権侵害事件 東京地方裁判所平成 16 年(ワ)第 12137 号・平成 16 年 12 月 1 日判決 ・・・ホームページで使用された商標が商標権侵害を問われた事案 (1)事案 Xは、商品の販売に関する情報の提供などを指定役務とする登録商標「e−s ight」を保有する。Y(NTTドコモ)は、そのホームページで, 「(ドコモ) eサイト」等の標章を使用して携帯電話に関連する商品に関する情報の提供等を 行っている。 そこで、Xは、Yに対して商標権侵害に基づいて差止および損害賠償を求めて、 東京地裁に提訴した。東京地裁は、以下のとおり、類似性を否定して、Xの請求 を棄却した。 (2)争点 ①商標の類似性 ②役務該当性及び役務の類似性 ③商標的使用該当性 ④普通名称・記述的表示 ⑤Xの損害 (3)判旨 東京地裁は、つぎのように判示して、類似性を否定した。 【東京地裁の判示】 1 商標の類似性について (1)本件商標について ア 称呼 本件商標から, 「イーサイト」との称呼が生じることは,当事者間に争 いがない。 イ 観念 Xは,本件商標より「eの光景」の観念を生じる旨主張するが, 「eの 光景」というだけでは,その意味するところは必ずしも明確でなく,更 にその意味するところを探求する必要がある。 そして,証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば, 「e」の文字は「電子 の,インターネットの」との意味を有するものとして広く使用されてい るものと認められ,本件商標がこの「e」と「sight」という語か ら構成されていることからすれば,本件商標からは「インターネット上 の光景」との観念が生じるものと認められる。 128 4.商標権侵害に関する動向調査 (2)Yドコモ標章について ア 構成 前記争いのないYドコモ標章の構成によれば,同標章は,左側に大き く多少丸みを持たせた「e」の文字を青色で縁取りした黄色で大きく表し, その右側下段に片仮名の「サイト」の文字を青色で縁取りした白色で表 し, 「サイト」の文字の上段に「サイト」の約2分の1の大きさの「ドコ モ」の文字を青地に白抜きで表したものである。 イ 「e サイト」から生じる観念 (ア)証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年9月当時,「e」 の文字は, 「電子の,インターネットの」との意味を有するものとして広 く使用されていたことが認められる。 証拠(乙7)及び弁論の全趣旨によれば,同当時, 「サイト」の語は, 「イ ンターネット上で提供される各種コンテンツが登録されている場所」と いった意味で「ウェブサイト,ホームページ」と互換的に用いられてい る語であったことが認められる。 そして,証拠(乙8の2・4)及び弁論の全趣旨によれば,「e」と「サ イト」とが組み合わされた「e サイト」という語は,使用例(乙12∼1 6)や「e サイト」の商標登録の拒絶(乙8の2・4)を考慮しても, 「イン ターネット上のホームページ」を指称するものとして一般的に普及して いたものとまで認めることはできないが,インターネットが広く発達・ 普及した同当時の社会経済状況にかんがみれば, 「インターネット上のサ イト」を意味すると需要者等に理解されたものと認められる。そうする と,「e サイト」の部分は,インターネットに関連して使用された場合, 識別力が弱いと考えられる。 (イ)Xは,英単語「sight」は,英語教育の初期段階で学習される言葉で あるから, 「e サイト」は「e−sight」の意味でも観念される旨主張 する。 確かに,弁論の全趣旨によれば,「sight」は,我が国における英語教 育上比較的早い段階で学習される単語であることが認められるが,「e サ イト」の標章に接した需要者等は, 「e」と組み合わされた「e サイト」か らウェブサイトを意味する「esite」を自然に観念するのに対し,「イン ターネット上の光景」を意味する「e−sight」を観念することは極 めて困難であると認められる(本件商標が登録された理由も,「e−si ght」から「ウェブサイト」の観念が生じると認めることは困難であ ることにあるものと認められる(乙8の2・4参照)。)。 したがって,Xの上記主張は理由がない。 ウ 外観 本件商標とYドコモ標章とは,外観が異なる上に, 「ドコモ」を除く部 分を比べても,最初の部分のみ「e」で共通するものの,その後は「ハイ 129 4.商標権侵害に関する動向調査 フン+アルファベット」と「カタカナ」の違いがあり,外観において異 なることは,Xにおいて明らかに争わないから,これを自白したものと みなす。 エ 取引の実情 (ア)「ドコモ」の著名性 証拠(乙1∼5)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年9月当時, Yは,携帯電話事業において国内トップのシェアを有し, 「ドコモ」の語 は,Yの略称として日本国内で著名であったこと,Yは,平成4年以降, 「ドコモ○○」のように「ドコモ」の語を付した語をその名称とするサー ビス等を市場に提供し続け,Yの提供する各サービス等も取引市場にお いて浸透し,需要者に広く認識されていたことが認められる。 (イ)本件ドコモ標章の使用態様 前提事実(3)のとおり,Yホームページにアクセスする者の大部分 は,Yの携帯電話について料金プランの変更等や新規申込みを行うため にYホームページにアクセスするものであり,しかも,トップページや それに続くページに「NTTDoCoMo」との記載があるため,Yが Yホームページを開設したことを認識している。また,Y作成のパンフ レット等に接する需要者等は,そのパンフレットがYのサービスや製品 を紹介するためにYによって作成されたことを認識している。 (ウ)混同の実例 Xは,Yが本件Y3標章の使用を開始して以降,一般需要者及び取引 者から,「XがYの商標権を侵害している。」「XはYの傘下に入った。」 などという誤解を受けることになった旨主張するが,X代表者が陳述書 (甲21)で指摘する事例のみからは,X主張の誤解なるものが散発的な ものか,そのような発言をした者が仕事の必要上念のためXにYとの関 係を確認したにすぎないことがうかがわれるにすぎず,他に商標の類否 の判断に影響する混同の実例を認めるに足りる証拠はない。 オ まとめ (ア)以上の本件ドコモ標章の構成,ドコモの著名性及び「e サイト」から 生じる観念からすると,Yドコモ標章は,需要者等によって一連一体の 標章として認識され, 「ドコモイーサイト」との称呼及び「ドコモのウェ ブサイト」との観念を生じ, 「イーサイト」との称呼や「インターネット 上の光景」との観念を生じることはないと認められる。 これらの事実に,前記外観の相違及び取引の実情を併せ考慮すると, 同一又は類似の役務に使用されたとしても,Yドコモ標章と本件商標と の間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められず,Yドコモ標章が本 件商標に類似するとは認められない。 (イ)仮に本件ドコモ標章から「イーサイト」との称呼や「ウェブサイト」 の観念が生じると認めた場合であっても,前記外観の相違及び取引の実 情を併せ考慮すると,同一又は類似の役務に使用されたとしても,やは 130 4.商標権侵害に関する動向調査 りYドコモ標章の使用により本件商標の付された役務との間で出所の誤 認混同を生じるおそれは認められず,Yドコモ標章が本件商標と類似す るとは認められない。 (3)Ye サイト標章について ア 称呼 Ye サイト標章から「イーサイト」との称呼が生じることは,当事者間 に争いがない。 イ 観念 Ye サイト標章から「インターネット上のサイト」との観念が生じ, 「イ ンターネット上の光景」との観念が生じることはないことは,前記(1)イ のとおりである。 ウ 外観 本件商標とYe サイト標章とは,最初の部分のみ「e」で共通するもの の,その後は「ハイフン+アルファベット」と「カタカナ」の違いがあ り,外観において異なることは,Xにおいて明らかに争わないから,こ れを自白したものとみなす。 エ 取引の実情 Yホームページにアクセスする者の大部分は,Yの携帯電話について 料金プランの変更等や新規申込みを行うためにYホームページにアクセ スするものであり,しかも,トップページやそれに続くページに「NT TDoCoMo」との記載があるため,YがYホームページを開設した ことを認識しており,また,Y作成のパンフレット等に接する需要者等 は,そのパンフレットがYのサービスや製品を紹介するためにYによっ て作成されたことを認識していることは,前記(1)エ(イ)のとおり である。 オ まとめ 以上のとおり,本件商標とYe サイト標章とは,称呼において共通して いるが,前記観念の相違,外観の相違及び取引の実情を併せ考慮すると, 同一又は類似の役務に使用されたとしても,Ye サイト標章と本件商標と の間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められず,Ye サイト標章は本 件商標に類似するとは認められない。 (4)Yesite 標章について ア 称呼 Yesite 標章から「イーサイト」との称呼が生じることは,当事者間に 争いがない。 イ 観念 Yesite 標章から「ウェブサイト」との観念が生じることは,Xにおい て明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。 131 4.商標権侵害に関する動向調査 ウ 外観 本件商標とYesite 標章とは,最初の部分のみ「e」で共通するものの, その後は「ハイフン+sight」と「site」の違いがあり,外観において異 なることは,Xにおいて明らかに争わないから,これを自白したものと みなす。 エ 取引の実情 Yesite 標章は,YホームページのURL 「http:/-www.esite.nttdocomo.co.jp/」の一部として, 「nttdocomo」と ともに表示されて使用されていることは,当事者間に争いがない。 オ まとめ 以上のとおり,本件商標とYesite 標章とは,称呼において共通してい るが,前記観念の相違,外観の相違及び取引の実情を併せ考慮すると, 同一又は類似の役務に使用されたとしても,Yesite 標章と本件商標との 間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められず,Yesite 標章は本件商 標に類似するとは認められない。 2 結論 以上によれば,本件商標と本件Y3標章との間に商標の類似性が認めら れないから,Xの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いず れも理由がない。 (4)解説 商標権は、「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利」(商標 法25条)である。しかし、商標法37条のみなし侵害規定によって、基本的に、 ①指定商品もしくは指定役務またはこれに類似する商品もしくは役務について、 ②登録商標またはこれに類似する商標を、③「使用」することが商標権によって 禁止されている。 本件判決は、②登録商標またはこれに類似する商標の範囲について論じたもの である。商標の類似性は、両商標の外観、称呼、観念を対比して原則としてその 一つでも類似している場合には、商標の類似性が認められるが、例外的に総合的 に判断して出所混同の危険がないと判断される場合には商標の類似性が否定され る(最高裁平成9年3月11日判決、民衆 51 巻 3 号 1055 頁)。本件判決は、商標 の類似性についてこの判断基準に従った事例である。 132 4.商標権侵害に関する動向調査 4.2.2 タビタマ商標権侵害事件 東京地方裁判所平成 15 年(ワ)第 21451、27464 号・平成 17 年 3 月 31 日判 決 ・・・ドメイン名による商標権侵害が争われた事案 (1)事案 Xは、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取り次ぎなどを指定役務とする登録商 標「旅のたまご」(本件登録商標①)、ならびに宿泊施設の提供の契約の媒介又は 取り次ぎおよび広告などを指定役務とする登録商標「たびたま TABITAM A」 (本件登録商標②)を保有している。Yは、そのウェブサイトのドメイン名と して「tabitama.net」 (「旧ドメイン名」)を使用してホテルの予約サ ービスなどを行っている。なお、Yは、本訴提起後、ドメイン名を「tamat ti.net」に変更した。 そこで、Xは、Yに対して商標権侵害に基づき差止および損害賠償を求めて東 京地裁に提訴した。Yは、これを不当訴訟として不法行為に基づき損害賠償を求 める反訴を提起した。東京地裁は、本訴・反訴とも棄却した。 (2)争点 ①YによるY旧ドメイン名の使用は,本件各登録商標の指定役務又はこれに類似 する役務についての使用に当たるか ②Y旧ドメイン名は,本件各登録商標と類似するか ③YによるY旧ドメイン名の使用が,商標の「使用」に該当するか ④Xの損害額 ⑤Xの本訴の提起は不当訴訟として,不法行為に該当するか (3)判旨 (ⅰ)指定役務との類似性 Xは、Yの旧ドメイン名の使用が宿泊施設の提供の契約の媒介又は取り次ぎお よび広告に該当すると主張したが、東京地裁は、つぎのように判示した。 【東京地裁の判示】 このような政令(商標法施行令)及び省令(商標法施行規則)の規定の内 容に照らせば, 「宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」の業務に伴い,宿 泊施設の名称,所在地,設備の内容,宿泊値段,サービスの内容等の情報を 顧客(締結される契約の相手方候補者,すなわち宿泊施設利用者)に対して 提供する行為は,第42類の役務の内容に当然含まれるものとして,第35 類の「広告」に該当せず,また,これに類似もしないと解するのが相当であ る。けだし,このような「宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」の業務 を行うに際して,宿泊施設に関する情報を顧客に対して提供することは,顧 客が当該宿泊施設と契約を締結するかどうかを判断するために必要な情報を 133 4.商標権侵害に関する動向調査 提供するものであって,当該業務を行うに当たって必然的に伴うものとして, 当該役務の一部を構成するものであるからである。また, 「契約の媒介又は取 次ぎ」の役務を業とする者は,当該情報提供の結果,宿泊施設の提供の契約 が締結された場合に初めて契約当事者から対価の支払いを受けるもので,そ うであればこそ,自己の媒介ないし取次ぎにより契約が締結されることを目 的として当該情報を提供するものであって,広告物掲示者や広告物頒布者が 当該広告に係る商品ないし役務に関して顧客との間で具体的な契約が締結さ れたかどうかにかかわらず当該広告物の掲示等により情報提供を行うことの 対価として報酬を受領するのとは異なるものである。仮に, 「宿泊施設の提供 の契約の媒介又は取次ぎ」の業務に伴う上記のような宿泊施設に関する情報 提供が第35類の「広告」に該当し,あるいは類似すると解するならば,宿 泊契約の媒介を業とする者は当該業務に必然的に伴う宿泊施設に関する情報 提供を行うために,第42類のみならず常に第35類をも指定役務として商 標登録を得る必要があることとなるし,また,広告代理店ないし広告業者は, 同一ないし類似する商標につき第42類を指定役務とする商標権を有する者 が存在する場合には,宿泊施設に関する広告を取り扱うことができなくなる が,このような結果は,政令及び省令が「広告」と「宿泊施設の提供の契約 の媒介又は取次ぎ」とを別個の役務として分類した趣旨と相容れないからで ある。 上記のように解すべきことは,政令及び省令が「広告」 (第35類)と建物 ないし土地の貸借ないし売買の代理又は媒介(第36類)とを別個の役務と して分類していることとも符合するところである(建物ないし土地の貸借な いし売買の媒介には,必然的に,当該建物ないし土地の所在地,面積,賃料 額ないし売買価額等に関する情報を広く顧客に提供する行為がその役務の一 部を構成するものとしてと含まれる。これらの情報提供行為をもって, 「広告」 に該当ないし類似すると解することができないのは,社会経済活動上の常識 に照らしても明白であろう。)。 …… 以上のとおり,YがYサイトにおいて行う業務は,本件登録商標①の指定 役務第42類「宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」の範囲に属するも のではあるが(この点は,争いがない。),本件各登録商標の指定役務第35 類の「広告」に属さず,また,これに類似する役務とも認められない。 (ⅱ)商標の類似性 東京地裁は、つぎのように判示した。 【東京地裁の判示】 2 争点2(Y旧ドメイン名は,本件各登録商標と類似するか)について (1)上記1に記載のとおり,Yの業務は,指定役務第35類の「広告」に は属さず,また,これに類似する役務とも認められないが,本件登録商標 134 4.商標権侵害に関する動向調査 ①の指定役務第42類「宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」に該当 するから,次に,本件登録商標①とY旧ドメイン名が類似するか否かにつ いて判断する。 (2)ア 本件登録商標①の構成 本件登録商標①は, 「旅のたまご」をゴシック体活字で横書1列に 記載してなるものである。本件登録商標①については,そのうちの 一部が見る者の注意を引くとか,あるいは役務の主体の識別力を有 するといった事情が認められないから,全体を一体として要部とし て類否判断を行うべきものである。 イ Y旧ドメイン名の構成等 (ア)Y旧ドメイン名の構成 Y旧ドメイン名は「tabitama.net」というものであり,欧文字を 通常の形態で一連に記載したものである。 (イ)Y旧ドメイン名の使用態様 Yは,遅くとも平成14年7月ころから平成16年5月初旬ころ まで,Y旧URLにおいて,Yサイトを開設,運営している。 (ウ)Y旧ドメイン名の要部 Y旧ドメイン名(tabitama.net)における「.net」は,登録者の 組織属性を意味する一般的な表示であるから,Y旧ドメイン名にお いて識別力を有する部分は「tabitama」の部分である。 なお,この点に関し,Yは,ドメイン名については,要部を抽出 して類比判断すべきではない旨主張するが,ドメイン名としての使 用が商標の使用に該当するかどうかはともかくとして,ドメイン名 の形式を有する標章について商標との類否を判断するに当たっては, これを見る者の注意をひく箇所を基準として判断すべきものであり, Yの主張は採用できない。 (3)類否判断 ア 上記(2)で認定した事実を前提として,本件登録商標①とY旧 ドメイン名の標章が類似するか否かを判断する。 前記のとおり,Y旧ドメイン名中の「.net」の部分は識別力を有 しないところ,残部の「tabitama」の部分は短い文字列であり,ま た,後記のとおり,一連の一語として称呼されるものであるから, 見る者の注意をひく箇所として要部に該当するのは, 「tabitama」の 部分である。そして,この部分からは, 「ティーエービーアイティー エーエムエー」又は「たびたま」の称呼を生ずるが,観念としては 特定の観念を生じない。 本件登録商標①(旅のたまご)については,前記のとおり,全体 を一体として要部として類否判断を行うべきものであり, 「たびのた 135 4.商標権侵害に関する動向調査 まご」の称呼を生ずる。本件登録商標①から生ずる観念としては, 一定の観念を認定しづらいが,強いていえば, 「旅行中に食する鶏卵」, 「旅立ちを誘う原因となる出来事」といった観念を生じ得る。 そうすると,Y旧ドメイン名は,本件登録商標①と外観,称呼, 観念のいずれも類似しないというべきである。 イ この点に関して,Xは,Y旧ドメイン名の要部である「tabitama」 は,「旅のたまご」の略称「たびたま」のローマ字表記であるから, 称呼の類似性は明らかであると主張する。しかし, 「たびたま」の語 については,独立した語句として一定の観念の生ずるものではない ものの,これを見る者が何らかの語句の略称であると判断するよう なものではない。また,仮に, 「たびたま」が何らかの語句の略称で あると考えたとしても, 「たびたま」のうち前半の「たび」の部分に ついては「足袋」「度」「旅」の字を当てることが可能であり,後半 の「たま」の部分については,「多摩」「霊」「弾」「球」「珠」「玉」 の字を当てることが可能であるほか,飼猫の代表的な愛称である「タ マ」を観念することができるものであって,これらの事情に照らせ ば,略称の基になった名称としては,多くの可能性が存在するもの であって,仮に「旅のたまご」を略称する場合に「たびたま」と称 することがあり得るとしても, 「たびたま」を見た者が「旅のたまご」 の略称と解するのが通常であるとは,到底認められない。Xの主張 は,採用できない。 ウ まとめ Y旧ドメイン名は,本件登録商標①と類似しない。 3 本訴請求についての結論 上記1に記載のとおり,本件登録商標②については,YがYサイトを用 いて行う業務は,本件登録商標②の指定役務である第35類の「広告」に 該当せず,これに類似するものでもない。 また,上記1及び2に記載のとおり,本件登録商標①については,Yが Yサイトを用いて行う業務は,本件商標権①の指定役務のうち第42類「宿 泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」の役務に該当するものの,Y旧ド メイン名は本件登録商標①と類似しない。 したがって,YによるY旧ドメイン名の使用が商標の使用に該当するか どうか(争点3)について判断するまでもなく,本件各商標権に基づくX の本訴請求は,いずれも理由がない。 (ⅲ)不当訴訟の成否 東京地裁は、つぎのように判示した。 136 4.商標権侵害に関する動向調査 【東京地裁の判示】 上記3に判断したとおり,Xの本訴請求はいずれも結論的には理由がない と判断されるものであるが,上記(1)に記載の事実を前提として,本訴の 提起は不当訴訟として不法行為に該当するかどうかを判断する。 そもそも, 「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において, 訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提 訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるう え,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを 知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の 趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと 解するのが相当である。」(最高裁昭和60年(オ)第122号・同63年1 月26日第三小法廷判決・民集第42巻1号1頁参照)。 そうすると,これを本件についてみるに,Xは,Y旧ドメイン名の使用は, 前記当事者の主張におけるXの主張に記載のとおり,本件各商標権を侵害す るものとの判断を前提として,本訴を提起したものであるところ,登録商標 に類似するドメイン名の下においてウェブサイトを開設する行為が商標権の 侵害を構成するかどうか等については,当該ウェブサイトに係る業務の認定 や商標法の解釈等についての専門的な判断を要する事項であるから,Xにお いてYに対し本件各商標権に基づく請求権を有しないことを知っていたとい うことができない上,通常人であれば容易にそのことを知り得たということ もできないから,Xのした本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著し く相当性を欠くものと認めることはできない。 したがって,Xの本訴請求が,不当訴訟として不法行為に該当するという ことはできない。 (4)解説 商標権は、「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利」(商標 法25条)である。しかし、商標法37条のみなし侵害規定によって、基本的に、 ①指定商品もしくは指定役務またはこれに類似する商品もしくは役務について、 ②登録商標またはこれに類似する商標を、③「使用」することが商標権によって 禁止されている。 本件判決は、①指定商品もしくは指定役務またはこれに類似する商品もしくは 役務の範囲(商品・役務の類似性)と、②登録商標またはこれに類似する商標の 範囲(商標の類似性)について論じたものである。 商品・役務の類似性は、商品の製造、取引状況、品質、用途その他、役務の提 供、取引状況、質、用途その他を考慮して、商品・役務の混同を生ずるおそれが あるか否かで判断される。本件判決では、登録商標の指定役務である「広告」と 被告の役務であるホテル予約サービスなどとの類似性が問題となったが、もっぱ ら35類の「広告」の意義の解釈で解決され、両役務の類似性を具体的に検討す る必要のなかった。 137 4.商標権侵害に関する動向調査 商標の類似性は、両商標の外観、称呼、観念を対比して原則としてその一つで も類似している場合には、商標の類似性が認められるが、例外的に総合的に判断 して出所混同の危険がないと判断される場合には商標の類似性が否定される(最 高裁平成9年3月11日判決、民衆 51 巻 3 号 1055 頁)。本件判決は、商標の類似 性についてこの判断基準に従って、両商標の外観、称呼、観念を対比して類似性 が否定された事例である。 138 5.調査結果の分析 5. 調査結果の分析 本章では、今まで3回調査を行い報告書にまとめてきたが、4年間でプロバイダ 責任制限法に対する事業者の対応がどのように変わってきているか、現状の課題や 問題点はどのようなところにあるかなどを今回の調査を含めて整理する。 また、判例や裁判上の係争事項については、名誉毀損・プライバシー関係と著作 権侵害関係について係争全体からの分析や今後の課題、注目していくべきポイント について記述する。 5.1 プロバイダ等事業者の対応状況の動向分析 5.1.1 調査の概要 平成 14年5月27日にプロバイダ責任制限法が施行されて以来、毎年、同法に 係る事業者の対応及び裁判等における係争事項について調査を行っている。今回で 4年目となるが、平成 17年度に行った調査結果の概要について以下に記述する。 事業者の対応状況については、 「プロバイダ責任制限法に係るアンケート(アンケ ートⅠ)」と「プロバイダ責任制限法に係る具体的対応事例(アンケートⅡ)」の2 種類について行った。 昨年の調査では、プロバイダ責任制限法に基づく事業者の対応も、対応できると 応える事業者が相当増えていることから、今回は、今まで深く調査を行わなかった 発信者情報開示請求について、質問項目を追加し調査を行うことにした。アンケー トⅡの具体的対応事例については、本報告書で公表できない事例まで含めて調査を 行った。公表可能な事例については、2章「名誉毀損・プライバシー関係」、3章「著 作権侵害関係」、4章「商標権侵害関係」に分けて掲載した。 (1)調査の目的と方法 ・調査目的 平成14年5月に施行されたプロバイダ責任制限法に基づく被害主張者等から の申し立てや事業者の対応が、平成17年では、どのような状況であったのか、 また本法施行以降どのように変わって来ているのか、課題は何なのか等を分 析・評価し、プロバイダ等に対応上の判断材料を供することにより、インター ネット上の権利侵害への円滑な対応とインターネットの健全な利用促進に資す ることを目的として行う。 ・調査対象 (社)電気通信事業者協会、 (社)テレコムサービス協会、及び(社)日本イン ターネットプロバイダー協会のいずれかに所属する会員570社(ISP事業 を営んでいない企業を含む) ・調査対象期間 139 5.調査結果の分析 プロバイダ責任制限法に係るアンケート :平成17年10月1日∼平成17年12月31日(権利侵害別の対応件数) :平成14年5月27日∼平成17年12月31日(発信者情報開示、訴訟 関連の件数) プロバイダ責任制限法に係る具体的対応事例 :平成17年1月1日∼平成17年12月31日(送信防止措置請求) :平成14年5月27日∼平成17年12月31日(発信者情報開示請求) ・調査項目(詳細は巻末添付のアンケート用紙のフォーマット参照) 権利侵害別対応件数、ウェブページ/掲示板等情報の表示場所別件数、法務省 人権擁護機関からの申し立てと対応、発信者情報開示請求の対応、プロバイダ 責任制限法の対応能力、訴訟となった又はなっている事案数、裁判所からの仮 処分命令の内容、実際の対応事例等 ・回答状況(平成18年1月28日現在のISP事業を行う企業からの回答) 回答数:63社 回答率:11% 5.1.2 プロバイダ責任制限法に対する事業者の対応能力 プロバイダ責任制限法の現在の対応能力について、平成15年(65社が回答)、 平成16年(74社が回答)、平成17年(59社が回答)と、どのように変化した かを比較する。 事業者の対応能力が、下記選択肢のうちどの程度にあるかを各社に選択していた だいた(今回、対応件数が0件であった事業者を含む)。 ①法律の内容を知らない。 ②法律の内容は知っているが実際の対応はほとんどできない。 ③法律の内容を理解し実際にある程度対応できる。 ④法律の内容を理解し実際にほぼ対応できる。 ⑤法律の内容を理解し実際にほぼ完璧に対応できる。 平成17年の状況を昨年、一昨年と比べると、やはりプロバイダ責任制限法に対 する事業者の対応能力が上がってきていることがわかる。平成17年は、 「法律の内 容を知らない」と答えた事業者は0社となり、また「法律の内容を理解し実際にほ ぼ対応できる」と答えた事業者が約4割に達した。法律に基づく対応ができないと 答えた事業者は1割程度で、この中には、実際にプロバイダ責任制限法に基づく請 求を、ほとんど受けたことのない事業者が多いと思われる。 事業者の対応能力が上がっていることは、プロバイダ責任制限法施行以後、(社) 電気通信事業者協会、 (社)テレコムサービス協会及び(社)日本インターネットプロ バイダー協会に所属する会員事業者からの相談を受け付けている事業者相談センタ 140 5.調査結果の分析 ーへの相談件数が減少してきていることからもいえる。事業者相談センターへの相 談件数は、平成14年(5月∼12月):73件、平成15年(1月∼12月):4 0件、平成16年(1月∼12月):27件、平成17年(1月∼12月):17件 となっている。 事業者の対応能力 ①法律の内容を知らない。 ②法律の内容は知っているが実 際の対応はほとんどできない。 ③法律の内容を理解し実際にあ る程度対応できる。 ④法律の内容を理解し実際にほ ぼ対応できる。 ⑤法律の内容を理解し実際にほ ぼ完璧に対応できる。 5.1.3 事業者数(比率) 平成15年 平成16年 平成17年 1 社( 2%) 14 社(22%) 1 社( 1%) 6 社( 8%) 0社 7 社(12%) 27 社(41%) 44 社(59%) 26 社(44%) 19 社(29%) 19 社(26%) 23 社(39%) 4 社( 6%) 4 社( 5%) 3 社( 5%) 商標権関係ガイドライン等の運用状況 商標権関係ガイドラインが平成17年7月に公表されてから、商標権侵害に関す る権利者や事業者の対応状況について、事業者へのアンケートとプロバイダ責任制 限法ガイドライン等検討協議会の商標権関係WGでの開催内容をもとに記述する。 今回、商標権侵害の事業者の対応状況についてもアンケートを行ったが、回答し ていただいた事業者には、オークション事業を直接行っている事業者がいなかった ため、一般のプロバイダ事業を行っている会社から、会員ウェブページに掲載され た情報に対する送信防止措置請求が1件あっただけであった。しかも、プロバイダ 責任制限法の言及のないものである。このため、事業者は直接削除を行わず、発信 者(会員)への注意喚起で対応したものであった。 今回の調査でわかったことは、一般のプロバイダ事業を営む事業者に対して、商 標権侵害に基づく削除要求は、他の権利侵害に比べてかなり少ない。逆に、大手の オークション事業者から対応件数の回答は得られなかったが、某権利者団体から有 名ブランド品に関する削除依頼件数は、平成16年度の商標権侵害関係では月間2 万件弱であったそうである。このため、大手オークション事業者への対応依頼件数 は相当の数が寄せられているものと思われる。 また、上記権利者団体の話では、平成17年に、政府の知的財産推進計画200 5に基づく、商標権関係ガイドラインの公表等を含む諸々の活動により、平成17 年の夏には、削除依頼する件数が激減したとのことである。 商標権関係ガイドラインの運用状況については、公表後、約半年が経過している が、11月に行われた商標権関係WGでの某オークション事業者の報告では、①事 141 5.調査結果の分析 業者自身が従来から独自に設けて対応している知的財産権保護プログラムに基づく 対応、②商標権関係ガイドラインに基づく対応、及び③その他の削除依頼で対応し ている。①に基づく削除が多くを占めるが、②は、発信者情報開示請求と一緒に受 けることもあり、これらについては、申し立ての段階で判断するのに必要な情報が 提供されるが、③のケースについては、法律的な主張なしに一方的に「削除せよ」 との申し立てに終始することも多く、対応に苦慮しているそうである。一部の有名 ブランド品の権利侵害の場合を除いて、オークション事業者がある出品物を権利侵 害品であると認知するには、権利者による自己の保有する権利に関する正しい理解 に基づく主張がなければ削除請求に応じることは難しい。そのためには、削除依頼 に対して詳細な手続を定める商標権関係ガイドラインが広く周知され、迅速な削除 措置が広く実施できるようになっていくことが望まれるとのことである。 商標権関係ガイドラインについては、プロバイダ責任制限法関係の他のガイドラ インと一緒に協議会が用意したホームページ (http://www.telesa.or.jp/consortium/provider/index.htm)に掲載されているが、 関係者等がさらに広く周知していくことが求められている。 5.1.4 発信者情報開示請求の対応状況 今まで、発信者情報開示請求についてはあまり深く調査を行ってこなかったが、 今回は、プロバイダ責任制限法が施行された平成14年5月27日から平成17年 12月31日まで、事業者が発信者情報開示請求として扱ったものすべてについて 調査を行った。 以下にその対応状況について記述する。また、発信者情報開示請求に対する問題 点についてフリー形式で記述していただいたが、それについては、他の問題点も含 め「5.1.6 事業者が対応に苦慮している点等」にまとめた。 発信者情報開示請求を受け取ったことのある事業者は55%で、そのうち発信者 情報の開示を行ったことのある事業者は36%であった。 また、事業者が実際に発信者情報開示請求の対応をした(回答のあった)合計件 数は188件で、そのうち16%が発信者情報を開示している。権利侵害別で発信 者情報開示請求件数の多いのは名誉毀損関係で、開示している比率も件数の少ない 商標権関係を除き、名誉毀損が21%と高くなった。 情報の掲載場所では、P2Pファイル交換他の開示しない比率が他と比べやや高 くなったが、これは事実確認が難しいこともあると思われる。 発信者情報を開示した理由で回答社数の多かったのは、発信者に意見を聞いて開 示に同意した件数が7社で一番多く、次に、裁判での開示命令が5社となった。ま た、開示しなかった理由で多いのは、比較的容易に判断できるものを除き、権利を 侵害しているか自社で判断できない場合に、 「通信の秘密」との関係で、裁判となれ ば裁判所の判断を待つという回答が多くなった。これは、被害者が企業の場合はプ ロバイダを提訴するのにもそれほど抵抗ないと思われるが、個人の場合は、弁護士 をたて、裁判をしてまでというケースはかなり限られたものになると思われる。さ 142 5.調査結果の分析 らに、掲示板での誹謗中傷の場合は、プロバイダでは事実確認がとれないケースが ある。いずれにしても、今回のアンケートから詳しくはわからないが、事業者によ って対応スタンスがことなり、発信者からの同意がないとほとんど開示しないとこ ろと、ある程度、弁護士と相談しながら開示しているところ、また、弁護士がいな くても、被害主張者の申し立て内容等から開示しているなど、対応にばらつきがあ りそうである。 発信者情報開示請求を受け取ったことの有無 発信者情報開示請求を 受け取ったことの有無 発信者情報開示請求を受け取ったことの有無 社数(社) 受け取ったことが有る 33 受け取ったことが無い 27 受け取った ことがない 45% 受け取った ことがある 55% 発信者情報を開示したことの有無 発信者情報を開示したことの有無 発信者情報を開示開示 したことの有無 社数(社) 開示したことが有る 12 開示したことが無い 21 開示したこ とが有る 36% 開示したこ とが無い 64% 発信者情報開示請求とその対応 [権利侵害別] 件数計 (件) 件数(件) プライバシー侵害関係 26 2 8 24 92 名誉毀損関係 91 19 21 72 79 著作権侵害関係 55 7 13 48 87 商標権侵害関係 2 2 100 0 0 その他権利侵害 14 1 7 13 93 188 31 16 157 84 権利侵害 合 計 開示した 143 開示せず 比率(%) 件数(件) 比率(%) 5.調査結果の分析 発信者情報開示請求とその対応(権利侵害別) プライバシー侵害関係 名誉毀損関係 著作権侵害関係 商標権侵害関係 その他権利侵害 0% 20% 40% 60% 開示した 80% 100% 開示せず [情報掲載場所別] 情報掲載場所 件数計 (件) 開示した 件数(件) 開示せず 比率(%) 件数(件) 比率(%) ウェブページ 43 7 16 36 84 電子掲示板 69 15 22 54 78 P2Pファイル交換他 77 10 13 67 87 発信者情報開示請求とその対応(情報掲載場所別) ウェブページ 電子掲示板 P2Pファイル交換他 0% 20% 40% 開示した 144 60% 開示せず 80% 100% 5.調査結果の分析 発信者情報を開示した場合の理由(複数回答) № 発信者情報を開示した理由 社数(社) 1 発信者に意見を聞いて、開示に同意したから 7 2 裁判での開示命令 5 3 発信者から開示の拒否回答があったが、弁護士と相談して開示する ことにした 2 4 発信者から回答がなく、弁護士と相談して開示することにした 1 5 発信者から回答がなく、法律の専門家はいないが内容からして開示 することにした 1 6 発信者から開示の拒否回答があり、法律の専門家はいないが、内容 からして開示することにした 1 7 当初不開示であったが、申立人からの意見を誠実に伝え、開示に応 じていただいた 1 8 裁判所の差押許可状による 1 発信者情報を開示しなかった場合の理由(複数回答) № 発信者情報を開示しなかった理由 社数(社) 1 明らかな権利侵害にあたると考えられない 2 書面の不備 9 3 明らかに権利を侵害しているか当社では判断できないので、裁判と なった場合には、そこでの判断を待つことにした 8 4 発信者情報を保有していなかった 7 5 侵害情報を見つけられなかった 6 6 掲示板での誹謗中傷で、当社としては事実確認がとれない 6 7 請求理由が正当なものと考えられない 5 8 当社の管理する電気通信設備ではない 3 9 裁判例の蓄積がなく、当社では判断できないので、裁判となった場 合には、そこでの判断を待つことにした 2 10 ファイル交換での送信がプロバイダ責任制限法の対象範囲なのか 判断できなかったので、裁判例の蓄積を待ってからにしたい 2 11 発信者と申立者双方の言い分に食い違いがあり、事実の判断ができ ない 2 12 当事者間の話し合いで解決した 2 13 情報の削除で申立者が承諾した 2 14 申立者が取り下げた 2 15 他社掲示板のアクセスログの提示で内容の信憑性が判断できない 1 145 12 5.調査結果の分析 16 請求要件にあたらない 1 17 発信者への照会で同意が得られなかった 1 18 申立者の言い分だけでは信憑性に欠ける 1 5.1.5 訴訟となった又はなっている事案の状況 平成15年から平成17年で、プロバイダ責任制限法に関して訴訟となった又は なっている事案の状況について調査した。毎年同じ事業者から回答がいただけるわ けではないので、精密なデータとは言えないが、傾向として、訴訟となった又はな っている事案をかかえている事業者が増えている。実際の事案としては、発信者情 報開示請求が圧倒的に多く、名誉毀損関係が判決済みも係争中の事案も多くなって いる。 訴訟となった(又はなっている)事案の有無 該当する事案の有無 平成15年時点 平成16年時点 平成17年時点 社 数 (社) 社 数 (社) 社 数 (社) 比率 (%) 比率 (%) 比率 (%) 該当する事案が有る 7 11 8 11 11 19 該当する事案は無い 56 86 64 84 44 77 2 3 4 5 2 4 回答できない又は差し控えたい (注)事業者によっては、回答を得られなかった年もあるので、厳密に比較できる データではない。 訴訟となった事案の有無 平成15年時点 平成16年時点 平成17年時点 0% 10% 20% 該当する事案が有る 30% 40% 50% 該当する事案は無い 146 60% 70% 80% 90% 回答できない、差し控えたい 100% 5.調査結果の分析 権利侵害種別と事案件数 平成15年時点での訴訟となった(又はなっている)事案の状況 プライバシー侵害関係 5件 ・送信防止措置請求 3件(係争中:3件) ・発信者情報開示請求 2件(係争中:2件) 名誉毀損関係 2件 ・発信者情報開示請求 2件(係争中:1件、取下げ:1件) 著作権侵害関係 0件 平成16年時点での訴訟となった(又はなっている)事案の状況 プライバシー侵害関係 3件 ・発信者情報開示請求 3件(判決済:3件) 名誉毀損関係 6件 ・発信者情報開示請求 6件 (判決済:1件、和解:1 件、係争中:2件、取下げ:2件) 著作権侵害関係 1件 ・発信者情報開示請求 1件(係争中:1件) 平成17年時点での訴訟となった(又はなっている)事案の状況 プライバシー侵害関係 4件 ・送信防止措置請求 1件(係争中:1 件) ・発信者情報開示請求 3件(判決済:3件) 名誉毀損関係 19件 ・発信者情報開示請求 19件 (判決済:6件、和解:1 件、係争中:12件) 著作権侵害関係 1件 ・発信者情報開示請求 1件(判決済:1件) 5.1.6 裁判所からの仮処分命令の内容 被害者が発信者と交渉してもなかなか埒があかず、このまま侵害情報の発信を放 置していては、今後も大きな被害が予想される場合などにおいて、被害者がプロバ イダ責任制限法に基づく対応ではなく、プロバイダ等に仮処分を求めることがあり うるとのことである。今まで、裁判所からの仮処分命令がどの程度出ているのか、 また、どのような仮処分内容であるか、把握したことがなかったので、今回初めて 調査を行った。裁判所からの仮処分命令を受け取ったことのある事業者は4社、7% であった。仮処分命令の内容は、発信者情報開示命令やログの保全命令であった。 147 5.調査結果の分析 裁判所からの仮処分命令を受けたことの有無 仮処分命令を受けたことの有無 裁判所からの仮処分命令 社数(社) 受けたことが有る 4 受けたことが無い 51 受けたこと が有る 7% 受けたこと が無い 93% 権利侵害種別と仮処分命令の内容 権利侵害種別 仮処分命令の内容 プライバシー侵害 ログの保全命令 1 名誉毀損 発信者情報開示命令 3 名誉毀損 ログの保全命令 1 5.1.7 件数(件) 事業者が対応に苦慮している点等 事業者が対応に苦慮している点を、毎年アンケートから抽出してまとめている。 今回は、発信者情報開示請求関連について、実際の対応事例(公表不可を含む)等 を詳しく記述していただいた。 平成14年では、プロバイダ責任制限法施行直後であったため、P2Pファイル 交換など広い範囲で対応に苦慮していたことがわかる。 平成17年の発信者情報開示請求関連で、事業者が苦慮している点は、被害主張 者からの申し立てに対する事業者の対応において、 「開示不可」の回答にならざるを えないことと、裁判となった場合の費用・人件費の負担が大きくなる問題の指摘が 多い。これを被害者の立場からとらえると、個人の被害者は、プロバイダと裁判を 起こしてまではということになり、被害者の救済が図れないということである。 通信の秘密との関係で難しいところであるが、この部分を有識者等による整理で、 プロバイダが判断しやすいガイドラインの作成等が必要になってきている点が伺え る。 事業者が対応に苦慮した点(平成14年) [発信者情報開示請求関連] ①発信者情報開示をすべきかどうか判断に苦慮した。 ②連絡のあった IP アドレスは、ネットワークサーバ(プロキシ)のため、発 信者が特定できない。 148 5.調査結果の分析 [P2P関連] ①事実確認ができない(17件)。 ②当社が特定電気通信役務提供者に当るか疑問(8件)。 ③権利侵害をしている該当ファイルのみ送信防止措置をとることはできず、 通信を遮断するしかないが、それが必要な限度といえるか疑問(7件)。 ④発信者への注意喚起に対しやっていないとの回答あり(5件)。 ⑤ファイル交換ソフトでの発信者特定技術の精度向上が必要。 ⑥事実確認が取れない案件への対応として、注意喚起もプロバイダが行わな ければならない状況は、責任の所在がはっきりしないのに行うべきか、人 道的なものであるにしろ判断に迷う。 [その他の対応] ①他社の管理する電子掲示板への会員の書き込みに対する被害主張者からの 送信防止措置請求(IP アドレスと書き込み時間の提示有)に対し、事実確 認がとれない。 ②誹謗中傷や告発など名誉毀損関係の請求に対し、発信者と被害主張者の発 言にギャップがあり、名誉毀損にあたるか判断に迷う(6件)。 ③第三者からの著作権侵害の申立てに対し、どのような法的根拠に基づき対 応すべきか。 ④ウェブページの侵害情報として指摘のあったファイルだけを削除するのが 困難。 事業者が対応に苦慮した点(平成15年) [発信者情報開示請求関連] ①ネットカフェのように不特定の人が使える環境から権利侵害情報の流通が 行われていることに対する、発信者情報開示請求の対応に苦慮した。 ②法人のLAN経由での発信であったため、個人の特定ができず苦慮した。 [P2P関連] ①P2Pファイル交換ソフトで会員が権利侵害情報を流通させているかどう か確認することが非常に困難である(4件)。 ②P2Pファイル交換ソフトでの送信が特定電気通信にあたるかどうかの判 断が難しい(2件)。 ③P2Pファイル交換での映像コンテンツの流通に対する海外の代理人弁護 士からのDMCA法に準ずる又はこれに対応する著作権関係法令に基づい た措置の請求に対し、法律の管轄の問題をどのように考えるべきか苦慮し た。 [その他の対応] 149 5.調査結果の分析 ①申立て内容が不充分で、状況の確認をするのに時間がかかった (2件)。 ②申立者がプロバイダ責任制限法を正しく理解していなかったため、対応に 手間取った(2件)。 ③プライバシー権の侵害の判断が難しかった。 ④会員ホームページの仕組みが当社の場合、トップページとその下層のペー ジが異なるサーバとなっているため、対応に時間がかかる。 ⑤著作権侵害の申立てが、信頼性確認団体からではないため、申立者が著作 権者であることの確認、具体的な侵害部分の調査が難しかった。 ⑥商標権侵害の申立てで、登録商標の登録番号や呼称が示されたが、権利侵 害の事実確認が困難であった。 事業者が対応に苦慮した点(平成16年) [発信者情報開示請求関連] ①P2Pでの発信者情報開示請求で、発信者の同意が得られなかった場合、 権利侵害の有無を確認する方法が現状ではないため、対応に苦慮すると思 われる。開示請求訴訟により開示を命じる判決が出されない限り開示は難 しいと考える。 ②インターネットカフェやホットスポット等の端末からの発信の場合、発信 者を特定することが困難。 ③発信者が法人の場合、発信者の特定が難しい。 ④発信者情報開示における発信者への照会で、反論等があったため事実確認 等何度も行うことになり、多大な手数を要した。 [P2P関連] ①P2Pによる権利侵害の場合、権利侵害があったかどうかを確認するのが 困難である。プロバイダ責任制限法等でP2Pによる権利侵害の対応方法 を記載していただきたい。 [その他の対応] ①発信者が精神上の障害で病院に入院中で、責任能力をどのように判断する かが困難であった。 ②発信者情報開示手続に沿った請求であればよかったが、突然仮処分申請の 通達がきたため、対応に時間がかかった。 ③会員への確認等で電話連絡がとれない場合、メールで対応しているが、メ ールを使用していない場合、対応に時間がかかる。 事業者が対応に苦慮した点(平成17年) [発信者情報開示請求関連] ①発信者への照会で、情報開示に同意するとは思えない。 ②「通信の秘密」を第一に考えた基準を持っているが、実務的な対応は今後 150 5.調査結果の分析 難しい。 ③法律の適用範囲が曖昧であり、P2Pが含まれるか否かは、いまだに明確 でない(条文がわかりにくい)。 ④現在の発信者情報開示の制度では、 「通信の秘密」との関係から裁判外で発 信者情報を開示することは難しく、費用・時間の面で負担が大きい。 ⑤権利侵害が明白か否かは、プロバイダでは判断できないことが多く、権利 侵害の当時者ではないプロバイダが裁判の当事者にならざるを得ない。 ⑥裁判所の判決がでないと、発信者情報を開示できないというのが一般的な 考え方になっているため、被害者の救済が図れない。 ⑦「特定電気通信」の範囲が不明確なため、自社が「関係開示役務提供者」 として対応すべきか否かについての判断が常にスッキリとしない。 ⑧「権利侵害の明白性」は、各不法行為(?)に認められるべき違法性阻却 事由の有無で決まると思われるが、その要件と要件事実例について、網羅 的に整理された資料が欲しい。 ⑨発信者情報は、一旦開示されてしまうとその原状回復は不可能であるため、 ISPに慎重な対応が求められ、開示にあたって心理的な負担が大きい。 ⑩被害主張者が感情的になって開示請求してくるケースが多く、プロバイダ 責任制限法や開示請求の要件をそもそも理解していない。 ⑪権利侵害にあたるか否かの法的判断に迷うことがある。或いは法的に妥当 な判断を行うとすれば、弁護士費用等コストがかかる。 ⑫当社サービスのユーザでない者が発信者である場合に、ユーザ情報を開示 する法的根拠に難がある。例えば、ユーザがホスティング事業者で発信者 が当該ユーザのホスティングサービスの利用者であった場合や、ユーザが サイト運営者で発信者がそのサイトの配信業者であった場合など。 ⑬まんが喫茶など、フリースペースから発信された場合、利用者の確認を行 っていない場合が多く、開示請求されたとしても発信者として事業主を伝 えなければならない。また、事業主側も対応に応じていただけない場合が あった。 ⑭ISPは紛争の当事者ではないのに、開示請求者と争わなければならない 対審構造。 ⑮事例が少なく、かつ公開された事例がさらに少なく、開示と判断すること が難しい。 ⑯ブログのトラックバックスパム行為(他社のアダルトブログ)での名誉毀 損が、「情報の流通による」権利侵害にあたるか判断に苦慮した。 ⑰他社掲示板等での名誉毀損は、訴訟を提起してもらうより他に方法がない。 その結果、被害者の救済が行えないことになる。 ⑱明らかに違法の疑いの有る発言であったが、ISPが提訴された場合、全 く争わないわけにもいかない。会員保護との関係で、どこまで争えばIS Pの契約上の義務を果たしたことになるのか不明。 ⑲企業秘密や営業秘密等の権利に関するヒアリングは、当該情報事態の取り 151 5.調査結果の分析 扱いが特殊かつデリケートなものであるため、大変困難なものになる。 [P2P関連] ①自社設備に該当の情報がないため、根拠となるものを申立者から提示して もらわなければならないが、それに対する理解を得るのが難しい(P2P) [その他の対応] ①申立者の情報が発信者に知られることのないよう、申立者の情報の取り扱 いに注意して欲しいとの依頼があった。申立者の情報の取り扱いに注意が 必要である。 ②著作権侵害は、立証が難しく対応に苦慮する。 ③申立内容が不明確なのに削除を要求して取り下げなかったため、申立者へ の対応に苦慮した。 ④掲載された顔写真が、客観的にみて公表されることにより、不快感又は精 神的苦痛を感じると思われる写真に該当するとは、直ちに判断できず、ま た同意の有無の確認等難航した。 ⑤当社の提供する常時接続回線を用いて公開された会員管理下にあるサーバ より流通している情報の送信防止措置で、当社が「特定電気通信役務提供 者」に該当するのか、確認に時間を要した。 5.1.8 事業者の対応 平成14年から毎年、事業者の対応件数をまとめてきた。権利侵害情報の表示場 所で、P2Pファイル交換の件数が平成16年、17年と少なくなっているが、こ れはある大手事業者の対応で、海外からの送信防止措置請求が、平成16年が31 89件、平成17年が3462件あった(今回もこの数字を除いて集計した)。この ため、P2Pファイル交換の件数が減ったのではなく、傾向としては他社も含め実 際には増加している傾向にある。 送信防止措置請求と発信者情報開示請求との比率は、集計する年によってかなり 異なるが、2:1程度となった。 152 5.調査結果の分析 事業者の対応件数 調査期間の合計件数 事業者の対応件数 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 (5ヶ月間) (3ヶ月間) (3ヶ月間) (3ヶ月間) 対応が1件もなかった 49社 50社 56社 37社 1∼5件対応した 27社 15社 18社 21社 6∼10 件対応した 7社 3社 3社 2社 11∼50 件対応した 9社 4社 2社 2社 51件以上対応した 4社 3社 2社 1社 権利侵害情報の表示場所 ウェブページ(件) 電子掲示板(件) P2P等(件) 平成14年 56 37 665 平成15年 71 343 544 平成16年 35 46 86 平成17年 94 38 19 権利侵害情報の表示場所 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 0% 20% 40% 60% ウェブページ 電子掲示板 153 80% P2P等 100% 5.調査結果の分析 権利侵害情報の種別 プライバシ ー侵害(件) 名誉毀損 (件) 平成14年 441 295 平成15年 67 平成16年 平成17年 著作権侵害 (件) 商標権侵害 (件) その他権利 侵害(件) 66 ― 12 351 568 ― 17 41 49 86 ― 22 32 68 51 1 10 権利侵害情報の種別 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 0% 10% 20% 30% プライバシー侵害 40% 名誉毀損 50% 60% 著作権侵害 70% 80% 商標権侵害 90% 100% その他権利侵害 送信防止措置請求と発信者情報開示請求 送信防止措置請求(件) 発信者情報開示請求(件) 平成14年 727 31 平成15年 622 336 平成16年 145 22 平成17年 98 53 送信防止措置請求と発信者情報開示請求 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 0% 20% 40% 送信防止措置請求 60% 発信者情報開示請求 154 80% 100% 5.調査結果の分析 請求内容別権利侵害の種別 送信防止措置請求 名 誉 毀 著作権 シー侵害 損 侵害 (件) (件) (件) プライバ 発信者情報開示請求 商 標 権 プライバ 名 誉 毀 著作権 シー侵害 損 侵害 侵害 (件) (件) (件) (件) 商標権 侵害 (件) 平成 14 年 419 271 37 0 11 18 2 0 平成 15 年 43 38 541 0 21 301 14 0 平成 16 年 31 39 75 0 7 10 5 0 平成 17 年 22 39 36 1 10 28 15 0 請求内容別権利侵害の種別 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 0% 20% 40% 60% 80% 100% プ ラ イ バシー侵害(送信防止) 名誉毀損(送信防止) 著作権侵害(送信防止) 商標権侵害(送信防止) プ ラ イ バシー侵害(発信者情報) 名誉毀損(発信者情報) 著作権侵害(発信者情報) 商標権侵害(発信者情報) 155 5.調査結果の分析 5.2 判例、裁判上の動向分析 5.2.1 名誉毀損・プライバシー侵害関係の動向分析 【第 3 条関係】 (1)依然として「情報を削除したことに基づく責任」を問われたケースが出てい ないこと これまでに公開された裁判例は、すべて違法情報を削除しなかったことに関する プロバイダの責任を問題とするものであり、適法情報の削除に関する裁判例は存在 しない。責任制限法の施行後3年を経て、いまだにこの点が争われる事例さえ存在 しないということはもはや偶然ではない。これは著作権侵害関係にも通じることで あり、実務的には最大限に重視されるべき点である。なお、この結果として、第 3 条第 2 項の免責(適法な情報をプロバイダが誤って削除した場合の免責)は、傍論 として語られることは別にして、訴訟の場で正面から検討の対象となったことはな いことにも注意を要する。 裁判に至る前の段階でも、削除要請を受けたプロバイダが削除に踏み切ったこと により、発信者から抗議を受けることは稀であり、提訴された例は、報告されてい ない。このことから、プロバイダが学ぶべき教訓は単純明快であり、「迷ったら削 除」の対応をすることによって、プロバイダはリスクの大幅な軽減を図ることがで きる。 裁判例がすべて「情報を放置したことによる責任」に関するものであり、「情報 を削除したことに関する責任」に関するものが一つとしてなかったのは、主として 以下の二つの理由によるものと推測される。 第一に、紛争になるような場面では、発信者が発信した情報の適法性・正当性に ついて自信を持っていない場合が多いことが挙げられる。裁判例の分布が端的に示 すように、紛争のほとんどは2ちゃんねるにおいて生じたものであり、匿名の影に 隠れての誹謗中傷・プライバシー侵害を受けた被害者の提訴によるものである。削 除に対して異議を唱えるような発信者はそもそも匿名掲示板を利用しないのであ り、匿名掲示板の管理者は、発信者に対して意見照会(第 3 条 2 項 2 号)を行う方 法さえ持たないのが通常である。 残念なことはであるが、責任制限法の立法時に想定された公職の候補者に対する 批判や企業等の内部告発等についての紛争は、ほとんど見られない。わが国におけ る違法情報の媒介責任の問題は、匿名の影に隠れて掲示板で違法な書き込みを行う 者の責任をプロバイダがどのように分担するのかという問題とほぼ同義となって しまっている。 発信者の匿名性に対する選好は非常に強く、特に違法情報または違法の可能性の ある情報の発信者は、削除されても異議を唱えて日の当たるところに身を晒すこと はしないのである。 156 5.調査結果の分析 プロバイダが「削除したことに関する責任」を問われないことの大きな原因は、 紛争になるほとんどのケースにおいて、発信者自身が情報の適法性に自身がなく、 正々堂々争うことを選択しないからである。 第二に、削除した場合にプロバイダに責任が発生する根拠が明らかではないこと が挙げられる。この点は、従来あまり議論されていなかったが、違法情報の媒介責 任の問題の出発点でもあり、今後の検討を要する問題である。 まず、ホスティング・プロバイダについて言えば、発信者との間にホスティング 契約があるのが通常であるから、削除は当該契約に基づく債務の不履行となりうる。 しかしながら、同時にほとんどのプロバイダは、当該契約の中に一定の場合にはユ ーザーがアップロードした情報を削除できる旨の条項を設けている。何の根拠もな くプロバイダの一方的裁量によって削除できるような条項は無効と解されるが、 「違法と判断される場合」「第三者から削除要請があった場合」など合理的な事由 を要件とする条項であれば、必ずしも無効とは限らない。プロバイダは多くの場合 に当該条項に基づいて適法に情報を削除することができるであろう。 次に掲示板管理者の場合には、更に責任発生の根拠が明らかでない。そもそも個 人が管理・運営する掲示板においては、日常的に管理者による削除が行われている のが現実である。そこでは情報の違法・適法などが問題になることはなく、管理者 の嗜好や掲示板の「趣旨」などによって公然と削除が行われているのである。この ような削除について法的責任を問う場合の根拠であるが、掲示板管理者と書き込み を行った発信者の間には通常契約関係が認められないことから、発信者の表現の自 由を侵害したことに伴う不法行為責任と考えるほかはない。識者の中には、掲示板 の「パブリック・フォーラム」性を肯定することにより、このような削除について も表現の自由の侵害に伴う不法行為責任が生じうるとする考え方が見られる。パブ リック・フォーラムとは、憲法の概念であり、街路、歩道、公園のような伝統的に 表現活動と結びついている公共の場所については、そこで行われる表現活動の規制 の合憲性を厳格に判断するというものである。この考え方を敷衍すれば、掲示板が パブリック・フォーラムであれば、そこにおける表現活動は、民事的にも強く保護 すべきであるということになるかもしれない。 しかしながら、公共用物ではない、個人の管理・運営する掲示板がパブリック・ フォーラムになるという考え方自体が疑問である。そもそも掲示板は、個人の管理 者が多額の費用をかけずに気軽に運営できるものであり、掲示板の運営は、管理者 自身の表現行為である側面もあるであろう。そこにおいて管理者が自由に内容を取 捨選択できないとなると管理者の表現の自由を制限することになる。次に、書き込 みの削除によって法的責任を負うことがありうるとなると、掲示板の開設はこれま で考えられていたような気軽な行為ではなくなるが、そのような負担を管理者に負 わせるのが妥当か疑問である(表現活動に萎縮的効果がある。)。また、削除が法的 責任につながりうるのであれば掲示板そのものの閉鎖も法的責任につながりうる と考えられるがその結論は明らかに不当であろう。さらに、掲示板には代替的なも のが数多くあり、仮に一箇所で削除されても別のところで書き込むことができる。 157 5.調査結果の分析 これを一般市民による表現活動の限られたリソースであるパブリック・フォーラム と同視することは困難である。 以上のように、掲示板にパブリック・フォーラム性を認めて通りすがりの発信者 の表現の自由を保護しようとする考え方自体に多くの疑問がある。結局のところ、 掲示板については、削除に基づく法的責任を肯定する根拠は、はっきりしないと言 わざるをえない。 削除された発信者が、提訴を検討するべく弁護士に相談することがあったとして も、多くの弁護士が裁判の見通しについては悲観的であろうと思われる。 この問題は、早期に検討されることが必要である。元々、違法情報の媒介責任に 関する問題は、放置すれば被害者から、削除すれば発信者から責任を問われうるこ とが出発点であった。仮に掲示板の管理者が情報を削除しても原則として責任を問 われないのであれば、この問題全体の着地点は異なるものになりうる。また、正当 な根拠なく削除に応じない掲示板管理者の責任についても、これまでとは異なる解 釈がありえることとなろう。 (2)新たなネットワーク類型の台頭と違法情報媒介責任 本年度における大きな変化は、ブログやソーシャル・ネットワーキング・サー ビス(以下 SNS という。)などの新たなネットワーク・サービスの浸透である。こ れらは急速にユーザー数を増やしている。ブログはその簡便性から、今や従来の ウェブサイトにとって変わる勢いを示しており、従業員のブログにおける会社情 報の公開などの派生的な問題が関心を集めるに至っている。また、SNS もユーザ ーを増やしており、代表的なサービス・プロバイダである mixi のサービス・プロ バイダは、同 SNS サービスのユーザー数が 2005 年 12 月には 200 万人を超えた旨 を発表している。 これらの新たなネットワーク・サービスにおいても、違法情報媒介の問題があ ることについては、これまであまり議論がなされていない。 まず、ブログについては、ブログ・サービスのプロバイダは、ブログの作者の 作成した情報をホストしているのだから、ウェブ・ホスティング・サービスのプ ロバイダと同じ立場にあるといえる。また、ブログには多く「コメント欄」が設 けられており、ブログ閲覧者がコメントを残せるようになっている。この点でブ ログのコメント欄は、従来のウェブサイトに併設された掲示板とほぼ同じもので ある。従って、ブログ作者はコメント欄の書き込みとの関係では、掲示板管理者 とほぼ同じ立場に立つことになる。結局、ブログ・サービス・プロバイダはウェ ブ・ホスティング・サービス・プロバイダと同一の、ブログ作者は掲示板管理者 と同一の法的責任を負うことになると考えられる。 ブログ・サービスは結局のところウェブ・ホスティング・サービスの一形態で しかないから、プロバイダの法的責任が同じであることにさして異論はないであ ろう。他方で、ブログ作者と掲示板管理者が同じという点については、違和感が あるかもしれない。この点について、昨年、非常に興味深い出来事があった。 158 5.調査結果の分析 サイバー法の高名な学者のブログのコメント欄において、匿名表現の自由に関 して、閲覧者同士が議論を展開したことがあった。その中に、特定の匿名掲示板 の管理者に対する批判的な発言がなされたところ、これを発見したブログ作者で ある学者は、半ば冗談めいた調子ながら「このままでは自分が違法情報の媒介責 任を負う可能性があるので、この発言を削除した方がよさそうだ」との書き込み を残した。自分の管理する発言の場において、第三者からアップロードされた違 法情報が公開される点において、また、その発言を自分がいつでも削除すること ができる点において、ブログ作者の立場は、掲示板管理者と同じであり、同様の 法的リスクを負うものと解すべきである。 次に SNS サービスであるが、SNS は、ユーザーが公開範囲を限定できるという 点では、ウェブ・ホスティングや掲示板と異なっている。名誉毀損の成立には、 情報による社会的評価の低下が要件であり、そのためには、一定の範囲に情報が 流布されることが必要と解されている。一人に情報を伝達しただけでは、名誉毀 損にはならない。しかしながら、必要な「一定の範囲」は決して広いものではな い。 「公開範囲を友人に限定する」との設定をしていた場合であっても、友人が4、 5名もいれば、名誉毀損にあたる可能性は十分あるであろう。 SNS の基本的な機能であるユーザーの日記については、サービス・プロバイダ は、まさにウェブ・ホスティングを提供しているのであり、ウェブ・ホスティン グ・プロバイダと同一の法的責任を負うことになろう。ユーザーの日記について もブログ同様閲覧者のコメントが書き込めることから、コメント欄との関係では、 SNS ユーザーは掲示板管理者と同一の責任を負うことになる。 以上のような新たなサービスに関する違法情報媒介責任の問題は、仮定的なも の、将来のものではまったくない。実務において、訴訟の一歩手前までいくよう な事態が観察されている。特にいわゆる「まとめサイト」に関する紛争が多く見 られる。 「まとめサイト」とは、2ちゃんねるに代表される掲示板のスレッドの内 容をまとめたサイトのことである。書き込みの増えたスレッドでは、過去のスレ ッドは簡単に見ることのできない状態になっていることが多く、仮に見ることが できてもその量は膨大である。途中からスレッド上のやりとりに参加した者がこ れまでの経緯や登場人物の関係を理解するために「要約を作ってもらいたい」旨 の依頼の書き込みを行い、これに答えて当初からの参加者がサイトを作成する。 これが「まとめサイト」である。このまとめサイトにブログ・サービスが利用さ れるケースがしばしば見られる。これはブログの簡便性を考えれば当然のことで あろう。また、まとめサイトの作者は、情報の違法性について半ば自覚している ことが多いところ、無料のブログ・サービスはメールアドレスのみでも開設でき ることから、足がつきにくく、格好の媒体となる。 フリーのメールアドレスのみを作者の登録情報として開設された違法なまとめ サイトは、ブログ・サービス・プロバイダに高度の法的リスクを負わせるもので ある。近時の裁判例は、プロバイダの責任を認定する要素として「匿名性」を重 159 5.調査結果の分析 視している。フリーのメールアドレスを登録情報として開設されたブログでは、 ブログ作者の特定がほぼ100%不可能であり、IP アドレスを保存している現在 の2ちゃんねるよりも発信者の匿名性が高いことになる。このような状態で自称 被害者からの削除要請に応じることなく、事後に情報の違法性が確認された場合 には、プロバイダの責任が認められる可能性はかなり高いであろう。 なお、ウェブ・ホスティングや掲示板のような従来の典型的な場面以外に違法 情報の媒介責任が問題となる場面は、ここで取り上げたブログや SNS などの新し いサービスのみではないことに注意を要する。データ・ホスティングを伴い、か つプロバイダによるデータの削除が技術的に可能なすべてのネット上のサービス に同じことが言える。たとえば、オークション・サイトの評価欄(出品者・落札 者を取引相手が評価してコメントを記載する箇所のこと、フィードバックともい う。)における誹謗中傷がひところ議論になっていたが、実際に名誉毀損に当たる 場合に、オークション・サイトが当該情報を放置すれば、オークション・サイト にも不法行為責任が生じうることになる。 さらに、情報についてホスティングを提供するのではなく、単なるアクセスを 提供する場合でも、違法情報の媒介責任が肯定される場合がありうるとするのが 近時の識者の多数意見である。ユーザーのウェブ・サーバを預かってハウジング・ サービスを提供するデータセンターが、当該ウェブ・サーバ内に蔵置された違法 情報の送信防止を求められることがある。このような場合、データセンターはウ ェブ・サーバの中を見ることはできず、情報をウェブ・サーバから削除すること はできない。しかしながら、ハウジング・サービスの一環として、ウェブ・サー バにインターネットアクセスを提供しており、これを切断することによって、情 報の送信防止を行うことが可能である。また、このような大掛かりな場合でなく とも、自前サーバを有するユーザーにインターネットアクセスを提供するアクセ ス・プロバイダについてもまったく同じである。さらに、近時顕著なものとして PtoP ファイル交換ソフトを利用して違法情報の放流を行うものにインターネット アクセスを提供するアクセス・プロバイダもまったく同様の立場にある。 これらのケースにおいて、データセンターないしアクセス・プロバイダは、い ずれも、違法情報の送信を防止しうる地位にある。そのため、これらのものが被 害者からの送信防止の要請に応じなかった結果として、権利侵害が拡大した場合、 これらのものは被害者に対して法的責任を負う可能性がある。ただ、ここでとり うる送信防止措置は特定のサーバないしユーザーのインターネットアクセスその ものを切断することのみであり、その場合、サーバ内の他の適法な情報の送信や、 ユーザーのインターネットの利用がすべて否定されてしまうため、発信者側の不 利益は明らかである。送信停止が許容されるためには、これらの不利益もやむを 得ないような緊急避難的な状況が必要である。前記1.において、これまで、プ ロバイダが情報を削除したことについての責任を問われたためしがなく、迷った ら削除すべきである旨を述べたが、このアクセス提供類型に限っては、必ずしも そのようには言い切れない。必然的に適法情報の送信停止を伴うからである。ま 160 5.調査結果の分析 た、責任制限法第 3 条 2 項の免責については、 「当該措置が当該情報の不特定の者 に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合」の 要件について疑問があるため、これを受けられるとは限らない。 以上のとおり、新しい類型以外についても、違法情報の媒介責任が問題になり うることについても、注意すべきである(各類型の位置づけについて、図参照)。 違法情報媒介のリスク 3 リスクの長い腕 自前ウェブサーバの アクセスプロバイダ※6 オークションサイト※1 ブログサービス提供者※2 ホスティングプロバイダ 掲示板管理者 ハウジングプロバイダ (データセンター)※6 ブログ著者※3 SNSサービス提供者※4 SNSユーザー※5 ※1:特に評価情報 ※2:ホスティングプロバイダと同じ ※3:コメント欄の違法情報 ※4:公開範囲は問題 41 ※5:コメント欄の違法情報×公開範囲は問題 ※6:アクセス提供でも有責? (図 インターネットウィーク 2005 チュートリアル「ネット事業の法的リスク」森亮二 より引用) (3)「違法かどうか分からない」管理者に削除義務を負わせることの問題点 動物病院事件(原審・控訴審)およびDHC事件のところで述べたとおり、情報 の違法性が判断できないプロバイダに削除義務を負わせてよいかという問題があ り、早期に検討を要する。 これらの事件において、匿名掲示板の管理者である被告からは、①公共性、②公 益目的、③真実性の違法性阻却事由が管理者には分からない以上、他人の権利を侵 害する情報かどうかさえ不明であり、管理者が削除義務を負うのはおかしい、との 主張がなされた。前記3判決は、いずれもこの主張を否定して、管理者の削除義務 を認めたが、その根拠は必ずしもはっきりしない。 特に、違法性が判断できない状態で、管理者に削除義務を認めるためには、管理 者が仮に適法な情報を削除したとしても、発信者の表現の自由が不当に制約を受け ないことが必要である。管理者と被害者の比較において、いかに被害者の要保護性 が高くとも、適法な表現行為を行っている発信者が情報の削除を受忍すべきことに 161 5.調査結果の分析 はならない。この問題に対する答えを用意しているのは、3判決のうち、DHC事 件のみである。同判決は、発信者に対して直接責任を追及することができない匿名 掲示板においては、管理者による削除しか救済手段がないため、削除を受けること は発信者にとって想定の範囲内であり、削除しても発信者の表現の自由を不当に制 約することにはならないとする。しかしながら、仮に発信者が実名で書き込みを行 っていたとしても、情報の削除は、管理者に委ねるほかないのが通常であり(発信 者が削除することができる設定の掲示板もあるが)、原則として管理者による削除 しか救済手段がないことは、匿名掲示板であるか否かによって異ならない。また、 匿名媒体を選択した以上は、適法な表現であっても削除されてもやむをえないとい う考え方をとると、匿名による表現行為とそうでないものについて、類型的に保護 の程度に差が出てきてしまうが、この点も検討を要する問題であろう。 そもそも前記1.で述べたとおり、掲示板の場合には、管理者による削除が、発 信者の表現の自由を侵害することがあるか否かというところから疑問があるので あり、その点に遡った検討が必要である。すなわち、仮に原則として削除によって 管理者に法的責任が生じることがないのであれば、そのことを正面から認めたうえ で、掲示板である以上、発信者の削除を受けないことの期待は保護されず、削除義 務の成否は、管理者と被害者の利害関係を衡量して決すればよいと判断すべきであ る。匿名掲示板の特殊性を根拠にする必要はないであろう。また、逆に匿名の表現 行為は、要保護性が低く、削除されても仕方がないのであれば、そのようにはっき り書くべきである。 いずれにしても、DHC判決は、真正面からこの問題を検討しようとしなかった ため、説得力を失う結果となっている。 なお、違法性阻却事由の存否は、発信者に対する意見照会(第 3 条 2 項 2 号)に 対する回答で相当程度明らかになることが多い。発信者に対する意見照会の方法さ え準備していない掲示板管理者は、違法性阻却事由の判断ができなくとも、それを 自己が削除義務を負わないことの根拠として援用することはできないであろう。 【第 4 条関係】 (1)「経由プロバイダ」問題の収束 羽田タートルサービス事件判決で示された「経由プロバイダは開示関係役務提 供者にあたらず、発信者情報開示請求権の対象とならない」という考え方は、そ の後の裁判例では支持されていない。特に羽田タートルサービス代理人事件では、 高裁レベルでも否定されており、その後の非公開判決においてもこの立場をとる ものはないようである。非公開判決の中で、この考え方を肯定した地裁判決が1 件報告されているが、これは羽田タートルサービス事件と同じ裁判官によるもの であった。今後もこの考え方が支持されることがあるとは思われず、経由プロバ イダ問題はほぼ収束したと見ることができる。 ちなみに、大手の電気通信事業者が被告となる発信者情報開示請求訴訟では、 羽田タートルサービス代理人事件の高裁判決以降も、被告により、「経由プロバ 162 5.調査結果の分析 イダの抗弁」が提出されることが一般であった。これは、総務省の公権解釈とし て、熱心な応訴態度を示さないと通信の秘密を侵害したことになる、とされてい ることとの関係で、可能性のある攻撃防御方法は一応主張していたためである。 しかしながら、現時点においては、経由プロバイダの抗弁の主張を提出しなかっ たことにより、「熱心な応訴態度」を否定される可能性も低下しているように思 われる。 (2)管轄 公開されていない裁判例において管轄が問題となっているものがあるようであ る。民事訴訟法には、管轄は原則として被告の主たる営業所地とするとの規定が ある。発信者情報開示請求は、経済的利益を目的とする訴えではないため、この 規定の例外である財産権上の訴え(民事訴訟法第 5 条 1 号)とはいえず、その他 の例外である特別裁判籍も認められないので、被告であるプロバイダの主たる営 業所地が管轄となると解される(民事訴訟法第 4 条 1 項)。「プロバイダ責任制限 法−逐条解説とガイドライン」総務省電気通信利用環境整備室著 49 頁も同旨であ る。 他方、同一の被告に対して、複数の訴えがなされる場合、訴えごとに管轄が違 う場合がありうる。この場合、一方の管轄に他方の管轄が引っ張られることがあ る。これを併合管轄という。発信者情報開示請求の場面では、開示請求と同時に 損害賠償請求がなされる場合が問題となる。この場合には形式的には併合管轄が 認められ、義務履行地である原告の住所地に管轄が認められることになる(民事 訴訟法第 7 条)。 しかしながら、この結論は妥当であろうか。特定電気通信の流通による被害者 は、その性質上日本全国いかなるところにでも生じうるのであり、プロバイダが 全面的に遠隔地における応訴の費用と手間を負担することは妥当ではない。発信 者情報開示請求の対象となるプロバイダには、個人の掲示板管理者等も含まれる ことを考えあわせれば、その不当性は明らかである。 ちなみに、被害者の立場に立って考えても、管轄のために損害賠償請求を付加 することは、得策とは言いがたい。被害者の住所地での提訴があると、まずは被 告プロバイダから移送の申立を受けるであろう。プロバイダはこの点は頑強に争 うと考えられるから、悪くすると移送だけで1年程度を要することになる。また、 責任制限法第 4 条 4 項により、開示しないプロバイダに対する損害賠償請求には プロバイダの重過失が必要である。移送の問題が片付いて本案に入った後も、重 過失が認められては困るプロバイダは、損害賠償請求の各要件を否定すべく、名 誉毀損の成否等、情報の違法性のレベルから、強力に抵抗することが予想される。 名目的な損害賠償請求の付加は、被害者が管轄をとるための妙案であるように思 われるが、訴訟の長期化やプロバイダの強固な抵抗を招くことを考えると、必ず しも得策とはいい難い。 163 5.調査結果の分析 5.2.2 著作権侵害関係の動向分析 (1)プロバイダによる侵害行為 利用者の行った著作権侵害行為について、プロバイダにも,著作権侵害行為が 成立することがある。たとえば,2ちゃんねる小学館著作権侵害事件の東京高裁 の前掲判決は,不作為による著作権侵害行為を認定した。 プロバイダによる著作権侵害行為の成立の可能性について、以下検討する。 利用者による侵害行為を見てみると,たとえば本件掲示板へ本件対談記事を書 き込んだ行為は,①複製行為(著作権法21条)である。また,書き込みの行わ れた電子掲示板は公衆のアクセス可能なインターネットに接続されているから, 書き込みと同時に,②送信可能化行為(23条1項)が存在する。さらに,アク セスしてきた第三者の要求に応じて本件対談記事を自動的に公衆送信する行為は ③公衆送信行為(23条1項)である。したがって,これら3つの行為について, プロバイダに直接侵害が成立するかを以下検討する。 (ⅰ)複製行為の主体 複製行為の主体は誰か。米国においては,プロバイダが電子掲示板を所有・管 理しているので,利用者による電子掲示板への書き込みの主体はプロバイダであ るとの判決(例えば Playboy Enterprises, Inc. v. Frena, 839 F. Supp. 1552 (M.D. Fla. 1993))と利用者であるとの判決(例えば Religious Technology Center v. Netcom On-Line Communication Services Inc., 51 PTCJ 115 (N.D. Cal 1995)参 照)が対立したが,日本では一般的に利用者が複製行為の主体と考えられている。 複製行為の要素を検討してみると,複製は,複製の実行行為と,複製の意思の 2つからなる。まず,複製の実行行為に関して,複製手段は何か,それを使った のは誰かと考えると,複製手段であるサーバはプロバイダが保有しているが,利 用者はこれを使用する権限を持っている。したがって,利用者も複製手段を利用 して複製の実行行為を行えることに問題はない。 つぎに,複製の意思を考えると,サーバに蓄積するという抽象的な意味ではプ ロバイダにも複製の意思があるが,具体的な侵害物に着目すれば,当該侵害物を 選んだのは利用者であり,プロバイダには当該侵害物を選択する意思は存在しな い。すなわち,複製の意思は利用者にのみ存在する。 したがって,複製行為の主体は,通常,利用者であって,プロバイダではない と考えられる。 (ⅱ)送信可能化行為の主体 送信可能化は,難解な用語で定義されている(著作権法2条1項9号の5)が, 要するに,インターネットに接続されているサーバに書き込みをする行為(9号 の5イ),または書き込みのあるサーバをインターネットに接続する行為(9号の 5ロ)に成立する。 インターネットに接続されているサーバに書き込みをする場合の送信可能化行 164 5.調査結果の分析 為は,書き込み時に成立するから,書き込みの主体と同じく,利用者が送信可能 化行為の主体である。 他方,書き込みのあるサーバをインターネットに接続する場合の送信可能化行 為は,サーバをインターネットに接続する時に成立するので,接続を行うプロバ イダが送信可能化行為の主体である。また,書き込み時にインターネットへの接 続が予想されており,利用者がこれを知って書き込んだのであれば,利用者も送 信可能化行為の主体である。 (ⅲ)公衆送信行為の主体 つぎに,公衆送信の主体は誰かと考えるべきか。 公衆送信行為は,1回1回の送信ごとに存在する。したがって,公衆送信権の 侵害は,書き込みの時点だけでなく,送信行為の時点についても,検討する必要 がある。 公衆送信の行為者を,公衆送信の行為と公衆送信の意思という2つの点から検討 する必要がある。まず,公衆送信の行為に関して,公衆送信手段はサーバとネッ トワークであり,これを保有しているのはプロバイダであるが,利用者はこれを 使用する権限を持っている。したがって,公衆送信手段の利用者は,利用者でも プロバイダでもありうる。つぎに,公衆送信の意思について,送信されるものを 選択しているのは利用者であるから,公衆送信の意思を持っているのは,利用者 である。よって,公衆送信の主体は,すくなくとも書き込みの時点においては, プロバイダではなく利用者であると考えられる。 しかし,その後の送信行為に関しては,利用者とともにプロバイダも公衆送信 の主体でありうる。すなわち,利用者の作り出したサーバにおける違法複製物を 送信する意思を持って,自動公衆送信可能状態を放置する場合には,プロバイダ に,不作為による公衆送信行為が認められうる。たとえば,無断複製物をサーバ にアップロードして送信させている利用者がその削除を求めたにもかかわらず, プロバイダはその違法複製物のおかげでサーバへのアクセスが増え営業上利用価 値があるので削除せず放置している場合には,明らかにプロバイダに不作為によ る当該無断複製物の公衆送信行為を認めることができる。 プロバイダの不作為による公衆送信行為は,故意ある場合だけではなく,過失 がある場合もありうる。たとえば,プロバイダは,利用者が無断複製物をサーバ にアップロードして送信させていることを知りえた場合において,サーバから当 該無断複製物を削除することが容易であり,かつこれを削除すべき義務があるの に,これを放置したときには,たとえこの状態を積極的に利用する意思がなくて も,過失による不作為で公衆送信行為を行ったと考えられる。 なお,利用者とプロバイダがともに同時に公衆送信行為の主体と考えるのはお かしいのではないかとの疑問もありうる。しかし、刑法理論においても,たとえ ば,AがBの子Cを池に落として殺した場合において、Aが立ち去ってから、B は、Cがおぼれそうになっているのを通りかかって見つけたが、Cが死んでしま えばいいと思って放置したとすれば、Aに殺人罪が成立すると同時に、Bにも不 165 5.調査結果の分析 作為による殺人罪が成立する。 (2)プロバイダに対する差止請求権 プロバイダに侵害行為が認められる場合に,プロバイダに対する差止請求が認 められることには異論がない。 また,実質的行為者論に基づいてプロバイダに侵害が成立する場合にも,プロ バイダに対する差止請求が認められることには異論がない。ただ、実質的行為者 論の射程範囲については、まだまだ流動的である。すなわち、クラブキャッツア イ事件の最高裁昭和63年3月15日判決(民集 42 巻 3 号 199 頁)、ファイルロ ーグ事件の東京地裁平成15年1月29日判決、同事件の東京高等裁判所平成 17 年 3 月 31 日判決の間でも理論構成は異なる。 では,著作権侵害に対する教唆・幇助がプロバイダに成立する場合に,プロバ イダに対する差止請求が認められるか。すなわち,著作権侵害への教唆・幇助に 著作権法112条1項の適用があるのか。この問題については,①否定説,②肯 定説,③制限的肯定説の3つに,裁判例も分かれている。 一般的には否定的に考えられているようである。否定説を明確に論じた裁判例 は,著作権の分野においては2ちゃんねる小学館著作権侵害事件・東京地裁平成 16 年 3 月 11 日判決を除いては存在しないようである。積水化学事件(大阪地判昭 和 36 年 5 月 4 日下民集 12-5-937)は特許権侵害の事件であるが,「自らは特許権 の侵害行為を実行するものでなければ,また実行せんとするものでもないのみな らず他人の特許方法の実施を停止しまたはその実施を防止するにつき,支配的な 直接的な役割を果しうる地位にもない」と判示して,これを否定した。 他方,肯定説をとる裁判例もある。たとえば, 小僧寿司事件は商標権侵害の事 件であるが,フランチャイズシステムにおいて,商標権を侵害する商標をフラン チャイジーが使用し,本部がこれを指示していた事案において,第1審裁判所は, 本部が教唆・幇助の関係にあると認定しながら,商標権に基づき本部に対する差 止請求を認めた(大阪地判平成 2 年 3 月 15 日判時 1359-128,高知地判平成 4 年 3 月 23 日判タ 789-26)。 また,制限的に一定の場合にだけ差止請求を認めた裁判例もある。ヒットワン 事件(大阪地裁平成15年2月13日判決)は,以下のように判示した。 著作権法112条1項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれが ある者」は,一般には,侵害行為の主体たる者を指すと解される。しかし, 侵害行為の主体たる者でなく,侵害の幇助行為を現に行う者であっても,① 幇助者による幇助行為の内容・性質,②現に行われている著作権侵害行為に 対する幇助者の管理・支配の程度,③幇助者の利益と著作権侵害行為との結 び付き等を総合して観察したときに,幇助者の行為が当該著作権侵害行為に 密接な関わりを有し,当該幇助者が幇助行為を中止する条理上の義務があり, かつ当該幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できるような場合には, 当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから,同法11 166 5.調査結果の分析 2条1項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるも のと解するのが相当である。けだし,同法112条1項に規定する差止請求 の制度は,著作権等が著作物を独占的に支配できる権利(著作者人格権につ いては人格権的に支配できる権利)であることから,この独占的支配を確保 する手段として,著作権等の円満な享受が妨げられている場合,その妨害を 排除して著作物の独占的支配を維持,回復することを保障した制度であると いうことができるところ,物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求 権)の行使として当該具体的行為の差止めを求める相手方は,必ずしも当該 侵害行為を主体的に行う者に限られるものではなく,幇助行為をする者も含 まれるものと解し得ることからすると,同法112条1項に規定する差止請 求についても,少なくとも侵害行為の主体に準じる立場にあると評価される ような幇助者を相手として差止めを求めることも許容されるというべきであ り,また,同法112条1項の規定からも,上記のように解することに文理 上特段の支障はなく,現に侵害行為が継続しているにもかかわらず,このよ うな幇助者に対し,事後的に不法行為による損害賠償責任を認めるだけでは, 権利者の保護に欠けるものというべきであり,また,そのように解しても著 作物の利用に関わる第三者一般に不測の損害を与えるおそれもないからであ る。 前述のとおり,2ちゃんねる小学館著作権侵害事件(東京地裁平成 16 年 3 月 11 日判決)においては,明確に,教唆・幇助に対する差止請求権を否定されたが,そ の論拠は強いものではない。したがって,今後は,少なくとも電子掲示板などのホ スティング・サービスの事例においては,肯定説ないしは制限的肯定説に従って, プロバイダに直接侵害に対する教唆・幇助が成立する場合に,プロバイダに対する 差止請求が認められる方向に進むと可能性も予想される。 (3)プロバイダの損害賠償責任 (ⅰ)過失の概念 民法(709条)に基づいて,故意または過失により他人の権利(民法709 条の適用においては,広く,違法な結果を含むものと解されている)を侵害した ときは,不法行為として損害賠償義務を負う。プロバイダの責任をめぐっては, 各国でさまざまな議論が展開された。わが国においては,無過失責任主義を主張 する権利者団体と重過失責任主義を主張するプロバイダ団体とが対立したが,最 終的にプロバイダ責任制限法を定めて,プロバイダの損害賠償義務について過失 責任主義を維持した(3条1項)。 過失は,他人の権利を侵害しないよう,これを予見しこれを回避すべき注意義 務に違反することである。その注意義務の程度は,具体的状況において,通常人 が払うことを期待される程度の注意と解されている。したがって,予見される結 果の重大性と結果発生の可能性の程度に応じて回避のためにとるべき行為も段階 的に異なってくる。予見される結果発生の重大性と結果発生の可能性が小さい場 167 5.調査結果の分析 合には,とるべき結果回避措置の程度も低いもので足りる。予見される結果発生 の重大性と可能性が大きい場合には,とるべき結果回避措置の程度は高いもので あることが必要となる。 では,プロバイダが置かれた状況において具体的に,どのような場合にどのよ うな注意義務が発生すると考えられるか。 (ⅱ)複製権侵害に対する注意義務 利用者による複製権の侵害はプロバイダのサーバへの書き込みによって発生し かつ完了する。すなわち,プロバイダが違法行為に関与しうるのは,利用者によ る書き込みの時点までである。したがって,プロバイダの注意義務としては,著 作権者に無断で著作物をサーバに書き込むことを予見し,利用者へのサービス提 供の際に,著作権者に無断で著作物をサーバに書き込むことが著作権侵害を生ず ることを告知するという結果回避措置をとるべき義務の有無が問題となる。 しかし,通常のプロバイダのサービスにおいては,利用者が著作権者に無断で 著作物をサーバに書き込むことは抽象的にしか予見しえない。利用者による利用 のほとんどは適法な書き込みであるとの事情に鑑みれば,通常のプロバイダには, 利用者へのサービス提供の際に,著作権者に無断で著作物をサーバに書き込むこ とが著作権侵害を生ずることを告知するという結果回避措置をとるべき義務はな いと考えるべきであろう。 他方,高い匿名性を保障しているプロバイダにおいては,利用者が著作権者に 無断で著作物をサーバに書き込むことの蓋然性は高くなる。したがって,このよ うなプロバイダには,利用者へのサービス提供の際に,著作権者に無断で著作物 をサーバに書き込むことが著作権侵害を生ずることを告知するという結果回避措 置をとるべき義務があると考えるべきであろう。動物病院事件の東京高裁平成1 4年12月25日判決は,本件のプロバイダYの本件掲示板に利用者が動物病院 の経営者の名誉を毀損する書き込みを行った事案において,以下のように違法書 き込みの高い蓋然性を指摘して,利用者に注意を喚起するなどして本件掲示板に 他人の権利を侵害する発言が書き込まれないようにする義務を認めた。 本件掲示板は,控訴人が開設し,管理運営しているが,控訴人は,利用者 の IP アドレス等の接続情報を原則として保存せず,またその旨を明示してお り,利用者は,掲示板を匿名で利用することが可能であり,利用者が自発的 にその氏名,住所,メールアドレス等を明かさない限り,それが公表される ことはない。したがって,本件掲示板に書き込まれた発言が他人の名誉を殿 損することになっても,その発言者の氏名等を特定し,その責任を追及する ことは事実上不可能である。そして,このように匿名で利用でき,管理者で すら発信元を特定できないことを標榜している電子掲示板においては,やや もすれば利用者の規範意識が鈍麻し,場合によっては他人の権利を侵害する 発言などが書き込まれるであろうことが容易に推測される。実際に,本件 1, 2 のスレッドに限ってみても,被控訴人らに対するもののほか,他の多くの 168 5.調査結果の分析 動物病院,獣医等に対する名誉殿損と評価し得る発言などが数多く書き込ま れており,また,前記 1(4)のとおり,本件掲示板において,D 生命及びそ の従業員個人に対する多数の誹諦中傷の発言がされた例もある。 (ⅲ)送信可能化権侵害に対する注意義務 前述のとおり,送信可能化権の侵害は,インターネットに接続されているサー バに書き込みをする行為(著作権法2条1項9号の5イ),または書き込みのある サーバをインターネットに接続する行為(同ロ)によって成立しかつ完了する。 しかし,通常,プロバイダが利用者にサービスを提供する際には予めサーバはイ ンターネットに接続されているから,送信可能化権の侵害は利用者の書き込みに よって成立しかつ完了する。すなわち,プロバイダが違法行為に関与しうるのは, 利用者による書き込みの時点までである。 したがって,送信可能化権侵害に対するプロバイダの注意義務は,前述の複製 権侵害に対する注意義務と同じに考えられる。 (ⅳ)公衆送信権侵害に対する注意義務 公衆送信行為は,1回1回の送信ごとに存在する。したがって,公衆送信権の 侵害は,各送信行為の時点に,成立する。すなわち、公衆送信権の侵害は,利用 者による書き込みがなされた時点からそれが削除される時点まで存在するので、 プロバイダは、書き込みがなされた時点からそれが削除される時点までについて、 削除しなかったことについて注意義務違反があれば過失責任を問われる。 そこで,プロバイダの注意義務として,著作権者に無断で著作物をサーバに書 き込むことを予見し,①サービスの提供に当たって予め警告表示するなど侵害行 為が起こらないよう注意する義務(「警告義務」)があるか,②サービスが侵害行 為に利用されないか事前に審査して侵害行為を予防するよう注意する義務(「事前 検査義務」)があるか,③侵害行為が行われていないか常時監視して侵害行為を発 見するよう注意する義務(「監視義務」)があるか,④侵害行為が存在する具体的 危険が発生した場合に,当該侵害行為がないか調査確認するよう注意する義務 (「調査義務」)があるか,⑤侵害行為を発見した場合に当該侵害を除去するよう 注意すべき義務(「削除義務」)があるか,が問題となりうる。 以上のうち,①の警告義務については,原則として,これを負わないと考える。 前述のとおり,通常のプロバイダのサービスにおいては,利用者が著作権者に無 断で著作物をサーバに書き込むことを抽象的にしか予見しえない。したがって, 利用者へのサービス提供の際に,著作権者に無断で著作物をサーバに書き込むこ とが著作権侵害を生ずることを告知するという結果回避措置をとるべき義務はな いと考えるべきであろう。しかし,高い匿名性を保障しているプロバイダにおい ては,利用者が著作権者に無断で著作物をサーバに書き込むことの蓋然性は高く なる。したがって,利用者へのサービス提供の際に,著作権者に無断で著作物を サーバに書き込むことが著作権侵害を生ずることを告知するという警告義務があ ると考えるべきであろう。 169 5.調査結果の分析 ②の事前検査義務は,具体的に検討するまでもなく,通信の秘密と抵触するか らありえない。 ③の監視義務については,原則として,これを負わないと考える。通常のプロ バイダのサービスにおいては,利用者による利用のほとんどは適法な書き込みで あり,利用者が著作権者に無断で著作物をサーバに書き込むことを抽象的にしか 予見しえない。かかる事情に鑑みれば,侵害行為が行われていないか常時監視し て侵害行為を発見するよう注意する義務はないと考えるべきであろう。ただし, 高い匿名性を保障しているプロバイダにおいては,利用者が著作権者に無断で著 作物をサーバに書き込むことの蓋然性は高くなるので,侵害行為が行われていな いか常時監視して侵害行為を発見するよう注意する義務も認められる余地があろ う。 ④の調査義務については,権利者からの著作権侵害の具体的事実が通知された 場合には,著作権侵害が存在する蓋然性が高いと考えられる。したがって,プロ バイダには,当該侵害行為がないか調査確認するよう注意する義務があると考え られる。 ⑤の削除義務については,侵害行為を発見した場合には,当該侵害を除去する という結果回避措置をとる義務がある。 (4)発信者情報開示請求 著作権侵害の事案においては,発信者情報の開示を求めた訴訟はこれまでなか ったようであるが、WinMX 発信者情報開示請求事件の東京地方裁判所平成 17 年 6 月 24 日判決が登場した。 名誉毀損やプライバシー侵害の事案においては,プロバイダ責任制限法4条1 項に基づいて,経由プロバイダに対する発信者情報の開示請求が裁判例上認めら れていた(東京高裁平成 16 年 5 月 26 日判決,東京地裁平成 16 年 1 月 14 日判決, 東京地裁平成 15 年 11 月 28 日判決,東京地裁平成 15 年 9 月 17 日判決,東京地裁 平成 15 年 9 月 12 日判決など)。この判決はこの裁判例と同様に経由プロバイダに 対する発信者情報の開示請求を認めた。 170 【別紙1】 プロバイダ責任制限法に係るアンケート 171 記入日 [アンケート用紙Ⅰ] 年 月 日 プロバイダ責任制限法に係るアンケート [調査対象期間:平成 17 年 10 月 1 日∼平成 17 年 12 月 31 日] 会社名: 担当者名: 部署名: 電話番号: E-mail: 1.プライバシー侵害関係(氏名、住所など個人情報の掲載、肖像権等) 申 立 情報表示 者 場所 被害主張者の 依頼内容 送信防止措置請求: 被 害 主 張 者 ∧ 代 理 人 弁 護 士 含 む ∨ 当 件 社 の 対 ①送信防止措置を採った: 応 件 件 うち、プロバイダ責任制 ②送信防止措置を採らなかった: うち、(1)発信者に送信防止依頼した: 件 ウェブペ 限法言及の有無 有: 件 (2)発信者に注意喚起した: 件 ージ 無: 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 発信者情報開示請求: 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 有: 件 無: 件 送信防止措置請求: 件 ①送信防止措置を採った: うち、プロバイダ責任制 電子掲示 限法言及の有無 有: 件 板 無: 件 件 件 ②送信防止措置を採らなかった: 件 うち、(1)発信者に送信防止依頼した: (2)発信者に注意喚起した: 件 件 件 (3)掲示板管理者に送信防止依頼した: ①・②のうち、発信者へ照会した: 発信者情報開示請求: 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 有: 件 無: 件 送信防止措置請求: 件 件 ①送信防止措置を採った: 件 件 件 その他 うち、プロバイダ責任制 ②送信防止措置を採らなかった: うち、(1)発信者に送信防止依頼した: 件 ( P 2 P 限法言及の有無 有: 件 (2)発信者に注意喚起した: 件 ファイル 無: 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 件 交換等) 発信者情報開示請求: 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 第 三 者 有: 件 無: 件 法務省人権擁護機関からの申立件数 合計: 件 ①送信防止措置を採った: 上記以外の第三者からの申立件数 合計: 件 プライバシー 侵 害 関 係 合 計 件 ②送信防止措置を採らなかった: 法務省以外の公的機関からの申立件数 合計: 件 : 173 件 件 件 件 2.名誉毀損関係(個人の誹謗中傷、法人の名誉又は信用毀損等) 申 立 情報表示 者 場所 被害主張者の 依頼内容 送信防止措置請求: 当 件 社 の 対 ①送信防止措置を採った: 応 件 件 ウェブペ うち、プロバイダ責任制 ②送信防止措置を採らなかった: うち、(1)発信者に送信防止依頼した: ージ 限法言及の有無 被 害 主 張 者 ∧ 代 理 人 弁 護 士 含 む ∨ 有: 件 無: 件 (2)発信者に注意喚起した: 無: 件 送信防止措置請求: 件 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 件 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 発信者情報開示請求: 有: 件 件 ①送信防止措置を採った: 件 件 件 電子掲示 うち、プロバイダ責任制 ②送信防止措置を採らなかった: うち、(1)発信者に送信防止依頼した: 板 限法言及の有無 有: 件 無: 件 (2)発信者に注意喚起した: 件 件 (3)掲示板管理者に送信防止依頼した: ①・②のうち、発信者へ照会した: 発信者情報開示請求: 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 有: 件 無: 件 送信防止措置請求: 件 件 ①送信防止措置を採った: 件 件 件 その他 うち、プロバイダ責任制 ②送信防止措置を採らなかった: うち、(1)発信者に送信防止依頼した: 件 ( P 2 P 限法言及の有無 有: 件 (2)発信者に注意喚起した: 件 ファイル 無: 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 件 交換等) 発信者情報開示請求: 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 第 三 者 有: 件 無: 件 法務省人権擁護機関からの申立件数 合計: 件 ①送信防止措置を採った: 上記以外の第三者からの申立件数 合計: 件 名 誉 毀 損 関 係 合 計 件 ②送信防止措置を採らなかった: 法務省以外の公的機関からの申立件数 合計: 件 : 件 174 件 件 件 3.著作権侵害関係(著作権、特許権等) 申 立 情報表示 者 場所 被害主張者の 依頼内容 送信防止措置請求: ウェブペ ージ 被 害 主 張 者 ∧ 代 理 人 弁 護 士 含 む ∨ 当 件 言及の有無 件 応 件 ②送信防止措置を採らなかった: 件 うち、(1)発信者に送信防止依頼した: うち、信頼性 確認団体から請求: 無: 対 ①送信防止措置を採った: うち、プロバイダ責任制限法 有: 社 の 件 (2)発信者に注意喚起した: 有: 件 無: 件 送信防止措置請求: ①送信防止措置を採った: 件 うち、プロバイダ責任制限法 言及の有無 件 件 ②送信防止措置を採らなかった: うち、信頼性 件 (3)掲示板管理者に送信防止依頼した: 件 送信防止措置請求: その他 (P2P ファイル 交換等) ①送信防止措置を採った: 件 うち、プロバイダ責任制限法 言及の有無 有: 件 無: 件 うち、(1)発信者に送信防止依頼した: 件 件 (2)発信者に注意喚起した: 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 件 件 発信者情報開示請求: 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 第 三 者 件 件 ②送信防止措置を採らなかった: うち、信頼性 確認団体から請求: 有: 件 無: 件 著作権侵害に係る第三者からの申立件 数の合計: 件 著 作 権 侵 害 関 係 合 計 件 件 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 件 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 発信者情報開示請求: 無: 件 (2)発信者に注意喚起した: 件 件 有: 件 うち、(1)発信者に送信防止依頼した: 確認団体から請求: 無: 件 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 有: 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 件 発信者情報開示請求: 電子掲示 板 件 : 件 175 件 4.商標権侵害関係(商標権等) 申 立 情報表示 者 場所 被害主張者の 依頼内容 当 送信防止措置請求: 件 被 害 主 張 者 ∧ 代 理 人 弁 護 士 含 む ∨ 言及の有無 有: 応 件 ②送信防止措置を採らなかった: 件 うち、(1)発信者に送信防止依頼した: 件 うち、信頼性 確認団体から請求: 無: 対 ①送信防止措置を採った: うち、プロバイダ責任制限法 ウェブペ ージ 社 の 件 (2)発信者に注意喚起した: 件 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 件 件 発信者情報開示請求: 件 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 有: 件 無: 件 送信防止措置請求: 件 ①送信防止措置を採った: うち、プロバイダ責任制限法 件 件 ②送信防止措置を採らなかった: 件 言及の有無 うち、(1)発信者に送信防止依頼した: 件 電子掲示 (2)発信者に注意喚起した: 件 有: 件 うち、信頼性 板 確認団体から請求: 件 (3)掲示板管理者に送信防止依頼した: (ネット 無: 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 件 オークシ ョンを含 発信者情報開示請求: 件 む) 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 件 限法言及の有無 有: 件 無: 件 送信防止措置請求: 件 ①送信防止措置を採った: うち、プロバイダ責任制限法 その他 (P2P ファイル 交換等) 言及の有無 有: 件 うち、信頼性 件 (2)発信者に注意喚起した: 権 侵 有: 件 無: 件 害 件 件 商標権侵害に係る第三者からの申立件 数の合計: 件 標 件 ①・②のうち、発信者へ照会した: 件 うち、プロバイダ責任制 ①発信者情報を開示した: ②発信者情報を開示しなかった: 限法言及の有無 商 件 件 発信者情報開示請求: 第 三 者 件 うち、(1)発信者に送信防止依頼した: 確認団体から請求: 無: 件 ②送信防止措置を採らなかった: 関 係 合 計 : 5.その他の権利侵害 ・被害主張者からの申立件数の合計: ・第三者からの申立件数の合計: 件 件 176 件 件 件 6.発信者情報開示請求の対応件数(貴社が発信者情報開示請求として扱ったもの) ※平成 14 年 5 月 27 日(プロバイダ責任制限法施行日)から平成 17 年 12 月 31 日の間について 集計願います。 発信者情報開示請求 権利侵害種別 情報表示場所 プライバシー侵害 ウェブページ 対応件数: 件 電子掲示板 対応件数: 件 対応件数: 件 ウェブページ 対応件数: 件 電子掲示板 対応件数: 件 対応件数: 件 ウェブページ 対応件数: 件 電子掲示板 対応件数: 件 対応件数: 件 ウェブページ 対応件数: 件 電子掲示板 対応件数: 件 対応件数: 件 ウェブページ 対応件数: 件 電子掲示板 対応件数: 件 対応件数: 件 対応件数: 件 として扱った件数 関係 (氏名、住所など 個人情報の掲載、 肖像権等) 名誉毀損関係 (個人の誹謗中 傷、法人の名誉又 は信用毀損等) その他(P2P フ ァイル共有等) その他(P2P フ ァイル共有等) 著作権侵害関係 (著作権、特許権 等) その他(P2P フ ァイル共有等) 商標権侵害関係 (商標権等) その他(P2P フ ァイル共有等) その他の権利侵害 その他(P2P フ ァイル共有等) 合 計 177 当 社 の 対 応 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 ①発信者情報を開示した: 件 ②発信者情報を開示しなかった: 件 7.プロバイダ責任制限法関連に対する貴社の現在の対応能力(該当する能力を選択) □法律の内容を知らない □法律の内容は知っているが、実際の対応はほとんどできない □法律の内容を理解し、実際にある程度対応できる □法律の内容を理解し、実際にほぼ対応できる □法律の内容を理解し、実際にほぼ完璧に対応できる 8.発信者情報開示請求に対する貴社の対応スタンス ※プロバイダ責任制限法施行以降現在に至るまで全期間についてお応え願います (1)今までに発信者情報開示請求を受け取ったことの有無 [ □受け取ったことがある □受け取ったことがない ] (2)今までに発信者情報開示をしたことの有無 [ □開示したことがある ] □開示したことがない (3)開示した場合と開示しなかった場合の理由(対応例をできるだけ多く記入) ※発信者情報開示請求を受け取った場合に、貴社がどのような判断を行ったかを下記理由(開 示した場合と、開示しなかった場合)欄から選択し、その具体的対応例を別添の用紙に記入 し、その具体的対応例の番号を右の欄に記入 【開示した場合の理由(複数回答) 】 発信者情報開示の具体的対応例 (別添の用紙)の番号を記入 開示した理由 □発信者に意見を聞いて開示に同意したから □発信者から回答がなく、弁護士と相談して開示すること にした □発信者から回答がなく、法律の専門家はいないが、内容 からして開示することにした □発信者から開示の拒否回答があったが、弁護士と相談し て開示することにした □発信者から開示の拒否回答があり、法律の専門家はいな いが、内容からして開示することにした □その他( ) □その他( ) □その他( ) 178 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 【開示しなかった場合の理由(複数回答) 】 発信者情報開示の具体的対応例 (別添の用紙)の番号を記入 開示しなかった理由 □明らかな権利侵害にあたると考えられない □請求理由が正当なものと考えられない ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 ・発 □侵害情報を見つけられなかった □発信者情報を保有していなかった □当社の管理する特定電気通信設備ではない □書面の不備 □他社掲示板のアクセスログの提示で内容の信憑性が判 断できない □明らかに権利を侵害しているか当社では判断できない ので、裁判となった場合には、そこでの判断を待つこと にした □裁判例等の蓄積がなく、当社では判断できないので、裁 判となった場合には、そこでの判断を待つことにした □ファイル交換での送信がプロバイダ責任制限法の対象 範囲なのか判断できなかったので、裁判例の蓄積を待っ てからにしたい □掲示板での誹謗中傷で、当社としては事実確認がとれな い □発信者と申立者双方の言い分に食い違いがあり、事実の 判断ができない □その他( ) □その他( ) □その他( ) (4)発信者情報開示請求に対する問題点 179 9.今までにプロバイダ責任制限法関係で訴訟となった又はなっている事案 ※プロバイダ責任制限法施行以降現在に至るまで全期間についてお応え願います (1)訴訟となった又はなっている事案の有無(該当項目を選択) [□該当する事案が有る □該当する事案は無い □回答はできない又は差し控えたい] (2)権利侵害種別と事案件数 権利侵害種別 プライバシー侵害 関係 送信防止措置請求/ 発信者情報開示請求 訴訟となった事案件数 判決済事案 和解事案 係争中事案 件 件 件 送信防止措置請求 合 計 件 発信者情報開示請求 送信防止措置請求 名誉毀損関係 発信者情報開示請求 送信防止措置請求 著作権侵害関係 発信者情報開示請求 送信防止措置請求 商標権侵害関係 発信者情報開示請求 送信防止措置請求 その他の権利侵害 発信者情報開示請求 合 計 (注)・最終的に和解となった事案も含めて記入願います。 ・一件の訴訟で、送信防止措置及び発信者情報開示の双方とも請求されている場合には、 それぞれ一件として記入して下さい。 10.裁判所からの仮処分命令の内容 (1)裁判所からの仮処分命令を受けたことの有無 [ □受けたことがある □受けたことがない ] (2)仮処分命令を受けた権利侵害種別と命令の内容 権利侵害種別 仮処分命令の内容 □情報の削除命令 □ログの保全命令 □情報の削除命令 □ログの保全命令 □情報の削除命令 □ログの保全命令 □情報の削除命令 □ログの保全命令 □発信者情報開示命令 □その他( □発信者情報開示命令 □その他( □発信者情報開示命令 □その他( □発信者情報開示命令 □その他( 件 ) ) ) ) 数 件 件 件 件 **ご協力ありがとうございました** 180 [アンケート用紙Ⅱ] プロバイダ責任制限法に係る具体的対応事例【送信防止措置請求】 (事例番号:削 会社名: 担当者名: 1 項 目 権利侵害の種類 2 申立者 発 生 し た 権 利 侵 害 状 況 3 4 情報表示場所 の詳細 発信者 プロバイダ責任制限法 部署名: 電話番号: E-mail: 回 答 □プライバシー侵害関係 □名誉毀損関係 □著作権侵害関係 □商標権侵害関係 □その他( ) □被害主張者(□当社会員 □非会員 □代理人弁護士) □第三者 □その他( ) ウェブページ(□当社開設 □当社会員開設 □他社開設 □他社会員開設 □当社契約二次プロバイダ開設 □当社契約二次プロバイダ会員開設) 電子掲示板(□当社管理 □当社会員管理 □他社管理 ※ネットオー □他社会員管理 □当社契約二次プロバイダ管理 クション含む □当社契約二次プロバイダ会員管理) P2Pファイル交換 (□当社会員 PC □他社会員 PC □その他 ( ) ) その他( ) □当社会員 □当社 □他社会員 □他社 □当社契約二次プロバイダ会員 □当社契約二次プロバイダ □その他( ) □言及有 □言及無 申立内容の概要 ※個人を特定で きる記載はさける 5 発 信 者 へ の 照 □行った 会 当 発 信 者 へ の 対 □当社が送信防止措置 社 応 □発信者に注意喚起 の □その他( 対 具体的対応 応 (検討内容等 できるだけ詳 しく) □行わなかった □発信者に送信防止依頼 □発信者に何の対応もとらず ) ※個人を特 定できる記載 はさける 6 ) 対応上の問題点等 181 プロバイダ責任制限法に係る具体的対応事例【発信者情報開示請求】 (事例番号:発 )□公表可 □公表不可 会社名: 担当者名: 1 項 目 権利侵害の種類 2 申立者 発 生 し た 権 利 侵 害 状 況 3 4 5 情報表示場 所の詳細 発信者 プロバイダ責任制限法 申立内容の概要 ※個人を特定で きる記載はさ ける 開示/不開示 発信者への意 当 見照会 社 の 開示した理由 対 応 開示しなかっ た理由 部署名: 電話番号: E-mail: 回 答 □プライバシー侵害関係 □名誉毀損関係 □著作権侵害関係 □商標権侵害関係 □その他( ) □被害主張者(□当社会員 □非会員 □代理人弁護士) □第三者 □その他( ) ウェブページ(□当社開設 □当社会員開設 □他社開設 □他社会員開設 □当社契約二次プロバイダ開設 □当社契約二次プロバイダ会員開設) 電子掲示板(□当社管理 □当社会員管理 □他社管理 ※ネットオー □他社会員管理 □当社契約二次プロバイダ管理 クション含む □当社契約二次プロバイダ会員管理) P2Pファイル交換(□当社会員 PC □他社会員 PC □その他( ) ) その他( ) □当社会員 □当社 □他社会員 □他社 □当社契約二次プロバイダ会員 □当社契約二次プロバイダ □その他( ) □言及有 □言及無 □開示 □不開示 □意見照会を行い、開示に同意した □意見照会を行い、開示を拒否した □意見照会を行い、回答無し □意見照会を行わなかった □その他( ) □発信者が同意した □弁護士と相談して開示することにした □法律の専門家はいないが内容からして開示することにした □明らかな権利侵害にあたると考えられない □侵害情報を見つけられない □発信者情報を保有していない □当社の管理する特定電気通信設備ではない が判断できない □請求理由が正当なものと考えられない □書面の不備 □他社管理のアクセスログ提示で内容の信憑性 □明らかな権利侵害か判断できない、裁判所の判断を仰ぐ □掲示板での誹謗中傷で、事実確認がとれない □裁判例が少なく判断できない □発信者と申立者の双方の言い分で食い違いがあり、事実の判断ができない の送信が特定電気通信か判断できない 具体的対応 (検討内容 等できるだ け詳しく) ※個人を特定で きる記載はさけ る 6 対応上の問題点 等 182 □その他( □ファイル交換で ) 【参考資料①】 プロバイダ責任制限法 商標権関係ガイドライン 平成17年7月 プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会 183 プロバイダ責任制限法商標権関係ガイドライン 目次 Ⅰ はじめに − ガイドラインの趣旨········································································· 187 1 ガイドラインの目的··························································································· 187 2 情報の流通による商標権の侵害について······························································ 188 3 ガイドラインの位置づけ····················································································· 189 4 見直し··············································································································· 190 Ⅱ ガイドラインの適用範囲························································································· 191 1 申出の主体········································································································ 191 2 対象とする権利侵害の態様·················································································· 191 3 送信防止措置の対象とする商品の情報 ································································· 192 Ⅲ 申出の手順等········································································································· 193 1 商標権者等における申出の際の手続(書面の様式等)··········································· 193 2 ネットオークション事業者における申出を受けた際の手続(確認事項等)·············· 193 Ⅳ 申出における確認事項及びその方法········································································· 195 1 申出主体の本人性等··························································································· 195 2 商標権者等であることの確認 ·············································································· 195 3 侵害情報の特定·································································································· 196 4 商標権等侵害であることの確認··········································································· 196 Ⅴ 信頼性確認団体を経由した申出··············································································· 198 1 信頼性確認団体の基準、範囲等··········································································· 198 2 信頼性確認団体による確認·················································································· 199 3 信頼性確認団体の確認手続に過誤等があった場合の対応········································ 200 Ⅵ ネットオークション事業者等による対応·································································· 201 1 申出及び確認が本ガイドラインの要件を満たす場合··············································· 201 2 申出及び確認が本ガイドラインの要件を満たさない場合········································ 201 〔様式〕······················································································································ 202 〔信頼性確認団体を経由して申し出る場合の様式〕 ························································ 204 185 Ⅰ はじめに ― ガイドラインの趣旨 1 ガイドラインの目的 平成14年5月に施行された特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示 に関する法律(平成13年法律第137号。以下「プロバイダ責任制限法」又は単に「法」という。 ) は、インターネット上を流通する他人の権利を侵害する情報について、プロバイダ等が削除等の措置 を講じた場合の発信者に対する損害賠償責任が制限される場合などを定めたものであり、 これにより、 他人の権利を侵害する情報が流通している場合にプロバイダ等が自らの判断で適切な対応をとること を可能とする環境が整えられた。これを受けて、当協議会においても、インターネット上を流通する 権利侵害情報に対するプロバイダ等による適切かつ迅速な対応を促進し、インターネットの円滑かつ 健全な利用を促進することを目的として、名誉毀損プライバシー関係ガイドライン及び著作権関係ガ イドラインを策定し、その周知に努めてきたところである。 近年、ネットオークション(インターネット上で、物品を売買しようとする者のあっせんを競りの 方法により行うものをいう。以下同じ。 )上に掲載されている出品情報が商標権等を侵害しているとし て、権利者及び権利者団体からネットオークション事業者(ネットオークションを管理又は運営する 者をいう。以下同じ。 )に対して当該情報を削除するよう申出がなされるケースが増大している。こう いった背景を踏まえ、知的財産及び消費者自身の利益を保護する観点から、平成16年5月に、政府 の知的財産戦略本部が決定した「知的財産推進計画2004」においても、インターネットオークシ ョンサイト等の管理者による(中略)権利を侵害している出品物のサイトからの削除等を円滑にする 方策等について幅広く検討を行うこととされているところである。 本ガイドラインは、こうした事情を踏まえ、ネットオークションへの出品物に係る情報その他のウ ェブページ上の情報の流通によって商標権及び専用使用権(以下この章においては単に「商標権」と いう。 )が侵害されている場合に、ネットオークション事業者等が発信者に連絡をして7日間経っても 反論がない場合(法3条2項2号)でなくとも、速やかに削除等の送信防止措置を講じることが可能 な場合(法3条2項1号)を現段階で可能な範囲で明らかにするとともに、個別の事案における対応 に当たって、ネットオークション事業者等が個別の事情に応じた判断を行うのでなく、ガイドライン に従っているかどうかの形式的な判断をすれば迅速かつ適切な対応が可能とすることを通じて、権利 者及びネットオークション事業者等の行動基準を明確化し、特定電気通信(法2条1号にいう特定電 気通信をいう。以下同じ。 )による商標権を侵害する情報の流通に対するネットオークション事業者等 による迅速かつ適切な対応を促進し、もってインターネットの円滑かつ健全な利用を促進することを 目的とするものである。なお、本ガイドラインは法2条3号にいう特定電気通信役務提供者を対象と するものであるが、ここで対象となる情報の性質上、主にネットオークション事業者や電子ショッピ ングモールを管理又は運営する者等であって特定電気通信役務提供者に該当する者が念頭に置かれて いるものであることから、特定電気通信役務提供者のことをネットオークション事業者等という。 187 ※ 商標は、①出所表示機能、②品質保証機能、③広告宣伝機能の3つの機能を持つといわれており、 業務上の信用維持や需要者の利益の保護を目的とする商標権は、思想又は感情を創作的に表現した 著作物を保護の対象とする著作権とは権利の性質が異なることに留意する必要がある(例えば、著 作物が丸写しされたファイルがインターネット上にアップロードされている場合には、それだけで 公衆送信権や送信可能化権が侵害されるのに対して、いわゆる模倣品がネットオークションに出品 されていることをもって直ちに商標権が侵害されているとは言えない。 ) 2 情報の流通による商標権の侵害について (a)業として商品を生産、証明又は譲渡(以下「譲渡等」という。)する者が、指定商品又はこ れに類似する商品について、登録商標と同一の又は類似する標章を「使用」する行為は商標権 の侵害に該当すること (b)平成14年の商標法改正(14年9月1日から施行)により、商品又は役務に関する広告等 を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為、すなわち、ネットワークを 通じた商品又は役務に関する広告等の行為が商標の使用に当たることが明確化された(商標法 2条3項8号)こと から、商標法の解釈上、 (c)ネットオークションへの出品等、インターネットを利用して偽ブランド品等(商標権者(そ の許諾を受けた者を含む。以下この章において同じ。)の商標登録に係る指定商品と同一又は 類似の商品であって、商標権者の許可なく当該登録商標と同一又は類似の商標を付した商品を いう。以下同じ。)を販売するに当たり、登録商標と同一又は類似の標章が付された商品の写 真や映像等(以下単に「写真」という)をウェブページ上に掲載する行為は、商品又は商品の 包装に標章を付したものを譲渡のために展示する行為として、商標法2条3項2号に規定する 標章の「使用」に該当すると考えられる。そして、このような行為が、業として商品を譲渡等 する者により行われる場合(反復継続して出品された場合や大量に出品された場合等)には、 商標の使用に該当し、商標権侵害が成立する と考えられる。また、 (d)オークションサイトその他のウェブページ上で偽ブランド品等に関する広告を行うに当たり、 登録商標と同一又は類似の標章を表示する行為は、商品に関する広告等を内容とする情報に標 章を付して電磁的方法により提供する行為として、商標法2条3項8号に規定する標章の「使 用」に該当すると考えられる。そして、このような行為が、業として商品を譲渡等する者によ り行われる場合(反復継続して出品された場合や大量に出品された場合等)には、商標の使用 に該当し、商標権侵害が成立する と考えられる。この解釈を前提にすると、 ①業として商品を譲渡等する者が、 ②商標権者の商標登録に係る指定商品又はこれに類似する商品について、 188 ③商品を譲渡するために商標が付された商品の写真をウェブページ上に掲載する行為、又は登 録商標と同一又は類似の商標を(広告等を内容とする情報に付して)ウェブページ上で表示 する行為 は商標権を侵害していると考えられることとなる。 プロバイダ責任制限法にいう「情報の流通によって権利の侵害があった」とは、「情報の流通」 と「権利侵害」との間に相当因果関係がある場合を意味するものであり、どういう場合に相当因 果関係があると判断されるのか否かは、民法等の一般則によって決せられるものであるが、③に ついては、「情報の流通」が直接「権利侵害」を引き起こしていると考えられる。 ※ 以上の見解については、 「模倣品の個人輸入及びインターネット取引に関する事例集」 (平成17 年2月特許庁)参照 http://www.jpo.go.jp/torikumi/puresu/pdf/shouhyou_matome/2_zirei.pdf ※ 現時点で、ネットオークションへの出品に当たり、ブランド名を出品タイトルや商品名として記 載した場合等が、商品の広告等を内容とする情報に商標を付したことになるのか否かについての判 例はないものの、商標法2条3項8号の使用に該当する場合もあると考えられる。 3 ガイドラインの位置づけ その情報の流通によって本当に権利侵害があったか否か、さらに、情報を誤って削除し、又は放置 したことによってネットオークション事業者等が責任を負うか否かは、最終的には裁判所によって決 定されるものである。したがって、個々の事案において、作成されたガイドラインに即した対応が行 われたとしても、それのみで裁判所によっても法3条の「相当の理由」があると判断されるものでは なく、ガイドラインの内容及びその作成手続にその信頼性を担保する根拠があり、商標権者等及びネ ットオークション事業者等が当該信頼性の高いガイドラインに従って適切に対応している場合におい て、はじめて裁判所によっても法3条の「相当の理由」があると判断され、ネットオークション事業 者等が責任を負わないとされるものと期待される。このような観点から、本ガイドラインでは、単に 申出の手続等について記述するのみならず、その背景にある考え方についても記述することとする。 なお、本ガイドラインは、プロバイダ責任制限法の考え方と同様に、ネットオークション事業者等が 責任を負わずにできると考えられる対応を可能な範囲で明らかにしたものであってネットオークショ ン事業者等の義務を定めたものではない。しかし、ネットオークション事業者等が、少なくとも本ガイ ドラインに従った取扱いをした場合については、裁判手続においてもネットオークション事業者等が責 任を負わないものと判断されると期待されることから、ネットオークション事業者等の自主的な対応に 際して本ガイドラインでの取扱いが重要な指針となるものと考えられ、ネットオークション事業者等は、 通常本ガイドラインに沿った対応をとることが期待される。 また、本ガイドラインは、本ガイドラインで定めた場合以外については何ら影響を及ぼすものではな く、本ガイドラインに定めがなく、又は本ガイドラインの定める要件を満たさない場合であっても、プ 189 ロバイダ責任制限法3条の「相当の理由」に該当する場合もあり得るものである。 加えて、本ガイドラインは、本協議会に参加している者によって作成されたものであるが、そもそも、 インターネットはオープンなものであり、インターネット上の情報流通に関する民事上の責任について も、本協議会参加者相互間のみで問題となるものではないため、本ガイドラインが本協議会の参加者以 外の者によっても活用されることが望まれる。 4 見直し 本ガイドラインは、情報通信技術の進展や実務の状況等に応じて、適宜見直しをすることが必要と 考えられる。また、インターネット上の知的財産権の侵害は商標権に限られるものでもない。例えば、 ネットオークションへの出品物に係る情報その他ウェブページ上を流通する情報が不正競争防止法等 に違反していることが比較的容易に判断できるケースも考えられる。そのため、本ガイドライン策定 後も、本協議会における検討を続け、ガイドラインの改善及び拡充を行っていくこととする。 190 Ⅱ ガイドラインの適用範囲 1 申出の主体 ネットオークションへの出品物に関する情報等インターネット上を流通する商品の情報が真正品 (商標権者又は商標権者から使用許諾を受けた者が登録商標を付した商品をいう。以下同じ。 )の情報 であるか否かの判断は最終的には権利者以外の者では行い得ず、また、権利者からの申出であれば、 商標権侵害の有無を判断するに足りる適切な根拠が提示されることが期待されることから、本ガイド ラインにおける送信防止措置の申出の主体は基本的には権利者とする。具体的には、次のとおりとす る。 (1)送信防止措置の申出をする者は、商標権又は専用使用権を侵害されたとする者本人又はその代 理人とする。 (2)上記(1)において「商標権又は専用使用権を侵害されたとする者」とは、商標権者及び専用 使用権者のほか、これらと同視し得る者(以下「商標権者等」という。 )を含むものとする。 2 対象とする権利侵害の態様 本ガイドラインにおいては、特定電気通信による情報の流通により商標権が侵害される場合を対象 とする。 Ⅰ2で述べたとおり、商標法の解釈上、業として商品を譲渡等する者が、指定商品又はこれに類似 する商品について、商品を譲渡するために商標が付された商品の写真をウェブページ上に掲載する行 為、又は登録商標と同一又は類似する商標を(広告等を内容とする情報に付して)ウェブページ上で 表示する行為は商標権を侵害していると考えられるものである。 したがって、業として商品を譲渡等する者が、商標権者の許諾なく、指定商品又はこれに類似する 商品について、商品を譲渡するために商標が付された商品の写真をウェブページ上に掲載している場 合、又は登録商標と同一の又は類似する商標を(広告等を内容とする情報に付して)ウェブページ上 に表示している場合は、特定電気通信による情報の流通により商標権が侵害されているといえる。具 体的には、以下のような場合が考えられる。 (1)ネットオークションへの偽ブランド品等の出品 (2)ショッピングモールにおける偽ブランド品等の出品 (3)その他ウェブサイト上での偽ブランド品等を譲渡する旨の広告 ※ 上記(1) 、 (2)及び(3)において、商標が付された商品の写真をウェブページ上に掲載して いる場合は、商標法2条3項2号( 「商品又は商品の包装に標章を付したものを…譲渡若しくは引渡 しのために展示…する行為」 )に該当し、商標の使用になり得る。また、商標が付された商品の写真 が掲載されていない場合であっても、ブランド名が出品タイトルや商品名として記載されている場 合には、商標法2条3項8号( 「商品若しくは役務に関する広告…を内容とする情報に標章を付して 電磁的方法により提供する行為」 )に該当する場合がある。なお、 (1)及び(2)のネットオーク 191 ションやショッピングモールにおける偽ブランド品等の出品については、不特定の者に対して商品 の説明をするための情報を掲載し、 不特定の者に対して購入するよう誘引するものであることから、 商品の広告であると考えられる。もっとも、一般的に広告と観念される場合であっても、出品情報 におけるブランド名の使用が出品された商品の出所を示すものとしてではなく、単に商品の内容を 説明するために用いられているに過ぎない場合、需要者に対し誤認混同を生ぜしめないことが明白 である場合等には商標の使用とはいえない場合もある。 3 送信防止措置の対象とする商品の情報 ネットオークション事業者等による情報の送信防止措置は、発信者の表現行為への直接の制約であ るため、可能な限り誤った措置が講じられることのないよう、また、ガイドラインの信頼性担保のた めに、権利侵害の蓋然性が高く、ネットオークション事業者等が、他人の商標権が不当に侵害されて いることを容易に判断できる情報を対象とすることが好ましい。 そのため、本ガイドラインにおいては以下の2つの基準のいずれにも該当する商品の情報を送信防 止措置の対象とすることとする。これ以外のケースについても、実務の状況を踏まえつつ、本協議会 での継続的な検討により合意が得られた場合は随時追加していくこととする。 (1)ウェブページ上で現に表示されている商品に関する情報が真正品に係るものでないと判断でき ること 次のいずれかに該当する商品の情報については、他に真正品の情報であることをうかがわせる 特段の事情がない限り、真正品の情報ではないと判断して差し支えない。 (a)情報の発信者が真正品でないことを自認している商品 (b)商標権者等により製造されていない類の商品 (c)商標権者等が合理的な根拠を示して真正品でないと主張している商品( (b)に該当するも のを除く。 ) (2)商標権侵害であることが判断できること 上記(1)の商品の広告等を内容とする情報について、次に掲げるすべての事項が確認できる 場合には、当該商品の広告等を内容とする情報は商標権を侵害している蓋然性が高いと判断する。 (a)広告等の情報の発信者が業として商品を譲渡等する者であること (b)その商品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であること (c)商品の広告等を内容とする情報に当該商標権者等の登録商標と同一又は類似の商標が付さ れていること 192 Ⅲ 申出の手順等 1 商標権者等における申出の際の手続(書面の様式等) (1)本ガイドラインによる申出手続は、以下の手順で行うこととする。 (a)特定電気通信による情報の流通によって自己の商標権又は専用使用権を侵害されたとする者 (これらと同視し得る者及び代理人を含む。以下同じ。 )は、関係するネットオークション事 業者等に当該商標権を侵害する情報の送信を防止すべきことを求めるときは、申出書に必要事 項を記載の上、当該申出書及びその他の必要な書類を関係するネットオークション事業者等に 提出するものとする。 (b)当該商標権の侵害に係る商標権者等について、申出者と一定の関係にある信頼性確認団体が ある場合には、申出者は、申出書に必要事項を記載の上、当該申出書及びその他必要な書類を 当該信頼性確認団体を経由して提出することができる。この場合において、当該信頼性確認団 体は、当該申出書の記載事項等についてⅣに従って適切に確認を行った上、当該確認を行った 旨の確認書を作成して、申出書とともにネットオークション事業者等に提出するものとする。 (2)申出手続は、原則として書面によって行うこととする。ただし、送信防止措置を迅速に講ずる ことが求められる場合があることから、一定の場合には、必要に応じて電子メール、ファックス 等の電磁的方法による申出が認められるものとする。電子メール、ファックス等による申出が認 められる場合としては、以下の場合がある。 (a)継続的なやりとりがある場合等、ネットオークション事業者等と申出者等との間に一定の継 続的信頼関係が認められる場合であって、申出者等が、当該電子メール、ファックス等による 申出の後、速やかに電子メール、ファックス等による申出と同内容の申出書を書面によって提 出する場合。なお、ネットオークション事業者等と申出者等の双方が了解している場合には、 事後の書面の提出を省略することができるものとする。 (b)ネットオークション事業者等と申出者等の双方があらかじめ了解している場合には、申出を 行う電子メールにおいて、公的電子署名又は電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年 法律第102号。以下「電子署名法」という。 )の認定認証事業者によって証明される電子署 名の措置を講じた場合であって、当該電子メールに当該電子署名に係る電子証明書を添付して いる場合。 ※ 申出の本人性を確認する必要があり、また、申出があったこと及びその内容について記録 を残す必要があるため、電話による申出は認められない。 2 ネットオークション事業者等における申出を受けた際の手続(確認事項等) (1)上記1の申出書及び確認書の提出を受けたネットオークション事業者等は、当該申出書等にお いて、本ガイドラインⅣに記載されている項目ごとに、必要事項が記載されていること、必要な 書面が添付されていること、記載内容が適切であることを確認するものとする。 (2)ネットオークション事業者等は、申出の内容を確認した後、本ガイドラインⅥの対応を行うこ 193 ととする。 194 Ⅳ 申出における確認事項及びその方法 1 申出主体の本人性等 本ガイドラインに従った申出がなされた場合には、ネットオークション事業者等は情報の送信防止 措置を講ずることとなるが、その措置は、円滑かつ迅速に講じられる必要がある。その反面、発信者 にとっては不利益を生ずることもあり、場合によっては、訴訟が提起されることも考えられる。この ため、申出をした者が誰であるのか及び申出が当該者によりなされたのかについて確認することが必 要であり、申出者に確認のための書類等の提出を求める必要がある。 (1)書面による提出の場合 申出者の本人性確認は、以下のいずれかの方法により行う。 (a)直接ネットオークション事業者等に申出を行う場合、申出者が法人の場合には申出書に当該 法人の代表者(代表者から権限を委譲されている者を含む。以下同じ。 )の記名をし、公印又 は当該代表者が通常業務において使用する印を押印するとともに、登記事項証明書の写しなど 本人性を証明できる資料を添付するものとする。但し、株式を公開・上場している会社である 場合など通常であれば当該法人の存在を容易に認識できると考えられる場合は、本人性を証明 できる資料の添付を省略することも可能である。一方、申出者が個人の場合、申出者は、申出 書に記名、押印するとともに、運転免許証、パスポート等の公的証明書の写し等本人性を証明 できる資料を添付するものとし、ネットオークション事業者等は添付された資料等により本人 性を確認するものとする。なお、継続的なやりとりがある場合等、ネットオークション事業者 等と申出者との間に一定の継続的信頼関係が認められる場合には、本人性を証明できる資料の 添付を省略することができる。 (b)海外の者からの申出については、署名により記名・押印に代えることができる。 (2)電子メール等による申出の場合 電子メール等による申出の場合は、以下の方法により本人性を確認する。 (a)Ⅲ1(2)(a)の場合、電子メール等において申出者が本人である旨を記載していること をもって、適切に本人性が確認されたと判断するものとする。 (b)ネットオークション事業者等と申出者等の双方があらかじめ了解している場合、申出を行う電 子メールにおいて公的電子署名又は電子署名法の認定認証事業者によって証明される電子署名 の措置を講じた場合であって、当該電子メールに当該電子署名に係る電子証明書を添付している ときは、ネットオークション事業者等は、当該電子署名及び電子証明書により本人性を確認する ものとする。 2 商標権者等であることの確認 次に、申出をした者が商標権者等であること(当該者が商標権等を有していること)が確認できる ことが必要である。我が国においては、商標権及び専用使用権については登録が要件とされ、これら の権利に関する権利者等の情報は公開されていることから、商標権者及び専用使用権者であることの 195 確認は容易であると考えられる。なお、これらと同視し得る者からの申出の場合は、その立場を証明 できるような証拠が提示される必要がある。 このため、申出において、次のような証拠資料を提示することとし、ネットオークション事業者等 は、これにより申出者が商標権者等であることを確認するものとする。なお、今後これ以外で適切な ものがあった場合は、随時追加していくこととする。 (1)商標原簿、及び商標公報の写し又は独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供する特許電子図 書館のウェブページにおいて当該商標に関する情報を検索した結果の写し (2)商標権者又は専用使用権者と同視し得る者であることを証する書面 ※ 特許電子図書館のURLは、http://www.ipdl.ncipi.go.jp/homepg.ipdl 3 侵害情報の特定 インターネットにおける情報の流通量は膨大であり、権利を侵害したとする情報の流通があった旨 の通知があったとしても、描写があいまいで実際にどの情報が問題とされているのかがネットオーク ション事業者等には分からないことも多い(そのようなことから、法3条1項2号においては、権利 を侵害したとする情報の流通をネットオークション事業者等が知らなかったときの権利者に対する責 任の制限が規定されているところである。 ) 。そのため、商標権者等からの申出があった場合にネット オークション事業者等による適切かつ迅速な対応を促すという観点からは、権利を侵害したとする情 報が特定される必要がある。 そこで、申出者は、次の方法により、侵害情報を特定して申出を行うこととする。 (1)申出者は、申出書において、対象となる情報について、その URL(Uniform Resource Locator)、 及びネットオークション事業者等から見て対象となる情報を合理的に特定するに足りる情報(商 品名、発信者情報(ID 等) 、掲載日時、特徴等)を記載するものとする。 (2)申出者は、可能な場合は、対象となる情報のハードコピーにおける図示等をするものとする。 (3)申出を受けたネットオークション事業者等が、記載された情報のみでは侵害情報の特定ができ ない場合であって、申出書を補正するために追加的な情報を求めたときは、当該ネットオークシ ョン事業者等が求めた情報を提示するものとする。 (4)ネットオークション事業者等は、申出者が速やかに補正を行わない場合には、書類の不備を理 由として送信防止措置を講ずることが困難である旨を申出者に連絡するものとする。 4 商標権等侵害であることの確認 商標権者等から、侵害情報を特定して申出がなされたとしても、権利侵害があったとしてネットオ ークション事業者等が送信防止措置を講ずるためには、その情報の流通によって、確かに商標権が侵 害されたと判断できる必要がある。 このため、申出においては、次の内容が示されることが必要であり、ネットオークション事業者等 はそれが申出書に記載されているかどうかを確認することとする。 196 (1)ガイドラインの対象とする商標権侵害があることの確認 (a)商標権が侵害されたとする旨の申述 申出者は、申出書において、商標権が侵害された旨(登録商標、登録番号、指定商品等の情 報を含む。 )記載するものとする。 (b)商標権が侵害されたとする理由 申出者は、申出書に侵害情報に係る商品を製造していないことなどを記載するものとする。 (2)権利侵害の態様が本ガイドラインの対象とするものであることの確認 ネットオークション事業者等は、申出書記載の情報等に基づき、当該権利侵害の態様が本ガイ ドラインの対象とする権利侵害の態様(Ⅱ2)であり、かつ、送信防止措置の対象となる商品の 情報であることを確認するものとする(Ⅱ3) 。 (3)使用許諾していないことの確認 申出者は、申出書に情報の発信者に対して使用許諾をしていない旨の申述を記載するものとす る(申出者が独占的通常使用権者である場合にあっては、申出に係る商標権の原権利者が当該独 占的通常使用権者以外の者に権利許諾をしていない旨の申述を記載するものとする) 。ネットオー クション事業者等は、当該申述が記載されていることを確認するものとする。 197 Ⅴ 信頼性確認団体を経由した申出 1 信頼性確認団体の基準、範囲等 本ガイドラインによる申出において、申出者から個別に証拠を提示させるのではなく、他の信頼で きる第三者が一定の信頼できる手続によりそれを確認している場合には、社会的に見ても、申出者の 本人性等について確認ができていると判断されると考えられる。 具体的には、申出者と一定の関係にある団体であって本第Ⅴ章1(1)に規定する基準を満たすもの (以下「信頼性確認団体」という。 )が、ネットオークション事業者等に代わって、本第Ⅴ章2の手続 に従ってⅣ1、2、4に規定する事項(本人性、商標権者等であること、商標権侵害であること)を 確認し、申出書に適切にその確認をした旨の書面等を添付している場合には、ネットオークション事 業者等は、当該書面等を確認することで適切な確認がなされているとの判断をすることができると考 えられる。 (1)信頼性確認団体 信頼性確認団体は、Ⅳ1、2及び4に規定する事項(本人性、商標権者等であること、商標権 侵害であること)についてネットオークション事業者等に代わって適切に確認することのできる ものであることが必要である。そのため、信頼性確認団体は、以下の要件を満たすものであるこ とが必要である。 (a)法人であること(法人格を有しない社団であって、代表者の定めがあるものを含む。 ) (b)申出者が有している権利の内容を適切に確認し得るものであること (c)商標権等に関する専門的な知識及び相当期間にわたる充分な実績を有していること。 (d)本第Ⅴ章2(1)から(3)までに規定する確認等を適切に行うことのできるものである こと なお、上記(a)から(c)までの要件を満たす団体として具体的に想定されるものは、商標 権等の権利の保護を主たる目的とする団体があげられるところであるが、これに限定されるもの ではなく、また、商標権等の権利の保護を主たる目的とする団体であっても、信頼性確認団体で あるためには、上記(a)から(d)までの要件を満たす必要がある。 (2)信頼性確認団体の説明等 信頼性確認団体は、個々のネットオークション事業者等に対してはじめて確認書を送付すると きは、自己の組織、本ガイドラインで当該団体に認められた確認事項についての確認等の手順に ついて通知するものとし、それらに変更があった場合には、その変更についても速やかに個々の ネットオークション事業者等に通知するものとする。 ネットオークション事業者等は、本ガイドラインで信頼性確認団体に認められた確認事項につ いての確認等の手順の説明を団体に求めることができる。 (3)信頼性確認団体の認定 本ガイドラインの実際の運用に当たって、信頼性確認団体についての審査を行う仕組みを作り、 この審査により(1) (a)から(d)までの要件に該当すると認定された者を一律に本ガイドラ 198 インの信頼性確認団体として取り扱うことが考えられる。この際、ネットオークション事業者等 の簡便かつ迅速な取扱いに資するため、本ガイドラインに信頼性確認団体一覧を添付するものと する。 (4)その他 商標権者等からの申出の場合であっても、個々のネットオークション事業者等において、当該 商標権者等の対応体制、商標権等に関する専門的知識や実績、過去の申出の際の対応等から判断 して、当該商標権者等における商標権侵害等であることの確認が信頼するに足りると確信できる 場合には、信頼性確認団体による確認がある場合と同様の取扱いをすることができる。 2 信頼性確認団体による確認 信頼性確認団体は、Ⅳの1、2及び4に規定する事項(本人性、商標権者等であること、商標権侵 害であること)について、それぞれ、以下の(1)から(3)までの方法により確認し、当該確認を 行った旨を確認書(様式D)に記載するものとする。当該書面には、信頼性確認団体の代表者の記名 をし、公印等を用いて押印するものとする。ネットオークション事業者等は、これにより、各事項に ついて適切に確認が行われたと判断するものとする。 (1)申出者の本人性確認(Ⅳ1の事項) 次の方法により確認していることとする。 (a)本人性確認の方法 申出書の記名及び押印により、当該申出者が自己に権利行使を委任した者であるか否か又は自 己の会員であるか否かを確認する。 (b)電子メールの取扱い 公的な電子署名又は電子署名法の認定認証事業者により証明される電子署名がなされた電子 メールによる場合に、その電子署名の検証をして確認する。 会員であって普段より継続的な関係がある場合に、通常用いる電子メールアドレスなどにより 確実な確認ができる場合には、その他適切な方法によって確認を行う。 (2)申出者が商標権者等であることの確認(Ⅳ2の事項) 次の方法により確認していることとする。 (a)商標原簿、商標公報その他商標権を有することを証する書面により確認。 (b)専用使用権者、独占的通常使用権者であることを証する書面により確認。 (3)商標権の侵害であることの確認(Ⅳ4の事項) 次の方法により確認していることとする。 権利侵害の態様が本ガイドラインの対象とする権利侵害の態様のものであるときは、申出者 は、申出書に、商標権等が侵害されたとする理由、当該権利侵害の態様、権利侵害があったこ とを確認可能な方法を記載し、信頼性確認団体は、これらの情報等に基づき、権利侵害がある こと、本ガイドラインの対象とする権利侵害の態様であること、送信防止措置の対象となる商 品の情報であることを確認する。 199 3 信頼性確認団体の確認手続に過誤等があった場合の対応 本ガイドラインⅤに定める確認手続を行ったとされる申出について、信頼性確認団体が確認手続を 踏まず、又はその確認手続にその信頼を失わせる過誤があった場合については、当該信頼性確認団体 による確認手続の信頼性が失われることとなる。このため、これらの場合は、当該信頼性確認団体が 確認手順を改善したことが確認できるまでは、当該信頼性確認団体からの確認書については、本ガイ ドラインに基づく手続を踏んでいるものとしては扱わないこととする。ただし、当該信頼性確認団体 の取扱いに関して1(4)の審査を行う仕組みにおける審査の結果、再度誤った確認手続をするおそ れがなく、今後も当該信頼性確認団体を本ガイドラインの対象とすることが妥当であると確認がされ た場合は、この限りではない。 200 Ⅵ ネットオークション事業者等による対応 1 申出及び確認が本ガイドラインの要件を満たす場合 (1)ネットオークション事業者等は、申出が、本ガイドラインの要件を満たす場合、速やかに、必 要な限度において、当該侵害情報の送信を防止するために削除等の措置を講ずるものとする。 (2)ネットオークション事業者等は、送信防止措置を講ずる前又は講じた後に、当該侵害情報の送 信防止措置を講ずる旨又は講じた旨を当該情報の発信者及び申出者へ通知することができる。こ の通知をする場合、申出者への通知については、信頼性確認団体を経由して申出が行われている 場合には、ネットオークション事業者等は、当該信頼性確認団体へ通知するものとし、当該通知 を受けた信頼性確認団体は、申出者へ通知するものとする。 (3)送信防止措置を講ずること又は講じたことについて、発信者から苦情・問合せ等があった場合、 ネットオークション事業者等は、 申出者又は信頼性確認団体に必要な協力を求めることができる。 2 申出及び確認が本ガイドラインの要件を満たさない場合 (1)申出が本ガイドラインの要件を満たしていない場合において、申出書、確認書等について補正 が可能と考えられるときには、ネットオークション事業者等は、申出者に対して、再提出又は必 要な書類等の追加提出を求めることができる。 この場合において、申出者は、ネットオークショ ン事業者等からの求めに応じて、申出書の再提出又は必要な書類等の追加提出をすることができ る。 (2)ネットオークション事業者等が再提出又は必要な書類の追加提出を求める場合であって、信頼 性確認団体を経由して申出が行われている場合には、ネットオークション事業者等は、当該信頼 性確認団体に連絡するものとし、当該連絡を受けた信頼性確認団体が、申出者に連絡する等をし て、申出書の再提出又は必要な書類等の追加提出をするものとする。 (3)ネットオークション事業者等は、申出者若しくは信頼性確認団体が速やかに補正を行わない場 合には、申出者に対し、書類の不備を理由として送信防止措置を講ずることが困難である旨を連 絡することが望ましい。 以 上 201 〔様式〕 平成○○年○○月○○日 【○○株式会社】御中 氏名又は名称 ○○ ○○ 印 商標権を侵害する商品情報の送信を防止する措置の申出について 貴社が管理するURL: 【http://】に掲載されている下記の情報の流通は、下記のとおり【○○○ ○(商標権者等の氏名又は名称) 】が有する商標権を侵害しているため、 「プロバイダ責任制限法商標 権関係ガイドライン」に基づき、下記のとおり、貴社に対して当該情報の送信を防止する措置を講ず ることを求めます。 記 1.申出者の住所 2.申出者の氏名 3.申出者の連絡先 電話番号 e-mail アドレス 4.侵害情報の特定のた URL めの情報 商品の種類又は名 称 その他の特徴 【ネットオークションへの出品の場合は出品者 ID、 出 品日時等の情報】 5.侵害されたとする権 商標権 利 【商標、登録番号、指定商品等、侵害されたとする商標権の特定に資する 情報を記載】 6.商標権が侵害された [商標権が侵害されたとする理由] とする理由等 【□□□□は、私(当社)の登録商標です。私(当社)は、△△△△に対 して登録商標□□□□を使用することにつき、いかなる許諾も与えており ません。また、侵害情報に係る商品の情報(広告)は、私(当社)が製造 している商品と類似する商品のものですが、侵害情報に係る商品は当社で は製造しておりません。 】 [権利侵害の態様がガイドラインの対象とするものであることの申述] 202 4で特定した侵害情報は、以下のいずれにも該当します。 (a)以下の理由により商品は真正品ではありません。 (ⅰ)情報の発信者が真正品でないことを自認している商品 である。 (その根拠: ) (ⅱ)私(当社)が製造していない類の商品である。 (ⅲ) 【合理的な根拠を記載】 (b)以下の理由により、本件は業としての行為に該当します。 【業要件に該当する理由を記載】 (c)侵害情報に係る商品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品で す。 (d)侵害情報に登録商標と同一又は類似の商標が付されています。 7.ガイドラインの対象 (権利侵害の態様を適切・詳細に記載する) とする権利侵害の態様 以外のものの場合 8.その他参考となる事 項 上記内容のうち、 【5及び6】の項目については、証拠書類を添付します。 また、上記内容が、事実に相違ないことを証します。 203 〔信頼性確認団体を経由して申し出る場合の様式〕 平成 年 月 日 【○○株式会社 (カスタマーサービス担当) 】 御中 法人の名称◇◇◇◇ 代表者 ○○ ○○(記名) 印 商標権を侵害する商品情報の送信を防止する措置の申出について 「プロバイダ責任制限法商標権関係ガイドライン」Ⅴ1(1)の信頼性確認団体である 弊団体は、平成○○年○○月○○日付けで弊団体の会員である【☆☆株式会社】が同ガ イドラインに基づいて貴社に対して行った商標権等を侵害する商品情報の送信を防止 する措置の申出の内容について、同ガイドラインⅤに従って以下の事項について適切に 確認を行ったので、その旨を証します。 記 1.申出者☆☆株式会社が弊団体の会員であること 2.本申出が確かに☆☆株式会社により行われたこと 3.申出者☆☆株式会社が貴社に対して提出した申出書記載の商品情報「☆☆☆☆」 (以下の商標権 者等であること 4.当該商品情報に係る商標権等が侵害されていること 5.4.にいう商標権等の侵害の態様が同ガイドラインの対象とするものであること 上記内容が事実に相違ないことを証します。 ※ その他必要な資料を添付する 以 204 上 【参考資料②】 商標権関係信頼性確認団体の認定手続等 平成17年8月 プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会 205 商標権関係信頼性確認団体の認定手続等 目次 1 目的 ················································································· 209 2 審査主体等 ········································································ 210 3 決定手続等 ········································································ 212 4 認定の要件等 ····································································· 213 5 新規審査 ··········································································· 214 6 確認手続に過誤等があった場合の取扱い·································· 216 7 変更の認定等 ····································································· 218 8 別紙 マニュアル等の記載事項·············································· 220 207 1 目的 (1) 「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」 (以下「協議会」と いう。)の作成した「プロバイダ責任制限法商標権関係ガイドライン」 (以下 「ガイドライン」という。)において、「ガイドラインによる申出において、 申出者から個別に証拠を提示させるのではなく、他の信頼できる第三者が一 定の信頼できる手続によりそれを確認している場合には、社会的に見ても、 申出者の本人性等について確認ができていると判断されると考えられる」 (ガイドラインⅤ1)とされている。 (2) また、ガイドラインにおいては、信頼できる第三者による一定の信頼で きる手続による確認として、「信頼性確認団体」による確認手続について定 められているが、その審査を行う仕組み等については、ガイドラインの実際 の運用に当たって整備することとされているところである(ガイドラインⅤ 1(3))。 (3) 以上を踏まえ、この「商標権関係信頼性確認団体の認定手続等」は、ガ イドラインの信頼性確認団体について、協議会が行う認定の手続等について 明らかにすることを目的とする。 (4) なお、この「商標権関係信頼性確認団体の認定手続等」は、認定に係る 実務の状況等を踏まえ、必要に応じて見直しを行うこととする。 209 2 審査主体等 (1) 審査主体 ① ② 協議会において、ガイドラインの信頼性確認団体の認定等を行う。 協議会の業務のうち信頼性確認団体の認定等に関わる業務を行うため、協 議会に、商標権関係信頼性確認団体認定委員会(以下「委員会」という。) をおく。 (2) 委員会の構成等 ① 委員会の委員は 5 名以上 7 名以内とする。 ② 委員は、商標権関係ワーキング・グループの主査及び主査代理のほか、協 議会の構成員から、協議会の承認を得て、協議会の会長が指名する。 ③ 上記委員としては、情報通信技術に関する専門的知識を有する者及び商標 権に関する専門的知識を有する者が含まれるよう選任することとする。 ④ 商標権関係ワーキング・グループの主査又は主査代理が委員になることが できないときは、それぞれ当該主査又は主査代理の推薦する者を、協議会の 承認を得て、協議会の会長が委員として指名する。 ⑤ 委員会には、委員長及び委員長代理をおくことができることとする。 ⑥ 委員長は委員の互選とし、委員長代理は委員長が指名する。 ⑦ 委員長は会務を統括し、委員長代理は委員長の不在時に、その職務を代行 する。 (3) 事務局 ① ② 委員会に事務局を置く。 委員会の事務局は、協議会の事務局がこれを兼ねることとする。 (4) 認定に関する決定 個別の認定に関する協議会としての決定は委員会が行うこととする。 210 (5) 協議会としての事務 この「商標権関係信頼性確認団体の認定手続等」に定める申請の受付、審 査結果の通知等の協議会としての事務については、協議会の事務局において、 これを行う。 (6) 守秘義務等 ① 信頼性確認団体の認定等に係る個別の申請書その他の書類等は厳格に管 理し、委員及び事務局以外の者が閲覧してはならない。 ② 委員及び事務局は、申請内容その他信頼性確認団体の個別の認定等に関係 する事項について、守秘義務を負う。その職務を離れた後も、同様とする。 (7) 審査等に係る費用 ① ② 審査等に係る費用は、当分の間、協議会において負担する。 審査等に係る費用の負担の在り方については、一定期間経過後に、申請者 及び認定を受けた者に実費を限度とした負担を求めることを含めて検討し、 必要に応じて見直しをすることとする。 211 3 決定手続等 (1) 委員会での決定手続 ① ② 委員会の決定は、全会一致により行う。 特定の委員と関係がある団体からの申請があった場合には、当該委員は、 当該申請の審査から外れるものとする。 ③ 委員会での審査は、書類による審査を基本とし、必要に応じ、申請をした 団体の担当者等からのヒアリング等を行うことにより実施する。 ④ 委員会は、必要がある場合には、申請をした団体に対し、追加の書類の提 出を求めることができる。 ⑤ 委員会は、必要がある場合には、個別の審査に関する情報が漏洩すること がないように留意しつつ、有識者の意見を聴くことができる。 (2) その他 この「商標権関係信頼性確認団体の認定手続等」に定めるほか、委員会に おける審査手続その他必要な手続については、委員会において定めることが できる。 212 4 認定の要件等 (1) 信頼性確認団体の基準 信頼性確認団体とは、次の要件を満たす団体である(ガイドラインⅤ)。 a) 団体と一定の関係にある申出者の商品に係る情報について確認を行うもの であること b) 次の基準を満たすものであること i) 法人であること(法人格を有しない社団であって、代表者の定めがあるも のを含む。 ) ii) 申出者が持っている権利の内容を適切に確認することができるものであ ること iii) 商標権等に関する専門的な知識及び相当期間にわたる充分な実績を有し ていること iv) 申出者の本人性確認、申出者が商標権者等であることの確認及び商標権 等の侵害であることの確認を適切に行うことのできるものであること (2) 認定等の要件 ① 信頼性確認団体の認定等に係る審査においては、申請をした団体について、 上記の要件が確実に満たされ、確認が継続的に適切に行われると期待できる 体制を有していることを認定することが必要である。 ② 特に、確認体制については、確認手続等に関して、責任者・担当者、具体 的手続、確認結果の記録・保存の方法その他の確認業務に係る事項について、 別紙の事項がマニュアル等において定められており、それに従った運用を行 うことが約されていることが必要である。 213 5 新規審査 (1) 申請書類 ① 申請は、次に掲げる事項を記載した申請書を協議会に提出することにより 行う。 a) 名称 b) 事業所の所在地 c) 連絡先(担当者の氏名、電話・電子メール等) ② 申請書には、次の書類を添付しなければならない。 a) 登記簿謄本又は商号及び代表者に係る記載事項証明書又はこれらに代わ る公的証明書(法人格を有しない社団の場合は、代表者を決定した総会の 議事録その他これに代わる書類) b) 定款、業務報告書その他の活動内容その他商標権に関する実績を証する 文書の写し c) 会員規約その他の申出者との関係を定めた文書の写し d) 確認業務に関するマニュアル等 ③ 申請書及び添付書類は、日本語で記載されていなければならない。ただし、 添付書類について、その正本が外国語で作成されているときは、正本又はそ の写しにその日本語訳を添付して提出するものとする。 (2) 申請受付 申請は、随時受け付ける。 (3) 審査手続 ① 委員会における内容の審査は、一定期間ごとにまとめて行うこととし、審 査を行う期間はあらかじめ委員会で定めた上で、公表する。 ② ただし、委員会は、当分の間、申請の状況等を踏まえつつ、適宜の頻度で 審査を行うことができる。 (4) 審査結果等の通知等 ① 審査結果は、協議会が、申請をした団体に対して通知する。 214 ② ③ 認定されなかった団体に対しては、その理由を付して通知するものとする。 認定されなかった旨の通知を受けた団体は、決定について不服があるとき は、理由を添えた書面を提出することにより、再審査を求めることができる。 ④ 委員会は、③の再審査の求めがあった場合であって、認定されなかった団 体からの不服の申出に相当の理由があると認めるときは、再審査を行う。 ⑤ 協議会は、委員会が当該不服の申出に相当の理由がないと認めたときは、 申請した団体に対して、その旨通知する。 (5) 認定された団体等の公表 ① 認定された団体その他審査の結果については、適宜の方法により、公表す るものとする。 ② 認定された団体について公表する内容は、団体名、代表者名、認定年月日、 対象とする申出者、確認業務の責任者の連絡先等とする。 (6) 申請書等の扱い ① 申請書、添付書類等は、委員会の事務局において、善良なる管理者の注意 義務をもって管理する。 ② 申請書、添付書類等は、あらかじめ公表するとされた事項及び申請した団 体が公表に同意した事項以外は、非公表とする。ただし、個別の事案におい て紛争となった場合であって訴訟上の必要があるときその他必要とされる ときは、申請者に連絡をした上で開示することができるものとする。 215 6 確認手続に過誤等があった場合の取扱い (1) 調査等 委員会は、プロバイダ等からの連絡等により信頼性確認団体が確認手続を踏まず、 又はその確認手続にその信頼を失わせる過誤があったことが疑われる場合であって 必要があると認めるときは、当該信頼性確認団体からのヒアリングその他適宜の方法 により、必要な調査等を行うことができる。なお、ここでいう「調査等」は、信頼性 確認団体の確認手続の適正性に関する疑義を明らかにする以外の目的でなされるこ とはないものとする。 (2) 過誤等が認められた場合等の対応 ① 協議会は、信頼性確認団体がその確認手続に過誤等があることを自認した 場合及び調査等の結果、信頼性確認団体の確認手続に過誤等が認められた場 合であって②に該当しない場合は、改善方策について報告を求める旨を当該 信頼性確認団体に通知するとともに、当該信頼性確認団体について改善方策 について報告を求めている旨を公表する。 ② ただし、当該過誤等が単発的で軽微なものであって当該信頼性確認団体の 体制等に問題がないと認められる場合には、協議会は、その旨を当該信頼性 確認団体に対して通知し、公表はしないこととする。 ③ 改善方策について報告を求める旨の通知は、期限を示して行う。 (3) 改善方策についての報告 ① 改善方策についての報告は、次に掲げる事項を記載した報告書を協議会に 提出することにより行う。 a) 名称 b) 過誤等の原因 c) 改善のために講じた方策 ② 報告書には、次の書類を添付しなければならない。 a) 過誤等に関係する記録その他の関係書類 b) マニュアルその他の書類(修正があった場合) 216 (4) 審査手続 報告書に係る審査は、報告の状況等を踏まえつつ、適宜の頻度で行う。 (5) 改善方策が講じられていることの公表 協議会は、委員会において、報告書を審査した結果、当該信頼性確認団体の今 後の確認手続に問題がないと認めた場合には、直ちに、その旨を公表する。 (6) 認定の取消し ① 委員会は、信頼性確認団体が (1) の調査等に応じない場合には、認定を 取り消すことができる。 ② 委員会は、期限までに改善方策についての報告がなかった場合その他信頼 性確認団体から適切な改善方策が示されなかった場合には、認定を取り消す。 ③ 協議会は、委員会が認定を取り消したときは、速やかに、団体名、代表者 名、当初の認定年月日、認定を取り消した年月日等を公表する。 (7) 審査結果等の通知等 ① 改善方策についての報告書の審査の結果は、報告をした信頼性確認団体に 対して通知する。 ② 協議会は、委員会が認定を取り消したときは、その理由を付して、認定を 取り消された信頼性確認団体に通知する。 ③ 当該団体は、決定について不服があるときは、理由を添えた書面を提出す ることにより、再審査を求めることができる ④ 委員会は、③の再審査の求めがあった場合であって、認定を取り消された 団体からの不服の申立に相当の理由があると認めるときは、再審査を行う。 ⑤ 協議会は、委員会が当該不服の申出に相当の理由がないと認めたときは、 申請した団体に対して、その旨通知する。 (8) 報告書等の取扱い 報告書等については、新規申請の場合の例により取り扱う。 217 7 変更の認定等 (1) 重大な事項に関する変更の認定 ① 認定を受けた信頼性確認団体は、確認の対象となる申出者との関係、確認 手続等の認定の要件に係る重大な事項について変更をするときは、協議会の 認定を受けなければならない。 ② 変更の申請は、次に掲げる事項を記載した申請書を協議会に提出すること により行う。 a) 名称 b) 変更する事項 ③ 申請書には、変更する事項に関する必要な書類を添付しなければならない。 ④ 委員会は変更の申請に係る変更後の確認手続等がガイドラインに合致し ないと認めるときは、期限を示してその改善を求めることとし、協議会は、 変更の申請をした信頼性確認団体に対して、その旨を通知する。 ⑤ 委員会は、期限までに信頼性確認団体から改善が示されなかった場合であ って当該信頼性確認団体が変更後の確認手続等により確認等を行うときは、 認定を取り消すことができる。 ⑥ 上記のほか、変更の申請の認定に係る手続等は、新規申請の認定に係る手 続等の例により行う。 (2) 軽微な事項に関する変更の連絡 ① 認定を受けた信頼性確認団体は、変更の認定を要しない軽微な事項(法人 の名称、代表者、連絡先等)についての変更があったときは、速やかに、協 議会に連絡しなければならない。 ② 協議会は、当該事項が公表に係る事項である場合は、速やかに、変更内容 を公表するものとする。 (3) ガイドライン等の変更等 ① 協議会は、ガイドライン等に変更があった場合であって必要と認めるとき は、認定を受けた信頼性確認団体に対して、変更の内容を通知し、期限を示 して追加書類の提出その他必要な対応を求めることができる。 ② 委員会は、必要な対応の求めに対し、期限までに回答がない場合又は回答 218 の結果、当該信頼性確認団体の確認手続が変更後のガイドライン等に合致し ないと認める場合は、認定を取り消すことができる。 ③ 協議会は、委員会が認定を取り消したときは、速やかに、団体名、代表者 名、当初の認定年月日、認定を取り消した年月日等を公表する。 ④ 上記のほか、ガイドライン等の変更に伴う手続等は、新規申請の認定に係 る手続等の例により行う。 (4) 業務の廃止等 ① 認定を受けた信頼性確認団体は、確認業務を廃止したとき、解散したとき その他確認業務を実施しないこととしたときは、速やかに、協議会に連絡し なければならない。 ② 協議会が①の連絡を受けたときは、認定はその効力を失う。 ③ 協議会は、委員会が必要と認めるときは、信頼性確認団体に対して、確認 業務を実施しているかどうかを確認することができる。 ④ 協議会からの③の確認の連絡に対し、信頼性確認団体から期限までに回答 がない場合には、委員会は、業務が廃止されたものとみなし、認定を取り消 すことができる。 ⑤ 協議会は、認定が効力を失ったとき又は委員会が認定を取り消したときは、 団体名、代表者名、当初の認定年月日、認定が効力を失った年月日又は認定 を取り消した年月日等を公表する。 219 別紙 マニュアル等の記載事項 1 確認の対象となる申出者の範囲 確認の対象となる申出者の範囲が限定列挙され、明確になっていること 2 ① ② 確認業務の責任者及び担当者 確認業務の責任者及び担当者が明確になっていること※ 専門的知識を有する者を担当者とすること、担当者交代時にガイドライン 等に関する研修等を行っていること等適切な人員配置の方法が示されてい ること 3 確認手続について (1) 総則 次の事項について明確になっていること a) 受付方法その他の確認の受付に係る手続 b) 確認に用いた書類等の取扱い(確認に用いた資料等について、確認手続に 過誤等があった場合の調査の際に、協議会の求めに応じて開示すること等) (2) 申出者の本人性確認 ① 確認担当者及び具体的な確認手続が、明確になっていること ② 会員であって普段より継続的な関係がある場合に特別の確認方法を行う 場合には、その確認方法が明確になっていること (3) 申出者が商標権者等であることの確認 ① 確認担当者及び具体的な確認手続が、明確になっていること ② ガイドラインに列記された方法に準ずる方法で確認を行う場合には、その 確認方法が明確になっていること (4) 商標権等の侵害であることの確認 ① 確認担当者及び具体的な確認手続が、明確になっていること ② 侵害の態様等に応じて確認方法等が異なる場合には、それぞれについて、 確認担当者及び具体的な確認手続等が、明確になっていること 4 ① 記録について 申出者の本人性確認、申出者が商標権者等であることの確認及び商標権等 220 の侵害であることの確認のそれぞれについて、具体的な確認方法及び確認結 果の記録方法、関係書類の保存方法等が明確になっていること ② 記録方法において、確認を行った担当者、確認日時、確認結果その他必要 な事項が、適切に記録され、管理されるとされていること ③ 確認に用いた書類を保存するとされていること 5 ① ② その他 申出者への手続その他の周知方法が明確になっていること マニュアル等について、公表する部分と公表できない部分が明確になって いること ※ この記載は、信頼性確認団体として、申出者からの申出内容を適正に確認 できる体制となっているかをチェックするためのものであり、個々の担当者 の氏名等を明らかにするという趣旨ではない。 221 プロバイダ責任制限法に係る事業者対応 及び係争事案等の動向調査報告書 本報告書の無断転載を禁止します。 平成18年2月 財団法人マルチメディア振興センター 〒106-0041 東京都港区麻布台 Tel 03-3583-5808 1-11-10 日総 22 ビル 5F Fax 03-3583-5813 http://www.fmmc.or.jp/