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〖アルコール医療とは〗 香川県 三光病院 院長 市川 正浩 その人にして
〖アルコール医療とは〗 香川県 三光病院 院長 市川 正浩 その人にしてみれば、酒を飲むとき、この一杯で止められない負い目があるんです。 妻や家族に対する負い目が先に出来上がっているから、絶対に家に帰れません。 だから家に帰らず、酒を飲み続けるから、いつが来ても酒が止まらないという状況に あるわけです。逆に、妻は夫に対してもう死んでもらいたいとさえ思っています。 先の四国ブロック大会で、Aさんの妻が体験発表していました。夫が酔っぱらって 2階に上がったあと、目をこらして、2階の様子をうかがっているそうです。 「もっと飲め、もっと飲め」と思いながら、トイレにいくために、フラフラと階段を下りて くる音に、息を殺して、耳を傾けている。この夫、よく階段を転げ落ちるそうですが、 転げ落ちたら、嬉々として駈け寄っていって、すぐに脈をとる。脈があれば、「ああ 残念」と思うわけです。 腹が立つので、そのままほったらかしにして、何事もなかったように、自分の部屋 に帰り、布団をかぶり、まんじりともせず、一晩を明かす。翌朝、そろりと2階の夫の 様子を見に行き、高いびきをあげて、熟睡している夫を見て、ほっと胸をなでおろして いるわけですが、本当は死んでいてくれたらと思っているわけです。 朝、階段から落ちて死んでいる夫を見つけ、救急車を呼んで、「酒に酔っ払って、 階段から落ちたらしい」と言いたいんです。 それを言いたいけれども、言えないので、がっくりしているというのが、家族の心理 状態です。逆に夫は夫で、妻が交通事故にあって死んでくれないかなぁと思っていま す。交通事故なら保険金が下りて、その金でゆっくりと酒が飲めるし、横でガミガミ 言う妻もいなくなっているというわけです。 アルコール依存症にとって最高の時は妻が「仕事が遅くなるので、お願いします」 と言って、1万円を置いて行った時だそうです。 この夫の気持ちは、爽快だそうです。1万円札をスゥーとポケットに入れ背広に 着替え、出征兵士のごとく胸を張って出かけるわけです。自動販売機でワンカップを 買い、好きな本を買い、土手に寝転んで、タバコを一服スーと吸い込む。 ポケットに金はあるし、妻は遅いので、何時に帰っても大丈夫と言うわけです。そして ワンカップの酒をチビリチビリと飲む。この時夫の気持ちは格別だそうです。 普通、アルコール依存症者は、一気に飲みます。自動販売機でワンカップを3本 くらい買って、その場で1本を一気に飲み、両方のポケットに1本ずつ入れ、こそこそ と逃げるように立ち去ります。 ある女性アルコール依存症者は、1階にいる夫が、テレビの野球に夢中になって いるか、寝静まるのを待って、2階からそろりと電柱を伝っておりていくそうです。 階段をおりていくと、「どこへ行くんや?」と夫に聞かれるので、外の電柱からおりて、 自動販売機で酒を買って帰り、電柱を登るんですが、酔ってるから登れなくなり、 玄関から入ったところを、「お前、また飲んだか」と夫に見つかり、三光病院に入院 してくるわけです。 「それを受け取る院長も院長や。受け取らんかったら、私はそのままいけるのに。 院長が何回も受け取るから、私は何回も失敗する。もういい加減にしてくれ」と怒って います。 夫を恨むより、それを受け取る怒りをもってくる。私も「どうぞ、どうぞ」と性懲りもな くやっているわけですが、そのうちピーンと自分に気付く時がきますから、命ある限り 受け取っていくわけです。 家族は、本人ができれば死んでくれたらいいと思ってます。もしくは早く離婚したいと 思ってますが、割りに往生際が悪いような気がします。何度も本人の不始末の後始 末ばかりして、揚げ句の果てに離婚用紙を出し「これに印鑑を押してくれ」と切り出し ます。 本人も面倒くさいと思いながらも、印鑑を押すのですが、それをすぐに役場に持って いく家族は少ないようです。役場で離婚用紙を1枚ずつ持って帰るのは恥ずかしい ので、2、30枚くらいわしづかみにして持って帰ってます。 自宅に50枚くらいの離婚用紙を常時置いてます。いつでも離婚OKという体制には してますが、実行に移すことは稀です。ここまで来ればもはや腐れ縁ですね。 本人を病院に入院させた時に、家族はほっとするそうです。「これで私達は助かっ た」と。 本人に一生病院で過ごしてもらって、自分は離婚しょうと思ってますから、嬉々と して本人を病院に連れて行きます。 「離婚しないで下さいよ!」 この時、医師のほうがワンテンポ遅れたらいけません。相手の言葉を待たずに 「離婚するんだったら、すぐに退院してもらいますよ」と告げます。その日のうちに 退院をほのめかすんです。この離婚話しを阻止する言葉を切りだすのが、治療の コツです。 「先生、せめて半年か1年は預かってもらえるんですか?」と家族は苦悩に満ちた 表情で訴えてきます。 「なんの、三週間くらいでええでしょう」と私が答えると、家族は愕然としてます。 続く・・・