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助産外来における助産師の実践能力評価基準の開発

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助産外来における助産師の実践能力評価基準の開発
東邦看護学会誌 第 9 号:9 − 16 2012
【実践報告】
助産外来における助産師の実践能力評価基準の開発
−客観的臨床能力試験 OSCE を活用して−
Development of an Appraisal Standard for Practical Skills on Midwifery Clinic:
Focused on Objective Structured Clinical Examination
松 永 佳 子 1) 山 﨑 圭 子 1) 遠 山 珠 未 1) 久 保 絹 子 2)
有 賀 い ず み 3) 高 橋 慶 子 4) 齋 藤 益 子 1) Yoshiko MATSUNAGA1),Keiko YAMAZAKI1),Tamami TOUYAMA1),Kinuko KUBO2),
Izumi ARIGA3),Chikako TAKAHASHI4),Masuko SAITO1)
抄 録
問題となっている。この問題を解決するために、医師主
導のまま 60 年を経た産科医療体制ではなく、正常な経
【目的】日本の助産師に必要な能力のうち妊婦健康診査に
過のローリスク妊産婦は助産師主導で関わる事が必要と
焦点をあて、OSCE を用いた助産実践能力評価基準を開
なっている。その結果、助産師には専門性を活かす働き
発することを目的に 3 段階の調査を行った。
方が求められている。このような現状を受け厚生労働省
【方法】第 1 段階は実践能力を抽出するためのフォーカス
は、2008 年度予算において、院内助産所・助産外来の開
グループインタビューであり、第 2 段階は OSCE のシナ
設やそのための研修を補助する事業費を計上し支援に取
リオ、評価票の作成のために文献検討、検討会の実施、
り組んでいる。
第 3 段階は、OSCE の実施とその評価である。
本来、わが国では、保健師助産師看護師法第 3 条に規
【結果】助産外来を担当するために必要な実践能力は、①
定されているように、助産師は正常な妊産婦であれば、
妊娠経過を診断する経過診断能力、②健康生活診断能力
独自の判断で助産及び妊産婦の健康診査と保健指導を行
とそれに合わせた保健指導能力、③医師との連携ができ
うことが法的に認められている。しかし施設内分娩の増
る人間関係調整能力であった。シナリオは妊娠各期に特
加と長年の医師主導による医療体制により、病院や診療
有で更に必須項目を抽出、大学での評価表を参考に、助
所に勤務する助産師は、妊婦健康診査を自らの診断のみ
産師用に修正することで、評価基準を開発できた。
で行う経験がほとんどなくなっている。さらに、正常分
【考察】助産外来を担当するために必要な実践能力は助産
娩であっても医師の立会いを必要とする現状がある。
師として当然もっていなければならない能力で現在の産
ところが、助産外来では、健康診査のみならず妊婦の
科医療の現状を反映していた。また、評価ツールとして
生活指導を含め、分娩に向けた心身の準備を進めていく
OSCE が活用できることが明らかとなった。
場として、きめ細かな助産師の関わりが求められている。
Ⅰ.緒 言
現在、産婦人科の医師不足による産科医療体制が社会
1)
東邦大学看護学部看護学科
東邦大学医療センター大森病院
3)
東邦大学医療センター佐倉病院
4)
帝京大学医療系学部看護学科
1)
Faculty of Nursing, Toho University 2)
Toho University Omori Medical Center
3)
Toho University Sakura Medical Center
4)
Faculty of Medical Technology Department of Nursing ,Teikyo University
2)
一方、前述のとおり、医師主導による産科医療体制により、
助産師の実践能力が低下している。その結果、助産師が
妊婦健康診査や分娩介助を専門性を活かして、主体的に
10 東邦看護学会誌 第 9 号 2012
取り扱うことが困難な状況となっている。実際、筆者ら
の調査では、経験年数 5 年目以上の助産師であっても「ま
だ未熟である」という意識が強いことが明らかとなって
1)
、2)
Ⅱ.妊婦健康診査に必要な実践能力に関する検討
1.目的
。従って、すでに産科医療の最前線で実践をし
実践能力評価に関する既存の指標を基に、実際に助産
ている助産師が、自信をもって助産外来、院内助産所に
外来を担当している助産師の主観的意見を統合して実践
おいてケアを提供できていることを評価できる適切な評
能力の内容を抽出する。
価基準を作成することは急務である。その方法として、
2.方法
個々の助産師の実践能力を第 3 者的に評価することが有
1)調査時期
用であろう。
2009 年 11 月
現在、臨床での実践能力を評価する方法として医歯
2)対象
薬学系教育で取り入れられている客観的臨床能力試験
助産外来を開設して 5 年以上の東京近郊の病院に勤務
いる
(Objective Structured Clinical Examination:OSCE) が
する臨床経験 7 年以上の助産師 4 名である。
ある。OSCE は、臨床能力を第 3 者により客観的に評価
3)データ収集方法
する方法である。看護教育でも OSCE の開発に取り組ん
上記 4 名の助産師に対して、助産外来を担当する助産
できているが、妊産婦の健康診査を担当する助産師を対
師が妊婦健康診査の時に必要な助産診断と技術、助産外
象にしたものは未だ作成されていない。そこで、OSCE
来を担当する助産師が保健指導のときに必要な技術、助
の手順に従い、妊婦健康診査に必要な助産実践能力を明
産外来を担当する助産師が医師と連携を図る際に必要な
確にし、助産外来を担当するための評価基準を示すこと
技術の 3 つの視点で、フォーカスグループインタビュー
で、助産師の実践能力を評価するための 1 ツールを提示
を 75 分実施した。なお、対象者の了解を得て、インタビュー
できるのではないかと考えた。
内容を IC レコーダーに録音した。
これまで成文化されている助産師の必須能力に関する
4)データ分析方法
規定には、以下のようなものがある。国際助産師連盟
インタビュー内容の逐語録を作成し、助産外来を担当
(International Confederation of Midwives:ICM) で は、
するために必要な能力について話されている文脈を抽出
世界の助産師が一定の水準を維持した活動をするための
してデータとした。次に、抽出したデータをそれぞれ同
3)
を設けている。わが国でも「日本の助産師が持つ
じ意味内容に分類し、抽象化の作業を経てコード化した。
べき実践能力と責任範囲(日本助産学会助産師のありか
その後、その意味内容の同質性、異質性に基づき集約、
基準
た検討会)」のなかで助産師に必要な能力
4)
を成文化して
分類しカテゴリ化を行った。分析は研究メンバー全員で
いる。また日本看護協会の助産師職能委員会は「医療機
逐語録を読み合わせ、合意を得ながら行った。
関における助産ケアの質評価―自己点検のための評価基
5)倫理的配慮
5)
準」を作成して活用を促してきた 。さらに、全国助産
該当施設の看護部長に研究依頼文を送付し、対象者と
師教育協議会では助産師の資格取得時に何をどこまで教
なりうる助産師に手渡してもらった。文書には、研究の
育する必要があるのか、助産師教育のコア内容のコンセ
目的、方法について記載し、研究への協力は自由意思で
ンサスを得る事を目標に「助産師教育におけるミニマム・
あること、いつでも辞退できること、会話の内容につい
リクワイアメンツ」を作成し卒業時の目標を明確にして
ては秘密を厳守すること、データを厳重に管理すること、
6)
いる 。
データは個人が特定できないように配慮すること、本研
そこで本研究では、日本の助産師に必要な能力のうち
究の目的以外には使用しないことを記載し、研究の過程
妊婦健康診査に焦点をあて、妊婦健康診査に必要な実践
においてこれを遵守した。なお、本研究は東邦大学医
能力を文献および臨床の専門家の主観的意見の統合を通
学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:
して抽出する。次に抽出された実践能力を評価する基準
21034)。
として、知識、技術、態度、判断力などの能力を評価す
3.結果
る妊婦健康診査に関する OSCE を使用した助産実践能力
1)研究協力者の属性とその施設の特徴 評価基準を開発することを目的する。
対象者の助産師としての経験は 7 ~ 20 年で、スタッフ、
なお、本研究は以下の段階を経た。
主任、師長と役割は様々であった。研究協力者が勤務す
東邦看護学会誌 第 9 号 2012 11
る施設は、大学病院、総合病院、母子センターと病院の
ることが求められていた。
機能は様々であるが、分娩取り扱い件数は年間 1000 件前
コミュニケーション技術としては、話を聞く雰囲気を
後と多く、医師と助産師の役割分担のもと協働、連携し
作り、妊婦が感じている身体の変化を引き出きだせるこ
ていくことが求められる施設であった。1 施設は、外来
と、さらに妊婦の生活を見通すために、訴えをしっかり
と病棟が 1 ユニットになっていた。また、別の施設では、
引き出せること、情緒的な問題を話してもらえるように
正常経過の妊婦だけでなく、異常のある妊婦に対しては、
信頼関係を結べるような対話ができることが求められて
医師と助産師の健康診査を交互に行うという形ですべて
いた。また、
「オーラから感じる」、対面したときの「直感」
の妊婦を助産外来において妊婦健康診査を実施していた。
という「ちょっと」したサインに気づく能力も経過診断
すべての施設で、決まった週数(多くは妊娠 16 週、妊娠
をする上で重要な要素であった。この「ちょっと」した
28 週、40 週)に医師による妊婦健康診査が行われていた。
サインを見逃さないということは、結果としてグレーゾー
それぞれの施設で独自に助産外来を担当するための基準
ンを見極めることにつながり、最終的には妊娠高血圧症
が設けられていた。具体的には、3 から 5 年以上の経験、
候群、妊娠糖尿病、切迫流早産という異常を早期発見す
一般外来業務、各種保健指導、100 例程度の分娩介助を経
ることにつながるからであった。さらに、診察、問診、
験していることなどである。さらに、診断技術だけではな
直感によりアセスメントしたことに優先順位をつけ、医
く、医師とのコミュニケーションが図れると師長が判断し
師に報告する基準を持ち合わせていることも求められて
たもの、やる気、意欲があることなどが挙げられていた。
いた。
どの施設も助産外来を担当する助産師のための研修やフォ
しかし、これらの能力は、卓越した能力としてではなく、
ローアップ体制が整っていた(表 1 参照)
。
日常のケアをするうえで「最低限」必要な能力であると
2)助産外来を担当するために必要な実践能力
いう認識であった。
助産外来を担当する助産師に必要な能力は①産科学的
(2)健康生活診断能力とそれに合わせた保健指導能力
診断として正常な妊娠経過であることを診断する経過診
妊娠経過に合わせた保健指導内容を理解していること
断能力、②健康生活診断能力とそれに合わせた保健指導
が最低限必要な能力として求められていた。さらに正常
能力、③医師との連携ができる人間関係調整能力の 3 つ
な妊娠経過であることを診断するためにコミュニケー
が抽出された。
ション能力が必要とされていたが、ここでも同様に妊婦
(1)産科学的診断として正常な妊娠経過であることを
診断する経過診断能力
の日常生活を瞬時に判断するために、妊婦の生活状況を
把握するためのコミュニケーション能力が求められてい
妊娠経過を診断するためには、そのための診察技術、
た。それは、妊婦に合わせたより具体的な保健指導をす
妊娠経過に関する正確な知識が必要であり、同時にコミュ
るために不可欠であると考えられていた。
ニケーション技術が基盤となった「より」重要な情報収
さらに、超音波断層法を単に胎児の成長を診断する
集をする能力が必要であった。診察技術では、子宮底、
ために活用するのではなく、愛着形成をするための手
腹囲の計測、レオポルド・子宮収縮・むくみなどの触診、
段、つまり、妊婦と胎児とのコミュニケーションの時
胎児心拍数の聴診、内診に加え超音波断層法検査ができ
間として利用出来るほどの超音波診断装置を使いこな
表 1 対象者の属性
12 東邦看護学会誌 第 9 号 2012
せる能力も求められていた。その他、バースプランを
3.結果
作成するための情報提供や母乳栄養をするための動機
1)文献検討
付けや準備をするための情報提供ができることも求め
「助産師」AND「実践能力」では 27 件、
「助産外来」
られていた。
AND「実践能力」では 0 件、
「妊婦健康診査」AND「実
(3)医師との連携ができる人間関係調整能力
践能力」では 0 件、
「助産外来」AND「能力」では 2 件、
「妊
医師との連携ができる人間関係調整能力の前提には、
婦健康診査」AND「能力」では 7 件がヒットした。これ
医師から信頼を得ていることが重要であった。医師から
らのうち端的に助産外来における妊婦健康診査に関する
の信頼は、助産診断が的確であること、内診や分娩介助
能力について言及しているものは 3 件であった。それらは、
技術があることが不可欠であることが見出された。
日本助産学会(日本の助産師が持つべき実践能力)、日本
医師との信頼関係を築くためには「報告の仕方」も重
助産師会(助産師のコアコンペテンシー)
、日本看護協会
要な要素であった。特に助産師が医師に報告する際に、
「切
(施設における助産ケアの質評価)であった。
迫早産だと思います」
、あるいは「妊娠高血圧症候群です
2)検討会
から見てください」というように【異常である】という
フォーカスグループで抽出された医師との連携ができ
ことを診断した表現で、医師に報告はしない方が良いと
る人間関係調整能力は、医師との「関係性」が大きく影
考えていた。この「異常であるという診断をしない」と
響するという指摘が多くあったため、今回の評価基準か
いうことはすべての助産師に共通していた。また、医師
らは除外した。しかし、グレーゾーン、異常の診断が出
に応じた対応や、医師の指示を予測ができることも必要
来ることも重要であった為、シナリオを作成する際には、
であった。
正常な妊娠経過とは言い切れない状況を設定した。
Ⅲ.妊婦健康診査における実践能力に関する OSCE を
取り入れた評価基準の作成 シナリオには、①生活、社会、経済的側面を含む問診
能力、②妊娠経過を診断するための診察能力、③医師へ
の報告の基準を含めた総合的な診断能力、④診断に基づ
1.目的
く保健指導能力、さらに⑤超音波診を評価する内容を盛
フォーカスグループインタビューで明らかとなった実践
りこんだ。また、これら 5 つの能力を評価するために、
能力を評価するための「シナリオ」と評価表の作成をする。
妊娠初期、中期、末期にそれぞれ必要な知識、診断技術、
2.方法
保健指導内容を検討し、3 つのステーションを設けた。こ
1)文献検討
こでいうステーションとは別個の領域の臨床能力を評価
助産外来の設置が推進されたのは 2008 年度以降であ
するための小部屋(ブース)のことである。
る。そこで助産外来との関係での実践能力についてどの
①生活、社会、経済的側面を含む問診能力では、特に
ような研究がなされているかを検討する目的で文献検討
家族や生活環境に特化した問診を想定した。②妊娠経過
を実施した。しかし、助産外来が推進される前にも実施
を診断するための診察能力と③総合的な診断能力では通
している施設があったことを鑑み、医学中央雑誌 Web
常の妊婦健康診査に加えて、腹部緊満を訴える妊婦、帯
版にて過去 5 年間の 2005 年から 2009 年の間の「助産師」
下の増加を訴える妊婦を設定し、診断をもとに医師への
AND「実践能力」、
「助産外来」AND「実践能力」等のキー
報告を必須となるようにした。④診断に基づく保健指導
ワードで文献検索を行った。さらに、1980 年代から検討
能力は、現在話題となっている葉酸の摂取について、貧
されている助産師の必須能力に関する 6 文献を検討対象
血、出産準備について指導ができるような状況を設定し
とした。
た。最後に超音波断層法モデル(ウルトラシム)にて胎
2)開催研究メンバーによる検討会
児の推定体重、胎盤の位置の計測をしてもらった。3 つの
フォーカスグループインタビューで明らかとなった実
ステーションのシナリオを表 2 に示した。
践能力、さらに文献検討を踏まえて、研究メンバーによ
評価票は、これまでの技術テスト等で使用しているもの
る 1 回約 60 分の検討会を 2 回実施した。検討会を開催す
を参考に、診断技術そのもの、技術提供の安全性、情報収
るにあたり、研究メンバーが実際に遭遇した事例をもち
集力、助産診断、ケアプラン、そして、今回抽出された能
よった。その事例をもとに、抽出された実践能力を測定
力としてコミュニケーション力、保健指導力を加えた 7 項
するために必要な項目を検討した。
目を大項目として設定した。その詳細を表 2 に示した。
東邦看護学会誌 第 9 号 2012 13
表 2 OSCE シナリオ一覧
Ⅳ.評価基準の信頼性・妥当性の検討
(3)分析方法
OSCE 実施後、上記 3 つの内容のグループインタビュ
1.目的 を実施し、インタビュデータの逐語録を元に、研究者全
作成したシナリオ、評価表の信頼性と妥当性を検討する。
員で修正点を検討した。
2.方法
(4)倫理的配慮
1)対象
都内および近郊の 3 つの大学病院に勤務する卒後 5 年
経験年数 5 年以上の助産師 9 名である。
目以上の助産師を、各施設の研究実施担当者より紹介し
2)データ収集方法
てもらった。紹介を受けた助産師に対して個別に研究の
(1)OSCE の実施
目的、主旨、方法を記載した依頼および説明文書、同意
OSCE を受ける助産師、妊婦役、評価者役をそれぞれ 3
書および同意撤回文書を送付した。同意書は、研究責任
名ずつ配置した。OSCE を受ける助産師には、
3 つのステー
者宛に返信してもらい、各施設の研究実施担当者に気兼
ションを経験してもらった。妊婦役と評価者はステーショ
ねなく協力するか否かを決定できるように配慮した。同
ンごとに配置した。各ステーションは妊婦健康診査、保
意が得られた助産師に対して、評価実施日時、場所等を
健指導を含めて 30 分以内で終了するようにした。
記載した文書を配布し、最終的に評価実施日に協力が得
(2)シナリオ及び評価表に対するフォーカスグループ
られる助産師を対象とした。
インタビュー
3.結果
OSCE 終了後に協力者に、シナリオおよび評価表に対
1)シナリオについて
する妥当性を評価するためにフォーカスグループインタ
シナリオについては、概ね肯定的な意見が多かった。
「実
ビューを、40 分実施した。インタビューでは、① 3 つの
際に、病院に来る妊婦は千差万別であるが、週数ごとに
シナリオの設定が助産外来を担当できるか否かについて
絶対に外せない項目が決まっていれば OK、それが網羅
評価するために活用できるか、②評価表の評価内容、評
されていたと思う」
、
「これだけは抜けてはいけないとい
価基準が妥当であるかどうか、③運用にあたっての課題
う項目はおおよそ入っていたと思う」との意見があった。
について質問した。
追加する項目として提案されたのは、医師との連携を評
14 東邦看護学会誌 第 9 号 2012
表 3 OSCE 評価表(原案)
大項目
健康診査
安全
全体を通して
記録
報告
小項目
一般状態把握
腹部触診
児心音聴取
子宮底測定
腹囲測定
浮腫観察
妊婦訴えへの対応
ベッド昇降時の安全
安楽な診察
記録
報告
コミュニケーション能力
説明能力
助産診断
ケア
プラ
ン
妊娠週数
母体の状態
胎児の状態
訴えのアセスメント
今後のケアプラン
評価内容
これまでの妊娠経過を情報収集した
本日の体重、尿検査、BP 結果を確認した
子宮収縮の有無を問診した
胎動の有無を確認した
妊婦の体調を問診した
腹部触診を正確に安全,安楽に実施した
最良聴取部位にプローベを当て1分間測定した
子宮底を正確・安楽に測定した
腹囲を正確・安全に測定した
浮腫を確認した(問診・下肢)
アセスメント行動を行った
安全に留意しながら診察ベッドに横になってもらった
ベッドから起き上がる時に注意して起き上がるよう配慮した
6から9の診察の順序性がよく5分以内に終えた
診察データを母子健康手帳に記載した
診察結果を判断し、医師に報告した
適時妊婦に語りかけている
はじめにあいさつし自己紹介した
実施する診察の1つ1つの行為を妊婦に質問紙、協力を得ている
好感の持てる身なり、仕草、表情で対応している
診察結果を適時説明した
妊娠週数
切迫流早産のアセスメントをしている
胎児発育のアセスメントをしている
アセスメントができた
アセスメントに基づいたプランであった
週数に応じた保健指導
価するためには、【グレーゾーン】となる項目が明確にな
診査)ができているかを評価できるとよい」という意見や、
るように、「貧血や夫立会いができるかどうかの判断がで
「妊健でやることはすべて関連しているから、無駄な動き
きるようなシナリオになるとよい」という意見があった。
がなく一連の流れの中で実施できているかを追加したほ
2)評価表について
うが良い」という意見がでた。また、
「保健指導内容が妥
7 つの大項目の枠組みについては、その妥当性があると
当であるか、アセスメントができているかについても評
いう意見であった。また、
「学生を対象とした評価ではな
価したほうがよい」という意見があった。
く、助産外来を担当できるか否かを判断するための基準
3)評価方法として OSCE を活用することの可能性
であるので大枠を設定してあれば良いのではないか」と
初見で対象者をどのくらい把握できるかについて評価
いう意見がある一方で、評価を担当した者からは、
「具体
するためには「とても有効」であり、評価を受けるもの
的な項目を示したほうがよい」
、
「それぞれのステーショ
の五感を使用しているかを評価できるという点で活用し
ンで、技術として何を確認するのか、どのような情報収
たい。しかし、実際には、「3 つのステーションを確保し、
集が必要であるかを明確にしておいたほうが良い」とい
それぞれ 30 分という時間を作ることが可能であるかどう
う意見があった。各ステーションで評価してもらいたい
か」
、
「臨床の助産師だけで出来るのか疑問」という声も
項目は、OSCE 一覧に記載していたが、評価表にも組み
あり、大学と連携していく必要があるのではないかとい
入れて欲しいという希望があった。
う意見も出た。
さらに、「助産師の技能は、検査をする技術と説明が一
また、何を評価されているかがわかることで緊張を和
体化しているはず」従って、
「客観的データと主観的デー
らげることができるという視点と、評価基準に沿って実
タを引き出しながら一連の流れとして、妊健(妊婦健康
施してしまうのではないかという視点で、評価基準を事
東邦看護学会誌 第 9 号 2012 15
表 4 修正版 OSCE 評価表
大項目
健康診査
安全
全体を通して
記録
報告
小項目
一般状態把握
腹部触診
児心音聴取
子宮底測定
腹囲測定
浮腫観察
妊婦訴えへの対応
ベッド昇降時の安全
安楽な診察
記録
報告
コミュニケーション能力
説明能力
助産診断
ケア
プラ
ン
妊娠週数
母体の状態
胎児の状態
訴えのアセスメント
今後のケアプラン
評価内容
これまでの妊娠経過を情報収集し、本日の結果をアセスメントした
本日の体重、尿検査、BP 結果を確認し、必要な問診を行いアセスメントした
子宮収縮の有無を問診し、関連した問診を行い、アセスメントした
胎動の有無を確認し、関連した問診を行い、アセスメントした
妊婦の体調を問診し、関連した問診を行い、アセスメントした
腹部触診を正確に安全,安楽に実施した
最良聴取部位にプローベを当て1分間測定した
子宮底を正確・安楽に測定した
腹囲を正確・安全に測定した
浮腫を確認した(問診・下肢)
アセスメント行動を行った
安全に留意しながら診察ベッドに横になってもらった
ベッドから起き上がる時に注意して起き上がるよう配慮した
関連性をもたせて健康診査が行えた
診察データを母子健康手帳に記載した
診察結果を判断し、医師に報告した
適時妊婦に語りかけている
はじめにあいさつし自己紹介した
実施する診察の1つ1つの行為を妊婦に質問し、協力を得ている
好感の持てる身なり、仕草、表情で対応している
診察結果を適時説明した
妊娠週数の確認を行った
妊娠経過のアセスメントをしている
胎児発育のアセスメントをしている
アセスメントができた
アセスメントに基づいたプランであった
週数に応じた保健指導が実施できた
前に示したほうが良いという意見と示さないほうが良い
という意見にわかれた。
正したものである。評価表は、
「アセスメントができる」、
「関連性をもって」という言語を追加することで出された
4)実施するにあたり必要な配慮
意見を踏襲した。また表 2 で示したそれぞれのシナリオ
汎用性を高めるためには、
「妊健(妊婦健康診査)がど
内で評価する項目についても追加することとした。
のような流れで実施されるのか、例えば血圧、体重、尿
検査は実施するのか、しないのであればいつ結果がみら
Ⅳ.考 察
れるのかを説明しておいたほうが良い」
、
「保健指導で使
1.助産外来を担当するために必要な能力
用する最低限のパンフレットを準備したほうが良い」、さ
助産外来を担当するための能力として次の 3 つの要素
らに「正常か否かを判断するためのテキストもあったほ
が抽出された。①妊娠経過を診断する経過診断能力、②
うが良い」という意見があった。
健康生活診断能力とそれに合わせた保健指導能力、③医
また、「評価というと緊張をしてしまうので、いかに緊
師との連携ができる人間関係調整能力である。これらの
張させずに実施できるかが課題となる。助産外来を担当
能力は先行研究 7)8) と一致している。本来①と②は保助
しても大丈夫であるという『後押し』
」
、
「いいところを見
看法に規定されている助産師の「業」であり、
「できる」
つける」評価にしたいという意見があった。
はずの項目である。その項目があえて「助産外来」を担
5)修正したシナリオと評価表
当するために必要な能力として抽出されたことは、次の 2
OSCE 実施後のフォーカスグループインタビューをふ
つのことを意味していると考える。
まえて、表 2 および表 4 に修正した OSCE シナリオの概
1 つ目は、助産師は保助看法に規定されている助産師の
要と評価表を示した。表 1 の斜体太字で示した部分が修
業務範囲を理解しているという点である。つまり、助産
16 東邦看護学会誌 第 9 号 2012
師は本来「何ができるのか、何をしても良いか」につい
Ⅴ.結 論
て内面化していることを意味していると考える。しかし、
「何ができるのか、何をしても良いか」ということを理解
日本の助産師に必要な能力のうち妊婦健康診査に焦点
していても、現実には自信をもってその業務を遂行でき
をあて、助産実践能力評価基準を開発するために、3 段
てはないことも同時に意味しているのであろう。助産師
階の調査を行った。その結果、助産外来を担当するため
として経験を 5 年つんでも「まだまだ」感がある現状を
に必要な実践能力は、①妊娠経過を診断する経過診断能
反映していると考えられる。
力、②健康生活診断能力とそれに合わせた保健指導能力、
③については、「まだまだ」感を生み出した産科医療の
③医師との連携ができる人間関係調整能力であり、それ
歴史により培われた現在の医師と助産師の主従関係を何
を評価するためにツールとして OCSE が活用できること、
とか打破したいという助産師の思いが現れているように
さらにそのシナリオ、評価票が開発できた。今後は、様々
感じる。同時に、現在の医師と助産師の協働なしでは成
な施設で活用してもらうような働きかけをすること、活
り立たない産科医療の現状を反映しているのではないか
用結果をフィードバックしてもらうことで、さらに洗練
と思われる。
させていきたい。
いずれにしても、助産外来を担当する助産師に必要な
なお、本研究は東邦看護学会研究助成金を得て実施し
実践能力は、本来「特別」な能力ではなかった。しかし
た。また、第 10 回東邦看護学会学術集会において発表した。
それらが「特別」な能力として認識されていた。だから
こそ、
「あなたは大丈夫」と「後押し」するための評価基
準が不可欠であるともいえる。
2.評価方法
今回は、OSCE という方法を採用した。助産師の能力
引用・参考文献
1)遠藤俊子,鈴木幸子,齋藤益子他 : 助産師のキャリア発達に関わる
研究 看護系大学の統合カリキュラムにおける助産師教育の到達目標
に関する検討. 平成 20 年度科学研究費補助金(基盤研究 B)研究
成果報告書.75−108,2009.
を総合的に判断するための方法としては概ね評価が得ら
2)日本助産評価機構:文部科学省平成 20 年度大学評価研究委託事業 れたと考えている。しかし、臨床の現場で広く活用する
助産分野における就職 3 年未満の実践家能力評価報告書. 日本助産
ためには、場所、時間の確保が課題となることが明らか
となった。
シナリオについては、妊婦健康診査で最低限必要な項
目の抽出は 3 段階を経てできたと考えている。また評価
表についても、現在大学で使用しているものを原案とし
ているが、OSCE 終了後フォーカスグループインタビュー
により、臨床で働く助産師を評価するためにも応用可能
であったと考えている。
しかし、昨今の産後うつ、虐待など顕在化している問
題に助産師が積極的に関わるためには、助産外来での妊
婦健康診査の際に、そのリスクをアセスメントし、施設
内における医師らとの協働に加えて、地域と連携してい
くことが不可欠であると考える。今回の評価基準には、
その点が不足している。この要因としては、フォーカス
グループインタビューと文献検討により、シナリオや評
価基準を作成したことが考えられる。同時に、現在の助
産外来での必要とされている能力としては認識されてい
ないことが予測される。
今後、今回開発したシナリオ、評価表を広く活用して
もらうような働きかけを行い、フィードバックをしても
らうことで、さらに洗練させていきたいと思う。
評価機構,東京,2009.
3)助産師の倫理網領(日本語訳)
(http://www.nurse.or.jp/nursing/international/icm/definition/
data/icm_ethics.pdf,2009.10.1)
4)日本助産学会助産師のあり方検討委員会 : 日本の助産師が持つべき
能力とその範囲.助産婦雑誌,53(10)
:900−908,1999.
5)日本看護協会助産師職能委員会 : 医療機関における助産ケアの質評価
-自己点検のための評価基準,日本看護協会,2007,
(http://www.
nurse.or.jp/home/publication/index.html,2009.10.1)
6)全国助産師教育協議会:
「助産教育におけるミニマムリクワイアメン
ツ」
,全国助産師教育協議会,東京,2009.
7)石川紀子:妊婦検診に強くなる!助産師に求められるスキル.妊産
婦と赤ちゃんケア,1(6)
:101−104,2009.
8)増田美恵子:助産外来・院内助産所の開設に関するアンケート結果.
助産師,63(4)
:49−53,2009.
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