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日本語(PDF形式:2.7MB)
平成22年度調査報告
地球温暖化対策技術普及等推進事業(第二次)
報
告
書
2011年3月
株式会社
日本総合研究所
「地球温暖化技術普及等推進事業(第二次)」報告書
-
1.
目 次 -
基本情報 ...................................................................................................................... 5
1.1.
マレーシアにおけるエネルギー基本情報 ................................. 5
1.2.
マレーシアにおけるエネルギー政策動向 ................................ 27
2.
マレーシアにおけるビル空調機器市場 ..................................................................... 36
2.1.
市場動向 ........................................................... 36
2.2.
ビル空調システム.................................................... 37
2.3.
ビルマネジメントシステム及び空調制御システム ........................ 38
2.4.
ネットワークシステム................................................ 39
2.5.
ビルマネジメントを行なう企業の概要 .................................. 40
2.6.
ビル空調市場の市場規模試算.......................................... 42
3.
空調市場における我が国技術・製品等の普及と温暖化ガス削減の可能性 .............. 43
3.1.
ニューロ PMV 制御技術の概要.......................................... 43
3.2.
ニューロ PMV 制御技術の導入事例 ...................................... 45
3.3.
ニューロ PMV 制御技術の強み・弱み分析 ................................ 45
3.4.
ニューロ PMV 制御技術の普及要因 ...................................... 46
3.5.
マレーシアにおける導入における課題と解決策 .......................... 47
3.6.
実証試験の概要...................................................... 48
3.7.
実証試験の検証方法.................................................. 61
3.8.
実証試験の結果...................................................... 63
3.9.
実証試験のまとめ.................................................... 66
4.
測定・報告・検証(MRV)の方法についての検証.................................................. 68
4.1.
MRV 方法論の検討 .................................................... 68
4.2.
本方法論による削減見込み量の簡易試算 ................................ 90
4.3.
本方法論に基づくプロジェクトによる経済効果の簡易試算 ................ 93
5.
当該技術・製品の普及に向けたプロジェクトプランとその事業評価性 .................. 95
5.1.
ニューロ PMV を用いたビジネスモデル .................................. 95
5.2.
ファイナンスオプション.............................................. 95
5.3.
事業立ち上げ計画.................................................... 96
6.
まとめ ........................................................................................................................ 98
-2-
要
約
本事業は、マレーシアにおける空調制御技術の市場、日本メーカーの技術・製品の普及
およびそれによる温室効果ガスの削減ポテンシャルの把握を目的として実施されたもので
ある。
エネルギーに関わるマレーシア地情報の収集、空調機器市場の概況把握、日本メーカー
による省エネ技術実証試験、を実施し、それらの結果について情報整理と分析を行った上
で、MRV 方法論と日本メーカーが有する技術の今後の展開戦略について検討を行った。
本報告書は、以下の 6 章からなる。
本報告書の構成
1. 基本情報(マレーシアにおけるエネルギー基本情報)
2. マレーシアにおけるビル空調機器市場
3. 空調市場における我が国技術・製品等の普及と温暖化ガス削減の可能性
4. 測定・報告・検証(MRV)の方法についての検証
5. 当該技術・製品の普及に向けたプロジェクトプランとその事業評価性
6. まとめ
第 1 章では、マレーシアのエネルギー基本情報、政策動向等についての調査結果を整理
している。電力需要や料金等の情報のほか、人口増加に伴いエネルギー需要が増加してお
り今後もその傾向は続くと考えられること、業務部門においては空調機器によるエネルギ
ー使用が過半を占め、また、現状のエネルギー効率からして省エネ改善の余地があること
を述べている。加えて、近年は省エネや再生可能エネルギーの導入促進のため様々な施策
が講じられていることを述べた。
第 2 章では、マレーシアの空調市場の概況を整理している。業務部門を対象に導入
されている空調機器の種類や市場規模を整理した上で、シェアを有する空調機器メー
カーやそれぞれのシェアをまとめた。また、商業ビルでは BMS 等の制御システムが
多く導入されていること、制御システムのプロトコルとして本事業の対象技術が適合
する BACnet が主流であることを述べた上で、こうした情報に基づき本事業の対象技
術が導入されうる市場規模を、最大で 90 億円程度と試算した。
第 3 章では、本事業が対象とする省エネ技術である東芝の「ニューロ PMV 制御技
術」に関する情報を整理している。技術概要、導入事例、技術の強み・弱み分析、技
-3-
術を普及させる要因を整理した上で、同技術をマレーシアの空調市場に導入する際の
課題と解決策をまとめた。本章後半では、本事業で実施した実証試験について整理し
ている。試験実施サイトや試験実施方法等の概要情報に加えて、実証試験結果に基づ
く省エネ効果の測定方法や事業性の評価を行っている。
第 4 章では、対象事業についての温室効果ガスの削減量の算定方法、必要なデータの測
定方法の検証を行い、削減方法論の提案を行っている。また、本事業の一般的な追加性に
ついての検証も行った上で、本事業で検討した削減方法論案と実証試験結果に基づき、る
GHG 削減量ポテンシャルと経済効果についての簡易試算結果を提示している。
第 5 章では、ニューロ PMV 制御技術を導入した事業の事業性について評価を行い、事
業モデルと導入に向けたシナリオ検討を行っている。本事業のように新たな設備投資を伴
わない、または極小化することが可能であって、省エネ効果が発揮できるものはマレーシ
アにおいても導入される可能性が高いこと、導入にあたっては同国で検討されている環境
技術のファイナンススキーム等に活用可能性があることを指摘している。加えて、現状で
は高度な空調制御が行われていない同国の現状も踏まえ、導入技術に関する理解を深める
ための対話の実施、同国の省エネ基準へのスペック・イン、公共施設を対象とする事業に
よるアピール等を通じた事業の立ち上げ計画を提示している。
第 6 章では、まとめとして前章までに取り上げた情報、実証試験の結果およびそれを踏
まえた MRV 方法論の検討結果など、本事業の全体像についてあらためて整理をおこない、
「ニューロ PMV 制御技術」の普及拡大に向けた方向性を述べている。
-4-
1.基本情報
1.1. マレーシアにおけるエネルギー基本情報
1.1.1. エネルギー需要動向
マレーシアの一次エネルギー消費量は 1999 年に 38.1 百万トン(石油換算)であったが、
人口増加と経済成長を背景に、2007 年には 60.3 百万トンまで増加した。2008 年から 2009
年にかけては 5.4%の減尐となったものの(2009 年で 55.7 百万トン)、1 人あたりエネル
ギー消費量は年率平均 3.1%(2000 年から 2008 年)で増加している1。また、2005 年か
ら 2030 年までの最終エネルギー消費量は、年率平均 3.4%で増加していくと予測されてい
る。
経済成長に伴う GDP の増加に比例して一次エネルギー供給量、最終エネルギー消費量
は 増 加 し て お り 、 旺 盛 な エ ネ ル ギ ー 需 要 が 存 在 し て い る 。 Energy Information
Bureau(EIB)によれば、エネルギーマネジメントシステムの商用化などの取組みを進める
ことで、最終エネルギー消費量は 5%程度削減できるとしている2。
図表 1-1-1
マレーシアにおけるエネルギー生産量の推移
(出典)
「IEA Energy Statistic 2010」
1
BP 「Statistical Review of World Energy June 2010」
Tan Sri dr. Ahmad Tajuddin Ali, Energy Commission 「Securing a Sustainable Energy Future for
Malaysia」
2
-5-
図表 1-1-2
APEC 諸国の最終エネルギー需要伸び率予測(2005~2030)
※上表では、マーレシアは「MAS」
(出典) APERC 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 4th Edition 」2009
図表 1-1-3
マレーシアにおける
一次エネルギー供給量と最終エネルギー需要の関係
(出典)Suruhanjaya Tenaga (Energy Commission) 公表資料
-6-
図表 1-1-4
マレーシアにおける最終エネルギー需要量の推移予測
(出典)APERC「APERC Energy Demand and Supply Outlook 2006」
1.1.2. エネルギー源別構成
マレーシアでは天然ガスと石油が主要なエネルギー源となっており、この二つを合わせ
て一次エネルギー消費量の約 9 割を占めている。2009 年には、天然ガスの消費量が石油
換算で 28.3 百万トン、石油の消費量が 21.4 百万トンであり、それぞれ同国の一次エネル
ギー消費量の 51%と 38%を占めている。
天然ガスの割合が高いのが特徴であり、2009 年時点で石油換算 56.4 百万トンの天然ガ
スを生産しており国内需要の大半を賄っている。天然ガスの輸出国でも同国だが、この天
然ガス輸出の大半は LNG(液化天然ガス)である。しかし、2012 年以降はガスの国内産
出量が減尐に転じ、輸入量が拡大する見通しである。
その他のエネルギー源では石炭が 400 万トン、水力が 200 万トンであり、それぞれ総エ
ネルギー消費の 7%と 4%を占める。新エネルギー、再生可能エネルギーについては、現在
のところ非常に低い割合にとどまっている。生産量で見ると、送電網に接続された再生可
能エネルギーの容量は 2005 年に 12MW、2009 年に 41.5MW だった。このほか、送電網
に接続されていないパーム油精製業者によるバイオマス発電やバイオガス発電の発電量が
430MW である。
一方、
最終エネルギー消費の構成は、
2007 年に石油 57.6%、
天然ガス 21.8%、
電力 17.9%、
石炭 2.7%であった。
(出典:「BP Statistical Review of World Energy June 2010」、Economic Planning Unit 公開資
-7-
料)、第10次マレーシア計画)
図表 1-1- 2
マレーシアにおけるエネルギー源別1次エネルギー供給量
※電力融通(Electricity Trade)は含まない
(出典)
図表 1-1- 3
「IEA Energy Statistics
2010」
マレーシアにおけるエネルギー源別エネルギー需要量(2008)
(出典)Economic Planning Unit 公開資料
-8-
図表 1-1- 4
マレーシアにおけるエネルギー源別最終エネルギー消費量(1990~2007)
(出典)Suruhanjaya Tenaga (Energy Commission) 公表資料
図表 1-1- 5
マレーシアにおけるエネルギー源別1次エネルギー需要量推移予測
(出典)APERC「APERC Energy Demand and Supply Outlook 2006」
-9-
図表 1-1- 6
一人あたりエネルギー源別エネルギー需要推移予測
(2005~2030、他国との比較)
(出典) APERC 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 4th Edition 」2009
図表 1-1- 7
エネルギー源別エネルギー供給量推移予測(2005~2030、他国との比較)
(出典) APERC 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 4th Edition 」2009
- 10 -
1.1.3. 部門別エネルギー消費動向
部門別エネルギー需要量では、産業部門と交通部門が合わせて約 8 割を占めている。両
部門が同国のエネルギー消費の大半を占めるという傾向は今後も続く見通しであり、
APERC では、2030 年における最終エネルギー需要量の構成比を産業部門 47%、交通部門
40%と予測している。
図表 1-1- 8
部門別エネルギー需要量(2000 年、2008 年)
(出典)Economic Planning Unit 公開資料
図表 1-1- 9
部門別最終エネルギー消費量推移(1990~2007)
(出典)Suruhanjaya Tenaga (Energy Commission) 公表資料
- 11 -
図表 1-1- 10
部門別最終エネルギー需要量推移予測(2005~2030、他国との比較)
(出典) APERC 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 4th Edition 」2009
図表 1-1- 11
1人あたり部門別最終エネルギー需要量推移予測
(2005~2030、他国との比較)
(出典) APERC 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 4th Edition 」2009
- 12 -
1.1.4. 業務部門(オフィスビル)における用途別エネルギー消費構成
Suruhanjaya Tenaga (マレーシア・エネルギー委員会)によれば、オフィスビルにおい
ては、空調によるエネルギー消費量がオフィスビル全体の 50~60%を占めると指摘されて
いる。また、マレーシアのオフィスビルにおけるエネルギー消費構成比は空調 57%、照明
19%、昇降機・ポンプ 18%、その他 6%と試算3されており、いずれのデータからも、空調
によるエネルギー消費が大半を占めることが分かる。これに対し、オフィスビルへの各種
省エネ装置の導入により、マレーシア全体で 77,569MWh のエネルギー消費量削減が達成
できると試算している。4
図表 1-1- 12
仮図
(出典) DLF Utilities Limited 資料に基づき作成
1.1.5.
エネルギー効率
日本を1としたときのマレーシアの GDP 単位当たりの一次エネルギー供給量は 2007
年の時点で 5.6 であるが、他の東南アジア諸国や中国、インド等と比べれば低い水準にあ
る。しかし、先進諸国と比較すれば依然として高い水準にあり、エネルギー効率改善の余
地は大きい。
また、APEC 諸国の GDP あたりのエネルギー集約性の推移を予測した APERC の資料
では、2005 年、2015 年、2030 年の各時点でのマレーシアのエネルギー集約性は APEC
諸国のほぼ中位に位置すること、エネルギー集約性の低下のスピードはロシア、中国、ベ
トナムを下回り、タイ、インドと同程度であることが予測されている。
3
R, Saidur「Energy Consumption, energy savings, and emission analysis in Malaysian office
buildings(2009)」
4
Saidur (2009)
- 13 -
図表 1-1-13
アジア各国の GDP 単位当たり一次エネルギー供給量の比較(2007)
図表 1-1- 14
APEC 諸国の GDP 当たりエネルギー集約性
(出典) APERC 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 4th Edition 」2009
- 14 -
1.1.6. 電力需給
マレーシアにおける電力供給事業は、主に Tenaga National Berhad(TNB)、SESB、
Sarawak Energy Berhad (SEB)の3社によって行われている。3社のうち TNB が最大の
規模を有し、マレーシア全土のうちマレー半島部とサバ州で事業展開している。SESB は
サバ州を、SEB はサラワク州をそれぞれ事業エリアとしている。
その他に、26 の IPP(独立系発電事業)事業者、121 の小規模再生可能エネルギー発電
事業者がマレーシア国内で事業展開している5。コージェネレーション事業については、主
要なもので 38 事業者が報告されている。
マレーシア統計省の資料によると、同国における発電量は 1980 年:102 億 KWH、1990
年:253 億 KWH、2000 年:667 億 KWH と推移しており、2008 年には 1064 億 KWH に
達した。1 人あたりの電力消費量は 2008 年の時点で 3,493kWh/年であり、2030 年には 1
人あたり 7,571kWh/年まで増加すると予測されている。これは、発展途上国の中では高い
水準にある。
APERC が公表した予測では、
同国における電力供給量は 2030 年には 250TWh を超え、
2005 年の 3 倍程度に達することが見込まれている。また電力需要については、2010 年か
ら 2020 年まで年率平均 4.0%のペースで増加することが予測されている。
現時点では、大手電力3社の各供給エリアにおいて、電力供給能力が最大需要量を上回
っており、電力不足は特に発生していない。こうした背景もあり、第 9 次マレーシア計画
(2006-2010)では、電力の余剰供給予備率を 43%から 25%に引き下げる計画が掲げられて
おり、今後取り組みの結果が報告される見通しである。
一方で、送配電上の課題として停電が挙げられる。2009 年における停電回数は、計画停
電と突発停電を合計した件数で総計 14 万 4,616 件発生しており、その内訳はマレー半島
部で 11 万 4971 件、サバ州で 2 万 1777 件、サラワク州で 7,868 件であった。なおマレー
半島部における 1 顧客あたりの停電状況を見ると、年間平均停電時間数 34 分、年間平均
停電発生件数が 0.39 件となっている。なお、行政都市プトラジャヤや IT 都市サイバージ
ャヤについては、いずれもマレー半島全体の平均と比べ非常に低い数値である6。
5
「Electricity Supply Industry in Malaysia―Performance and Statistical Information」2009 年版
Tan Sri Dr. Ahmad Tajuddin Ali, Energy Commission 「Securing a Sustainable Energy Future for
Malaysia」2010 及び「第 9 次マレーシア計画」
6
- 15 -
図表 1-1- 15
マレーシアにおけるエネルギー源別発電量の推移
(出典) 「IEA Energy Statistics 2010」
図表 1-1- 16
マレーシアにおける電力需要見通し
(出典) Noor Afifah Abdul Razak, エネルギー・水・通信省(当時)
「マレーシアにおける石炭の需
要と供給」2007
- 16 -
図表 1-1- 17
発電能力推移予測(2005~2030、他国との比較)
(出典) APERC 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 4th Edition 」2009
図表 1-1- 18
発電能力伸び率予測(2005~2030、他国との比較)
(出典) APERC 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 4th Edition 」2009
- 17 -
図表 1-1- 19
エネルギー源別電力供給量推移予測(2005~2030、他国との比較)
(出典) APERC 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 4th Edition 」2009
図表 1-1- 20
電力供給源推移予測
- 18 -
(出典)APERC「APERC Energy Demand and Supply Outlook 2006」
図表 1-1- 21
(出典
電力需給バランス(TNB 社供給エリア:マレー半島部)
Suruhanjaya Tenaga “Electricity Supply Industry in Malaysia―Performance and Statistical
Information” 2009)
図表 1-1- 22
(出典
電力需給バランス(SESB 社供給エリア:サバ州)
Suruhanjaya Tenaga “Electricity Supply Industry in Malaysia―Performance and Statistical
Information” 2009)
- 19 -
図表 1-1- 23
電力需給バランス(SEB 社供給エリア:サラワク州)
(出典 Suruhanjaya Tenaga “Electricity Supply Industry in Malaysia―Performance and Statistical Information” 2009)
図表 1-1- 24
マレーシアにおける部門別電力消費量の推移(全国 2003~2008)
(出典)
図表 1-1- 25
Suruhanjaya Tenaga (Energy Commission)統計資料
マレーシアにおける部門別電力消費量の推移(全国 1990~2007)
(出典)
Suruhanjaya Tenaga (Energy Commission)統計資料
- 20 -
1.1.7. ユーティリティ料金体系
地域別に見た平均電力料金は、マレー半島部 31.54 セン/kWh、サバ州 25.54 セン/kWh、
サラワク州 28.90 セン/kWh となっている7。(100 セン=1リンギット、1 リンギット=約
27 円:2011 年 1 月現在)
下図はマレー半島部で電力供給事業を行っている TNB 社の電力料金の推移であるが、
過去の料金水準と比較すると上昇傾向にある。他国との比較では、日本、フィリピンの半
額程度であり、インドネシアよりやや高い料金となっている。
政府はエネルギー資源の価格が適正より低い水準であることが持続可能性へのリスクに
なっているという認識を示しており、補助金削減等を含む資源価格メカニズムの改定を打
ち出している8。電力価格もこうした政策の影響を受ける可能性がある。
(単位:sen/kWh)
図表 1-1- 26
マレーシアにおける平均電力料金の推移
YEAR
TNB,
Malaysia
CLP,
Hong Kong
PLN,
Indonesia
Tepco,
JAPAN
Kepco,
Korea
Meralco,
Philippines
Singapore
Taipower,
Taiwan
Egat,
Thailand
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
20.03
21.70
23.50
23.50
23.50
23.50
23.50
23.50
23.50
23.50
23.50
28.09
28.09
32.11
n/a
n/a
n/a
45.90
43.40
42.80
n/a
19.30
42.90
42.90
41.30
48.62
43.57
37.59
n/a
n/a
n/a
n/a
n/a
n/a
n/a
n/a
24.60
24.60
22.90
24.82
23.44
22.43
n/a
n/a
n/a
64.20
68.80
40.40
n/a
n/a
64.60
66.60
64.00
67.21
61.83
66.89
n/a
n/a
n/a
20.70
23.30
26.50
22.70
23.20
23.80
24.80
27.60
30.81
30.81
n/a
n/a
n/a
n/a
37.10
40.60
38.80
38.70
38.70
41.10
40.80
50.70
57.50
60.18
59.05
n/a
n/a
n/a
29.70
28.30
29.70
34.30
32.30
34.00
35.90
n/a
n/a
n/a
n/a
n/a
n/a
n/a
26.90
24.40
25.80
23.80
22.70
22.90
23.40
25.40
24.78
21.84
27.67
n/a
n/a
n/a
24.40
22.60
23.60
22.70
23.40
24.60
27.00
27.30
31.37
31.04
29.33
(出典)
Suruhanjaya Tenaga (Energy Commission)統計資料
7「Electricity
8
Supply Industry in Malaysia―Performance and Statistical Information」2009 年版
第 10 次マレーシア計画
- 21 -
図表 1-1- 27
(出典
マレーシアにおける平均電力料金(部門別、他国との比較
2009)
Suruhanjaya Tenaga “Electricity Supply Industry in Malaysia ― Performance and
Statistical Information” 2009)
図表 1-1- 28
マレーシアの電力料金体系(産業部門)
TARIFF CATEGORY
1.
UNIT
RATES
Tariff B - Low Voltage Commercial Tariff
For Overall Monthly Consumption Between 0-200 kWh/month
For all kWh
sen/kWh
37.0
The minimum monthly charge is RM7.20
For Overall Monthly Consumption More Than 200 kWh/month
For all kWh (From 1kWh onwards)
sen/kWh
39.7
RM/kW
23.93
sen/kWh
28.8
The minimum monthly charge is RM7.20
2.
Tariff C1 - Medium Voltage General Commercial Tariff
For each kilowatt of maximum demand per month
For all kWh
The minimum monthly charge is RM600.00
3.
Tariff C2 - Medium Voltage Peak/Off-Peak Commercial Tariff
For each kilowatt of maximum demand per month during
- 22 -
RM/kW
35.60
the peak period
For all kWh during the peak period
sen/kWh
28.8
For all kWh during the off-peak period
sen/kWh
17.7
The minimum monthly charge is RM600.00
※マレーシア国内最大手の電力会社 Tenaga Nasional Berhad (TNB)が採用している料金体系
(出典)
図表 1-1- 29
TNB社の料金体系詳細
- 23 -
TNB公表資料
- 24 -
- 25 -
※
(出典
2009 年 3 月 1 日より採用されている料金体系
Suruhanjaya Tenaga “Electricity Supply Industry in Malaysia―Performance and Statistical
Information” 2009)
- 26 -
1.2.
マレーシアにおけるエネルギー政策動向
1.2.1 エネルギー関連の基本政策
オイルショック以降、同国ではエネルギー供給源の多様化、安定化に向けた取り組みを
進めており、土着のエネルギーの利用拡大、電力業界における競争原理の導入、設備の改
善などが進められてきた。
エネルギー関連の主要な法制として、Petroleum Development Act
(1974)、National Energy Policy(1979)、National Depletion Policy(1980)、Four Fuel
Diversification policy(1981)、Fifth Fuel Policy(2001-2005、第8次マレーシア計画の
一環として策定)などがこれまで制定されてきた。
マレーシアの国家基本政策を定めたものとして、5 ヵ年単位の「マレーシア計画」があ
るが、同計画でもエネルギー供給の安定化や再生可能エネルギー、省エネルギーの導入促
進などのエネルギー政策が掲げられている。
より具体的な国家発展計画であるマレーシア計画(5 ヵ年の開発計画)では、第 8 次マ
レーシア計画(2001~2005)において、再生可能エネルギーの導入促進方針が打ち出される
とともに、エネルギー効率の向上が同国の製品、サービスの競争力を向上させる主要な方
策として位置づけられた。その後、第 9 次マレーシア計画(2006~2010)では、代替エネル
ギーの統合による石油依存度の一層の低下や再生可能エネルギーの使用拡大に重点が置か
れたほか、エネルギー効率の改善を促進する戦略のアウトラインが示された。この中で推
進されている省エネルギー施策は省エネ照明・空調の採用、エネルギーマネジメントシス
テム、地元の省エネ機器メーカーの支援、政府施設の省エネ化等である。
今後実行される第 10 次マレーシア計画(2011~2015)では、エネルギー効率にさらに重
点を置くことが計画されている。同計画の中で打ち出されている「National Energy
Policy」では、エネルギーの安全保障、経済的効率性、社会環境配慮を目的として5つの
戦略の柱が打ち出された。この5つの柱とは「エネルギー市場価格」、
「エネルギー供給サ
イドのイニシアティブ」
、
「省エネ施策」
、
「ガバナンスの強化」、
「価格や需要サイド・供給
サイドの改革」のマネジメントである。また同計画には、環境技術への投資に対して財政
的インセンティブやファンディングを提供すること、炭素クレジットを獲得できる事業を
支援することも含まれている。
- 27 -
図表 1-2- 1
マレーシア
省エネルギー関連目標
施行期間
省エネルギー目標
(5 ヵ年)
計画
第8次
1992~1997 年
電力は 5,000MW、石油は 6Mt 節約
第9次
1997~2002 年
電力負荷率を向上(州レベルは 60%から 65%に、国全体で 64%
から 70%に)
第 10 次
2002~2007 年
エネルギー使用量を 95,000MU 減尐、推定需要量の 13%相当
第 11 次
2007~2012 年
電力発電及び送電ロスを 40%から 20%に削減;
2016~2017 年度までにエネルギー効率を 20%向上
※
MU:Million Unit
(出典)
上記各五カ年計画に基づき作成
マレーシア政府は 2009 年にコペンハーゲンで開催された COP15 会合において、GDP
あたりの CO2 排出量を 2020 年までに 2005 年比で 40%削減するという目標を発表してい
ることから、同目標の達成に向け、温室効果ガスの主要排出源であるエネルギー部門、エ
ネルギー消費量の最も多い工業部門での省エネルギー、再生エネルギーの導入に重点を置
くスタンスを取っている9。
図表 1-2- 2
期間
マレーシア計画におけるエネルギー施策
分野
施策
エネルギー供給
エネルギー供給の安定化、コスト効率の向上
再生エネルギー
再生可能エネルギーを中心とした代替エネルギーの
使用促進
省エネ
第8次
(2001-2005)
 エネルギー資源の効率的利用
 政府建築物における省エネ設計、省エネ設備導入
促進とガイドライン策定
 Malaysia
Industrial
Energy
Efficiency
Improvement Project (MIEEIP、産業部門におけ
るエネルギー効率改善プロジェクト)による、エ
ネルギー集約型産業に対するエネルギー監査
9
KeTTHA 公開資料、EIB 公開資料、第9次マレーシア計画、第10次マレーシア計画
- 28 -
エネルギー供給
 エネルギー供給の安定性、質、コスト効率の確保
 十分なエネルギー供給の保障
 エネルギー供給事業者の生産性、効率の向上
 市場ベースのアプローチによるエネルギー価格の
決定
 農村部における電化地域の拡大。
第9次
(2006-2010)
エネルギーミッ
エネルギー源構成の多様化
クス
代替エネルギーの使用拡大による石油依存度の低下
省エネ
省エネ分野に 1930 万リンギットの予算を配分
産業、交通、商業、政府施設の各部門における省エネ
ルギーの取り組み強化
省エネ空調、照明の導入促進
包括的なエネルギーマネジメントシステムの推進
金銭的インセンティブ(資本控除など)
再生エネルギー
発電部門と産業部門における再生可能エネルギーの
使用拡大
第 10 次
エネルギー供給
価格政策(補助金を削減し、市場メカニズムによる価
格設定を 2015 年までに実現)
(2011-2015)
天然ガス、電気等の市場規律の強化
エネルギーインフラの質の向上
エネルギーミッ
LNG、石炭の輸入
クス
再生可能エネルギーの重点化
原子力発電の導入
水力発電の推進
新規の超臨界石炭火力発電所を整備
省エネルギー
産業、商業、住宅、交通の各部門におけるエネルギー
の効率的使用の促進
省エネルギー文化の普及
機器や環境技術に対するエネルギー効率最低基準の
設定(Energy Efficiency Master Plan により実施)
GBI の適用拡大
再生エネルギー
 再生可能エネルギー投資に対するインセンティブ
強化(フィードインタリフ、政府系ファンドの設
立など)
 2015 年までに再生可能エネルギーの容量を 2009
年の 42MW から 985MW に引き上げ(全発電量の
- 29 -
6%相当)
 2011 年までに、交通分野でバイオ燃料の混合を義
務化
 廃棄物発電の推進
(出典)
APERC「Compendium of Energy Efficiency Policies of APEC Economies」2010
1.2.2 省エネルギー関連の施策
前述のとおり、様々なエネルギー関連施策が策定されている中で、商業部門に対しては
マレーシア当局により「エネルギー効率(EE)および非住居用途建築物における再生エネル
ギー(RE)の使用に関するガイドライン(MS 1525:2007)」が示されている。
MS 1525:2007 は、Building and Civil Engineering Industry Standards Committee(建
築土木産業基準委員会)の監督の下、Technical Committee on EE in Buildings(建築物のエ
ネルギー効率に関する技術委員会)が策定したものである。
同ガイドラインでは、新規建築物の設計、既存建築物の改修におけるエネルギー効率の
指標と最低基準を示すとともに、同指標や最低基準への適合性を評価する指標を提供して
いる。また、同ガイドラインには、空調と機械的換気システムのエネルギー効率に関する
方針も含まれている
(1)
省エネルギー関連の法制度・政策の概要
第 10 次マレーシア計画においても、特に新たに開発される建築物の省エネルギーに関す
る法制度の整備と強化を通じ、環境技術産業の事業者のビジネスチャンスを拡大すること
が示されている。2009 年に策定された National Green Technology policy では、持続可
能な発展を達成するために、各部門における環境技術の導入に向けたロードマップを構築
することが示された。同 Policy により、環境技術、環境建築、環境イノベーションへの投
資を促進するファンドとして Green Technology Financing Scheme (GTFS)が創設された。
このファンドの資金規模は 15 億リンギットである。
2010 年には新たに Energy Efficiency Master plan が策定を完了する予定である。同マスタ
ープランでは、セクター横断的な省エネ施策を実施する包括的なロードマップとして機能するもの
で、2015 年までに 4,000 キロトンのエネルギー消費量削減を目指している。マレーシア政府はこう
した計画を通じ、企業によるグリーン建築、再生可能エネルギー施設の整備、産業用、商業用の
建築物への省エネルギー装置の導入などを促し、経済の活性化につなげることを意図している。
エネルギー・環境技術・水省のチン大臣は 2010 年 4 月、このプランに基づく新しいモデルが 3 年
以内に発表されるとの見通しを示している。
建築物に対する法規制については、Uniform Building By-Laws を改定し、MS1525 を包含
したものとする改定作業が進められており、これにより建築物の再生可能エネルギーシス
テムに関する法制と省エネルギーに関する法制が統合される予定である。また、地方政府
- 30 -
が業務用建築物、住居用建築物に対してエネルギー性能の最低基準を定めることが可能に
なる。
また、政府閣僚からは省エネルギーを推進する新しいガバナンス体制とより効率的なマ
ネジメント体制の必要性が指摘されており、部局横断的なアプローチによる都市マネジメ
ントなど、包括的なソリューションを実施する体制の整備が必要だとの指摘がされている。
チン大臣は 2010 年 4 月、海外のコンサルタントと協力し今までにない改革を実施するプロジェクト
マネジメントチームを立ち上げ中だと述べている。
(出典)EIB 公開資料
図表 1-2- 3 省エネルギー関連法律・政策
<法律>
【電力】
① Electricity Supply Act
1990 年制定、2001 年改正
② Energy Commission Act (2001)
③ Efficient Management of Electrical Energy Regulations (2008)
* 大口需要家の電力使用の効率化を定めた規則
* 電力使用量 300 万 kWh 以上の大口需要家は、電力使用状況の状況や省エネ設備・方策の導
入について分析やアドバイスを受けることが求められる。加えて、実施した省エネ対策の有
効性についてモニタリングを受けることが必要とされる。
〈ガイドライン〉
① RE and EE Master Plan(電力部門)
② MS1525:エネルギー効率に関する基準
・建築物における省エネ設備の採用を法的に定めたもの
<政策>
【省エネルギー全般】
① 税制優遇
* 投資税控除
* 関税、売上税免除
② 低利融資(Green Technology Financing Scheme, GTFS)
・ 省エネルギーを含む環境技術を対象とした総額 15 億リンギットのソフトローンで、2010 年
1 月に開始。
・ 5 億リンギットは環境技術の製造事業者に、10 億リンギットは使用事業者に配分される。
・ 融資額の 60%に政府保証がつき、利率は 2%。
・ Malaysian Green Technology Corp と KeTTHA の認証が必要
- 31 -
③ 価格政策
*エネルギー価格に対する補助金支出を漸減させ、市場価格の実勢をより反映させている。
④ 省エネ建築格付けシステム
Low Energy Office(LEO), Zero Energy Office(ZEO)の推進
図表 1-2- 4
税制優遇措置
①省エネルギーに関連するサービスを提供する事業者を対象とした優遇措置
・ 法定所得税の 10 年間免除を含むパイオニア優遇税制
・ 5 年間の投資税免除
・ 省エネ機器に対する税控除。(国外で製造された機器は関税と売上税を免除。国内で製
造された機器は購入に際する売上税を免除。
)
② 自社のエネルギー使用を効率化するための資本支出を行った事業者に対する優遇措置
・ 5 年間の投資税免除
・ 国外で製造された機器の導入に対しては、関税と売上税を免除。国内で製造された機器
は購入に際する売上税を免除。
)
③ 省エネルギー製品を輸入する事業者に対する優遇措置
・ 関税と売上税の免除。対象となる製品はエネルギー委員会が定める。
・ 国内で製造された省エネルギー型の家電製品(冷蔵庫、エアコン、照明機器、換気装置、
テレビなど)の購入についても、売上税が免除される。
④ Green Building Index に対する優遇措置(2009~2014)
・ 認証を受けた建築物の所有者に対しては、GBI 認証の取得に要した資本支出に相当する
額の法人所得税が控除される。新築、改築の両方が適用対象になる。
・ GBI 認証を受けた建築物を購入した事業者に対しては、GBI 認証の取得に要した資本
支出に相当する額の印紙税が控除される。
- 32 -
図表 1-2- 5
National Green Technology Policy の概要
<4つの基本方針>
① エネルギー:エネルギー自給の維持とエネルギーの効率的利用の促進
② 環境:環境負荷の最小化、環境保全
③ 経済:技術の使用を通じた経済発展の促進
④ 社会:すべての人の生活の質(QOL)の向上
<4つの重点分野>
① エネルギー:発電、エネルギーのサプライサイドマネジメント、デマンドサイドマネジ
メント、産業・商業分野におけるコージェネレーションなど、エネルギーを使用するす
べての部門における環境技術の適用。
② 建築:建築物の建設、維持管理、解体における環境技術の適用
③ 水、廃棄物処理:水資源の管理と使用、排水処理、廃棄物の処理・埋立における環境技
術の使用
④ 交通:バイオ燃料や道路交通など、交通インフラや乗用車に対する環境技術の導入
(出典)APERC「APEC Energy overview 2009」2010
図表 1-2- 6
Energy Efficiency Master plan に含まれる省エネ戦略
部門
重点戦略

2014 年までに白熱電球の使用を停止し新型の電球に更新することで、73
万 2 千トンの CO2 排出量を削減。年間エネルギー消費量を 1074 ギガワ
住宅
ット削減。

家電製品のエネルギー性能ラベルの適用対象を拡大(エアコンにはすでに
適用)
。

街区
グリーン街区のガイドラインと、カーボンフットプリントのベースライン
に基づく評価指標を導入。

プトラジャヤ、サイバージャヤをはじめとしてグリーン街区の整備を推進
する。
産業

高効率モーター、ポンプ、制御装置など省エネルギー装置の導入促進

対象機器についてエネルギー性能最低基準を定め、効率の低い機器の生
産、輸入、販売を規制する。
建築

Uniform Buildings By-Law と MS1525 の統合

GBI の導入拡大

断熱の導入拡大
- 33 -
(2)
省エネルギー施策を所管する政府機関
① Economic Planning Unit(EPU)
首相府に直属する機関。同国の経済開発政策の中心となる省庁であり、マレーシア計画
の策定など政策の全体的な方向性と戦略を示し、政策の実施レベルを決定する。政策分野
ごとに 22 の部局があり、エネルギーを所管する部局として Energy Unit がある。
② Ministry of Energy, Green Technologies and Water(MEGTW,KeTTHA)
国家のエネルギー・環境、情報通信、郵便、水に関連する政策を担当する。エネルギー・
環境分野では EPU と連携し、省エネ政策を策定するほか、環境技術、環境産業の振興な
どに取り組んでいる。
③ Energy Commission (EC)
電力とガスの安定供給に対する責任を持ち、国内におけるエネルギーに関連する活動を
指導監督する権限を有する。電力業界、ガス業界に向けてエネルギーの生産、供給におけ
る経済性、効率性に関するガイドラインや規制、技術、安全、消費者保護に関する規制を
策定するほか、省エネルギーや再生エネルギーの使用を含め、電力、ガスの供給に関わる
事柄について担当大臣に助言を行う。
図表 1-2-7
EPU
業務内容
所管政府機関の役割
KeTTHA
Energy Commission
社会 開発、経済 開発戦
環境産業の育成
電力、ガス供給事業者に
略、政策の策定
環境保全政策の実施
対 するガイ ドライン の
国家の中長期計画(マレ
環境技術、製品、サービ
策定
ーシア計画など)の策定
スの導入促進
エ ネルギー 関連法制 度
開発 プログラム の策定
省エネ政策の策定
の実施
と事業予算の準備
エネルギー価格、ユーテ
開発プログラム、事業の
ィリティ価格の監督
成果の評価
経済 分野に関す る政府
への助言
経済調査の実施
他省庁との調整
国際協力
(出典)各省庁ホームページ等及びヒアリングによる
- 34 -
(3)
温暖化ガス排出の状況
マレーシアの CO2 排出量は 2008 年の時点で 181Mt だった。同国の Energy Information
Bureau(EIB)は、省エネルギー施策の導入により CO2 排出量を 28%削減できると指摘してい
る。また APERC の推計では、同国の将来の CO2 排出量は経済が通常発展した場合
(Business-as-Usual, BAU)で 2015 年に 205Mt,2030 年に 339Mt に達すると予測しているが、
CO2 排出量が政府公約通りに抑制された場合は 2015 年 161Mt、2030 年 181Mt になると予測
している。
(出典)IEA 公開資料、EIB 公開資料
図表 1-3-1
マレーシアにおける部門別 CO2 排出量推移予測
(出典) 「APEC Energy Demand and Supply Outlook 2006」
(4)
政府による省エネ支援策の状況
省エネ機器やサービスに対しては、
「Energy Efficiency Star Rating」という政府の格
付けシステムが存在し、空調機器の場合は省エネ率、EER(Btu/h/W)による 5 段階の格付
けを得ることができる。
また、エネルギー・環境技術・水省は Standard and Industrial Research Institute of
Malaysia(SIRIM、マレーシア標準・産業研究所)と共同で、全国的なエコラベル制度を整備
するとともに、国内製品・サービス向けに国際標準に対応した基準を設ける予定である。
こうした制度を通じ、政府のグリーン調達を推進するとともに、国内事業者の海外展開を
- 35 -
支援する。
2.マレーシアにおけるビル空調機器市場
2.1.
市場動向
マレーシアでは、2008 年における空調機器の売上高の合計が 2.5 億ドルに達した。その
うち「スプリット型10」の売上が 6,400 万ドルであり、全体に占めるシェアは 25.6%であ
った。スプリット型空調機器は、高価格にもかかわらず成長を続けているが、消費者の間
ではインバーターエアコンが支持を集めている。マレーシアの空調市場は、欧米企業を中
心に様々な企業が進出しており、市場全体の規模は小さいものの競争が激しい。
同国では、
「マルチユニット11」空調の市場も成長を続けており、2008 年における売
上高は 2,490 万ドルに達した(市場シェアは 9.96%)。オフィスビルと政府プロジェクト
に関しては、
マルチユニットが最も多く採用されている。
マルチユニット式空調市場では、
三菱重工が最大の事業者であり、二番手のダイキンも高い市場シェアと人気を持つ。LG、
東芝、富士通、Carrier も新たにこの市場への参入を進めている。
上記の2つの型式を除いた空調機器は、
「セントラル空調方式」と呼ばれるものであり、
業務部門における大型のビルなどに多数導入されている。スプリット型、マルチユニット
のシェアから推定すると売上げ規模では約 1.6 億ドル、市場シェアにして約 65%を占める
と推定される。なお、マレーシアの民間空調機器団体であ る MACRA(Malaysian
Air-Conditioning & Refrigiration Asssociation)へのヒアリングによると、商業ビルなど
への導入実績からしてセントラル空調方式のシェアは過半を占めているとのことである。
主に上記3つの型式がマレーシアの空調市場で展開されているが、市場全体の動向として
は住宅部門における需要増加を背景に年率 6%程度の成長を続けている12。市場全体で見た
場合に、日系企業は高いシェアを有している。
図表 2-1- 1
10
11
12
マレーシアの空調市場全体におけるシェア
ブランド名
シェア(%)
Panasonic
34.1
York(Johnson Control)
16
LG
9.9
Hitachi
8.7
スプリット型・・・室外機と室内機との2つから構成される空調。セパレート型とも言う。
マルチユニット・・・一つの室外機で複数の室内機を使用し空調を行うもの。
Frost&Sullivan レポートより (http://www.frost.com/prod/servlet/frost-home.pag)
- 36 -
2.2.
Toshiba
5
Others
26.3
ビル空調システム
ビルに導入される空調設備方式は、セントラル空調方式とビルマルチ(分散型)空調方
式に大別される。ここでは各方式の概要と、マレーシアの商業ビルにおける空調方式の動
向を示す。
(1)
セントラル空調方式
セントラル空調方式は、冷熱源(冷水)と加熱源(温水や蒸気)を熱源設備で集中的
に作り出し、個別の空調機に送って空調する方式である。大規模な商業ビル空調や工場
の空調では、このセントラル空調方式が多く用いられる。ビルの規模に応じて複数の熱
源設備を設置し、空調をほぼ一斉に行うことで集中的に冷熱、温熱を作り出すほうが、
効率が良いためである。
熱源設備から
空調機とは、空調のために必要な機器を一つの機器として集約し、熱源設備との間で
配管、配線したユニットを指し、冷温水コイル、加湿器、ドレンパン、送風機、エアフ
ィルタを一体に組み込んだものである。この空調機が、一定の温度へと調整をして各室
に送風することとなるため、空調機を指して“Air Handling Unit (AHU)”と呼ぶ。
(2)
ビルマルチ方式
ビルマルチ方式は熱源と空調が一体となっている空調方式であり、小区画ごとに個別
室内空調機を配置し、それぞれの区画で希望の環境条件を設定し、希望時間の個別空調
運転を行うものである。一つの室外機に対して複数の室内機が設定されていることが特
徴であり、室内機ごとに運転・停止、温度設定などが可能である。多数の居室を有する
- 37 -
ビルなど空調需要がそれぞれ異なる場合においては、この空調方式が効率的である。
マルチコントローラー
室内機
室内機
2.3.
ビルマネジメントシステム及び空調制御システム
マレーシアにおいては、ビルの空調、電力等を統合的に管理するビルマネジメントシス
テム(BMS13)は、
「ファシリティマネジメント(FM)」という言葉で知られている。より具体
的には、ビルをコンピュータのソフトウェアによって自動管理することを指して FM と称
している場合が多い。
BMS の導入規模に関する公的な統計データは確認できていないが、
当社ヒアリングによれば、BMS そのものの導入率は公共部門・民間部門を問わず高いと
いうことである14。
しかしながら、ビル自体が省エネルギー化を目指した設計になっているか、BMS によ
る統合的な管理の下で省エネを志向した空調制御等がなされているか、という観点では、
大部分のビルはその段階には至っていないというのがヒアリングで聞かれた意見であった
15。また、同国における
FM に対する理解度は低いというのが現状である。その結果とし
て、BMS は不適切に運用されており、導入後故障してしまうと修理もされないままにな
ってしまう BMS も多いという意見が聞かれた。結果として、ビル空調においても単に空
調機器の電源を ON/OFF しているのみ、という建物も相当数に登るのではないかとの意
見が聞かれた。
このような事態が生じる理由として、設備機器等の導入後、機器のメンテナンスに資金
を投入し、手間をかけるという「文化」が未だ醸成されていないからであるとの意見が複
数聞かれた。多くのビルオーナーにとっては、既存ビルのメンテナンスに資金と手間を掛
13
ビル管理業務機能を有するシステム。設備機器メンテナンスなど、建物の運営管理業務を情報化し、管
理レベルの向上を実現する。
(参考)ファシリティーマネジメント企業へのヒアリングでは、
「都市部のビル においては 90%程度
に導入されているのではないか」との意見も聞かれた。
15 公共投資庁へのヒアリングでは、
「公共部門のビルにおいても省エネを志向した統合的管理が行なわれ
ているのは 10~20%程度ではないか」とのことであった。
14
- 38 -
けるよりも、新たに土地を取得し、新規のビルを建設することにインセンティブが向きや
すい状況にある。また、前述のとおり電気代などの負担が極めて低く、BMS を活用した
ビルマネジメントを行い、電力消費量等をモニタリング、マネジメントして省エネ化を図
ったとしても、ビルオーナーにとっての金銭的なメリットが薄いということも、こうした
事態を生じさせる大きな要因となっている。
こうした課題への対応策として、BMS による省エネ情報の可視化を通じ、ビルオーナ
ーに対してメリットを一層アピールする必要があるとの意見が複数聞かれた。具体的には、
経費削減額や温室効果ガス削減量として具体的に数値等で示すことが有効との意見が多か
った。また、政府機関や政府関連機関が所有するビル等で先行的に省エネの取り組みを進
めることにより、民間セクターへのアピールも増すとの意見も多く聞かれた。この背景と
して、マレーシアには「率先垂範」の文化があり、政策として民間セクターに協力を求め
るならば、まずは自分自身(公共セクター)から率先して取り組むべきという考え方が強
いという意見も聞かれた。
2.4.
ネットワークシステム
個々の空調機器と BMS などの管理システムをつなぐネットワークシステムには、複数
のプロトコルが存在している。有力なプロトコロルとして BACnet が知られており、マレ
ーシアにおいても多くのシステムで導入されている。
BACnet は 2003 年に ISO 規格となり、Johnson Controls、Schneider Electric など世
界の BMS メーカーがサポートしているオープンプロトコルである。BACnet の適用は、
個々の空調設備からのデータを集約し、BMS 等の管理システムとの間で送受信を行なう
幹線ネットワークに対し行なわれる。他社製の BMS にも接続することが可能であり、既
存インフラへの親和性が高い。また、幹線ネットワークの下部にぶらさがる専用ネットワ
ーク(フィールドネットワーク)には、Lonworks などの他のプロトコロルを適用するこ
とが可能である。
- 39 -
マレーシア空調協会(MACRA)へのヒアリングによれば、幹線ネットワーク部分にお
ける BACnet のシェアは依然として高いが、近年は他のプロトコル16を適用する例も増加
しているとのことである。その背景には、空調市場が成熟してきたことにより競争が強ま
っていること、安価にパーツを入手でき、メンテナンスも比較的容易であるプロトコルが
登場してきたことなどが挙げられるという。
2.5.
ビルマネジメントを行なう企業の概要
マレーシア国内における主要な FM(ファシリティマネジメント)企業として、以下に 3
企業が挙げられる。いずれの企業も、BMS を用いたビルマネジメントのサービスを提供し
ており、公共部門、民間部門で複数のビルを顧客として有している。
①AWC Facility Solutions Berhad
AWC Facility Solution Berhad (AWC)は、施設部門で 2010 年度に 4,440 万リンギの収益
を上げている。現時点で事業の 8 割は公共部門からの受注であり、政府施設の管理で 2,500
万リンギを売り上げている。今後、民間部門からの受注を増やしていくことを計画してい
るが、収益に占める民間部門の割合は 30%に満たない。
公共部門
納入先建築物
民間部門
政府施設 21 棟
Menara OCBC
プトラジャヤの政府施設
Menara Telekom
プトラジャヤ首相官邸
Menara KL
公共事業庁本庁舎
Bintulu Port ビル
ジョホール、マラッカ、Negeri
ペトロナスツインタワー
Sembilan、サラワクの連邦政
Menara Persekutuan Melaka
府施設計 31 棟
フィールドネットワークで用いられてきた Lonworks などのプロトコルが、幹線ネットワーク用にも
進出している。
16
- 40 -
②Faber Group Berhad
Faber 社は、マレーシア国内で最大のシェアを有する FM 企業であり、当社ヒアリング
によれば市場におけるシェアは 5 割を上回るとされる。事業の中核として統合型施設管理
(IFM)を掲げており、同業務を行なう部門は 2010 年第 1 四半期に 1 億 2700 万リンギの
収益を上げている。また、下表にもあるとおり、同社は効率病院部門の包括的な施設管理
に圧倒的な強みを持っている。
公共部門
納入先建築物
民間部門
Perlis、Kedah,ペナン、Perak、 民間病院 600 施設
サバ、サラワクの政府系病院
商業・オフィスビル 7 施設:
計 79 施設
・ Faber Towers
・ Kolej yayasan UEM
・ Persada PLUS
・ Mercu UEM
・ Wisma Time
・ 国際医科大学
・ ジョホール州政府新庁舎
③Kemuncak Facilities Management Sdn Bhd (KFM)
KFM は公共部門(裁判所を含む)にフォーカスしており、民間部門の実績は今のとこ
ろ尐ない。売上規模は、ヒアリングによる推定では 2,000 万リンギ~3,000 万リンギ程度
であり、市場シェアは 5%に満たないと推定される。同社は、FM 事業者としてだけでな
く ESCO 事業者としても事業を行っており、グリーンビルのデザインから施設管理までの
パッケージサービスの提供を目指している。
公共部門
納入先建築物
公共事業庁(JKR)
最高裁判所(Palace of justice、サイバージャヤ)
Universiti Technologi MARA (Uitm)
市議会庁舎多数(マレー半島地域)
<政府系病院 9 施設>
・ Ampang 病院
・ Sungai Buloh 病院
・ Serdang 病院
・ Alor Setar 病院
・ Sg.Petani 病院
- 41 -
・ Cameron Highlands 病院
・ Pekan 病院
・ Temerloh 病院
・ Jempol 病院
<裁判所庁舎 4 施設>
・ Kompleks Mahkamah KL Jalan Duta (KMKL)
・ Kompleks Mahkamah Alor Setar, Kedah
・ Kompleks Mahkamah Pulau Pinang
・ Kompleks Mahkamah Petaling Jaya, Selangor
2.6.
ビル空調市場の市場規模試算
第 1 章および前項までで整理した情報をもとに、本事業が対象とする「ニューロ PMV
制御技術(詳細は第 3 章に整理)
」が導入されうるマレーシアの市場規模を試算した。
市場規模試算の考え方:
市場規模=(総発電電力量×業務部門の割合×業務部門の電力消費に占める空調の割合
×ニューロ PMV 制御技術によるエネルギー削減率×電力単価)
×(マレーシアにおける BMS の導入率)
×(ニューロ PMV 制御技術の導入要件となる BACnetIP の導入率)
上記より、以下のとおり市場規模を算出した。
83,411GWh×33.91%×57%×20%×0.288 リンギ/KWh
=約 929 百万リンギット
=約 25,073 百万円(1 リンギット≒27 円換算)
本章で取り上げたとおり、業務部門で BMS が採用される割合は 90%程度であることか
ら、ニューロ PMV 技術が採用されうる市場は、BMS 導入以外の制約条件がない場合に、
上記規模の 9 割程度になると想定される。ここで、現在のニューロ PMV は、BACnet に
限定して対応する技術であることから最終的な市場規模は下記のとおりと考えられる。
約 25,073 百万円×90%(BMS 導入率)×30%~50%(BACnet への対応状況)
≒6,770 百万円~11,283 百万円 (最大で約 112.8 億円)
導入技術において制約条件となる BACnet 以外のプロトコルへの対応が進むとした場合
には、潜在的な市場はより大きなものになると考えられる。
- 42 -
3.空調市場における我が国技術・製品等の普及と温暖化ガス削減の可能性
3.1.
ニューロ PMV 制御技術の概要
ニューロ PMV 制御とは、快適指標「PMV;Predicted Mean Vote」を計算し、快適さ
を損なわない範囲で温度設定値を緩和することにより、過剰冷房をなくし省エネルギーを
図る制御である。
PMV とは、暑い、寒いといった温熱感覚を定量的に扱うことを可能にした指標である。
温熱感覚は居住者一人一人差があるが、大多数の人が満足する温熱感覚を定量的に扱うこ
とを可能にしたのが PMV であり、ISO7730 に規定されている。PMV の概念を図 3-3-1
に示す。この指標は、デンマーク大学の Fanger 教授らにより提唱された指標で、暑い~
寒いまでの人の温熱感覚を7分割し、+3(暑い)~-3(寒い)の数値を割り振ったものである。
図表 3-1- 1
PMV の概念
温熱感覚を左右する要素には、温度、湿度、平均放射温度、気流速度、着衣量、活動量
の 6 つがある。これらの 6 変数と PMV は、快適方程式と呼ばれる実験式で関係付けられ
ている。PMV=0 は“ちょうど快適”のレベルをあらわし、統計的に居住者の 95%の満足
が得られる。また、PMV が+0.5~-0.5 の範囲では 10 人中 9 人までが快適と感じる。こ
のように大多数の人が快適と感じる PMV の値に保つことで、居住者が多数いるビル空間
において、不快感の尐ない空調制御装置が実現できる。
居室内の生活者は温度や湿度、放射温度などによる温熱感覚の変化を体感するが、一方
で、季節に応じて着衣量が変化し、また、部屋の用途に応じて活動量が異なる。PMV で
- 43 -
は、着衣量は衣類の熱抵抗として作用し、活動量は人体における代謝量として作用する。
空調制御において PMV を扱うことにより、着衣量や活動量を取り入れ、居室内の生活者
の行動によって生じる快適さの違いを加味した制御が可能となる。
省エネサービスを提供する際は、顧客の BMS(ビルマネジメントシステム)と東芝の
遠隔省エネサーバをインターネット経由で接続させ、対象ビルの空調を遠隔で制御する。
サーバシステムは、温度や湿度など各種の空調情報を取得し、各部屋の最適な温度設定を
ニューロ PMV 制御により計算を行い、温度制御を実行する BMS に最適設定値を送信す
ることで空調制御を行う。その構成を図 3-1-2 に示す。
図表 3-1- 2
遠隔空調省エネサービスのシステム構成
- 44 -
ニューロ PMV 制御技術の導入事例
3.2.
日本国内においてはオフィスビル、百貨店、ホテルを中心に約 50 以上の納入実績を有
する。日本国内の納入実績の CO2 削減量は累計で 37,335t-CO2 となっている。省エネル
ギー率はビルごとの空調方式や運用状況により異なるが、これまでの納入実績では 10~
20%程度の省エネルギーが成果として確認されている。また、NEDO によるエネルギー促
進事業である「BEMS 導入支援事業」において約 20 件の採用実績がある。国内導入例を
表 3-2-1 に示す。
図表 3-2- 1
用途
建物
概要
フロア数
延べ床面積
国内導入例
事務所
事務所
大型商業施設
大型商業施設
ビル
ビル
(百貨店)
(百貨店)
地下 2 階
地下 3 階
地下 2 階
地下 2 階
地上 14 階
地上 39 階
地上 7 階
地上 8 階
約 5 万㎡
約 16.5 万㎡
約 3.5 万㎡
約 4.6 万㎡
23.0%
16.9%
7.0%
24.6%
24.7%
45.2%
14.4%
26.6%
夏期
最高気温が
省エネ
25℃以上
率
中間期
最高気温が
15℃以上 25℃未満
海外においては、中東地域と東南アジア地域に数件導入実績がある。中東では約 15-20%、
東南アジア地域では約 20-30%程度のでは省エネを達成した。
ニューロ PMV 制御技術の強み・弱み分析
3.3.
ニューロ PMV 制御を用いた遠隔空調省エネサービスの競争力となるポイントとして、
①低コスト、②既設 BMS の利用、③快適性と省エネの両立、④セキュリティーが挙げら
れる。
①低コストでの省エネ実施
顧客のビルには設備は設置せず、サービス機能が集約された東芝のサービスセンタ
ーから、クラウドコンピューティングの形態で省エネサービスが提供される。顧客
にとっては、低コストと最小限の施工で省エネサービスの利用が可能である。
②
既設 BMS の利用
省エネサーバは、BACnet/IP による既設の BMS に接続が可能である。
- 45 -
③
快適度の維持と省エネの達成
大多数の人が快適と感じる PMV の値に保つことで、居住者が多数いるビル空間に
おいても快適度が維持されつつ、省エネが達成される。
④
セキュリティー
インターネット接続において、VPN(仮想プライベートネットワーク)によりセキュ
リティーが確保される。
一方で、本サービスの導入にあたっては下記の適用条件を満足する必要がある。
①空調システム
・空調システム方式が AHU(+VAV/FCU)を使用していること。
②BMS
・ BMS の通信プロトコルが BACnet を使用していること。
・ 中央監視システムから温度設定ができること。
・ 室内温湿度、外気温湿度が BMS に取り込まれていること。
③施設
・ サービス利用者側から施設の建築図が提供されること。
④運用
・ BACnet オブジェクト情報が公開して頂ける。
・ 設定温度を変更させて頂ける。
・ BMS をインターネットに接続させて頂ける。
3.4.
ニューロ PMV 制御技術の普及要因
マレーシアでは、民間、政府所有の大部分のビルには BMS および BAS17 (Building
Automation System)が整備され、空調を含む総合的な制御設備が含まれている。だが、
BMS・BAS があるからといって、大部分のビルではまだエネルギー・マネジメントが導入
されている訳でなく、省エネサービスの普及する余地は大きい。
一般には業務用ビルに対する省エネ手法として、空調設備、熱源設備、および証明設備
に対して高効率機器を設置することや、各種の省エネ制御設備を導入することなどがあげ
られる。これらの手法はビルオーナーの立場から見ると多額の初期投資コストが必要とな
り導入に対して阻害要因となる。本サービスは、インターネット経由で提供される遠隔空
調省エネサービスである。初期投資コストは設備導入型の省エネサービスに対し負担が極
めて尐ない。さらには、一般的なニューロ PMV 制御では、部屋ごとに専用のセンサを設
置する必要があるため、工事コストがかかる。しかし、本技術では、部屋の一つの伝熱モ
17
監視制御機能を有するシステム。建物内の空調・熱源・照明等の各種設備を総合的に制御・監視・管理
することにより、快適な環境と省エネルギーを実現する。
- 46 -
デルとしてとらえ、放射温度を計算で得る方法が採用されており、専用のセンサ設置工事
を不要としている。導入時の負担が尐ない点は普及の大きな要因となる。
既存 BMS との親和性も普及要因となる。本サービスでは、検針サーバ遠隔監視サー
ビスセンターと既存の BMS を接続する方式に BACnet/IP を採用している。BACnet は
2003 年に ISO 規格となり、Johnson Controls、Schneider Electric など世界の BMS メー
カーがサポートしている。比較的新しいビルの BMS に導入されているか、あるいはオプ
ションとして付加が可能なオープンプロトコルである。他社製の BMS の接続する本サー
ビスは、既存インフラへの親和性が高い。
3.5.
マレーシアにおける導入における課題と解決策
導入において課題して、サービス提供にあたり顧客ビルの室内温度と室内湿度の実計測
が必要な点が上げられる。この中で、室内湿度は、実際に計測されているビルはそれほど
多くない。海外のビルでは計測されていない傾向があり、マレーシアも同様である。これ
はニューロ PVM 制御導入の障害となりえる。しかし、室内湿度に関しては、外気条件、
環境条件、及び空調能力などなどの、他の計測値やパラメータを利用して、室内湿度を推
定する機能も開発されており、室内湿度を計測していないビルでも適用が可能である。
本サービスの導入に関しては、基本的にはビルオーナーが意思決定を行う。しかし、そ
の意思決定プロセスにおいて、設備管理の実務を担っている前述の Faber 社(市場シェア 5
割以上)ら FM 事業者の存在は尐なからず影響があると想定されるため、FM 企業とのチャ
ネル確保、リレーション構築、本サービスの優位性の確保などが課題となる。また、それ
ら FM 企業との関連性が高い BMS の SIer と適切な技術情報共有ができるかも課題とな
る。
一方、本サービスの導入形態が ESCO であれば、FM 企業自体が競合となる可能性はあ
り、共存をいかに図るかが課題となる。AWC 社(FM 市場におけるシェアは 5%程度)は、
FM 事業に加え ESCO 事業者としての登録しており、施設管理のサービスパッケージの提
供を目指す動きもある。
- 47 -
3.6.
実証試験の概要
まず実証実験の準備から報告書の作成までの全体スケジュールを図 3.6-1 に示す。
図表 3-6- 1
11月
週目
全体スケジュール
12月
1月
2月
3月
1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4
1.対象ビルの調査
2.実証実験の準備/現地セ
ッティング
3.現地調整
4.ファインチューニング
5.実証実験開始
6.報告書作成
作業の概要は次の通り。
1. 対象ビルの調査とは、本実証実験に適した空調設備/システムを備えたビルを選定する作業
である。本節においては、対象ビルを選定した経緯について 3.6.1 に、対象ビルにおけるエリア
の選定経緯について 3.6.2 に、また、対象エリアにおける空調システムの詳細について 3.6.3 で
紹介する。
2.実証試験の準備/現地セッティングでは、実証実験を始める前の準備を行う。準備とはインター
ネットの設置や日本にあるサーバとのアクセス確認などである。詳細は 3.6.4 に記す。
3.現地調整とは、実際にインターネットでデータへのアクセスをしたときに判った問題点について
現地のシステムの確認や修正を行う。
4.ファインチューニングとは実証実験を開始した際に、ニューロ PMV 制御の省エネルギー効果を
より高めるために、既設のビルオートメーションシステム(以下 BAS)の調整を行うことである。詳
細は 3.6.4(2)に記載する。
5.実証実験開始後、最初の 2 週間で既設の BAS のデータを取得する。4.のファインチューニン
グを挟み、ニューロ PMV 制御をかけている状況で 2 週間のデータを取得した。具体的には
3.6.4(3)に記す。
各工程については以後に詳細を示す。
3.6.1. 対象ビルの選定
まず、今回のニューロ PMV の実証実験を行うため、いくつかの候補ビルから最適なビルを探
- 48 -
す作業を実施した。
① 既存のビルマネジメントシステム(BAS)の通信プロトコルが BACnet/IP であること。
BACnet/IP は国内外で一般的に広く使われているビルマネジメントシステムの通信プロトコル
である。東芝のニューロ PMV はこの通信方式にのみ対応しており、基幹 LAN インターフェー
スが BACnet/IP であることが条件となる。
② セントラル空調方式であること。
セントラル空調とは空調の熱源を一元化している空調方式であり、制御の観点からニューロ
PMV 導入にはこの方式を採用している必要がある。また、細かな温度制御が可能になるた
め風量可変コントロール機器(Variable Air Volume: 以下 VAV)が設置されているほうが望ま
しい。それによって省エネルギー効果をより出しやすくなる。
③ 室内湿度・温度センサと室外湿度・温度センサが設置されていること。
ニューロ PMV では、室内外の温度と湿度を空調コントロールの入力パラメータの一部として
いるのでこれらのセンサが設置されている必要がある。これらのセンサがない場合にはビル
オーナーの合意の上で新規設置をする必要がある。
④ 各 VAV と空調調和機器(Air Handling Unit :以下 AHU)の消費エネルギーの評価が可能で
あること。
通常エネルギーの評価はエネルギーメータを取り付ける以外は AHU のバルブの開度を使っ
た評価方法や給気温度と室温の差を用いた算出方法を用いる。これらの評価方法の詳細は
3.8.1 に記載されている通りである。
しかし、必要なセンサが設置されていない、もしくは、BAS にてデータが蓄積されていないな
どの問題があると消費エネルギーの評価のためのデータを入手することが困難となる。その
ため、各ビルの調査の際にエネルギー評価ができるセンサやデータが揃っているかどうか確
認をする。
⑤ オーナー企業側の積極的な協力が得られること。
過去の実証実験におけるセッティング作業の経験から、本実証試験にはオーナー企業から
既設 BAS メーカへの改造指示等が頻繁に発生する。特に今回のように限られた時間の中で
作業を完了するためにはオーナー企業が本実証試験に強い興味を持ち、既設 BAS メーカ
へ積極的な働きかけを行っていただける環境であることが重要な条件になる。
上記 5 点を元に評価をした結果を図表 3-6-2 に示す。結果としては The Intermark が最適な条
件のビルであると判断をした。
- 49 -
図表 3-6- 2
各候補ビルの評価結果
・ビル名
ビルA
ビルB
ビルC
ビルD
The Intermark
・ビルの用途
裁判所
オフィスビル
オフィスビル
大学内オフィス
・ショッピングモ
ビル
ール
・オフィスビル
・ホテル
・BACnet/IP
○
○
×
-
○
・空調方式(セ
○
×
○
○
○
TAC vista
DAIKIN
Tridium
TAC
Johnson
ントラル)
・BASメーカ
Niagara
・室内温度セ
Controls
○
○
○
○
○
△(無し、設置
△(無し、設置
△(無し、設置
△(無し、設置
△(無し、設置
可)
可)
可)
可)
可)
△(無し、設置
△(無し、設置
△(無し、設置
△(無し、設置
△(無し、設置
度センサー
可)
可)
可)
可)
可)
・エネルギー
×
○
○
○
○
○
○
△
×
◎
×
△
×
×
○
ンサー
・室内湿度セ
ンサー
・外気温度/湿
測定可/不可
・オーナー企
業の協力
総合評価
以下に The Intermark ビル情報の詳細を次に示す
(http://www.theintermark.com/concept.aspx?var=3)
(1)オーナー企業 : MGPA(Malaysia) Sdn. Bhd (以下、MGPA)
(2)ビルの用途
:複合商業施設であり、オフィスビル、ホテルビル、ショッピングセンタービル
の 3 棟から構成されている。
(3)ビルの状況
:ビル自体の建設は 10 年以上前であるが、MGPA が改修工事を数年前に
開始し、2010 年にホテルなどがオープンできる状態になった。オフィス、ホ
テル部分は改修が終了しオープンしているがショッピングセンターはまだ
一部改修中であり、現在の入居率は現在 30%程度である。2012 年 6 月に
は全テナントがオープンする予定である。
- 50 -
3.6.2. 対象エリアの選定
The Intermark はオフィスビル、ホテルビル、ショッピングセンタービルの 3 つのビルで構成され
ており、それぞれ数階または数十のフロアから成っている。今回の実証実験向けにその中で最
適な対象エリアを選ぶ必要がある。
まずは 3 つのビルの中から対象となるビルを選び、その中でさらに対象エリアの絞り込みを行っ
た。
(1) ビルの選定
The Intermark 内の対象ビルの選定理由を図表 3-6-3 にまとめた。そのうち、BACnet/IP に接
続可能であること、及び VAV があることを重視してショッピングセンタービルが対象ビルとして最
適であると判断をした。
図表 3-6- 3
詳細
The Intermark 内の対象ビルの選定理由
オフィスビル
ホテルビル
・62階建てのオフィスビル
・DOUBLETREE by HILTONの
ショッピングセンタービル
・Concourse、Ground floor, 1
である。入居率は60%程度
ホテルである。客室は540部
階、2階、3階と全部で4階からな
である。
屋ある。
る。レストランから服飾関連など
が入居する。
窓の有無(輻射温度の
測定の可/不可)
ビルマネジメントシステム
・有り
・有り
○
・無し
○
×
・LonworksというBACnet/IP
・BACnet/IPでの通信が可能
・BACnet/IPでの通信が可能で
とは別の通信プロトコル。
である。
ある。
・VAVがなく、細かな温度調整
・VAV設置済み。
ができないCAV方式である。
×
△
・セントラル空調
・セントラル空調
×
○
○
VAVの有無
×
×
○
総合評価
・BACnet/IPでないため、ニュ
・VAVがなく細かい温度調整が
・窓がないため、輻射温度の影
ーロPMVの適用が難しい。
難しい。よって今回の実証実
響を入れられないが、これは他
験には適さない。
の項目より優先順位が低い。こ
空調方式
○
・セントラル空調
のため、条件から判断したところ
今回の実証ビルとして最も適し
ていると考えられる。
×
△
- 51 -
○
ショッピングセンタービル内は Concourse、Ground floor、1st floor、2nd floor の 4 階から構成さ
れており、テナントとテナント以外の部分からなる。テナント以外の部分はホールや廊下エスカ
レータ部分であり、ここは VAV のない空調方式であるため今回は対象外とする。テナント内は
VAV の設置がされているのでこちらを対象とする。図表 3-6-4 に The Intermark のショッピング
センタービルにおけるテナント一覧を示す。
図表 3-6- 4
The Intermark のショッピングセンタービルにおけるテナント一覧
フロア
テナント名
利用状況
店舗面積(m2)
Royal India
インド料理店
132.8
Kinnomizu
日本料理店
200.9
Master Manshop
服飾
67.0
Eyefont
コンタクトレンズ、眼鏡の販売
89.3
HANARE
日本食料理店
242.8
D'Nata
ギフトラップなど文具
101.6
EYEVOLUTION
眼鏡の販売
79.5
2nd floor
1st floor
ground floor
concourse
当初は上記の全フロアを対象とする方向で検討していたが、3.8.1 に後述するように既設 BAS
の制御設定に問題があったことからその改修に時間がかかり、すべてのエリアを対象とする時
間が確保できなかった。そのため、図表 3-6-4 のテナントのうち 2 階にある Kinnomizu を対象と
して実験を行った。
3.6.3. 対象エリアの空調システム
(1)空調設備概要
ビルの空調設備を構成する主要な要素は AHU と VAV であり、1 台の AHU に対して複数台
の VAV が後段に配置される構成となる。各々の役割について、以下に簡単に紹介する。
AHU:
AHU は、①冷気を作り出す、②作り出した冷気をダクトへ送風する、の 2 点の役割を担う。それ
ぞれの役割についての詳細を下に示す。
・冷気の製造
外気と室内の還気を取り込み、クーリングコイルでの熱交換により冷却を行う。この冷却には
- 52 -
チラーからの冷水が使われており、給気温度の調整はバルブの開閉によって冷水の量を可
変することで行われている。
・ダクトへの送風
AHU 内に設置されているファンで冷気を送風する。この際、ファンのモータに設置されてい
る可変速度ドライブ(VSD)を PID 制御によって給気圧力を一定に調整している。
VAV:
VAV は AHU からの冷気を部屋に給気する際に量を調節して室温のコントロールを行う役割
を担う。PID 制御により VAV のダンパーを開閉させて実測温度が設定温度に近づくように調
整を行っている。
図表 3-6-5 はそれらの空調システム構成図である。
図表 3-6- 5
空調システム構成図
- 53 -
(2)対象ビルの設備内容(テナントオープン分)
図表 3-6- 6
フロア
2nd floor
1st floor
ground floor
concourse
対象エリアにおける AHU と VAV の一覧
テナント名
AHU
VAV台数
Royal India
AHU1
2台
Kinnomizu
AHU2
2台
Master Manshop
Eyefont
HANARE
D'Nata
EYEVOLUTION
AHU3
AHU4
AHU5
1台
1台
3台
1台
1台
図表 3-6-6 に、対象エリアにおける AHU と VAV の一覧を示す。表から分かるとおり、AHU と
VAV の数の比率は概ね 1:2~1:3 程度となっている。
(3)BAS ネットワーク
対象エリアの既設の BAS の詳細は下の通りである。既設 BAS のネットワーク図について図表
3-6-7 に表示する。
・
システム概要
:
Metasys® Johnson Controls 社製
・
システム内容
:
BACnet/IP 対応システム
・
オペレーション
:
Johnson Controls 社
・
チラー
:
Carrier 社製 ターボ冷凍機(500Ton)
- 54 -
図表 3-6- 7
既存 BAS ネットワーク図
このうち NCE3 と NAE4(名称は Johnson Control の呼び名)に必要な情報が蓄積される。これらの
2 つを今回の実証実験のデータ通信先とする。
- 55 -
3.6.4. 実証試験の準備
(1) ネットワークの接続
ネットワークの接続に必要な設備は次のとおりである。
①インターネットモデム
②VPN ルータ
ネットワーク内のモデムとルータの設置場所を図表 3-6-8 に示す。
図表 3-6- 8
ネットワーク内のモデムとルータの設置場所
①のインターネットモデムは、日本国内にあるニューロ PMV システムの基幹システムにネットワ
ーク上接続する必要があることから、システムのインターネット接続を主たる目的として手配す
ることとした。インターネットモデムの手配においては、現地 IP サービスプロバイダとの接続性
などを考慮した場合、現地製品で構築することがベストであると考えられたため、現地で製品
手配を行った。
②はインターネットを安全な状態で利用できるようにするために VPN(仮想プライベートネットワ
ーク)につないでおり、そのためのルータになる。ルータ自体は接続確認ができている VPN ル
ータがあるため、同一製品を調達した。
- 56 -
(2) センサ類の追加設備及び設備改修
ニューロ PMV の実証実験には次の設備の追加設置が必要である。
③室内温度センサ
④室内湿度センサ
⑤室外温度センサ
⑥室外湿度センサ
これらのうち、The Intermark ビルの対象エリアにおいては、③と⑤は既設の設備として導入
されていたものの、④と⑤と⑥は未導入であったためこれらのセンサを追加した。今回の実
証実験において導入したセンサの一覧を図表 3-6-9 に示す。
表 3-6- 9
種類
③
室内温度センサ
④
室内湿度センサ
今回の実証実験において導入したセンサの一覧
台数
設置箇所
11
各テナント内に設置済み
1
Ground floor階にあるAHUのリターンダクト内に設置
1
2nd floor階にあるAHUのリターンダクト内
⑤
室外温度センサ
1
⑥
室外湿度センサ
1
1st floor階の駐車場に設置
また、③と④の室内のセンサについては図表 3-6-10 に内に AHU や VAV との位置関係を
示す。
- 57 -
図表 3-6- 10
室内センサの AHU や VAV との位置関係
湿度センサの設置については、各対象テナント内に設置するのが理想的である。ただし、今
回はすでにオープンしているテナント内へ設置工事を行うことが困難であったため、次善の
策として室内からの還気(リターンダクト内の湿度)を室内湿度とすることにした。
なお、湿度センサは各フロアに 1 台ずつの計 4 台を設置するのが本来であるが、工事中のエ
リアもあったため設置台数は 2 台とし、比較的近い位置の湿度センサで代表することとした。
それぞれの湿度値が適用される対象は図表 3-6-11 に示すとおりである。
図表 3-6- 11
値
湿度値の適用エリア
センサ設置場所
各センサ値の適用対象
Ground floor階にあるAHUのリ
タンダクト内
室内湿度値
ConcourseとGround floor
2nd floor階にあるAHUのリタン
1st floor と 2nd floor
ダクト内
- 58 -
また、各追加センサのシステムへの取り込みルートについては図表 3-6-12 に示す。センサ
の情報は DDC と NCE を経由して既設 BAS のサーバ(OWC)や東芝側のサーバに送信され
る。
図表 3-6- 12
各追加センサのシステムへの取り込みルート
(3)取得データの整理
各対象エリアの VAV と AHU のデータをシステムで取得するがこれらのデータの目的と項目
について以下で整理する。具体的には、a.にてデータの利用目的について、b.にて具体的
なデータの一覧について説明する。
a.データの利用目的
i)空調設備の動作確認(状況把握)
ニューロ PMV のセッティングの際に、空調設備の置かれている状況を確認するため、次の指
標を確認する。
・ 給気設定温度/給気測定温度とバルブ開度
- 59 -
・ 給気圧力と給気用ファン回転率
ii)エネルギー評価
エネルギー評価は室内測定温度と給気測定温度との差で評価を行う。詳細については図
表 3-8-1 に記載する。
b.取得データの内容と数の整理
図表 3-6-13 に取得データの内容とデータ取得数を整理した表を示す。これらのデータを取得
する。
図表 3-6- 13
取得データ内容とデータ取得数
対象
測定項目
AHU
単位
データ数
追加設備
給気測定温度
℃
5
―
給気設定温度
℃
5
―
給気圧力
Pa
5
―
バルブ開度
%
5
―
給気モーター回転率
%
5
―
室内測定温度
℃
11
―
室内設定温度
℃
11
―
CMH
11
―
ダンパー開度
%
11
―
室外温度
℃
1
○
室外湿度
%
1
○
室内湿度
%
2
○
VAV
給気風量
室外温湿度センサ
室内湿度センサ(還気)
(4)実証実験のスケジュール
実証実験のデータの取得方法を図表 3-6-14 に示す。
図表 3-6- 14
実証実験スケジュール
1週目
既存システムのデータ取得期間
ファインチューニング
ニューロPMV制御のデータ取得期間
- 60 -
2週目
3週目
4週目
5週目
今回の実験においては既存の状態での測定を 2 週間、ニューロ PMV 制御をかけて 2 週間とし
合計で 4 週間の試験を行う。最初の 2 週間は既存の状態でのデータ収集、その後ファインチュ
ーニング期間を挟み、ニューロ PMV 制御を稼動させたデータを収集する。
ここで、ファインチューニングとは、ニューロ PMV 制御による効果がより多く得られることを目的と
して既設の機器やシステムの調整を行うことである。詳細については下の通り。
・機器の動作状況の確認
・BAS のデータ値が適正かどうか確認
・PID 制御が適正に行われているかの確認
3.7.
実証試験の検証方法
3.7.1. エネルギー削減量の評価方法
1.1.6 に示すとおり消費エネルギーの測定には次の 3 つの方法がある。
① 熱量計により冷媒の熱量を計測する方法
② 流量計と温度計によって、空調が送風する空気の熱量を測定する方法
③ 電力量計によって空調設備(HVAC)とチラー(Chiller)の電力消費量を測定する方法
今回の実証サイトについては、既存システムについて①の熱量計の設置と③の HVAC の電力
量計の設置がされていなかった。これらの設置にはコスト的、時間的制限があることから今回は
②の方法を採用することにした。
まず、VAV1 台における空調のエネルギー消費量を計算する式を次に示す。各記号は図表
3-7-1 の通りである。
VAV1 台における空調の消費エネルギー量=(ZNT―SAT)× Q × C× ρ
図表 3-7- 1
記号/値
エネルギー消費量の記号と意味
意味
単位
ZNT
室温
K
SAT
給気温度
K
Q
風量
m3
C
空気比熱
KJ/kg・K
ρ
空気密度
kg/m3
ここで、空調エネルギー削減量の評価のために使用される項目と計算方法は次の計算式を使
用する。対象 VAV ごとに既存の空調設備のエネルギー使用量とニューロ PMV 制御を運転さ
- 61 -
せた場合のエネルギーの消費データを比較している。既設の空調設備による運転 a とニューロ
PMV 制御導入後 b の運転との差をとると以下の式となる。
エネルギー削減電力量[kWh]=Σ[(ZNTa - SATa)Qa- (ZNTb - SATb)Qb]×C×ρ÷η
変換効率ηは、AHU へ冷水を供給しているチラーの効率になる。今回の対象サイトにおけるチ
ラーの効率は、現地からの情報入手が困難であったことから同じ Carrier 社製品で同様の仕様
を持つチラーの効率を採用した(出典:Carrier 社の仕様書より)。
図表 3-7- 2
エネルギー消費量の記号と意味(2)
内容
記号/値
単位
ZNTa
既存システムの室温
K
SATa
既存システムの給気温度
K
ZNTb
ニューロPMV導入後の室温
K
SATb
ニューロPMV導入後の給気温度
K
Qa
既存システムの風量
M3
Qb
既存システムの風量
M3
C
空気比熱
KJ/kg・K
ρ
空気密度
kg/m3
η
チラーの効率
-
3.7.2. データの集計方法
消費エネルギーの計算に用いる各データは通常、次の方法で集計する。
(1)取得データの積算値で計算
1 日の取得データをそのまま積算した値で算出する。一定期間ある程度安定したデータがあ
るときにはこの方法が望ましい。
しかし、データに欠損があるときは下記(2)または(3)の方法を採用する。
(2)時間平均の積算値で計算
欠損部分にその日の時間平均を代入するする方法。データに欠損があるときで、全体的に
値の変動が大きくなく欠損部分を全体の平均で代用できる際に採用する。
- 62 -
(3)前回値ホールド
データが欠損している部分に直前の値を代用値として当てはめる方法。データの変動が大
きく、代用値として全体の平均値を当てはめるよりも、直前の値を当てはめたほうが正確にな
る際に採用する。
今回はインターネットの接続が不安定なことがあり、一部データに欠損が見られたこと、そし
て全体的な値の変動が小さいことから(2)の方法を採用した。
3.8.
実証試験の結果
3.8.1. 既設設備の不適合について
2011/2/14 – 2/25 の期間に既存のビルシステムのデータ取得を行った。その後、各 VAV・AHU
について主に下のような問題点が見つかったためテスト開始前までに修正を依頼した。
① VAV の PID 制御のパラメータが未調整
② AHU の PID 制御のパラメータが未設定
③ 給気量を示すデータのパラメータの間違い
VAV・AHU の不具合修正状況を図表 3-8-1 に示す。修正が完了したものについては○、テスト
開始時までに修正が間に合わなかったものについては×で表示している。
図表 3-8- 1
フロア
2nd floor
1st floor
ground floor
concourse
テナント名
VAV・AHU 不具合修正状況
AHU
VAV
Royal India
AHU1
Kinnomizu
改善状況
評価
①
②
③
2台
○
○
○
○
AHU2
2台
○
○
○
○
Master Manshop
AHU3
1台
×
○
○
×
Eyefont
AHU3
1台
×
○
○
×
HANARE
AHU4
3台
×
×
○
×
D'Nata
AHU5
1台
×
×
○
×
EYEVOLUTION
AHU5
1台
×
×
○
×
Royal India は改修については完了したが、温度の値から温度センサに不具合がある可能性が
見られたため除外している。そのため、今回の対象エリアとしては改修ができた以下の VAV2 点に
- 63 -
絞って検討することにした。
・ Kinnomizu AHU1 台、VAV 2 台
3.8.2. 実証実験におけるエネルギー削減量(案)
当初、実証実験において予定していたスケジュールは以下の通りであった。
(1)既存システムデータ取得期間
:
2011/2/14-2011/2/25
(2)ファインチューニング期間
:
2011/2/28-2011/3/4
(3)ニューロ PMV 制御データ取得期間
:
2011/3/7-2011/3/11
ところが、(2)のファインチューニングにおいて、3.9.1 に示したように既設 BAS のデータに様々な
異常が見つかり、(1)のデータの信頼性が確保できないことが判明し、かつ、スケジュールの再
設定を行う必要が生じた。再スケジューリングの結果は以下の通りである。
(1)既存システムデータ取得期間
:
2011/2/14-2011/2/25 ・・・ 信頼できず
(2)'ファインチューニング期間
:
2011/2/28-2011/3/9 ・・・ 期間延長
(3)既存システムデータ再取得期間
:
2011/3/10-2011/3/11
(14 日、15 日については震災の影響により作業中断)
(4)再ファインチューニング期間
:
2011/3/16-3/18
(5)ニューロ PMV 制御データ取得期間
:
2011/3/21-3/25
空調エネルギー量の測定結果を図表 3-8-2 に示す。
図表 3-8- 2
既存システムデータ
ニューロPMV制御開始後
データ
空調エネルギー量測定結果
データ採取日
エネルギー積算量(kWh/日)
2011/3/10
178.82
2011/3/11
192.63
2011/3/21
15.56
2011/3/22
15.48
2011/3/23
14.91
2011/3/24
20.01
2011/3/25
31.98
日平均(kWh)
185.73
19.59
日平均から算出して 89.5%のエネルギー削減量が達成されたことになる。
今回の削減効果は約 90%と、通常のファインチューニング+ニューロ PMV によって得られる数
- 64 -
値である 20%~40%と比較して極めて大きな効果が得られている。この違いについて以下の通りに
考察する。
90%の内訳としてファインチューニングの効果とニューロ PMV の効果のそれぞれの寄与分を明
確に区別することは困難であるが、今回においてはファインチューニングによる効果が過大に大
きかったことが実験データから推測される。
ファインチューニングの効果が過大に大きかった要因としては、既設の BAS の設定やオペレー
ションが適正に行われていなかったことが挙げられる。そのため、必要な以上のエネルギー消費
をしていた。
ニューロ PMV は温度のコントロールのだけでなく、導入によりエネルギー消費の見える化が可
能である。本結果はニューロ PMV 導入によって、それによる設定温度のコントロールだけでなく、
BAS 自体の設定とオペレーションが適正に行われるようになった結果といえる。
3.8.3. 実証試験におけるコスト削減量
3.8.2 の結果から、エネルギーの削減量は日平均で 166.14kWh/日である。
ここで、マレーシアの kWh あたりの電力料金体系は次の通りである。
図表 3-8- 3
費
電力
マレーシアの電力料金体系(KWh あたり)
目
ピーク
(8:00-22:00)
オフピーク
(22:00-8:00)
単
価
7.8 円/kWh
(0.288 リンギ/kWh)
4.8 円/kWh
(0.177 リンギ/kWh)
(出典:マレーシア工業開発庁 HP より)
*1 リンギ 27 円で換算
対象ビルの空調稼働時間は午前 9:00-午後 10:00 までなので、電力単価はピーク時の値を適
用する。
これより、対象エリアにおいて今回の日平均の削減量を算出した結果を示す。
166.14[kWh/日]×7.8[円/kWh]=1,296[円/日]
ここで稼働日数を 240 日として年間の削減量を算出した(土日、祝日は AHU が停止しているた
め)。
1,296[円/日]×240[日/年]=311,040[円/年]
よって対象エリア(VAV2 台)では年間 311,040 円の削減量が見込まれる。
- 65 -
3.9.
実証試験のまとめ
3.9.1. マレーシアのビル空調の特徴
今回の対象ビルとなった The Intermark のビルの他にさまざまな候補ビルをマレー
シアで見てきた中で、ニューロ PMV のビジネスを展開する上で留意すべき特徴がいくつ
かあった。ここで、次の3項目について特徴をまとめた:①システム面の特徴、②空調
設備環境の特徴、③快適さに対する評価についての特徴
① システム面の特徴
BACnet が導入されているビルは新規のビルでもさほど多くなく、別の通信プロトコ
ルである LON Works を使用しているビルが多い。理由としてはLONWoksの方が導
入コストが低いことがある(現地ヒアリングより)
。新しいビルに関しては BACnet 方式
のBMSであるものが増えているようであるが、空調にコストをかけないことが一般的
であるマレーシアではLONworks のほうが主流であるといえる。
他の東南アジア地域の国々も同様である可能性があり、今後マレーシアを含む東南
アジア地域でのビジネス展開を考える上でどのような通信方式が主流であるのか見極め
る必要がある。もし BACnet 以外の市場が大きい場合は、ニューロPMVビジネスについ
てもそれにあわせた開発を東芝内でも進める可能性を検討する。
② 空調設備環境の特徴
マレーシア国内では空調設備やシステムについての調整が適正にされていないこと
が多い。今回の実証実験についても、納入時点でされているべきシステムや機器の調整
がされていなかったため、ファインチューニングの時点で基本的な空調設備の調整から
の見直しが必要となった、本来この作業は事前に完了しているものであるため、本事業
にとっては予想外の作業となった。今後、本事業を進める上ではこのような作業が発生
する可能性を見込み、その分のコストを見積もっておく必要がある。その上で、その分
のコスト負担をどのようにオーナー企業側と負担するのか都度検討をすることになる。
③ 快適さに対する評価についての特徴
マレーシアのビルでは空調が21℃から22℃に設定されていることが多く、室内
が肌寒い状態にあることが多い。その分無駄なエネルギー消費が多いといえる。
このような環境の下で、人々は設定温度を上げるわけではなく厚着をして過ごしている
ことが多い。つまり、空調に対する快適さの要求度が日本と比較してさほど高くなく、
室内の温度が低い状況にあって着衣量で調整することが習慣になっているためと思われ
る。
ただし、各テナントの店員にヒアリングを行うと、寒いという声も聞こえた。つま
り、このような環境に対して利用者は必ずしも快適と感じているわけではなく、現状を
- 66 -
受け入れているだけと思われる。
ニューロ PMV を導入すると通常、室内温度は上昇する。まずは、温度が上がった状態でも快
適に過ごせることを体感してもらうことで、通常の服装(厚着をしない状態)でも快適に過ごせる
メリットについても PR することができるポイントであるといえる。
3.9.2. マレーシアにおけるビジネス展開の可能性と必要な条件
マレーシアでは今回のエネルギー消費の結果が示すように、過剰冷房によるエネルギ
ー消費が大きい。そのためからニューロ PMV の導入により、エネルギー消費の見える化
と温度遠隔制御の効果が出しやすいと思われる。そのため多くのビルで本実証実験結果
レベルの省エネルギー効果を得られることが期待できる。
しかし、実際のビジネス展開においてはコストメリットを出すためにある程度の規模
のビルを数多く効率的に探すことが必要であると思われる。その場合東芝単独では情報
が限られることから効率的に展開していくことは困難である。つまり適切なパートナー
企業と連携していくことが必要になってくる。
今後も継続的にマレーシアの市場調査を継続していくとともに、どの戦略で展開を図
るのが効果的であるか評価を行っていく必要がある。
- 67 -
4.測定・報告・検証(MRV)の方法についての検証
本章では、対象事業についての温室効果ガス(以下、
「GHG」とする。)の削減量の算定
方法、必要なデータの測定方法の検証を行い、削減方法論案を提示する。さらに、本事業
の一般的な追加性についての検証も行う。最後に、本事業にて削減方法論案と実証試験結
果に基づき、対象事業における GHG 削減量ポテンシャルと経済効果についての簡易試算結
果を提示する。
4.1. MRV 方法論の検討
4.1.1. 対象事業の定義
本章では、マレーシアのビル空調設備にニューロ PMV 制御技術を導入する事業を対象と
する。ニューロ PMV が導入可能な条件については前章にて示した通りであり、具体的には
次の基準を満たすことが出来るビルのみ対象となる。
・ BMS(Building Management System)が導入されている
・ BMSがオープンプロトコルである BACnet/IP をサポートしている
・ BMSで室内温度設定が可能である
・ 対象ビルの空調方式がセントラル方式である
4.1.2. 既存国連 CDM 方法論の適用可能性についての検証
本事業では、主にビル空調設備を対象とし、東芝のニューロ PMV 制御技術によって需要
側の省エネルギーを達成するものである。したがって、本事業が適用可能な CDM の既存方
法論として、省エネ系小規模方法論 AMS-Ⅱ.C 「Demand-side energy efficiency activities
for specific technologies」
(需要側での特定技術を用いたエネルギー効率化活動)
(以下、
「方
法論 AMS-Ⅱ.C」とする。
)
、および、省エネ系小規模方法論 AMS-Ⅱ.E「Energy efficiency
and fuel switching measures for buildings」
(建物の高効率化および、燃料転換)
(以下、
「方
法論 AMS-Ⅱ.E」とする。
)の 2 つがあげられる。
2011 年3月現在、
CDM 事業として登録済みの案件は方法論 AMS-Ⅱ.C の案件が 10 件、
方法論 AMS-Ⅱ.E の案件が 6 件(内、AMS-Ⅱ.C と併用のものが 1 件)である。現状の登
録済み案件の概要を下表に示す。合計15案件のうち、照明設備の導入案件および、他の
案件との類似案件を除く 8 件について、適用可能性について調査を行った。
図表 4-1- 1 登録済み CDM(小規模省エネルギー事業)一覧
No.
案件名
1
Kuyasa low-cost urban housing
energy upgrade project,
Khayelitsha (Cape Town; South
国
対象設備
South
太陽熱温水器、高効率
Africa
照明、天井への断熱材
- 68 -
方法論
AMS-I.C.
ver. 5
AMS-II.C.
Africa)
ver. 5
AMS-II.E.
ver. 5
2
AMS-I.C.
Moldova Biomass Heating in Rural
Republic
ボイラーの更新(燃料転
Communities (Project Design
of
換)、パイプラインの断
Document No. 1)
Moldova
熱
ver. 6
AMS-II.E.
ver. 6
AMS-III.B.
ver. 6
3
AMS-I.C.
Moldova Biomass Heating in Rural
Republic
Communities (Project Design
of
Document No. 2)
Moldova
ver. 6
ボイラーの更新、パイプ
AMS-II.E.
ラインの断熱
ver. 6
AMS-III.B.
ver. 6
4
5
Moldova Energy Conservation and
Republic
Greenhouse Gases Emissions
of
Reduction
Moldova
Demand-side energy efficiency
programme in the ‘Humidification
India
7
ver. 6
換)、建物の断熱
AMS-III.B.
ver. 6
湿塔への可変周波数駆
動(VFD)導入
6
Consumption of a Hotel
ボイラーの更新(燃料転
リネン製造プロセスの加
Towers’ of Jaya Shree Textiles
Improvement in Energy
AMS-II.E.
India
AMS-II.C.
ver. 7
蒸気ボイラーの更新、
AMS-II.B.
太陽熱ヒーター導入、ポ
ver. 7
ンプの更新、省エネ型
AMS-II.E.
下水処理施設の導入
ver. 7
Greenhouse gas (GHG) reduction
by implementing energy efficient
plough share mixer (PSM)
technology in soap manufacturing
(スープ麺製造の混合
India
工程における)Plough
share mixer 技術の導入
at Hindustan Lever Limited (HLL),
AMS-II.C.
ver. 8
India
8
(圧縮空気需要量を減
Factory energy efficiency
improvement in compressed air
Malaysia
demand and supply in Malaysia
らすために)空気のノズ
AMS-II.C.
ル、空気銃の更新、ブロ
ver. 8
ワー等電気設備の導
- 69 -
入、昇圧器の除去、圧
縮機の更新と制御の導
入
9
Visakhapatnam (India) OSRAM
CFL distribution CDM Project
India
10
照明設備
AMS-II.C.
ver. 9
壁面ガラス、屋根の断
Energy efficiency measures in
"Technopolis".
熱材の導入。空気調整
India
装置(AHU)、チラー、
ポンプシステム、冷却塔
AMS-II.E.
ver. 8
の更新
11
(圧縮空気需要量を減
らすために)空気のノズ
Factory energy efficiency
improvement in compressed air
ル、空気銃の更新、ブロ
Mexico
demand in Mexico
ワー等電気設備の導
入、昇圧器の除去、圧
AMS-II.C.
ver. 9
縮機の更新と制御の導
入
12
Yamunanagar & Sonipat (India)
OSRAM CFL distribution CDM
India
照明設備
India
照明設備
India
照明設備
Project
13
Pune (India) OSRAM CFL
distribution CDM Project
14
Chhattisgarh Lighting Improvement
Project (CLIP) in Rajnandgaon
Circle, Chhattisgarh , India
15
Rwanda
distribution project
(出典)
ver. 9
AMS-II.C.
ver. 9
AMS-II.C.
ver.11
AMS-II.J.
Rwanda Electrogaz Compact
Fluorescent Lamp (CFL)
AMS-II.C.
照明設備
ver. 3
AMS-II.C.
ver. 11
UNFCCC ホームページを元に株式会社日本総合研究所作成
対象とした 8 件の案件について、主にベースラインの設定方法、追加性の証明に
ついて調査を行った。案件毎の調査結果を下表にまとめて示す(表中の案件 No.は
図表 4-1-1 と対応している。
)
。
- 70 -
図表 4-1- 2 小規模省エネルギー事業の概要
No 方法論
1
対象設備
ベースライン設定方法
追加性の説明
AMS-I.C.
ver. 5
太陽熱温水
AMS-II.C.
器、高効率
ver. 5
照明、天井
AMS-II.E.
への断熱材
特定の温度を保つために必要
なエネルギーを熱モデルによ
り算定
経済障壁(補助金支給の無い
貧困家庭を対象)
ver. 5
2
AMS-I.C.
ver. 6
AMS-II.E.
ver. 6
AMS-III.B.
ver. 6
4
ボイラーの
更新(燃料
転換)、パイ
プラインの
事業実施後の熱消費量から
効率で割り戻して算定
断熱
AMS-II.E.
ボイラーの
ver. 6
更新(燃料
エネルギー消費量の実績値を
AMS-III.B.
転換)、建
元に、年率 5%増加として算定
ver. 6
物の断熱
5
リネン製
経済障壁(初期投資の問題)
慣習障壁(導入技術は一般
造プロセス
AMS-II.C.
の加湿塔へ
定格出力とプロジェクト実施後
ver. 7
の可変周波
の運転時間から算定
数駆動
的でない)、経済障壁(初期投
資の問題)、技術障壁(性能の
不確かさ、操作に熟練が必
要)
(VFD)導入
6
経済障壁(初期投資の問題)
蒸気ボイラ
経済障壁(省エネ効果が不透
ーの更新、
AMS-II.B.
太陽熱ヒー
既存のエネルギー消費量のま
ver. 7
ター導入、
ま推移するとして算定(効率化
AMS-II.E.
ポンプの更
を強いる法令も無く、設備自体
ver. 7
新、省エネ
が新しかったため)
型下水処理
明)
技術障壁(ホテルセクターで
は、省エネの取組みは少なく、
機器の入手も困難であった)
その他障壁(事業実施に追加
の人員が必要)
施設の導入
- 71 -
7
(スープ麺
製造の混合
技術障壁(開発段階の技術で
既存設備の生産量あたりの
あり、トラブル対応する人員が
AMS-II.C.
工程におけ
エネルギー消費量(平均値、
必要)、 市場障壁(省エネ効
ver. 8
る)Plough
最保守値)と事業実施後の生
果により製品価格を下げられ
share mixer
産量から算定
るが、低価格であることが逆に
技術の導入
8
消費者に不安を抱かせる)
(圧縮空
気需要量を
減らすため
に)空気の
ノズル、空
AMS-II.C.
ver. 8
経済障壁(投資回収の問
気銃の更
既存設備の稼働時間当たりの
題)、技術障壁(運用する技術
新、ブロワ
電力消費量(平均値)と稼働時 を持った現地従業員がいな
ー等電気設
間から算定
い)、慣習障壁(導入技術は一
備の導入、
般的でない)
昇圧器の除
去、圧縮機
の更新と制
御の導入
10
AMS-II.E.
壁面ガラ
ver. 8
ス、屋根の
断熱材の導
入。空気調
整装置(AH
U)、チラ
ー、ポンプ
経済障壁(初期投資の問題)
既存のエネルギー消費量のま
その他障壁(省エネビル事業
ま推移する。稼働時間に応じ
実績が当該国では少ない。メ
て変化する。
ンテナンスに追加人員が必
要。)
システム、
冷却塔の更
新
(出典)
UNFCCC ホームページを元に株式会社日本総合研究所作成
既存 CDM 案件の考え方については次のようにまとめられる。
(ア) ベースライン設定方法について
ベースラインの設定については次のように 3 つの算定方法、および、実績値からの算定
方法と事業実施後の測定値からの算定方法の組合せにてベースラインが設定されていた。
・ モデルを用いた算定方法
- 72 -

建物の熱需要
・ 実績値からの算定方法

ある期間の実績値の変化率を用いて将来の数値を算定


建物全体のエネルギー需要等
ある期間の実績値の平均値を求め、将来も同じ数値であると算定

工場の生産量原単位、建物全体のエネルギー消費量など
・ 事業実施後の測定値からの算定

設備の運転時間、
(工場の)生産量など
本調査対象事業については、既存のビル空調設備によるが、定格出力の設備であれば、
事業実施後の測定値としての運転時間から算定が可能である。また、定格出力ではない場
合には、実績値から直接算定する方法も考えられる。しかし、より精度を高めるためには、
工場製造ラインにおける生産量原単位を用いた算定方法と同様に、空調のエネルギー消費
量に影響を与える重要指標を特定し、過去の実績値からその重要指標当たりのエネルギー
消費量原単位を求めるべきである。重要指標についてプロジェクト実施後に測定を行うこ
とで、より合理的なベースラインを設定することができる。また、この算定方法は、方法
論 AMSⅡ.C においても、電気使用設備については適用可能と明示されている。
(イ) 追加性の証明方法について
追加性の証明方法については大きく 4 つの障壁を説明していた。
・ 経済障壁

初期投資負担が大きい、投資回収年数の期間が長い

省エネ効果が不透明で回収期間の見通しが立たない
・ 技術障壁

技術の導入実績が無く、性能が不確かである。

技術(製品)が入手困難である

技術を扱える人員がいない、追加人員が必要である。
・ 慣習障壁

技術の導入実績が無い。
・ 市場障壁

省エネ効果により製品価格を下げられるが、低価格であることが逆に消費者
に不安を抱かせる。
事例の中には複数の障壁を評価している事業があるが、本調査で取り上げた CDM 事業
は、上述したように全て小規模 CDM 方法論を適用したものである。小規模 CDM について
は、追加性の説明ガイドライン(Appendix B of the simplified modalities and procedures
for small-scale CDM project activities Attachment A to Appendix B)が策定されており、次
- 73 -
の 4 つの障壁のいずれかが認められる場合には、追加性があると定めている。
① 初期投資にかかる障壁
プロジェクト活動に対して、財政・金融上より実行可能性の高い代替物があり、
排出増になる。
② 技術的な障壁
プロジェクト活動に対して、性能・効果が不確かである、または、プロジェク
ト活動に適用する新しい技術の市場シェアが小さいなどの理由から、技術的に先
進的でない代替物は相対的に低リスクであり、その結果排出増になる。
③ 慣習的な障壁
慣習、規制、政策によって排出増になる。
④ その他障壁
プロジェクト活動がなければ、制度の障壁や情報・マネジメント資源・組織能
力・金融資産・新技術の習得能力が限られている、などの他の特定の理由の為に、
排出量増になる。
なお、本調査対象事業についての追加性の証明は「4.1.5 本事業における追加性の照
明」にて説明を行う。
4.1.3. CDM 以外の MRV 関連基準の適用可能性の検証
京都メカニズム以外にも、欧米を中心とした VER 市場にて、MRV 方法論が作成されて
いる。日本国内においても、国内クレジット制度にて空調設備の方法論が作成され、GHG
削減事業が承認された実績がある。また、ISO においても、温室効果ガスの MRV につい
ての考え方を示した規格 ISO14064 が作成されている。これら既存の MRV 方法論の手法に
ついて、本事業においても適用可能であるか、また MRV 方法論の作成に当たって参考と
なる情報がないかという観点で調査を実施した。
(ア) 欧米の主な VER 市場における MRV 方法論策定状況
先行調査によると18、世界の主要な VER(Verified Emission Reduction:ここでは、
「国連に認められていない機関が認証した排出削削減量」をさす。
)検証・認証基準のう
ち、特にこれまでの実績が大きく認知度が高いと考えられる機関は、次に示す 4 つであ
る。
・Gold Standard
・Voluntary Carbon Standard
・VER+ Standard
カーボン・オフセットに用いられる VER(Verified Emission Reduction)の認証基準に関
する検討会(第一回)議事次第・資料 2-3
18
- 74 -
・The Voluntary Offset Standard
また、米国にて先行してキャップ&トレードが実施されているカリフォルニア州(CCAR)
にて、キャップ&トレードを補助する役割としてオフセットスキームが CARB
(California Air Resources Board)にて構築されている。本制度の方法論についても合
わせて調査を実施した。
上記の制度においては、
「省エネ事業を VER の対象にしていない」
制度である、または、
省エネ事業を VER の対象しているが、
「CDM の MRV 方法論に準拠している事業」を対象と
する制度の 2 通りのみであり、適用可能な MRV 方法論は確認できなかった。
(イ) 国内クレジット制度方法論の適用可能性検討
続いて、国内クレジット制度にて承認済みの方法論について調査を行った。国内クレ
ジット制度の方法論は現在 34 種類登録されている19。本事業が空調設備を対象としてい
ること、運転制御を行う事業であることから、関連する方法論として、「004 空調設備
の更新」
、
「005 間欠運転制御、インバーター制御又は台数制御によるポンプ・ファン類
可変能力制御機器の導入」について調査した。2 つの方法論についての特徴を下表に示
す。
図表 4-1- 3 小規模省エネルギー事業の概要
方法論番号
004
方法論名称 空調設備の更新
空調設備の更新を伴うこと
年間稼働時間、床面積、営業時間を把握すること
(外気温度を考慮しても良い)
ベースラインとして使用熱量・消費エネルギーの実績値を用いること
実績値の必要データ期間についての規定はない
ベースライン 実績値がない場合は事業前後の空調設備のエネルギー消費効率
設定方法
比から
算出することも可能
消費効率についてはCOP、APFを用いて簡易に算定することも可能
空調だけのエネルギー消費量が測定できない場合、空調以外の設
その他
備が消費エネルギーが負荷変動の少ないものである場合には、
簡易的な
その分を固定として空調設備のみの消費エネルギーを推計すること
算定手法
が可能である。
前提条件
005
間欠運転制御、インバーター制御又は台数制御によるポンプ・ファン
類可変能力制御機器の導入
ポンプ・ファン類の設備に、間欠運転制御、インバーター制御、
又は台数制御の装置を付加することで可変能力制御を導入すること
年間稼働時間、排気量等を把握すること
ベースラインとして消費エネルギーの実績値を用いること
実績値がない場合は定格出力と稼働時間の積を用いることを求め
ている。
ー
(出典) 国内クレジット制度ホームページを元に株式会社日本総合研究所作成
ベースラインの設定方法としては、既存設備のエネルギー消費量の実績値を用いるこ
とを基本としているが、CDM の AMS-Ⅱ.C と同じように出力と稼働時間から求める方法が
提案されているが、空調設備は負荷が変動するため適用は難しい。
また、方法論 004 では、空調単独のエネルギー消費量が不明である場合に、他の設備
のエネルギー消費量を一定として推計する方法が提案されている。マレーシアにおいて、
空調だけのエネルギー消費量を計測できる建物が尐ない場合には、削減事業として適用
範囲を拡大する方法としては有効であるが、空調設備以外の稼働状況を把握できない場
合には削減量の正確性が不明瞭であるため注意が必要である。
なお、国内クレジット制度においても、追加性の証明が求められているが、簡易な評
19
http://jcdm.jp/process/methodology.html
- 75 -
価方法が定められており、投資回収年数が 3 年以上であれば追加性があるとしている。
(ウ) ISO 基準の適用可能性検討
最後に、ISO 基準について調査を実施した。2006 年 3 月に温室効果ガス排出・削減量
の算定・報告・検証に関する国際規格 ISO14064 が発行さている。本規格は 3 つのパート、
「Part1:組織の排出量算定報告」
「
、Part2:プロジェクトの排出削減量算定報告」、
「Part3:
排出量検証」で構成されている。本調査では、Part2、Part3 について調査を行った。
Part1~3 の関係としては、GHG 削減を実施する場合には、part1,2 に記載された基準
にのっとって組織、事業の内容を検証機関に報告し、検証機関は part3 に記載された内
容に基づいて検証を行うというものである。
具体的な記載内容については、
排出削減量の算定報告、排出量の検証の場面において、
実施するべき要件にとどまり、既存の CDM 方法論を参照すれば十分であることが確認で
きた。具体的には次の要件が定められていた。
図表 4-1- 4
ISO14064-1,14064-2 の概要
ISO番号
名称
14064-2
プロジェクトの排出削減量算定報告
14064-3
排出量検証
一般的、倫理的な判断を行うこと
正確性、独立性を保った行動を行うこと
適正表示を行うこと
職業専門家としてのしかるべき注意を払うこと
プロジェクト関連者との利害抵触を避けること
原則
妥当性、完全性、一貫性、正確性、
透明性、のある説明を行うこと
一般的、保守的な算定・判断を行うこと
要求内容
GHG排出源・吸収源・貯蔵の特定すること
ベースラインシナリオを決定すること
ベースラインシナリオのGHG排出源・吸収源・貯蔵の特定すること
モニタリング対象となるGHG排出源・吸収源・貯蔵の特定すること
GHG排出量・吸収量の定量化すること
品質管理体制を構築すること
モニタリング手順を構築すること
プロジェクト計画書を作成・報告すること
プロジェクト計画書には、上記要求事項を反映した内容以外に
次の内容を記載すること
・名称、目的
・プロジェクト種類
・所在地、バウンダリー
・プロジェクト実施前の状況
・GHF削減・吸収がいかに達成されるか
・導入技術・対策
・GHG削減・吸収量に影響を与えるリスク
・プロジェクト関連者情報
・制度とプロジェクトとの関連性
・GHG削減・吸収量の定量化に必要な情報
・環境評価結果(法的に規定のある場合)
・スケジュール
有効化審査・検証を受けること(が望ましい)
検証の方法として次の項目を検証前に決定すること
・保証のレベル
・検証の目的
・検証の基準
・検証の重要性
検証の範囲として次の内容を盛り込むこと
・バウンダリー
・事業活動・技術・プロセス
・GHG排出源
・GHG排出源
・GHGの種類
・期間
次の内容についてリスク評価を行うこと
・検証業務の性格・規模、複雑性
・GHG情報の信頼性、完全性
・(必要な場合のみ)事業者の参加適切性
・記載誤りが発生すること、事業者および検証機関が
その誤りを見過ごすリスク
サンプリング計画を策定し、次の内容を盛り込むこと
・保証のレベル
・検証の範囲、基準
・証拠の量・種類
・代表サンプルを決定する方法
GHG算定システムについて次の内容を評価すること
サンプリング計画に基づいてGHGデータ・情報を評価すること
GHGデータ・情報のための証拠が十分であるか評価すること
(出典) ISO16064-1,ISO16064-2 を元に株式会社日本総合研究所作成
以上、既存の MRV 方法論の調査結果より、省エネルギー事業については CDM の小規模
方法論以外に具体的な方法論が提示されていないことから CDM 方法論に準拠した方法論
を提示する。さらに、省エネ小規模方法論の中では、最も登録数の多い AMS-Ⅱ.C の算
定方法が基本的には本事業でも適用可能であることから、本事業では、方法論 AMS-Ⅱ.C
- 76 -
に準拠した方法論を提示する。
4.1.4. ベースラインシナリオの決定方法の検討
GHG 削減方法論を作成するに当たって、ベースライン排出量を設定する必要があるが、
そのためには、ベースラインシナリオをどのように考えるか検討し、ベースライン排出
量が非合理的なものにならないようにしておく必要がある。
まず、ベースライン排出量に対して、次の前提に準拠する。
・ ベースラインエネルギー消費量は本事業によってニューロ PMV 制御が導入され
なかった場合に想定される GHG 排出量である
・ 方法論 AMS-Ⅱ.C のベースライン算定方法に準拠し、
「単位時間当たりのエネルギ
ー消費量・稼働時間の積」にて算定を行う
方法論 AMS-Ⅱ.C の算定方法には 2 つの方法が認められている。1 つは、
「機器数・出力・
稼働時間の積」であり、もう 1 つは、「単位当たりのエネルギー消費量とその原単位を決
定する指標との積」である。空調設備は定格運転ではないこともあるため、より正確な後
者の算定方法を採用する。空調設備に最も影響を与える指標として稼働時間を原単位の指
標とした。ベースライン排出量の精度を向上するためには、単位時間当たりのエネルギー
消費量を算出するにあたり、できるだけ長時間の実績値を用いることが望ましい。
次に、ベースラインシナリオの決定方法について検討した結果を示す。想定される複数
のベースラインシナリオそれぞれに対して、本対象事業における可能性の有無について検
討し、
生じる可能性のあるシナリオについて、方法論上でどのように扱うか検討を行った。
特に、先ほど設定した前提条件に基づき、ベースライン排出量に影響を与える「単位時間
当たりの消費エネルギー」に注目し、想定されるベースラインシナリオごとにどのように
変化していくのか検討を行った。
想定されるベースラインシナリオは次の 5 通りである。
(ア) 設備の更新・導入
①
空調設備の更新、導入による空調効率の変化
⇒実際に空調設備が更新された場合には、新たにベースラインを設定する。
②
断熱材・断熱ガラスなどの導入により、空調負荷が変化
⇒実際に断熱材など、空調負荷に影響のある設備が導入された場合には、新
たにベースラインを設定する。
(イ) 熱源の変化
①
建物の外気温、湿度、輻射温度の変化により空調負荷が変化
⇒本事業の対象範囲であるマレーシアでは気候が一定である地域であり本シ
ナリオは起きないと想定。
②
テナントの出入りなどにより空調を行う床面積が変化することによって、空
調負荷が変化
- 77 -
⇒床面積(または、空室率)の変化によって、事業実施後のエネルギー消費
量の一定割合にてベースラインエネルギー消費量も変化すると仮定する。
③
業態の変化により、使用機器の変更や人員の増減によって空調負荷が変化
⇒ビルの業態が変化した場合、業務用、商業用への転換の場合には新たにベ
ースラインを設定することで継続可能とする。ただし、それ以外の業態に変
化する場合には、本方法論の対象外として事業を終了する。
4.1.5. 本事業における追加性の検討
CDM 事業においては、GHG 削減事業における追加性を証明することが求められる。本調査
においても、実証事業、すなわち、マレーシアのビル空調設備へのニューロ PMV 制御技術
の導入についての追加性について検討を行った。その上で、二国間クレジット制度におけ
る追加性のあり方についても検討を行った結果を示す。
まず追加性の検討方法について説明し、その方法に沿って検討結果を記載する。
(ア) 検討方法
① CDM における小規模方法論向け追加性の説明ガイドラインに沿って分析
上述した小規模 CDM 方法論向け追加性の説明ガイドラインに定められた、
次の 4 つの障壁について確認を行った。ガイドラインでは 4 つの障壁のいず
れかが認められる場合には、追加性があると定めている。なお、本調査では、
下記の 4 つの障壁全てについて検討を行った。
1.
初期投資にかかる障壁
2.
技術的な障壁
3.
慣習的な障壁
4.
その他障壁
② 現地国有識者ヒアリングによる検証
上記の障壁について、現地の空調業界に関連する事業者、業界団体などに市
場の実態についてヒアリングを行い、障壁の内容を検証した。
(イ) 検討結果
①
有識者ヒアリング結果
マレーシアの業界団体・事業者・政府関連機関などにヒアリングを行った
結果の概要を上記障壁ごとに整理して下表に示す。
- 78 -
図表 4-1- 5
有識者ヒアリング結果概要
ヒアリング対象者
コメント概要
政府系機関 A
技術・慣習にかかる障壁に関する情報
・ PMV 導入事業の実例を聞いたことはない。
慣習にかかる障壁に関する情報
・ ビルオーナーは、メンテナンスにコストをかけるという意識
が弱い。
その他障壁に関する情報
・ 公的施設については、メンテナンスなど運用コストへの予算
が配分されておらず、運用にお金をかけられない状況である。
業界団体 B
初期投資にかかる障壁に関する情報
・ 投資回収年数が 3 年以内の投資でなければ、投資が実施され
ないことが多い。投資回収年数は長くても 5 年までではない
か。
技術・慣習にかかる障壁に関する情報
・ BMS が導入されているビルは多いが、エネルギー消費量をモ
ニタリングしている(見える化)しているビルは尐ない。
・ PMV という指標を聞いたことはあるが、実際に導入されたと
いう事例を聞いたことはない。
その他障壁に関する情報
・ 民間のビルでは、オーナーが定期的なメンテナンスを必要と
していない。ファシリティマネジメント業者にも空調設備が
壊れた時のみに、対応を要求することが多い。
政府系業界団体 C
技術・慣習にかかる障壁に関する情報
・ PMV 制御技術の導入事例については聞いたことがない。
慣習にかかる障壁に関する情報
・ 多くの BMS ではエネルギーの消費量を測定しているわけで
はない
マレーシアビルファ
技術・慣習にかかる障壁に関する情報
シリティマネジメン
・ PMV という言葉は聞いたことがあるが、PMV 制御技術が導
ト企業 D
入された事例について聞いたことはない。
慣習にかかる障壁に関する情報
・ D 社がマネジメントしているビルで、ビルマネジメントシス
テム(BMS)がついているものは尐なく、オーナーが必要性
を感じていないケースも多い。
- 79 -
・ ESCO 事業については電力料金が安く投資回収が長引くこと
から、ESCO 事業者への融資がつかず、普及は進んでいない。
・ マレーシアのビルにおいては、エネルギー消費データのモニ
タリング、分析、運用への反映が現状は行われていない。し
たがって、ビルオーナーは空調設備の運用中のコスト削減の
重要性にすら認識していない状況である。
マレーシアビルファ
初期投資にかかる障壁に関する情報
シリティマネジメン
・ 投資回収年数は 2~3 年が目安とされている。
ト企業 F
慣習・技術にかかる障壁に関する情報
・ 一般的に integrated BMS 用いており、制御指標は室内温度
や IAQ(室内空気質)などである。PMV 指標は用いていない。
・ PMV という指標は知っているが、マレーシアでは広く実用化
されているものではない。実際のプロジェクトについて聞い
たことは無い。
その他障壁に関する情報
・ 空調の温度センサーや運転モードの設定がずれている事例が
ある。ベンダーにとってはサービス外のことであり、また同
時に、ベンダーにはそのような調整を行う能力がないからで
ある。
・ 一般的に、設置時に空調運転に問題が無ければ、その後誰も
設備の調整を行う人はいない。省エネルギー事業のような何
か特別なプロジェクトが行われない限り、ファイチューニン
グは実施されない。
・ マレーシアではファイチューニングは無料サービスではな
い。ファシリティマネジメントのサービスはメンテナンスや
部品交換であり、ファインチューニングは別サービスになる。
②
追加性についての検討結果のまとめ
上記ヒアリング結果と、本対象事業の特徴を踏まえて、各障壁について検討し
た結果を次に示す。
(イ) 初期投資にかかる障壁の分析
・ 初期投資にかかる障壁はない。

ニューロ PMV 制御技術の導入において必要な費用は、センサーや
計測機器の導入費、インターネット接続の調整にとどまり、初期投
資が小さく抑えられるため、短期で投資回収が可能である。

さらに、当該技術の導入によって既存の空調設備のエネルギー費用
- 80 -
が削減される。初期費用については技術提供者が一時的に負担し、
顧客は削減されたエネルギー費用から初期投資費用を支払う運用
である。
(ロ) 技術的な障壁の分析
・ ニューロ PMV 制御技術だけでなく、PMV 制御技術はホスト国において
未だ普及していない技術である。本技術は、導入地域の気候などにも影
響を受け、導入実績のない地域における省エネ効果は不明であり、導入
にあたってリスクが伴う。

PMV 制御を行う場合、一般的には輻射熱センサーを設置すること
が必要であるが、そのセンサーは高額で、PMV 制御導入による省
エネルギー効果による投資回収年数は長期である。マレーシアのビ
ルでは短期間での投資回収年数を求められるため、導入の障壁は高
い。

PMV は ISO7730 にて規定された温熱指標である。この PMV
指標を適切に保つように空調を行うことにより、一般的な温度
と湿度だけの管理よりも空調負荷を減らしつつ、快適な空調を
実現する。 PMV 指標を左右するパラメーターの一つとして、
空間の平均輻射温度があり、その値を測定する必要がある。

一方、ニューロ PMV 制御技術は、輻射熱センサーが不要となる東
芝特有の技術であり、初期投資にかかる障壁はないが、マレーシア
においては導入実績がない。

輻射温度を建物の情報や天気・年間カレンダー情報等をインプ
ット情報としたシミュレーションによって推定する技術であ
り、上記の高額なセンサーが不要な特有の技術である。

ニューロ PMV 制御技術の導入実績は日本に集中している。
(ハ) 慣習的な障壁の分析
・ PMV 制御技術および、ニューロ PMV 制御技術のホスト国への導入実績
はなく、前例のない技術である。

大学研究機関における研究開発対象として、マレーシアでは認知さ
れているものの、実際にビルに製品が導入されたことはない。
・ ビルオーナーにとっては、新規不動産投資に比較して、運用面への関心
は低く、省エネルギー技術の導入への関心も低い。

BMS が導入されていても、消費エネルギーをモニタリングできる
日本の BEMS のような BMS は非常に尐ない。したがって、ビルオ
ーナーは省エネルギー技術を入れたとしても実感がわかない状況で
ある。
- 81 -

電力料金が安いことも省エネルギーへの関心が薄い一つの要因であ
る。
(ニ) その他障壁の分析
・ ニューロ PMV 制御による CO2 削減効果を大きくするためには、空調設
備自体の設定や温度・湿度センサーの配置や設定を適切化(以下、ファ
インチューニング)する必要がある。しかしホスト国にはそのような能
力がない。

マレーシアのビル空調市場では、そもそも定期的なメンテナンスが
行われておらず、エネルギー消費量を継続的にモニタリング・分析
するという取組みも一般的ではないようである。従って空調設備の
設定を適切に調整していくノウハウは蓄積されにくいと考えられる。

民間のビルでは、オーナーが定期的なメンテナンスを必要とし
ていない。一般的に、設置時に空調性能に問題が無ければ、そ
の後誰も調整を行う人はいない。省エネルギー事業のような何
か特別なプロジェクトが行われない限り、ファイチューニング
は実施されない。

ファシリティマネジメント業者にも空調設備が壊れた時の
みに、対応を要求することが多い。

ベンダーにとってはサービス外のことであり、また、ベン
ダーにはそのような調整を行う能力がない。

一方、公的施設については、メンテナンスなどの運用コストへ
の予算が配分されておらず、運用にお金をかけられない状況で
ある。
(ウ) 二国間クレジット制度における追加性のあり方について
CDM プロジェクトにて、登録再審査の最大の理由が追加性の証明の不備であ
ること等から追加性の証明は排出削減事業の登録において一つの大きな障壁と
なっている。追加性の緩和によって地球全体の GHG 排出量の増加などの問題に
も当然留意するべきであるが、現在小規模 CDM 方法論向けに示されているガイ
ドライン程度の追加性の証明方法の緩和が、二国間クレジット制度の普及には必
要であると考えられる。
また、別の方法として、COP/MOP においても提案・議論されている内容であ
るが、ポジティブリストを作成し、それに適合する事業については自動的に追加
性があるとして、追加性の「確認」のみを行うという方法がある。二国間クレジ
ット制度においては、日本の技術を用いた削減事業が多くなると予想されること
から、日本政府から国内メーカーなどに働きかけ、導入技術のポジティブリスト
を策定する方法が考えられる。この方法であれば、国内で多くの情報が完結する
- 82 -
ため、途上国への負担を減らしつつ、日本主導で早期にリスト登録を進めること
ができる。
4.1.6. ビル空調設備のエネルギー消費量算定方法について
空調設備の GHG 排出量の算定方法を決定する上で、実際にビル空調市場において行われ
ている消費エネルギーの測定方法を確認することがまず必要である。前節にて示したニュ
ーロ PMV が導入可能なビル空調システムに対して、どのようにエネルギー消費量を計測、
算定するのか確認を行った。参考までにビル空調システムの概念図を示す。
図表 4-1- 6 ビル空調システム概念図
*コントローラー
Tr
③室内温湿度センサ
Cv
温度センサ
AHU(空調機)
C
外気温湿度セン
サ
VAV
Supply air
FAN
VAV
②給気温度
センサ
Outdoor air
Ts
Room
VAV
C
Return air
ビルマネジメ
ントシステム
Return air
DDC
VAV
*可変風量ユニット
温度センサ
HVAC
①流量計
*空等向け積算電力計
ポンプ
kWH
Chiller
電力
会社
WHM
*積算電力計
air
water
照明
kWH
Chiller
(出典)
東芝作成
ビル空調設備のエネルギー消費量については、次の 3 つの方法が挙げられる。なお、具
体的な算定式、パラメーターについては削減方法論(案)にて提示する。
① 熱量計により冷媒(図中の water)の熱量を計測する方法
※熱量計の設置が困難な場合:流量計と温度計によって、冷媒の熱量を計測する
② 流量計と温度計によって、空調が送風する空気(図中の air)の熱量を計測する方法
③ 電力計によって空調設備(HVAC)とチラー(chiller)の電力消費量を計測する方法
既設のビル空調システムに対してエネルギー消費量の測定を行う場合には、既存の計測
- 83 -
機器の有無や、計測機器の導入に対する追加コストの高低や工期の長短などから、適当な
測定方法を選択している。例えば、本調査における Intermark ビル実証試験では、室内外
の温度センサーが既設され、AHU(空調機)のバルブ開度がモニタリングできる空調システ
ムであったため上記の②の方法によって空調のエネルギー消費量を計測した。また、
「3.7.1
対象ビルの選定」にて述べた本調査では対象外となったビル中には、チラーから流出する
冷水の出入口温度と冷水経路のバルブ開度がモニタリングできたため、①の測定方法が適
切であったビルもある(PLUS ビル)
。また、KFKF ビルなどでは、現状の空調システムでは
空調機の消費エネルギーを測定することが出来ないため、モニタリングを行うためには、
電力計を新たに設置し③の方法で測定することが最も早期かつ低コストにて実施可能な測
定方法である。
本事業における削減方法論案においても、個々のビル空調システムの状況によってエネ
ルギー消費量の測定方法が様々変化することを勘案し、上記 3 通りの測定方法が適用可能
であるとする。
4.1.7. CDM 方法論からの簡素化の検討
本調査では、既に簡易方法化されている CDM 方法論 AMSⅡ.C.に準拠しつつ、実用
面での使いやすさ、適用可能性を高めるために、簡易化できる部分について検討を行っ
た。
① 空調のエネルギー消費量に影響を与える指標について
・ 外気温度・湿度について
(ア) 年間を通して月間平均気温の差が 10%以内の地域の場合には、外気温度による
エネルギー消費量の影響が小さいと判断し、10 日程度の実測データから導出した
エネルギー原単位を年間通して用いてもよいとする。
・ 空室率が変化した場合のベースラインエネルギー消費量の算定方法ついて
(ア) 賃貸商業ビル・オフィスビルにおいては、テナントの入居・退居によって空調
を行う体積が大きく変動し、空調負荷に影響を与える可能性がある。厳密には空
調負荷が変化することによるエネルギー消費量の変化量は、プロジェクト実施前
後で一定ではないが、その際のベースラインエネルギー消費量の変動量について
は、プロジェクト実施後のエネルギー消費量の変化率に比例するとした。
4.1.8. GHG 削減量算定方法論(案)の提示
前節までの検討結果を踏まえた、GHG 削減量算定方法論(案)を次に示す。
- 84 -
二国間クレジット(マレーシア)空調省エネ事業方法論(案)
1.方法論名称
マレーシアにおける空調設備への PMV 制御技術導入プロジェクト
2.適用条件
本方法論は、以下の適用条件を全て満たす場合に適用することが出来る。
・本方法論は、既存の空調設備に PMV(Predicted Mean Vote:予測平均申告)制御システムを
付加し、省エネルギーを図る事業を対象とする。
・既存の空調設備の空調方式がセントラル方式、または、VAV 方式であるものを対象とする。
・本方法論は、プロジェクトバウンダリー内におけるエネルギー利用量を直接測定・記録できる
プロジェクトに適用可能である。
・本方法論はオフィスビル・商業施設用ビルにのみ適用できる。
【付記】
・ PMV 指標については、ISO7730 等にて定められた算定式を用いること。
なお、ISO7730 によると PMV とは、人体の熱収支に基づいた、-3(hot)~0(快
適)~+3(Cold)までの 7 つの熱的感覚的基準で、大多数の人が感じる数値を予
測する指標である。
・ セントラル方式建物の 1 ヶ所に設けられた装置から各室に冷水や温湯を送る方
式で行う冷暖房方式のこと。
・ VAV 方式(変風量方式)とは各室または各ゾーンの負荷の変動に応じて送風量
を調節することによって、室内環境を維持する方式。
3.バウンダリー
プロジェクトバウンダリーは空調システム及び空調サービスを受ける建物空間部分である。
4.ベースライン排出量
(1)ベースラインの考え方
・ベースラインエネルギー消費量はニューロ PMV 制御を導入せず、既存の空調システムを使用
し続けた場合に想定される二酸化炭素排出量である。
(2)ベースライン排出量の算定方法
BE y  EBL , y  EFCO 2, y
(式 1)
- 85 -
ベースラインエネルギー消費量 EBL, y は次の算定方法を用いる。
E BL, y  EERBL   PJ , y 
EERPJ ( PJ, y )
1
EERPJ ( sample) (1  l y )
記号

(式 2)
定義
単位
BEy
年間ベースライン排出量
tCO2e/年
EBL,y
年間ベースライン電力消費量
kWh/年
EFCO2,y
二酸化炭素排出係数
tCO2e/kWh
EERBL
年間ベースラインエネルギー原単位
kWh/h
αPJ,y
プロジェクト実施後の空調設備の年間稼働時間
h/年(稼働時間)
βsample
一定期間における空室率
%
プロジェクト実施後の年間平均稼働率
%
空室率βのときのプロジェクトエネルギー原単
kWh/h
βPJ,y
EERPJ(β)
位
ly
%
年間系統ロス
・プロジェクト実施後に空調設備を更新した場合、プロジェクト活動を継続して行うためには、
更新後の空調設備についても上記と同じ方法でベースライン排出量を再設定する必要がある。
・空調負荷に大きな影響を与える空室率(床面積、体積)の影響を考慮する算定式としている。
ベースラインエネルギー消費量は、
「プロジェクトエネルギー原単位」が空室率に応じて変化した
割合を用いて、
「ベースラインエネルギー原単位」も同じ変化率で変化するとしている。
(3)年間ベースラインエネルギー原単位(EERBL)の算定方法
・本方法論では、EERBL の算定方法としてエネルギー消費量に影響を与える空調設備の稼働時間を
原単位として用いる。さらに、空調の負荷に影響を与える外気温度を考慮することで算定精度を
向上する。以下の(式 3)-(式 6)のいずれか、もしくは複数の算定方法を組み合わせることよって
平均温度毎の EERBL を算定する。
・なお、サイト国政府機関等が公表している地域ごとの月平均温度を確認し、年間を通して月間
平均気温の差が 10%以内の地域の場合には、10 日程度の実測データから導出したエネルギー原単
位を年間通して用いてもよいとする。
①事業実施前の冷媒熱量を用いる算定方法
- 86 -
EER BL Tenv   (Tr ,1  Tr , 2 )  Fr Tenv   C r 
1
 BL
αsample Tenv 
(式 3)
Fr については、冷媒流路のバルブ特性を用いた以下の算出式を用いることも可能である。
Fr Tenv  
Cv P
0.7
記号
(式 4)
定義
単位
Tenv
プロジェクト活動サイトの外気温度
K
Tr,1
ファンコイルユニット流入前冷媒温度
K
Tr,2
ファンコイルユニット流入後冷媒温度
K
Fr
ファンコイルユニット流入流量
m3
Cr
冷媒の比熱
J/(m3・K)
プロジェクト活動実施前の空調設備のエネルギ
%
εBL
ー消費効率
一定期間における設備稼働時間
h
Cv
バルブ特性
m3/(atm,Pa)1/2
ΔP
バルブ前後の圧力差
atm,Pa 等
αsample
②事業実施前の給気熱量を用いる算定方法
EERBL Tenv   (Ta ,1  Ta , 2 )  Fa Tenv   C a 
記号
1
 BL
αsample Tenv 
(式 5)
定義
単位
Ta,1
室内温度
K
Ta,2
空調設備によって冷却された空気の温度
K
Fa
空調設備によって冷却された空気量
m3
Ca
空気の比熱
J/(m3・K)
プロジェクト活動実施前の空調設備のエネルギ
%
εBL
ー消費効率
αsample
一定期間における設備稼働時間
h
③事業実施前の設備のエネルギー消費量を用いる算定方法
EERBL Tenv   Esample Tenv  αsample Tenv 
記号
(式 6)
定義
単位
αsample
一定期間における設備稼働時間
h
Esample
空調設備におけるエネルギー消費量
kWh 等
- 87 -
5.プロジェクト活動における排出量
・プロジェクト活動における排出量は、事業開始後実測により決定する。ベースラインエネルギ
ー消費原単位と同じ方法でプロジェクト実施後エネルギー消費原単位を算出し、プロジェクト実
施後排出量を算定する
PE y  EPJ , y / 1  l y  EFCO 2, y
(式 7)
EPJ , y  EERPL  PL , y   PJ , y
(式 8)
記号
定義
単位
PEy
年間プロジェクト排出量
tCO2e/年
EPJ,y
年間プロジェクトエネルギー消費量
kWh/年等
年間系統ロス
%
二酸化炭素排出係数
tCO2e/kWh
αPJ,y
プロジェクト実施後の空調設備の年間稼働時間
h/年(稼働時間)
βPJ,y
プロジェクト実施後の年間平均稼働率
%
空室率βのときのプロジェクトエネルギー原単
kWh/h
ly
EFCO2,y
EERPJ(β)
位
6.リーケージ排出量
本方法論に適用可能な事業においてリーケージ排出量は想定されない。
7.排出削減量
ERy  BE y  PE y 
記号
定義
単位
ERy
年間排出削減量
tCO2e/年
BEy
年間ベースライン排出量
tCO2e/年
PEy
年間プロジェクト排出量
tCO2e/年
8.モニタリング方法
ベースライン排出量とプロジェクト活動における排出量を算定するために必要となる、モニタリ
ング項目及びモニタリング方法例を下表に示す。
モニタリング項目
EFCO2,y
モニタリング方法例
二酸化炭素排出係数
(電力の排出係数について)
- 88 -
・ホスト国の公的事業や政府機関
によって発行された数値
・
「各国における発電部門 CO2 排出
原 単 位 の推 計 調査 報 告書 ( JEMA
JEMA)
」における数値
Tr,1
ファンコイルユニット流入前冷媒温度
・温度計による計測
Tr,2
ファンコイルユニット流入後冷媒温度
・温度計による計測
Fr
ファンコイルユニット流入流量
・流量計による計測
Cr
冷媒の比熱
・カタログ値を使用
プロジェクト活動実施前の空調設備のエ
・カタログ値を使用
εBL
ネルギー消費効率
Cv
バルブ特性
・カタログ値を使用
ΔP
バルブ前後の圧力差
・圧力計による計測
αsample
実測試験における設備稼働時間
・設備稼働時間をログにて計測
αPJ,y
プロジェクト実施後の年間活動量
・設備稼働時間をログにて計測
Ta,1
室内温度
・温度計による計測
Ta,2
給気温度
・温度計による計測
Fa
冷却された空気量
・流量計による計測
Ca
空気の比熱
・カタログ値を使用
空調設備におけるエネルギー消費量
・電力計による計測等
年間系統ロス
・ホスト国の公的事業や政府機関に
Esample
ly
よって発行された数値
・10%(デフォルト値)
EPJ,y
年間プロジェクト電力消費量
・電力計による計測
・流量計・温度計による計測
Tenv
プロジェクト活動サイトの外気温度
・温度計による計測
4.1.9. 本事業の MRV 方法論に関する今後の課題
ニューロ PMV 制御技術を導入した事業について、MRV 方法論の課題を次に示す。
・ 実測データ量の妥当性
実証事業ならびに、本方法論案では、10 日間のエネルギー消費量の測定データ結果
を用いて、ベースラインエネルギー消費量を設定した。CDM では過去の実測データを用
いる場合には 3 年以上のデータが必要とされている。しかし、空調機器単独のエネル
ギー消費量を測定していないビルの場合にはニューロ PMV を導入するまでに長期間デ
- 89 -
ータを測定することになり実現可能性は低い。上述したようにマレーシアでは、空調
負荷に大きな影響を与える気温について年間を通して変化が尐ないため、短期間のデ
ータ測定によってベースラインを設定することが妥当であるとしているが、現地の研
究機関などの協力も得ながら、更なる検証を行うことが必要である。
・ 空調に大きな影響のない年間温度(湿度)の変化量
本調査では、
実証サイトのクアラルンプールの気候では、年間の温度変化は小さく、
上述したように短期間のデータ測定でも年間のエネルギー消費量を代表するとしたが、
本方法論の他地域への展開を考えた場合には、どの程度の温度変化までは簡易なベー
スライン設定が適用可能であるのか、今後検証が必要である。
4.2. 本方法論による削減見込み量の簡易試算
4.2.1. 試算の考え方
本調査で対象としているマレーシアのビル空調設備については、建物の規模や設備導入
時期によって、空調効率が個々に様々であることが想定される。しかし、途上国であるマ
レーシアにて空調方式やビルの年代・規模ごとのエネルギー消費量やエネルギー消費原単
位の統計数値を入手することは困難であるため、本実証実験におけるエネルギー消費量、
エネルギー消費原単位、また、ニューロ PMV 制御技術導入による GHG 削減効果が、他のマ
レーシアのビルにおいても同様であるとして、GHG 削減見込み量を簡易に試算する。
なお、上述したように「技術的障壁」として、ニューロ PMV 制御技術がマレーシアにお
いて導入実績が無いため、ビルによっては、実証試験と同じようなパフォーマンスが出な
いケースもあるが、本試算では一律の効果が出るとしている。
4.2.2. 試算方法
試算方法としては、次の通りである。
・ 前節にて記載した算定方法論に沿って実証試験結果から GHG 削減量および削減率を算
定
・ 「2.6 ビル空調市場の市場規模試算」にて算定したニューロ PMV 適用可能なビルの空
調設備のエネルギー消費量に、実証試験結果から算定した GHG 削減率を乗じる。
4.2.3. 本実証実験に適用した場合の削減量算定結果
GHG 排出削減量算定方法論(案)に、実証試験にて取得した測定データを適用して算
定を行った。
① ベースラインエネルギー消費量
本調査の実証試験では、空調設備の給気熱量を測定した。本調査では 10 分ごとの平均温
度、
流量等をモニタリングした。
その結果算定されたエネルギー消費量を下表に再掲する。
- 90 -
図表 4-2- 7 空調エネルギー量測定結果(再掲)
データ採取日
既存システムデータ
ニューロPMV制御開始後
データ
エネルギー積算量(kWh/日)
2011/3/10
178.82
2011/3/11
192.63
2011/3/21
15.56
2011/3/22
15.48
2011/3/23
14.91
2011/3/24
20.01
2011/3/25
31.98
日平均(kWh)
185.73
19.59
以下の試算では、上表の日平均エネルギー量を用いて行う。方法論よりベースラインエ
ネルギー消費量は次の式で表される。プロジェクト実施後も対象サイトの空室率は一定と
仮定する。ベースラインエネルギー原単位も合わせて示す。
E BL, y  EERBL   PJ , y 
EERPJ ( PJ, y )
1
EERPJ ( sample) (1  l y )
記号

定義
単位
一定期間における設備稼働時間
h//日
EERBL
年間ベースラインエネルギー原単位
kWh/h
αPJ,y
プロジェクト実施後の空調設備の年間稼働時間
h/年(稼働
αsample,BL
時間)
EERPJ(β
PJ,y)
EERPJ(β
sample)
ly
EBL,y
空室率β PJ,y のときのプロジェクトエネルギー原 kWh/h
単位
空室率βsample のときのプロジェクトエネルギー原 kWh/h
単位
年間系統ロス
%
年間ベースライン電力消費量
kWh/年
数値
13
14.3
3,12020
1.5
1.5
6.4%21
47,667
プロジェクト実施後の年間稼働時間は実証サイトの一日あたりの設備稼働時間 13 時間
に対して、年間 240 日間営業日数があるとして算定した。
21 (出展)
「各国における発電部門 CO2 排出原単位の推計調査報告書 ver.3(JEMA)」より
マレーシアにおける発電端・受電端排出係数より算出。
20
- 91 -
② ベースライン排出量
方法論よりベースライン排出量は次の式で表される。
BE y  EBL , y  EFCO 2, y
記号
定義
BEy
年間ベースライン排出量
tCO2e/年
EBL,y
年間ベースライン電力消費量
kWh/年
二酸化炭素排出係数
tCO2e/kWh
EFCO2,y
単位
数値
26.2
47,667
0.0005522
③ プロジェクト活動における排出量
方法論よりプロジェクト活動における排出量は次の式で表される。
E PJ , y  EERPL  PL , y    PJ , y 
1
(1  l y )
PE y  E PJ , y  EFCO 2, y
記号
αPJ,y
EPJ,y
EFCO2,y
PEy
定義
単位
プロジェクト実施後の空調設備の年間稼働 h/ 年 ( 稼 働
時間
時間)
年間プロジェクトエネルギー消費量
kWh/年等
二酸化炭素排出係数
tCO2e/kWh
年間プロジェクト排出量
tCO2e/年
数値
3,120
4,702
0.00055
2.6
④ リーケージ排出量
本事業においてリーケージ排出量は想定されない。
⑤ 排出削減量および排出削減率
ERy  BEy  PEy 
ERRy 
PE y
BE y
(出展)
「各国における発電部門 CO2 排出原単位の推計調査報告書 ver.3(JEMA)」より
マレーシアにおける発電端総合排出係数を採用。
22
- 92 -
記号
定義
単位
数値
ERy
年間排出削減量
tCO2e/年
23.6
BEy
年間ベースライン排出量
tCO2e/年
26.2
PEy
年間プロジェクト排出量
tCO2e/年
2.6
GHG 排出量削減率
%
90%
ERRy
4.2.4. マレーシア市場全体に適用した場合の削減算定量算定結果
まず、ニューロ PMV 適用可能なビルの空調設備のエネルギー消費量について「2.6 ビ
ル空調市場の市場規模試算」の考え方に基づき算定する。
エネルギー消費量試算の考え方:
市場規模=(総発電電力量×業務部門の割合×業務部門の電力消費に占める空調の割合
×(マレーシアにおける BMS の導入率)
×(ニューロ PMV 制御技術の導入要件となる BACnetIP の導入率)
83,411[GWh/年] × 33.91% × 57% × 90% × 30%~50%
=4,353[GWh/年] ~ 7,255[GWh/年]
排出削減量は実証試験の削減率 90%を用いて次の式により算定する。
ERall  Eall  ERRy  EFCO 2, y
4,353[GWh/年]~ 7,255[GWh/年] × 90% × 0.000555
[tCO2e/kWh]
=3,918[GWh/年]~ 6,530[GWh/年] × 0.000555[tCO2e/kWh]
=3.6[MtCO2e/年]~ 2.2[MtCO2e/年]
4.3. 本方法論に基づくプロジェクトによる経済効果の簡易試算
4.3.1. 試算の考え方
ニューロ PMV 制御技術を用いた空調サービスのコスト及び収益を用いて、サービスを
提供するメーカー及び、現地施工業者、ビルオーナーが得る直接的な経済効果について簡
易的な試算を行う。前節の GHG 削減量算定と同様に、本実証実験におけるコストや省エ
ネ効果について、他のマレーシアのビルにおいても同様であるとして、簡易に試算する。
4.3.2. 試算方法
前節で導出したマレーシアビルにおける総エネルギー消費量に、マレーシアにおける電
- 93 -
力単価を乗じて、エネルギー削減コストを算定する。
「3.9.3 実証試験におけるコスト削減
量」にて行った試算の仮定を元に算定する。
削減コストのうち初年度は 50%がビルオーナーに、残りの 50%が事業者に配分されるとす
る。2 年目以降はぼりオーナーが 80%、残りの 20%が事業者に配分され、10 年間事業者への
配分が続くとして試算した。
4.3.3. 試算結果
「3.9.3 実証試験におけるコスト削減量」において、電気料金単価は 7.8 円/kWh と仮定し
ている。マレーシア全体では、年間4,353 GWh ~ 7,255 GWh の削減量であるた
め、マレーシア業務ビル全体での削減量は次のようになる。
3,918[GWh/年]~ 6,530[GWh/年]× 7.8[百万円/GWh]
=30,558[百万円/年]~ 50,930[百万円/年]
従って、事業者には契約期間の 10 年分での総売上げは次のようになる。
30,558[百万円/年]~ 50,930[百万円/年]
× (50% × 1[年]+ 20% × 9[年])
=70,284[百万円] ~
117,140[百万円]
- 94 -
5.当該技術・製品の普及に向けたプロジェクトプランとその事業評価性
5.1.
ニューロ PMV を用いたビジネスモデル
5.1.1. ビジネスモデルの概要
本事業は、ニューロ PMV を用いた商業ビルの省エネ事業である。商業ビルに適用す
るためにはビルオーナーもしくは FM/BM 企業などの客先にとっての省エネに伴うコ
スト削減効果を明らかにした上での導入が前提となる。このため既存の商業ビルに対
してニューロ PMV の導入によるコスト削減効果を客先とシェアし、新たな設備導入を
行うことになる。
マレーシアは、ASEAN 諸国のなかでも電力契約単価が安価であるため、省エネによ
るコストダウン効果が薄く省エネ技術の導入インセンティブは低い。しかしながら、
本事業のように新たな設備投資を伴うことなく、低廉な初期投資により省エネ効果を
得ることが期待できる技術は、マレーシアであっても導入される可能性が高い。
5.1.2. 投資回収メカニズム
本事業は、前述のとおり新たな設備投資を伴わないため、投資回収という概念は存
在しない。一方で、ニューロ PMV 技術を導入するためには以下のような対応が必要で
あることがわかった。
・ BMS/ニューロ PMV 接続のための技術的な対話
・ Bacnet 対応のためのシステム的な改良
・ ファインチューニングのためのエンジニアリング、など
マレーシアは日本で導入されるような高度なビルマネジメントシステムが導入さ
れておらず、上記の現場での調整作業が必要となると考えられる。ただ、マレーシア
の特性を把握した上で業務効率化を図ることでかなりスムーズな導入が期待される。
このため本事業のような実証試験を通じて得られたものを体系化させることで、事
業開始にかかる投資(諸経費)は最小化でき、省エネ効果が実質の省エネ・省コスト
効果が発揮されることになる。
5.2.
ファイナンスオプション
前述のとおり、既存の商業ビルにニューロ PMV を導入する場合は、設備投資を伴わ
ないため、ファイナンスニーズは殆ど存在しない。他方で、新規の商業施設建設など
でニューロ PMV を導入する場合、マレーシア国内の省エネ基準を満たすことになるた
め様々なファイナンスオプションを活用することができる。
- 95 -
5.2.1. 政府系資金
政府系資金は、主に Green Technology Finance Scheme や税制面の支援が存在する。
マレーシア国内には Green Building Index(GBI)が存在し、そのポジティブリストに
採用されることがこれら政府系資金を活用するためには重要や役割を担っている。
図表 5-2- 1
ファイナンス及び税制面での省エネルギー化支援策
支援メニュー
概要
Green Technology
Finance Scheme(低
・ 省エネルギー等の環境技術を対象とした総額 15 億リンギ
ットのソフトローン
・ 融資は金融機関が行い、融資額の約 60%が政府保証の対象
利融資)
となる。利率は 2%
税制面の支援
・ 省エネルギー製品、サービスを提供する事業者に対して法
定所得税、投資税、売上税、関税の免税
・ 省エネルギー、製品の導入事業者に対する投資税、関税、
売上税の免税
・ Green Building Index を取得した事業者に対する税控除な
ど
(出典:公開資料をもとに日本総研作成)
5.2.2. クレジットの追加
日本及びマレーシア間での二国間クレジットスキームが適用できる場合、本事業に
おいて生み出されるクレジットはビルオーナーもしくは FM/BM 企業などの客先にとっ
て、ニューロ PMV を導入するためのインセンティブになりうる。
5.3.
事業立ち上げ計画
5.3.1. マレーシアでの普及シナリオ
ニューロ PMV は、電力単価が比較的、安価なマレーシアにおいて導入され易い省エネ技
術であると言える。一方で、ビルオーナーや FM/BM 企業の多くは、省エネ技術を導入する
意識は低いのも事実である。このような現状においても、これら客先に対する普及啓発活
動が必要である。例えば、以下のような普及啓発活動が想定される。

日本・マレーシア間での政府対話

二国間クレジットメカニズムの導入

マレーシア国内での省エネ基準(GBI)などへのスペックイン

マレーシアの官庁・公共施設などでのニューロ PMV 技術の導入
- 96 -

マレーシア国内の有力な FM/BM 企業との連携、共同事業の立ち上げ

民間レベルの技術交流会、セミナーの開催、など
現時点では、上述の第一項及び第二項には時間を要するため、第三項以下の施策を打つ
ことが有効であると考えられる。
5.3.2. 中期、長期の見通し
ニューロ PMV をマレーシア国内で普及させるためには段階的に普及啓発策を講ずること
が有効である。例えば以下のようなステップにて、マレーシア国内での展開を想定する。
ステップ1:マレーシアの官庁・公共施設(例えば、プトラジャヤなど)での実証を通
じた実証成果の定量化。
(その際、マレーシア国内の有力な FM/BM 企業と
の共同での事業を立ち上げる。
)
ステップ2:マレーシア国内での民間レベルでの技術交流やセミナーの実施。
(特に、ス
テップ1にて導入した官庁などと連携した普及啓発の実施など。
)
ステップ3:Green Building Index のポジティブリストへのニューロ PMV の採用の働き
かけ(この働きかけにおいては、日本政府の協力があると望ましい。
)
ステップ4:クアラルンプールなどの商業レベルでの導入(この段階において、二国間
クレジットメカニズムの採用ができることが望ましい。
)
ステップ5:マレーシア全土への普及
上記のようなステップを踏みつつ、2020 年度においてマレーシア国内の商業施設向けの
省エネ事業の 5%程度の事業の立ち上げ(売上ベースにて 35~65 億円程度)を目指す。
図表 5-4- 1
中期、長期の事業立ち上げ(イメージ)
売上高
デファクト化段階
市場占有率
普及段階
政府間の二国間クレジット制度
実証試験など
10%
現在
2015年
2020年
- 97 -
6.まとめ
本事業では、マレーシアにおいて、業務用ビル空調の省エネルギーを実現するために日
本企業の優れた空調制御技術を普及させた場合の温室効果ガス排出削減ポテンシャルおよ
び具体的な技術の普及・展開方法について調査・分析した。
マレーシアは熱帯性気候に属し、国土のほぼ全域が年間を通じて気温 25℃~32℃と一定
にある。したがって、オフィス・店舗では年間を通じて冷房空調を行っており、空調制御
技術にとって大きな市場があると想定され、その市場規模最大では約 90 億円程度と算定さ
れた。
マレーシアは中国・インド・ブラジルに次ぐ CDM プロジェクト登録数をほこる国であり、
気候変動問題に積極的に関わってきた一方で、パームを中心としたクレジット創出しか出
ていないという現状もあった。また、本事業で採用する省エネ分野に関しは取組が遅れて
いることが分かった。その主な理由として以下のような点があげられた。
・ 自国でのエネルギー自給率が高いこと(により省エネ意識が相対的に低い)
・ ASAAN 他国と比較しても電力代が安価であること
・ ビルマネジメントシステムなどへの認知度が低いこと
・ マレーシア企業の省エネ関連の技術レベルが低いこと、など
商業ビルの省エネ技術に対する CDM プロジェクトは、追加投資を伴わないため、場合案
件化させることが尐なかった。このため、本事業では、主にビル空調設備を対象とし、ニ
ューロ PMV 制御技術によって需要側の省エネルギーを達成するものであることを考慮し、
省エネ系小規模方法論 AMS-Ⅱ.C 「Demand-side energy efficiency activities for
specific technologies」
(需要側での特定技術を用いたエネルギー効率化活動)
(以下、
「方
法論 AMS-Ⅱ.C」とする。
)
、および、省エネ系小規模方法論 AMS-Ⅱ.E「Energy efficiency and
fuel switching measures for buildings」
(建物の高効率化および、燃料転換)(以下、
「方
法論 AMS-Ⅱ.E」とする。
)を参考として方法論を検討した。
前述のとおり、ニューロ PMV 制御は設備投資を伴わないため経済的なバリアは存在しな
い。このため、技術バリアや慣習バリアをマレーシア国内の業界団体などへのヒアリング
を通じて確認した。殆どの業界団体にてニューロ PMV 技術に対しては高い評価を行うとと
もに技術バリアや慣習バリアの存在を認めた。また、CDM や二国間クレジットに対しても
高い関心を示していることがわかった。
ニューロ PMV を活用してクアラルンプールの Double Tree Hotel(ヒルトン系)にてニ
ューロ PMV 制御を導入した実証試験を実施した。ニューロ PMV 制御では既にシンガポール
で 20%程度の省エネ効果が見られたが、本件ではそれを超す 90%程度の導入効果を得るこ
とになった。それはファインチューニングによる削減効果が得られたことや、省エネ意識
- 98 -
の違いであると考察した。このためマレーシアでは戦略的にアプローチすることで高い市
場占有率が得られるといった期待が持たれる。
ニューロ PMV 制御では設備投資を伴わないため、電力単価が比較的、安価なマレーシア
でも導入し易い省エネ技術であると言える。一方で、ビルオーナーや FM/BM 企業の多くは、
省エネ技術を導入する意識は低いのも事実である。このような現状においても、これら客
先に対する普及啓発活動が必要である。このために、幾つかのステップでの事業化を目指
す必要がある。例えば、マレーシアの官庁・公共施設での実証成果の定量化、マレーシア
国内での民間レベルでの技術交流やセミナー、省エネ基準へのスペック・インなどを行っ
たのちの商業化する必要がある。このような動きにより、2020 年度においてマレーシア国
内の商業施設向けの省エネ事業の 5%程度の事業の立ち上げ(売上ベースにて 35~65 億円
程度)を目指す。
以上
- 99 -
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