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自然環境調和型沿岸構造物における 藻場造成効果の

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自然環境調和型沿岸構造物における 藻場造成効果の
自然環境調和型沿岸構造物における
藻場造成効果の持続性の検討
VERIFICATION OF PERSISTENCY IN EFFECT OF SEAWEED BED
CREATION IN NATURAL HARMONY TYPE COASTAL STRUCTURE
仁1・渡辺光弘1・山本
佐藤
潤1・黄金崎清人2・清水恵理子3・鳴海日出人3
Jin SATO, Mitsuhiro WATANABE, Jun YAMAMOTO, Kiyoto KOGANEZAKI,
Eriko SHIMIZU and Hideto NARUMI
1正会員
独立行政法人寒地土木研究所水産土木チーム(〒062-8602 札幌市豊平区平岸1条3丁目)
2日本データーサービス株式会社水工部(〒065-0016 札幌市東区北16条東19丁目1-14)
3正会員 海洋環境デザイン株式会社(〒063-0866 札幌市西区八軒6条東5丁目2-6-301)
Barren ground to which the seaweed beds disappear is widely distributed in the sea area. It is known that the
seaweed beds are important as fishes’ spawning ground and living places, the measure was required. The coastal
structures to make the algae place have been constructed for about ten years. However, it is feared that the decrease in
the effect of algae place creation by the aged deterioration of the substrate and water temperature elevation in recent
years. It is required to devise the measures against disappearance of the seaweed colony. For that, it is necessary to
verify the sustainability of the effect of seaweed creation before about ten years. Field investigation concerning
distribution of seaweed beds and physical environment were performed in fishing port of Hokkaido. In this study,
the results of the field investigation are introduced. It is found that one of the causes is feeding pressure to seaweed
by sea urchin. It is strongly dependent on water temperature in winter. To control the feeding pressure in the situation
of the elevated water temperature, it is necessary to improve flow velocity on the rear step of breakwater more.
Key Words: Seaweed bed, barren ground, breakwater rear step, feeding pressure of sea urchin,
water temperature elevation
寿都漁港第2北外防波堤
11.7
+6.3
40t異形ブロック
21.5
H.W.L +0.4m
L.W.L ±0.0m
4.9
1:
1.5
1:
5.1
藻場が大規模に消失するいわゆる磯焼け状態が全
国で発生し問題視されている.藻場は海洋生物の産卵
場,摂餌場あるいはそれ自体が基礎生産者としての
役割を持つなど,様々な機能が複合的に作用してお
り,良好な海域環境を創造するための基盤となるも
のである1).磯焼け対策として,北海道内では10年以
上前から防波堤や護岸等への藻場造成機能を付加し
た自然環境調和型沿岸構造物が整備されてきた.ま
た,これら構造物の初期段階での海藻着生効果につ
いては明田ら2)の報告がある.しかしながら,基質
の経年劣化や近年の水温上昇等により藻場造成効
果の低下が懸念されている中で,長期的な調査事
例は少ない.著者ら3)は,整備後10年以上経過した
構造物を対象にモニタリングを行い,こうした問
題点を指摘した.
そこで,北海道日本海側に位置する寿都漁港に整
備された自然環境調和型沿岸構造物である背後小段
付傾斜堤(1995~1997年整備)を対象として,整備後か
らの潜水による海藻繁茂状況(海藻被度・現存量等)の
調査と衛星画像や航空写真を用いた画像解析による藻
場分布域の算定を行った.背後小段付傾斜堤は,図-1
に示すように通常の消波ブロック傾斜堤の港内側捨
石部を嵩上げして水深を浅くし着生した藻類の光合
成の促進及び流動環境の向上による植食動物の侵入
防止を目的とした構造形式である.
本研究は,自然環境調和型沿岸構造物の機能保全
対策に資することを目的に,過去に整備された施設の
藻場造成効果の持続性を現地調査等により把握し,
-3.1
-5.0
1:
4.9
背後盛土部
1.5
23.1
5.1
1.はじめに
1:
1.5
4.3
1.5
2t異形ブロック
8t被覆ブロック
-3.2~-3.9
15.8
中割石(30~300㎏/個)
図-1 背後小段付傾斜堤構造図
1:
2
海藻の生育環境因子である水温と流動の面から背後小
段の藻場機能の評価を行い,機能低下の原因解明及
びその対策について検討したものである.
は,ホソメコンブの幼芽時期である2月についても
調査を実施している.この調査結果を用いて,施設
完成から十数年経過した背後小段構造物の藻場造成
機能について検討する.
2.調査方法
(2)航空写真・衛星画像による藻場分布域の算定
a)画像解析による藻場分布域の把握
一般的な潜水調査による藻類の現存量の把握は,
その調査費用が膨大となることから,継続的かつ広
域的に実施することは困難である.寿都漁港におい
ても,実際には背後小段上と天然藻場の一部でしか
調査を行っておらず,長期的かつ広域的な藻場の把
握には限界があった.今回,藻場の広域的な把握を
目的として,航空写真画像と衛星画像を解析して藻
場分布域の算定を試みた.
(1)海藻繁茂状況
調査対象とした寿都漁港の平面図を図-2に示す.
背後小段付傾斜堤として整備した第2北外防波堤
(100m)は,寿都地先約500m沖の水深約10m付近に
位置する.周辺は岩礁帯であり,この地帯の水産有
用 種 で あ る ホ ソ メ コ ン ブ (Laminaria religiosa
Miyabe)を始めとする大型藻類の分布域である.し
かしながら,近年は天然藻場においてもコンブ類な
どの大型藻類が繁茂しない状況が続いている.
b)航空写真画像解析
航空写真撮影は,2009年6月の潜水調査と並行し
て行い,双方のデータを基に画像解析を実施した.
藻場形成領域を推定する区域は,図-3に示すとおり,
区域1:自然環境調和型防波堤(背後小段付傾斜
堤),区域2:天然岩礁帯,区域3:既存防波堤消
波工部の3区域とした.なお,撮影は2009年7月3日
に実施した.
沖(St.1)
2北
第
外
背後小段付傾斜堤
(L=100m)
堤
波
防
第2北外(St.2)
北外防波堤
堤
防波
北副
波堤
南防
北防波堤
区域1
西防波堤
区域3
00
100
200m
100
200m
区域2
図-2 寿都漁港
この背後小段における海藻繁茂に関する現地調査
(海藻現存量把握)は,表-1に示すとおり施設完成
後から現在(13年経過)まで夏季の海藻繁茂期を中
心に計8回実施されてきた.なお,2009年と2010年
表‐1
海藻現存量の調査年
経過年
西 暦
調査月
0
1997年
施設完成
1
1998年
7月
2
1999年
7月
3
2000年
8月
10
2007年
7月
11
2008年
6月
12
2009年
2月,6月
13
2010年
2月
図‐3
航空写真撮影区域(寿都漁港)
航空写真の撮影には,産業用ラジオコントロール
ヘリコプター(以下,ラジコンヘリ)を用いた.撮
影は消波ブロック,汀線際の岩礁・転石帯の海藻群
落についても撮影している.なお,撮影位置は画像
を地上のモニターで確認しながら行い,3次元GPS
(XYZ)によってラジコンヘリの位置確認を行った.
撮影に用いた機材の緒元を表-2に示す.
ラジコンヘリによって撮影した航空写真と潜水調
査結果を比較して,藻場の形成領域を抽出して解析
を行った.解析方法は画像汎用ソフトであるフォト
ショップVer7.0を用い,藻場の形成領域について色
調による海藻の種類分けおよび海藻の被度を算出し
藻場分布域等を推定した.画像解析のフローを図-4
に示す.
表‐2
表‐3
画像の種類
ラジコンヘリ諸元
産業用ラジコンヘリ YAMAHA R-MAX
【性 能】
・積 載 量
30kg
・飛行時間
60分
・高度限界
350m
・制御範囲
150m(目視範囲)
【機 体】
・メインロータ径
3,115mm
・テールロータ径
545mm
・運用自重
58kg
・全 長
3,630mm(ロータを含む)
・全 副
720mm
・全 高
1,080mm
【エンジン】
・型 式
水冷 2サイクル 水平対向
・排 気 量
246cc
・出 力
21PS
・始動方式
セルモータ
・燃 料
ガソリン・オイル混合
【写 真】
衛星画像一覧
Quick Bird
画像全体
対象区域
2007/04/25
16
0
2009/03/09
21
0
表‐4
衛星名
雲量の割合(%)
撮影日
Quick Bird概要
観測センサ
軌道要素
センサ
波長域(μm) 空間分解能(m)
観測幅(km)
0.45~0.52
軌道高度:450km
QuickBird-2 (2001) 傾斜角:約66°
回帰日数:1~4days
Multispectral
0.52~0.60
2.44
0.63~0.69
16.5
0.76~0.90
Panchromatic
0.45~0.90
0.61
3.結果と考察
画像前処理(Photoshop)
対象区域の切り出し
GIS上での画像の歪み補正
陸上部の色の消去(マスキング)
色調補正
(1)背後小段上の藻場造成の持続性
図-5に背後小段の整備直後から現在までのホソメ
コンブの現存量の推移を示す.横軸には調査年月,
縦軸にはホソメコンブの1m2 当たりの現存量(kg)を
プロットした.また,背後小段に設置したブロック
の内,海藻着生効果をねらった溝つきブロックと表
面が平坦なブロックについて表示している.溝つき
ブロックの形状を図-6に示す.併せて,海藻の生育
に影響を与える環境因子として,各年の冬期(2
月)の寿都海域の海水温の平均値をプロットした.
生育種の査定・藻場領域の推定
Photoshopで色のグルーピング
溝あり
溝なし
水温(2月)
10.0
藻場形成領域の面積換算
現存量(kg/㎡)
画像解析から算出した色調と潜水調査によ
る被度ならびに現存量の結果から、海藻現
存量を画像から推定
7.6
画像解析フロー
6.5
6.4
6.0
5.0
4.2
4.0
3.9
3.0
3.0
2.0
0.1
0.0
0.0 0.0
0.0
0.0 0.0
1.0
0.0
'07/07 '08/06 '09/06
背後小段上のホソメコンブの現存量と
2.45
冬期水温の経年変化
1.3
0.2 0.25
0.1
0.25 0.1
1.3
図‐5
2.0
1.5
0.7
0.8
'98/07 '99/07 '00/07
c)衛星画像解析
前述の航空写真による藻場の定量的な算出結果を
キャリブレーションとして,過去に撮影された衛星
画像から当時の藻場の定量的把握を行う.今回は,
背後小段あるいは一部の天然岩礁というごく限られ
た場所における植生や分布域等を把握する必要があ
ることから,高分解能画像であるQuick Bird画像を
用いた.画像は表-3に示すとおり対象区域が雲に覆
われていない画像2枚を入手して解析を行った.な
お,Quick Birdの概要 4)を表-4に示す.また,衛星
画像解析の手法は,前述の航空写真画像解析の場合
と同じである.
7.0
6.0
5.4
5.0
4.0
8.0
7.2
7.0
1.0
図‐4
9.0
8.48.3
8.0
GIS上で藻場形成領域の面積換算
海藻現存量の推定
10.0
3.0
図‐6
単位:m
溝つきブロックの一例
水温(℃)
9.0
図より,ホソメコンブの現存量は,整備後1年目
は非常に高い値を示していた.しかし,1999年のブ
ロック設置後2年目には急激に減少し,2000年の3年
目には背後小段上では海藻がほとんど生育していな
い状況であった.これに対して,近年の2007年は溝
きりブロックのみの着生であったものの,翌年の
2008年は8.0kg/㎡以上もの良好なホソメコンブの繁
茂が確認された.しかしながら,2009年は再びホソ
メコンブの着生は確認されていない.このようにホ
ソメコンブの現存量は年変動が顕著である.
ブロックの基質については,平滑面に対する凸
凹面の海藻着生効果に関する報告(例えば明田ら
5)
)がある.設置後11年経過した段階でも溝きりブ
ロックにはホソメコンブの着生が見られることか
ら,海藻の着生促進効果があると考えられる.
また,谷口6)は1~3月の平均水温が低いと天然コ
ンブの生産量が多いと報告している.2007年2月の
平均水温に比較して2008年2月は約2.5℃低く,ホ
ソ メ コ ン ブ 現 存 量 は 約 10 倍 で あ っ た . し か し ,
2009年2月は再び高水温となり海藻の生育は確認さ
れていない.つまり,水温が約5℃を上回ると背後
小段上のホソメコンブの現存量は大幅に減少して
いるものと推察される.この海域の植食動物であ
るキタムラサキウニ(Strongylocentrotus nudus)が高密
度に生息する背後小段上では,冬期の高水温によ
り,本来休眠状態であるはずのキタムラサキウニ
の摂餌が活発となり,海藻の幼芽・生長期に悪影
響を与えているものと推察される.
域1,2のいずれも消波工部であるが,その着生は
ごく海面付近に限られている.背後小段や天然岩礁
といった水深をある程度有する箇所においては,ホ
ソメコンブの着生が無く,フクロノリ,ホンダワラ
類 ( Sargassum ) , ア ナ ア オ サ (Ulva pertusa
Kjellman),スガモ(Phyllospadix iwatensis Makino)が
分布する結果となった.
表‐5
藻場形成種
ホソメコンブ
フクロノリ
アオサ属
スガモ
ホンダワラ類
海藻種類別の分布面積
区域1
区域2
区域3
消波工部 背後小段 自然岩礁 防波堤消波工部
734
-
-
689
-
973
-
-
-
-
172
-
-
-
172
-
-
-
1,983
-
傾斜堤における海藻分布
さらに,海藻種毎の着生面積を算定した結果を表
-5に示す.ホソメコンブが着生している領域は,区
1,423
973
172
172
1,983
2
単位: m
図-8に衛星画像解析による藻場分布図を示す.両
者とも海藻の生長期にあたる時期である.2007年4
月において,背後小段付傾斜堤(区域1)は,本体
ブロック周辺にホソメコンブが確認されたが,背後
小段上はフクロノリの分布しか見られていない.ま
た,区域3の消波工部の水面際や天然岩礁(区域
3)には,ホソメコンブの分布が確認された.天然
岩礁はホソメコンブ以外にもスガモ,アナアオサ,
フクロノリ,エゾヤハズ(Dictyopteris divaricata)等の
分布が見られる.対照的に2009年3月においては,
海藻の分布がほとんど確認されない.海藻はその年
の水温や栄養塩の状況により生長時期が遅れること
が考えられる.しかし,天然岩礁でも海藻の生育が
極めて悪いというのは,深刻な磯焼け状態にあった
ものと推察される.
(2)画像解析による藻場分布域の推定
航空写真画像解析による傾斜堤の海藻分布を図-7
に示す.本体消波ブロックの水面付近にはコンブ
(赤色)が着生しているが,背後小段上にはフクロ
ノリ(Colpomenia sinuosa)が高密度で分布している.
図‐7
合 計
図‐8
衛星画像による藻場分布
(上段:2007/4/25
下段:2009/3/9)
(3)ウニの摂食圧からみた背後小段上の藻場環境
これまで述べたとおり背後小段上では,ホソメコ
ンブの着生の年変動が大きく,また,近年の高水温
状況下において,冬期の幼芽時期におけるキタムラ
サキウニの食害と思われる海藻生育不良がみられて
いる.よって,背後小段上の流動環境におけるキタ
ムラサキウニの摂餌環境を把握し,藻場環境が持続
できる条件について検討を行った.
冬期における背後小段上の流動環境については,
2009年12月下旬から2010年2月下旬の期間,メモ
リー式電磁流速計を用いて,背後小段上における振
動流速の観測を行った.なお,寿都漁港沖の波高観
測も同時に行っている.図-9に観測位置図を示す.
● 沖(St.1)
沖(St.1)
2北
第
外
堤
波
防
背後小段付傾斜堤
(L=100m)
● 第2北外(St.2)
第2北外(St.2)
]と有義波高[H1/3]をとり,各々の期間におけ
る平均値をプロットしたものである.なお,有義流
速とは,観測した振動流速値に対して有義波高を整
理する時と同じ統計処理で算出したものである.ま
た,Kawamata7)による室内実験より,キタムラサキ
ウニは流速0.25m/s以上で摂餌が減少し,摂餌可能
な振動流の限界は0.4m/sであることが判明している.
よって,図中に限界流速値0.4m/sを破線で表示した.
2009年12月後半から2010年1月前半にかけては,
低気圧通過による時化等で波高が高く背後小段上の
有義流速も大きい.2月は波高も小さく,これに起
因する有義流速も小さくなっている.なお,1月後
半については,波高は高いものの波向の関係で背後
小段上の有義流速はそれ程大きくなっていないもの
と推察される.また,1月後半から2月の期間,背後
小段上のキタムラサキウニは,海藻を補食する環境
にあると推察される.2010年2月における背後小段
上の状況を写真-1に示す.写真は溝つきブロックの
状況であるが,コンブ等海藻類がほとんど着生して
いない状態である.
1/3
北外防波 堤
防波
北副
波堤
南防
北防波堤
堤
西防波堤
00
図-9
100
100
200m
200m
観測箇所(St.1:波高
St.2:流速)
流速は測定間隔120min,サンプリング間隔0.5s,
サンプル個数1200個(サンプル時間10min)で観測
し,波浪による振動流速を求めた.波高は測定間隔
60min,サンプリング間隔0.5s,サンプル個数2400
個(サンプル時間20min)で観測した.
図-10に結果を示す.図の横軸は,観測期間を月
の前半と後半に分けて表示し,縦軸は有義流速[U
1.2
有義流速
[U1/3](m/s)
有義波高
[H1/3](m)
有義流速(m/s)
1.0
0.8
0.8
0.6
0.4
1.0
0.6
キタムラサキウニの摂餌限界流速
0.4
0.2
0.2
0.0
0.0
'09/12/25~31 '10/1/1~15
1/16~31
2/1~15
2/16~24
図‐10 背後小段上の流速と波高
有義波高(m)
1.2
写真‐1
背後小段上の状況(2010年2月13日)
次に,背後小段上の流速の観測値と波高の観測値
との相関と寿都地域に隣接する瀬棚沖の連続波高観
測のデータを用いて,背後小段上の有義流速を算定
した.図-11は整備直後の1997年から現在までの算
定結果である.竹田ら8)によると,ウニの摂餌が抑
制されて藻場の形成が存続可能な流速(0.25m/s)
の累加出現率は,コンブ生長期において30~40%以
下であると規定している.よって,図の縦軸は冬期
間(12月~2月)における40%出現頻度の有義流速
(U 1/340%)をとった.なお,図中には前述の藻場
形成が存続可能な流速値(0.25m/s)を破線で示し
た.図より,背後小段上の流速は藻場の形成が存続
可能な流速を下回る年が多く,ウニの摂餌圧により
コンブが消失する環境にあると推察される.
0.40
藻場の形成が存続可能な流速
0.30
流速(m/s)
4.まとめと今後の課題
有義流速[U1/3(40%)]
0.35
0.25
0.20
0.15
0.10
0.05
0.00
'97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09
西 暦
図‐11
背後小段上の40%出現頻度有義流速
これまでの結果より,現在の背後小段の流動環境
では,ウニの摂餌を抑制できないことが判明した.
よって,現状の背後小段の天端水深(最深部におい
て-3.9m)をさらに浅くして,波浪による流速増大
を図る必要があると考えられる.そこで,今度は背
後小段の波高における水深別の有義流速を算定した.
算定結果を図-12に示す.図は,周期6.0sの場合の
波高0.1mから0.5mを5段階に分けて表示した.
図より,例えば背後小段上の波高が0.2mの場合,
現天端水深-3.9mにおける有義流速は約0.13m/sとな
り,基準値となる0.25m/sを下回る.よって,現在
の背後小段上の流動環境では,冬期水温が2009年と
同等の状況が継続した場合,藻場を維持できないも
のと考えられる.このような高水温の状況下でも,
ウニの食害を抑止する有義流速を確保するためには,
背後小段の天端水深を-1.4mまで嵩上げする必要が
あると推定される.
(1) 自然環境調和型沿岸構造物の藻場造成効果の長
期的な調査により,背後小段上のホソメコンブの現
存量は年変動が顕著であり,近年は,深刻化する周
辺の磯焼けの状況と同様に,藻場造成効果が低い傾
向にあることがわかった.
(2) 冬期の水温が約5℃を上回ると,背後小段上のホソ
メコンブの現存量は大幅に減少している.キタムラサキ
ウニが高密度に生息する背後小段上では,近年の冬期
の高水温により,本来休眠状態であるはずのウニの摂
餌が活発となり,海藻の幼芽・生長期に悪影響を与えて
いるものと推察される.
(3)現在の背後小段上の流動環境では,ウニの摂餌圧
を抑制することができず,冬期水温が2009年と同等の
状況が継続した場合,藻場を維持できないものと考えら
れる.このような高水温の状況下でも,ウニの食害を抑
止する流速を確保するためには,背後小段の天端を嵩
上げする対策が必要であると考えられる.
今後は,海藻現存量の推移をさらに検証し,藻場
造成機能低下原因の解明を行うともに,嵩上げによ
る背後小段改良の整備手法の確立に向けて検討を行
う必要がある.
参考文献
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波高(m)
0.8
0.7
有義流速(m/s)
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0.5m
0.4m
0.3m
0.2m
0.1m
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0.2
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grazing by a subtidal sea urchin Strongylocentrotus nudus(A.
0.1
Agassiz),J. Exp. Mar. Biol. Ecol.,224,pp.31-48,1998.
0.0
0.0
図‐12
必要天端水深
1.0
2.0
現天端水深
3.0
4.0
水深(m)
8)竹田義則他:自然環境調和型構造物における藻場の流
5.0
6.0
背後小段上の水深別有義流速(T=6.0s)
速とウニの食害に関する研究,海岸工学論文集,第46巻,
pp.1221-1225,1999.
第2次査読における指摘事項の対応
【論文 ID: C204】
査読者
査読者1
査読者2
査読者3
幹事会
(編集者)
指摘事項
①英文アブストラクトの英文添削を受けてください.
②「coralline flat」の用語について:「磯焼け」の意味
として使われていると思いますが,「coralline flat
(サンゴモ平原)」は,厳密には,かつて藻場があった場
所が何らかの原因で無節サンゴモ類で覆われるようになっ
た状態を指すではないかと思いますので(引用文献5 によ
る定義),そのような意味で使われている場合には結構だ
と思います.一方,無節サンゴモ類で覆われた状態だけで
はなく,他の海藻類も生育していない状態に対しては
「barren ground」という用語があります(例えば,藤田
大介:磯焼け,21 世紀初頭の藻学の現況. 日本藻類学
会,2002).一般的な意味での「磯焼け」であれば(つま
り,無節サンゴモ類の繁茂ということだけにこだわらな
い),どちらかと言えば「barren ground」の方が良いと
思いますが,ご一考ください.
③本文中の生物種名の発出箇所には学名も併記してくださ
い.
④参考文献リストに書式ミスがありますので,作成要領を
再確認してください.
①図-10 およびその説明文で「有義流速」という用語が出
てきますが,このような学術用語を初めて目にします.こ
れは海岸工学の用語として確立されているものでしょう
か? そうでなければ,正確な言葉で説明する必要がありま
す.
著者の対応
①再度,英文添削を行いました.
② ご 指 摘 の と お り 「 coralline
flat」 を 「 barren ground」 に 修
正しました.
①これまで継続的に調査が行われていますが,それに関し
て,すでに論文として公表しているものがあれば明示し,
それらと本論文の関係と相違点,本論文の新規性と合わせ
てご紹介ください.
②p.2 表-1
最右列の空白のセルが意味不明です.調整お願いします.
③p.5 右列下から6 行目
図-11 は結局,各年の冬期間のデータから得られた結果で
しょうか? 改段落するのであれば,「算定結果を示す」
ではなく,今一度何の結果なのかを示した方が良いと思い
ます.
④p.6 左列図-12
「必要天端水深」と「現天端水深」の挿入位置を破線真下
に配置するようにしてください.
なし
①ご指摘のとおり「はじめに」に
おいて,過去の調査・検討報告を
記述し,相違点等を明確にしまし
た.
②ご指摘のとおり表-1を修正しま
した.
③ご指摘のとおり,図-11の説明
について記述を修正しました.
③ご指摘のとおり学名を併記しま
した.
④ご指摘のとおり作成要領に従い
修正しました.
①ご指摘のとおり,有義流速につ
いて,その定義に関する記述を追
加しました.
④ご指摘のとおり図-12を修正し
ました.
なし
論文投稿時の確認事項
(1) 論文要旨の締切以降,著者都合による「論文題目」の変更をしていない.
(2) 論文要旨の締切以降,著者名や著者序列の追加・削除・修正を行っていない(所属は修正可能).
上記の二点について,相違ありません.
第一著者 氏名( 佐藤 仁 )
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