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裁判官はなぜ正反対の判断を下すのか

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裁判官はなぜ正反対の判断を下すのか
(12)
(第3種郵便物認可)
日本の防衛オピニオン
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G
2016 年(平成 28 年)7 月 6 日水曜日
第13回
週刊2999 号
防衛問題特別取材班
裁判官はなぜ正反対の判断を下すのか
シリーズ
日本が危ない!
「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立
してその職権を行ひ、この憲法及び法律
にのみ拘束される」
憲法76条にはこう記されている。いわ
ゆる「裁判官の独立」を規定した条文だ。
厳格で公正な裁判を保証し、不当な圧力
や干渉をさけるため、あらゆる権力から
の独立をうたい上げた崇高な理念だ。し
かし、近年、これを「隠れ蓑」にしたか
のような不可解な判断が相次いでいる。
良心に従った自律にしか期待できない以
上、見方を換えれば、自縄自縛の状態と
も言えるだろう。そして、それは原子力
発電所の運転差し止め訴訟など、国の根
幹につながる判断などで、混乱を招いて
いるのだ。
論に至っているとの見方だ。
それでは、逆に差し止め請求を退けた
裁判官はどうだろうか。
九州電力川内原発の差し止め請求を退
けた西川知一郎裁判長は、最高裁勤務の
ほか、東京、大阪両地裁で裁判官を歴任し
た主流派だ。客観証拠と先例を重視した
訴訟進行によって、結論を導き出すタイ
プとして、一定の評価を得ている。その一
方で、主流派ならではの「組織堅持の情」
が顔を出す場合もある。
長年、
「違憲状態」が続く、衆院選の一
票の格差をめぐる訴訟で「違憲の反対意
見を書くことを最高裁調査官に妨害され
た」と元最高裁判事が自著で告発したこ
とがあった。調査官の名前は明らかにさ
れていないものの、「西川氏を指してい
る」
(ベテラン裁判官)という見方がまこ
としやかに流れている。
その一票の格差をめぐっては、24 年に
行われた衆院選の無効訴訟で、
「違憲・選
挙無効」とする判決が高裁で出たことが
※写真=社会の常識と裁判所の常識が乖離する。国の根幹を揺るがす政策が裁判官によっ
て正反対の判断が下される。
究報告」などを通じて、裁判員の判断を重
視すべきだというメッセージを発信し続
けていた。
しかし、このところ控訴審で裁判員裁
判の判断が覆されるケースが珍しくなく
なってきた。職業裁判官のプライドが、国
民の代表として裁判に臨んだ裁判員の結
論を跳ね返している構図ともいえる。
冷静と情熱Ăまたは法と情の間で
東京高裁の裁判長だった村瀬均氏(退
官)は、裁判員裁判の死刑判決3件を相次
法と証拠に基づき、あらゆる介入から
いで破棄、無期懲役とした。村瀬氏は裁判
独立して冷静な判断を下すと考えられて
官が築いてきた先例を重視。破棄3件のう
いる裁判官。しかし、内実は少々異なるよ
ち2件は被害者1人という事実が破棄の大
うだ。己の将来だけを見据えた自己顕示
きな理由となった。当然、量刑の均衡とい
や保身、法律のプロとしての過剰な自負
う側面はあるにせよ、国民感覚の反映が
心、最高裁を頂点に組織される司法行政
眼目だった裁判員裁判の判決破棄を繰り
話題になった。この裁判を指揮した当時
体制の堅守⋯。司法の現場からはそんな
返したことに、「制度が形骸化しかねな
の片野悟好、筏津順子両裁判長(ともに退
実相が見えてくる。
い」との批判もある。
官)はいずれも地方周りがメーンの非主
東日本大震災に伴う東京電力の福島第
市民感覚との乖離は、民事訴訟でも散
流派とされる。両氏とも定年が近づいた
1原発事故以降、各地で起こされる原発差
段階での極端な判断とみる向きもあり、 見される。
し止めをめぐる訴訟や仮処分申請。国の
東京地裁で26 年、妻子ある男性と性的
「再就職に向けた『お土産』ではないか」と
ありようを転換させかねない局面で、裁
関係を持った銀座のクラブのママを妻が
の指摘もあったほか、
「思い出づくり」と
判官の歩んできた「道」によって正反対の
訴えた裁判では、
「クラブママの枕営業は
断じた識者もいた。
判断が出される事態となっている。
『公知の事実』
。結婚生活を害するもので
平成26年に関西電力大飯原発の運転差
社会の常識と裁判所の常識の乖離 はない」と認定し、慰謝料請求が退けられ
し止め、27 年に同高浜原発の再稼働差し
た。実際に結婚生活を害された妻の訴え
止めの判断を出した樋口英明裁判長(当
を排斥し、事実上、ホステスの行為を正当
時は福井地裁)
。東京勤務の経験はなく、 ともすれば、社会性がない、一般常識と
化した判断は物議を醸した。
かけ離れているとされる裁判官。刑事司
主に関西や中部地方の地裁などを渡り歩
少子化や高齢化などの問題に直結した
いてきた非主流派として知られている。 法の分野で国民の常識や視点を取り入れ
判断でも首をひねるものが少なくない。
ようとしたのが21年に導入された裁判員
高浜原発差し止めを命じる仮処分を決定
小学生が蹴ったサッカーボールが道路
制度だった。
した大津地裁の山本善彦裁判長も同様に
に飛び出し、避けようとした85 歳の男性
制度導入当初は裁判員の判断を受けて
東京での経験がなく、九州や関西の地裁
が不運にも転倒、死亡した事故で、小学生
行われる控訴審について、1審の判断に誤
勤務がほとんどだ。
の親の監督責任が問われた訴訟は、1、2
りがないかを判定する「事後審」に徹する
あるベテラン裁判官は、樋口、山本両裁
審で両親の監督責任を認め、賠償を命じ
べきだという考え方が支配的だった。な
判長について、
「差し止めありきから出発
た。これに対し、
「親は外出する子供に常
ぜなら、控訴審で容易に判断が覆ること
していることが見てとれる。法よりも情
について監督しなければならないのか」
は、制度の根幹を揺るがしかねないから
が色濃い」と解説する。科学的知見より
などの批判が集中。子育ての実態を理解
だ。実際、最高裁は司法研修所の「司法研
も、情緒的な反対派の主張に依拠して、結
していないというわけだ。
また、徘徊癖のある認知症高齢者が電
車にはねられた訴訟でも1、2 審は高齢の
妻と長男の監督責任を認めた。ここでも
「認知症高齢者は家や施設に縛り付けてお
けと言うのか」との批判が出た。
最高裁のバランス感覚
※写真=関西電力高浜原子力発電所は、大飯原子力発電所と同様に、同じ裁判長によって
再稼働差し止めの判断が下された。
こうした際に、絶妙のバランス感覚を
発揮するのが最高裁だ。いずれの訴訟で
も最高裁は家族の監督責任はないと判断
し、家族の逆転勝訴を言い渡した。
ただ、ある裁判官は「いずれも、家族を
負けにしたままでは、批判が最高裁に集
中するとの思惑が働いたのではないか。
最高裁が『国民感覚』に沿って出した判決
ではない」と指摘する。その上で、
「家族
敗訴を避けたとはいえ、いずれの最高裁
判決も抽象論ばかり。家族の監督責任の
考え方について、何らかの示唆を与える
内容にはなっていないため、今後、さらに
同様の争いが複雑化する可能性もある」
との懸念を口にする。
社会的正義と世論の狭間で、最高裁の
バランス感覚は、家族のかたちに絡んだ
こんな裁判でも顕在化した。
夫婦の同姓義務と、女性だけに6カ月間
の再婚禁止期間を課す民法の規定が憲法
違反に当たるか否かが争われた訴訟の上
告審判決が昨年12 月、同じ日に大法廷で
言い渡された。関係者の間では当初から、
夫婦別姓については合憲、再婚禁止期間
については違憲という「1 勝1 敗になるの
ではないか」との観測が広がっていた。そ
もそも、法務省在籍時代に民法改正に携
わったことから、寺田逸郎長官が裁判を
回避するかどうかも注目を集めたが、結
局、寺田長官が裁判長を務めた大法廷で
結論が出された。
とりわけ、世間の耳目を集めた夫婦別
姓訴訟については、
「同姓制度に男女間の
形式的不平等はない」として合憲とした
上で、選択的夫婦別姓導入については「国
会の判断」とした。ただ、この結論は大法
廷を構成する15人の裁判官のうち、10人
の多数意見。女性裁判官全員(3 人)を含
む5人が違憲とする反対意見をつけた。こ
の結論は、外形的には世論への配慮をう
かがわせるとともに、別姓導入論の高ま
り次第では、将来的な違憲判断にも含み
を持たせたといえる。
裁判官を離れ、最高裁を頂点とする
司法ヒエラルキーを厳しく批判、司法
行政の内情を著書「絶望の裁判所」など
で暴露した瀬木比呂志氏。最高裁の勤
務経験もある元エリートが記した内容
は「裁判官によるセクハラは日常茶飯
事」など過激だった。出版時期と最高裁
長官の辞任時期が近接したことでも憶
測を呼んだ。
瀬木氏は民事裁判官の有望株として頭
角を現し、最高裁勤務のほかでは東京、大
阪両地裁で裁判官を務めるなどした。そ
の間、
「民事保全法」分野では、裁判官や
弁護士がいまだに参照する論文を執筆、
あるベテラン裁判官は「民事保全法の第
一人者。その解釈論には目を見張るもの
があった」と評価を惜しまない。
一方で、
「プライドが高く、良くも悪く
も繊細」との人物評も聞こえてくる。周囲
との衝突のほか、体調を崩したこともあ
り、エリートコースから外れ、定年を待た
ずに退官。業界内からは冷ややかな反応
も聞こえてくる。
内部を知る者の「告発書」なのか、古巣
への「恨み節」なのかはさておき、日本の
裁判や裁判官が問題を抱えていることは
間違いないだろう。
最高裁が運営する裁判所ホームページ
にはこうある。
「裁判の公正を保つために、裁判官には
身分保障が与えられていて、憲法上一定
の手続によって罷免される場合を除いて
は、その意思に反して免官、転官、転所、
停職又は俸給の減額を受けることはあり
ません」
だからこそ、裁判所が「人権を守る砦」
なら、そこに綻びがないかどうか、注視し
ていくことが必要だろう。
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