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4)パーキンソン病関連疾患に対する
▲嚢・婁’噂, D パ鴨 ンソン病 ●社会資源 ●実態調査 5鵬独層 者 ●地域ケアシステム 2.パーキンソン病の治療とケア 4)パーキンソン病関連疾患に対する 社会資源の活用と在宅ケア 1 eem 羅在宅の進行期のパーキンソン病関連疾患患者の病状を安定させ,患者と家族の 堀川 楊 QOLを向上させs経済的負担を軽減するために,社会資源の有効な活用が求めら れる.平成12年11月置調査を踏まえ,平成21年6月に当院の52名のYahr 3度 以上のPD関連疾患患者の個別調査を行い,7796が社会資源を活用していた.特 に独居患者や高齢者のみの家族の患者,認知症を伴って家族の介護力が及ばない場 合などは,介護保険制度を軸とした難病の地域ケアシステムの中で継続的,包括的 に患者を診ていく必要がある.適時の介護機器の導入,通院,通所、訪問リハビリ テーションは運動機能維持に有用であり,病状の不安定な,医療依存度の高い患者 では訪問看護が欠かせない. 雛綴畿翻欝響躍灘醗蒙欝:1 圃打継病関遮疾懸瀦麟鍵 1撮 繍繍蝶徽繊覧擁難亀欝 パーキンソン病(以下PD)の進行期の患者, 高齢患者,多彩な症状を呈するほかのPD関連 疾患の患者では,運動機能の低下,易転倒性, PD関連疾患患者が何らかの支援を受けたい と希望すれば,表1の社会資源が患者の状態に 認知症の合併などにより生活障害が進行し,家 より利用できる.介護i保険,障害制度,難病対 族の負担も増大する.最:近は独居者や高齢者の 策,医療保険と依拠する基盤が異なり,それぞ み世帯の患者も多い.PD患者の外来診療では, れの担当窓口での申請手続きを経て適用される 薬物治療でこと足れりとするのではなく,患者 が,まず地域のケアマネジャーか,行政の保健 の日常生活に困難はないか,その困難を補い, 師に相談してみる.PDは,40歳以上であれば 患者と介護する家族のQOL(生活の質)を向上 介護保険の第2号被保険者として対象になり, させるには何が必要かを検:軽し,提案する必要 3つの制度で重複するサービスでは介護保険が がある.そのためには利用できる社会資源を知 優先して適用されるが,末期癌,いくつかの難 り,ケアマネジャーや保健福祉センターなどの 病とともに訪問看護iは医療保険が適:用される. 難病担当保健師を窓口とした,地域の難病患者 の継続的,包括的なケアシステム1}と連携して Yahr 3度以上と医師が診断すれば,特定疾患 医療受給明証の申請により医療費の自己負担分 いくことも求められる.筆者が平成12年11月 は収入に応じて公費で負担され,身体障害者手 と平成21年6月に行った調査から,社会資源 がPD患者の在宅療養上具体的にどのように使 重度心身障害者医療費助成制度(県障)により自 われ,効果を上げているかも明らかにした. 己負担はさらに圧縮される.これらはいずれも 帳を申請して1,2級か3級の一部であれば, 医師の診断書や意見書が必要である.藤井らの 2004年忌現状調査報告2}でも,PD患者の在宅 療養上のニーズとして生活の場でのりハビリテ ■ほりかわ よう(医療法人朋有会堀川内科・神経内科医院) @Medicine VoL47 No.8 2009-8 111 1015 Geriatric Presented by Medical*Online 表1 制、度 担当窓口 利用できる社会資源と担当窓ロ 各種サービス. 訪問介護 訪問入浴 訪問リハビリ 居宅管理指導 介護保険制度 (介護保険申請) ケアマネジャー 住宅改修 福祉用具貸与,購入 通所介護 通所リハビリ 短期入所 高齢者福祉サービス(紙おむつ支給など) そのほか 手当と年金(特別障害者手当など) 重度心身障害者医療費助成制度(県障) 補装具・日常生活用具給付 交通機関などの割引・助成 障害制度 (身障手帳申請) 市ケースワーカー 税金などの減免 雛霧}一… 医療費の公費負担(特定疾患治療研究事業) 在宅難病患者看護手当 日常生活用具の給付 在宅難病患者紙おむつ券支給 市保健師 難病患者等治療研究通院費補助 難病制度 (難病申請) 短期入所(指定医療機関) 難病患者居宅生活支援サービス 新潟市難病患者夜間訪問看護サービス事業(気管切開患者のみ) 新潟県難病相談支援センター 各窓口 新潟県難病医療ネットワーク 訪問リハビリ,訪問マッサージ 医療保険 医師・ ケアマネジャー 訪問看護 訪問診療・在宅療養支援診療所 パーキンソン病友の会 そのほか 有料ボランティアのヘルパー 給食宅配サービス 1016 十 Geriatric Medicine Vol.47 No.s 200g-s Presented by Medical*Online 表2 パーキンソン病関連疾患患者の社会資源の利用状況 回答者数 平成12年11月アンケート結果 当院全PD患者・PD友の会会員 平成21年6月個別調査 185名 52名 社会資源利用なし 社会資源利用あり 当院患者Yahr 3度以上 108 (58SOI60) 12 (23YO6,) 77 (42SOI60) 40 (770/o) 身体障害者手帳あり 26 (50SOIt60) 介護保険認定あり 39 (750/o) 訪問介護 28 (150/o) 11 (21fO)60) 訪問看護 28 (15SOI60) 13 (25SOe60) 訪問入浴 14 ( 89060) 2 ( 4SO)60) 通所介護 26 (14SOI60) 11 (210/o) 訪問リハビリ 13 ( 79060) 12 (23SOI60) 通院・通所リハビリ 18 (10SOI60) 20 (38SOIt60) 9 ( 5YO60) 5 (109060) 短期入所 1 ( 29060) グループホーム入所 老健入所 12 ( 6SOt・6e) 1(20/o) 長期療養病棟入院 11 ( 6SO>60) O ( OYO6,) 一般病棟入院 7 ( 4SO)60) 1 ( 2SO)60) 血忌入所 O ( OSOI6,) 2(40/o) 有料ホーム入所 O ( OSOI60) 1(20/o) 27 (529060) 介護機器レンタル ている.在宅患者が利用できるリハビリの手段 名と,新潟県パーキンソン病友の会会員175名 の計245名を対象にアンケート調査を施行し, は,通院リハビリ,医療または介護保険による 185名(76%〉の回答を得た3).回答者の背景は, 訪問リハビリ,介護老人保健施設(老健)での通 る地域のマッサージ師による訪問マッサージも 男性80名,女性101名,主な年齢層は60歳代 42%,70歳代39%,罹病期間は5年以下が44 %,6~10年が33%,11年以上が42%であっ 有用である.公的制度に基づかない社会資源と た.結果は表2の左半分で,108名(58%)がい 一ション(以下,リハビリ)の重要性が強調され 所リハビリがあるが,病院リハビリの経験のあ しては,パーキンソン病友の会の支援や,有料 まだサービスを受けておらず,77名(42%)が ボランティアの家事援助,給食宅配サービスも 社会資源を利用していた.その内容は,訪問系 有用である. では訪問看護,訪問介護がともに28名(回答者 の15%),訪問入浴が14名(8%),訪問リハビ 髭 ⊇購蟹 輔 繊 鞭 駿 膿 リが13名(7%)で,通所系では通所介護26名 (14%),通所リハビリ18名(10%),定期的な 短期入所が9名(5%)であった.老健に12名 平成12年11月,厚生労働省「特定疾患患者 (6%)が入所を経験し,11名(6%)が介護療 のQOLの向上に関する研究」班の分担研究に より,堀川内科・神経内科医院の全PD患者70 養型医療施設に入院していた.介護保険の施行 後7カ月であったが,訪問,通所系とも既に頻 @Medicine Vol.47 No.8 2009-8 十 1017 Geriatric Presented by Medical*Online 回の利用があり,本症での介護の需要の高さが 腰椎症による腰痛と,寝たきりの夫の看病で疲 うかがわれた. 労し運動障害が増大.さらに血管攣縮性狭心症 今回は,当院で平成20年度に特定疾患登録 を併発.次第に歩行時の前傾,前屈が強まり, をして外来診療中のYahr 3度以上のPD関連 疾患患者52名の個別調査をした.経過年数の 家事も困難となり同16年介護保険を申請.要 介護1で,週2回訪問ヘルパーに掃除,ごみ出 し,買い物を頼む.同17年抗パーキンソン病 薬の増量もジスキネジアを増強させ,週2回の 通院リハビリを開始.同18年冬,夜間のトイ 内訳は1~5年が4名,6~10年が22名, 11~20年が22名,21~34年が4名であった. まだ社会資源によるサービスは不要の患者が 12名いるが,40名77%は種々のサービスを利 用している.身体障害者手帳を26名50%が交 レ時の寝起きが困難となり,介護用ベッド,支 39名75%が受けている.前回の調査時に比し, 援バー,U字型歩行器をレンタルする.同20 年1月闘病中の夫が死亡し独居となる.同20 年2月身体障害者手帳3級を取得.6月頃から 新潟市ではリハビリを提供できる施設が増えて 排便コントロールの不良もあり,夜間オフ時に 付されて県障を受けており,介護保険の認定を おり,通院・通所リハビリまたは訪問リハビリ トイレに起きて転倒を繰り返してパニックにな (一部訪問マッサージを含む)を週1~2回定期 り,夜半にヘルパーの緊急呼び出しが増えた. 的に受けている患者の割合がそれぞれ38%, 7月肺炎発症を機に入院し,2カ月間集中して 23%と著増している.訪問看護も病状不安定な PT, OTを受けた.歩行が安定し,屋内は歩行 患者や気管切開や経管栄養など,医療処置を要 器を必ず使用すること,夜間はベッド脇に固定 する患者を中心に25%と増加している.訪問 したポータブルトイレを使用することを守らせ 介護を利用している患者は独居者や高齢者のみ て,転倒が減少.連日昼1時間30分と夕方1 の家族が多く,連日の利用者も多い.介護機器 時間,家事型ヘルパーが買い物,炊事の援助, のレンタルも,ベッド,支援バー,歩行器,車 掃除,洗濯を分担,週1回訪問看護iステーショ 椅子などを52%の患者が有効に利用している. ンの看護師が薬のセット,服薬状態の確認,排 便のコントロールを行い,生活指導をして病状 の安定化を図った.退院後は週1回訪問リハビ 独居のPD患者は,歩行が不安定になると買 リを受けたが,同21年4月から通所リハビリ を週2回導入し訪問リハビリは中止した.腰椎 い物やごみ出しが困難になり,転倒や入浴時の の不安定さがあり,支えなしでの起立は困難だ 不測の事故に対する不安も大きく,外来診察時 が,不安が軽減し安定して独りで暮らせている. には軽症にみえても実生活に困難を抱えている 人は多い.外出時の押し車の利用,夜間トイレ 移動時の転倒予防のためのベッドや支援バーの ーが家事援助に訪問し,その間に入浴する,地 PD関連疾患で認知症を伴うことはしばしば あり,PDによる認知症,アルツハイマー型老 域のリハビリ教室に通うか,通所リハビリに参 人性認知症の合併,びまん性レビー小体病 レンタル,手摺の設置,週1,2回でもヘルパ 加するなどで,生活の不安が解消し,それによ (DLB)またはDLBへの移行が疑われる例,進 って病状も安定する. 行性首上性麻痺(PSP),大脳皮質基底核変性症 さらに重症者でも下記のような援助ができる. (CBD)など病態は様々であるが,求められる 症例1:74歳,女性,PD(Yahr 4度),腰椎 社会資源は共通している.問題行動が少なけれ 症. ば症例2のように,在宅サービスを利用して家 平成10年,左上下肢の動き難さで発症した. 族の負担を軽減しつつ患者の運動機能とQOL PDの診断で治療し奏効したが同14年多発性 を維持していくことであり,症例3のように問 1018 lll Geriatric Medicine Vol.47 No.s 200gs Presented by Medical*Online 題行動が大きく家族がカバーできなければ,施 高額になるパーキンソン病の場合3・4),入所後 設ケアを主体にして看ていく. 服薬内容を変更したり減らしたりして病状が悪 症例2:74歳,女性,夫婦二人暮し,PD, 化することが問題になり2・3),筆者も平成12年 アルツハイマー型老人性認知症. の調査時に新潟県の老健の医療費についての現 平成12年4月散歩中右手の振戦を自覚.5 月からPDの診断で治療開始し奏効したが,同 状を報告した3).現在も状況は変わらないが, 16年7月記銘力の低下に気づき,HDS-R 25/30 点であった.一時腹部膨満感,排尿時の異常感 側の施設が了解されれば,入所前に処方した薬 を持参して治療を続行することも可能になり, 覚,耳鳴りなど身体的な妄想と思われる訴えが 本来ある老健の維持的リハビリの有用性を使い 続いたが,週1回,地区センターの老人保健法 によるリハビリに参加して散歩もするようにな やすくした.家族介護力が期待できない認知症 外来での長期投薬が認められて以来,受け入れ り,次第に妄想状態は改善した.地域のリハビ のあるPD関連疾患患者では,大きな問題行動 がなければ,グループホームの入所も極めて有 リが終了後,介護保険を申請して週2回の通所 用である. リハビリを開始し,夫の介護負担を軽減.認知 症は進行し,家事も困難となり,夫が家事を受 け持つ.画像上アルツハイマー型認知症の合併 と思われ,現在HDS-R 11/30点. ADLも一部 在宅療養しているPD関連疾患患者に社会資 介助が必要.夜間の尿失禁が頻回になりオムツ 源をうまく活用することは病状の安定と患者, 使用証明発行.夫の不在時は施設の短期入所を 家族のQOLを上げる有用な手段である.特に 利用する. 少しでも歩行可能な患者では地域で提供できる 症例3:76歳,男性,夫婦二人暮し,びま リハビリの利用が役に立ち,病状の安定しない ん性レビー小体釧着い. 患者では医療処置のみでなく,服薬管理や排便 平成12年右手の振戦で発症.パーキンソン コントロール,生活の指導に訪問看護師の援助 病として治療され,L一ドパ合剤300 mgと少量 は欠かせない.介護機器の早めの導入は転倒予 の非麦角系ドパミン作動薬を服用して歩行も自 防に有用である. 立していたが,同19年,「死んだ飼い犬が来た. 昔の侍が着飾って出てくる」などの幻視が出現 し,当院へ初診,軽い下肢の固縮と,右上下肢 の振戦があり,HDS-R 16/30点と低下していた. 薬剤を減量しても幻視は消失せず,非定型向精 文 献 1)堀川 楊:在宅医療を支える地域ケアシス テムー信楽園病院継続医療室の実践と追記一. 臨床神経 48:91-99,2008. み,同20年11月のHDS-Rは6/30点.夜間外 2)藤井千枝子,増田真也:パーキンソン病患 者の在宅療養生活と介護サービス利用につ いての現状調査.日本公衛誌54:338-346, に出て俳徊し,転倒を繰り返し,高齢の妻1人 2007. 神薬を服用してかなり軽減.しかし認知症は進 で介護できず,老健で短期入所し,数日在宅時 に外来受診して処方し,再入所させてもらうこ 3)堀川 楊ほか:神経難病患者の施設利用状 況と問題点.特定疾患患者のQOLの向上 に関する研究 平成12年度研究報告書, とを繰り返している.広い廊下を自由に歩ける pp71-76,厚生労働省,東京,2001. 環境での生活がリハビリになり,固縮は強いが 老健入所時の医療は施設内で規定の療養費の 4)久野貞子:パーキンソン病治療にかかる薬 剤費に関する研究.特定疾患患者の生活の 質(QOL)の向上に関する研究 平成18年 度研究報告書.pp122,厚生労働省,東京, 範囲内で行うことが決められており,薬剤費が 2007. 歩行は伝い歩き可能である. (執筆者連絡先)堀川楊〒951-8151新潟県新潟市中央区浜浦町1-181。3医療法人皇恩会堀川内科・神経内科医院 @Medicine Vol.47 No.8 20098 i 1019 Geriatric Presented by Medical*Online