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非ヘルペス性辺縁系脳炎・抗 NMDA 受容体脳炎に関する アンケート調査

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非ヘルペス性辺縁系脳炎・抗 NMDA 受容体脳炎に関する アンケート調査
非ヘルペス性辺縁系脳炎・抗 NMDA 受容体脳炎に関する
アンケート調査結果報告
木村 成志
大分大学医学部総合内科学第三講座
【1】はじめに
辺縁系脳炎は、大脳辺縁系を冒す脳炎であり、原因から感染性脳炎と自己免
疫性脳炎に分けられる。臨床症状として記憶、感情、自律神経系などの障害を
認める。
非ヘルペス性辺縁系脳炎は、庄司らにより①急性辺縁系脳炎、②両側海馬・
扁桃体などに MRI 異常を示す、③髄液では軽度の細胞数像多、蛋白増加、HSV-1・
2 陰性、IL-6 が軽度増加、IFN-γ は変動なし、⑤抗 GluRε2 抗体陽性、⑥悪性
腫瘍の合併なし、⑦比較的経過は良好などの特徴を呈する疾患として提唱され
た。
一方、抗 NMDA 受容体脳炎は、2007 年に Dalmau らにより、グルタミン酸(Glu)
受容体の一つである NMDA 受容体の NR1/NR2 ヘテロマーに対する抗体を介して生
じる自己免疫性脳炎として提唱された。平均発症年齢は 23 歳、若年女性に多く、
59%に卵巣奇形腫の合併を認める。
臨床症状は、①前駆期:発熱、頭痛、倦怠感などの非特異的感冒症状、②精
神病期:無気力、無感動、抑鬱、不安などの感情障害や痙攣発作、④無反応期:
自発運動や発語の減少、外的刺激に対する反応低下、自発呼吸の減弱、⑤不随
意運動期:口顔面を中心に咀嚼運動、眼瞼痙攣、開口開眼運動などの異常運動、
自律神経症状、⑥緩徐回復期:急性期を脱すると意識が徐々に回復などの特徴
がある。
治療法としては、腫瘍摘出術、免疫療法(ステロイド、リツキシマブ、シク
ロホスファミドアザチオプリン、免疫グロブリンなど)、血漿交換療法などが報
告されている。
非ヘルペス性辺縁系脳炎・抗 NMDA 受容体脳炎に罹患された患者および家族が
抱える医療、福祉、生活環境などにおける問題点を理解するために①診断、②
症状、③治療方法、④後遺症、⑤リハビリテーション状況、⑥現在の生活状況、
⑦妊娠・出産に対する不安感に関するアンケート調査を施行した。
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【2】結果
1. 22 名の患者または家族から回答が得られた。その内訳は家族 18 名(82%)、
患者 2 名(9%)、その他 2 名(9%)であった。
2. 罹患した患者の性別は男性 4 名(18%)、女性 18 名(82%)であった。
3. 診療科では神経内科、小児科、内科が主体であるが、初期に精神疾患として
精神科を紹介受診している例も散見された(図 1)。
図 1.診療科
4. 臨床診断は、卵巣奇形腫に伴う抗 NMDA 受容体脳炎が 11 名(50%)と最も多く、
卵巣奇形腫に伴う抗 NMDA 受容体脳炎が 5 名、非ヘルペス辺縁系脳炎 5 名で
あった(図 2)。
図 2.臨床診断(N=22)
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5. 前駆症状としては、発熱、異常行動、不安、興奮、記憶障害などが多く、そ
の他に頭痛、睡眠障害、幻覚、食欲低下なども見られた(図 3)。
図 3.前駆症状(N=22)
6. 血清または髄液の抗 NMDAR 抗体を測定されたのは 13 名(59%)であり、12 名
が陽性であった。抗 GluRε2 抗体は 6 名(27%)で測定され、陽性者は 5 名で
あった(図 4)。
図 4.自己抗体検査(N=22)
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7. 治療は、ステロイド療法、免疫グロブリン療法、血漿交換療法が施行されて
いた。卵巣奇形腫を伴う例では腫瘍摘出術が施行されていた(図 5)。
図 5.治療方法(N=22)
8. 後遺症に関しては、運動症状が 20 名中 6 名(30%)に見られ、車いす移動 2 名、
ベット上の生活 2 名であった(図 6)。この他に、てんかん発作、排尿障害、
視力・視野異常なども見られた(図 7)。
9. 後遺症で頻度が高いのは記憶・見当識障害などの高次機能障害(図 7)や性格
変化であった。性格変化では、涙もろい、子供っぽい、自活性の低下などが
多かった(図 8)。
図 6.後遺症(運動麻痺・失調) (N=20)
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図 7.後遺症
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図 8.後遺症(性格変化)
10. リハビリテーションは 18 例中 12 例(67%)で施行されており、主に理学療法、
作業療法、言語聴覚療法であった(図 9)。
11. 生活状況では、多くは自宅で生活しており、仕事や学校への復帰が可能とな
っていたが、22 名中 5 名は病院や介護施設へ入院または入所していた(図 10)。
図 9.リハビリテーション
図 10.現在の生活状況
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12. 妊娠・出産の希望者は 14 名中 8 名であり、正常に妊娠できるのかどうかの
不安を抱えていた(図 11)。
図 11.妊娠・出産の希望(N=14)
13. 内服薬は、数名において抗てんかん薬やプレドニゾロンの内服が継続されて
いた(図 12)。
図 12.内服薬(N=22)
【3】まとめ
今回の非ヘルペス性辺縁系脳炎・抗 NMDA 受容体脳炎に関するアンケート調査
により医療、福祉の現状と問題点、患者および家族の抱える不安が明らかにな
った。疾患の啓発が不十分であるために精神疾患と診断され、治療開始が遅れ
たという意見もあることから、かかりつけ医に対するさらなる啓発活動が大切
であると考えられた。また、抗神経抗体の測定が十分に施行されていないこと
が多いため、抗神経抗体測定が可能な施設や方法などの情報を専門施設へ広く
提供する必要性が示唆された。
両疾患とも経過良好な疾患とされているが、数名では高次機能障害、性格変
化、運動障害などの後遺症が残存していた。これらの後遺症により就労や就学
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が困難となっているのが現実であるため、生活および社会環境を整えることが
重要である。妊娠は多くの女性が希望されており、同時に正常な妊娠が可能で
あるかどうかの不安を抱えていた。産婦人科との連携を行いながら、妊娠・出
産に関わる心理的なケアを行う必要があると考えられた。
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