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第3号(PDF:1.91MB)
(表紙:2011 年-冬号) 目次 新着情報 法令・通知・基準改正(2011 年 8 月-11 月下旬) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 頁 論文・文献その他の情報(2011 年 8 月-11 月下旬) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 頁 論文・書籍紹介 論文紹介 1「金融危機の確定給付型制度への影響と反景気循環積立基準の必要性」 OECD Juan Yermo, Clara Severinson ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 頁 論文紹介 2「リタイアメント 20/20 年金設計の新考案」 Robert L. Brown, University of Waterloo ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 頁 書籍紹介「世界の年金改革」有森美木著, 江口隆裕編 2011 年, 第一法規 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53 頁 正誤表(JSCPA 調査報 No.1,No.2) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59 頁 論文投稿規程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61 頁 ご意見・ご要望の送付について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 頁 ©2012 社団法人日本年金数理人会 本資料は日本年金数理人会会員の能力向上のためのものに作成されたものであり、当該目的にのみ使用す ることが認められます。本資料の記載内容は、当団体が信頼できると判断した各種データに基づき作成されて おりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。法令変更、金融情勢の変化などにより、本 資料に記載された内容は予告なしに変更されることがあります。本資料に関する権利は、社団法人日本年金 数理人会に帰属し、本資料の一部または全部の無断複写複製を禁じます。 1 新着情報 法令・ 法令・通知・ 通知・基準改正( 基準改正(2011 年 8 月-11 月下旬) 法令・ 法令・通知改正 通知改正 指定基金の 指定基金の要件および 要件および健全化計画承認基準 および健全化計画承認基準の 健全化計画承認基準の改正 関係法令 「厚生年金基金令の一部を改正する政令(厚生労働省:政令第341号)」 (平成23年11月16日公布、即日実施) 主な内容 指定基金の要件が変更され、現行の「決算において3事業年度連続で純資産額が最低責 任準備金の9割を下回った基金」に加えて、「直近決算において純資産額が最低責任準 備金の8割を下回った基金」が追加された。 関係通知 「厚生年金基金に係る厚生年金保険法第百七十八条の二に基づく厚生労働大臣の指定 及び健全化計画の承認について」の一部改正について(年発第1116第1号)(平成23年11 月16日) 主な内容 指定対象基金に「直近決算において純資産額が最低責任準備金の8割を下回った 基金」が追加された。 目標達成のために必要な具体的措置について、内容及び実施時期について、代議 員会の議決を経た上で記載することを原則とすることとなった。 健全化計画の財政見通しについて、最低責任準備金の予測に用いる利回りは厚生 年金の直近の財政見通しに用いられている予定運用利回りとし、年金資産の予測に 用いる利回りは基金の運用利回りの過去5事業年度の平均、計画作成時の最低積立 基準額の予定利率又は厚生年金の直近の財政見通しに用いられている予定運用利 回りのいずれか大きい率を上回らないこととし、加入員数の見込みについては過去5 事業年度の実績を用いて適切に見込むこととなった。 健全化計画は指定年度の2月末日までに提出するが、指定年度の2月末日までに提 出することが困難な場合には、その旨を地方厚生(支)局長に報告した上で、遅くとも 指定年度の翌年度の9月末日までに提出すればよいこととなった。 具体的措置の実施が見込まれ、その措置に基づく財政の見通しにおいて基金の財政 の健全化が見込まれる場合に、健全化計画の承認が行われることとなった。 厚生労働大臣が健全化計画の変更を求める場合の提出期限について、変更を求 2 めた日の翌日から起算して3ヵ月後の日が属する月の月末から、変更を求める 際に期限を定めることに見直すこととなった。 パブリックコメントに対 パブリックコメントに対する意見及 する意見及び 意見及び回答 「厚生年金基金及び確定給付企業年金の財政運営基準の見直しに係る確定給付 企業年金法施行規則及び関連通知の一部改正等について」 に寄せられた意見及 び回答が示された。 この内、指定基金健全化計画承認基準の見直しについては、意見を踏まえて改 正の政令・通知が出状された。 3 論文・ 論文・文献その 文献その他 その他の情報( 情報(2011 年 8 月-11 月下旬) 政府関係 厚生労働省 厚生年金基金、 厚生年金基金、国民年金基金及び 国民年金基金及び確定給付企業年金の 確定給付企業年金の監査結果を 監査結果を公 2011 表(201 1 年 8 月 5 日) 主な内容 厚生労働省が公表した監査結果によると、文書による改善指導を受けた基金数は厚生年金 基金 100、国民年金基金 12、確定給付企業年金 22 であった。また、改善指導を行った項目は 厚生年金基金 238 件、国民年金基金 17 件、確定給付企業年金 28 件であった。 (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001lkog.html) 厚生労働省 平成 22 年人口動態統計( 年人口動態統計(確定数) 確定数)の概況を 概況を公表( 公表(2011 2011 年 9 月 1 日) 主な内容 厚生労働省が公表した平成 22 年人口動態統計 (確定数)によると、平成 22 年の出生数は 107 万 1,304 人で前年より 1,269 人増加し、死亡数は 119 万 7,012 人で前年より 5 万 5,147 人 増加した。出生数と死亡数の差である自然増減数はマイナス 12 万 5,708 人となり、自然増減率 は4年連続のマイナスとなった。 (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei10/index.html) 厚生労働省 平成 24 年度厚生労働省税制改正の 年度厚生労働省税制改正の要望事項を 要望事項を公表( 公表(2011 2011 年 9 月 30 日) 主な内容 厚生労働省が公表した平成 24 年度税制改正要望のうち、年金関連事項は、(1)平成 23 年度 末で廃止期限を迎える適格退職年金のうち、事業主が存在しない等の理由によって企業年金 等に移行できないものについて現行の税制優遇措置を継続する、(2)公的年金等所得の所得 区分を見直し、新たに年金所得を設ける、(3)高齢者の生活安定を図る見地から、老年者控除 の復活をはじめ、年金受給者の税負担のあり方について検討を行う、であった。 (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001q79e.html) 厚生労働省 平成 23 年「高年齢者の 高年齢者の雇用状況」 雇用状況」集計結果を 集計結果を公表( 公表(2011 2011 年 10 月 12 日) 主な内容 4 厚生労働省が公表した平成 23 年「高年齢者の雇用状況」(6 月 1 日現在)によると、(1)高年 齢者雇用確保措置を「実施済み」の企業の割合は 95.7%(前年比 0.9 ポイント減少)、(2)希望 者全員が 65 歳以上まで働ける企業の割合は 47.9%(同 1.7 ポイント上昇)、(3)過去 1 年間に 定年を迎えた 43 万 4,831 人のうち、継続雇用された人の割合は 73.6%であった。 (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001r7s6.html) 社保審 年金部会「 年金部会「社会保障・ 社会保障・税一体改革成案」 税一体改革成案」の検討を 検討を開始( 開始(2011 2011 年 8 月 26 日、9 月 13 日、9 月 29 日、10 月 11 日、10 月 31 日、11 月 11 日) 主な内容 社会保障審議会 年金部会は、社会保障・税一体改革成案に盛り込まれた年金分野の改革 項目(最低保障機能の強化、第 3 号被保険者制度の見直し、マクロ経済スライド、支給開始年 齢の引き上げ等)の実現に向け月 2 回程度のペースで検討し、平成 24 年の国会への法案提 出に向け、年内のとりまとめを目指している。 (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001n4yb.html) (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ofqi.html) (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001q0wz.html) (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001r5uy.html) (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001tgrr.html) (参照サイト http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001uwbd.html) 内閣府 提言型政策仕分けの 提言型政策仕分けの評価結果 けの評価結果を 評価結果を公表( 公表(を実施( 実施(2011 2011 年 11 月 23 日) 主な内容 内閣府は、年金制度(安定的な年金財政運営等)の提言型政策仕分けの評価結果を公表し た。評価結果の概要は以下のとおりであった。 ・ 現役世代を含む次世代に負担を先送りせず、将来も持続可能な年金制度とするため には、まずは年金の特例水準を来年度から速やかに解消していくべき。 ・ 制度を長続きさせるための取組について理解を求めるためにも、人口構成、賃金、 金利などの前提について、厚生労働省は、現実から目をそむけることなく、現状を もっと速やかにかつ的確に把握する仕組みを導入するとともに、その分析過程・結 5 果をわかりやすく国民にオープンにすること。このため、年金財政計算のあり方に ついては、社会保障審議会年金部会の検討スケジュールを明確化し、改革のロード マップについて行政刷新会議にも報告すること。なお、一体改革成案に沿って、低 所得者の年金の拡充も行うべき。 (参照サイト http://sasshin.go.jp/shiwake/detail/2011-11-23.html#B5-5) その他 その他 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 23 年度第 1 四半期運用状況を 四半期運用状況を公表 2011 (201 1 年 8 月 30 日) 主な内容 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、平成 23年度の第 1 四半期の運用状況を公 表した。収益率(期間率)は、国内債券がプラスとなったこと等から、プラス 0.21%であった。収 益額は、プラス 2,400 億円であり、第 1 四半期末の運用資産額は、113 兆 7,469 億円となった。 (参照サイト http://www.gpif.go.jp/operation/state/pdf/h23_q1.pdf) 論文 “Public Pension Systems and the Fiscal Crisis in the Euro Zone: Lessons for Latin America( ( ユーロ 圏 の 公的年金制度 と 財政危機: 財政危機 中南米 からの 教訓) 教訓 ) ” , Javier Alonso, Rafael Doménech, and David Tuesta (2011), BBVA Research 主な内容 欧州経済通貨同盟(EMU)の債務危機を受け、多くの加盟国が前例のない財政統合に向け て、短期的のみならず長期的な取組みが必要であるという事実が浮き彫りになった。そのため 多くの国では、自国の財政の長期的な持続可能性の確保を目的とした、年金制度改革の推進 が急務となっている。本稿は、欧州の年金制度改革に至った背景および採用された措置を分 析し、中南米諸国の教訓とする。この目的上、中南米、とくにコロンビアとペルーで実施された 改革についても検討する。この 2 ヵ国は積立制度と賦課制度が共存し続けているケースである。 また本稿は、これらの国の財政の長期的な持続可能性に関係する保険数理的均衡につき、定 量化および比較を行う。 (参照サイト: http://www.bbvaresearch.com/KETD/fbin/mult/WP_11_24_tcm346-263982.pdf?t s=2272011) 6 “How Much Do Means-Tested Benefits Reduce the Demand for Annuities(資力 調査に づく給付 給付により により年金 年金の 需要はどの はどの程度低下 程度低下するか するか) 調査 に基づく 給付 により 年金 の需要 はどの 程度低下 するか )?” ”, Monika Bütler, Kim Peijnenburg and Stefan Staubli (2011), Netspar DP 06/2011-052 主な内容 本稿は、資力調査に基づく給付が年金受給の判断に及ぼす影響を分析する。ほとんどの先 進国は高齢者に対し、最低水準の消費を可能にするような保障を行っており、これは通常、資 力調査に基づく給付という形で提供される。こうした資力調査に基づく給付を受けられる場合、 低所得層および中所得層においては、年金受給の代わりに(企業)年金という資産を換金する インセンティブがある。このとき、年金を受給する、すなわち長生きするほど資産を増強できると いう利益と、資力調査付きの補足給付の形で「自由」な資産をあきらめるという損失を天秤にか け、どちらかを選択する。資力調査に基づく公的扶助があることは、年金受給の要求水準を低 下させることがあるという事実が明らかになった。本稿は、個人単位のデータを用いて、年金資 産の水準を関数化したモデルにおける予想年金受給率が、スイスで観測された企業年金資産 の換金のパターンと概ね一致していることを示す。 (参照サイト: http://arno.uvt.nl/show.cgi?fid=114894) “Intergenerational Risk Sharing and Redistribution under Unfunded Pension Systems: An Experimental Study( (賦課方式の 賦課方式の年金制度における 年金制度における世代間 における世代間のリスク 世代間のリスク共 のリスク共 有 と 所 得 再 分 配 : 実 験 的 研 究 ) ” , Siqi Pan (2011), Research Master Thesis 2011-004, Netspar 主な内容 所得リスクと収益率リスクという固有リスクが存在するとき、賦課方式の年金は世代間のリスク共 有に貢献するのか。賦課方式が有する再分配という性質に対し、高所得層と低所得層はそれ ぞれどのような態度を示すのか。異なる年金制度のもとで、貯蓄行動やリスク管理行動を人々 はどのように調整するのか。またその結果、リスク・エクスポージャーの問題を考慮した場合、年 金制度は社会福祉にどのような影響を及ぼすのか。本稿の目的は、実験的手法を用いてこれ らの問題に解答を示すことである。 モデルから導かれるほとんどの理論的予測と一致して、本研究の主な結論は次のとおりとなっ ている。(i) 低所得層ほど賦課方式の年金をより支持する、(ii) 社会全体に占める高所得者の 割合が大きい場合、あらゆる所得層が賦課方式の年金をより支持する、(iii) 賦課方式の年金 は、積立式年金への拠出意欲を妨げる、(iv)賦課方式の年金部分が拡大すると、人々は積立 式年金においてより大きいリスクを負う傾向がある、(v)低所得層ほど賦課形式の年金から受け る恩恵が大きい、(vi)リスク回避度の高い人ほど賦課方式の年金から受ける恩恵が大きい。 (参照サイト: http://arno.uvt.nl/show.cgi?fid=115373) 7 “Individual Investors and the Financial Crisis: How Perceptions Change, Drive Behaviour, and Impact Performance( (個人投資家と 個人投資家と金融危機: 金融危機:認識はどう 認識はどう変化 はどう変化 行動を 左右し 成果に 影響を ぼすか) し、行動 を左右 し、成果 に影響 を及ぼすか )”, Arvid Hoffmann, Thomas Post and Joost Pennings (2011), Netspar discussion paper 07/2011-041 主な内容 本稿は、2007~2009 年の金融危機の期間に個人投資家の認識がどのように変化し、これら の認識変化が取引およびリスク負担の行動を左右し、運用成果に影響を及ぼすかを示すもの である。2008 年 4 月~2009 年 3 月の月次のサーベイデータと同期間における証券会社の顧 客の標本データを独自に組み合わせた本研究では、標本期間において投資家の認識が大き く変動し、リスク態度およびリスク認識の変動率が収益期待値の変動率より小さかったことが明 らかになった。特に、市場全体の動向に対して、収益期待値およびリスク態度の変化は正の相 関を示し、リスク認識の変化は負の相関を示した。概して、運用成果の高い投資家ほど収益期 待値とリスク回避度が高く、それゆえ取引頻度を少なく、リスク負担を少なく、売買レシオを低く 抑えていた。 危機のピーク(2008 年 9 月~10 月)にアウトパフォームした投資家は、それ以前 の期間も高いパフォーマンスをあげていた。しかしそれ以後、これらの投資家のリスク回避度は 低下し、もはや取引頻度を抑制せず、アウトパフォームもしなくなった。これは彼らが、成功体験 により自らの投資スキルを過信したことを示唆している。 (参照サイト: http://arno.uvt.nl/show.cgi?fid=115633) 8 論文・ 論文・書籍紹介 書籍紹介 論文紹介 1 金融危機の 金融危機の確定給付型制度への 確定給付型制度への影響 への影響と 影響と反景気循環積立基準の 反景気循環積立基準の必要性 Juan Yermo, Clara Severinson (調査研究委員会 中田正訳) (要約、はじめに、第1章(9‐19ページ)は「JSCPA調査報No.1」に掲載済みである。) 本欄では、年金数理人にとって重要であると思われる国内外の論文を紹介している。今 回は、OECD スタッフ Juan Yermo と Clara Severinson により、2010 年 7 月に「OECD 金融、 保険、私的年金に関するワ-キング・ペーパーNo.3(OECD Working Papers on Finance, Insurance and Private Pensions No.3)」として公表された「金融危機の確定給付型制度への影 響と反景気循環積立基準の必要性( The Impact of the Financial Crisis on Defined Benefit Plans and the Need for Counter-Cyclical Funding Regulations)」を紹介する。 「反景気循環積立基準」はこれからの確定給付型企業年金制度の財政運営を考える場合 のキーワードであり、年金数理人はじめ企業年金関係者にとって本論文は非常に示唆に富 む論文と考えられる。なお、原文は http://www.oecd.org/dataoecd/22/11/45694491.pdf で閲覧可 能である。 要約 年金積立の目的は加入員への給付の長期にわたる存続可能性、安定性、安全性の確 保にある。確定給付型年金制度の積立基準改正はそれらの目標を達成するために当然のこ とながらより反景気循環的なものとなっているが、そのことは目標達成に役立つだけでな く、徐々に DB 制度から DC 制度へと移っている事業主に対しても DB 制度をより魅力的な ものとするのに役立っている。上手に設計された積立基準は DB 制度を長期にわたって維持 するのに役立ち、加入員により大きな安全を提供するものとなる。一般的に、DB 制度の積 立基準は、つぎのことを行うものである。 (1)積み立て不足を補填する掛け金拠出を促し、事業主の財政状況がよい時には適切に 剰余を積み上げることを促すこと、 (2)予測される費用を維持するのを助け、変動を抑えること、 (3)事業主がリスクと費用を管理しやすくするものであること1。 本稿では、DB 年金制度における世界金融危機の影響を検討し、また、財政的に痛めつけ られた事業主を助けるために年金監督官が現在取っている政策について検討する。さらに、 本稿は政府や政策立案者に積立基準をより反景気循環的にするための示唆を与えることを 1 DB制度、DC 制度は次の OECD の公式分類に従っている。 DC 型企業年金:事業主が決まった保険料を払い、好ましくないことが起きた時にもその制度に対する追加 拠出の法的、制度的責任を負わない企業年金制度。 DB型企業年金:DC 型企業年金以外の企業年金制度。DB型企業年金は通常「伝統的制度」 、 「混合(ミッ クスト)制度」 、 「ハイブリッド制度」の 3 つに分類される。 9 目的としている。そうした政策は DB 制度給付の安全度を強化し、将来の労働者に対 し DB 制度を維持することを助けるものである。提案する政策は次のものである2。 ・保険料 保険料を 保険料を決定するのに 決定するのに現在 するのに現在の 現在の市場価値に 市場価値に信頼を 信頼を置きすぎないこと。 きすぎないこと。年金の資産と債務の 現在の市場価値を制度関係者に公開することは透明性を増すことであり、市場価値を用い てリスク管理を改善することができると考えられる。しかしながら、年金監督官は制度の 積み立て状況を検討するに際しては柔軟な態度をとるべきであり、また、保険料を決定す る際には年金基金や事業主が市場価格の変動性を幾分でも和らげることができるようにす べきである。 ・給付の 給付の安全性と 安全性と整合的な 整合的な最低積立水準か 最低積立水準か最低積立目標を 最低積立目標を持つこと。 つこと。特に、一国における 年金基金に求められる積立水準は制度資産や加入者を年金基金や事業主の破産から守るた めにほかに年金保証や保険制度などどのような保障制度があるかに依存する。 ・拠出上限をより 拠出上限をより柔軟 をより柔軟なものとすることによって 柔軟なものとすることによって経済 なものとすることによって経済が 経済が好調な 好調な時には債務以上 には債務以上の 債務以上の積み立て を認めること。 めること。最大拠出額や積み立て上限に関連する各国に特有の基準をより広い観点か らみた場合、改善点は、事業主のキャッシュ・フローの管理を毎年ベースから数年ベース に移すことである。政府は拠出期間を引き延ばす前に剰余の上限を引き上げることを検討 すべきである。 ・コントリビューション・ホリデーを制限 ・コントリビューション・ホリデーを制限し 制限し、事業主が 事業主が剰余を 剰余を使用できるようにすべきで 使用できるようにすべきで あること。 あること。年金監督官は、事業主が取ることのできるコントリビューション・ホリデーを 制限したり、追加給付を提案して年金資産の剰余の一部を取り崩したりするのを制限した りし、それらを認めるのは最低水準を超えるある程度の積立水準に達したときに限定すべ きである。 ・適切な 適切な年金数理の 年金数理の積立方法を 積立方法を通じて長期 じて長期の 長期の拠出パターンをとるようにすべきであること 拠出パターンをとるようにすべきであること。 パターンをとるようにすべきであること。 年金数理の積立方法は透明でなければならない。年金監督官は年金数理によるスムーズな 拠出パターンを奨励すべきである。 ・積立評価の 積立評価の全般的な 全般的な変動性を 変動性を反映するために 反映するために柔軟 するために柔軟な 柔軟な方法を 方法を積立基準に 積立基準に組み込む必要があ 必要があ ること。 ること。年金制度の第 1 の目標は制度加入者に安全な給付を提供することであるので、積 立基準は、事業主の利益が見込めなかったり、継続性に問題があるときには過度に圧力が かかるのを避けるものでなければならない。たとえば、年金基金が積み立て不足を取り除 くためにその回復期間を設定するときには年金監督官は積立水準の全体の変動性を考慮に 入れることができる。積立基準の柔軟度合は制度がどの程度事業主の追加拠出に期待でき るかといった他の要素にも依存する。 ・過剰な 過剰な規制を 規制を避け安定的な 安定的な規制環境を 規制環境を維持すること 維持すること。 すること。高度な給付保護を提供するために は規制の枠組みは安定していて強固である必要がある。積立基準では安定性と柔軟性の適 切なバランスをとることも重要である。あまりにしばしば基準を変えると年金の積み立て 2 事業主が拠出の変動性を抑える方法としては資産と負債をマッチングさせる方法がある。そうした実務 は本稿では扱わない。 10 にさらなる変動性を加えることになる。したがって、政策立案者は常に基準を変更するよ うなことは避けるべきであるし、過度に複雑な基準は事業主に長期の年金制度を設立する 意欲を失わせるものであることも考慮すべきである。 本稿は年金積立規制の収斂問題についても検討している。積立規制の国際的な標準化は 達成される可能性が低く、どのようにしても全部に合うものとはならないであろう。しか しながら、本稿で検討したように反循環的な要素を強めるような積立基準への収斂は DB 制 度を強化する可能性がある。このことは最低積立拠出と資産、債務をどのように決定する かについての国際的に最善の方法とガイド・ラインにより、また、積立と給付の安全性に ついての OECD ガイド・ラインのさらなる進歩によって補完されるであろう。 本文 はじめに 確定給付型年金制度(以下「DB 制度」という)は多くの OECD 諸国で歴史的に主要な捕 捉年金給付(企業年金給付)であった。多くの国でそうした制度は加入者に退職後の安全 な所得を提供していた。しかしながら、過去 20 年の間に様々な国で DB 制度は私的給付と しての役割が減少した。英国はおそらく DB 制度の重要性が最も急激に減少した国であり、 73%が新規加入者に対し DB 制度を閉じている。わずかな例外を除き、私的年金制度は将来 確定拠出型年金制度(以下「DC 制度」という)になると見込まれ、そこでは、個人は少な くとも自分の労働生活の間主要な年金関連リスクを負うことになる。しかしながら、近年 の金融危機によって個人が気まぐれな市場にさらされているという DC 制度のリスクに目 が向けられている。 DB 制度の運営に当たっては積立基準が中心的な役割を担っている。すなわち、事業主の 倒産から守るために給付の約束は非常に大きな資産に裏付けられているのである。しかし、 そのような積立基準とその事業主のキャッシュ・フローへの影響がまた事業主が長期にわ たる年金給付を続ける主要な動機ともなっている。事業主は DB 制度の費用と変動性を気に しているのである。DB 制度への拠出がどのくらいになるかは予測の難しい問題であり、年 金制度への拠出に上下限があるため DB 制度での債務以上の積み立てを賢明なものとして いるのである。DB 制度に比べ DC 制度はコスト予測が容易でかつ規制が弱いため DC 制度 が事業主の関心を引いているのである。 DB 制度の長期的な有用性と加入員の年金の安全性は積立基準の一部を変更することで 強化することができる。それは適切なことであり、保護制度を補足するものである。特に、 DB 制度の持続性と安全性は積立基準をより反景気循環的なものに改正することによって 強化することができる。積立基準を積み立て不足を補填する掛け金拠出を促し、事業主の 財務状況がよい時には適切に剰余を積み上げることを促すようにできれば、事業主が予測 11 される費用を維持し、変動を抑えるのを助け、事業主がリスクと費用を管理しやすくなり、 長期的に DB 制度を強化して最終的にはより多くの加入員に安全を提供するものとなる。金 融危機は一時的に、こうした方向での政策を実施する契機となったが、より広範な積立基 準改革の必要な国もある。 本稿はいかにしてそのような積立基準改正をなし、どのような問題を心に留めておくべ きかを述べようとするものである。しかし、年金監督官は、経済状態がよい時には賢明と みえる規制も経済状態が悪く現金不足のようなときには政治的に実行不能なこともあるこ とを頭に入れておくべきである。年金制度は長期にわたって保護されなければならないの で、環境の変化には柔軟に対応しながらも規制自体は不況に強いものとしなければならな い。 積立基準の改正は私的年金制度が運営されている広範な状況下で検討されなければなら ない。特に、政策立案者は、DB 制度加入者・受給者が直面するリスクである事業主の倒産 から DB 給付を保護する他の仕組みについて考慮する必要がある。様々な国でそうした給付 保護を行う仕組みを導入しているが、それは、DB 給付の費用を増加させるものともなって いる。政策立案者はいかにして効率的かつ効果的な年金保護の仕組みとするかについて考 慮しなければならない3。 政策立案者は、また、DB 制度の将来を明るいものとするために、つぎの様な他の点にも 注意を払わなければならない。まず第 1 に、よりよいリスク管理であり、それは DB 制度が 直面する主要なリスクをカバーし、積立率の変動を抑え、給付の安全性を増すことである。 年金監督官は、ALM の利用を推奨し、債務評価の場合、長生きリスクの最新の推定等慎重 かつ現実的な仮定を用いることを要求しなければならない。 次に、年金規制は、こうしたものに付きまとう長期の不確実性に対応するため、DB 制度 が給付設計上ある程度の柔軟性を持つことを推奨するものでなければならない。そうした 柔軟性を持つ例としては、平均余命にリンクした給付や年金制度の財政状態に応じた条件 付きスライドなどがある4。そうした仕組みは現在の加入者の既発生給付に対し適用される ものであるが、受給者にもより大きな安全性をもたらすものである。 第 3 に、政策立案者は、国際年金会計基準にもっと注意を払い、どのように事業主の行 動に影響を与えているかを理解すべきある。なぜならば、会計基準が多くの企業において、 DB 年金制度をやめる大きな理由となっているからである。近年における市場重視の会計基 準の世界的な普及と厳しい資産運用結果や低金利のため年金制度は企業役員の注目を浴び るようになっている。比較的控えめな年金制度の企業でも、財政報告では、年金制度のた め他制度への拠出を縮小せざるを得なくなっている。市場重視の会計基準は透明性を高め、 3 政府設立の保証制度については、“Fiona Stewart,” Benefit Security Pension Fund Guarantee Schemes”, OECD Working Papers on Insurance and Private Pensions, No. 5, January 2009 参照。また、Andrew Slater and Con Keating, “ Risk with everything? Pension cost and variability” , BrightonRock Group は市場での解決法について 議論している。 4 Colin Pugh and Juan Yermo, “ Funding Regulations and Risk Sharing”, OECD Working Paper on Insurance and Private Pensions No 17, April 2008 参照 12 財務報告の比較可能性を高めることは間違いない。しかしながら、市場重視の会計によっ て実現された変動の多い企業利益への DB 制度の影響は非常に強くなっており、長期の企業 利益、企業文化、規制環境、さらには長期の財務戦略といった企業がどのようにして従業 員に報いるかというより基本的な課題をしのぐものとなっている。 本稿は、次の 3 章からなる。第 1 章では、金融危機の DB 制度と年金保護制度への影響を 検討し、主な年金規制の反応を記述する。第 2 章では、積立基準をより反景気循環的にす る政策提言を行う。第 3 章では、結論として、積立基準はどの程度統一されるのがよいか について考察する。 第 1 章.金融危機の 金融危機の確定給付型年金制度への 確定給付型年金制度への影響 への影響と 影響と規制当局の 規制当局の反応 (1)年金制度の 年金制度の財政と 財政と順循環性 2008 年の金融危機は世界の年金資産に大きな影響を与えた。OECD では、2008 年末時点 で、5 兆 4 千億ドル(20%以上)資産が減少したと推計している。OECD 各国の年金資産 の60%以上は DB 制度や収益率や給付が保証された制度のものである。2009 年に市場は 一部回復したものの、DB 制度の積立レベルが依然として非常に低い国もある。 DC 制度の性質として、2008 年の DC 型の年金資産は大きく減少した。会計ベースでみた DB 制度の積立水準もまた減少したが、DC 制度ほどではなかった。2008 年の DB 制度の資 産減少が債務評価で用いられる企業債券イールドの上昇によって一部相殺した国もある。 2009 年には、逆の効果を経験した国もある。すなわち、2009 年の投資収益が企業債券イー ルドの下降によって一部相殺されたのである。さらに、オーストラリアのように、為替の 影響で投資収益が減少した国もある。 事業主に報告される DB 制度の積立水準は制度への拠出を決定する年金監督官への報告 積立水準と違う場合がある。というのは、両者は、しばしば異なる前提や異なる数理計算 方法で算出されるからである。たとえば、年金監督官への報告では、よく、国債のような 各国固有のリスク・フリー・レートが用いられるが、広く用いられている会計基準では、 高格付けの長期社債が用いられる。 たとえば、オランダでは、年金制度は積立のための計算にスワップ・レートが義務付け られているが、中央銀行では 2007 年末に年金資産の平均は債務を44%超過していると推 計していた5。2008 年末には監督官への報告ベースで平均的な年金制度の資産は債務を5% 下回っていた。これらのオランダ年金制度の監督官への報告ベースの積立レベルは事業主 による会計基準での積立レベルとひどく違ったものとなっている。というのは、会計基準 の積立レベルは普通上場企業でだけ異なる前提で算出されるからである。たとえば、監督 官への報告では国債イールド等の国固有のリスク・フリー・レートが用いられるが、広く 5 年金基金の積立率推計値は http://www.statistics.popup.cgi?/statistics/excel/t8.8ek.xls で入手可能 13 使用されている会計基準では長期の高価格付け社債レートが用いられる。 上述したオランダ年金制度の監督官への報告ベースの積立水準に比較すると、上場企業 の中央値企業年金資産は年金債務に比較して 2007 年度末現在で10%、2008 年度末現在で 11%、年金債務より小さくなっている。 企業の財務報告は容易に入手でき、国際比較が可能な企業の DB 制度についての積立状況 情報について公表しがちである。しかし、企業の財務報告での積立水準はよくグローバル・ ベースで報告され、国内の規制レベルで何が起きたかについてはぼやっとしか報告されな いことが多い。図 1.は 2,100 の上場企業について 2007 年度、08 年度、09 年度の年次財務 報告書をもとに積立レベル(DBO)の中央値を示したものである。データはそれらの企業 の年金制度の積立レベルの中央値を示しており、それら企業の所在国でグループ化してい る。未積立レベルの中央値は 2007 年度末の 13%から悪化し 2008 年度末 23%、2009 年度末 26%になっている。 広く使われている年金会計基準には多くの議論もあることに注意しておく必要がある。 たとえば、積立レベルの大きな変動が企業の DB 型年金制度の支払い可能ポジション固有の 変化によるものより債券レートのちょっとした変化によるものであることなどである。 図 1.2,100 企業の年金給付の剰余または不足割合の中央値(企業は所在国でグループ化 している。また、2009 年度の DB 債務を報告した企業のみ集計している。 ) 14 DB 制度の積立レベルの中央値の 2007 年度からの DB 制度の未積立増は、多くの国で、 DB 制度への拠出を増加させた。このため、財政的に厳しい事業主に対し何らかの財政緩和 策を求める声が大きくなった。各国の政策立案者(たとえば、カナダ、フィンランド、ア イルランド、日本、オランダ、ノルウェー、イギリス、アメリカ)では、そのレベルは異 なるものの、何らかの一時的な積立緩和策が取られた。そうした緩和策にもかかわらず、 カナダ、オランダ、アメリカのような大きな DB 制度を持つ国では、回復計画の始められた 2009 年の拠出率は 2007 年より増加した。図 2 は OECD 加盟国で 2007 年から 2009 年に報告 された総拠出額を GDP 比で示したものである。 年金制度は経済が好調な時には事業主の年金拠出を休止するものの(コントリビューシ ョン・ホリデー)、経済が低迷するときには、事業主に拠出増額を要請することなど、年金 制度規制は本質的に順景気循環のものとなっている。企業利益が少なかったり、赤字の時 の事業主のキャッシュ・フローの減少は事業投資の減少を通じて 2 次的な経済影響を与え、 そのことが事業主の見通しをさらに悪くする。 図 2.事業主・従業員の確定給付型制度およびハイブリッド制度への総拠出額の GDP 比 (2007-2009) (注:米国のデータは民間従業員のものであり、2008、2009 年は米国 FRB の推計である) 15 年金の順景気循環的性質は資産運用戦略にも影響を与える。証券価格が高騰していると きには、年金基金は必ずしもポートフォリオをリバランスさせず、その結果ポートフォリ オの証券割合を増加させることがある。一方、価格低迷期には、証券の一部を売り払って 損失を確定するため市場のさらなる低下に拍車をかけることがある。デンマーク、フィン ランド、オランダのように年金の資産、債務の算出に市場価格を用い(特に割引率にスポ ット・レートを用いる場合)定量的なリスクに基づく積立基準を用いていたために、金融 危機の時に年金資産投資を順景気循環的に悪化させたように見える国もある。デンマーク やフィンランドでは、規制はモルゲージ債や他の証券の売却を避けるように変更されたが、 オランダでは、債務評価にスワップ・カーブのスポットレートを用いていた結果悪循環に 陥ってしまった。つまり、長期スワップへの需要が長期スワップ・レートの下落をさらに 助長したのである6。リスクに基づく積立基準のよい点、悪い点については本稿の第 2 章で 詳細に検討する。 DB 制度の順景気循環性の第 3 の特徴は年金給付の動きが経済状態と同じことである。金 融危機の間、DB 制度はその性格上また規制上 DC 制度よりも給付が守られた。DC 制度で は、実現された資産価値下落(これは、たとえば、加入員が退職し、年金を購入したとき に起きる)と拠出の減少がより少ない給付に還元される。しかしながら、DB 制度では、金 融危機に対応して給付が削減される。特に、柔軟性や条件付き給付を持つ DB 制度を運営す る年金基金は年金債務の増長を抑え、積立率を改善させるためそうした性質を積極的に用 いている。たとえば、多くのオランダ年金基金では、回復計画の一部として、数年間給付 スライドを休止することを提案している。 (2)規制緩和の 規制緩和の試み 金融危機の間における規制の変更は特に年金基金や事業主に積立基準や関連規制に柔軟 に対処しうるようにすることを目的としていた(表1.参照)。これらの変更は年金制度の 閉鎖や年金拠出の要請、さらには企業の倒産に導くような悲惨な財務状況時に企業の利益 やキャッシュ・フローの確保にさらに圧力をかけることを避けるものであった。 また、規制の変更は年金基金が長期の投資戦略を維持するのを許容し、投資戦略の順景 気循環的なフィード・バックを緩和するものでもあった。このことが顕著なのはデンマー クとフィンランドであるが、そこでは、年金規制は証券やモルゲージ債などのリスク資産 を売却するよう圧力をかけるものであった。これらの国では財政評価やソルベンシー規制 を緩和する決定をし、年金基金の長期の財政状況に有害であるとされたものが、それが財 政上の不安定さの原因だということで売却されるのを予防した。 6 Geneva Association Systemic Risk Working Group(March 2010), “ Systemic Risk in Insurance: An Analysis of Insurance and Financial Stability2, the Geneva Association , 。39 ページ参照。 16 7 表 1. .2007 年からの DB 制度に 制度に対する主 する主な規制緩和の 規制緩和の試み 国名 年金規制 カナダ 連邦政府が管轄する制度について 2008 年度に発生した不足額に対し て一定の条件のもとで 5 年の回復期間を 10 年に延長。いくつかの州 で追随。 デンマーク 2008 年 10 月、金融監督庁(FSA)が企業年金債務算出に用いる市場 利率を一時的に引き上げ。同時に、監督信号システムを一時中止。代 わりに、企業年金は積立金の詳細な使用状況を 4 半期ごとに FSA に 報告。 フィンランド 新しい法案(2008 年 12 月通過)はよくない市場状況の時には証券を 売却せずに年金基金の支払い能力を確保することを目的としたもの で、2010 年末まで法的効力を持つ。政府はこうした方策を 2012 年ま で延長することを検討中。 アイルランド 年金監督官は一定の条件のもとで積立の準備のための追加時間を与 えたり、回復計画期間を延長したりする(すなわち、10 年以上)な どできるだけ柔軟に積立ができるようにした。また、回復計画を認め るのに、任意の事業主保証を考慮することとした。 日本 2009 年 4 月、企業年金制度の未積立て部分を回復するための事業主 拠出を猶予することを公表した。 オランダ 回復計画の提出期限を延長するとともに、回復期間を 3 年から 5 年に 延長した。 ノルウェー ノルウェーでは、死亡率変更の結果減少した積立金の回復を 3 年で行 うこととしていたが、今回の危機により、これを 5 年に延長した。 スイス 2008 年 10 月、スイス政府は年金基金が加入者に支払う最低保証収益 率を 2.75%から 2%に引き下げた。 アメリカ 2006 年年金保護法に含まれれていた積立不足を償却する企業年金の 積立基準緩和に関する 2008 年および 2010 年の新規制を 7 年から 15 年に暫定的に延長した。 イギリス イギリスでは、積立規制のなかで回復計画の再構築やバック・ローデ ィイングなどの柔軟な取り扱いが認められている。この柔軟なアプロ ーチは時々の状況に合わせるためのものであり、法制上の変更を必要 としない。 7 Pablo Antolin and Fiona Stewart, “ Private Pensions and Policy Responses to the Financial and Economic Crisis”, Working Papers on Insurance and Private Pensions, No 36, April 2009 および OECD, “ Policy Action in Private Occupational Pensions in Japan During the Economic Crisis of the 1990’s”, 1 July 2009 参照 17 これらの暫定的な規制上の枠組みへの適応は規制というものについて、特に評価基準や 積立基準について基本的な疑問をひき起こしている。それらの問題については、本稿の第 2 章で検討する。 (3) 金融危機の 金融危機の年金保証制度への 年金保証制度への影響 への影響 OECD 各国の中には、事業主が支払い不能になっても給付を守る支払保証制度をもってい る国もある(カナダ・オンタリオ州、ドイツ、日本、スウェーデン、スイス、イギリス、 アメリカ)8。これらの制度は悪化する事業主の財務状況と支払い不能年金基金の増加によ る財政危機によって試練を受けた。 アメリカの PBGC(米国支払保証公社)では、貸借対照表上の不足が 2008 年度末(2008 年 9 月末現在)の 112 億ドルから 2009 年度末の 219 億ドルに増加した。労働長官が議長を務 める PBGC 理事会は証券投資目標の 28%から 45%の引き上げとオールタナティブ(土地や プライベート・エクイティ)への 10%の配分という 2008 年 2 月の決定を取り消した。 ドイツは PSVaG の財政運営に関する構造改革を行った。事業主が支払い不能に陥った時 に受給者や加入員の既発生債務を保護する経営者の相互保険協会の費用増のための財政構 造改革である9。これらは 2006 年に施行された。PSVaG は伝統的に賦課方式で運営され、財 源は支払い不能が起きた時にコストを保険加入事業主に配分する形で調達されていた。 2006 年、PSVaG は事業主拠出を 15 年以上にわたり蓄積し過去債務をカバーするファンドを 設立した。そのファンドは保険加入事業主が減少するために保険料が増えるのを緩和しよ うとするものであった。将来の年金給付については事業主が支払い不能になったときに全 事業主にコスト配分する形で財源調達されることになる。2008 年末の PSVaG の債務に対す る資産の比は 2007 年末と同様安定的であった。PSVaG の 2009 年次報告書によると、2009 年に支払い不能件数は前年から 80%増、受給者は 800%以上の増であった。2008 年には 5 億 610 万ユーロであった PSVaG の保険料総額は 2009 年には 40 億 6 万 8,300 ユーロであっ た(4 年間にわたり平滑された過去債務への保険料を含む。) 。 英国の年金保護ファンド(PPF)では、2008 年 3 月末の数理上の不足 5 億 1700 万ポンド が 2009 年 3 月末に 12 億 3,000 万ポンドに増加した。 PPF が支払い対象としている債務は PPF が承認した制度への待機者と受給者への年金給 付、さらには事業主が支払い不能になったため PPF の承認前の評価中である制度を含んで いる。PPF は理事会に支払い不能通知が出され承認されそうな制度へも給付を支払っている。 したがって、PPF が所有する資産は PPF に移管され承認される制度の受給者と待機者の支 8 Stewart,F.(2007), “ Benefit Security Pension Fund Guarantee Schemes”, OECD Working Papers on Insurance and Private Pensions, No5, OECD Publishing 参照 9 支払い保証保険は次の企業退職給付制度に適用される。ブック・リザーブ(Direktzusage)、年金基金 (Pensionsfonds) 、サポート・ファンド(Unterstutzungskasse)、一定条件下での直接保険(Direktversicherung)。 18 払いに十分なものであることを目指している。PPF への請求数は増加したが、金融危機の当 初考えられたよりは少なかった。2009 年 3 月の支払い能力は数理債務ベースで 88%であっ たが、金融市場の反発で大いに改善すると見込まれている。 スウェーデンの PRI Pensiongaranti(以前は FRG と呼ばれた)の貸借対照表上の剰余は 2007 年 12 月末の 13 億クローナから 2008 年末には 5 億900 万クローナに減少したが、2009 年 末には 14 億 8,200 万クローナに増加している。リスク調整後の PRI の保険対象は 2007 年の 1 億クローナから、2008 年 1 億 700 万クローナ、2009 年 1 億 800 万クローナに増加してい る。事業主が倒産した場合、PRI Pensiongaranti は年金制度関連の債務を外部保険会社に売 却する。PRI Pensiongaranti の純費用は 2007 年の 1,500 万クローナから、2008 年 2,020 万ク ローナ、2009 年 6,390 万クローナに増加している。 図3.は本節で議論した保証制度の 2008 年度末、09 年度末の債務に対する資産超過(ま たは過小)割合を示している。この期間にドイツ、イギリス、アメリカでは剰余(あるい は不足)は減少し、スウェーデンでは増加している。 図 3.年金保証制度における資産超過割合(2008 年度、2009 年度末現在) 19 第 2 章.反景気循環的積立基準の 反景気循環的積立基準の必要性 世界がより反景気循環的な積立基準へ向かっているため、OECD の「企業年金規制に関す る勧告と中核原則」にある積立と給付のガイドラインが意味のあるものとなっている。ガ イドライン 3.16 は「法規制は企業拠出の短期変動を緩和しようとする積立方法の導入を妨 げてはならない」と述べているし、3.17 では、年金監督官による一時的な猶予を認めてい るものの、3.18 では、「市場の下落に対する積立を行うインセンティブを与えるために、積 立基準は反景気循環を目指すべきである」としている。 しかしながら、積立方法に合うような柔軟性を確保するためには、景気循環の事業主の キャッシュ・フローへの一時的な影響と制度の積立状況を改善する長期の構造変化を区別 することが重要である。長期にわたり十分に高い積立水準を維持するには、様々な方法が あるが、年金制度はその性格上非常に長期にわたるものであり、積立基準は DB 制度の長期 にわたる財政的な実行可能性、安定性、安全性を目指すものであることを忘れてはならな い。 私的年金制度の中で DB 制度が主要である国について、積立基準を付録Ⅰに記述した。そ れらの国の間でも、積立基準は様々であるが、次の 3 点で共通している。 ・毎年事業主が年金制度に拠出する最低積立基準があること; ・過剰な積立水準を禁止することで税収入を守る最大積立基準があること、および制度に 拠出しうる税優遇拠出額に制限があること; ・債務以上の積立額のうち、何処までが事業主に戻しうるか、また給付の増額や拠出の減 額に使用しうるか等の剰余の帰属についての指針があること。 多くの OECD 加盟国では、積立基準に何らかの反景気循環要素が含まれているが、さら なる反景気循環要素が必要である。反景気循環的積立基準は、DB 制度を景気後退時に守る だけでなく、上手に設計されれば、DB 年金制度を提供している事業主に対しその魅力を高 めるものともなる。 (1) 保険料決定に 保険料決定に当たり市場価格 たり市場価格を 市場価格を過度に 過度に信用することを 信用することを避 することを避けること まず、事業主が DB 制度にしはらう必要拠出額を決定する剰余、不足はというのは理論的 な概念だということ心に留めておくことが重要である。算出される債務額は加入者がどの くらい働き続けるか、どれだけ長生きするか、賃金上昇はどのくらいか、利回りはどうか といった選択される仮定(基礎率)に大きく依存する。そうした仮定は何十年にもわたる ものであるので、実際に起こることを正確に予測はできない。また、ほんの少し仮定を変 えるだけで剰余・不足が大きく変わってくる。年金制度について議論する場合には、ある 時点での事業主の拠出額は超長期にわたる予測された年金給付額に基づくものであること 20 に留意する必要がある。 さらに、市場価格の大きな変動は、特に長期証券の場合大きいのであるが、経済学的に 常に正当化されるわけではない。実際、価格というものは市場の考え方や「アニマル・ス ピリット」あるいは低い流動性といったある種の市場の非効率を反映したものでもある。 したがって年金の評価に市場価格を直に用いると評価に不必要なノイズを持ち込むことと なり、積立水準や拠出額に過度の変動性をもたらすことになる。 それにもかかわらず、資産・債務の市場価格はリスク管理を向上させるのに役立つほか、 解散のコストを計算するために保険者や情報公開目的でバイアウト価格を算出するのに有 効である。特に、市場価格に基づくて資産額・債務額について関係者に情報公開すること は透明性を増したり、制度終了時や事業主の倒産時に潜在的な不足(場合によっては、過 剰な積立)を示すのに適切である。しかしながら、年金制度の毎年の拠出額を決定するの に、あまりに日々の市場変動を反映させるのは年金制度積み立ての 3 つの重要目標である 長期にわたる実行可能性、安定性、安全性を維持するのに非生産的である。 毎年の積立のための拠出額を決定するのに市場のスポット・レートを割引率として用い ると金融危機時に観察されたように積立率の変動性が高くなる10。拠出額決定に市場の割引 率を用いる積立規制は他の条件が同じならば長期にわたる平均的な割引率を用いる積立規 制より大きな変動性を持つ拠出レベルになりがちである。たとえば、割引率は再計算日の 国債スポット・レートを用いるよりは再計算日以前の何年かにわたる割引率を用いる方が よいであろう。平均的な割引率を用いた計算は金融市場の短期変動を抑えるが、掛け金計 算において市場レートに直接リンクしたものとなっている11。 一方、平滑化された割引率はある時点での純粋な市場の(mark-to market)積立状況に関 する透明性といったものを減少させ、積立水準の回復を遅らせてしまう可能性もある。積 立と給付確保に関する OECD ガイドラインでは、平滑されていようと時価評価であろうと 割引率は DB 年金制度の人口動態、リスク、成熟状態を考慮して慎重に選択されなければな らないとしている。しかしながら、市場価格ベースで決定された積立水準と必要拠出額算 出のためルールによって決定された積立水準は長い期間でみた場合あまりにかい離するこ とがないことが望ましい。というのは、かい離するということはたとえば算出の仮定があ まりに楽観的であったり、悲観的であったりといった積立評価に問題があることを示して いるからである。政策的な対応に関しては、平滑された割引率を使えば利回りの傾向をつ かむのが難しくなり、対応が遅れることにもなりかねない。たとえば、年金制度の市場評 価の積立状況が急速に悪化していても、平滑化された割引率での積立水準は依然として比 較的安定的なことがある。 10 (利率の低下によって)債務が増加するときに資産を増加させることによって年金基金は投資リスクを ヘッジすることが可能である。実際、ヘッジを行えば、積立率の変動を抑えることができる。 11 平滑化された割引率を用いることが IASB 国際会計基準 IAS19 で勧告されている(Samuel Sendr” Penalising Changes Ahead”)。 21 日本やアメリカ等では、市場変動の拠出レベルへの影響を和らげるため平滑化した割引 率を用いている。オランダ等では割引率を平滑化するが、それは、長期的観点からは非生 産的と思える積立・投資戦略の大幅で急激な変化を避けるためである。デンマークで 2008 年 10 月に企業年金債務の市場評価を一時休止したのは支払い保証水準が危険水準に達した ための担保付債券・証券の投げ売りを避けるためのものであった。イギリスの割引率につ いては、市場利率を考慮して選択されるが、大きな変動を避けるため市場利率そのものを 使うことはしない。イギリスの割引率では債務の償還期間を考慮し、資産構成や事業主と の契約を考慮して慎重に修正することになっている。 拠出額を決定する際にどの程度市場水準を反映させるか決めるときに他に考慮しなけれ ばならいことは制度の剰余・不足を決めるときにどの程度制度資産平滑化を行うかという ことである。年金制度の資産管理に関する OECD ガイドラインでは12、年金制度資産は適切、 透明、情報公開された基準で評価されねばならないとしている。積立目的で適切な平滑化 技術を用いることは OECD 勧告と整合的である。しかしながら、資産価格の平滑化が用い られた場合、監督官は年金制度運営者がそうした方法の積立水準やリスク管理、さらには 制度が安全だという加入員の認識に与える潜在的な影響について理解していることを確認 しなければならない。年金資産評価に用いた平滑化技術は拠出額を決定した際に年金債務 評価に用いたものと整合的でなければならない。 カナダ政府が最近行った積立基準の改正はこの原則にのっとっている。2010 年 6 月、カ ナダは以前の順景気循環的な積立基準を緩和する DB 制度向けの最低積立基準を決定する ための新しい方法を採用した。新しい方法は最低積立基準を定めるために(一時点でなく) 平均の支払い可能比率を用いるものである。積み立て目的の平均支払い可能水準は過去 3 年間の年金資産の市場価格に基づく支払い可能水準の平均である。事業主は毎年その基準 で計測された不足の 20%以上を支払わなければならない。この方法は資産・債務の短期変 動を緩和することを目的としている13。 平滑化には限界もある。特に、平滑期間が長すぎたり、深刻な財政状態にある年金制度 の適切な管理がなされない場合はそうである。たとえば、2006 年年金保護法の通過以前、 米国では資産の 5 年間の平滑化と利率の 5 年間のウェイト平均を用いた債務評価が認めら れていた。この平滑化のため、2000 年代初めに制度の財政状態を歪んで把握することとな り、不十分な最低拠出を導くこととなった。このことはユナイテッド航空、US航空、ベ ツレヘム鉄鋼の年金制度解散の大きな要因となった。これらの制度では、制度終了基準で 重大な積み立て不足であったにもかかわらず加入者への給付を増額し続けたのである。米 国政府は、当時、議会に平滑化を厳しくするように強く働きかけ、現在の年金保護法では、 資産・債務の平滑期間は2ないし 3 年となっている。 12 13 http://www.oecd.org/dataoecd/59/53/363164399.pdf カナダ財務省 News Release 2009-103” Backgrounder “, 27 October 2009 参照 22 (2)受給権保護と 受給権保護と整合的な 整合的な最低積立基準や 最低積立基準や積立目標を 積立目標を設定すること 設定すること 一般的に積立基準には事業主の毎年の拠出額を決める最低基準か積立目標が述べられて いる。最低基準は①年金制度の積立状況や積立目標別にそれぞれの制度について詳細に定 められている場合、②年金制度ごとの拠出額や積立目標に基づいて必要な拠出を定めるよ り原則的な方法の場合、③年金制度ごとにリスクの大きさを定量的に分析して必要な拠出 を定める方法の場合、のいずれかである。最後の場合、リスクの高い資産を持つ制度は低 い制度より高い積立率が求められる。 企業年金 DB 年金制度で積立目標や最低拠出額をどのレベルに設定するかは必ずしも自 明なことではないことは頭に入れておかなければならない。積立目標や最低拠出額の水準 は国内年金制度に基づく様々な理由で国によって多種多様である。特に、事業主が支払い 不能に陥った時資産や加入者・受給者を守る年金保証や年金保険等他の保証制度の有無等 によって各国の必要とされる年金制度の積立水準は変わるのである。 イギリスでは、トラスティは慎重な債務評価に基づいて最低積立目標を設定することが 求められている。それは、事業主の考え方と安全水準に基づいて制度ごとに定められる。 事業主は投資収益や加入者の変化等の制度のリスクと変動性を顧慮してそうした要求にこ たえなけれならない。トラスティがそれらのリスクを受容する場合には、事業主が好まし くない結果に対して追加拠出を行うことの確信がなければならない。トラスティには制度 評価の枠組みが期待されており、トラスティは制度運営の良しあしも評価しているので、 このことが制度の安全にとって重要だと見なされる必要がある。 デンマークやオランダなどでは、最低積立基準は年金制度の投資戦略と結び付けられて いる。積立ルールは必要な拠出水準と積立バッファー決めるためにリスク・プロファイル の定量評価を求めている。リスクが高く変動の大きい資産を持つ年金制度にはより大きな バッファーを持つことが要求されている。この方法のよい点は積立ルールが企業の財務状 況や市場環境のよい時にこのましい剰余の蓄積を促すことである。また、よくない点は、 厳密な定量的、リスク・ベースの方法は市場が荒れているときに順景気循環的な拠出や投 資戦略になりがちなことである。景気低迷期にはリスク資産のパフォーマンスは低迷し積 立水準が下がるので、年金基金はリスク・ベースの支払い指標を改善させようとしてそう した資産への投資を減少させがちなのである。そうした時期には必要な拠出額も上昇する。 積立ルールがスポット・レートを用いた市場価格評価の資産・債務評価と併せて適用され ると順景気循環的な性質はさらに強くなる。 (3)柔軟な 柔軟な税制を 税制を通じて経済 じて経済の 経済の好調時に 好調時に適切な 適切な水準の 水準の過剰積立を 過剰積立を認めること 市場環境のよい時に積立水準を高くしておけば、ひどい市場環境で資産価値が急落する 23 一方低い割引率で(安全のため)債務が上昇するというダブル・ショックの厳しい状況時 にバッファーとすることができる。したがって、事業主の財務状況がよい時に拠出を増や すのは適切な方法である。デンマークやオランダの例外的な事例以外は、政策立案者はこ うした方向をとらない。その理由の一つは債務以上の積み立ては税制上認められないから である。 多くの国では、税制優遇の拠出は毎年の最低水準を超えることが求められているが、カ ナダ、日本、アメリカでは、積立水準に上限を設けており、そのレベルに達すると拠出休 止が必要となったり、税制優遇が受けられなくなったりする。これは、事業主が年金制度 を税金回避に使用することを防ごうとするものであるが、事業主が困難な経済状態の時に クッションとなる剰余のを積立を禁止しないように注意しなければならない。各国の規制 でこれらを実現するには、最大拠出や積み立て上限を事業主がキャッシュ・フローを管理 しやすいように一年でなく数年にわたって平滑化したものとするのも一法である。政府は 拠出繰り延べの前に剰余の上限引き上げを検討すべきである。他の方法としては、市場評 価の剰余水準の代わりに平滑化された積立基準を超える割合(何%)として最大積立上限 を決めて平滑要素を導入することである。 カナダ政府は、最近、上限を継続基準の債務の10%から25%に引き上げることを提 案した14。これは望ましいことであるが、それでもカナダは、上限が150%である日本や 資産が既発生債務(継続している制度の場合)と賃金上昇分(賃金に基づかない制度の場 合は、最近の経験に基づいてそうなるであろうと予測される給付増)を加えたものの15 0%を超えると税制優遇のなくなるアメリカに比べと、上限は依然として低い。 (4)コントリビューション・ホリデーや事業主 コントリビューション・ホリデーや事業主の 事業主の剰余へのアクセスを 剰余へのアクセスを制限 へのアクセスを制限すること 制限すること 債務額を超える積み立てを認めるだけでは十分ではない。多くの国で、そうしたバッフ ァーを構築するのを阻害する要因が見られる。事業主は規制上の最低積立水準が達成され るとすぐにコントリビューション・ホリデーをとりたがることが多い。したがって、制度 監督者は事業主がコントリビューション・ホリデーをとったり、追加給付を提案したり、 年金資産の剰余を取り崩したりするのを最低水準を超えてある程度以上の積み立てがなさ れたときに限って認めるなどして制限することを検討すべきである。年金制度監督者はそ うした剰余を減らす行動を徐々に導入し、バッファーが急速になくなってしまうリスクを 減らすこともできる。 ブラジルでは、積立バッファーが構築されるまで剰余を減らすことが認められていない。 ブラジルでは、継続基準での債務の100%を超える積み立てが求められているわけでは ないが、一端剰余が生じれば、それは「不測の事態に備えた積立金」として積み立てられ ねばならないことになっている。この積立金は債務の25%まで積まれ、それを超えると 14 カナダ財務省 News Release 2009-103” Backgrounder “, 27 October 2009 参照 24 「特別積立金」として、事業主・加入員の拠出の減額や延期、給付改善に用いるために取 り崩すことができる。「特別積立金」が3年以上存在する場合には、それらの目的に使用し なければならないこととされている。 ブラジルのやり方では、事業主が剰余の一部を引き出すことができるかについて議論と なっている。改革の前に、新しい積立ルールについて労働組合から意見が出されたが、今 でも剰余ルールについては多くの反対意見がある。南アフリカでも、1990年代終わり までに DB 制度の積立率が平均で115%になったため、従業員と事業主の間で積立金の所 有をめぐって熱い論争が繰り広げられた。南アフリカ政府は、積立金の所有について次の 原則を公表した。Ⅰ関係者の報酬はリスクに見合っていなければならないこと、Ⅰ不足は埋 められなければならないこと、Ⅰ最低給付が受給者に公平に給付されなければならないこと。 これらの背後にある考え方や原則は明らかであるが、実行に移す段階で多くの問題があり、 多くの剰余配分ケースが未解決となっている15。 多くの OECD 加盟国では、一般的に、事業主が年金制度の剰余に関与することはほとん どない。例外は、アイルランド、オランダ、ポルトガル、スウェーデンである。アイルラ ンドでは、剰余引き出しの程度と形式が年金規約に定められていればよい。オランダでは、 剰余が引き出される前の10年間にすべての受給者が完全な(スライド付き)給付を受け 取っていることが 法制上の要件となっている。ポルトガルでは、剰余の引き出しは剰余が 「構造的」 、すなわち、少なくとも5年以上にわたって一定以上の水準にある場合に限って 認められる。 アメリカでは、重い税金が課されるものの事業主への剰余の返還が可能である。制度内 別勘定の退職者医療勘定への過剰資産の移行が可能である。これは、積立目標の125% を超えた部分についてなされる。 制度が継続中か解散かによってルールが異なる国もある。最近のカナダオンタリオ州の 裁判例では、事業主は新規加入を認めない DB 制度の剰余を別勘定ではあるが同一制度内の DC 制度に属する新規従業員の保険料を支払うために使用しうるとされた.この判断は事業 主に DB 制度を閉鎖するさらなる動機を与え、より厳しくより安全性の低い DC 制度への支 払いのために剰余を用いることにさせると非難された16。 カナダの私的年金政策立案者は昨年 1 年間にわたって規制枠組みの様々な側面、なかでも 積立ルールについて活発な議論を交わした。カナダのオンタリオ州年金専門委員会17とカナ ダ連邦政府18はそれぞれいくつかの点でブラジルに似た積立基準への改革を提案した。オン 15 「南アフリカの年金基金剰余(Pension Fund Surplus in South Africa”)」が南アフリカ金融サービス委員会主 席アクチュアリーのマリウス・デュ・トワ(Marius du Toit, Chief Actuary of the Financial Sservices Board of South Africa)によって書かれている。 16 “ Court OKs pension-surplus divesion Supreme Court ruling comes as more firms switch to defined contribution plans”, Ottawa Citizen, August 8, 2009 参照 17 “ A Fine Balance: Safe Pensions, Affordable Plans, Fair Rules- Summary”, Report of the Expert COmmision on Pensions. Ontario 2008 参照 18 カナダ財務省 News Release 2009-103” Backgrounder “, 27 October 2009 参照 25 タリオの委員会は積立率が支払い基準で125%を超えた場合に事業主が剰余を引き出せ ること、および105%を超えた場合にのみ拠出額削減やコントリビューション・ホリデ ーを認めることを提案した。カナダの DB 制度の7%を監督している連邦政府は年金制度が 支払い債務の 105%を超える積立金を保有したときに限ってコントリビューション・ホリデ ーを認めることを提案している。さらに、カナダ・アクチュアリー会は現在ブラジルで認 められているような特別なバッファー勘定“Pension Security Trust” の設定を事業主に認める ことを提案している19。そこでは、事前に設定された積立率を超えた部分はバッファー勘定 に組み入れられ、財政評価で十分な積み立てがあるとことが示されると、積立率を超えた 部分がバッファー勘定から事業主に戻される。 給付の安全性をますには、事業主が剰余に関与するのを厳格に制限する必要がある。し かし、事業主は DB 制度での不足の補てんに完全に責任を持っている場合には、一定の水準 以上の剰余に(部分的または制限があっても)関与しうるということが事業主が積立バッ ファーを増加ないし少なくとも維持しようとする動機となる。この方式は、ブラジルで行 われ、また、カナダで提案されているように、積立過剰の DB 制度を持つ事業主が拠出を減 らしたりコントリビューション・ホリデーを行ったりしうることを制限することによって 補足されるものである。しかしながら、事業主が積立剰余に関与することについては議論 も多く、異なる関係者の合意を得るのは簡単ではない。規制の仕方次第では、剰余の引き 出しを禁ずる事は剰余は誰のものかという議論を再開することになろう。 (5)適切な 適切な年金数理の 年金数理の方法を 方法を通じて長期 じて長期の 長期の拠出パターンの 拠出パターンの安定性 パターンの安定性を 安定性を確保すること 確保すること 事業主が DC 制度を好み、DB 制度をやめたり、凍結したりする主な理由は拠出の変動性 や事業主の財務状況への年金制度の変動的な影響にある。DC 制度は必ずしも DB 制度より 費用が安いわけではないが、一般的に拠出水準は(最近の金融危機でみられたように)事 業主が自分で削減したり、休止しうるという意味で予測可能である。 DB 制度に拠出している事業主は一般的に経済状況が悪くとも拠出を休止したり削減す ることはできない。DB 制度への拠出額は一般的に DB 制度の積立状況に直にリンクしてお り、それは予測するのが難しい。そのため、DB 制度への拠出額を滑らかにし、変動を和ら げる方法がとられるのである。透明性の程度、財政計画への影響、拠出レベルの変動性な どが異なる年金数理としての様々な積立方法や評価方法がある20。しかしながら、年金制度 の全費用は給付水準に依存していることは言うまでもない。全費用は選択した年金数理の 方法には影響されない。年金数理の方法は、制度の存続期間を通して全費用を毎年に割り 当てるだけである。 19 “ Retooling Canada’s ailing Pension System Now, For the Future: Canada’s Actuiaries Advocate Change”, Canadian Institute of Actuaries, October 2009 参照 20 Colin Pugh, “ Funding Rules and Actuarial Me5thods”, OECD Working Paper on Insurance and Private Pensions, No1, October 2006 参照 26 年金数理の積立方法はまず透明でなければならない。各国の年金制度固有の事情は考慮し なければならないが、年金監督者は賢明でなめらかな拠出方法となる年金数理の積立方法 を推奨するのがよい。スウェーデンの70万人のホワイト・カラーをカバーする DB 制度で は、賃金上昇の費用を退職するまでの従業員の期間に割り振る年金数理の方法が用いられ ている。スウェーデンの既発生債務は直接に年金費用にリンクしているので、ここでの年 金数理の方法には労使合意が必要であるし、年金制度を再構築しないで変えることは難し い。 多様な年金数理の積立方法が可能な制度でも、事業主は企業会計で用いられているため に、「予測単位積立方式」を選択する場合が多い。 (6)積立状況の 積立状況の評価について 評価について全体 について全体としての 全体としての変動性 としての変動性を 変動性を反映した 反映した柔軟 した柔軟な 柔軟な積立基準とすること 積立基準とすること 年金制度の実際の動きは常に年金数理上の財政評価での仮定とは異なるものとなる。た とえば、1 年間に会社を辞める従業員数や賃金上昇の水準は仮定と違ったものとなるであろ う。このため、年金数理上の損益が発生し、事業主の拠出額に影響を与える。損益を処理 する方法はいろいろあるが、損益を一定期間で埋め合わせ償却する制度が多い。 一般に積立ルールには柔軟性が必要である。加入員の安全は維持されねばならないが、 積立規則は事業主の業績や事業継続自体が問題となっているときに過度に事業主にプレッ シャーを与えないようになっていなければならない。たとえば、DB 制度の積み立て不足を 埋めるための回復期間は年金積立全体の変動性を反映した基準とする必要がある。制度の 積立水準を算出するのに平滑要素がほとんどない場合には、事業主が資産・債務の費用変 動を償却する期間をより長くするのが合理的であるし、大きな平滑が認められる場合には、 より短い償却期間でよい。積立基準の柔軟性は年金制度が事業主の追加拠出をどの程度あ てにできるかにもよる。 積み立て不足穴埋めの柔軟性は事業主の破産に対する保険や加入員を第1の債権者とし ているかなど制度加入者の安全性を強化することで補足しうる。事業主が他にできること は、年金制度のための企業資産を他には使わないことを正式に決めることである。たとえ ば、コンティンジェント・アセットは一定の条件のもとで事業主から年金制度に移すよう にすることができる。そうした柔軟な積立規則は悪用されないように適切に管理される必 要がある。 2009年に、カナダ政府は事業主が資産の15%を上限として適切に作成された信用 状を使用することを認めることを検討・提案した。信用状は事前に定めたことが起きた場 合に年金基金に額面を支払うものであり、加入員に通常の現金拠出と同じレベルの安全性 を提供することを目的としていた。信用状を使えば、事業主は現金を支払う必要はない。 もし、制度が積立基準を満たすために信用状を使う必要がなくなった場合には、事業主は 27 過剰な信用状を引き上げることができるとされた21。 イギリスは柔軟な積立規制の国である。イギリスの積立基準は積立のための慎重な基礎 率と回復計画の実行可能性とのバランスをとるものである。それは、積立水準の設定とそ の水準までの回復計画を個々の制度ごとに柔軟に決めるものである。2005年に、イギ リスでは規範的な最低積立基準をやめ、柔軟、個別制度対応、原則重視の積立基準に変更 した。個々の評価手順に従うのでなく、トラスティは慎重な積立方法、経済・人口仮定、 を定め、厳しい状況下での適切な剰余額と回復計画をさだめなければならない。コンティ ンジェント・アセットに加え、イギリスでは、カナダのように、積立目的の信用状を認め ている。これらの施策はイギリスの大きな政策変更であるが、イギリスでは年金制度をど う財政運営するかについてさらなる柔軟性も導入している。年金監督官はその規制の理解 を促すため、コンティンジェント・アセットの利用法を含むガイドを示している。さらに、 これらの新しい積立規制に加え、イギリスは年金保護基金(Pension Protect Fund)を設立し た。 (7)過剰な 過剰な規制を 規制を避けるとともに安定的 けるとともに安定的な 安定的な規制環境を 規制環境を維持すること 維持すること 給付の保護を実現するためには規制の枠組みは強固なものでなければならない。また、 安定性と柔軟性のバランスをとった積立基準も重要である。あまり頻繁に規則を変えると それが追加的な変動をもたらすことになる。事業主は、積立規則や会計規則に予測可能で、 安定して、単純なものを求めている。DB 制度は DC 制度より複雑かつ運営にコストのかか るものである。政策立案者は、継続的な規則変更や過度に複雑な規則を避けなければなら ない。そうしたものは事業主が長期の年金制度を導入しようという意欲をそぐからである。 イギリスでは、何年にもわたって、規制を厳しくしてきた国であり、そのため、DB 制度 の給付や運営費用、さらには政策上の不確実性が増大していた。積立基準の改正は DB 制度 の規則をより柔軟にする重要な一歩であった。イギリス政府は DB 制度の制度改革をさらに 進めると宣言している。 「目的は私的年金の規制枠組みをより簡素化することであり、制度 運営を容易にし、規制を軽くし、官僚主義と費用を削減するように将来に向けて変えるこ とである。 」22この件に関するコンサルテーションが 2008 年 12 月に終わり、様々な改革が 検討ないし実行中である。 21 現在、カナダのアルバータ州、ブリティッシュ・コロンビア州、ケベック州では、この方法で信用状が使 われている。 22 Department of Work and Pension website, http//www.dwp.gov.uk/policy/pensions-reform/deregulatory-review/参 照 28 第 3 章.積立基準の 積立基準の収斂は 収斂は達成可能な 達成可能な目標か 目標か? OECD 各国における積立規制は多種多様であるが、これは文化、年金制度の歴史、国の社 会保護制度の違いによるものである。EU は「職域退職制度に関する2003年指令」で加 盟国に包括的な原則や上位規則を示した。加盟国では、2007 年までに指令を完全に実行し なければならない。そこでは、市場割引率を用いた完全積み立てや「プルーデント・パー ソン・ルール」を投資規則に適用することなどの一般原則を示しているが、各国でそれら の包括的な基準をどう実行するかについては依然として各国で異なっている。 2003年指令の第16条は、その技術的側面については詳述していないものの年金制 度の完全積み立てを要求している。EU は国境を超える年金制度についてこの要求を具体化 しようと努めている。コンサルテーションに対する回答として2009年3月に公開され た文書23では債務評価の方法について、個別の具体的方法を示すのでなく、原則を示す方法 でより調和させるのがよいという一般的な合意を見ていると述べられている。問題は国境 を超える活動、社会・労働法の法解釈、税制の違いである。 積立ルールの収斂にとっての大きな問題は、政策立案者が達成すべき給付保証の程度に 異なる態度を示している一方、提供されている DB 制度の給付保護制度も違うことである。 多くの国では、DB 制度の積み立て不足は事業主の責任とされているが、事業主が破産した 場合の給付を(通常、一定程度まで)保護するために年金保護制度のある国もある。そう した国の中には、 (一定の条件のもとで)数年にわたって未積立の状態をみとめる国があり、 また、その数は限られてはいるが、それを永久に認める国もある。一方、デンマーク、オ ランダのように年金給付は年金会社(したがって制度加入者)の責任とする国では、積立 基準はより厳格である。 給付の安全性確保に関する態度も文化的な相違、私的制度への加入の性格、低所得労働 者のカバーの程度によって異なっている。たとえば、デンマーク、オランダでは私的年金 制度は退職所得の中核であり、圧倒的多数の労働者をカバーしている。それらは、相対的 に低い公的年金を補足しており、私的年金の安全性は主要な政策課題となっている。 以上のことから、積立基準の国際標準化は起こりそうもなく、そのような標準化は各国 制度にうまく合わない可能性がある。しかしながら、本論文で議論してきたように反景気 循環的性格を促進する包括的な原則は DB 制度を強化することができる。このことは、どう やって最低積立基準や資産・債務を決めるかについての一般的な国際ベスト・プラクティ スとガイドラインや OECD の積立と給付安全についてのガイドラインをさらに改善するこ とによって補足することができる。そうした積立基準の原則主義の収斂は国境を超える年 金活動や積立水準の国際比較を推し進めるものである。しかしながら、そのような広範な 23 European Commission, Feedback Statement: Consultation on the Harmonization of Solvency Rules Applicable to Institutions for Occupational Retirement Provision (IORP) Covered by Article 17 of the IORP Directive and IORPs Operating on a Cross-Border Basis, Brussels, 16 March 2009 参照 29 原則やガイダンスは各国における、労働、社会の現実に合致したものでなければならない。 すべての OECD 加盟国に当てはまる規制を作成する試みは非生産的でもあり、非現実的で もある。 付録Ⅰ 付録Ⅰ.OECD 諸国の 諸国の年金積立基準 ベルギー 発生債務 債務は慎重かつ年金基金のリスク状況を考慮して算出しなければならない (IORP) 。さらに、債務は年金制度規約と社会・労働法によって定められる発生債務資産と 少なくとも同額でなければならない。ベルギー社会法が適用される場合には、制度規約と 3.75%で計算された発生債務の最大値と少なくとも同額でなければならない。最大発 生債務は上昇率 6%の賃金と生命表(男性は MR88-90、女性は MF88-90)を用いて算出され る。 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 ベルギー法制:債務算出のための割引率は、慎重かつ次の事 項を考慮して選択しなければならない。Ⅰ現在・将来の資産収益、Ⅰ国債、高格付け社債の 収益 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:債務の 100%、最大可能償却期間:特 になし、積立不足の場合、年金基金のリスク状況を考慮した(IORP)回復計画を年金監督 者に提出し、承認を受けなければならない(CBFA).。回復計画は年金基金が作成するが、 CBFA の承認が必要である。 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 年金資産の上限についての直接的な制限はな いが、次の 2 つの間接的な制約がある。Ⅰ税制優遇のあるベルギー年金基金の最大給付が社 会保障給付と合わせて最終給与の80%であること、Ⅰアクチュアリーが作成し、保険管理 機関に提出された財政計画が80%制約を考慮していること。 事業主は剰余資産の引き出しを認められていない。 カナダ 24 発生債務 制度終了債務(単位積増方式) 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 10 年間のX%、その後のY%の予定利率。Xは 7 年国債の市 場イールドに 90 ベーシス加えたもの、Yは 7 年国債と長期国債の合成物に 90 ベーシス加 えたものである。年金給付がスライドする場合には、より低い割引率も適用可能であり、 それはカナダ・アクチュアリー会の実務基準に記されている。 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:次の 2 つの条件を満たさなければな 24 ここで述べているカナダの情報は連邦政府が監督している制度に関するものである。州政府が監督して いる制度では、特に最大可能償却期間について州間で異なっている場合がある。 30 らない。Ⅰ選択された財政方式の元での継続基準債務の 100%の積立(たとえば、PBO) 、Ⅰ 非継続基準の 100%、非継続基準は制度終了の場合であり、通常継続基準債務より大きい。 最大可能償却期間:継続基準債務は 15 年、支払可能債務:支払い不能額の 5 分の 1 が継続 基準債務の年間の支払額を上回った額。 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 税制上の最大積立基準あり。剰余が一定の値 (一般的には、継続基準の 25%)を超えると事業主は拠出を休止できる。事業主が制度創 設にかかわったことや従業員の承認がいるので制度継続中は実際は難しいが、事業主の剰 余引き出しは可能である。制度が終了した場合は、剰余の分配は制度の取り決めや加入者・ 受給者の合意による。 フィンランド 発生債務 単位積増方式による発生債務。 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 制度によって 3.5Ⅰ3.8%。 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:債務の 100%。最大可能償却期間:た だちに行動、期間は特定されておらず。 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 - ドイツ 発生債務 既発生債務は将来債務の現価から将来保険料現価を減じたもの。制度設計に よっては債務の算出に賃金上昇か算出日と退職時点との間のインフレを考慮する。 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 Pensionkassen と Pensionfonds(年金基金)の割引率は現在新設の 場合 2.25%である(後者は、保険のような保証が付いている場合。) 。Pensionfonds は保証が 付いていない場合市場利率を用いることができる。 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:既発生債務の 100%、既発生債務の 5% の準備金。 最大可能償却期間:Pensionkassen:未積立は即時解消。Pensionfonds:既発生債務の最大 5% 最大可能償却期間 を最大 3 年間で償却(一定条件が必要) 。既発生債務の 10%以上の剰余を持つときは償却期 間を年金監督者の許可のもとに 10 年に延長(一定条件が必要)。 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 アイルランド 発生債務 - 制度終了債務(一時払い積み増し方式)。上限 4%の退職時 までの再評価を含む。 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 (a)退職前の割引率 7.50%;(b)退職後の長期割引率 4.50%;(c) 退職前のインフレ率 2.00%;(d) 退職後の長期インフレ率 2.00% 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:既発生債務の 100%、ソルベンシー・ マージンなし 31 最大可能償却期間:3 年。年金監督者の許可のもとに 10 年以上に延長可能(一定条件が必 最大可能償却期間 要)。 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 年金基金で所有可能な最大資産額についての 直接の制限なし。剰余が 10%に達したときに税当局に知らせる必要あり。剰余の引き出し は各制度のとり決めによる。債務以上の積立金を持つ制度が解散する場合、剰余の分配は 現行年金法による。 日本25 発生債務 制度終了債務(最低積立基準額26)。 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 過去 5 年間に発出された 10 年国債27の 80Ⅰ120%。 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:代行部分の100%、ソルベンシー・ マージン 5%;全給付の 90% 最大可能償却期間:7年。現在、特例で10年。 最大可能償却期間 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 数理債務の150%。剰余引き出しは認めら れていない。 オランダ 発生債務 一時払い積み増し方式によって算出される発生給付 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 債務評価に用いる割引率はスワップ・レートに基づく。保険 料決定時に平滑化可能。 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:発生債務の100%、5%のソルベ ンシー・マージン、リスク・ベースの積立、発生債務の約30%の平滑化。 最大可能償却期間:ソルベンシー・マージンについて3年(現在、一時的に5年) 、バッフ 最大可能償却期間 ァーについて15年。 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 最大積立基準なし。債務以上の積立金を持つ 制度が解散する場合、剰余は通常加入員給付の増額に充てられる。 ノルウェー 発生債務 一時払い積み増し方式によって算出される発生給付 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 1993 年まで割引率4%。2004 年 1 月 1 日以降の保険料および 1993 年以降の設立の年金制度は最大3%、2006 年以降の新規契約は 2.75%。 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:発生債務の100%、リスク・ウェ イト付きの資産とオフ・バランス・シート資産の8%のソルベンシー・マージン。 最大可能償却期間:ただちに行動。期間の規定なし。 最大可能償却期間 25 (訳者注)確定給付企業年金制度の場合 (訳者注) 一時払い積み増し方式によって算出される発生給付額 27 (訳者注) 現在は 30 年国債 26 32 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 最大積立基準なし。債務以上の積立金を持つ 制度の場合、剰余の分配は制度が取り決める。 ポルトガル 発生債務 一時払い積み増し方式によって算出される発生給付。スライドのある制度の 場合、将来のスライドの影響を発生給付算出に含めなければならない。 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 割引率 4.50%。 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:発生債務の100%、ソルベンシー・ マージンなし。 最大可能償却期間:特定なし。未積立を生滅させようとする制度は年金監督者に知らせる 最大可能償却期間 必要。規制変更の影響は 20 年で償却。 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 年金基金で所有可能な最大資産額についての 直接の制限なし。事業主拠出の制限あり。剰余が 5 年以上継続して存在し、毎年発生債務 の定められた割合以上であるときに限り事業主が事前に剰余の返還を要求しうる。 スペイン 発生債務 PBO(予測一時払い積み増し方式) 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 割引率4%。インフレ率 1.5ⅠⅠ%。 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:発生債務の100%、4%のソルベン シー・マージン 最大可能償却期間:5 年(年金監督者の許可のもとに 10 年以上に延長可能)。 最大可能償却期間 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 最大積立基準なし。債務以上の積立金を持つ 制度の場合、剰余の分配は制度が取り決める。 スイス 発生債務 一時払い積み増し方式によって算出される発生給付 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 - 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:発生債務の 90%。変動準備金の積み 立てが奨励されている。未積立がある場合の事業主拠出の増加に関する法的義務はない。 未積立が一定期間内に解消されない場合、給付が調整される。 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 年金基金で所有可能な最大資産額についての 直接の制限なし。認められる給付上限と税優遇の拠出上限あり。剰余の引き出しは認めら れていない。 イギリス 発生債務 発生債務は慎重に算出されねばならない。 33 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 イギリスの割引率はおおよそ以下による:割引率=リスク・ フリー・レート+リスク・プレミアム。事業主の契約に基づく債務のタイム・ホライゾン、 追加的な投資リターン、慎重な調整に基づいて、リスク・フリー・レートとして通常国債 利回りが用いられる。 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立基準、回復期間はない。制度監督者は 債務までの積み立てに達する期間が 10 年以上の制度には注意を払っている。 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 最大積立基準なし。バイ・アウト水準までの 積み立てがあり、トラスティの承認があれば、剰余の引き出しは可能(受給者の最大利益 でなければならない)。 アメリカ 発生債務 一時払い積み増し方式によって算出される発生給付 割引率および 割引率および他 および他の基礎率 高価格付け社債(上位3レベル)の2年平均イールド・カー ブを調整(3 セグメント) 。 最低積立( 最低積立(最大可能償却期間を 最大可能償却期間を含む) 最低積立:発生債務の100%、ソルベンシー・ マージンなし。 最大可能償却期間:毎年の積立目標不足額につき 7 年で償却。 最大可能償却期間 最大積立基準と 最大積立基準と継続制度の 継続制度の剰余への 剰余への関与 への関与 積立目標の 150%を超えると拠出の節税効果 消滅(継続基準の発生債務ベース) 。積立率が 125%を超えると、一定の条件のもとで退職 者の保健給付に使用可能。終了制度の剰余資産が事業主に返還される場合は重課税。 34 本文の原文は OECD で “The Impact of the Financial Crisis on Defined Benefit Plans and the Need for Counter-Cyclical Funding Regulations”, OECD Working Papers on Finance, Insurance and Private Pensions NO.3 doi: 10.1787/5km91p3jszxw-en として出版されたものであり、著作権のすべては OECD が保有する。 ©2010 OECD ©2011 Japanese Society of Certified Pension Actuaries for this Japanese edition 本日本語訳は社団法人日本年金数理人会が OECD,Paris の許可を得て出版するものである。 日本語訳の質と原文との一致については社団法人日本年金数理人会の責任である。 35 論文紹介 2 「リタイアメント 20/20 年金設計の 年金設計の新考案」 新考案」 ロバート・ブラウン、 ロバート・ブラウン、カナダ・ウォータールー大学 カナダ・ウォータールー大学 2010 2010 年 2 月 ウォータールー大学 ウォータールー大学ワーキングペーパー・シリーズ 大学ワーキングペーパー・シリーズ (調査研究委員会 渡部善平・山岡敏文訳) 要旨 昨今、米国においてもカナダにおいても、単独事業主提供型の確定給付(DB)年金基金が急激 に減少している。確定拠出(DC)年金や個人勘定型(401(K)など)年金がこれに代わるケースもあ れば、代わりに何も設定されないケースもある。 労働人口は二分化しつつある。公務員は大規模な確定給付年金に加入しているが、民間部門 の労働者は確定拠出年金に加入しているか、あるいはどの年金制度にも加入していない。 従来型の確定給付年金のスポンサー(設定主体)は、年金にかかる費用(または費用が変動する こと)が対価としての忠実な労働力に見合わないと判断したように思われる。同時に、10 年に満た ない期間において 2 度の株式市場暴落が生じたことにより、個人勘定の確定拠出年金制度の脆弱 性は周知の事実となった。 我々が追求すべきなのは、確定給付年金と確定拠出年金のメリットを最大限に加入者にもたらす 一方、これらのデメリットを最小限に抑える新しい年金制度である。これは、加入者の能力を認め (たとえば、肉体労働者に投資のプロになってもらうことは期待できない)、市場のアノマリー(これま で以上に好調な株式市場など)を想定または期待しない方法で実施されなければならない。 明らかに、基金の規模は重要である。基金の規模が大きいほど、単位当たりの手数料率は少なく て済み、(資産 100 億ドル未満の)小規模の年金基金では利用できない幅広い投資商品(私募債 など)を取り入れることが可能となる。また規模の大きい基金は「大数の法則」を享受できる。基金が 退職後所得の支払いに責任を負う場合、これは特に重要な要素となる。 提案モデルは、「共同運営の目標給付設定付き確定給付年金基金 [Jointly Governed Target Benefit Definite Benefit Pension plan]」と称する。本稿は、このような基金が既存のオンタリオ州複 数事業主年金基金(MEPP)、カナダ/ケベック州年金基金(C/QPP)、米国の教職員保険年金・保 険基金(TIAA-CREF)およびオランダの国民年金基金と多くの共通点を持つことを示す。 この概念の本質は、規模の小さい年金基金(ひいては個人基金)の資産を混合することにより、 「規模」が達成されるというものである(例えば、資産価値 100 億ドル以上の投資ポートフォリオ)。運 用は基金自体から独立した公正妥当な立場で管理される。基金は政府の支援を受ける(ただし、 管理下には置かれない)こともできるし、民間部門が完全に管理することもできる。さらに、運営委 員会は年金の利害関係者ではなく、年金運用のプロで構成することを想定している。 年金スポンサーの立場から見ると、これは明らかに確定拠出年金基金である。決められた額を拠 出すればスポンサーの責任は果たされる。労働者の立場から見ると、これは目標額の設定された 確定給付年金といえる。この目標給付は、やや保守的な年金数理予測(たとえば、ファイナンシャ 36 ル・エコノミクスと一致した前提を用いる)の結果に基づいて決定される。予測に対し「超過」収益が 発生した場合、すべて給付向上に充当される。定年退職前であれば、(確定拠出で提供される)平 均給与比例制度から最終給与比例制度へと近づける形で給付を向上できる。退職後であれば、 「超過」利益をインフレに対するプロテクションとして利用できるだろう。結果として、既存の確定拠 出年金に加入している労働者は「希望」から期待に移行する。完全に保証された年金基金にすで に加入しているごく少数の労働者も、保証から期待に移行する。このように、すべての加入者によ ってリスクが明確に共有されることになる。しかし、このリスクはすべての当事者にとって管理可能な ものでなくてはならない。 1. はじめに 企業年金の世界は進化している。カナダでも米国でも、確定給付(DB)年金基金の数とカバレッ ジは著しく減少している。これにより空いた退職後貯蓄の枠は確定拠出(DC)年金や個人勘定年 金(401(K)など)で一部埋められているが、総じて、退職後に不自由なく暮らせる能力は過去 10 年 間で低下していることを示す研究結果がある(Canadian Institute of Actuaries [カナダアクチュアリー 会], 2007)。 さらに重要なのは、事業主提供型の確定拠出年金は現在、公共部門の労働者にしか普及してお らず、この最終的なスポンサーは納税者だということである。このように、事業主提供型の年金基金 には明らかな分岐点があることが分かる。すなわち、公共部門の労働者には明らかに安全性の高 い確定給付年金がある。民間部門の労働者は、いずれかの年金に加入しているとすれば、通常は 確定拠出年金または個人勘定年金である(カナダでは公共部門の労働者の 80%が確定給付年金 に加入している一方、民間部門の労働者で確定給付基金に加入しているのは 25%にすぎない)。 こうした傾向は以下の 2 つの図で確認することができる(Informetrica, 2007)。カナダ全土のデー タを用いた場合も同様の結果となる。 図1 オンタリオ州管轄下の賃金労働人口に対する 同州企業年金基金の普及率(加入年金の種類別、年別) 出所:Infometrica, 2007, 図 17 37 図 1 は、全賃金労働人口における普及率を示したものである。図 2 は民間部門のみを対象とし、 同様のデータを算出している。 図2 オンタリオ州民間部門の企業年金普及率 オンタリオ州管轄下の民間部門の賃金労働人口に対する 同州企業年金基金の普及率(加入年金の種類別、年別) 出所:Infometrica, 2007, 図 19 こうした展開には、後述するとおり多くの理由がある。しかし、明らかに言えるのは、民間の事業主 が確定給付年金を価値ある人的資源投資と見なしていた時代は終わったということである。同時に、 2008 年~2009 年の金融危機を受け、確定拠出年金という形の退職用貯蓄の脆弱性が明るみに 出た。 本稿は、年金リスクをスポンサーと加入者がより平等な形で共有し、年金契約の両当事者に、確 定給付年金と確定拠出年金の両方の利点を最大限に提供する新しい年金モデルを考案すること を目指している。 モデル考案の舞台設定はカナダとする。当国では、政府提供の社会保障制度によって貧困に陥 らないほどの十分な年金所得が提供され、どの労働者も平均給与に比例した(所得代替率 40%) 所得を提供される。したがって、カナダでは十分な生活保護の基盤があり、事業主提供型の年金 基金を必ずしも必要としない。 2. リスクを リスクを負 クを負うのは誰 うのは誰か i) 従来型の 従来型の確定給付年金基金 従来型の確定給付年金基金では、年金リスクのほぼすべてを年金スポンサーが負担する。確定 給付年金の提供に伴うリスクは以下のとおりである。 38 1) 運用リスク 2) 手数料リスク 3) 物価上昇(インフレ)リスク(給付に支払期間が設定される場合) 4) 金利変動リスク(給付が年金化される場合) 5) 長寿リスク(給付が年金化されない場合) これらのリスクは年金スポンサーが「負担する」ものの、最終的に生じる費用はスポンサーである 企業の株主、ひいては(企業が生産する商品の価格が上昇すれば)消費者が負担するともいえ る。 従業員は、これらすべてのリスクは最終的に、報酬という形で自分達が負うものだと主張するかも しれない。本稿はこの視点には立たない。本稿は、最終的に責任を負うのが誰であるかに関わらず、 年金を確定給付とするか確定拠出とするか、あるいはそもそも年金を設定するか否かを決めるのは、 事業主すなわち年金スポンサーであると考える立場をとる。 初期の年金基金では、スポンサーは十分な給付金を支払うことができ、実際の費用は比較的少 なく済んでいた。こうした状況が成り立っていたのは、ベスティング(受給権が付与されるまでの)期 間が長く、給付の物価スライド制はほとんどなく、年金の資金調達要件では、積立状況を判断する 上で完全な株式プレミアムを反映した割引率と平準化方式の数値を使用することが認められてい たからである。 米国のエリサ法(1974 年)やカナダの年金給付に関する数々の法律の制定により、ベスティング 期間は短縮された。また 1970 年代後半と 1980 年代初頭にインフレ率が高まったことで、多くの従 業員がインフレに対する防衛を求めて交渉を行った。 1990 年代は非常に高い運用収益を上げていたため、年金スポンサーは依然として、比較的少な い費用で多額の年金給付を確約することができた。しかし、ここ 10 年間で株式市場は 2 度も暴落し、 実際の年金拠出水準は大幅に引き上げられた。伸び続ける平均寿命がこうした状況に拍車をかけ ている。 これらの事実に加え、ここ数年では会計原則の適用により、掛金を平準化ではなく「時価」評価し なければならず、実際に利用される際に金利変動により価値が大きく変わらないようポジションが調 整される(イミュニゼーション)平行シフトの投資ポートフォリオを反映した割引率を使用する必要性 が生じた。 これらの要因に加え、年金制度で引き続き起こっている成熟化(掛金拠出者に対する退職者の 比率の増加)が要因となり、年金の見かけの費用を引き上げた(明らかに後者の要因は、将来では なく現時点で必要とされる拠出額を引き上げている)。ひょっとするとより重要なのは、この要因によ って掛金率の変動性が大幅に高まったことかもしれない。こうした経緯により、民間部門の年金スポ ンサーの多くが、予測のつかない確定給付年金を完全に負担する余裕はもはやないと判断するに 至った。 39 最後に、民間部門の単独事業主年金基金(SEPP)に加入する労働者においては、年金債務の 資金が十分に積み立てられなかった場合、年金スポンサーが支払不能となるリスクが伴うことを指 摘しなければならない。事業主が倒産すれば、残余資産の差押えに対して、年金基金とその加入 者の権利は極めて限定的なものとなる。オンタリオ州の民間部門の労働者のうち 25%が SEPP に 加入している。 ii) 従来型の 従来型の確定拠出年金基金 ここでは、事業主が提供する確定拠出年金基金および個人勘定年金(401(K)など)を取り上げ る。 従来型の確定拠出年金基金では、労働者が先述のリスクをすべて負担する。明らかに、労働者 はこれらのリスクを管理する力量がない。リスクの多くはある程度軽減できるが、完全になくすことは できない。 運用リスクは、確定拠出の場合は各労働者が負担することとなる。以下の図を見るとこれが良くわ かる。 図3 個人勘定貯蓄年金の所得代替率 (株式のみに投資し、40 年間にわたり給与の 4%を拠出した場合) 所得代替率(年金所得/退職前の給与) 退職年度 出所:Burtless,2009 p12 明らかに、相対的に変動性の低い債券などの商品を投資対象とすることで、ポートフォリオのリス クを労働者は軽減できる。するとボラティリティは著しく低下するが、同時に所得代替率も低下する (図 4 を参照)。 40 図4 個人勘定貯蓄年金の所得代替率 (代替ポートフォリオに投資し、40 年間にわたり給与の 4%を拠出した場合) 所得代替率(年金所得/退職前の給与) 退職年度 出所:Burtless,2009, p16 公正を期して言うと、運用リスクを軽減するための構想は存在する。事業主またはスポンサーは幅 広い投資の選択肢を提示することができる(興味深いことに、提示される選択肢が多いほど、加入 者が初期設定の選択肢を選ぶ可能性は高くなる)。あるいは、労働者が投資顧問を雇うこともでき る。ただ、これはある意味で、運用リスクを手数料リスクに移転しているにすぎない。投資顧問やフ ァンドマネジャーへの報酬として、総収益率のうち 3%(運用手数料率、すなわち MER)を手放すこ とになる。年間 5%で運用し、インフレ率が 2%近くまで達した場合(昨今においてあり得ない仮定で はない)、その労働者が実際に受け取るリターンは全くないということになる。 マクロ経済の視点で考えると、この運用リスクに伴う 1 つの結果は、確定拠出年金基金が景気循 環に反した退職パターンを生じさせることである。つまり、景気が悪くて(失業率を下げるために)労 働者に退職してほしい場合、これらの労働者の確定拠出年金資産の価値は下がっているため、よ り長く働こうという動機が生じている。同様に、景気が好調で確定拠出資産残高が多い場合、拡大 する労働力需要のために必要とされる労働者は、退職を選ぼうとする。 また労働者は、退職時期が近づくと投資ポートフォリオの配分を変更しないという傾向がある。あ る文献によると、年金加入者は退職が近づくにつれて、株式の比重が大きいポートフォリオから債 券寄りのポートフォリオへ移行すべきであることが分かっている。しかし実際、労働者が各自で投資 を管理している場合、資産配分の移行はほとんど行われていないようである。ゆえに、個人勘定年 金の加入者の多く(ほとんど)は、2008 年夏から 2009 年春までの間に株式投資で 20~30%の損失 を出した。OECD(2009 年)の研究は、2008 年の市場暴落の影響で、所得代替率が約 10 パーセン トポイントも低下した可能性があると示唆している。具体的には、米国で、幸運にも 2007 年時点で 41 定年の 65 歳に達した人の場合は所得代替率が約 24%だが、2008 年末に 65 歳に達した不運な 人の所得代替率はわずか 15%である(40 年間にわたり給与の 5%を拠出し、国内債券 40%と国内 株式 60%の固定ポートフォリオに投資していた確定拠出年金を想定)。 労働者は、退職時に終身年金保険を購入することにより、長寿リスクを軽減することもできる。しか しこれも、厄介な手数料リスクを高めることに等しい。また今日の市場では、多くの労働者は真の市 場価値を反映した年金保険を手にすることができない。なぜなら保険会社は、労働者が自発的に 年金保険の購入を申請するということは健康状態が最善(5 つ星)であるに違いないと想定し、それ に応じて価格を設定しているからだ。平均寿命が 5 つ星という労働者はごく稀であるにも関わらず、 すべてが「万能サイズの」基準に当てはめられてしまう。 また年金保険の購入は、労働者を購入時点の金利リスクにさらすことにもなる。 最後に、本当の意味でインフレから受給者を保護するような年金を得ることは極めて難しい。給付 が市場価値に連動する変動型年金は購入できるが、市場価値とインフレが十分に相関していると は言えない。あるいは、年間給付が規定のインフレ係数(定数)群に応じて増加する年金を購入す ることはできるが、これも本当の意味でインフレから保護されているとは言えない(また当然ながら、 この機能が備わっていれば当初の月間支給額は大幅に減少する)。 総じて、個人勘定年金や確定拠出年金などの選択肢は、解決策よりも問題の方をより多く生じさ せているように思われる。退職後のための貯蓄だけでは、退職後所得の安全性は保証されない。 3. 規模が 規模が重要 退職後所得の安全性を個人勘定年金で確保しようとするアプローチに伴う問題の 1 つは、退職 後の所得に関連する多様なリスクを、たった1人の個人で軽減しようとしている点である。大企業グ ループの一員となる、もしくは(個人勘定年金を含む)小規模の年金基金の資産を混合させるなど の方法で、規模の大きい資産プールを保有することの利点は多い。大規模な基金では、事務管理 や運用にかかる手数料を節約できるだけでなく、小規模な基金では得られない投資機会(私募な ど)を取り入れることが可能である。 さらに、資産を混合した基金が実際に退職給付を支払う段階でも、大規模な合同年金基金には 死亡リスクのプーリングという利点があり、平均寿命のさらに正確な推定が可能となる。 表 1 の K. Ambachtsheer(キース・アムバクシア)の研究は、運用手数料リスクの観点から基金の規 模がいかに重要であるかを示している。 42 表 1: :年金基金の 年金基金の規模ごとの 規模ごとの運用手数料 ごとの運用手数料 年金基金の規模 大型株に投資した場合の運用手数料 個人年金勘定 250~300 ベーシスポイント 1,000 万ドル 60 ベーシスポイント 10 億ドル 42 ベーシスポイント 100 億ドル 28~35 ベーシスポイント 表 2 は運用手数料率の大きさに応じた影響を示しており、手数料が退職後の年金加入者の累積 給付額および現役時所得の所得代替率にどれほど影響するか表している。数値は、年間所得が 50,000 ドルの労働者が 40 年にわたり年金基金に毎年 10,000 ドルを拠出した場合を想定したもの である。 表 2: :運用手数料率が 運用手数料率が年金に 年金に及ぼす影響 ぼす影響 手数料率 0% % 0.4% % 1.5% % 3% % 5% % 777,000 ドル 707,000 ドル 551,000 ドル 400,000 ドル 272,000 ドル 45,000 ドル 41,000 ドル 32,000 ドル 23,000 ドル 16,000 ドル 90% 82% 64% 46% 32% 累積価値 (40 年後) 年金の年間支給 額 所得代替 率 出所:Ambachtsheer, 2007 4. 妥協点を 妥協点を見いだす 純粋な確定給付年金と純粋な確定拠出年金のいずれも、今後の将来にとって最適でないと認め るならば、これら 2 つの従来型年金制度の利点を最大限に引き出せる新たな年金設計を模索する ことは可能だろうか。 こうしたプラン設計は以下の基本的な原則を満たすものでなければならない。 1) 全体的な経済リスク(分散)が、加入者に適した手段で共有されなければならない(たとえ ば肉体労働者に対して、運用のプロとなることやライフサイクル投資を理解することを期 待すべきではない)。 2) 規模が重要となる。規模に比例した効率性および機会があり、これらは追求する価値が あるものである。 43 3) 原則 1 および 2 と一致して、リスクを共有する集合的アプローチでなければならない。す なわち、可能な限りリスク(分散)を統計的有意に低下させるため、「大数の法則」を活用 するべきである。 4) 既存の二極化した確定給付年金と確定拠出年金の制度から移行する際は、権利や特権 について譲歩するよう加入者に求める場合は必ず、手放すものに代わる新しい権利や特 権を提供するよう努めなければならない。 5) 新たな年金設計は、市場の実情を把握したものでなければならない。競争的市場での実 現が期待できない仮定を要するような設計案は検討すべきでない。 以上より、本稿は 21 世紀の年金設計を追求する。これは純粋な確定給付年金でも純粋な確定拠 出年金でもなく、むしろ両者を組み合わせたものと言える。ただし、2 つの従来型年金設計の利点 を最大限に活かしながら、従来の概念から新たな概念への移行に伴う犠牲を最小限に抑えた組み 合わせである。 5. オンタリオ州 オンタリオ州の MEPP は確定給付基金か 確定給付基金か、確定拠出基金か 確定拠出基金か オンタリオ州では、企業年金の加入者の 43%が複数事業主年金基金(MEPP)に属している。オ ンタリオで最大規模の MEPP はオンタリオ州地方公務員年金(OMERS)であり、有効加入者数は 230,000 名にのぼる。その他に規模の大きい MEPP として、オンタリオ州教職員年金(OTPP)、オン タリオ州医療従事者向け年金基金(HOOPP)がある(Shilton, 2007, p9)。 他の多くの管轄地と同様、オンタリオ州は MEPP を確定給付年金として定めている。しかし MEPP では、団体交渉により定められた固定額の掛金が積み立てられている(同論文、p2)。 基本的に、MEPP の給付額の計算方法は、その産業の対象加入者の総労働時間に定額を乗じ るものである。掛金の水準は団体交渉で協議され、特定の団体協定の有効期間にわたり固定され る。 確定給付年金が固定額の掛金で積み立てられていることから、積立不足が起きる可能性が常に あるため、この種の制度は通常、制度改訂による給付の減額を受託者に許容している。これは、確 定していない将来の給付だけでなく、発生した給付額も減額の対象としている。集団契約または受 託契約のもとで設立されたすべての MEPP は、発生給付の減額を禁じる原則を免除されている。し たがって MEPP の給付は、期待することができるが、保証されるわけではない「目標給付」である。 さらに、エリサ法の下で米国の MEEP 年金スポンサーは最終的な債務のリスクを負うが、オンタリオ 州の場合、年金スポンサーはこれを負担しない。 給付は保証されず、減額となる可能性があるため、MEPP はオンタリオ州年金給付保証公社 (PBGF)に拠出していない。 年金数理的な評価にあたり、年金アクチュアリーは以下のことを行わなければならない。 44 ・ 集団契約に基づく必要掛金が、制度に定められた給付減額条項を考慮することなく、同じく定 められた給付額を提供するのに十分かの検証を行う。 ・ 当該制度のもとでの年金支給には掛金が不足すると判断された場合、必要な掛金が基金の 年金支給に十分なものとなり、かつ年金の管理者に実行可能な選択肢を提案する。 年金数理士は、掛金が「不十分」であると判断して選択肢を提案する場合、年金管理者に報告し なければならない。そして報告を受けた管理者は、年金給付法(PBA)の範囲内で積立必要額を 満たすために取るべき措置につき監督当局に助言を求めなければならない。 最後に、PBA のもとでは、加入者向け年次計算書に最低限記載しなければならない内容として、 年金給付額が PBGF の保証対象外であることを示す記述に加え、基金の清算時に資産水準が負 債履行に十分でない場合は年金給付が減額される可能性があることを示す記述が含まれる。 このように、オンタリオ州の年金基金加入者の 43%が加入している年金基金は、労働者にとって は確定給付が期待される一方、事業主にとっては明らかに確定拠出基金である。 6. C/QPP は確定給付基金か 確定給付基金か、確定拠出基金か 確定拠出基金か カナダ/ケベック州年金基金(C/QPP)を知っている人に、これは確定給付年金、確定拠出年金の いずれかと質問すれば「確定給付」と答えるだろう。しかしこれらの年金基金の歴史において、給付 の仕組みは何度も改正されてきた。まさに本稿の執筆時点でも、C/QPP の給付の仕組みについて 改正が提案され、討議されている。 C/QPP の最も大きな改正点の 1 つは 1997 年に実施された。その際、給付額は 9.3%引き下げら れた。また掛金率は 1997 年の 6%から 2003 年には 9.9%に引き上げられている。この 9.9%は定 常掛金率として想定されており、カナダ年金基金(CPP)に関する 3 件の年金数理報告書は、今後 75 年間この比率で十分であると示している。 しかし、ケベック州の年金基金(QPP)の状況は CPP ほど明るいものではない。賃金の伸び悩みを 背景に出生率および外部からの移住率が低いなか、9.9%の定常掛金率では QPP は持続不可能 であり、またしても近いうちに改正を迫られるだろう。 最後に、1997 年に自動均衡機能(Automatic Balancing Mechanism)が CPP に導入された。仮に、 CPP の年金数理報告書において、75 年間の持続可能性に対し必要な定常掛金率が現行の掛金 率(9.9%)を上回ることが示され、連邦政府の財務相が各州政府の財務担当との協議後(CPP は 連邦-州共同の基金である)、持続可能性を維持するための推奨案を提示できない場合、以下の 改正が実施される。 ― 掛金率を、持続可能性を維持するために必要な増加分の 50%だけ引き上げる。 ― 次回の年金数理報告書が発表される 3 年後まで、給付増額が指示されないよう物価調整係 数を 1.00 とすることにより給付額を固定する。 45 結局、C/QPP は確定給付基金なのか。著者の結論としては、カナダの労働人口のほぼすべてが 加入しているこの年金は、掛金率および給付水準が明確に定められているものの、保証されては いない基金であると言える。したがって、C/QPP には目標給付金と目標掛金がある。いずれの基金 でも、加入者は年金資産価値について高い期待を得られるが、保証はされないということが言え る。 7. 年金の 年金の聖杯を 聖杯を探し求めて 新しい最適な年金設計を探すうえで、手がかりや目印がない訳ではないことは、慰めとなる事実 である。 カナダにおいては政府諮問機関が、最近になって以下のような内容の企業年金制度の改革に 関する報告書を発表している。 ケベック州: 年金保険局による『Member-funded Pension Plans[加入者積立年金基金] (2007)』 オンタリオ州: オンタリオ州年金専門家委員会による『Jointly Governed Target Benefit Pension Plans : JGTBPP [合同運営の目標給付年金基金] (2008)』 アルバータ州/ブリティッシュ・コロンビア州(ABC): ABC 州合同年金専門家委員会による 『A new ABC joint provincial pension plan [ABC 合同州立年金基金] (2008)』 ノバスコシア州: 年金レビュー審議会による 『a new Province-wide plan that would be a DC Target Benefit plan administrated by an independent agency [独立機関が運営する確定拠出目標給付年 金基金となる州全土の新たな基金]』 5 州から公表された上記の 4 件の報告書は、具体的な提案内容は異なるが、大局を見れば確か に共通するテーマを持っている。この共通テーマこそ、21 世紀の最適な年金制度に関する本研究 の考え方の基盤を成すものである。 ここで、キース・アムバクシアが最近発表した 2 つの出版物においても、これと同様のアイデアが 提示されていることを指摘しなければならない。1 つは『Pensions Revolution: A Solution to the Pensions Crisis [年金革命:年金危機の解決策] (2007)』と題する著書で、最適な年金制度(TOPS) を紹介している。もう 1 つは C.D. Howe シリーズに最近寄稿された『The Canada Supplementary Pension Plan [カナダの補足年金基金] (2008)』で、ここでも同様のアイデアを提示している。アムバ クシアの出身地が、同様のアイデアに基づいて国民年金制度の基盤が形成されているオランダで あることは偶然ではない。 米国については、既存の教職員保険年金・保険基金(TIAA-CREF)年金モデルに組み入れら れている多くの機能が当研究のテーマに一致していることを指摘する。 46 8. 希望、 希望、期待、 期待、約束 本稿では新たな年金構想を示すにあたり、従来型の確定給付制度と確定拠出制度のいずれに もない、年金リスク共有のシステムを提案する。この点で、一部の年金制度は労働者に対し、年金 所得の安全性についてわずかな希望を与えているにすぎないものである。既存の個人勘定確定 拠出年金や 401(K)プランの多くに関しても、年金所得の安全性を確保するには掛金率が低すぎ るという点で、この部類に属すると言える。 一方で、加入者に給付を約束している年金基金も多く、これは保証であるとも受け取れる。現在こ のような基金は実質的に公共部門でしか得られない。これらは、納税者の支えのもとで退職後の年 金給付が完全に物価調整される確定給付年金である。これらの基金が不履行となるということは、 政府が不履行に陥るということに等しい。 本稿では、希望を超えて、保証とまでいかなくとも、合理的な期待と呼べる地点を目指す。 明らかに、労働者または年金スポンサーが現時点で加入または出資している基金がどのようなも のであれ、本稿の提案する「ハイブリッド」基金は両当事者に一定の利益と不利益をもたらすもので ある。この利益と不利益が全体的に相殺され、両当事者にとって許容可能なものとなることを目指 す。 本稿の終着点は、合同運営の目標給付年金基金 [Jointly-Governed Target Benefit Pension Plans] と称する年金基金である。この種の基金を説明するうえで重要となる 1 つの特徴は、「規模」 の便益を得るため、年金資産が他の基金の資産と混合して運用される点である。資産ポートフォリ オの価値を最低目標として、100 億ドル以上とするのが望ましい。これらの年金資産は民間部門、 もしくはカナダ年金基金運用理事会(CPPIB)のような独立 独立した 独立した公正妥当 した公正妥当な 公正妥当 な立場の 立場の政府出資運用 理事会によって管理される。この運用理事会は政府の出資を受けることがあるが、政府の管理下に 置かれたり、または政府の影響を受けたりすることはない点に注意されたい(これも既存の CPPIB と 同様)。また基金は、年金スポンサーの管理下に置かれることもない。この仕組みのもとで、カナダ の MEPP モデルに内在する運用問題をいくらか回避できる。また繰り返しになるが、資産の運用は 民間部門の機関と共に行うことも可能である。この点は、この仕組みにおいて重要ではない。重要 なのは、運用手数料の合計 合計が 合計 40 ベーシスポイント(0.40%)未満でなければならないことである。納 税者は事務管理費用を負担すべきでなく、年金基金のリスクにもさらされるべきではない。 政府が「孤立した」年金給付を集め、合同基金に移すことは可能であろう。現に、「政府は年金給 付の受領、保有、分配などの目的とする機関を設立または指定することができる」と定めているオン タリオ州年金給付法第 103 項のもとでは可能である。 また個人が、それぞれの個人勘定を(さらには RRSP も)これらの独立した合同基金に混入させる ことも可能であろう。 明確にすべき点があと 2 つある。 第 1 に、混合資産ポートフォリオを保有するということは、すべての参画基金が同じ性質でなけれ 47 ばならないことを意味するわけではない。参画基金がそれぞれ異なる掛金率であっても構わない。 給付基準すら同じである必要はない(たとえば、最終所得平均方式と、勤続年数ごとに 1000 ドルと する方式など)。 第 2 に、参画基金は、自らの投資ポートフォリオを特定する能力がなければならない。たとえばプ ランスポンサーは、すでに退職した加入者に属する資産が、すべて実質利益の債券とするよう要求 できなければならない。 年金スポンサーの立場から見ると、この新しい基金は確定拠出基金となる。既存の確定給付年金 スポンサーは、この新しい枠組みのもとでは、従来の確定給付年金基金に伴う膨大な責任から解 放される。しかし、基金の加入者の期待年金給付額は(やや保守的な年金数理予測、たとえば株 式リスク・プレミアムについて金融経済学と一致する前提を用いて)定期的に更新されることになる ため、これらの基金のい いずれも、低い労使拠出率(給与の 6%未満など)で存在可能であると期待 ずれも すべきではない。むしろ、労使の掛金は給与の 10~20%の範囲と想定される可能性が高い(従業 員の拠出が受け入れられ、事業主の拠出と同程度の税制上優遇措置が受けられるカナダでは一 般的となるはずである)。したがって、純粋な従来型の確定拠出年金基金を現在設立しているスポ ンサーにとっては、有意な目標給付を実現するため、掛金率が大幅に引き上げられることになる。 OECD(2009 年)の研究によると、掛金率が 5%であれば所得代替率は 25.3%となり、掛金率が 10%になれば所得代替率は 50.7%に倍増する。同様に、他の条件を一定とすれば、掛金率が 1% 増えるごとに所得代替率は 5 パーセントポイント上昇する(拠出期間を 40 年とし、自国の国債 40% と国内株式 60%からなる固定ポートフォリオを想定)。 もう 1 つ重要な変化がある。これらの基金は合同運営という仕組みを持つ。つまり、年金運用を管 理する運用理事会のうち、50%は年金スポンサーからの代表者、あとの 50%は年金加入者(退職 者から最低 1 名の代表者を含む)の代表者で構成される。年金設計の具体的内容について重大 な決断を下すのはこの理事会であり、運用会社と連絡を取るのもこの理事会である。 運用理事会は基金の加入者である必要はない。実際のところ、著者の見解からすると、理事会に は年金の専門家がより多く含まれることが望ましい。現在、この種の代表制のモデルとなる例がある (オンタリオ州教職員年金(OTPP)など)。一方で、理事会は委託会社、政府、運用会社から独立し た立場でなければならない。 本稿の見解としては、合同運営による基金は、年金スポンサーが単独で運営している基金ほど厳 しく規制されなくてもよい。 ほとんどのスポンサーの立場からするとこれは、年金設計や給付金積立を一方的に変更できる権 限を失うもののように思われるだろう。すべての重大な決断は 50 対 50 代表制の年金理事会または 委員会により行われる。年金加入者の立場からするとこれは、加入者が基金の積立に関してほとん ど何も意見できなかった、従来の事業主提供年金制度を改善するものである。 この新しい年金基金は結果として、現在、伝統的な従来型確定拠出年金基金の加入者の状況を 大きく改善させる。新しい基金の加入者は、もはや基金の運用に責任を負わない。運用は、公正 妥当な独立した立場の運用会社が責任を持つことになる。 48 またこれらの JGTBPP は、現在単独事業主年金基金に加入し、転職回数の多い労働者の退職後 所得の安全性を補完してくれる(つまり、ポータビリティである)。JGTBPP では目標給付に向け確定 拠出勘定に掛金を計上するので、ある事業主から別の事業主へと移動しても、既存の確定給付基 金ほど重大な影響は生じない。さらに、労働者は職業よりも職場を変えることが多いため、転職をし てもその労働者はなお同一の合同年金基金に属するということが十分に考えられる。 明らかに運用リスクは、(数十億ドルの)巨大な合同資産ポートフォリオに見合ったリスクとなる。運 用にかかる手数料率は強制的に 40 ベーシスポイント未満とされる(そのために年金規程または法 律の制定が必要となるかもしれない)ため、手数料リスクは軽減される。 資産価値は変動するものの、給付予定に完全または急激な影響を及ぼすことはない(MEPP の 場合、そうはいかない)。 またこれらの基金は、金利変動リスクおよび長寿リスクという負担から、個々の労働者を解放する ものでなくてはならない。累積資産を退職給付に変える方法は 2 つ考えられる。1 つの方法は、退 職時期が近づく加入者のため、基金が据置終身年金を購入するという方法である。これは比較的 早期(たとえば 40 歳)に開始し、年金資産のうち個人労働者に割り当てられ据置終身年金の購入 に使用される割合を段階的に増やし、予定退職日までに 100%とする(ただし、この年金を 1 日で 購入できる訳ではない)。現在のカナダの団体年金市場は、非常に競争的で優れた価値を提供し ている。 もう 1 つの方法は、基金が給付の支払いを管理することで、より総合的に運用リスクを負担できる というものである。 これは米国の基金 TIAA-CREF が採用しているシステムに類似するものと考えられる。 個人労働者や加入者はもはや、各自の資産を運用する能力や、長寿リスクを管理する能力を求 められることはないことになる。かかるリスクは据置終身年金を購入することにより、または規模の大 きい団体で共有することにより軽減される。 ここまでで触れていない最後のリスクは、インフレリスクである。本稿の提案モデルは、やや保守 的な計算基礎率(たとえば、株式リスク・プレミアムについてファイナンシャル・エコノミクスに一致し た前提を用いる)に基づき、「目標給付」または「期待給付」を予測するものである。収益率が年金 数理的予測で想定する収益率を上回った場合、給付を改善させるための余裕ができる。給付改善 策の 1 つとして、退職前の加入者の所得データをアップグレードし、平均給与比例制度から最終給 与比例制度に近いものに基金を移行させることがある。もう 1 つの改善策は、定年退職後に実施さ れるもので、「超過」収益を使って給付額を「物価スライドさせる」という方法である。これは必ずしも、 本当の意味で実際の給付が消費者物価指数(CPI)に連動することを保証しない。だが、この基金 に加入することにより、物価スライド制に対する希望が期待に変わる(これはオランダの国民年金制 度が持つ機能に極めて近い)。 これに関する興味深い点としては、最近、オンタリオ州教職員年金(OTPP)の改正がある。今後 (2010 年 1 月 1 日以降)発生する給付について、給付額の物価スライド幅の 50%のみが保証対象 なる。あとの 50%は基金の積立状況の健全性を条件とする。 49 9. 検証結果 本稿のセクション 3 で、新しい年金設計が満たすべき 5 つの基本的原則を提示した。提案する合 同運営の目標給付年金基金(JGTBPP)はこれらの原則をどれほど満たしているだろうか。 1) 全体的な経済リスク(分散)が、加入者に適した手段で共有されなければならない(たとえ ば肉体労働者に対し、運用のプロとなることやライフサイクル投資を理解することを期待す べきでない)。 JGTBPP の構想のもとでは、適切なリスク共有が達成されると考えられる。これには、効率的かつ 効果的に、低い運用手数料率(MER)で運営される大規模の混合資産プールを保有できるという 利点がある。もはや、肉体労働者が投資のプロになることは要求されない。 2) 規模が重要となる。規模に比例する効率性および機会があり、これらは追求する価値があ る。 年金資産の混合により、資産価値が 100 億ドルを下回る基金は存在させないようにすることを目 指す。これが実現すれば、第 2 原則は満たされる。 3) 原則 1 および 2 と一致して、リスクを共有する集合的アプローチでなければならない。すな わち、可能な限りリスク(分散)を統計的有意に低下させるため、「大数の法則」を活かすべ きである。 同様に、年金資産の混合は、大数の法則という集団の有意性を獲得している。これは、「基金」が 給付段階のプロセスを管理する場合、特に重要である。 4) 既存の二極化した確定給付年金と確定拠出年金の制度から移行する際、権利や特権に ついて譲歩するよう加入者に求める場合は必ず、手放すものに代わる新しい権利や特権を 提供するよう努めなければならない。 新たな JGTBPP は、既存の年金加入者の大多数に対し、これらの原則を満たすものとなる。個人 勘定の確定拠出年金の保有者にとっては、集団の有意性は明らかである。中小規模の確定給付 企業年金の加入者にとっては、合同基金が目的とする規模はより大きな安心を提供してくれる。大 規模な企業年金基金の加入者にとっては、「目標給付」へと譲歩する代わりに、合同運営権を獲得 することができる。しかし後者の加入者にとっては、この移行がどのような価値をもたらすのか疑問 50 に思われるかもしれない。この問題に対してはまだ答えが出ていない。 最後に、給付が実質的に保証されている、大規模な合同運営確定給付年金基金にすでに加入 している労働者(これはごく一部の公務員年金制度加入者のみに該当する)については、正味の 利益はないように思われる。むしろ、実質的に保証された給付を「目標給付」に変えることは、彼ら にとって安心を損なうものになると見なされるだろう。しかし、将来的に深刻な滞納から基金を守るも のであるということは言える。 年金スポンサーは合同運営への移行に伴い、単独支配権について譲歩する。代わりに、予測の つかない従来型の確定給付プランから(スポンサーにとって)利点の多い確定拠出プランに移行で きる。これは思わぬ幸運と見なされるものだろう。 5) 新たな年金設計は、市場の実情を把握したものでなければならない。競争的市場での実 現が期待できない仮定を要するような設計案は検討すべきでない。 この JGTBPP は自由市場に「追随する」というよりも、むしろ市場を「主導する」ものと考えられる。 JGTBPP は公開市場で効果的かつ効率的に機能するであろう。最後に、繰返しになるが、資産混 合基金への移行を促進する役割は政府が果たすべきであるものの、(短い移行期間の後)基金の 運用は、総手数料率が 40 ベーシスポイント未満に抑えられる限り、民間部門が行うべきものとす る。 10. 結論とまとめ 結論とまとめ 本稿で提案した JGTBPP には 2 つの側面がある。 1 つの側面は、年金スポンサーの立場から見ると、JGTBPP は確定拠出年金の特徴を有するとい うことである。確定拠出を終えれば、年金スポンサーの責任は果たされることとなる。 労働者または加入者には、年金数理的予測をもとにした「期待」目標給付額が通知される。これ らの予測はやや保守的な前提(たとえば、期待株式プレミアムをゼロとするもの)を置き、これらの前 提を上回る収益が出た場合、退職の前後で給付向上に充当される。退職前の給付調整としては、 基金を平均給与比例から最終給与比例に近い方式へ移行することができる。退職後であれば、給 付をある程度まで物価スライドさせる方法が考えられる。ただし、いずれも保証されるものではな い。 JGTBPP のもう 1 つの重要な側面は、年金資産を基金(そのいずれも最終的に 100 億を下回らな い)に混入させることである。これにより労働者は、低い手数料率でプロに運用を任せられるという 利点と、規模の大きな集合体に参加する利点を享受できる。これらの利点は、基金が年金所得の 支払いに責任を負う場合は特に重要である。 本稿は、リスクのない年金基金は存在しないという見解を基本としている。事実、労働者の視点の 51 みから考えても、リスクのない年金基金は存在しない。 提案するモデルは新たなリスクを取り込むものではない。むしろ、規模の大きい合同年金基金を 形成することにより、既存のリスクを軽減しようとするものである。これにより年金制度全体の総リスク は、劇的に、すべての当事者にとって管理可能と見なされる水準まで低下するであろう。 それが我々の心からの願いである。 出典 Ambachtsheer, Keith, and Rob Bauer. 2007. “Losing Ground: Do Canadian Mutual Funds Produce Fair Value for their Customers?” Canadian Investment Review. Spring issue. Ambachtsheer, Keith (2007). Pensions Revolution: A Solution to the Pensions Crisis. John Wiley and Sons, Inc. Ambachtsheer, Keith (2008). The Canada Supplementary Pension Plan. The C. D. Howe Institute Commentary, No. 265 Burtless, G. (2009). Lessons of the Financial Crisis for the Design of National Pension Systems. CESIFO Working Paper No. 2735, July. Canadian Institute of Actuaries (2007). Planning for Retirement: Are Canadians Saving Enough? Informetrica Limited (2007). Occupational Pension Plan Coverage in Ontario (Statistical Report). Prepared for the Ontario Expert Commission on Pensions. Organization for Economic Co‐operation and Development, OECD (2009). Private Pensions and the Financial Crisis: How to Ensure Adequate Retirement Income from Defined Contribution Pension Plans? Working Party on Private Pensions. Shilton, E., 2007. Current Issues Concerning Multi‐Employer Pension Plans in Ontario. A Research Report prepared for the Ontario Expert Commission on Pensions. 52 書籍紹介 書籍紹介 有森美木著, 有森美木著 江口隆裕編「 江口隆裕編「世界の 世界の年金改革」 年金改革」2011 年, 第一法規 (調査研究委員会 井川孝之) 本書は、36 歳の若さで急逝された有森美木氏の論 文集である。生前に執筆された論文は 110 本を超え、 その一部の 23 編が本書に掲載されている。論文数だ けみても、生前の限られた時間の中で、相当の熱意 をもって年金のリサーチに取り組まれていたことが 感ぜられる。我が国において年金改革がまさに必要 とされている現在、36 歳の若さでお亡くなりになら れたことは誠に遺憾である。もしも存命であれば、 一層成熟して行くこの社会において公的年金・私的 年金のあるべき方向と姿を適切に示し導いていただ けたことであろう。このような著者の生前の姿勢に 鑑み、本稿では書評と言うおこがましいことは避け、 書籍の概要紹介と感想を述べるに留めたい。 本書は 7 部構成となっているが、大きくは、世界 の年金改革と評価(第 1・2 部)、各国の年金改革と年金制度(第 3~5 部) 、年金の経済学 や法的論点(第 6・7 部)の 3 部構成と捉えることもできよう。 第 1 部では、単なる欧米各国の年金改革の紹介に留まらず、年金制度における対立する 考え方と評価基準を独自の観点から構築し、2004 年の我が国の年金改革へ適用を試みてい る。また、本書全体に通ずることだが、年金改革について単なる一国の垂直的比較をする のではなく、欧米諸国のみならず発展途上国等も含めた水平的な国際比較を試みている点 が着目される。人口高齢化や経済成長が鈍化する先進諸国においてクローズアップされる 論点として、高齢低所得者への公的給付や確定拠出個人年金勘定の導入等を挙げ、後者に ついては第 2 部においてスウェーデン、英国を始めとした事例を詳細に記述し、日本にお ける導入についても考察されている。確定拠出個人勘定導入の評価のため、チリ、ポーラ ンドの事例を取り上げている点も興味深い。 第 3 部、第 4 部では、ドイツ、フランス、英国等の年金改革について詳述されている。 人口高齢化や経済成長の鈍化の下、公的年金を持続可能なものとするため、支給開始年齢 の引上げ、給付の調整、拠出建て制度の導入、企業年金の拡充等が実施されてきたことが 述べられている。総じて、公的年金が完全民営化されることはなくとも、公的年金の肥大 化を妨げる傾向が示唆されている。また、雇用・働き方等の社会的な変化に伴い、女性と 年金、離婚分割等についても取り上げられている。これらは、先進各国でみられる共通の 課題と取り組みであり、我が国の検討においても多いに役立つことであろう。 第 5 部では、中国、韓国、シンガポール、そしてイスラム年金の事例としてインドネシ アの年金制度が紹介されている。あまり見ることのないこれらの国々の年金制度を知るこ とだけでも価値があることは言うまでもないが、先進国が時間を経て経済成長、都市化、 53 少子高齢化等の変化を経験して来たのと比較し、短時間で同時にこれらの事象を経験して いることを踏まえた説明となっている点が著者のリサーチの特徴を感じさせる。このよう なリサーチの姿勢は、年金制度の水平的比較を行う上でさらに活かされ、本書の価値を向 上している。 第 6 部、第 7 部では、それぞれ年金経済学、年金制度の法的論点と言う年金制度のパラ ダイマティックな改革を行う上でもベースとなる内容を整理している。著書が述べている 通り、年金制度の専門家が経済的な分析を行うことはあまり見かけず、また、年金経済学 の邦語文献も数少ないことから、世代重複モデルの基礎的な内容を整理したことは価値が ある。第 6 部の後半では、我が国の公的年金の積立金の運用状況や見通しを資金循環や市 場運用等の状況を踏まえ整理しており、我が国の年金制度を年金経済学的視点から見る上 でも、重要な分析となっている。第 7 部では、企業年金の給付減額事例の整理と公的年金 の逸失利益性に関する論点整理がなされている。年金制度の持続可能性が問題となる場面 が増えてきている中、このような基礎的な内容の整理や考察が有用であることは言うまで もない。 以上、本書の内容を概観してきたが、前述の通り、著者のリサーチの特徴として、年金 制度の水平的比較がある。グローバル化が進み、先進諸国では成熟社会の中で新たな問題 に直面する一方、新興国や開発途上国では先進国が経験してきた様々な問題が同時に生じ ているような以前とは変化の速さが異なる状況においては、ある特定の国の垂直的比較よ りも水平的なグローバルな国際比較の方が優れた手法であるように思える。 最後に、冒頭でも述べた通り、著者の早すぎる死は誠に遺憾であるが、年金数理人や年金 関係者が本書や著者の執筆論文を活かしていくことにより、我が国や世界の年金制度が持 続可能なより良い制度へ改革されて行くことを祈りたい。 ● 有森美木の調査スタイル 調査研究委員会 中田正 有森美木著、江口隆裕編「世界の年金改革」の書評については、井川氏による「書籍紹介」をご 覧いただくこととし、永らく有森美木氏の身近にいてその調査・研究振りを見ていたものの一人とし て、また、何本かの共著の論文・報告を著しているものとして、彼女の調査スタイルや論文意図に ついて記し、読者の年金調査研究の参考とするとともに追悼の一助としたい。彼女は年金数理人 ではなかったが、その年金調査への真摯な態度と調査スタイルは年金数理人も範とすべきである し、調査研究活動を通じて年金数理人に知人も多かったからである。 井川氏も述べているが、彼女の調査ぶりを見て驚き、また、感心するのは、その残された執筆量 の多さである。「世界の年金改革」自体が400ページほどの分厚い書籍であるが、これも彼女が生 前執筆した110編の論文から江口教授が選ばれた23編を編集したにすぎない。有森の年金に関 する調査研究は、彼女が日興リサーチ・センターおよび日興フィナンシャル・インテリジェンスに在 籍した2001-2010年の10年間になされているが、最後の数年は体調もあり、十分な調査活動は 54 できていないので、実質7,8年の間に110篇ほどの論文を残しており、平均して年14,5本を執筆 していることになる。これらの多くは、社の「年金レビュー」(2007 年 5 月から「NFI リサーチ・レビュ ー」に改称)に掲載されているが、同誌は毎月発行されるもののほか、年4回四半期報として特別 号を出しており、彼女はこのうちの2号を「日本の公的年金制度」(80 ページ程度)や「年金データ 集」(100 ページ程度)として、執筆・編集しており、また、10 ページ前後ではあるが、毎号(つまり毎 月)「年金レビュー」の「年金の動き」欄(2007 年 5 月から「NFI リサーチ・クリップ」に改称)を受け持 っていたりしているから、これらを合わせると彼女の執筆量はさらに多くなる。 「世界の年金改革」をみると、有森美木は諸外国の制度調査を行った人であったかの印象を受け られると思われ、それが調査活動の中心だったことは事実であるが、彼女の関心は雑然とはしてい たが、もっと広範囲にわたっていたといえる。「世界の年金改革」はその中から彼女の恩師である江 口教授が海外制度の調査、研究、報告を中心に一冊の本にまとめられたものである。また、彼女は 英文の論文を共著を含め5本くらい執筆していると思うが、それらは、本書には収められていない。 それでは、なぜ、有森美木は、かくも多くの論文を残すことができたのか。筆者は、それは、その調 査スタイルにあると考えている。以前、膨大な著作を残した数学者グロタンデイークにとって「数学 をすること=書くこと」であったという記述を読んだことがあるが、彼女にとっては「調査すること=書 くこと」であったような気がする。また、堀勝洋教授は、その著書の中で、教授にとって、研究とは、 研究室では執筆、家では読書を続けることであったと述べておられるが、筆者は、彼女は家でも執 筆していたような気がしている。実際、大晦日の夜遅く共著を約束していたその日が締め切りの国 際会議の提出論文原稿を彼女からメールで送られてきたこともあった。 こうした彼女の調査・執筆スタイルは、インターネットの普及、ワープロの普及に支えられている。 彼女の情報源の多くは、インターネット上の政府報告や研究者の論文であり、彼女はインターネッ ト上の文献検索が得意であったし、また、かなりのスピードでワープロが打てなければ「調査=執 筆」は成り立たない。その意味では、彼女は丁度よい時に調査活動を始めた時代の申し子という側 面もある。 彼女の論文は、国際的にも一定の評価を受けていたとも思われる。そういうことがなければ、年金 分野で世界的に著名なペンシルバニア大学のミッチェル教授から書評を依頼されることも、英国 NAPF(企業年金連合会)元議長のエリソン氏から雑誌の編集委員を依頼されることもなかったと思 われるからである。また、オックスフォード大学の年金研究者ゴードン・クラーク教授から国際比較 調査の日本での実施を依頼されたこともあった。 以下では、「世界の年金改革」に掲載されている個別の論文から、筆者の記憶にある論文につい て、その背景、もともとの意図等について記述し、読者の参考に供したい。有森の論文・報告には、 自らテーマを設定して執筆したものと依頼を受けて執筆したものがある。おおよそ、題名に論文の 内容が書かれているものが前者、「○○の年金制度」のように一般的な題名が付されているものが 後者である。勿論、前者が後者より優れているとかいうことではないが、ここでは執筆・論文意図の 明確な前者を対象とする。 55 1.「先進国における社会保障年金への確定拠出個人勘定導入について(1)スウェーデンの場合、 (2)イギリスの場合、(3)アメリカの場合」 これらの3論文は、1990年代中ごろから欧米先進各国で行われていた公的年金改革を追ったも のであり、彼女の初めての論文となっている。「世界の年金改革」では、3カ国が掲載されているが、 そのほか、当時ドイツ日本研究所におられたハラルト・コンラット博士と共同でドイツについて執筆し、 最後に纏めの論文を執筆している。民間のシンクタンクでは、じっくり勉強して何年かしてから論文 を出し始めるという余裕はないため、年金制度の調査を始めたばかりであり、学生時代の蓄積もな い当時の有森美木がいかにして論文が書けるか関係者で知恵を絞った結果、テーマを海外の年 金制度改革とし、それを数カ国について横並び(水平的)に叙述する方法を選択した。当時、イン ターネットの普及によって日本にいても海外情報が入手しうるようになり、それまでは、国際機関や 国際会議の報告など一部にしかできなかった各国横並びの年金制度調査が可能となり、海外では そうした論文・報告が多くなってきていたが、日本では、依然として一国の制度調査・報告が行われ ていた状況であったため、この方法はそれなりの成功を収めたと思う。いずれにせよ、彼女はこれら の論文によって「有森美木=海外制度調査」として年金業界にデビューした。また、有森は、この 調査を通じて、垂直アプローチと水平アプローチ、パラダイマテイックな改革とパラメトリックな改革 という年金制度調査の基本概念を記述している。 2.「年金制度評価基準と制度改革案の評価」 本論文は、年金制度の評価基準を設定しスウェーデン、イギリス、アメリカ、ドイツ、日本の5カ国 について年金制度や制度改革案をその基準から評価してみようというものであり、博士論文のテー マにしたいとの意向もあって有森もかなり力を注いで執筆したが、必ずしも完成していないと思わ れる。当時、たまたま来日していたミッチェル教授と朝食を共にする機会があったとき、彼女がドクタ ー論文の構想としてこの課題を説明したが、教授からは、「大変 challenging なテーマであるが、比 較する国は日米くらいに減らし、その国について深く調べるのがよいだろう」というアドバイスをいた だいている。 筆者は「調査報第1号」にロバート・ブラウン教授のこの問題を扱った論文を翻訳・掲載したが、テ ーマとして選択した理由の一つが他でやってなさそうということであり、そのことからもわかるように、 当時我々は、その論文を知らず、クリントン大統領の委員会だけでは、あまりに手掛かりが少なすぎ たといえる。なお、「他でやっていない」と「世間ではやりそう」は、有森を含め民間シンクタンク研究 員が執筆テーマを選ぶときの基準の一つである。なお、本論文は、英語にして国際会議でも発表 している。このテーマは、彼女にとって未完のテーマとなってしまった。 3.「イギリスにおける離婚と年金‐年金分割制度の紹介‐」 民間シンクタンクは新しい調査ものに飛びつく側面があり、世界で最初、日本で最初のことをやり たがる傾向がある。年金の離婚分割については有森は日本で最初に行ったうちの一人であるとい える。当時、厚生労働省で「女性と年金」検討会が開かれており、委員の一人であった筆者は「女 56 性と年金」問題に関する米国の論文の翻訳とイギリスの年金離婚分割に関する書物の勉強を彼女 に依頼した。前者は翻訳終了後、検討会の席上委員に配布されたが、後者での勉強をもとに執筆 されたのが、本論文である。この調査活動を通じて、彼女は年金制度の基本的な視点”Social Adequecy”と”Individual Equity”を記述している。これは、堀教授のいう社会保障における「扶助原 理」と「保険原理」にあたるものであろう。なお、堀教授はのちに「離婚時の年金分割と法‐先進諸国 の制度を踏まえて」を上梓されている 4.年金経済学入門「世代重複モデル①、②」、「日本の年金積立金とその経済的な影響①、②」 これら年金経済学入門として発表された解説は、彼女の学生時代の専攻であった経済学からみ た場合の年金とはどういうものかを洗いなおしてみようと始められたものである。この背景には、経 済学者の書かれた「年金制度の課題とその解決策」風の書物に年金調査者としての彼女が違和感 を抱いたところにある。連載を始めてすぐ中断されているが、経済学が年金制度に何処まで有効か 一度どなたかに体系的に整理していただきたいものである。 なお、「世代重複モデル」については、David Blake “ Pension Economics” John Wiley & Sons, Ltd, 2006 に詳しく展開されている。 5.これからの調査への期待 有森美木がなくなったために中断されていて、筆者が今後も継続して調査が行われることを期待 したいテーマについて述べる。 (1) 「日本の年金思想に関するノート(1)給付と負担(2)企業年金(3)社会保障制度審議会にお ける年金制度の考え方」NFIレビュー2004 年 1 月、3 月、8 月 本論文は、当時、日本の年金制度の歴史についての書物が少なかったことから、テーマごとの歴 史記述を試みたものであったが、年金制度の歴史についての包括的な書物、吉原健二「わが国の 公的年金制度‐その生い立ちと歩み」中央法規出版、2004が出版されたため、執筆を中断したも のである。しかし、テーマごとの歴史も必要であろうし、企業年金についての本格的な歴史書も必 要であろう。 (2) 有森美木は国内外の年金関連情報を「年金の動き」ということで「年金レビュー」に毎月報告し ていたことを上述した。「年金の動き」では、新聞、雑誌、インターネットで得た情報を孫引きせず、 原典に当たることを原則としていたから、毎月行えば、これだけでもかなりの作業量であったが、彼 女は地道にこれを続け多くの人に喜ばれた。幸いにも、これは、日本年金数理人会「調査報」に引 き継がれている。 (3) 有森美木は「年金データ集(邦文・英文併記)」、「日本の公的年金制度」を執筆、編集してい た。前者は、日本における唯一の英文表記を含む年金データであるため、とりわけ外国人に歓迎 57 された。後者は、米国の著名なアクチュアリーRobert Myers 氏が著した60ページ余りの米国年金 制度解説の小冊子の日本版を狙ったものであり、公的年金制度について、外国人への説明を念 頭に置いて、制度横断的な説明を試みているユニークなものである。 これらは,年金制度の基本資料であり、年金数理人会等において継続されるべきものである。 有森美木氏は、生涯のそれぞれの時点における最高の教育と本人の努力によって、大量の文章 と優れた書物を残したといえる。彼女の人生は短かったが、人柄と業績はその著作とともに長く記 憶にとどめられるであろう。ご冥福をお祈りする。 58 正誤表( 正誤表(JSCPA 調査報 No.1,No.2 No.1,No.2) No.2) 下表の通り、JSCPA 調査報 No.1,No.2 が訂正となります。誤記がありましたことをお詫び 申し上げます。 JSCPA 調査報 No.1 正誤表 該当箇所 正 誤 4 頁・上から 日本・スペイン間及び日本・アイル 3 行目 ランド間で 4 頁・上から 社会保障に関する日本国とスペイ 社会保障に関する日本国とスペイ 5-6 行目 ンとの間の協定 ンとの間の協定 日本・スペイン間で (平成 22 年 9 月 3 日公布及び告示、 (平成 22 年 9 月 3 日公布及び告示、 平成 22 年 12 月 1 日効力発生) 平成 22 年 12 月 1 日効力発生) 社会保障に関する日本国とアイル ランドとの間の協定 (平成 22 年 9 月 10 日公布及び告示、 平成 22 年 12 月 1 日効力発生) 4 頁・上から http://www.nenkin.go.jp/agreement/s http://www.sia.go.jp/seido/kyotei/in 14 行目 ystem/system_03.html dex.htm 4 頁・上から 確定給付企業年金施行規則の一部 確定給付企業年金施行規則の一部 18 行目 を改正する省令(平成 22 年厚生労 を改正する省令(平成 22 年厚生労 働省令第 104 号) 働省第 104 号) 5 頁・上から 東北地方太平洋沖地震に係る厚生 東北地方太平洋沖地震に伴う厚生 15-17 行目 年金基金及び国民年金基金の事務 年金基金及び国民年金基金の掛金 処理に関する指導等について(年企 等の納付期限の延長等に係る事務 発 0316 第 1 号)(平成 23 年 3 月 16 処理に関する指導等について(年企 日) 発 0316 第 1 号)(平成 23 年 3 月 16 日) 5 頁・上から 平成 23 年東北地方太平洋沖地震に 平成 23 年東北地方太平洋沖地震に 18-20 行目 よる災害に対する「特定非常災害の よる災害に対する「特定非常災害の 被害者の権利利益の保全等を図る 被害者への権利利益の保全等を図 ための特別措置に関する法律」の企 るための特別措置に関する法律」の 業年金制度等への適用について(年 企業年金制度等への適用について 企発 0329 第 1 号)(平成 23 年 3 月 (年企発 0329 第 1 号) (平成 23 年 3 29 日) 月 29 日) 59 JSCPA 調査報 No.2 正誤表 該当箇所 正 誤 2 頁・上から 「国民年金及び企業年金等による 「国民年金及び企業年金等による 6-8 行目 高齢期における所得の確保を支援 高齢期における所得の確保を支援 するための国民年金法等の一部を するための国民年金等の一部を改 改正する法律(年金確保支援法) (法 正する法律(年金確保支援法)(厚 律第 93 号) (厚生労働省) 」 生労働省) 」 (平成 23 年 8 月 4 日成立、平成 23 (平成 23 年 8 月 4 日成立、平成 23 年 8 月 10 日公布) 年 8 月 10 日公布) 2 頁・上から ① ① 11-13 行目 間を延長(2 年→10 年)し、本人の 間を延長(2 年→10 年)し、本人の 希望により保険料を納付すること 希望により保険料を納付すること で、その後の年金受給につなげるこ で、その後の年金受給につなげるこ とが可能となった。(施行日:平成 とが可能となった。(施行日:平成 24 年 10 月 1 日までの間の政令で定 23 年 10 月 1 日までの間の政令で定 める日) める日) 4 頁 17 行目以降 5 頁・上から 23-31 行目 5 頁・上から 国民年金保険料の納付可能期 国民年金保険料の納付可能期 23-31 行目 (掲載位置の 訂正) (掲載内容は 訂正無し) 60 論文募集 論文募集について 募集について 本誌では、下記要領にて論文を募集いたします。 1. 応募テーマ 企業年金の制度、財政、会計、税制、投資理論、ファイナンス等に関する内容をはじめ、公的 年金、社会保障等も含めた広く年金に関る内容を対象とします。 例: ・ 人口減少・高齢社会における公私年金の役割と運営のあり方 ・ 退職給付の債務・費用の測定のあり方 ・ 企業年金の本質と今後の企業年金のあるべき姿 ・ 終身年金の効用と普及のための課題 2. 応募資格 企業年金に関心のある方ならどなたでも結構です。年齢、国籍を問いません。また、団体等共 同執筆による応募も可とします。 3. 応募方法概要 (1) 論文は、次の書式等とします。 ・ A4 判横書き 5~10 頁程度、1 頁 40 字×36 行、日本語 ・ 表やグラフは最小限 ・ 他から引用した部分や統計は出所を明示 ・ 氏名、住所、電話番号、FAX、メールアドレスを記載 (2) 未発表の論文又は既発表の論文としますが、既発表の論文の場合には、発表先の了解を予 め得てください。 (3) 提出された論文は返却しません。 (4) 日本年金数理人会調査研究委員会にて、掲載の可否を決定いたします。 4. 企業年金研究賞論文について 日本年金数理人会では、JSCPA 調査報掲載の論文の中から、優秀な作品について企業年金 研究賞を授与します。 詳細が決まりましたら、別途お知らせをいたします。 5. 論文送付先 お問合せ・応募先 61 社団法人 日本年金数理人会 調査研究委員会 〒108-0014 東京都港区芝 4-1-23 三田NNビルB1 階 電 話 03-5442-0208 FAX 03-5442-0700 ホームページ http://www.jscpa.or.jp/ 電子メール mitann#[email protected] ご意見・ご 意見・ご要望 ・ご要望について 要望について 日本年金数理人会調査研究委員会では、会員の皆様からの本調査報への、ご意見、ご 要望を受け付けています。 調査報の内容、今後取り上げてほしいテーマなど、ぜひお寄せください。 ご意見・ご要望の送付先 社団法人 日本年金数理人会 調査研究委員会 〒108-0014 東京都港区芝 4-1-23 三田NNビルB1 階 電 話 03-5442-0208 FAX 03-5442-0700 ホームページ http://www.jscpa.or.jp/ 電子メール mitann#[email protected] 2012 年 1 月 発 行 発行者 社団法人日本年金数理人会 〒108-0014 東京都港区芝 4-1-23 三田NNビルB1 階 電 話 03-5442-0208 FAX 03-5442-0700 ホームページ http://www.jscpa.or.jp/ 電子メール mitann#[email protected] 編 集 社団法人日本年金数理人会 調査研究委員会 62