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低所得国での太陽光発電普及支援の動向と課題

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低所得国での太陽光発電普及支援の動向と課題
2012 年 6 月 18 日
Working Papers
低所得国での太陽光発電普及支援の動向と課題
~低所得国でのエネルギーアクセスの確保に向けて~
2012 年 6 月 20 日から 22 日にブラジルで開催される予定の国連持続可能な開発
会議(リオ+20)では、今後、国際社会が目指す主要事項の 1 つに、低所得国
におけるエネルギーアクセスの確保が取り上げられる見通しだ。低所得国での
エネルギーアクセスの確保に向けては、太陽光発電などの再生可能エネルギー
の普及促進がカギと考えられるものの、普及に向けた課題も少なくない。
(本稿は、筆者が平成 23 年度に参加した東京大学公共政策大学院 科学技術と
公共政策研究ユニット TECUSE 研究プロジェクトの調査結果を基にしたもの
である。)
性(affordability)」が満たされている状況と定
1.はじめに
義している。
国際エネルギー機関(International Energy
こうしたなか、低所得国でエネルギーアクセ
Agency: IEA)
(2011)によれば、世界で電力を
スをどのようにして確保するのかが、国際的な
利用できない人口は、13 億に上る。これは、世
課題となっている。国際連合は、2012 年 6 月
界の人口の 19%に相当する。
20 日から 22 日にかけて、ブラジルのリオデジ
電力等のエネルギーへのアクセスの欠如と、
ャネイロで開催される「国連持続可能な開発会
それによる収入等への影響は、低所得国の慢性
議(リオ+20)1」の主要議題の1つに、国際社
的な貧困の要因となっている(UNDP 2011)。
会のあらゆる人々にエネルギーアクセスを確保
加えて、電力を利用できず、有害な燃料を使用
することを位置付けている。
することで、当該地域の人々に健康被害が生じ
ている事例もみられる。
なお、エネルギーアクセスについては、多様
な定義があるものの、例えば、国連開発計画
(United Nations Development Programme:
UNDP)(2011)は、エネルギーアクセスが確
1
保されている状況を、当該世帯がエネルギー供
給のネットワークの中に位置している「利用可
能性(availability)」と、エネルギーの設備費
用や使用料等を支払うことが可能な「入手可能
1
地球環境の保護と経済発展を両立させる持続可能な開発の
あり方について、参加各国が議論する国際会議。1992 年に
は、リオデジャネイロで「国連環境開発会議」が開催され、
気候変動枠組条約や生物多様性条約が署名された。また、
2002 年には、南アフリカのヨハネスブルグで「持続可能な
開発に関する世界首脳会議」が開催された。国連環境開発会
議から 20 周年を迎えるリオ+20 では、持続可能な開発に関
する新たな政治的コミットメントが採択される予定。
図表1
2.再生可能エネルギー普及促進に向けた動き
太陽光発電の地域別導入数等
地域
低所得国でエネルギーアクセスを確保する有
国名
中国
バングラデシュ
スリランカ
フィリピン
モンゴル
アジア太平洋
インド
太平洋諸島
ラオス
カンボジア
インドネシア
パプアニューギニア
タンザニア
マリ
モザンビーク
ウガンダ
アフリカ
ザンビア
エチオピア
カーボベルデ
ブルキナファソ
ボリビア
アルゼンチン
中南米
メキシコ
ニカラグア
その他
複数国
効な手法と考えられているのが、再生可能エネ
ルギーによる電力の普及である。再生可能エネ
ルギーは、まず、再生可能エネルギーによる発
電の費用対効果が高い点から注目されている。
UNDP(2011)は、人口密度の低い地域や送電
網が整備されていない僻地では、再生可能エネ
ルギーによる電力が最も適したエネルギー源だ
と述べている。例えば、中国では、同国西部の
無電化地域に居住する人々のエネルギーアクセ
ス確保の手段として、送電網の拡充に代わり、
再生可能エネルギーによる電力の普及が選択さ
導入
発電設備容量
世帯数(注1)
(kWp(注2))
400,000
198,000
180,000
135,000
50,000
45,000
21,000
13,000
10,000
8,500
2,500
11,800
10,000
9,800
8,300
8,300
6,300
4,500
2,100
60,000
30,000
8,345
6,000
100,000+
支援・融資額
(100万ドル)
10,000
9,900
7,200
10,000
520
2,500
630
460
400
425
100
800
350
1,096
600
415
407
129
100
2,600
2,843
1,767
215
8,146
144.9
91.4
62.3
120.0
5.2
24.0
16.5
4.3
4.0
3.8
2.2
20.0
3.5
13.5
18.8
11.0
5.4
2.5
2.0
38.6
36.0
27.6
3.0
25.3
出所:IFC“Selling Solar: Lessons from a Decade of
IFC and World Bank Experience”(2007)
注:1.導入世帯数は、世界銀行と IFC の融資を活用し、
太陽光発電設備を導入した世帯数。
2.kWp(キロワット・ピーク)とは、太陽電池パネ
ルの最大出力のこと(産業技術総合研究所ウェブ
サイト)。
れた(Zhang and Kumar(2010))。Zhang and
Kumar(2010)によれば、これは、送電網を拡
充する際に生じるインフラ整備費や、設備の維
持費用、送電ロスを考慮すると、再生可能エネ
ルギーによる発電の費用対効果が、送電網の拡
充による発電の費用対効果に比べて高いためだ
3.先行研究からみた普及に向けた課題
と言う。さらに、再生可能エネルギーは、二酸
先行研究を踏まえると、低所得国での太陽光
化炭素の排出量削減といった温暖化対策の面か
発電の普及が進まない要因として、主に、以下
らも注目されている。
再生可能エネルギーのうち、特に、送電網に
の 4 点が挙げられる(図表 2)。第1に、太陽光
繋ぐことができない環境下にある家庭の電源と
発電設備を低所得国の各世帯が購入する際、発
して発展してきたのが、太陽光発電である(IFC
電設備や周辺設備を購入するための費用が高い
こと、第 2 に、これらの世帯にとって、太陽光
and WRI(2007))。太陽光発電の普及に向け、
世 界 銀 行 と 国 際 金 融 公 社 ( International
発電設備の維持管理が困難なこと、第 3 に、所
Finance Corporation: IFC)が 1990 年から
得向上の仕組みが構築されず、電力利用の目的
2007 年までに各世帯に融資した総額は、6.9 億
である貧困削減がもたらされないこと、第 4 に、
ドルに上る(IFC(2007))。また、融資を活用
当該地域の住民の生活様式や習慣が十分に把握
し、太陽光発電設備を導入した世帯は、約 133
されていないことである。
万世帯であった。事業の実施国を地域別にみる
図表2
低所得国で太陽光発電の普及が進まない要因
①太陽光発電設備や周辺設備を購入するための
と、アジア太平洋が最も多く、次にアフリカが
多かった(図表 1)。
費用の高さ
②太陽光発電設備の維持管理の困難さ
他方、こうした低所得国での太陽光発電の普
③貧困削減に資する所得向上の仕組みの構築の
及事業について、必ずしも期待通りに成果を収
欠如
めていないことが問題とされている(李・上野・
④当該地域の住民の生活様式や習慣の把握不足
杉山(2011))。そこで、以下では、先行研究を
出所:李・上野・杉山(2011)、IFC(2007)等より作
成
基に、普及に向けた課題を整理する。
2
第 1 の点について、低所得国の人々にとって、
に技術を移転する際、受け入れ国が当該技術に
太陽光発電設備を設置する際の費用負担は非常
適応するためのプロセスが必要であると述べて
に大きい。このため、国際機関や先進国、当該
いる。そして、事業を継続させるためには、当
国の政府等が、金銭的な支援を実施している。
該地域の住民の生活様式や習慣を十分に理解す
ることが重要だと主張している。
他方で、こうした支援に全面的に依存すると、
支援がなくなった際に当該事業を継続させるこ
とが困難となる点が問題とされている(UNDP
4.成功事例からみた太陽光発電の普及の仕組み
(2011))。
太陽光発電の普及事業は、世界各地で実施さ
第 2 の点について、低所得国で太陽光発電普
れており、各事業の効果や課題も多様である。
及事業が持続しない要因として、当該地域で発
このため、事業を成功させるための唯一の答え
電設備の操作やメンテナンスが適切に実施され
をみつけることは難しい。ただし、実際に普及
ていないことが、しばしば指摘されている。そ
を促している事例から、普及に向けたカギを探
の背景には、維持費用の確保が難しいことがあ
ることは可能だろう。そこで、以下では、事業
る(李・上野・杉山(2011))。例えば、太陽光
の実施国が多いアジア太平洋地域(バングラデ
発電設備は、風力発電とは異なり可動部品が少
シュ)とアフリカ地域(ケニア)で、普及を促
ないため維持費用が小さいと考えられているも
している各事例をみていく。
のの、コントローラーやバッテリーなどの部品
を定期的に交換する際に費用を要する。
(1)バングラデシュ~グラミン・シャクティ
第 3 の点について、エネルギーアクセスの確
保は、確保自体が目的ではなく、エネルギーア
1 つ目の事例が、バングラデシュのグラミ
クセスの確保により、当該国の人々の生活や健
ン・シャクティ(Grameen Shakti) 2である。
康を向上させることが目的である。実際、
グラミン・シャクティは、1996 年に同国の農村
UNDP(2011)は、エネルギーアクセスの確保
部に再生可能エネルギーを普及させることを目
のみでは貧困は解消されず、
「エネルギーアクセ
的に設立された。
スが欠如した貧困層」を、
「エネルギーが利用で
グラミン・シャクティの下で太陽光発電設備
きる貧困層」に変えるのみだと述べている。普
を導入した世帯数は、2011 年 12 月現在、75 万
及事業を実施する際には、エネルギーアクセス
5,664 世帯に上る(図表 3)。これは、2000 年
の確保により、その導入・維持に必要な費用を
の 3,583 世帯の 200 倍以上にあたる。
上回る所得をもたらす仕組み作りが不可欠であ
太陽光発電設備の導入効果として、太陽光発
る。しかし、李・上野・杉山(2011)は、小規
電による電力で充電したランプを使用すること
模な太陽光発電が生産活動に与える影響は小さ
で、夜間にも仕事を行えるようになり、当該世
いため、追加的な所得が創出されにくいことを
帯の所得が向上したことが報告されている
指摘している。
(Baura(2001))。加えて、電話が普及してい
第 4 の点について、その他の製品と同様に、
ない地域で、太陽光発電による電力で充電した
太陽光発電設備の普及についても、当該地域の
携帯電話を一時的に貸し出す事業を始めた顧客
住民の生活様式等の把握が重要となるものの、
もいると言う。
その重要性は十分に認識されていないようだ。
2
太陽光発電の普及事業が継続しない要因を、社
会 学 的 な 側 面 か ら 分 析 し て い る Garcia and
Bartolome(2010)は、欧米諸国から低所得国
3
グラミン・シャクティは、グラミン銀行のグループ企業。
グラミン銀行は、1976 年にバングラデシュで、ムハマド・
ユヌス氏により設立された。同行は、低所得者層向けに無
担保で小規模な融資を行っており、2006 年にノーベル平和
賞を受賞した。
図表3
太陽光発電設備の導入世帯数の推移
次に、アフターサービスについては、設備費
用の支払期間中は毎月、無料で設備の点検を受
(世帯)
800,000
755,664
けられることが保証されている。また、返済終
700,000
600,000
了後も年間契約を締結すると、維持管理サービ
500,000
スを受けることが可能である。加えて、太陽光
400,000
300,000
発電設備を購入した世帯が、自身で設備をメン
200,000
100,000
テナンスするための研修も実施されている。
3,583
0
2000
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
さらに、現地の人々の所得向上を図るため、
(年)
グラミン・シャクティは、グラミン・テクノロ
出所:グラミン・シャクティウェブサイトより作成
ジー・センター(Grameen Technology Center)
グラミン・シャクティの主な特徴は、第一に、
を 45 箇所程度設置している。グラミン・シャ
複数の支払パターンを設定していること、第二
クティは、このセンターで、職業機会の少ない
に、アフターサービスを充実させていること、
女性に、職業訓練を実施し、センターでコント
第三に、人材育成を進め、所得向上を支援して
ロールパネル等の周辺設備の製造を行ったり、
いることである。
女性達が地元で発電設備のメンテナンスサービ
まず、各世帯が太陽光発電設備を購入する再
ス業を営むことができるよう支援している。同
の支払いについては図表 4 に示した 4 パターン
センターで、周辺設備を製造することは、発電
が設定されている。具体的には、①頭金として
設備のコストを軽減することにも寄与している。
総額の 15%を支払い、残りを 3 年間で支払う方
式、②頭金として総額の 25%を支払い、残りを
(2)ケニア~オスラム
2 年間で支払う方式、③現金一括払いで支払う
照 明 メ ー カ ー 大 手 の オ ス ラ ム ( OSRAM)
方式となる。さらに、④設備を購入できない低
(独)と太陽電池製造大手のソーラーワールド
貧困層が電力を使用できるよう、micro-utility
(Solar World)
(独)は、 2008 年 4 月から 2010
model が導入されている。このモデルは、設備
年 10 月の間、ケニアのビクトリア湖周辺で
を購入可能な世帯が、設備を購入不可能な周辺
UMEME KWA WOTE(Energy for All)プロ
世帯に屋内配線を延長し電力を販売し、その際
ジェクトを実施した 3。このプロジェクトには、
の販売料で設備費用の半分を賄うことをいう。
ドイツに拠点を持つ国際財団であるグローバ
発電設備を購入する顧客は、頭金として総額の
ル ・ ネ イ チ ャ ー ・ フ ァ ン ド ( Global Nature
10%を支払い、残りを 42 ヶ月間で支払う。2012
Fund)が現地組織への支援を行ったほか、ドイ
年 6 月現在、1,000 台以上の太陽光発電設備が、
ツ開発公社が資金援助を行った。また、ケニア
同モデルを活用し導入されている。
図表4
の地元 NGO であるオシエナラ(Osienara)も
グラミン・シャクティの支払パターン
加わった。
①頭金として総額の 15%を支払い、残りを 3 年間で支
プロジェクトの目的は、同地域の漁師(17 万
払う。金利は 6%
5,000 人程度)が夜間の漁で活用する灯油ラン
②頭金として総額の 25%を支払い、残りを 2 年間で支
プを、太陽光発電による電力を利用するランプ
払う。金利は 4%
である「O-LAMP」に差し替えることであった。
③現金一括払いで支払う。4%の割引
灯油ランプの使用は、湖を汚染する原因となっ
④micro-utility model。頭金として総額の 10%を支払
い、残りを 42 ヶ月間で支払う。金利は 0%
3
出所:グラミン・シャクティウェブサイト
4
同プロジェクトは、2012 年 6 月現在、参加機関や実施手法
等を一部変更し、引き続き実施されている。
図表5
ており、それを源とした飲料水を飲む地元の
灯油ランプと O-LAMP のコスト等の比較
人々の健康を害する等、環境と健康に悪影響を
1 時間
与える要因として問題視されていた。加えて、
あたりの
最近の原油価格の高騰で、漁師の生活を圧迫す
総コスト
る要因ともなっていた。Mair( 2010)によれば、
(KES)
エネルギー
消費量
(kWh/h)
照度
(Lux/W)
当該地区で、各世帯の 1 週間の支出のうちエネ
灯油ランプ
10.08
1.03
0.43
ルギー費用が占める割合は、所得が低くなるほ
O-LAMP
6.25
0.007
14.3
出所:大木(2011)より作成
注:照度は、灯油ランプや O-LAMP から 50cm はなれた
場所の照度
ど大きくなっている。具体的には、所得が
5,000KES(4,500 円、1KES=0.9 円で換算)超
の世帯では、同割合が 6.4%にとどまる一方、
5.低所得国での太陽光発電の普及に向けて
所得が 1,000KES(900 円)以下の世帯では、
44%を占めている。
最後に、図表 2 に示した低所得国で太陽光発
また、ビクトリア湖周辺では、年約 2,000 万
電の普及が進まない 4 つの要因を、グラミン・
リットルの灯油が使用されており、CO2 排出量
シャクティとオスラムがどのように克服してい
は 5 万トンに上るという。
るのかを整理したい。
そこで、O-LAMP の使用により、漁師の健康
まず、①太陽光発電設備等の購入費用が高い
改善や、燃料費の削減、CO2 排出量の削減が進
という要因に対し、グラミン・シャクティは、
むことが期待されていた。
発電設備に対し、4 つの支払パターンを設定し、
UMEME KWA WOTE プロジェクトの仕組
顧客が支払いを容易に行えるように工夫してい
みは、以下の通りである。ます、プロジェクト
る。顧客は、自身の所得等を考慮し、支払方式
の実施地区の建物の屋根に、太陽発電設備を設
を選択することが可能である。さらに、オスラ
置 し た オ ス ラ ム ・ エ ナ ジ ー ・ ハ ブ ( OSRAM
ムは、照明器具等をレンタル制にすることで、
Energy Hub)を 3 箇所設立する。次に、顧客
費用負担を緩和している。
に対し、O-LAMP 等の太陽光発電による電力を
次に、②太陽光発電設備の維持管理が困難だ
利用した照明器具を貸し出す。そして、これら
という要因について、グラミン・シャクティは、
の器具をレンタルした顧客は、オスラム・エナ
無料での設備点検等のアフターサービスを充実
ジー・ハブで充電を行う。照明器具のレンタル
させている。加えて、購入者へ設備の維持管理
料は、15 ユーロ(1,530 円、1 ユーロ=102.0 円
に関する技術指導を実施することで、負担軽減
で換算)で、チャージ料は、O-LAMP の場合、
に努めている。
25KES /回(22.5 円/回)と設定されている
さらに、③所得向上の仕組みの欠如という要
(Mair(2010))。
因については、例えば、グラミン・シャクティ
図表 5 には、灯油ランプと O-LAMP の 1 時
は、女性を活用し、同機関に付属するグラミン・
間あたりの総コストやエネルギー消費量、照度
テクノロジー・センターで周辺設備を製造する
を整理した(図表 5)。例えば、1 時間あたりの
等、雇用確保に寄与している。また、オスラム
総コストは、灯油ランプの場合 10.08KES(9.7
は、従来のエネルギー費用を削減することで、
円)である一方、O-LAMP の場合 6.25KES(5.6
所得向上を促進している。
円)にとどまる。この結果、O-LAMP の利用は、
加えて、④当該地域の住民の生活様式や習慣
漁民の燃料費削減に寄与したことが報告されて
の把握不足という要因について、オスラムは、
いる。
5
地元 NGO と連携し、地域の現状に即した円滑
Vol.22, Isuues1-3
Victoria
な事業運営に努めていた。
Gomez
Montero
ただし、前述の要因のほかにも、太陽光発電
Garcia
and
Mercedes
Bartolome ( 2010 ) “Rural
の普及事業を実施する際に、留意が必要な点が
electrification systems based on renewable
ある。例えば、ホンジュラスでは、現地政府と
energy:
の連携なしに太陽光発電の普及事業を進めてい
innovative
たなか、現地政府が、突然、電力網を拡大した
Society, 32
The
social
dimensions
technology”,
of
an
Technology
in
Gerhard Mair ( 2010 ) “Sustainability And
ため、事業が継続されなかった例がある(IFC
Social Impacts Of Off-Grid Lighting”
(2007))。このように、送電網のない地域での
太陽光発電普及事業の意義は、当該国・地域の
IEA(2011)World Energy Outlook
エネルギー政策の影響を受ける。このため、事
IFC and WRI(2007)"THE NEXT 4 BILLION"
業の実施主体である国際機関や先進国、企業等
IFC (2007)“Selling Solar”
は、現地の政府関係者等と緊密な関係を築くこ
OSRAM(2008)“Annual Review 2008”
とが重要となる。
UNDP ( 2011 ) “Towards An ‘Energy Plus’
Approach For The Poor”
また、太陽光発電のバッテリー等には鉛が含
まれるため、太陽光発電の普及が進む一方、バ
Xilin Zhang and Ashok Kumar ( 2010 )
ッテリーが放棄される等、適切な処理が行われ
“Evaluating renewable energy-based rural
ない場合、鉛が溶け出し土壌が汚染されるとい
electrification program in western China:
う問題がある(国際開発高等教育機構(2010))。
Emerging problems and possible scenarios”,
従って、太陽光発電の普及事業では、普及の
Renewable and sustainable Energy Review,
15
みならず、使用済みバッテリー等のリサイクル
までを適切に行うための環境整備や人材育成が
大木博巳(2011)
『欧米企業の BOP ビジネスモ
不可欠となる。
低所得国における太陽光発電の普及支援につ
デル』、JETRO
いては、前述の様々な要因を考慮しなければな
国際開発高等教育機構(2010)「平成 21 年度
らない。今後、低所得国での太陽光発電を含む
外務省委託グローバリゼーションと国際開発
再生可能エネルギーの普及促進がさらに図られ
研究
ることが見込まれる。ただし、普及に向けては、
光発電の利用-報告書」
気候変動対策と日本の国際協力-太陽
支援を行う国際機関や先進国政府・企業には、
塚越由郁(2010)
「BOP 市場は日本企業の新た
当該国の実情に合わせたきめ細かい事業計画の
な市場となるのか~BOP ビジネスにおける 3
策定や、事業の遂行が一層求められる。
つの疑問の検討~」
(みずほ総合研究所『みず
ほ政策インサイト』)
――――(2011)
「インド企業による BOP ビジ
ネスの展開~日本企業から見た BOP ビジネ
スとの「違い」~」
(みずほ総合研究所『みず
≪参考文献≫
Dipal
C.
Barua ( 2001 ) “Strategy
ほ政策インサイト』)
for
東京大学公共政策大学院 科学技術と公共政策
Promotion and Development of Renewable
研究ユニット TECUSE 研究プロジェクト『平
Technologies in Bangladesh: Experience
成 23 年度
from Grameen Shakti”, Renewable Energy,
技術移転と国際競争力
6
エネルギー・環境分野における
研究報告書』
李 賢映・上野 貴弘(著) 、杉山 大志(監修)
(2011)『失敗した環境援助―温暖化対策と
経済発展の両立を探る』、エネルギーフォーラ
ム
JETRO(2008)
「バングラデシュ
ネルギーで農村電化を
再生可能エ
グラミン・ショクテ
ィ」ジェトロセンサー、2008 年 12 月号
みずほ総合研究所
研究開発部
社会・経済・産業アドバイザリーグループ
研究員
塚越
由郁
[email protected]
本資料は、情報提供のみを目的として作成されたものであり、法務・貿易・投資等の助言やコンサルテ
ィング等を目的とするものではありません。また、本資料は、当社が信頼できると判断した各種資料・デ
ータ等に基づき作成されておりますが、その正確性・確実性を保証するものではありません。利用者が、
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おいてご判断ください。
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