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第三部 1 既存公営住宅における環境共生手法 外皮断熱性能の強化 断熱強化の必要性 1.2 改修仕様例 2 1.1 換気設備の改修 改修前の確認事項 2.2 改修方法 3 2.1 屋根雪障害対策 3.1 設計手法 第三部 既存公営住宅における環境共生手法 1 外皮断熱性能の強化 1.1 断熱強化の必要性 昭和40年代以降、大量に供給された公営住宅ストックを建て替えのみで更新していくこ とは困難であり、既存ストックの有効活用は重要性を増しています。 既存の道営住宅の年代別ストックを見ると、 「北海道環境共生型公共賃貸住宅整備指針」が 策定され断熱水準が強化された平成 14 年以降に建設された住宅は全体の 11%ですが、国の 省エネルギー基準の変遷から見て、現在より断熱水準がかなり低い平成 3 年以前の住宅はス トック全体の 66%を占めています。こうした住宅について、防露や適切な温熱環境の確保を 図り、ストックを長く有効活用していくため、断熱改修の実施が望まれます。 断熱改修により性能向上を行う場合、防露や温熱環境の確保といった観点から、平成 25 年省エネルギー基準(以下、H25 省エネ基準)の外皮性能基準に適合させることが一つの目 安となります。 ここでは、昭和 55 年省エネ基準(平成 4 年省エネ基準に満たない)の鉄筋コンクリート 造の住宅を断熱改修して、H25 省エネ基準に適合させるための仕様例を示します。 0 ~1961 1962~1966 1967~1971 1972~1976 1977~1981 1982~1986 1987~1991 1992~1996 1997~2001 2002~2006 2007~ 1000 2000 3000 212 544 715 798 4000 5000 2917 1767 2685 2618 2753 6000 4883 3445 道営住宅の年代別ストック数(2012 年調査) 国の省エネ基準の基準値の変遷(旧Ⅰ地域) 省エネ基準 品確法温熱等級 熱損失係数(Q 値)の基準値【Ⅰ地域】 昭和 55 年基準(旧省エネ基準) 等級 2 2.8 [w/(m2K)] 平成 4 年基準(新エネ基準) 等級 3 1.8 [w/(m2K)] 平成 11 年基準(次世代省エネ基準) 等級 4 1.6 [w/(m2K)] 1.2 改修仕様例 ここでは、昭和 55 年省エネ基準を満たす壁体仕様として、以下の断熱仕様を想定します。 また、2DK(床面積:48.75m2)の住宅の面積・形状を計算例とします。 − 104 − 第三部 1 既存公営住宅における環境共生手法 断熱改修前 断熱仕様 部位 外壁 熱貫流率[W/(m2・K)] 断熱材の熱抵抗 ※ 2 [m ・K/W] 屋根 基礎 窓 ドア 0.81※ 0.70 0.47 3.49 1.0 1.2 2.1 サッシの断熱性能等級 H-3 相当 3.49 改修前は、平成 25 年省エネ基準において効果が見込める熱橋部の断熱補強を行っていないと想定しています。 外皮平均熱貫流率 住戸位置 外皮平均熱貫流率 最上階端部(①) 最上階中間部(②) 最下階端部(③) 最下階端部(④) 0.71 0.59 0.62 0.68 [W/(m2・K)] ここでは、外皮平均熱貫流率を確保しやすい中間階の住戸を省略 ① ② ① ③ ④ ③ して示します。H25 省エネ基準における 1 地域と 2 地域の外皮平 均熱貫流率の基準値は、0.46W/(m2・K)ですが、既存の断熱仕様で は、一部の住戸位置で外皮性能の基準値が達成できないため、全て の住戸で、H25 省エネ基準の外皮性能の基準値を達成できる断熱改 修を行います。 住戸位置 2 断熱改修後 H25 省エネ基準を達成するための改修方法として、外壁と窓の改修によって断熱性を高める 例を示します。 断熱改修の内容 改修手法 外壁断熱強化 断熱性能 (1)外壁: 0.81 → 0.47 の向上 (2)熱橋部の断熱補強を強化 屋根断熱強化 窓強化 (3)屋根:0.70 → 0.44 (4)窓:3.49 → 1.90 2 [W/(m ・K)] 改修内容 外壁一般部の外断熱を追加 屋根一般部の外断熱を追加 窓の入れ替え 改修 (1)押出法ポリスチレンフォー (3)硬質ウレタンフォーム (4)改修前アルミ二重サッシ単 仕様例 ム 3 種(XPS3)を 25mm 追加 保温板 2 種 1 号を 25mm 追加 板ガラスの室内側を、樹脂サ (2)熱橋部に熱抵抗 0.6m2K/W 相 ッシ Low-E ペアガラス(空気 当を 450mm 以上の範囲で断熱 層 12mm 以上)に入れ替える。 補強する。 − 105 − 第三部 既存公営住宅における環境共生手法 外皮平均熱貫流率の改善効果 住戸位置 最上階端部 最上階中間部 最下階端部 最下階端部 改修前 0.71 0.59 0.62 0.51 [外壁]断熱強化 0.57 0.50 0.46 0.39 [外壁+窓]断熱強化 0.52 0.45 0.41 0.34 [外壁+窓+屋根]断熱強化 0.45 0.38 0.41 0.34 外皮基準値を満たす。 外皮基準値を満たさない。 改修前 [外壁]断熱強化 [外壁+窓]断熱強化 [外壁+窓+屋根]断熱強化 0 20 40 60 80 [GJ] 暖房用一次エネルギー消費量※ ※札幌(2 地域)に立地、暖房機器は設置しない(石油熱源パネルヒータと同等)と想定した試算 図. 最上階端部における暖房用一次エネルギー消費量 3 改修例 豊富町営住宅における断熱改修 改修前 改修後 豊富町営住宅では、躯体全体を外断熱化及び開口部における断熱強化を行っています。 既存の状態によっては部分的な改修でもよい場合があるので、図面や現地調査などによる 既存状態の把握が重要です。 − 106 − 第三部 2 既存公営住宅における環境共生手法 換気設備の改修 換気設備の改修は、既存の第一種換気設備(熱交換型)を対象とします。既存の 24 時間 換気設備のない住戸については、改修時に 24 時間換気設備を設置しなければなりません。 その場合は、「第二部 2.1 2 換気設備設計」の設計手法を参照してください。 改修前の確認事項 以下に住宅の結露や換気設備まわりの障害の原因となっている項目を示します。各項目に 問題ないかを確認し、問題があれば対策をします。対策をしても障害が改善しなければ、換 気設備の劣化が考えられますので、2.2 の改修をする必要があります。 (障害事例については 「第二部 2.1 換気設備に関するこれまでの問題点」参照) 1 共通 □換気装置は運転しているか → 常時運転する □室内の給排気グリルは閉じていないか → 開ける □換気装置本体のフィルター、室内グリルは清掃されているか → 清掃する □屋外フード等屋外端末部材が目詰まりしていないか → 清掃する □換気装置と外気の間のダクト等経路は断熱保温されているか → 断熱保温する → 閉じる(冬季) 2 片廊下型 □冬季に共用廊下に面する居室の自然給気口は閉じているか □換気設備(装置本体、ダクト等経路)は断熱空間の内側に施工されているか → 3 可能なかぎり断熱空間の内側とする 木造平屋 □換気設備(装置本体、ダクト等経路)は断熱空間の内側に施工されているか → 断熱空間の内側にする(天井断熱の上の小屋裏空間のダクトの改修は下図) 取り除いた天井断熱材を乗せる 断熱保温 繊維系断熱材な どで覆う ダクト 断熱材(吹き込みなど) 天井の防湿気密層 住戸の熱を伝える 天井断熱の上の小屋裏を通るダクトの断熱空間内への改修 − 107 − 第三部 既存公営住宅における環境共生手法 2.2 改修方法 屋外端末部材の防虫網撤 去、清掃 グリルを低圧損・フ ィルター付に交換、 ダクト清掃 熱交換換気装置本体 の交換、ダクト清掃 改修の箇所 1 熱交換換気装置本体とその周辺 ・換気装置本体を交換します。ダクト等経路の圧力損失が大きく必要換気量に満たない場合 がありますので、従来よりも能力(風量)の大きいものとし、施工後に必要換気量となる ように本体の風量調整機能などで調整をすることが望まれます。 ・換気装置本体内のフィルターのメンテナンスがしやすいように配慮します。本体を室内に 露出する、外気からの導入(OA)ダクトの間に壁掛けフィルターボックスを入れるなどの 方法があります。天井ふところ内に設置するときは、メンテナンスができるように天井点 検口とクリアランスを確保します。(第二部 2.2「設計・施工手法」参照) ・本体交換の際、ダクト端部から可能なかぎりダクト内も清掃します。また、接続ダクトの つぶれ、急激な曲がりがあれば修復し、圧力損失(抵抗)の大きい接続部材(アルミフレ キシブルダクトなど)は交換します。 換気装置本体を取り外す − 108 − → ダクト内清掃・ → 本体設置 抵抗大の部材や破損部材の交換 第三部 2 既存公営住宅における環境共生手法 グリル ・トイレ、浴室の室内グリルを圧力損失(抵抗)が小さく、また、表面に付着したほこりが 室内から見えるフィルター付のグリルに変更します。このとき、吸込み口から可能なかぎ りダクト内も清掃します。 (ダクトの径が 75mm で径 100mm 用グリルを使用する場合 は、グリルの接続口をカットして取り付けるなどの処理が必要です。) 抵抗大、フィルタなしー 3 → 抵抗小、フィルター付※写真はフィルターなしの状態 屋外端末部材(屋外フード、ベントキャップ等) ・屋外端末部材に防虫網(メッシュ)があれば撤去します。 (ただし、清掃できる位置にあり、 定期的に清掃を行う仕組みがあれば防虫網付でも可。)このとき、ダクト端部から可能なか ぎりダクト内も清掃します。 防虫網(メッシュ)付(左:清掃前、右:清掃後) → 防虫網(メッシュ)は撤去 − 109 − 第三部 3 3.1 既存公営住宅における環境共生手法 屋根雪障害対策 設計手法 新規に建設される公営住宅では一定水準以上の断熱性能が確保されているため室内からの 漏熱による融雪は起きにくい状況ですが、既存住棟の改修などでは屋根面で融雪を起こさな いような断熱および小屋裏換気の仕様が求められます。融雪に伴う屋根雪障害(氷柱、巻き だれなど)が既に生じている場合、小屋裏換気と断熱性能の確保により屋根面で融雪を生じ させないことが必須となります。 屋根雪障害対策の設計手法については第二部に準じますが、屋根等の断熱改修が適切に行 われることを前提とします。置屋根の改修時に換気口確保のために軒を設けた場合は、雪庇 による局所荷重への配慮が必要です。また、落雪する勾配屋根に雪止め金具を取り付けた場 合、雪荷重が増すため構造への配慮が必要となります。 置屋根の屋根改修で軒を設けた例 フェンスの切れ目に形成された雪庇 設置なし 緩勾配屋根の雪止め金具の設置例 設置あり 設置後の状況 雪庇を防止するフェンスや製品の取り付けにあたっては、パラペットの高さを考慮したフ ェンス高さとし、取付け部の強度、屋根防水への影響に配慮するほか、部分的な設置は他の 箇所の雪庇をより成長させる原因ともなります。 道営旭川市春光台団地 − 110 − 道営美唄市であえーる中央公園団地