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東京湾 ―大都市圏の漁場環境保全

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東京湾 ―大都市圏の漁場環境保全
一
―大都市圏 の漁場環境保 全―
目
次
さまざ まな東京湾 ……………… ………………………‥……………1
東京湾 の環境 ………………………………………‥……………‥……3
東京湾 の漁 業 …… ……………………………………………………………5
東京湾 の漁場 環境 を守 るために ……………………………………7
豊 か な東京湾か ら豊 か な都 市 生活 へ ‥…………………… …9
田沖漁舟
江戸名所 之内永代橋イ
[月
夜]
│1広 重 /画
歌り
(東
京都江戸東京博物館所蔵〉
水産庁漁場保全課
東京都千代 田区霞が 関 1-2-1丁 e103-3502-8111内 線 5673、 Fax 03-3595-1426
(受 託者 )社 団法人 日本水産資源保護協会
東京都 中央 区豊 海町4-18東 京水産 ビル 丁e103-3534-0681、 Fax 03-3532-O195
水
産
さまざ まな東京 湾
東京湾 は、関東平野 の南 に位 置 し、特 に内湾 (富 津 ―観
音 崎以北 )域 は、湾 回がせ まい上 に奥行 きが深 く、外海 と
の水 の入 れ替 わ りが制 限 された 閉鎖性 の海域 です 。背後 に
3,000万 以上 の人 口が 集 中す る世界最大 の都市 を抱 えて いま
す。戦後 の高度経済成長期 に人 口や諸機能 が著 し く集 中 し、
東京湾 の臨海域 で は工場立 地 、港 湾・ 交通機能整備 な ど各
種 の 開発 が 急速 に進 んで きました。 一 方、昔 か ら沿 岸漁業
都 市 開発
も盛 んに行 われてお り、新鮮 な旬 の 魚介類 を私 た ちに供給
工場立 地
し「江 戸前 の魚」 として親 しまれて い ます 。
また 、近年、釣 り、潮千狩 りな ど海 の レ ク リエー シ ョン
港湾整備
も盛 んにな り、私 た ちが 、直接 東京湾 の魚介類 とふれ あ う
機会 も多 くな りました。 この ように東京湾 は、 さ まざまな
形 で利用 されて い ます 。
プ レジ ャーボ ー ト
『持続
最近 の世界 的 な環境 問題 へ の 関 心 の高 ま りの中で、
可能 な開発』 の理 念 に よる開発 と環境 との調和 を図 るこ と
が 叫 ばれて い ます 。都市部 にお ける漁場環境 の 問題 として
東京湾 を例 に考 えて い きまし ょう。東京湾 の姿 は、 日本沿
岸 に数 あ る内湾 の縮 図 なのです。
船釣 り
東 京湾 横 断道 路建設
東京 湾 の環境
東京湾 内湾 部 の底生 動物種 類数 の分布
(1981年 7∼ 8月 )
東京湾埋 立 の 変遷
資料 :国 土庁 ・環 境庁
さ らに、下層 において は、酸 素 の供給 が な い まま
東京湾 は、江戸 時代 の ころか ら埋 め立 てが進 め ら
に有機物 の分解 に伴 う溶存酸 素 の消費 が 進 み、貧酸
れて きたが 、昭和 30年 代 の後半 か ら40年 代 にいた る
素水塊 が発生 す る ようにな る と、東京湾 内湾 中央部
戦後 の高度成長期 を通 じて 、臨 海 コンビナ ー トな ど
の底 で はほ とん ど生 物 のいない状態 にな ります。
の大 規模 な造成 が急速 に進 め られ 、現在 まで に約 9
秋 回の 陸 か ら沖 へ 吹 く風 に よって 、下層 の貧酸素
割 の干 潟 が 消滅 して しまい ました。
水塊 が湾 奥 の沿岸 に引 き寄 せ られ る と、 そ こに生 息
また、 この頃 か ら急激 に富栄養化 が進行 し、夏季
す る魚介類 の へ い死 を招 きます 。 い わ ゆ る 『青潮』
には上 層 で毎年 の よ うに赤潮 が発生 す るようにな り
と呼 ばれて い る現象です 。
埋立 の推移
ました 。
明治
最近 、 COD総 量規制 等 の対策 に よ り左 図の よう
∼昭和39年 (7 000ha)
昭和40年 ∼昭f049年 (9,700ha)
lll和 50年
― 東京湾北部
O O東 京湾南部
に昭和 48年 頃 と上ヒベ て 昭和60年 頃 には徐 々 に水質 が
一昭和 59年 (5 100ha)
昭和 60年 ∼
(2,400卜
改善 されて きました。今後 は窒素や燐 を削減 して い
a)
くこ とが課題 です 。
α l O α
コ\ ´9 oミ .
.
CODの 推 移
また、航行船舶 の増加 に伴 い、油流 出事故 に よ り
― 昭 和 59∼ 61年 度 平 均
―― 昭 和 47∼ 49年 度 平 均
資料 :風 呂田利夫
沿岸 漁業 へ の影響 が発生 す るようにな りました。油
汚染 は生 物 に臭 い を着 けた り、成育 や繁殖 な どの機
― 東京湾北 部
O O東 京湾南部
)
生育条件 を悪化 させた りします。
能 阻害や死滅させたり、
^
ヨ\ ︶甲 ゅミ
Z I ●工 2
東京湾 におけ る窒素・燐 の 経 年変化 (表 層 水 )
式験 場 富津分 場調 査資料
資料 :千 葉 県水産言
(S49は 欠測 )
(窒 素
青潮 で へ い死
した魚類
赤 潮 プ ラ ン ク トン
東京湾 の 赤潮
静
扁
ヤ
ル
リ
′
ニメ
油汚 染 されたの り網
東京湾 の漁 業
こ︱キー
1.東 京 内湾 漁 業 の変 遷
明治期 の東京湾 の漁場 図 をみ る と、湾 全域 の沿 岸
2.現 在 の主 な 東 京 湾 内湾 漁 業 と魚 介 類
現在 の東京湾 内湾漁業 は、採貝、 まき網、小型底 び き網漁業 が 中心 で 、東京湾 内湾漁獲量 の約 8割 を占め ます 。
また、千葉 県沿岸 にお いて は、 の り養 殖 が盛 んに行 われて い ます 。
部 に干潟 が発達 しアサ リ、 ハ マ グ リ、 シオ フキ等の
①採貝漁業
貝類漁場 にな って い ます 。 さ らに、沖 に向 って いか
巣 、 えび打網及 び桁網、 あか が い桁網 、 さわ ら流網
大森
「 じよれ ん 」と呼 ばれ る爪 の 付 いた 金 属
羽根
製 の 駕 に柄 をつ けた道 具 で海底 を さ らっ
な ど多種多様 な漁 業 が盛 ん に行 われて いた ことを伺
て漁獲 します 。 アサ リ、 バ カ ガイが 中心
わせ ます 。
で 、東 京湾 内湾 で 最 も多 く漁獲 され漁獲
東京湾 内湾 の漁獲量 の変遷 をみ る と、昭和 40年 頃
量 の 約 6割 を占め 、千 潟 が 主要 な漁 場 に
は総漁獲 量 で 10万 トン程度 の漁獲 が あ ったが 、環境
アサ リ
な って い ます 。
の悪 化 が 深刻化 して きた40年 代前半 か ら急速 に減少
しました。特 に、 エ ビ・ カ ニ な どの 甲殻類 、 イカ・
マイ ワシ
タ コな どの頭足類 の減少 が めだ ち ます 。
また、昭和 30∼ 40年 代 の高度成長期 に消失 した漁
注 )水 深 :曲 尺 五尺 を一 尋 とす る
業権漁場 は、 25,000ha以 上 に も達 します 。
スズキ
最近 の総漁獲 量 は、 4万 トン前後 と昭和 40年 頃 の
② まき網漁業
あぐり網 とも呼ばれ、東京湾では 2そ うのまき網船で魚群を巻
約 1/3を 推移 して い ますが 、東京大学農学部 清水誠教
資料 :東 京湾 漁場 図 (明 治 4年 農商務 省発行 )よ り作 成
授 の試験底 び き網調査 に よる と、最近 、環境 悪化 の
いて漁獲 します 。主 に マ イ ワシや スズ キ 等 を漁獲 して い ます 。
著 しか った 内湾北部海域 にお いて、魚介類 の穏 やか
な回復傾 向 が うかがわれ ます 。
コノシ ロ
東京湾 内湾 にお け る漁獲 量 の 経 年変化
資料 :清 水誠 資料 よ り作 成
日
召不口52
(万 トン )
53 54 55 56 57 58 59 60 61(年
)
10
最近 の 東京 湾 内湾 北
部 水域 にお け る魚介
類 の経 年変化
(試 験 底 び き網調 査 )
資料 :清 水 誠
(百 トン )
(総 漁 獲 量 )
18
16
8
6
4
カ タ コ類
イ カ ・タ コ類 漁 獲 量
10
③小型底びき網漁業
ヤコ
動 力漁船 で底 び き網 を使 用 して海底 を曳 く漁 法 で 、主 に カ レ イ
類 、 コノシ ロ、 シ ャ コ等 を漁獲 して い ます 。
14
12
マ コ ガ レイ
⑤の り養殖
東京湾 のの り養 殖 は、す で に約 300年 前
か ら行 わ れ て お り、戦後 か ら昭和 30年 代 に
か けて全 国一 の生 産 をほ こ って い ま した。
その後 、埋 め立 て に よ って 養殖 漁 場 が 減 少
して き ま したが 、生産 者 の 努 力 に よ り、現
在 、ほぼ 4億 枚 前 後 とわ が国 有 数 の生 産 地
)
2
平成
2
を維 持 して い ます 。
東京湾 の漁場 環境 を守 るために
2.海 や 渚 を きれ い に し ま し ょ う
1.自 然 の 持 つ 機 能 を生 か し ま し ょ う
干 潟 は、 さまざ まな生 物 が生息 し、魚介類
│,000k9/m
浜辺 の環境汚染 が 深刻化 して い ます 。
の保育場 として重要 な働 きを して い ます 。 さ
「 (社 )海 と渚 の環境美化推進機構 」
そのた め、
らに、 それ らの生 物 に よって 海水 の浄 化 も行
細⇒
少 な く浄化力 も劣 って しまい ます 。 また、造
リ
人工海浜 は、 自然 の干 潟 に較 べ て生 物量 が
I
入す る量 の それ ぞれ 1/60と 1/20に あた ります。
い
望
実
婁Z
甲殻類
F
る と試算 して い ます 。 1日 に東京湾全体 に流
t
チッソ約 5ト ン、 リンで約 1.5ト ンが処理 されて い
谷
津干潟]璽
5両 /謂
0
l
にお ける水質浄化力調査 で は、夏 の 1日 で は
「
﹁
二 番瀬 (江 戸川河 口に広 が る干 潟 :面 積 12km21
小櫃川河 口千潟
(前 浜砂質域 )
記 渚圃
腹足類
多毛類
(マ
︱ ︱ ︱ ︱ ︱ ︱ ︱ ∃
われて い るのです 。水産庁 中央水産研 究所 の
切 に保 全 して い きまし ょう。干 潟 は、 まさに
リンブル ー21)及 び都道府 県海 と渚環境美
「海 と渚 の環境
化推進委員会 が主 体 とな って 、
美化運動」 を全 国的 な運 動 として展 開す る と
ともに「海 の羽根基金」活動 を行 って い ます 。
さ らに、 7月 20日 か ら31日 まで を、海 の羽
根 募金強化旬 間 として全 国統 一 した募金活動
を積極 的 に推 し進 めて い ます 。
干潟と人工海浜の生物(ベ ントス)の 現存量(湿 重量kg/海 岸 Im幅 )
募金 に よって集 め られた貴 重 な浄財 は、海
と渚 の環境美化運動 の推進 のた めの経費 とし
成 す るた めには莫大 の費用 と労力 が必 要 とな
ります 。現在 、残 されて い る貴重 な干 潟 は大
近年、各種 の廃棄物や ゴ ミな どに よって海 や
て使用 され ます 。
資 料 :風 呂 田利 夫
ウ
生 物 の保育場 で あ る とともに 自然 の貴重 な高
次下水処理施設 とい え ます 。
また、千 潟 の保全 は、 ラム サ ール条約 で も
注 目 されて い ます 。
アサ リ
ゴヵィ
力 二類
漁 場 油 濁 救 済 制 度 の し くみ
…
_婆
補助・ 拠出等関係
関係
鳴 鎌
3.海 に油 を流 さ な い よ う に し ま し ょう
月
合舟自な どか ら油 を海 になが さない ように し
嚇
(基 金造成費拠出)
まし ょう。
もし、油 の流 出 に伴 う漁業被 害 をうけた ら、
その原 因者 が 損害賠償 を行 うのは当然 で すが 、
原因者不 明 の漁業被 害 につ いて は、財 団法人
「漁場油濁被 害救済基金 」 が救済金 の支給及
び防 除費 の支 弁 を行 う制度 が確立 されてい ま
す。
豊 か な東京湾 か ら豊 か な都
大都市 圏 に生 活 して い る人 々 は、昔 か ら、東京湾
と直接 あ るい は間接 的 に係 わ りを もって生活 して き
ました。 これか らも、 この包容力 のあ る東京湾 と係
わ って生 活 して い くためには、 この東京湾 を豊 か な
漁場環境 に して い く必 要が あ ります。
一度失 われた 自然 の機能 を回復 して い くた めには大
変 な労力 と時 間 がかか ります。
しか し、 みんなで協力 して 東京湾 をか けが えの な
い豊 か な くらしの海 として 、子 々孫 々 にわた ってひ
きつい で い くこ とが 、現在 、 この大都市 圏 に生 活 し
て い る人 々 の使命 で もあ るので はな い で し ょうか 。
みんなで力を合わせて
大切な海を守りましょう
生活 へ
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