...

金型加工の高速・高精度化を支援する 門形マシニングセンタ

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

金型加工の高速・高精度化を支援する 門形マシニングセンタ
「最近の工作機械動向」
金型加工の高速・高精度化を支援する
門形マシニングセンタ
オークマ ㈱ 若 岡 俊 介
金型加工機用に開発した門形マシニングセンター MCR−H(Hyper)について、機械の主特徴を紹介する。特に
駆動系をリニアーモータ化したことによる効果と、環境温度変化に伴う熱変位についての新技術とその効果を記
述する。
1.はじめに
種 MCR−H(Hyper)を発表した(写真 1)。従来機種
MCR−BⅡに対して、更に信頼性を高め、高精度で高
近年の一時期、自動車プレス金型製作の仕事も中国・
能率を志向した。先のデジタルマイスタープロジェク
東南アジアへ出て行くとの話があったが、結局は大半
トでは従来とは異なった門枠構造の新技術検証機を試
が日本に戻って来ている。理由は最終的な製品を完成
作し、加工を含めて色々な角度から新技術の検討を
させるには、現状の技術レベルでは人間の最終調整が
行った(商品化には至らなかったが)。この中で得ら
必要であり、作りこむにはそれなりに人と技術の投資
が必要となり、海外の安い人件費だけではカバーでき
なかったからと言われている。同レベルまで作りこむ
には日本で行った方が、確実で納期も読めることもあっ
てトータルコスト的にも有利と判断されたからと言え
よう。しかしながら、日本車製造のグローバル化は、
世界全体の経済バランスから見ても必然であり、新車
種といえども世界同時立上げが必要となってきている。
このためには、日本で予め製品レベルまで作りこん
で確認したものを世界各地で同時生産して行かざるを
得ない。すなわち、同じ加工機で同時生産して同じラ
イン構成で同時組立していくことが必要となってく
る。現地生産は人の教育や熟練技能等のインフラの問
題など沢山の解決すべき課題があるにしても加工機は
国内と同レベルの物が必要となってくる。当然、使用
環境が異なろうと、ユーザーからは同じ加工レベルが
要求される。海外では職人達の加工ノウハウ、こだわ
りのメンテナンス、気配りは殆んど期待できない。し
たがって、より安定した高精度・高能率でしかも、高
信頼性な機械が要求される。同じ仕様の加工機であれ
ば、同じ加工部品の QCD が要求される。金型加工と
て同じことが要求される。
工作機械メーカーに対してユーザーである型加工
メーカーの期待は大きい。弊社としても、このような
高度なニーズに応えるべく、昨年の JIMTOF では新機
写真 1 MCR−H 概観
表 1 MCR−H の主要スペック
機 種
称 呼
有効門幅
X 軸移動量(テーブル)
Y 軸移動量(主軸頭)
Z 軸移動量(主軸ラム)
W 軸移動量
テーブルの大きさ
テーブルの最大積載質量
主軸回転速度(標準ヘッド)
主軸回転速度(高速ヘッド)
主軸用電動機(標準ヘッド)
早送り速度
切削送り速度
ATC 工具収納本数
機械の高さ
所要床面の大きさ
mm
mm
mm
mm
mm
mm
kg
min-1
min-1
kW
m/min
m/min
本
mm
mm
MCR−H
25 × 40
2,550
4,000
3,200
800
1,000
2,000 × 4,100
22,000
8,000(BT.50)
30,000(HSK−F63)
26/22(30 分 / 連続)
X・Y30, Z15
X・Y30, Z15
50
約 7,000
約 7,850 × 11,000
最近の工作機械動向
れた知識、技術や反省を元に新たに最適な設計を行う
ことで、従来機を進化させた新機種として開発にこぎ
つけることができた。表 1 にこの新機種の主要スペッ
クを示す。
以下、主特徴である高速化技術と高精度化技術につ
いて述べてみたい。
2.機械の構成と特徴
2.1 高速化技術
金型加工の高速化は近年著しく進歩したが、これに
は数多くの周辺技術の進歩がベースになっている。こ
図 2 自社開発リニアモータ
れら諸々の技術詳細は別にして今回弊社が新しい門形
MC に適用した技術を紹介する。
(1)リニアモータの適用
ボールネジ駆動方式であった従来機に対して、リニ
アモータを新しく採用した。一般に高速・高精度加工
実現には駆動系はダイレクトドライブの方が適して
いる。
これについては先に述べたデジタルマイスタ−機で
適用したリニアモータの経験から、門形 MC に適した
弊社独自のリニアモータを新たに開発した。従来のリ
図 3 X 軸リニアモータスライダの配置
ニアモータは、ステータ側に永久磁石を設けているの
で磁石個数は膨大となる(自動車プレス金型の中には
長手が大きくなるものも数多く、最近はテーブル長さ
向に垂直に働く磁気吸引力を相殺し、不必要な磁気力
が 5 m 前後必要となってくるため、ステータを取付け
による機械精度への影響を抑制できた(図 1、図 2 参
るベッド側には高価な永久磁石が多量に張付けられる
照)。
ことになる)。当然、価格アップとなるし、組立時は
重量物を載せて高速移動を行うテーブルには 2 個
大量の磁石に対する配慮が必要となってくる。今回、
直列したスライダを 4 台のドライブユニットで同期
スライダ側に永久磁石を配置した新しい技術開発を行
運転させることによって、最大 44 KN の推力を確保し
なって磁石の個数削減を図った。また、ベッド上のス
た(図 3)
。
テータを対向配置することによってスライダの送り方
(2)リニアモータ適用の効果
上記技術をベースにしたリニアモータ駆動方式から、
① 軸反転に伴う象限突起による加工目不具合の回避
② 回転モータからボールネジを介して軸加減速する
時に発生する駆動系たわみによる微小な追従遅れ
の回避
が可能となった。このことは加減速変化の激しい形状
急変部に発生し易い通称タタミ目の発生を抑制でき、
加工面品位向上を図ることができる。
また、頻繁な繰返し軸移動が行われてもボールネジ
を使用しないので、
③ 熱膨張による駆動系の制限を回避
④ 長いボールネジの「高速回転時の危険速度」の問題
図 1 一般的なリニアモータ
回避
ができる。
当な余裕がない限り、設置することも、維持していく
これらのことから、安定した高速・高精度化を容易
ことも難しい。
に図ることができるようになった。
一方、型の高精度化対応は他国との差別化を図って
2.2 高精度化技術(熱変位)
いく上で日本の型メーカーにとって必須となってきて
(1)これまで
いる。こうした中、高まるユーザーニーズへの対応と
昨今の機械はカタログからでもお分かりのように、
して行ってきたのが、「コラム前後の温度差による」
機械の精度は著しく向上している。工作機械メーカー
傾きの抑制技術である。コラム前側(案内面と主軸頭
側の作りこみ技術による精度アップと周辺技術の進歩
の載ったクロスレールがあって鋳物重量は大きい)と
の効果である。にもかかわらず、ユーザーは相変わら
比べて後ろ側の方が熱容量は小さい。このため、室温
ず型合わせに苦労されている。スペック上の精度が出
が変化すると、後ろ側の方が敏感に熱伸縮してバイメ
ているのなら、もっと容易に型合わせができても良い
タル効果でコラムは前後の傾きが発生する(図 4)。
はずのものが、なかなか達成されていない。型に対し
これに対して、
て年々厳しい精度要求がされていることや、磨きレス
① コラム周りに断熱材を貼付
を目指して加工目筋を残した僅かな磨きしか許さなく
② 前後の温度変化を均一化するようにコラム後部を温
なった(設計形状を崩さず諸々の問題点の有無を浮き
彫り化させたい自動車メーカーの意志)ことも一因に
度制御(コラム冷却)
といった方法を採用してきた(図 5)。
ある。しかしながら、型加工において精度的に一番問
題になるのは熱変位である。高速化するにつれて主軸
系、駆動系の発熱は急激に増加する。また、加工時に
は切粉、切削液による温度変化も発生する。そして、
何よりもまして加工時間の長い型加工においては、一
日の室温変化に伴う熱変位誤差は静的機械精度と比べ
て意外に大きい。変化するものが室温という自然相手
であるだけに、再現性がなく解析して行くことは非常
に難しい。場合によっては数日間も機械上での加工と
なる型加工において精度は更に曖昧化されてしまう。
図 4 コラム前後の倒れ模式図
結局、熱変位と加工誤差とが複雑に合わさってしまい、
最後は加工した型の現物合わせという形で対処してい
くしかなかった。
(2)工作機械メーカーの最近の取組み
熱変位の課題に対して工作機械メーカー技術者は何
十年となく際限ない挑戦を繰り返してきた。ここにき
てようやく、解決の目処が多少ついてきたと言えよう。
数年前から小形の旋盤・MC に対して解決の糸口がつ
いてきたのである
1)
,2)
。
ほぼ、同時期に先陣を切った 2 社の解決手法技術は
異なるものの、同じ課題への商品化技術であったと思
図 5 コラム温度制御仕様
う。今では何社もの工作機械メーカーがこの先端技術
この効果は大きく、従来の 1/3 までコラム傾きを抑
への追従を試みている。
制することができている。
(3)弊社門形 MC への取組み
しかしながら、これらの技術はコストアップとなり、
熱膨張が機械の大きさに比例することもあって門形
3)
後者の場合は温度制御装置の維持費が相当かかること
MC の熱変位誤差は意外に大きい 。
もあってユーザーの負担は大きかった。
恒温室に加工機を設置すれば解決するものの、数 m
(4)弊社門形の新しい試み
もの高さになる門形 MC を入れる恒温室は資金力に相
これらの問題に対して、コストと性能の両立を目
最近の工作機械動向
指して熱対称コラムを採用した。室温が変化してもコ
ラム前後の温度変化の平衡が保たれるような構造を採
用した。結果はコラム温度制御法とほぼ同等な結果を
得ることができた。更に、コラムの傾きが抑制できた
状態でコラムとテーブル位置による熱変位補償を行っ
た。従来の小形 MC では問題とならなかったテーブル
の熱膨張はテーブルサイズが大きくなると必然的に
大きくなり、熱変位として現れる。これについては
2
TAS−C (テーブル加工位置を考慮した熱変位補償技
写真 2 エンジンフードインナー金型の加工面
術)の技術を適用した。これによってテーブルサイズ
表 2 加工時間比較
が大きくなっても誤差を最小限に抑制することができ
る。これらの総合効果で熱変位誤差は従来の 1/5 まで
抑制することができた。図 6 はテーブル周囲 4 箇所と
中央の計 5 箇所の X 方向熱変位を示す。3.5 日間のデー
タは、途中休日を挟んでおり工場内暖房の切入が含ま
れる。急激な室温変化 11.2℃は暖房が入った直後に発
生しているが、このような環境下でも熱変位は小さく、
その効果がお分かりいただけよう。
加工時間
MCR−H
MCR−BⅡ
4 時間 30 分
9 時間 15 分
8.0 m/min
3.9 m/min
1/2.1
1
平均切削送り速度
加工時間比
表 3 加工条件
項目
データ
送り軸
X・Y 軸
アタッチメント
ユニバーサルインデックスヘッド
主軸回転速度
30,000 min-1
最大送り速度
30 m/min
工具
φ30 ボールエンドミル
チップ
CBN
切込み
0.1 mm
ピック
0.7 mm
ないため、平均送り速度は思ったほど上がらない。実
際、型を載せたテーブルは 10,000 kg を超えた質量と
なってしまう。このテーブルがミクロン単位の精度を
確保しながら高速で移動するということは巨体の相撲
取りが高速で野球ベースを回ろうとするようなもの
で、ベースを踏まずに近回りをすれば当然アウトと
図 6 室温変化 11.2℃の X 方向熱変位
3.加工評価について
なってしまうし、オーバーランすれば、加工食込みと
なってこれもアウトになるといったことをイメージす
れば理解し易い。現実の加工目でいえば往復加工に
よって凹凸の急変部で発生し易いタタミ目はベースを
仕上げ加工時間 1/2 を志向した機械として開発を行
時計方向/反時計方向に旋回した時の近回り誤差の結
い、上述のように高速化と高精度化を両立させること
果といえる。面品位を上げてきた今日、自動車プレス
ができた。昨年の JIMTOF では自動車のエンジンフー
インナー型のカスプハイトは数 m で行われているこ
ドインナー型の加工展示(写真 2)を行い、従来の加
とが多くなっている。従って僅か
工時間に対して 1/2 の加工(表 2)をアピールした。
えども面品位の劣化につながることはお分かりいただ
加工条件は表 3 に示す。
けよう。新しい機械は上述の高速化技術によって高精
一般にインナー型は形状部の大半が凹凸となるた
度化も両立させた。それにも増して期待の大きいのは
め、滑らか形状のアウター型と違って送り速度を上げ
熱変位の抑制効果である。型加工ユーザーにとって形
るだけでは加工時間短縮は難しい。凹凸の形状精度を
状面のツナギ段差は一番回避したい課題である。これ
確保するためには制御的に自動加減速をかけざるを得
らの技術をもってユーザーの期待にある程度までお応
m 単位の誤差とい
えできると確信している。
チングには人間の微妙な調整がまだまだ必要とされて
誌面では型加工に限定して述べたが、MCR−BⅡと
いる。これらのさじ加減も近い将来には技術的に解明
同様にアタッチメントを自動交換することができ、一
され、設計に遡って反映されていくことになると思う。
般部品加工においても荒加工から仕上げまでその能力
しかし、これらの解決過程は大事に伝承して行きたい
を発揮できる機械であることを付け加えておきたい。
ものである。技術が進歩する限り、機械にしても、加
4.おわりに
工にしても、組立調整にしても手法が確立された時点
から陳腐化が始まる。次の世代の人達が先輩達の解決
MCR−H は高信頼性、高精度、高能率を志向して新
過程を参考に新たな技術課題に果敢に取組んで物作り
しい技術を取り込んだ機械と言えよう。しかし、その
日本を更に成長させていただけることを願っている。
評価を最終的に下すのはユーザーである。独りよがり
の技術ではないと思いつつも、これから使われるユー
参考文献
ザーの声に不安と楽しみが交錯する。一般ユーザーが
1 )若岡俊介:金型加工を指向した技術開発,型技術ワーク
あまり意識してこなかった室温変化に伴う熱変位誤差
は大幅に向上している。大型機であるだけに、この効
果は極めて大きい。高速化と安定した精度を確保する
ために開発した自社製のリニアモータの機能とを合わ
せ持って、より緻密で精密な型加工が期待できる。型
の同時生産に向けての一歩に寄与できれば幸いである。
最後に団塊世代の技術者の一人として個人的な思い
を述べたい。物づくりのグローバル化が必然と言うも
のの、一方で根幹技術は日本に残して欲しい気持ちは
非常に強い。金型は加工機だけで手放しでできるもの
ではないし、製品の材料特性、金型、プレス機とのマッ
ショップ 2001 論文集,型技術協会(2001),P50
2 )鈴木信吾:工場環境温度に配慮した高速高精度金型加
工機,型技術ワークショップ 2001 論文集,型技術協会
(2001),P52
3 )三矢善之,丹羽誠二:大物プレス金型機械加工におけ
る加工機の熱変位と金型精度について,型技術者会議
2003 講演論文集,型技術協会(2003),P168
オークマ株式会社 加工技術開発センター
http://www.okuma.co.jp/
〒480−0193 愛知県丹羽郡大口町下小口 5−25−1
TEL 0587−95−9036 FAX 0587−95−7959
Fly UP