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熱中症 - 富田薬品

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熱中症 - 富田薬品
あじさい Vol.14,No4,2005
Aug.2005 Vol.14 No.4
★特集
夏に起こりやすい疾患
『熱中症』
要旨:暑さによる病気は、一般には熱射病(日射病)として認識されていますが、医学的には熱中症と総
称されます。安岡らによる分類では、熱中症(
暑熱障害)はⅢ∼Ⅰ度という、数値による重症度評価がなされて
います。熱中症の治療の原則は、熱中症を予防することであり、休息、冷却、水分補給が基本となります。熱中
症の病態と治療の基本は、①Ⅰ度(熱痙攣):身体を冷やしながら水分(できれば生理的食塩水)
を補給する、
②Ⅱ度(
熱疲労)
:
涼しい場所で休ませ、さらに水分(
0.2%程度の食塩水、糖分を加えると効果的)
をとらせる、③
Ⅲ度(
熱射病)
:
生命予後に関係するため医師(
緊急処置が実施できる施設)
の診察を受けることです。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
◎はじめに
◎体液区分 1)
従来、我が国における熱中症は 1960 年代に労働
現場で多く発生していましたが、労働基準の策定等
によりその数は減少しています。代わって近年にお
いては、スポーツ活動に伴う発症例、自動車内での
事故等がみられます。
晴 天 の場 合 には、輻射 の影 響 により外 気 温が
27℃くらいであっても、窓を閉めた条件下では短時
間で車内温度は上昇し、65℃近くまでにもなるといわ
れています。このような場合、大人であっても数時間
で体温の上昇がみられます。乳幼児の体温調節機
能は大人に比べ未発達であり、周りの温熱条件の影
響を受け熱中症に陥りやすいといわれています。
輻射の強い時であれば、春、秋であっても熱中症
の発症がみられます。
さらに高齢化社会に伴い、老年者の熱中症患者の
増加も軽視できないものとなっています。
今回のあじさいでは、熱中症の適切な判断、予防
策、治療についてまとめてみたいと思います。
私たちの体の約 60%は水分であり、残りの 40%が
蛋白質、脂質、無機質などの固形成分から構成され
ています。このからだの中の水分を「
体液」
といいます。
体液量は、年齢、性別、脂肪量などにより変化します。
一般に小児で水分量が多く、体重の 70∼80%を占
めていますが、高齢者や皮下脂肪の多い女性では
その割合が約 50%と少なくなっています。
体液は、細胞膜を介して「細胞内液」と「細胞外液」
に大別されます。更に、「細胞外液」は、毛細血管を
介して「
組織間液」
と「
血漿」
に分けれます。
体液は、細胞内液に 40%、組織間液に 15%、血漿
に 5%分布しています。(図1参照)
細胞内液が細胞外液の 2 倍あることは重要な意味が
あり、細胞外液が減少した時にも、細胞内液が細胞
外に移動して補うリザーバーとしての役割を果たして
います。
細胞内液はエネルギー産生や蛋白合成など、代
謝反応に関係しています。細胞外液は循環血液量を
維持し、栄養素や酸素を細胞へ運搬したり、老廃物
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あじさい Vol.14,No.4,2005
や炭酸ガスを細胞外に運び出す役割を果たしていま
す。
表1 体液の電解質組成
mEq/L
図1 体液区分とその役割
陽
イ
オ
ン
細胞外液
細胞内液
細胞間液
15%
40%
血漿
5%
老廃物
炭酸ガス
細胞膜
Na+
K+
Ca+
+
Mg
計
細胞外液
細胞間液
142
4
5
3
154
103
27
2
1
5
16
154
ClHCO3陰 HPO42イ
2オ SO4
ン 有機酸
蛋白質
計
栄養素
酸素
エネルギー産
生蛋白合成
血漿
細胞内液
144
4
2.5
1.5
152
114
30
2
1
5
0
152
15
150
2
27
194
1
10
100
20
63
194
◎暑さによる病気 2)
毛細血管壁
◎ 体液の電解質組成
細胞内液には、K(
カリウム)
や HPO4(
リン酸)イオ
ンが多く、細胞外液では Na(
ナトリウム)
や Cl(
クロー
ル)イオンが主な電解質です。(表1参照)体液の電
解質組成が細胞内と外で著しく異なるのは、細胞を
包んでいる細胞膜が電解質の移動を制御しているた
めです。細胞膜は水は自由に通しますが、電解質な
どは殆どの物質の出入りを制御しています。また、毛
細血管壁は、水・電解質・アミノ酸のような低分子物
質は自由に通しますが、血漿蛋白(アルブミンなど)
のような高分子物質は通しません。そのため、蛋白質
が血管に留まり、この血漿蛋白により血管内に水分
が保持されます。
ナトリウムは、約 55%が細胞外液中に存在し、体液
の浸透圧及び細胞外液量の調節に最も重要な働き
をしている電解質です。
血漿浸透圧の約 90%はナトリウムによって規定され
ており、ナトリウムの濃度に応じて細胞外液量を変化
させます。そのため、水とナトリウムを切り離して考え
ることはできません。ナトリウムを失うと水も一緒に失
われます。
暑さによる病気は、一般には「
熱射病」として認識さ
れていますが、医学的には「熱中症」と総称される熱
射病を含んだ暑熱による身体異常から、単なる脱水
症まで幅広く存在します。胃腸症状を主とする夏ばて
も環境から起こる病態ですが、これらは湿気による影
響が大きいとされています。(表2参照)
熱中症とは、読んで字のごとく、「熱に中(あた)る」
という意味。体の中と外の「暑さ」によって引き起こさ
れ、体液・電解質喪失と体温調節機構の破綻した状
態で、全身の臓器の機能不全に至るまでの、連続的
な病態です。
また、脱水は気軽に考えがちですが、血液濃縮を
引き起こし脳梗塞や心筋梗塞などの虚血性疾患の
原因になることがあり、高齢者では特に気をつけなけ
ればなりません。実際に脳梗塞は夏に多くなる傾向
があることが知られています。
表2 暑さによる疾患と諸症状
病名
病態
熱射病
heat exhaustion
熱疲労
暑熱環境による身体障害 heat cramp
熱中症 (熱射病や日射病を含
heat syncope
む)
脱水
発汗による水分消失
湿度による胃腸障害や
夏バテ
自律神経障害
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症状(ICD10分類) 通用日本語名
heat stroke
熱痙攣
熱失神
heat fatigue
熱衰弱
heat oedema
熱浮腫
血液濃縮/血栓症
循環血液量低下/血圧低下
食欲低下、だるさ
あじさい Vol.14,No4,2005
1.水分欠乏型脱水
◎脱水 2)3)11)
体 の水 分 は 普 通 に生 活 していても、毎 日 、約
炎天下で発汗が亢進している場合、高熱が持続
している場合、高熱が持続しているのに水分が補
2400ml(冬)∼3000ml(夏)もの量が消費されてい
ます。普段の食事や飲料水などで約 2500ml ほどの
水分は補給されていますが、夏場や運動時、発熱時
などは水分の消費が激しくなります。体に水分補給
給されない時、あるいは口渇感が欠如した病態や
意識不明で飲水が不能の場合に不適切な輸液が
なされた時などで発生します。このような状況下で
は、細胞外液のうち水分が欠乏するので浸透圧は
が間に合わなくなるといわゆる「脱水症状」が現れま
す。過度の脱水症状はショック状態となり危険ですの
で、その時々に効果的な水分補給が大切なのです。
脱水は種々の要因で起こりますが、水分と電解質
のどちらかが多く失われたかによって、水分欠乏型脱
上昇し、その結果、細胞内の水は細胞外へ移動し
ます。高浸透圧血症は口渇を、循環血漿量の減少
は血圧低下や頭痛などをもたらします。細胞内液
量および外液量はともに絶対的な欠乏状態にある
ので、抗利尿ホルモン(ADH)が作用して尿は濃
水(
高張性脱水)
と Na 欠乏型脱水(
低張性脱水)
に
大別されます。また、水分欠乏型脱水(
高張性脱水)
とNa 欠乏型脱水(
低張性脱水)
が混合した場合を混
合性脱水(水分と塩分の両者が欠乏)と呼び、この型
が臨床的に最もよく見られます。(
表3参照)
水分欠乏
型脱水では、循環血液量の減少よりも血漿浸透圧の
上昇による口渇や尿量の減少などを呈します。Na 欠
乏型脱水では、循環血液量の減少による血圧低下
のため、頭痛やめまい、吐き気、立ちくらみなどの循
環器症状がみられます。
縮し、尿量は減少します。このようにして細胞外液
の浸透圧は正常の方向へ移動するという調節機構
が働きます。
図3
体液が徐々になくなる → からだ全体の水分が喪失
細胞内まで水を補充できる
低張電解質液 を投与
正常レベル
表3 脱水
水分欠乏性脱水
Na欠乏性脱水
細胞外液量
↓
↓↓
細胞内液量
↓
↑
血漿浸透圧
↑
↓
細胞内液
血清Na濃度
↑
↓
水分の移動
細胞内→細胞外
細胞内←細胞外
症状
治療
○のどの渇き
○頭痛
○尿量の減少
○悪心・嘔吐
2.Na 欠乏型脱水
○不安・興奮
○立ちくらみ
(低張電解質輸液)
3号液(維持液)
5%ブドウ糖液
500mL/hr
(細胞外液補充液)
乳酸(酢酸)
リンゲル液
生理食塩液
500mL/hr
Na をはじめ電解質の摂取量の不足を来すような
疾病や病態の存在、嘔吐、下痢や利尿薬、あるい
は尿細管機能異常に基づくNa などの尿中への異
常喪失、その他、体液の喪失時に、電解質を含ま
ない水分のみを過剰に投与された場合などに生じ
ます。細胞外液からナトリウムが喪失すると低緊張
性になるので、水は細胞外から細胞内へ移動しま
す。この状態が持続すると ADH の分泌が抑制さ
れることにより腎から水の排泄が促され、体液の浸
透圧を正常に引き戻す方向に働きます。その結果、
ますます細胞外液量の不足を助長し、循環不全と
細胞内溢水による中枢神経症状を引き起こします。
この場合には口渇あるいは口腔粘膜などの乾燥は
殆ど現れません。軽症では全身倦怠感、食欲不振、
表4 脱水の程度と症状
所見
体重減少 成人
(
%)
小児
意識障害
軽症
中等症
重症
3%
6%
9%
5%
10%
15%
軽度
嗜眠・
興奮
昏睡
血圧
正常
低下
高度低下
脈拍
正常
増加
高度増加
ショック
軽度低下
低下
高度低下
軽度
中等症
循環障害
皮膚の緊張
粘膜の乾燥
尿量(
mL/日)
細胞外液
減少(<500) 乏尿(<100)
高度
無尿(《
100)
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あじさい Vol.14,No.4,2005
めまい、頭痛など、欠乏の程度が進行すると脱力、
嘔吐、さらには無欲状態や昏睡に陥り、皮膚の緊
張は低下、血圧が低下して放置すれば死に至りま
2.Ⅱ度(熱疲労)
す。
的本体ですが、熱痙攣は筋攣縮が主体であるのに
比べてバイタルサインの異常を伴うものです。一般に
日射病と呼ばれるもので、深部体温は上昇すること
が多いのですが、40℃以下であり、体温調節中枢は
図4
体液が急になくなり → 主に細胞外液が喪失
細胞外液を補充するため
等張電解質液 を投与
正常レベル
細胞内液
細胞外液
◎熱中症の分類 2)6)8)
熱中症の分類は医学的にも混迷している状況にあ
ります。医療関係者でも、暑さによる障害を「日射病」
または「熱射病」として一義的に扱ってしまい、緊急
性の判断を難しくさせ、手当や診断に影響を及ぼし
ていると考えられています。
様々な病名が統一されずに使用されている中、安
岡らは、熱中症(暑熱障害)のⅢ∼Ⅰ度という、数値
による重症度評価を提案し、病名に惑わされない病
態表現を試みています。(
表5、6参照)
1.Ⅲ度(熱射病)
熱射病は最も重篤な熱性障害で、突然、発汗が停
止し、うつ熱により体温は 40∼41℃以上となります。
前駆症状としては疲労感、めまい、頭痛など熱疲労と
同様の症状を呈しますが、その後、急激な高体温、
異常興奮状態、昏迷などの意識障害を呈します。更
に進行すると、痙攣をきたし昏睡に陥ることがあります。
また皮膚は乾燥しており、汗はみられず、初期のバイ
タルサインは多過呼吸で頻脈、血圧の上昇を認めま
すが、次第に呼吸は浅く不規則となり、血圧が下降し
ショック状態となります。
重症例では、播種性血管内凝固症候群(DIC)
、横
紋筋融解症や多臓器不全をきたし、死亡に至ること
があります。
59
熱疲労は高温多湿の環境での激しい運動による
末梢血管の拡張と大量の発汗による脱水症が基本
比較的保たれています。
臨床像として、はじめは皮膚血管が拡張し、紅潮・
発 汗 が 顕 著 で す 。水 分 欠 乏 型 脱 水 (Na 濃 度
150mEq/L 異常)
の場合、粘膜は乾燥し口渇が強く、
全身倦怠感、脱力感、頭痛、めまい等を訴え頻脈で
す。Na 欠乏型脱水(
Na 濃度 130mEq/L 以下)
では、
末梢循環不全が次第に強くなり、頻脈であるが緊張
は弱く、血圧が低下します。水分欠乏型脱水のタイ
プでは発熱を伴いますが、Na 欠乏型脱水の場合は
発熱が見られないことが多いようです。Ⅱ度は放置す
るとⅢ度に移行しうるので、この時点での適切な対応
がきわめて重要です。
3.Ⅰ度(熱痙攣)
熱痙攣は基本的には熱疲労と同様、大量の発汗に
よる体液異常が原因です。通常高温環境下で長時
間の激しいスポーツや肉体作業をした場合、最も激
しく使用した筋群に筋攣縮をきたします。運動中にお
ける場合や休憩時に突然発症することがあり、間歇
的に筋攣縮を繰り返すことがあります。
また、熱疲労としての症状、すなわち全身倦怠感、
頭痛、嘔気、嘔吐を伴うことがありますが、通常バイタ
ルサインは安定しており、深部体温は正常か軽度上
昇するのみです。発症機序には低 Na 血症の存在が
重要ですが、これは運動時の大量の発汗に加えて電
解質を含まない水分のみの補給により引き起こされま
す。検査では低 Na、低 Cl 血症を認めますが、筋攣縮
が高度に起きた場合は、時にミオグロビン尿や高
CPK 血症をきたすため注意が必要です。
あじさい Vol.14,No4,2005
表5 熱性障害の臨床像の概略4)
熱性障害
Ⅲ度
熱射病
誘発因子
熱疲労
発汗異常
電解質不足
Ⅱ度
熱疲労
Ⅰ度
皮膚
筋攣縮
直腸温
血圧
脈
頭痛
昏迷
乾燥
多様
>40℃
上昇/低下
頻脈
全身倦怠感
頭痛 等
湿潤
多様
<40℃
低下傾向 頻脈/徐脈
正常
湿潤
顕著
<40℃
精神症状
痙攣
高温環境下での長時間の暴露
水分摂取不足
多量の発汗に対する水分摂取のみ
塩分喪失
熱痙攣
中枢神経系
正常
正常
多量の飲水
表6 熱中症分類
新分類 重症度 対応日本語病名
Ⅲ度
重度
熱射病
治療
厳重管理と治療
高度な意識障害、発汗停止、高体温(大体40℃以上)
を主とした
熱中症最重症型であり、死亡の確率高い。Ⅱ度の症状に重なり
合って起こる。
○自己温度調節機能の破綻による中枢神経系を含めた全身の多臓器障害
○重篤で、体内の血液が凝固し、脳、肺、肝臓、腎臓などの全身の臓器の障害を
生じる多臓器不全となり、死亡に至る危険性が高い。
めまい感、疲労感、虚脱感、頭重感(頭痛)、失神、吐き気、
嘔吐など症状は多彩。
Ⅱ度
中等度
熱疲労
輸液
大量発汗に伴う塩分喪失により、四肢や腹筋などに痛みを
ともなった痙攣
熱痙攣
(熱性筋攣縮
熱性こむら返り)
Ⅰ度
軽度
○血圧の低下、頻脈(脈の速い状態)、皮膚の蒼白、多量の発汗などのショック
症状が見られる。
○脱水と塩分などの電解質が失われて、末梢の循環が悪くなり、極度の脱力状
態となる。
○放置あるいは謝った判断を行えば重症化し、Ⅲ度へ以降する危険性がある。
○多量の発汗の中、水(enbunなどの電解質が入っていない)のみを補給した場
合に起こりやすいとされている)
○全身の痙攣はこの段階ではみられない
水分摂取(輸液)
失神(
数秒間程度なもの)
○失神の他に、脈拍が速く弱い状態になる、呼吸回数の増加、顔色が悪くなる、
唇がしびれる、めまい、などが見られることがある。
○運動をやめた直後に起こることが多いとされている
○運動中にあった筋肉によるポンプ作用が運動を急に止めると止まってしまうこ
とにより、一時的に脳への血流が減ること、また、長時間、暑い中での活動のた
め、末梢血管が広がり、相対的に全身への血液量が減少を起こすことによる。
熱失神
表7 Ⅲ度の判定基準10)
意識喪失(
1∼2分以上)
(1)脳機能障害
せん妄状態
小脳障害(
奇異行動、失行など)
痙攣
(2)肝・腎機能障害
GOT、GPT、BUN、クレアチニンの上昇
(3)血液凝固障害
DIC
暑熱環境にさらされる。あるいは、熱産生の亢進の条件下であった者が、深部体温(
直腸温でのみ)
39
度以上の高熱を有し、他の疾患が除外診断された後、熱中症を疑われる場合、この(1)∼(3)の兆候の
いずれか一つでもあれば、Ⅲ度とする。
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あじさい Vol.14,No.4,2005
すと、異常環境に最も弱い臓器であることを示してい
ます。
頭部外傷やくも膜下出血による脳の血流障害と脳
◎熱中症の病態生理2)
熱中症の病態生理をまとめると、図5のようになりま
す。このうち、人間が暑熱環境に曝された時の標的と
なる臓器は、血管(
内皮細胞)
および血液、脳神経細
胞、肝臓および腎臓です。
組織損傷による異常生体反応は、脳温の異常上昇
を来たし、脳障害範囲を広げることが知られています。
暑熱環境への曝露による死亡者の病理学的所見は、
脳内の点状出血やくも膜下出血が観察され、血管内
1. 血管および血液
皮の障害による血液脳関門の破綻に引き続く脳浮腫、
暑熱環境による発汗は、血管内からの水分喪失を
脳内圧亢進に加えて、神経細胞自体も細胞内構造
招き、血液濃縮を生じます。熱自身によっても障害を
の消失や小脳 purkinje 細胞を含む細胞融解がみら
受けている血管内皮細胞は抗血液凝固機能を失い、 れることが報告されています。
血液濃縮による血液の過凝固傾向という拍車もあっ
3. 肝臓および腎臓
て、全身の微小循環障害を来たします。この微小循
環障害が、暑熱環境での悪魔といえる病態です。
微小循環障害は、筋肉を含めた全身臓器で生じま
す。特に筋肉は横紋筋融解症を生じ、遊離したミオ
グロビンは腎臓を中心に障害を生じます。また、発汗
によるカリウム、カルシウム、ナトリウムの喪失は血液
電解質の乱れを生じ、さまざまな障害に拍車をかける
ようになります。
全身の細胞に影響があるので、深部体温が 40℃を
超えると各種生体酵素は変性を始め、41℃を越える
とミトコンドリアの機能障害により、酸化的リン酸化回
路が抑制され、結果として細胞膜が障害され、細胞
の変性が始めると報告されています。
代謝が盛んな肝臓や腎臓は、血液低下やエネルギ
ー産生低下に敏感であり、ミオグロビン血症などの二
次的病態にも影響を受けながら、熱中症により致死
的な病態を生み出します。
2. 脳神経細胞
脳は常に一定の環境を保たれている臓器であるこ
とが知られており、脱水でも脳血流が最後まで保たれ
る機構が存在することが知られています。これは裏返
図 5 熱 中 症 の病 態 生 理
暑熱環境
発汗→脱水
血液電解質異常
低血圧
筋肉を含めた組織障害
横紋筋融解症
ミオグロビン血症
循環水分量低下
循環障害
腎障害
発汗停止
うつ熱
血液濃縮
血液過凝固
肝障害
血管内皮障害
DIC・
溶血
BUN、クレアチニン上昇
尿量低下
血清カリウム値上昇
脳細胞障害
脳浮腫
脳環流圧低下
熱調節中枢の破綻
多臓器障害
脳機能障害
意識障害、痙攣
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あじさい Vol.14,No4,2005
表9 年齢による体液比率
◎ 熱中症にかかりやすい条件2)
暑熱環境に弱い状態として、表8に挙げたような場
合が考えられます。このような環境下、条件下では熱
中症にかかりやすいといわれています。
新生児
乳児
幼児
学童
成人
体内総水分量(%)
細胞外液量
80
45
70
30
60
20
60
20
60
20
細胞内液量
(
%BW)
35
40
40
40
40
摂取水分量
[mL/kg/day]
表8 暑熱環境に弱い状態
不感蒸泄量
1.環境
[mL/kg/day]
尿量
高温、多湿、無風
[mL/kg/day]
2.身体的問題
不規則な生活(
朝食抜き、睡眠不足)、高齢、小児、肥満、脱
水、貧困、発熱状態(感染、炎症性疾患、腫瘍)
、過度の着
衣、普段運動をしない人の運動
60∼70 120∼150 80∼90 60∼70 30∼40
30
50
20∼70
70∼90
40
30
20
40∼50 30∼40 20∼30
3.薬剤
抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬などは、中枢神
経系の抑制により、自律神経系の機能不全を介して
うつ熱を生じやすくさせます。
利尿薬は、体内水分量の低下を目的に使用されて
いおり、暑熱環境では発汗の低下を来します。
抗コリン薬や抗ヒスタミン薬は、汗腺機能の抑制に
より、発汗の低下を生じさせます。
他に、βブロッカーや覚醒剤は、熱産生を増強させ
ることが知られています。
暑熱環境への適応を悪くさせる薬剤は、高齢者で
は恒常的に使用されていることが多いことに注意して
下さい。利尿薬による体内水分量の低下が、暑熱環
境による発汗により増強され、血栓症が出現する、ま
たうつ熱により熱中症になる、などが考えられます。こ
のような薬剤を調剤するときには、暑熱環境に弱くな
っていることを患者に知らせて下さい。
3.依存疾患
アルコール依存症、精神疾患
神経疾患:
脳梗塞・
痴呆・
自律神経障害・
視床下部疾患
心疾患:心不全
皮膚や汗腺の疾患:
無痛無汗症・
cystic fibrosis・
強皮症・
広
範囲の熱傷痕
糖尿病、甲状腺疾患、低カリウム血症、慢性閉塞性肺疾患
4.薬剤
抗精神病薬(
ブチロフェノン系・フェノチアジン系)
抗うつ薬、抗不安薬、バルビツール系麻酔薬、利尿薬、
抗コリン作動薬
抗ヒスタミン薬、抗パーキンソン薬、βブロッカー、覚せい剤
1.高齢者
高齢者は、心不全、脳神経疾患、糖尿病をはじめと
する基礎疾患の存在が最大の受傷要因になります。
また、動脈硬化や高脂血症の存在により、脱水による
虚血性心疾患への感受性は年齢とともに高まってい
ます。
◎熱中症予防における水分補給5)
熱中症の治療の原則は、熱中症を予防することに
あります。(表 10 参照)
熱中症にかかりやすい環境を知り、運動などを行う
場合には環境温や湿度を測定した上で、活動のスケ
ジュールを組む必要があります。また、活動の前中後
を通して水分を補給することが大切です。予防の面
から活動前の水分補給が大切です。活動前の水分
補給は、脱水の予防にもなりますので、是非励行しま
しょう。
体は高くなった体温を冷やすために、たくさんの汗
をかきます。発汗時には水分と同時に電解質も喪失
され、汗のナトリウム濃度は 10∼50mEq/L といわれて
います。
2.小児
小児は、成人に比べ水分の必要量が高いことが知
られています。(
表9参照)
また、腎機能の未熟さは尿
による水分喪失の大きさにつながり、体表面積の相
対的な大きさは不感蒸泄の大きさにつながっていま
す。
小児を車内に放置したことによる、熱中症での死亡
が毎年報告されていますが、水分への依存度が高い
小児にとって、短時間でも異常な暑熱環境への暴露
は致死的なことを証明しています。
62
あじさい Vol.14,No.4,2005
水分を補給する場合には、電解質を含まない水だ
けよりもナトリウムを含む 0.2%食塩水又は 0.9%の生理
食塩水が望ましいとされています。さらにナトリウムの
経口から水・電解質の補給できる、経口補水液
(ORS)注1)というものがあります。これは、スポーツドリ
ンクにくらべ、より生理的で水分と電解質を素早く補
吸収は少量のブドウ糖の添加により促進されることか
ら、2∼3%のブドウ糖を含んでいるとより有効です。こ
れは、ナトリウムとブドウ糖を一緒に摂取すると小腸粘
膜に存在する共輸送体によって吸収され、水分吸収
給することができます。(表12参照)
表10 熱中症予防の鉄則
1.環境温や湿度を把握した上で、運動や活動のスケジュールを
決める
を促進するという機構によるものです。(
図6参照)
市販されているスポーツドリンクはナトリウム、カリウ
ムなどの電解質や糖分が含まれており、水分補給に
便利です。
多くの体液が喪失され水分・
ナトリウムが欠乏してい
2.熱中症Ⅲ度の高率発症環境(表11参照)での活動を避ける
3.高危険環境での活動を避けられない場合
①短い間隔(
1時間以内)で涼しい場所に移動した上で十分
な休息をとる
②野外では帽子や風通しの良い服での日光予防する
る脱水状態に、水やお茶などナトリウムを含まない飲
料水を投与すると体液が薄まり尿量が増加し、更に
電解質を失ってしまう恐れや、脱水が増加し熱痙攣
に進展する場合があります。市販の天然果汁や野菜
ジュース類は、電解質含量は低く(
果汁飲料はカリウ
ムを含む)、炭水化物含量が多く浸透圧が約 500∼
900mOsm/L と高いものがあることから脱水時の使用
には適していません。
③活動前・
中・後を通した十分な水分補給
④高リスク者の保護:
高齢者、小児、心疾患、肥満、
抗コリン薬や利尿剤服用者(発汗低下)
アンフェタミン・コカインなどの常用者(
熱産生性)
4.上記を指導し、守れる、良き上司・職場・
コーチを選ぶ
表11 熱射病(
Heat stroke)
の発症可能性と温湿度(
Heat-Index Chart)
大気温(℃) 湿度 10%
49
46
43
41
38
35
32
29
27
24
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
可能性あり可能性高い 可能性高い
可能性あり 可能性あり 可能性高い 可能性高い
可能性あり 可能性あり 可能性あり 可能性高い 可能性高い
可能性あり 可能性あり 可能性あり 可能性高い 可能性高い
可能性あり 可能性あり 可能性高い 可能性高い
可能性あり 可能性あり 可能性あり 可能性高い
可能性あり 可能性あり
可能性あり
図6 経口補水療法の理論的根拠3)
表12 熱中症予防のための水分補給
+
消化産物(
浸透圧活性物質)
とNa の共輸送機構による吸収
1.適度の涼み休憩をとり、熱放散を図る
2.水分補給は自由飲水と飲水休憩が必要。
3.自由飲水は0.2%程度の塩分と3∼5%糖分が望ましい
4.水分は冷水、麦茶や天然果汁、野菜ジュースよりスポーツドリ
ンク、ORSの方がよい
5.水分にはスポーツドリンクに限らず、適度の塩分、糖分が必要
で、コップ1杯の水に一つまみの塩と5つまみの砂糖でも代用
できる。
6.ドロドロしたものより、さらっとしたもののほうが飲みやすい。
7.冷却と水分摂取を行っても改善しない場合は、直ちに医療機関
を受診する。
63
あじさい Vol.14,No4,2005
表 13 ORS(経口補水液)およびスポーツドリンクの組成9)
ORSおよび
スポーツドリンクの組成
ラ
ガ
イ
イ
ン
ド
等
WHO-ORS
AAP推奨処方(維持液)
食
品
K
Cl
80
炭水化物
(g/dL)
90
20
2
40∼60
20
2.0∼2.5
1.3∼2.0
60
20
注2)
60
20
50
3.2
注2)
内服用電解質剤(3号)
35
20
30
3.3
OS-1(市販ORS)注3)
50
20
50
2.5
25∼32
20
20∼30
4∼6
9∼23
3∼5
5∼18
6∼10
ESPGHAN推奨処方
医
薬
品
Na
(mEq/L) (mEq/L) (mEq/L)
内服用電解質剤(2号)
乳児用イオン飲料
スポーツドリンク注4)
注1)
どを用いた脳低温(低体温)療法の管理が必要にな
ることもあります。アルコールの噴霧による冷却も効率
がよいことが知られていますが、発火の危険性が高く、
医療機関では避けるべき治療法とされています。
表14に代表的な冷却方法についてまとめました。
表14 代表的な冷却方法
1)
ORS(oral Rehydration solution)
とは:
水分と
電解質をすばやく補給できる飲料です。1970 年代、
補給に推奨した経口補水液。
4∼10℃の氷冷水槽内に浸漬させる
方法
② 冷却ブランケット法:
ブランケットに冷水を灌流させ冷却す
る方法
③ 蒸泄法:
冷水やアルコールを浸したタオルや
ガーゼを体表にかけ、扇風機で送風
した気化熱により冷却する方法
⑤ 氷嚢:
内服用電解質剤(
医薬品 ORS)
:
ソリタT 顆粒 2 号、
ソリタ顆粒 3 号
注3)
① 浸潤法:
微温湯シャワーに温風を併用し皮膚
④ warm air spray法: 血管を拡張させ熱放散を促進させる
方法
WHO がコレラ感染による下痢に伴う脱水時の水・
電解質
注2)
【体表冷却】
2)
OS-1(
オーエスワン)
:
WHO の提唱する経口補水
側頸、腋窩、鼠径部など動脈が体表
に近い部位に氷嚢をのせる。
【体腔冷却】
① 冷却水による胃、膀胱、腹腔内洗浄や浣腸
療法(ORT:oral rehydration therapy)の考え方に
② 冷却した生理食塩水の点滴
基づいた経口補水液で、AAP(American Academy
3)
of pediatrics:
米国小児科学会)
の指針に基づいている。
【体外循環】
① 体外循環回路を使い、血液を体外で直接冷却する
一般のイオン飲料よりも電解質濃度が高いので、ナトリウ
ムとカリウムの摂取制限のある患者さんには注意を要しま
2.水分補給
す。
熱痙攣および熱疲労では、脱水症の治療が主体で
す。経口摂取が可能であれば、経口電解質溶液や
塩分を含む水分の補給を行います。経口摂取が不
可能であれば輸液療法が必要となりますが、熱疲労
では、まず水分欠乏型脱水か Na 欠乏型脱水かを決
定します。輸液は初期輸液として、生理食塩水、ある
いは開始液を用い 10∼20ml/kg/時間で開始し、排
尿を確認した後、維持輸液に移行します。Na 欠乏型
脱水では2号液を用います。輸液は脱水症状が消失
し、十分な水分摂取が可能となるまで続けます。
ショック状 態 で は 20 ∼ 40mL/kg/min (成 人 で
2000mL)
の投与量が必要になります。
重症例の脱水補正に際しての各体液層の反応を
示しましたが、細胞外液の補いは乳酸加リンゲル液
で急速に行い、尿量が得られるようになれば、いわゆ
る脱水補給液(
2 号液)
に変更します。重症例の場合
では、輸液量の指標が満足されるようになっても、な
お細胞内液の欠乏が存在しますので、さらに 24∼48
時間かけてその補正を心がけます。(表16参照)
血圧低下時はさらに膠質液も加え、大量の輸液を
することとなります。輸液治療によっても血圧上昇が
注4)スポーツドリンク:
ORS に比べナトリウムが低く、カリウムは
1/4 で、糖分が高い。日常生活における水・
電解質補給
用。
◎治療法2)10)
熱中症診断には、暑熱環境下であることが確認さ
れて、その上でその他の疾患の否定が必要条件とな
り、類似する病態を除外することも必要です。
熱中症の治療法は、1)冷却、2)輸液、3)その他
(合併症に対する対症療法)
が基本となります。治療
法は、Ⅰ度とⅡ、Ⅲ度でわかれます。(
表16参照)
1.冷却
冷却は、様々な方法を組み合わせて、可及的速や
かに深部体温を下げるように努力しなければなりませ
ん。体表温は冷却により容易に下降するため、体温
の変化の評価には必ず深部体温(
直腸温、鼓膜温な
ど)
を測定します。
厳格な冷却のためには、ドルミカム、ミオブロックな
64
あじさい Vol.14,No.4,2005
得られない場合には、カテコールアミンの投与を行い
ます。循環不全に対してはドパミンあるいはドブタミン
を用いますが(5∼20μg/kg/分)、ドブタミン製剤を
意識障害や痙攣重積状態を呈する症例や、呼吸
状態が悪い例では人工呼吸管理を行い、脳浮腫に
対しては脳圧降下剤を用いますが、肝障害が強い場
使用する場合は末梢血管収縮および腎血流が減少
しない範囲内で使用します。
特に運動誘発が関与している例では、横紋筋融解
症、腎不全をきたしやすく、尿量、尿色(ミオグロビン
合にはグリセロールよりもマンニトールを使用するの
がよいとされています。マンニトールは血漿浸透圧を
測定しながら、0.25∼1.0g/kg/回の範囲内より開始し、
30 分∼1 時間かけて 6∼8 時間間隔で点滴静注しま
尿 の有 無 )の厳 重 な監 視 が必 要 であり、尿 量 は
1ml/kg/時間以上を保つようにしますが、腎不全の兆
候が現れたら透析のできる態勢を整えておく必要が
あります。
す。
二次的に生じる DIC(播種性血管内凝固症候群)
には、FOY・AT-Ⅲ製剤投与、ヘパリン療法などが必
要になります。
表 15 複 合 電 解 質 輸 液 剤 の適 応 と特 徴 1)
製剤
︵
︶
等
細張
胞性
外電
液解
類質
似輸
液液
剤
低
張
性
複
合
電
解
質
輸
液
剤
生理食塩水(
0.9%NaCl)
リンゲル液
適応
細胞外液量の補充
hypovolemic shock・
出血
熱傷・
糖尿病性昏睡
低張性脱水症(
Na欠乏型脱水症)
特徴
NaClの含有量4.5g/500ml、単独長期使用
では自由水なく高Cl血症・
心不全・腎不全
にはNa過剰投与に注意
Nacl含有量約4.3g/500ml
胃液喪失時の低Cl血症、アルカローシス
乳酸リンゲル液
(
lactated ringer)
開始液
(
各種1号液)
アルカリ化剤の含有、NaCl含有量約
低Cl血症性アルカローシス以外の細胞外液
4g/500ml、肝障害、循環障害時には乳酸
量の補充(
手術時・熱傷・
急性出血など)
性アシドーシスの危険
細胞内修復液
(
各種2号液)
維持液
(
各種3号液)
病態不明の脱水症の開始液
乏尿時の開始液
高張性脱水症(
水分欠乏型脱水症)
低張性脱水症
下痢・
嘔吐、アシドーシスの細胞内脱水
短期間の維持輸液
高張性、混合性脱水症
術後回復液
(
各種4号液)
高張性脱水症
術後
Kを含有しない低張性電解質剤
単独長期大量投与で低K血症、
希釈性アシドーシス
Kの含有量多いので高K血症に注意
Kの含有量が多いことに注意
長期間の維持輸液剤ではない
希釈性低Na血症、乳酸含有量も多い
自由水が多く、腎機能障害時に適す
表 16熱 中 症 の治 療 2)
gradeⅢ/Ⅱ
A.十分な等張液輸液
(細胞外液補充液・乳酸リンゲルや生理食塩水)
+
B.深部体温モニタ下での緊急冷却
深部温40℃以下になるまで①∼⑤を程度に合わせて組合せる
①腋窩、鼠径のアイスパック
②全身風冷+霧吹きによる蒸発法(濡れタオルは効率悪い)
③全身水冷(冷却ブランケットより効果的)
④冷却水による胃洗浄・腹腔洗浄
⑤体外循環による血液冷却
※解熱薬の使用は無効(熱産生を抑えるのみ)であり、腎負荷など害がある
全身麻酔、人工呼吸管理も必要により併用する
C.二次的に生じたDIC、横紋筋融解症への治療
gradeⅠ
A.涼しい場所に移動:
クーラーのある室内への移動が最良
B.衣類を緩め、腋窩や鼠径部へのアイスパック冷却
(濡れタオルは効率が悪い)
C.十分な水分を飲む→嘔吐があればすぐに医療機関へ
65
あじさい Vol.14,No4,2005
熱中症が疑わしい患者を発見したら、現場におけ
C. 顔面が蒼白で、脈が微弱
寝かせた状態で足を心臓よりも高くなるように挙げ
て、可能ならば、静脈路を確保して輸液を行う必要
る初期治療として次のことを速やかに行うようにしま
す。
熱中症の初期治療は、休息、冷却、水分補給の
3つがベースとなって手当を行います。症状やその
があるため、医療機関へ搬送します。
D. 顔色が赤い場合
寝かした状態よりやや上半身を高くし、座らせた
状態とする。
程度によって、手当の内容が決定されます。すべて
の症状に対して、熱中症の手当の基本を行います
が、追加して望まれる手当を記載します。
E. 足先など末端部が冷たい
その部分の保温と、さするようにマッサージをしま
す
F. 飲水できる
スポーツ・ドリンク、ORS(表17参照)等を飲ませま
◎ 現場における初期治療
休息
(rest)
安静をさせる。そのための安静を保てる環境
へと運ぶこととなる。衣類を緩める、また、必要
に応じて脱がせ、体を冷却しやすい状態とす
る。
冷却
(ice)
涼しい場所(クーラーの入っているところ、風通
しの良い日陰など)で休ませる。症状に応じ
て、必要な冷却を行う。
水分補給
(water)
意識がはっきりしている場合に限り、水分補給
を行う。意識障害がある、吐き気がある場合に
は、医療機関での輸液が必要となる。
1. 意識の確認
① 意識が無いもしくは、反応が悪い
A. 気道の確保
B. 呼吸の確認
C. 脈拍の確認
気道を確保した上で、呼吸の確認を行います。
呼吸が無かったら人口呼吸を行い、続いて脈拍の
確認を行い、脈拍が非常に弱い、もしくは止まって
いる際には、心臓マッサージを行うという過程です。
あわせて、バイタルサイン(意識、呼吸、脈拍、顔色、
体温、手足の体温など)のチェックを継続して行うこ
とが必要です。
② 意識のある場合
バイタルサインのチェックをし、涼しい場所へ運び
ます。衣類を緩め(必要に応じて脱がせ)、症状に
対応していきます。
A. ふくらはぎや 腹部の筋肉の痙攣(全
身のものではない)
0.9%の食塩と電解質の入ったものを飲ませます。
冷水タオルマッサージを震えているところへ行いま
す。
B. 失神(
数秒程度内のもの)
横に寝かせ、足を心臓より高く挙げるなどして、心
臓へ戻る血液の最大を図ります。
66
す。
G. 吐き気・
嘔吐
水分補給が行えないので、速やかに医療機関へ
運ぶことが必要です。
2. 現場での冷却方法
意識が回復し、寒いと訴えるまで冷却します。
注意点として、震えを起こさないようにすることが
ポイントです。
① 冷水タオルマッサージと送風
衣類をできるだけ脱がせて、体に水をふきかけま
す。その上から、冷水で冷やしたタオルで全身、特
に手足(末端部)と体幹部をマッサージ(皮膚血管
の収縮を防止するため)します。風をおこすようなう
ちわ、タオル、服などで送風します。使用する水は
冷たいものよりも、常温の水もしくはぬるいお湯がよ
いとわれています。
② 氷(氷嚢、アイスパック)などで冷却
氷嚢、アイスパック、アイスノンなどを、腋下動脈
(両腕の腋の下にはさみます)、頸動脈(首の横に
両方からあてる)、大腿動脈(股の間にある)に当て
て、血液を冷却します。
③ 水を体表面にかけて送風
(気化熱によって冷却)
霧吹きなどで、水をふきかけてその気化熱で冷却
します。繰り返し吹きかけつつ送風します。皮膚表
面を冷却しないで、かつ、震えを起こさないよう注意
します。そのため、できるだけ温水のほうがよいと考
えられていますが、温水でないといけないものでは
ありません。送風にはドライヤーで温風をもちいるの
もよいですが、うちわなどで扇ぐこともできます。
表17 経口補水液・スポーツドリンク成分表
経口補水液(ORS)
販売名
メーカー
熱量 Kcal
蛋白質 g
脂質 g
炭水化物 g
ナトリウム mg
カリウム mg
OS-1
オーエスワン
OS-1
オーエスワン
ゼリー
ポカリスエット
C1000タケダ
レモンウォーター
液
ゼリー
液
液
アクエリアス
アクエリアス
クエン酸ウォー
ター
DAKARA
液
液
液
コカコーラナショナ コカコーラナショナ サントリーフーズ
ルビバレッジ(株) ルビバレッジ(株)
(
株)
ポカリスエット
ステビア
SUPER H2O
ザバスコンディ
ショニングウォー
ター
サントリーフーズ
(
株)
大塚製薬(
株)
アサヒ飲料(
株)
明治製菓(
株)
ゲータレード
エクストラ
液
大塚製薬(株)
大塚製薬(株)
武田食品(株)
100ml
100g
100mL
100mL
100mL
100mL
100mL
100mL
100mL
100mL
490mL
10
0
0
2.5
115
78
10
0
0
2.5
115
78
18
0
0
4.6
34
8
0.77
1.2
0
1
0.5
1
25
17
0
0
4.6
12
25
17
6
26
0
0
6.4
48
24
11
0
0
2.7
49
20
2
0.6
15
0
0
3.8
33
約20
10
0
0
2.5
220
2.4
6.2
20
0
0
5.8
14
3
2.2
0.6
17
0
0
4.3
32
35
10
2.4
6.2
27
0
0
6.7
49
20
2
0.6
ロイシン mg
イソロイシン mg
アルギニン mg
他
浸透圧(mOsm/mL)
原材料
ハイポトニック
大塚製薬(株)
カルシウム mg
マグネシウム mg
成 リン mg
分
バリン mg
アイソトニック
ビタミンC 200mg
約270
−
ブトウ糖、塩化Na、乳
糖類(ブドウ糖、果
糖、コーンシラップ)、 酸Na、ゲル化剤(増
塩化Na、乳酸Na、塩 粘多糖類)、塩化K、
化K、乳酸、硫酸Mg、 乳酸、硫酸Mg、リン酸
リン酸Na、グルタミン Na、グルタミン酸Na、
酸Na、香料(一部にオ 甘味料(スクラロー
レンジ由来の成分を ス、アセスルファム
含む)、甘味料(スクラ K)、香料(一部にオレ
ンジ由来の成分を含
ロース)
む)
約320
砂糖、ぶどう糖果糖
液糖、果汁、食塩、酸
味料、ビタミンC、塩化
K、乳酸Ca、調味料
(アミノ酸)、塩化Mg、
香料
約320
ナイアシン 1.5mg
ビタミンB6 0.15mg
ビタミンB12 0.45mg
灰分 0.1g
ビタミンC 23mg
クエン酸 250mg
293
299
295
果糖、還元水飴、レモ 高果糖液糖、はちみ 果糖ぶどう糖液糖、 糖類(果糖ぶどう糖液
ン果汁、塩化ナトリウ つ、塩化Na、海藻エ はちみつ、還元麦芽 糖、果糖)、食物繊
糖水あめ、塩化Na、ク 維、
ム、ビタミンC、香料、 キス、ローヤルゼ
乳酸カルシウム、ベニ リー、クエン酸、クエン エン酸、香料、乳酸 オクタコサノール含有
バナ黄色素、酸味
酸Na、香料、アルギニ Ca、リン酸K、ビタミン 米胚芽抽出物、酸味
料、香料、塩化K、
料、塩化マグネシウ ン、塩化K、塩化Mg、 C、クエン酸Na、マ
ム、酸化防止剤(酵素 乳酸Ca、酸化防止剤 リーゴールド色素、ア 乳酸Ca、塩化Ca、酸
処理ルチン)、リン酸カ (ビタミンC)、甘味料 スパラギン酸Na、グ 化Mg、甘味料(スクラ
リウム、甘味料(スクラ (スクラロース)、イソロ ルタミン酸Na、甘味料 ロース)、
イシン、バリン、ロイシ (スクラロース、アセス アスパラギン酸Na、
ロース)
アルギニン、グルタミ
ルファムK)、塩化K
ン
ン酸Na
アイソトニック(等張液):浸透圧が体液の浸透圧(約285∼290mOsm/L)にほぼ等しい等張液
ハイポトニック(低張液):体液より浸透圧を低くし胃から腸へ排出速度を速くし、等張液よりスムーズに水分の吸収ができるようにした低張液
315
約184
砂糖、果糖ブドウ糖、
液糖、ブドウ糖、塩化
Na、クエン酸、香料、
クエン酸K、ナイアシ
ン、ビタミンB6、ビタミ
ンB12
果糖、果汁、砂糖、食
塩、オリゴ糖、酸味
料、ビタミンC、塩化
K、乳酸Ca、調味料
(アミノ酸)、塩化Mg、
甘味料(スクラロー
ス・ステビア)、香料
1未満
1
1
1
9
39
46
15
アスパラギン酸 8mg
アラニン 8mg
グルタミン酸 7mg
リジン 6mg
L-カルニチン 10mg
オルニチン 8mg
ビタミンE 2mg
ビタミンB1 0.11mg
ナイアシン 1.7mg
コエンザイムQ10
10mg
クエン酸 2000mg
257
68/45(顆粒)
果糖、塩化Na、L-カ グレープフルーツ果
ルニチン、オルニチ 汁、コエンザイムQ
ン、香料、クエン酸、ク 10、クエン酸、クエン
エン酸Na、アミノ酸(ア 酸Na、香料、V.C、
スパラギン酸Na、アル 甘味料(アセスルファ
ギニン、グルタミン酸 ムK、スクラロース)、
Na、アラニン、リジン、 ロイシン、バリン、乳
バリン、ロイシン、イソ 化剤、イソロイシン、
ロイシン)、塩化K、リ V.E、ナイアシン、
ンゴ酸、乳酸Ca、コハ V.B1
ク酸Na、甘味料(スク
ラロース)、酸化防止
剤(V.C)
あじさい Vol.14,No.4,2005
♪♪♪♪♪まとめ♪♪♪♪♪
熱中症とは、熱波により主に高齢者に起こるもの、
7) 田 中 . 熱 中 症 発 生 の 動 向 ;日 本 医 事 新
報:3988.95,2000
8) 中谷.熱中症における多臓器障害の発生機序;
幼児が高温環境で起こるもの、暑熱環境での労働
でおこるもの、スポーツ活動中に起こるものなどがあ
ります。体の中でたくさん熱をつくるような条件下に
あったものが、体温を維持するための生理的な反
日本医事新報:3995.108,2000
9) 津留ら.小児科小域における経口補水療法の
有 用 性 ;Medical Tribune 特 別 企 画 ;p37 ∼
p38,2003
応として生じた失調状態から、全身の臓器の機能
不全に至るまでの、連続的な病態です。
汗をかくことによって体温の調整を行っています
が、体の中から水分を外へ出してしまったら、水分
を補うことが大切です。
10)
山 之 内 ら . 熱 中 症 ;日 本 医 事 新
報;4132.1,2003
11)
熊田.脱水の発生機序と治療;日本医事
新報;3944.104,1999
12)
田伏.脱水時の点滴による治療;日本医
水分補給の考え方としては、
1. 水分をとることは絶対に必要
2. そのとき、塩を一緒にとると吸収、回復が早い
3. さらに糖分を加えると効果的
水→塩分→糖分
が重要なポイントです。
熱中症の治療は予防が基本です・
事新報:3819.112,1997
13)
日本体育協会資料;スポーツ活動中の熱
中症予防ガイドブック,平成 11 年
<お詫びと訂正>
特集「高血圧治療ガイドライン 2004 の概要 ―メタ
ボリックシンドロームと高血圧」あじさい Vol14 No.3、
2005 p43 で誤りがありましたので、ここに訂正し、
お詫び申し上げます。
2.心疾患 5行目
誤
正
逆に頻脈であり、 →
逆に徐脈であり
<編集後記>
日本体育協会が平成 5 年に「熱中症予防の原
則」として下記の 8 か条を発表しています。参考に
して下さい。
表 熱中症予防8カ条13)
1.知って防ごう熱中症
2.暑いとき、無理な運動は事故のもと
3.急な暑さは要注意
4.失った水と塩分を取り戻そう
5.体重で知ろう健康と汗の量
6.薄着ルックでさわやかに
7.体調不良は事故のもと
8.あわてるな、されど急ごう救急処置
最近の夏は、異常ともいえる暑さで、例年熱中症
事故が報じられます。また、高齢者では自覚症
状がないまま、脱水症状をおこすことがあります。
熱中症予防などにについて相談をうけられる機
会も多いのではないでしょうか?先生方の参考
資料として使用していただければ幸いです。
暑い中での仕事が続きますが、環境に気をつけ
て夏を乗り切りたいものです。
<参考文献>
1) 北岡.チャートで学ぶ輸液療法の知識;南山堂.
第1版
2) 関 口 ら . 暑 さに よ る 病 気 ;調 剤 と情 報
9:8.12,2003
3) 大塚製薬資料
4) 八木ら.小児の熱射病・熱中症;日本医事新
報;
3926.28,1999
5) 関.熱中症予防のための水分補給;日本医事
新報:3957.107,2000
6) 吉 岡 ら . 熱 中 症 ;日 本 薬 剤 師 会 雑 誌
48:87.13,1996
発行者:
富田薬品(
株)
医薬営業本部
池川登紀子
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