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その2(PDF形式:2.01MB)

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その2(PDF形式:2.01MB)
(2) 準天頂衛星システムの利用による産業の高度化と新産業の創出の事例
・垂直誘導を伴う着陸進入の実現
日本近傍は米国や欧州に比べ電離層活動が活発なため、現在の MSAS の性能では垂直誘
導を伴う着陸進入に使用できない。垂直誘導を伴う着陸進入の代表例として、コース情報により
接地点をめざして一定の降下角で進入を行う、地上無線設備を利用した直線進入がある。
準天頂衛星システムの補強信号の利用及び監視局の増加や電離層アルゴリズムの改善な
どによって、現在地上無線設備が整備されていない滑走路、空港においても垂直誘導を伴う着
陸進入が可能となる。これにより、投資の効率化や就航率の改善が期待できる。
・空港内における地上走行車両のナビゲーションの高度化
空港内において作業車両が目標物にアクセスする際、遠距離からでも目視が容易な大きな建
物はもとより、遠距離からの目視が困難であり、かつ数多く配置された灯火・マンホールなどに
ついても、迅速にアクセスすることが必要となっている。
準天頂衛星システムの補強情報を利用することによって、位置情報から任意の目標物を特定
でき、効率的に作業を実施することが可能となる。また、現在は、補正データを基準局から得て
無線 LAN により各車両に送信する必要があるが、準天頂衛星システムの利用により、これらの
基準局や通信システムにかかるコストも削減できる。
(3) 課題
・ICAO 標準への準天頂衛星システムの対応
現在、ICAO では、米国の GPS、ロシアの GLONASS 以外は航法に使用する測位衛星システ
ムとして認められていない。また、GPS を補強する補強システムとしては、WAAS(米国)、EGNOS
(欧州)、MSAS(日本)のみが認められており、補強メッセージのフォーマットも決められている。
したがって、航法に使用する測位衛星システムとして準天頂衛星システムを追加するとともに、
L1-SAIF フォーマットの追加やこれらのシステムとの相互運用性の確保も必要である。
また、ICAO では航空機の飛行フェーズ毎に、精度・完全性・サービスの継続性・利用可能性
及び警報時間(Time-to-Alert)をもって、衛星航法システムの性能を規定している。準天頂衛星
システムの補強機能についても、この性能を満たすことが求められる。現在の L1-SAIF 信号は
完全性・サービスの継続性・利用可能性・警報時間については考慮されていないため、航空分
野での展開のためには、これらの性能の考慮が必要となる。
第 7 節 防災・救難分野
冒頭でも述べたとおり、東日本大震災においては、GPS が防災や救難活動に広く用いられた。
地上系の通信網に頼らない測位衛星システムは、今後、国民の安心・安全を守る観点からも必須
の基盤的なインフラであることから、本研究会においてもその重要性が確認された。
なお、東日本大震災後には、地震や津波の被災地において、土地の所有関係が不明確になる
ケースが多くあった。また、救助活動においては、「○○小学校と言われても倒壊していてどこだ
かわからない」という声などもあり、GIS の整備の一環ではあるが、高精度な位置情報により場所
を特定することの重要性が再認識されているところである。
(1) 測位衛星システムの利用の現状
・GPS 波浪計による津波予測
GPS を用いて、沖合に設置されたブイ(GPS 波浪計)の上下変動を計測することによって、波浪
や潮位をリアルタイムで観測するシステムが国土交通省によって整備されており、津波情報にも
活用されている。しかし、東日本大震災において、地上設備との通信回線の脆弱性に問題(波
浪計は情報を取得していたが、その情報が利用できなかった)があることが明らかになった。
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【GPS 波浪計の仕組み】
(出典:国土交通省ホームページ)
・河川堤防の維持管理、山間部における斜面防災への利用
河川堤防については、治水の観点から堤防の高さが一定に保たれているかどうかを絶えず観
測する必要がある。また、山間部における法面工事等においては、大雤等による崩落の危険性
がないかどうかを予測する必要がある。
これらのモニタリングに GPS が活用されている。
・救難システム
救難システムとしては、コスパス・サーサット(CospasSARSAT)システムが活用されている。こ
れは、遭難した船舶等に備え付けられた発信機(ビーコン)が発射する遭難警報(アラート)の位
置を人工衛星(コスパス・サーサット衛星)により検出し、救助を行うための国際的なシステムで
ある。わが国では、海上保安庁が地上設備の運用を行っている。
なお、情報提供サービス分野において述べた「緊急番号通報時の位置情報等の通知機能」は、
通報者自身が正確な場所を認識していなくても通知された位置情報を基に救助者が現地に向
かえるため、救難分野においても大いに活用されている。
(2) 準天頂衛星システムの利用による産業の高度化と新産業の創出の事例
・津波情報の高度化
上述した GPS 波浪計は、地上局を設置し、地上局から GPS 波浪計に対して補正情報を送るこ
とによってシステムを構築しているが、準天頂衛星システムの補強機能の活用により、地上局の
設置を伴わずに、これらのシステムを構築することが期待できる。これにより、低コストで広範囲
に波浪計を設置することも可能になる。
また、地上局からの補正情報の送信は、沖合 20km程度までが限界とされているが、準天頂
衛星システムの活用により、さらに沖合に波浪計を設置することも可能になり、より精度の高い
津波予測が期待できる。
・より高精度なモニタリングへの利用
上述した堤防の管理や斜面防災においても、基本的には GPS の補正情報を何らかの形で活
用しているが、準天頂衛星システムの補強機能の活用により、低コスト化を図ることが可能にな
る。また、山間部においては、準天頂衛星システムの補完機能による測位時間・エリアの拡大も
期待できる。
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【測位衛星システムを用いた堤防監視における地形観測シミュレーションへの応用の例】
(出典:西川 啓一,中村 甚一,井上 達裕,大西 有三,西山 哲“ダム管理向け 3 次元地形測量と表示手法の研究”
土木学会 土木情報利用技術論文集 Vol.15, pp.11-16,2006)
・災害時の情報提供や安否確認への活用
準天頂衛星システムでは、簡易メッセージ送信機能により、災害情報等を携帯電話等の端末
に配信することが可能となる。簡易メッセージ自体の情報量は限定的であるが、送信する情報コ
ードに対応したデータをあらかじめ端末側に登録しておくことで、多様な情報を配信することが可
能であり、また、受信者の場所に応じたきめ細かな災害情報の提供が可能となる。(*)
さらに、防災センター等に情報を送ることを可能にする双方向通信機能により、災害発生時等
には、被災者の安否状況や周辺の被災状況等を携帯電話等の端末から送信することが可能と
なる。(*)
*:簡易メッセージ送信機能及び双方向通信機能の実現にあたっては、携帯電話の活用を含め、衛星搭
載系、送受信端末の詳細、サービスの提供事業者や提供方法等について検討することが必要。
【災害時における活用例】
(出典:第 2 回準天頂衛星を利用した新産業創出研究会資料)
(3) 課題
・簡易メッセージ送信機能及び双方向通信機能の携帯電話への搭載
国民の安心・安全という観点から利活用が期待される簡易メッセージ送信機能及び双方向通
信機能については、実現に向けて、衛星搭載機能や送受信端末の機能の詳細について技術的
な検討が必要である。
特に、災害発生時等におけるメッセージ送信等においては、利便性の観点から、日常生活に
おいて持ち歩いている携帯電話でこれらの機能を使用できることが必須であるため、その実現
性について検証する必要がある。
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第 8 節 その他の分野
これまでに紹介した例の他にも、以下の分野で衛星測位を利用する例が見られる。
(1) 測位衛星システムの利用の現状
・モバイルマッピングシステム(MMS)
モバイルマッピングシステム(MMS)は、専用の車両を用いて、詳細な道路地図や 3 次元デー
タを作成するシステムである。具体的には、GPS による測位及び慣性計測装置(IMU: Inertial
Measurement Unit)による位置/姿勢計算と、搭載したセンサーにより計測したレーザ点群及び
画像を組み合わせて、道路地物の正確な三次元位置計測を行う。MMS は、トンネル断面検査、
クラック検出や法面管理、除雪支援用道路データ、施工管理、道路管理、自治体の道路台帳更
新などに使用されている。
【モバイルマッピングシステム(MMS)の仕組み】
(第 2 回準天頂衛星を利用した新産業創出研究会資料)
・船舶における事例
大型船の GPS 測位機の搭載率は 100%で、主に大洋航海中、自船の位置情報を取得する際
に用いられている。しかし、出入港及び離着桟時においては、GPS 単独測位による測位精度で
は不足していることが課題となっている。
このため、港への接岸速度計の設置、または、相対測位方式(DGPS: Differential GPS)の利用
などにより測位精度を必要なレベルまで向上させている。
なお、船舶の安全運行管理という側面のほかには、漁場の位置情報、操業禁止区域での違
法操業監視など、自船あるいは監視対象船の正確な位置情報の取得にも使われている。
・時刻同期への利用
測位衛星システムの利用により、位置情報だけでなく正確な時刻情報を得ることができる。
この正確な時刻情報は、電力送配電網や取引所等の国家の社会基盤となる重要な分野でも
利用されている。例えば、金融分野の高速トレーディングでは、取引所や証券会社などをつなぐ
拠点間のレイテンシー(時間遅延)を検知するために、世界共通の標準時である協定世界時
(UTC)との同期誤差が 50 ナノ秒から 100 ナノ秒(1 ナノ秒は 10 億分の 1 秒)であることが必須
条件となっている。これを満たすものが、GPS に搭載された精密な原子時計からの時刻情報で
あることから、欧米の証券市場では、この利用が進んでいる。
また、複数のコンピュータで構成されるネットワーク環境における基準時計や無線局間の時刻
同期にも GPS の時刻情報を利用している例が多い。
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(2) 準天頂衛星システムの利用による産業の高度化と新産業の創出の事例
・補完機能による都市部や山間部での利用可能時間率・利用可能エリアの改善
すべての分野に共通することであるが、GPS のみの測位では、都市部や山間部で受信可能
な衛星が尐なくなり、精度が落ちるという問題がある。また、RTK-GPS では、測位衛星の位相情
報を基に測位解を決定するが、都市部や山間部では利用可能な衛星数が十分でなく RTK-GPS
を利用できないケースがある。
準天頂衛星システムの利用により、高仰角の可視衛星数が増加し、これらの状況を改善する
ことができる。
また、以下は準天頂衛星初号機「みちびき」を利用して行った実証実験の結果である。測位が
可能な面積率を表す測位率がどのように改善するかを新宿及び銀座で確認しており、準天頂衛
星初号機「みちびき」の 1 衛星だけの追加でもこれだけの改善効果があった。
【準天頂衛星初号機「みちびき」による効果】
測位率の改善(2 周波を利用する「高精度測位」の場合)
新宿
銀座
GPS 単独
8.8%
16.2%
「みちびき」による補完
35.4%
33.2%
改善度合い
4倍
2倍
(出典:(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)及び三菱電機(株)によるプレス発表資料)
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・高精度なデジタル地図の作成の効率化
準天頂衛星システムの利用によって、上述の MMS で使用する地図測量車両に搭載する位置
計測機器の簡素化が図られる。これにより、MMS 導入時のコスト削減が可能となり、観光案内
やナビゲーションにおいて不可欠な高精度なデジタル地図の容易な作成が期待できる。
・出入港・離着桟の効率化(船舶分野)
準天頂衛星システムの利用により、出入港・離着桟時にも必要な精度が得られることで、独自
の接岸速度計や DGPS を具備しない港においても安全な運行管理が可能となる。これにより、
入港可能な港湾数が広がり、よりフレキシブルな船舶による物流が期待できる。
また、自船の位置が高精度で測位可能になれば、大洋における海洋資源の正確な位置を把
握することもでき、メタンハイドレートをはじめ新たな資源の発見に寄与する可能性が高まる。
・農業機械の自動運転(農業分野)
準天頂衛星システムのセンチメートル級補強信号の利用により、農業機械を適切な速度で自
動運転させることが可能となり、農業の省力化や自動化が期待できる。
農業機械の自動運転によって、農業の大規模化への対応ばかりではなく、霧などの悪環境下
や夜間においても農作業を実施でき、環境に左右されない農耕作業が期待できる。これらにより、
若年層の農業就業率の改善や高齢化が進む農業従事者の負担減への貢献も期待できる。また、
農作業の効率化が進めば、農業市場の拡大、さらには、食料自給率の改善も期待できる。
【第 6 回 ICG 会合テクニカルツアーにおけるトラクター自動走行の実証デモ】
準天頂衛星初号機「みちびき」からのセンチメートル級 LEX 補強信号
を受け(LEX 受信機+低速移動体端末)、トラクターの自動走行を実施。
(出典:第 4 回準天頂衛星を利用した新産業創出研究会資料)
・都市計画等への応用
政府や地方自治体は、よりよい街づくりを進めていく上で都市計画等の策定を行っている。こ
のために、人流・交通流の実績把握は非常に重要である。
準天頂衛星システムを活用することにより、携帯電話の位置情報や自動車のプローブ情報を
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リアルタイムに収集して解析し、人々の流れや自動車等の交通流を高精度かつ時系列に把握
することが可能となる。このようにして得られた情報を分析し、都市計画等への応用を図ることに
より、過剰な人口集中の抑制、公共サービスの向上、犯罪防止等の効果が期待できる。
【高精度なプローブ情報の把握】
(出典:一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)資料)
第 9 節 横断的な課題
以下に、分野横断的な課題をまとめた。
・準天頂衛星システムの整備に関する計画の明示 (全分野)
サブメートル級・センチメートル級の精度が得られる補強測位が、いつごろからどのような条
件・環境下で使用可能になるかなどの全体の整備計画を国内外へ明示することで、早期から各
産業界・各企業において、準天頂衛星システム導入のための投資が進み、市場の拡大が促進
されると考えられる。また、受信機の開発も、全体の計画が明確になり、仕様が明示されること
などによって、国産受信機メーカによる開発が期待される。
しかし、スケジュールやサービス内容が未定であると、利用側における導入に関する事前の
検討や投資の決定に向けた動きが遅くなり、他国の測位衛星システムの利用等による機会損失
を生む可能性が高い。特に、前述したとおり、アジア・オセアニア 地域においては、中国の
Compass のサービスエリアと準天頂衛星システムのサービスエリアが重複する地域が多く、中
国政府は 2012 年に Compass のサービス開始を宣言していることから、準天頂衛星システムに
関して、早期の整備計画策定と迅速な実施が求められる。
・高精度な測位に対応した地図の整備 (全分野)
位置情報はいわば碁石であり、それがどこかを表現するためには、碁盤となる地図が必要に
なる。なお、地図の整備に関しては、単に高精度化を図るというだけでなく、利用分野毎にどの
ような整備を行うかも検討する必要がある。
例えば、カーナビゲーションシステムの地図においては、道路の表現は一般的に「上り、下り」
等に留まっているが、準天頂衛星システムの利用により、車線や歩道における位置を把握でき
る環境が整うため、それに対応した高精度な地図の整備が必要となる可能性が高く、また、一時
停止箇所や横断歩道等の情報の電子化等の作業も必要かどうか検討を行う必要がある。
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・シームレスな屋外測位と屋内測位の実現 (情報提供サービス分野・物流分野)
人々が行動する空間では、屋外と並んで屋内における位置情報の把握も重要である。例えば、
情報提供サービス分野においては地下街や大規模商業施設内における人のナビゲーション、
物流分野においては地下の駐車場やビルの中における荷物のトレースといったニーズがある。
また、屋外と屋内を行き来することを想定すれば、シームレスな受信信号の切替及び信号捕捉
に要する時間の短縮化を実現させる必要がある。
現状の測位衛星システムでは、屋内に入った場合に衛星からの信号が届かないため、測位
を行うことができない。屋内測位を実現する技術にはいくつかの選択肢(*)があるが、測位衛星
システムとともに利用するためには、現状では、それぞれの受信機を併せ持つ必要があるなど、
利便性に欠ける。
したがって、屋内測位を実現するための屋内空間のデジタルマップ化とともにシームレスな切
替の実現、測位衛星システムと屋内測位システムについてのそれぞれの受信機のワンチップ化
を図ることなどが必要となる。
*:無線 LAN 基地局が持つ Mac アドレスから距離を計算する「Wi-Fi 測位」や、周波数と変調方式が GPS
信号と互換である信号を発信する専用の装置を屋内に設置することで屋内でも測位することができ
るようにする「IMES(IMES:Indoor Messaging System)」などがある。
【IMES による屋内測位のイメージ】
(出典:地理空間情報産学官連携協議会・共通的な基盤技術に関する研究開発 WG 資料)
・準天頂衛星システムからの測位信号の保証を行う機関の設置 (全分野)
準天頂衛星システムを利用してサービスを提供する業者にとっては、その送信される信号が常
に正しいことを前提にサービスを構築しているため、性能务化時には、大きな問題となることが
予想される。これには、例えば、上述した悪意のあるジャミングやスプーフィングの場合もあれば、
軌道修正やメンテナンス等の衛星システム側の事情によることもある。したがって、準天頂衛星
システムからの測位信号の品質保証と併せて、そのような場合にサービス提供事業者等への対
応を行う機関が必要となる。
また、簡易メッセージ送信機能や双方向通信機能については、前述した技術的な検討の他、
実際に運用を行う事業実施機関の選定も重要な課題となる。
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・規格化による精度・安全性・信頼性の保証 (自動車分野・鉄道分野)
準天頂衛星システムの補強機能により、交通インフラにおける管制システム等への衛星測位
の利用が期待できるが、SoL(Safety of Life)と言われる「人命の安全」に直結するこれらのシス
テムへの利用に当たっては、その精度・安全性・信頼性について高度な保証が求められる。
例えば、航空分野では、ICAO により、国際標準として衛星航法システムの性能が規定されて
いる。また、システムの安全性・信頼性の評価を行う手法を規格化した「RAMS」と呼ばれる IEC
(国際電気標準会議)の国際規格(IEC 62278)が制定されている。この規格は鉄道分野で適用
することを念頭において欧州規格(EN 50126)を発展させたものである。さらに、自動車分野にお
いては、Safety Application に関し、規格化による精度・安全性・信頼性の保証への動きが北米
を中心に進展している。
なお、既に衛星による航空管制を導入している航空分野と異なり、鉄道分野や自動車分野に
おける衛星測位は、車両が地上を走行することによる地形や建造物の影響、マルチパスやサイ
クルスリップの影響等を受けるため、各分野において個別の検討が必要となる。
したがって、各分野において、他国の動きも参考にしつつ、どのような手法によって、システム
の精度・安全性・信頼性を評価するのかという規格の制定が必要である。
【鉄道における衛星測位の問題点】
(出典:第 5 回準天頂衛星を利用した新産業創出研究会資料)
※準天頂衛星の高仰角性により、天頂方向に視界が開けている場所の捕捉衛星数の増加は期待できるが、トン
ネル・橋梁下・地下・駅構内等の捕捉困難な場所もあるため、衛星以外の測位方法や受信機による補正等を
組み合わせて、対応を図る必要がある。
・規格認証を行うスキームの検討 (自動車分野・鉄道分野)
上述した規格を制定した際には、その規格への適合性を「誰が」「どのように」認証するかも担
保されていなければならない。例えば、航空分野においては、ICAO による国際標準規格への対
応について、サービスの提供者(各国の航空当局)がシステムを認証しており、これは世界的に
共通のスキームとなっている。
したがって、今後、各分野における規格の制定を行う際には、将来的な運用を見据え、国際的
な連携も視野に入れつつ、どのようなスキームで認証を行うかについても検討する必要がある。
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・補強情報の提供のあり方 (全分野)
GPS の測位精度を高精度化するサービスでは、MSAS による航空機向けのサブメートル級補
強情報の提供が無償で行われており、航空機ユーザ以外にも利用されている。
一般的に、無償化することによってその利用の拡大が促進されると考えられるため、国内外
の情勢を踏まえつつ、そのあり方について、慎重な検討が必要である。
・プライバシーの保護(情報提供サービス分野・物流分野)
マーケティング等において価値があると思われる個人の行動履歴や位置情報、物流における
トレース情報等は、その利用について個々人の受容性に差異がある場合もある。したがって、そ
の取扱いについては、プライバシーの保護の観点からも検討を行う必要がある。
・準天頂衛星システムに対応した受信機の開発(全分野)
準天頂衛星システムの実用化のためには、衛星側のシステム構築とともに受信機の開発も必
須である。ただし、受信機の開発についてはその利用に応じて解決すべき課題が異なることを認
識するとともに、例えば、現在 GPS を使っている機器を準天頂衛星システムに対応させるために、
なるべくユーザ側の負担が小さい形で移行できるような仕組みも考えていく必要がある。
特に、自動車・鉄道・航空等の SoL に関わる分野については、前述した精度・安全性・信頼性
の保証が必要となり、受信機に対しても非常に高度な要求がなされるため、RAIM(Receiver
Autonomous Integrity Monitoring)といわれる受信機で信号の精度や信頼度等を上げる仕組み
を構築するなどの検討が必要となる。
また、航空分野においては、ICAO による標準規格を満たすとともに、米国の FAA(連邦航空
局)が定める規格を満たす必要があるなど、分野特有の課題も存在する。
さらに、受信機の国産化という観点からは、現在、国産受信機の多くは一周波対応であるが、
測位誤差の低減には二周波対応が有用であるため、国産受信機のシェア拡大のためには、二
周波対応受信機の開発を進める必要がある。
28
第 10 節 第 3 章の整理
本章において検討を行なった、準天頂衛星システムを利用することによって新たに見込まれる
サービスや、それを実現するための課題について整理した。これらに関して、解決に向かう道筋を
どのように立てていくかについては、第 5 章で検討する。
【準天頂衛星システムの利用によるサービスの可能性と課題】
分野
高度化
新
サービス
基盤的な
課題
運営に
関する
課題
情報提供
サービス
・広告配信の多
様化・高度化
・観光案内情報
の提供サービ
スの高度化
建設・測量
・情報化施工の
拡大
自動車
鉄道
物流
航空
防災・救難
その他
・カーナビゲーションシス
テムの高度化
・運転操作支援
の高度化
・配送サービス及び
運行管理の高度
化
・モータープールの
管理の高度化
・空港内にお
ける地上走
行車両のナ
ビゲーション
の高度化
・津波情報の高
度化
・より高精度な
モニタリングへ
の利用
・利用可能時間率・利
用可能エリアの改善
(共通)
・高精度なデジタル地
図の作成の効率化
・事故のないモビリティー
社会の実現
・隊列走行・自動運転等
の実現
・ロードプライシングへの
応用
・リアルタイムな渋滞情
報等の取得によるナビ
ゲーションの実現
・列車走行制御
への利用
・踏切制御への
利用
・商流と物流の位
置情報による連携
の実現
・垂直誘導を
伴う着陸進
入の実現
・災害時の情報
提供や安否確
認への活用
・出入港・離着桟の効
率化(船舶)
・農業機械の自動運
転(農業)
・都市計画等への応
用
・準天頂衛星システムの整備に関する計画の明示(全分野)
・高精度な測位に対応した地図の整備(全分野)
・準天頂衛星システムからの測位信号の保証を行う機関の設置(全分野)
・規格認証を行うスキームの検討(自動車分野・鉄道分野)
・補強情報の提供のあり方(全分野)
制度上の
課題
・ジャミングやスプーフィング等の意図的な妨害への対策(情報提供サービス分野)
・プライバシーの保護(情報提供サービス分野・物流分野)
・公共測量への適用(建設・測量分野)
技術的な
課題
・準天頂衛星システムに対応したチップの携帯電話等への搭載(情報提供サービス分野)
・簡易メッセージ送信機能及び双方向通信機能の携帯電話への搭載(防災・救難分野)
・シームレスな屋外測位と屋内測位の実現(情報提供サービス分野・物流分野)
・準天頂衛星システムに対応した受信機の開発(全分野)
・車車間通信や路車間通信等における通信手段等の検討(自動車分野)
標準化に
係る
課題
・ICAO 標準への準天頂衛星システムの対応(航空分野)
・規格化による精度・安全性・信頼性の保証(自動車分野・鉄道分野)
29
【参考:準天頂衛星システムの利用によるサービスの高度化の実証例】
~高精度測位と IMES による屋内測位を連携させた観光案内の実証実験~
第 3 章においては、準天頂衛星システムの活用により、既存サービスがどのように高度化され、また、どのような新
サービスが創出されるかという観点から検討を行ってきたが、ここでは、その実現に向けた実証例の一つを紹介する。
2010 年 9 月 11 日に打ち上げられた準天頂衛星初号機「みちびき」による利用実証は、(財)衛星測位利用推進セン
ター(SPAC)を中心に実施されているが、その一つとして「みちびき」からの補強信号を利用した高精度測位によるサ
ービスの向上、IMES との連携による屋外・屋内シームレス測位の実証も実施されている。
以下に示す内容は、2011 年 10 月、北海道の網走監獄博物館において実施された実証実験(オホーツクみちびきプ
ロジェクト)のものである。
【オホーツクみちびきプロジェクトの概要】
この実験では、「GPS 単独測位」、
「「みちびき」の L1-SAIF 信号を用いた
サブメートル級測位」、「IMES を用いた
測位」が可能な受信機とスマートフォン
端末を用いて、園内に設置した 20 箇所
のポイントを探索するスタンプラリーを
行った。本実証については、今後、解
決すべき課題も残ったものの、概ね良
好な結果が得られた。
特に、共通のスタンプスポットでのス
タンプ取得率は、「みちびき」の
L1-SAIF 信号を用いた場合は、GPS 単
独測位の場合に比較して大きく向上し
た。測位精度の向上がスタンプ取得率
に反映されており、意図する場所に利
用者を誘導できる可能性が高まったと
いえる。
なお、実証実験の詳細については、
第 5 回研究会における資料 2 を参照。
(*)第 5 回準天頂衛星を利用した新産
業創出研究会
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai
/seisan/juntenchoueisei/005_haifu.html
30
第 4 章 準天頂衛星システムを利用した産業の海外展開の可能性と課題
第 3 章においては、準天頂衛星システムを利用した場合に、既存サービスがどのように高度化
され、また、どのような新しいサービスが提供されるかを検討し、課題の抽出を行った。
準天頂衛星システムは、そのコンセプトから日本における測位機能の高度化を目的に構築され
たものではあるが、以下に示すようにアジア・オセアニア地域もサービスエリアとしてカバーする。
本章においては、準天頂衛星システムを日本のみならず、アジア・オセアニア地域へ展開する
意義、また、その際には、どのような利用が考えられるかを検討した。
さらに、各国の測位衛星システムに関するニーズを整理した上で、アジア・オセアニア地域への
展開に向けての課題を洗い出し、第 5 章における戦略の検討の材料とした。
【準天頂衛星システムにおけるアジア・オセアニア地域のサービスエリア】
(出典:第 2 回準天頂衛星を利用した新産業創出研究会資料(準天頂衛星開発利用検討 WG 資料))
※将来的な 7 機体制のシステムを「準天頂衛星 4 機+静止衛星 3 機」の組み合わせで構築した場合の DOP(Dilution of
Precision)の分布シミュレーション。DOP とは、精度低下率のことで値が小さい(図中では濃い青)ほど精度が良い。な
お、測位衛星システムとしての性能については、シミュレーションを行った DOP 以外にも、仰角(対象地点から見た衛
星と地表面が成す角度)の問題やメンテナンス時の精度务化等を考慮する必要がある。
第 1 節 準天頂衛星システムをアジア・オセアニア地域へ展開する意義
準天頂衛星システムがもたらす効果として、その利用による経済拡大効果を検証する。
ここで、(財)衛星測位利用推進センター(SPAC)が 2011 年に実施した調査によれば、わが国に
おける、経済拡大効果は以下のとおりである。
【わが国における準天頂衛星システムがもたらす経済拡大効果(2020 年予測)】
(単位:億円)
日本
①地図・高精度測位
②IT農業
③IT施工・土木/鉱山
23
931
1,809
④海洋利用・船舶
⑤安心・安全/犯罪防止
⑥自動車・高密度都市
23
475
4,527
⑦位置情報サービス
⑧携帯端末市場
合計
673
5,442
13,903
わが国では、2020 年における準天頂衛星システムがもたらす経済効果として、1 兆 4,000 億円
近い効果があると推測されている。特に、カーナビゲーションシステム等を中心とした自動車・高
密度都市関連市場や携帯端末市場の牽引効果が大きいと期待されている。
また、同調査によれば、アジア・オセアニア地域の国々においては以下のとおりである。
31
【各国における準天頂衛星システムがもたらす経済拡大効果(2020 年予測)】
(単位:億円)
韓国
①地図・高精度測位
シンガポー
インドネシア
ル
台湾
タイ
フィリピン
マレーシア
ヴェトナム
ミャンマー
オーストラリ ニュージー
ア
ランド
合計
6
2
9
1
2
2
2
1
0
6
1
33
②IT農業
451
95
1,707
2
446
491
416
466
425
421
114
5,032
③IT施工・土木/鉱山
342
133
64
62
71
27
63
23
30
509
79
1,404
15
3
26
14
4
10
7
8
1
3
20
112
⑤安心・安全/犯罪防止
153
68
183
8
52
19
133
17
9
129
29
801
⑥自動車・高密度都市
761
329
389
36
135
38
288
35
13
614
132
2,769
④海洋利用・船舶
⑦位置情報サービス
138
59
69
40
50
20
26
9
2
150
15
579
⑧携帯端末市場
1,283
796
4,529
212
2,404
2,223
1,168
1,487
16
713
150
14,980
合計
3,150
1,485
6,975
375
3,164
2,830
2,104
2,046
496
2,545
539
25,710
この試算では、中国等が含まれていないが、調査対象とした国々全体で 2 兆 5,000 億円を超え
るとの試算がなされている。また、各国、関連産業ごとに経済拡大効果の大小があるが、携帯端
末市場においては総額で約 1 兆 5,000 億円と爆発的な需要の拡大が見込まれている。わが国と
異なる特徴としては、IT 農業への波及効果が高く、約 5,000 億円と見込まれており、センチメートル
級補強を有する準天頂衛星システムへの期待は大きい。
以上から、日本のみならず、アジア・オセアニア地域への展開も図ることで、格段に大きな経済
拡大効果が見込まれる。
ただし、第 2 章においても記述したとおり、現在、中国が Compass の整備を加速化させており、
これらの市場を先に奪われてしまう可能性があることから、わが国も早期に準天頂衛星システム
の整備を進めていく必要がある。
【アジア・オセアニア地域における可視衛星数(2020 年予測)】
(出典:第 2 回準天頂衛星を利用した新産業創出研究会資料(第 9 回衛星測位と地理空間情報フォーラム・JAXA 資料))
※各国の測位衛星システムが整備された場合の可視衛星数のシミュレーション。アジア・
オセアニア地域は世界でいち早く、マルチ GNSS の利益を享受できる地域。
なお、これらの経済効果については、今後も継続的に調査を実施し、精査する必要がある。
また、測位衛星システムの利用については、以下に示すようなバリューチェーンが想定される。
海外へのアプリケーションの展開と並行して、国内においてアッパーストリームからダウンストリー
ムまでを市場単位で分析し、そのボトルネックの検討・改善を図っていく必要がある。
【測位衛星システムの利用におけるバリューチェーンのイメージ】
(出典:第 1 回準天頂衛星を利用した新産業創出研究会資料より事務局作成)
32
第 2 節 準天頂衛星システムを利用した分野別産業の海外展開の可能性
本節においては、第 3 章で検討を行ったそれぞれの分野において、アジア・オセアニア地域にお
ける特有の事情等を鑑み、準天頂衛星システムの展開の可能性及びその課題について、検討を
行った。
(1)情報提供サービス分野
総務省が公開している世界情報通信事情によれば、アジア・オセアニア地域の主要国のほと
んどの国民が携帯電話を所有している。
このことから、日本と同様にアジア・オセアニア地域においても、位置情報と携帯電話を利用し
た観光案内等の情報提供サービスを活用する下地が整っていると考えられる。
*:世界情報通信事情によると、アジア・オセアニア地域の主要国における携帯電話普及率(2009 年)
は、シンガポール(140%)、タイ(123%)、台湾(117%)、オーストラリア(114%)、マレーシア(111%)、ニ
ュージーランド(110%)、韓国(99%)となっている。
・位置情報サービスの高度化
アジア・オセアニア地域においても、準天頂衛星システムの補完機能による GPS の利用可能
エリアや利用可能時間の改善、補強機能による高精度な測位の実現が図られる。これらにより、
ナビゲーションサービスをはじめ、ソーシャルサービスや位置ゲーム等の多様なサービスの展開
が期待できる。
したがって、これらのサービスを提供するわが国事業者にとっても、アジア・オセアニア地域に
おける準天頂衛星システムによる測位機能の改善は、大きな意味をもつこととなる。
・準天頂衛星システム対応の携帯電話の普及
日本の場合、携帯電話における端末の採用については、これまで通信キャリアの意向に左右
されていた。しかし、多機能型携帯電話などとも分類されるスマートフォンにおいては、端末メー
カが開発したものが業界標準として採用されている。
したがって、スマートフォンが搭載する測位機能を準天頂衛星システムに対応させることが可
能となれば、今後、全世界において急速に拡大が見込まれるスマートフォン市場とともに、準天
頂衛星システムの利用の拡大も期待できる。
(2)建設・測量分野
日本の建設業の海外活動は、高度な技術力と施工能力をもってアジアを中心に世界的に展
開されている。近年では、日系企業からの受注、ODA 案件の受注だけでなく、シンガポール、台
湾、香港などで、橋梁、地下鉄、トンネル、埋立等の大型土木工事や高層建築工事を現地政府
等から数多く受注している。
このような状況の中、準天頂衛星システムの利用により、以下のような効果が期待できる。
・大規模鉱山における測位不能な時間帯・場所の解消
インドネシアやオーストラリアにおいては、大規模鉱山が数多く存在する。大規模鉱山におい
ては、露天掘りという手法によって採掘が行われるが、掘削した位置と深さ、剥離表土の厚さを
衛星測位による位置情報によって把握している。しかし、アリの巣状に中央を深堀するため、そ
の最深部はディープスポットと呼ばれ、測位衛星の可視範囲が上空の狭い領域、特に高仰角の
領域に限定され、受信可能な測位衛星数が尐なくなってしまう問題が発生している。
準天頂衛星システムの補完機能により、これらの状況の改善が見込まれ、資源探査・開発等
における衛星測位の利用の拡大が期待できる。
33
【鉱山の最深部における衛星測位のイメージ】
(出典:第1回準天頂衛星を利用した新産業創出研究会資料)
・建設機械の自動運転の利用の拡大
世界的な鉱山労働者の賃金の高騰及び都市部から離れた不便な場所にあることによる鉱山
町の物価上昇などから、鉱山における現地労働者に係る人件費が高くなるケースがあるため、
衛星測位による位置情報等を利用して、ダンプの自動運転を行っている例がある。
準天頂衛星システムの補強機能を利用することによって、高精度測位及び通信システムの効
率化等が図られ、さらなる価格の低下や導入制約の低減が可能となる。これにより、アジア・オ
セアニア地域における建設機械の自動運転の利用の拡大が期待できる。
・情報化施工による建設/土木工事の効率化
RTK-GPS は情報化施工等に使われる高精度測位の一つの手段であるが、第 3 章において
示したように使用できない場合も多く存在する。準天頂衛星システムによる補完・補強機能の利
用により、高精度な測位が広い地域で可能となるため、多くの建設/土木工事現場における情報
化施工の実現が期待できる。
また、わが国は、海外へのインフラ輸出を展開しているが、鉄道・高速道路・水道等のインフラ
整備では、共通して、基盤となる地図の作成や土木工事が必要となる。準天頂衛星システムの
利用によって、地図作成の効率化や情報化施工による土木工事の低価格化・工数の削減が実
現できれば、これらをパッケージとして売り込むことで、競争上優位に立つことも期待できる。
・建設機械の位置・エンジン等の遠隔監視による運用管理の効率化
建設機械産業では、海外市場での競争力向上対策として、建設機械の位置やエンジン等の
遠隔監視による運用管理サービスの提供等を行うことによって、差別化を図っている例がある。
また、レンタル利用等においては、建設機械等の位置を把握することによって、盗難やローン未
払いの抑止力となる場合もあり、建設機械等に積極的に GPS を組み込む動きがある。
準天頂衛星システムの補完・補強機能を利用することにより、管理可能時間や管理可能地域
が拡大すると同時に追跡精度も向上し、精密な位置把握が可能になる。このため、従来のサー
ビスと差別化を図ることが可能となり、アジア・オセアニア地域におけるわが国建設機械産業の
運用管理サービスの優位性拡大が期待できる。
(3)自動車分野
アジア諸国における自動車の生産は、日本や欧米の自動車メーカとの技術提携により、モー
タリゼーションの進展とともに急速に増加している。
他方、例えば、ジャカルタ(インドネシア)では、同国運輸省の試算によると、渋滞による経済
損失は年間 5 兆 5,000 億ルピア(約 495 億円)に達するほど深刻で、渋滞緩和に向けた交通イン
フラの整備は喫緊の課題になっている。
自動車市場の拡大に合わせたサービスの向上や環境改善において、準天頂衛星システムの
利用により、以下のような効果が期待できる。
34
・高精度なカーナビゲーションシステムの普及、利用の拡大
世界の自動車市場は以下に示すように先進国を中心に需要が縮小傾向にある一方、新興国
においては拡大傾向にある。
【グローバル自動車市場の推移】
2000 年
4,200 万台
1,300 万台
5,500 万台
先進国市場(日本、欧州、北米)
新興市場
合計
2008 年
3,700 万台
3,100 万台
6,800 万台
(出典:経済産業省 次世代自動車戦略研究会 次世代自動車戦略 2010)
自動車市場の拡大によって、補完財であるカーナビゲーションシステム市場の拡大も想定さ
れる。準天頂衛星システムによって、道路上のどの車線を走行しているかなどの詳細なナビゲ
ーションが可能となることから、モータリゼーション化が進むアジア・オセアニア地域におけるサ
ービスの拡大が期待できる。
また、カーナビゲーションシステム単体における利用の拡大を図るとともに、自動車の輸出に
合わせ、パッケージで売り込むことも期待できる。
・ロードプライシングへの応用
第 3 章において示したとおり、準天頂衛星システムの高精度な位置情報を利用することによっ
て、ゲート等を設置せずに、ロードプライシングを実施することが可能になる。
アジア・オセアニア地域においては、経済発展によって人口流入・人口集中が起きている都市
が増加しており、交通インフラが追いつかず、慢性的な渋滞が発生している地域も多いことから、
ロードプライシングによる交通量の調整効果が期待できる。また、対象区域を柔軟に設定するこ
とで、要人来訪時の警備や CO2 等の排出ガス対策など幅広い分野への応用も期待できる。
・プローブデータ等の位置情報の活用による渋滞解消、車両管理及び安全性の向上
アジア・オセアニア地域では、オーストラリアのように衛星測位技術の応用とともに路車間通
信等のインフラ整備を図り、ITS の導入を積極的に検討しているところがある。
準天頂衛星システムの利用により、高精度な位置情報を活用し、運転手へのリアルタイムな
渋滞情報の提供や渋滞を緩和するような信号の制御により、渋滞解消を図ることが可能となる。
これにより、燃料消費の改善や CO2 削減等に役立てることも期待できる。また、交通インフラの
整備とともに、バスロケーションサービスやタクシーの配車管理のニーズが高まってくることも想
定される。
さらに、走行車線の逆走検出や不適切な車線走行を検出し、運転手に警告することなどが可
能となり、安全性の向上が期待できる。
(4)鉄道分野
1996 年 11 月に、「汎アジア縦貫鉄道」が提唱されるなど、経済成長回廊の形成や環境問題へ
の対応の観点から、東南アジアでも高速鉄道の導入が検討されている。最近では、ベトナム、ラ
オス、タイにおいても高速鉄道の計画が検討されるなど、アジア・オセアニア地域における鉄道
へのニーズは大きい。
また、海外へのインフラ輸出という視点からは、わが国の高速鉄道技術は軽量・低騒音・車両
あたりの輸送人数が多いという機能面とともに、定時運行に優れるという運用面においても優位
性がある。
準天頂衛星システムの利用により、以下に掲げるサービスの実現が期待できるが、システム
単体のみならず、インフラ輸出における運用面とのパッケージ化の観点からも、アジア・オセアニ
ア地域への展開の意義は大きいと考えられる。
35
・運転操作支援や旅客サービス等の高度化
アジア・オセアニア地域でも、運転操作支援や旅客サービス等に測位衛星システムを利用し
ている例がある。
準天頂衛星システムの補完・補強機能を利用することにより、測位可能な時間・エリアが拡大
し、高精度の測位が可能となることから、安全性の向上・運行管理の効率化・利用者の利便性
の向上が図られる。測位衛星システムを利用した運転操作支援システムや旅客サービスは、列
車に受信機を搭載し、測位した位置情報をセンターシステムに通知する通信手段があればよく、
わが国のシステムのノウハウをパッケージ化して展開することが可能である。
・列車走行制御等への利用
わが国に比べてアジアの鉄道は、信号設備等のインフラの保守が十分行き届いているとは言
いがたい面がある。
また、第 3 章において示したように、わが国では GPS を利用した列車制御システムは実用化さ
れていないが、2007 年 7 月に正式運用を開始したチベット鉄道では、GPS を利用して信号表示
や列車の速度制御、ポイント制御等の列車制御を実施している例がある。
準天頂衛星システムの補完・補強機能により、高精度の位置情報が常時利用可能となれば、
列車制御等のシステムへのさらなる活用も考えられ、これらの地域の鉄道の安全に貢献すると
ともに、地上システムの効率化等、運用コストの削減にも寄与することが期待できる。
(5)物流分野
GII(グローバルインフォメーション)が発行している「南アジアおよび東南アジアの物流・速達
市場概要」によれば、南アジア及び東南アジアの物流市場は 2009 年に 2,400 億ドル規模となり、
さらに今後も高い成長率で市場が拡大すると見込まれている。
物流においては、陸送費が最大のネックであり、内陸出荷時の港湾選択の主要要因であるた
め、その効率化が必要になっていること、通関「待ち」時間・出荷待機・出荷前の輸出手続などの
位置や時間の管理が必要になっていることから、生産・流通の可視化による、より精密な物流網
の構築が検討・推進されている。
このような環境において、準天頂衛星システムの利用により、高精度な位置情報を取得でき
ることで、管理の効率化・精緻化や、品質の向上が期待できる。
・グローバルな物流の効率化とセキュリティの強化
わが国企業の生産活動はグローバル化が進んでおり、製造業における部品調達ルートは、
海外の業者から国内の工場へのルートだけではなく、海外の業者から海外の工場へのルートも
多く、その重要性を増してきている。また、第 3 章で述べたモータープールの管理の高度化のよ
うに、日本だけでなく、アジア・オセアニア地域の自動車生産工場や港湾設備においても活用が
期待できるケースもある。
また、準天頂衛星システムの利用により、通信インフラに依存することなく高精度に位置情報
が取得できることから、アジア・オセアニア地域における配送車両管理の高度化をもたらす。ま
た、常時正確な位置情報が把握できるため、物流の効率化及びセキュリティの強化に繋がり、
わが国の物流業界や生産活動の国際競争力の向上が期待できる。
さらに、わが国の LNG の輸入を見た場合、東南アジア及びオーストラリアからの輸入が全体
の 50%から 60%を占めており、その輸入量は増加傾向にある。船舶輸送において準天頂衛星シ
ステムの補強機能により、港湾の設備に左右されずに柔軟な航路設定が可能となれば、効率的
な輸送の実現が期待できる。
(6)航空分野
ICAO では、航空機の航法システムとして測位衛星システムの規格が制定され ている。
ABAS/SBAS については米国、欧州、日本で運用が開始されており、アジア・オセアニア地域に
おいても、ABAS/SBAS を含めた測位衛星システムの導入が進められている。また、航法システ
36
ムに限らず、空港内システムにおいても測位衛星システムの利用が開始されている。
準天頂衛星システムの利用については、以下のような展開が期待できる。
・測位衛星システムを利用した垂直誘導を伴う進入方式の展開
ICAO の 2010 年の総会において、計器着陸を行う全ての空港に対して 2016 年までに垂直誘
導を伴う着陸進入方式を適用することが採択された。
この決定に対応するためには、空港の滑走路両端に地上無線設備を整備するか、SBAS 等
の補強システムを利用した衛星測位による航法を行う必要がある。地上無線設備の場合は空
港毎に整備をする必要があるが、SBAS 等においてはサービス地域での共用が可能である。
準天頂衛星システムによる SBAS 準拠の補強機能を提供することにより、サービス空域の全
ての空港で垂直誘導を伴う着陸進入が可能となることから、リージョナルな社会インフラとしてア
ジア・オセアニア地域への貢献も期待できる。
・航空機の性能に応じた最適な航法による飛行時間の短縮、燃料消費量・CO2 排出の削減
ICAO では、航空機の航法性能に応じた性能準拠航法(PBN:Performance Based Navigation)
の導入を促進している。
準天頂衛星システムによる SBAS 準拠の補強機能によって、性能準拠航法が可能となれば、
航空機の間隔の短縮、効率的かつ安全な運航、飛行時間の短縮、燃料消費量・CO2 排出の削
減が期待できる。
また、ABAS においても、準天頂衛星システムの補完機能により同様の効果が期待できる。
・空港内における地上走行車両のナビゲーションへの活用
日本の空港と同様に、アジア・オセアニア地域の空港においても、空港施設の整備等におい
て、作業車両が目標物へ容易にアクセスすることが必要である。
準天頂衛星システムを利用した高精度測位による地上走行車両のナビゲーションの導入が
期待できる。
(7)防災・救難分野
第 3 節において各国のニーズを俯瞰するが、アジア・オセアニア地域は自然災害等による経
済損失が非常に大きい地域でもあり、防災への対応は国家的な喫緊の課題である。準天頂衛
星システムの活用により、以下のような効果が期待できる。
・防災システムへの活用
アジア・オセアニア地域は、地理的に自然災害が多い地域でもあり、噴火、地震、津波等に対
応する防災センターの整備に積極的に取り組んでいる。例えば、衛星測位を利用した地殻変動
の観測や津波監視用のブイの設置等が行われており、準天頂衛星システムによる高精度な測
位機能を活用することが期待できる。
また、アジア・オセアニア地域は、洪水被害も多く、警報システムの整備を検討している国も多
い。このような地域の防災システムにおいては、広域災害発生時に、簡易メッセージ送信機能に
よる緊急避難通報や双方向通信機能による安否確認・被災状況通報等の活用も期待できる。
(8)その他の分野
以上の 7 分野以外にも、アジア・オセアニア地域において、準天頂衛星システムの利用による
効果が期待できるサービス等がある。
・高精度な位置情報を活用した精密農業及び収穫量予測への活用
アジア・オセアニア地域では、オーストラリアのように農地や農産物の状態を観察し、投入する
肥料、農薬、水などの資材を決め、細かく管理するとともに、収穫量等の結果を分析して計画を
作成する精密農業(Precise Agriculture)を積極的に行っているところがある。
37
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