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マルツァーノ分類学

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マルツァーノ分類学
効果的なプロジェクトの設計: 思考スキルの構造
マルツァーノによる新分類学
マルツァーノによる新分類学
一流の教育研究者であるロバート・マルツァーノは、彼の呼ぶところの「教育目標の新分類学(2000年)」を提唱しました。幅広く普及
しているブルームの分類学の欠点と、標準準拠型の既存の指導に対処すべく作成されたマルツァーノの思考スキル構造には、生徒の思考
に影響を与えるより幅広い要素が組み込まれています。そして、教師が生徒の思考を伸ばすために役立つ、調査に基づいた理論を提供し
ています。
マルツァーノの「新分類学」は、考えたり学んだりするときの重要な要素である3つのシステムと「知識領域」で構成されています。3
つのシステムとは、「自己システム」、「メタ認知システム」、「認知システム」です。新たな課題に取り組むか否かの選択肢に直面し
たとき、「自己システム」によって新たな活動を始めるべきか既存の行動を継続すべきかを決定し、「メタ認知システム」によって目標
を設定してそれらがいかに達成されているかを把握し、「認知システム」によってすべての必要情報を処理し、「知識領域」によって実
際の活動内容がもたらされる、というしくみです。
3つのシステムと知識
自己システム
知識の重要性に対する確信
効果性に対する確信
知識に付随する感情
メタ認知システム
学習目標の特定
知識遂行の観察
明確性の観察
正確性の観察
認知システム
知識の想起
理解
分析
知識の活用
想起
遂行
統合
表示
適合
分類
エラー解析
一般化
具体化
意思決定
問題解決
実験的調査
調査研究
知識領域
情報
知的処理
身体的処理
教室での例
3年生のリビーが週末に参加する予定のパジャマ・パーティーのことを考えていたとき、算数の授業が始まりました。リビーの「自己シ
ステム」はパーティーのことを考えるのをやめて授業に取り組むことを決定しました。次に、「メタ認知システム」は、学習課題ができ
るように集中し、質問することを決定しました。そして、「認知システム」が、先生の指示を理解するための思考方法を与えてくれまし
た。さらに、算数の概念や処理に関する知識のおかげで、問題をうまく解くことができました。「新分類学」の各要素が、算数の授業で
リビーが概念やスキルを学ぶことに貢献したのです。
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効果的なプロジェクトの設計: 思考スキルの構造
マルツァーノによる新分類学
知識領域
従来、教育の多くは「知識」という要素に焦点をあててきました。生徒があるテーマに関して十分に思考するためには、事前にある一定
量以上の知識が必要であると考えられていたからです。しかし残念なことに、従来の授業において、指導が知識の積み重ね以上に及ぶこ
とは少なく、生徒の頭の中の書類棚にはひたすら知識が詰め込まれることとなり、さらにこういった詰め込みの記憶はテストが終わり次
第さっさと忘れられてしまうというのが実情でした。
知識は思考において必要不可欠な要素です。そのテーマに関して十分な情報を学んでいないということは、他のシステムが連動するため
の要素が不十分だということであり、学習プロセスを巧みに処理することができません。最新のテクノロジーを搭載した高性能車であっ
ても、完全に作動するためにはやはり燃料が必要です。知識とは、思考プロセスに動力を与えてくれる燃料なのです。
マルツァーノは、「情報」、[知的処理]、「身体的処理」という3つのカテゴリーに知識を分類しました。端的にいうと、知識における
情報とは「何を」であり、処理は「どのようにするか」にあたります。
情報
「情報」は、原理や一般概念、用語や事実といった詳細によって構成されます。原理や一般概念という要素は重要です。これにより概念
を分類できることで、より多くの情報をより楽に記憶することが可能となるからです。例えば、「アクバシュ」という言葉を耳にしたこ
とがなかったとしても、それが犬という動物であるということが一旦分かれば、それについて相当の事実を知っているということになる
のです。
知的処理
「知的処理」は、学期末レポートを書くといった複雑な処理から、生活の術・算法・単独のルールなどの単純なものまで広きに渡りま
す。生活の術には「地図を読む」といったことが相当し、特に遂行順序を問わない一連の行動から成ります。長除法を計算するといった
算法は、どのような場合も常に同じ厳密な順序に従うものです。英単語を大文字で書き始める、というような単独のルールは、それぞれ
の状況に応じて適用されるものです。
身体的処理
「身体的処理」を学習に折り込む度合いは、教科によって大きく異なります。例えば読書には、眼球の左右運動とページをめくるといっ
た程度の最小限の身体的処理しか必要とされません。一方、体育や職業教育には、テニスをしたり家具を作成したりといった広範囲かつ
高度な身体的処理を要します。効果的に身体的処理を行うための寄与因子には、体力、平衡感覚、手先の器用さ、全体的な動作スピード
などがあります。スポーツやコンピューター・ゲームのような、生徒達が普段娯楽として行っている行動には、洗練された身体的処理を
要するものが多々あります。
教室での例
指導要領のほとんどは、一つか二つの言葉による概念をもとにして構成されています。例えば、「三角形」という概念には、以下のよう
な情報要素が含まれます:
単語(情報):二等辺三角形、正三角形、直角三角形の斜辺
一般法則(情報):直角三角形には必ず90°の角がひとつある。
知的処理:証明を行い、直角三角形の辺の長さを割り出す。
身体的処理:コンパスと定規を使って三角形を描く。
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マルツァーノによる新分類学
認知システム
「認知システム」における知的プロセスは、知的領域から作用し始めます。これらの知的プロセスによって、ある情報へアクセスしてそ
れを記憶することができ、その知識の操作や活用が可能になります。マルツァーノは、「認知システム」を「知識の想起」、「理解」、
「分析」、「知識の活用」という4つのプロセスに分けました。それぞれのプロセスには、他のすべてのプロセスが必要となります。例
えば、「理解」には「知識の想起」が必要であり、「分析」には「理解」が必要、といったように連動するのです。
知識の想起
ブルーム分類学における知識の要素と同様に、「知識の想起」は、記憶していたことを思い出すことです。この時点での生徒の理解は、
記憶されていたままの状態で事実や結果や過程を呼び起こしているだけに過ぎません。
理解
より高度な段階である「理解」では、覚えておくべき重要な事柄が何であるかを認識し、それらを適切なカテゴリーに分類しなければな
りません。よって、理解の最初のスキルである「統合」に必要なのは、概念の最重要要素の認識と、非重要事項と無関係事項の削除であ
るといえます。例えば、ルイス・クラークの探検について学習している生徒であれば、探検隊が通った経路を覚えておいたほうが良いで
しょうが、携帯していた武器の数という情報は無用でしょう。もちろん、何が重要と見なされるかは学習内容によって変わるものなの
で、状況や生徒によって記憶している情報は異なるのが通常です。
「表示」のスキルを通して、情報はより取り出しやすく活用しやすいようにカテゴリー別に整理されます。この認知プロセスには、地図
や図表といったような図式的管理が有効です。また、自分の評価と他者の評価を比較するための「視覚順位表ツール(Visual Ranking
Tool)」(英語)、因果関係のマップを作成する「要因解明ツール(Seeing Reason Tool)」(英語)、十分な論拠をたてるための「証拠
提示ツール(Showing Evidence Tool)」(英語) なども表示の知識に役立つ思考ツールです。
分析
「分析」は理解よりも複雑であり、「適合」、「分類」、「エラー解析」、「一般化」、「具体化」という5つのプロセスがあります。
これらのプロセスを取り入れることで、学習していることを活用して新たな洞察を生み出したり、すでに学習したことを新たな状況で活
用したりする方法を見出すことが可能となります。
知識の活用
認知プロセスの最後の段階は「知識の活用」です。知識の活用には特定の課題を達成したいときに使うプロセスが含まれるため、特にプ
ロジェクト型の学習において重要な要素であるといえます。
「意思決定」という認知プロセスでは、適切な行動方針を見極めるための選択肢の比較を行います。
「問題解決」は目標達成への経過において障害に出くわした際に必要となります。このプロセスに準ずるスキルとして、問題の認識や分
析などがあります。
「実験的調査」には、物理現象または心理現象に関する仮説をたて、実験を行い、結果を分析するというプロセスがあります。例えば3
年生の児童がインゲンマメの実験を計画し、成長のための理想的な状況を分析しているのであれば、彼らは実験的調査を行っているとい
えるでしょう。このプロジェクトに関する詳しい情報は、単元プラン「The Great Bean Race」(英語) をご覧ください。
「調査研究」は「実験的調査」に似ていますが、これには過去・現在・未来の出来事が含まれます。「実験的調査」は、統計的分析に基
づく証拠を要するというルールがありますが、一方「調査研究」には論理的根拠を要します。「実験的調査」では、現象の直接的な観測
及び記録を行いますが、「調査研究」で使用する情報は比較的間接的なもので、文書や演説、または研究を通して学んだ、人の作品や意
見を使って行います。物理を学ぶ高校生が、現代の物理的議題に関して研究し、特定の研究に資金提供してくれるよう学習したことを説
いて議員を説得しているのであれば、その高校生は「調査研究」スキルを行使しているのです。このプロジェクトに関する詳しい情報
は、単元プラン「Help Wanted! Physicist」(英語) をご覧ください。
メタ認知システム
「メタ認知システム」は思考過程の「管制塔」の役割を持ち、また同時に他のすべてのシステムの管理も行います。このシステムによっ
て、目標を定め、その目標に必要な情報が何か、適した認知過程はどのようなものか、を判断します。次に、プロセスを観察し、必要が
あれば修正を施します。例えば、様々な石に関するバーチャル美術館を作成しようとしている中学生がまず設定する目標は、そのウェブ
サイトには何を載せ、どのような外観にするか、ということでしょう。次に、このウェブページを作成するために、自分が知るべきこと
を見出す方策を選択します。それらの方策を導入した後、それらの作動状況や変化状況、また、課題達成のための自分自身の作業状況の
修正などを観察します。
メタ認知に関する、とりわけ読み書きや計算においての研究によると、思考プロセスの管理や統制に指導や補助を行った場合、達成度に
大きな影響があった、ということが証明されています。(パリ、ワーシック、ターナー、1991年;ショーンフェルド、1992年)
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マルツァーノによる新分類学
自己システム
教師であればだれもが知っているとおり、たとえ認知の方策を用いた指導を行い、生徒にメタ認知のスキルがあったとしても、必ずしも
生徒の学習に十分であるとはいえません。一方で、難しすぎると思われていた学習課題を生徒がやり遂げて嬉しい驚きを得ることもよく
あります。このような状況が発生するのは、すべての学習の根底には「自己システム」が存在するからです。このシステムは、課題を達
成したいという個人のモチベーションを決定する、態度、信念、感情などで構成されるものです。モチベーションに寄与する要因には、
「重要性」、「効果性」、「感情」があります。
重要性
生徒が学習課題に直面したとき、最初に、自分にとってその課題がいかに重要かを判断します。学習したい、もしくは学習すべきだと確
信できるか、または、すでに決定している目標達成に有益な学習かどうか、を自問自答します。
効果性
社会的学習理論の発案者であるアルバート・バンデューラ(1994年)によると、「効果性」は課題達成能力に対しての自己確信に関係し
ます。高い「自己効力感」(バンデューラの提唱した、目標達成能力が自分にはあるという感覚)を有する生徒は、成功するための素質
が自分にはある、という確信とともに、難易度の高い課題にも真っ向から立ち向かいます。このような生徒は、課題に真剣に取り組み、
最後までやり遂げ、難関を乗り越えることができます。
バンデューラは生徒が自己効力感を伸ばすための方法をいくつか提唱しています。もっとも有力な方法は、成功を経験することです。そ
の成功体験への過程は、難しすぎても簡単すぎてもいけません。失敗の繰り返しは自己効力感を減少させますが、あまりにも簡単な課題
を成功させたとしても、難しい課題をやり遂げるために必要な忍耐力の育成にはつながらないものです。
感情
学習経験に関連する感情は、生徒自身がコントロールすることはできないものですが、こういった感情はモチベーションを大きく左右す
るものです。有能な学習者は、肯定的な感情反応は有効に利用し、否定的な感情反応にもメタ認知のスキルを用いることでうまく対処し
ます。例えば、専門資料を読むのは苦手だと否定的感情を抱いている有能な生徒がいるとします。その生徒は、化学の教科書を読まなけ
ればならないのであれば、就寝直前に読むのではなく、最も頭が働いている時間帯にやろう、と決めることができるのです。
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マルツァーノによる新分類学
マルツァーノの新分類学を活用している授業
小学校の例
ロニーは4年生で、プロジェクト型の単元「From Sea to Sea」(英語) を学んでいます。この単元では、自分達の地域の町を課題にあ
げ、商業・貿易の中心地としてのさまざまな重要性を検討します。ロニーは非常に意欲的で、この活動に対する感情的反応は肯定的でし
た。彼は、一般に学校で行われているような課題はあまり大切だと思っていなかったのですが、好奇心旺盛で、いつも学習対象の中に何
か興味深いものを見出しおり、学習者としての自信に溢れ、与えられた課題を達成するための能力を高く自己評価していました。必ずし
も毎回最後までやり遂げていたわけではありませんでしたが。
ロニーが怠惰的だったということではではないのですが、物事を計画どおり進めることをせず、いつもあちらからこちらへと関心が移り
変わっていたのです。担任の先生は生徒全員をよく知っていたため、ロニーの自己効力感を高めるために別途時間を取る必要はない、と
考えました。また、その担任は、ロニーならプロジェクト完成のために必要な認知の方策をすぐに学ぶことができる、と確信していまし
た。ロニーに助けが必要だったのは、感情反応とメタ認知の分野でした。プロジェクトには選択肢があり、ロニーは地元の産業に関心を
持ったため、担任はそれを課題に選ぶよう促しました。ロニーはバイクにとても興味を持っていました。そのため、バイク関連のビジネ
スを研究するようすすめました。加えて、メタ認知の能力を伸ばすことができるよう、達成すべき事柄のチェックリストと熟考するため
の時間を与えました。
ロニーがメタ認知の能力を伸ばせるよう協力し、興味を満たしてくれるプロジェクトを与えることによって、この担任はロニーが学習内
容を熟慮できる環境を作り、同時に、ロニーが人生を通して活用することのできるスキルや方策を形成できるよう手助けしたのです。
高校の例
ジェシカは、野球における数理統計を研究するプロジェクト型の単元「Play Ball」(英語) で活動しています。実はジェシカは国語や世界
史といった人文学が好きで、野球にはまったく関心がありません。ですが、幼少期からジャーナリストになりたいと心に決めており、ま
た、優れたジャーナリズムの学科がある私立大学に入学したいと思っていたため、数学の授業にはあまり興味はありませんでしたが、目
標達成のためにはきちんと学んでおかなくてはならないと考えていたのです。
ジェシカは、成績優秀でしたが、数学の成績はライティングほど良くなかったため、自分や周囲を失望させるのではないかという恐れか
ら、このプロジェクトに傾倒しすぎることには抵抗がありました。このことに気付いていた担任は、あなたには必要なスキルや知識が備
わっている、と絶えず励ましました。ジェシカの「自己システム」が学習のためのモチベーションを生み出したとき、他のシステムによ
る学習過程が始動するからです。
ジェシカは、まず基本的な単語の定義から学びはじめました。単元を通じて、担任は、3つのシステムをもとに、ジェシカの学習に役立つ
指示を与えました。例えば、選手の統計を比較するよう指示することで「適合」の手本を示し、ある程度プロジェクトが進行したところ
で、野球について掘り下げて研究する1テーマを選択するように指示することで、「意思決定」を促したのです。
メタ認知を促進するために、プロジェクトの要点について少人数グループで熟考する時間を与え、ジェシカには作業進度を日誌につけさ
せました。担任教師は、知識領域のみならず他のすべてのシステムにも注意を向けることによって、ジェシカが数学における高度な思考
スキルを育成し、学習したことを新たな状況にも取り入れる可能性を大いに高めました。
参照文献
Bandura, A. (1994年). Self-efficacy. www.emory.edu/EDUCATION/mfp/BanEncy.html*(英語)
Marzano, R. J. (2000年). Designing a new taxonomy of educational objectives. Thousand Oaks, CA: Corwin Press.
Paris, S.G., Wasik, B.A., & Turner, J.C. (1991年). The development of strategic readers. In R. Barr, M. L. Kamil, P.
Mosenthal, & P. D. Pearson, (Eds.), Handbook of reading research, vol. 2, (pp. 609-640). New York: Longman.
Schoenfeld, A. (1992年). Learning to think mathematically: problem solving, metacognition, and sense making in
mathematics. In D. A. Grows (Ed.). Handbook of research on mathematics teaching and learning, (pp. 334-370). New
York: Macmillan.
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