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不動産の鑑定評価に関する理論・問題と解説

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不動産の鑑定評価に関する理論・問題と解説
平成 28 年不動産鑑定士試験短答式試験
不動産の鑑定評価に関する理論・問題と解説
〔問題 1〕 不動産とその価格の特徴に関する次のイからニまでの記述のうち、正しいものをすべ
て掲げた組み合わせはどれか。
イ
土地は自然的特性として個別性(非同質性、非代替性)があるが、所在・地積・形状等の
類似する区画がある分譲住宅地に関しては例外的に当該個別性(非同質性、非代替性)は認
められない。
ロ
不動産は自然的条件及び人文的条件の全部又は一部を共通にする他の不動産とともに一定
の地域を構成し、他の地域と用途や価格等の面で相互に影響を及ぼすものであり、その影響
の程度は、当該地域の範囲が狭いほど大きくなる傾向がある。
ハ
不動産の価格と賃料との間には、元本と果実との間に認められる相関関係を認めることが
できる。この場合の不動産の賃料は、賃貸借契約等に基づき設定された期間について、不動
産を使用収益することを基礎として生ずる経済価値を貨幣額で表示したもの(純賃料)を主
体とするものである。
ニ
不動産の価格は、過去と将来とにわたる長期的な考慮の下に形成されるものであるが、将
来についての予測には限界があることから、不動産の鑑定評価に当たっては、将来について
の予測よりも過去からの変動の過程に重点をおいて分析するべきである。
(1) イのみ
(2) ハのみ
(3) イとロ
(4) イとハ
(5) ハとニ
正解 (2)
イ
誤り。
所在・地積・形状等の類似する区画がある分譲住宅地にも、土地の自然的特性である地理的位
置の固定性、個別性(非同質性、非代替性)は認められる。
不動産が国民の生活と活動に組み込まれどのように貢献しているかは具体的な価格として現れ
るものであるが、土地は他の一般の諸財と異なって次のような特性を持っている。
(1) 自然的特性として、地理的位置の固定性、不動性(非移動性)、永続性(不変性)、不増性、
個別性(非同質性、非代替性)等を有し、固定的であって硬直的である。
(2) 人文的特性として、用途の多様性(用途の競合、転換及び併存の可能性)、併合及び分割の可
能性、社会的及び経済的位置の可変性等を有し、可変的であって伸縮的である。
地理的位置の固定性は、広い意味では日本の国土全体の地理的位置の固定性である。また、わ
れわれは併合及び分割の可能性をもとに、土地を一定の広さに区画して利用する。一定の広さに
区画された個々の土地の東経何度何分、北緯何度何分という地理的な位置は固定している。
不動性(非移動性)は、地理的位置の固定性を含めて動かないということである。
永続性(不変性)は、土地には永続性があり自然の侵食を除き消滅することはない。
平成 25 年における我が国の国土面積は約 3,780 万 ha であり、このうち森林が約 2,506 万 ha と
最も多く、それに次ぐ農地は前年より減少して 454 万 ha となっており、これらで全国土面積の
約8割を占めている。このほか、住宅地、工業用地等の宅地は約 192 万 ha、道路は約 137 万 ha、
- 2 -
水面・河川・水路が約 134 万 ha、原野等が約 34 万 ha となっている(「平成 26 年度土地に関する
動向」41 頁)
平成 25 年の土地利用転換面積は、前年より増加して約 17,800ha となった。農林地及び埋立地
から都市的土地利用(住宅地、工業用地、公共用地等)への転換面積についても、前年より増加
して約 13,900ha となっている。また、林地から農地、農地から林地への転換面積の合計について
は、約 800ha となっている(「平成 26 年度土地に関する動向」43 頁)。
以上のように、わが国の国土面積は総量不変(不増性)であるが、用途の転換の可能性から用途別
の面積は可変である。
個別性(非同質性、非代替性)は、地理的位置の固定性から土地には財の同質性がないというこ
とである。ただし、土地が財として取引される場合、その用途、位置、地積、環境等について、
われわれが同等の効用を有すると認める土地相互間では代替性が認められる。
ロ
誤り。
不動産が構成する地域は、他の地域と用途や価格等の面で相互に影響を及ぼすものではない。
不動産が構成する地域は、不動産の集合という意味において、個別の不動産の場合と同様に、
特定の自然的条件及び人文的条件との関係を前提とする利用のあり方の同一性を基準として理解
されるものであって、他の地域と区別されるべき特性をそれぞれ有するとともに、他の地域との
間に相互関係にたち、この相互関係を通じて、その社会的及び経済的位置を占めるものである。
不動産の鑑定評価において重要な地域は、用途的観点から区分される用途的地域である。
不動産が構成する地域には、その規模、構成の内容、機能等にしたがつて各種のものが認めら
れる。自然的条件を中心として構成される地域とか、市区町村などのように行政的要因を中心と
して成り立つ地域、あるいは、鉄道のターミナル駅の周辺の商店街のように、特定の商業活動を
中心として形成された地域など、種々の形態のものが考えられよう。つまり、地域を考える場合
にはこれをとらえる観点のいかんによつて各種各様のものが考えられるわけであり、それらの地
域はおのおのそれ自身の区域を有しているものであるから、ある不動産が属している地域は必ず
しも一つに限定されるものではなく、不動産はある一つの地域の構成分子であると同時に他の、
異なつた観点からとらえられた一又は二以上の地域に重畳的に属しているというのが通常のすが
たであろう(「解説」22 頁、23 頁、「要説」40 頁)。
不動産が集合してある一定の地域を構成するのは、自然的条件および人文的条件の全部または
一部を共通にするからであつて、不動産が構成する地域の基盤には、多かれ少なかれ、これらの
諸条件の共通性が見出されるのである。用途的地域は、これら諸条件の相関結合により構成され
る地域のうち、用途的な機能性を中心として把握されるものであり、その規模としては都市ある
いは農村というような、それ自体である程度完結した生活圏を構成している地域社会にくらべて、
より小規模なものであるということができよう。用途的地域は、その分類の精粗によって、用途
的地域の具体的な範囲は変化してくる。用途的地域は必ずしも用途的に完全に純化した地域を示
すものではない(「解説」72 頁、73 頁)。
- 3 -
ハ
正しい。
不動産の価格の特徴(1)、不動産の賃料に関する規定内容である。
(1) 不動産の経済価値は、一般に、交換の対価である価格として表示されるとともに、その用益
の対価である賃料として表示される。そして、この価格と賃料との間には、いわゆる元本と果
実との間に認められる相関関係を認めることができる。
不動産の価格は、不動産が物理的、機能的及び経済的に消滅するまでの全期間にわたつて、不
動産を使用し、又は収益することができることを基礎として生ずる経済価値(交換価値)を貨幣額
をもつて表示したものであるということもできる。これに対して、不動産の賃料は、上記期間の
うちの一部の期間にわたつて、不動産の賃貸借契約又は地上権若しくは地役権の設定契約に基づ
き不動産を使用し、又は収益することができることを基礎として生ずる経済価値(交換価値 注)を
貨幣額をもつて表示したものを主体とし、不動産を実際に使用又は収益することの対価であるこ
とにかんがみ、その使用又は収益に際してその不動産のもつ機能を適切に発揮させるために必要
な経費を含むものである。
したがつて、基本的にいえば、不動産の賃料は当該不動産の経済価値を適正に把握することに
よつて求められるといえるが、逆に、不動産の経済価値は、賃料を適正に把握することによつて
求められると考えられ、そこに、いわゆる元本と果実のそれぞれの価格の相関関係を認めること
ができる(昭和 41 年「賃料の鑑定評価基準の設定に関する答申」第8「賃料の鑑定評価」)。
賃料を考察する場合、不動産の賃料には、不動産の賃貸借等を継続するために通常必要とされ
る諸経費等が内容として含まれているものであり、これらは元本価格に直接的に影響を及ぼさな
いものであるのに対し、賃料のうちこれらの必要諸経費等以外の部分は、不動産が収益財として
の元本(資本)価格を形成する基礎となつている純収益(不動産に帰属する収益)にほかならず、
まさに元本に対する果実の関係を如実に示すものであるとともに不動産の経済価値を純粋に示し
ているものであることから、一般に、これを賃料と区別する意味で純賃料とよんでいる(「解説」
97 頁)。
注
ニ
交換価値という表現は現在使われていない。
誤り。
不動産の価格は、過去と将来とにわたる長期的な考慮の下に形成されるものである。
(3) 不動産の属する地域は固定的なものではなくて、常に拡大縮小、集中拡散、発展衰退等の変
化の過程にあるものであるから、不動産の利用形態が最適なものであるかどうか、仮に現在最
適なものであっても、時の経過に伴ってこれを持続できるかどうか、これらは常に検討されな
ければならない。したがって、不動産の価格(又は賃料)は、通常、過去と将来とにわたる長
期的な考慮の下に形成される。今日の価格(又は賃料)は、昨日の展開であり、明日を反映す
るものであって常に変化の過程にあるものである。
不動産の価格は、一般に、その不動産に対してわれわれが認める効用、その不動産の相対的稀
少性、その不動産に対する有効需要の三者の相関結合によって生ずる不動産の経済価値を、貨幣
額をもって表示したものである。そして、この不動産の経済価値は、基本的にはこれら三者を動
かす自然的、社会的、経済的及び行政的な要因の相互作用によって決定される。
不動産の価格は、その価格を形成する「不動産の効用」、「相対的稀少性」及び「有効需要」の三
者がどのように変化するかについての予測によって左右される。この三者の変化についての予測
- 4 -
は、直接にはこれら三者に影響を及ぼす価格形成要因の変化についての予測によって行われるも
のである。
この予測は、不動産の価格を大きく左右するものであるが、予測においては投機、思惑等の要素
は排除するとともに近い将来確実に実現するという保証ができる範囲での現実性に立脚した予測
でなければならない。
- 5 -
〔問題 2〕
⑴
土地の特性に関する次の記述のうち、人文的特性と直接関係のない記述はどれか。
ある宅地を売却しようとしたところ、共同住宅の建設を計画する購入希望者と、事務所ビル
の建設を計画する購入希望者が競合した。
⑵
眺望に優れた別荘地の購入を検討していたが、希望する土地の物件は崖地を多く含むため、
同等の眺望が得られ、かつ崖地を含まない物件を探したが、見つからなかった。
⑶
資材置き場として利用されていた宅地が、分割されて、共同住宅と倉庫の敷地となった。
⑷
自治体の各種施策により人口が増加し、住宅地としての利用のみならず、日用品を扱う店舗
地としての利用も増えてきた。
⑸
町の雇用を支えていた工場が撤退したため、住宅需要が減少し、土地の価格が大きく下落し
た。
正解
⑴
⑵
関係あり。
土地の人文的特性である用途の多様性(用途の競合、転換及び併存の可能性)と関係がある。
人文的特性は土地に対してわれわれが働きかけをする場合の可能性としての特性である。
用途の多様性(用途の競合、転換及び併存の可能性)は、土地は都市計画法、建築基準法等の制
限内でさまざまな用途に供することができる可能性としての特性で、住宅地として利用できる場
合と商業地として利用できる場合の用途の競合、高層建物の建築による商業系用途と住居系用途
の併存の可能性、農地を宅地に転用するような用途の転換の可能性などである。
土地に対する需要は、用途の多様性から、都市計画法、建築基準法等の制限内で、同一の土地
に対して異なった使用方法を前提とする需要が競合する。この場合に需要者が提示する価格は、
その需要者が前提とする使用方法によって異なり、その土地に対して最も高い価格を提示するこ
とができる需要者がその土地を取得する。土地に対して最も高い価格を提示することが可能とな
るのは、その土地の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(最有効使用)を前提とし
た場合だけである。これはすべての土地について当てはまることであり、不動産にも反映される
ことである。
併合及び分割の可能性は、一定の広さに区画した土地は、必要に応じて合筆又は分筆が可能で
あり、合筆後又は分筆後も土地の効用を保つことができるという特性である。
社会的及び経済的位置の可変性は、社会的、経済的及び行政的な要因の変動により、不動産の
属する地域は固定的なものではなく、都市計画法、建築基準法等の制限内で用途的地域の構成分
子である土地の最適な利用形態及びその土地の社会的及び経済的な有用性は変化するという特性
である。
⑵
関係なし。
土地の人文的特性と直接関係がない。
土地の自然的特性である個別性(非同質性、非代替性)は、地理的位置の固定性から土地には財
の同質性がない。購入を希望しているのは、崖地を含まない眺望に優れた別荘地である。別荘地
という用途、位置、地積、
(眺望に優れた)環境等について、同等の効用を有すると認める土地(別
荘地)相互間では代替性が認められる。
- 6 -
⑶
関係あり。
人文的特性は土地に対してわれわれが働きかけをする場合の可能性としての特性である。
併合及び分割の可能性は、一定の広さに区画した土地は、必要に応じて合筆又は分筆が可能であ
り、合筆後又は分筆後も土地の効用を保つことができるという特性である。
資材置き場として利用していた宅地を、共同住宅の敷地、倉庫の敷地に分割した後も、それぞれ
の宅地の効用を保つことができる。
⑷
関係あり。
土地の人文的特性である用途の多様性(用途の競合、転換及び併存の可能性)と関係がある。
用途の多様性(用途の競合、転換及び併存の可能性)は、土地は都市計画法、建築基準法等の制
限内でさまざまな用途に供することができる可能性としての特性で、住宅地として利用できる場
合と商業地として利用できる場合の用途の競合、高層建物の建築による商業系用途と住居系用途
の併存の可能性、農地を宅地に転用するような用途の転換の可能性などである。
⑸
関係あり。
人文的特性である社会的及び経済的位置の可変性と関係がある。
経済的要因の変動に伴う、企業の生産拠点や施設の新設、閉鎖、移転、再編等による大規模工
場の撤退は、従業員の雇用、取引関連企業、地元商店街への影響、税収など地域経済だけでなく、
地域内の不動産に対する需給にも影響を及ぼす。
社会的及び経済的位置の可変性は、社会的、経済的及び行政的な要因の変動により、不動産の
属する地域は固定的なものではなく、都市計画法、建築基準法等の制限内で用途的地域の構成分
子である土地の最適な利用形態及びその土地の社会的及び経済的な有用性は変化するという特性
である。
- 7 -
〔問題 3〕 不動産の種別及び類型に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
⑴
建物が賃貸借に供されていれば、いかなる場合も建付地ではない。
⑵
敷地の一部に隣接地のための囲繞地通行権が設定されていれば、いかなる場合も建付地では
ない。
⑶
現況が畑であれば、いかなる場合も商業移行地ではない。
⑷
併合鑑定評価を行う場合、いかなる場合も併合後の一体の不動産の類型が併合前のいずれの
不動産の類型とも異なることはない。
⑸
正解
⑴
農地地域のうちにある土地は、いかなる場合も更地ではない。
⑸
誤り。
建付地とは、建物等の用に供されている敷地で建物等及びその敷地が同一の所有者に属してい
る宅地をいう。この場合の建物及びその敷地には、自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地
を含むものである。
建付地は、①現に建物、構築物等の用に供されている宅地であること、②建物等及びその敷地
が同一の所有者であることを要件とする。建付地は、基本的には「自用若しくは貸家の建物及び
その敷地」の敷地部分であり、類型における「建物」の概念には、建物以外の構築物等も含まれ
る(「基準実務指針」158 頁)。
⑵
誤り。
敷地の一部に囲繞地通行権が設定されている場合には、その状態を所与として建付地の鑑定評
価を行うべきである。
建付地は自己所有建物等に係る敷地の利用権原が付着している土地であるが、そのほかにも、
当該敷地に建物所有目的以外の地役権や賃借権、地上権等の使用収益を制約する権利が付着して
いる場合がある。その場合には、その状態を所与として鑑定評価を行わなければならない。なお、
建物等に係る敷地利用権原とは、建付地の所有権を指しているのであって、借地権や建物所有目
的の使用借権を想定するものではない(「基準実務指針」158 頁)。
⑶
誤り。
現況が畑でも、その存する用途的地域が商業移行地地域であれば、商業移行地である。
用途的地域の分類にあたつて注意しなければならないことは、その区分が「○○の用に供され
る建物、構築物等の敷地の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみ
て合理的と判断される地域」という基準をもつて行われていることである。このことは、基準が
用途的地域の判断基準として、いわゆる現況主義を採用していないことを意味する。これは、用
途的地域に存する不動産の用途性が、広く社会的な観点から客観的に判断されるべきであり、個
人個人の主観的な不合理な使用方法にまどわされてその判定を誤ることを極力排除しようとする
意図によるものである。したがつて、合理的な用途性の判断は、なるべく広い視野に立つて鑑定
評価の主体によつてなされなければならないこととなるわけである(「解説」160 頁)。
土地の種別は、その土地の存する用途的地域の種別に基づいて定められるものであるので、必
ずしもその土地の現実の利用方法と一致するものではないことに注意しなければならない。すな
- 8 -
わち、現に建物等の敷地の用に供されている土地(いわゆる現況宅地)であつてもその土地の存
する用途的地域の種別が農地地域である場合はその土地の種別は農地(ただし、農地地域の内に
ある建物等の敷地)と観念され、また、現に耕作の用に供されている土地(いわゆる現況農地)
であつてもその土地の存する用途的地域の種別が宅地地域である場合はその土地の種別は宅地と
観念されてそれぞれの価格形成要因の分析が行われることになる(「解説」161 頁)。
見込地地域および移行地地域は、たとえば、農地地域、林地地域等から宅地地域へと転換しつ
つある見込地地域を宅地見込地地域といい、住宅地域から商業地域へと移行しつつある移行地地
域を商業移行地地域というように、それぞれ転換後または移行後の地域の種別の名称を冠してよ
ぶのが通例である(「解説」160 頁)。
⑷
誤り。
併合鑑定評価を行う場合、併合後の不動産の類型が併合前の不動産の類型とも異なることがあ
る。
隣接地を買収して隣接地と一体となった後の土地、あるいは土地を分割しその一部を売却した
後の残地を、これらの併合又は分割を行う以前に、併合後又は分割後の土地を単独のものとして
鑑定評価を行う場合の対象確定条件が、併合鑑定評価又は分割鑑定評価である。
借地権付建物で建物が自用の借地権付建物の所有者が、借地権の目的となっている土地(底地)
の併合を目的とする売買に関連して、併合後の不動産を単独のものとして鑑定評価する併合鑑定
評価者の場合、併合後の不動産の類型は自用の建物及びその敷地となる。
1.対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。
対象確定条件は、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借
権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件であり、依頼目的に
応じて次のような条件がある。
(4) 不動産の併合又は分割を前提として、併合後又は分割後の不動産を単独のものとして鑑定
評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を併合鑑定評価又は分割鑑定評価という。)。
鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件(併合鑑定評価や分割鑑
定評価を含む。)を設定することは、一般に鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがあるので、
このような対象確定条件を設定する場合には、現実の利用状況との相違が対象不動産の価格に与
える影響の程度等について、鑑定評価書の利用者が依頼目的や鑑定評価書の利用目的に対応して
自ら判断することができることが必要である(「基準実務指針」23 頁)。
併合鑑定評価や分割鑑定評価は、一般的には、併合及び分割がなされた場合における価格を知
るために条件が設定されるものであるが、鑑定評価書の利用者の範囲や利用目的によっては、鑑
定評価書の利用者の利益を害するおそれがあるので、依頼の背景の確認等に注意が必要である
(「基準実務指針」24 頁)。
⑸
正しい。
農地地域にある土地は農地である。
Ⅰ
地域の種別
地域の種別は、宅地地域、農地地域、林地地域等に分けられる。
宅地地域とは、居住、商業活動、工業生産活動等の用に供される建物、構築物等の敷地の用
- 9 -
に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域
をいい、住宅地域、商業地域、工業地域等に細分される。さらに住宅地域、商業地域、工業地
域等については、その規模、構成の内容、機能等に応じた細分化が考えられる。
農地地域とは、農業生産活動のうち耕作の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及
び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいう。
土地の種別は、地域の種別に応じて分類される土地の区分であり、宅地、農地、林地、見込
地、移行地等に分けられ、さらに地域の種別の細分に応じて細分される。
宅地とは、宅地地域のうちにある土地をいい、住宅地、商業地、工業地等に細分される。
農地とは、農地地域のうちにある土地をいう。
- 10 -
〔問題 4〕 下記の説明文は、不動産鑑定評価基準総論第3章「不動産の価格を形成する要因」に
関する記述である。次のイからニまでの空欄に入る語句として、正しいものの組み合わせはどれ
か。
・
一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与え
る要因をいう。それは、
・ 地域要因とは、 ロ
イ
及び行政的要因に大別される。
規模、構成の内容、機能等にわたる
ハ
を形成し、その地域に
属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因をいう。
・ 個別的要因とは、不動産に
⑴
⑵
⑶
⑷
⑸
正解
ニ
を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう。
イ
「物理的要因、機能的要因、経済的要因」
ロ
「一般的要因とは独立した要因として」
ハ
「各地域の特性」
ニ
「具体性」
イ
「物理的要因、機能的要因、経済的要因」
ロ
「一般的要因とは独立した要因として」
ハ
「不動産の地域性」
ニ
「個別性」
イ
「自然的要因、社会的要因、経済的要因」
ロ
「一般的要因の相関結合によって」
ハ
「各地域の特性」
ニ
「具体性」
イ
「自然的要因、社会的要因、経済的要因」
ロ
「一般的要因の相関結合によって」
ハ
「各地域の特性」
ニ
「個別性」
イ
「自然的要因、社会的要因、経済的要因」
ロ
「一般的要因の相関結合によって」
ハ
「不動産の地域性」
ニ
「具体性」
⑷
一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要
因をいう。それは、 イ 自然的要因、社会的要因、経済的要因
地域要因とは、
ハ 各地域の特性を
ロ 一般的要因の相関結合によって
及び行政的要因に大別される。
規模、構成の内容、機能等にわたる
形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要
因をいう。
個別的要因とは、不動産に
ニ 個別性
を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因を
いう。
- 11 -
第1節
一般的要因
一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える
要因をいう。それは、自然的要因、社会的要因、経済的要因及び行政的要因に大別される。
第2節
地域要因
地域要因とは、一般的要因の相関結合によって規模、構成の内容、機能等にわたる各地域の
特性を形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因をいう。
第3節 個別的要因
個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう。
- 12 -
〔問題 5〕 不動産の価格を形成する要因に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
⑴
建物に係る個別的要因の1つである「建築の年次」を確認する場合は、建物の新築・増改築・
移転が実施された年次のみならず、修繕・模様替えが実施された年次も確認する必要がある。
⑵
区分所有建物及びその敷地の場合は、区分所有建物が存する一棟の建物及びその敷地の個別
的要因のうち、建物に係る要因である「長期修繕計画の有無及びその良否並びに修繕積立金の
額」を確認する必要がある。
⑶
建物の建築資材としてアスベストが含有する吹付け材の使用が認められる場合は、当該吹付
け材に係る飛散防止等の措置の実施状況のほか、対策工事の要否及び対策工事費について確認
する必要がある。
⑷
賃貸用の事務所ビルにおいて、基準階床面積や天井高、共用施設の状態等は、収益還元法の
適用における支払賃料や空室率、還元利回りの査定等に影響を及ぼす重要な価格形成要因であ
る。
⑸
賃貸用不動産の場合は、賃貸借契約の内容の確認等を通じて、賃貸借当事者間における躯体・
設備・内装等の資産区分及び修繕費用等の負担区分を明確にする必要がある。
正解
⑴
⑵
正しい。
建物に関しては、まず新築後の年数によって経年減価の度合いを推し量るとともに、その年次
により適用された法令(建築基準法等)の基準が異なるため、構造や設備等の内容が異なってい
る可能性に留意する。また、当該要因が建物の機能性や耐震性等の性能及び有害物質等の使用の
有無の判断材料になる場合もある。さらに、増改築、修繕・模様替等や移転の年次により、単に
数量や材質が新築時と異なるだけでなく、例えば設備等の多くが更新され機能性や経年劣化が回
復している場合もあり、建物の老朽化の程度や修繕の必要性の検討に役立てることができると考
えられる(「基準実務指針」5 頁)。
Ⅱ
建物に関する個別的要因
建物の各用途に共通する個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。
1.建築(新築、増改築等又は移転)の年次
2.面積、高さ、構造、材質等
3.設計、設備等の機能性
4.施工の質と量
5.耐震性、耐火性等建物の性能
6.維持管理の状態
7.有害な物質の使用の有無及びその状態
8.建物とその環境との適合の状態
9.公法上及び私法上の規制、制約等
なお、市場参加者が取引等に際して着目するであろう個別的要因が、建物の用途毎に異な
ることに留意する必要がある。
- 13 -
⑵
誤り。
長期修繕計画の有無及びその良否並びに修繕積立金の額は、建物及びその敷地に係る要因であ
る。
マンション等の区分所有建物の良好な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るために
は、計画的な修繕工事の実施が不可欠であり、そのためには、長期修繕計画に基づき、適正な修
繕積立金の額の設定を行うことが重要である。また、共用部分についても、適正な管理を行わな
ければならない。
管理費・修繕積立金の滞納があると、共用部分の管理や大規模修繕に必要な資金が減ることに
なり、区分所有建物の管理水準、資産価値に影響を及ぼす。また、支払っている区分所有者と滞
納者も等しく共用部分の管理の恩恵を被るため、区分所有者間に不公平が生ずる。鑑定評価を行
うに当たっては、対象不動産だけでなく、区分所有の目的となっているマンション全体の滞納の
有無等を調べる必要がある。
(1) 区分所有建物が存する一棟の建物及びその敷地に係る個別的要因
①
建物に係る要因
②
敷地に係る要因
③
建物及びその敷地に係る要因
ア
敷地内における建物及び附属施設の配置の状態
イ
建物と敷地の規模の対応関係
ウ
長期修繕計画の有無及びその良否並びに修繕積立金の額
国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」の解説を引用する。
長期修繕計画の作成及び修繕積立金の額の設定の手順
新築マンションの場合は、分譲事業者が提示した長期修繕計画(案)と修繕積立金の額につい
て、購入契約時の書面合意により分譲事業者から引渡しが完了した時点で決議したものとするほ
か、又は引渡し後速やかに開催する管理組合設立総会において、長期修繕計画及び修繕積立金の
額の承認に関しても決議することがあります。
既存マンションの場合は、長期修繕計画の見直し及び修繕積立金の額の設定について、理事会、
専門委員会等で検討を行ったのち、専門家に依頼して長期修繕計画及び修繕積手金の額を見直し、
総会で決議します。なお、長期修繕計画の見直しは、単独で行う場合と、大規模修繕工事の直前
又は直後に行う場合があります(平成 20 年 6 月、国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」
28 頁、29 頁)。
⑶
正しい。
有害な物質の使用の有無及びその状態に関する留意事項の規定内容である。
(1) 建物の各用途に共通する個別的要因
④
有害な物質の使用の有無及びその状態
建設資材としてのアスベストの使用の有無及び飛散防止等の措置の実施状況並びにポリ塩
化ビフェニル(PCB)の使用状況及び保管状況に特に留意する必要がある。
石綿(アスベスト)は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で「せきめん」
「いしわた」と呼ばれ
ている。石綿は飛び散ること、吸い込むことが問題となるため、労働安全衛生法や大気汚染防止
法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などで予防や飛散防止等が図られている。
- 14 -
石綿障害予防規則第二節では「石綿等が吹き付けられた建築物等における業務に係る措置」と
して第十条で、「事業者は、その労働者を就業させる建築物又は船舶の壁、柱、天井等に吹き付
けられた石綿等が損傷、劣化等によりその粉じんを発散させ、及び労働者がその粉じんにばく露
するおそれがあるときは、当該石綿等の除去、封じ込め、囲い込み等の措置を講じなければなら
ない。」と規定している。建築基準法第二十八条の二では、石綿その他の物質の飛散又は発散に
対する衛生上の措置が規定されている。
石綿障害予防規則
第二節
労働者が石綿等にばく露するおそれがある建築物等における業務に係る措置
第十条
事業者は、その労働者を就業させる建築物若しくは船舶の壁、柱、天井等又は当該建築
物若しくは船舶に設置された工作物(次項及び第四項に規定するものを除く。)に吹き付けられ
た石綿等又は張り付けられた保温材、耐火被覆材等が損傷、劣化等により石綿等の粉じんを発
散させ、及び労働者がその粉じんにばく露するおそれがあるときは、当該吹き付けられた石綿
等又は保温材、耐火被覆材等の除去、封じ込め、囲い込み等の措置を講じなければならない。
建築基準法
(石綿その他の物質の飛散又は発散に対する衛生上の措置)
第二十八条の二
建築物は、石綿その他の物質の建築材料からの飛散又は発散による衛生上の支
障がないよう、次に掲げる基準に適合するものとしなければならない。
一
建築材料に石綿その他の著しく衛生上有害なものとして政令で定める物質(次号及び第三
号において「石綿等」という。)を添加しないこと。
二
石綿等をあらかじめ添加した建築材料(石綿等を飛散又は発散させるおそれがないものと
して国土交通大臣が定めたもの又は国土交通大臣の認定を受けたものを除く。)を使用しな
いこと。
三
居室を有する建築物にあつては、前二号に定めるもののほか、石綿等以外の物質でその居
室内において衛生上の支障を生ずるおそれがあるものとして政令で定める物質の区分に応じ、
建築材料及び換気設備について政令で定める技術的基準に適合すること。
⑷
正しい。
基準階床面積や天井高、共用施設の状態等は、設計設備の機能性に属する要因である。
設計、設備等の機能性については、業務系の建物を中心として、各階の床面積、天井高、床荷
重等の躯体に関わるもののほか、情報通信対応設備の状況、空調設備の状況、エレベーターの状
況、電気容量、自家発電設備・警報用機器の有無等があり、これらについては建物利用における
汎用性等にも影響を与える(「基準実務指針」5 頁)。
なお、設計、設備等の機能性は、原価法において建物の再調達原価を求める際の工事費の算定
時に必要とされる項目であるとともに、取引事例比較法及び賃貸事例比較法において建物の品等
格差による修正率や収益還元法において還元利回りや割引率を求める際に勘案すべき項目となる
(「基準実務指針」6 頁。
(1) 建物の各用途に共通する個別的要因
①
設計、設備等の機能性
各階の床面積、天井高、床荷重、情報通信対応設備の状況、空調設備の状況、エレベータ
ーの状況、電気容量、自家発電設備・警備用機器の有無、省エネルギー対策の状況、建物利
- 15 -
用における汎用性等に特に留意する必要がある。
⑸
正しい。
賃貸借当事者間における躯体・設備・内装等の資産区分及び修繕費用等の負担区分は、市場に
おける賃料水準との乖離や更新費用、修繕費用に影響を及ぼすとともに、契約の継続性に影響を
与える場合があるため、契約内容の確認等を通じて、負担区分を明確にする必要がある。
「基準実
務指針」の内容である。
躯体・設備・内装等の資産区分及び修繕費用等の負担区分は、市場における賃料水準との乖離
や更新費用、修繕費用に影響を及ぼすとともに、賃借人による解約権を留保している賃貸借契約
において契約の継続性に影響を与える場合がある。したがって、これらの資産区分及び修繕費用
等の負担区分を明確に区分し、対象不動産の範囲を明確にするとともに、これらが対象不動産の
価格形成に与える影響について分析する必要がある(「基準実務指針」14 頁)。
- 16 -
〔問題
6〕 不動産の価格の諸原則に関する次のイからホまでの記述のうち、誤っているものをす
べて掲げた組み合わせはどれか。
イ
不動産の価格に関する諸原則は、不動産の価格形成の過程における基本的な法則性を現し
たものであるが、不動産は他の財と異なる自然的特性及び人文的特性を有するため、一般の
経済法則とは異なる不動産に固有の原則と解されている。
ロ
不動産の価格に関する諸原則は、孤立しているものではなく、相互に関連しているもので
ある。例えば、不動産の価格は、代替可能な他の不動産又は財との間の競争の過程において
形成されるものであるから、代替の原則は競争の原則と関連している。
ハ
不動産の最有効使用を判定するためには、当該不動産の構成要素の組み合わせが均衡を得
ているかどうかを分析する必要がある。これは例えば複合不動産について、当該複合不動産
の現実の利用方法が、更地としての最有効使用と一致しているか否かの分析を意味し、一致
している場合には最有効使用と判定できる。
ニ
不動産の現実の利用方法は必ずしも最有効使用に基づいているものではないため、収益逓
増及び低減の原則や寄与の原則を活用し、追加投資の効率やその適否等を判断の上、最有効
使用を判定すべきである。
ホ
不動産の最有効使用を判定するためには、当該不動産とその環境との適合性を分析する必
要がある。これはすなわち当該不動産の利用方法がその地域の標準的使用に一致しているか
否かの分析を意味し、一致している場合には最有効使用と判定できる。
⑴
イとハ
⑵
ロとニ
⑶
ハとホ
⑷
イとハとホ
⑸
イとニとホ
正解
イ
⑷
誤り。
不動産の価格に関する諸原則のうち、予測の原則及び変動の原則は不動産の価格の動向分析の
基礎となっているものである。最有効使用の原則、均衡の原則及び適合の原則は、不動産の鑑定
評価に固有の原則である。最有効使用の原則は不動産の価格の形成に関する最も基本的な法則性
を示すとともに、不動産の鑑定評価によって求める価格の前提となる不動産の使用方法に関する
原則であり、均衡の原則は構成要素の組合せの均衡により、適合の原則は属する地域との関係に
おける均衡により、最有効使用の状態を判定するために相互に関係の深い原則といえる(「中間報
告」)。
不動産の価格は、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要に影響を与え
る諸要因の相互作用によって形成されるが、その形成の過程を考察するとき、そこに基本的な法
則性を認めることができる。不動産の鑑定評価は、その不動産の価格の形成過程を追究し、分析
することを本質とするものであるから、不動産の経済価値に関する適切な最終判断に到達するた
めには、鑑定評価に必要な指針としてこれらの法則性を認識し、かつ、これらを具体的に現した
以下の諸原則を活用すべきである。
- 17 -
これらの原則は、一般の経済法則に基礎を置くものであるが、鑑定評価の立場からこれを認識
し、表現したものである。
なお、これらの原則は、孤立しているものではなく、直接的又は間接的に相互に関連している
ものであることに留意しなければならない。
ロ
正しい。
不動産についても、ある不動産を利用することによる利潤が、他の不動産または財を利用する
ことによつて一般的に得られる利潤を上回る場合には、その超過利潤は結局消滅することとなる。
この過程においては、その種の不動産に対する需要は増加するのが通常であり、これに伴つてそ
の価格も上昇するが、この価格上昇は、超過利潤を消滅させる一つの要因となるものである。
この超過利潤を目的とする競争は、その不動産と他の不動産または財との代替性のいかんによ
つて影響を受けるものであり、代替性が乏しい場合には、超過利潤は消滅せずそのまま存続する
こととなる。また、不動産の価格は、代替可能な他の不動産または財との競争によつて決定され
るものである。したがつて、この原則は「代替の原則」と深い関連を有するものである。
なお、競争は、経済活動のあらゆる段階において認められる最も基本的な現象であり、需要と
供給の原則が成立する根拠となるものである(「解説」58 頁)。
この説明は利潤という観点から競争の原則の内容を説明している。「代替性が乏しい場合には、
超過利潤は消滅せずそのまま存続する」ということについては、対象不動産の属する近隣地域の
種別(例えば一般高度商業地域、業務高度商業地域)及び対象不動産の類型との関連に留意する
必要がある。
Ⅲ
代替の原則
代替性を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を及ぼし
て定まる。
不動産の価格も代替可能な他の不動産又は財の価格と相互に関連して形成される。
Ⅹ
競争の原則
一般に、超過利潤は競争を惹起し、競争は超過利潤を減少させ、終局的にはこれを消滅させ
る傾向を持つ。不動産についても、その利用による超過利潤を求めて、不動産相互間及び他の
財との間において競争関係が認められ、したがって、不動産の価格は、このような競争の過程
において形成される。
ハ
誤り。
均衡の原則は、構成要素の均衡を分析するものであり、更地としての最有効使用との均衡を分
析するものではない。
Ⅴ
均衡の原則
不動産の収益性又は快適性が最高度に発揮されるためには、その構成要素の組合せが均衡を
得ていることが必要である。したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、この均衡
を得ているかどうかを分析することが必要である。
建物及びその敷地というような複合不動産は、建物及びその敷地が構成要素とするが、その複
合不動産の効用は、建物がその敷地の状況に応じて最もふさわしく(敷地の効用を最高度に発揮
することが可能となるように)建てられている場合、すなわち建物と敷地とが均衡を保つている
- 18 -
場合に最高度に発揮される。土地や建物についてもその内部構成要素の均衡は存在し、土地につ
いては、間口、奥行の均衡が、建物については、間取り、廊下、階段の配置がそれぞれ均衡のと
れた状態で組み合わされている場合に、その効用は最高度に発揮されるものである。
このように不動産の構成要素が最適に組み合わされて、その効用が最高度に発揮される状態は、
最有効使用の状態にあるので、不動産が最有効使用にあるかどうかを判定するためには、この均
衡を得ているかどうかを分析することが必要である。すなわち、この原則は、鑑定評価の対象と
なっている不動産が最有効使用の状態にあるかどうかを判定する場合の重要な指針となるもので
ある。
なお、不動産は土地、資本、労働および経営という生産要素と結びついて現実の収益をあげる
こととなるが、この収益は、その不動産が最有効使用の状態にあるとともに、その生産要素が最
高の均衡を保つて組み合わされている場合に最大となるものであるので、不動産鑑定士等は、収
益の分析にあたつては、生産要素の均衡にも十分留意することが必要である(「解説」53 頁、54
頁)。
ニ
正しい。
寄与の原則は、最有効使用の上昇の程度を判定する原則とも言いうるものであり、ある不動産
の最有効使用と当該不動産に追加投資を行なった(増築、改造等)後の最有効使用とを明らかに
することによつて、追加投資による最有効使用の上昇の程度を判定するものである。
このように、寄与の原則は、不動産のある部分に対する投資とその不動産の全体の収益との関
連に関するもので、収益逓増逓減の原則を不動案のある部分に適用したものということができる。
また、この原則によつて、不動産の純収益が最大となるような各部分に対する投資の割合を見
出すことができるので、各部分の組合せが均衡の状態に接近することとなり、この原則は均衡の
原則とも関連を有している(「解説」57 頁)。
Ⅵ
収益逓増逓減の原則
ある単位投資額を継続的に増加させると、これに伴って総収益は増加する。しかし、増加さ
せる単位投資額に対応する収益は、ある点までは増加するが、その後は減少する。
この原則は、不動産に対する追加投資の場合についても同様である。
Ⅷ
寄与の原則
不動産のある部分がその不動産全体の収益獲得に寄与する度合いは、その不動産全体の価格
に影響を及ぼす。
この原則は、不動産の最有効使用の判定に当たっての不動産の追加投資の適否の判定等に有
用である。
ホ
誤り。
不動産の属する地域として最も重要な地域は用途的地域である。不動産は、その属する用途的
地域において標準的であると認められる使用方法との整合性を保って利用されることによって、
その効用を最高度に発揮するものである。この不動産と環境との適合性の判断に当たっては、そ
の不動産が属する用途的地域の標準的使用を明確にすることが必要であるが、これは地域分析に
よって明らかにされる。地域要因の変動により最有効使用判定の有力な標準となる標準的使用は
変化することから、最有効使用も変化するものである。不動産と環境との適合性は、用途的地域
- 19 -
の標準的使用と完全に一致しなくとも、合理的な類似性の範囲内であれば認めることができるも
のである。
原価法では、減価の要因である経済的要因として、不動産の経済的不適応、すなわち、近隣地
域の衰退、不動産とその付近の環境との不適合、不動産と代替、競争等の関係にある不動産又は
付近の不動産との比較における市場性の減退等があげられている。
不動産とその付近の環境との不適合は当初からのものと、その後の近隣地域の変化に基づくもの
とがある。
Ⅸ
適合の原則
不動産の収益性又は快適性が最高度に発揮されるためには、当該不動産がその環境に適合し
ていることが必要である。したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、当該不動産
が環境に適合しているかどうかを分析することが必要である。
- 20 -
〔問題
7〕 下記の各説明文は、不動産鑑定評価基準総論第4 章「不動産の価格に関する諸原則」
に関する記述である。次のイからハまでの空欄に入る語句として、正しいものの組み合わせはど
れか。
・
一般に、超過利潤は、
イ
を惹起し、
イ
は超過利潤を減少させ、終局的にはこ
れを消滅させる傾向を持つ。
・
ロ
を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を及
ぼして定まる。
・
不動産の価格は、価格形成要因の変動についての、
ハ
による予測によって左右され
る。
⑴
イ
「競争」
ロ
「補完性」
ハ
「利害関係者」
⑵
イ
「競争」
ロ
「代替性」
ハ
「市場参加者」
⑶
イ
「規制」
ロ
「代替性」
ハ
「利害関係者」
⑷
イ
「競争」
ロ
「補完性」
ハ
「市場参加者」
⑸
イ
「規制」
ロ
「代替性」
ハ
「市場参加者」
正解
⑵
一般に、超過利潤は、 イ 競争
を惹起し、 イ 競争
は超過利潤を減少させ、終局的に
はこれを消滅させる傾向を持つ。
ロ 代替性
を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を
及ぼして定まる。
不動産の価格は、価格形成要因の変動についての、 ハ 市場参加者
による予測によって左
右される。
Ⅹ
競争の原則
一般に、超過利潤は競争を惹起し、競争は超過利潤を減少させ、終局的にはこれを消滅させ
る傾向を持つ。不動産についても、その利用による超過利潤を求めて、不動産相互間及び他の
財との間において競争関係が認められ、したがって、不動産の価格は、このような競争の過程
において形成される。
Ⅲ
代替の原則
代替性を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を及ぼし
て定まる。
不動産の価格も代替可能な他の不動産又は財の価格と相互に関連して形成される。
Ⅺ
予測の原則
財の価格は、その財の将来の収益性等についての予測を反映して定まる。
不動産の価格も、価格形成要因の変動についての市場参加者による予測によって左右される。
- 21 -
〔問題 8〕 鑑定評価の条件に関する次のイからホまでの記述のうち、誤っているものをすべて掲
げた組み合わせはどれか。
イ
現況建物を賃貸している借地権付建物について、賃借人退去後を想定した自用の建物及び
その敷地として鑑定評価額を求めることを依頼された場合、建物については自用であること
を前提とするという対象確定条件を設定し、鑑定評価を行うことができる。
ロ
不動産鑑定士は、依頼目的・利用者の範囲・条件設定の要件等を総合的に検討し、条件設
定を行うことが適切であると判断した場合でも、依頼者との合意がなければ、条件設定を行
うことはできない。
ハ
土壌汚染の有無及びその状態につき、土壌汚染が存する土地について別途汚染の除去工事
が行われる場合、土壌汚染は存するが除去されたものとしてという想定上の条件を設定した
場合に限り、土壌汚染の影響を価格形成要因から除外して鑑定評価を行うことができる。
ニ
アスベスト等の使用の有無につき、調査範囲等条件を設定し当該価格形成要因を除外して
評価を行うに当たっては、アスベスト等の除去の実現性は必要ないが、利用者が価格への影
響度を判断するための別途調査やリスク回避等の実現性は必要である。
ホ
価格形成要因について、専門職業家としての注意を尽くしてもなお対象不動産の価格形成
に重大な影響を与える要因が十分に判明しない場合において、専門家の調査結果等を活用す
ることができず、また想定上の条件又は調査範囲等条件の設定により鑑定評価を行うことも
できなければ、鑑定評価の依頼は謝絶しなければならない。
⑴
イとロ
⑵
イとニ
⑶
ロとハ
⑷
ハとホ
⑸
ニとホ
正解
イ
国土交通省の正解は⑷である。
国土交通省の正解では、正しいものとなっている。
対象確定条件の「なお、対象不動産の権利の態様に関するものとして、価格時点と異なる権利
関係を前提として鑑定評価の対象とすることがある。」という部分を前提にしているものと推定
されるが、誤りである。
建物が賃貸されている借地権付建物について、建物の賃借人退去後を想定した自用の建物及び
その敷地としての鑑定評価額を求めることを依頼された場合、建物は自用であることを前提とす
るという対象確定条件を設定しても、土地の利用権限が借地権である限り、対象不動産を自用の
建物及びその敷地として鑑定評価することはできない。
建物が賃貸されている借地権付建物について、賃借人退去後を想定した場合は、建物が自用の借
地権付建物になるにすぎない。
c
個別的要因に係る想定上の条件との相違
鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる状態を前提とする条件として地域要
因又は個別的要因に係る想定上の条件がある。
不動産の現実の利用状況と異なる状態を前提とする条件のうち、独立鑑定評価や貸家及びそ
の敷地を自用の建物及びその敷地として鑑定評価を行う等の鑑定評価の類型や種別の相違に係
- 22 -
る条件は、対象確定条件となる(「基準実務指針」25 頁)。
鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定する場合には、
現実の利用状況との相違が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、鑑定評価書の利
用者が自ら判断することができることが必要である(「基準実務指針」21 頁)。
ロ
正しい。
条件設定に関する依頼者との合意等に関する規定内容である。
Ⅴ
条件設定に関する依頼者との合意等
1.条件設定をする場合、依頼者との間で当該条件設定に係る鑑定評価依頼契約上の合意がな
くてはならない。
2.条件設定が妥当ではないと認められる場合には、依頼者に説明の上、妥当な条件に改定し
なければならない。
鑑定評価の依頼目的が、ここで規定する内容に該当するかどうかについては、単に依頼目的を
確認するだけでなく、依頼の背景を含めた確認を行う必要がある(特に依頼目的が「資産評価」
の場合に注意が必要)(「基準実務指針」38 頁)。
鑑定評価の条件は、依頼者が依頼内容に応じて設定するもので、不動産鑑定士は不動産鑑定業
者の受付という行為を通じてこれを間接的に確認するにとどまる場合も少なくない。しかし、同
一不動産であっても設定された条件の如何によっては鑑定評価額に差異が生ずるものであるから、
不動産鑑定士は直接、依頼内容の確認を行うべきである。
また、依頼者が対象不動産に係る諸事項、条件設定の意味を十分に把握していないこともあり
得るので、このような場合には不動産鑑定士が対象不動産に係る諸事項についての調査、確認の
結果、設定される条件が受け入れられるか否かを検討し、受け入れられない場合には依頼者に説
明の上、受け入れられる条件への改定を求めることが必要である(中間報告)。
ハ
誤り。
依頼目的や依頼者の事情による制約がある場合で、条件設定や客観的推定の要件を満たす場
合、例えば、汚染除去工事が行われるときは、「除去されたものとして」という想定上の条件を
設定し、土壌汚染が存しないものとすることができる。
(5) 対象不動産について土壌汚染が存することが判明している場合等の鑑定評価について
土壌汚染が存することが判明している不動産については、原則として汚染の分布状況、汚染
の除去等の措置に要する費用等を他の専門家が行った調査結果等を活用して把握し鑑定評価を
行うものとする。ただし、この場合でも総論第5章第1節及び本留意事項Ⅲに定める条件設定
に係る一定の要件を満たすときは、依頼者の同意を得て、汚染の除去等の措置がなされるもの
とする想定上の条件を設定し、又は調査範囲等条件を設定して鑑定評価を行うことができる。
また、総論第8章第6節及び本留意事項Ⅵに定める客観的な推定ができると認められるときは、
土壌汚染が存することによる価格形成上の影響の程度を推定して鑑定評価を行うことができる。
鑑定評価における土壌汚染に係る取扱いについて
a
原則
・
「土壌汚染の有無及びその状態」は土地に係る個別的要因の一つである。
- 23 -
・
土壌汚染の端緒が認められるが、価格への大きな影響がないと判断できない場合で、対象
不動産に係る「土壌汚染の有無及びその状態」を明らかにすることができない場合には、
「土
壌汚染が存しない」と判断してはならない。
・
不動産鑑定士としての通常の調査の範囲で、価格への大きな影響がないと判断できる場合
以外は、他の専門家が行った土壌汚染に関する調査結果等(土壌汚染対策法に基づく土壌汚
染状況調査の結果を含む。)を活用して鑑定評価を行う。
b
依頼目的や依頼者の事情による制約がある場合で、条件設定や客観的推定の要件を満たす場
合
ア
汚染除去を行う予定がある場合:「除去されたものとして」等の想定上の条件を設定し、
土壌汚染が存しないものとすることができる。
イ
依頼者等による調査範囲等条件設定のための必要な対応がとられる場合:調査範囲等条件
を設定して、可能性の有無、程度に拘らず、価格形成要因から除外することができる。
ウ
対象確定条件に比較可能な類似の不動産に係る取引事例が存する場合:合理的推定を行う
ことができる。
依頼者との確認事項等
鑑定評価の依頼受付時又は鑑定評価の作業中に、土壌汚染について、専門職業家としての注意
を尽くしてもなお対象不動産の価格形成に重大な影響を与える事実について十分に判明しない可
能性があると判断される場合には、土壌汚染に係る鑑定評価上の取扱い(他の専門家の調査結果
の活用を含む調査の範囲及び価格への影響の考慮の有無、条件設定の要否等)について、依頼の
背景や鑑定評価書の利用者の範囲等及び不動産鑑定士の通常の調査能力等で確認可能な事実を勘
案して依頼者と協議を行い、同意を得る必要がある(「基準実務指針」50 頁)。
ニ
正しい。
鑑定評価書の利用者全員が、資料等により価格形成要因である建物に関するアスベスト等有害
な物質の使用の有無及びその状態、価格への影響に係る判断(リスク判断)を独自に行えると判
断できる場合には、調査範囲等条件を設定し価格形成要因であるアスベスト等有害な物質を除外
して鑑定評価することができる。
Ⅲ
調査範囲等条件
不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための
事実の確認が困難な特定の価格形成要因が存する場合、当該価格形成要因について調査の範囲
に係る条件(以下「調査範囲等条件」という。)を設定することができる。ただし、調査範囲等
条件を設定することができるのは、調査範囲等条件を設定しても鑑定評価書の利用者の利益を
害するおそれがないと判断される場合に限る。
③
調査範囲等条件の設定について
ア
不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するため
の事実の確認が困難な特定の価格形成要因を例示すれば、次のとおりである。
(ア)土壌汚染の有無及びその状態
(イ)建物に関する有害な物質の使用の有無及びその状態
(ウ)埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
(エ)隣接不動産との境界が不分明な部分が存する場合における対象不動産の範囲
- 24 -
不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事
実の確認が困難な特定の価格形成要因について、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがな
いと判断される場合には、当該価格形成要因について調査の範囲に係る条件(調査範囲等条件)
を設定することができる。
鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合とは、鑑定評価書の利用者
全員が、別途の資料等により当該価格形成要因についてその状況及び価格への影響に係る判断
(リスク判断)を独自に行えると判断できる場合等である。
調査範囲等条件を設定する価格形成要因については、当該価格形成要因を除外して評価を行う
かどうか等、その取扱いを明確にする必要がある(「基準実務指針」31 頁)。
ホ
誤り。
不動産鑑定士の調査分析能力の範囲内で合理的な推定を行うことができる場合には、鑑定評価
を行うことができる。
第6節
資料の検討及び価格形成要因の分析
さらに、価格形成要因について、専門職業家としての注意を尽くしてもなお対象不動産の価
格形成に重大な影響を与える要因が十分に判明しない場合には、原則として他の専門家が行っ
た調査結果等を活用することが必要である。ただし、依頼目的や依頼者の事情による制約があ
る場合には、依頼者の同意を得て、想定上の条件を設定して鑑定評価を行うこと若しくは調査
範囲等条件を設定して鑑定評価を行うこと、又は自己の調査分析能力の範囲内で当該要因に係
る価格形成上の影響の程度を推定して鑑定評価を行うことができる。この場合、想定上の条件
又は調査範囲等条件を設定するためには条件設定に係る一定の要件を満たすことが必要であり、
また、推定を行うためには客観的な推定ができると認められることが必要である。
4.資料の検討及び価格形成要因の分析について
(1) 不動産鑑定士の調査分析能力の範囲内で合理的な推定を行うことができる場合について
不動産鑑定士の調査分析能力の範囲内で合理的な推定を行うことができる場合とは、ある要
因について対象不動産と比較可能な類似の事例が存在し、かつ当該要因が存することによる減
価の程度等を客観的に予測することにより鑑定評価額への反映が可能であると認められる場合
をいう。
価格形成要因について、専門職業家としての注意を尽くしてもなお対象不動産の価格形成に重
大な影響を与える要因が十分に判明しない場合において、自己の調査分析能力の範囲内で価格形
成要因を推定して鑑定評価を行うこととは、価格形成要因が鑑定評価額にどの程度の影響を与え
るかを客観的に予測することである。つまり、ある価格形成要因による価格への影響度合いに係
る判定を客観的な観点から行うことを指す。推定に当たっては、ある価格形成要因について対象
不動産と比較可能な類似の事例が存し、かつ当該価格形成要因が存することによる減価の程度等
を客観的に予測することにより鑑定評価額への反映が可能であると認められなければならない。
具体的には、対象不動産について土壌汚染の存在が疑われる場合に、周辺に比較可能な類似の事
例が存在し、その価格が当該汚染の事実を織り込んで価格形成がなされている場合において、当
該事例との比較から汚染が存することによる減価の程度を客観的に予測して対象不動産の鑑定評
価額へ反映することが考えられる。
これらの場合における不動産鑑定士の調査分析能力の範囲としては、一般的に、現地調査、聴
- 25 -
聞、公的資料の確認によって調査可能な範囲であり、その範囲で類似の事例の存在等から減価の
程度等を客観的に予測できればよいのであって、それ以上に他の専門家による科学的分析を要求
するものではない。
なお、依頼者に事情による時間的又は資金的な理由からの調査の制約により価格形成に重大な
影響を与える要因が十分に判明しない場合には、想定上の条件又は調査範囲等条件を設定した上
での鑑定評価や客観的な推定を行った上での鑑定評価を行うことを検討することとなるが、これ
もできない場合は基準に則った鑑定評価としての依頼は謝絶するべきである(「基準実務指針」45
頁、46 頁)。
- 26 -
〔問題
9〕鑑定評価の条件に関する次のイからニまでの記述のうち、誤っているものをすべて掲
げた組み合わせはどれか。
イ
分割鑑定評価の条件を設定する際には、鑑定評価書の利用者が分割鑑定評価の内容と対象
不動産の価格に与える影響等について自ら判断することが可能か否かを必ず確認する必要が
ある。
ロ
地下埋設物の存在が対象不動産の価格形成に重大な影響を及ぼすと判断される場合におい
て、調査範囲等条件を設定し価格形成要因から除外して評価をする際には、地下埋設物の除
去の実現性を確認する必要がある。
ハ
建築工事完了後に建物を賃貸に供する予定がある不動産について未竣工建物等鑑定評価を
行う場合は、建物の使用収益が可能であり、かつ賃貸用不動産として安定稼働をしている状
態を前提に鑑定評価を行う必要がある。
ニ
対象不動産の用途や面積等の変更を伴わない場合において、
「建物の内装工事が完了し、そ
の使用収益が可能な状態であるものとして」という条件の設定は、個別的要因についての想
定上の条件の設定に該当する。
⑴
ロのみ
⑵
ハのみ
⑶
イとニ
⑷
ロとハ
⑸
ハとニ
正解
イ
⑷
正しい。
対象不動産の現実の利用状況と異なる分割鑑定評価の対象確定条件を設定することは、一般に
鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがあるので、このような対象確定条件を設定する場合
には、現実の利用状況との相違が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、鑑定評価書
の利用者が依頼目的や鑑定評価書の利用目的に対応して自ら判断することができることが必要で
ある。
1.対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。
対象確定条件は、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借
権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件であり、依頼目的に
応じて次のような条件がある。
(4) 不動産の併合又は分割を前提として、併合後又は分割後の不動産を単独のものとして鑑定
評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を併合鑑定評価又は分割鑑定評価という。)。
2.対象確定条件を設定するに当たっては、対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を
行った上で、依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうか
の観点から当該条件設定の妥当性を確認しなければならない。
(2) 鑑定評価の条件設定の手順
①
対象確定条件について
ウ
対象確定条件を設定する場合において、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがあ
- 27 -
る場合とは、鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定
した場合に、現実の利用状況との相違が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、
鑑定評価書の利用者が自ら判断することが困難であると判断される場合をいう。
鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件(併合鑑定評価や分割鑑
定評価を含む。)を設定することは、一般に鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがあるので、
このような対象確定条件を設定する場合には、現実の利用状況との相違が対象不動産の価格に与
える影響の程度等について、鑑定評価書の利用者が依頼目的や鑑定評価書の利用目的に対応して
自ら判断することができる 7ことが必要である 8。
「自ら判断することができる」とは価格に与える影響の程度等についての概略の認識できる
7
場合をいい、条件設定に伴い相違する具体的な金額の把握までを求めているものではない。
証券化対象不動産について未竣工建物等鑑定評価を行う場合で基準各論第3章第2節の要件
8
を満たす場合を除く(「基準実務指針」23 頁)。
ロ
誤り。
調査範囲等条件を設定することができるのは、調査範囲等条件を設定しても鑑定評価書の利用
者の利益を害する恐れがないと判断できる場合に限られる。
Ⅲ
調査範囲等条件
不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための
事実の確認が困難な特定の価格形成要因が存する場合、当該価格形成要因について調査の範囲
に係る条件(以下「調査範囲等条件」という。)を設定することができる。ただし、調査範囲等
条件を設定することができるのは、調査範囲等条件を設定しても鑑定評価書の利用者の利益を
害するおそれがないと判断される場合に限る。
③
調査範囲等条件の設定について
ア
不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための
事実の確認が困難な特定の価格形成要因を例示すれば、次のとおりである。
(ア)土壌汚染の有無及びその状態
(イ)建物に関する有害な物質の使用の有無及びその状態
(ウ)埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態
対象不動産の価格形成要因には、不動産鑑定士に通常期待される調査の範囲では対象不動産の
価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難で、他の専門家による調査が必要なもの
がある。
このような価格形成要因について事実の確認が困難な場合は、不明事項として他の専門家によ
る調査結果を踏まえて鑑定評価を行う等の対応をとる必要があるが、依頼者の事情等により鑑定
評価を行う時点まではこのような調査を行われなかったり、条件設定等の要件を満たさなかった
りする場合も少なくない。しかし、このような場合においても、鑑定評価の依頼とは別に当該価
格形成要因に係る調査を後日行う等の対応がとられることにより、鑑定評価において当該価格形
成要因に係る調査範囲を限定したり価格形成要因から除外したりしても、鑑定評価書の利用者の
利益を害しないと判断される場合もある。
こうした対応がとられる場合に、依頼者との合意に基づいて設定されるのが調査範囲等条件で
ある(「基準実務指針」31 頁)。
- 28 -
ハ
誤り。
対象不動産を完成後賃貸に供する予定である場合では、建物が使用可能なものであれば足り、
必ずしも賃貸用不動産として安定稼働している状態を想定するものではない。
「基準実務指針」の
解説によるものである。
1.対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。
対象確定条件は、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借
権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件であり、依頼目的に
応じて次のような条件がある。
(5) 造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(建物を新築するもののほか、
増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として鑑定評価の
対象とすること(この場合の鑑定評価を未竣工建物等鑑定評価という。)。
2.対象確定条件を設定するに当たっては、対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を
行った上で、依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうか
の観点から当該条件設定の妥当性を確認しなければならない。
なお、未竣工建物等鑑定評価を行う場合は、上記妥当性の検討に加え、価格時点において想
定される竣工後の不動産に係る物的確認を行うために必要な設計図書等及び権利の態様の確認
を行うための請負契約書等を収集しなければならず、さらに、当該未竣工建物等に係る法令上
必要な許認可等が取得され、発注者の資金調達能力等の観点から工事完了の実現性が高いと判
断されなければならない。
(2) 鑑定評価の条件設定の手順
①
対象確定条件について
ア
未竣工建物等鑑定評価は、価格時点において、当該建物等の工事が完了し、その使用
収益が可能な状態であることを前提として鑑定評価を行うものであることに留意する。
工事が完了していることを前提とするとは、価格時点において、当該建物等の工事が完了し、
その使用収益が可能な状態であることを前提として鑑定評価を行うことである。対象不動産を完
成後賃貸に供する予定である場合では、建物が使用可能なものであれば足り、必ずしも賃貸用不
動産として安定稼働している状態を想定するものではない 6。
6
建物完成当初は、空室が多い場合も少なくなく、一定期間経過後に安定した空室率になると
考えられるが、未竣工建物鑑定評価の条件設定をした場合には、竣工直後の賃貸状況を予測し
て評価を行う。なお、賃貸状況等の独自に収集した資料等を基に合理的に予測を行う(「基準実
務指針」23 頁)。
ニ
正しい。
建物の内装に係る工事完了し、使用収益が可能な状態であるものとしてという、条件の設定は、
対象不動産の個別的要因に係る想定上の条件として取り扱う。
鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる状態を前提とする条件として地域要因
又は個別的要因に係る想定上の条件がある。
不動産の現実の利用状況と異なる状態を前提とする条件のうち、独立鑑定評価や貸家及びその
敷地を自用の建物及びその敷地として鑑定評価を行う等の鑑定評価の類型や種別の相違に係る条
件は、対象確定条件となる。
- 29 -
また、土地又は建物の工事完了にかかる条件のうち、建物の新築の他、下記のような条件は未
竣工建物等鑑定評価として対象確定条件となる。
ア
建物増改築工事や修繕工事に伴い、用途、規模(建築面積、延面積、有効面積)、主要構造、
形状に変更が生じる場合。
イ
土地造成工事に伴い、面積、形状の変更及び区画形質の変更(道路や水路等の新設、廃止、
異動等による区画の変更、切土、盛土又は土地の種別の変更)に該当する場合。
一方、下記のような場合は、対象確定条件ではなく、個別的要因に係る想定上の条件として取
り扱う。
ア
土壌汚染やアスベスト等の有害物質の除去等の工事の完了を条件とする場合
イ
土地造成工事等で、供給処理施設に係る工事の完了を条件とする場合
ウ
建物の内装変更や簡易な修繕(用途、規模、主要構造、形状に変更がない場合)に係る工事
完了を前提とする場合
造成工事、建築工事などで工事完了直前の場合 11 に、工事完了を前提とする場合
エ
現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定しても鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれ
がないかどうかの確認を行う必要があるので、このような条件を設定する場合には、依頼の背景
を踏まえて、公表の有無及び提出先や開示先の範囲及び属性を確認し、確認書に記載する必要が
ある。
11
主たる工事が完了し一部の内装工事等を残すだけの状態等、建物や造成後の土地として
外形上も鑑定評価の対象となりうる状態と認められる場合。この場合はウの簡易な修繕等と同
様と考えられる(「基準実務指針」25 頁、26 頁)。
- 30 -
〔問題 10〕 新築工事中であり、まだ完成していない賃貸用共同住宅とその敷地を、当該新築工事
が完了したものとして行う鑑定評価に関する次のイからニまでの記述のうち、正しいものをすべ
て掲げた組み合わせはどれか。
イ
当該鑑定評価が証券化対象不動産に関するものである場合には、予定通り当該新築工事が
完了した場合の価額から、工事が中止等になった場合に生じ得る最大の損害額を控除して、
鑑定評価額としなければならない。
ロ
当該鑑定評価で求める価格の種類は、常に特定価格となる。
ハ
当該鑑定評価を行うに当たっては、当該新築工事に関する法令上必要な許認可等が取得さ
れていることを確認するほか、発注者の資金調達能力等の観点からも工事完了の実現性が高
いことを確認しなければならない。
ニ
価格時点において現に未払いの工事代金が残っている場合でも、DCF 法の適用にあたっ
て、この未払い代金を考慮する必要はない。
⑴
イのみ
⑵
ハのみ
⑶
イとハ
⑷
ロとハ
⑸
ハとニ
正解
イ
⑸
誤り。
証券化対象不動産の未竣工建物等鑑定評価は、当該未竣工建物等に係る法令上必要な許認可等
が取得され、発注者の資金調達能力等の観点から工事完了の実現性が高いと判断されなければな
らず、これらに加え、工事の中止、工期の延期又は工事内容の変更が発生した場合に生じる損害
が、当該不動産に係る売買契約上の約定や各種保険等により回避される場合に限り行うことがで
きる。
第2節
証券化対象不動産について未竣工建物等鑑定評価を行う場合の要件
証券化対象不動産の未竣工建物等鑑定評価は、総論第5章第1節Ⅰ2.なお書きに定める要
件に加え、工事の中止、工期の延期又は工事内容の変更が発生した場合に生じる損害が、当該
不動産に係る売買契約上の約定や各種保険等により回避される場合に限り行うことができる。
証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、投資家保護の観点が重要であるため、安易に評価
条件を付することは許されず、原則として現状を所与として鑑定評価を行う必要がある。ただし、
竣工の実現性が高いことが客観的に認められる建物等については、当該建物等の竣工を前提とし
て、対象確定条件に係る未竣工建物等鑑定評価を行うことができる。この場合には、物的確認及
び権利の態様の確認のための資料があること並びに実現性及び合法性の観点から当該条件設定の
妥当性が認められることが必要であるほか、不特定多数の投資家等の利益保護の観点から、建物
等が未竣工であることに起因するリスクが担保されていることが必要である(「証券化実務指針」
12 頁)。
- 31 -
ロ
誤り。
未竣工建物等鑑定評価という対象確定条件の場合、鑑定評価によって求める価格の種類は正常
価格である。
1.対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。
対象確定条件は、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借
権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件であり、依頼目的に
応じて次のような条件がある。
(5) 造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(建物を新築するもののほか、
増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として鑑定評価の
対象とすること(この場合の鑑定評価を未竣工建物等鑑定評価という。)。
造成中又は造成予定の土地や、建築(増改築や大修繕工事を含む。)中又は建築予定の建物につ
いて、価格時点(評価を行う現在の時点)において工事が完了していることを前提として行う条
件の鑑定評価を「未竣工建物等鑑定評価」という。
工事が完了していることを前提とするとは、価格時点において、当該建物等の工事が完了し、
その使用収益が可能な状態であることを前提として鑑定評価を行うことである。対象不動産を完
成後賃貸に供する予定である場合では、建物が使用可能なものであれば足り、必ずしも賃貸用不
動産として安定稼働している状態を想定するものではない(「基準実務指針」23 頁)。
ハ
正しい。
未竣工建物鑑定評価の対象確定条件に関する規定内容である。
2.対象確定条件を設定するに当たっては、対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を
行った上で、依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうか
の観点から当該条件設定の妥当性を確認しなければならない。
なお、未竣工建物等鑑定評価を行う場合は、上記妥当性の検討に加え、価格時点において想
定される竣工後の不動産に係る物的確認を行うために必要な設計図書等及び権利の態様の確認
を行うための請負契約書等を収集しなければならず、さらに、当該未竣工建物等に係る法令上
必要な許認可等が取得され、発注者の資金調達能力等の観点から工事完了の実現性が高いと判
断されなければならない。
未竣工建物等鑑定評価の場合は、工事が完了しておらず物的に存していない対象を想定して評
価対象とするので、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点に加え、設
計図書等の物的確認のための詳細な資料や請負契約書等の権利の態様の確認のための資料がある
こと並びに実現性及び合法性の観点から妥当なものでなければならない 10。
実現性とは、発注者の資金調達能力や請負業者の施工能力等の観点から工事完成の確実性が認
められることをいう。
合法性とは、建築確認や開発許可等を取得していること(修繕工事等で法令上許認可が必要で
ない場合は除く。)など公法上及び私法上の諸規制に反しないことをいう。
実現性の確認に当たっては、経済状況等も勘案して、工事発注者の工事完成の意思と資金調達
能力を確認(財務状況等の調査により工事の完成に必要な追加借入等が可能かどうかを確認)す
るとともに、当該工事を行う請負業者の施工能力についても施工実績等を調査する等により確認
する必要がある。
- 32 -
未竣工建物等鑑定評価の条件設定については、現実の利用状況は未竣工の状態であることを鑑
定評価書に明記したうえで、鑑定評価書の利用者の範囲、判断能力等に注意して条件設定を行う
必要がある。工事完了を想定した価格を知ることは担保評価としても有用であるが、現実の利用
状況と異なることやリスクを十分認識した関係者のみで活用されるものであるので、鑑定評価書
の利用者の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある証券化対象不動産(基準各論第3章第1節に
おいて規定するものをいう。)の鑑定評価の場合には、基準各論第3章第2節に定める要件を満
たす必要がある。
10
実現性の確認や対象不動産の確認の判断に当たっては、設計図書等の資料の質や工事に関与
している者の属性等と並んで、当該工事に着手しているかどうかも一つの判断要素と考えられ
る。(「基準実務指針」24 頁、25 頁)。
ニ
正しい。
未竣工建物等鑑定評価は、価格時点において、当該建物等の工事が完了し、その使用収益が可
能な状態であることを前提として鑑定評価を行うもので、発注者の資金調達能力等の観点から工
事完了の実現性が高いと判断されなければならない。価格時点において、工事代金が残っていて
も未払い代金は考慮しなくてもよい。
2.対象確定条件を設定するに当たっては、対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を
行った上で、依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうか
の観点から当該条件設定の妥当性を確認しなければならない。
なお、未竣工建物等鑑定評価を行う場合は、上記妥当性の検討に加え、価格時点において想
定される竣工後の不動産に係る物的確認を行うために必要な設計図書等及び権利の態様の確認
を行うための請負契約書等を収集しなければならず、さらに、当該未竣工建物等に係る法令上
必要な許認可等が取得され、発注者の資金調達能力等の観点から工事完了の実現性が高いと判
断されなければならない。
実現性とは、発注者の資金調達能力や請負業者の施工能力等の観点から工事完成の確実性が認
められることをいう。
合法性とは、建築確認や開発許可等を取得していること(修繕工事等で法令上許認可が必要で
ない場合は除く。)など公法上及び私法上の諸規制に反しないことをいう。
実現性の確認に当たっては、経済状況等も勘案して、工事発注者の工事完成の意思と資金調達
能力を確認(財務状況等の調査により工事の完成に必要な追加借入等が可能かどうかを確認)す
るとともに、当該工事を行う請負業者の施工能力についても施工実績等を調査する等により確認
する必要がある(「基準実務指針」24 頁)。
- 33 -
〔問題 11〕不動産の鑑定評価によって求める価格に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
⑴
正常価格を求めるに当たり、隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する取引事例を採用
する場合には、当該事例につき事情補正を行わなければならない。
⑵
正常価格が前提とする最有効使用は、良識と通常の使用能力を持つ人による最高最善の使用
方法に基づくことが原則であるが、特別な能力を持つ人によって大きな収益を上げ得る使用方
法に基づく場合もある。
⑶
正常価格が前提とする市場の条件の1 つとして、対象不動産が相当の期間市場に公開され
ていることがある。この相当の期間は、価格時点の相違により異なるものではない。
⑷
特定価格として求める要件に該当するが、結果的に正常価格と同一の市場概念の下において
形成されるであろう市場価値と乖離しないと判断した場合には、価格の種類を正常価格とし、
そのように判断した理由を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
⑸
特殊価格の鑑定評価は、文化財の指定を受けた建造物や宗教建築物又は現況による管理を継
続する公共公益施設の用に供されている不動産について、その保存等に主眼をおいて行うもの
であり、その不動産の文化財的な価値を求めるものである。
正解
⑴
⑷
誤り。
隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する取引事例に係る取引価格を正常価格に補正がで
きる場合は適切に補正を行うが、これは事情補正ではない。
隣接地の取引事例は、正常価格又は限定価格のいずれを指向して取引されたかを単独利用目的
か併合利用目的か等の観点から分別することが必要である。正常価格を求める場合において、限
定価格を指向した取引事例の場合は、正常なものに補正可能か否かを検討しなければならない。
また、売主が市場の事情に精通していたか否か、隣接する土地との併合の採算性をどの程度ま
で考慮したか等、利用度及び採算性の認識の程度が取引価格に大きく影響するので、周辺の取引
事例等によりその妥当性を判断し、事情補正が可能なものに限り採用することができる(「中間報
告」)。
試算価格を求める場合の一般的留意事項で規定しているとおり、特殊な事情とは、正常価格を
求める場合には、正常価格の前提となる現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる諸条件を
欠くに至らしめる事情のことである。
(2) 事情補正及び時点修正
取引事例が特殊な事情を含み、これが当該事例に係る取引価格に影響していると認められる
ときは、適切な補正を行い、取引事例に係る取引の時点が価格時点と異なることにより、その
間に価格水準の変動があると認められるときは、当該事例の価格を価格時点の価格に修正しな
ければならない。
⑵
誤り。
市場参加者が、対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行う場合の最有効使用は、現
実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的
な最高最善の使用方法に基づくものである。
1.正常価格
- 34 -
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えら
れる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。この場合
において、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場とは、以下の条件
を満たす市場をいう。
(1) 市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること。
なお、ここでいう市場参加者は、自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすと
ともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとする。
①
売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと。
②
対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通
常の知識や情報を得ていること。
③
取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること。
④
対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。
⑤
買主が通常の資金調達能力を有していること。
(2) 取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような
特別なものではないこと。
(3) 対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。
Ⅳ
最有効使用の原則
不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最
有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効
使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理
的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。
なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているもので
はなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮
していない場合があることに留意すべきである。
⑶
誤り。
対象不動産の種別(用途的地域の種別)、類型(宅地、建物及びその敷地)によって、価格時点
が異なれば、相当の期間は異なるものとなる。
(1) 正常価格について
現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件について
②
対象不動産が相当の期間市場に公開されていることについて相当の期間とは、対象不動産
の取得に際し必要となる情報が公開され、需要者層に十分浸透するまでの期間をいう。なお、
相当の期間とは、価格時点における不動産市場の需給動向、対象不動産の種類、性格等によ
って異なることに留意すべきである。
また、公開されていることとは、価格時点において既に市場で公開されていた状況を想定
することをいう(価格時点以降売買成立時まで公開されることではないことに留意すべきで
ある。)。
- 35 -
⑷
正しい。
鑑定評価報告書の記載事項である、鑑定評価の依頼目的及び依頼目的に対応した条件と価格又
は賃料の種類との関連に関する内容である。
鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるとこ
ろに留意して記載しなければならない。
Ⅴ
鑑定評価の依頼目的及び依頼目的に対応した条件と価格又は賃料の種類との関連
鑑定評価の依頼目的に対応した条件により、当該価格又は賃料を求めるべきと判断した理由
を記載しなければならない。特に、特定価格を求めた場合には法令等による社会的要請の根拠、
また、特殊価格を求めた場合には文化財の指定の事実等を明らかにしなければならない。
正常価格を求める場合は、その前提となる合理的と考えられる条件を満たす市場を前提として
いる旨を記載する。
特定価格や限定価格等を求めた場合には、依頼目的に対応した条件の設定により正常価格の前
提となる諸条件を満たさなくなるため、依頼目的と設定した条件との関係を明確に記載する必要
がある。
特に特定価格は、法令等による社会的要請を背景にして求めるものであるので、当該法令等に
よる社会的要請の根拠を記載する必要がある
なお、特定価格として求める要件に該当するが、対象不動産について、結果的に正常価格と同
一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離しないと判断された場合は、価格
の種類としては「正常価格」となるが、乖離する場合と同様に、根拠となる法令等による社会的
要請の内容及び依頼目的(鑑定評価目的)に対応した条件を記載するとともに、正常価格と同一
の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離しないと判断した理由を記載する
(「基準実務指針」97 頁)。
⑸
誤り。
特殊価格の鑑定評価は、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況による管理を継続
する公共公益施設の用に供されている不動産の保存等に主眼をおいた鑑定評価であり、文化財的
な価値を求めるものではない。
4.特殊価格
特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前
提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
特殊価格を求める場合を例示すれば、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況に
よる管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産について、その保存等に主眼をお
いた鑑定評価を行う場合である。
- 36 -
〔問題 12〕 不動産の価格又は賃料の種類に関する次のイからホまでの記述のうち、正しいものを
すべて掲げた組み合わせはどれか。
イ
建物及びその敷地である対象不動産について、売買に当たり「現状の建物用途を継続して
使用すること」という買受特約が付された場合において、当該特約を踏まえた鑑定評価を行
う場合の価格の種類は、いかなる場合も正常価格とはならない。
ロ
隣接不動産の併合使用を前提とする新たな賃貸借等に関連する地代の鑑定評価を行う場合
であっても、求めた賃料と正常価格と同一の市場概念の下において形成される市場価値とに
乖離が認められない場合の賃料の種類は、いかなる場合も限定賃料とはならない。
ハ
民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合の価格
の種類は、いかなる場合も特定価格となる。
ニ
特定目的会社が投資対象資産としての不動産を取得する際の鑑定評価において、資産流動
化計画に定められた運用計画と対象不動産の最有効使用が異なる場合の価格の種類は、いか
なる場合も特定価格となる。
ホ
文化財の指定を受けた建造物や宗教建築物について鑑定評価を行う場合の価格の種類は、
いかなる場合も特殊価格となる。
⑴
イとロ
⑵
ロとハ
⑶
ロとニ
⑷
ニとホ
⑸
イとニとホ
正解
イ
⑶
誤り。
現状の建物用途を継続して使用することという買受特約が付された場合の当該特約を踏まえた
鑑定評価は、不動産が土地及び建物等の結合により構成されている状態を所与として鑑定評価の
対象とするという、対象確定条件であり、ほかに条件がなければ、鑑定評価によって求める価格
の種類は正常価格である。
1.対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。
対象確定条件は、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借
権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件であり、依頼目的に
応じて次のような条件がある。
(1) 不動産が土地のみの場合又は土地及び建物等の結合により構成されている場合において、
その状態を所与として鑑定評価の対象とすること。
ロ
正しい。
隣接不動産の併合使用を前提とする新たな賃貸借における地代の鑑定評価でも、不動産と賃借
する隣接不動産との併合に基づき正常賃料と同一の市場概念の下において形成されるであろう経
済価値と乖離がない場合、賃借部分の経済価値を適正に表示する賃料は、限定賃料にはならない。
選択肢ロでは、正常価格と同一の市場概念の下において形成される市場価値とに乖離が認めら
れない場合の賃料となっているが、「基準」では、賃料について、市場価値と表現していない。
- 37 -
「基準」の定義を厳格に解釈すれば、選択肢ロは誤りである。
正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等(賃借権若しくは地上
権又は地役権に基づき、不動産を使用し、又は収益することをいう。)の契約において成立するで
あろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。
限定賃料とは、限定価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立す
るであろう経済価値を適正に表示する賃料(新規賃料)をいう。
限定賃料を求めることができる場合を例示すれば、次のとおりである。
(1) 隣接不動産の併合使用を前提とする賃貸借等に関連する場合
(2) 経済合理性に反する不動産の分割使用を前提とする賃貸借等に関連する場合
限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不
動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるで
あろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該
市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。
ハ
誤り。
「留意事項」、「基準実務指針」では、価格の種類を明確にしていないが、早期売却による減価
が生じないと判断される特段の事情があるとき、対象不動産に対する需要が高く、標準的な市場
公開期間を経て成立する価格と当該期間より短期間で成立しうる価格との間に特段の差異が認め
られない場合がある。
特定価格を求める場合の例として掲げられているものについて、それぞれの場合ごとに特定価
格を求める理由は次のとおりである。
イ
民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
この場合は、民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、財産を処分するものとしての価格を
求めるものであり、対象不動産の種類、性格、所在地域の実情に応じ、早期の処分可能性を考
慮した適正な処分価格として求める必要がある。
鑑定評価に際しては、通常の市場公開期間より短い期間で売却されることを前提とするもの
であるため、早期売却による減価が生じないと判断される特段の事情がない限り特定価格とし
て求めなければならない。
(b) 民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
この場合の鑑定評価目的は、対象不動産を処分するものとして、競売手続も念頭に売却した
場合の市場価値を適切に関係者に開示することにあるので、通常より短期間で売却した場合の
適正な処分価格として求める必要がある。
対象不動産に対する需要が高く、標準的な市場公開期間を経て成立する価格と当該期間より
短期間で成立しうる価格との間に特段の差異が認められない場合を除いて、適切に早期売却に
よる減価を反映した価格を求める必要がある(「基準実務指針」94 頁)。
b
民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
◆依頼目的
資産評価(民事再生法第 124 条に基づく財産評定のため)
◆依頼目的に対応した条件と価格の種類との関連
- 38 -
「依頼目的により、本件鑑定評価は、民事再生法第 124 条に基づく財産評定のための鑑定評
価を行うものであり、同法に基づき「処分するものとして」の価格、すなわち、早期売却を前
提とした価格を求める。当該価格は、正常価格が前提とする通常の市場公開期間より短い期間
で売却されることを前提とする価格であり、対象不動産の市場からは正常価格と異なることが
推定される。したがって、本件鑑定評価では、特定価格(早期売却を前提とした価格)を求め
る。」(「基準実務指針」98 頁、99 頁)
ニ
正しい。
各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すため
の投資採算価値を表す価格を求める場合に関する規定内容である。
特定価格を求める場合の例として掲げられているものについて、それぞれの場合ごとに特定価
格を求める理由は次のとおりである。
ア
各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すた
めの投資採算価値を表す価格を求める場合
この場合は、投資法人、投資信託又は特定目的会社等(以下「投資法人等」という。)の投資
対象となる資産(以下「投資対象資産」という。)としての不動産の取得時又は保有期間中の価
格として投資家に開示することを目的に、投資家保護の観点から対象不動産の収益力を適切に
反映する収益価格に基づいた投資採算価値を求める必要がある。
投資対象資産としての不動産の取得時又は保有期間中の価格を求める鑑定評価については、
上記鑑定評価目的の下で、資産流動化計画等により投資家に開示される対象不動産の運用方法
を所与とするが、その運用方法による使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合
には特定価格として求めなければならない。なお、投資法人等が投資対象資産を譲渡するとき
に依頼される鑑定評価で求める価格は正常価格として求めることに留意する必要がある。
この場合の鑑定評価目的は、投資対象不動産の投資採算価値を適切に開示することにあるので、
投資法人等が計画している運用方法に基づいて、標準的な投資期間に得られる収益に基づく投資
採算価値を求める必要がある。
投資法人等が計画している運用方法は、必ずしも対象不動産の最有効使用と一致するものでは
ないので、正常価格の前提となる市場の合理的と考えられる条件のうち、
「対象不動産の最有効使
用を前提とした価値判断を行うこと(基準総論第5章第3節1④」を満たさない可能性がある。
また基準各論第1章第4節Ⅰに規定している投資採算価値を表す価格を求める鑑定評価の手法は、
標準的な投資期間に得られる収益に基づいて価格判断を行うためのものであり、必ずしも対象不
動産の正常価格を求める場合に適用する鑑定評価の手法と一致するものではない。
したがって、上記鑑定評価目的の下で、投資法人等が開示する運用方法を所与とすることによ
り、正常価格を求める場合の条件の内容と異なることとなる場合には特定価格として求めなけれ
ばならない。
流動化型の証券化の場合には、対象不動産が必ずしも一般投資家の投資対象として適格な不動
産とは限らないため、正常価格と投資採算価値を表す特定価格に乖離が生じる場合も多いが、
REIT 等による運用型の証券化の場合は、標準的な投資期間に得られる収益に基づいて市場が形
成されている場合が多いので、結果として正常価格を求める場面が大半を占めることが想定され
る。
- 39 -
一方、対象不動産の最有効使用と異なる運用方法を前提とする場合や市場価値と収益価格が乖
離しているような不動産については、正常価格との相違を示すことにより投資家への注意喚起を
行うことが必要である。
したがって、運用型の証券化の場合においても対象不動産の属する市場の特定等(特に収益価
格によって価格形成がなされているものであるか。)を慎重に分析する必要があり、安易に「正常
価格との乖離はない」、と判断しないよう慎重な対応が必要である(「基準実務指針」93 頁)。
ホ
誤り。
「いかなる場合も」ということが誤りである。文化財の指定を受けた建造物で文化財の指定で
なくなった建造物や宗教建築物の用途を廃止した建築物などの鑑定評価において、求める価格の
種類は特殊価格にはらない。
4.特殊価格
特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前
提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
特殊価格を求める場合を例示すれば、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況に
よる管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産について、その保存等に主眼をお
いた鑑定評価を行う場合である。
- 40 -
〔問題
13〕 下記の各説明文は、地域分析に関する記述である。次のイからニまでの空欄に入る語
句として、正しいものの組み合わせはどれか。
・
見込地及び移行地の地域要因の分析に当たっては、特に イ の地域要因の変化の推移、動
向がそれらの土地の変化の動向予測に当たって有効な資料となる。
・ 同一需給圏は、近隣地域と類似地域を含む圏域であるが、同一需給圏には、近隣地域の ロ 。
・
建物及びその敷地の同一需給圏は、一般に当該 ハ に応じた同一需給圏と一致する傾向が
ある。
・
近隣地域の地域分析は、 ニ
や近隣地域を含む広域的な地域に係る地域要因を把握し、
分析しなければならない。
⑴
⑵
⑶
⑷
⑸
正解
イ
「同一需給圏」
ロ
「周辺地域も含まれる」
ハ
「敷地の用途」
ニ
「対象不動産の最有効使用」
イ
「同一需給圏」
ロ
「周辺地域は含まれない」
ハ
「建物及びその敷地一体としての用途」 ニ
「対象不動産に係る市場の特性」
イ
「周辺地域」
「周辺地域は含まれない」
ハ
「建物及びその敷地一体としての用途」 ニ
「対象不動産に係る市場の特性」
イ
「周辺地域」
「周辺地域も含まれる」
ハ
「建物及びその敷地一体としての用途」 ニ
「対象不動産の最有効使用」
イ
「周辺地域」
ロ
「周辺地域も含まれる」
ハ
「敷地の用途」
ニ
「対象不動産に係る市場の特性」
ロ
ロ
⑸
・
見込地及び移行地の地域要因の分析に当たっては、特に イ 周辺地域 の地域要因の変化の推
移、動向がそれらの土地の変化の動向予測に当たって有効な資料となる。
・ 同一需給圏は、近隣地域と類似地域を含む圏域であるが、同一需給圏には、近隣地域の ロ周辺
地域も含まれる 。
・
建物及びその敷地の同一需給圏は、一般に当該 ハ 敷地の用途 に応じた同一需給圏と一致す
る傾向がある。
・
近隣地域の地域分析は、 ニ 対象不動産に係る市場の特性
や近隣地域を含む広域的な地域に
係る地域要因を把握し、分析しなければならない。
(2) 同一需給圏
同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に
影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。それは、近隣地域を含んでよ
り広域的であり、近隣地域と相関関係にある類似地域等の存する範囲を規定するものである。
⑤
建物及びその敷地
同一需給圏は、一般に当該敷地の用途に応じた同一需給圏と一致する傾向があるが、当該建
物及びその敷地一体としての用途、規模、品等等によっては代替関係にある不動産の存する範
囲が異なるために当該敷地の用途に応じた同一需給圏の範囲と一致しない場合がある。
(1) 近隣地域の地域分析について
③
近隣地域の地域分析においては、対象不動産の存する近隣地域に係る要因資料についての
- 41 -
分析を行うこととなるが、この分析の前提として、対象不動産に係る市場の特性や近隣地域
を含むより広域的な地域に係る地域要因を把握し、分析しなければならない。このためには、
日常から広域的な地域に係る要因資料の収集、分析に努めなければならない。
④
近隣地域の地域分析における地域要因の分析に当たっては、近隣地域の地域要因について
その変化の過程における推移、動向を時系列的に分析するとともに、近隣地域の周辺の他の
地域の地域要因の推移、動向及びそれらの近隣地域への波及の程度等について分析すること
が必要である。この場合において、対象不動産に係る市場の特性が近隣地域内の土地の利用
形態及び価格形成に与える影響の程度を的確に把握することが必要である。
なお、見込地及び移行地については、特に周辺地域の地域要因の変化の推移、動向がそれ
らの土地の変化の動向予測に当たって有効な資料となるものである。
- 42 -
〔問題 14〕 以下の内容を前提とする対象不動産の個別分析に関する次の記述のうち、正しいもの
はどれか。
〔前提とする事項〕
対象不動産は築 40 年・2階建ての賃貸共同住宅(地積は 500 ㎡で、賃借人は1名のみ存在)。鑑
定評価の依頼目的は「相続のための時価評価」で、依頼者(相続人)は現状の建物の継続利用を予定。
近隣地域では、400 ㎡を超える土地には中層共同住宅が建築される傾向にある。
⑴
築 40 年の賃貸共同住宅であり、また賃借人が1名のみであるので、近隣地域及び同一需給圏
内の類似地域の賃貸共同住宅の市場動向の把握や賃貸借契約の内容の確認及び分析を行う必要
がないと判断した。
⑵
対象不動産は貸家及びその敷地であり、依頼目的が売買ではないこと及び依頼者が継続利用
を予定していることを理由として、建物及びその敷地の最有効使用を現状の建物のままで継続
使用することと判定した。
⑶
対象地を分割し戸建住宅地として利用する場合の経済合理性の方が、中層共同住宅地として
一体利用する場合の経済合理性より優ると認められたが、近隣地域の状況及び対象地の規模を
踏まえ、対象地の更地としての最有効使用を中層共同住宅地と判定した。
⑷
建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たり、対象建物を取り壊して更地化する場合の経
済合理性の判断において、対象建物の解体工事費のほか、賃借人の立退きに伴う費用や立退き
に要する期間なども考慮した。
⑸
更地としての最有効使用を中層共同住宅地と判定したが、現状は2 階建てであり、更地とし
ての最有効使用と現状の利用用途が異なることを理由として、建物及びその敷地の最有効使用
について対象建物を取り壊して更地化することと判定した。
正解
⑴
⑷
誤り。
築 40 年の2階建て賃貸共同住宅で賃借人が1名の状態を所与として、貸家及びその敷地とし
て鑑定評価を行う場合、近隣地域及び同一需給圏内の類似地域の賃貸共同住宅の市場動向の把握
や賃貸借契約の内容の確認及び分析を行う。
市場動向の把握は、将来の収益を予測する上で必要不可欠なもので、これに加えて、地域要因
としての近隣地域全体としての同一用途に係る貸室空室率の動向も把握する必要がある
賃貸借契約の内容の確認は、賃貸借契約の形態(定期借家であるか普通借家であるか)、賃料改
定に関する特約の有無や解約予告期間、解約時の違約金に関する特約及び退去時の原状回復義務
の範囲等並びに賃貸借契約で定められた賃貸条件等について確認をしなければならない。
Ⅲ
建物及びその敷地に関する個別的要因
さらに、賃貸用不動産に関する個別的要因には、賃貸経営管理の良否があり、その主なもの
を例示すれば、次のとおりである。
1.賃借人の状況及び賃貸借契約の内容
2.貸室の稼働状況
3.躯体・設備・内装等の資産区分及び修繕費用等の負担区分
- 43 -
3.建物及びその敷地に関する個別的要因について
(1) 修繕計画及び管理計画の良否並びにその実施の状態
大規模修繕に係る修繕計画の有無及び修繕履歴の内容、管理規則の有無、管理委託先、管
理サービスの内容等に特に留意する必要がある。
(2) 賃借人の状況及び賃貸借契約の内容
賃料の滞納の有無及びその他契約内容の履行状況、賃借人の属性(業種、企業規模等)、総
賃貸可能床面積に占める主たる賃借人の賃貸面積の割合及び賃貸借契約の形態等に特に留意
する必要がある。
賃貸経営管理の良否は賃貸不動産の価格に大きな影響を与えるものであるが、売買等を契機と
して現況と同様の賃貸経営管理が継続されない可能性もあるため、これを踏まえて価格を求める
ことに留意しなければならない。
賃借人の状況及び賃貸借契約の内容は、賃料の滞納の有無及びその他契約内容の履行状況、賃
借人の属性(業種、企業規模等)、総賃貸可能床面積に占める主たる賃借人の賃貸面積の割合とい
った賃借人の信用力、対象不動産の価格への影響度のほか、賃貸借契約の形態(定期借家である
か普通借家であるか)、賃料改定に関する特約の有無や解約予告期間、解約時の違約金に関する特
約及び退去時の原状回復義務の範囲等並びに賃貸借契約で定められた賃貸条件とその確実性も考
慮しなければならない。
貸室の稼働状況を示す価格時点現在の空室率やその過去からの推移は、賃貸用不動産の将来の
収益を予測する上で必要不可欠なものである。さらにこれに加えて、地域要因としての近隣地域
全体としての同一用途に係る貸室空室率の動向も把握する必要がある(「基準実務指針」14 頁)。
⑵
誤り。
対象不動産を貸家及びその敷地として現状所与で鑑定評価することと、対象不動産の最有効使
用の判定は内容の異なるものである。
対象不動産の現実の建物の用途を継続する場合の経済価値と建物の取壊しを行う場合の実現可
能性、これに要する費用を適切に勘案した経済価値を十分に比較考量して、対象不動産の最有効
使用の判定を行う。
建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきである。
(6) 現実の建物の用途等が更地としての最有効使用に一致していない場合には、更地としての最
有効使用を実現するために要する費用等を勘案する必要があるため、建物及びその敷地と更地
の最有効使用の内容が必ずしも一致するものではないこと。
(7) 現実の建物の用途等を継続する場合の経済価値と建物の取壊しや用途変更等を行う場合のそ
れらに要する費用等を適切に勘案した経済価値を十分比較考量すること。
⑶
誤り。
建物を取壊したのち、戸建住宅地として分割利用する場合の経済価値が、中層共同住宅地とし
て一体利用する場合の経済価値より優っている場合、対象不動産の更地としての最有効使用は、
分割利用を前提とした戸建住宅地としての使用である。
建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきである。
(7) 現実の建物の用途等を継続する場合の経済価値と建物の取壊しや用途変更等を行う場合のそ
- 44 -
れらに要する費用等を適切に勘案した経済価値を十分比較考量すること。
⑷
正しい。
建物の取壊しを行う場合には、建物の解体工事費、賃借人は一人であるが賃借人の立退きに伴
う費用、立退きに要する期間等の実現可能性を適切に勘案した経済価値を十分に考慮する必要が
ある。
建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきである。
(7) 現実の建物の用途等を継続する場合の経済価値と建物の取壊しや用途変更等を行う場合のそ
れらに要する費用等を適切に勘案した経済価値を十分比較考量すること。
②
建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たっての留意点
最有効使用の観点から現実の建物の取壊しや用途変更等を想定する場合において、それらに
要する費用等を勘案した経済価値と当該建物の用途等を継続する場合の経済価値とを比較考量
するに当たっては、特に下記の内容に留意すべきである。
ア
物理的、法的にみた当該建物の取壊し、用途変更等の実現可能性
イ
建物の取壊し、用途変更等を行った後における対象不動産の競争力の程度等を踏まえた収
益の変動予測の不確実性及び取壊し、用途変更に要する期間中の逸失利益の程度
⑸
誤り。
鑑定評価の依頼目的は相続のための時価評価、対象確定条件は、対象不動産(築 40 年・2階建
ての賃貸共同住宅)の現状を所与と鑑定評価を行うものである。この場合、対象不動産の最有効
使用の判定と対象不動産の敷地の更地としての最有効使用の判定を行う。
Ⅶ
鑑定評価額の決定の理由の要旨
鑑定評価額の決定の理由の要旨は、下記に掲げる内容について記載するものとする。
2.最有効使用の判定に関する事項
最有効使用及びその判定の理由を明確に記載する。なお、建物及びその敷地に係る鑑定評
価における最有効使用の判定の記載は、建物及びその敷地の最有効使用のほか、その敷地の
更地としての最有効使用についても記載しなければならない。
- 45 -
〔問題 15〕 鑑定評価の手法に関する次のイからホまでの記述のうち、誤っているものをすべて掲
げた組み合わせはどれか。
イ
価格形成要因のうち一般的要因は、鑑定評価手法の適用における各手順において常に考慮
されるべきものである。
ロ
取引事例比較法で選択する取引事例は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域における取
引事例でなければならない。
ハ
賃貸事例比較法で採用した賃貸事例が対象不動産の近隣地域に存する場合には、地域要因
の比較を行う必要はない。
ニ
取引事例比較法を適用する場合の地域要因の比較と賃貸事例比較法を適用する場合の地域
要因の比較では、同じ地域間の比較であっても、地域間の格差が異なる場合がある。
ホ
建物の再調達原価を構成する、発注者が直接負担すべき通常の付帯費用には、通常の資金
調達費用が含まれる場合がある。この資金調達費用は当該建物の建物引渡しまでに要する期
間の長さの影響を受ける。
⑴
イのみ
⑵
ロのみ
⑶
イとハ
⑷
ロとホ
⑸
ニとホ
正解
イ
⑵
正しい。
一般的要因と鑑定評価の各手法の適用との関連に関する規定内容である。
1.一般的要因と鑑定評価の各手法の適用との関連
価格形成要因のうち一般的要因は、不動産の価格形成全般に影響を与えるものであり、鑑定
評価手法の適用における各手順において常に考慮されるべきものであり、価格判定の妥当性を
検討するために活用しなければならない。
3
価格形成要因の分析にあたり考慮すべき事項
(1) 不動産の価格を形成する要因(価格形成要因)のうち一般的要因は、地域分析にあたりま
ず考慮されるものであるが、個別分析及びそれに続く手順の全過程においても考慮されるべ
きものであり、絶えず価格判定の妥当性を験証する有力な基準として活用されなければなら
ない。
(2) とくに、所得水準、国民所得等の経済的要因の動向は、価格を分析し、追求する全過程に
おいて常に考慮されるべきであるとともに、これらに関連する資料の収集、分析を常時行わ
なければならない。
(3) 土地利用に関する計画及び規制等の行政的要因は、不動産とくに土地の経済価値の判定に
大きく作用するものであり、かつ、正常な価格を求めるための最有効使用の原則及び適合の
原則を適用するにあたつての制約条件となるものであるから、絶えず法制の整備運用の実態、
規範性等の把握に努めなければならない(「建議)。
- 46 -
ロ
誤り。
必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象
不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るも
ののうちから選択する。
(1) 事例の収集及び選択
取引事例比較法は、市場において発生した取引事例を価格判定の基礎とするものであるので、
多数の取引事例を収集することが必要である。
取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るものの
うちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産
に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等には、同一需給
圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択するものとするほか、次の要件の全部を備え
なければならない。
①
取引事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができ
るものであること。
②
時点修正をすることが可能なものであること。
③
地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。
取引事例比較法の適用における取引事例等の選択において、最有効使用が標準的使用と異なる
場合等には、不動産の存する地域の特性の類似性よりも、むしろ個々の不動産の用途、規模、品
等等の類似性に着目することが有効であるので、このような場合には必ずしも従来の地域概念に
とらわれず、同一需給圏内において対象不動産と代替、競争等の関係にある不動産に係る取引事
例等を選択すべきことを規定した(国土交通省 社団法人日本不動産鑑定協会 平成 14 年改正「不
動産鑑定評価基準 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項 研修会テキスト」21 頁、22 頁)。
ハ
正しい。
賃貸事例比較法で採用した賃貸事例が対象不動産の属する近隣地域にある場合、地域要因が同
じであるから、地域要因の比較は行わない。
賃貸事例比較法で採用した賃貸事例となっているだけであるが、新規賃料を求める鑑定評価の
手法である賃貸事例比較法、継続賃料を求める鑑定評価の手法である賃貸事例比較法がある。
ニ
正しい。
賃貸事例比較法に関する留意事項の規定内容である。
①
事例の収集及び選択
賃貸借等の事例の収集及び選択については、取引事例比較法における事例の収集及び選択に
準ずるものとする。この場合において、賃貸借等の契約の内容について類似性を有するものを
選択すべきことに留意しなければならない。
②
地域要因の比較及び個別的要因の比較について
賃料を求める場合の地域要因の比較に当たっては、賃料固有の価格形成要因が存すること等
により、価格を求める場合の地域と賃料を求める場合の地域とでは、それぞれの地域の範囲及
び地域の格差を異にすることに留意することが必要である。
- 47 -
ホ
正しい。
建物引渡しまでの資金調達費用(借入金及び自己資本に対する配当率)は、建物が竣工し、開
発・販売業者、若しくは建築業者から建物の引渡しを受け、使用収益が可能な状態になるまでの
期間に対応するコストであるから、建物引渡しまでの期間の長さの影響を受ける。
(2) 再調達原価を求める方法
再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す
通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべ
き通常の付帯費用を加算して求めるものとする。
これらの場合における通常の付帯費用には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資金
調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合があることに留意する必要がある。
①
再調達原価を求める方法について
イ
資金調達費用とは、建築費及び発注者が負担すべき費用に相当する資金について、建物引
渡しまでの期間に対応する調達費用をいう。
発注者が直接負担すべき通常の付帯費用としては、土地に関しては公共公益施設負担金や開発
申請諸経費等が、建築に関しては設計監理料、建築確認申請費用、登記費用等があげられる。
さらに、建物が竣工し、開発・販売業者、若しくは建築業者から建物の引渡しを受け、使用収
益が可能な状態になるまでの期間に対応するコストとして、下記に例示する費用についても、適
切に計上しなければならない。
ⅰ
建物引渡しまでの資金調達費用(借入金及び自己資本に対する配当率)
ⅱ
発注者の開発リスク相当額
ⅲ
発注者利益(開発利益・機会費用)
ⅳ
分譲住宅・マンション等の販売費、広告宣伝費
ⅴ
土地の公租公課、地代(開発期間中の固定資産税・都市計画税(借地の場合は地代)相当額)
ⅵ
貸家及びその敷地の評価において賃貸中の不動産としての再調達原価を求める場合のテナン
ト費用
上記ⅰ資金調達費用及びⅱ開発リスク相当額は、分譲マンションや投資用不動産等の開発事業
者によって開発されることが一般的な不動産の再調達原価を求める場合だけでなく、自己建設、
自己使用が一般的な不動産であっても、開発にかかる機会費用と捉えることにより同様に発生す
るものと捉えることができる。
資金調達費用は、建築費及び発注者が負担すべき費用に相当する資金について、土地建物を再
調達する価格時点すなわち建物引渡しまでの期間に対応する金利等である。一方、収益還元法の
項における「資金調達コスト」(基準留意事項Ⅴ.1.(4))は、価格時点以降の期間に対応する金
利等なのでその違いに留意しなければならない(「基準実務指針」120 頁、121 頁)。
- 48 -
〔問題 16〕 対象不動産が建物及びその敷地である場合において、不動産の価格又は賃料を求める
鑑定評価の各手法に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
⑴
原価法は、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であるが、
この場合の再調達原価には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資金調達費用や標準的
な開発リスク相当額を含む場合があり、これは、実際には自己資金で自社ビルを建設した場合
であっても同様である。
⑵
取引事例比較法及び賃貸事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等におい
て、対象不動産と類似の不動産の取引や賃貸借等が行われている場合又は同一需給圏内の代替
競争不動産の取引や賃貸借等が行われている場合に有効である。
⑶
収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に
特に有効であり、総収益は一般に、賃貸用不動産の場合は支払賃料等、賃貸以外の事業の用に
供する不動産の場合は売上高とする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、
賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とすること
ができる。
⑷
積算法は、対象不動産の基礎価格、期待利回り及び必要諸経費等の把握を適切に行い得る場
合に有効であるが、この場合の基礎価格は、対象建物及びその敷地の現状に基づく利用を前提
として成り立つ当該建物及びその敷地の経済価値に即応した価格となることに留意する。
⑸
収益分析法は、企業の用に供されている不動産に帰属する純収益を適切に求め得る場合に有
効であるが、賃貸用不動産であっても、その総収益を分析して収益純賃料及び必要諸経費等を
含む賃料相当額を収益賃料として直接求めることができる。
正解
⑴
⑸
正しい。
資金調達費用及び開発リスク相当額は、分譲マンションや投資用不動産等の開発事業者によっ
て開発されることが一般的な不動産の再調達原価を求める場合だけでなく、自己建設、自己使用
が一般的な不動産であっても、開発にかかる機会費用と捉えることにより同様に発生するものと
捉えることができる。「基準実務指針」の解説である。
(2) 再調達原価を求める方法
再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す
通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべ
き通常の付帯費用を加算して求めるものとする。
これらの場合における通常の付帯費用には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資金
調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合があることに留意する必要がある。
①
再調達原価を求める方法について
イ
資金調達費用とは、建築費及び発注者が負担すべき費用に相当する資金について、建物引
渡しまでの期間に対応する調達費用をいう。
ウ
開発リスク相当額とは、開発を伴う不動産について、当該開発に係る工事が終了し、不動
産の効用が十分に発揮されるに至るまでの不確実性に関し、事業者(発注者)が通常負担す
る危険負担率を金額で表示したものである。
- 49 -
発注者が直接負担すべき通常の付帯費用としては、土地に関しては公共公益施設負担金や開発
申請諸経費等が、建築に関しては設計監理料、建築確認申請費用、登記費用等があげられる。
さらに、建物が竣工し、開発・販売業者、若しくは建築業者から建物の引渡しを受け、使用収
益が可能な状態になるまでの期間に対応するコストとして、下記に例示する費用についても、適
切に計上しなければならない。
ⅰ
建物引渡しまでの資金調達費用(借入金及び自己資本に対する配当率)
ⅱ
発注者の開発リスク相当額
ⅲ
発注者利益(開発利益・機会費用)
ⅳ
分譲住宅・マンション等の販売費、広告宣伝費
ⅴ
土地の公租公課、地代(開発期間中の固定資産税・都市計画税(借地の場合は地代)相当額)
ⅵ
貸家及びその敷地の評価において賃貸中の不動産としての再調達原価を求める場合のテナン
ト費用
上記ⅰ資金調達費用及びⅱ開発リスク相当額は、分譲マンションや投資用不動産等の開発事業
者によって開発されることが一般的な不動産の再調達原価を求める場合だけでなく、自己建設、
自己使用が一般的な不動産であっても、開発にかかる機会費用と捉えることにより同様に発生す
るものと捉えることができる。
資金調達費用は、建築費及び発注者が負担すべき費用に相当する資金について、土地建物を再
調達する価格時点すなわち建物引渡しまでの期間に対応する金利等である。一方、収益還元法の
項における「資金調達コスト」(基準留意事項Ⅴ.1.(4))は、価格時点以降の期間に対応する金
利等なのでその違いに留意しなければならない(「基準実務指針」120 頁、121 頁)。
⑵
正しい。
取引事例比較法、賃貸事例比較法に関する規定内容である。
賃貸事例比較法には、新規賃料を求める賃貸事例比較法と継続賃料を求める賃貸事例比較法が
ある。
Ⅲ
取引事例比較法
取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似
の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている
場合に有効である。
2.賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不
動産の賃貸借等が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等が行われて
いる場合に有効である。
4.賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手法である。
試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行うことに留意
しなければならない。
- 50 -
⑶
正しい。
総収益の算定及び留意点に関する規定内容である。
収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特
に有効である。
ア
総収益の算定及び留意点
(ア)対象不動産が賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産である場合
賃貸用不動産の総収益は、一般に、支払賃料に預り金的性格を有する保証金等の運用益、
賃料の前払的性格を有する権利金等の運用益及び償却額並びに駐車場使用料等のその他収入
を加えた額(以下「支払賃料等」という。)とする。賃貸用不動産についての DCF 法の適用
に当たっては、特に賃貸借契約の内容並びに賃料及び貸室の稼動率の毎期の変動に留意しな
ければならない。
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益は、一般に、売上高とする。ただし、賃貸以
外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求め
た支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃
料等をもって総収益とすることができる。
なお、賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に供されている不動産の総収益の
算定及び賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益の算定に当たっては、当該不動産が供
されている事業について、その現状と動向に十分留意しなければならない。
<基本的考え方>
ⅰ
賃貸以外の事業の用に供する不動産について、収益還元法を適用する場合における総収益の
算定は、下記のいずれかによるものとする。
(ⅰ)売上高
(ⅱ)売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額
(ⅲ)賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等
ⅱ
賃貸以外の事業の用に供する不動産及び賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に
供されている不動産について、その総収益を算定するに当たっては、当該不動産が供されてい
る賃貸以外の事業について、その現状と動向に十分留意しなければならない。
ⅲ
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益を、支払賃料等相当額、又は、支払賃料等によ
り算定した場合、総費用は賃貸用不動産の場合と同様に算定する。
ⅳ
宿泊施設、レジャー施設、医療・福祉施設、商業施設等の事業の用に供されている不動産
(賃借人により当該事業に供されている賃貸用不動産を含む。)については、当該施設におけ
る賃貸以外の事業の経営の動向に強く影響を受けるものであり、これらを「事業用不動産」と
定義づける。
ⅴ
事業用不動産の総収益の算定に当たっては、事業用不動産が有する下記の特性に留意する必
要がある。
(ⅰ)事業用不動産はその運営形態に多様性が認められ、また運営形態に応じて純収益の把握
の仕方や、実現性の程度が異なる場合があること
(ⅱ)事業用不動産の収益性は、事業経営に影響を及ぼす社会情勢や、代替競争等の関係にあ
る不動産との比較による優劣・競争力に左右されるため、中長期的な観点からこれらに係
る分析が重要であること。
- 51 -
ⅵ
事業用不動産の総収益を、売上高に基づき求めた支払賃料等相当額により算定する場合、当
該事業の採算性の観点から、相当の期間、安定的に収受可能な賃料水準を把握する必要があ
る。
ⅶ
事業用不動産が現に賃貸借に供されている場合、現行の賃貸借契約における賃料と、事業採
算性の観点から上記ⅵと同様に把握した賃料との関係について分析することが有用である
(「基準実務指針」146 頁、147 頁)。
⑷
正しい。
積算法による建物及びその敷地の賃料を試算する場合の留意事項に関する規定内容である。
1.積算法
積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗
じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法に
よる試算賃料を積算賃料という。)。
積算法は、対象不動産の基礎価格、期待利回り及び必要諸経費等の把握を的確に行い得る場
合に有効である。
基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、原価法及び取引事例比較法
により求めるものとする。
(1) 積算法について
基礎価格を求めるに当たっては、次に掲げる事項に留意する必要がある。
②
建物及びその敷地の賃料(いわゆる家賃)を求める場合
建物及びその敷地の現状に基づく利用を前提として成り立つ当該建物及びその敷地の経済
価値に即応した価格である。
⑸
誤り。
賃貸用不動産の総収益を分析して収益純賃料及び必要諸経費等を含む賃料相当額を収益賃料と
して直接求めることはできない。
「解説」の説明を引用する。
収益分析法の適用にあたつては、
「対象不動産が将来(価格時点以降)生みだすであろうと期待
される純収益を判定しなければならない。このことは、この手法が収益還元法と軌を一にするこ
とを示しているものであるが、収益還元法は対象不動産が物理的、機能的、および経済的に消滅
するまでの全期間(すなわち経済的な残存耐用年数)において生みだすであろうと期待される純
収益の現価から対象不動産の価格を求めようとする手法であるのに対して、この手法は対象不動
産についてその全期間のうちの一定期間(賃料の算定の期間)において期待される純収益の額か
ら対象不動産の賃料を求めようとする手法である。
不動産の純収益には不動産賃貸に基づくものと一般の企業経営に基づくものとがあるが、前者
はまさに鑑定評価によつて当面求めようとしている賃料を基礎としているものであるから、不動
産賃料に基づく純収益から賃料を求めようとする考え方はいわゆる循環論法におち入り、また、
対象不動産と類似の不動産の賃料を基礎として対象不動産の賃料を求めようとする考え方は賃貸
事例比較法の考え方に帰一するので、収益分析法の基礎となる純収益は一般の企業経営に基づく
総収益から求められなければならない(「解説」132 頁、133 頁)。
- 52 -
3.収益分析法
収益分析法は、一般の企業経営に基づく総収益を分析して対象不動産が一定期間に生み出す
であろうと期待される純収益(減価償却後のものとし、これを収益純賃料という。)を求め、こ
れに必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算
賃料を収益賃料という。)。
収益分析法は、企業の用に供されている不動産に帰属する純収益を適切に求め得る場合に有
効である。
収益賃料は、収益純賃料の額に賃貸借等に当たって賃料に含まれる必要諸経費等を加算する
ことによって求めるものとする。
なお、一般企業経営に基づく総収益を分析して収益純賃料及び必要諸経費等を含む賃料相当
額を収益賃料として直接求めることができる場合もある。
- 53 -
〔問題 17〕 不動産の価格を求める鑑定評価の手法の適用等に関する次のイからホまでの記述のう
ち、正しいものをすべて掲げた組み合わせはどれか。
イ
原価法は、対象不動産が土地のみであっても適用可能な場合があるが、この場合の再調達
原価は、直接法により求めることとし、間接法による再調達原価しか求められない場合には
原価法を適用すべきでない。
ロ
原価法の適用に当たっては、物理的・機能的・経済的な減価要因に着目して減価修正を行
うが、例えば機能的減価が経済的減価を惹起したり、又は建物に係る減価要因が建物及びそ
の敷地全体に減価を生じさせる場合があり、このような場合には同一の減価要因について重
複して減価することがないよう、観察減価法の単独適用が許容されている。
ハ
取引事例比較法の適用において用いる配分法は、対象不動産と同類型の不動産の部分を内
包して複合的に構成されている不動産の取引事例について、当該取引事例に係る取引総額が
適正に把握でき、かつ対象不動産と同類型の不動産以外の部分の構成要素の価格又は割合が
適切に把握できる場合に適用できる。
ニ
収益還元法は、不動産から生み出される収益に着目した収益方式の1手法であり、鑑定評
価の3方式の均衡を図るため、当該手法の適用において、他の2 方式の考え方を反映するの
は最低限にとどめるべきである。
収益価格を求める方法には、直接還元法と DCF 法があり、いずれも対象不動産が更地で
ホ
ある場合にも適用可能であるが、当該更地の最有効使用が事業用不動産としての利用である
場合には、DCF 法のみが適用可能である。
⑴
イのみ
⑵
ハのみ
⑶
イとハ
⑷
ロとニ
⑸
ハとホ
正解
イ
⑵
誤り。
土地の再調達原価は、間接法により求めることができる。
(2) 再調達原価を求める方法
①
土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成
費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとする。
③
再調達原価を求める方法には、直接法及び間接法があるが、収集した建設事例等の資料と
しての信頼度に応じていずれかを適用するものとし、また、必要に応じて併用するものとす
る。
イ
間接法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不
動産又は同一需給圏内の代替競争不動産から間接的に対象不動産の再調達原価を求める方
法である。
間接法は、当該類似の不動産等について、素地の価格やその実際の造成又は建設に要し
た直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負
- 54 -
担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)を明確に把
握できる場合に、これらの明細を分析して適切に補正し、必要に応じて時点修正を行い、
かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って、対象不動産の再調達原価を求める
ものとする。
ロ
誤り。
観察減価法だけの適用は規定されていない。
「同一の減価要因について重複して減価することがないよう」ということについては、減価修
正の方法についての内容である。
(2) 減価修正の方法
減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする。
①
耐用年数に基づく方法
②
観察減価法
②
減価修正の方法について
ア
対象不動産が建物及びその敷地である場合において、土地及び建物の再調達原価について
それぞれ減価修正を行った上で、さらにそれらを加算した額について減価修正を行う場合が
あるが、それらの減価修正の過程を通じて同一の減価の要因について重複して考慮すること
のないよう留意するべきである。
ハ
正しい。
配分法の規定内容である。
(4) 配分法
取引事例が対象不動産と同類型の不動産の部分を内包して複合的に構成されている異類型の
不動産に係る場合においては、当該取引事例の取引価格から対象不動産と同類型の不動産以外
の部分の価格が取引価格等により判明しているときは、その価格を控除し、又は当該取引事例
について各構成部分の価格の割合が取引価格、新規投資等により判明しているときは、当該事
例の取引価格に対象不動産と同類型の不動産の部分に係る構成割合を乗じて、対象不動産の類
型に係る事例資料を求めるものとする(この方法を配分法という。)。
配分法は、複合不動産の取引価額が適正に把握でき、その構成要素である土地又は建物等若し
くは立木の価格が適切に把握できる場合に有効な方法である(「中間報告」)。
ニ
誤り。
選択肢ニのような内容は「基準」に規定されていない。
純収益、総収益、総費用等の把握、還元利回り及び割引率の求め方等において、原価法、取引
事例比較法が反映されている。
直接還元法の適用に当たって、純収益を間接的に求める場合には地域要因の比較及び個別的要
因の比較を行い、純収益について適切に補正をすることが必要である。
対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定し
て総収益を求める場合、賃貸用建物の建築の想定には原価法が適用され、総収益は賃貸事例比較
法に準じて求める(地域要因の比較及び個別的要因の比較は取引事例比較法に準ずるが、価格を
- 55 -
求める場合の地域と賃料を求める場合の地域とでは、それぞれの地域の範囲及び地域の格差を異
にすることに留意することが必要である。)。
還元利回り及び割引率を求める方法には、類似の不動産の取引事例との比較から求める方法が
規定されており、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行
うことにより求めるものである。
ホ
誤り。
対象不動産が更地である場合、当該更地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定することに
より土地残余法、DCF 法を適用することができる。
対象不動産である更地の最有効使用が、事業用不動産の敷地としての使用である場合、DCF 法
だけの適用は規定されていない。
「基準実務指針」の基本的考え方及び解説の概略は次のとおりである。
<基本的考え方>
ⅰ
賃貸以外の事業の用に供する不動産について、収益還元法を適用する場合における総収益
の算定は、下記のいずれかによるものとする。
(ⅰ)売上高
(ⅱ)売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額
(ⅲ)賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等
ⅱ
賃貸以外の事業の用に供する不動産及び賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業
に供されている不動産について、その総収益を算定するに当たっては、当該不動産が供され
ている賃貸以外の事業について、その現状と動向に十分留意しなければならない。
ⅲ
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益を、支払賃料等相当額、又は、支払賃料等に
より算定した場合、総費用は賃貸用不動産の場合と同様に算定する(「基準実務指針」146 頁)。
<解説>
賃貸以外の事業の用に供する不動産の収益性は、当該不動産が供されている事業の採算性を反
映して定まるものである。
また、賃貸用不動産の収益性は、賃借人から収受する支払賃料等を反映して定まるものである
が、賃借人が当該不動産を賃貸以外の事業の用に供している場合、当該支払賃料等は、賃借人に
より行われる事業を前提に、その採算の範囲内において負担されることが通常であるので、結果
として当該不動産の収益性は、当該不動産が供されている賃貸以外の事業の採算性に左右される
傾向がある。
上記により、賃貸以外の事業の用に供する不動産及び賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以
外の事業に供されている不動産について、その現状と動向に十分留意のうえ、総収益を算定する
必要がある(「基準実務指針」147 頁)。
①
直接還元法の適用について
イ
土地残余法
対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想
定し、収益還元法以外の手法によって想定建物等の価格を求めることができるときは、当該
想定建物及びその敷地に基づく純収益から想定建物等に帰属する純収益を控除した残余の純
収益を還元利回りで還元する手法(土地残余法という。)を適用することができる。
- 56 -
②
DCF 法の適用について
DCF 法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を予測しそれらを明示するこ
とから、収益価格を求める過程について説明性に優れたものである。
なお、対象不動産が更地である場合においても、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建
築を想定することによりこの方法を適用することができる。
DCF 法は一般的には貸家及びその敷地等の複合不動産に適用される場合が多いが、対象不動産
が更地の場合でも、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定することによりこの方法
を適用することができる。この場合には、想定建物の竣工までの期間と竣工後の期間とにおける
収益費用の内容や収益予測の精度等に違いがあることに留意する必要がある(「基準実務指針」
155 頁)。
- 57 -
〔問題
18〕 原価法の適用における「建物及びその敷地の再調達原価」に関する次の記述のうち、
誤っているものはどれか。
⑴
農地地域に所在する大規模な農業用資材倉庫(自用の建物及びその敷地)の土地の再調達原
価は、対象地の素材となる農地の価格に当該農地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき
通常の付帯費用を加算して求める。
⑵
土地の再調達原価が把握できない既成市街地に存する更地の価格は、取引事例比較法及び収
益還元法、さらに当該土地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等にお
いては開発法を適用して求める。
⑶
土地の面積や建物の面積・設計・仕様等がすべて同一で、同じ場所に所在する場合であって
も、自用の建物及びその敷地と賃貸中の貸家及びその敷地のそれぞれの再調達原価は異なる場
合がある。
⑷
「通常の付帯費用」に含まれる場合がある資金調達費用とは、土地の取得費用や建物の建築
費等について金融機関等から借入を行った場合の金利等を指すものであるから、自己資金によ
りこれらの費用等を支払った場合は、資金調達費用を考慮する必要はない。
⑸
建物の再調達原価を求めるに当たって、対象建物の建築請負契約書の明細が入手でき、明細
に記載された内容について適切に補正や時点修正を行うことで信頼度の高い再調達原価を求め
られた場合には、必ずしも、間接法を適用する必要はない。
正解
⑴
⑷
正しい。
建物及びその敷地の再調達原価に関する規定内容である。
(2) 再調達原価を求める方法
①
土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成
費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとする。
②
建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない
既成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価
格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直
接負担すべき通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して
求めるものとする。
土地の場合、たとえば山林を切り開いて造成された宅地と原野を開墾して造られた農地のよう
に土地の再調達には、林地や原野に相当する素材となる土地がなければならない(ただし、公有
水面埋立や干拓のような場合にはこれがないので、漁業補償や免許料等がこの素材となる土地の
取得原価に相当しよう)。
したがつて、土地の再調達原価は、まず、その素材となる土地の標準的な取得原価を取引事例
比較法及び収益還元法によつて求め、この価格に当該土地の造成、埋立等に要する標準的な建設
費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算してもとめるものとする(「解説」86 頁、
87 頁)。
素材となる土地の標準的な取得原価(素地価格)は、取引事例比較法及び収益還元法により求
めることになるが、その素地価格は地目転換を伴うものである(「建議」)。
取引事例は、利用目的に類似性があり、かつ、近隣地域及び同一需給圏内の類似地域に存する
- 58 -
素地の取引事例を選択するものとする。
素材となる土地の標準的な取得原価、造成費及び付帯費用を有効宅地に換算する場合には、次式
によって当該土地の造成、埋立等に係る有効宅地化率を判定することが必要である(「中間報告」)。
有効宅地化率=1-
⑵
造成後の公共用地面積-既存の公共用地面積
開発区域の総面積 - 既存の公共用地面積
正しい。
既成市街地における建物及びその敷地の再調達原価に関する規定内容である。
既成市街地における更地としての価格は、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及
びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定する。
更地としての面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合においては、さらに開発
法による価格を比較考量して決定する。
(2) 再調達原価を求める方法
②
建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない
既成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価
格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直
接負担すべき通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して
求めるものとする。
1.更地
更地の鑑定評価額は、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引
事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。再
調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。当該更地の面積
が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに次に掲げる価格を
比較考量して決定するものとする(この手法を開発法という。)。
開発法は、更地の鑑定評価に際し、1)対象不動産の敷地面積が、近隣地域の標準的な土地の面
積に比べて大きく規模による格差を求める必要がある場合、2)近隣地域の標準的な土地の面積が
大きく開発法の適用が可能な場合等において有効である。また、対象不動産の規模に比べて取引
事例地の土地面積が小さい場合は、総額による市場性の減退、大規模画地としての稀少性の要因
による格差を求めるうえで開発法が有用となる(「開発法」2 頁)。
既成市街地における建物及びその敷地の再調達原価で、更地としての土地の面積が近隣地域の
標準的な土地の面積に比べて大きい場合の取引事例比較法では、土地の規模、形状等画地条件を
含めて取引事例の選択要件を備える、取引事例を収集し、選択するのであるが、前述のように、
対象不動産の規模に比べて取引事例地の土地面積が小さい場合は、総額による市場性の減退、大
規模画地としての稀少性の要因による格差を求めるうえで開発法が有用となる。
⑶
正しい。
「基準実務指針」の解説内容である。
貸家及びその敷地について、賃貸中の不動産としての再調達原価を求めるとき、発注者が直接
負担すべき付帯費用にテナント費用が計上される場合がある。この場合には、土地の面積や建物
- 59 -
の面積・設計・仕様等がすべて同一で、同じ場所に所在する場合であっても、自用の建物及びそ
の敷地と賃貸中の貸家及びその敷地のそれぞれの再調達原価は異なる。
(2) 再調達原価を求める方法
②
建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない
既成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価
格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直
接負担すべき通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して
求めるものとする。
これらの場合における通常の付帯費用には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資
金調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合があることに留意する必要がある。
イ
資金調達費用とは、建築費及び発注者が負担すべき費用に相当する資金について、建物
引渡しまでの期間に対応する調達費用をいう。
ウ
開発リスク相当額とは、開発を伴う不動産について、当該開発に係る工事が終了し、不
動産の効用が十分に発揮されるに至るまでの不確実性に関し、事業者(発注者)が通常負
担する危険負担率を金額で表示したものである。
発注者が直接負担すべき通常の付帯費用としては、土地に関しては公共公益施設負担金や開発
申請諸経費等が、建築に関しては設計監理料、建築確認申請費用、登記費用等があげられる。
さらに、建物が竣工し、開発・販売業者、若しくは建築業者から建物の引渡しを受け、使用収
益が可能な状態になるまでの期間に対応するコストとして、下記に例示する費用についても、適
切に計上しなければならない。
ⅰ
建物引渡しまでの資金調達費用(借入金及び自己資本に対する配当率)
ⅱ
発注者の開発リスク相当額
ⅲ
発注者利益(開発利益・機会費用)
ⅳ
分譲住宅・マンション等の販売費、広告宣伝費
ⅴ
土地の公租公課、地代(開発期間中の固定資産税・都市計画税(借地の場合は地代)相当額)
ⅵ
貸家及びその敷地の評価において賃貸中の不動産としての再調達原価を求める場合のテナン
ト費用
上記ⅰ資金調達費用及びⅱ開発リスク相当額は、分譲マンションや投資用不動産等の開発事業
者によって開発されることが一般的な不動産の再調達原価を求める場合だけでなく、自己建設、
自己使用が一般的な不動産であっても、開発にかかる機会費用と捉えることにより同様に発生す
るものと捉えることができる。
資金調達費用は、建築費及び発注者が負担すべき費用に相当する資金について、土地建物を再
調達する価格時点すなわち建物引渡しまでの期間に対応する金利等である。一方、収益還元法の
項における「資金調達コスト」(基準留意事項Ⅴ.1.(4))は、価格時点以降の期間に対応する金
利等なのでその違いに留意しなければならない。
「開発リスク」とは、建物引渡しまでの期間における開発計画において予測しなかった事態
(遅延・変更・中止等)により、損失が発生するリスク(可能性)を言う。開発リスクは、この
ような不確実な損失に関して、通常想定される危険負担率を金額、すなわち費用として表示する
ものである。
- 60 -
上記ⅲ発注者利益は、通常、開発事業者が介在する場合に認識され、自己建設では発生しない
費用と考えられる。一方で、最終需要者が工事を直接発注する場合は、開発事業者に比し建築工
事費等は高くなりがちである。最終的には代替の原則及び競争の原則が働くことから、発注者の
再調達原価額は、開発事業者から購入する場合と直接発注する場合で、大きな開差は生じないも
のと考えられる。
ここで、これらの費用を「含まれる場合がある」としているのは、例えば、工期が非常に短い
自用の建物等においては、資金調達費用や開発リスク等がほとんど発生しないケースが考えられ
るためである。また、築後かなり経過した旧建売住宅における開発者利潤のように、市場分析に
より、当該付帯費用に対応する市場価値が価格時点において認められないと判断できる場合があ
る。その場合には、鑑定評価報告書にその判断理由を明記することによって、当該付帯費用相当
額の査定及び減価修正の過程を省略することもできる(「基準実務指針」120 頁、121 頁)。
⑷
誤り。
建物引渡しまでの期間に対応するコストは、自己建設の不動産においても考慮しなければなら
ない。「基準実務指針」の解説によるものである。
②
建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない既
成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格に
発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直接負担
すべき通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して求めるも
のとする。
これらの場合における通常の付帯費用には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資金
調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合があることに留意する必要がある。
イ
資金調達費用とは、建築費及び発注者が負担すべき費用に相当する資金について、建物引
渡しまでの期間に対応する調達費用をいう。
ウ
開発リスク相当額とは、開発を伴う不動産について、当該開発に係る工事が終了し、不動
産の効用が十分に発揮されるに至るまでの不確実性に関し、事業者(発注者)が通常負担す
る危険負担率を金額で表示したものである。
原価法にも期間概念を取り込むこととし、再調達原価で考慮すべき「通常の付帯費用」として、
下記の点を明確にする(「基準実務指針」119 頁)。
ⅰ
付帯費用には建物引渡しまでの期間に対応するコストが含まれる。
ⅱ
建物引渡しまでの期間に対応するコストは、分譲マンション等、最終需要者に至るまでに開
発事業者が介在するものだけでなく、自己建設、自己使用が一般的な不動産においても同様に
考慮しなければならない。
発注者が直接負担すべき通常の付帯費用としては、土地に関しては公共公益施設負担金や開発
申請諸経費等が、建築に関しては設計監理料、建築確認申請費用、登記費用等があげられる。
さらに、建物が竣工し、開発・販売業者、若しくは建築業者から建物の引渡しを受け、使用収
益が可能な状態になるまでの期間に対応するコストとして、下記に例示する費用についても、適
切に計上しなければならない。
ⅰ
建物引渡しまでの資金調達費用(借入金及び自己資本に対する配当率)
ⅱ
発注者の開発リスク相当額
- 61 -
ⅲ
発注者利益(開発利益・機会費用)
ⅳ
分譲住宅・マンション等の販売費、広告宣伝費
ⅴ
土地の公租公課、地代(開発期間中の固定資産税・都市計画税(借地の場合は地代)相当額)
ⅵ
貸家及びその敷地の評価において賃貸中の不動産としての再調達原価を求める場合のテナン
ト費用
上記ⅰ資金調達費用及びⅱ開発リスク相当額は、分譲マンションや投資用不動産等の開発事業
者によって開発されることが一般的な不動産の再調達原価を求める場合だけでなく、自己建設、
自己使用が一般的な不動産であっても、開発にかかる機会費用と捉えることにより同様に発生す
るものと捉えることができる。
資金調達費用は、建築費及び発注者が負担すべき費用に相当する資金について、土地建物を再
調達する価格時点すなわち建物引渡しまでの期間に対応する金利等である。一方、収益還元法の
項における「資金調達コスト」(基準留意事項Ⅴ.1.(4))は、価格時点以降の期間に対応する金
利等なのでその違いに留意しなければならない。
「開発リスク」とは、建物引渡しまでの期間における開発計画において予測しなかった事態
(遅延・変更・中止等)により、損失が発生するリスク(可能性)を言う。開発リスクは、この
ような不確実な損失に関して、通常想定される危険負担率を金額、すなわち費用として表示する
ものである。
上記ⅲ発注者利益は、通常、開発事業者が介在する場合に認識され、自己建設では発生しない
費用と考えられる。一方で、最終需要者が工事を直接発注する場合は、開発事業者に比し建築工
事費等は高くなりがちである。最終的には代替の原則及び競争の原則が働くことから、発注者の
再調達原価額は、開発事業者から購入する場合と直接発注する場合で、大きな開差は生じないも
のと考えられる。
ここで、これらの費用を「含まれる場合がある」としているのは、例えば、工期が非常に短い
自用の建物等においては、資金調達費用や開発リスク等がほとんど発生しないケースが考えられ
るためである。また、築後かなり経過した旧建売住宅における開発者利潤のように、市場分析に
より、当該付帯費用に対応する市場価値が価格時点において認められないと判断できる場合があ
る。その場合には、鑑定評価報告書にその判断理由を明記することによって、当該付帯費用相当
額の査定及び減価修正の過程を省略することもできる(「基準実務指針」120 頁、121 頁)。
⑸
正しい。
信頼性の高い資料(建築請負契約書の明細)による直接法の適用である。
再調達原価を求める方法には、直接法及び間接法があるが、収集した建設事例等の資料として
の信頼度に応じていずれかを適用するものとし、また、必要に応じて併用するものとする。
ア
直接法は、対象不動産について、使用資材の種別、品等及び数量並びに所要労働の種別、時
間等を調査し、対象不動産の存する地域の価格時点における単価を基礎とした直接工事費を積
算し、これに間接工事費及び請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費
を求め、さらに発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して再調達原価を求めるものと
する。
直接法又は間接法を適用するに当たっては、造成工事費、建築工事費等の資料の収集に努める
とともに、建築工事原価に関する資料を分析し、建設物価の動向に留意して実証的に検討を加え
- 62 -
る必要がある。造成工事費、建築工事費等は需給動向により大きく変動するので、時点修正を行
う際には留意が必要である(「基準実務指針」125 頁)。
- 63 -
〔問題 19〕
⑴
減価修正に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
対象不動産が建物及びその敷地である場合に、土地及び建物の再調達原価についてそれぞれ
減価修正を行った上で、さらにそれらを加算した額についても減価修正を行うことがあり得る。
⑵
建物の耐用年数は、当該建物の新築時又は増改築時に定まるものであり、その後の修繕や模
様替の実施が耐用年数に影響を与えることはない。
⑶
減価修正には、耐用年数に基づく方法と観察減価法があるが、対象不動産の状況に応じてど
ちらかの方法のみを選択して適用し、減価が重複することがないようにすべきである。
⑷
耐用年数に基づく減価修正を行う場合には、定額法と定率法の両方を適用すべきである。
⑸
対象不動産が複数の分別可能な組成部分により構成されていて、それぞれの経済的残存耐用
年数が異なる場合には、最も短い経済的残存耐用年数を対象不動産全体に適用しなければなら
ない。
正解
⑴
⑴
正しい。
減価修正の方法に関する規定内容である。解説は「基準実務指針」による。
②
ア
減価修正の方法について
対象不動産が建物及びその敷地である場合において、土地及び建物の再調達原価についてそ
れぞれ減価修正を行った上で、さらにそれらを加算した額について減価修正を行う場合がある
が、それらの減価修正の過程を通じて同一の減価の要因について重複して考慮することのない
よう留意するべきである。
ここでは、建物及びその敷地の評価における減価修正の方法について説明している。
a
一体減価について
経済的要因に基づく減価の中には、建物と敷地がそれぞれ影響を及ぼし合って生じる減価が
あり、この減価の扱いについては、基準の原則に則って土地・建物各々の減価修正の中で捉え
るべきとする考え方のほか、土地と建物に区分することなく、建物及びその敷地一体にかかる
減価として土地建物全体で減価する考え方もある。
【評価手順(イメージ)】
*
経済的要因減価のうち土地建物が互いに影響を及ぼし合って生ずる減価について、ここで
は一体減価と記す。
(前提)土地再調達原価:100
①
建物再調達原価:100
土地の減価(一体減価を除く): 0
一体減価のうち土地に係る減価:20
建物の減価(一体減価を除く):30
一体減価のうち建物に係る減価:14
一体減価を土地・建物各々の減価修正の中で捉える方法
土地再調達原価
土地:
100
土地についての減価
-
建物再調達原価
建物:
100
-
20
=
80
=
56
建物についての減価
(30+14)
合計(積算価格)
136(「基準実務指針」140 頁)
- 64 -
②
一体減価を土地建物全体の中で捉える方法
土地再調達原価
土地:
100
-
建物再調達原価
建物:
100
-
土地についての減価
0
=
100
建物についての減価
30
=
合計(積算価格)
70
170
一体減価
170×(1-0.20)
≒ 136
いずれの手順によっても、適切に適用すれば論理的には同額となることから、平成 26 年度の改
正にて、②の一体としての減価を行うという方法が基準上でも明確に示されたものであり、①②
どちらの方法を適用することもできる。ただし、②による方法は、一体減価前の建物の積算価格
を求める段階と二段階で減価するため、適用に当たっては、同一の要因による二重の減価が行わ
れないように留意する必要がある(「基準実務指針」141 頁)。
⑵
誤り。
建物の増改築・修繕・模様替等の実施は、建物の耐用年数に影響を与える。
①
再調達原価を求める方法について
ア
建物の増改築・修繕・模様替等は、その内容を踏まえ、再調達原価の査定に適切に反映さ
せなければならない。
②
減価修正の方法について
ア
対象不動産が建物及びその敷地である場合において、土地及び建物の再調達原価について
それぞれ減価修正を行った上で、さらにそれらを加算した額について減価修正を行う場合が
あるが、それらの減価修正の過程を通じて同一の減価の要因について重複して考慮すること
のないよう留意するべきである。
イ
耐用年数に基づく方法及び観察減価法を適用する場合においては、対象不動産が有する市
場性を踏まえ、特に、建物の増改築・修繕・模様替等の実施が耐用年数及び減価の要因に与
える影響の程度について留意しなければならない。
⑶
誤り。
(2) 減価修正の方法
減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする。
①
耐用年数に基づく方法
耐用年数に基づく方法は、対象不動産の価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年
数の和として把握される耐用年数を基礎として減価額を把握する方法である。
②
観察減価法
観察減価法は、対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状
況、付近の環境との適合の状態等各減価の要因の実態を調査することにより、減価額を直接
求める方法である。
各方法は、理論的には下表のような特性を有している。
- 65 -
耐用年数に基づく方法(定額法、定率法等)
観察原価法
方法の
発生する減価が耐用年数の全期間にわたっ
減価の各要因の実態を調査(観察)すること
定義
て一定額若しくは一定率である等として、減
により、減価額を直接的に求める方法
価額を(耐用年数を介して)間接的に求める
方法
長
所
●帰納的推論に立って減価を定量的に捉え
●耐用年数という概念を入れにくい土地や
るため、一般的に理解を得やすい。
古いことに価値が生ずるような不動産等の
●時の経過に伴う材質の変化等、外部からの
評価に対応しやすい。
観察では発見しづらい減価要因を反映しや
●実態が経年から推測される標準的な減価
すい。
の程度から大きく外れる場合に有効である。
●補修性等に要する費用から求めることが
でき、当該部分についての説明力は高い。
●特に、経済的要因のうち市場性の減退を反
映させる場合に有効である。
短
所
●耐用年数という概念を入れにくい土地や
●市場性等として直接的に減価する場合に
古民家等の評価には適用が困難である。
は、その数字の根拠が示しにくく適用が難し
●不動産の減価の程度は必ずしも一定では
い。
ないことの反映が困難である。
●時の経過に伴う材質の変化等、外部からの
●市場性の減退を直接反映しにくい。※1
観察のみでは発見しづらい減価要因を見落
●建付減価、一体減価を、耐用年数という概
とすおそれがある。
念の中で説明することは困難である。※2
※1及び※2:実務においては、耐用年数に基づく方法によって求めた減価修正額に、補修性を
加えることで対応していることが多い。(「基準実務指針」130 頁)
⑷
誤り。
耐用年数に基づく方法には、定額法、定率法等があるが、これらのうちいずれの方法を用いる
かは、対象不動産の用途や利用状況に即して決定する。
(2) 減価修正の方法
減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする。
①
耐用年数に基づく方法
耐用年数に基づく方法は、対象不動産の価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年
数の和として把握される耐用年数を基礎として減価額を把握する方法である。
経済的残存耐用年数とは、価格時点において、対象不動産の用途や利用状況に即し、物理
的要因及び機能的要因に照らした劣化の程度並びに経済的要因に照らした市場競争力の程度
に応じてその効用が十分に持続すると考えられる期間をいい、この方法の適用に当たり特に
重視されるべきものである。
耐用年数に基づく方法には、定額法、定率法等があるが、これらのうちいずれの方法を用
いるかは、対象不動産の用途や利用状況に即して決定すべきである。
- 66 -
定額法は、耐用年数の全期間にわたって発生する減価額が毎年一定額であるという前提に基づ
き減価額を求める方法である。この方法は、減価累計額が経過年数に正比例して増加するが、不
動産は必ずしも規則正しく一定額ずつ減価するとは限らず、不動産の実際の減価額とは一致しな
い場合があるので、観察減価法を併用して、その適正を期するよう努めるべきである(「基準実務
指針」132 頁)。
定率法は、毎年の減価額が年当初の積算価格に対して毎年一定の割合であるという前提に基づ
き減価額を求める方法である。この方法は、不動産が新しいほど減価額が大きく発生し、経過期
間が長くなるにつれて毎年の減価額が小さくなるので、築年が浅い時ほど大きな減価が発生する
構成部位(例えば、早期に汚れが生じやすいクロス等の仕上げ材や、使用の有無及び頻度が市場
価値に影響を与えるような衛生等設備)の減価額を査定するよう努めるべきである(「基準実務指
針」133 頁)。
⑸
誤り。
対象不動産が二以上の分別可能な組成部分により構成されていて、それぞれの経過年数又は経
済的残存耐用年数が異なる場合、対象不動産の用途や利用状況に即して決定する。
(2) 減価修正の方法
減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする。
①
耐用年数に基づく方法
耐用年数に基づく方法には、定額法、定率法等があるが、これらのうちいずれの方法を用
いるかは、対象不動産の用途や利用状況に即して決定すべきである。
なお、対象不動産が二以上の分別可能な組成部分により構成されていて、それぞれの経過
年数又は経済的残存耐用年数が異なる場合に、これらをいかに判断して用いるか、また、耐
用年数満了時における残材価額をいかにみるかについても、対象不動産の用途や利用状況に
即して決定すべきである。
建物について、木造部分と非木造部分がある場合や、増築部分と既存部分からなっている場合
等、外形的に分別できる場合はもちろんのこと、一体となって存している場合においても、でき
る限り構成部分を分別し、それぞれの特性に応じた減価修正を行う必要がある。特に、建物の躯
体と仕上げ、設備では、材としての性質や減価のスピードが異なるため、基本的に躯体及び仕上
げ、設備に分別し、それぞれ再調達原価及び減価修正額を別途把握した上で合算することが適当
である。その際には、部位ごとの劣化状態が建物全体に及ぼす影響度合、あるいは修繕や変更を
行っている場合には建物全体へどれほど寄与しているか、の観点からの検討も重要である。
なお、構成部分ごとの再調達原価及び減価修正額の把握は、絶対額で把握する方法と、建物全
体の再調達原価に対する構成割合及び減価率として把握する方法がある(「基準)実務指針」134
頁)。
- 67 -
〔問題 20〕 収益還元法に関する次のイからホまでの記述のうち、誤っているものをすべて掲げた
組み合わせはどれか。
DCF 法による価格は、保有期間中における毎期の純収益を割引率によって価格時点に割り
イ
引いた純収益を合計して得た額と、保有期間満了時の次期の純収益を最終還元利回りで還元
して得た額(復帰価格)について保有期間満了時の次期の割引率で価格時点に割り引いて得
た額とを、それぞれ加算して求める。
ロ
対象不動産の現行の支払賃料等が適正な支払賃料等より割高と認められる場合における直
接還元法の適用において、初年度の純収益を採用する時の還元利回りの水準は、標準化され
た純収益を採用する時より低い還元利回りを用いる。
ハ
更地に土地残余法を適用する場合には、賃貸事業におけるライフサイクルの観点を踏まえ
る必要があるが、この考え方は建物残余法を適用する場合においても同様である。
DCF 法は、対象不動産が更地である場合においても、当該土地に最有効使用の賃貸用建物
ニ
等の建築を想定することにより適用することができるが、インウッド式を用いた有期還元法
についても同様である。
ホ
現に賃貸借に供されている事業用不動産について、賃貸借契約により支払賃料として固定
賃料及び売上変動賃料が採用されている場合であっても、賃借人の優れた経営能力により標
準的な水準を超過する支払賃料が享受できていると認められるときは、標準的な支払賃料水
準に補正のうえ、総収益を求めなければならない。
⑴
イとロとホ
⑵
ロとニとホ
⑶
イとロとニとホ
⑷
ロとハとニとホ
⑸
すべて誤っている
正解
イ
⑸
誤り。
復帰価格の現在価値は、保有期間の次期の純収益を最終還元利回りで還元した額を保有期間満
了時の割引率で割り引いたものである。
DCF 法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在
価値に割り引き、それぞれを合計する方法である。
2.収益価格を求める方法
収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直
接還元法」という。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期
に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(Discounted Cash Flow 法(以下「DCF
法」という。))がある。
これらの方法は、基本的には次の式により表される。
(2) DCF 法
n
ak
PR
+
k
(1+Y)n
k=1 (1+ Y)
P= ∑
- 68 -
P :求める不動産の収益価格
ak :毎期の純収益
Y :割引率
n :保有期間(売却を想定しない場合には分析期間。以下同じ。)
PR :復帰価格
復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、基本的には次
の式により表される。
a
PR= n+1
Rn
an+1 :n+1期の純収益
Rn :保有期間の満了時点における還元利回り(最終還元利回り)
ロ
誤り。
対象不動産の現行の支払賃料等が適正な支払賃料等より割高と認められる場合の直接還元法の
適用において、初年度の純収益を採用する時の還元利回りを、標準化された純収益を採用する時
より低い還元利回りとした場合、収益価格は高く試算される(初年度の適正な支払賃料等より割
高と認められることが収益価格に反映される。)。
純収益に即応した適切な還元利回りを用いなければならない
②
純収益の算定
対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるものとす
る。また、純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと償却後のもの等、総収
益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元
利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要がある。
なお、直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化
された純収益を採用する場合があることに留意しなければならない。
ハ
誤り。
建物残余法では、賃貸事業におけるライフサイクルを踏まえてとは、規定されていない。
建物残余法の基本式は土地残余法と同じ永久還元式である。建物の鑑定評価における建物残余
法による収益価格、建付地の鑑定評価における土地残余法による収益価格との整合性が明確にな
っていないことに留意する。
建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価は、その敷地
と一体化している状態を前提として、その全体の鑑定評価額の内訳として建物について部分鑑定
評価を行うものである。
建付地は、建物等と結合して有機的にその効用を発揮しているため、建物等と密接な関連を持
つものであり、したがって、建付地の鑑定評価は、建物等と一体として継続使用することが合理
的である場合において、その敷地について部分鑑定評価をするものである。
ウ
建物残余法
不動産が敷地と建物等との結合によって構成されている場合において、収益還元法以外の手
法によって敷地の価格を求めることができるときは、当該不動産に基づく純収益から敷地に帰
- 69 -
属する純収益を控除した残余の純収益を還元利回りで還元する手法(建物残余法という。)を適
用することができる。
建物残余法は、土地と建物等から構成される複合不動産が生み出す純収益を土地及び建物等
に適正に配分することができる場合に有効である。
建物残余法を適用して建物等の収益価格を求める場合は、基本的に次の式により表される。
a‐L×RL
PB=
RB
PB :建物等の収益価格
a:建物等及びその敷地の償却前の純収益
L:土地の価格
RL :土地の還元利回り
RB :償却前の純収益に対応する建物等の還元利回り
イ
土地残余法
対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定
し、収益還元法以外の手法によって想定建物等の価格を求めることができるときは、当該想定
建物及びその敷地に基づく純収益から想定建物等に帰属する純収益を控除した残余の純収益を
還元利回りで還元する手法(土地残余法という。)を適用することができる。
なお、土地残余法の適用に当たっては、賃貸事業におけるライフサイクルの観点を踏まえて、
複合不動産が生み出す純収益及び土地に帰属する純収益を適切に求める必要がある。
土地残余法は、土地及び当該土地上に想定する建物等を一体として賃貸事業を営むことを前提
に、総収益、総費用及び純収益を把握し分析することにより土地価格を求めるものであり、賃貸
事業におけるライフサイクルを明確にした上で検討する必要がある。
賃貸事業におけるライフサイクルとしては、更地に①賃貸用建物を建築し、②同建物を賃貸し、
③建物の耐用年数満了時に取壊して更地化するという①から③までの一連の流れを一ライフサイ
クルとして捉え、このライフサイクルを繰り返すことにより賃貸事業が永久に続くものと想定す
る。
なお、土地については非償却資産であるので、還元利回りに「償却前の純収益に対応する」と
いう文言はない(「基準実務指針」155 頁)。
ニ
誤り。
インウッド式を用いた有期還元法は、不動産が敷地と建物等との結合により構成されている場
合に適用されるもので、最有効使用の建物を想定するものではない。
②
DCF 法の適用について
DCF 法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を予測しそれらを明示するこ
とから、収益価格を求める過程について説明性に優れたものである。
なお、対象不動産が更地である場合においても、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建
築を想定することによりこの方法を適用することができる。
エ
有期還元法
不動産が敷地と建物等との結合により構成されている場合において、その収益価格を、不動
- 70 -
産賃貸又は賃貸以外の事業の用に供する不動産経営に基づく償却前の純収益に割引率と有限の
収益期間とを基礎とした複利年金現価率を乗じて求める方法があり、基本的に次の式により表
される。
N
(1+Y)
‐1
P=a×
N
Y(1+Y)
P :建物等及びその敷地の収益価格
a :建物等及びその敷地の償却前の純収益
Y :割引率
N :収益期間(収益が得られると予測する期間であり、ここでは建物等の経済的残存耐用年数
と一致する場合を指す。)
N
(1+Y)
‐1
:複利年金現価率
N
Y(1+Y)
なお、複利年金現価率を用い、収益期間満了時における土地の価格、及び建物等の残存価格
又は建物等の撤去費をそれぞれ現在価値に換算した額を加減する方法(インウッド式)がある。
この方法の考え方に基づき、割引率を用いた式を示すと次のようになる。
n
‐1 PLn+PBn
(1+Y)
又は
+
P=a×
n
n
(1+Y)
Y(1+Y)
N
P ‐E
(1+Y)
‐1
+ LN N
P=a×
N
Y(1+Y) (1+Y)
P :建物等及びその敷地の収益価格
a :建物等及びその敷地の償却前の純収益
Y :割引率
N,n: 収益期間(収益が得られると予測する期間であり、ここでは建物等の経済的残存耐用
年数と一致する場合にはN、建物等の経済的残存耐用年数より短い期間である場合はn
とする。)
PLn :n年後の土地価格
PBn :n年後の建物等の価格
PLN :N年後の土地価格
E:建物等の撒去費
ホ
誤り。
標準的な支払賃料水準に補正はしない。
運営事業者である賃借人の優れた能力による超過収益は、本来賃借人に帰属するものであるが、
賃貸借契約において、いわゆる「歩合賃料制」が約定されている場合等においては、当該超過収
益の一部が事業用不動産に帰属する場合があることに留意する。
ウ
事業用不動産に係る総収益の把握における留意点
事業用不動産については、その利用方法において個別性が高く、賃貸借の市場が相対的に成
熟していないため、賃貸借の事例をもとに適正な賃料を把握することが困難な場合が多い。し
たがって、当該事業による売上高をもとに支払賃料等相当額を算定する場合には、その事業採
算性の観点から、適正な賃料水準を把握する必要がある。
- 71 -
また、事業用不動産が現に賃貸借に供されている場合においても、現行の賃貸借契約におけ
る賃料と、事業採算性の観点から把握した適正な賃料水準との関係について分析を行うことが
有用である。
これらの場合においては、将来における事業経営の動向を中長期的な観点から分析し、当該
賃料等が、相当の期間、安定的に収受可能な水準であるかについて検討する必要がある。
なお、運営事業者が通常よりも優れた能力を有することによって生じる超過収益は、本来、
運営事業者の経営等に帰属するものであるが、賃貸借契約において当該超過収益の一部が不動
産の所有者に安定的に帰属することについて合意があるときには、当該超過収益の一部が当該
事業用不動産に帰属する場合があることに留意すべきである。
事業用不動産が現に賃貸に供されている場合、総収益は支払賃料等となるが、賃借人による賃
貸以外の事業に係る収支に基づき支払賃料等相当額を把握し、これとの比較により、現行の賃貸
借契約における支払賃料等が、相当の期間、安定的に収受可能な水準であるかについて分析する
ことが有用である。
この場合において、運営事業者である賃借人が、通常よりも優れた能力を有することによる超
過収益は、本来賃借人に帰属するものであるが、賃貸借契約において、いわゆる「歩合賃料制」
が約定されている場合等においては、当該超過収益の一部が事業用不動産に帰属する場合がある
ことに留意すべきである(「基準実務指針」148 頁、149 頁)。
- 72 -
〔問題
21〕 不動産の継続賃料を求める鑑定評価の手法に関する次のイからホまでの記述のうち、
誤っているものをすべて掲げた組み合わせはどれか。
イ
継続賃料を求める鑑定評価の手法には、差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比
較法があり、対象不動産が宅地である場合も建物及びその敷地である場合も共通である。
ロ
差額配分法において、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料を求める場合に必
要となる賃貸借等の事例については、契約内容等の類似性を有するものを選択すべきである。
よって、類似の賃貸借等が行われておらず、賃貸事例比較法の適用を断念する場合には、差
額配分法自体の適用を断念し、他の手法により継続賃料を試算すべきである。
ハ
利回り法において求める基礎価格は、新規賃料を求める手法である積算法で求める基礎価
格とは通常一致しない。
ニ
スライド法で求める必要諸経費等は、利回り法において求める必要諸経費等と通常一致す
る。
ホ
継続賃料に係る賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求
める手法であり、地域要因の比較及び個別的要因の比較にあたっては、賃料固有の価格形成
要因に加え、継続賃料固有の価格形成要因にも留意しなければならない。
⑴
イとロ
⑵
ロとハ
⑶
ハとニ
⑷
ロとハとニ
⑸
ロとハとホ
正解
イ
国土交通省の正解は⑵である。
正しい。
継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する鑑定評価においては、差額配
分法、利回り法、スライド法及び賃貸事例比較法を適用する。
契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する鑑定評価においては、継続
中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料の改定を想定した場合における賃料を査定する
ので、差額配分法、利回り法、スライド法及び賃貸事例比較法を適用する。
建物及びその敷地の継続賃料を求める場合の鑑定評価は、宅地の継続賃料を求める場合の鑑定
評価に準ずるものとするので、差額配分法、利回り法、スライド法及び賃貸事例比較法を適用す
る。
Ⅱ
継続賃料を求める場合
2.継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合
継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価額は、差
額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連づけ
て決定するものとする。
3.契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する場合
契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する場合の鑑定評価に当た
っては、契約上の条件又は使用目的の変更に伴う宅地及び地上建物の経済価値の増分のうち
- 73 -
適切な部分に即応する賃料を前記2.を想定した場合における賃料に加算して決定するもの
とする。
Ⅱ
継続賃料を求める場合
建物及びその敷地の継続賃料を求める場合の鑑定評価は、宅地の継続賃料を求める場合の鑑
定評価に準ずるものとする。
ロ
誤り。
対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想定される新規賃料(正
常賃料、限定賃料)であり、積算法、賃貸事例比較法等により求める。
1.差額配分法
(2) 適用方法
①
対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想定される新規
賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。
対象不動産の経済価値に即応した適正な支払賃料は、契約に当たって一時金が授受され
ている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等の一時金の運用益及び償却
額を控除することにより求めるものとする。
ハ
誤り。
国土交通省の正解では誤ったものとなっている。
利回り法において求める基礎価格は、価格時点のものと直近合意時点のものとがある。
利回り法の価格時点の基礎価格と積算法の価格時点の基礎価格は一致するが、利回り法の直近
合意時点の基礎価格と積算法の価格時点の基礎価格は一致しない。選択肢ハは誤りである。
継続賃料を求める鑑定評価の手法の適用では次のようになる。
差額配分法の適用で、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において
想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。
積算法は、対象不動産について、①価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗
じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である。
利回り法は、②価格時点の基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算し
て試算賃料を求める手法である。利回り法の基礎価格には、②価格時点の基礎価格のほかに、③
直近合意時点における基礎価格がある。
①の基礎価格は、③の直近合意時点の基礎価格とは一致しない。
1.積算法
積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗
じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法に
よる試算賃料を積算賃料という。)。
基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、原価法及び取引事例比較法
により求めるものとする。
2.利回り法
利回り法は、基礎価格 (注1)に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算
賃料を求める手法である。
- 74 -
①
基礎価格 (注2)及び必要諸経費等の求め方については、積算法に準ずるものとする。
②
継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格 (注3)に対する純賃料の割合を踏まえ、
継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改
定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等におけ
る対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借
等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。
(注1)この基礎価格は価格時点のものである。
(注2)この基礎価格は、価格時点の基礎価格と直近合意時点における基礎価格である。
(注3)直近合意時点における基礎価格は、継続賃料利回りを査定するときに必要となる。
ニ
正しい。
価格時点の必要諸経費等と直近合意時点の必要諸経費等とがある。
利回り法の必要諸経費等には、価格時点の必要諸経費等のほかに、直近合意時点の純賃料を査
定するときに必要となる直近合意時点の必要諸経費等がある。
スライド法の必要諸経費等には、価格時点の必要諸経費等と直近合意時点の純賃料を査定する
ときに必要となる直近合意時点の必要諸経費等とがある。
2.利回り法
利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等 (注1)を加算して試算
賃料を求める手法である。
①
基礎価格及び必要諸経費等 (注2)の求め方については、積算法に準ずるものとする。
②
継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続
賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時
の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対
象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の
事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。
(注1)この必要諸経費等は価格時点のものである。
(注2)この必要諸経費等は、価格時点の必要諸経費等と直近合意時点の必要諸経費等である。
直近合意時点の必要諸経費等は直近合意時点における純賃料を査定するときに必要とな
る。
3.スライド法
スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に (注3)価格時点におけ
る必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
なお、直近合意時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応する適切な変動率が求め
られる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として直接求めることができるものと
する。
①
変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動
分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、
物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に
勘案して求めるものとする。
②
必要諸経費等 (注4)の求め方は、積算法に準ずるものとする。
- 75 -
(注4)この必要諸経費には、(注3)の価格時点の必要諸経費等と、直近合意時点における純賃
料を査定するときに必要となる直近合意時点の必要諸経費等がある。
ホ
正しい。
継続賃料を求める鑑定評価手法である賃貸事例比較法に関する規定内容である。
4.賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手法である。
試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行うことに留意
しなければならない。
Ⅱ
継続賃料を求める場合
1.継続賃料の価格形成要因
継続賃料固有の価格形成要因は、直近合意時点から価格時点までの期間における要因が中
心となるが、主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1) 近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代
替競争不動産の賃料の推移及びその改定の程度
(2) 土地価格の推移
(3) 公租公課の推移
(4) 契約の内容及びそれに関する経緯
(5) 賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度
継続賃料固有の価格形成要因は、継続賃料の鑑定評価に係る一般的留意事項(基準総論第7章
第2節Ⅰ4.参照)のとおり、直近合意時点から価格時点までの事情変更に係る要因のほか、契
約締結の経緯、賃料改定の経緯、契約内容等の賃料決定の要素となった諸般の事情に係る要因に
分類することができる。
事情変更に係る要因は、直近合意時点から価格時点までの期間の時系列的な動態分析が必要で
あり、諸般の事情に係る要因は、賃料の決定又は賃料改定に影響を与えた契約内容及びそれに関
する経緯などであり、それぞれ分析が必要となる(「基準実務指針」241 頁)。
- 76 -
〔問題
22〕
継続中の建物及びその敷地の賃貸借契約に基づく実際支払賃料の改定のための鑑定
評価における鑑定評価の手法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。なお、現行賃料は
直近合意時点における新規賃料より割高な水準により合意されたものとする。
⑴
差額配分法の適用過程で対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料を積算法により求
める場合における基礎価格について、賃借人が付加設置した建物設備等も対象に含めて査定し
た。
⑵
差額配分法の適用過程で対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料と実際実質賃料と
の間に過大な負の差額が認められたが、継続賃料固有の価格形成要因を分析した結果、当該差
額について賃貸人に帰属する部分はないと判断した。
⑶
利回り法の適用過程における基礎価格には、継続賃料固有の価格形成要因を反映する必要が
あることから、差額配分法の適用過程で対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料を積
算法により求めた場合における基礎価格に対して適切な修正を行って採用した。
⑷
スライド法の適用過程における変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済
情勢等の変化に即応する変動分を表すものであるから、当該期間のみに着目して各種指数や不
動産インデックス等を勘案のうえ変動率を査定した。
⑸
賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法の適用に準じるものであるから、賃貸事
例の収集・選択における契約内容の類似性に係る判断基準も、新規賃料に係る賃貸事例比較法
の場合と同じである。
正解
⑴
⑵
誤り。
基礎価格に賃借人が付加設置した建物設備等を対象不動産に含めて査定すると、基礎価格をつ
うじて建物設備の価格が実質賃料に反映されることから、対象不動産の経済価値に即応した適正
な実質賃料と実際実質賃料との差額に影響を及ぼし、差額の配分をつうじて、賃借人の付加設置
した建物設備等に対する支出が賃料を構成する。賃借人が付加設置した建物設備を基礎価格に含
めて査定することは誤り。
⑵
正しい。
対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料と実際実質賃料との間に過大な負の差額が認
められたということは、実際支払賃料が高いということである。
現行賃料が直近合意時点における新規賃料より割高な水準により合意されたものとするという前
提から、この差額が賃借人に帰属するものと判断したということである(実際実質賃料の減額と
いう判断である。)。
②
賃貸人等に帰属する部分については、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、一般的要
因の分析及び地域要因の分析により差額発生の要因を広域的に分析し、さらに対象不動産につ
いて契約内容及び契約締結の経緯等に関する分析を行うことにより適切に判断するものとする。
賃料差額の発生要因は大きく事情変更に係る要因と諸般の事情の要因に分解することができ
る。賃貸人等に帰属する部分の判定に当たっては基準各論第2章第1節Ⅱ、第2節Ⅱで説明して
いる継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、一般的要因の分析及び地域要因の分析により差
額発生の要因を広域的・時系列的に分析し、さらに対象不動産について契約内容、契約締結の経緯
- 77 -
等に関する分析を行うことにより、賃貸借等の当事者間の公平の観点から適切に判断するもので
ある。
特に基準各論第2章第1節Ⅱ2.の総合的勘案事項として「(6)直近合意時点及び価格時点にお
ける新規賃料と現行賃料の乖離の程度」が掲げられているとおり、両時点の当該乖離の程度により
事情変更に係る要因の差額を把握することが可能であることから賃貸人等に帰属する部分の判定
に当たっては当該事項に留意する必要がある。
また、契約締結の経緯等に係る要因については、賃貸借等の当事者のいずれか一方に起因する
事情がある場合は、当該事情を踏まえ、公平の観点から賃貸人等に帰属する部分を判定する必要
がある(「基準実務指針」245 頁)。
⑶
誤り。
利回り法における価格時点における基礎価格は、差額配分法で適用される積算法の基礎価格と
同じである。積算法の基礎価格を修正して求めるものではない。
利回り法において、継続賃料利回りを査定するときに必要となる直近合意時点における基礎価
格は、原価法と取引事例比較法により求める。
利回り法の適用方法で、
「基礎価格及び必要諸経費等の求め方については、積算法に準ずるもの
とする。」と規定されているが、この基礎価格には、価格時点におけるものと、直近合意時点にお
けるものとがあることに留意する。問題 22 の選択肢ハの解説参照。
1.積算法
積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗
じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法に
よる試算賃料を積算賃料という。)。
基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、原価法及び取引事例比較法
により求めるものとする。
2.利回り法
利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料
を求める手法である。
基礎価格及び必要諸経費等の求め方については、積算法に準ずるものとする。
⑷
誤り。
継続賃料固有の価格形成要因は、継続賃料の鑑定評価に係る一般的留意事項のとおり、直近合
意時点から価格時点までの事情変更に係る要因のほか、契約締結の経緯、賃料改定の経緯、契約
内容等の賃料決定の要素となった諸般の事情に係る要因について留意しなければならない。
3.スライド法
①
変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動
分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変
動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合
的に勘案して求めるものとする。
1.継続賃料の価格形成要因
継続賃料固有の価格形成要因は、直近合意時点から価格時点までの期間における要因が中心
- 78 -
となるが、主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1) 近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替
競争不動産の賃料の推移及びその改定の程度
(2) 土地価格の推移
(3) 公租公課の推移
(4) 契約の内容及びそれに関する経緯
(5) 賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度
継続賃料固有の価格形成要因は、継続賃料の鑑定評価に係る一般的留意事項(基準総論第7章
第2節Ⅰ4.参照)のとおり、直近合意時点から価格時点までの事情変更に係る要因のほか、契約
締結の経緯、賃料改定の経緯、契約内容等の賃料決定の要素となった諸般の事情に係る要因に分
類することができる。
事情変更に係る要因は、直近合意時点から価格時点までの期間の時系列的な動態分析が必要で
あり、諸般の事情に係る要因は、賃料の決定又は賃料改定に影響を与えた契約内容及びそれに関
する経緯などであり、それぞれ分析が必要となる(「基準実務指針」241 頁)。
⑸
誤り。
賃貸事例の選択要件として継続賃料の固有の価格形成要因との類似性が求められる。
4.賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手法である。
試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行うことに留意
しなければならない。
賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める方法であるが、継
続賃料固有の価格形成要因についての考慮が十分に行われずに試算賃料を求めると、不適切な賃
貸事例の選択や要因比較がなされたり、不動産鑑定士の裁量によって試算賃料が大きく異なった
りすることとなるおそれがある。
このため、賃貸事例比較法の適用においても、継続賃料固有の価格形成要因である直近合意時
点から価格時点までの事情変更及び諸般の事情の双方を考慮して、各評価手法の平仄が合ってい
るようにすることが必要である。
賃貸事例の選択要件としては、継続賃料の固有の価格形成要因との類似性が求められる。しか
し、サブリースやオーダーメイド賃貸に係る継続賃料評価のように、継続賃料固有の価格形成要
因の類似性を厳格に求めることは困難な場合が多い。鑑定実務では、継続賃料に係る賃貸事例比
較法は、賃貸事例の収集・選択が困難であることを理由に、安易に手法の適用が断念され、軽視
される傾向がみられる。賃貸事例の収集は継続賃料水準の把握、継続賃料の変動率の把握等、継
続賃料の市場を分析するためには必要であり、また、「事情変更に係る要因」の実証的な分析の
基礎となることから、安易に手法の適用が断念されないよう留意する必要がある。
賃貸事例比較法の適用に際して、継続賃料固有の価格形成要因の厳格な類似性が認められる賃
貸事例が収集できない場合は、当該要因の比較によって適切に補正することが可能である賃貸事
例をもってそれに代替することや、試算賃料の調整及び鑑定評価額の決定の段階において当該手
法の説得力に係る判断を踏まえることが必要である(「基準実務指針」248 頁、249 頁)。
- 79 -
〔問題
⑴
23〕
賃料を求める鑑定評価の手法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
宅地の賃料を積算法で求める場合、基礎価格は常に更地としての経済価値に即応した価格と
なる。
⑵
対象不動産に関する公租公課(固定資産税、都市計画税等)は、賃貸人が負担するのが通常
であることから、積算法における必要諸経費等に含めてはならない。
⑶
賃貸事例比較法は、新規賃料を求める場合と継続賃料を求める場合のいずれの場合にも適用
できる手法である。
⑷
利回り法における継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合
を採用すべきであり、他の要因等を勘案して変更してはならない。
⑸
スライド法において直近合意時点における純賃料に乗じる変動率がマイナスであれば、スラ
イド法により求められる実質賃料(試算賃料)は必ず実際実質賃料(現行賃料)よりも低額に
なる。
正解
⑴
国土交通省の正解は⑶である。
誤り。
基礎価格は、必ずしも対象不動産の最有効使用を前提とする経済価値とは限らず、不動産の賃
貸借等の契約によって制約されている程度に応じた経済価値である(「中間報告)。
宅地の賃料は、賃貸借等の契約条件等によって特定された経済価値に即応する適正な賃料であ
る。積算法を適用して求める宅地の賃料には、宅地の正常賃料と限定賃料とがある。基礎価格に
は、更地としての経済価値に即応した価格、契約条件を前提とする建付地としての価格、隣接宅
地の併合使用又は宅地の一部の分割使用をする当該宅地の限定価格などがある。
(1) 積算法について
基礎価格を求めるに当たっては、次に掲げる事項に留意する必要がある。
①
宅地の賃料(いわゆる地代)を求める場合
ア
最有効使用が可能な場合は、更地の経済価値に即応した価格である。
イ
建物の所有を目的とする賃貸借等の場合で契約により敷地の最有効使用が見込めないと
きは、当該契約条件を前提とする建付地としての経済価値に即応した価格である。
宅地の限定賃料の鑑定評価額は、隣接宅地の併合使用又は宅地の一部の分割使用をする当該宅
地の限定価格を基礎価格として求めた積算賃料及び隣接宅地の併合使用又は宅地の一部の分割使
用を前提とする賃貸借等の事例に基づく比準賃料を関連づけて決定するものとする。
⑵
誤り。
対象不動産に関する公租公課(固定資産税、都市計画税等)は、必要諸経費等に含める。
不動産の賃貸借等に当たってその賃料に含まれる必要諸経費等としては、次のものがあげられ
る。
ア
減価償却費(償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には、計上しない。)
イ
維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)
ウ
公租公課(固定資産税、都市計画税等)
エ
損害保険料(火災、機械、ボイラー等の各種保険)
オ
貸倒れ準備費
- 80 -
カ
空室等による損失相当額
積算法は、不動産からの一定量の用益を得るために費やされた価値(原価)に着目して、その
用益の対価である賃料を求めようとするものである。
建築、造成等により取得した不動産を所有者自身が使用することなく賃貸借等に供する場合、
当該不動産の取得に要した費用は投下資本と観念されるので、その投資額に対して期待される一
定の収益がその不動産の賃貸借等を通じて享受される用益の原価を構成することとなるが、さら
に減価償却費や貸主の負担となつている維持管理費など当該賃貸借等を継続するために通常必要
とされる諸経費等もその不動産の用益の原価の一部を構成しているものである。したがつて、こ
れら原価項目に着目し、それらの額を積算することによつて賃料を求めることができる(「解説」
96 頁、97 頁)。
⑶
国土交通省の正解では正しいものとなっている。
新規賃料を求める場合と継続賃料を求める場合のいずれの場合にも適用できる賃貸事例比較法
という手法はない。選択肢⑶は誤りである。
新規賃料を求める鑑定評価の手法である賃貸事例比較法と継続賃料を求める鑑定評価の手法で
ある賃貸事例比較法とは、鑑定評価の手法の名称は同じであるが、内容は異なっている。
関連問題に平成 19 年問題 38 の選択肢イがある。
〔問題 38〕 継続賃料に関する次のイからホまでの記述のうち、正しいものはいくつあるか。
イ
不動産鑑定評価基準において、賃料の鑑定評価は、新規賃料を求める場合、継続賃料を求
める場合それぞれについてその手法が規定されており、賃料の種類によってその適用方法は
異なり、両者に共通する手法はない。
国土交通省はこの問題 38 について、「正しいものはない」を正解として公表している。この選
択肢イが誤りということは、新規賃料を求める場合、継続賃料を求める場合、両者に共通する手
法があるということである。
新規賃料を求める鑑定評価の手法である積算法及び賃貸事例比較法は、継続賃料を求める手法
である差額配分法で用いられる。
差額配分法の適用で、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において
想定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求める。
積算法及び新規賃料を求める賃貸事例比較法は、新規賃料及び継続賃料の鑑定評価において適用
される。
新規賃料を求める鑑定評価の手法である賃貸事例比較法と継続賃料を求める鑑定評価の手法で
ある賃貸事例比較法とは、鑑定評価の手法の名称は同じであるが、内容は異なっており、共通の
手法ではない。
この問題 38 の選択肢イについて、2007.8「不動産鑑定」104 頁に、「イ:不動産鑑定評価基準総
論第7章第2節より『×』。両者に共通して賃貸事例比較法がある。」という解説がある。
Ⅱ
新規賃料を求める鑑定評価の手法
2.賃貸事例比較法
(1) 意義
賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の選択を行
い、これらに係る実際実質賃料(実際に支払われている不動産に係るすべての経済的対価
- 81 -
をいう。)に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的
要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料を
求める手法である(この手法による試算賃料を比準賃料という。)。
Ⅲ
継続賃料を求める鑑定評価の手法
4.賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手法である。
試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行うことに留
意しなければならない。
⑷
誤り。
②
継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃
料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利
回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動
産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例にお
ける利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。
基準では、継続賃料利回りは、直近合意時点の純賃料利回りを踏まえて、継続賃料固有の価格
形成要因に留意し、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動
の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸
借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較
考量して求めるものとされており、事情変更の要因を基礎価格の変動のみによって捉えるのでは
ないことが明確に示されている(「基準実務指針」247 頁)。
⑸
誤り。
直近合意時点における純賃料に乗ずる変動率がマイナスであっても、価格時点の必要諸経費等
の増加分のほうが大きい場合(直近合意時点から価格時点までの間の増加分)は、直近合意時点
における賃料より低額にはならない。
3.スライド法
スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必
要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
なお、直近合意時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応する適切な変動率が求め
られる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として直接求めることができるものと
する。
①
変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動
分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、
物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に
勘案して求めるものとする。
②
必要諸経費等の求め方は、積算法に準ずるものとする。
不動産の賃貸借等に当たってその賃料に含まれる必要諸経費等としては、次のものがあげられ
る。
ア
減価償却費(償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には、計上しない。)
- 82 -
イ
維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)
ウ
公租公課(固定資産税、都市計画税等)
エ
損害保険料(火災、機械、ボイラー等の各種保険)
オ
貸倒れ準備費
カ
空室等による損失相当額
- 83 -
〔問題
⑴
24〕
鑑定評価の手順に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
処理計画の策定に当たって、鑑定評価の基本的事項、依頼者及び提出先並びに利害関係等の
ほか、依頼者に対し、他の専門家による調査結果等の活用の要否、立会の有無(立会人の氏名・
職業を含む)を明瞭に確認しなければならない。
⑵
物的確認につき、同一の不動産の再評価を行う場合において、過去に関与不動産鑑定士とし
て自ら内覧の実施を含めた実地調査を行ったことがあり、かつ、当該不動産の個別的要因につ
いて、直近に行った鑑定評価の価格時点と比較して重要な変化がないと客観的に認められる場
合は、内覧の全部又は一部を省略することができるが、実地調査は行わなければならない。
⑶
資料の収集及び整理につき、近隣地域は対象不動産の価格の形成に関して直接に影響を与え
るような特性を持つものであることから、事例資料の収集範囲は、可能な限り近隣地域に限定
しなければならない。
⑷
鑑定評価手法の適用につき、価格を求める鑑定評価の手法には、価格の三面性のうち、費用
性に基づく原価法、市場性に基づく取引事例比較法、収益性に基づく収益還元法があり、これ
ら3つの鑑定評価の手法を適用することにより、はじめて価格の三面性からの分析がなされ、
正常価格を求めることができる。
⑸
試算価格の調整に当たっては、複数の鑑定評価の手法により求められた各試算価格の再吟味
及び説得力に係る判断を行い、最も説得力を有すると判断した試算価格をもって鑑定評価額と
しなければならない。
正解
⑴
⑵
誤り。
処理計画の策定に当たって、立会の有無(立会人の氏名・職業を含む)の確認は規定されてい
ない。
第1節
鑑定評価の基本的事項の確定
鑑定評価に当たっては、まず、鑑定評価の基本的事項を確定しなければならない。このため、
鑑定評価の依頼目的、条件及び依頼が必要となった背景について依頼者に明瞭に確認するもの
とする。
第2節
依頼者、提出先等及び利害関係等の確認
第3節
処理計画の策定
処理計画の策定に当たっては、第1節により確定された鑑定評価の基本的事項に基づき、実
施すべき作業の性質及び量、処理能力等に即応して、対象不動産の確認、資料の収集及び整理、
資料の検討及び価格形成要因の分析、鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整、
鑑定評価額の決定等鑑定評価の作業に係る処理計画を秩序的に策定しなければならない。
処理計画の策定に当たっては、総論第8章第1節及び第2節に定める事項のほか、依頼者に
対し、次の事項を明瞭に確認しなければならない。この際に確認された事項については、処理
計画に反映するとともに、当該事項に変更があった場合にあっては、処理計画を変更するもの
とする。
(1) 対象不動産の実地調査の範囲(内覧の実施の有無を含む。)
(2) 他の専門家による調査結果等の活用の要否
(3) その他処理計画の策定のために必要な事項
- 84 -
第4節
対象不動産の確認
対象不動産の確認に当たっては、第1節により確定された対象不動産についてその内容を明
瞭にしなければならない。
「基準」第8章第1節の「鑑定評価の基本的事項の確定」は、確認という実践行為を行う前の
確定である。対象不動産の確定は、鑑定評価の対象を明確に他の不動産と区別し、特定すること
であり、それは不動産鑑定士が鑑定評価の依頼目的及び条件に照応する対象不動産と当該不動産
の現実の利用状況とを照合して確認するという実践行為を経て最終的に確定されるべきものであ
る。
⑵
正しい。
内覧の全部又は一部の実施について省略することができる場合でも、実地調査は行わなければ
ならない。「留意事項」で省略することができるとしているのは内覧である。
3.対象不動産の確認について
(1) 対象不動産の物的確認について
対象不動産の確認に当たっては、原則として内覧の実施を含めた実地調査を行うものとす
る。
なお、同一の不動産の再評価を行う場合において、過去に自ら内覧の実施を含めた実地調
査を行ったことがあり、かつ、当該不動産の個別的要因について、直近に行った鑑定評価の
価格時点と比較して重要な変化がないと客観的に認められる場合は、内覧の全部又は一部の
実施について省略することができる。
過去に鑑定評価を行った不動産について同一の不動産鑑定士
27
が再評価を行う場合において、
直近に行った鑑定評価の価格時点と比較して当該不動産の個別的要因に重要な変化がないと認め
られる場合 28 は、過去に自ら行った内覧により確認した内容から推定可能と考えられるため、内
覧の全部又は一部の実施について省略することができる。ただし、基準留意事項で省略すること
ができるとしているのは内覧であるので実地調査は必要であり、さらに本指針に基づく実務対応
においては、内覧の全部又は一部の実施について省略することができるのは、再評価の鑑定評価
の価格時点が、内覧を行った直近の鑑定評価の価格時点から概ね1年以内の場合に限るものとす
る。
「自ら実地調査を行った」とは、過去の鑑定評価において不動産鑑定士として内覧を含む実地
調査を行い、関与不動産鑑定士として署名を行った、ということを指し、関与不動産鑑定士以外
の役割(補助者の役割で内覧に立ち会った場合など)で、過去に内覧を含む実地調査を行った場
合は含まれないことに注意が必要である。
なお、対象不動産の一部のみに変更がある場合は、当該部分を中心に内覧を行う等の対応も考
えられる。
27
複数の不動産鑑定士が関与不動産鑑定士となる場合においては、当該複数の不動産鑑定士全
員が内覧を含む実地調査を過去に自ら行っている必要はなく、当該複数の不動産鑑定士のうち
のいずれかが当該不動産について内覧を含む実地調査を過去に自ら行ったことがあれば足りる。
28
個別的要因についての重要な変化の有無に関する判断は、例えば下記に掲げる事項を実地調
査、依頼者への確認及び要因資料の分析等により明らかにした上で行う。
- 85 -
①敷地の併合や分割(軽微なものを除く。)、区画形質の変更を伴う造成工事(軽微なものを除
く。)、建物に係る増改築や大規模修繕工事(軽微なものを除く。)等の実施の有無、②公法上若
しくは私法上の規制・制約等(法令遵守状況を含む。)、建物環境に係るアスベスト等の有害物
質、土壌汚染、耐震性、地下埋設物等に係る重要な変化、③賃貸可能面積の過半を占める等の
主たる借主の異動又は借地契約内容の変更(少額の地代の改定など軽微なものを除く。)等の有
無(「基準実務指針」64 頁、65 頁)。
賃借人との関係や物理的な理由で建物の一部や敷地の一部の確認ができなかった場合には、そ
の範囲及び理由を記載するとともに、確認できなかった部分についての現状把握のための状況推
定根拠(竣工図面、他の類似の建物部分の実地調査、対象不動産の管理者等へのヒアリング等)
を記載する。
自ら実地調査を行った鑑定評価の価格時点から概ね1年以内の再評価の場合は、個別的要因に
重要な変化がないと認められる場合に限り、内覧を省略することができるが、この場合には、内
覧を省略した理由とともに建物管理者による建物管理状況報告書、賃貸借契約一覧表や依頼者か
らのヒアリング(ヒアリング内容については他の確認資料や外観調査等による検証が必要。)等の
個別的要因に重要は変化がないと判断した根拠を記載する必要がある(「基準実務指針」68 頁、
69 頁)。
⑶
誤り。
事例資料は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域若しくは必要やむを得ない場合には近隣地
域の周辺の地域(以下「同一需給圏内の類似地域等」という。)に存する不動産に係るもの、対象
不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等において同一需給圏内に存し対象不動産と代替、
競争等の関係が成立していると認められる不動産(以下「同一需給圏内の代替競争不動産」とい
う。)に係るものを収集する。
⑷
誤り。
対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、
対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な
場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである、ということが基本
になっている。
第7節
鑑定評価手法の適用
鑑定評価の手法の適用に当たっては、鑑定評価の手法を当該案件に即して適切に適用すべき
である。この場合、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等を適
切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、
資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をで
きるだけ参酌するように努めるべきである。
対象不動産の属する市場により、対象不動産の類型等に対応して基準各論の規定により適用す
べきとされる鑑定評価の手法の中で、典型的な市場参加者の価格等の判断の中心となっている手
法がある。このような場合に、対象不動産に係る市場の特定等を適切に反映した手法(原則とし
て複数の手法)を適用するに当たり、当該適用する手法において、複数の方式の考え方が反映さ
れ、対象不動産の価格形成について、客観的にみて十分な説得力があると認められる場合に限り、
- 86 -
結果的に基準各論に規定する手法を一部省略することができる場合がある。すなわち、市場分析
の結果を踏まえ、ある鑑定評価の手法の適用により、複数の鑑定評価方式の考え方が反映され、
かつ、十分に対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映した精度の高い鑑定評価額が求められ
ると判断される場合には、当該手法の適用において複数の鑑定評価の手法を適用したものとみな
すことが可能となる場合もあり得るため、結果的に適用する鑑定評価の手法が限定される場合も
ある(「基準実務指針」105 頁)。
選択肢(4)では、価格を求める鑑定評価の手法には、価格の三面性のうち、費用性に基づく原価
法、市場性に基づく取引事例比較法、収益性に基づく収益還元法があり、と述べられているが、
これでは、不動産の価格を構成する三者との関連がつかない。
選択肢(4)の内容は次のようになるが、これと前述の第7節の内容とは整合性がつかないこと
に留意する。
不動産の価格の三面性
一般の財の価格の三面性
価格を求める鑑定評価の手法
収益性
収益還元法
その不動産の相対的稀少性
費用性
原価法
その不動産に対する有効需要
市場性
取引事例比較法
その不動産に対してわれわれ
が認める効用
不動産の価格は、一般に、その不動産に対してわれわれが認める効用、その不動産の相対的稀
少性及びその不動産に対する有効需要の三者の相関結合によって生ずる不動産の経済価値を貨幣
額をもって表示したものである。
合理的な市場人が物の経済価値を判定する場合、それがどれくらいの費用で造られているか(費
用性)、どれくらいの価格で市場で取引されているか(市場性)、それを利用することによってど
れくらいの収益が得られるか(収益性)という価格の三面性について検討を行う。
不動産の価格の場合もこれと同様であって、原価法は、相対的稀少性に対応する費用性から不
動産の再調達に要する原価に着目して、取引事例比較法は、有効需要に対応する市場性から不動
産の取引事例に着目して、収益還元法は、効用に対応する収益性から不動産が生み出すであろう
純収益に着目して、それぞれ価格を求めようとするものである。
不動産の鑑定評価とは、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成されるであ
ろう市場価値を表示する適正な価格を、不動産鑑定士が的確に把握する作業に代表される。この
適正な価格は正常価格である。正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済
情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正
な価格をいう。正常価格は、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場を
経ることにより、個人の主観的、特殊な事情が捨象されており、社会一般が最も通常妥当と認め
る価格である (注)。
不動産について、市場参加者が合理的と考えられる条件を満たす市場において行動する場合、
対象不動産と同等の効用を有する不動産の再調達に要する費用から求められる価格、同等の効用
を有すると認められる不動産の取引価格から求められる価格及び対象不動産の効用(収益性)か
ら求められる価格を検討することが考えられる。市場参加者による不動産の価格の三面性の検討
を経て形成される価格は正常価格である。したがって、不動産の鑑定評価により不動産の正常価
格を求める場合には、原価法、取引事例比較法、収益還元法を併用する。対象不動産の種類、所
- 87 -
在地の実情、資料の信頼性等により三手法の併用が困難な場合においても、その考え方をできる
だけ参斟するよう努めるべきである。
(注)「建議」参照。
⑸
誤り。
各試算価格が有する説得力の違いを適切に反映することにより、試算価格の調整を行う。
第8節
試算価格又は試算賃料の調整
試算価格又は試算賃料の調整とは、鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格又は
試算賃料の再吟味及び各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価に
おける最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう。
試算価格又は試算賃料の調整に当たっては、対象不動産の価格形成を論理的かつ実証的に説
明できるようにすることが重要である。このため、鑑定評価の手順の各段階について、客観的、
批判的に再吟味し、その結果を踏まえた各試算価格又は各試算賃料が有する説得力の違いを適
切に反映することによりこれを行うものとする。
- 88 -
〔問題
⑴
25〕 鑑定評価報告書に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
投資法人等が投資対象不動産を譲渡するときに依頼される鑑定評価においては、依頼目的に
対応した条件により特定価格を求めることとなるため、かっこ書きで正常価格である旨を付記
して正常価格の額を併記しなければならない。
⑵
対象不動産の物的確認及び権利の態様の確認について、後日対象不動産の現況把握に疑義が
生ずる場合があることを考慮して、
「実地調査を行った年月日」、
「実地調査を行った不動産鑑定
士の氏名」、「立会人の氏名及び職業」、「実地調査を行った範囲(内覧の実施の有無を含む。)」、
「実地調査の一部を実施することができなかった場合にあっては、その理由」の各事項を記載
しなければならない。
⑶
同一の不動産の再評価を行う場合において内覧の全部又は一部の実施を省略した場合には、
当該不動産の個別的要因に重要な変化がないと判断した根拠について記載する。
⑷
鑑定評価の依頼目的に対応した条件により、特定価格を求めた場合には、当該価格を求める
べきと判断した理由、すなわち法令等による社会的要請の根拠を記載しなければならない。
⑸
鑑定評価の手法の適用について、対象不動産の種別及び類型並びに賃料の種類に応じた、不
動産鑑定評価基準各論第1章から第3章に規定する鑑定評価の手法の適用ができない場合には、
対象不動産の市場の特性に係る分析結果等に照らし、その合理的な理由を記載する。
正解
⑴
⑴
誤り。
投資法人等が投資対象資産を譲渡するときに依頼される鑑定評価で求める価格は正常価格とし
て求めるので、正常価格を記載する。
②
特定価格を求める場合の例について
各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すた
めの投資採算価値を表す価格を求める場合
この場合は、投資法人、投資信託又は特定目的会社等(以下「投資法人等」という。)の投資
対象となる資産(以下「投資対象資産」という。)としての不動産の取得時又は保有期間中の価
格として投資家に開示することを目的に、投資家保護の観点から対象不動産の収益力を適切に
反映する収益価格に基づいた投資採算価値を求める必要がある。
投資対象資産としての不動産の取得時又は保有期間中の価格を求める鑑定評価については、
上記鑑定評価目的の下で、資産流動化計画等により投資家に開示される対象不動産の運用方法
を所与とするが、その運用方法による使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合
には特定価格として求めなければならない。なお、投資法人等が投資対象資産を譲渡するとき
に依頼される鑑定評価で求める価格は正常価格として求めることに留意する必要がある。
特定価格の例示について
(a) 各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産の鑑定評価目的の下で投資家に示すための投
資採算価値を表す価格を求める場合
この場合の鑑定評価目的は、投資対象不動産の投資採算価値を適切に開示することにあるの
で、投資法人等が計画している運用方法に基づいて、標準的な投資期間に得られる収益に基づ
く投資採算価値を求める必要がある。
- 89 -
投資法人等が計画している運用方法は、必ずしも対象不動産の最有効使用と一致するもので
はないので、正常価格の前提となる市場の合理的と考えられる条件のうち、
「対象不動産の最有
効使用を前提とした価値判断を行うこと(基準総論第5章第3節1④」を満たさない可能性が
ある。また基準各論第1章第4節Ⅰに規定している投資採算価値を表す価格を求める鑑定評価
の手法は、標準的な投資期間に得られる収益に基づいて価格判断を行うためのものであり、必
ずしも対象不動産の正常価格を求める場合に適用する鑑定評価の手法と一致するものではない。
したがって、上記鑑定評価目的の下で、投資法人等が開示する運用方法を所与とすることに
より、正常価格を求める場合の条件の内容と異なることとなる場合には特定価格として求めな
ければならない。
流動化型の証券化の場合には、対象不動産が必ずしも一般投資家の投資対象として適格な不
動産とは限らないため、正常価格と投資採算価値を表す特定価格に乖離が生じる場合も多いが、
REIT 等による運用型の証券化の場合は、標準的な投資期間に得られる収益に基づいて市場が
形成されている場合が多いので、結果として正常価格を求める場面が大半を占めることが想定
される。
一方、対象不動産の最有効使用と異なる運用方法を前提とする場合や市場価値と収益価格が
乖離しているような不動産については、正常価格との相違を示すことにより投資家への注意喚
起を行うことが必要である。
したがって、運用型の証券化の場合においても対象不動産の属する市場の特定等(特に収益
価格によって価格形成がなされているものであるか。)を慎重に分析する必要があり、安易に
「正常価格との乖離はない」、と判断しないよう慎重な対応が必要である(「基準実務指針」93
頁)。
なお、証券化対象不動産のうち、抵当証券のように対象不動産の投資採算価値ではなく売却
可能価格としての担保価値が重視される場合は、正常価格を求めれば足りる。
また、投資法人等が投資対象資産を譲渡する場合には、購入者は利用方法について証券化対
象不動産であることによる制約は受けず、また投資法人等への投資家に対しても市場での適正
な売却価格(市場価格)が開示されれば足りるので、求める価格は正常価格となる(「基準汁無
指針」94 頁)。
⑵
正しい。
対象不動産の確認の記載に関する規定内容である。
鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるとこ
ろに留意して記載しなければならない。
Ⅳ
対象不動産の確認に関する事項
対象不動産の物的確認及び権利の態様の確認について、確認資料と照合した結果を明確に記
載しなければならない。
また、後日対象不動産の現況把握に疑義が生ずる場合があることを考慮して、以下の事項を
合わせて記載しなければならない。
1.実地調査を行った年月日
2.実地調査を行った不動産鑑定士の氏名
3.立会人の氏名及び職業
- 90 -
4.実地調査を行った範囲(内覧の実施の有無を含む。)
5.実地調査の一部を実施することができなかった場合にあっては、その理由
対象不動産の確認に当たって鑑定評価報告書に記載すべき事項は次のとおりである。
ア
実地調査を行った年月日
価格時点における対象不動産の状態の確認として、実際に現地に赴き対象不動産の現況を確
認した日
イ
実地調査を行った不動産鑑定士の氏名
対象不動産について複数の不動産鑑定士で鑑定評価を行った場合には、実地調査を行ったす
べての不動産鑑定士の氏名を記載する。
ウ
立会人の氏名及び職業
立会人とは、依頼者の指示に基づき実地調査に立会い、対象不動産を案内した者(依頼者本
人や依頼者の役職員を含む。)をいう。職業とは、会社名、役職、資格等をいう。
エ
実地調査を行った範囲(内覧の有無を含む。)
建物内部の確認(内覧)を含む実地調査を行った範囲を記載する。
オ
実地調査の一部を実施することができなかった場合にあっては、その理由
賃借人との関係や物理的な理由で建物の一部や敷地の一部の確認ができなかった場合には、
その範囲及び理由を記載するとともに、確認できなかった部分についての現状把握のための状
況推定根拠(竣工図面、他の類似の建物部分の実地調査、対象不動産の管理者等へのヒアリン
グ等)を記載する。
自ら実地調査を行った鑑定評価の価格時点から概ね1年以内の再評価の場合は、個別的要因
に重要な変化がないと認められる場合に限り、内覧を省略することができるが、この場合には、
内覧を省略した理由とともに建物管理者による建物管理状況報告書、賃貸借契約一覧表や依頼
者からのヒアリング(ヒアリング内容については他の確認資料や外観調査等による検証が必要。)
等の個別的要因に重要は変化がないと判断した根拠を記載する必要がある(「基準実務指針」68
頁、69 頁)。
⑶
正しい。
実地調査の記載に関する留意事項である。
2.対象不動産の確認について
(1) 確認方法について
総論第8章により確認した事項については、後日疑義が生じることのないように、当該事
項とともに確認方法(書面によるものか、口頭によるものかの別等をいう。)及び確認資料に
ついて記載する。
(2) 実地調査について
同一の不動産の再評価を行う場合において内覧の全部又は一部の実施を省略した場合には、
当該不動産の個別的要因に重要な変化がないと判断した根拠について記載する。
個別的要因についての重要な変化の有無に関する判断は、例えば下記に掲げる事項を実地調査、
依頼者への確認及び要因資料の分析等により明らかにした上で行う。
①敷地の併合や分割(軽微なものを除く。)、区画形質の変更を伴う造成工事(軽微なものを除く。)、
建物に係る増改築や大規模修繕工事(軽微なものを除く。)等の実施の有無、②公法上若しくは私
- 91 -
法上の規制・制約等(法令遵守状況を含む。)、建物環境に係るアスベスト等の有害物質、土壌汚
染、耐震性、地下埋設物等に係る重要な変化、③賃貸可能面積の過半を占める等の主たる借主の
異動又は借地契約内容の変更(少額の地代の改定など軽微なものを除く。)等の有無(「基準実務
指針」64 頁、65 頁)。
⑷
正しい。
特定価格を求めた場合の記載に関する規定内容である。
鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるとこ
ろに留意して記載しなければならない。
Ⅴ
鑑定評価の依頼目的及び依頼目的に対応した条件と価格又は賃料の種類との関連
鑑定評価の依頼目的に対応した条件により、当該価格又は賃料を求めるべきと判断した理由
を記載しなければならない。特に、特定価格を求めた場合には法令等による社会的要請の根拠、
また、特殊価格を求めた場合には文化財の指定の事実等を明らかにしなければならない。
⑸
正しい。
鑑定評価手法の適用の記載に関する規定内容である。
鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるとこ
ろに留意して記載しなければならない。
Ⅶ
鑑定評価額の決定の理由の要旨
鑑定評価額の決定の理由の要旨は、下記に掲げる内容について記載するものとする。
3.鑑定評価の手法の適用に関する事項
適用した鑑定評価の手法について、対象不動産の種別及び類型並びに賃料の種類に応じた
各論第1章から第3章の規定並びに地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る
市場の特性等との関係を記載しなければならない。
3.鑑定評価手法の適用について
対象不動産の種別及び類型並びに賃料の種類に応じた各論第1章から第3章に規定する鑑
定評価の手法の適用ができない場合には、対象不動産の市場の特性に係る分析結果等に照ら
し、その合理的な理由を記載する。
- 92 -
〔問題
⑴
26〕 鑑定評価報告書に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
建物及びその敷地に係る鑑定評価では、更地としての最有効使用についても記載しなければ
ならない。
⑵
継続賃料を求めた場合には、直近合意時点について記載しなければならない。
⑶
鑑定評価額の決定の理由は、依頼者のみならず第三者に対して十分に説明し得るものとなる
ように努めなければならない。
⑷
対象不動産に関し、争訟等の当事者間において主張が異なる事項があり、その如何によって
鑑定評価額に差異が生じる場合には、各々の主張に基づく鑑定評価額を記載する必要がある。
⑸
他の専門家が行った調査結果等を活用した場合は、当該専門家が調査した範囲及び内容を明
確にしなければならない。
正解
⑴
⑷
正しい。
建物及びその敷地の最有効使用の判定の記載に関する規定内容である。
鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるとこ
ろに留意して記載しなければならない。
Ⅶ
鑑定評価額の決定の理由の要旨
鑑定評価額の決定の理由の要旨は、下記に掲げる内容について記載するものとする。
2.最有効使用の判定に関する事項
最有効使用及びその判定の理由を明確に記載する。なお、建物及びその敷地に係る鑑定評
価における最有効使用の判定の記載は、建物及びその敷地の最有効使用のほか、その敷地の
更地としての最有効使用についても記載しなければならない。
⑵
正しい。
鑑定評価額の決定の理由の要旨、その他の記載に関する規定内容である。
鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるとこ
ろに留意して記載しなければならない。
Ⅶ
鑑定評価額の決定の理由の要旨
鑑定評価額の決定の理由の要旨は、下記に掲げる内容について記載するものとする。
7.その他
総論第7章第2節Ⅰ1.に定める支払賃料を求めた場合には、その支払賃料と実質賃料と
の関連を記載しなければならない。また、継続賃料を求めた場合には、直近合意時点につい
て記載しなければならない。
直近合意時点の基本的な考え方
賃料の鑑定評価では実質賃料を求めることが原則とされており、一時金に関する条件が設定さ
れて、実質賃料とともに支払賃料を求めた場合には、両者の関連を記載する必要がある。
また、継続賃料の鑑定評価は、原則として、直近合意時点から価格時点までの事情変更を考慮
するものであり、直近合意時点は事情変更を考慮する起点となるものであるので、賃料改定の覚
書、賃貸借契約書などの賃料改定に係る書面、賃貸借当事者の説明などから直近合意時点を適切
に確定及び確認することが重要である(「基準実務指針」218 頁)。
- 93 -
⑶
正しい。
鑑定評価報告書の作成指針に関する規定内容である。
第1節
鑑定評価報告書の作成指針
鑑定評価報告書の内容は、不動産鑑定業者が依頼者に交付する鑑定評価書の実質的な内容と
なるものである。したがって、鑑定評価報告書は、鑑定評価書を通じて依頼者のみならず第三
者に対しても影響を及ぼすものであり、さらには不動産の適正な価格の形成の基礎となるもの
であるから、その作成に当たっては、誤解の生ずる余地を与えないよう留意するとともに、特
に鑑定評価額の決定の理由については、依頼者のみならず第三者に対して十分に説明し得るも
のとするように努めなければならない。
⑷
誤り。
対象不動産に関し、争訟等の当事者間において主張が異なる事項が判明している場合、当事者
双方の主張に基づく鑑定評価額を併記しなくてもよい。
鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるとこ
ろに留意して記載しなければならない。
Ⅶ
鑑定評価額の決定の理由の要旨
鑑定評価額の決定の理由の要旨は、下記に掲げる内容について記載するものとする。
6.当事者間で事実の主張が異なる事項
対象不動産に関し、争訟等の当事者間において主張が異なる事項が判明している場合には、
当該事項に関する取扱いについて記載しなければならない。
鑑定評価においては、一般的な価格形成要因に係る不明事項以外に、契約締結の経緯や賃料改
定に係る合意内容等の事実について賃貸借当事者間において認識が一致せず争いがあるなど、契
約内容や契約経緯(契約締結及びその後の更新等)、契約対象範囲等の事実についての不確定事項
が存在する場合がある。
これらの不確定事項がある場合、依頼者とも協議の上、合理的な一定の前提条件のもとに鑑定
評価を行うことになるが、これらの当事者間で主張の異なる不確定事項の取扱いについては、鑑
定評価書の利用者に誤解を与えないように鑑定評価報告書に記載することが望ましい。このよう
な場合の例としては、契約締結の経緯、賃料改定に係る合意内容等の事実について書面等がなく、
口頭説明のみであったため、賃貸借当事者間において認識の不一致などの争いがある場合、当事
者の一方からのみの情報による場合などが掲げられる。
対象不動産に関し、争訟等の当事者間でこのような事実が存することを不動産鑑定士が把握で
きた場合 29 には、争いがある旨と鑑定評価の前提とした事実を記載する必要がある。
争いがある事実が鑑定評価に影響を与える場合、鑑定評価の前提とした事実を記載することに
より、法曹実務家等に解りやすく、比較検証が可能な鑑定評価を行うことが可能となる。
29
訴訟の当事者間において争いのある事実は、訴状、答弁書、準備書面、証拠資料等から把握す
ることが可能である。特に答弁書は原告の主張する事実に反する認否が記載され、被告の抗弁事
実、重要な関連事実及び証拠が記載されることが一般的であるので、訴状と併せて答弁書を検討
することにより争いのある事実をある程度把握することができる(「基準実務指針」71 頁、72 頁)。
- 94 -
⑸
正しい。
鑑定評価上の不明事項に係る取扱いの記載に関する規定内容である。
鑑定評価報告書には、少なくともⅠからⅫまでに掲げる事項について、それぞれに定めるとこ
ろに留意して記載しなければならない。
Ⅷ
鑑定評価上の不明事項に係る取扱い及び調査の範囲
対象不動産の確認、資料の検討及び価格形成要因の分析等、鑑定評価の手順の各段階におい
て、鑑定評価における資料収集の限界、資料の不備等によって明らかにすることができない事
項が存する場合(調査範囲等条件を設定した場合を含む。)の評価上の取扱いを記載しなければ
ならない。その際、不動産鑑定士が自ら行った調査の範囲及び内容を明確にするとともに、他
の専門家が行った調査結果等を活用した場合においては、当該専門家が調査した範囲及び内容
を明確にしなければならない。
不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事
実の確認が困難な価格形成要因をはじめ、鑑定評価における資料収集の限界、資料の不備等によ
って明らかにすることができない事項(不明事項)が存する場合には、当該事項に係る評価上の
取扱いを明確にして鑑定評価報告書に記載する必要がある。
このような場合の対応としては基準総論第8章第6節に記載されているような様々な取扱い方
があるので、当該事項についてどのように価格への影響を考慮したかを明確にする必要がある。
この際には、自ら行った調査の範囲及びその内容、他の専門家の調査結果を活用した場合には
当該専門家が調査した範囲及びその内容並びに当該調査結果の活用理由等を記載する必要がある。
記載例
a
専門家の調査結果の活用
土壌汚染については、依頼者提示の○○調査会社作成の調査報告書(○年○月○日付)の調
査結果(土壌汚染対策法に基づく土壌汚染状況調査及び対策費用)を妥当なものと判断して、
対象不動産の価格への影響(減価の程度)を判断した(「基準実務指針」55 頁)。
- 95 -
〔問題 27 〕 価格に関する鑑定評価の手法に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
⑴
更地、建付地、借地権のいずれの場合も、不動産の鑑定評価の3手法(原価法、取引事例比
較法及び収益還元法。以下この問において同じ。)の適用が可能である。
⑵
自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地、借地権付建物、区分所有建物及びその敷地の
いずれの場合も、不動産の鑑定評価の3 手法の適用が可能である。
⑶
建物等と一体として継続使用することが合理的である場合においてその敷地について鑑定評
価を行う場合、又は建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合において建物のみの鑑
定評価を行う場合、複合不動産価格をもとに、敷地又は建物に帰属する額を配分して求めた価
格を標準として鑑定評価額を決定できる。
⑷
更地の鑑定評価において、対象不動産に係る主たる需要者が開発事業者等であると想定され
る場合には、不動産の鑑定評価の3 手法の考え方を活用した手法であり、かつ開発事業者等の
投資採算性に着目した開発法を適用して鑑定評価額を決定すべきである。
⑸
区分地上権の鑑定評価を行う場合、又は取引慣行の成熟の程度の高い地域において借地権の
鑑定評価を行う場合には、区分地上権割合又は借地権割合により価格を求める手法があり、い
ずれの場合も当該権利の設定地に係る更地としての価格を用いる手法である。
正解
⑴
⑴
誤り。
再調達原価の把握ができない既成市街地以外の更地、建付地の鑑定評価では、原価法、取引事
例比較法、収益還元法の適用が可能である。
借地権は、再調達原価を求めることができないので、原価法は適用できない。
借地権は単独または建物の取引に随伴して取引されることがあること、借地権付建物のあげる
収益から借地権に帰属する純収益が求められること、借地権の価格は借地権の付着している宅地
の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離及びその乖離の持続する期間を基礎に
して成り立つ経済的利益の現在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分を要素として
成り立つものであることから、後述のように規定されている。
1.更地
更地の鑑定評価額は、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引
事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。再調
達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。
2.建付地
建付地の鑑定評価額は、更地の価格をもとに当該建付地の更地としての最有効使用との格差、
更地化の難易の程度等敷地と建物等との関連性を考慮して求めた価格を標準とし、配分法に基づ
く比準価格及び土地残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。
②
借地権の鑑定評価
借地権の鑑定評価は、借地権の取引慣行の有無及びその成熟の程度によってその手法を異に
するものである。
ア
借地権の取引慣行の成熟の程度の高い地域
借地権の鑑定評価額は、借地権及び借地権を含む複合不動産の取引事例に基づく比準価格、
土地残余法による収益価格、当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象とな
- 96 -
っている部分を還元して得た価格及び借地権取引が慣行として成熟している場合における当
該地域の借地権割合により求めた価格を関連づけて決定するものとする。
イ
借地権の取引慣行の成熟の程度の低い地域
借地権の鑑定評価額は、土地残余法による収益価格、当該借地権の設定契約に基づく賃料
差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格及び当該借地権の存する土地に
係る更地又は建付地としての価格から底地価格を控除して得た価格を関連づけて決定するも
のとする。
⑵
正しい。
建物及びその敷地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、自用の建物及びそ
の敷地、貸家及びその敷地、借地権付建物、区分所有建物及びその敷地等に分けられる。これら
の鑑定評価においては、原価法、取引事例比較法、収益還元法を適用できる。
②
建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない既
成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格に
発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直接負担
すべき通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して求めるも
のとする。
Ⅰ
自用の建物及びその敷地
自用の建物及びその敷地の鑑定評価額は、積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決
定するものとする。
Ⅱ
貸家及びその敷地
貸家及びその敷地の鑑定評価額は、実際実質賃料(売主が既に受領した一時金のうち売買等
に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運用益及び償却額を含まない
ものとする。)に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準と
し、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するものとする。
Ⅲ
借地権付建物
1
建物が自用の場合
借地権付建物で、当該建物を借地権者が使用しているものについての鑑定評価額は、積算
価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとする。
2
建物が賃貸されている場合
借地権付建物で、当該建物が賃貸されているものについての鑑定評価額は、実際実質賃料
(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合に
は、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする。)に基づく純収益等の現在価値の総
和を求めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定
するものとする。
Ⅳ
区分所有建物及びその敷地
(1) 専有部分が自用の場合
区分所有建物及びその敷地で、専有部分を区分所有者が使用しているものについての鑑定
評価額は、積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとする。
(2) 専有部分が賃貸されている場合
- 97 -
区分所有建物及びその敷地で、専有部分が賃貸されているものについての鑑定評価額は、
実際実質賃料(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分
がある場合には、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする。)に基づく純収益等の
現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較
考量して決定するものとする。
⑶
正しい。
建付地、建物の鑑定評価に関する規定内容である。
建付地の鑑定評価額は、建物及びその敷地としての価格(以下「複合不動産価格」という。)を
もとに敷地に帰属する額を配分して求めた価格を標準として決定することもできる。
建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価額について、
複合不動産価格をもとに建物に帰属する額を配分する方法は、建付地の方法に準ずるものとする。
2.建付地
建付地は、建物等と結合して有機的にその効用を発揮しているため、建物等と密接な関連を
持つものであり、したがって、建付地の鑑定評価は、建物等と一体として継続使用することが
合理的である場合において、その敷地(建物等に係る敷地利用権原のほか、地役権等の使用収
益を制約する権利が付着している場合にはその状態を所与とする。)について部分鑑定評価を
するものである。
建付地の鑑定評価額は、更地の価格をもとに当該建付地の更地としての最有効使用との格差、
更地化の難易の程度等敷地と建物等との関連性を考慮して求めた価格を標準とし、配分法に基
づく比準価格及び土地残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。
ただし、建物及びその敷地としての価格(以下「複合不動産価格」という。)をもとに敷地に
帰属する額を配分して求めた価格を標準として決定することもできる。
(2) 建付地について
複合不動産価格をもとに敷地に帰属する額を配分する方法には主として次の二つの方法があ
り、対象不動産の特性に応じて適切に適用しなければならない。
①
割合法
割合法とは、複合不動産価格に占める敷地の構成割合を求めることができる場合において、
複合不動産価格に当該構成割合を乗じて求める方法である。
②
控除法
控除法とは、複合不動産価格を前提とした建物等の価格を直接的に求めることができる場
合において、複合不動産価格から建物等の価格を控除して求める方法である。
a
割合法
割合法とは、複合不動産価格に敷地の価格構成割合を乗じて求める方法である。この方法は、
複合不動産に占める建物等と敷地の価格構成割合を求めることができる場合に採用できる。
構成割合の求め方については、複合不動産に原価法を適用して求めた土地と建物等の積算価
格割合によることが中心になると考えられる。この積算価格の割合により配分する方法は、原
価法が適切に適用されている場合には信頼性も高いと考えられ、配分も容易である。一方、複
合不動産の価格が積算価格を大きく上回っている場合等で、建物等の価格に一体としての増価
が認められる場合では、内訳価格としての建物等の価格が再調達原価を上回ることも想定され
- 98 -
る。したがって、複合不動産の積算価格と鑑定評価額との間に乖離が生じている場合には、配
分に当たってその乖離が発生した要因を分析し、建付地及び建物のそれぞれの寄与度を適切に
判定しなければならない。また、どちらか一方の寄与度が高いと判断された場合は、これを土
地及び建物等に適切に再配分しなければならない。例えば、限定価格における限度額比の考え
方に基づいて配分することが有効な場合もある。
b
控除法
控除法とは、複合不動産価格から建物等の価格を控除して求める方法である。複合不動産価
格を前提とした建物等の価格を直接的かつ適切に求めることができる場合に採用できる。
建物等の価格を直接的に求めるとは、
「積算価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び建
物残余法による収益価格を比較考量」して求めることをいう。積算価格を中心に求める場合で
あっても、建物の部分鑑定評価において複合不動産としての市場性等の考慮は必要であり、建
物等の価格は単純に建物の原価性からのみ求めるようなことはあってはならない。例えば、複
合不動産に一体増減価が認められる場合や、建物等が賃貸に供されている場合等で、収益価格
と積算価格に大きな開差があり、収益価格を中心に複合不動産の価格を決定している場合等に
おいては、複合不動産の価格における一体増減価相当額や収益価格と積算価格との開差のうち
建物等に帰属すべき部分を適切に反映させた上で建物価格を求めなければならない。建物等に
適切に反映できない場合には、建付地の評価において控除法は適用すべきではない(「基準実務
指針」162 頁、163 頁)。
第3節
Ⅰ
建物
建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価
この場合の建物の鑑定評価は、その敷地と一体化している状態を前提として、その全体の鑑
定評価額の内訳として建物について部分鑑定評価を行うものである。
この場合における建物の鑑定評価額は、積算価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び
建物残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。
ただし、複合不動産価格をもとに建物に帰属する額を配分して求めた価格を標準として決定
することもできる。
複合不動産価格をもとに建物に帰属する額を配分する方法は、「1.(2)建付地について」で述
べる方法に準ずるものとする。
複合不動産価格をもとに建物に帰属する額を配分する方法は、複合不動産から当該敷地に帰属
する額を配分する方法に準ずる。したがって、前記の複合不動産から当該敷地に帰属する額を配
分する方法における留意事項は、建物に帰属する額を配分する方法の留意事項として読み替える
ものとする。
a
割合法について
割合法とは、複合不動産価格に建物の価格構成割合を乗じて求める方法である。この方法は、
複合不動産に占める建物と敷地の構成割合を求めることができる場合に採用できる。
構成割合の求め方については、複合不動産に原価法を適用して求めた土地と建物の積算価格
割合によることが中心になると考えられる。
b
控除法について
控除法とは、複合不動産価格から建付地の価格を控除して求める方法である。複合不動産価
格を前提とした建付地の価格を直接的かつ適切に求めることができる場合に採用できる。
- 99 -
建付地の価格を直接的に求めるとは、「更地価格をもとに当該建付地の更地としての最有効使
用との格差、更地化の難易の程度等敷地と建物等との関連性を考慮して求めた価格を標準とし、
配分法に基づく比準価格及び建物残余法による収益価格を比較考量」して求めることをいう。そ
の場合に、複合不動産としての市場性の考慮を建付増減価として土地のみに反映させることがな
いよう留意が必要である。例えば、複合不動産に一体増減価が認められる場合や、収益価格と積
算価格に大きな開差があり、収益価格を中心に複合不動産の価格を決定している貸家及びその敷
地について、建付地価格を求める場合においては、複合不動産の価格における一体増減価相当額
や収益価格と積算価格との開差のうち、土地に帰属すべき部分を適切に反映させた上で建付地価
格を求めなければならない。土地に帰属すべき部分を適切に反映できない場合には、建物の評価
において控除法を適用すべきではない(「基準実務指針」166 頁、167 頁)
⑷
正しい。
正しいものとする根拠は次の「基準」及び「留意事項」並びに「基準実務指針」の解説である。
「留意事項」の「地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等を適切
に反映した複数の鑑定評価方式の考え方が適切に反映された一つの鑑定評価の手法となっている
だけであるが、開発法を指しているという判断である。
ただし、
「基準」、
「留意事項」では、更地の鑑定評価において、開発法による価格をもって鑑定
評価額を決定することは規定されていない。
5.鑑定評価手法の適用について
対象不動産の種別及び類型並びに賃料の種類並びに市場の特性等に対応した鑑定評価の手法
の適用に関し必要な事項は、各論各章に定めるもののほか、不動産鑑定士等の団体が定める指
針(鑑定評価の手法の適用について具体的に記述された指針であって、国土交通省との協議を
経て当該団体において合意形成がなされたものをいう。)で定める。
なお、地域分析及び個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映し
た複数の鑑定評価方式の考え方が適切に反映された一つの鑑定評価の手法を適用した場合には、
当該鑑定評価でそれらの鑑定評価方式に即した複数の鑑定評価の手法を適用したものとみなす
ことができる。
対象不動産の属する市場により、対象不動産の類型等に対応して基準各論の規定により適用す
べきとされる鑑定評価の手法の中で、典型的な市場参加者の価格等の判断の中心となっている手
法がある。このような場合に、対象不動産に係る市場の特定等を適切に反映した手法(原則とし
て複数の手法)を適用するに当たり、当該適用する手法において、複数の方式の考え方が反映さ
れ、対象不動産の価格形成について、客観的にみて十分な説得力があると認められる場合に限り、
結果的に基準各論に規定する手法を一部省略することができる場合がある。すなわち、市場分析
の結果を踏まえ、ある鑑定評価の手法の適用により、複数の鑑定評価方式の考え方が反映され、
かつ、十分に対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映した精度の高い鑑定評価額が求められ
ると判断される場合には、当該手法の適用において複数の鑑定評価の手法を適用したものとみな
すことが可能となる場合もあり得るため、結果的に適用する鑑定評価の手法が限定される場合も
ある(「基準実務指針」105 頁)。
関連問題、25 年問題 27 の選択肢イ参照。
- 100 -
⑸
正しい。
区分地上権の設定事例等に基づく区分地上権割合により求める価格、借地権の取引慣行の成熟
の程度の高い地域における借地権の鑑定評価額に関する規定内容である。
借地権割合は、更地としての価格に対する割合である。
③
区分地上権の設定事例等に基づく区分地上権割合により求める価格
近隣地域及び同一需給圏内の類似地域等において設定形態が類似している区分地上権の設定
事例等を収集して、適切な事例を選択し、これらに係る設定時又は譲渡時における区分地上権
の価格が区分地上権設定地の更地としての価格に占める割合をそれぞれ求め、これらを総合的
に比較考量の上適正な割合を判定し、価格時点における当該区分地上権設定地の更地としての
価格にその割合を乗じて求めるものとする。
ア
借地権の取引慣行の成熟の程度の高い地域
借地権の鑑定評価額は、借地権及び借地権を含む複合不動産の取引事例に基づく比準価格、
土地残余法による収益価格、当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象となっ
ている部分を還元して得た価格及び借地権取引が慣行として成熟している場合における当該地
域の借地権割合により求めた価格を関連づけて決定するものとする。
- 101 -
〔問題 28〕 借地権及び底地の鑑定評価に関する次のイからホまでの記述のうち、誤っているもの
をすべて掲げた組み合わせはどれか。
イ
借地権者に帰属する経済的利益に関して、借地権の付着している宅地の経済価値に即応し
た適正な賃料とは、当該宅地の最有効使用を前提とする経済価値に即応した正常賃料相当額
を意味するものである。
ロ
借地権者に帰属する経済的利益は、借地借家法に基づき土地を長期間占有し、独占的に使
用収益し得る安定的利益、及び借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料
と実際支払賃料との乖離(賃料差額)等に基づく経済的利益の現在価値のうち取引の対象と
なっている部分が中心となるが、借地権が存在しても、借地権価格が存在しない場合がある。
ハ
借地権の価格は、更新料等一時金の額及びこれに関する契約内容を特に考慮しなければ、
借地期間の経過に比例して必ずしも減価するものではないが、定期借地権の場合には借地期
間満了に向けて減価する傾向が強まる。
ニ
預かり金的性格を有する一時金及び賃料の前払い的性格を有する一時金(いわゆる前払地
代)の授受がなされる場合の底地の価格は、実際支払地代の金額が同じ場合には、当該一時
金の授受がない場合よりも高くなる。
ホ
借地権の取引慣行の成熟の程度の低い地域においては、当該借地権の存する土地に係る更
地又は建付地としての価格から底地価格を控除して得た価格を、借地権価格の上限値として
取り扱わなければならない。
⑴
イとハ
⑵
イとホ
⑶
ロとハ
⑷
ロとニ
⑸
ニとホ
正解
イ
⑵
誤り。
「借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料」とは、当該宅地を一定期間使
用収益するための正常賃料相当額を意味するものであるが、借地条件により当該宅地の使用収益
が制約されている場合には、その制約条件下における宅地の経済価値に即応した適正な賃料をい
うものである(「基準実務指針」186 頁)。
①
借地権の価格
借地権の価格は、借地借家法(廃止前の借地法を含む。)に基づき土地を使用収益することに
より借地権者に帰属する経済的利益(一時金の授受に基づくものを含む。)を貨幣額で表示した
ものである。
借地権者に帰属する経済的利益とは、土地を使用収益することによる広範な諸利益を基礎と
するものであるが、特に次に掲げるものが中心となる。
ア
土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益
イ
借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以
下「賃料差額」という。)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現
- 102 -
在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分
ロ
正しい。
借地権に関する規定内容である。
①
借地権の価格
借地権の存在は、必ずしも借地権の価格の存在を意味するものではなく、また、借地権取引
の慣行について、借地権が単独で取引の対象となっている都市又は地域と、単独で取引の対象
となることはないが建物の取引に随伴して取引の対象となっている都市又は地域とがあること。
借地権単独では取引の対象とされないものの、建物の取引に随伴して取引の対象となり、借
地上の建物と一体となった場合に借地権の価格が顕在化する場合がある。
借地権者に帰属する経済的利益とは、土地を使用収益することによる広範な諸利益を基礎と
するものであるが、特に次に掲げるものが中心となる。
ア
土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益
イ
借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以
下「賃料差額」という。)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現
在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分
一般に借地権取引の慣行については、借地権が単独で取引の対象となっている都市又は地域と、
建物の取引に随伴して取引の対象となっている都市又は地域があるが、建物の取引に随伴して取
引の対象となっている都市又は地域における借地権の鑑定評価に当たっては、独立鑑定評価に類
するものとしてではなく部分鑑定評価として取り扱うべきである。
なお、借地権のうち賃借権の譲渡又は転貸については、譲渡又は転貸についての特約がある場
合を除き賃貸人の承諾を要する(民法第 612 条第 1 項)。しかし、借地権者が借地上の建物を譲渡
しようとする場合において、賃借権の譲渡又は転貸について借地権設定者の承諾が得られないと
きは、一定の要件のもとに、裁判所に対して借地権設定者の承諾に代わる許可の裁判を求めるこ
とができる(借地借家法第 19 条第1項、旧借地法第9条の2第1項)ので、建物の取引に随伴し
て取引される借地権(賃借権)の流通性は、かなり高いものということができる(この場合にお
いて、裁判所は当事者の利益の衡平を図るため、必要があるときは、賃借権の譲渡又は転貸を条
件として、借地条件の変更又は財産上の給付を命ずることがある。)。
借地借家法第 19 条第1項は定期借地権等にも適用され、借地権単独では取引の対象とされず、
価格が観察されない場合にも、建物の取引に随伴して取引の対象となり、借地上の建物と一体と
なった場合に借地権の価格が顕在化する場合がある。したがって、定期借地権付建物に原価法を
適用する場合においても、この顕在化する借地権の価格を適切に査定する必要がある(「基準実務
指針」176 頁)。
ハ
正しい。
借地権の鑑定評価における総合勘案事項に関する「基準実務指針」の内容である。
(ウ)契約締結の経緯並びに経過した借地期間及び残存期間
借地権設定契約締結の経緯は、その借地権に個別性を生じさせ価格に影響を及ぼす。
借地権の価格は、借地期間中において自然のその価格が発生する場合があり、また、借地期間
の経過に比例して必ずしも減価するものではないが、借地残存期間が短くなれば更新料等一時
- 103 -
金の額及びこれに関する契約内容を特に考慮しなければならない。なお、定期借地権の場合に
は借地期間満了に向けて減価する傾向が強まることに留意する必要がある(「基準実務指針」
190 頁)。
ニ
正しい。
預り金的性格を有する一時金は、賃貸借等が継続される期間における実際支払賃料の額に影響
を及ぼすが、借地権者からみると資金を借地権設定者に預託することによる運用機会喪失コスト
となるため、借地権の価格を低める要素となる(底地の価格を高める要素となる)。
賃料の前払い性格を有する一時金(前払地代)は将来の実際支払賃料を減少させるが、将来発
生する地代を一時金として契約締結時等に前払いしたものに過ぎず、地代自体が免除や軽減され
ているものではないため、実際支払地代が同一の場合であっても、未経過前払地代の償却額と一
時金として支払うことに伴う運用益獲得機会の喪失相当額は借地権の価格に影響を与える。
したがって、預り金的性格を有する一時金、賃料の前払い性格を有する一時金(前払地代)の
授受がなされるときの底地の価格は、実際支払地代の額が同じであれば、これらの一時金の授受
がない場合より高くなる。
(エ)契約に当たって授受された一時金の額及びこれに関する契約条件
預り金的性格を有する一時金は、賃貸借等が継続される期間における実際支払賃料の額に影
響を及ぼすが、借地権者からみると資金を借地権設定者に預託することによる運用機会喪失コ
ストとなるため、借地権の価格を低める要素となる。また、預り金的性格を有する一時金の授
受があった借地権の鑑定評価に当たっては、判例では、借地権者が交代時において、前の借地
権者が有する敷金返還請求権は新たな借地権者へ当然には承継されないとされているため、売
買に際しての当該一時金の返還債権の承継について確認できないときであっても、鑑定評価上
どのように取り扱っているのかについて明確にしておく必要がある。
借地権の設定の対価とみなされ、通常、権利金とよばれている一時金は、賃貸借等の終了と
ともに借地権設定者から借地権者に返済されることはなく、実際支払賃料の額に影響を及ぼす
とともに借地権の価格を構成する要素となるものである。
借地権の譲渡等の承諾を得るための一時金である譲渡承諾料又は名義書換料は、通常、借地
権者(売主)側において借地権設定者から承諾を得るための手数料的なものと解され、取引に
おける借地権の価格とは別に借地権設定者に支払うため、直ちに借地権価格を構成する用途と
はならない。しかしながら、将来の転売を想定する場合には借地権者における将来の支出とし
て、借地権の価格に影響を与える場合がある。
また、前払地代は将来の実際支払賃料を減少させるが、将来発生する地代を一時金として契
約締結時等に前払いしたものに過ぎず、地代自体が免除や軽減されているものではないため、
実際支払地代が同一の場合であっても、未経過前払地代の償却額と一時金として支払うことに
伴う運用益獲得機会の喪失相当額は借地権の価格に影響を与える。このように、契約に当たっ
て授受された一時金については、その額、その性格、これに関する契約条件、社会的慣行等を
考慮して個別に判定する必要がある(「基準実務指針」190 頁、191 頁)。
- 104 -
ホ
誤り。
借地権の取引慣行の成熟の程度の低い地域における借地権の鑑定評価において、借地権価格の
上限値というものはない。
イ
借地権の取引慣行の成熟の程度の低い地域
借地権の鑑定評価額は、土地残余法による収益価格、当該借地権の設定契約に基づく賃料差
額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格及び当該借地権の存する土地に係る
更地又は建付地としての価格から底地価格を控除して得た価格を関連づけて決定するものとす
る。
- 105 -
〔問題 29 〕 借地権、底地及び借地権付建物の鑑定評価に関する次のイからホまでの記述のうち、
誤っているものをすべて掲げた組み合わせはどれか。なお、借地契約の内容は、
「定期借地権等(借
地借家法第二章第四節に規定する定期借地権等)」であることを前提とする。
イ
借地契約に当たり、契約締結時に前払地代により地代が支払われた場合と毎月地代が支払
われる場合とでは、借地全期間における支払地代の総額は同じであることから、これらの地
代の支払方法の違いが、借地権価格や底地価格に影響を及ぼすことはない。
ロ
借地権の鑑定評価に当たっては、契約期間中に建物の建築及び解体が行われる場合におけ
る建物の使用収益が期待できない期間を適切に考慮する必要があるが、この考え方は、原則
として底地の鑑定評価においても同様である。
ハ
借地期間の残存期間が短い底地の鑑定評価に当たっては、対象不動産の更地としての価格
に特に留意をするとともに、収益還元法の適用は、永久還元式による直接還元法ではなく、
DCF 法や有期還元法を適用する。
ニ
借地借家法第 22 条の規定に基づき定期借地契約が有効に成立している場合における借地
権及び底地の鑑定評価に当たっては、借地期間満了時において、借地権者が借地権設定者に
対し、借地上の建物について買取り請求がなされる可能性を考慮する必要はない。
ホ
借地権単独では取引の対象とされず、借地権の取引価格が観察されない場合であっても、
借地権付建物一体として取引対象となることで、借地権価格が顕在化する場合には、借地権
付建物の鑑定評価に当たり、顕在化する借地権価格を適切に査定する必要がある。
⑴
イとロ
⑵
イとニ
⑶
ロとハ
⑷
ニとホ
⑸
イとロとニ
正解
イ
⑴
誤り。
借地契約締結時に、前払地代により地代が支払われた場合と毎月地代を支払う場合とでは借地
権価格及び底地価格に及ぼす影響が異なる。
前払地代とは地代の一部又は全部を一括して前払いした場合の一時金をいう。
前払地代方式での定期借地権においては、未経過前払地代(前払地代の未経過部分に相当する
金額)は時の経過に伴い毎年の地代に振り替わってゆくため、未経過前払地代はその運用益及び
償却額を通じて定期借地権価格に影響を及ぼす。この反映として、底地価格にも影響を及ぼす。
地代を毎月支払う借地契約では、未経過前払地代は発生しない。
「基準実務指針」の解説によるものである。
定期借地権にかかる前払地代については、税務上の取扱い 46 が示されたことを契機として、定
期借地権設定契約において前払地代が多く利用されるようになった。前払地代とは地代の一部又
は全部を一括して前払いした場合の一時金をいうが、特に定期借地権の前払地代については、契
約期間にわたって賃料の一部又は全部を均等に充当されることや契約期間の満了前の契約解除又
は中途解約時における未経過部分に相当する金額の借地権者への返還の取り決め等の要件を具備
- 106 -
すれば、一時金として授受されていても当該年分の賃料に相当する金額での税務処理ができる。
これに伴い、平成 26 年の基準改正で(キ)定期借地契約において授受される前払地代を新たな一
時金として位置づけた。
これらの一時金については、例えば更新がない定期借地権においては更新料の発生は見込まれ
ず、また、借地権譲渡における譲渡承諾料又は名義書換料は将来キャッシュフローに影響を与え
るものでない限り手数料的なものと解され借地権価格を形成するものとはならない。さらに、前
払地代方式での定期借地権 47 においては、未経過前払地代(前払地代の未経過部分に相当する金
額)の別途精算 48 を前提とした価格となるが、未経過前払地代は時の経過に伴い毎年の地代に振
り替わってゆく 49 ため、未経過前払地代はその運用益及び償却額 50 を通じて定期借地権価格に影
響を及ぼす等、どのような一時金が発生するか否か、また発生したとしても借地権価格又は底地
価格を構成するか否かについてその名称の如何を問わず、一時金の性格、社会的慣行等を考察し
て個別に判定することが必要である(「基準実務指針」178 頁、179 頁)。
平成 16 年 12 月 16 日国土交通省土地・水資源局長より実施された「定期借地権の賃料の一
46
部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取り扱いについて(照
会)」について平成 17 年 1 月 7 日付国税庁課税部長による回答で前払地代の税務上の取り扱い
が明確になったものである。
一時金として授受された前払地代について当該年分の地代に相当する金額での税務処理がで
47
きる要件を具備した定期借地権をいう。
借地権設定者との間で新たに未経過前払地代に相当する前払地代を支払うか、借地権設定者
48
は関与せず新借地権者が旧借地権者に対して定期借地権の対価のほかに借地権設定者に対する
未経過前払地代の返還債権の対価を支払うことでの精算が考えられる。
当該毎年の地代の振替に伴い、借地権設定者への未経過前払地代の返還債権は年々減少する
49
こととなる。
未経過前払地代の毎年の振替額とそれを一時金として支払うための借地権者の運用獲得機会
50
の喪失相当分を意味する。
ロ
誤り。
底地は建物の使用収益が期待できる権利利益ではない。
底地の鑑定評価において、「契約期間中に建物の建築及び解体が行われる場合における建物の
使用収益が期待できない期間」は、建物建築時や解体時も契約期間内となるため、底地の価格に
は影響しない。
定期借地権の鑑定評価における勘案事項である
(ケ) 契約期間中に建物の建築及び解体が行われる場合における建物の使用収益が期待できない
期間
定期借地権のライフサイクルは、通常、次のようなものである。
①
借地権設定契約を締結し、
②
契約の目的となっている建物を建築し、竣工後、複合不動産として使用収益を開始する。
契約期間が経過し、契約終了前に、
③
借地上の建物を取壊し、
④
契約期間満了時に更地として返還する。
- 107 -
つまり、地代の発生は、土地賃貸借契約期間全期間に及ぶが、借地上の複合不動産の収益獲得
期間は、土地賃貸借契約期間ではなく、建物の建築や取壊し期間を除いた期間となる。このため、
定期借地権に係る諸類型の収益価格等を求める場合にはこれらの収益獲得期間や未収入期間にお
ける必要諸経費等について留意する必要がある。
【複合不動産としての使用収益が期待できない期間(イメージ)】
借地期間
∬
借 地 権
設 定
建物取壊
開始
建物竣工
借地期間満了
複合不動産としての
使用収益開始
借地権者
地代発生
(「基準実務指針」192 頁)
ハ
正しい。
選択肢ハは、定期借地権の有期性との関連である。例えば、契約期間が 50 年の定期借地権は、
期間満了に向かって価値が逓減し消滅する権利である。
定期借地権が付着する底地については、直接還元法(有期還元法:インウッド)と DCF 法のいず
れかを適用又は両者を併用することとする。ただし、これは「基準」、「留意事項」で確認できる
内容ではない。
「定期借地権にかかる鑑定評価上の課題整理」(2012.5.4 国土交通省)の解説を引用する。
2.定期借地権が付着する底地の価格を求める評価手法における論点
2-1.収益還元法
定期借地権が付着する底地の価格は、定期借地期間における純地代収入の現価の総和と復帰
する不動産(建物が付着したまま復帰する場合もあり)の現在価値によって構成される。
また、一時金の授受に関する市場慣行の推移を観察する必要があるが、将来において、条件
変更承諾料、名義書換料等の授受が見込まれる場合の底地の価格は、単なる地代徴収権のほか
に、これらも加味して形成されるものである。
定期借地権が付着する底地の収益価格は、借地期間中における毎期キャッシュフロー(地代
-公租公課等)の現在価値の合計に、契約期間満了における復帰する更地価格の現在価値を加
算して収益価格を求めるのが原則である。また、定期借地期間満了後に建物譲渡する旨の特約
- 108 -
がある場合には、更地価格の代わりに自用の建物及びその敷地の価格又は貸家及びその敷地の
価格が復帰する(ただし、建物買取対価の支払いが生ずる。)。
(1) 直接還元法(有期還元法:インウッド)と DCF 法
定期借地権が付着する底地の評価においては、定期借地期間における純地代の収入の現在
価値の総和と復帰する不動産(建物が付着したまま復帰する場合もあり)の現在価値によっ
て構成される。
定期借地権が付着する底地については、直接還元法(有期還元法:インウッド)と DCF 法
のいずれかを適用又は両者を併用することとする。
転売を想定する場合と転売を想定しない場合があるが、いずれが妥当であるかは、案件ご
とに判断することになる。なお、証券化対象不動産においては、保有期間終了時の売却の想
定を行うことが求められている(2012.5.4 国土交通省「定期借地権にかかる鑑定評価上の課
題整理」67 頁、68 頁)。
なお、定期借地権の有期性については次のような解説がある。
8.定期借地権の評価における有期性に関する検討
8-1.借地権残存期間が短くなってきた場合の取り扱い
定期借地権は、理論的には、借地残存期間が短くなるにつれて価値が逓減し、借地残存期間
が僅かな場合には市場性が認められず、有償での売買が行われないことも考えられるため、借
地権価格が発生しない(定期借地権付建物の収支上はマイナス、すなわちゼロ円になる)場合
もあり得る。この場合には実際にも転売は行なわれないと考えられるので、定期借地権付建物
の価格評価では、転売を前提とした DCF 法を適用するのではなく、借地残存期間満了までの
保有を前提とした DCF 法又は直接還元法(有期還元法:インウッド)を適用すべきであろう。
なお、定期借地権付建物の場合には、借地残存期間が短くなるにつれて、収益、費用とも逓
減する傾向にあることに留意する。
(なお、建物の効用を維持するための修繕費は、本来、築年
数に応じて増大するのが一般的である。)
(2012.5.4 国土交通省「定期借地権にかかる鑑定評価
上の課題整理」43 頁)
(2) 底地
底地の価格は、借地権の付着している宅地について、借地権の価格との相互関連において借
地権設定者に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものである。
借地権設定者に帰属する経済的利益とは、当該宅地の実際支払賃料から諸経費等を控除した
部分の賃貸借等の期間に対応する経済的利益及びその期間の満了等によって復帰する経済的利
益の現在価値をいう。なお、将来において一時金の授受が見込まれる場合には、当該一時金の
経済的利益も借地権設定者に帰属する経済的利益を構成する場合があることに留意すべきであ
る。
底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより
得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定するものとする。
③
定期借地権及び定期借地権が付着した底地の鑑定評価に当たって留意すべき事項は次のとお
りである。
(ア)定期借地権は、契約期間の満了に伴う更新がなされないこと
(イ)契約期間満了時において、借地権設定者に対し、更地として返還される場合又は借地上
の建物の譲渡が行われる場合があること
- 109 -
ニ
正しい。
借地借家法第 22 条の規定に基づき定期借地契約が有効に成立している場合ということは、契
約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに建物の買取りの請求をしないこと
とする特約が、公正証書によってなされているということである。
借地借家法
第四節
定期借地権等
(定期借地権)
第二十二条
存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六
条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次
条第一項において同じ。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定
による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その
特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。
(建物買取請求権)
第十三条
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、
借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取る
べきことを請求することができる。
ホ
正しい。
借地権に関する規定内容である。
(3) 借地権及び底地について
借地権及び底地の鑑定評価に当たって留意すべき事項は次のとおりである。
①
借地権単独では取引の対象とされないものの、建物の取引に随伴して取引の対象となり、
借地上の建物と一体となった場合に借地権の価格が顕在化する場合がある。
借地権(定期借地権を含む。)単独では取引の対象とされず、価格が観察されない場合にも、建
物の取引に随伴して取引の対象となり、借地上の建物と一体となった場合に借地権の価格が顕在
化する場合があるので、借地権付建物に原価法を適用する場合においては、この顕在化する借地
権の価格を適切に査定する必要がある(「基準実務指針」176 頁)。
- 110 -
〔問題 30〕 借地権の鑑定評価に関する次のイからホまでの手法による価格のうち、不動産鑑定評
価基準において借地権の取引慣行の成熟の程度が高い地域及びその成熟の程度が低い地域のいず
れにおいても、関連づけて鑑定評価額を決定すべきとされているものをすべて掲げた組み合わせ
はどれか。
イ
土地残余法による収益価格
ロ
当該地域の借地権割合により求めた価格
ハ
当該借地権の存する土地に係る更地又は建付地としての価格から底地価格を控除して得た
価格
ニ
借地権及び借地権を含む複合不動産の取引事例に基づく比準価格
ホ
当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得
た価格
⑴
イとロ
⑵
イとニ
⑶
イとホ
⑷
ロとハ
⑸
ロとニとホ
正解
⑶
イの土地残余法による収益価格と、ホの当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の
対象となっている部分を還元して得た価格である。
借地権の取引慣行の成熟の程度の高い地域
借地権の鑑定評価額は、ニ 借地権及び借地権を含む複合不動産の取引事例に基づく比準価格、
イ 土地残余法による収益価格、ホ 当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象と
なっている部分を還元して得た価格及び借地権取引が慣行として成熟している場合におけるロ
当該地域の借地権割合により求めた価格を関連づけて決定するものとする。
借地権の取引慣行の成熟の程度の低い地域
借地権の鑑定評価額は、イ 土地残余法による収益価格、ホ 当該借地権の設定契約に基づく賃
料差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格及びハ 当該借地権の存する土地
に係る更地又は建付地としての価格から底地価格を控除して得た価格を関連づけて決定するもの
とする。
- 111 -
〔問題 31〕 借地権及び底地の鑑定評価に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
⑴
借地権と底地の価格は密接に関連し合っているが、借地権の付着している宅地における借地
権の価格と底地の価格の合計額は、当該宅地の更地価格と一致するとは限らない。
⑵
借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料に乖離があって
も、これは競争の過程で消滅していくことから、借地権の価格に大きな影響を及ぼすものでは
ない。
⑶
借地権の鑑定評価に当たって廃止前の借地法の規定について配慮する必要があるのは、価格
時点が借地借家法の施行日以前の場合のみである。
⑷
定期借地権は期間が定まっていることから、その評価に当たって建物の残存耐用年数を勘案
する必要はない。
⑸
底地の取引利回りとは、底地の取引価格が、当該底地の存する宅地の更地としての価格に対
してどの程度の割合になっているのかを示すものである。
正解
⑴
⑴
正しい。
借地権と底地とが混同した場合は更地又は建付地となるが、借地権の価格と底地の価格との合
計額は、必ずしもその更地としての価格又は建付地としての価格とはならない。借地権は借地条
件等により当該宅地の最有効使用が必ずしも期待できない場合があり、また、借地権のうち賃借
権については、流通性に制約があり、さらに直接に抵当権の目的となり得ないこと等から担保価
値の減退も考えられる。底地についても、借地条件等に基づく最有効使用の制約による経済的不
利益、借地権が付着していることによる市場性及び担保価値の減退が考えられる。また、借地権
の価格及び底地の価格は、これらの不利益をも反映して個別的に形成されるものである。
なお、底地は、将来において、更新料・条件変更承諾料等の一時金の授受が見込まれる場合が
あるほか、借地権が消滅し完全所有権に復帰することによる最有効使用の可能性、市場性及び担
保価値の回復等の期待性を加味して、その価格が形成されるものであり、単なる地代徴収権に相
応する価格のみではないことに留意しなければならない(「基準実務指針」174 頁、175 頁)。
⑵
誤り。
借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離は、競争
の過程で消滅するものではない。
①
借地権の価格
借地権の価格は、借地借家法(廃止前の借地法を含む。)に基づき土地を使用収益することに
より借地権者に帰属する経済的利益(一時金の授受に基づくものを含む。)を貨幣額で表示した
ものである。
借地権者に帰属する経済的利益とは、土地を使用収益することによる広範な諸利益を基礎と
するものであるが、特に次に掲げるものが中心となる。
ア
土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益
イ
借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以
下「賃料差額」という。)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現
在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分
- 112 -
⑶
誤り。
借地借家法では、その附則において、改正の内容のうち権利の存続に関係がある部分について
は、既存の借地、借家関係には新しい法律の規定を適用しないことを明らかにしている。
借地権の鑑定評価において、価格時点が借地借家法の施行日より後であっても、権利の存続に
関係がある部分については、廃止前の借地法が適用される。
借地借家法
附
則
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から
施行する。
(建物保護に関する法律等の廃止)
第二条
次に掲げる法律は、廃止する。
一
建物保護に関する法律(明治四十二年法律第四十号)
二
借地法(大正十年法律第四十九号)
三
借家法(大正十年法律第五十号)
(経過措置の原則)
第四条
この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じ
た事項にも適用する。ただし、附則第二条の規定による廃止前の建物保護に関する法律、借地
法及び借家法の規定により生じた効力を妨げない。
借地法
廃止平成3・10・4・法律 90 号--(施行=平4年8月1日)
第四条
借地権消滅ノ場合ニ於テ借地権者カ契約ノ更新ヲ請求シタルトキハ建物アル場合ニ限
リ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス
但シ土地所有者カ自ラ土
地ヲ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ於テ遅滞ナク異議ヲ述ヘタル
トキハ此ノ限ニ在ラス
2
借地権者ハ契約ノ更新ナキ場合ニ於テハ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地
ニ附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
3
第五条第一項ノ規定ハ第一項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五条
当事者カ契約ヲ更新スル場合ニ於テハ借地権ノ存続期間ハ更新ノ時ヨリ起算シ堅固ノ
建物ニ付テハ三十年、其ノ他ノ建物ニ付テハ二十年トス
此ノ場合ニ於テハ第二条第一項但書
ノ規定ヲ準用ス
2
当事者カ前項ニ規定スル期間ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ定ニ従フ
第六条
借地権者借地権ノ消滅後土地ノ使用ヲ継続スル場合ニ於テ土地所有者カ遅滞ナク異議
ヲ述ヘサリシトキハ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス
此ノ場
合ニ於テハ前条第一項ノ規定ヲ準用ス
2
前項ノ場合ニ於テ建物アルトキハ土地所有ハ第四条第一項但書ニ規定スル事由アルニ非サレ
ハ異議ヲ述フルコトヲ得ス
第七条
借地権ノ消滅前建物カ滅失シタル場合ニ於テ残存期間ヲ超エテ存続スヘキ建物ノ築造
ニ対シ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ借地権ハ建物滅失ノ日ヨリ起算シ堅固ノ
建物ニ付テハ三十年間、其ノ他ノ建物ニ付テハ二十年間存続ス
ハ其ノ期間ニ依ル
- 113 -
但シ残存期間之ヨリ長キトキ
⑷
誤り。
定期借地契約の場合、建物の残存耐用年数は定期借地期間の残存年数と密接な関係がある。
(イ)借地権の態様及び建物の残存耐用年数
借地権の態様はその借地権に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する大きな要因の
一つである。また、旧法借地権の実質的な存続期間は、建物の残存耐用年数と密接な関係があ
り、定期借地権の場合には建物の残存耐用年数は借地期間の残存年数と密接な関係がある(「基
準実務指針」189 頁)。
問題 29 の選択肢ハの解説参照。
⑸
誤り。
利回り(年利回り)とは、利子も含めた年間収益の投資金額に対する割合のことをいう。
底地の取引利回りとは、地代収入の底地の取引価格に対する割合である。
借地権設定者が収受する地代収入は借地権者が借地上において行う事業における収入と比較し
リスクが低い一方で、取引における流動性は一般には低いとも考えられるため、これらの差異を
踏まえて形成されることに留意する必要がある(「基準実務指針」191 頁)。
- 114 -
〔問題 32〕 賃料の鑑定評価に関する次のイからホまでの記述のうち、正しいものをすべて掲げた
組み合わせはどれか。
イ
正常賃料は、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立
するであろう経済価値を表示する適正な賃料であり、正常賃料を求める前提となる賃貸借等
の契約内容が定まらなければ求めることができない。
ロ
新規賃料または継続賃料いずれの場合においても、対象不動産の確認等が可能であり、か
つ鑑定評価に必要な要因資料及び事例資料の収集が可能であれば、過去時点の鑑定評価を行
うことができる。
ハ
限定賃料は、宅地の賃貸借等において成立するものであり、建物及びその敷地の賃貸借に
ついては成立しない。
ニ
継続賃料は、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経
済価値を適正に表示する賃料であり、一般的な市場性を有しないことから、特殊価格と同一
の市場概念の下において成立する。
ホ
継続賃料固有の価格形成要因は、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点か
ら、価格時点までの期間における価格形成要因が中心となる。
⑴
イとハ
⑵
ロとホ
⑶
イとロとハ
⑷
イとロとホ
⑸
ロとニとホ
正解
イ
⑷
正しい。
正常賃料は、鑑定評価の条件として賃貸借契約の内容が明示されなければ、鑑定評価によって
求めることはできない。
1.正常賃料
正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等(賃借権若しくは地
上権又は地役権に基づき、不動産を使用し、又は収益することをいう。)の契約において成立す
るであろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。
正常賃料は、合理的な市場という概念に照応する点では、正常価格と軌を一にするものである
が、賃貸借等の契約条件等によって特定された経済価値に即応する適正な賃料である点において
異なることに留意しなければならない(「中間報告」)。
ロ
正しい。
過去時点の鑑定評価についての規定内容である。
(2) 過去時点の鑑定評価について
過去時点の鑑定評価は、対象不動産の確認等が可能であり、かつ、鑑定評価に必要な要因資
料及び事例資料の収集が可能な場合に限り行うことができる。また、時の経過により対象不動
産及びその近隣地域等が価格時点から鑑定評価を行う時点までの間に変化している場合もある
- 115 -
ので、このような事情変更のある場合の価格時点における対象不動産の確認等については、価
格時点に近い時点の確認資料等をできる限り収集し、それを基礎に判断すべきである。
ハ
誤り。
「基準」では建物及びその敷地の限定賃料は規定されていない。
中高層建物の一部の賃料を求める場合で、不動産と賃借する同一階層内における位置別の効用
比の異なる部分の併合を目的とする賃貸借の場合に、賃借部分の限定賃料が成立することがある。
ニ
誤り。
継続賃料は、不動産の賃貸借等の継続に係る特定された当事者間において成立するであろう賃
料であるが、契約上締結当初は新規賃料であり市場性を有するものである。
3.継続賃料
継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経
済価値を適正に表示する賃料をいう。
4.特殊価格
特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前
提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
ホ
正しい。
継続賃料の価格形成要因の規定内容である。
1.継続賃料固有の価格形成要因
継続賃料固有の価格形成要因は、直近合意時点から価格時点までの期間における要因が中心
となるが、主なものを例示すれば、次のとおりである。
(1) 近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替
競争不動産の賃料の推移及びその改定の程度
(2) 土地価格の推移
(3) 公租公課の推移
(4) 契約の内容及びそれに関する経緯
(5) 賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度
ア
直近合意時点から価格時点までの事情変更に係る要因
継続賃料固有の価格形成要因のうち直近合意時点から価格時点までの間に変動が考えられる
ものとして、主なものを例示すれば下記のとおりである。
(ア)経済的事由に係る要因
経済的事由に係る要因には、物価変動、所得水準の推移、地価水準や建築費相場の推移、
税制の変更は固定資産税路線価の推移等がある。これらの要因を分析する上での留意点は、
直近合意時点から価格時点までの期間の時系列的な分析を行って、当該要因の変動の有無及
びその内容を動態的に把握することである。
継続賃料評価において特に注視すべき項目を例示すれば下記のとおりである。
・近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替
競争不動産の賃料に変動及びその改定の程度
- 116 -
・土地価格の推移、(特に家賃の場合)土地及び建物価格の推移
・公租公課の推移
・(特に家賃の場合)維持管理費等の必要諸経費等の推移
(イ)その他の要因
後記の諸般の事情に係る要因のうち、直近合意時点から価格時点までの期間の変動に係る
ものである。例外的に発生する要因であり、当該期間における契約内容の変更等がこれに該
当する。特異なケースとしては、直近合意時点から価格時点までの間に発生した賃貸借当事
者間の特別な「親睦関係」の解消、同族会社の解消等により恩恵的な契約関係が解消される
ことがあげられる(「基準実務指針」242 頁)。
- 117 -
〔問題 33〕 下記の各記述は、建物及びその敷地の継続賃料を求める場合の鑑定評価において総合
的に勘案すべき事項として不動産鑑定評価基準に記載された事項のうち一部を列記したものであ
る。次のイからハまでの空欄に入る語句として、正しいものの組み合わせはどれか。
・
イ
・
に対する利回りの推移
直近合意時点及び価格時点における
・
ハ
ロ
と現行賃料の乖離の程度
の推移
⑴
イ
「底地」
ロ
「新規賃料」
ハ
「公租公課」
⑵
イ
「底地」
ロ
「継続賃料」
ハ
「GDP(国内総生産)」
⑶
イ
「建物及びその敷地」
ロ
「新規賃料」
ハ
「GDP(国内総生産)」
⑷
イ
「建物及びその敷地」
ロ
「新規賃料」
ハ
「公租公課」
⑸
イ
「建物及びその敷地」
ロ
「継続賃料」
ハ
「公租公課」
正解
⑷
・
イ
建物及びその敷地に対する利回りの推移
・
ロ
直近合意時点及び価格時点における新規賃料と現行賃料の乖離の程度
・
ハ
公租公課の推移
第2節
建物及びその敷地
Ⅱ
継続賃料を求める場合
建物及びその敷地の継続賃料を求める場合の鑑定評価は、宅地の継続賃料を求める場合の
鑑定評価に準ずるものとする。この場合において、各論第2章第1節Ⅱ中「土地価格の推移」
とあるのは「土地及び建物価格の推移」と、
「底地に対する利回りの推移」とあるのは「建物
及びその敷地に対する利回り」と、それぞれ読み替えるものとする。
各論第2章
第1節
Ⅱ
賃料に関する鑑定評価
宅地
継続賃料を求める場合
2.継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合
継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価額は、
差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連
づけて決定するものとする。この場合においては、直近合意時点から価格時点までの期間
を中心に、次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
(1) 近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の
代替競争不動産の賃料、その改定の程度及びそれらの推移
(2) 土地価格の推移
(3) 賃料に占める純賃料の推移
(4) 底地に対する利回りの推移
(5) 公租公課の推移
(6) 直近合意時点及び価格時点における新規賃料と現行賃料の乖離の程度
- 118 -
(7) 契約の内容及びそれに関する経緯
(8) 契約上の経過期間及び直近合意時点から価格時点までの経過期間
(9) 賃料改定の経緯
なお、賃料の改定が契約期間の満了に伴う更新又は借地権の第三者への譲渡を契機とす
る場合において、更新料又は名義書替料が支払われるときは、これらの額を総合的に勘案
して求めるものとする。
- 119 -
〔問題 34〕 証券化対象不動産の鑑定評価に関する次のイからホまでの記述のうち、誤っているも
のをすべて掲げた組み合わせはどれか。
イ
不動産鑑定士は、証券化対象不動産の鑑定評価の依頼者のみならず広範な投資家等に重大
な影響を及ぼすことを考慮するとともに、不動産鑑定評価制度に対する社会的信頼性の確保
等について重要な責任を有していることを認識し、証券化対象不動産の鑑定評価の手順につ
いて常に最大限の配慮を行いつつ、鑑定評価を行わなければならない。
ロ
証券化対象不動産の鑑定評価を複数の不動産鑑定士が共同して行う場合にあっては、それ
ぞれの不動産鑑定士の役割を明確にした上で、各々の役割に応じて限定された責任を負わな
ければならない。
ハ
証券化対象不動産の未竣工建物等鑑定評価は、工事の中止、工期の延期又は工事内容の変
更が発生した場合に生じる損害が、当該不動産に係る売買契約上の約定や各種保険等により
回避されない場合は、行うことができない。
ニ
処理計画の策定に当たっての確認については、対象不動産の鑑定評価を担当する不動産鑑
定士以外の者が行う場合もあり得るが、その場合においても、当該鑑定評価を担当する不動
産鑑定士は、鑑定評価の一環として責任を有するものである。
ホ
価格時点において、現に証券化されていない不動産は、不動産鑑定評価基準各論第3章に
おける「証券化対象不動産」に該当しない。
⑴
イとロ
⑵
ロとハ
⑶
ロとホ
⑷
ロとハとニ
⑸
ロとハとホ
正解
イ
⑶
正しい。
証券化対象不動産の鑑定評価における不動産鑑定士の責務に関する規定内容である。
Ⅱ
不動産鑑定士の責務
(1) 不動産鑑定士は、証券化対象不動産の鑑定評価の依頼者(以下単に「依頼者」という。)の
みならず広範な投資家等に重大な影響を及ぼすことを考慮するとともに、不動産鑑定評価制
度に対する社会的信頼性の確保等について重要な責任を有していることを認識し、証券化対
象不動産の鑑定評価の手順について常に最大限の配慮を行いつつ、鑑定評価を行わなければ
ならない。
ロ
誤り。
証券化対象不動産の鑑定評価を複数の不動産鑑定士が共同して行う場合、鑑定評価書に記名す
る不動産鑑定士は、依頼者に対して責任を負う。
Ⅱ
不動産鑑定士の責務
(3) 証券化対象不動産の鑑定評価を複数の不動産鑑定士が共同して行う場合にあっては、それ
ぞれの不動産鑑定士の役割を明確にした上で、常に鑑定評価業務全体の情報を共有するなど
- 120 -
密接かつ十分な連携の下、すべての不動産鑑定士が一体となって鑑定評価の業務を遂行しな
ければならない。
複数の不動産鑑定士が分担して一つの証券化対象不動産の鑑定評価を行う場合には、受付等の
依頼者との協議、エンジニアリング・レポート等の資料の確認、実地調査等のそれぞれの担当す
る役割を明確にした上で、それぞれの作業から得られた情報を全員が常に共有し、密接かつ十分
な連携を保って適切な鑑定評価を行える体制を整備しなければならない。
なお、これらの場合において、鑑定評価書への役割分担表の明示、不動産鑑定士の署名・記名
の別等については、別途定める「不動産鑑定士の役割分担等及び不動産鑑定業者の業務提携に関
する業務指針」に従うものとする(「証券化対象不動産の鑑定評価業務を実施する場合における不
動産鑑定業者の業務実施態勢に関する業務指針細則」4 頁)。
不動産の鑑定評価に関する法律第 39 条第2項において、「鑑定評価書には、その不動産の鑑定
評価に関与した不動産鑑定士がその資格を表示して署名押印しなければならない。」とされてい
る。鑑定評価を行うに当たっては、依頼を受けた不動産鑑定業者が単独で業務を行うほか、他の
不動産鑑定業者や専門家と提携して業務を行う場合があるので、鑑定評価書の作成にかかわる者
が、鑑定評価の核となる主たる部分に携わっているか否か、すなわち関与しているか否かにかか
わらず、その役割分担を鑑定評価書に記載することは、信頼性・透明性の向上と不動産鑑定士の
責任の所在を明らかにする観点から促進すべきと考えられる。
したがって、鑑定評価書の作成に係わる者を次のとおり整理し、鑑定評価に関与した不動産鑑
定士(以下「署名不動産鑑定士」という。)は署名押印し、支援業務等を担当した不動産鑑定士(以
下「記名不動産鑑定士という。」は記名表記(押印不要)することとする。また、他の専門家につ
いても、同じく記名表記(押印不要)することとする。
なお、ここでいう鑑定評価書とは、第 39 条第1項に該当する鑑定評価書を指すものであり、実
際に依頼者に交付される成果報告書のタイトルや不動産鑑定評価基準に則っているか否かにかか
わらず、第3条第1項の鑑定評価業務の成果として交付されるものであることに留意する。
・総括不動産鑑定士
・関与不動産鑑定士
・上記以外の不動産鑑定士
(署名不動産鑑定士)
(定義は後記5参照)
鑑定評価書の作成
・支援業務等担当不動産鑑定士
に係わる者
(記名不動産鑑定士)
・他の専門家
(記名、業者名で可)
鑑定評価書における表示は、署名不動産鑑定士については冒頭に署名押印することとし、記名
不動産鑑定士及び他の専門家については、末尾に記載する役割分担表に明示することとする。
また、署名不動産鑑定士と記名不動産鑑定士が提携業者に属する場合は、当該不動産鑑定業者
名を併記することとする。
なお、役割分担表を設けることの意義は、外形上、鑑定評価における役割分担と責任の所在を
明確にすることができるとともに。不動産鑑定士に対しては、役割に対する責任の自覚を促すこ
とができるためである。
- 121 -
依頼を受けた不動産鑑定業者(以下「受託業者」という。)及び業務提携により再委託業務を行
う不動産鑑定業者(以下「提携業者」という。)並びに総括不動産鑑定士を含む署名不動産鑑定士
及び記名不動産鑑定士の責任分担の原則は、次表のとおりであり、これ以外にも監督省庁からの
不動産鑑定業者及び不動産鑑定士に対する行政指導がある。
なお、記名不動産鑑定士であっても、故意過失があれば、損害賠償責任の対象になると考えら
れる。
監督処分
(41条)
受
託
業
不動産鑑定業者
懲戒処分
(40 条)
契約上の責任
(対依頼者)
損害賠償責任
(対依頼者)
○
○
○
署名不動産鑑定士
○
○
説明責任
○
者
記名不動産鑑定士
○
(「不動産鑑定士の役割分担等及び不動産鑑定業者の業務提携に関する業務指針」1 頁、2 頁)
ハ
正しい。
証券化対象不動産の未竣工建物等鑑定評価を行う場合の要件に関する規定内容である。
第2節
証券化対象不動産について未竣工建物等鑑定評価を行う場合の要件
証券化対象不動産の未竣工建物等鑑定評価は、総論第5章第1節Ⅰ2.なお書きに定める要
件に加え、工事の中止、工期の延期又は工事内容の変更が発生した場合に生じる損害が、当該
不動産に係る売買契約上の約定や各種保険等により回避される場合に限り行うことができる。
証券化対象不動産について、未竣工建物等鑑定評価を行う場合には、不特定多数の投資家等の
利益保護の観点から、建物が未竣工であることに起因するリスクが担保されていることを、条件
設定の要件として求めており、以下の観点から資料等を収集し、条件設定の妥当性を判断する必
要がある。
①
設定した条件の確実性の確保
請負事業者の破綻や天災等があった場合においても、工事の中止や遅延が回避される具体の
措置(工事完成保証・建築工事保険等)がとられていること。
②
設定した条件と相違した場合における鑑定評価書の利用者の利益の確保評価の前提とした建
物と異なる建物が竣工した場合における損害(建物の評価額と実際の建物価格との相違)が回
避される具体の措置(売買契約書・建築工事請負契約書における瑕疵担保条項・代金支払の約
定等)がとられていること。
なお、鑑定評価の実施時において、建物が未竣工であることに起因するリスク回避策が確定
していない場合には、原則として未竣工建物等鑑定評価の条件を設定することはできないが、
この場合においても、売買契約書の案文や運用計画等により、予定されているリスク回避策の
内容が確認できる場合で、これにより条件設定の妥当性が認められる場合には、当該条件を設
定することができる ※26(「証券化実務指針」17 頁)。
※26
未竣工建物等鑑定評価を行うための要件を満たさない場合においては、後記Ⅸ2により、
不動産鑑定評価基準に則らない価格調査として実施する。
- 122 -
ニ
正しい。
処理計画の作成に関する留意事項の規定内容である。
2.処理計画の策定について
(1) 処理計画の策定に当たっての確認については、対象不動産の鑑定評価を担当する不動産鑑
定士以外の者が行う場合もあり得るが、当該不動産鑑定士が鑑定評価の一環として責任を有
するものであることに留意しなければならない。
ホ
誤り。
現に証券化されていない不動産であっても、
「基準」各論第3章の証券化対象不動産の範囲に規
定する(1)から(3)のいずれかに該当する不動産取引の目的となる見込みのある不動産(信託受益
権に係るものを含む。)は、証券化対象不動産に該当する。
Ⅰ
証券化対象不動産の範囲
この章において「証券化対象不動産」とは、次のいずれかに該当する不動産取引の目的であ
る不動産又は不動産取引の目的となる見込みのある不動産(信託受益権に係るものを含む。)を
いう。
(1) 資産の流動化に関する法律に規定する資産の流動化並びに投資信託及び投資法人に関する
法律に規定する投資信託に係る不動産取引並びに同法に規定する投資法人が行う不動産取引
(2) 不動産特定共同事業法に規定する不動産特定共同事業契約に係る不動産取引
(3) 金融商品取引法第2条第1項第5号、第9号(専ら不動産取引を行うことを目的として設
置された株式会社(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条第1項の規定
により株式会社として存続する有限会社を含む。)に係るものに限る。)、第 14 号及び第 16 号
に規定する有価証券並びに同条第2項第1号、第3号及び第5号の規定により有価証券とみ
なされる権利の債務の履行等を主たる目的として収益又は利益を生ずる不動産取引
- 123 -
〔問題 35〕 証券化対象不動産の鑑定評価に関する次のイからホまでの記述のうち、誤っているも
のをすべて掲げた組み合わせはどれか。
イ
証券化対象不動産については、関係者が多岐にわたり利害関係が複雑であることも多いこ
とから、関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者に係る利害関係等ではなく、依頼者と証
券化対象不動産との利害関係に関する事項を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
ロ
証券化対象不動産の個別的要因の調査等に当たっては、対象不動産の内覧の実施を含めた
実地調査を行うとともに、対象不動産の管理者からの聴聞等により鑑定評価に必要な事項を
確認しなければならず、また実地調査に関し、立会人のみならず対象不動産の管理者の氏名
及び職業についても、鑑定評価報告書に記載しなければならない。
ハ
同一の不動産鑑定士が、同一の証券化対象不動産の再評価を行う場合においても、対象不
動産の個別的要因のうち「公法上及び私法上の規制、制約等(法令遵守状況調査を含む。)」
に係る要因について、直近に行った鑑定評価の価格時点と比較して重要な変化があると認め
られるときには、内覧の実施について省略することができない。
証券化対象不動産の鑑定評価における収益価格を求めるに当たっては、DCF 法を適用しな
ニ
ければならない。この場合において、併せて直接還元法を適用することにより検証を行うこ
とが適切である。
ホ
不動産の鑑定評価とは、不動産の価格に関する専門家の判断であり、意見であるといって
よいことから、複数の不動産鑑定士が共同して複数の証券化対象不動産の鑑定評価を行う場
合にあっては、DCF 法の適用において活用する最終還元利回り、割引率、収益及び費用の将
来予測等について対象不動産相互間の論理的な整合性を図ることまでは求められていない。
⑴
イとロ
⑵
イとハ
⑶
イとホ
⑷
ロとニ
⑸
ハとホ
正解
イ
⑶
誤り。
依頼者と証券化対象不動産との利害関係に関する事項は、鑑定評価報告書の記載事項ではない。
Ⅲ
鑑定評価の依頼目的及び依頼者の証券化関係者との関係
証券化対象不動産については、関係者が多岐にわたり利害関係が複雑であることも多く、証
券化対象不動産の鑑定評価の依頼目的及び依頼が必要となった背景等並びに依頼者と証券化対
象不動産との利害関係に関する次の事項を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
(1) 依頼者が証券化対象不動産の証券化に係る利害関係者(オリジネーター、アレンジャー、
アセットマネジャー、レンダー、エクイティ投資家又は特別目的会社・投資法人・ファンド
等をいい、以下「証券化関係者」という。)のいずれであるかの別
(2) 依頼者と証券化関係者との資本関係又は取引関係の有無及びこれらの関係を有する場合に
あっては、その内容
(3) その他依頼者と証券化関係者との特別な利害関係を有する場合にあっては、その内容
- 124 -
ロ
正しい。
証券化対象不動産の個別的要因の調査等、実地調査に関する規定内容である。
Ⅰ
対象不動産の個別的要因の調査等
証券化対象不動産の個別的要因の調査等に当たっては、証券化対象不動産の物的・法的確認
を確実かつ詳細に行うため、依頼された証券化対象不動産の鑑定評価のための実地調査につい
て、依頼者(依頼者が指定した者を含む。)の立会いの下、対象不動産の内覧の実施を含めた実
地調査を行うとともに、対象不動産の管理者からの聴聞等により権利関係、公法上の規制、ア
スベスト等の有害物質、耐震性及び増改築等の履歴等に関し鑑定評価に必要な事項を確認しな
ければならない。
Ⅱ
実地調査
不動産鑑定士は、実地調査に関し、次の事項を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
(1) 実地調査を行った年月日
(2) 実地調査を行った不動産鑑定士の氏名
(3) 立会人及び対象不動産の管理者の氏名及び職業
(4) 実地調査を行った範囲(内覧の有無を含む。)及び実地調査により確認した内容
(5) 実地調査の一部を実施することができなかった場合にあっては、その理由
ハ
正しい。
対象不動産に係る公法上及び私法上の規制、制約等(法令遵守状況調査を含む。)の個別的要因
について、直近に行った鑑定評価の価格時点と比較してその個別的要因に重要な変化が認められ
るときは、内覧の実施を省略することはできない。
鑑定評価に必要となる専門性の高い個別的要因に関する調査
次に掲げる専門性の高い個別的要因に関する調査について、エンジニアリング・レポートを活
用するか又は不動産鑑定士の調査を実施(不動産鑑定士が他の専門家へ調査を依頼する場合を含
む。)するかの別を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
・公法上及び私法上の規制、制約等(法令遵守状況調査を含む。)
・修繕計画
・再調達価格
・有害な物質(アスベスト等)に係る建物環境
・土壌汚染
・地震リスク
・耐震性
・地下埋設物
証券化対象不動産の個別的要因の調査に当たっては、次に掲げる事項に留意する必要がある。
(1) 同一の証券化対象不動産の再評価を行う場合における物的確認については、本留意事項Ⅵ
3.(1)に定めるところにより、内覧の全部又は一部の実施について省略することができる。こ
の場合においては、各論第3章第4節Ⅲ(3)の表に掲げる専門性の高い個別的要因についても、
直近に行った鑑定評価の価格時点と比較して重要な変化がないと認められることが必要である
ほか、各論第3章第4節Ⅱに定める、実地調査に関する鑑定評価報告書への記載事項に加え、
直近に行った鑑定評価の価格時点と比較して当該不動産の個別的要因に重要な変化がないと判
- 125 -
断した理由について記載する。
証券化対象不動産の鑑定評価における物的確認に当たっては、依頼者や依頼者の指示を受けた
対象不動産の管理者等の立会いのもと、建物の内覧も含めた実地調査を行うことが必須である。
ただし、同一の不動産鑑定士 ※33 が、同一の証券化対象不動産の再評価を行う場合で、再評価の
価格時点が、内覧を行った直近の鑑定評価の価格時点から1年未満であり、かつ当該直近の鑑定
評価の価格時点と比較して、対象不動産の個別的要因(各論第3章第4節Ⅲの表に掲げる専門性
の高い個別的要因を含む。)に重要な変化がないと認められる場合 ※34 には、過去に自ら行った内
覧により確認した内容から価格形成要因の推定が可能と考えられるため、実地調査は必要である
が、内覧の全部又は一部の実施について省略することができる。
また、対象不動産が更地や底地である場合や、未竣工建物等鑑定評価を行う場合であって、不
動産鑑定士の単独調査により十分な調査を行うことが可能な場合には必ずしも立会いを要しな
い。
*33
複数の不動産鑑定士が、ある不動産の鑑定評価に関与する場合においては、当該複数の不
動産鑑定士全員が内覧を含む実地調査を過去に自ら行っている必要はなく、当該複数の不動
産鑑定士のうちのいずれかが当該不動産について内覧を含む実地調査を過去に自ら行ったこ
とがあれば足りる。
*34
個別的要因についての重要な変化の有無に関する判断は、例えば以下に掲げる事項を実地
調査、依頼者への確認、要因資料の分析等により明らかにした上で行う。
①敷地の併合や分割(軽微なものを除く。)、区画形質の変更を伴う造成工事(軽微なもの
を除く。)、建物に係る増改築や大規模修繕工事(軽微なものを除く。)等の実施の有無、②公
法上若しくは私法上の規制・制約等(法令遵守状況を含む。)、修繕計画、再調達価格、建物
環境に係るアスベスト等の有害物質、土壌汚染、地震リスク、耐震性、地下埋設物等に係る
重要な変化、③賃貸可能面積の過半を占める等の主たる賃借人の異動、借地契約内容の変更
(少額の地代の改定など軽微なものを除く。)等の有無(「証券化実務指針」20 頁、21 頁)
ニ
正しい。
証券化対象不動産の鑑定評価における DCF 法の適用等に関する規定内容である。
第5節 DCF 法の適用等
証券化対象不動産の鑑定評価における収益価格を求めるに当たっては、DCF 法を適用しなけ
ればならない。この場合において、併せて直接還元法を適用することにより検証を行うことが
適切である。
証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を
求める場合には、その依頼目的に対応した条件として資産流動化計画、有価証券届出書の投資方
針等の運用計画等を所与のものとし、当該運用計画等に基づく価格を求める必要があることから、
DCF 法を適用して求められた DCF 法による収益価格を標準として ※57 鑑定評価を行う必要があ
る ※58。
ただし、対象不動産が賃貸用不動産以外の戸建住宅等で当該不動産の転売を目的とすることが
明らかな場合や、分譲マンションとして開発し販売することが明らかな更地の場合など、必ずし
も収益価格が重視されないような不動産及び証券化の仕組みである場合には、対象不動産の種類
及び証券化の仕組みに応じて、適切な鑑定評価手法を適用して求められた試算価格を標準とし、
- 126 -
それ以外の鑑定評価手法によって求められた試算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する
必要がある。
また、複数の不動産鑑定士が共同して複数の証券化対象不動産の鑑定評価を行う場合にあって
は、DCF 法等の適用において採用する利回り、割引率、収益及び費用の将来予測等や取引事例比
較法等における補修正率等について対象不動産相互間の論理的な整合性を図るなど、説明責任の
向上を図らなければならない。
※57
開発型の場合には、後記3(3)参照。
(3) DCF 法(開発賃貸型)
DCF 法(開発賃貸型)は、開発型証券化において、更地(取り壊し前提の建物等を
含む場合もある。)に適用する手法であり、開発法的要素を加味した DCF 法といえる。
※58
運用計画が対象不動産の最有効使用と一致し、対象不動産の属する市場が投資採算価値を
標準として価格が形成されている場合には、正常価格と同一の市場概念の下において形成さ
れるであろう市場価値と乖離しないことから、求める価格の種類は正常価格となる。ただし、
評価の前提となる運用計画等は正常価格を求める場合と異なるケースもあり、その際は特定
価格として求める必要がある(「証券化実務指針」35 頁)。
ホ
誤り。
複数の不動産鑑定士が共同して複数の証券化対象不動産の鑑定評価を行う場合にあっては、
DCF 法等の適用において採用する利回り、割引率、収益及び費用の将来予測等や取引事例比較法
等における補修正率等について対象不動産相互間の論理的な整合性を図るなど、説明責任の向上
を図らなければならない(「証券化実務指針」35 頁)。
Ⅰ
DCF 法の適用過程等の明確化
(2) DCF 法による収益価格を求める場合に当たっては、最終還元利回り、割引率、収益及び費
用の将来予測等査定した個々の項目等に関する説明に加え、それらを採用して収益価格を求
める過程及びその理由について、経済事情の変動の可能性、具体的に検証した事例及び論理
的な整合性等を明確にしつつ、鑑定評価報告書に記載しなければならない。また、複数の不
動産鑑定士が共同して複数の証券化対象不動産の鑑定評価を行う場合にあっては、DCF 法の
適用において活用する最終還元利回り、割引率、収益及び費用の将来予測等について対象不
動産相互間の論理的な整合性を図らなければならない。
- 127 -
〔問題
36〕 証券化対象不動産の鑑定評価において活用すべきエンジニアリング・レポート(以下
この問において「ER」という。)に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
⑴
ERの内容を鑑定評価に活用するか否かの検討に当たっては、その判断及び根拠について、
不動産鑑定評価基準に規定された項目ごとに鑑定評価報告書に記載しなければならないが、必
ずしも、不動産鑑定評価基準に掲載された様式を用いる必要はない。
⑵
証券化対象不動産が運用開始から数か月で取り壊す予定である場合には、必ずしも、依頼者
にERの提出を求める必要はない。
⑶
ERは、依頼者自身が投資判断等の目的で取得するものであることから、証券化対象不動産
の鑑定評価に当たっては、依頼者が調査の委託者となって作成されたERでなければならない。
⑷
不動産鑑定評価基準に規定される「鑑定評価に必要となる専門性の高い個別的要因に関する
調査」の項目は、鑑定評価に必要な対象不動産の物的確認、法的確認等に係る必要最小限度の
ものであるから、当該項目とERに記載される調査項目とは、通常、一致している。
⑸
ERにおける調査項目の1つである「修繕更新費用」
(修繕計画)は、不動産鑑定士の通常の
調査の範囲では、判断・査定が困難な専門性の高い個別的要因に係る調査項目であるから、鑑
定評価に当たってはERに記載された数値を採用する必要がある。
正解
⑴
⑴
正しい。
エンジニアリング・レポートの内容を鑑定評価に活用するか否かの検討に当たっては、その判
断及び根拠について、鑑定評価報告書に記載しなければならないが、
「基準」各論第3章別表1は
鑑定評価法報告書の様式の例である。
Ⅲ
エンジニアリング・レポートの取扱いと不動産鑑定士が行う調査
(3) エンジニアリング・レポートの内容を鑑定評価に活用するか否かの検討に当たっては、そ
の判断及び根拠について、鑑定評価報告書に記載しなければならない。この場合においては、
少なくとも次の表の項目ごとに、それぞれ同表に掲げる内容を鑑定評価報告書に記載しなけ
ればならない。この場合における鑑定評価報告書の様式の例は、別表1のとおりとする。な
お、(1)ただし書きの場合においても、同様とする。
不動産鑑定評価基準各論第3章別表1とは、依頼者から提示されたエンジニリング・レポート
の内容、不動産鑑定士の調査内容及び鑑定評価において活用した事項とその根拠を不動産鑑定士
の責任において記載した一覧表である(「証券化実務指針」18 頁)。
⑵
誤り。
証券化対象不動産が取り壊す予定である場合であっても、土壌汚染リスク評価や取り壊し費用
算定のための取り壊し予定建物のアスベストについてのエンジニアリング・レポートが必要であ
る。
Ⅲ
エンジニアリング・レポートの取扱いと不動産鑑定士が行う調査
(1) 証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、不動産鑑定士は、依頼者に対し当該鑑定評価
に際し必要なエンジニアリング・レポートの提出を求め、その内容を分析・判断した上で、
鑑定評価に活用しなければならない。ただし、エンジニアリング・レポートの提出がない場
合又はその記載された内容が鑑定評価に活用する資料として不十分であると認められる場合
- 128 -
には、エンジニアリング・レポートに代わるものとして不動産鑑定士が調査を行うなど鑑定
評価を適切に行うため対応するものとし、対応した内容及びそれが適切であると判断した理
由について、鑑定評価報告書に記載しなければならない。
依頼者よりエンジニアリング・レポートの提出がない場合やエンジニアリング・レポートの調
査時点が古い場合など、その記載内容が鑑定評価を行う上で不十分な場合であっても、不動産鑑
定士の判断により、自己の調査分析能力の範囲内で価格形成要因に係る合理的な推定を行うこと
ができる場合には、証券化対象不動産の鑑定評価を行うことができる。その主な場合を例示すれ
ば、以下のとおりである。
ア
未竣工建物等鑑定評価を行う場合、又は対象不動産が取り壊し予定の建物及びその敷地であ
る場合(ただし、土壌汚染リスク評価や取り壊し費用算定のための取り壊し予定建物のアスベ
ストについてのエンジニアリング・レポートは必要である。)(「証券化実務指針」22 頁、23
頁)
⑶
誤り。
エンジニアリング・レポートの依頼者(委託者)と鑑定評価の依頼者とが同じでなくてもよい。
異なる場合にはその背景や理由を確認する必要がある。「証券化実務指針」の解説によるもので
ある。
エンジニアリング・レポートの基本的属性
ア)エンジニアリング・レポートに係る調査の依頼者
エンジニアリング・レポートは、依頼者自らが作成することはほとんどなく、依頼者が専門
機関に調査を委託することが一般的である。
したがって、エンジニアリング・レポートの依頼者が鑑定評価の依頼者と同じかどうか、異な
る場合にはその背景や理由を確認するとともに、当該レポートがドラフトか最終版かについて
も確認する必要がある(「証券化実務指針」56 頁)。
⑷
誤り。
各論第3章第4節Ⅲ(3)の表に掲げる鑑定評価に必要となる専門性の高い個別的要因に関する
調査の項目は必要最小限度のものを定めたものであり、必要に応じて項目・内容を追加し、確認
しなければならないことに留意する必要がある。
3.証券化対象不動産の個別的要因の調査について
証券化対象不動産の個別的要因の調査に当たっては、次に掲げる事項に留意する必要がある。
(3) 鑑定評価に必要な対象不動産の物的確認、法的確認等に当たっては、各論第3章第4節Ⅲ
(3)の表に掲げる内容や別表1の項目に掲げる内容が必要最小限度のものを定めたものであ
り、必要に応じて項目・内容を追加し、確認しなければならないことに留意する必要がある。
⑸
誤り。
依頼者から提供されたエンジニアリング・レポートの修繕更新費用の内容の判断が困難な場合、
必要に応じて、建築士等他の専門家の意見も踏まえつつ検証するよう努めなければならないとと
もに、依頼者を通じて ER 作成者による説明の機会を設ける必要がある。
証券化対象不動産の個別的要因の調査に当たっては、次に掲げる事項に留意する必要がある。
- 129 -
(2) エンジニアリング・レポートの活用に当たっては、不動産鑑定士が主体的に責任を持ってそ
の活用の有無について判断を行うものであることに留意する必要がある。また、エンジニアリ
ング・レポートの内容の適切さや正確さ等の判断に当たっては、必要に応じて、建築士等他の
専門家の意見も踏まえつつ検証するよう努めなければならないことに留意する必要がある。
既存のエンジニアリング・レポートの活用で対応できる場合がある一方、エンジニアリング・
レポートが形式的に項目を満たしていても、鑑定評価にとって不十分で不動産鑑定士の調査が
必要となる場合もある。
(4) できる限り依頼者からエンジニアリング・レポートの全部の提供を受けるとともに、エンジ
ニアリング・レポートの作成者からの説明を直接受ける機会を求めることが必要である。
修繕計画は、BELCA の定義するエンジニアリング・レポートの1つである「建物状況調査報
告書」の必須項目であるため、依頼者から提供されたエンジニアリング・レポートの内容を十分
吟味のうえ、活用する。なお、エンジニアリング・レポートを参照する過程で、疑問が生じたり、
不動産鑑定士の調査結果と異なっている場合には、依頼者を通じて ER 作成者に内容を確認し、
必要に応じ追加調査を要請する必要がある(「証券化実務指針」33 頁)。
適切な修繕計画に基づき、日常的な費用に相当する修繕費と資本的支出に相当する修繕費(大
規模修繕費)を区別して査定し、DCF 法、直接還元法等鑑定評価手法適用の基礎とする(「証券
化実務指針」34 頁)。
- 130 -
〔問題 37〕 証券化対象不動産の鑑定評価に関する次のイからホまでの記述のうち、正しいものを
すべて掲げた組み合わせはどれか。
イ
対象不動産の依頼者及び管理者の立会いの下、対象不動産の内覧の実施を含めた実地調査
を行ったが、後日、改めて不動産鑑定士単独により外観調査に基づく実地調査を行った場合
は、必ず2つの実地調査日を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
ロ
証券化対象不動産の鑑定評価を行う場合は、物的事項に関し現実の利用状況と異なる内容
を前提とする対象確定条件を設定することはできない。
DCF 法を適用する場合において、不動産鑑定評価基準各論第3章の規定に従って求めた各
ハ
期の純収益と、不動産鑑定評価基準総論第7章の規定に従って求めた各期の純収益は、理論
上、両者が異なることはない。
ニ
特定目的会社が不動産の売買(特定資産の取得)を行う場合と異なり、特定目的会社が特
定社債の引受けを募集するに当たって行う鑑定評価の場合は、必ずしも、不動産鑑定評価基
準各論第3章に従って行う必要はない。
証券化対象不動産について DCF 法を適用する場合には、不動産鑑定評価基準に規定され
ホ
た収益費用項目により純収益を求める必要があるが、直接還元法を適用する場合は、必ずし
も、DCF 法において採用した収益費用項目を用いる必要はない。
⑴
イとロ
⑵
イとハ
⑶
ロとハ
⑷
ニとホ
⑸
イとニとホ
正解
イ
⑵
正しい。
対象不動産の内覧の実施を含めた実地調査日、外観調査に基づく実地調査日を鑑定評価報告書
に記載する。
証券化対象不動産の鑑定評価においては、依頼者又はその指示を受けた者の立会いのもとでの
対象不動産の内覧を含む実地調査と対象不動産の管理者からの聴聞が必要である。不動産鑑定士
が依頼者及び対象不動産の管理者を通じて行った確認事項は、鑑定評価に係るトラブルの際にお
ける責任の範囲を明確にするとともに、鑑定評価の精度にも影響することから、依頼者その他第
三者に誤解を生じさせないようにできる限り詳細に鑑定評価報告書に記載する。
なお、対象不動産の確認について、次の事項を鑑定評価報告書に記載する必要がある。
①
実地調査を行った年月日
価格時点における対象不動産の状態の確認として、対象不動産を実地に確認した日。その他、
事前又は事後に予備的又は補足として行った調査日も必要に応じ記載する。
②
実地調査を行った不動産鑑定士の氏名
対象不動産について複数の不動産鑑定士で鑑定評価を行った場合には、実地調査を行ったす
べての不動産鑑定士の氏名
③
立会人及び対象不動産の管理者の氏名及び職業
- 131 -
④
実地調査を行った範囲(内覧の有無を含む。)及び実地調査により確認した内容(「証券化
実務指針」54 頁、55 頁)。
ロ
誤り。
証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、投資家保護の観点が重要であるため、安易に評価
条件を付することは許されず、原則として現状を所与として鑑定評価を行う必要がある。ただし、
竣工の実現性が高いことが客観的に認められる建物等については、当該建物等の竣工を前提とし
て、対象確定条件に係る未竣工建物等鑑定評価を行うことができる。この場合には、物的確認及
び権利の態様の確認のための資料があること並びに実現性及び合法性の観点から当該条件設定の
妥当性が認められることが必要であるほか、不特定多数の投資家等の利益保護の観点から、建物
等が未竣工であることに起因するリスクが担保されていることが必要である。
なお、建物が建築中の不動産を鑑定評価の対象とする場合は、基準総論第5章第1節Ⅰ1(5)、
2なお書き及び各論第3章第2節に定める要件を満たす場合において、未竣工建物等鑑定評価を
行う場合を除き、鑑定評価の対象となるのは、土地部分のみである(「証券化実務指針」12 頁)。
ハ
正しい。
純収益が理論上異なることはないということは、収益費用項目が同じということである。
4.DCF 法の適用等について
(4) 収益費用項目については、DCF 法を適用した場合の検証として適用する直接還元法にお
いても、同様に用いる必要がある。
「証券化実務指針」の解説を引用する。
(1) 収益費用項目
賃貸用不動産について DCF 法を適用する場合の収益費用項目については、原則として基準
各論第3章等に記載されている項目、定義等にしたがう必要がある。各項目の定義は、㈳日本
ビルヂング協会連合会、㈳東京ビルヂング協会連合会編「不動産経営管理業務 出納・会計項目
一覧及び解説」中分類等を参考に、不動産鑑定評価基準や鑑定評価実務の実態を踏まえ、『別
表「収益費用項目表(会計上の費用との対比表)」』のとおりとする。
また、手法間の整合性や比較可能性確保のため、直接還元法についても同様の収益費用項目
とする。この場合に、標準項目以外の定義で収集されたデータが入手された場合には、標準項
目と違う定義を用いていることを必ず明記する必要がある。
運営純収益の算定に当たっては、会計上営業損益に含まれない一時金の運用益等、大規模修
繕費等の資本的支出を含まないものとする。ただし、収益価格の査定においては、一時金の運
用益等、大規模修繕費等の資本的支出を考慮した純収益を用いる必要がある(「証券化実務指
針」37 頁)。
ニ
誤り。
有価証券の債務の履行等を主たる目的として収益又は利益を生ずる不動産取引に含まれる。
Ⅰ
証券化対象不動産の範囲
この章において「証券化対象不動産」とは、次のいずれかに該当する不動産取引の目的であ
る不動産又は不動産取引の目的となる見込みのある不動産(信託受益権に係るものを含む。)を
- 132 -
いう。
(3) 金融商品取引法第2条第1項第5号、第9号(専ら不動産取引を行うことを目的として設
置された株式会社(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条第1項の規定
により株式会社として存続する有限会社を含む。)に係るものに限る。)、第 14 号及び第 16 号
に規定する有価証券 注4並びに同条第2項第1号、第3号及び第5号の規定により有価証券と
みなされる権利 注5の債務の履行等を主たる目的として収益又は利益を生ずる不動産取引
※4
第5号:社債券。第9号:株券又は新株予約権証券。第 14 号:信託法に規定する受益証券
発行信託の受益証券。第 16 号:抵当証券法(昭和6年法律第 15 号)に規定する抵当証券。
※5
第1号:信託の受益権。第3号:合名会社若しくは合資会社の社員権又は合同会社の社員
権。第5号:民法第 667 条第1項に規定する組合契約や商法第 535 条に規定する匿名組合契
約等に基づく権利等のうち、出資者が出資対象事業から生ずる配当等を受けることができる
権利(いわゆる集団投資スキーム持分)
ホ
誤り。
収益費用項目については、DCF 法を適用した場合の検証として適用する直接還元法においても、
同様に用いる必要がある。
4.DCF 法の適用等について
(4) 収益費用項目については、DCF 法を適用した場合の検証として適用する直接還元法にお
いても、同様に用いる必要がある。
収益費用項目について、「証券化実務指針」では、次のように解説している。
(1) 収益費用項目
賃貸用不動産について DCF 法を適用する場合の収益費用項目については、原則として基準
各論第3章等に記載されている項目、定義等にしたがう必要がある。各項目の定義は、㈳日本
ビルヂング協会連合会、㈳東京ビルヂング協会連合会編「不動産経営管理業務 出納・会計項目
一覧及び解説」中分類等を参考に、不動産鑑定評価基準や鑑定評価実務の実態を踏まえ、『別
表「収益費用項目表(会計上の費用との対比表)」』のとおりとする。
また、手法間の整合性や比較可能性確保のため、直接還元法についても同様の収益費用項目
とする。この場合に、標準項目以外の定義で収集されたデータが入手された場合には、標準項
目と違う定義を用いていることを必ず明記する必要がある。
運営純収益の算定に当たっては、会計上営業損益に含まれない一時金の運用益等、大規模修
繕費等の資本的支出を含まないものとする。ただし、収益価格の査定においては、一時金の運
用益等、大規模修繕費等の資本的支出を考慮した純収益を用いる必要がある(「証券化実務指
針」37 頁)。
- 133 -
38〕 次のイからホまでの各記述は、不動産鑑定評価基準各論第3章における DCF 法の収
〔問題
益費用項目に係る定義である。それぞれの定義に対応する項目として、正しいものの組み合わせ
はどれか。
イ
各収入について貸倒れの発生予測に基づく減少分
ロ
対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設
備等の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する支出
ハ
対象不動産の管理業務に係る経費
ニ
建物・設備管理、保安警備、清掃等対象不動産の維持・管理のために経常的に要する費用
ホ
対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設
備等の通常の維持管理のため、又は一部がき損した建物、設備等につきその原状を回復する
ために経常的に要する費用
⑴
⑵
⑶
⑷
⑸
正解
イ
「空室等損失」
ニ
ロ
ハ
「維持管理費」
「プロパティマネジメントフィー」
ホ
「資本的支出」
イ
「空室等損失」
ハ
「プロパティマネジメントフィー」
ニ
「維持管理費」
ホ
「修繕費」
イ
「貸倒れ損失」
ハ
「プロパティマネジメントフィー」
ニ
「維持管理費」
ホ
「資本的支出」
イ
「貸倒れ損失」
ハ
「維持管理費」
ニ
「プロパティマネジメントフィー」
ホ
「修繕費」
イ
「貸倒れ損失」
ハ
「プロパティマネジメントフィー」
ニ
「維持管理費」
ホ
「修繕費」
ロ
ロ
ロ
ロ
「修繕費」
「資本的支出」
「修繕費」
「資本的支出」
「資本的支出」
⑸
イ
各収入について貸倒れの発生予測に基づく減少分 → 貸倒れ損失
ロ
対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等
の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する支出
→ 資本的支出
ハ
対象不動産の管理業務に係る経費 → プロパティマネジメントフィー
ニ
建物・設備管理、保安警備、清掃等対象不動産の維持・管理のために経常的に要する費用
→ 維持管理費
ホ
対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等
の通常の維持管理のため、又は一部がき損した建物、設備等につきその原状を回復するために
経常的に要する費用 → 修繕費
Ⅱ
DCF 法の収益費用項目の統一等
(1) DCF 法の適用により収益価格を求めるに当たっては、証券化対象不動産に係る収益又は費
用の額につき、連続する複数の期間ごとに、次の表の項目(以下「収益費用項目」という。)
に区分して鑑定評価報告書に記載しなければならない(収益費用項目ごとに、記載した数値
の積算内訳等を付記するものとする)。この場合において、同表の項目の欄に掲げる項目の定
- 134 -
義は、それぞれ同表の定義の欄に掲げる定義のとおりとする。
項
運
目
貸室賃料収入
営
収
定
義
対象不動産の全部又は貸室部分について賃貸又は運営委託をすることによ
り経常的に得られる収入(満室想定)
共益費収入
益
対象不動産の維持管理・運営において経常的に要する費用(電気・水道・ガ
ス・地域冷暖房熱源等に要する費用を含む)のうち、共用部分に係るものと
して賃借人との契約により徴収する収入(満室想定)
水道光熱費収入
対象不動産の運営において電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費
用のうち、貸室部分に係るものとして賃借人との契約により徴収する収入
(満室想定)
駐車場収入
対象不動産に附属する駐車場をテナント等に賃貸することによって得られ
る収入及び駐車場を時間貸しすることによって得られる収入
その他収入
その他看板、アンテナ、自動販売機等の施設設置料、礼金・更新料等の返還
を要しない一時金等の収入
運
空室等損失
各収入について空室や入替期間等の発生予測に基づく減少分
貸倒れ損失
各収入について貸倒れの発生予測に基づく減少分
維持管理費
建物・設備管理、保安警備、清掃等対象不動産の維持・管理のために経常的
営
費
に要する費用
水道光熱費
用
対象不動産の運営において電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費
用
修繕費
対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち
当該建物、設備等の通常の維持管理のため、又は一部がき損した建物、設備
等につきその原状を回復するために経常的に要する費用
プロパティマネジメン
対象不動産の管理業務に係る経費
トフィー
テナント募集費用等
新規テナントの募集に際して行われる仲介業務や広告宣伝等に要する費用
及びテナントの賃貸借契約の更新や再契約業務に要する費用等
公租公課
固定資産税(土地・建物・償却資産)、都市計画税(土地・建物)
損害保険料
対象不動産及び附属設備に係る火災保険、対象不動産の欠陥や管理上の事故
による第三者等の損害を担保する賠償責任保険等の料金
その他費用
その他支払地代、道路占用使用料等の費用
運営純収益
運営収益から運営費用を控除して得た額
一時金の運用益
預り金的性格を有する保証金等の運用益
資本的支出
対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち
当該建物、設備等の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認めら
れる部分に対応する支出
純収益
運営純収益に一時金の運用益を加算し資本的支出を控除した額
- 135 -
〔問題 39〕 中層の共同住宅(貸家及びその敷地)の収益価格を有期還元法(収益期間を 10 年と
したインウッド式)により求めた場合、計算結果として正しいものは、次のうちどれか。なお、
前提となる諸数値は次のとおりである。
〔収益還元法適用の前提となる諸数値〕
建物等及びその敷地の償却前の純収益(年額)
12,000 千円
割引率(年率)
0.05
収益期間
10 年
10 年後の土地価格(建付地としての価格)
135,000 千円
10 年後の土地価格(更地にした場合の価格)
150,000 千円
10 年後の建物等の価格 2,000 千円
2,000 千円
10 年後の建物等の撤去に係る費用
6,000 千円
〔計算上の指示事項〕
複利の計算は上記の収益期間及び割引率に基づき、下表の数値を用いる
複利現価率
複利年金現価率
1÷(1+Y)X
{(1+Y)X-1}÷{Y(1+Y)X}
0.61
7.7
X:収益期間、Y:割引率(年率)
⑴
172,310 千円
⑵
175,970 千円
⑶
180,240 千円
⑷
187,560 千円
⑸
207,840 千円
正解
⑶
建物等及びその敷地の償却前の純収益(年額)12,000 千円)×7.7+{(10 年後の土地価格(更
地にした場合の価格)150,000 千円-10 年後の建物等の撤去に係る費用 6,000 千円}×0.61
=12,000 千円×7.7+(150,000 千円-6,000 千円)×0.61
=92,400 千円+87,840 千円=180,240 千円
複利年金現価率を用い、収益期間満了時における土地の価格、及び建物等の残存価格又は建物
等の撤去費をそれぞれ現在価値に換算した額を加減する方法(インウッド式)がある。この方法
の考え方に基づき、割引率を用いた式を示すと次のようになる。
n
(1+Y)
‐1 PLn+PBn
+
又は
P=a×
n
n
Y(1+Y)
(1+Y)
N
‐1
P ‐E
(1+Y)
+ LN N
P=a×
N
Y(1+Y) (1+Y)
- 136 -
P :建物等及びその敷地の収益価格
a :建物等及びその敷地の償却前の純収益
Y :割引率
N,n:収益期間(収益が得られると予測する期間であり、ここでは建物等の経済的残存耐用年数
と一致する場合にはN、建物等の経済的残存耐用年数より短い期間である場合はnとする。)
PLn :n年後の土地価格
PBn :n年後の建物等の価格
PLN :N年後の土地価格
E:建物等の撒去費
- 137 -
〔問題 40〕 継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく賃料を改定する場合の鑑定評価に当たって、
下記諸条件が与えられた場合、スライド法による試算賃料として適当なものは、次のうちどれか。
なお、支払賃料は実質賃料に等しいものとする。
〔直近合意時点における基礎価格等〕
基礎価格
1 億円
土地価格
1.1 億円
純賃料(年額)
300 万円
必要諸経費等(年額)
100 万円
〔価格時点における基礎価格等〕
基礎価格 1.1 億円
土地価格 1.2 億円
想定される新規賃料(年額)
460 万円
必要諸経費等(年額)
120 万円
〔前提となる変動率等〕
期待利回り
3.0%
継続賃料利回り
2.7%
純賃料の変動率
+ 7.0%
地価変動率
+ 9.0%
⑴
347,500 円
⑵
356,750 円
⑶
357,500 円
⑷
367,500 円
⑸
372,500 円
正解
⑷
直近合意時点における純賃料に乗ずる変動率は、純賃料の変動率を採用する。
①
直近合意時点における純賃料
②
純賃料の変動率
③
価格時点の必要諸経費等
④
スライド法による賃料
3,000,000 円
1+0.07
1,200,000 円
(①×②)+③
=(3,000,000 円×1.07)+1,200,000 円
=3,210,000 円+1,200,000 円=4,410,000 円(月額 367,500 円)
3.スライド法
スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必
要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
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なお、直近合意時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応する適切な変動率が求め
られる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として直接求めることができるものと
する。
①
変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動
分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、
物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に
勘案して求めるものとする。
②
必要諸経費等の求め方は、積算法に準ずるものとする。
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