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バーバラ・メイア・ワータイマー 「女性労働者」

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バーバラ・メイア・ワータイマー 「女性労働者」
12バーバラ・メイア・ワータイマー
「女'性労働者」
酒井1値子
著者は1960年代以降を中心にアメリカの女性労働者の状況と要求を本論文にお
いて概略している。
本論文は,前書きと小見出しのついた5つの節により構成されているが,著者は
前書きにおいて1920年代から1950年代までの女性労働者の状況を述べ,最初の
節「なぜ女性は働くのか」では女性の就業動機と要求について,第2節の「労働運
動のなかでの女性」では労働組合への女性の参加について,第5節「組合指導者へ
の女性の進出」では労働組合の指導層への女性の参加について,さらに「黒人と白
人の共闘」「性的いやがらせ」についても節を設け,最後の節「ホワイトカラー女
性の組織化」においてホワイトカラー女性労働者の重要性と今後の展望を述べてい
る。
著者の主張の要約は次の通りである。
【要約】
半数以上のアメリカ女性が家庭外で就業している今日,彼女達は男性優位の社会
に進出するための闘争を続けている。1920年に女性は婦人参政権を獲得したが,
政治的権力も経済的権力も再分配されなかった。
この時期までに,女性の役割は家庭内生産から生計費維持へと変化した。家庭用
電気器具類が女性の仕事を単純な作業にし,女性を自由にしてサーヴィス業などに
就業させるようになった。1950年代の大不況時に政府が行なった雇用と回復プロ
グラムには,失業した550万人の女性は含まれていなかった。その結果,女性は家
族の重荷とならないために家庭を離れた。195o年代後半には多くの女性が他のマ
イノリティ労働者と共に産業別組織会議(theCongressoflndustrial
Organization:以下CIOと略す)に参加した。第2次世界大戦は,さらに多く
の女性,特に既婚者を就労させた。150万の黒人女性も工場の仕事を得た。戦争が
終わると,大半の女性は高賃金の軍需産業を解雇されて,オフィスや店の低賃金の
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仕事に転職した。1950年までに女性の就労者は再び増えて戦争中の水準に戻り,
それ以後も増え続けている。
1.なぜ女性は働くのか
現在,成人女性の52筋が就労している。彼女達が働く理由は,男と同様に家族
を扶養するためか扶養費を補うためである。アメリカの貧困家庭と困窮者に占める
女性の割合は高くそれぞれ4996と7596となっている。
1970年代のインフレ,平均余命が76歳に達したこと,教育費の増加により副収入が
必要となった。一方,女性の伝統的職域とされていた保健,教育,販売食堂サー
ヴィス,事務等における就業人口が増加した。しかし,就労の機会は増加しても女
性の賃金は増加せず,平均して男性の5996にしか達しなかった。
1950年代と1960年代の公民権運動の結果,社会的不平等への国民の関心が高
まり,同一賃金法,性差別に反対する法律を含む公民権諸法が成立した。1960年
代中頃に再び活性化した女性運動の中で,中産階級の組織として発足した全国女性
組織(TneNationalOrganizationforWomen:以下NOWと略す)は女
性労働者階級にはアピールしなかった。しかし今日では女性運動と女性労働者は非
常に変化し,労働組合や他の女性労働者はNOWと提携して平等権修正(Equal
RigntsAmendment:以下ERAと略す)の批准,保育の連邦資金による実施,
産休の有給化,同一労働同一賃金,フレックスタイムの導入,公平な社会保証の実
施を法制化する運動を進めている。
2.労働運動のなかでの女性
過去,0年間で労働組合又は被雇用者団体に参加する女性は540万から690万
に増加した。特に女性労働者が圧倒的に多い職種,例えば保健,政府雇用,教育で
は組合の成長力撮も早かった。それにもかかわらず今日なお全女性労働者の’5%し
か組織されていない。
女性が労働組合に加入するのは,男性同様,組合が労働者にとって,組織的,日
常的な基盤にもとづいて権力に挑戦できる唯一の機関であるからである。就労女性
の平均賃金が男の5996であるにもかかわらず,組合に加入している女性の平均賃
金は男の75妬である。その上,年金,医療,出産・病気・有給休暇等においても組
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合・に加入していない女性との待遇の差は大きい。また,組合・は性的いやがらせ,人
種と性の差別等に係わるカウンセリング,法律相談,子供の夏キャンプなど種々の
サーヴィスを提供している。そして組合大会,教育プログラム及び委員会活動は日
常の雑事に窒息した女性の能力の社会的・創造的はけ口を提供している。
5.組合指導者への女性の進出
、1970年代は女性動員の時代だった。いくつかの国際的な労働組合内に女性部門
が創設された。又,映画やテレビや出版物でも女性が取り上げられ,注目を浴びた。
1970年代前半におけるメキシコ系アメリカ人のストライキでもその大半を女性が
占めた。また女性労働者階級の生活を記録したフィルムが賞をとり始めた。女性と
マイノリティと組合によって起こされた訴訟は雇用の平等の分野で勝訴し,女性に
管理職への道を開き,会社にアファーマテイヴ・アクションの計画を要求する法廷
外の解決策をもたらした。
しかし,組合の指導権の大半は相変わらず白人男性が握っていた。その理由の第
一は家族への責任などの社会的な障壁,第二は仕事上の障壁で,例えば女性組合活
動家は監督官が男性組合活動家に対するよりも女性に対してより厳しいとみている
事実がある。第三は女性のための組合指導訓練の欠如である。
最近では組合内の女性の力は強化され,1974年には労働運動のなかで女性が権
力を持たなければならないと感じた女性達によって,労働組合女性連合(Tne
CoalitionofLaborUnionWomen:以下CLUWと略す)が創設された。
CLUWの目標は職場と組合におけるアファーマテイヴ・アクション,未組織労働
者,特に女性労働者の組織化の支援,労働女性の法的政治的目標の達成,組合や被
雇用者団体への女性の加入の増加の4つである。
CLUW支部の増加の中で一般女性組合員は組合政治をどのように動かすかをじ
かに学ぶ機会を提供してくれる機構を設けた。そこで様々な経験を蓄積した女性達
は支部の指導や幹部の仕事をこなした。今や州大会や国際的な組合執行委員会に女
性の参加は欠かせないと組合-指導者達は認めている。
4.黒人と白人の共闘
最近では黒人女性と白人女性が一緒に行動し,両者の賃金格差は殆ど消滅した。
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職種においてもホワイトカラーの仕事に就くマイノリティーの女性も増えてきた。
しかしながら,男女の賃金格差は広がり始めている。黒人女性は人種による差別以
上に性による差別を経験しているのである。
5.仕事上での性的いやがらせ
性的いやがらせは女性労働者にとってこれまでいつも問題であったが,恥ずべき
こととして隠されてきた。ごく最近になって女性達はこのことについて自由に討議
できるようになっている。
いくつかの全国的組合は地方支部でこの問題を取り上げて討議するよう勧告した。
性的いやがらせを禁止する契約条項を設け,その問題を扱う労使合同委員会を設置
するという方法も試みられている。またこの問題に'悩む女性を支援し,法律に基づ
く教育計画を後援し,性的いやがらせの証拠を集める方法を教えている。
6.ホワイトカラー労働者
事務労働やサーヴィス業は今後ますます増加すること力汗測される。今日殆ど未
組織であるこの部門で組織化の運動を開始した女性のグループのひとつは「9時か
ら5時まで」(NinetoFive:1975年創立)である。「9時から5時まで」
は2年でサーヴィス業被雇用者国際組合(IheSerViceEmployee,s
lnternatinalUnlon:以下SEIUと略す)に加入を求め,ローカル925を設
立するまでに成長した。事務労働者の運動は直接行動を組織し,新聞やメディアを
巧みに利用することによって勢力を拡大していったのである。
事務労働者にとって事務のオートメーション化は大きな問題であり,その普及は
多くの個人秘書の必要をなくしてしまうであろう。オートメーション化への抵抗は,
女性事務労働者と労働運動が全国の事務・秘書労働者を組織化しうる問題であろう。
1980年にはアメリカ労働総同盟産業別労働組合会議(AFL-CIO)の産業労働
部門はCLUWと共に戦略を討議する全国会議を開催した。もし労働組合が資金を
出し,女性オルガナイザーにこの仕事を委任するなら,女性労働者は今後何年間か
の組合の組織化にとって主要な力となるだろう。
1980年代になると保守化が進み,共和党政権はERAに反対し,若年者最低賃
金を支持した。これは低賃金の少数民族や女性に影響を及ぼすものであった。また,
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家族の擁護を口実として女性が働くことにだんだんうしろめたさを感じさせようと
しているように,思われる。
振り返ってみると労働運動への女性の全面的参加の機会がより広がったとは言え
ない。しかし,CLUWは成長しつつあり,女性の指導者を育てる上でその役割も
高まりつつある。ホワイトカラー労働者の拡大組織である事務労働者全国連合は,
女性に集団行動の必要性を自覚させつつある。数年の内に共通の目標を持った女性
達の新たなる同盟ができるだろう。
1980年代の右傾化に対する返答は女性労働者の側での自らの潜在力の自覚の高
まりにかかっている。新しく連合した女性は団結してその力を用いることができる。
フレデリック・ダグラスが1857年に言ったように「権力側は要求しなければ一歩
も譲らない。昔もそうだったし,これからもそうだろうJおそらく現在,要求の時
代が来ている。
【コメント】
パーパラ・メイヤー・ワータイマーは,現在アメリカにおいて,女性と労働の
問題に関して全国的雑誌に数多く寄稿している労働教育家である。著書は,
肋PLOγm9fノレCAZ,:AHaM6ooル/oγnadeUnZo〃Pγ09γαm
PZawze7s,1969や〃‘〃`7eT/beγc:T/beSZoγyo/〃oγルmy〃omc几
加』m`γZcaaMo/La6o7E血cafZo〃/o7w0m`'、ルWル‘γ駁,1977
がある。他にアン.H・ネルソンとの共著,TγQdcU"ZonWbme几:ASfudy
o/TノレeZ7PαγZZcZpafZo加川Ⅳ`uノYoγんCZfyLocaZ,などがある。
上記肌〃`γcT“γ‘によれば,著者は1977年当時,コーネル大学の産業労
働関係学部の課外講座で教えていた。また組合女性の研究でよく知られている「女
性労働者の調査と教育計画」を指揮していた。それ以前はアメリカ縫製工合同
(Ama1gamatedClothlngWorkersofAmerica)のオルガナイザーであ
ったが,成人教育の分野ですぐれた功績をあげた。
本論文では著者は主として1960年代以降のアメリカの女性労働者の問題を扱っ
ている。そして,今日アメリカの成人女性の半数以上が家庭外で就労しているにも
かかわらず,女性労働者の組織率が15筋にしかすぎないことを指摘し,女性労働
者の組織化の必要性を説いている。女性労働者を組織していく上で,著者は,ホワ
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イト・カラー女性労働者に注目し,またCLUWの役割を重視している。
また著者は,かつて60年代の女」性運動は中流階級の運動だったが,今日では様
々な女性の運動は共通の目標を持っているとして女性運動の変化を指摘している。
1982年にERAが廃案になったことからも,女性労働者の組織化をすすめ,女性
労働者の要求を強めていかなければならないという著者の主張にはうなづけるが,
ただ,女性労働者の組織化を阻むものは何であるかについてより詳しい説明が欲し
い・
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