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2012年麗水交際博覧会を見て - 一般社団法人日本イベントプロデュース

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2012年麗水交際博覧会を見て - 一般社団法人日本イベントプロデュース
2012年麗水交際博覧会を見て
IT 過信のコミュニケーション戦略で 墓穴を掘る
関東本部参事・渉外部長
松倉 崇
◆視察スケジュールの概要
関東本部が企画した「2012 年麗水国際博覧会視
察団」に私は団長として総勢 15 名の参加者とともに
視察を実施した。視察プログラムの概要としては、
5 月 31 日(木)に羽田を出発。
1日目は増床工事が完了し 20 万㎡の床面積を確
保し、アジア地区でも屈指の国際級の展示会場とな
った「KINTEX」と、ソウル市東大門地区の再開発の
目玉施設と位置付けられている「東大門デザインパ
ーク(2014 年オープンに向けて、目下建築中)」を見
学した後、夕刻からは韓国イベント協会との交流会と
いう、ややきつめのスケジュールをこなした。
◆広報活動が極端に不足した博覧会
博覧会自体は、一口に言って《ヒューマンサイズの、
丁寧に作り込まれた、テーマに忠実な博覧会》という
2日目は、韓国の新幹線「KTX」に搭乗し、約 3 時
間半の乗車で、14 時過ぎには博覧会場正門に到着、
その後、夕刻まで、会場内を各自自由見学。
3日目は、午前中に韓国館を優先入場で見学。
ことになろう。
しかし、何といっても一番印象的なことは、これほど
事前広報が不足した国際博覧会は、前例をみないほ
ど、珍しいということであろう。
またこの日は、「Japan Day」当日のため、日本各地
から招聘した、伝統民俗芸能などの関連イベントを見
同じ BIE 認定であっても、前回の一般博である上
学し、夜間には本博覧会のシンボルとされる巨大な O
海世博とは違い、今回の博覧会はいわゆる特定博で
字型の構造物「The Big-O」を背景とする、海上ステー
あることから、規模も予算も大きくはない。
ジで「Japan Day Special Show」や日本の花火の打ち
上げを観た。その後、The Big-O が作り出す水滴スク
従って、日本に明確な広報拠点が設けられなかっ
たことが、まず挙げられる。
リーンに映し出されるレーザー映像を中心とする、ワ
ールド・オーシャン・パフォーマンスを観賞し、深夜近
くに会場を後にした。
それではと、旅行代理店にも協力を仰ぎ、韓国大
使館をはじめ政府観光局や、思いつく韓国関係の各
種団体に当たってみても、さしたる情報や資料に行き
4日目は、午前中に日本館を表敬訪問し、町田館
当らなかったというのが現実である。
長の直々の案内で、館内を見学。その後、14 時半ご
ろまで各自自由に会場内を観て、麗水空港より帰国
した。以上が、視察プログラムの概要であるが、以下
◆公式ガイドブックが未発行! 事前勉強会を断念
JEPC が国際博覧会の視察団を派遣するに当たっ
に全体を通じての感想や、特に印象に残った事象を
ては、事前に勉強会を開催し、予備知識をもって現
記してみたい。
地に乗り込むのが通例になっている。
しかし、今回はその教材となる情報の入手はおろ
か、博覧会の動員目標数さえ把握できず、ついに勉
ことにはならなかった筈だと、主催者を恨めしく思わ
ざるを得なかったのである。
強会開催を見送らざるを得ないという事態に立ち至っ
たのである。
◆開催国内でも 見当たらないポスター・看板類
さらに問題なのは、BIE 認定の博覧会には義務とし
ソウル金浦空港に到着して、まず奇異に感じたこと
て課せられている筈の、《公式ガイドブック》について
は、麗水博覧会に関するポスターや看板類が、全く
いえば、どう手を尽くしても手に入らなかったのである。
目につかないことであった。
韓国語版は何とか、開会までに間に合ったらしいもの
これはバスでソウル市内に移動してからも、全く同
の英語版以下は間に合っておらず、日本語版に至っ
様で、「麗水博覧会は、本当に開催されているのだろ
ては制作されるのかどうかさえ不明であった。
うか?」とさえ感じざるを得なかった。
その後 6 月初旬には発行予定という情報が伝わっ
BIE 認定の博覧会といえば、オリンピックやワールド
てきたが、現実には、我々が訪問した 6 月 2 日時点で
カップサッカーにも匹敵する、本格的な堂々たる国際
は販売されておらず、その後風の噂によれば、7 月半
イベントであるはずなのに、これは一体どうしたことな
ばには会場内だけで、販売することになったという。
のだろうか?
その後判明した動員目標数は「800 万人、うち外国
日本にいた時は、予算的にも、海外広報までは手
人 55 万人」ということであれば、外国語版の制作に熱
が回りきらないのだろう、と軽く受け止めていたが、開
が入らないのは人情としては理解できるものの、これ
催国に来てみても、この状態というのは、もはや異常
は BIE 認定の博覧会としては、重大な欠陥であり、ル
事態としか言いようがないと思わざるを得なかった。
ール違反であると断じざるを得ない。
◆重要パビリオンを見逃すという大失敗
ここでひとつ余談ながら、次のような事実を紹介させ
ていただきたい。
帰路のアシアナ航空に搭載されていた機内誌をパ
ラパラと見ていると、《麗水博ベスト 12 パビリオン》とい
う記事が目に留まった。
誰がどのような基準で選んだかの詮索はさて置くと
して、筆者が観たパビリオンは、何とそのうちのたった
3 館しかなく、3 勝 9 敗という結果だったことに、愕然と
せざるをえなかった。
観覧期間を、一般の人なら決して考えないほどゆ
ったりと余裕を見た、延べ 3 日間(実質でもまる 2 日以
上)と設定し、しかも 1990 年代後半からの BIE 認定博
覧会はすべて観てきた、いわば博覧会観覧の超ベテ
ランを自認する筆者においてさえ、この「体たらく」と
いう結果に、大いにショックを受けた次第であった。
事前の準備がもう少し出来ていれば、決してこんな
◆さすが韓国は、IT 先進国
実は、この疑問に対する回答らしきものが、おぼろ
げながら感じられたのは、会場に入場すると、最初に
目の前に登場する「エキスポ・デジタル・ギャラリー」
を観てからのことである。
これは、会場内のメイン通路に設置された、長さ数
すなわちこの博覧会では、来場者はスマートフォン
百メートルにも及ぼうかという巨大なアーケードで、そ
など携帯端末経由で、好きな時には、何時でも、何処
の天井一杯に LED スクリーンを張り詰められており、
からでも、情報にアクセスすることができるという、いわ
鮮明な画像が千変万化するという装置である。
ゆる「ユビキタス」の考え方を極めて強く意識していた
これ自体は、すでに以前から米国のラスベガスにも
のである。
設置され、同市街の中でも人気のスポットになってい
るので、殊更に、新しいとはいえないものである。
しかし、韓国人のガイドさんの説明により、はじめて
この仕掛けのユニークさを理解することが出来た。
すなわち、天井を泳ぐ《夢のクジラ》に自分の顔写
真を貼り付けることが出来のである。
このハンドブックによると、スマートフォンに博覧会
専用のアプリをダウンロードすることによって、麗水博
覧会の一般情報をはじめ、観覧案内、展示情報、観
光情報に至るまで様々な情報が入手出来るようにな
っているという。
◆IT による情報発信が、基本姿勢
特にこのアプリケーションには万博の楽しみ方、サ
ービス施設情報、運営支援ツールなど、多様なサー
ビスが組み込まれており、万博会場に到着するとすぐ
にモバイル端末を使って、万博をより便利に楽しむこ
とが出来るようになっているという。
あわせて外国人のためには、スマートフォンや万博
専用アプリケーションを使った「双方向音声通訳・翻
訳サービス」を提供し、またパビリオンおよび展示に
関する音声コンテンツを制作し、音声ガイドサービス
スマートフォンにこの仕掛け専用のアプリをダウン
ロードして、スマフォで自分撮りした写真を、コントロ
ールセンターにアップロードするのである。
そうすれば、しばらくするとその写真を貼り付けたク
ジラが、天井を泳いでくるという段取りになっている。
しかし実は、クジラには大勢の写真をコラージュし
(韓・中・日・英・仏の 5 ヶ国語》を提供することで、来
場者に正確な情報を伝えるようになっているという。
さらには、スマートフォンを使って、先に述べたデジ
タル・アート・ギャラリーのクジラへのアプローチのほ
か、特定パビリオンへの入場予約サービスも利用でき
るようになっている。
てあるので、自分のものを確認するのはいささか難し
いという難点はあるものの、さすがに IT 先進国の韓国
ならではのアイディアである。
また会場内には、85 台の「メディアキオスク」と呼ば
れる端末機が設置されており、これを利用することに
より、文化イベント情報、万博会場情報、観覧コース
◆ユビキタスという考え方を、博覧会に導入
実は、これも帰国後に入手した麗水博組織委員会
発行の「麗水万博ハンドブック」によると、《この博覧
会の特徴を大きく分けると『エコ、文化、ユビキタス、
デザイン』の 4 つになります》とあった。
情報、展示館予約、サイバー博覧会、参加型サービ
ス、周辺地域情報、交通情報の案内など、様々な案
内サービスを提供しているという。
要するに、IT 先進国の韓国で開催される博覧会な
ので、情報提供の在り方も IT が中心になっていたの
である
◆偶然が重なって、知ることが出来たこの事実
◆IT プロだが、コミュニケーションプロではなかった
しかし、実際の話、最初にこの基本姿勢について
そこであらためて、「2012 年麗水国際博覧会公式ホ
気付いたのは、会場内でガイドさんから、クジラに自
ームページ」なるものを見てみると、これがなかなかの
分の写真を貼り付けることが出来る、という話を聞いた
力作であり、ちょっと褒め過ぎになるかもしれないが、
時点である。しかも、何となくぼんやりと、頭の片隅に
至れり尽くせりのシロモノである。
意識したというのが、現実である。
この博覧会の特徴の一つは『ユビキタス』であり、従
偶然にも、ガイドさんが話してくれたから、気づくこ
って IT による情報発信が基本になっているという事
とが出来たのであるが、もし彼女が、きわめて事務的
実の周知徹底には、もっと然るべき手段・方法が模索
なアテンドに終始していたら、この発見はなかったと
されるべきであったと言わざるを得ない。
いうことになる。
その後も、何となくこのことが頭に残っていたわけ
であるが、この基本姿勢について確信するに立ち至
ったのも、偶然のおかげである。
誰かにアクセスされてはじめて成立する、いわゆる
「待ちのメディア」である IT のみでは、この周知徹底
は絶対に不可能なのだ。
自ら積極的・能動的に働きかけていくことが出来る、
「押しかけメディア」である、旧メディアとの協力が不可
帰国後に、旅行代理店の担当者が挨拶に訪ねて
来て、「こんなものが手に入りましたが、今になって差
し上げても、あまり意味無いですよね!」という言葉と
ともに渡してくれた、先述の「麗水博ハンドブック」を、
詳しく読んでみてからの話である。
従って、筆者もスマートフォンを持参してはいたもの
の、終始カバンの中に納まったままだったというのが
欠なはずである。
博覧会の広報担当者は、この事実を認識していな
かったのではないだろうか。
言い換えるならば、彼らは IT メディアのプロではあ
っても、コミュニケーションのプロではなかった、という
ことであろう。
IT という先進技術を過信するあまり、《樹を見て、森
現実で、まさに《あとの祭り》を、絵にかいたような結果
を見ず》という落し穴にはまり込んでしまったというの
になった次第である。
が、本当のところではないだろうか
折角、主催者が用意してくれた便益・利便性を享
受する機会を、みすみす逸してしまったのである。
◆万国博史に、新たなページを画するはずが・・・・・
確かに、《ユビキタス》という考え方を国際博覧会に
結びつけるというのは、1851 年のロンドン万博以来の
万国博覧会の歴史の上でも最初、といえるまさに輝
かしくも、画期的な挑戦といえるだろう。
しかし、この素晴らしいアイデイァに、自ら酔ってし
まった結果、本来あるべき博覧会としての、コミュニケ
ーション・プログラムの全体像を見失ってしまったので
はないだろうか?
しかも、このコミュニケーション戦略の間違いが、博
覧会全体のクォリティや出来栄えに、大きく影響する
ことは、決して避けられないところだろう。
おそらく当事者たちは、これで万博の歴史に輝かし
い1ページを飾ることが出来ると確信していたかも知
おそらく韓国国内においても、コミュニケーション戦
れないが、果たして彼らの期待通りに事は運ぶのだ
略のまずさから、博覧会開催の事実と、その内容や
ろうか。
楽しさが十分に伝え切れていない結果、ワクワク感が
醸成出来ていない、というところに起因するものと推
21 世紀の博覧会の新しい方向性を示唆したとして、
測する。
金字塔の名誉を授与されるのか、または自国だけの
どんなに素晴らしい内容のイベントを準備しても、
事情から発想した、独りよがりな《ドンキホーテ的な挑
《それを知らない人に、来場を期待することはできな
戦》として、記憶されることになるのだろうか?率直に
い》という、イベント人なら誰もが一度は、味わってい
言って、筆者は後者の方が可能性は高いと思う。
る苦汁を、彼らは今、断腸の思いで飲んでいるので
はないだろうか
◆暗雲が見え始めている 麗水博覧会
もちろん、その評価や成否は会期終了を待って、
判断されるべきものではあるが、筆者が陥った悲劇や、
風の噂で伝わってくる出来事から推測して、どうも否
定的にならざるを得ない。
自慢の、インタネットやスマートフォン経由での、特
定展示館への入場予約制度は、現場での暴力沙汰
に及ぶ混乱が見られたことから、5 月 28 日(月)から
6 月 23 日(土)までの受付を中止せざるを得なかった。
会期の約 3 割に及ぶ期間に、この処置を取らざる
を得なかったということは、どう見ても IT 予約というア
イディアとその内容が、博覧会運営という現実に馴染
まなかったという誤算に外ならない。
また、来場者の動員が予定をかなり下回っており、
6 月 21 日(木)から全期間有効入場券(通期パス)と、
夜間入場券を半額に値下げしたという。
さらに政府機関の防衛事業庁が、傘下の防衛事業
者に対し、軍兵士の博覧会見学を促進するためにと
いう名目で、入場券の大量購入を『要請』したという。
確かに、筆者が見た 6 月の初めは、オープン時の
ダッシュが一段落するタイミングであったとはいえ、週
末であったにもかかわらず、何か今一つ盛り上がりに
欠けるような印象を抱かざるを得なかった。
以上
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