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長野県環境保全研究所研究報告 7:75―78(2011)
<報 告>
千曲川下流域における 2009 年の魚類採集記録
北野 聡 1・田崎伸一 2,3・美馬純一 2,4・柳生将之 2,5
古賀和人 2,6・山形哲也 2,7・小林 収 2,8・小西 繭 2,9
長野県の生物多様性基礎調査の一環として千曲川下流域における魚類の分布状況を調査した. アブラハヤや
ウグイ等の在来コイ科魚類が主体であったが, 国内外来種ギギや国外外来種のコクチバスなども確認された.
キーワード:ハイマツ, 千曲川, 本流, 飯山市, 栄村, 魚類相
1.はじめに
る. そこで我々は生物分布の基礎情報を蓄積する目
的で, 千曲川下流域の魚類に関する調査を行ったの
でここに報告する.
長 野 県 内 を 流 れ る 千 曲 川 で は,2007 年 に ウ ケ ク
チ ウ グ イ の 成 魚 が 16 年 ぶ り に 確 認 さ れ
た 2010 年 に は サ ケ が 上 田 市 ま で 遡 上
5)
1) ~ 4)
,ま
す る な ど,
2.調査地および方法
最近になって生物相復活の兆しが話題になってい
る. しかしながら河川規模の大きな河川下流域では
調 査 は 2009 年 の 5 月 か ら 9 月 に か け て 高 水 漁 業
一般に詳細な調査が困難であり, 生息空間の大きさ
協同組合管内の千曲川下流部において行った (図1
に比して魚類を含め生物情報が少ないのが実態であ
及び表1). 調査地点の概要は以下の通りである.
天水山
野々見池
▲
津南に至る
B
A
▲
鍋倉山
C
栄村
D
関田山脈
千
曲
川
▲ 毛無山
野沢温泉村
E
F
▲
樽川
鳥甲山
飯山市
G
高社山
▲
図1 北野ほか
図1 調査地点の地図.図中の A ~ G は調査地点の位置を示す.
1 長野県環境保全研究所 自然環境部 〒 381-0075 長野市北郷 2054-120
2 信州水生生物研究会(代表者 山形哲也)
3 (有)エコシス 〒 388-8014 長野市篠ノ井塩崎 6770-3
4 (株)環境アセスメントセンター 〒 390-1701 松本市梓川倭 3708-1
5 天竜川総合学習館かわらんべ 〒 399-2431 長野県飯田市川路 7674 番地
6 長野市立戸隠地質化石博物館 〒 381-4101 長野市戸隠栃原 3400
7 三水第二小学校 〒 389-1203 上水内郡飯綱町大字赤塩 2489
8 長野西高等学校 〒 380-8530 長野市箱清水 3-8-5
9 信州大学理学部生物科学科 〒 390-8621 長野県松本市旭 3-1-1
75
Bull.Nagano Environ.Conserv.Res.Inst.No.7(2011)
表1 2009 年度の採捕調査結果(日付順)
日 時
調 査 場 所
方 法
魚種・数量(全長 cm)
5/15
13 時頃
千曲川本流・東大滝
橋下(地点 B)
投 網, 刺 網,
置針,電気漁
具,タモ網
コイ 2(50cm<)
ギギ 2(19-28cm)
ニゴイ 3(9-20cm)
カマツカ 1(16cm)
ウグイ 28(7-21cm)
アブラハヤ 1(11cm)
カジカ 4(7-13cm)
ニッコウイワナ 1(25cm)
ニジマス 1(20cm<)
水温 14.0℃
5/15
17 時頃
千曲川本流・栄橋下
(地点 A)
投網,置針
ニゴイ 1(45cm)
ギギ 1(25cm)
水温未測定
5/15
18 時頃
千曲川本流・下境(地
点 D)
投 網, 刺 網,
置針
ニゴイ 1(51cm)
ギギ 1(28cm)
水温 13.4℃
5/16
12 時頃
樽川・下流部(地点 E)
投網,タモ網
アブラハヤ 145(4-11cm)
ギンブナ 2(6cm)
ウグイ 2(5-6cm)
トウヨシノボリ 1(6cm)
オイカワ 1(4cm)
ドジョウ 10(5-14cm)
カマツカ 1(8cm)
ニジマス 1(41cm)
水温未測定
6/3
17 時頃
千曲川本流・東大滝
橋下(地点 B)
置針
ギギ 2(28-30cm)
水温 18.0℃
6/3
19 時頃
千曲川本流・出川河
口(地点 C)
置針
ギギ 3(17-33cm)
水温 17.0℃
8/31
11 時頃
千曲川本流・東大滝
橋下(地点 B)
投網,置針
ニゴイ 1(61cm)
ギギ 1(31cm)
水温 21.2℃
9/1
9 時頃
千曲川本流・東大滝
橋下(地点 B)
投網
ニゴイ 1(55cm)
水温 20.5℃
9/1
15 時頃
千曲川本流・飯山中
央橋付近(地点 F)
タモ網
オイカワ 20(3-6cm)
ニゴイ 1(4cm)
アブラハヤ 10(3-4cm)
本流左岸浅瀬の稚魚
群集,水温未測定
9/17
14 時頃
千曲川本流・東大滝
橋下(地点 B)
置針
漁獲なし(西大滝ダム操作で
減水中)
水温 19.4℃
9/17
18 時頃
千曲川本流・古牧橋
ワンド(地点 G)
置針
ギギ 1(28cm)
ナマズ 1(40cm)
コクチバス 1(35cm)
水温 19.7℃
9/18
10 時頃
千曲川本流・東大滝
橋下(地点 B)
投網
コクチバス 2(32-40cm)ニ
ゴイ 1(20cm)
水温 19.1℃
地点 A:国道 117 号の宮野原橋付近、 支流志久見
備 考
川底は礫~人頭大の石が優占.
川 の 合 流 地 点 付 近. 川 幅 は 10m 以 上 で, 大 型 の ト
地 点 E: 支 流 樽 川 の 下 流 域. 千 曲 川 合 流 地 点 よ り
ロ場, 淵が形成されている.
も約 500m 上流. 平瀬で底質は砂が優占.
地 点 B: 西 大 滝 ダ ム の 500 ~ 1,000m 下 流, 国 道
地 点 F: 飯 山 市 役 所 の そ ば, 中 央 橋 の 約 500m 上
117 号線東大滝橋直下付近.川幅は 10 ~ 30m 程度
流の左岸浅瀬. 川幅は 50m 以上で泥底.
で川底は直径数十 cm ~ 2 mを越える巨礫で構成さ
地 点 G: 古 牧 橋 の 直 上 で 川 幅 は 50m 以 上. 本 流
れる. 早瀬や淵が連続する区間. また, 右岸から川
の湾曲部でトロ場. 直径1mを越える巨礫やテトラ
幅 1m ほどの小支流が流れ込んでいる.
ポッドがある.
地点 C:支流の出川が流れ込む左岸地点. 川幅は
調 査 漁 具 と し て は, 投 網 ( 目 合 い 2 ~ 4cm), 刺
30m 以上. 直径 1m を越える巨礫があり,流れの緩
網 ( 網 丈 2m, 長 さ 8m, 目 合 5cm), 置 針 (5 ~
い淵が形成されている地点.
10m の 幹 糸 に ミ ミ ズ 餌 の 3 本 針 仕 掛 け), 電 気 漁 具
地点 D:下境地籍の採石場脇. 千曲川本流が大き
( ス ミ ス ル ー ト 社 製,LR-24), タ モ 網 ( 目 合 3mm)
く 左 に 蛇 行 す る カ ー ブ の 内 側. 川 幅 は 50m 以 上.
を併用し, できるだけ多くの魚種を捕獲するように
76
長野県環境保全研究所研究報告 7号(2011)
努めた. 採集された魚類は中坊
6)
に従って同定 し,
国勢調査
体サイズを計測した後に, もとの場所に放流した.
7)
で 1992 年 度,1996 年 度,2002 年 度,
2007 年 度 に, 西 大 滝 ダ ム 下 流 ( 今 回 の 調 査 地 点 B
に相当) 及び湯滝橋下流(今回の調査地点 D の約
3.結果と考察
1km 上 流 ) で 主 に 投 網 と タ モ 網 を 使 用 し た 漁 獲 結
果 が あ る (表 2). 調 査 方 法, 努 力 量 な ど に 違 い が
今 回 の 調 査 で 252 個 体 が 捕 獲 さ れ (表 1), 魚 種
あるために厳密な比較を行うことはできないが, ウ
と し て 10 科 15 種 が 確 認 さ れ た (表 2). 今 回 は 主
グイやオイカワなどのコイ科遊泳魚が優占種になっ
に全長 20cm を越える比較的大型個体の確認事例が
ていること, ナマズ, ドジョウ, ニッコウイワナ等
多かったが, これは調査方法として目合いの大きな
が確認されていることなど, 在来魚類の生息状況に
投網や刺網, 置針等が主に使用されたためと考えら
目立った変化は認められない. 一方, 外来魚につい
れる. また, 上流から下流までニゴイやギギが捕獲
て は, 遊 漁 用 に 放 流 さ れ て い る ニ ジ マ ス は 別 と し
されており, 魚類相に関して地点による明瞭な差異
て, コクチバスが 2000 年代後半から捕獲されるよ
は認められなかった. 個体数でもっとも多かったの
うになっており, 河川でも増加している様子がうか
は ア ブ ラ ハ ヤ (58%), 次 い で ウ グ イ (12%), オ イ
がえる. 高水漁業協同組合としては近年ブラックバ
カワ(8%),ギギ(4%),ドジョウ(4%)の順であった.
ス 類 駆 除 に 取 り 組 ん で お り,2009 年 8 月 23 日 に
そ れ 以 外 の 魚 種 は 10 個 体 ( 構 成 割 合 で 4%) 未 満
も古牧橋付近 (今回の調査地点 G) で駆除釣り大会
で あ っ た が (表 2), そ れ ら の 中 に は 国 外 外 来 種 の
を 行 い,91 尾 の コ ク チ バ ス を 駆 除 し た と い う ( 高
ニジマスやコクチバスも確認された.
水 漁 業 協 同 組 合 伊 東 組 合 長, 私 信). 調 査 期 間 中 に
は, 古牧橋をはじめ, 千曲川本流でルアー釣りを行
近年のまとまった調査資料としては, 河川水辺の
表2 1992 年~ 2007 年度の河川水辺の国勢調査結果 7)と今回調査との比較.
科名及び種名
コイ科
コイ
ギンブナ
キンブナ
ゲンゴロウブナ
ナガブナ
オイカワ
アブラハヤ
ウケクチウグイ
ウグイ
モツゴ
ビワヒガイ
タモロコ
カマツカ
ニゴイ
ドジョウ科
ドジョウ
シマドジョウ
ホトケドジョウ
ギギ科
ギギ
ナマズ科
ナマズ
アユ科
アユ
サケ科
ニジマス
ニッコウイワナ
メダカ科
メダカ
サンフィッシュ科
コクチバス
ハゼ科
トウヨシノボリ
カジカ科
カジカ
個体数合計
72
種数合計
11
*1:個体数については不明
1992
年度
1996
年度 *1
2002
年度
5
1
5
3
○
3
○
○
57
2
41
3
2
1
6
5
○
○
80
○
○
1
11
1
2
○
不明
8
165
10
77
6
1
2007
年度
1
1
1
268
1
311
88
5
314
85
3
3
1
1
1
1
1
4
4
1093
18
252
15
2009 年度
今回調査
2(1%)
2(1%)
21(8%)
145(58%)
30(12%)
1(0%)
9(3%)
10(4%)
11(4%)
1(0%)
2(1%)
1(0%)
3(1%)
1(0%)
4(2%)
Bull.Nagano Environ.Conserv.Res.Inst.No.7(2011)
う遊漁者をしばしば見かけたことからも, 千曲川下
謝 辞
流域にコクチバスが増加しているのはほぼ間違いな
い. 千曲川下流域での増加は, 県下の生物多様性の
武田雅宏氏, 鶴田哲也博士, 安房田智司博士には
みならず, 下流域の新潟県にも影響を及ぼすことが
捕獲作業に協力をいただいた. また高水漁業協同組
予想されるため, 引き続き駆除活動と個体群の動向
合には調査に関する同意と助言をいただいた. ここ
掌握が必要である.
に記して感謝申し上げる.
今 回 の 調 査で は,2007 年 に千 曲 川 下 流 域で 複 数
回 確 認された希 少 魚ウケクチウグイ( 長 野 県 絶 滅 危
惧 IA 類) の 捕 獲 はできな かった. 本 種 はもともと個
文 献
2)
体 数 が 少 な い 魚 種と考 えられるため , 今 後も釣り
人 や 漁 業 協 同 組 合を通じて情 報を 収 集 することが 必
1)上 原 武 則 (1997) 生 き 残 っ て い た 幻 の 魚 ウ ケ
要であろう.また,2007 年 の 調 査で確 認されたアユ
クチウグイ.
「 信州の希少生物と絶滅危惧種」
(長
につ いては, 今 回も東 大 滝の礫に食 み 跡 が 確 認され
野 県 自 然 教 育 研 究 会 編 ),pp23-25. 信 濃 毎 日 新
た(著者の観察による). 長野県レッドデータブック
2)
聞社. 長野.
2)長 野 県 (2004) 長 野 県 レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク 動
では 野 生 絶 滅とされているが, 近 年 千 曲 川 下 流 部 の
物編 , 319pp. 長野.
遡上環境は発電ダムの放水量の増加に伴い改善方向
にあり,これらのなかに天然遡上の個体がいないかど
3)長野市民新聞, 2007 年5月 10 日付
うかを含め検証することが求められる.
4) 信濃毎日新聞朝刊,2007 年5月 10 日付
5) 信濃毎日新聞朝刊,2010 年 10 月 21 日付
また、 かつては琵琶湖固有亜種ビワヒガイの記録
があるように
7)
6)中 坊 徹 次 編 (2000)「日 本 産 魚 類 検 索 全 種 の 同
, 今回複数地点で確認されたギギも
琵琶湖由来とみなして良いだろう
8)
定 (第二版)」.1748pp, 東海大学出版会,東京.
. このような国
7)長 野 県 飯 山 建 設 事 務 所 (2008) 県 単・ 河 川 調
内外来種の現状についても今後遺伝子解析等の手法
査業務に伴う調査業務委託 (一) 千曲川飯山市
も併用しモニタリングを行う必要がある.
西大滝ダム他1報告書.
8)川 那 部 浩 哉・ 水 野 信 彦 ( 編 )(1989)「 日 本 の
淡水魚」,719pp, 山と渓谷社, 東京.
Records of freshwater fish of the Chikuma river in 2009
Satoshi KITANO1, Shin-ichi TASAKI2,3, Jun-ichi MIMA2,4, Masayuki YAGYU2,5, Kazuto KOGA2,6, Tetsuya YAMAGATA2,7,
Osamu KOBAYASHI2,8 and Mayu KONISHI2,9
1 Nagano Environmental Conservation Research Institute, Natural Environment Division,
2054-120 Kitago, Nagano 381-0075, Japan
2 Research group for aquatic organisms in Nagano Prefecture
3 Ecosys Ltd, Shiozaki 6770-3, Shinonoi, Nagano 388-8014, Japan
4 Environmental Assessment Company Co’Ltd, Yamato 3708-1, Azusagawa, Matsumoto 390-1701, Japan
5 Environmental Educational Institute for the Tenryuu River, Kawaji 7674, Iida 399-2431, Japan
6 Togakushi Museum of Natural History, Tochihara, Togakushi, Nagano 381-4101, Japan
7 Samizu II Elementary School, Akashio 2489, Iizuna Town, Kamininochi 389-1203, Japan
8 Nagano Nishi High School, Hokoshimizu 3-8-5, Nagano 380-8530, Japan
9 Graduate School of Science and Technology, Shinshu University, Asahi 3-1-1, Matsumoto 390-8621, Japan
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