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新たな収益認識基準の概要第4回 ステップ4

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新たな収益認識基準の概要第4回 ステップ4
IFRS実務講座
新たな収益認識基準の概要
第4 回
ステップ4:取引価格の履行義務への配分
IFRSデスク 公認会計士 岡部健介
• Kensuke Okabe
当法人入所後、公開業務部にて株式公開準備会社に対するIPO支援業務、J-SOX導入支援等に携わる。2011年よりIFRSデスクにて、
IFRS導入支援、IFRS関連の研修講師や執筆活動などに携わっている。主な著書(共著)に『IFRS国際会計の実務 International GAAP
2013』(レクシスネクシス・ジャパン)、『IFRS 国際会計基準 表示・開示の実務』(清文社)がある。
Ⅰ はじめに
格です。しかし、多くの場合は客観的な独立販売価格
の入手は困難であるため、企業は独立販売価格を見積
収益認識新基準に関する本実務講座の第4回は、
「ス
もる必要があります。なお、独立販売価格の見積りは
テップ4:取引価格の履行義務への配分」についてで
契約の開始時点で行い、それから履行が完了するまで
す。なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見で
の間に変動が生じても、取引価格の再配分はしません。
あることをお断りします。
2. 独立販売価格の見積り方法
独立販売価格の見積り方法として、IFRS第15号で
Ⅱ ステップ4:取引価格の履行義務への配分
は<表1>の三つの方法が例示されています。
なお、残余アプローチを用いることができるのは、
ステップ3までで、履行義務を識別し、取引価格が
算定されています。次のステップ4では、取引価格を
各履行義務に配分することが求められます。
1. 独立販売価格の見積り
取引価格の配分は通常、各履行義務の独立販売価格
の比率に応じて行われます。独立販売価格とは、企業
が約束した財又はサービスを単独で販売する場合の価
次のいずれかを満たす場合に限られます。
• 企業が同じ財又はサービスを(同時又はほぼ同時に)
異なる顧客に対して多様な金額で販売している(す
なわち、代表的な独立販売価格を過去の取引又はそ
の他の客観的な証拠から得られないため、独立販売
価格の変動性が非常に高い)
• 企業が当該財又はサービスの価格をいまだ設定して
おらず、当該財又はサービスはこれまでに単独で販
▶表1 独立販売価格の見積り方法
調整後市場評価アプローチ
予想コストにマージンを加算
するアプローチ
残余アプローチ
財又はサービスを販売する市場を評価し、その市場の顧客が当該財又はサービスに対して支払うであ
ろう価格を見積もる。競合他社の類似する財又はサービスの価格を参照し、必要に応じて企業の原価
とマージンを反映するように価格を調整する方法も含まれる
履行義務の充足に要するコストを予測し、当該財又はサービスに関する適切なマージンを加算する
取引価格の総額から、契約で約定した他の財又はサービスの客観的な独立販売価格の合計を控除した
金額を参照して独立販売価格を見積もる
10 情報センサー Vol.104 May 2015
売されたことがない(すなわち、独立販売価格が不
確定である)
(2)値引きの配分
もう一つの例外規定は値引きの配分です。次の要件
を全て満たす場合、値引き全体を特定の履行義務(全
てではない1つまたは複数の履行義務)に配分する必
• 設例 残余アプローチ
要があります。
ある企業が、ハードウエア、ソフトウエア及び保守サー
ビスを一括して250百万円で販売する契約を締結します。
これらの財及びサービスはいずれも独立した履行義務です。
同社はしばしば保守サービスを単独で販売しており、取
引実績に基づき独立販売価格を40百万円と見積もりました。
ハードウエアを単独で販売することはほとんどないため、
ハードウエアの基礎となるコスト、市場で受け入れられる
であろうマージンを加味し、ハードウエアの独立販売価格
を185百万円と見積もりました。
ソフトウエアは一度も単独で販売したことがなく、また、
当該ソフトウエアはさまざまな契約に含まれているが、そ
の価格は15百万円から125百万円の価格が付されています。
各履行義務と独立販売価格は<表2>の通りです。
なお、ソフトウエアについては、これまで単独で販売し
たことがなく、独立販売価格の変動性が高いため、残余ア
プローチが適切であると判断しています。
▶表2 各履行義務と独立販売価格
独立販売価格
見積方法
ハードウエア
185
予想コストにマージンを
加算するアプローチ
保守サービス
40
客観的な独立販売価格を
入手可能
ソフトウエア
25*
残余アプローチ
250
• 企業が経常的に契約に含まれる区別できる財又は
サービスのそれぞれを単独で販売している
• 企業はまた、経常的にそれら区別できる財又はサー
ビスをまとめたセット(又は複数のセット)を値引
き価格で販売している
• 上記のセットに帰属する値引きが、契約における値
引きとほぼ同額であり、各セットに含まれる財又は
サービスを分析することで、契約に含まれる値引き
全体が特定の履行義務に帰属するという客観的な証
拠が得られる
• 設例
ある企業がテレビ、スピーカー及びテレビ台を一括で
1,300千円で販売する契約を顧客と締結します。
テレビとスピーカーは同時に引き渡されます。
企業は普段からテレビを1,000千円、スピーカーを200
千円、テレビ台を300千円で個別に販売しています。
同社はテレビとスピーカーを1,000千円で普段からセッ
ト販売しています。
この例では、テレビとスピーカーは普段から200千円
を値引いた価格でセット販売されており、この値引き額は
当該契約全体の値引き額と同一です。そのため、値引き額
200千円はテレビとスピーカーのセットに配分されます。
* 契約対価合計250百万−ハードウエア及び保守サービスの独立販
売価格合計(185百万+40百万)
Ⅲ おわりに
3. 取引価格の配分の例外
相対的な独立販売価格に基づく取引価格の配分につ
いては、次の二つの例外規定が設けられています。
日本基準も現行のIFRSも、複数要素契約に関して、
取引価格の配分方法を明確には定めていないため、独
立販売価格を見積もるために現行実務に変更が必要と
(1)変動対価の配分
なる可能性があります。特に客観的な市場価格がない
最初の例外規定は変動対価の配分に係るものです。
場合には、経理財務部以外の部署の関与が必要になる
以下の要件の双方を満たす場合、変動対価の全体を、
ケースも想定されます。また、独立販売価格の計算に
契約に含まれる特定の履行義務(全てではない一つま
用いた、根拠の合理性を示すための適切な文書化も重
たは複数の履行義務)に配分する必要があります。
要となる点には、留意が必要でしょう。
• 変動対価の支払条件が、履行義務を充足するための
企業の努力と個別に関連している
• 変動対価の全額を特定の履行義務に配分することが、
対価の配分の目的※に合致する
※ 企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に、権利を得ると見込んでいる対価の金額を描写する金額で取
引価格を配分すること
情報センサー Vol.104 May 2015 11
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