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デリバティブ取引被害の検証 デリバティブ取引被害の検証

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デリバティブ取引被害の検証 デリバティブ取引被害の検証
2011.05.09/06.02
JSK 事業再生研究会 杉田利雄
デリバティブ取引被害の検証
このレポートは、JSK 事業再生研究会々員からの問い合わせ「デリバティブ取引の被害と対応について」を受け、JSK 事業再生研
究会事務局が新聞報道などに基づいて、JSK 会員向けに作成したものです。レポートの利用は、JSK 会員に留め於いていただ
き、また質問等は JSK 事務局にいただくか若しくは文中の報道機関等に各自個人として行っていただくようお願いいたします。
目次
1. デリバティブ取引とは
2. 為替デリバティブに係る報道
3. デリバティブ取引による過大損失の事例
4. デリバティブ取引の判例
5. 為替デリバティブ取引(通貨オプション取引商品)の基礎知識
6. いわゆる、為替デリバティブ取引被害に遭っている中小企業の救済
1.
デリバティブ取引とは
デリバティブとは、伝統的な金融取引(借入、預金、債券売買、外国為替、株式売買等)や実物商品・債権取引の相場変動
によるリスクを回避するために開発された金融商品の総称です。金融派生商品ともいいます。
デリバティブ取引は、通貨や株式、債券などの現物商品の取引ではなく、変動する商品の価格を主な取引の対象とします。
デリバティブ取引には、変動を予測する先物取引や、変動金利と固定金利を交換する金利スワップ取引、株式や債券を定
められた期日に一定価格で売買する「権利」を売買するオプション取引などがあります。
少ない原資で多額の取引ができるため、見通しを誤ると巨額損失を被る危険性を内在しています。
(ア) 為替デリバティブとは
為替デリバティブは、円と外貨との交換レートが変動した場合の影響を回避するため、あらかじめ一定の金額で円売
り・ドル買いや、逆に円買い・ドル売りの権利を売買する「通貨オプション」などの金融派生商品の総称です。大企業
や銀行など「プロ」の間で取引されていましたが、銀行が収益改善を目的として、04~05年ごろから中小企業への販
売に力を入れたとされています。長期契約が多く、企業側からの中途解約には多額の違約金が発生するという問題
が顕在化しています。
(イ) デリバティブ取引の効用
デリバティブ取引は、比較的小さな金額で仮想的に大きな原資産を取引するので、リスクヘッジに用いられます。ここ
数年、様々な原因で原材料の価格が大きく変動し、生産者や加工業者の経営を困難にしています。
例えば、鉄鋼や原油の値上がりです。2005 年の年初から年末にかけて原油の円建て価格は倍近くに値上がりしまし
た。航空業界など燃料を多く消費する企業の調達コストは急上昇しています。
こうした物資や金融資産などの価格変動を相殺(ヘッジ)する手段として用いられるのが「デリバディブ取引」です。
(ウ) デリバティブ取引の特徴
デリバティブ取引は、債券や証券、実物商品や諸権利などの取扱いをおこなう当業者が、実物の将来にわたる価格
変動を回避(ヘッジ)するためにおこなう契約の一種です。
例えば、原資産の一定%を証拠金として供託することで、一定幅の価格変動リスクを、他の当業者や当業者以外の市
場参加者に譲渡する保険(リスクヘッジ)契約の一種といえます。
デリバティブの利用目的には「リスクヘッジ」の他、「スペキュレーション(投機)」「アービトラージ(裁定取引)」がありま
す。
(エ) デリバティブ取引の問題
デリバティブはレバレッジ効果を有するため、たびたび投機的な運用資産として、多額の損失を生じることがあります。
英国のベアリングス銀行や米国のカリフォルニア州・オレンジ郡など、運用セクションによるデリバティブの運用の失
敗により、企業や地方自治体の存続を揺るがす経済事件が後を絶たない。
銀行業の場合は、BIS 規制や金融検査マニュアル等で、そのデリバティブの運用に対する体制整備が求められてい
るようです。
(オ) デリバティブ取引の危険性
デリバティブ取引は事業上のリスヘッジとして開発されていますが、財テクや投機を目的としてデリバディブ取引を行
〒160-0004 東京都新宿区四谷 3-13-20 四谷 YS ビル 2 階 株式会社 エム・エム・プラン BFL 経営財務研究所
Tel:03-5367-1558 Fax:03-5367-1668 URL:http://www.kaikei-web.co.jp e-mail: [email protected]
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うケースがあります。この場合、企業が多大な損失を被ることがあります。
このレポートで代表的な事例を紹介しますが、いずれも大企業のケースです。しかし、今日経済界で話題になってい
るのは、中小企業が行うデリバティブ取引です。しかも、デリバティブ取引を行う動機が「金融機関に薦められて・・」と
いうものがほとんどです。日頃取引している金融機関や、新規取引の目玉としてデリバティブを進める金融機関から
の勧めで「つい」、あるいは「しかなく」極めて危険な取引を開始した結果、多くの場合に倒産というきわめて悲惨な結
果を迎えています。
2.
為替デリバティブに係る報道
(ア) 倒産続出、金融庁、実態調査――毎日新聞 2010 年 12 月 14 日(火)7 時 39 分配信
大手銀行が中小企業に販売した「為替デリバティブ」と呼ばれる金融商品が、急激な円高によって多額の損失を発生
させ、倒産や経営危機に陥るケースが続出している。信用調査会社・帝国データバンクによると、デリバティブ損失は
円高関連倒産の3分の1以上にも上り、金融庁も実態調査を始めた。
為替デリバティブは、契約時点より円安になれば利益が出るが、円高だと多額の損失が発生する。1ドル=100円を
割る円高が定着した昨年以降、影響が顕在化。毎月数千万円の支払いを銀行から求められ、中途解約しようとすると
違約金が年間利益の数倍から10倍以上になることも珍しくないという。
帝国データバンクによると、11月末に発生した東京都内の水産物輸入販売会社の破綻は、為替デリバティブによる
損失が膨らみ、資金繰りに行き詰まったことが原因。デリバティブ損失による倒産は、昨年の全国の円高倒産35件中
13件(37・1%)、今年は38件中14件(36・8%)に上り、輸出不振など他の理由を大きく上回った。
銀行とトラブルになる例も目立ち、全国銀行協会が今年7~9月にあっせんした32件のうち22件がデリバティブ業務
に関するもの。「メーン銀行としての立場を利用していると思わせるような勧誘を行った」などの理由で銀行の責任を
認め、銀行が一部負担する形で解約するケースも目立っている。中京地区の卸売会社の場合、損失がかさんだため、
年間売上高約140億円に匹敵する違約金120億円について、銀行側が融資に応じることで和解した。
中小企業の為替デリバティブ問題に詳しい本杉明義弁護士(東京弁護士会)は「私の所だけで100社以上の相談が
ある。為替リスクヘッジの必要がない企業に販売するなど、収益優先の銀行の体質が問題だ」と指摘する。
金融庁は、全国の銀行に為替デリバティブ商品の販売件数・金額、中小企業向けの割合を報告するよう要請。リスク
の説明不足を含め、銀行の販売体制に問題があれば処分する方針だ。【山口透】
(イ) 中小企業の破綻増加は必至!銀行がはめた為替デリバティブの罪
-リバティブ取引の罪:週刊ダイヤモンド(平成 22 年 12 月 4 日号)より引用-
① 記事の要旨
みずほ銀行を中心として、大手銀行が売りまくった為替デリバティブ商品が、多くの中小企業を苦境に追いやっ
ています。円高の進行で多額の損失が表面化、倒産の危機に瀕しています。
②
銀行がデリバティブ取引を進める手口
「これからは間違いなく円安が続きますよ」
電子機器の輸入販売会社を経営する A さんが、メインバンクであるみずほ銀行の担当者から、こう言われたの
は 2006 年夏のことだった。円安になれば輸入価格は上がる。そのリスクを回避する手段として提案されたのが
「通貨オプション」という、聞きなれない商品だった。
A さんは金融取引の知識がほとんどなく、商品の説明は難しい用語ばかりで理解できなかったが、とにかく円安
の恐怖ばかりを植えつけられた。そして、銀行に言われるがままに契約を結んだ。
ところが、08 年 9 月のリーマンショックを境に状況は急変する。円高が進むなか、銀行からは毎月 200 万~300
万円の支払いを求められ、約 6 年分の営業利益がわずか 1 年で吹き飛んだ。契約期間は 5 年。みずほに解約
を頼んだものの、違約金として約 7000 万円が必要と言われ諦めた。
③
この金融商品には落とし穴があった
通貨オプションとは、為替デリバティブ商品の一種で、あらかじめ決めた価格で外貨を売買する権利のこと。こ
れを売買することで為替の変動リスクを回避できる。
契約後、銀行へ支払う手数料は大半の場合、無料だ。それどころか時には利益を得ることもできる。だが、うまい
話には裏がある。実勢レートが 1 ドル=80 円と、行使価格を割り込んだときはどうか。X 社は毎月 600 万円もの
損失を被る契約になっている。
詳しい説明は省略するが、X 社は「銀行から 10 万ドル買う権利」を取得する見返りに、「X 社に 30 万ドルを売る
権利」を銀行へ渡しているのである。本来、X 社は円高になれば権利を行使せず、市場で売買することで円高
のメリットを受けられる。ところが実際には、メリットどころか、多額の損失を被るハイリスク商品だ。
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④
みずほの取組
みずほによれば、通貨オプションの販売のピークは 04~05 年頃。07 年以降は円高が進んだことで販売件数は
減少し、特に 08 年秋のリーマンショック以降は大幅に減ったという。
本誌の取材で判明した販売件数は、07 年に 3113 件、08 年に 1674 件。販売件数が減少した時期でもこれだけ
の量を売りまくったのだから、累計では数万件以上に達していたと推測できる。そのほとんどが1 ドル=100円台
の契約と見られるため、中小企業の経営に与える影響はそうとうだろう。
契約時に説明義務を十分に行っていないケースも多い。経営者たちから聞こえてくるのは、「円高になるとリスク
が急増するなんて説明されてない」「解約時に多額の違約金が発生するなんて聞いていない」などの怒りの声
である。
みずほは「商品を理解できない人には売っていない」と主張するが、前述のような経営者の声が小さくないのは
事実である。
通貨オプションのトラブルは、みずほのケースが目立つものの、他行とて販売の実態は同じようだ。契約企業の
多くは本業が黒字の企業だ。
だが、リーマンショック以降の景気低迷と円高の進行により、通貨オプションが原因の倒産が増え始めている。
金融庁は今年4月、金融商品の契約などにかかわる監督指針を見直したが、遅きに失したと言わざるをえない。
通貨オプションで苦境に喘いでいるのはいずれも過去に契約した企業だ。早急に、実態調査と対応に乗り出さ
なければ、今後、経営破綻が急増する可能性は高い。
3.
デリバティブ取引による過大損失の事例
(ア) 1000 億円を超える損失
有名な事例では、1997 年に住友商事が 2852 億円、98 年にヤクルトが 1057 億円の特別損失を計上したなどがありま
す。特に住友商事の件は、取引担当者が取引内容を隠ぺいして不正に取引を行った末の損失計上であり、多くの経
営者にショックを与えました。
(イ) 航空業界の事例
化石燃料を多く消費する航空業界では、原油先物で燃料費高騰をヘッジします。しかし、どの程度のヘッジ取引をす
るかは、それぞれ経営判断次第ということになります。
全日空は 2005 年度の調達分の 8 割超をデリバディブ取引で行い、設定原油価格を 1 バレル当たり 57 ドルとした。使
用燃料を四半期ごとにヘッジする方針でした。
一方、日本航空はヘッジを調達の 5 割にとどめ、想定原油価格は 54 ドルでした。
実際の原油価格は、2005 年後半から 60 ドル前後で推移しました。この結果、何れの航空会社も燃料費の増加という
経営課題には晒されましたが、日本航空は 900 億円前年比増加したのに対して、全日空は 340 億円増に留めたとい
われています。
4.
デリバティブ取引の判例(Web_金融取引.com より引用)
(ア) 日経平均株価指数オプション取引
商事会社とその実権を握る個人が、証券会社の担当である支店長から勧誘されて、日経平均株価指数オプション取
引を行った事案で、判決は説明義務違反として、債務不履行による損害賠償を命じた。(東京地判平成6・6・30)
(イ) 金利スワップ取引
「金利スワップ取引」を行った顧客に対して、証券会社担当者が説明書に基づく説明とシミュレーション表を交付して
いたとしても、当該シミュレーション表における前提条件や、それが満たされない場合にどの程度の時価評価損が発
生する可能性があるかについて明確な言及がないなどの点において、説明義務違反を認めた(東京地裁H21/3/31)
(ウ) 通貨オプション取引
韓国の上場会社に対して銀行が「KIKO」と呼ばれる通貨オプション取引を勧誘し、契約締結事案において、一般に
銀行は場外派生金融商品の取引を勧誘する場合には、取引の相手方の属性や取引の目的、商品に対する理解度・
危険管理能力に着目し、その取引の相手方に適合しないと認定される取引を勧誘してはならず(「適合性原則」)、ま
た取引の相手方に当該取引の構造、取引に伴った危険及び潜在的損失に影響を及ぼす重要な要因等について相
手方が理解できるように十分説明しなければならないとし、取引に内在するリスクを一般的・抽象的に告知しただけで
は説明義務を履行したことにならないとの判断を示し、通貨オプション取の効力を停止する旨の仮処分決定を下した
(ソウル地裁 h20/12/30)
5.
為替デリバティブ取引(通貨オプション取引商品)の基礎知識
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(ア) プットオプションとコールオプション(プット、コール)
あらかじめ設定された為替レートで外貨を売ることが出来る権利を「プットオプション」、あらかじめ設定された為替レ
ートで外貨を買うことが出来る権利を「コールオプション」といいます。
通常、プットオプション、コールオプションは、一定の期間内だけ、例えば 2 ヶ月間、だけの権利の行使(外貨の売り、
買い)を行うことができ、その期間を過ぎるとすべての権利が消滅してしまいます。
(イ) 通貨オプションを使っての為替リスクヘッジ
円高が予想されるときは、外貨預金や外貨建て投資信託への投資はリスクが高く、また、保有している外貨建て金融
商品の円貨での価値の目減りに対しては、実際に外貨を円に戻す(保有している外貨を売る)しか為替リスクをヘッジ
することが出来ませんでした。
しかし、「プットオプション」を購入すれば、外貨資産を保有している時に円高になって外貨資産が目減りしても、購入
したプットオプションを行使、もしくは売却することにより、その目減り分をカバーすることが出来ます。(為替リスクのヘ
ッジ)
(ウ) オプション取引の損益計算例(以下、為替手数料は考慮せず)
① 6 月xx日 為替レート:1US ドル=120 円
600 万円を 5 万 US ドルに替えて外貨預金に預けた。
② 7 月xx日 為替レート:1US ドル=115 円
将来の円高を予想し、9 月xx日のオプション権利行使の最終日までに、1US ドルを 115 円で売る権利(プットオ
プション)を、1US ドル当たり 4.6 円で、5 万 US ドル分を購入。
■ オプション購入代金 4.6 円 X 50,000US ドル = 230,000 円
③ 8 月xx日 為替レート:1US ドル=105 円
予想通りに実際に円高になり、購入していた 1US ドルを 115 円で売る権利(プットオプション)の価格が、1US ド
ル当たり 10.5 円と値上がりした為、そのプットオプションを全額(5 万 US ドル分)で売却。
■ オプション売却代金 10.5 円 X 50,000US ドル = 525,000 円
■ 外貨預金の円価による時価評価 50,000US ドル X 105 円 = 5,250,000 円
④ 8 月xx日時点のプットオプションと外貨預金の投資効果
■ プットオプション投資による利益 525,000 円-230,000 円 = 295,000 円
■ 外貨預金の含み損失 6,000,000 円 - 5,250,000 円 = ▲750,000 円
⑤ プットオプション購入による為替リスクのヘッジ効果
1. オプションを購入していたときの円高による損失(実際の損失)
▲750,000 円(外貨預金含み損)+ △295,000 円(オプション取引による利益)=▲225,000 円
2. オプションを購入していなかった場合の円高による損失
▲750,000 円(外貨預金含み損)
⑥ 上記ケースが、もし円安だった場合
上記の例では為替が予想通り円高になりましたが、もし予想に反して為替が円安に向かい、プットオプションの
売却も権利行使もできないまま、2 ヶ月後に1USドル=135 円の為替レートで権利行使期間が終了したとすると、
9 月xx日時点のプットオプションと外貨預金の投資効果は、つぎのとおりです。
1. プットオプション購入による損失 ▲230,000 円
2. 外貨預金の含み益 6,750,000 円(外貨預金の円貨による時価評価) - 6,000,000 円 =
△750,000 円
3.
▲230,000 円 + △750,000 円 = △520,000 円
4. 円安になった場合は外貨預金の含み益の一部が、プットオプション購入の損失により、相殺されてしまい
ます。
6.
いわゆる、為替デリバティブ取引被害に遭っている中小企業の救済
JSK 事業再生研究会では、為替デリバティブ取引被害に遭っている中小企業の救済について会員の中から有志を募り、情
報収集はじめ救済方法の研究を行っています。
救済手法は、銀行との交渉にる損失額の減免が主なもののようですが、この分野に先行して実績を上げているコンサルタ
ントやコンサルファームとも協調しながら 1 社でも多くの被害企業を救済したいと考えています。
7.
デリバティブを含む金融法を研究する団体(弁護士中心)
金融法委員会・・・事務局=日本銀行内 金融法委員会事務局 URL:http://www.flb.gr.jp/
JSK 事業再生研究会は、中小企業の公正な事業発展と雇用継続を助言・指導・支援しています。
〒160-0004 東京都新宿区四谷 3-13-20 四谷 YS ビル 2 階 株式会社 エム・エム・プラン BFL 経営財務研究所
Tel:03-5367-1558 Fax:03-5367-1668 URL:http://www.kaikei-web.co.jp e-mail: [email protected]
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