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Page 1 Page 2 宇宙と人間 「人間はどこから来て、 どこへ行く のだろ
題 名:華星の世界 作者名:細井 三男 Mitsuo HOSOI サイズ:9 1 cm× 1 1 9 cm 技法・材料:キャンバス・油彩 制作年:1989年 教室名:美術数字 華星の世界 満月の夜、かぐや姫は月世界に昇天したが、 五色に光る龍の玉は今も海底に美しく眠っている 細 井 男 (Mitsuo HOSOI) 三 龍と五色の玉(部分) 宇宙と人間 「人間はどこから来て、どこへ行くのだろうか」という人類を貫通して行く 命題を提起したのは、タヒチの画家ポール・ゴーギャンであった。宇宙や地上 の物象を、いつ誰が造ったのかという素朴で最も根源的な疑問は、あらゆる民 族の未開文化期における中心的な課題であった。そして、それぞれの民族は、 その課題を「神話」として不動のイマジネイションを構築することによって解 決してきた。 古代中国では、全身葉に覆われた超巨大神人盤古が存在の始源であった。盤 古の涙は黄河と揚子江となって大陸を流れ、その呼吸は風を起こし、言葉は雷 鳴となり、あたりを見まわすと稲妻が煌めく。また、彼の気分がよいと天は晴 れ、悲しむと雲は空を覆う。そして、彼が死を迎えたとき、頭、胴、手、足が 分離して、中国の聖なる五山となり、二つの眼は太陽と月になったと伝えられ る。 ★L このように、中国創造の元祖が、強大な呪力をもつ巨大神人であったように、 イマジネイションの世界では、神・宇宙・自然・人間は常に等価性の存在とし て登場する。 かぐや姫の誕生 かぐや姫は、朝露のキラキラ輝く竹薮の中で生まれ、長じた姫は、五人の貴 公子に謎の婚約条件を提案する。大伴大納言には、「龍の頚に光る五色の玉を とりて給へ」と伝えた。他の四人には、「御仏の石鉢」、「蓬莱山にある金銀の - 16 - 姫の昇天(部分) 枝と白き玉」、「唐土にある火鼠の皮衣」、「燕の子安貝」などを求めたが、誰一 人として偽物以外のものを持ってくることはできなかった。 そして、八月十五口満月の夜、姫は天女の奏でる笛の響きに乗って月世界に 昇天する。。2 五色に光る龍の玉 かぐや姫は、求婚者たちに失望して月世界に帰ったし、大納言も龍の玉を取 ってくることはできなかったが、果して龍の玉は、現実に存在したのだろうか。 すべての物語の本質である「誠の心を説き明かす」という物語成立の原点か ら推論すると、聖なる美女かぐや姫が求婚者に虚偽の約東をするということは 絶対にありえない。しかも、月にまで昇ることのできる超自然的な魔力をもつ かぐや姫なら、当然龍の玉のある場所を知っていたに違いない。龍の玉はこの 地上のどこかに実在していた。それでは、一体龍の玉はどこにあったのだろう か。この物語の真実を解明する鍵は、龍の玉がどこに、どんな形で存在したか を正確に把握することにある。 遥か南海にある珊瑚礁群の中央に、ひときわ輝く翡翠の珊瑚樹があり、かぐ や姫の望んだ龍の玉は、その翡翠珊瑚の上に妖しく輝いていた。そこには、五 色に光るその玉を龍と呼ぶにふさわしい不死身の古代魚が今も守護する。そし て、その玉には、大納言が刳りとろうとして傷つけた刀跡が深く鮮明に残され ている。また、古代魚の脊にも、大納言との闘いの生々しい傷跡が未だに癒や されることなく残存する。大納言は玉を龍に阻まれたのだ。 五色に光る龍の玉は、今も南海の珊瑚樹の上に実在する。 -17 - グリザイユ かぐや姫の昇天 かぐや姫は、五人の求婚者を始め、帝や育ての翁、そして、地上のすべてを 捨て月に昇天した。しかし、龍の玉がこの地上にある限り、かぐや姫がそれを 放置して昇天することはありえない。なぜなら、龍の玉は、かぐや姫が地上に 来るとき、天界から授かった霊宝であり、同時にそれは、かぐや姫の魂を象徴 する美と愛の珠玉であったからだ。満月の夜、かぐや姫が本当に昇天したのな ら、恐らく十二夜の後、かぐや姫は密かに三日月の光に乗って必ず地上に舞い もどっている筈である。もしそうでなければ、満月に昇天したのは本物ではな く偽のかぐや姫であったといわざるをえない。 五色に光る龍の玉が地上にある限り、かぐや姫は永遠にこの地上に生存する。 このイマジネイションが華星の世界である。 ★1 Carl G. Jung ★2 阪倉篤義 L'uomo e i suoi simboli 竹取物語 岩波書店 Edizioni Casini 1967. P200参照 1970. P14・15参照 -18 -