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2012年 10月 感謝、天国の息子へ

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2012年 10月 感謝、天国の息子へ
2012年
10 月 10 日
第 247 号
発行所 石 井 記 念 友 愛 園
宮崎県児湯郡木城町椎木 644 番地
ゆうあい通信
〒884-0102 ℡ 0983-32-2025
感謝、天国の息子へ
園長 児嶋草次郎
台風が過ぎた日、空がどこまでもすんでいて、ぼんやりと流れる雲を見上げて
いるうちに、あなたのことを思い出しアレコレと考えています。遠くでモズやヒ
ヨドリが鳴き、柿の木が芸術的に色づいた葉を、子ども達が掃き清めた庭に一枚
一枚大事そうに落していき、私はこの園庭の中であまいキンモクセイの香りのす
る秋風に包まれています。
あなたのことを思い出さない日はないのだけれど、こうして考えてしまうのは、
秋のせいでしょうか。朝夕涼しさを通り越し、肌寒いほどの空気が、気持ちを内
に天に向けさせるのかもしれません。おそらく、目の前にいない大切な人を追い
求める季節が秋なのでしょう。自然の草木、そして動物達も、冬に備えてそれぞ
れに準備を始めているようです。彼らは本能で動きますが、人間は小さな心の動
揺に正直に向き合ってしまうのです。
最近、心を動かされたことを4つと、お願いごとを一つ、あなたに届けます。
9月下旬の日曜日、園芸部のタケシと一緒に資料館駐車場の花壇の除草をして
いたら、愛知県からという御家族の来訪がありました。どうしても午前中に終え
ておきたい作業でしたので立ち話ししかできませんでしたが、何と古い卒園生で
した。昭和 20 年生まれ、旧三友館で中学校の頃1年ほど生活されたと言われま
す。私より尐し先輩です。園生活が短いからでしょう、お名前を言われても私の
記憶の中に思いあたる人はいませんでした。奥様と二人の立派な息子さんが同行
されていました。交し合う挨拶だけでも、その家族がしっかりされた方々である
ことは感じ取れました。職員が御案内をさせていただきましたが、手みやげと御
寄付を置いて帰られました。後であけると御寄付の金額は 10 万円でびっくりし
ました。
その気持ちに深く感謝しました。たった1年程度しか生活しなかったのに、こ
うして奥さんや息子さんを連れて訪ねて来られるということは、多尐なりともこ
こでの生活を懐かしくまた誇りとされているからだろうと思うのです。あの当時
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は生活も貧しく楽しい思い出なんてほとんどなかったはずです。里子として二家
庭回された後園に来たと言っておられたので、もしかしたら、自分の人生の分岐
点と位置づけられているのかもしれません。私は次のように礼状に書かせていた
だきました。
「御家族と一緒に帰って来て下さるということは、私達にとっては、非常にあ
りがたいことです。それは、多尐なりともここでの生活を懐かしく、あるいは誇
りとしておられ、御家族の方々に見せたいと思われるからのであると考えるから
です。
」
施設入所までの自分のマイナスの人生と重ねながら、施設生活を否定的にとら
える人も多い中で、このような来訪は、私達に勇気と希望と力を与えて下さるこ
とになるのです。もちろん、今ここで生活している子ども達にとっても希望と目
標を与えることになります。
このような多くの卒園生のためにも、私達は、この歴史、文化、生活、そして
自然を守るべく努力をしていかねばなりません。
次の話は、つい最近のやはり卒園生の話です。現在 30 歳前後の好青年で県南
の方で働いており、たまに顔を見せに来てくれます。
すばらしいお父さんお母さんなのに、なぜか思春期の頃に尐し道をはずれてこ
こに来ました。人生にはこういうこともあるのです。立ち直るのに尐し時間はか
かったようですが、今は、立派な社会人で家庭も持っています。
彼が今回来て言うには、
「近々子どもが生まれる予定だけど、男の子だったら
草先生の草の字を取って草太郎としたい。」冗談でもこのようなことを言ってく
れると嬉しくなります。
奥さんが福祉施設で働いておられるということだから、そんな名前にしてもら
って福祉施設で働くような息子さんになってくれたらと思います(天国にいるあ
なたの名前を出そうかとふと思いましたがやはり止めました)。
友愛園にいる時は、指導する物とされる者の関係だったけど、こうして同じ社
会人となり、互いに妻との関係のあり方なんかについて語れるというのは楽しい
ものです。T 君ありがとう、がんばって下さい。
三つ目の感謝は、石井記念友愛社後援会「石井十次の会」の皆さんに対してで
す。会報誌「むつび」が創刊して 180 号(15 年)に達することができたという
ことで、今回 181 号に依頼により寄稿させていただきました。友愛通信は仕事
の一部として発行しているのに対し、「むつび」は後援会の方々のボランティア
によって編集、印刷、発送(1700 部以上)まで行なわれているのです。全国に
社会福祉法人がいくつあるのかは知りませんが、その後援会で、15 年間毎月会
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報を発行し続けているというところはおそらく他にはないでしょう。まさに「奇
跡」と言ってよいでしょう。後援会の皆様の御支援に深く感謝します。ありがと
うございます。
石井十次の岡山孤児院を支えた後援会に比べると 10 分の1程度の組織(約
1300 名の会員)ですが、石井記念友愛社にとっては大きな支えとなっています。
私個人にとっても精神的な支柱です。
その原稿を書きながら、その存在価値についてもっと真剣に受け止めなおさね
ばならないとも感じました。名前は単なる「友愛社を支える会」から「石井十次
の会」へと、より視野を地域や社会に向けるべく発展したのに、私達石井記念友
愛社の職員の意識がついていけてないのではないか、そうも反省します。
世はまさに内憂外患です。混沌としつつあるこの社会において、私達がもっと
強い発進力を持ち、その地域における和、輪を強いものとしていかねばならない
のではないか。私達の到達目標である「友愛の地域社会つくり」を意識しながら、
石井十次の会の皆様ともっと共鳴し合っていかねばならないのではないか、そう
も思います。
国の中枢で舵(かじ)を取る人達も必要ですが、地域地域で大地に根を張りな
がら国を守り支える人々も必要なのです。雑草魂で地域福祉に尽力していきたい
と思いますし、もっと十次の会の皆様にもアピールしていきたいと思います。
「引き寄せの法則」という言葉を、最近宮崎市内での講演会で聞きました。本
では読んだことがありますが、その法則を実践していると言ってもよい人の話を
聞くのは初めてでしょう。その講演者は宮崎で「みやざき中央新聞」という新聞
を発行されている水谷謹人(もりひと)氏です。色んなエピソードを紹介されま
したが、感動して涙が出ました。ああこれが発信力なんだとも納得できました。
この人の、気持ちが前向きになる話を職員や子ども達に聞かせてあげたいとも思
いました。生(なま)の声は、そのままスンナリと心の中に入っていきます。そ
の方に、今後「友愛通信」を送り教えを請おうと思っています。
最後にあなたにお願いです。お願いというより次の手紙をあなたに発信します
ので、共鳴するまだ見ぬ人にそちらを経由して発信してほしいと願っています。
この「引き寄せの法則」の応用版として実験してみようと思うのです。笑う人は
笑えです。
拝啓 初めてお便り差し上げます失礼お許し下さい。あなたの名前も住所も分
からないままに手紙を書き始めています。
もしかしたら、あなたはまだ大学生で、児童養護施設のような子ども達の施設
で働きたいと考えている人かもしれない。いや、一度福祉施設で働いた経験はあ
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るのに、何らかの理由で挫折し、今、前向きに気持ちを切り替え再起しようとし
ている人かもしれない。
いやいや、資格は持っているのだけれど一般企業でずっと働いて来て、あるい
は、教育現場で働いて来て、残りの人生をもっと人間あるいは子ども達と真剣に
向き合うものにしたいと考え始めている人なのかもしれない。さらにイメージを
広げると、子どものいない御夫婦で、「子どもに関る仕事を一緒にしたい」とい
つも2人で話合っている。そんな姿も浮んできます。そんな熱い思いを抱いてい
るあなたに向けてこの手紙を書いています。
「この石井記念友愛園で働いてみませんか。」
資格を持っていればだれでもよいと言うわけではありません。私は三つの条件
をあなたに提示します。
① 子ども達とともにこの茶臼原で生きる。そのように仕事をとらえられる人。
サラリーマン根性では、子ども達の心を開くことはできませんし、彼らの
それまでのマイナス思考を転換させることはできないでしょう。
② 子ども達とともに生きるだけではなく、この大自然と共生していくことに
喜びを感じる人。子ども達は、この自然や文化の中で心や感性を養ってい
ます。その価値を共有できる人でなければ、子ども達の模範となることは
できません。
③ 社会人として、自律できている人。自分は人間関係に自信ないから福祉で
生きていきたい、そんな消極的な人では、子ども達の運命を変えることは
できません。
私はこの施設内で生まれ育ち、一時期学生として外に出たことはありますが、
職業人としてもずっと 40 年近くここで生きてきました。
「一族経営の閉鎖性」と
かレッテルを貼られ、今の福祉の世界では否定される存在でもあります。しかし、
私はこの自然と歴史と文化を誰よりも愛して来たつもりです。
今児童養護施設は、国の主導で急激に欧米化されようとしており、文化的には
危機を迎えています。私に言わせれば理念の個人主導化で、東京などの大都会の
施設と何ら変らなくなってしまう。地域や家庭が崩壊する社会状況の中で、はた
してその歯止めになるような中核施設になり得るのか、はなはだ疑問なのです。
この言わば児童養護施設グローバル化を乗り越えていける人材を求めているの
です。私も 60 歳をすぎ、真剣に次の世代へのバトンタッチを考えていかねばな
らない年令です。私のこの発信が、どうぞあなたに届き共鳴し合いますように。
敬具
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