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ワイヤ駆動型脚ロボットにおける ボールリフティング
䣔䣕䣌䢴䢲䢲䢺䣃䣅䢳䣆䢴䢯䢲䢶 ワイヤ駆動型脚ロボットにおける ボールリフティングタスク ○衣川 潤,小枝 正直,吉川 恒夫 (立命館大学) † † 現在はそれぞれ,衣川 潤 (東北大学),小枝 正直 (大阪電気通信大学),吉川 恒夫 (立命館大学) Legged Robot of Tendon Drive for Ball Juggling Skills *Jun KINUGAWA, Masanao KOEDA and Tsuneo YOSHIKAWA(Ritsumeikan University) Abstract— We have developed a planar 3-DOF legged robot of tendon drive for ball juggling. We conducted basic experiment to verify the performance of the robot. We propose a ball juggling algorithm using the robot. Key Words: Legged Robot, Ball Juggling, Tendon Drive 1. はじめに 視覚情報に基づく運動制御の一種であるボールリフ ティング運動を実現することにはある種の経験が必要 とされる.人間は練習なしでは正確なボールリフティ ングをすることはできない.しかし,練習を積み重ね 学習することにより,徐々に安定した動作ができるよ うになる.ボールリフティングはテニスやサッカーの ような球技において,基礎的な動作に位置づけられる 「環境との相互作用が時間的制約の中で求められる運 動」のひとつである.ボールの動きを観測し,ボール が落ちる前に運動が行われなくてはならない.よって, ボールリフティングは視覚情報に基づく運動制御の問 題といえる.本研究では脚ロボットによるボールリフ ティングタスクを実現することによって,複雑に見え る人間の運動がどのように生成されるのかについて運 動制御の観点から検討するのが本研究のねらいである. Koditschek らは”Mirror Law Algorithm”を提案し, ロボットアームによるジャグリングを実現させている [1].これは,ボールの運動を鏡に映したような動作を ロボットがすることでジャグリングを行うもので,人 間の腕による動作を再現したものである. さらに,認知行動学の観点から野球におけるボール の捕球動作に焦点をあてた研究も数多く見受けられる. 中でも森らの研究では,移動ロボットを用いてボール 捕獲タスクを実現させ,その発展形としてボールリフ ティングを模した動作を実現させている [2][3].しかし, マニピュレータを用いたボールリフティングタスクに は達していない. 以上の研究においては,腕によるマニピュレーショ ンに注目したものであった.ここで,人間の脚におけ る技能にも注目したい.人間は主に腕で作業を行うこ とから腕に関連した研究が多いが,球技や格闘技にお いては脚の運動も重要な要素となっている. そこで,本研究ではサッカーにおける基本タスクで あるリフティングを脚ロボットにより実現することに 焦点を当てる.その第 1 歩としてワイヤ駆動型脚ロボッ トを開発し,その基礎的実験としてリフティング動作 が可能であることを確認したので報告する. ➨䢴䢸ᅇ᪥ᮏ兑兀儧儬ᏛᏛ⾡ㅮ₇凚䢴䢲䢲䢺ᖺ䢻᭶䢻᪥ࠥ䢳䢳᪥凛 Fig.1 脚ロボットの外観 また,本稿では二足歩行やヒューマノイドにおける バランスの問題を回避し,リフティングタスクのみに 焦点を絞るため,脚のみでのリフティングについて考 える.また,簡単のためリフティング動作を 2 次元平 面に限定する.そのため,脚は 1 本脚とし,ボールと の接触は足の甲のみとする.また,2 次元平面内で人 間と同等の運動が出来るよう,股関節,膝関節,足首 関節に対応する 3 関節を有する. 2. ワイヤ駆動型脚ロボットの開発 ボールリフティングを実現するにあたり,脚ロボッ トの設計を行った.設計・開発したワイヤ駆動型脚ロ ボットの外観を Fig.1 に示す. ワイヤ駆動機構では,以下に述べるヤコビ行列を用い て設計を行う [4].ワイヤ長 l = [l1 , l2 , l3 , l4 ]T (Fig.2) と関節角 q = [q1 , q2 , q3 ]T (Fig.3)間の関係はヤコビ行 列 Jj を用いて以下のように示せる. l = Jj q (1) 䣔䣕䣌䢴䢲䢲䢺䣃䣅䢳䣆䢴䢯䢲䢶 アヘッドはギア比が 86:1(GP 32C),エンコーダは 分解能 1000(MP Type L)を使用した.モータ用電 源には COSEL 社製 PBA300F-48,エンコーダ用電源 には COSEL 社製 RMC50A-1,モータドライバ用電源 には COSEL 社製 RMC50A-1 を使用した.インター フェースボードは川田工業株式会社製 HRP Interface Board 07-0003-2,モータドライバは川田工業株式会社 製 HRP Motor Driver HRT07-0004 を使用した.リフ ティング面の角度は任意に動かせるが,角度を一定に 保つために補助パーツを必要とする.補助パーツは 30, 45[deg] の 2 種類を作成した. l1 l3 l2 l4 2·2 カメラ カメラは ELMO 社製の ELMO UN43H を使用する. カメラヘッドはφ 12[mm],有効画素は水平 768[pixel], 垂直 494[pixel],標準被写体照度は 40[lx],最低被写体 照度は 3.5[lx] である.カメラは Fig.6 に示すように,リ フティング面全体が見えるように,また,リフティン グ面に対して垂直になるように設置している.Fig.6 に 示す 5 箇所の計測点に高輝度 LED を配置し,簡易的な キャリブレーションを行う.リフティング面の四隅に 設けた計測点の実際の距離とカメラにより得られたそ れぞれの画素値から 1 画素あたりの距離を計算する. Fig.2 ワイヤの張りまわし Y q1 lq1 q2 3. l q2 l q3 X q3 (xf ,yf ) Fig.3 モデル図 ⎡ r ⎢ ⎢ r Jj = ⎢ ⎢ −r ⎣ −r r r −r r −r 0 −r 0 ⎤ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎦ (2) ここで,l はワイヤ長の変位,q は関節角度,r はプー リの半径を表す.Jj の各要素の符号はワイヤの巻く向 きを表す.この行列の (i, j) 要素は第 j 関節に取り付け られたプーリで,第 i ワイヤの張力に対するモーメン トアームとなる.ここで,r = 2.0 × 10−2 [m] とした. このヤコビ行列は腱制御可能であり,この脚ロボット は各関節を独立に制御できる. Fig.2 にワイヤの張りまわし方を示す. 脚ロボットの座標系を Fig.3 に示す.ここで,qi (i = 1, 2, 3) はアームの関節角度,li (i = 1, 2, 3) はリンクの 長さ,mi (i = 1, 2, 3) はリンクの重量,si (i = 1, 2, 3) は リンク座標系からのリンク重心までの距離,(x2 , y2 ) は 第 2 リンクの先端座標,(xe , ye ) は打撃点の座標を示す. 2·1 ハードウェア 脚ロボットのフレームは超ジュラルミン(A2024)で 製作した.モータは Maxon 社製の RE 35(90W) で,ギ ➨䢴䢸ᅇ᪥ᮏ兑兀儧儬ᏛᏛ⾡ㅮ₇凚䢴䢲䢲䢺ᖺ䢻᭶䢻᪥ࠥ䢳䢳᪥凛 ボールリフティング戦略 本研究では,ボールリフティングタスクを「ボール を連続して打ち上げる動作」と考える.よって, 「ボー ルが一定の周期運動を継続している状態」を目標とす るリフティングの安定状態と考える.その際,ボール の姿勢や回転は特に考慮しないものとする. ここで,ボールの運動に適したリズムを生成するこ とで,ボールの運動の位相によらず,安定したボール リフティングが可能となると仮定する.つまり,ロボッ トに適切な周期軌道を与えることでタイミングを考慮 することなしでボールの周期運動をコントロールする のである.また,衝突時の打撃点の姿勢により,ボー ルの運動方向のコントロールを行う.以下にこれらの 決定手順を示す. 1)まず,適当な軌道原点 (xo ,yo ) を設け,脚ロボッ (4)に示す トの打撃点座標 (xf ,yf ) について,式(3), 目標周期軌道 (xf d ,yf d ) を与える(Fig.4).ここで,T は運動周期,A は振幅を表す.T については数パター ン与える. xf d = xo + 2πt A · sin 2 T y f d = yo (3) (4) 2)次に,それぞれの周期におけるボールの運動を カメラで観測し,ボールの重心位置 (xb , yb ) および,速 度を記録する. 3)観測されたボールの運動から,リフティングに 適した打撃点軌道の周期を決定する.このとき,安定 してリフティングが可能な周期の中でできるだけ速い 周期のものを選択するものとする. 4)カメラによって観測したボールの重心位置の y 座標 yb により,目標打撃点軌道の y 座標 yf d を決定す 䣔䣕䣌䢴䢲䢲䢺䣃䣅䢳䣆䢴䢯䢲䢶 Y %COGTC /GCUWTG2QKPV =OO? %CRVWTG#TGC /GCUWTG2QKPV time Impact Point (x f ,y f ) X =OO? /GCUWTG2QKPV time /GCUWTG2QKPV =OO? /GCUWTG2QKPV Fig.4 X 軸方向の運動 Ǹ=TCF? =OO? Target Y Coordinates Y Fig.6 計測点 Impact Point (x f ,yf ) X C D E Fig.5 Y 軸方向の運動 る(式(5)).これにより,打撃点が常にボールの真 下に位置するよう適応的に制御を行う. yf d = yb (5) 5)水平面からの打撃点の角度を打撃姿勢 θf とした とき,安定状態における軌道中心の y 座標からの打撃 点の誤差を修正するように目標打撃点姿勢 θf d を決定 する (Fig.5).ここで,Kr は姿勢誤差に対する比例ゲ インである. θf d = π − Kr (yo − yf ) 2 (6) 以上の手順により,打撃点の目標軌道生成を行う.こ こで得た,目標打撃点より逆運動学を用いて各関節の 目標角度を算出し,各モータの目標回転角に変換し,重 力補償付き PD 制御を行うことでリフティング動作を 行う. 4. ボールリフティング戦略に基づく制御実 験 前章にて述べたボールリフティング戦略を用いてボー ルリフティング制御の実機実験を行う. 制御実験に際し,カメラキャリブレーションを行っ たところ,1 画素あたり約 2.4[mm] の移動量であるこ とが算出された.また,脚ロボット座標系原点にも計 測点を設け,ボール座標系原点とした.以下の実験で は,このときに得られた値を基準としてボールの重心 位置の計測を行っている. ➨䢴䢸ᅇ᪥ᮏ兑兀儧儬ᏛᏛ⾡ㅮ₇凚䢴䢲䢲䢺ᖺ䢻᭶䢻᪥ࠥ䢳䢳᪥凛 脚ロボットの打撃点に与える周期軌道には,式(3), (4)を用いる.ただし,軌道周期 T は 0.45 [sec],軌 道振幅 A は 0.15 [m],軌道原点座標 (xo , yo ) は (0.15 [m], 0.22 [m]) とした. また,リフティング面の角度は水平面より π/6 [rad] とした. 実験の入力として関節角 qd を与えるが,この qd を モータ角 θd に変換する必要がある.変換には次の式を 用いる. θd = −R−1 a Jj qd ⎡ rm ⎢ ⎢ 0 Ra = ⎢ ⎢ 0 ⎣ 0 (7) 0 0 0 rm 0 0 rm 0 0 0 0 rm ⎤ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎦ (8) ここで Ra は対角成分にモータ軸に取り付けたプー リの半径を持つ行列,Jj は脚ロボットの腱駆動ヤコビ 行列である.rm はモータのプーリ径を表す.脚ロボッ トには,上式から得られる θd を用いて,以下に示す制 御入力 u を与え,重力補償付き PD 制御を行った. u = Kp (θd − θ) − Kd θ̇ + g(θ) + Ra fb (9) ここで,θd は目標軌道から求められる各モータの目 標角,θ̇ は各モータの角速度,Kp は比例ゲイン行列, Kd は微分ゲイン行列である.また,g(θ) は各関節に おける重力補償項を各モータのトルクに変換したもの である.ワイヤには制御している間,常に張力がかかっ ていなければならない.その為,各関節にトルクを発 生させない状態でもモータに力を発生させなければな らない.上式の最後の項 fb はそのためのバイアス張力 を示す. 各ゲインの値は Kp = diag[12],Kd = diag[0.1], Kr = diag[0.5] とした. 䣔䣕䣌䢴䢲䢲䢺䣃䣅䢳䣆䢴䢯䢲䢶 0 0.0-2.5[sec] 2.5-5.0[sec] 5.0-7.5[sec] 7.5-10.0[sec] 0.04 0.06 X [m] 0.02 0.08 X [m] 0.04 0.1 0.12 0.06 0 5 time [sec] 10 0.08 Fig.9 ボールの X 座標の時間変化(0∼10 秒) 0.1 0.16 0.17 0.18 Y [m] 0.19 0.12 0.2 X [m] 0.12 0.14 0.16 Fig.7 ボールの軌跡(0∼10[sec]) 0.18 0.1 0.16 90 89 0 0.18 0.2 Y [m] 5 time[sec] 0.22 Fig.11 打撃点姿勢(0∼10 秒) Fig.8 打撃点の軌跡(0∼10[sec]) リフティング制御の結果,調子の良い場合,制御開 始から 60 秒経過しても継続したボールリフティングが 行えた.Fig.7 と Fig.8 に,ボールの軌跡と打撃点の軌 跡を示す.また,ボールの X 座標の時間変化と打撃点 の X 座標の時間変化,打撃点姿勢の時間変化を Fig.9, Fig.10,Fig.11 に示す. ボールの軌跡から,ボールの X 軸方向の運動は 0.05 ∼0.11[m] の間で周期運動を繰り返していることがわか る.Y 軸方向の運動は 0.16∼0.19[m] の間に収まってい る.これに対して,打撃点の軌跡から,打撃点の X 軸 方向の運動は 0.125∼0.18[m] の間で周期運動を繰り返 している.また,Y 軸方向の運動は 0.17∼0.2[m] の間 で遷移しており,ボールの重心位置の Y 座標を追従し ていることが確認できる. また,時間的に変化するボールの y 座標に応じて打 撃点の y 座標も移動していることが見て取れ,ボール の運動により打撃点軌道と打撃点姿勢の修正が行えて いることがわかる. 5. 10 91 0.14 0.18 5 time [sec] Fig.10 打撃点の X 座標の時間変化(0∼10 秒) ǰf [deg] X [m] 0.12 0 0.0-2.5[sec] 2.5-5.0[sec] 5.0-7.5[sec] 7.5-10.0[sec] おわりに 本稿では,まず平面 3 自由度のワイヤ駆動型脚ロボッ トの設計・開発を行い,基本動作を確認した.次にボー ルリフティング戦略を提案した.最後に,打撃点に適 切な周期軌道を与えることで,運動エネルギーや一致 タイミングを考慮しなくてもボールリフティングが可 ➨䢴䢸ᅇ᪥ᮏ兑兀儧儬ᏛᏛ⾡ㅮ₇凚䢴䢲䢲䢺ᖺ䢻᭶䢻᪥ࠥ䢳䢳᪥凛 能となることを実験的に示した.これは,ボールリフ ティングタスクのようなリズミックな運動において,運 動周期が重要なファクターであることを示唆している. しかし,現在は脚ロボットの運動周期は固定であり, その値は経験的に与えている.よって,環境によって 運動周期を決める必要が生じる.よりロバストなリフ ティングタスクの実現のためには,ボールの運動に合 わせて適応的に脚ロボットの運動周期を決定する手法 を研究していく必要がある. [1] Alfred A.Rizzi and Daniel Koditschek:“Further Progress in Robot Juggling:Solvable Mirror Laws”, In Proceedings of the IEEE International Conference on Robotics and Automation, Vol. 4, pp.2935-2940, 1994. [2] 森亮介,宮崎文夫:”ボールの追跡捕獲タスクに対する GAG(Gaining Angle of Gaze) 戦略 ”,第 20 回 日本ロ ボット学会学術講演会,3M25,2002. [3] 高木 史朗,宮崎 文夫,森 亮介:”単眼視移動ロボットに よるボールキャッチング・リフティングタスクに関する 研究 ”,第 22 回 日本ロボット学会学術講演会,3F13, 2004. [4] 兵頭和人,小林博明,大鐘大介,山本圭治郎:”冗長腱 を持つ腱駆動ロボット機構の剛性調節 ”,日本ロボット 学会誌,Vol.17,No.4,pp.493-502,1999. 10