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(答申) 埼玉県再生可能エネルギー導入ビジョン
(答申) 埼玉県再生可能エネルギー導入ビジョン 平成24年 埼玉県 月策定 埼玉県再生可能エネルギー導入ビジョン(案) 目次 Ⅰ 総論 1 埼玉県再生可能エネルギー導入ビジョン策定の背景 1 2 位置づけ (1) 国の政策における位置づけ (2) 県の計画などにおける位置づけ 2 3 本ビジョンが対象とするエネルギーの範囲 (1) 再生可能エネルギー (2) その他の未利用エネルギー 4 4 計画期間 8 5 ビジョンの構成 8 Ⅱ 現状及び課題 1 国際的な現状 (1) 国際エネルギー消費動向 (2) 再生可能エネルギーの導入状況 9 12 3 本県における現状 (1) 本県の地域特性 ア 埼玉県の地勢と地域区分 イ 人口、産業、土地利用の状況 ウ 県内市町村のエネルギービジョン策定状況 (2) 本県のエネルギーの状況 ア 県内エネルギー需給動向 イ 県内エネルギー需給見込 ウ 再生可能エネルギーの賦存量、利用可能量、導入状況 16 Ⅲ 2 国における現状 (1) 国内エネルギー需給動向 (2) 国の再生可能エネルギーの導入状況 (3) エネルギー基本計画などの見直しの動き 再生可能エネルギーを取り巻く状況 1 再生可能エネルギー導入の意義と東日本大震災後の変化 (1) 東日本大震災前の考え方 (2) 東日本大震災後の考え方 30 2 再生可能エネルギーを取り巻く状況に対する県の基本的な考え方 32 (1) (2) (3) (4) エネルギー自給レベルの向上 未利用資源の最大活用 再生可能エネルギーを補完する周辺技術の活用 地域特性に対応したエネルギーの面的利用 33 4 再生可能エネルギーの導入における県の役割 34 5 目標 35 6 本ビジョンの目指すもの 36 Ⅳ 3 本ビジョンをまとめるに当たっての視点 再生可能エネルギー導入の基本方針 37 2 再生可能エネルギー別導入の基本方向 38 Ⅴ 1 基本方針 再生可能エネルギー導入の具体策 41 2 今後の推進策 (1) 再生可能エネルギー別推進策 (2) 埼玉エコタウンプロジェクト (3) 新たな推進策としての6つのモデルプロジェクト (4) 再生可能エネルギー導入に向けた仕組みづくり 55 Ⅵ 1 現行の施策の整理 (1) 再生可能エネルギー施策の推進 (2) 省エネルギー・その他環境施策の推進 (3) 埼玉県の取組事例 (4) 県内の導入事例 まとめ 1 再生可能エネルギー導入のロードマップ 87 2 革新的なエネルギー高度利用技術などの活用 93 3 継続的な検討課題 96 資料 用語解説(作成中) 助成制度の整理(作成中) Ⅰ 1 総論 埼玉県再生可能エネルギー導入ビジョン策定の背景 近年、新興国の経済発展に伴い世界のエネルギー需要は急増しています。また、 希少なエネルギー資源を戦略的に活用する資源国により、資源の獲得はさらに困難 になっています。このため、エネルギー価格は再び高い水準で推移しています。 我が国は、エネルギー資源が乏しく、その大部分を海外に依存しているため、エ ネルギーの安定供給は喫緊の課題となっています。また近年、エネルギー利用に伴 う環境問題、特に地球温暖化問題への対応、効率的なエネルギー供給の実現が求め られてきています。 このため、二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない原子力は、我が国のエネルギー 政策の課題を解決する基幹エネルギーとして大幅な拡大が推進されてきました。 一方、太陽光などの再生可能エネルギーは、枯渇することがなく、環境負荷が少 ないエネルギーとして、また、エネルギー源の多様化・分散化を推進するため注目 されてきました。 しかし、再生可能エネルギーの設備の設置費用やランニングコスト(設備維持費 用)の高さ、不安定な発電状況などにより、なかなか導入が進みませんでした。 東日本大震災による福島第一原子力発電所の運転停止、定期点検中の原子力発電 再稼働できなくなるなど、当面の間全国的に電力供給不足が予想されています。ま た、原子力発電の安全性に対する懸念も高まっています。 県内では震災直後に計画停電が実施され、自由に使えていた電力が使えなくなり ました。このことは、県で消費する電力の多くを県外の大規模電源からの供給に頼 り切っていたという事実を浮き彫りにしました。 このような中、再生可能エネルギーは、「エネルギー源の一つ」としての位置づ けから、地域に存在する「重要なエネルギー」として注目されつつあります。 平成23年8月26日には電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に 関する特別措置法(再生可能エネルギー特別措置法)が成立し、再生可能エネルギ ーの導入拡大は、大きな流れとなっています。 埼玉県でも、目指す将来像とする「安心を実感する埼玉」、 「チャンスあふれる埼 玉」 、 「生活を楽しむ埼玉」のもと、県民生活や県内産業を守るため、環境に配慮し -1- つつ再生可能エネルギーの導入を進めています。また、県民も自らが使うエネルギ ーに関心を持ち、再生可能エネルギーを地域の資源として地産地消に努めることが 求められています。 しかし、県内で使用しているエネルギーを今すぐ全て、再生可能エネルギーが代 替できるわけではありません。再生可能エネルギーの導入と同時に、省エネルギー を併せて行い、エネルギー需要全体を減らすことが重要です。 また、再生可能エネルギーの出力の不安定さを補う設備の研究開発・導入支援や 再生可能エネルギー導入のための仕組みづくりも課題となります。 こうした背景を踏まえ、再生可能エネルギーの導入を早急に進めるため、その指 針として「埼玉県再生可能エネルギー導入ビジョン」を策定することとしました。 このビジョンにおいては、本県における再生可能エネルギーの現状と課題を明ら かにし、再生可能エネルギーの導入に向けた施策を示し、再生可能エネルギー導入 を進めていきます。 2 位置づけ (1) 国の政策における位置づけ ア エネルギー政策基本法 エネルギー政策基本法は、その目的として第1条に「エネルギーの需給に関 する施策に関し、基本方針を定め、並びに国、地方公共団体の責務等を明らか にするとともに、エネルギー需給に関する施策の基本となる事項を定めること により、エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に推進し、 地域及び地球環境の保全に寄与するとともに我が国及び世界の経済社会の持 続的な発展に貢献すること」と規定しています。 また、エネルギー政策基本法第6条には、地方公共団体の責務として次の事 項を掲げています。 ① エネルギーの需給に関する施策についての基本方針(安定供給の確保、環 境への適合、市場原理の活用)にのっとり、国の施策に準じて施策を講ずる。 ② 地方公共団体の区域の実情に応じた施策を策定し、実施する責務を有する。 ③ エネルギーの使用による環境への負荷の低減に資する物品を使用すること 等により、環境負荷の低減に努める。 イ エネルギー基本計画 エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法第12条により定めることと なっているエネルギーの需給に関する基本的な計画です。 エネルギー基本計画第10節に、地方公共団体の役割として、次の事項を掲 -2- げています。 ① エネルギー供給対策 ・ 地域の創意工夫を活かした再生可能エネルギーの導入等 ② エネルギーの需要対策 ・ 地方公共団体自らの省エネルギーの推進 ・ ビジョンの提示 ・ 交通流対策(車や人の流れなどの対策)・まちづくり ・ 住民の連携 等 ③ 国の施策に準じた施策を講ずること ④ 区域の実情に応じた施策の策定・実施 (2) 県の計画などにおける位置づけ ア 埼玉県5か年計画 本県が取り組むべき施策の体系を明らかにした、県政運営の基本となる計画 です。平成23年度改定の予定です。 イ 埼玉県環境基本条例 埼玉県環境基本条例を平成6年に制定しました。 現在及び将来の県民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的と し、次のことを定めています。 ① 環境の保全及び創造に関し、基本理念を定め、県、事業者及び県民の責 務を明らかにする。 ② 環境の保全及び創造に関する施策の基本となる事項を定めることによ り、環境の保全及び創造に関する施策を総合的かつ計画的に推進する。 ウ 埼玉県環境基本計画 埼玉県環境基本計画は、埼玉県環境基本条例の基本的理念である「健全で恵 み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない持続的に発展することがで きる循環型社会の構築」を図るため、同条例に基づき環境の保全及び創造に関 する施策を総合的・計画的に推進するために策定しました。平成8年に初めて 策定し、平成12年度、平成18年度に改定を行っており、平成23年度に改 定予定となっています。 埼玉県再生可能エネルギー導入ビジョンは、埼玉県環境基本計画の目的達成 のための分野別中期基本計画として位置付けられます。 エ 埼玉県地球温暖化対策推進条例 埼玉県地球温暖化対策推進条例を平成21年3月に制定しました。 その目的として、「地球温暖化対策に関し必要な事項を定め、県、事業者、 -3- 県民、環境保全活動団体等が協働して地球温暖化対策を推進することにより、 気候に悪影響を及ぼさない水準で大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ ると同時に、生活の豊かさを実感できる低炭素社会を実現し、もって良好な環 境を将来の世代に引き継ぐこと」としています。 第8条第1項第6号に、県が実施する地球温暖化対策として、「再生可能エ ネルギーの利用に関すること」を規定しています。 オ 埼玉県地球温暖化対策実行計画 (ストップ温暖化・埼玉ナビゲーション2050) 中期的な温室効果ガス削減目標を示すとともに、温暖化対策の強化を図り、 県民をはじめ地域総ぐるみでこれに取り組んで、長期的な視点を持って低炭素 社会の実現を目指すため、平成21年に埼玉県地球温暖化対策実行計画を策定 しました。 温暖化対策で掲げられている7つのナビゲーション(航海図)のうちの1つ として「低炭素で地球にやさしいエネルギー社会への転換」を掲げています。 その内容は、太陽エネルギーの導入促進とバイオマスなど多様なエネルギー 源の活用となっています。 図 1-1 3 埼玉県再生可能エネルギー導入ビジョンの位置づけ 本ビジョンが対象とするエネルギーの範囲 本ビジョンでは、主に再生可能エネルギーを対象とします。 ここでいう再生可能エネルギーとは、太陽光、水力、バイオマス、風力、地熱な ど自然界で起こる現象から取り出すことができ、枯渇することがないエネルギーの ことをいいます。 再生可能エネルギーの定義等には、各種計画で差異がありますが、このビジョン -4- では、以下のとおり、再生可能エネルギーのほか、廃棄物エネルギーや工場排熱な ども含め、活用が期待されるその他の未利用エネルギーについても対象としていま す。 (1) 再生可能エネルギー ○ 太陽エネルギー 太陽光から得られるエネルギーのことです。 ・ 太陽光発電 太陽電池を使って、太陽の光エネルギーを直接電気に変換する発電方 法です。 ・ 太陽熱利用 太陽熱を集めて、給湯・冷房・暖房などに利用する方法です。 太陽熱から、高温の蒸気を作り、タービンを回して発電する「太陽熱 発電」の技術もあります。 ○ 風力エネルギー 風力発電により、電気エネルギーを取り出します。風の力で風車の羽根を 回し、その回転運動を発電機に伝えて電気を起こす方法です。 ○ 水力エネルギー(中小水力発電) 水力発電により、電気エネルギーを取り出します。水が高いところから低 いところへ落下するときのエネルギーで発電を行うことです。水力発電のう ち、小さな水源で発電を行うことを中小水力発電、さらに小さいものはミニ 水力発電、マイクロ水力発電といいます。注)ダムなどに比べ簡単な工事で発 電機を設置できます。中小の河川の流れや上下水道の送水圧力差などを利用 して発電します。 このビジョンでは、中小水力発電を対象としますが、ミニ水力発電とマイ クロ水力発電を含むものとして考えることにします。 注)水力発電の規模( 「マイクロ水力発電導入ガイドブック」 、2003 新エネルギー・産 業技術開発機構 NEDO) 区分 大水力 中水力 小水力 ミニ水力 マイクロ水力 ○ 発電出力[kw] 100,000 以上 10,000~100,000 1,000~10,000 100~1、000 100 以下 バイオマスエネルギー バイオマスとは、「再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いた -5- もの」をいいます。 バイオマスエネルギーは、もとは、光合成により大気中の二酸化炭素(C O2) が炭素として植物に蓄えられたものです。食物連鎖により動物に取り 込まれることもあります。 木質系:木由来のもの。 例:森林に放置されたままの間伐材、製材工場で発生する樹皮(バーク) や端材、公園樹木や道路街路樹の剪定枝 農業系:農業由来のもの。 例:稲わら、もみ殻、麦わら 畜産系:家畜のふん尿 食品系:生活・事業系厨芥類(生ごみ) 動植物系残さ(食品製造工場等から排出される動植物性の残さ) ・ バイオマス発電 バイオマスを直接燃焼するほか、原料の性状に応じてガスや液体な どの燃料に変換して、発電を行う方法です。 ・ バイオマス熱利用 バイオマスを直接燃焼し、排熱ボイラから発生する蒸気の熱を利用 したり、バイオマスをメタンガス発酵したものを燃焼して利用するこ となどをいいます。 ・ バイオマス燃料 バイオマスから作る燃料の総称をいいます。 ペレットなどの固体燃料、バイオエタノールやBDF(バイオディ ーゼル燃料)などの液体燃料、そして気体燃料と様々なものがありま す。 ○ 温度差エネルギー 温度の低いものから温度の高いものへ熱を移動する役割を果たすヒー トポンプシステムを使って取り出すエネルギーをいいます。 このビジョンでは、十分な普及が進んでいない、河川水熱、地中熱、下 水熱について調査を行いました。 ・ 河川水熱 外気と比べ、冬は温かく夏は外気より冷たい河川水の特性を活か しヒートポンプの熱源として利用するものです。 -6- ・ 地中熱 一年を通じてほぼ温度が一定の地中熱をヒートポンプの熱源とし て利用するものです。 ・ 下水熱 冬は温かく夏は外気より冷たい下水の特性を活かしヒートポンプ の熱源として利用するものです。 (2) その他の未利用エネルギー ○ 工場排熱 工場から出る排熱(熱をもった排ガス、温水および蒸気など)のことで す。 ○ 廃棄物エネルギー 廃棄物エネルギーとは、廃棄物を燃やした時の熱を利用するエネルギ ーのことです。 廃棄物のうち、新エネルギーの利用等の促進に関する特別措置法の「新 エネルギー利用等」に区分されるのは、バイオマス部分のみとされていま す。 しかし、未利用資源の有効活用を図る視点から、本県では廃棄物エネル ギーの利用も含めます。 ・ 廃棄物発電 廃棄物焼却に伴い発生する高温燃焼ガスによりボイラで蒸気を作り、 蒸気タービンで発電機を回すことにより発電するシステムに代表され るものです。 ・ 廃棄物熱利用 廃棄物焼却による排ガスは安定的に供給される質の高い熱源であり、 給湯、冷暖房に利用できます。このビジョンでは、下水汚泥の焼却工 程から回収する熱も廃棄物エネルギーに含めます。 ・ 廃棄物燃料製造 廃棄物を加工して廃棄物固形化燃料(RDF)などの燃料を製造す ることです。 -7- 再生可能エネルギーなどの定義 出典:経済産業省関東経済産業局ホームページ 4 計画期間 平成24年度から平成32年度の9年間とします。 概ね、5年後に見直しを検討します。 5 ビジョンの構成 本ビジョンは、全6章から構成されています。 第Ⅱ章では、日本を取り巻く国際的な現状、国の現状、本県の現状を明らかにし、 その課題を浮き彫りにします。 第Ⅲ章では、再生可能エネルギーを取り巻く状況と、国が取り組むべき意義、県 が取り組むべき意義について整理します。 第Ⅳ章では、再生可能エネルギー導入の基本方針を定めます。 第Ⅴ章では、現在の再生可能エネルギー関連施策を見直すため、整理を行うとと もに、今後の推進策を定めます。 具体的には、再生可能エネルギーを大量導入するための仕組みづくりやモデルケ ースとしてのプロジェクトを示します。 第Ⅵ章では、まとめとして、ロードマップ(行程表)、革新的なエネルギー高度 利用技術の活用、継続的な検討課題を示します。 -8- Ⅱ 1 現状及び課題 国際的な現状 経済活動に必要不可欠なエネルギーは、世界各国が安定的な確保を目指していま す。産業革命以後、石油をはじめとしたエネルギーは各国の経済的発展を支え続け てきました。 近年では、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などの新興国の経済発 展に伴い、世界的にエネルギー需要が急増しており、エネルギー資源の確保が難し くなってきています。 (1) 国際エネルギー消費動向 ア 一次エネルギー消費量の推移 1970 年代以降の世界の一次エネルギー(石炭や石油、天然ガス、水力など のように、自然界にあるままの形状で得られるエネルギーのこと)消費量の 推移は以下のとおりです。 現代に至るまで、世界の一次エネルギー消費量は増加し続けており、その 3分の1が原油によるものです。1970 年代にあったオイルショックの教訓か ら世界各国が石油依存からの脱却を図り、天然ガスや原子力、石炭などの石 油代替エネルギーへの転換も進んでいます。 図 2-1 世界のエネルギー消費量の推移(エネルギー源別、一次エネルギー) (TOE:原油換算トン) *原油換算トン (出典:IEA「Energy Balance2010」を基に経済産業省が作成) 出典:経済産業省「エネルギー白書 2011」 -9- →種類の異なるエネルギーの量を原 油に換算したもの イ 世界の電力消費量の推移 一次エネルギーを転換して得られる二次エネルギー(使いやすく加工された エネルギー)の一つである電力消費量の推移を見ると、一次エネルギーなどと 同様に増加を続けています。 1994 年以降、途上国が多いアジア地域の伸びが大きくなっています。 図 2-2 世界の電力消費量の推移 ( 出 典 : IEA 「 Energy balance of OECD Countries, Energy Statistics and Balance of Non-OECD Countries」をもとに経済産業省作成) 出典:経済産業省「エネルギー白書 2011」 (2) 再生可能エネルギーの導入状況 1970 年代の二度のオイルショック以降、世界各国では石油依存からの脱却 を図り、省エネルギー対策や石油代替エネルギーの導入を進めてきました。 しかし、現在でも一次エネルギー消費量に占める化石燃料の割合は8割を 超えています。世界規模での地球温暖化対策への貢献の観点からも、再生可 能エネルギーの導入促進が急務となっています。 - 10 - 「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理の参考資料(エ ネルギー・環境会議(平成23年7月29日))によると、2007年度の一 次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーなどの割合は、日本が6%、 ドイツが8%、アメリカとフランスが5%、韓国が1%という状況です。 平成22年度(2010年度)エネルギー需給実績(速報)(平成23年 11月18日公表)(資源エネルギー庁)「一次エネルギー国内供給の推移」 では、再生可能エネルギーなどは約7%となっていますが、約半分は、水力 によるものです。 また、我が国の一次エネルギー自給率は 18%(原子力含む)と低く、エネ ルギーリスクの回避のためにも、自給可能な再生可能エネルギーの積極的な 導入が望まれます。 図 2-3 エネルギー政策の各国比較(2007 年度)(抜粋) (出典:IEA「Energy balance of OECD Countries, Non-OECD Countries2009/Electricity information」等) 出典:「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理(平成23年7月29日 ルギー・環境会議) - 11 - エネ 2 国における現状 (1) 国内エネルギー需給動向 我が国の高度経済成長期をエネルギー供給の面で支えたのが、中東地域などで 大量に生産されている石油です。 第一次オイルショック後、我が国は、エネルギー供給を安定化させるため、 石油依存度を低減させ、原子力、天然ガス、石炭などの導入を進めました。 しかし、化石エネルギーの依存度は8割と依然として高く、化石エネルギーの ほとんどを輸入に依存する我が国にとっては、その安定的な供給が課題です。 図2-4 一次エネルギー国内供給の推移 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」をもとに経済産業省が作成 出典:経済産業省「エネルギー白書 2011」 我が国は、 1970年代の二度にわたるオイルショックを契機に産業部門の 省エネルギー化が進み、エネルギー消費をある程度抑制しつつ、経済成長を果 たすことができました。 一方、業務部門と家庭部門を合わせた民生部門のエネルギー消費は、ライフス タイルの変化に伴い、2.4倍となりました。 - 12 - 図 2-5 最終エネルギー消費と実質GDPの推移 (出典:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」、内閣府「国民経済計算年報」、(財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー・ 経済統計要覧」をもとに経済産業省が作成) 出典:経済産業省「エネルギー白書 2011」 第1次オイルショック後、原子力発電、石炭火力発電、LNG(液化天然ガス)など の石油代替電源の開発が積極的に進められてきました。 福島第一原子力発電所の事故が発生したことで、発電コストが注目されました。 現在、国のエネルギー・環境会議のコスト等検証委員会による発電コストの検証が行 われています。 図 2-6 発電電力量の推移 (出典:資源エネルギー庁「電源開発の概要」 、「電力供給計画の概要」をもとに経済産業省が作成) 出典:経済産業省「エネルギー白書 2011」 - 13 - 図 2-7 主な電源の発電コスト 出典:エネルギー・環境会議「コスト等検証委員会報告書(案)」 (2) 国の再生可能エネルギーの導入状況 国は、地球温暖化対策、エネルギー自給率の向上、エネルギー源の多様化、 枯渇しないエネルギーとして、再生可能エネルギーの導入を支援してきました。 総合エネルギー統計平成22年度(2010年度)エネルギー需給実績(速 報)によると、2010年度の一次エネルギー国内供給に占める再生可能エネ ルギーの割合は、約7%です。 そのほとんどが水力によるもので、その他については活用が進んでいません。 平成22年6月に策定されたエネルギー基本計画では、一次エネルギーに 占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに10%に達することを 目指しています。 再生可能エネルギー導入の課題は、高い発電コストや供給の不安定性、 技術開発、立地制約、原料(バイオマス)の安定調達などがあります。 - 14 - (3) エネルギー基本計画などの見直しの動き 東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故の発生により、我が国のエネ ルギー政策の見直しは、次の会議で行われています。 ○ 「エネルギー・環境会議」・・・新成長戦略実現会議の分科会として新設 国家戦略担当相が議長となり、経済産業大臣、環境大臣、農林水産大臣ほかで 構成し、平成24年に「革新的エネルギー・環境戦略」を策定するため開催する ものです。平成23年7月29日に「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向け た中間的な整理を決定しました。内容は、エネルギーのベストミックス、電力シ ステムの在り方、原子力の徹底検証などです。 ○ 総合資源エネルギー調査会に基本問題委員会を設置 経済産業省は、エネルギー基本計画(平成22年6月閣議決定)を見直すため、 経済産業省の諮問機関である総合エネルギー調査会に基本問題委員会を設置し 来夏に新基本計画の策定を目指しています。(平成23年10月3日初会合) ○ 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再生可 能エネルギー特別措置法)が成立 国は再生可能エネルギーの利用拡大を目的に、電気事業者による再生可能エネ ルギー電気の調達に関する特別措置法(再生可能エネルギー特別措置法)を成立 させた(平成23年8月26日) 再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発 電された電気を、一定の期間・価格で電気事業者が買い取ることを義務付けるも の。電気事業者が買取りに要した費用は、原則として使用電力に比例した賦課金 によって回収す ることとしており、電気料金の一部として、国民が負担する。 平成24年7月1日施行。 - 15 - 3 本県における現状 (1) 本県の地域特性 ア 埼玉県の地勢と地域区分 (ア) 地勢 埼玉県は関東地方の中央部から西部に位置する1都6県に囲まれた内陸県 で、全域が都心から約100㎞圏域に含まれます。 東西約103km、南北約52km、面積約3,800k㎡で、国土の約100分の1 に当たり、全国で39番目の広さです。 山地面積が約3分の1、残り約3分の2を平地が占めており、埼玉県の森 林は、県土保全・水源のかん養・保健休養など貴重な役割を担っています。 図 2-11 埼玉県の地勢 出典:埼玉県の地形区分と名称図(1975 年村本達郎氏による)、出典:埼玉県環境基本計画(H19) (イ) 気象 埼玉県の気候は、夏は高温多湿で、冬は低温乾燥でからっ風といわれる北西 の季節風が強い内陸性の太平洋側気候です。 北部から南部の東側にかけては、県内でも夏の気温が高い地域になってお り、平成19年8月に岐阜県の多治見市とともに、熊谷市で国内最高気温の 40.9℃が観測されました。 日照時間が2,000時間を超える年が多いのが本県の気象の特色で、快晴日数 日本一です。 - 16 - 図 2-8 快晴日数 出典:グラフで見る彩の国さいたま(県統計課H22) イ 人口、産業、土地利用の状況 (ア) 人口、世帯数 本県の人口は719万5千人(平成22年国勢調査)で、今後もしばらく は緩やかに増加すると見込まれます。しかし、合計特殊出生率*は平成22 年(2010年)現在で1.32と、人口を維持していくために必要とされ る2.07を大きく下回っていることなどから、本県の人口は今後数年のう ちに減少に転じ、平成42年(2030年)には700万人程度となる見通 しです。 埼玉県は、東京都心部のベッドタウンとして発展し、昭和35年から昭和 52年の間に人口が倍増しました。 県内には公営住宅、分譲マンションなど集合住宅の建設が進みました。 集合住宅に住む一般世帯の割合は、40.2%であり、全国で 10 番目に多くな っています。 図 2-9 人口、人口増加率 - 17 - 出典:平成22年度国勢調査結果(県統計課) (イ) 商工業 製造品出荷額等は14兆6,577億円で全国第7位を誇り、輸送機械、化学、食 料品、印刷、情報通信機械の5業種で全体の50.5%を占めています。 川口市の鋳物や金型、さいたま市の光学機器など、長年にわたって培った高 度な技術力を有する多彩な企業が活躍するほか、大規模工場をサポートする中 小企業が集積しているのも特徴です。 注)1 従業員数 4 人以上の事業所について集計 2 事業所とは、通常、工場・製作所・製造所あるいは加 工所などと呼ばれ、一区画を占めて主として製造又は加工 し卸売りする事業所。 3 製造品出荷額等とは、1年間における製造品出荷額、 加工賃収入額及びその他の収入額(くず及び廃物など)の合 計。 資料:県統計課「工業統計調査結果報告書」 図 2-10 産業別の製造品出荷額等の割合 (平成 20 年) 出典:平成22年版グラフで見る彩の国さいたま(県統計課) また、県内では、64か所の工業団地(平成22年度末)が整備されてき ました。面積が75ha以上の工業団地を次の図に示します。 深谷工業団地 (深谷市) 児玉工業団地 (本庄市・ 上里 町・神川町) 富士見工業団地 (行田市) 加須大利根 工業団地 (加須市) 加須川口 工業団地 (加須市) 上里町 本庄 市 深谷 市 熊谷工業団地 美里町 神川町 鷲宮産業団地 (久喜市) 羽生 市 熊谷市 行田 市 (熊谷市・深谷市) 加須 市 長瀞町 寄居町 皆野町 滑川町 小川町 東秩父村 久喜 市 鴻巣 市 嵐山町 久喜菖蒲工業団地 (久喜市) 幸手 市 吉見町 小鹿野町 ときがわ町 嵐山花見台 工業団地 (嵐山町) 白岡町 伊奈町 桶川 市 鳩山町 横瀬町 杉戸町 北本 市 東松山 市 川島町 越生町 蓮田 市 春日部 市 上尾 市 坂戸 市 岩槻工業団地 (さいたま市) 宮代町 松伏町 秩父 市 鶴ヶ島 市 毛呂山町 川越 市 富士見工業団地 (川越市・坂戸市・ 鶴ヶ島市) 飯能 市 さいたま 市 越谷 市 日高 市 狭山 市 富士見 市 入間 市 三芳 町 川口 市 戸田 市 新座 市 川越狭山工業団地 (川越市・狭山市) 図 2-11 蕨市 鳩ヶ谷 市 八潮 市 市 所沢 市 三郷 市 草加 市 志木市 朝霞 ビッグヒルズ 飯能大河原 工業団地 (飯能市) 吉川 市 ふじみ野市 和光 市 草加工業団地 (草加市) 草加八潮工業団地 (草加市・八潮市) 工業団地(面積 75ha 以上) 出典:埼玉県工場適地図(H23)(県企業立地課)を元に作成 - 18 - 小売業で、最も多いのは「飲食料品」で本県の商業で主要な事業となっていま す。(平成 19 年 6 月 1 日現在 経済産業省「商業統計表」) 図 2-12 県内の小売業 出典:埼玉県ホームページ 県のあらましを元に作成 (ウ) 農業 農業産出額は、1,995億円で全国第18位、産出額1位の「ねぎ」 や「小松菜」をはじめとする野菜、米、麦、畜産、果実、花植木など多彩 な農産物が生産されています(平成21年産農林水産省調べ)。 また、畜産業は、県北部が特に盛んで、野菜、米とともに、本県農業の基 幹部門となっています。 173 億円 (8.7%) 298 億円 (14.9%) 出典:埼玉県ホームページ 157 億円 (7.9%) 1,995億円 (平成21年度) 県のあらまし 図 2-13 出典:農林水産省 952 億円 (47,7%) 6 商工業 農業算出額 「生産農業所得統計」 415 億円 (20.8%) <21 年産> 生乳 80,728t (全国第 20 位) 13,657 (全国第 28 位) 222,020 (全国第 21 位) 54,642 (全国第 20 位) 表 2-1 飼養頭羽数、出荷額数 - 19 - (エ) 土地利用 県土の利用形態をみると、森林が32%、農用地が21%、宅地が19%、道路 が9%、水面・河川・水路が5%、その他が14%で、農林地の面積が、県土の53% を占めています(平成22年度 土地利用現況把握調査「県土地水政策課」)。 14% 水面・河川・水路 5% その他 森林 32% 森林 農用地 宅地 9% 道路 道路 宅地 19% 水面・河川・水路 農用地 その他 21% 図 2-14 土地利用形態 - 20 - ウ 県内市町村のエネルギービジョン策定状況 各自治体が地域の特色を活かし、エネルギー政策に取り組んでいます。 表 2-2 埼玉県内の新エネルギービジョン策定状況 6市町/63市町村 市町村 坂戸市 策定年度 名称 重点施策として、公共施設への太陽光発電システムのモデル的導入、一般 坂戸市地域新エネル 住宅への太陽光発電の普及、公用車の更新時にクリーンエネルギー自動 2003年度 ギービジョン 車導入等を掲げるほか、市施設へのその他の新エネルギーの導入の検討 を掲げている。 さいたま市地域新エ さいたま市 2005年度 ネルギービジョン 和光市 内容 積極的に導入するのは、太陽光、太陽熱、クリーンエネルギー自動車とし、 その他の新エネルギーについては、調査検討の上導入を目指すとしてい る。 新エネルギー導入プロジェクトとして、情報発信基地の整備、意識啓発、公 和光市地域新エネル 共施設への新エネルギーの率先導入、集合住宅への新エネルギー導入方 2006年度 ギービジョン 策推進、未利用エネルギー(廃棄物、温度差)の面的活用、クリーンエネル ギー自動車普及、災害に強いまちづくりを掲げている。 ときがわ町地域新エ ときがわ町 2005年度 ネルギービジョン 建具の端材の利用、間伐材などの未利用木質資源を活用した、バイオマス 利用を推進。木質資源を活用した事業案・導入効果検討。観光など木質バ イオマスを活用した地域づくりにも言及。 秩父市 市域の87%森林に覆われている秩父市は、森林=木質バイオマスの、農 秩父市地域新エネル 業、家庭、宿泊施設等あらゆる分野での活用を掲げている。そのほか既存 2008年度 ギービジョン 水車の動力活性化、マイクロ水力発電導入、家庭用太陽光発電・太陽熱利 用設備導入、廃食油からのBDF製造等も先導的に取り組むとしている。 鴻巣市 家庭用・事務所用太陽光発電の導入の積極的な推進を掲げている。その 他、防犯灯災害時の非常用電源としての太陽光発電、太陽熱利用、中小水 鴻巣市地域新エネル 力発電、バイオディーゼル(遊休農地活用による菜の花栽培)、家庭用ヒート 2010年度 ギービジョン ポンプ、燃料電池、クリーンエネルギー自動車については、検討するとして いる。 表 2-3 埼玉県内の省エネルギービジョン策定状況 3市/63市町村 市町村 策定年度 名称 内容 所沢市 市の率先取組として省エネ改修、省エネ行動を掲げるほか、家庭でも住宅 所沢市地域省エネル の省エネ化・省エネ機器導入を進めるとしている。また、事業所の省エネ推 2004年度 ギービジョン 進、運輸部門における省エネ推進、市民・事業者・市の協働を行うとしてい る。 東松山市 2006年度 ルギービジョン 草加市 公共施設での省エネルギー行動の率先実行、事業者への省エネ機器の導 入支援、家庭の省エネ機器の普及推進等を推進するとしている。また、エコ 草加市地域省エネル ドライブの普及促進や公共交通機関の利用促進、小中学生への省エネル 2008年度 ギービジョン ギー・環境教育、自然エネルギーの利用促進等を掲げている。長期的な目 標として、新たな省エネルギー技術の導入、省エネルギー住宅の導入・支 援、新たな交通体系の構築等を示している。 東松山市地域省エネ 市施設における省エネ改修等、市が率先して省エネ取り組むほか、家庭・ 地域で省エネ家電普及促進や省エネ活動の担い手育成等を行う。また、事 業所・商業施設における省エネ対策の推進を掲げている。 - 21 - (2) 本県のエネルギーの状況 東日本大震災の影響を受け、企業や家庭で節電が進んでいるため、エネルギー の消費量に大きな影響がある可能性も想定されますが、現状で把握可能なデータ により、県内のエネルギーの消費状況を整理するとともに、需給見込みを算定し ました。 ア 県内エネルギー需給動向 資源エネルギー庁の「都道府県別エネルギー消費統計」によると、埼玉県 における 2009(平成 21)年の県内最終エネルギー消費の推計値は 632,767TJ (テラジュール)注)でした。 部門別消費量をみると、産業部門のエネルギー消費量は減少しているもの の、民生家庭部門、民生業務部門、運輸部門では増加しています。 また、経済成長率を示す実質県内総生産は、1996(平成 8)年度推計以降、 ほぼ増加傾向にありましたが、2008 年度には減少に転じています。最終エネ ルギー消費をみても、2008 年には減少に転じていることが分かります。 注)TJ(テラジュール) :J(ジュール)は、発熱量を表す国際的な単位で、カロリーに代 わるもの。T(テラ)は、キロ(10の3乗)などと同じ、補助単位で10の12乗(兆) 。 ※ グラフの下から、産業部門、民生家庭部門、民生業務部門、運輸部門の順 図 2-15 埼玉県の最終エネルギー消費と実質県内総生産の推移 産業部門 民生家庭部門 民生業務部門 900,000 運輸部門 実質GDP 2009年: 1990年比 +16% 800,000 30,000 25,000 600,000 20,000 500,000 15,000 400,000 300,000 10,000 実質県内総生産(10億円) 最終エネルギー消費(TJ) 700,000 200,000 5,000 100,000 0 0 年度 ※ 都道府県別エネルギー消費統計(資源エネルギー庁)をもとに埼玉県がグラフを作成 - 22 - イ 県内エネルギー需給見込 政府が平成 21 年 8 月に改定した「長期エネルギー需給見通し(再計算)」に 基づき、本県における 2020 年度、2030 年度のエネルギー需給の見通しを推 計しました。 まず、長期エネルギー需給見通しにおいては、最終エネルギー消費の将来 推計として、表 2-5 の試算結果が示されています。この試算結果に、県内の 部門別最終エネルギー消費量をあてはめ、2020 年度、2030 年度における埼玉 県のエネルギー需給見込みとして推計しました。 表 2-4 国の「長期エネルギー需給見通し(再計算)」における最終エネルギー消費の試算結果 (原油換算百万 KL) 原油換算KL:種類の異なるエネル ギーの量を原油に換算したもの 表 2-5 現状固定ケース 努力継続ケース 最大導入ケース 「長期エネルギー需給見通し(再計算)」における各ケースの解説 現状(2005 年度)を基準とし、今後新たなエネルギー技術が導入されず、機器の効率が 一定のまま推移した場合を想定。耐用年数に応じて古い機器が現状の標準レベルの機器に 入れ替わる効果のみを反映したケース。 これまで効率改善に取り組んできた機器・設備について、既存技術の延長線上で今後とも 継続して効率改善の努力を行い、耐用年数を迎える機器と順次入れ替えていく効果を反映 したケース。 実用段階にある最先端の技術で、高コストではあるが、省エネ性能の格段の向上が見込ま れる機器・設備について、国民や企業に対して更新を法的に強制する一歩手前のギリギリ の政策を講じ最大限普及させることにより劇的な改善を実現するケース。 埼玉県における最終エネルギー消費の将来推計は、表 2-6 及び図 2-16 のよ うになります。 産業部門では、我が国の世界最高水準といわれる省エネ努力を今後も継 続・強化することが必要とされます。民生家庭部門・民生業務部門、運輸部 門では、過去 15 年間の間に増加したエネルギー消費量の伸びを減少させるこ とが必要となります。 推計の結果、努力継続ケースと最大導入ケースにおいて、2020 年度には 2005 年度レベル以下に最終エネルギー消費を抑えることができる見通しとな り、また最大導入ケースでは 2030 年度に 1990 年度レベル以下に達する見通 しです。 - 23 - 表 2-6 埼玉県における最終エネルギー消費の将来推計 (単位:TJ) 2030年度 2020年度 1990年度 2005年度 産業部門 民生家庭部門 245,075 138,682 現状固定 努力継続 最大導入 現状固定 努力継続 最大導入 208,185 207,035 207,035 203,585 205,885 205,885 200,134 189,779 206,724 189,779 176,223 223,668 189,779 159,279 民生業務部門 運輸部門 合計 127,102 36,718 547,576 - 186,143 56,741 640,849 93,272 17% 1990年度比 210,008 53,268 677,034 129,457 24% 186,143 49,794 632,751 85,174 16% 162,279 45,162 587,248 39,672 7% 207,621 52,689 689,863 142,286 26% 176,597 47,478 619,739 72,162 13% 900,000 2005年レベル 800,000 最終エネルギー消費(TJ) 700,000 600,000 500,000 400,000 1990年レベル 300,000 実績 現状固定 努力継続 最大導入 200,000 100,000 0 年度 図 2-16 埼玉県におけるにおける最終エネルギー消費の将来推計 - 24 - 133,641 39,951 533,005 -14,572 -3% ウ 再生可能エネルギーの賦存量、利用可能量、導入状況 県内で利用可能と考えられる再生可能エネルギーを主な対象として、表2 -7のとおり、賦存量(存在するすべての量)と利用可能量(制約はあるもの の、取り出すことが可能な量)の推計を行いました。 このビジョンでは、次の再生可能エネルギーを対象にしています。 高温の地熱が期待できず、掘削にも多額のコストがかかる地熱と、大規模 な水力については、県内における新たな開発の可能性などを考慮して対象と しませんでした。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 太陽エネルギー(光発電・熱利用) 風力エネルギー(風力発電) 水力エネルギー(中小水力発電) バイオマスエネルギー(熱利用・発電・燃料製造) 廃棄物エネルギー(熱利用・発電(燃料製造を含む)、汚泥焼却炉排熱) 温度差エネルギー(河川水熱、地中熱、下水熱) 工場排熱 【調査結果(表2-7)の概要】 ○ 太陽エネルギー(光発電・熱利用) 本県で最も利用可能量が多い再生可能エネルギーです。 発電としては、太陽の光が持つエネルギーを、太陽光パネルに内 蔵された太陽電池で直接電気に変えて利用します。 熱利用としては、太陽の熱エネルギーを集熱器で集めて、給湯や冷 暖房に利用します。 今回の推計では、太陽光パネルと集熱器をいずれも屋根に設置した場 合を想定したため、宅地面積の多い県南地域を中心として利用可能量 が多くなっています。なお、太陽光発電パネルと太陽集熱器は、屋根 に半分ずつ設置したと仮定して算出しています。 調査の結果、パネル価格の低減などがあった場合に、家庭用太陽光発 電装置数は、最大導入ケース注)22万6千基ととなります。 注)最大導入ケース:導入の可能性があると思われる再生可能エネルギー関連設備・ 件数などを現時点で最大限に見積もったケース - 25 - ○ 風力エネルギー(風力発電) 県全体における風力発電の利用可能量は全国で第47位です(平成2 1年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査 調査報告書 平成 22年3月 環境省地球環境局地球温暖化対策課)。 啓発目的のモニュメントや LED を利用するための風車設置の可能性 があります。技術革新により導入可能性が高まることも想定されます。 ○ 水力エネルギー(中小水力発電) 県内の利用可能量は全国で第41位です(平成21年度 再生可能エ ネルギー導入ポテンシャル調査 調査報告書 平成22年3月 環境省 地球環境局地球温暖化対策課)。 一般に水力発電を行うには、水が流れる高低差と水の流量、発電機 の設置やメンテナンスがしやすい場所であるかが重要です。 それらの状況を満たす箇所であれば、中小水力発電の検討も可能で す。 調査の結果、水利権などの諸条件を考慮せず、上下水道施設、既設ダム などに発電施設を設置した場合に、最大導入ケースとなります。 ○ バイオマスエネルギー(熱利用・発電・燃料製造) バイオマスとは、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を 除いたものをいいます。バイオマスは本県で2番目に利用可能量が 多いエネルギー源です。 今回の調査では、木質系(木材)、農業系(稲わら、もみ殻、麦わ らなど)、畜産系(家畜のふん尿)、食品系(食料品の残さ)につい て調査を行いました(「バイオマス賦存量・利用可能量の推計~GI Sデータベース~」(独立行政法人新エネルギー・産業総合開発機構 (NEDO))を利用)。 木質系では、森林に放置されたままの間伐材、ごみとして処分されている公 園樹木や道路街路樹の剪定枝にエネルギーとしての活用の可能性があります。 農業系は、発生量が多い一方で現状利用量が少ないため、利用の可能性が ありますが、容積がかさ張るため、収集方法が主な課題となります。 畜産系は、たい肥として利用される場合が多くなっていますが、需要との - 26 - バランスに課題があり、エネルギー源としてさらに有効に活用できる可能性 があります。 食品系のうち、生活・事業系厨芥類(生ごみ)は、人口が多い地域での発生 量が多くなっています。分別と収集方法が課題ですが、大きな可能性がありま す。 現状利用量には、エネルギーとしての利用と堆肥化などの素材としての利用 がありますが、そのほとんどが素材として利用されていると考えられていま す。エネルギーとしての正確な利用量は把握できていません。 調査の結果、原料の搬出コストなど諸条件を考慮せず、間伐材 の燃料化施設の設置、剪定枝のチップ化による発電利用、畜産農家 への畜産バイオマスを利用したメタン発酵施設の設置などの取組を すべて行った場合、最大導入ケースとなります。 ○ 廃棄物エネルギー(熱利用・発電(燃料製造を含む)) 廃棄物エネルギーとは、廃棄物を燃やした時の熱エネルギーのこと です。県内でも住宅地や業務地が多い、県南部や県東部における利用 可能量が多くなっています。 市町村のごみ焼却施設では、発電や温水プールなどへの余熱供給が 行われていますが、市街地から離れているため、熱の搬送が難しく、 十分に利用しているとはいえない状況にあります。 清掃センターの再編や更新の際、利用を検討する必要がありま す。 また、下水汚泥の焼却工程で発生する高温排ガスから回収して利用 する熱を、廃棄物エネルギーに含めて考えることにします。 利用可能量は少なく発生量も限定的ですが、熱需要のある施設が近 隣に建設された場合などは、検討の余地があります。 調査の結果、ごみ焼却施設の更新時期や統廃合を考慮せず、県内全て の施設に発電設備などのエネルギー回収施設を設置した場合に、最大 導入ケースとなります。 - 27 - ○ 温度差エネルギー ・ 河川水熱 外気と比べ、冬は温かく夏は外気より冷たい河川水の特性を活か して、ヒートポンプ(エアコンと同じ原理)の熱源として利用する ものです。 取水施設の設置にかかる多額のコストや河川水熱の搬送などに課 題があります。 ・ 地中熱 一年を通じてほぼ一定の地中熱をヒートポンプ熱源として利用 するものです。 利用可能量が多くなっていますが、地中熱集熱パイプの敷設に多 額のコストがかかるため、さらなる技術開発が待たれます。 ・ 下水熱 冬は温かく夏は外気より冷たい下水の特性を活かし、ヒートポンプ (エアコンと同じ原理)の熱源として利用するものです。 県内の下水処理場は市街地から離れているため、下水熱の搬送が課 題となります。 ○ 工場排熱 工場から出る排熱(排ガス、温水および蒸気など)のことです。 工場排熱の県内の利用可能量は多いですが、収集・搬送が難しいため、 工場間における融通や周辺地域への供給なども含めて、十分な調査の上 導入の検討を行う必要があります。 - 28 - 表 2-7 埼玉県における再生可能エネルギーの 賦存量・利用可能量・現状利用量の推計 [TJ] 利用可能量 賦存量 エネルギーの種類 利用率 (現在活用している 量) (1)太陽 エネルギー ①太陽光発電 636,377 18,110 4,750 1,015 5.6% ②太陽熱利用 3,916,168 111,448 925 1,554 1.4% (2)風力・水力 エネルギー ①風力発電 - - ― 0 - ②中小水力発電 - - 78 440 - 29,769 27,312 ― *2 7,567 27.7% ①木質系 計 10,016 7,578 454 3,341 44.1% 林地残材 4,877 2,439 ― 92 3.8% 製材所廃材 334 334 ― 307 91.9% 果樹剪定枝 75 75 ― 18 24.0% 164 164 ― 139 84.8% 4,566 4,566 ― 2,785 61.0% ②農業系 3,473 3,473 ― 1,100 31.7% ③畜産系 2,290 2,271 78 1,393 61.3% 13,990 13,990 21 1,733 12.4% 13,607 13,607 ― 1,435 10.5% 383 383 ― 298 77.8% ①河川水 541 132 ― 0 0.0% ②地中熱 117,472 5,876 14 61 1.0% ③下水熱 860 568 ― 0 0.0% (5)工場排熱 19,710 5,631 ― 0 0.0% (6)廃棄物エネルギー *3 18,435 13,588 850 5,398 39.7% 4,739,332 182,665 7,170 15,595 8.5% バイオマス計 (3)バイオマス エネルギー 都市内剪定枝 建築解体・新築廃材 ④食品系 計 生活・事業系厨芥類 動植物性残さ (4)温度差 *4 エネルギー 合計 ※ (制約はあるもの (存在するすべての の、取り出すことが 量) 可能な量) 最大導入ケース 現状利用量*2 *1 再生可能エネルギー(クリーンエネルギー)地域活用推進事業調査業務報告書(平成23年3月 埼玉県)などを元にして作成。(1)~(4)は再生可能エネルギー。(5)~(6)はその他の未利用エネルギー。 *1・・・導入の可能性があると思われる再生可能エネルギー関連設備・件数などを現時点で最大 限に見積もったケースです。 *2・・・現状利用量のうち、バイオマスエネルギーは正確な利用量が把握できておらず、ほとん どが素材として利用されていると考えられます。 *3・・・下水汚泥の焼却炉排熱を含みます。 *4・・・温度差を利用して、熱を取り出すヒートポンプ技術を利用するものです。 - 29 - Ⅲ 1 再生可能エネルギーを取り巻く状況 再生可能エネルギーの導入の意義と東日本大震災後の変化 再生可能エネルギーの位置付けは、東日本大震災前後で大きく変化しました。 国や県としての再生可能エネルギー導入の意義の変化について、震災の前後で整理 しました。 (1) 東日本大震災前の考え方 ア 国としての再生可能エネルギー導入の意義 (ア) 地球温暖化対策 我が国の温室効果ガスの9割はエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)が占 めています。再生可能エネルギーは、化石燃料に比べ、二酸化炭素の排出量が 桁違いに少なく、環境負荷が少ないため、石油や石炭などの化石燃料源のエネ ルギーから置き換えることで低炭素な社会づくりに貢献することができます。 電力会社は電力供給量を予測し、発電を行っています。通常はバランスのと れた発電を行っていますが、電力の需要のピーク時には化石燃料を多く使い、 発電を行っています。住宅や企業で再生可能エネルギーを自家製造・使用する ことが二酸化炭素(CO2)の削減に直結します。 (イ) エネルギーの安全保障 エネルギー資源に乏しい我が国においては、そのほとんどを海外からの輸入 に頼っています。資源価格の上昇や新興国の需要急増による、エネルギー需給 のひっ迫のリスクを低減していくことが重要です。 そのためには、エネルギー資源の輸入先の多様化と同時に、再生可能エネ ルギーを中心とした非化石エネルギーを含む国内エネルギー資源の開発・利 用を促進することが求められます。 (ウ) 地域におけるエネルギーの安定確保 国民の暮らしを豊かにするため、また、産業発展のためには、地域において エネルギーを安定確保することが重要になります。 今後、枯渇する可能性の高い化石燃料に対して、再生可能エネルギーは、持 続可能性の高い循環型のエネルギーであり、太陽エネルギーをはじめ、風や水 の流れ、木材など、地域に存在する多種多様な自然から得られるものです。 そのため、地域の再生可能エネルギーを新たに導入することで、エネルギー 源の多様化・分散化が図られ、限られたエネルギー源に依存することなく、地 域のエネルギーの安定確保に貢献します。 イ 県としての再生可能エネルギー導入の意義 前述のような国としての意義に加え、県としても再生可能エネルギー導入には、 大きな意義があります。 (ア) エネルギー供給リスクを低減する手段 私たちは、県外で製造・輸送される電気や都市ガスなどのエネルギーを事 業者から購入して利用しています。 - 30 - それに対し、再生可能エネルギーは、県内で製造し、活用する地産地消の エネルギーです。県内に、再生可能エネルギーを大幅に導入することで、県 外で製造したエネルギーへの依存度を減らし、災害などの緊急時におけるエ ネルギーの供給リスクを低減することができます。 (イ) 地域の活性化 産業の振興・雇用の創出 地域資源である再生可能エネルギーを大量に導入することは、関連する 産業の活性化や新たな産業の誕生が期待されるとともに、その結果、新たな雇 用が創出されることにもなります。 例えば、再生可能エネルギーである森林資源から新たにバイオマス燃料を製 造し、県内に供給することを想定します。燃料の製造という新たな産業の振興 で雇用が創出されるほか、原料の供給元となる、林業の再生、製品の流通など の効果も期待できます。 (ウ) 地球温暖化対策 低炭素なエネルギーとしての再生可能エネルギーに転換していくことによ り低炭素な地域社会の実現に貢献します。 (2) 東日本大震災後の考え方 東日本大震災後、エネルギーを取り巻く環境も大幅に変化せざるを得ない状況に なりました。大きな変化の一つに原子力への依存体質からの変化が挙げられますが、 再生可能エネルギーの位置付けも大きく変化しました。 ア 国としての再生可能エネルギー導入の意義の変化 (ア) 基幹供給エネルギーとして注目 これまで我が国は、他国に例を見ないほど品質の良い、安定的なエネルギー 供給を実現してきました。再生可能エネルギーはコスト面、供給面からの問題 があり、その普及がなかなか進みませんでした。 しかし、東日本大震災により、エネルギー供給のよりどころとしていた原子 力エネルギーが短・中期的に期待できなくなりました。また一方で低炭素社会 への取組を後退させるわけにもいかないため、「再生可能エネルギー」を基幹 となる供給源として注目せざるを得ない状況になりました。従来の家庭や企業 での自家使用としてのみならず、電力供給面、新たな電力供給事業を期待する という意味で大いに注目されることとなりました。 (イ) 地球温暖化対策的な意義の変化 東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故の影響で、原子力発電所の 安全性に対する信頼がゆらいだため、点検中の原子力発電所が再稼働できない 状況になりました。 このため、原子力による電力供給が大幅に低下し、これにより全国的に節電 を余儀なくされる事態に追い込まれました。そうした状況のなか、電力供給不 足を補うために「再生可能エネルギーの拡大」が注目されました。 しかし、温暖化対策としては、再生可能エネルギーを拡大しても、火力発電 所などの化石燃料由来の電力を置き換える以前に、震災で失われた原子力エネ ルギーを置き換えることになります。つまり、震災前と比べ、再生可能エネル - 31 - ギーの拡大が、見かけ上、二酸化炭素(CO2)削減に直結しない状況になって しまいました。 短期的には電力の不足分を化石燃料で補わざるを得ない事態がになっていま すが、再生可能エネルギーの導入が、二酸化炭素(CO2)の排出抑制の意義と して重要であることに変わりはありません。当面、二酸化炭素(CO2)の排出 が増えることが避けられない現状において、従来以上にその意義が重要になり ました。 イ 県としての意義の変化 (ア) エネルギー供給リスクを回避する手段 福島第一原子力発電所の事故による電力供給不足により、県内でも計画停電 を経験しました。公共交通機関の混乱、信号の停止による交通事故、商店など の営業時間の短縮や変更、商品の供給不足など多くの不便を経験しました。災 害などでエネルギーが供給されないというリスクに対し、今まで以上に早急な 対応が求められています。 各自治体が地域の再生可能エネルギーを導入することで、県内の産業や県民 の生活を守り「県の価値」を一層高めていく必要があります。 2 (イ) 分散型エネルギーとしての価値の高まり 分散型とは、地域で消費するエネルギーの製造が、その近傍に分散して配置 されていることを意味します。 震災後、電力の供給不足への対応策として、企業においては、事業運営計画 の変更を余儀なくされているところもあります。 災害などによる供給リスクに備えるためには、県外で製造されたエネルギー 供給への依存度を減らし分散型エネルギー量を増加させていく必要があります。 再生可能エネルギーは、この分散型エネルギーとして期待されています。 (ウ) 革新的なエネルギー高度利用技術に対する期待 再生可能エネルギーには、日照や風況などの気象条件の影響を受け製造が不 安定であることやエネルギーの製造コストが高いという欠点があります。その 欠点を補う技術として、電力と熱を同時に供給し、エネルギーを効率よく使用 する天然ガスコージェネレーションや燃料電池などの「革新的なエネルギー高 度利用技術」があります。分散型エネルギーとしての再生可能エネルギーを補 完する役割を持つ、革新的なエネルギー高度利用技術を併せて普及促進してい く必要があります。 再生可能エネルギーを取り巻く状況に対する県の基本的な考え方 (1) エネルギー自給レベルの向上 ~県民生活や企業活動などの維持~ エネルギーの自立レベル・分散レベルを上げることで、県民生活や企業活動な ど様々な活動を維持していくための安全性、産業振興、暮らしやすさなど県の価 値を高めることを目指します。可能な限り県内生産の再生可能エネルギー供給量 の増加を図るとともに、省エネルギー政策の更なる強化と革新的なエネルギー高 度利用技術の活用を含め、県のエネルギー自給レベルを向上させます。 - 32 - (2) 未利用資源の最大活用 未利用資源(太陽エネルギー、林地残材、剪定枝、廃棄物、生ごみ、下水汚泥、 排熱など)を効率的に活用することにより、資源循環型システムの構築を推進す るとともに、埼玉県が持つ再生可能エネルギーの潜在力を最大限に活用します。 (3) 再生可能エネルギーを補完する周辺技術の活用 製造した再生可能エネルギーを有効に活用するために、その最大の課題である 安定性の向上、製造価格の低下を目指し、革新的なエネルギー高度利用技術(天 然ガスコージェネレーション、定置型燃料電池、ハイブリッド自動車、クリーン エネルギー自動車(電気自動車、燃料電池電気自動車など)、自然冷媒ヒートポン プ給湯器など)や蓄電池などを、再生可能エネルギーを補完する技術として積極 的に活用していきます。 (4) 地域特性に対応したエネルギーの面的活用 エネルギーの利用は、個々の建物だけでなく施設や建物間、地域全体で共同利 用すると効率的になりますが、これをエネルギーの面的活用といいます。 本県の再生可能エネルギーの供給面では、快晴日数の多さによる太陽光発 電や太陽熱利用に優位性があるものの、風力や地熱の利用が難しく、また、水力 (大型)などの新たな利用にも一定の限界があります。 一方、県内には工業団地と住宅地が混在するなど、エネルギー需要面では、利 用形態が異なる産業用と民生用の需要がバランスよく存在するため、情報通信・ 制御技術などを利用することで、エネルギー利用の最適化を図れる可能性があり ます。これらの技術を活用し、電力や熱の面的活用が最大限になるよう取り組み ます。 3 本ビジョンをまとめるに当たっての視点 福島第一原子力発電所の事故を境に、国では原子力政策の転換について議論が行わ れているところですが、現在もその結論が出ていない状況にあります。 事故による運転停止をはじめ、定期点検により停止している全国の原子力発電所が 点検終了後も再稼働ができない状況です。また、我が国では、供給される電力のうち 約3割を原子力が占めていたこともあり、全国規で節電が展開されています。 今までのように原子力発電所を増設することはできないと想定されますが、再生可 能エネルギーもすぐにはその代替はできないという厳しい状況にあります。そのため、 当面は、原子力発電の安全性を高めながら、引き続き、原子力も利用することになる と想定されます。 前述の「2 再生可能エネルギーを取り巻く環境に対する県の基本的考え方」のと おり、本来であれば『埼玉県の新エネルギービジョン』として、「さらなる省エネル ギー政策の強化」によってエネルギー需要を抑えた状態をベースに考えたうえで、国 の原子力エネルギー政策の動向を見極めつつ、「再生可能エネルギーの拡大」や「分 散型エネルギー機能の向上」を政策的に体系化すべきです。 しかし、再生可能エネルギーに対する関心・期待の高まりを受けて、本ビジョンの 検討段階で原子力の問題を含めて国のエネルギー政策が未だ議論の途中にある状況 で、本ビジョンを策定することとしました。 ついては、需要側からの「電力」と「熱」のベストミックスの視点を意識しつつ、 - 33 - 原子力問題の議論にも左右されない「再生可能エネルギーの最大限の活用」に焦点を 当て、課題を整理することとします。 4 再生可能エネルギーの導入における県の役割 ここでは、Ⅳ章以降に示す再生可能エネルギー導入諸施策について、その実現の可 能性を最大限にするための「県の役割」を明確化します。 もちろん、再生可能エネルギーの導入拡大には、自らによる率先導入が必要になり ますが、県の取組だけでは実現できません。県民、企業、NPO及び市町村などが、 それぞれの立場で取り組むことが求められるなか、県は、県民、企業、NPO及び市 町村などが積極的に再生可能エネルギーを導入するための『支援』を基本とします。 そのために、以下のような役割を担います。 (1) 設備導入時のイニシャルコスト(初期費用)の低減 再生可能エネルギー関連機器を導入するコストが大きく、その回収に時間がか かるため、県民や企業は、設備導入をためらう場合があります。 このため、再生可能エネルギー関連機器導入コストの低減を図るための取組を 行います。 (2) モデル事業の支援 再生可能エネルギーの導入には様々な課題が存在します。 実際に導入した場合の想定としては、 「設備費用の回収は可能か」、 「予定どおり のエネルギー量が確保できるか」、「メンテナンスなどで想定外のコストが発生し ないか」、「設備の耐久性は想定どおりか」などが考えられます。また、導入前の 技術・商品開発に大きなコストがかかることも大きな課題です。 これらが障害となり、導入が見送られることのないように、県として、民間が 事業の本格展開前に行うフィールド調査やモデル事業の支援を行います。具体的 には、国の補助事業への応募支援・共同提案(連携)などを行います。 (3) 制度設計の主導 再生可能エネルギーの分野では、未だ確立されていない技術や仕組み(システ ム)が多く、既存の制度のままでは、再生可能エネルギーの導入が進まないケー スが見受けられます。しかし、制度が新しく整理されることでその壁を乗り越え、 さらには、再生可能エネルギーの導入に拍車がかかるものもあります。 そこで、本ビジョンでの諸施策を進めるに当たっては、幅広い意見を取り入 れつつ、できるだけ事前に想定でき、再生可能エネルギーが導入しやすくなるよ うな新たな規制などの制度の設計を検討します。具体例としては、本県における 「目標設定型排出量取引制度」の対象事業者による再生可能エネルギーの導入な どがあります。 (4) 規制緩和/窓口の一本化 再生可能エネルギーの導入には、法令などで想定されていなかったような設備 の導入や仕組みを前提とすることが想定されます。この場合、これまでの制度下 では、法令などの規制を受ける可能性があります。 これに対して、県民や企業などからの声に耳を傾けつつ、導入の障害となるも - 34 - のについて県自らが規制緩和に取り組み、国に対しても要望していきます。 また、県民や事業者などが主導的に再生可能エネルギーを導入する際には、県 の様々な関係各所との交渉を要し、それに大きな手間と費用がかかるために民間 主導の取組がなかなか進まないことも想定されます。 ついては、窓口の一本化を進め、再生可能エネルギーの導入を加速させます。 (5) 研究会などの立ち上げ・運営 再生可能エネルギー導入のため、新たな取組を行うには、様々な知恵と技術の 集約化が必要です。 単独では解決できない問題を、多くの賛同する仲間と合同で行うことで解消す るための仕組みづくりを行います。 具体的には、県、大学及び民間企業が連携するなどして、研究会、ワーキング グループ(作業部会)及び協議会などを立ち上げ、その後は、関係者を拡大し、 各種調査結果を構成員にフィードバックするなどして、運営管理していきます。 (6) 各種団体との連携 再生可能エネルギーの導入を進めるため、近隣都県と連携するとともにNPO や関連団体とも連携し、県民に対しての情報提供や普及を進めていきます。 5 目標 このビジョンにおける目標は、県民、企業、団体、行政が協力・連携して、再生可 能エネルギーの導入を進め、自立・分散型のエネルギーの供給量を増加させることで、 県民生活や企業活動を守ろうとするものです。 目標設定に当たっては、今後、各主体が取り組むと見込まれる施策、県が推進する 施策を考慮しました。 なお、供給量とは、各主体が再生可能エネルギーの設備を導入した際に、現場で作 られる電気、熱などのエネルギーを指しています。 再生可能エネルギーの導入目標 再生可能エネルギーの供給量を、平成32年度末に、平成21年度 の約2.6倍にします - 35 - 再生可能エネルギーの導入目標 家 庭 業 務 / 産 業 合 計 6 H32 供給量合計 (TJ) 家庭用消費電 力に換算する と H21 供給量合計 比(倍) H21 供給量合計 (TJ) 4,900 TJ 378,000 軒分 約4.3倍 1,148 TJ 3,100 TJ 239,100 軒分 約1.6倍 8,000 TJ 617,100 軒分 約2.6倍 主な取組 ・住宅用太陽光発電装置導入の拡大 226,000 基 ・家庭用太陽熱温水器の導入促進 ・木質バイオマスを利用した燃料(バイ オオイル)の供給 ・業務用太陽光発電の導入促進 1,922 ・商業施設などへの業務用太陽熱設備の導 TJ 入拡大 ・工業団地への再生可能エネルギー及び未 利用エネルギーの導入促進 ・農業分野での畜産系バイオマスのエネル ギー利用の促進 3,070 TJ 本ビジョンの目指すもの できるだけ多くの再生可能エネルギーを導入・活用するために、平成32年度まで の県としての諸施策を示して、県内で製造されたエネルギー量を増やすこと、つまり、 エネルギー自給レベルを高めることにより、安全性、産業振興、暮らしやすさなど、 「県の価値」の向上を図ります。 - 36 - Ⅳ 再生可能エネルギー導入の基本方針 1 基本方針 再生可能エネルギーの賦存量、利用可能量などの調査結果から、本県の再生可能エ ネルギー導入の基本方針を次のとおりとします。 【再生可能エネルギー導入の基本方針】 ● 「ソーラー&バイオマス」の推進強化 本県の特性(利用可能量や今後のポテンシャルなど)や技術及び開発の状況な どを考慮し、再生可能エネルギーの導入を太陽光・太陽熱の有効利用及び未利用 資源となっているバイオマスの有効利用の推進を中心に、これまでの県の政策を 推進・強化します。 特に、太陽エネルギーは、快晴日数が多いという特性があるため、太陽光発電 に加えて、エネルギー変換(集熱)効率が高い太陽熱利用技術についても積極的 に施策を推進します。 ● 活用するエネルギー源の拡大 水力、風力、温度差などの各エネルギーについては、現在の技術ではコストが 高くなり、実用的な導入は困難です。本県の特性や技術開発の状況などを踏まえ て、これらを県民や民間が主体的に導入することを支援します。 廃棄物については、更なる有効活用を推進します。 ● 「熱」の有効利用 埼玉県は、セメント工場や県南部に集積している工場などから多くの熱が発生 することから、その排熱を未利用エネルギーとして他の用途に積極的に活用して いくことが求められます。また、河川水熱や地中熱をはじめとする温度差エネル ギーなどの利用も、技術やコストを見ながら積極的に検討していきます。 大きな課題である「熱」の集積・回収及び輸送などの技術開発の動向に注視しつ つ、建物間融通などによる効率的利用(面的活用)を積極的に推進します。 ● 再生可能エネルギーに関わる関係者(ステークホルダ)の拡大 再生可能エネルギーの導入の気運を県全体で醸成するため、関心を示す関係者 の増大を目指し、研究会、ワーキンググループ、勉強会、講習会、イベントなど を積極的に展開します。 37 2 再生可能エネルギー別導入の基本方向 基本方針に基づき、再生可能エネルギーごとに、次のとおり導入の基本方向を示し ます。 網かけ部分は、利用可能なエネルギー量が多いもの及び、利用はされているものの 有効利用とはいいがたく、利用方法に検討の余地があるエネルギーです。 表 4-1 再生可能エネルギーの利 用可能量(単位 TJ) 埼玉県再生可能エネルギー別導入の基本方向 現 状 導入の基本方向 (エネルギーの種類別) 埼玉県は快晴日数が多いという 特性があり、エネルギー量は豊富 (太陽光から得られるエ です。 ネルギー) 太陽熱は、太陽光に比べてエネル ギー変換効率が高いにも関わら (太陽光発電:18,110 TJ) ず活用が進んでいません。 【太陽光発電】 太陽光発電装置の普及推進を継 続します。 【太陽熱利用】 冷房利用技術なども含め有効性 をPRしながら導入を推進しま す。 県内の風力エネルギーは全国で 最小です。 わずかに期待される山間部への 大型の発電設備の設置も、その経 済性から困難です。 全国的にみても中小水力発電に 適した水量や水が流れ落ちる高 低差のある箇所は少ない状況で す。 弱い風でも発電できる風車や小 型風力発電設備などの技術開発 の動向を今後も注視していきま す。 森林資源が豊富な秩父地域にお いて、効率的かつ安価に間伐材な どを運び出すことが可能となれ ば、利用は飛躍的に増えます。 高性能林業機械の導入など、間伐 材などの効率的かつ安価な搬出 方法を検討するとともに、素材と エネルギー利用の両面から、事業 化を視野に検討を進めます。 エネルギー利用では、熱利用を主 として熱分解による可燃性ガス と液体燃料の製造を検討します。 太陽エネルギー (太陽熱利用:111,448 TJ) 風力エネルギー (風力発電) ( - TJ)注) 水力エネルギー (中小水力発電) ( - TJ)注) 堰や水路など、水量や高低差など の条件がそろっている場所につ いては、民間などによる導入の支 援を検討していきます。 木質系バイオマス 林地残材 (間伐材な ど) (2,439 TJ) 製材所廃材 (製材所から出る廃材) (334 TJ) 秩父地域や西川地域など、製材所 製材所が集積している地域では、 が集積している地域では、すでに 未利用の廃材を部分的に利用す エネルギー利用が進んでいます。 ることも考えられます。 間伐材の利用と併せてエネルギ ー利用の検討を進めます。 注)風力エネルギー、水力エネルギーは設置可能な装置の発電容量であるため、利用可能量を記載していない。 38 再生可能エネルギーの利 用可能量(単位 TJ) (エネルギーの種類別) 木 質 バ イ オ マ ス 果樹剪定枝 現 状 量は多くありませんが、果樹園な ど、まとまった量が発生する地域 があります。 (75 TJ) 都市内剪定枝 (公園や街路樹の剪定枝) 導入の基本方向 まとまった量が発生する地域で は、有効利用の可能性がありま す。 堆肥化には樹木の病気被害のお それがあるため、エネルギーとし ての効果的な活用方法を検討し ていきます。 量は多くありませんが、需要の有 民間の破砕施設などへの搬入を 無に関わらず堆肥化や焼却処理 誘導し、チップ化するなど有効活 が行われている状況があります。 用を推進します。 (164 TJ) 建築解体・新築廃材 (建築物の解体や建築 物を新築した際の廃 材) 都市部を中心に量は多い状況に ありますが、既に、その多くは県 外の木質バイオマス発電所で燃 料として利用されています。 地産地消としての県内での利用 の可能性も検討していきます。 (4,566 TJ) 農業系バイオマス (稲わら、もみ殻、麦わらな ど) 量は多い状況にありますが、かさ 地域の課題解決と併せて、農業地 張り搬送がしづらいことから、農 域のエネルギー源として効果的 地への鋤き込みや焼却処理も多 な活用方法を検討していきます。 く、その処分が地域の課題となっ ている場合があります。 (3,473 TJ) 畜産系バイオマス (家畜のふん尿) (2,271 TJ) 量は多い状況にあります。 一部で堆肥化が行われています が、特に、県北など畜産業が盛ん な農業地域では、エネルギー利用 が有効と考えられます。 メタン発酵によるバイオガス製 造と発電及び熱供給について検 討します。 発生する廃液は農業で「液肥」と して利用します。 量は極めて多い状況にあります が、その収集などに制約がありま す。 ほとんどが焼却処理されていま すが、水分が多いため、焼却に多 量のエネルギーが必要になりま す。 焼却処理を回避し、地域のエネル ギー源としての利用が期待され ます。 既存の排水処理インフラにおい て汚泥との一体処理によるエネ ルギー利用を検討します。 メタン発酵によるバイオガス製 造と発電及び熱供給について検 討します。 発生する廃液は排水処理施設で 処理します。 食品系バイオマス 生活系・事業系厨芥 類(生ごみ) (13,607 TJ) 39 再生可能エネルギーの利 用可能量(単位 TJ) (エネルギーの種類別) 食 品 バ イ オ マ ス 現 状 導入の基本方向 量は多くありません。 すでに事業者ごとにリサイクル ルートが確立されています。 地産地消するため、県内でのよ り有効な利用可能性を検討して いきます。 河川水熱 (外気と比べ、冬は 温かく夏は冷たい 河川水の特性を活 かしヒートポンプ の熱源として利用 するもの)(132 TJ) 河川水と外気の温度差をヒート ポンプ(エアコンと同じ原理) の熱源として利用します。 取水施設の設置に多額のコスト がかかることや熱の搬送に制約 があることから、導入は難しい 状況にあります。 技術開発の動向を今後も注視し ていきます。 地中熱 ( 一年を通 じてほぼ 量は膨大です。 現状の技術では、地中熱集熱パ イプを敷設するために多額のコ ストがかかります。 (5,876 TJ) コスト低減技術の開発やスケー ルメリットによる大規模な開発 物件での導入が期待されます。 技術開発の動向を今後も注視し つつ、民間などによる導入に対 しての支援を検討していきま す。 下水処理施設は市街地から離れ ている場合が多く、導入は難し (外気と比べ、冬は温 い状況にあります。 熱の搬送には制約があることか ら、技術開発の動向を今後も注 視していきます。 動植物性残さ (食品製造工場などか ら排出される動植物 性の残さ)(383 TJ) 温度差エネルギー 一定の地中熱をヒー トポンプ熱源として 利用するもの) 下水熱 かく夏はより冷たい 下水の特性を活かし ヒートポンプの熱源 として利用するもの) (568 TJ) その他の未利用エネルギ ーの利用可能量(単位T J)(エネルギーの種類別) 工場排熱 (工場から出る排熱(排ガ ス、温水および蒸気)) 現 状 導入の基本方向 量は膨大ですが、排熱回収など の技術開発がまだ十分に進んで いません。 工業団地などにおける工場間の 排熱利用や、周辺地域への排熱 供給など、積極的な活用が期待 されます。 排熱回収の技術開発の動向を今 後も注視しつつ、排熱の効率的 回収と面的利用について検討を 進めます。 量は極めて多くなっています。 市町村の清掃センターでは、発 電や隣接する温水プールなどへ の余熱供給に利用されていま す。 さらなる有効かつ効率的な活用 が求められます。 清掃センターの更新・再編時に は、分別の在り方を含め、地域 のエネルギー源として活用でき るように検討し、高効率ごみ発 電の導入や排熱回収及びその効 率的利用を推進します。 (5,631 TJ) 廃棄物エネルギー (廃棄物などを燃焼させ た時のエネルギー) (13,588 TJ) 40 Ⅴ 1 再生可能エネルギー導入の具体策 現行の施策の整理 埼玉県では、これまで温暖化対策の一環として、再生可能エネルギーの導入施策に 取り組んできました。 今後、県内に更なる再生可能エネルギーを導入する推進策の方向性を検討するため、 現行の施策を整理しました。 (1) 再生可能エネルギー施策の推進 これまで、主に温暖化対策として再生可能エネルギーの導入を図ってきました。 県民、企業、NPO、市町村などがそれぞれの立場で、再生可能エネルギーの導 入に取り組めるよう、県は次の施策を実施しています。 また、県自ら県有施設などへの導入に率先して取り組んでいます。 ア 県民に対する導入の推進 設備導入時における初期コストの負担感を軽減するための支援を行うほか、 県民に対する知識の普及、広報活動、生徒などへの教育活動を行っています。 (ア) 設備導入に対する支援 設備導入に対して、補助や低利融資を行うなど、設備導入時の初期費用の 低減を図っています。 (イ) 普及・促進(広報活動) 再生可能エネルギーの導入メリットを広報活動するため、多くの県民が利 用する施設などに対して助成を行っています。 また、県民向けに、太陽光発電設備設置の契約から施工までの注意事項を 埼玉県ソーラー拡大協議会と協力しながら作成し、広報しています。 (ウ) 再生可能エネルギー教育の推進 太陽光発電設備などを導入した県立学校では「生きた教材」として再生可 能エネルギーについて学習しています。 イ 事業者に対する導入の推進 設備導入時における初期コストの負担を軽減するための支援を行うほ か、本県が温暖化対策として導入している「目標設定型排出量制度」において、 再生可能エネルギー導入を促進する取組を行っています。 また、農業分野への再生可能エネルギーの導入も促進しています。 (ア) 民間事業者の設備導入に対する支援 設備導入に対して、補助や低利融資を行うなど、設備導入時の初期経費の 低減を図っています。 (イ) 目標設定型排出量取引制度における導入促進 太陽光発電に由来する電力を自家消費した場合、削減量(クレジット)の - 41 - 発行に当たり、バイオマスが発電した電力などより二酸化炭素(CO2)排 出量が少なく算定される方法を採用し、再生可能エネルギーの導入を促進し ています。 (ウ) 食品リサイクルによるエネルギー利用の推進 リサイクルによる廃食用油のBDF(バイオディーゼル燃料)化を進める ほか、バイオマスのガス化などの利用を推進しています。 (エ) 農業分野における推進 農業へのバイオマスエネルギーや太陽光発電などの導入を促進していま す。 ウ 市町村との連携 市町村と連携し、再生可能エネルギーの広報活動を進めています。 また、清掃センターへのごみ発電施設・熱回収施設の導入を促進しています。 (ア) 普及・促進(広報活動)での連携 市町村と連携して、住民への広報活動を進めています。 (イ) 高効率ごみ発電施設の導入促進 焼却処理に伴い生じる熱エネルギーを発電や地域暖房などに活用する、高 効率なごみ発電施設の導入を支援しています。 エ NPOなどとの協力 NPO、市民団体と連携し、再生可能エネルギーに関する講座を開催するな ど、県民に対して知識の普及活動を行っています。 オ 県の取組 県有施設への率先導入を図るとともに、未利用エネルギーの活用を図るため、 その仕組みづくりや調査に取り組んでいます。 (ア) 施設への率先導入 エネルギーの利用状況を把握した上で、それに見合った再生可能エネルギ ーの導入を進めます。特に多くの県民が利用し広報効果が期待できる施設や 防災関連施設については導入を強化しています。 (イ) 県の事業における未利用エネルギーや未利用資源の調査・活用 浄水場から中継ポンプ所まで送られる水の圧力の残り(受水残圧)を活用 した小水力発電を行うほか、下水汚泥の固形燃料化を進めるなど、未利用エ ネルギーや未利用資源の有効利用を図っています。 (ウ) 資源の有効活用のための仕組みづくり 公園や街路樹などの都市部の植栽から多量に排出される剪定枝を、既存の 民間廃棄物処理施設においてチップ化し、バイオマス発電施設で利用を進 めるなど、未利用資源の有効活用のシステムづくりを市町村と連携して検 - 42 - 討・推進しています。 (エ) 未利用資源利用のための調査研究 森林に放置されている間伐材の搬出のための調査やもみ殻の利用など、現 状ではあまり利用されていない資源を活用するための技術の活用方法などの 調査を行います。 カ 各種団体との連携 行政、大学、企業、団体など産学官が連携して、再生可能エネルギー導入の ための新技術、新手法を研究・情報共有する場や交流の場を設けています。 また、再生可能エネルギー関連団体と連携し、適切な情報を提供することで、 県内への普及を強化しています。 (ア) 産学官の連携 行政、大学、企業、団体などが連携して、再生可能エネルギー導入のための 新技術、新手法の研究を行うとともに、情報共有、意見交換、交流をする場と して研究会などを運営しています。 将来的には、研究会などから事業主体となる事業者を見出すこと、または、 研究会自体をコンソーシアム(共同事業体)へと発展させることを目指します。 また、大学、県内中小企業、県などが協力して、再生可能エネルギー利用技 術の研究開発を行っています。 (イ) 再生可能エネルギー関連団体との連携 太陽光発電設備に関係がある事業者などが相互に連携した「埼玉県ソーラー 拡大推進協議会」の運営を行っています。太陽光発電の飛躍的な普及拡大を図 るための方策を検討して、県民に有用かつ適切な情報提供を行っています。 (2) 省エネルギー・その他環境施策の推進 これまで、二酸化炭素(CO2)を削減する対策として、エネルギー全体の需要 を減少させるため「省エネルギー」を進めてきました。このビジョンの主題は「再 生可能エネルギーの導入」ですが、県内のエネルギーの自給レベルを上げるため には、この「省エネルギー」が不可欠になります。そのため、現在、実施してい る省エネルギー施策などを整理しました。 ア 県民に対する導入の推進 設備導入時における初期コストの負担を軽減するための支援を行うほか、 県民が省エネ、省資源に取り組む「エコライフ DAY」などライフスタイルの見 直しを推進しています。 また、省エネ家電・設備の普及促進や、マンションの環境性能を表示する制 度を実施しています。 (ア) 設備などの導入に対する支援 既存住宅の省エネ化を促進するため、費用の一部を助成しています。 - 43 - (イ) 「エコライフ DAY」の推進などライフスタイルの見直し エコライフ DAY の取組では、様々な機会をとらえて普及啓発を行い、省 エネを行う参加者数の拡大を図っています。 深夜における商業施設の営業時間の短縮やライトダウンなどを、事業者や 地域住民と連携して推進しています。 事業用、家庭用の乗用自動車のエコドライブをより一層推進するほか、低 燃費車、次世代自動車の導入を促進しています。 (ウ) 省エネ家電・設備などの普及促進 特定電気機器(エアコン、テレビ、冷蔵庫)のいずれかを5台以上陳列 販売する者に対して、省エネラベルの表示及び省エネルギー性能などの説明 を義務付けるなど、消費者に対する普及を促進してします。 (エ) 建築物の環境配慮の促進 一定規模以上の分譲マンションの販売広告に当該建築物の環境性能表示を 義務付けています。その表示項目として「太陽光等発電」、「太陽熱利用」を 掲げ、再生可能エネルギー導入を促進しています。 イ 事業者に対する導入の推進 設備導入時における初期コストの負担を軽減するための支援を行うほ か、中小企業に対する省エネルギー相談を行っています。 また、業務上での二酸化炭素(CO2)削減を推進するほか、消費者向けの 表示制度を義務付けています。 (ア) 民間事業者の設備など導入に対する支援 設備導入に対して、補助や低利融資を行うなど、設備導入の際の初期経費 の低減を図っています。 (イ) 中小企業に対する省エネルギー相談などの充実 省エネ相談や省エネマニュアルの作成、提供などを行い、省エネルギー対 策を促進しています。 (ウ) 業務における二酸化炭素(CO2)削減 深夜における営業時間の短縮やライトダウンなどを、事業者や地域住民と 連携して推進しています。(再掲) (エ) 省エネ家電・設備等普及促進制度の義務付け(再掲) 特定電気機器(エアコン、テレビ、冷蔵庫)のいずれかを5台以上陳列 販売する者に対して、省エネラベルの表示及び省エネルギー性能などの説明 を義務付けています。 (オ) 建築物の環境配慮の促進 一定規模以上の分譲マンションの販売広告に当該建築物の環境性能表示を 義務付けています。その表示項目として「太陽光等発電」、「太陽熱利用」を 掲げ、再生可能エネルギー導入を促進しています。 - 44 - (カ) 今後の成長産業としての支援 再生可能エネルギーを含む、今後の成長が期待できる分野に参入しようと する中小企業に対して補助などの支援を行っています。 (キ) 木質バイオマスの利用推進 チップ、ペレットの原料となる間伐材の搬出・運搬を進めるための事業者 支援を行っています。 ウ 市町村との連携 市町村と連携して、普及・促進を行うほか、商店街が行う省エネ改修への補 助を行っています。 (ア) 普及・促進(広報活動)での連携 市町村と連携して、県民へのエコライフDAYなどの普及促進活動を行っ ています。 (イ) 商店街が行う省エネ改修への補助 商店街が行う省エネ街路灯(LED照明)への改修事業に対して、地元市 町村と連携してその事業費の一部を補助しています。 エ NPOなどとの協力 「クールアースデー」などのイベントで NPO など市民団体と連携し、県 民に対して省エネルギーの知識の普及活動を行っています。 オ 県の取組 (ア) 施設への率先導入 再生可能エネルギーの導入と併せ、県有施設の省エネ化を図っています。 (イ) オフィスのグリーンITの普及 ITの省エネ(OA機器の省エネ化など)とITによる省エネ(IT会議 や電子申請の活用など)を推進しています。 カ 各種団体との連携 産学官が連携して調査研究を行うほか、イベントを開催し、広く知識の共有 化を図っています。 (ア) 調査研究 大学、中小企業、県などが協力して、省エネ技術などの開発研究を行って います。 (イ) セミナーなどの開催 県内企業が、再生可能エネルギーなど、環境先端技術をビジネスに取り入 れた事例を学びながら交流するセミナーを開催しています。 さらに、関係者が事例の共有を行うシンポジウムなども開催しています。 - 45 - (3) ■ 埼玉県の取組事例 県のこれまでの再生可能エネルギー取組のうち代表的なものを整理し、今 後の政策に反映します。 住宅用発電設備設置 県では平成21年4月から、埼玉版グリーンニューディール政策として、 住宅用発電設備に対する補助制度を開始しました。 それ以来全国でもトップレベルの助成数を3年に渡り継続した結果、住宅 用発電設備設置数は、愛知県に次ぎ全国第2位となりました。 県内の住宅用発電設備設置数は、平成21年3月末に22,547基であ ったものが、平成23年3月には41,000基、平成24年3月には平成 21年3月末の2倍以上の55,000基となる見込みです。 年度計 累計 図 5-1 表 5-1 住宅用太陽光発電設備設置数の推移(埼玉県) 全国の住宅用発電設備設置数(平成22年12月末現在) 第1位 第2位 第3位 第4位 第5位 県 名 愛知県 埼玉県 福岡県 東京都 大阪府 設置数 48,238基 38,782基 37,144基 36,685基 33,969基 平成 20 年度までは、新エネルギー財団の集計による。 平成 21 年度からは、国の補助制度利用者を申請ベースで集計。 - 46 - ■ 都道府県有施設への再生可能エネルギーの導入 県では平成8年頃から防災拠点校や県営住宅など県有施設への太陽 光発電の導入を進めてきました。 平成21年3月に、県有施設を対象に「太陽光発電設備の設置ガイド ライン」を策定し、施設の新築、大規模な改築にあたっては、原則として 設置する方向で検討することとしました。それにより、県有施設でも格段に 太陽光発電設備の導入が進みました。 図 5-2 県有施設への 太陽光発電設備設置数 行田浄水場へのメガソーラーの導入 県は平成23年度に行田浄水場に、県有施設では最大規模となるメガソーラーを 設置します。 これにより、年間で一般家庭381戸分の電力を発電し、年間530tの二酸化 炭素(CO2)を削減します。 設置イメージ 行田浄水場全景 - 47 - ■ 埼玉県建築物環境配慮制度による取組/分譲マンション環境性能表示制度 県では「埼玉県地球温暖化対策推進条例」に基づく、建築物環境配慮制度を 平成21年10月から施行しています。 この制度は、建築物の省エネルギー、再生可能エネルギーの導入、省資源・ リサイクル、周辺環境への配慮や緑化対策など、総合的な環境配慮の取組を促 すとともに、その取組の内容について、延べ床面積2,000平方メートル以 上の建築物では「特定建築物環境配慮計画」の提出を求めるものです。 「特定建築物環境配慮計画」の作成に当たっては、環境配慮の取組を「CA SBEE埼玉県(建築環境総合性能評価システムを活用したもの)」により評 価するとともに、建築物対策指針に基づき、再生可能なエネルギーを利用する ための設備の導入」について検討し、その結果を合わせて提出していただきま す。県は、計画の概要を公表することで、環境に配慮した建築物を推進します。 また、平成23年7月から、分譲マンション環境性能表示制度を導入しまし た。この制度は、特定建築物環境配慮計画書の提出を行った分譲マンション(住 居の床面積(共用の廊下、階段その他の部分を含む。)の合計が2,000平 方メートル以上)について「CASBEE埼玉県」による自己評価結果(環境 性能)を折り込み広告、雑誌、パンフレットなど販売広告に表示する制度です。 これにより、環境に配慮した分譲マンションの普及を推進します。 図 5-3 埼玉県分譲マンション環境性能表示 - 48 - 表示ラベル (4) 県内の導入事例 県内には、民間や自治体が実施する各種の再生可能エネルギーの先導的な事 例があります。 今後の県の推進策の構築に役立てるため、県内で最も利用可能量が多い太 陽エネルギー(太陽光・太陽熱)と、本県で2番目に利用可能量が多いバイオ マスの先進的な取組を整理します。 ア ■ 太陽光発電 メガソーラーによる事業用電力の確保 -NHK菖蒲久喜ラジオ放送所- (日本放送協会) NHK菖蒲久喜ラジオ放送所は日本最大級の放送所で、関東・甲信越を中 心に宮城県の一部から愛知県の一部まで、全国世帯数の4割に放送を届けて います。 平成23年6月、日本放送協会は、NHK菖蒲久喜ラジオ放送所に、メガ ソーラー(2メガワット級)の太陽光発電システムを導入することを発表し ました。 平成23年度末には、1メガワットの整備を完了させ、最大発電時にNH K菖蒲久喜ラジオ放送所で行う放送に必要な電力の50%を供給し、平成 24年度末には、日中の最大発電時に、全ての電力を供給できる見通しです。 図 5-4 NHK菖蒲久喜ラジオ放送局全景 出典:NHK報道資料 - 49 - ■ 小型ソーラー水素ステーションと燃料電池車を組み合わせた二酸化炭素 (CO2)排出ゼロシステムの開発 -本田技研工業株式会社- 低炭素社会の実現に向けて、平成22年12月から「次世代パーソナルモ ビリティー実証実験」*を進めており、その実験の一つの柱として、水素エネ ルギーに着目した実証実験を行っています。 具体的には、太陽光を利用した「ソーラー水素ステーション」を県庁敷地 内へ設置し、燃料電池電気自動車「FCXクラリティ」を用いて行う予定です。 ステーション設置後は、一切二酸化炭素(CO2)を発生させないシステムと なります。 今回の実験では、 「FCXクラリティ」は電源装置として外部出力が可能な 燃料電池電気自動車なので、移動可能で二酸化炭素(CO2)を排出しない電 源装置としても活用できます。 図 5-5 次世代ソーラー水素ステーションと 燃料電池電気自動車「FCX クラリティ」 図 5-6 次世代ソーラーステーションのシステム構成 出典:本田技研工業㈱ホームページ * 次世代パーソナルモビリティ実証実験 本田技研工業株式会社が行う実証実験。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド (PHEV) 、電動二輪車などの電子化技術を用いた次世代パーソナルモビリティと太陽光発 電などの持続可能なエネルギーを活用して将来の低炭素社会の在り方や二酸化炭素(CO2) 削減効果の検証を行う。 参照:本田技研工業㈱ホームページ - 50 - イ 太陽熱利用 ■ 公道を挟んで隣接する建物への太陽熱の余剰熱の融通 -東京ガス株式会社熊谷支社・マロウドイン熊谷・熊谷市- 屋上に太陽熱集熱器を設置し太陽熱を利用し、冷暖房や給湯利用を行って います。その太陽熱の余剰熱を、導管を利用して熊谷市管理の市道を挟んで 隣接するホテルに対して融通するプロジェクトです。 隣接するホテルでは、融通された熱をレストランの給湯用として利用して います。 ホテルに、熱媒体である温水を運ぶためのポンプの動力に太陽光発電パネ ルで発電した電力を使用することで、二酸化炭素(CO2)を削減していま す。 また、天候などによる太陽熱の出力変動は、天然ガスコージェネレーショ ンシステムなどで補完しています。 太陽熱の利用や需要の異なる建物どうしによる負荷平準効果により、両建 物合わせて約 11t-CO2/年の削減効果があるとしています。 (1)高温かつ高効率 の集熱に優れた 真空管式太陽熱 集熱器を採用 (2)太陽熱駆動吸収冷 凍機、潜熱回収型 給湯器等の高効率 熱源機群 (4)太陽熱の熱融通時 の搬送動力相当分 を、太陽光発電から 供給 (5)環境負荷の低い天然ガス コージェネレーション廃熱 により太陽熱の出力・温度 レベルの変動を補完 (3)公道(市道)を挟んで隣 接する建物間での エネルギーの面的利用 (6)「見える化」を通じた最適運用と 地域の省CO2推進意識の啓発 (3)~(5)の対策は、国土交通省の平成21年度第2回住宅・建築物省CO2推進モデル事業に採択され、補助金を受けています。 図 5-7 システムイメージ図 出典:東京ガス株式会社提供 - 51 - ■ 分譲マンションにおいて太陽熱の利用を推進 -大和ハウス工業株式会社・大栄不動産株式会社- 越谷レイクタウンでは、最先端の環境共生のまちづくりが進められていま す。今回事例の分譲マンションでは、全500戸分の給湯と床暖房のエネル ギーの一部を補うために、太陽熱を利用し二酸化炭素(CO2)排出20%削 減に取り組んでおります。。 屋上には、住宅用途として日本最大規模となる総面積約 950 ㎡の太陽熱パ ネルを設置しているほか、熱の不足分を補助するガスボイラは共同で利用し ています。(「太陽熱利用住棟セントラル・ヒーティングシステム」) 図 5-8 「太陽熱利用住棟セントラル・ヒーティングシステム」概念図 出典:大和ハウス工業株式会社ホームページ 分譲マンションに設置された、太陽熱利用住棟セントラル・ヒーティング システムは、再生可能エネルギーで熱を作り、グリーン熱証書を発行できる グリーン熱設備として日本初の認定を受け、二酸化炭素(CO2)削減効果な どの環境付加価値を販売しています。 図 5-9 グリーン熱証書の流れ - 52 - 出典:大和ハウス工業株式会社ホームページ ウ バイオマスエネルギー ■ 木質バイオマス(間伐材や林地残材など)を利用した発電事業等 -秩父市・ちちぶバイオマス元気村発電所- (秩父市) 秩父市は、市域の 87%を占める森林の保全と再生に取り組むため、平成 19年にレクリエーション施設の「吉田元気村」 (秩父市上吉田地内)に、100 kW 級では全国初の木質系バイオマスのガス化・ガスエンジン・コージェネ レーション施設を整備しました。 間伐材などを原料とした木質チップをガス化し、ガスエンジンにより発電し ます。電気は、「吉田元気村」へ供給されるほか、余剰電力は売電し、システ ムから発生する熱は温水、温風に変換して利用しています。 また、発電に伴い発生する木炭灰(土壌改良剤などとして使用可)の販売も 行っています。 そのほか、バイオマスを使用した排水処理実験設備やBDF(バイオ・ディ ーゼル燃料)を製造する「てんぷら油リサイクル工場」なども併設され、ちち ぶバイオマス元気村発電所とともに、見学が可能です。再生可能エネルギーを 学ぶ場としても活用されています。 ガスエンジン 出典:秩父市ホームページ 図 5-10 ちちぶ元気村バイオマス発電所 図 5-11 ちちぶバイオマスてんぷら油リサイクル工場 出典:秩父市ホームページ - 53 - エ 温度差エネルギー ■ 地中熱ヒートポンプ実証実験(春日部市) 春日部市は、「春日部市エコまちづくり計画」に基づき、地中熱を冷暖房や 給湯に利用することで光熱費を 5 割以上削減し、大幅な二酸化炭素(CO2) 排出量削減を実現する地中熱利用ヒートポンプシステムを市役所別館に設置 して実証実験を行っています。 現在、地中温度の安定性や冷暖房効率、光熱費や二酸化炭素(CO2)削減 効果などのデータを収集しています。 図 5-12 地中熱ヒートポンプシステム 出典:春日部市ホームページ - 54 - 2 今後の推進策 (1) 再生可能エネルギー別推進策 これまでの施策を整理した結果、昨今、民間企業や大学における技術開発や取組 が活発化しているが、①産学官連携の取組が十分ではなかったこと、②行政主導の 取組に重点を置き過ぎていたこと、③取組の推進体制が縦割りであったことなどの 課題が見えてきました。 そのため、これらの課題への対応とエネルギー供給という視点から、これまで一 定の成果を上げてきた施策を継続しつつ、今後の再生可能エネルギー別推進策を整 理しました。 ここでは、導入の基本方針である「ソーラー&バイオマス」や「熱」の有効利用 に関わる取組を中心に、県が主体となって行うものを整理しましたが、このほか、 県民や民間が主体的に導入する中小水力や風力などの再生可能エネルギーについ ても支援します。 ア 再生可能エネルギー (ア) 太陽光発電 ● 2016年度(平成28年度)に14万基、2020年度(平 成32年度)に22万6千基の設置を目指し、実質的なイニシ ャルコストの引き下げ策を検討します。 (具体的には、設置者と施工業者間での契約内容を透明化する 家庭自家使用 ことでパネル価格などの引き下げへと誘導することなどを検討 します。 ) ● 施工品質の向上に向けた施策(設計・施工教育、メーカーと の連携など)を検討します。新規 ● 関連企業などで構成する「埼玉県ソーラー拡大推進協議会」 において普及策などを検討します。新規 ● 大型の商業施設や中小製造工場などの遊休スペース(屋根や 空き地など)への設置増大に向けて新たな制度や施策を検討し ます。 ● エネルギー需要を考慮した太陽光発電技術(パネル種類)の 業務自家使用 情報提供などを含む導入に対する施策を検討します。新規 ● 農業分野での活用を検討します。 (農業と太陽光発電の共存、 農業用機械の電動化など)新規 ● 産業集積地である工業団地でのメガソーラーの実現に向け て、これまでの制度の見直しや諸施策を検討します。新規 (⇒ 後述「6つのモデルプロジェクト」 ) ● 電力の固定価格買取制度に基づき、電力供給の事業化を目指 エネルギー供給 す民間への支援を検討します。新規 ● 太陽光発電パネルメーカーなど、再生可能エネルギー関連事 業者を県内に誘致します(インセンティブ(動機づけ)付与な どを検討) 。新規 - 55 - 共通:● 設備導入時のイニシャルコスト(初期費用)対策として、リース事業など の検討を行います。 ● 県有施設に導入する太陽光パネルの一括購入、技術開発調達(テクノロジ ー・プロキュアメント)注)の実施による技術開発の促進を検討します。 新規 注)技術開発調達(テクノロジー・プロキュアメント) 行政がある技術を普及させるに当たって、はじめの需要を確保することにより、当 該技術に関する市場を、エネルギー効率を向上させる方向に動かすことをねらいとし た手法です。具体的には、行政がある技術の購買者を募集するとともに、技術(製造 業者)の選定を行い、当該技術を購買者に調達・斡旋することにより、その普及を図 ります。 (イ) 太陽熱 ● 太陽熱温水器導入件数の増大に向けて、実質的なイニシャル コストの引き下げ策を検討します。 ● 施工品質の向上に向けた施策(設計・施工教育、メーカーと の連携など)を検討します。新規 ● 太陽熱利用技術についての広報(マンション管理組合やアパ 家庭自家使用 ート・オーナーなど)を行います。新規 ● 関連企業などで構成する「埼玉県ソーラー拡大推進協議会」 において普及策などを検討します。新規 ● 集合住宅における設置を促進するため、面的導入モデルの 実証研究を行うとともに普及策も検討、実施します。新規 (⇒ 後述「6つのモデルプロジェクト」 ) ● 熱の有効利用に向けた技術レベルの研究(冷暖房利用、温 水・蒸気熱利用)を前提に、スーパーマーケット、大型の商業施 業務自家使用 設や中小製造工場などの遊休スペース(屋根や空き地など)への 設置促進に向けて新たな制度や施策を検討します。 新規 ● 病院、福祉施設などの熱需要の多い施設における太陽熱の導 入を推進します。新規 ● 熱の買取制度の創設やグリーン熱証書制度の認証を検討しま す。新規 ● 太陽熱利用パネルメーカーなど、再生可能エネルギー関連事 エネルギー供給 業 者を県内に誘致します(インセンティブ付与などを検討) 。新規 ● 熱の有効利用に向けた技術レベルの研究(冷暖房利用、蒸気 熱利用)を前提に、工業団地など産業が集約されている地域で、 太陽熱を有効利用する仕組みを検討します。新規 (⇒ 後述「6つのモデルプロジェクト」 ) - 56 - 共通:●熱の輸送に関する技術的な研究の推進、余剰太陽熱温水の融通、面的活用を 促進するとともに、熱輸送管網の敷設を支援するため関係行政機関に働きか けを行います。 (規制緩和)新規 (ウ) 木質バイオマス(電力・熱利用) ● 林地残材など未利用木材が豊富な地域やその周辺で自らの 業務用として使用するエネルギーを自ら製造することを支援し 業務自家使用 ます(インセンティブ付与などを検討) 。 ● エネルギー原料を収集し、自らの業務用として使用するエネ ルギーを自ら製造することを支援します(インセンティブ付与 などを検討) 。 ● 熱の買取制度の創設やグリーン熱証書制度の認証を検討しま す。新規 エネルギー供給 ● 中山間地の未利用木材で製造したチップ、液体燃料などのエ ネルギー源を運搬・販売する仕組みを支援します。新規 (⇒ 後述「6つのモデルプロジェクト」 ) ● 都市部剪定枝の焼却処分の回避するとともに収集を効率化 し、エネルギー利用を推進します。新規 (⇒ 後述「6つのモデルプロジェクト」 ) ● 電力の固定価格買取制度に基づき、電力供給の事業化を目指 す民間の支援を検討します。新規 (エ) 畜産系バイオマス(農業系バイオマスも原料利用、熱電併給) 業務自家使用 ● 畜産業から出る家畜の糞尿で製造したエネルギーなどを農業 利用します。新規(⇒ 後述「6つのモデルプロジェクト」 ) エネルギー供給 ● 熱の買取制度の創設やグリーン熱証書制度の認証を検討しま す。新規 ● 上記で製造したメタンガスを近隣農家のビニールハウスに 供給します。新規 ● 電力の固定価格買取制度に基づき、電力供給の事業化を目指 す民間の支援を検討します。新規 (オ) 食品系バイオマス(電力・熱利用) ● 一般家庭から排出される生ごみや事業系の厨芥類と下水処理 業務自家使用 場やし尿処理場などから発生する排水処理汚泥を一体処理して エネルギー(メタンガス)を製造する取組を推進します。 新規(⇒ 後述「6つのモデルプロジェクト」 ) - 57 - エネルギー供給 ● 熱の買取制度の創設やグリーン熱証書制度の認証を検討しま す。新規 ● 電力の固定価格買取制度に基づき、電力供給の事業化を目指 す民間への支援を検討します。新規 共通(バイオマス) :原料の収集・調達が大きな課題でありコストの問題に直結して います。再生可能エネルギーの導入者にかかるコストを低減することを目的として、 原料の収集・調達段階も含めたコスト負担(対象者・範囲、金額など)の在り方につ いて検討していきます。新規 (カ) 温度差エネルギー 家庭自家使用 ● 地中熱の導入について支援を行います。 業務自家用 ● 新規開発地域などにおける、地中熱の導入について支援を行 います。 イ その他の未利用エネルギー (ア) 工場排熱 業務自家使用 ● 工場排熱の有効利用については、工業団地の中での面的活用 が可能か調査を行います。新規 (⇒ 後述「6つのモデルプロジェクト」 ) (イ) 廃棄物エネルギー(電力・熱利用) 業務自家使用 ● 清掃センターの更新や再編に備え、高効率ごみ発電の導入や 排熱回収及びその効率的利用を推進します。 ● 下水処理場から発生する下水汚泥と一般家庭から排出される 生ごみや事業系の厨芥類を一体処理してエネルギーを製造する 取組を推進します。新規 (⇒ 後述「6つのモデルプロジェクト」 ) エネルギー供給 ● ごみ発電により製造した電力と熱に余剰が生じた場合に、 周辺地域への供給又は売電について検討します。 ● 下水汚泥を固形燃料化し、発電所や事業用ボイラへの供給 を行います。新規 - 58 - (2) 埼玉エコタウンプロジェクト 再生可能エネルギーの地産地消を進める「埼玉エコタウンプロジェクト」をモデ ルとして展開します。 ※ 埼玉エコタウンプロジェクトについての記述は、現在、調査実施中であり、内容につい て、さしかえの可能性があります。 ア 埼玉エコタウンの基本理念 再生可能エネルギーを中心とした創エネと徹底した省エネを市町村全体で取 り組むことにより、エネルギーの地産地消を具体的に進めるモデルを全国に発 信します。 また、ストップ温暖化埼玉ナビゲーション2050に示された環境の視点を 通して、暮らしやすく活力ある地域社会の創造を目指します。 イ 埼玉エコタウンとして位置付ける範囲 埼玉エコタウンでは、市町村全域でエコタウン化に取り組むことを基本とし ます。これに加えて、特に先進性・独自性が高いプロジェクトを街区など一部 地域で集中的に取り組む場合についても、埼玉エコタウンと位置付ける場合が あります。 ウ 整備展開の方向 埼玉エコタウンでは次の方向で整備展開を図ります。 (ア) 再生可能エネルギーの導入や徹底した省エネルギー化、スマートグリッド などの技術や仕組みを集中的に進める中核的エリアを整備します。 (イ) 中核的エリア以外のエリアにおいても、再生可能エネルギーや省エネルギ ーに関する先端的な技術や仕組み、環境エネルギー産業の活性化の取組などシ ンボル的な事業の導入を進めます。 (ウ) 中核的エリア、それ以外のエリアともに、ハード・ソフトの両面で基本理 念を実現するために先導的に取り組み、早期に成果を出すモデル事業に取り組 みます。 (エ) 先導的モデル事業以外の取組についても、ハード・ソフトの両面で基本理 念を実現するために、中長期的視点から取り組みます。 エ エネルギー利用に関する目標 (ア) 電力使用量に対して再生可能エネルギーで電気を供給する割合(グリーン 電力率という)が相当程度高い先進的な街・地域を整備します。 ・具体的な目標値は地域やエリアの特性に応じて設定します。 (例示) 中核的エリアで住宅を中心とする場合 市町村全域の場合 グリーン電力率 80%以上 グリーン電力率 20%以上 - 59 - (イ) 地域内で電気や熱などのエネルギーを融通するためのネットワークの構 築などによる、熱も含めたエネルギー自給率の向上や二酸化炭素(CO2)削 減などの目標を設定します。 (ウ) その他、エネルギーを創る(創エネ)、減らす(省エネ)、貯める(蓄エ ネ)融通する、という4つの視点を踏まえたエネルギー利用に関する目標を 設定します。 オ 具体的な取組のイメージ ◆ 必須の取組 中核的エリア ○ 電力100%自活住宅・スマートグリッド 中核的エリアにおいて、住宅などに太陽光を中心とした再生可能エネ ルギーやLEDなどの省エネ設備の集中的な導入を進めるとともに、蓄 電池なども備わったスマートグリッドを整備します。 ○ スマートエネルギーネットワーク 太陽光・太陽熱やバイオマスなどの再生可能エネルギーはもとより、 天然ガスなども活用して環境性能に優れたエネルギーの安定供給を図 るとともに、中核的エリアを含め地域内で電気と熱を融通し効率的なエ ネルギー管理を進めるスマートエネルギーネットワークを構築します。 ○ 電気自動車などの普及 電気自動車やプラグインハイブリッド車、電動バスの普及を図るとと もに、住宅や公共施設などに再生可能エネルギーを活用した充電設備の 整備を進めます。 その他のエリア ○ 多様な再生可能エネルギーの活用 対象市町村(場合によっては、その周辺地域を含む。)において、未 利用地や遊休農地を活用したメガソーラー発電、農林業に由来する副産 物・未利用資源を活用したバイオマス発電、水路などを活用した小水力 発電などの多様な再生可能エネルギーの導入を図ります。 ◆ 市町村の地域特性に応じて行う取組 業務系施設・商業施設が集積しているエリア ○ スマートオフィス・スマートマーケット 徹底した省エネ対策が施されるとともに太陽光発電など再生可能エ ネルギーや太陽熱・地中熱による効率的な熱エネルギー利用システムな どが構築されたスマートオフィスやスマートマーケット(商業施設)を 整備します。 工業地域のエリア ○ エコファクトリー 大型の太陽光発電設備など創エネ対策やLED、コージェネレーショ - 60 - ン設備の設置など省エネ対策により電力自給率を高めるとともに、太陽 熱や事業活動から生まれる排熱の有効利用などを進めるエコファクト リー(工場や工業団地)を整備します。 農業地域のエリア ○ エコファーム 再生可能エネルギーの活用や先進的省エネ技術を活用したエコファ ーム(農場)を整備するとともに、流通運搬による環境負荷も減らすこ とのできる農産物の地産地消を進めます。 各地域にまたがる取組 ○ エネルギーマネジメントシステム 街区を基本単位としてHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステ ム)、 BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)を含めた「地域 EMS」(地域エネルギーマネジメントシステム)の確立に向けた取組を 推進します。 ○ 分散電源システム 電気自動車などの普及に併せて、電気自動車の蓄電池を家庭や地域の 分散電源システムの一環として活用できるシステムを構築します。 ○ 環境に配慮した公共設備などの導入・雨水利用など 道路、公園など公共空間の街灯や信号の太陽光発電設備付きLED照 明へ転換、自転車走行空間や駐輪場の整備、環境にやさしい舗装、緑化 整備、雨水や河川水の有効利用などを進めます。 【参考】 カ 暮らしやすさや活力ある地域づくりにつなげる取組 埼玉エコタウンの推進に当たっては、エネルギーの地産地消の視点に合わせ て超高齢・人口減少社会における暮らしやすい街づくり、さらには、経済や雇用 につなげるなど、幅広い視点から取り組みます。 - 61 - ◆ 取組例 ・ 老朽化したニュータウンや団地の再生とエコタウン化 ・ 地元企業が参画したエコタウンづくりによる地域経済活性化と雇用創出 ・ エコポイントや地域通貨などエネルギー節減へのインセンティブを付与 する仕組みや住民、企業を巻き込んだムーブメントの展開 ・ 事業者の創エネ・省エネ対策を通じて得られる二酸化炭素(CO2)削減 分を目標設定型排出量取引制度を通じてクレジット化する仕組み ・ ヒートアイランド防止対策としての緑化率の極めて高い住宅などの整備 や水面の利活用 キ 整備スケジュール ク 埼玉エコタウンに選定された市町村の役割 (ア) エコタウン基本計画、実施計画の策定 (イ) 計画事業に対応する民間企業の参画促進(県と共同) (ウ) 基盤整備など市町村事業の実施 (エ) 事業推進に向けた土地利用手続きの簡素化・迅速化 (オ) 住民への啓発、事業推進に向けた働きかけ、協力依頼 など ケ 埼玉エコタウンプロジェクトの推進に向けた県の役割 (ア) 公募に応じた市町村における事業推進調査の実施(23年度) (イ) プロジェクト実施市町村が行う基本計画、実施計画策定への支援 (ウ) 計画事業に対応する民間企業の誘致(市町村と共同) (エ) 市町村提案の実現に向けた予算措置(県直轄事業、市町村や民間が行う事 業に対する財政支援など) (オ) 国費の積極的な活用の仕組みや規制緩和に向けた特区などの活用の検討 (カ) プロジェクトの企画・進行管理及び広報 など - 62 - (3) 新たな推進策としての6つのモデルプロジェクト 導入の基本方針である ”ソーラー&バイオマス” 、 「熱」の有効利用、関係 者(ステークホルダ)の拡大により、再生可能エネルギーの普及を目指す新たな 推進策として、埼玉県の地域特性や産業などから考案した6つのモデルプロジェ クトを推進します。 これらのモデルプロジェクトは、太陽エネルギーやバイオマスエネルギーなど 様々な再生可能エネルギーの組合せと革新的なエネルギー高度利用技術の導入、 「電力」と「熱」のベストミックスによる有効利用など、多くの関係者を巻き込 んでの横断的・総合的な取組になります。 「民」だけでは実現が困難なプロジェクトを、 「学」及び「官」が徹底的に支援 することで事業化を目指します。具体的には、産学官連携による研究会・協議会 の設置、実証事業の実施などを経て実現事例を作り、市町村とも連携して県内の 他地域での普及拡大を図ります。実現事例は、埼玉エコタウンを構成するパーツ となります。 なお、これらのプロジェクトは、あくまでも「モデル」として考案・表現した ものであり、実証事業の実施や事業化に当たっては、地域の状況やニーズなどに より、最適な形としたうえで導入を図ることを想定しています。 - 63 - ●農林分野の地域活性化モデルプロジェクト ●都市再生、エネルギーサービスのモデルプロジェクト 農業施設のエコファーム化モデル 都市内剪定枝の集約化モデル 集合住宅のソーラーエネルギー面的導入モデル ・家畜糞尿の適正処理とエネルギー転換 ・地域の廃棄物処理破砕施設に集積 ・太陽熱利用技術の PR ・農業用トリジェネレーションと液肥製造 ・チップ化し、主に発電用燃料として供給 ・太陽熱利用の一斉導入、建物間の熱融通の検討 ・ハウス栽培の低コスト・省 CO2 化 森林資源活用によるエネルギー地産地消モデル ・機能化森林 GIS、高性能機械を活用した間伐材などの搬出 ・バイオオイル製造・周辺地域の工場に供給 ・木材生産によるエネルギー自立化・分散化 農業エリア 中山間地エリア 人口集中エリア 県内自治体の地域分類 人口高密度 全面市街化 人口中密度 部分市街化 人口低密度 部分市街化 人口低密度 限定市街化 山間地 - 64 - 工業団地のエコファクトリー化モデル 既存インフラを利用した生ごみの処理効率化モデル ・工場屋根などを活用したメガソーラー発電 ・マイクログリッドによる工場間連携 ・混合によるメタン発酵処理 ・メタンガスによるコジェネレーション ア 森林資源活用によるエネルギー地産地消モデル 秩父地域の豊富な森林資源から「バイオオイル」と呼ばれる液体燃料を製造 し、主に、産業分野での熱利用を進めるというものです。平成22年度から取 組をスタートし、リーディングモデル事業(先導的な事業)として早期の事業 化を目指しています。 (ア) 背景 秩父地域には豊富な森林資源に恵まれていますが、輸入木材の増加により 木材価格が低迷し、林業の採算性の悪化などにより森林の伐採や奥地の人工 林を中心に間伐などの手入れが行き届かない森林が見られます。 一方、秩父市や横瀬町周辺には、製造業などの工場が点在し、産業用ボイ ラでは化石燃料が多量に消費されており、多くの温室効果ガスを排出してい ます。しかし、現状では、経済性で優れた低炭素な燃料は存在しないため、 化石燃料に頼らざるを得ず対応に苦慮している状況があります。 (イ) 目的 地域の間伐材や林地残材などの未利用の木質バイオマスから製造した再生 可能エネルギー「バイオオイル」を、産業分野で地産地消する事業の実現を 目指します。 (ウ) 「バイオオイル」の定義 バイオオイルは、木質を急速熱分解(酸素がない状態での蒸し焼き) したときに発生する液状生成物(木質タール)です。重油などの化石燃料に 比べるとやや低品質ですが、製造や運搬などが容易である分、低コストのバ イオマスエネルギーとして期待されます。 バイオオイルは、地域の工場の工業炉などで重油代替として用いることや 清掃工場で助燃用の灯油代替として用いることができます。 バイオオイル 図 5-13 バイオオイル - 65 - (エ) モデル事業の概要 ○ 間伐材や林地残材などの木質バイオマス資源を高性能林業機械を用いた 次世代林業の展開により、安定的かつ低コストで収集します。 ○ 収集した木質バイオマス資源を原料としてバイオオイルの製造を行いま す。 ○ バイオオイルを周辺地域の工場・清掃工場に供給・販売します。 ○ バイオオイルは、工場の産業用ボイラにおける重油代替や清掃工場の助 燃用の灯油代替として利用します。 図 5-14 モデルプロジェクトイメージ (オ) 事業化の枠組み(スキーム) 現在、産学官連携による「ソーラー&バイオマス埼玉イニシアチブ」再生 可能エネルギー普及促進研究会 木質バイオマスワーキンググループ(運営 事務局:埼玉県、早稲田大学)を立ち上げて、民間企業など計34団体の関 係者(平成23年度12月末見込)と検討を進めています。 当研究会における議論を踏まえて、実証事業の企画提案、共同事業体(コ ンソーシアム)を設立、事業化の実現を目指します。 当研究会がベースとなり、事業化可能性や必要な技術開発など一定の知見 が得られた段階で、事業化に意欲を持つ民間企業を中心にコンソーシアムへ 移行します。県も地元の市町と連携しながら、引き続き必要な支援を行って いきます。 - 66 - (カ) 実施体制 現在、埼玉県、秩父市、早稲田大学、東京大学の4者それぞれが役割を分 担して取組を進めています。 主に、大学側は国などの競争的資金による技術開発事業を利用しながら、 原料供給やバイオオイル製造などにおける技術開発部分を担当し、行政側は、 地元秩父市が森林組合や山林所有者を中心とする地元との調整を担当し、埼 玉県は 研究会の運営など全体の調整役として動きつつ、事業化可能性調査 (フィージビリティ・スタディ(FS)調査)を担当しています。 図 5-15 実施体制 - 67 - イ 集合住宅のソーラーエネルギー面的導入モデル (ア) 背景 埼玉県では、家庭部門からの二酸化炭素(CO2)排出量が全体のおよそ 2割を占めています。そのため、家庭への太陽光発電導入のため、早くから 補助制度を立ち上げるなど取組を進めてきました。しかし、エネルギーの需 要として考えた場合、家庭部門で使用されるエネルギーのおよそ3割を給湯 が占めているという現状があります。 (イ) 目的 太陽熱利用のエネルギー変換効率(40~60%)は、発電効率(7~18%) に比べて高く、パネルの設置面積が少なくて済みます。そのため、設置場所 の確保が難しい都市部の集合住宅で太陽熱の給湯利用を促進し、家庭部門で の普及拡大を目指します。 (ウ) 方向性 新設については、集合住宅設置者(ディベロッパーやゼネコン)の再生可 能エネルギーへの関心や取組を調査し、民間主導での導入の可能性を検討し ます。 既設については、集合住宅の所有者(オーナーやマンション管理組合)が 持つ悩みや課題を調査し、再生可能エネルギーの導入と結び付けることで導 入を図る方法を検討します。 (エ) モデルプロジェクト ○ 集合住宅(分譲・賃貸マンション、団地、アパート、福祉施設など)に太 陽熱利用設備を中心とした再生可能エネルギーの面的導入(一斉導入)を図 ります。 ○ 周辺地域との熱融通(面的活用)も想定します。 (オ) 実証事業の概要 県内に新築される集合住宅(民間分譲マンションなど)を想定して、太陽熱 利用システム(給湯)の面的導入に関する実証事業を行います。 建物の特性に合わせた最適な太陽熱利用システムの導入及び実証を行うとと もに、事業化スキームや行政側からインセンティブを付与する仕組みなどに関 する検討を行います。現在はまだ一部の民間ディベロッパーが自主的に導入を 開始している状況ですが、この流れを加速させます。 - 68 - (カ) 実証事業の実施体制 ○ 民間ディベロッパー ○ エネルギー供給事業者 ○ システム施工会社(例:エンジニアリング会社、プラントメーカー) ○ 機器メーカー(例:太陽熱給湯器メーカー) ○ 県/市町村/学識経験者/コンサルタント ■戸別太陽熱利用システム(バルコニー設置型) 各戸に設置するガス給湯器をバックアップの熱源として活用した戸別太陽熱給 湯システムです。 出典:東京ガス株式会社ホームページ ■セントラル太陽熱利用システム 集中管理方式である高効率な住棟セントラル給湯システムです。 出典:大和ハウス工業株式会社ホームページ - 69 - ウ 工業団地のエコファクトリー化モデル (ア) 背景 埼玉県には多種多様な業種の製造業が集積しています。産業部門のエネル ギー消費が県全体に占める割合は、1990 年の 44.8%から大きく減少している ものの、依然として 30%以上を占めています。 福島第一原子力発電所の事故により電力供給能力に懸念が生じる中、工場 においても省電力や非常用電源設備の設置に取り組む動きが進んでいます。 (イ) 目的 既存の工業団地及び新たに創出する産業ゾーンにおける自立分散型かつ環 境にやさしい持続可能な産業基盤を形成すること、また、緊急時のエネルギ ー需要の対応としても貢献することを主な目的として、産業分野における太 陽光発電(メガソーラー)や周辺地域のエネルギー利用が可能なバイオマス をはじめとした再生可能エネルギーの集中導入を目指します。 (ウ) 方向性 各工業団地の特徴や環境エネルギー政策に関わる取組などを調査・整理した 上で、再生可能エネルギーの導入に関心を示す工業団地側と導入策について 協議会を設置して検討を行います。 工業団地について整理したこれらの特徴などで、 可能な限り類型化を行い、 導入が実現した事例をもとにしながら、普及シナリオを策定して他の工業団 地への展開を図ります。 (エ) モデルプロジェクト ○ メガソーラーを中心に再生可能エネルギーを集中導入し、工業団地の環境 負荷化を低減する『エコファクトリー化』 」を進めます。 ○ 立地する工場群の特性やエネルギー需要、周辺地域の状況などを分析し、 バイオマスの補助電源燃料(コージェネレーション)としての活用と工場排 熱の利用などを組み合わせた最適な導入モデルの検討を行います。 - 70 - 表 5-2 工業団地のエコファクトリー化モデル ・ 大規模太陽光発電の導入による商用電力の代替 ・ 団地内遊休地や工場屋根面などを有効活用して大規模導入 ・ 変電所設置による一括受電、ユーティリティ設備(主たる設備の付帯的な 設備(電気、空調、蒸気供給設備、コージェネレーション設備など)の 共同化 ・ マイクログリッドにより太陽光発電の出力調整 メガソーラー発電 + 木質バイオマス利用 ・ 広い敷地、交通アクセス、市街地からの距離などの利点を活かして地区内外よ り剪定枝などの木質バイオマスを集約化、コージェネレーションにおける補 助電源燃料として利用 ・ 工業団地への燃料供給システムの構築 (電力・熱利用) ・ ユーティリティ設備共同化によるエネルギー(電力・熱)の融通 ・ 団地内食品廃棄物及び有機性排水のメタン発酵による共同処理 + 食品バイオマス利用 (電力・熱利用) ・ 周辺地域の生ごみ、事業系厨芥類のメタン発酵による共同処理 ・ メタンガスのコージェネレーション燃料などとしての利用工業団地への 燃料供給システムの構築 ・ ユーティリティ設備共同化によるエネルギー(電力・熱)の融通 ・ 排熱の有効利用、工場間融通による燃料消費の代替 + 工場排熱の団地内 ・ 地区内工場群を結ぶ排熱ネットワーク、需給制御 ・ 工場排熱の回収による冷房暖房利用 融通 (オ) 実証事業の概要 埼玉県の立地環境は、高速交通網をはじめとした優れた交通インフラや、首 都圏という巨大なマーケットに近接している点が特徴として挙げられ、多種多 様な業種の製造業が集積し、多くのエネルギーを消費しています。 ここでは、工業団地のエコファクトリー化モデルとして、団地内へのメガ ソーラー発電の導入を中心に、バイオマスを燃料とするコージェネレーション などを組み合わせた電力と熱の有効利用のモデルを検討します。 D社 メガソーラー 電気 A社 C社 熱 B社 メタンガス発電(補助)など 図 5-16 モデルプロジェクトのイメージ(団地内メガソーラー発電) - 71 - (カ) 実証事業の実施体制 ○ 工場・事業場 ○ エネルギー供給事業者(民間企業、工業団地工業会・協同組合など) ○ 機器・システムメーカー (例:太陽光発電設備メーカー、電機メーカー、熱利用技術を有する事業 者) ○ 県/市町村/学識経験者/コンサルタント ■メガソーラーシステム 工業団地内の工場屋根や空きスペースなどの遊休地(2~3ha)を活用し、出 力して約1MWのメガソーラーを建設することを想定します。 ■マイクログリッドの構築 メガソーラーで発電した電力を工場群で最大限有効利用するためには、自営線 の設置による工場間の連系や電力を融通・配分して有効活用する必要があり、 マイクログリッドの構築が求められます。 注)マイクログリッド 需要地内で複数の分散型電源や蓄電池などの電力貯蔵システムを組み合わせ、分 散型電源の発電量を需要状況に合わせて制御し、電力の地域自給を可能とする小規 模の電力供給網のことです。 注)自営線 自ら維持・運用する電線路のことです。 - 72 - エ 都市内剪定枝の集約化モデル (ア) 背景 都市部では、公共施設や公園の樹木や街路樹などの定期的な維持管理作業 により、毎年一定量の剪定枝が発生しています。 一部の剪定枝は、自治体主導で堆肥化し、地域で農業用、園芸用の堆肥と して原料利用されていますが、堆肥の需要が減退している状況もあり、完全 な有効活用とはなっていません。また、廃棄物としてごみ処理施設に持ち込 まれて焼却処分されている状況もあります。 (イ) 目的 地域の廃棄物処理業者が所有する破砕施設を活用してチップ化を行います。 剪定枝を効率よく集積することで、焼却処理にかかるコストを削減しつつ、 生産する木質チップをカーボンニュートラル注)な燃料としてエネルギー利用 します。良質なものについては、必要に応じて建築資材の集成材や歩道被覆 材のウッドチップなどとして利用することも検討します。 (ウ) モデルプロジェクト ○ 公共施設などから発生する剪定枝を、破砕施設を所有する地域の廃棄物 処理業者に集約化します。 ○ 破砕されてできた木質チップは、有価物として木質チップ市場で販売を 行います。 ○ 資源の地産地消、輸送に係るエネルギー消費や二酸化炭素(CO2)排出 の問題があることから、できる限り地域での利用方法を検討します。 市町村 ○ 分別を周知、造園業者指導 ○ 市町村施設や住民の利用促進 発電施設 廃棄物処理業者 ○ 剪定枝を受入れ ○ 破砕、チップ化 排出者 排出 ○ 植木の剪定管理 販売 利用者 ○ 歩道被覆材等での利用 図 5-17 モデルプロジェクトのイメージ - 73 - (ウ) 実証事業の概要 剪定枝が多く発生する市町村において、産業廃棄物及び一般廃棄物の許可 破砕施設をもつ地域の廃棄物処理業者と埼玉県の3者で連携し、剪定枝の集 約化モデルに関する実証事業を行っています。 集約化・破砕により、剪定枝は木質チップとなり、発電用燃料などとして 販売され、既存の流通ルートに乗り有効利用されます。 (エ) 実証事業の実施体制 ○ 市町村(一般廃棄物処理、公共施設・公園及び街路樹の維持管理) ○ 剪定枝処理業者(例:廃棄物処分事業者、収集運搬業者) ○ エネルギー需要者など(例:木質バイオマス発電事業者、木質チップ市 場) ○ 県 (オ) 今後の展開 現在実施しているモデル事業の成果をとりまとめ、他の市町村に周知を図 りながら、取組を拡大させていきます。 また、現在の取組では、製造されたチップは既存の流通ルートに乗り、そ の多くが県外に流れています。木質バイオマスは「カーボンニュートラルな 燃料」とされていますが、流通・運搬で遠方に運ばれ、化石燃料が使用され ることで、その価値が薄れてしまいます。 地産地消の観点から、県内での有効活用も検討していきます。 注)カーボンニュートラル 植物や植物を原料とするバイオ燃料などを燃やして出る二酸化炭素(CO2) は、植物が生長過程に吸収した二酸化炭素(CO2)と同量で温室効果ガスを増 やすことにはならず、環境破壊にはつながらないという考え方 - 74 - オ 農業施設のエコファーム化モデル (ア) 背景 県北地域では、大消費地「東京」を背景とした農業が発達し、比較的大規 模に農業・畜産経営が行われています。 今日の農業では、肥料・農薬やエネルギーをふんだんに使用した集約的か つ効率的な農業が展開されていますが、その分、原油高騰や災害時など緊急 時となれば、エネルギーのみならず、肥料・農薬も価格が高騰、厳しい経営 環境になる可能性があります。 (イ) 目的 農業分野には、稲わらやもみ殻などの農業系バイオマスや家畜の糞尿など の畜産系バイオマスなど利用可能なエネルギー資源と肥料などを生み出す原 料資源が豊富に存在します。 県北地域のバイオマス資源をフル活用して農業振興を図りながら、自立分 散・地産地消・循環型社会を目指します。 (ウ) 方向性 市町村の農政部局を通じて、現地調査やアンケート調査などにより、県北 地域に存在する農家及び農業バイオマス及び畜産バイオマスの利用可能量の 把握を行うとともに、再生可能エネルギーの導入に関する関心や地域におけ る課題などを整理します。 上記の接点から、県が、取組に関心を持つ畜産農家と地元市町村や農業及 びエネルギー関連技術を有する民間企業などで構成される研究会を設置し、 事業化を目指して検討を行います。 導入が実現した事例をもとにしながら、普及シナリオを策定して他の地域 への展開を図ります。 (エ) モデルプロジェクト ○ 農家単位で畜産の糞尿などをメタン発酵処理し、メタンガスを製造しま す。 ○ メタンガスは、熱源を必要とするビニールハウス栽培農家に供給して「ト リジェネレーションシステム」注)で利用します。 ○ メタンガスの製造に伴い発生する廃液は「液肥」として利用できるため、 - 75 - 農地で化学肥料の代わりに用います。 ○ 農家単位にパッケージ化し、農住近接地域での面的展開を図ります。 ○ 事業実施に当たっては、悪臭対策に配慮します。 注)トリジェネレーション メタンガスから、発電機により電力と熱を取り出すほか、ガスの燃焼により、発生す る二酸化炭素(CO2)をビニールハウスに吹き込み、光合成による植物の生育にも役 立てるシステム(接頭語の「トリ」は3つという数を表す) ビニールハウス栽培農家 畜産農家 液肥 農場 廃棄物 畜舎 メタン発酵施設 バイオガス トリジェネレーションシステム 電力 熱 CO2 ビニールハウス 図 5-18 モデルプロジェクトのイメージ (オ) 実証事業の概要 県北地域の比較的規模の大きい畜産農家において、農業施設のエコファ ーム化モデルの先導的導入に関する実証事業を検討します。 そこでの試験的運用を通じて、パッケージモデルとして確立したうえで、 周辺の農家に周知をしながら、近接地域などへの普及拡大を図っていきま す。 (カ) 実証事業の実施体制 ○ 農業関係者(例:大規模畜産農家・ビニールハウス栽培農家、 農業協同組合、農業生産法人) ○ 機器・システムメーカー(例:プラントメーカー) ○ エネルギー事業者(例:ガス事業者) ○ 県/市町村/学識経験者/コンサルタント - 76 - ■メタン発酵施設 メタン発酵とは、家畜のふん尿などのバイオマスを、酸素がない状況で微生物 に分解させてメタンガスを発生させる方法です。 発酵の過程で「消化液」と呼ばれる廃液が発生するため、その処理が必要になり ますが、農業分野では、これを「液肥」として利用できるメリットもあります。 ■トリジェネレーションシステム メタン発酵施設から発生するメタンガスは、トリジェネレーションシステムの 燃料として利用し、発生する電力、熱、二酸化炭素(CO2)をビニールハウス内 で、補光ランプ、保温・加温、生育促進の為に活用することが有効であると考え ます。 電力 補光ランプ 熱 CO2 ガスエンジン発電機 ビニールハウス - 77 - カ 既存インフラを利用した生ごみの処理効率化モデル (ア) 背景 都市及び農村では、家庭や事業活動から、生ごみや事業系の厨芥類が排 出されていますが、回収・集積には厳しい制約があり、その多くが清掃工 場で焼却処理されています。 これらは水分を多く含むため、焼却処理には多大な熱エネルギーが必要 となり、化石燃料の消費、二酸化炭素(CO2)の排出が問題とされていま す。 近年、下水処理場で下水汚泥とともに生ごみを消化槽注)でのメタン発酵 により効率的に処理し、エネルギー利用する取組が行われつつあります。 図 5-19 下水処理場のエネルギー利用 出典:(財)下水道新技術推進機構ホームページ 注) 消化槽・・・消化(汚泥を酸素が少ない状況で微生物処理)するタンクのこと (イ) 目的 生ごみなどの食品系バイオマスを排水処理施設に受け入れ、消化槽で効 率よく一体処理を行い、生ごみの処理費用を削減するとともに、生み出さ れるメタンガスのエネルギー利用を目指します。 生ごみのエネルギー利用に当たっては、必ず汚水が発生することから、 主要な排水処理施設である下水処理場、し尿処理施設、コミュニティプラ ントや農業集落排水施設など既存のインフラを利用することが有効です。 (ウ) 方向性 消化槽を設置している排水処理施設、又は、消化槽は存在していないが、 近々、施設更新を迎える予定となっている排水処理施設を対象とすることと します。取組に先立って、施設の状況、自治体内での生ごみ・事業系厨芥類 の処理状況(処理量、コスト)及び取組に対する意向などの調査を行います。 - 78 - すでに消化槽を設置し、かつ、余力がある施設で周辺に、割り箸や金属ご みなどの異物を含まないような良質な事業系厨芥類の存在が確認されてい る場合、試験導入による実証事業を行い、可能な限り導入量を増やしてメタ ンガスの発生量を引き上げていきます。 また、近々、更新の計画がある施設が把握できた場合には、関係部署と連 携し、消化槽の設置、生ごみなどの収集・投入を計画に入れ込むことを検討 します。 導入が実現した事例をもとにしながら、普及シナリオを策定して他の市 町村への展開を図ります。 (エ) モデルプロジェクト ○ 排水の処理能力に余力のある下水処理場などの排水処理施設において生 ごみなどの食品系バイオマスについての共同処理を検討します。 ○ 排水処理汚泥と生ごみなどを消化槽でメタン発酵処理します。 ○ 発生するメタンガスでの発電により、電力と熱を取り出し、排水処理と ごみ処理のエネルギー源として利用します。 ○ 温室などの併設も検討し、熱の有効利用を図ります。 (オ) 実証事業の概要 地域の排水処理施設において、生ごみなどと排水汚泥の一体処理による エネルギー利用モデルの構築に関する実証事業を検討します。 生ごみなどが集積する清掃センターと排水処理施設における状況や必要 な条件などを整理し、最適な導入システムの検証を行うともに、他の施設 へ適用、展開するに当たって参考となるモデルの構築を図ります。 (カ) 実証事業の実施体制 ○ 排水処理施設関係者(例:市町村、下水道公社) ○ 清掃センター関係者(例:市町村) ○ プラントエンジニアリングメーカー ○ エネルギー事業者(例:電気事業者、ガス事業者) ○ 県/学識経験者/コンサルタント ■その他の付帯設備など 生ごみの受け入れに当たっては、メタン発酵を行う消化槽以外に、混入物を取 り除く前処理設備など、ガスホルダ(貯蔵タンク)、発電設備などの導入が必要に なります。 - 79 - (4) 再生可能エネルギー導入に向けた仕組みづくり ア 情報の共有化・事業化への誘導 新たな取組を行っていくには、様々な知恵と技術の集約化が必要です。 再生可能エネルギーに関する研究会、ワーキンググループ、勉強会などを立 ち上げ、再生可能エネルギーに関する情報を持つ関係者(ステークホルダ)を集 めることで、最先端かつ有効な情報を集約化・共有化します。さらに事業化に関 心を示す関係者を呼び込み、マッチングを行いながら、事業の実現可能性を高め ていきます。 その後、県は、研究会などの運営や関係者の広がり、検討の進捗状況や検討成 果などを管理します。状況によっては、研究会などを事業主体として、共同事業 体(コンソーシアム)へ発展させることもイメージします。 このような研究会などの組織を積極的に立ち上げ、関係者との接点を増やして いくことで、時代の流れや状況に敏感な民間企業のスピード感やニーズに対応し ていきます。 例) 研究会が、共同事業体(コンソーシアム)に発展するケース 第1ステージ: 研究会(or 勉強会) 第2ステージ: 協議会(or 組合) 第3ステージ 共同事業体 研究の趣旨に賛同するメン 事業化に関心を持つメンバ 具体的に事業化の意思を持 バーを集め、情報を持ち寄り ーが、運営費を負担しつつ つメンバーが、共同事業体 研究を進めます。 事業化、共同事業体の設立 (株式会社、特別目的会社 現状分析を行うとともに、課 等について検討を行いま SPC、有限責任事業組合 LLP 題について知識を深めます。 す。 等)を構成します。 県は、事務局として、会の運 県は、メンバーによる国の 県は、共同事業体に対して、 営や必要な調査を行い、情報 技術開発事業への提案、協 必要に応じて支援を行いま 提供します。 議会の運営支援を行いま す。 す。 - 80 - 関連技術 を有する大学 3st 共同事業体 2st 協議会 1st 研究会 関連技術 を有する大学 事業化に 関心を持つ企業 事業への関与 を検討する企業 事業の一部、又は、 役割を担う企業 関連企業、 興味関心のある企業 行政・大学 発起企業、行政 発起企業、行政 出資を考える企業、 事業の一部を担う企業 - 81 - 支援 共同事業体 (マネジメント) 出資企業 共同事業体(コンソーシアム)の事例 「本庄スマートエネルギータウンプロジェクト」 目的 「自然エネルギーの徹底活用で気候変 動に対応したスマートシティモデルを 徹底的に追及する。」 本プロジェクトでは、再生可能エネルギ ー利用と発電システムと、現在未利用と なっている(太陽熱・大気熱・地中熱) を家庭・商業施設・事業所・工場等で利 用するグリーン社会システムを構築す ることを目的としています。 内容 プロジェクトを実施する埼玉県本庄市地域では国の指定を受け、現在、環境産業や 都市機能の集積を推進する拠点整備事業による新都市整備が進められています。 本地域の特徴である「自然」と「熱」を重要なエネルギー資源と捉え、地域のエネル ギー・交通システム・市民のライフスタイルを統合的に組み合わせた地方版スマート シティモデルを構築し、全国の地方都市、更には海外に向けて発信していきます。 運営組織 - 82 - <運営委員会> 開 催:月1 回程度 メンバー:大学・機関研究者、幹事会員、財団 個別WG(ワーキンググループ)の取組の立案・承認、運営方法協議 、 評価、補助金、助成金の獲得 <5つのWG> 開 催:適時 メンバー:大学・機関研究者、幹事会員、一般会員、財団、財団賛助会員 取組内容の検討 ① 次世代スマートハウスWG ・地中熱等の再生可能エネルギーを 徹底利用 〈太陽光、太陽熱、地中熱利用ヒート ポンプシステム〉 ・家庭用エネルギーマネジメントシ ステム「Smart Robot」 〈キャラクターが知らせるエコ生活〉 ・住宅群のグリッド化による最適なエネルギーシステムの開発 〈次世代モビリティによるカーシェアリングシステム〉 ② 次世代モビリティ交通システムWG ・EV や電動自転車を中心とした次世代交 通システム ・商業設備や駅に充電インフラの導入 ・子供からお年寄りまで安全・安心に移動 できる新たなモビリティ形態 ③ 次世代商業施設WG ・エネルギー独立を実現し、次世代モビリ ティ等へのエネルギー供給拠点となる次 世代商業施設の構築 - 83 - ④ クラスター拡張型スマートグリッド注)WG ・分散型電源貯蔵・供給システムとしてのクラスター化したマイクログリッドシス テムの構築 〈太陽光、水素、バイオマス利用発電等を利用した分散型電源/リチウムイオン電池や NAS電池等の電力貯蔵装置をバックアップとした EV 向け急速充電システム〉 ⑤ バイオエネルギーWG ・急速熱分解による木質系バイオマス からバイオオイル製造 ・豊かな自然が生み出すエネルギーの 有効利用 〈埼玉県北部を中心に、北関東や甲信越 地方に豊富に存在する森林バイオマス を利用した、エネルギーの有効利用と ビジネスモデルの提案〉 <国の公募採択事業> 環境省平成23 年度地球温暖化対策技術開 発等事業(予算1 億3,500 万円/年) 「分散電源等エネルギーマネジメント制御シ ステムの開発による電気・熱利用の最適化 とCO2削減実証研究」 環境省平成 23 年度サステイナブル都市再開発 促進モデル事業(予算 1500 万円/年) 注)クラスタ拡張型スマートグリッド クラスタ(地域や集落特性に合わせた適正規模の供給ネットワーク)を順次増設、連携していく スマートグリッド。 - 84 - イ 情報の集積・公開 県内で再生可能エネルギーに取り組もうとする方々に、県ホームページを通じて 広く情報を提供していきます。 県が持つ再生可能エネルギー関連の情報をとりまとめて掲載するほか、国や市町 村などと連携して有用な情報を掲載します。 本県のホームページを閲覧することで、 ワンストップで広く情報を収集できるように努めます。 ウ 技術開発の推進 再生可能エネルギー分野では、未だに確立されていない技術・システムが多く、 その技術開発には多くの労力と費用がかかることから、このスムーズな進展を促す 仕組みが必要になります。 具体的には、経済産業省・独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(N EDO) 、環境省や農林水産省・林野庁など関係省庁から定期的に情報収集するなど、 国による研究・技術開発支援の動向を注視しつつ、研究会などの産学官連携のなか から、競争的資金による技術開発事業への実証事業の提案・採択のための支援など を検討します。 また、再生可能エネルギー関連事業者に対して、積極的に研究開発に対する支援 を行うなかで、県内への工場・研究所の誘致にも取り組んでいきます。 エ 県の環境エネルギーへの取組の積極的な広報 再生可能エネルギーの導入促進に向けて展開する各施策を県内で周知するため、 様々な媒体を活用して積極的に広報を行います。 具体的には、県ホームページでの周知のほか、報道記者向けの資料提供、レクチ ャー、彩の国だよりへの掲載、研究会の参加企業によるパブリシティなど、あらゆ る機会をとらえて、広報活動を行いきます。 また、市町村やNPOなどと連携して普及活動を進めるほか、県政出前講座や環 境科学国際センターなどの県の研究機関や大学などの教育機関での講座なども積極 的に活用し、再生可能エネルギーの普及啓発に努めます。 オ 再生可能エネルギー導入推進体制の検討 再生可能エネルギーの導入促進に関する総合的な窓口を設置するなど、再生可能 エネルギーについての県民や民間企業からの相談や要望に素早く対応できる体制づ くりを検討します。これにより県民や民間企業とのパイプをさらに強化していきま す。 県民や民間企業などが主導的に再生可能エネルギーを導入する際、各種法令など の問合せ先が不明であるなど、障壁として受け止められてしまうことがあります。 再生可能エネルギーに関する県の窓口を明確にすることにより、関係課所との調 整や手続きなど、その煩雑さを軽減し県民や企業による再生可能エネルギー導入へ の取組参加を加速させます。 - 85 - 再生可能エネルギー導入推進体制の検討 環境部、産業労働部、農林部、県土整備部、都市整備部、企画財政部など各部局に 関係する再生可能エネルギー導入に係る業務について、総合的に推進する体制を検討 します。 企業の 設備導入 支援 街づくり 調査研究 農林業分 での導入 /研究会 野での推 推進 の運営 県民の NPO等 進 設備導入 団体との 支援 協力 市町村と の連携 カ 再生可能エネルギーの取組への総合的な支援 再生可能エネルギーの新たな分野に取り組もうとする企業や大学などに対し、 県は総合的に支援を行っていきます。 (ア) モデル事業(実証事業)などの支援 企業や大学などが、再生可能エネルギーの新たな分野に取り組む際、技術 面や事業採算性など検討すべき多くの課題があります。こうした課題を確認 し、解決するために、通常、事業化の前段階として、フィールド調査(現地 調査や市場調査)や実証事業が行われます。 県内で、フィールド調査や実証事業の候補地を検討している民間企業など に対しては、関係市町村との調整や競争的資金による国などの技術開発事業 への応募・採択による事業費の獲得に向けて、できる限りの支援を行います。 (イ) 規制緩和の要望・特区の申請 再生可能エネルギーの新たな分野に取り組もうとする場合、法令など の規制を受ける可能性があり、それが企業の技術開発コストを増やす一因に なっています。 これらの障害となる規制について、環境対策注)など必要なものを除いて は、民間企業や大学などの意見を取り入れながら、新たな環境下で変更が可 能なものがあれば、県自らが規制緩和に取り組むとともに、国に対して、積 極的に要望(特区申請なども含む)をしていきます。 注)再生可能エネルギーの導入でも、廃棄物・有害物質の発生など環境負荷の増加 も考えられるため、規制緩和の是非に関わらず注意が必要になります。 - 86 - Ⅵ まとめ 第Ⅴ章までで、背景を含む総論から、現状及び課題、基本方針及び具体的な施策な どを整理してきました。 この章では、そのまとめとして、ビジョンの計画期間と各施策や取組のスケジュー ルの観点からロードマップ(行程)を示します。 また、再生可能エネルギー導入に当たって、太陽光発電の不安定性など、普及拡大 の支障となる様々な課題への解決に役立つ技術、革新的なエネルギー高度利用技術を 紹介します。 最後に、継続的な検討課題として、現時点では見通しが明らかにならない新技術へ の対応や循環型社会における最終的なエネルギー源として注目される「水素エネルギ ー」についての取組の方向性を示します。 1 再生可能エネルギー導入のロードマップ 本県が取り組む再生可能エネルギーの導入に係るロードマップは、図6-1のとお りです。これまでビジョンのなかで示してきたとおり、再生可能エネルギーには太陽 光発電をはじめ、様々なエネルギーがあります。 なお、このロードマップでは、全体像のイメージをつかみやすくするために、細部 まで記載していません。 ビジョンの計画期間が9年間であるため、このうち最初の3年間を「フェーズ(段 階)1」 、次の3年間を「フェーズ2」 、最後の3年間を「フェーズ3」と表現するこ ととします。 なお、このロードマップは、第Ⅰ章の総論における「計画期間」で示したとおり、 概ね5年を目途に見直しを検討します。その際には、現在の技術では導入が難しかっ た再生可能エネルギーについて、技術開発の状況を調査し、導入の可能性について再 検討します。 87 再生可能エネルギー全体のロードマップ ※ 太陽光 施 工 品 質 の 向 上 コ大 ス量 ト生 ダ産 ウに ンよ る 家庭向け 大量普及 普 及 工業団地のエコファクトリー化 普 及 面 的 利 用 の 実 現 普 及 商業施設のスマートマーケット化 バ イ オ オ イ ル 製 造 事 業 化 利 用 拡 大 研 究 会 ・ W G 剪 定 枝 事モ 業デ 化ル P J ・ エ リ ア 拡 張 剪 定 枝 県 内 エ ネ ル ギ ー 利 用 埼玉県の再生可能エネルギー導入のロードマップ 88 実 証 事 業 モ デ ル P J 研 究 会 ・ W G 事 業 化 農業施設のエコファーム化 エコタウンの実現と県内他地域へ展開 図 6-1 プ ラ ン ト 技 術 開 発 温度差 廃棄物 導 入 可 能 性 検 討 技 術 開 発 実 証 事 業 プ ラ ン ト 技 術 開 発 事 業 化 施 設 整 備 計 画 → 普 及 集 合 住 宅 ソ ー ラ ー 面 的 導 入 次 世 代 林 業 技 術 開 発 → 商 業 施 設 へ の ク ー リ ン グ シ ス テ ム 導 入 熱 の 建 物 間 融 通 バ イ オ オ イ ル 技 術 開 発 → エコタウンにおける 各種取組の展開 買 取 制 度 の 創 設 ・ 充 実 → フ ェ ー ズ 3 普 及 → 拡 張 工 場 向 け 大 規 模 太 陽 光 発 電 設 備 導 入 実 現 → メ ガ ソ ー ラ ー 発 電 事 業 実 現 施 工 品 質 の 向 上 利 用 技 術 の P R その他 → フ ェ ー ズ 2 エコタウンの 先導的モデル 実現 マ イ ク ロ ・ ス マ ー ト グ リ ッ ド 実 現 機 器 品 質 向 上 開 発 木質 ・ 家庭向け 大量普及 (電力100%自活住宅) 買 取 制 度 の 充 実 → コ大 ス量 ト生 ダ産 ウに ンよ る → フ ェ ー ズ 1 機 器 品 質 向 上 開 発 バイオマス 太陽熱 事 業 化 全 て の エ ネ ル ギ ー に つ い て 、 技 術 開 発 の 動 向 を 注 視 し 、 継 続 的 な 情 報 の 入 手 に 努 め ま す 。 (1) 太陽光発電 本県では、全国的にみても比較的早い段階から家庭向けの補助制度を設置 するなど施策を講じてきました。それらの施策を継続し、 「フェーズ1」で 家庭向けの大量普及段階に到達、 「フェーズ2」では産業分野も含めて普及 拡大を目指します。 [フェーズ1] 再生可能エネルギーによる発電は最も注目されており、今後、国レベル、 自治体レベルそれぞれで強力に施策が講じられていくことが想定されま す。それに伴い、民間企業による機器及び施工品質の向上や大量生産に よるコストダウンも期待されます。 これまでの家庭部門での普及に加えて「電気事業者による再生可能エネ ルギー電気の調達に関する特別措置法」の成立により民間企業によるメ ガソーラー発電事業の立ち上げの動きなどが顕著になっています。 また、太陽光発電の課題である不安定さなどを克服するための電力制 御・負荷平準化技術であるマイクログリッド・スマートグリッド技術や 蓄電システムなどの開発が進展していくものと思われます。 なお、家庭向けでの大量普及は、本県が進める埼玉エコタウンプロジェ クトにおける必須の取組である「電力100%自活住宅」として先導的 モデル事業の実現につながっていきます。 [フェーズ2] 住宅用太陽光発電の大量普及への移行に引き続き、産業分野でも大規模 太陽光発電設備の導入(モデルプロジェクト「工業団地のエコファクトリ ー化モデル」)が始まり、売電を目的とするメガソーラー発電事業が拡大 していくことが予想されます。事業化を検討する民間企業を支援すること で普及を進めます。 なお、本県では、業務部門で、既に県自らが行田浄水場に1メガワット 規模のメガソーラーを導入したほか、NHKも菖蒲久喜ラジオ放送所(久 喜市)に2メガワット級での設置を進めています(P47、49参照) 。 [フェーズ3] 必要な施策を講じていくことで、 産業分野での普及拡大の継続を図ります。 (2) 太陽熱利用 オイルショック時に石油代替エネルギーとして、住宅用の太陽熱温水器が 普及する兆しがありましたが、石油価格の低位安定によるコスト優位性の低 下などにより、太陽熱利用技術に対する社会の関心も低下していきました。 しかし、エネルギー変換効率の高さ(40~60%)から、その後も海外を中 心に技術開発が行われ、その技術レベルは一定の水準に到達しています。 - 89 - [フェーズ1] 日本では、その高い変換効率も含め太陽熱利用技術が十分に知られてい ないことから、まずは技術の広報を積極的に展開しながら、戸建住宅への普 及を目指します。機器及び施工品質の向上のための施策、大量生産によるコ ストダウンへの誘導に取り組みます。 熱利用の推進にあたっても、電力と同様、買取制度が有効である可能性 があります。国の動向を注視しながら、自治体として、制度の創設・充実を 後押ししていきます。 なお、個々の住宅や建物への導入では、夏場に「熱余り」の状況が発生 することから、セントラル方式による大規模な太陽給湯システムの導入や熱 の建物間の融通(面的活用)を推進するほか、商業施設でのソーラークーリ ングシステムによる冷房利用や集合住宅への集中導入のための施策(モデル プロジェクト「集合住宅のソーラーエネルギー面的導入モデル」 )に着手し ます。 [フェーズ2] 更なる技術開発の進展を待ちつつ、太陽光発電に続き、戸建住宅を中心と する家庭部門で大量普及段階に到達させることを目指します。 建物間の融通(面的活用)と冷房利用、熱の買取制度の充実など施策を継 続的に講じていくことを前提に、集合住宅・福祉施設や商業施設などを中心 に普及を図ります。 [フェーズ3] 必要な施策を講じていくことで、集合住宅や商業施設をはじめ、工場など産 業分野も含めた全てを対象に普及拡大を図ります。 (3) バイオマスエネルギー ア 木質バイオマス 秩父を代表とする中山間地域の未利用の間伐材や林地残材などについて は、リーディングモデル事業として「森林資源活用によるエネルギー地産地 消モデル事業」により、バイオオイル製造の事業化についての取組を進めて います。 [フェーズ1] 原料供給とバイオオイル製造に関する残された課題についての技術開発 を終了し、研究会で、事業主体・関係者による出資などについて具体的な検 討を進めつつ事業化に達成します。 - 90 - [フェーズ2] 事業化達成後(1号機の設置後)、更に十分な原料の調達が見込める場合 には、製造プラントの2号機の建設を目指すほか、製造したバイオオイルに ついては、産業部門での利用に限らず、家庭部門及び業務部門での利用も検 討していきます。 [フェーズ3] バイオオイルの新たな用途など更なる有効利用も検討しながら、利用を拡 大していきます。 その他、都市部の剪定枝については、現在、一部の市町村と産業廃棄物処理 業者を中心に行っている集約化のスキーム、モデルプロジェクト「都市内剪定 枝の集約化モデル」を実施、検証していきます。 [フェーズ1] 先行して実施している実証事業「みどりのリサイクルシステム構築事業」を 終了するとともに、他地域への拡大を検討していきます。 [フェーズ2・3] 全県に取組のエリアを拡張するとともに、更に、製造した木質チップの県内 各地域におけるエネルギー利用(地産地消)を進めていきます。 イ その他のバイオマスエネルギー その他のバイオマスエネルギーとしては、農業系、畜産系、食品系バイオ マスを想定しています。モデルプロジェクトにも、農業系・畜産系バイオマ スでは「農業施設のエコファーム化モデル」 、食品系バイオマスでは「既存イ ンフラを利用した生ごみの処理効率化モデル」があり、これらを中心に取り 組んでいきます。 これらのモデルプロジェクトには、全国の他地域で先行している類似の取 組がありますが、技術開発を普及レベルという視点で考えた場合、まだ十分 には進んでいない状況にあります。 [フェーズ1] 埼玉県での事業化に関心を持つ関係者を集めて研究会を立ち上げ、国や他 の自治体、民間企業の技術開発及び実証事業の進捗状況を把握し、情報共有 を進めていく中で、実証事業の検討を行います。 - 91 - [フェーズ2] 実証事業の実施により得られる課題を整理した上で、研究会などの関係者 を中心として事業化を目指します。 [フェーズ3] 事業化の実績をもとに他地域への普及拡大を図ります。 (4) 温度差エネルギー 河川水熱、地中熱、下水熱などの熱エネルギー利用があります。これらの エネルギーは、基本的にヒートポンプにより利用することになりますが、現 在の技術開発のレベルでは完全に実用化されています。しかし、大量普及段 階にある大気熱ヒートポンプを除けば、家庭部門における戸建住宅や集合住 宅への導入は、まだコスト的に厳しい状況にあると言えます。 しかし、太陽熱利用と同様に、セントラル方式による大規模なシステム導 入やインフラ共有、熱の建物間の融通(面的活用) 、特に、大型の開発物件 については導入の可能性があると考えます。 [フェーズ1] 民間企業の技術開発及び国や他の自治体などが行う実証事業の進捗状況 を把握しながら情報共有を進めていく中で、導入可能性及び実証事業の検討 を行います。 [フェーズ2] 実証事業の実施により得られる課題を整理した上で、事業化を目指します。 [フェーズ3] 事業化の実績をもとに他地域への普及拡大を図ります。 (5) 廃棄物エネルギー 廃棄物では、一般廃棄物については市町村、産業廃棄物については民間事 業者が中心となり適正処理と利用が行われています。下水については、流域 下水道の処理場は県、他の小規模な下水処理場、し尿処理施設、コミュニテ ィプラントや農業集落排水施設は市町村が、その適正処理と利用を行ってい ます。 このとおり、一部を除いては、市町村が中心となって取組を進めていくこ とになることが予想されること、更には、処理プラントの更新のタイミング で事業化を目指すほうが効率的であると考えられます。 - 92 - 今後も、民間企業を中心に進められていくプラント技術などの開発の動向 を注視するとともに、プラントの更新計画などの情報と市町村の意向を注視 しつつ、 「フェーズ」の枠にとらわれない長期的な視点も持って、事業化を検 討していきます。 (6) その他のエネルギー 水力や風力、工場排熱をはじめとするその他のエネルギーについても、技 術開発の動向を注視しながら、民間企業などが主体的に導入することに対し て支援を検討していきます。 技術的な困難や障害を突破するブレークスルーがあった時は、新たな支援 を検討します。 (7) 埼玉エコタウンプロジェクト 再生可能エネルギーを中心とした創エネと徹底した省エネにより、エネル ギーの地産地消を具体的に進めるモデルを全国に発信するほか、 「ストップ 温暖化・埼玉ナビゲーション2050」に示した環境の視点から、暮らしや すく、活力ある地域社会の創造を目指します。 [フェーズ1] 住宅エリアと商業エリアにまたがる「中核的エリア」での電力100%自 活住宅やスマートグリッドの整備など、早期に成果を出すモデルとして「先 導的モデル事業」の実現を目指します。 [フェーズ2] エコタウンにおける各種取組を展開するなかで、主に、太陽光発電と太陽 熱利用、木質バイオマスをはじめとするバイオマスエネルギーを中心に導入 を進め、事業化を実現していきます。 [フェーズ3] 地域特性に応じた各種エネルギーの事業化実績をもとに「工業団地のエコ ファクトリー化」 、 「商業施設のスマートマーケット化」 、 「農業施設のエコフ ァーム化」などその他の取組を進めることで先進性・独自性が高い「埼玉エ コタウン」とし、更には県内他地域への展開を図ります。 2 革新的なエネルギー高度利用技術などの活用 再生可能エネルギー導入に当たっての大きな課題としては、エネルギーとし ての安定性の欠如、導入コストの高さが挙げられます。その課題を解決するた め、天然ガスコージェネレーションなど、革新的なエネルギー高度技術の活用 のほか、蓄電池を搭載する電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動 車(PHV)の導入などを進めます。 - 93 - (1) 革新的なエネルギー高度利用技術とは 革新的なエネルギー高度利用技術は、 「再生可能エネルギーの普及、エネル ギー効率の飛躍的向上、エネルギー源の多様化に資する新規技術であって、 その普及を図ることが特に必要なもの」とされています。 これには、再生可能エネルギーの普及拡大の点からも様々な導入メリットが ありますので、本ビジョンでも積極的に推進していきます。 ◆ エネルギー効率の飛躍的向上に資する新規技術 定置用燃料電池、ハイブリッド自動車、天然ガスコージェネレーション、ヒ ートポンプ、石油残渣ガス化技術(石油残さをガス化して発電する技術)、ク リーンコール技術(石炭の高度利用技術) ◆ エネルギー源の多様化に資する新規技術 クリーンエネルギー自動車、天然ガスや軽油などを製造する技術、ジメチル エーテル(DME)製造技術、非在来型化石燃料利用技術(メタンハイドレート の利用技術、オイルサンドなど超重質油の効率的分解技術) (2) 革新的なエネルギー高度利用技術の活用メリット ア 再生可能エネルギーの有効活用 再生可能エネルギー導入に当たっての大きな課題として、 「安定性の欠 如」 「導入コストの高さ」などが挙げられます。特に、再生可能エネルギ ー由来の電力は天候などにより、供給量が大きく変動することから、そ の弱点を補完すべく、革新的なエネルギー高度利用技術を不安定な再生 可能エネルギーの設備やプラントの周辺に配置して安定性を高めるなど、 より有効に活用できるようにします。 例)太陽光発電設備に対する補助電源としての「天然ガスコージェネレーショ ン」 イ 省エネルギー技術としての有効利用 エネルギー効率が飛躍的に向上する技術として、 省エネでも大いにその 威力を発揮します。これにより、エネルギー需要量の削減を図ることが できれば、エネルギー自給率の向上に寄与します。 また、 「電力」を地産する際に発生する「熱」の有効利用を進めること で、冷暖房など「熱」に関する「電力」の節減が可能になるなど、節電・ 省電力にもつながります。 - 94 - ウ スマート性を付加した安心安全な街づくり 街づくりにおいて、 「再生可能エネルギー」+「革新的なエネルギー高 度利用技術」+「スマート化:需要をマネジメントする仕組み」を導入 し、省エネ性や自然エネルギーの導入により自立性・多様性を高めるこ とで、災害など有事にも強い街づくりの一翼を担います。 例)定置用燃料電池:化石燃料(水素)→ 電力+熱(+水) 天然ガスコージェネレーション:化石燃料 → 電力+熱 ヒートポンプ:電力(小) → 熱(多量の温水) (3) 革新的なエネルギー高度利用技術の推進策 民生向けの家庭用燃料電池や事業者向けの天然ガスコージェネレーショ ンなどに対する設備導入に向けた補助支援や余剰電力を電力会社などが買 い取る際の売電価格の上乗せ措置注)や設備の導入や自動車の買い替えに対 する補助制度など、従来の取組を継続・強化していくことが重要です。 国が現在検討中の新たなエネルギー政策における扱い(位置付け)もよ く見据えた上で、改めて県としての推進策を整理します。 注)太陽光発電と家庭用燃料電池を併設した場合、買取対象は太陽光部分のみが 買取対象となります。太陽光発電と燃料電池を併設した電力の売電価格を高め に設定すれば、革新的なエネルギー高度利用技術は普及すると考えます。 (4) エネルギー貯蔵技術の活用 太陽光パネルなどで発電したエネルギーを電気自動車(EV)やプラグ イン・ハイブリット自動車(PHV)の蓄電池(バッテリー)に充電する ことで、不安定な再生可能エネルギーの電源が安定的に利用できるように なるほか、災害時などの緊急時に、病院や老人ホーム、避難所などでの活 躍が期待されます。現在、「スマートハウス」など住宅電源との連携につ いての実証研究が進みつつあります。 一方、大型の蓄電池としては、NAS(ナトリウム硫黄)電池がありま す。不安定な風力発電設備や太陽光発電設備に併設することで系統電力の 安定性を維持できるほか、系統電力の接続でも電力需要変動の問題を解決 する手段になっています。 (5) エネルギーネットワークの構築 再生可能エネルギーの大量導入に当たっては、マイクログリッド・スマ ートグリッド技術による不安定電源に対する電力制御や負荷の平準化、熱 の余剰に対する建物間融通(面的活用)など、スマートメータや各種エネ ルギーマネジメントシステム(HEMS:ホーム、BEMS:ビルディン グ、CEMS:コミュニティ)などの情報通信技術や熱輸送管網などの新 - 95 - しいエネルギー供給基盤などをフルに活用したエネルギーマネジメント が必要になります。 現在、国では、次世代エネルギー・社会システムの構築を目指して、全 国4つのモデル地域(横浜市、豊田市、京都府けいはんな学研都市、北九 州市)でエネルギーネットワークの構築を中心とした大規模な実証研究を 行っています。更には、本県でも早稲田大学本庄キャンパスを中心とした 本庄地域では「本庄スマートエネルギータウンプロジェクト」(P82~ P84)が展開されています。 これらの取組の動向を注視しつつ、県内各地域において、地域の特性に 合わせた、スマートエネルギーネットワークの構築を目指します。 そして、 「埼玉エコタウンプロジェクト」により、 「自然」の恵みともい える再生可能エネルギーを、構築したエネルギーネットワークによって最 大限に活用するとともに、再生した「みどりと川」など埼玉が誇る豊かな 「自然」環境をバックにした、埼玉らしい「エコタウン」づくりを、産学 官民総ぐるみで進めていきます。 3 継続的な検討課題 ここでは、再生可能エネルギーの導入に当たり、現状で、まだ明らかになっ ていない課題について継続して取り組んでいくことをイメージしながら整理 しました。 (1) 情報収集と課題の整理・検討 実際に、再生可能エネルギーの導入を進めて行くプロセスにおいて、技術 革新による画期的な新技術の登場が想定される一方で、様々な課題が次々に 発生することも想定されます。 国などからの発信情報や研究会などの参加者からの情報などに、 常にアン テナを張り、随時課題を整理しながら検討をしていく仕組みを構築します。 (2) モデル化と普及シナリオ(マニュアル)作り 成功した事例は、 他地域や環境でも参考にできるよう常にモデル化を意識 しながら実証事業などに取り組むとともに、その後の普及シナリオを策定し ます。 なお、成功事例に対して策定した普及シナリオは、 「埼玉方式」として、 広く県内外に対して広報を図ります。 (3) 施策による効果の検証 国の政策との整合性を図りながら、県として導入施策の継続性を担保し、 効果を検証するための仕組み・体制整備を行います。 エネルギーごとにその普及拡大を表す指標となるデータを選定して収集 - 96 - 方法を検討し、毎年、施策展開の進捗管理のなかで、データの収集を行いな がら効果の検証を行います。そのなかで、設定した目標の妥当性について確 認し、必要に応じて修正も検討します。 (4) 外部チェック機能の確保 本ビジョンのみならず、 あらゆる環境エネルギー政策が正しく機能するこ とを目指し、環境審議会に毎年、報告を行い、学識経験者などから意見を受 けることとします。 その意見は、随時、施策の展開に反映させるとともに、5年後に見直しを 予定しているビジョンにおいても反映させることとします。 (5) 新たな再生可能エネルギーへの取組 ア 新技術への取組強化 バイオマスエネルギーや温度差エネルギーなど再生可能エネルギー技 術のなかには、現時点で、その技術レベルが明確になっていない、社会的に 認知されていない新技術や仕組みがあります。 このような新技術については、国からの情報や大学や県の研究機関との 連携のなかから、技術理論に対する信憑性や開発段階などを、随時、議論し ながら判断していきます。 技術の確立と普及を見据えた上で社会的価値が十分に高いと考えられる ような場合には、国の動向を問わず、県として必要な支援策を積極的に展開 していきます。 イ 水素エネルギーへの取組 「水素」は、地球上に豊富に存在する元素のひとつであり、新しいエネ ルギー媒体として期待されています。その「存在量の膨大さ」と「高い環 境性(自然界からの収集が可能、利用後に水となることなど) 」から、埼玉 県では、水素エネルギーの周辺情報には特に気を配り、民間との連携を強 化しつつ、県としての施策を検討、積極的に展開していきます。 具体的には、太陽光発電などの再生可能エネルギーによる水素ガス製造 や輸送・貯蔵における安全性の向上など基礎的な技術開発のほか、レアメ タルの使用量削減をはじめとするコストダウンに係る技術開発に対する支 援、家庭用燃料電池の市場拡大、燃料電池自動車の普及など設備導入に対 する支援なども含めて、新しいエネルギー技術の一つとして、その普及拡 大を検討していきます。 - 97 -