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1100KB - 京都精華大学
京都精華大学紀要 第四十三号
― 135 ―
中小企業における存続の要件
―― 長寿企業調査より ――
服 部 静 枝
HATTORI Shizue
1. はじめに―研究の背景と目的―
2.中小企業アンケート調査―創業 40 年以内と 100 年以上の企業比較―
2.1 アンケート調査の概要
2.2 アンケート調査の結果
2.3 まとめ
3.長寿企業へのインタビュー調査
3.1 インタビュー調査の概要
3.2 インタビュー調査の結果
3.3 まとめ
4.中小企業存続の要件とその背景にあるもの
5.おわりに
1. はじめに ―― 研究の背景と目的
中小企業を取り巻く環境は依然として厳しく、倒産する企業も多いが、その一方で昭和恐慌、
太平洋戦争、バブル崩壊など多くの荒波をくぐり抜け、時代を超えて生き続ける中小企業も多
く存在する。東京商工リサーチが実施した調査によると、同社の企業データベースで抽出した
1
全国創業 100 年超え企業は 2009 年 9 月末時点で 2 万 1,000 社 であり、そのおよそ 96%が中
2
小企業である 。スケールメリットを追求できない中小企業が、なぜ世紀を超えて生き残るこ
とができたのだろうか。
数年前、新聞に連載されていた老舗の記事をきっかけに筆者は老舗の持続性に関心を持った。
ほとんどの老舗が文書や口伝により家訓を代々守り伝え、その家訓の多くは筆者の研究テーマ
3
である CSR(Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任)にかかわる要素 を含んで
いたからである。
― 136 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
2010 年 11 月に発効した、組織の社会的責任に関する国際規格 ISO26000 では、
「社会的責任」
を以下のように定義し、あらゆる組織が社会的責任を果たすことを奨励している。
組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫理的
な行動を通じて組織が担う責任
―― 健康及び社会の繁栄を含む持続可能な発展に貢献する。
―― ステークホルダーの期待に配慮する。
―― 関連法令を順守し、国際行動規範と整合している。
―― その組織全体に統合され、その組織の関係の中で実践される。
注記1 活動は、製品、サービス及びプロセスを含む。
4
注記2 関係とは、組織の影響力の範囲内の活動を指す。
これによって CSR に対する認識が高まったと思われたが、不正会計、食品偽装、リコール
隠しなど、企業の不祥事は後を絶たず、また大企業と比べると中小企業における CSR の認知
度は低い。我が国の企業数(民営、非1次産業)およそ 420 万社のうち 99.7%が中小企業であ
5
る 。大多数を占める中小企業への CSR の普及・浸透を急ぐ必要があり、老舗企業の調査を通
じて企業存続の要因が CSR とつながれば、中小企業に CSR を浸透させるインセンティブにな
るのではないかという思いから、この研究を始めた。
近年、組織論、戦略論、事業承継論など様々な領域で、老舗企業の持続性に着目した研究が
行われているが、ほとんどが老舗企業の調査のみでその象徴的要素を取り上げている。老舗企
業と創業間もないベンチャー企業との比較研究は、日経リサーチが 1999 年に実施したアンケー
6
7
ト調査 と、ある特定の地域における聞き取り調査 が行われている程度である。前者のアン
ケート調査は中小規模の老舗企業に限定したものではなく、また世紀を超える企業経営の秘訣
―特に「革新要素とは何か」に絞った質問内容となっている。このことから、筆者は CSR の
観点もアンケートに盛り込み、創業 40 年以下と 100 年以上の中小企業それぞれ 1,000 社を対
8
象に比較調査 を行った。また、比較調査から浮かび上がった創業 100 年超え企業の特性が企
業存続にどのようにつながったのかを解明するため、14 社に対しインタビュー調査を実施し
た。アンケート調査の概要と結果については第 2 章で、インタビュー調査については第 3 章で
紹介し、第 4 章では企業存続の要因となり得るものの背景と今後の課題を考察する。
9
一連の調査を実施するにあたり、中小企業の定義は中小企業基本法 に従い、表1のとおり
とした。
(ただし、今回の調査はこのうち製造業、卸売業、小売業を対象とする)
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京都精華大学紀要 第四十三号
― 137 ―
表1 中小企業の定義
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老舗の定義については、広辞苑では「先祖代々から続いて繁昌している店。また、それによっ
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て得た顧客の信用・愛顧」とあるだけで、創業後の年数に関する定義がないため、多くの先行
研究や自治体による老舗企業表彰で用いられる「創業 100 以上」とした。また、老舗企業研究
の第一人者である横澤(2009)は、老舗企業について「ただ長生きしている長寿企業とは異な
10
るのである。
『老舗』は、それを自ら言うのではなく、第三者が評価していう言葉である 」
と述べている。しかし、創業 100 年以上のアンケート送付先企業をすべて評価するのは難しい
ため、今回の調査では「老舗」という言葉を使用せず、
「長寿企業」とした。
2.中小企業アンケート調査 ――創業 40 年以内と 100 年以上の企業比較
2.1 アンケート調査の概要
アンケート調査の目的は、長寿の中小企業と、社歴がそれほど長くない中小企業を比較する
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ことにより、長寿の中小企業にみられる特徴を明らかにし、持続的経営のヒントを探ることで
ある。
帝国データバンクのデータベースから、
創業 100 年を超える長寿の中小企業
(以下、
長寿)
1,000
社と、創業 10 年以上 40 年以下の中小企業(以下、中小)1,000 社を無作為抽出し、質問紙に
よる郵送調査を実施した。
中小の社歴については、事業承継を一度も行っていない、あるいは 2 代目に引き継いでいて
も創業者が存命中で影響力を残していることが想定できる 40 年以内とした。また、中小企業
の生存率は創業 10 年後でおよそ 26%
11
であり、
「業歴 10 年未満の企業は〔中略〕事業基盤を
12
構築する前に倒産に至るケースが多い 」ことから、創業 10 年以上とした。
調査対象とした地域、業種、企業規模等は表2のとおりである。対象業種は、長寿において
構成比の大きい製造業および卸売・小売業
13
とした。また、企業規模は、前述の中小企業基
本法にしたがって、製造業における中小企業者の定義である「従業員数 300 人以下」とし、商
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― 138 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
ľǢǷʼn
業・サービス業における小規模企業者の定義となる「従業員数 5 人以下」の企業を除外し、6
人以上とした。小規模企業者を調査対象から外した理由は、家族や家族的使用人を労働力とす
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る家内工業的な組織は、多くの場合、低賃金であるがゆえに存続してきたとも考えられるから
である。
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表2 調査概要
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2.2 アンケート調査の結果
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2.2.1 回答企業に関する基本情報
①業種
中小は製造業 48%、卸売・小売業 52%、長寿は製造業 45%、卸売・小売業 55%となった。
もう少し細かい業種区分をみると、製造業において、長寿では食料品製造業が 44.6%で圧倒的
に多く、中小は金属製品製造業 13.7%、次いで食料品製造業 12.3%の順となった。卸売業では、
長寿・中小共に建築材料卸売業と食料・飲料卸売業が上位の 2 業種である。小売業においては、
長寿が各種商品小売業、家具・建具・什器小売業共に 21.4%、中小は飲食料品小売業 29.5%、
次いで自動車・自転車小売業 20.5%であった。
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図1 業種
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45%
京都精華大学紀要 第四十三号
― 139 ―
②本社所在地
回答のあった企業の本社所在地は、中小・長寿共に「関東」が最も多く、続いて、中小は「近
畿」
「東海」
、長寿は「近畿」
「北陸・甲信越」の順となった。両者において、それぞれの地域
が占める割合にそれほど大きな差はない。
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11%
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13%
図2 本社所在地
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③長寿企業の創業時期
長寿は、創業又は設立から 100 年以上としているが、その時代区分をみてみると、明治 ・ 大
正時代(1868 ∼ 1912 年)81%、江戸時代(1603 ∼ 1867 年)18%、室町∼安土桃山時代(1338
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図3 長寿企業の創業時期
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④従業員数
従業員数 6 ∼ 20 人規模の企業が、中小 61%、長寿 47%で最も多く、これに 21 ∼ 50 人規模
の企業を合わせると、中小・長寿共に全体のおよそ 8 割に及ぶ。
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― 140 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
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47%
図4 従業員数
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⑤従業員の平均勤続年数
従業員の平均勤続年数は、中小・長寿共に 10 ∼ 20 年未満の企業が最も多く、次いで、中小
は 10 年未満、長寿は 20 ∼ 30 年未満が多い。全体の傾向としては、長寿の方が平均勤続年数
の長い企業が多いといえる。
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59%
図5 平均勤続年数
2.2.2 経営理念
①理念の有無
「成文化されている」と「口伝」を合わせて、
「経営理念がある」と回答した中小は 69.0%、
長寿は 64.9%であった。
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京都精華大学紀要 第四十三号
― 141 ―
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図6 経営理念の有無
②理念の浸透具合
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前述の「経営理念がある」と回答した企業のうち、従業員全体に理念が「浸透している」
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ぼ浸透している」を合わせると、中小 68.8%、長寿 67.3%であった。
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Î Ȑ Ɯ Ê Ų Đ - Ã図7 経営理念の浸透具合
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③理念の周知方法
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「経営理念がある」と回答した企業に対し、理念の従業員への周知方法を尋ねたところ中小・
長寿共にほぼ同じ割合となり、
「社長による日常的な訓示」が最も多かった。 ÎȐ ƜÊŲĐ-ÃƅĴŞ
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図8 経営理念の周知方法
― 142 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
④理念の内容(複数回答可)
「経営理念がある」と回答した企業に対し、理念や社訓等の内容を尋ねた。図9は主な内容
を抜粋したものである。中小では「顧客満足」
「社会貢献」
「信用第一」
「従業員満足」
「創意工
夫」の順に多く、
長寿では「信用第一」
「顧客満足」
「誠意」
「社会貢献」
「事業存続」の順となっ
た。中小と長寿で大きな差が生じたのは「信用第一」である。また、
「事業拡大」と回答した
長寿は極めて少ない。その他には、中小は「精勤」
「取引先の幸せ」
「環境対策」など、長寿は
「精勤」
「堪忍」
「品質第一」
「陰徳」
「知足」などがあげられた。
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40.0%
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図9 経営理念の内容
⑤従業員が守るべき道徳、企業倫理を規定した社内規則の有無
社内規則が「ない」と回答した企業は、中小 39.2%に対し、長寿は 56.2%と多かった。
京都精華大学紀要 第四十三号
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図 10 倫理規則の有無
2.2.3 後継者
中小に対し、後継者に関する考えを質問したところ、
「血縁者を後継者としたい」または「血
縁にはこだわらず、養子縁組などにより血縁のない者を後継ぎにしても良い」と回答した、同
族経営を希望する企業は 4 割足らずであるのに対し、同族経営を行ってきた長寿は 9 割以上に
のぼる。特に「血縁のある者を後継者としてきた」と回答した長寿は
8 割余りとなった。
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図 11 後継者
Î 12 1 Ǿ ê ( - ð ǃ
2.2.4 ステイクホルダーとの対話
一般的に中小企業において重要なステイクホルダーである顧客、仕入先、従業員、地域住民
の期待や要望を把握する仕組みについて尋ねた。
「把握する仕組みがある」または「仕組みは
ないが、調査等を行ったことはある」と回答した企業は、ステイクホルダー別にみると、中小・
長寿共に従業員、顧客、仕入先の順に多く、地域住民との対話は弱いといえる。
(図 12-1、
12-2、12-3、12-4)しかし、中小と長寿を比較すると、地域住民との対話において差が生じて
おり、特に地域住民の期待や要望を「集会等を通じて把握する仕組みがある」と回答した長寿
Î 12 2   œ ( - ð ǃ
(12.6%)が中小(2.7%)を上回った。また、アンケートや集会以外に地域住民の期待や要望
を把握する仕組みとして、長寿ではイベントなどの地域行事や地域活動を通じて地元の声をき
くと回答した企業が多かった。
(図 12-4)
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12
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― 144
― 1 Ǿ ê ( - ð中小企業における存続の要件
―長寿企業調査より
Î 12 1 Ǿ ê ( - ð ǃ
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図 12 ‐ 1 顧客との対話
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Î 12 2   œ ( - ð ǃ
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図 12 ‐ 2 仕入先との対話
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図 12 ‐ 3 従業員との対話
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図 12 ‐ 4 地域住民との対話
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京都精華大学紀要 第四十三号
― 145 ―
2.2.5 経営の重点項目と事業継続
①ステイクホルダーとのつながりにおいて特に重視してきたものは何か(最大3つまで回答可)
上位 10 項目のうち 9 項目は中小・長寿に共通する項目で、特に上位 5 項目(
「品質管理」
「取
引先との共存共栄」
「顧客サービス」
「人材育成」
「労働安全衛生」
)は同じ順位となった。異な
る 1 項目については、長寿は 6 位に「地域貢献」
、中小は 7 位に「不正防止」があがった。
表3 ステイクホルダーとのつながりにおける重点事項
(上位
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項目)
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6.6
②上記で重視してきたと回答した事項は、事業存続に貢献しているか
「大きく貢献している」と「概ね貢献していると思われる」を合わせて、中小・長寿共に 9
割を上回った。
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2.7%
図 13 ステイクホルダーへの配慮事項と事業存続
Ʒ Ȍ | Ŏ å Ɵ + Ǧ ƻ * | Ǻ ȇ s ‰ 10 Ǻ Ɓ Ȉ
③事業を存続させていく上で特に重要なことは何か(最大3つまで回答可)
中小・長寿共に「人材育成」が 2 位以下に大差をつけて最も多かった。上位 10 項目のうち
9 項目は両者に共通するが、残る 1 項目は、長寿では 8 位に「地域貢献」
、中小では 10 位に「結
束力の醸成」があがった。また、
「経営革新」と回答した長寿の割合は中小のおよそ 2 倍で 5
位となった。
Î 13 M S @ E a k P q 0 - Ǥ Ę | Ǻ ( | Ŏ å Ɵ
Î 13 M S @ E a k P q 0 - Ǥ Ę | Ǻ ( | Ŏ å Ɵ
― 146 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
その他、
「不正防止」
「組織の透明性確保」
「知的所有権の保護」
「情報開示」
「環境対策」な
どもあげられているが、長寿の中には「創業家の和」と回答した企業もあった。
表4 事業存続に重要な事項
(上位
10‰
項目)
ƷȌ |ŎåƟ+Ǧƻ*|
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10 Ǻ Ɓ Ȉ
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7.9
Î 14 Ɯ Ê µ Ŕ - Ľ Ŭ
2.2.6 経営危機
①創業以来、経営危機に陥ったことがあるか
「ある」は中小
64.0%とやや高くなった。
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14 Ɯ Ê µ54.2%に対し、長寿
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64.0%
54.2%
36.0%
45.8%
図 14 経営危機の有無
②どのような時に経営危機に直面したか(複数回答可)
結果は創業年の違いによるところが大きいが、
長寿は「太平洋戦争」が最も多い。中小は「リー
マンショック」が突出して多く、その割合は長寿の 2 倍以上であった。
「その他」には、取引
先の倒産、従業員によるお金の使い込みや持ち逃げ、放漫経営、社長の死去などがあげられた。
京都精華大学紀要 第四十三号
― 147 ―
Î 15 Ɯ Ê µ Ŕ + DZ $ " Ļ Ł
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30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
70.0%
図 15 経営危機に陥った時期
Î 16 Ɯ Ê µ Ŕ - ¸ Í
③経営危機の原因は何か(複数回答可)
「販売不振」が最も多く、続いて「資金繰りの悪化」
「価格競争」の順で、中小・長寿共に同
じ傾向がみられる
Î 16 Ɯ Ê µ Ŕ - ¸ Í
ƜʵŔ-¸Í.'
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2.6%
5.6%
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40.0%
50.0%
60.0%
70.0%
80.0%
図 16 経営危機の原因
④経営危機に遭遇した際、有効な助言や援助をどこから得たか(複数回答可)
中小と長寿で大きな差はみられず、最も割合が高かったのは「金融機関の支援を受けた」と
回答した企業で共に 4 割程度、最も低かったのは「公的機関からの支援」で 1 割程度であった。
「その他」として、中小では「本社からの助言」
「親会社からの指導、販売協力」
、長寿では「経
― 148 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
営者の個人資産で補充」
Î 17 Ɯ Ê µ Ŕ - dz「親族企業、友人知人からの投資」という記述も複数みられた。
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30.0%
40.0%
50.0%
図 17 経営危機の際の支援の有無
Î 18 Ƌ £ - ė ƨ
2.2.7 伝統と革新性
①大切にしてきた社内の慣習(複数回答可)
中小・長寿共に「社員旅行等」が最も多い。
「地域の行事への参画」と「地域の清掃」につ
いては中小より長寿が多かった。
Î 18 Ƌ £ - ė ƨ
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0.0% 5.0%10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%35.0%40.0%45.0%50.0%
図 18 社内の慣習
②これまでにどのような経営革新
14
を行ってきたか(複数回答可)
市場開拓については、中小・長寿共に「基幹技術を生かした開拓」が最も多く、次いで中小
京都精華大学紀要 第四十三号
― 149 ―
は「コストパフォーマンスによる価格優位性」
「ニッチの発見と参入」
、長寿は「潜在ニーズの
発見による新規市場の創出」
「ニッチの発見と参入」の順となっている。また、経営システム
において、中小では「従業員参加型の経営」
、長寿では「コスト構造改革」が共に 3 割を超えた。
いずれにしても、中小も長寿も多様な経営革新を行ってきたことがわかる。
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19 ‐c
1 経営革新(市場開拓)
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25.0%
図 19 ‐ 2 経営革新(経営システム)
30.0%
35.0%
40.0%
― 150 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
③創業以来、守り続けているもの(複数回答可)
中小・長寿共に上位 3 項目は「顧客志向」
、
「本業重視」
、
「品質第一」であるが、
「本業重視」
については、長寿の割合が中小を大きく上回った。また、中小は「従業員重視」
「技術」にお
いて長寿を上回り、長寿は「仕入先との関係」
「経営理念・社訓・
(家訓)
」において中小を上回っ
た。
「その他」には、長寿では「地域住民との交流」
「地元産」の記述もあった。
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50.0%
60.0%
70.0%
図 20 守り続けているもの
Î 21 € Č - dž Ǽ
④現在、抱えている問題(複数回答可)
中小が抱える問題は「人材不足」が最も多く、続いて「後継者の育成」
、一方、長寿では「後
継者の育成」が最も多く、続いて「人材不足」の順となった。その他、長寿では、
「市場変化
への対応の遅れ」や「マーケティング力の不足」を問題視する企業の割合が中小と比べて多い。
また「その他」として、中小・長寿共に複数の企業が「過当競争」と記述している。
京都精華大学紀要 第四十三号
Î 21 € Č - dž Ǽ
― 151 ―
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10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 35.0% 40.0% 45.0% 50.0%
図 21 現在の問題点
2.3 まとめ
アンケート調査を実施する前に、長寿の特徴として次の4つの仮説を立てていた。
【仮説1】経営理念を社内に浸透させ、組織全体で共有できている企業が多い。理念の内容
15
「事業拡大」
「利益拡大」を掲げる長寿は
は「信用第一」
「和」
「誠意」が多く 、
少ない。
【仮説2】後継者については血縁を重視する。
【仮説3】地域志向である。
【仮説4】手堅い経営を行っている。
【仮説5】本業を守りながらも革新が重要だと認識し実行している。
仮説1について、成文化しているか否かはともかく「経営理念がある」と回答した企業は 6
割を超えた。しかし、その理念が「組織全体に浸透している」または「ほぼ浸透している」と
回答した企業は長寿全体からみると 5 割をきり、従業員への周知方法を含めて中小との差異は
ほとんどなかった。理念の内容については、長寿は「信用第一」を経営における意思決定の拠
りどころとする企業が多く、
「事業拡大」を掲げる企業は極めて少ないことがわかった。
仮説2の後継者については、長寿の 9 割が同族経営であり、特に血縁を重視してきたことが
アンケート調査で明らかとなった。
仮説3は、
“地域重視”が他の項目より突出して多いわけではないが、
「社内の慣習」
(図
― 152 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
18)
、
「地域住民との対話」
(図 12‒4)
、
「ステークホルダーとのつながりにおける重点事項」
(表
3)に対する回答から、中小との比較においては長寿の方が地域とのつながりを重視する傾向
があることがわかった。
仮説4については、長寿がリーマンショックの影響を中小ほど受けていないことは確認でき
たが、経営危機に陥ったことのある長寿の中には、その原因が過大な設備投資や放漫経営によ
るものと回答した企業が数社あり、手堅い経営を行っていることを実証する結果には至らな
かった。
仮説5については、長寿の多くが本業を守り続けていることが明らかとなった。その一方で、
事業存続のためには経営革新が重要だとする企業の割合も中小より多く、実際に様々な市場開
拓および経営システムにおける変革を試みてきたことが確認できた。
3.長寿企業へのインタビュー調査
3.1 インタビュー調査の概要
アンケート調査からは、後継者には血縁のある者を求め、
「信用第一」に本業を守る一方で
革新性もまた重要であると認識し、様々な経営革新を実行してきた長寿の姿が浮かび上がって
きた。また、中小との比較において長寿は地域とのつながりを重視する傾向がうかがえた。し
かし、それらは事業存続にどのように貢献したのだろうか。 そこで、長寿の特性と事業存続とのつながりを探るため、アンケート結果をもとにクロス集
計を行い、
「利害関係者とのつながりにおいて特に重視してきた事項」が「事業存続に大きく
貢献した」と回答した長寿 105 社の中から 14 社(表5)の経営層に対し、訪問または電話に
よるインタビュー調査を行った。
(実施時期:2012 年 4 月∼ 8 月)
調査対象企業は、105 社のうちアンケート用紙に企業名および連絡先が記入されている企業
の中から、企業規模(従業員数)
、および「製造業」と「卸売業・小売業」のバランスをでき
る限り配慮して選定した。結果として食料品製造業が多いのは、長寿の場合、製造業のサンプ
ルの半数近くを食料品が占めるためである。
京都精華大学紀要 第四十三号
― 153 ―
表5 インタビュー調査対象企業
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3.2 インタビュー調査の結果
インタビューでは、主にこれまでどのようなことを大切にしてきたのか、そしてそれが事業
存続とどのようにつながったのかについて質問した。その結果については、次の5つの項目に
まとめて述べることにする。
3.2.1 経営理念
インタビューを行った 14 社のうち、1 社のみが 10 年前に経営理念を制定したばかりである
と回答したが、あとの 13 社は口伝を含めて経営理念(または家訓)を守り続けてきた。経営
理念はあらゆる意思決定の際の判断基準となるが、
インタビューでのやりとりの中で「信用」
「誠
意」
「正直」といった言葉が頻繁に出てきており、これらが共通のキーワードであるといえる。
また、
「感謝」と「和」という言葉を口にする経営層も多かった。
理念の主な内容は、
「顧客や仕入先を含めて人に喜んでもらえる商いを行う」
「誠実で正しい
商いを行う」
「目先のことにとらわれない」
「品質第一」
「食文化の向上と社員の福祉」
「地元へ
の貢献」
「地域における共存共栄」
「社会貢献」などである。自社の利益追求や事業拡大を掲げ
たものはなく、
「社会性」を持った理念がほとんどである。
その他、
「相場を張るな」といった戒めを含んだ理念もみられた。投機的な相場で大きな利
― 154 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
益を獲得しようなどと考えず、地道に1つひとつの取引を大切にするよう説いている。また、
10 年前に経営理念を制定したという企業では、特に家訓のようなものはなかったが、経営者
は常に「信仰心」を持ち続けてきたという。そしてこの企業では、自社だけが儲かればよいの
ではなく、顧客にも喜ばれ、その儲けは販売先を含めて全員で分かち合うことが大切だという
意味をこめた「儲けたらあかん」が理念として制定されている。
なお、理念を口伝えで教わり、現在も明文化していないという企業の経営者は、その理由と
して、同族経営の小規模企業では創業者の思いが十分に浸透しているためであると述べている。
3.2.2 地域貢献
アンケートにおいて「創業以来、守り続けているものは何か」の問いに対し、
「地域貢献」
にチェックをした企業は 14 社のうち 2 社であったが、インタビューで 14 社すべてが何らかの
地域貢献活動を継続して行ってきたことがわかった。表6は、インタビュー先の地域貢献活動
の内容を次の 6 つの分野
16
に分けて整理したものである。
①経済振興(地場産業・商店街の活性化、まちづくり、地域資源の活用、創業支援等)
17
②文化・環境 (祭りや行事の開催・協力、文化・スポーツ振興、地域の清掃・緑化活動等)
③教育(消費者教育、地域の学校への出前授業、職場体験の受け入れ等)
④雇用(高齢者・障がい者・外国人労働者の雇用や就業支援等)
⑤治安・防災(防犯活動、防災活動、災害時の支援活動等)
18
⑥保健・福祉(食の安全確保 、育児支援、高齢者・障がい者の生活支援等)
最も多かったのは「文化・環境」で 12 社、次いで「経済振興」が 7 社、そのあとは「教育」
(3 社)
、
「雇用」
(2 社)
、
「保健・福祉」
(1 社)の順となり、
「治安・防災」分野に該当する活
動は見当たらなかった。
京都精華大学紀要 第四十三号
― 155 ―
表6 インタビュー調査結果∼地域貢献活動の分野∼
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「地域貢献」が事業活動に与える効果の度合いは、地域貢献活動が本業に直結しているかど
うかによって変わるが、本業に直結しない活動であっても、長期的にみればプラスの影響をも
たらしていることを確認することができた。
B社が取り組んでいる地元特産品の復活プロジェクト、小学校への出前授業などの食文化の
継承に貢献する活動は、結果として売り上げ拡大につながった。また、歴史的な町並みを観光
資源として活かしたまちづくりに積極的に関わるなど、営業戦略の一環として地域貢献を徹底
しているD社、創業支援を戦略的に展開しているI社においても、それらの地域貢献活動は経
営に直接的なメリットをもたらしている。
その一方で、売り上げに直結するわけではないが、間接的な効果を生み出したケースもある。
J社では地元の取引先を支援するイベントを開催したが、このイベントの成功が社員の誇りと
なり、社員のモチベーション向上と結束力の強化につながった。M社では、コミュニティづく
りとして地域行事に参画及び協力してきたが、それが自社のファンづくりにつながってきたと
いう。さらにA社は、出征兵士の残された家族の生活を支援するため、地元の雇用の受け皿と
なることを目的に設立された企業である。雇用創出という地域貢献がA社の存在意義そのもの
であり、それが社内の結束を強めている。
― 156 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
「文化・環境」分野の多くは、地元の神社、学校、町内会への寄付や奉仕活動などであった。
これらについては、
「信仰心」あるいは「地域への感謝の気持ち」から自然に行っているだけで、
特に地域貢献という意識もなく活動してきた企業がほとんどである。業績に直結しない活動で
あるが、
「代々、地域に奉仕してきたことで、後継者は仕事がしやすい」
「地元の信用を得るた
め、地域貢献は事業を行う上で不可欠である」という経営者の声もあった。
以上のことから、戦略的な地域貢献、
「陰徳」とも言うべき地域貢献の何れにせよ、地域貢
献活動は長期的にみれば「信用」という企業価値を生み出す。自社の存在価値を高め、それが
社員の誇りとなって結束力の醸成、組織力の強化につながっていることが確認できた。
3.2.3 創意工夫・経営革新
経営革新が事業存続に不可欠であると回答した企業は 14 社のうち 8 社にのぼり、社会の変
化を敏感にキャッチして対応していくこと、商品にも経営手法にも時代に合わせた「革新」が
必要であると指摘している。また、複数の経営者が異口同音に「同じことの継続は衰退につな
がる」と述べている。
実際、これらの企業は、商品に新たな独自性のある要素を付加し、時代に合わせて業種・業
態を進化・発展させながら時代の波をくぐり抜けてきた。中には、成長分野の事業に進出した
ことで、その後のリーマンショックの影響を最小限に抑えることができたという企業や、新規
市場の開拓など常に時代の流れを見据えて対応してきたことで、景気後退期においても売り上
げの変動がほとんどないという企業、また、社長自らが築いた異業種間ネットワークを活用し、
新たなビジネスを展開している企業もみられた。中小企業ならではの柔軟性をもって新たなこ
とにチャレンジする様子がうかがえたが、軸足は本業に置いており、生産手段、技術・ノウハ
ウ、流通経路などのシナジーがまったく得られない非関連多角化は行っていない。
3.2.4 人材育成
アンケートでは、事業を存続させる上で特に重要な事項として「人材育成」をあげる企業が
突出して多かったが、インタビュー調査でも多くの企業が人材育成の重要性に言及し、今後の
課題としていることが明らかとなった。
H社では、自社が認証を取得している ISO9001(品質マネジメントシステムの国際規格)の
内部監査を全社員が担当できるように養成し、問題解決のツールである PDCA サイクルを活
用した教育を行っている。全体最適の考え方で社員全体の底上げをねらったものである。恒例
の社員旅行には得意先を見学するベンチマーキングを組み込み、単なる慰労ではなく社員教育
とチームワークの醸成を目的に実施している。社員に考える力をつけさせ、自立した社員の育
京都精華大学紀要 第四十三号
― 157 ―
成に力を注いできたことで、同じ目標に向かって一致団結できる社員力が自社の強みになって
いるという。
J 社では、どんな社員でも一人前に育て上げるのが経営者の務めであり、社員 1 人ひとりの
成長がなければ企業の成長・強化もないと考え、人材育成を重視してきた。経営者が会社の方
向性や将来像などを常々社員に語ってきたことや、達成感を“実感”できる場を与えたことが、
社員の結束に結びついているとのことである。
一方、人材育成についてはまだ不十分であり、今後の大きな課題とする企業もあった。今は
精神論のみで、今後は人材育成の「仕組み」が必要であるという企業や、マニュアル化ではな
くケース・スタディを通して気付きを与えることが大切だとする企業など方法論は様々である
が、自分で考え、主体的に動ける社員育成の必要性を強く感じていることが確認できた。
3.2.5 その他
このほか、インタビュー先の半数近くが、事業存続に大きく貢献した要素に「品質管理」
「取
引先との和」
「従業員重視」を挙げた。品質は企業の「信用」に直結する。取引先との関係に
ついては、互いが無理をしてでも昔からのつき合いを重視し、相手の要望をききながら柔軟に
対応することで共存を図ってきた。しかし、価格競争にさらされて疲弊している様子もみられ、
これまでのような関係を維持し続けることが難しくなる企業も出てくるのではないか、という
声もあった。また、従業員重視を挙げる企業の経営者は、不況であってもリストラをしない姿
勢を貫いてきたことが、従業員の会社への忠誠心と結束力を高め、事業存続に貢献してきたと
述べている。
3.3 まとめ
インタビュー調査を通じて、アンケート調査結果が示す長寿の特性がどのように事業の存続
に貢献したのかを把握することができた。
常に創意工夫を怠らず、時代の流れを読んで迅速に対応していくことはすべての企業におい
て求められるものであるが、長寿企業は様々な革新的経営を行いながらも本業に軸足を置いた
経営を行ってきた。短期的利益にとらわれず、事業の存続を第一に長期的視野で全体最適に導
く傾向がみられた。バブルなどにおどらされることのない手堅い経営を行ってきたかどうかに
ついては、インタビューでは「バブル崩壊やリーマンショックの影響を受けたが、経営者が代々
受け継いできた資産を売却して乗り切ったことで、経営危機にまでは至らなかった」と述べる
経営者もいたことから、ここでも前章の「2-3 まとめ」で示した仮説3「手堅い経営」を実証
することはできなかったが、本業を重視し、むやみな事業拡大路線をとらないという点では、
― 158 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
長寿は堅実な経営を行っているといえる。
また、インタビューによるやりとりから、アンケート調査結果以上に経営理念(または家訓)
を守り、地域に貢献してきた長寿の姿が浮き彫りとなった。経営理念は、自社の利益追求では
なく社会を利する内容であるため、これが組織に浸透し実行されれば、それが社員の誇りとなっ
て結束力を生む。後継者においては、経営理念が道標となり、あらゆる意思決定の際の判断基
準とすることができる。特に血縁を重視した同族経営ならば、後継者は親族である経営者の後
ろ姿を日常的に見て育つため、経営者哲学が浸透しやすい環境にあるといえるだろう。地域貢
献は、すぐに売り上げに直結しない場合も多いが、長期的にみると社会的信用を獲得すること
ができ、またそれが社員の誇りとなってモチベーションを高め、社内の結束を促す。目標達成
のために何をしなければならないのかを考え、実践する力をもった人材を育てることや、社員
を解雇しないという従業員重視の姿勢もまた同様に、会社のために一致団結して難局を乗り切
ろうとする結束力を醸成することになったのである。
4.中小企業存続の要件とその背景にあるもの
一連の調査結果より、長寿企業の特性として次の5つをあげることができる。
① 社会性をもった経営理念(家訓)を守り伝えている。
② 事業承継においては血縁を重視する。
③ 本業を大切にしている。
④ 事業拡大路線をとらず、生存し続けるための、時代に合わせた経営革新を行っている。
⑤ 地域志向である。
企業が幾多の時代の荒波を乗り越え、生き続けてきたプロセス
19
は多様であり、その時々
の企業トップのリーダーシップに負うところも大きい。調査結果からは企業存続を可能とする
絶対的なものを見い出すことはできなかったが、前述の5つの特性に、今後の課題でもある後
継者の育成を含めた「人材育成」を加えれば、存続の必要条件といえるだろう。
事業存続に焦点を合わせたこれらの事項は、すべて「結束力」の醸成・強化に結びついてい
る。結束力は生産性の向上に不可欠な要素であり、
「組織力」と言い換えることもできる。組
織力は一朝一夕に強化できるものではないだけに、企業の強みとなり事業存続に大きく貢献し
てきたのである。
では、なぜ長寿企業がこのような特性を併せ持つのだろうか。その背景には神信仰、仏教、
儒教をバックボーンとした、地縁や血縁による「共同体意識」が作用していると考えられる。
京都精華大学紀要 第四十三号
― 159 ―
神信仰に関しては 15 ∼ 16 世紀頃、
「家」を単位とした地域に、
そこに住む人々の守護神を祀っ
20
た神社が建設され、祭祀は宮座と呼ばれる住民の共同組織によって営まれるようになった 。
神社が共同体的な地域集団を形成し、地域の人々を結束させる役割を担ってきたのである。長
寿企業がごく自然なかたちで地域貢献を行うのは、このような地縁的結合が背景にある。
一方、地域社会と結び付いた神信仰に対し、
「家」や個人と結びついたのが儒教や仏教である。
まず儒教では、
「祖先の祭祀(招魂儀礼)
」
「父母への敬愛」
「子孫を生むこと」の3つをまとめ
21
て「孝」とし、これらを行うことによって死後も現世に再生できるとした 。そのためには祖
先の祭祀を行ってくれる子孫が必要であり、一族の血を絶やさないこと、家を絶やさないこと
が重要になってくるのである。ただ、日本の場合は養子を迎えることもあるように、徹底した
血縁主義を貫くものではないが、事業(家業)承継で血縁を重視する背景にはこの儒教の教え
があると考えられる。
インドの仏教は「無我」を説いたが、それが日本に伝えられると現世志向的な日本人の資質
から、日常的な意識レベルでは「無心」
「無私」の状況が探求され、江戸初期の僧侶である鈴
22
木正三は、士農工商の身分に応じた職務に励むことが仏道の修行であると説いている 。目先
の利益にとらわれず、本業(家業)を大切にする長寿企業の姿勢には、私利私欲を捨て、与え
られた仕事に打ち込むことが修行であるとする仏教的職業倫理が影響している。
以上のように、神信仰、儒教、仏教をバックボーンに地縁・血縁による共同体意識が背景と
なり、地域志向で事業(家業)承継においては血縁を重視し、家の存続のために家訓(経営理
念)を設けて代々それを守り伝えてきた。また、本業(家業)を大切にし、事業の拡大よりむ
しろ生存し続けるための企業行動をとってきたのである。このことが組織力を強化することに
なり、事業存続に大きく貢献してきたといえる。
しかしながら、戦後の人口移動、さらに 1960 年代より都心から近郊への移住が著しくなっ
たことにより、地方の神社は支援基盤を失い、また都心及びその近郊における神社に対する住
23
民の氏子意識は希薄化してきている 。さらに個人志向の高まりもあって地縁的結合が弱まっ
てきているほか、終身雇用制の崩壊や職業倫理の欠如などにより共同体意識が薄れてきている
ことが懸念される。
地縁による共同体意識と比べれば、血縁による共同体意識は今も残っている。しかし、これ
は企業存続の必要条件にもあげたように「存続」のモチベーションにはなり得るが、一族繁栄
のためという私利私欲に走るリスクもはらんでいるため、組織の透明性と後継者への倫理教育
を徹底するなど注意が必要である。
一方、地縁による共同体意識は、地域社会の発展を目指すため、企業の存在価値を高め、社
員のモチベーション向上につながる。災害対策、高齢化や子育てなどの問題を抱える日本の社
― 160 ―
中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
会において、中小企業が地元への貢献活動を通じて地域の人々をつなぎ、地縁共同体的意識を
再生することができれば、自社と地域社会の双方を利するかたちとなるはずである。そのため
には社内で理念を共有し、ニーズを把握するために地域とのコミュニケーションを促進する必
要がある。また近年、成果主義を導入する企業が増えているが、地域の雇用の受け皿となる中
小企業においては、運命共同体的な意識をもたらす終身雇用制という日本型経営システムを再
評価する時期にきているのかもしれない。
5.おわりに
アンケート調査では、社歴がそれほど長くはない中小企業の中にも将来の長寿企業が含まれ
ている可能性は十分にあり、長寿と中小との違いが単純に企業存続の秘訣とは言い切れないこ
とから、さらにインタビュー調査を実施することになった。その際、業種や規模はできる限り
偏らないように配慮したが、14 社の商圏分析を行うまでには至らなかった。
長寿企業の特性から導き出した企業存続の要件と CSR との関係は、
「社会性をもった経営理
念(家訓)
」と「地域志向」にみることができる。特に「地域志向」は ISO26000 の7つの中
核主題の1つ「コミュニティへの参画及びコミュニティへの発展」に該当することから、長寿
企業の地域志向と先述の商圏の広さとの関係など、今後さらに調査を進めていきたい。
謝辞
最後に、ご多忙の中、膨大なアンケート調査票の発送と回収にご尽力くださった NPO 法人
木野環境代表の丸谷一耕氏、調査票の発送から集計まで相当な時間を割いて作業をしていただ
いた本学人文学部の菱田哲さん(ゼミ生)に深く感謝の意を表したい。また、アンケートおよ
びインタビュー調査にご協力くださった企業の皆様に心から御礼を申し上げる。
注
1 東京商工リサーチホームページ
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/2009/1199565_1623.html(2013.4.14)
2 久保田章市『百年企業、生き残るヒント』角川 SSC 新書、2010 年、p.22
3 ここでは ISO26000 の7つの中核主題(組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消
費者問題、コミュニティへの参画及びコミュニティの発展)を指す。
4 日本規格協会 編『ISO26000:2010 社会的責任に関する手引』日本規格協会、2011 年、p.40
5 中小企業庁 編『中小企業白書 2012 年版』日経印刷、2012 年、p.302
京都精華大学紀要 第四十三号
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6 ベンチャー企業、老舗企業それぞれ 500 社を対象に、日経リサーチが 1999 年 11 月に実施した革
新企業に関するアンケート調査。サンプル数は、ベンチャー企業 159 社、老舗企業 51 社で、製造
業の回答が多い。
7 本谷るり「老舗企業とベンチャー企業―企業の存続戦略と成長戦略―」
『経済論究 第 99 号』九州
大学大学院経済学会、1997 年
8 服部静枝「第 10 章 中小企業の持続的経営」足立辰夫 編著『サステナビリティと中小企業』同友館、
2013 年 にアンケート 27 項目のうち主な質問と結果の要点をまとめている。
9 中小企業基本法 第 1 章 第 2 条の 1 及び 5
10 横澤利昌「老舗(長寿)企業の研究(序論)
」
『アジア研究所紀要 第 35 号』亜細亜大学アジア研
究所、2009 年、p.288
11 『中小企業白書 2006 年版』の「開業年次別事業所の経過年数別生存率」より筆者が計算した。
12 東京商工リサーチホームページ
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/2012/1216679_2004.html(2013.3.26)
13 久保田、前掲書、p.20
14 市場開拓および経営システムにおける経営革新の項目は、柳孝一『ベンチャー経営論』日本経済
新聞社、p.36 を参考にした。
15 帝国データバンク史料館・産業調査部『百年続く企業の条件』朝日新書、2009 年、pp.18-23.
中堅・大手企業を含めた老舗企業調査において、老舗企業として大事なことを漢字一文字で表現
すると「信」
「誠」
、社風を表現すると「和」
「信」とする企業が多かったという調査結果を根拠と
した。
16 古泉宏「地域社会を支える役割を担う小企業」
『日本政策金融公庫 調査月報 2009 年 6 月号』日
本政策金融公庫総合研究所、p.6 の地域貢献活動の定義を参考に整理し直したものである。
17 地域の環境活動について、騒音・振動の規制基準の順守や廃棄物管理など法規制順守レベルの活
動は、
「地域貢献」の対象から除外する。
18 食料品製造・卸売・小売業における食の安全衛生は、本業に関わる品質・衛生管理であるため、
「地
域貢献」の対象から除外する。
19 前川洋一郎「地域社会における老舗の生成プロセスについて考察―旭川市、松前町・江差町、守
口市・門真市の事例をもとに―」
『流通科学大学論集 流通・経営編 第 22 巻第 2 号』流通科学大
学学術研究会、2010 年
前川は、この中で老舗の生成プロセスがマクロ要因、地域要因、マネジメント要因、ファミリー
要因に影響を受けていることを実証した。
20 尾藤正英『日本文化の歴史』岩波新書、2000 年、pp.119-121
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中小企業における存続の要件 ―長寿企業調査より
21 加地伸行『儒教とは何か』中公新書、2011 年、pp.19 -21
22 山折哲雄『仏教とは何か』中公新書、2009 年、pp.160 -162
23 速水 侑、ネビン パトリック「人口流入による神社神道的行動の変化」
『東海大学紀要 . 文学部 81』
東海大学、p.156
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