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国民経済計算
国民経済計算 国民経済計算の諸概念 産業連関分析 さあ,一緒に 頑張りましょう! 過去5年間の出題傾向 国民経済計 算の諸概念 産業連関分析 2003 2004 2005 2006 2007 国家Ⅰ種 国家Ⅱ種 地方上級 国税・労基 裁事・家裁 東京都Ⅰ類 特別区Ⅰ類 「国民経済計算の諸概念」は,出題頻度が高いだけでなく,GDPや 物価水準といった,マクロ経済学全般に登場する概念やさまざまなマク ロ経済モデル,「産業連関分析」の枠組みを理解する上で,とても重要 な範囲です。しっかりと基礎を固めておきましょう。また「産業連関分 析」は,その仕組みさえ覚えておけば必ず解けるようになります。実際 に出題された場合には,ぜひとも正答できるようにしておきましょう。 第1章 国民経済計算 国民経済計算 1 国民経済計算の諸概念 ここでは,まず国の経済の大きさを測る指標と して最も重要な用語であるGDPとGNIについ て説明します。 <GDP> G D P( 国 内 総 生 産:Gross Domestic Pro duct)とは, 1 年間に,国内で生産された付加価 値の総額,もしくは 1 年間に国内で生産された 最終生産物の価値の合計のことをいいます。ここ で重要なポイントは付加価値とは,売上総額から 原材料費などの中間生産物の購入費をひいたもの であって,売上額そのものではない点です。付加 価値について,りんごジュース業界を例に説明し ましょう。いま,りんごジュースの売上総額が 100万円だとします。しかし,下図のように100 万円の売上のためには多くの原材料費がかかりま す。結局,付加価値の総額は,リンゴ生産農家の 分30万 円 + ジ ュ ー ス 製 造 会 社 の 分30万 円 + ジュース販売店の分20万円=80万円となります。 付加価値 賃金 , 税 20万円 配当 , 地代 付加価値 賃金 , 税 30万円 リンゴ 配当 , 利払 ジュースの 地代 仕入れ 原材料費 10万円 費用 (缶代) 80万円 付加価値 賃金, 税 30万円 リンゴの 40万円 仕入れ 地代 費用 肥料, 薬品 10万円 リンゴ生産農家 ジュース製造会社 ジュース販売店 (生産額 40 万円)(生産額 80 万円)(売上額 100 万円) また,付加価値に関して次の 2 点に注意する必 要があります。第一に,GDPはフロー概念であっ てストック(国富)概念ではありません。 第二に, たとえば,土地取引に関し て,土地代金そのものは付 加価値とはいえないのでG DPには含まれません。一 方,売買に際して不動産業 者が受け取る仲介手数料は GDPに含まれます。 GDPには,市場で取引された財・サービス(の 付加価値)のみが計上されます。ただし,これに はいくつかの例外があります。たとえば,農家の 人たちは,生産物を出荷する際,自家消費分はあ らかじめ自分のところに残しておくでしょう。こ のとき農家の自家消費分は市場で取引されていま せん。しかし,一般の消費者が店で購入して消費 した分がGDPに含まれるのに,農家については 含まないというのはおかしな話です。そこで,農 家の自家消費分のように金銭授受を伴わない財貨 サービス価値については, 「みなし」計算によっ てGDPに含めることにしています。これを帰属 計算といいます。帰属計算の対象としては他に, 持ち家から得られるサービスの帰属家賃などが挙 げられます。 <GNI> GNI(国民総所得:Gross National Income) とは 1 年間に国民が生産した付加価値の総額の ことで,かつてはGNP(国民総生産:Gross National Product)ともよばれていました。式で 表すと, GNI=GDP+海外からの要素所得受取− 海外への要素所得支払 となります。ここで,海外からの要素所得受取に は,海外で活躍するスポーツ選手の稼いだ給料な どが,海外への要素所得支払には, 外国のアーティ ストが日本公演を行うことで稼いだお金などが該 当します。 ただし,主婦の家事労働や, サラリーマン家庭での自家 菜園などは,帰属計算の対 象にはなりません。 教養試験の社会科学では, GDPとの違いが問われや すいので,しっかり整理し ておきましょう。 分配面からみたGDP=雇 用者報酬+営業余剰+固定 資本減耗+純間接税(間接 税-補助金) 2 三面等価の原則 GDPは,生産面,分配面そして支出面から計 算することができ,それらの大きさは等しいとい う原則を三面等価の原則といい,次の図のような 関係になります。このうち,分配面からみたGD Pとは,簡単に言えば,稼いだもの(GDP)を 誰に分けるのかを表したものです。また,支出面 からみたGDPとは,簡単に言えば,誰が買い物 をして生産者にお金(所得)を支払っているのか 支出面からみたGDP (G DE:国内総支出)=民間 最終消費支出+政府最終消 費支出+国内総固定資本形 成+在庫品増加+輸出-輸 入 第1章 を表したものです。 海外からの注文=輸出 民間最終消費支出 家計 (消費者) 政 府 政府最終消費支出 企業 (生産者) 国民経済計算 海外への注文=輸入 企業 (生産者) 財市場 生産から生み出された 付加価値の総額 国内総固定資本形成 生み出された付加価値 は分配される! 雇用者報酬 営業余剰 固定資本減耗 純間接税 GDP(国内総生産) 3 産業連関分析 産業連関表とは,各産業の相互依存関係を表わ したものであり,下表の横方向がその産業の生産 物が何にどれだけ使われたかを,そして縦方向が その産業の生産物を生産する際に何をどれだけ 使ったかを表しています。以下では金額表示の産 業連関表をとりあげます。 産出 投入 中間需要 産業 1 産業 2 最終 需要 総産 出高 産 業 1 20 10 30 60 産 業 2 15 5 20 40 付加価値 25 25 総投入額 60 40 まず,各産業の中間生産物の総産出額に対する 比率のことを投入係数といい,その産業の生産物 を 1 円分生産するのに必要な各産業の投入金額を 表わしています。表をもとに説明します。まず, 産業 1 について,産業 1 から20だけ投入され, 産業 2 から15だけ投入されることで生産されま す。それぞれの値を産業 1 の総産出額60で割ると, 20 1 15 1 = , = となります。つまり,産業 1 の 60 3 60 4 左の産業連関表で三面等価 の原則を確認しましょう。 生産面のGDP=総生産高 -中間生産物= (60+40)- (20+10+15+5) =50 分配面のGDP=付加価値 (賃金や利潤)の総計=25+ 25=50 支出面のGDP=最終需要 (消費や投資)の総計=30+ 20=50 産業連関分析では,レオン チェフ型の生産関数を想定 しており,総産出額と中間 生産物の関係は固定的に なっています。 生産物を 1 円分生産するのに,産業 1 の生産物を 1 1 円分,産業 2 の生産物を 円分だけ投入する必 3 4 要があることを意味します。同様に,産業 2 につ いても,産業 1 から10だけ投入され,産業 2 か ら 5 だけ投入されることで生産されます。それぞ れの値を産業 1 の総産出額40で割って, 10 1 = , 40 4 5 1 = となります。つまり,産業 2 の生産物を 1 40 8 1 円分生産するのに,産業 1 の生産物を 円分,産 4 1 業 2 の生産物を 円分だけ投入する必要があるこ 8 とを意味します。 これらの投入係数を用いて総産出額 (すなわち, 産業連関表の横の関係)を表わした方程式を数量 方程式といい,この方程式を用いることで,最終 需要の変化に伴う総産出額の変化が明らかになり ます。 第1章 国民経済計算 Q1 GDP(国内総生産)とは,一定期間に国内で生産された付加価値の総 額のことである。 Q2 GDPはストック(国富)概念であってフロー概念ではない。 Q3 土地取引に関して,土地代金および売買に際して不動産業者が受け取る 仲介手数料ともにGDPに含まれる。 Q4 農家の自家消費分は市場で取引されていないため,GDPには含まれない。 Q5 主婦の家事労働や,サラリーマン家庭での自家菜園などは,帰属計算の 対象にはならない。 Q6 GNI(国民総所得)を式で表すと,GNI=GDP- (海外からの要 素所得受取-海外への要素所得支払)である。 Q7 固定資本減耗は分配面から見たGDPに含まれる。 Q8 売れ残りが発生した場合,支出面から見たGDPは小さくなるため,三 面等価の原則は成立しない。 Q9 産業連関表の横方向はその産業の生産物を生産する際に何をどれだけ 使ったかを表している。 Q10 下の産業連関表において,GDPの大きさは50である。 産出 投入 中間需要 最終需要 総産出高 産業 1 産業 2 産業 1 20 10 30 60 20 40 産業 2 15 5 付加価値 25 25 総投入額 60 40 Q11 金額表示の産業連関表において投入係数は,その産業の生産物を 1 円分 生産するのに必要な各産業の投入金額を表わしている。 Q12 金額表示の産業連関表において投入係数を用いて総産出額(すなわち, 産業連関表の縦の関係)を表わした方程式を数量方程式という。 Q13 数量方程式を用いることで,ある産業の最終需要の変化に伴う経済全体 の総産出額の変化が明らかになる。 A1 〇 付加価値とは,売上総額から原材料費などの中間生産物の購入費を ひいたものである。 A2 × ストックとフローが逆である。 A3 × 土地代金そのものは付加価値とはいえないのでGDPには含まれな い。 A4 × 帰属計算によりGDPに含まれる。 A5 〇 そのとおり。ただし,お手伝いさんを雇った場合,その報酬はGD Pに含まれる。 A6 × GNI=GDP+海外からの要素所得受取-海外への要素所得支払 A7 〇 そのとおり。分配面からみたGDP=雇用者報酬+営業余剰+固定 資本減耗+純間接税 (間接税-補助金) A8 × 売れ残りは「意図せざる在庫品増加」に計上されるため,三面等価 の原則は成立する。 産業連関表とは,各産業の相互依存関係を表わしたものであり,表 の横方向がその産業の生産物が何にどれだけ使われたかを,そして A9 × 縦方向がその産業の生産物を生産する際に何をどれだけ使ったかを 表している。 そのとおり。産業連関表で三面等価の原則を確認すると次のとおり である。 生産面のGDP=総生産高-中間生産物 A10 〇 = (60+40) - (20+10+15+ 5 ) =50 分配面のGDP=付加価値 (賃金や利潤) の総計=25+25=50 支出面のGDP=最終需要 (消費や投資) の総計=30+20=50 10 A11 〇 そのとおり。投入係数は各産業の中間生産物の総産出額に対する比 率のことをいう。 A12 × 投入係数を用いて総産出額(すなわち,産業連関表の横の関係)を 表わした方程式を数量方程式という。 A13 〇 そのとおり。本試験ではこの計算問題が出題されるのでしっかり整 理しておくこと。 1 チェック度 重要度 第1章 過去問・問題 A 国民経済計算 GDP(国内総生産)に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。 (国Ⅱ2006) 1 GDPは,国内のあらゆる生産高(売上高)を各種経済統計から推計し, これらを合計したものである。例えば,農家が小麦を生産してこれを 1 億円 で製造業者に販売し,製造業者がこれを材料にパンを製造して 3 億円で消費 者に販売すれば,これらの取引でのGDPは 4 億円となる。 2 GDPは「国内」での経済活動を示すものであるのに対し,GNI(国民 総所得)(注)は「国民」の経済活動を示すものである。GDPでは消費,投資, 政府支出等の国内需要が集計され,輸出,輸入は考慮されないのに対して, GNIはGDPに輸出を加え,輸入を控除したものとして算出される。 3 GDPは原則として,市場でのあらゆる取引を対象とするものであるが, 中古品の売買は新たな富の増加ではないから,仲介手数料も含めてGDPに は計上されない。一方,株式会社が新規に株式を発行したような場合にはそ の株式の時価総額がGDPに計上される。 4 GDPに対してNDP(国内純生産)という概念がある。市場で取引され る価格には間接税を含み補助金が控除されているので,GDPが,間接税を 含み補助金を除いた価格で推計した総生産高であるのに対し,NDPはGD Pに補助金を加えて間接税を控除したものとして算出される。 5 市場取引のない活動は原則としてGDPには計上されない。例えば,家の 掃除を業者に有償で頼めばその取引はGDPに計上されるが,家族の誰かが 無償で掃除をしてもGDPには関係しない。ただし,持ち家については,同 様の借家に住んでいるものとして計算上の家賃をGDPに計上している。 (注) GNI(国民総所得)は93SNA上の概念であり,68SNAでのGN P(国民総生産)に該当する。 11 正解 5 〈国民経済計算の諸概念〉 本問は国民所得勘定(SNA)に関する問題である。 1× GDP(国内総生産)は一年間に国内で生産された付加価値の合計また は最終生産物の生産高の合計であり,生産高(売上高)の合計ではない。 したがって,農家が小麦を生産してこれを 1 億円で製造業者に販売し,製 造業者がこれを原材料にパンを製造し 3 億円で消費者に販売したならば, これらの取引でのGDPは 1 + ( 3 − 1 ) = 3 で 3 億円となる。 2× 第 1 文の記述は正しい。しかし,GDPでは消費,投資,政府支出など の国内需要(アブソープション)に海外からの需要として輸出から輸入を 控除した純輸出が加算される。したがって,輸出,輸入は考慮されないと いう記述は誤りである。また,GNI(国民総所得)はGDPに海外から の純要素所得受取を加えたものとして算出される。 3× GDPは原則として, 1 年間に市場で取引され生じた新たな付加価値を すべて計上するものである。したがって,中古品の売買のように過去に生 み出された付加価値は取引されてもGDPに計上されない。しかし,その 中古品取引のために生じた仲介手数料は新たに生み出された付加価値であ るためにGDPに計上される。また,株式会社が新規に株式によって資金 調達した場合,その金額自体は所得支出勘定ではなく,資本調達勘定の金 融取引に計上される。よってGDPに直接計上されることはない。 4× 前半部分は正しい。GDPは市場価格表示であり,間接税を含み補助金 が控除されている。NDPはGDPから固定資本減耗を控除したものであ り,補助金を加え間接税を控除したものではない。NDPに補助金を加え 間接税を控除したものは要素費用表示のNDPという。 5○ そのとおり。原則として市場取引のない活動はGDPには計上されない。 しかし,持ち家において発生したはずの家賃と農家の自家消費分は帰属計 算され市場取引がなされなくともGDPに計上されている。 12 2 チェック度 重要度 第1章 過去問・問題 A 国民経済計算 GDPに関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。 (国Ⅱ2002) 1 1 億円の土地が売買され,その取引を仲介した不動産業者に10%の手数 料が支払われた場合,この取引による土地の代金及び仲介手数料はGDPに 計上される。 2 絵画が10億円で売買され,仲介手数料として画商に取引金額の 5 %が支 払われたとしても,絵画や株式のような資産の取引はGDPに計上されない ので,仲介手数料についても計上されない。 3 GDPには,市場で取引されるものがすべて計算されるわけではなく,各 産業の生産額から原材料などの中間生産物額を差し引いた付加価値だけが計 上される。 4 農家の生産物の自家消費分は市場で取引されなくてもその金額がGDPに 計上されるのと同様に,サラリーマンが庭で野菜を栽培し,それを自分で消 費する場合も自家消費分としてGDPに計上される。 5 日本の企業がアメリカヘ進出し,そこに工場を建てて生産を行った場合, 現地で雇用したアメリカ人労働者が得た所得は,アメリカのGDPを増加さ せるが,日本から派遣された日本人労働者が得た所得は,日本のGDPを増 加させることになる。 13 正解 3 〈国民経済計算の諸概念〉 1× GDPの計算においては,土地の売買代金は,付加価値が生み出された とはいえないので,GDPに計上されない。 2× 絵画や株式のような資産の取引の仲介手数料については,新たにサービ スが生産されたことを意味していることから,GDPに計上される。 3○ そのとおり。GDPは,市場で取引される財・サービスの単なる総計で はなく,各産業の生産額から原材料などの中間生産物額を差し引いた付加 価値の総計である。これは,単に生産総額を計算するだけでは,中間生産 物が二重に計算されることになり,経済活動の指標としては適切でないた めである。 4× 農家の生産物の自家消費分は,市場で取引されなくとも,市場で取引さ れたかのように擬制しGDPに計上するという帰属計算が行われる。した がって,前半は正しい。しかし,このような帰属計算は部分的に行われて いるにすぎず,サラリーマンが庭で野菜を栽培し,自分で消費するような 場合は,GDPに計上されない。 5× 日本の企業がアメリカに進出し, そこに工場を建てて生産を行った場合, 現地で雇用したアメリカ人労働者が得た所得はアメリカのGDPを増加さ せるので,前半は正しい。しかし,日本から派遣された日本人労働者が得 た所得もアメリカのGDPに計上されて,日本のGDPには計上されない ので,後半は誤りである。 14 3 チェック度 重要度 第1章 過去問・問題 A 国民経済計算 次の表は,ある国の経済活動の規模を表したものであるが,この場合におけ る空所A〜Cの値の組合せとして,妥当なのはどれか。 (特別区2005) 国内総生産 515 国民純生産(市場価格表示) 420 国民所得(要素費用表示) 民間最終消費支出 385 A 政府最終消費支出 85 国内総資本形成 140 財貨・サービスの純輸出 5 海外からの所得の純受取 固定資本減耗 5 B 生産・輸入品に課される税(間接税) 補助金 40 C A B C 1 285 100 5 2 250 75 10 3 250 100 10 4 285 75 5 5 250 100 5 15 正解 1 〈国民経済計算の諸概念〉 本問は,国民経済計算を数値例で理解させる問題である。 支出面の国内総生産(GDP) =民間最終消費支出+政府最終消費支出+国内総資本形成+財貨・サー ビスの純輸出 上記の式に,与えられた数値および記号を代入すると,以下を得る。 515=A+85+140+ 5 以上より,A=285である。この段階で肢 1 および肢 4 へ絞り込める。 国民純生産(市場価格表示) =市場価格表示の国民所得 =国民総所得(GNI) −固定資本減耗 =国内総生産(GDP) +海外からの所得の純受取−固定資本減耗 上記の式に,与えられた数値および記号を代入すると,以下を得る。 420=515+ 5 −B 以上より,B=100である。この段階で正解は肢 1 とわかる。 参考までに,空欄Cを計算してみよう。 国民所得(要素費用表示;NI) =要素費用表示の国民所得 =国民純生産(市場価格表示) − (間接税−補助金) 上記の式に,与えられた数値および記号を代入すると,以下を得る。 385=420−(40−C) 以上より,C= 5 である。 よって,正解は肢 1 である。 16