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第1章
第1節
策定の背景
生物多様性とは
(1)生物多様性とは
・私たちのすむ地球上には、さまざまな生きものがいて、それぞれの生きものがお互いに
関わりを持ちながら暮らしています。この多様性とつながりのことを「生物多様性」と
呼んでいます。
・日本を含む世界 193 の国と地域が参加している生物多様性に関する国際条約「生物多様
性条約」では、生物多様性のことを、「生態系の多様性」、「種の多様性」、「遺伝子の多
様性」の 3 つに分けて整理しています。
・それぞれの地域には、その地域に固有の生物多様性があります。特定の地域や特定の種
だけを守るのではなく、それぞれの地域ごとに、その地域に固有の生態系・種・遺伝子
を守ることが重要です。
①
生態系の多様性
平地林や河川、湿地、樹林地、水田など、その土地ごとの地形や地質・気候等の様々
な環境条件が形成する自然環境には、それらの環境条件のもとで長い時間をかけて育ま
れてきた「多様な生きもの同士のつながり・関係=生態系」が成立しています。
河川の生態系
水田の生態系
湿地の生態系
樹林地の生態系
それぞれの生態系ごとに、右
図のような多様な動植物の
食う・食われる等の関係が形
成されています。
(図:(公財)日本生態系協会)
1
②
種の多様性
野鳥や昆虫、植物、微生物などのさまざまな種類の生きものがいることをいいます。
どんな生きものも生態系の中で重要な役割を担っており、1種がいなくなることは、生
態系全体に影響を及ぼしかねません。地球上に、いなくていい生物種はいないのです。
(小山市内に生息・生育する生物種の例)
キツネ
③
チュウヒ
ノコギリクワガタ
ワタラセツリフネソウ
遺伝子の多様性
同じ種類の生きものでも、個体によって形や体 の色などの特徴が違うことをいいます。
異なる遺伝子があることにより、環境の急変や病気の蔓延などがおこっても、生き延び
る個体が出て絶滅をまぬがれる可能性が高くなります。他の地域に生息・生育すればよ
いのではなく、小山市に生息・生育する動植物の遺伝子を守る必要があります。
ワタラセツリフネソウ
花の色と型が違う 4 型がありますが、渡良瀬遊水地では 4
型とも確認されています。花の型の違いは遺伝子によっ
て決まると考えられるため、遊水地内だけで 4 つの遺伝
的な多様性が見られると言えます。
ヘイケボタル
東日本と西日本では、点滅のしかたも違います。
流域を超えた放流は、遺伝子の多様性を損ねるため、注
意する必要があります。
メダカ
日本全国に分布していますが、日本各地で別々の地域集
団に分かれていることが遺伝子解析などの研究によって
明らかにされています。
地域によって、ひれの形などに違いがあります。
2
(2)自然の恵みに支えられている私たちの生活
自然が健全な状態にあることで、私たちは自然から、きれ
いな水や空気、おいしい食べもの、心が安らぐ美しい景色な
どのさまざまな恵みを受けています。自然がもたらすさまざ
まな恵みのことを「生態系サービス」と呼んでいます。
私たちの生活や社会は、豊かな自然がもたらす様々な恵み
によって支えられています。自然は、地域によって、その状
態も、すんでいる生きものも異なります。それぞれの地域に
最も適した考え方や方法で自然を保全・再生することが重要
です。
生物多様性豊かな生態系があってこそ、持続
可能な経済や暮らし(社会)が成り立ちます。
(図:(公財)日本生態系協会 作成)
自然の恵み(生態系サービス)の例
・自然は私たちに、食べもの・着るもの・飲みもの、薬の原料や建築物の材料
など、生活に欠かすことのできない様々な資源をもたらしています。
米(ラムサール
ふゆみずたんぼ米)
ヨシズ
水(思の泉)
本場結城紬
ハトムギ
酒(小山評定)
( 出 典 :お や まブ ラ ンド 創生協 議 会 、下 野 新聞 の 各ホ ームペ ー ジ )
・安らぎや潤いのある景観を形づくる、快適な気候を保つ、多くの生きものた
ちのすみかを提供するなどの働きもあります。
水田
渡良瀬遊水地
3
(3)生物多様性の危機
地球上の種の絶滅のスピードは、近年、加速していると言われています。 いま、日本の
生物多様性は、地球規模で生じている温暖化による影響も含めて、以下の 4 つの危機に直
面しています。
①
第 1 の危機:開発など人間活動による危機
人口の増加とともに私たち人間の生活圏が広がり、開発などによって多くの生きもの
のすみかである豊かな自然が急速に減少・消失しています。 栃木県内でも多くの野生の
生きものが絶滅の危機にあります。
図
絶滅の危機にある栃木県の野生生物種数
※栃木県内で確認された種のうち、赤色がレッドリスト掲載種(%)
(出典:栃木県版レッドリスト(2011 改訂版)、栃木県自然環境基礎調査をもとに作成)
4
②
第 2 の危機:自然に対する人の働きかけの縮小による危機
薪炭や山菜を得る場であった雑木林や、茅やヨシなどを得ていた草原や湿地など、生
活様式や産業構造など、社会経済の変化とともに、人が自然に関わることで成立してい
た里地里山の環境が失われたり荒れたりしており、質が大きく変化しています。
雑木林の下草刈りの様子
管理されている雑木林の林内
③第 3 の危機:人間により持ち込まれたものによる危機
食料や鑑賞などの目的で海外や、よその地域から持ち込まれた 生きものが野外で定着し、
その分布を拡大しつつあります。その結果、在来の生きものが捕食されたり、遺伝子の交
雑、生息・生育場所が奪われるなどの影響が問題になっています。
主な外来生物
アライグマ
ウシガエル
(出典:宇都宮動物園HP)
5
セイタカアワダチソウ
④
第 4 の危機:地球環境の変化による危機
温暖化やそれに伴う気候の変化によって、地球規模で生態系のバランスが崩れ、特定
の生きものが減少・増加したり、これまで収穫できた農作物が栽培できなくな ったり、
気候の変化に伴う動植物の北上・南下などもおきており、在来生態系への影響が懸念さ
れています。
溶け出す北極の氷山
( 写 真 :(公 財 )日 本 生態 系協会 )
米の収量の変化予測
2060 年代に全国平均で気温が約 3℃気温が上昇した場合、北海道で 13%増
加、東北以南では 8~15%減少すると予測されています。
※気候登熟量示数:気温と日射量のみで求められる水稲の潜在収量を示す指標。
(出典:「温暖化が日本の水稲栽培の潜在的特性に及ぼすインパクト」
独立行政法人農業環境技術研究所・林氏、石郷岡氏ほか、2001 年)
北海道の大雪山系の五色ヶ原では約 20 年で高山植物が姿を消しました。
(出典:温暖化から日本を守る適応への挑戦 2012、環境省、2011 年)
6
第2節
策定の背景
(1)生物多様性に係る世界の動き
・平成 4 年に生物多様性に関する国際的なルールである生物多様性条約がつくられ、概
ね 2 年に 1 回、条約に参加する国々が参加する締約国会議( COP)が開催されてい
ます。現在、この条約には日本を含む 193 の国と地域が参加しています。
・平成 14 年にオランダのハーグで開かれた第 6 回の締約国会議(COP6)では、2010
年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる「2010 年目標」が採択されました。
平成 22 年に名古屋市で開催された第 10 回の締約国会議(COP10)では、
「2010 年
目標」が達成できなかったことを踏まえて、新たに 2050 年を目標年度とする 20 項目
からなる「愛知ターゲット(愛知目標)」が採択されました。
COP10 の全体会議の様子
(出典:外務省資料)
(2)国内の動き
・生物多様性条約の参加国は、自国の生物多様性に関する計画「生物多様性国家戦略」
をつくることが義務づけられており、日本では平成 7 年に初めての生物多様性国家戦
略をつくってから、これまでに 4 回の見直しを行っています。平成 24 年に策定され
た「生物多様性国家戦略 2012-2020」では、COP10 で採択された愛知ターゲットを
踏まえて、わが国の国別目標(13 目標)とその達成に向け
た主要行動目標(48 目標)が設定されたほか、今後 5 年間
の行動計画として約 700 の具体的施策と 50 の数値目標が
盛り込まれました。
・平成20年には、生物多様性の保全とその持続可能な利用に
関する国の基本方針をまとめた「生物多様性基本法」が施
行されました。この法律のなかで、都道府県と市町村が生
物多様性地域戦略をつくることが努力義務とされたことか
ら、これまでに約30の都道府県、市町村で生物多様性地域
戦略が検討・策定されています。栃木県では平成 22年に「生
物多様性とちぎ戦略」がつくられました。
生物多様性国家戦略 2012-2020
(出典:環境省HP)
7
(3)小山市の動き
・これまで小山市では、自然との共生を基本とするまちづくりに取り組んできました。
平成 20 年には環境都市宣言を行い、自然と共生するまち「エコシティ・おやま」の
さらなる推進に向けて、県内一の 64 の共同活動地区数を誇る「農地・水保全管理支
払交付金(旧 農地・水・環境保全向上対策)」や、ラムサール条約湿地登録推進事業、
コウノトリ・トキ野生復帰推進事業などの幅広い取組を行ってきました。
・平成 24 年には、治水と環境保全の両立を目指す取組が評価されて、本市を含む 4 県 4
市 2 町にまたがる渡良瀬遊水地がラムサール条約湿地に登録されました。今後は、国
際的なブランドを活かした持続可能な地域づくりを展開していきます。
ラムサール条約湿地「渡良瀬遊水地」認定証
授与式・4 市 2 町首長と環境省自然環境局長
(環境省にて)
これまで小山市で計画・実施されてきた環境に関する取組は、特定の分野や地域に
限定したものが多く、小山市全体、さらには周辺の地域まで含めた形での取組があまり
ありませんでした。この戦略では、これまで小山市が行ってきた自然環境の保全・再生
に関する取組や、今後予定されている取組を「地域の自然と生きものと人のつながり」
の視点で整理しました。また、国内外の生物多様性に関する動向を 踏まえつつ、小山市
の自然や歴史・文化などの資源を活かした、魅力あるまちの実現に向けて必要な考え方
や具体的な取組などについてもまとめています。
8
世界の動き
国内の動き
小山市の動き
平成4年
生物多様性条約
平成 7 年
生物多様性条約国家戦略
平 成 14 年
平 成 14 年
生物多様性条約COP6
新生物多様性国家戦略
※ 「 2010 年 目 標 」 採 択
平 成 19 年
平 成 19 年 ~
第三次
生物多様性国家戦略
農地・水・環境保全向上
対策の取組開始
※ 県 内 一 の 64 共 同 活 動地 区
平 成 20 年
平 成 20 年
生物多様性基本法
環境都市宣言
平 成 22 年
平 成 22 年
平 成 22 年 ~
生物多様性条約COP10
生物多様性国家戦略 2010
コウノトリ・トキ野生復
帰推進関連事業
※ 「 愛 知タ ー ゲッ ト 」採 択
平 成 22 年
生物多様性地域連携促進法
平 成 23 年
小山市治水促進・ラムサ
ール条約湿地登録推進基
本構想
コウノトリ・トキ野生復
帰推進基本構想
平 成 24 年
ラムサールCOP11
※ 渡 良 瀬遊 水 地が 登 録認 定
図
平 成 24 年
平 成 24 年 7 月 3 日
生物多様性国家戦略
渡 良 瀬 遊 水 地 の ラ ムサ ール
2012-2020
条約湿地登録
生物多様性に関する国内外の動き
9
第3節
計画の位置づけ
(1)本計画の位置づけ
①
策定の根拠
本計画は、国の生物多様性基本法第 13 条に基づく「生物多様性地域戦略」として策定
する計画です。本市が有する自然環境や文化、産業などの資源を活かした持続可能な地
域を実現するための、生物多様性の保全とその持続可能な利用に関する基本的な取り組
みを定めます。
〔参考〕生物多様性基本法
第 13 条(生物多様性地域戦略の策定等)
都道府県及び市町村は、生物多様性国家戦略を基本として、単独で又は共同
して、当該都道府県又は市町村の区域内における生物の多様性の保全及び持続
可能な利用に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。
②
国、県の生物多様性戦略との整合
本計画の策定にあたり、世界の目標である「愛知ターゲット」を視野に入れつつ、国
の「生物多様性国家戦略」及び栃木県の「生物多様性とちぎ戦略」 を踏まえた計画とし
ます。また、計画の推進にあたっては、国や県、近隣や流域等の他自治体等との連携を
図ります。
(2)小山市の他の計画等との関連性
本計画は、本市において計画・実施される施策や取組が、地域の自然環境や文化、産
業などの特徴を踏まえ、かつ生物多様性の保全とその持続可能な利用の視点を反映した
ものとなるよう、基本的な考え方や方針を整理したものです。
上位計画である「小山市総合計画」との整合を図るとともに、小山市の個別計画に記
載された「生物多様性の保全とその持続可能な利用に関する部分」については、本 計画
と整合を取ることを基本とします。
10
生物多様性締約国会議
(COP10)
愛知ターゲット
(平成 22 年 10 月採択)
第6次小山市総合計画
(平成 23 年 3 月策定)
第 3 次環境基本計画
(平成 18 年 4 月策定)
個別計画
第 3 次小山市環境基本計画
栃木県環境基本計画
(平成 23 年 3 月策定)
(平成 23 年 3 月策定)
生物多様性国家戦略
2012-2020
小山市都市計画マスタープラン
(平成 24 年 9 月策定)
(平成 17 年 3 月策定)
整合
小山市緑の基本計画
(平成 18 年 3 月策定)
生物多様性とちぎ戦略
その他、自然環境の保全に関連
する小山市の個別計画
(平成 22 年 9 月策定)
整合
整合
小山市全域を対象にした生物多様性保全の推進のための総合的な指針
渡良瀬遊水地湿地
保全・再生基本計画
生物多様性おやま行動計画
平成 25 年 3 月策定
(平成 22 年 3 月策定)
重点的に取り組む事業
生物多様性保全に関する地域の取組
・小山市ラムサール条約湿地登録推進基本構想/小山市コウノトリ・トキ野生復帰
推進基本構想(平成 24 年 3 月策定)
・小山市治水促進・ラムサール条約湿地登録・コウノトリ・トキ野生復帰推進計画
(平成 25 年 3 月策定)
地域において生物多様性の保全を推進するための実行計画
(仮称)生物多様性地域連携保全活動計画
※平成 26 年 3 月に策定予定
図
本計画と他の計画との関連性
11
(3)計画の期間と目標
本計画で掲げる将来像を達成するための長期的な年次(長期目標)と、長期目標を達成
するための施策を推進する目標年次(短期目標)を下記の通り設定します。
■計画の目標年次:2050 年
国の生物多様性国家戦略の長期目標年次でもある約 40 年後の 2050 年を、小山市がめざ
すべき将来像(第3章参照)の実現を図るための長期的な視点に基づく目標年次(長期目
標)とします。
■短期目標:2020 年(平成 32 年)
生物の多様性は行政境や国境を越えてつながっていることから、限られた市域の取り組
みであっても、国や世界の動向を常に視野にいれていくことが重要です。したがって、 国
際的な約束事である生物多様性条約の「愛知ターゲット」の目標年次であ り、国の生物多
様性国家戦略の短期目標年次である 2020 年を、「短期目標」とします。
■リーディング・プロジェクトの目標年次:2015 年(平成 27 年)
短期目標に向けた取り組みのうち、先導・促進するための施策群をリーディング・プロ
ジェクトとして位置付け、2013 年(平成 25 年)~2015 年(平成 27 年)の3カ年を推進
期間とします。3カ年目に取り組みの進捗状況を確認し、必要に応じて新たな目標や施策
の位置付けなどの見直しを行います。
■計画の進捗確認・見直し
取組の推進にあたっては、2020 年度までは、1~2年ごとに施策の進捗について確認を
行いながら、施策の着実な推進を図ります。
短期目標年次の 2020 年の前年・2019 年には、実行計画としての総合的な実現達成状況
を把握・評価を行い、次の 10 年後に向けた目標や施策の見直しを行います。 また、その
後もおよそ 10 年ごとに計画の見直しを行っていきます。
そのほか、生物多様性の状況や世界や国の動向を受けた見直し等が必要な場合には、目
標年次にとらわれず、目標の実現を最優先に必要に応じた計画や施策の見直しを行うもの
とします。
スタート
生物多
様性
おやま
行動計
画策定
2013
年
1~2年ごとに簡易なチェックと見直し
リーディング
・プロジェクト
2013~2015
進
捗
確
認
施
策
・
目
標
の
見
直
し
新規の施策
<短期目標>
<長期目標>
2050年
2020年
推 進
(平成 32 年)
・目標と施策達成
具体施策・施策目
状況の把握、評
標の見直し
価
(およそ 10 年ごと)
・計画の見直し
既に推進中の施策
12
めざすべき
将来像
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