Comments
Description
Transcript
コンピュータ・インタフェースのための近赤外分光法装置
特別研究報告 非コヒーレント光を用いたブレイン-コンピュータ・インタフェース のための近赤外分光法装置の研究 A Study of a Near-Infrared Spectroscopy System for Brain-Computer Interface Using Non-coherent Source 報 告 者 学籍番号: 氏名: 1185068 久坊 将之 指 導 教 員 星野孝総准教授 平成 28 年 2 月 15 日 高知工科大学 電子・光システム工学コース 目次 目次 第1章 序章 研究背景 ...1 1.2 研究目的 ...3 脳機能 ...4 1.1 第2章 2.1 脳機能と名称 ...4 2.2 前頭葉 ...5 2.3 第3章 第4章 ...1 2.2.1 一次運動野 ...5 2.2.2 運動前野,補足運動野 ...5 2.2.3 運動野の小人(ホムンクルス) ...5 国際 10-20 法 近赤外分光法 ...6 ...7 3.1 ヘモグロビン ...7 3.2 神経血管カップリング効果 ...7 3.3 近赤外光 ...8 3.4 NIRS 測定法 ...12 NIRS 試作機 ...26 4.1 制御部 ...26 4.4.1 Arduino 4.4.1 計測フロー 照射部 ...28 4.3 受光部 ...28 4.2 4.3.1 トランス・インピーダンス・アンプ 4.3.2 差動増幅回路 4.3.3 Sallen-Key 型トポロジー 4.3.4 保護回路 目次 第5章 第6章 タスク計測実験 ...31 5.1 実験手続き ...31 5.2 測定位置 ...33 5.3 脳賦活による NIRS 信号の傾向 ...33 5.4 タスク計測実験結果(前頭葉) ...36 5.5 運動野計測の試み ...39 BCI 応用への試み ...44 解析方法 ...31 6.2 反復計測実験 ...31 6.1 6.3 第7章 2 プローブ計測実験 ...31 終章 謝辞 ...45 参考文献 ...4 第 1 章 序論 第1章 序章 1.1 研究背景 私達は大小の数知れない機械に囲まれ暮らしているが,それら機械と私達の脳を直接つ なぎ相互に作用させるシステムをブレイン‐マシン・インタフェース(Brain-Machine Interface:BMI)と呼ぶ.狭い意味では,脳から得た信号をもとに,義手や義足を自らの手 足のように自在に操作するためのインタフェースを指す(図1.1).最近では,直接脳に電 極を刺す方式(侵襲式)をBMI と呼び,脳に電極を刺さない方式(非侵襲式)をブレインコンピュータ・インタフェース(Brain-Computer Interface:BCI)と呼び分ける傾向が強い (本稿で同も様にBMI は侵襲式,BCI は非侵襲式として扱う).これらの技術の応用例と して,末期筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)患者や脊髄損傷患者 などの,全身麻痺患者のコミュニケーションの支援があげられる.ALS患者は,脳は正常に 活動しているにも関わらず,全身の麻痺から発話やジェスチャーによるコミュニケーショ ンが困難である.BCI(又はBMI)の技術を用いることにより,全身麻痺患者のコミュニケ ーションを支援し,生活の質(Quality of Life:QOL)を向上させるサポートツールになる と期待されている(図1.1). 図1.1 ブレイン-コンピュータ・インタフェース BMIは生体内外の事象と脳活動との対応が取り易いため,この分野の研究初期において多 く採用され,基本理論構築に大きく貢献した.しかしながら,脳に直接アクセスすること の危険性や倫理面での問題が指摘されている.一方BCI は,人体に危険を与える可能性が 1 第 1 章 序論 低いため,ヒトを対象とした実験も盛んに行われており,現在はBCIの研究が主流になって いる[1-3]. BCIを構築する為の非侵襲的な脳活動計測には,機能的磁気共鳴画像(functional magneticresonance imaging:fMRI),機能的近赤外分光法測定装置(functional near infrared spectroscopy:fNIRS),陽電子放出断層撮影(positron emission tomography:PET),頭皮上 脳電図(electroencelphalography:EEG),脳磁図(magnetoencelphalography: MEG)などが あげられる.このうち,EEG,fMRI,fNIRSはリアルタイムで信号の利用ができるため,BCI への応用に適していると考えられている.特にEEGはBCIへの応用例が先行研究において数 多くあげられる[4-6].しかしその一方で,EEGは電磁波によるノイズの影響を受けやすいこ とや,使用時にジェルを皮膚表面に塗る必要があるなどの欠点がある.また,EEGを用いた BCIはP300電位,μ波,β波など普段制御することのない脳活動を利用する場合が多く,被験 者には長期の訓練が必要となる[7]. そこで,本研究室では扱いやすいBCIを実現するために,機能的近赤外分光法測定装置 (functional near infrared spectroscopy:fNIRS)を用いてのBCIシステムの開発を行ってきた. fNIRSとは近赤外光を利用し,血液中の酸素ヘモグロビン(Oxy-Hb)と還元ヘモグロビン (Deoxy-Hb)の濃度変化量を計測することができる装置である.賦活が生じた領域には血液中 のOxy-Hb量が増加するため,それに伴って変化する近赤外光の光量変化を計測することで 脳賦活を捉えることが可能となる.つまり,NIRSはより自然に誘発される皮質活動を計測 するため,BCIとして使用の際に訓練を必要とはしない[8-9].また,NIRSは光計測であるた め,適切な遮光を行えば外部からの影響を受けにくいなどのメリットがある. 我々が開発したNIRS-Based BCIは手指運動時のNIRS信号から左手・右手の運動の開始と 終了の推定を行うシステムであり,ON/OFF可能な二択スイッチ型BCIへの適応の可能性を 示すことができた(図1.2)[10]. 2 第 1 章 序論 図1.2 本研究室で開発したNIRS-Based BCI 我々は,開発したBCIシステムを利用して車椅子のコントロールを行うことを試みていた. しかし,研究で使用していた機能的近赤外分光法測定装置(日立メディコ:ETG-7100)は非常 に大きく,日常生活で用いるのは不便であるため,小型化されたウェアラブルなNIRS機器 の利用が適切であると考えられる.Beisteiner Rら[11]やRaphael Z[12]らの研究により,小型 化されたNIRS機器は既に開発されているが,前頭部のみ(髪の毛がない部分)での計測しか可 能ではないこと.Sawan, M らの研究[13]では,EEGとNIRSを用いたBCIシステムの開発を 行うことで頭部の広い範囲かつ多くの脳情報を計測することが可能であるが,高性能ハー ドウェアを使用しているため,システムが高価かつ規模が大きいことがあげられる.これ らの小型化NIRSをBCIとして用いることは適切ではなく,改良の余地があると考えられる. そこで本研究では,NIRSのメリットである”扱いやすさ”に注目し,計測領域を必要最低 限に絞ることで機器の縮小化を行うなど,BCIに適したNIRS機器の開発を研究目標とする. 1.2 研究目的 本研究は,我々が開発したBCIシステムで用いていたNIRS機器(ETG-7100)の代用となる BCI用NIRS機器を開発することを目標としている.その基礎的検討として,本稿では以下の 内容について述べる. 1. NIRS機器の試作 2. 試作機を用いたタスク計測実験手順と結果 3 第 1 章 序論 3. NIRS信号データのBCIへの応用の検討 まず第1章では研究背景と目的について述べる.2章では,BCIの仕組みを理解するために 脳の構造について述べる.3章で脳機能について,4章では本研究の脳機能計測に用いた近 赤外分光法について述べる.5章ではNIRS計測実験,6章ではSVMを用いた信号認識手法の 提案と評価を行う.最後に7章で結論を述べる. 4 第 2 章 脳機能 第2章 脳機能 本章ではBCIの仕組みを理解するために脳の構造について述べる.また脳機能を計測する 際に測定部位の決定に用いた国際10-20法[14]についても述べる. 2.1 脳の構造と名称 神経系は中枢神経系と末梢神経系に分類され,脳と脊髄が中枢神経系である.脳の基本 的な部位・名称に関して簡単に説明する.まず大脳の断面図を見ると,白色の部位を灰色 がかった部位が覆っていることが分かる.図2.1にヒトの大脳断面図を示す.灰色の部位は 灰白質と呼ばれ,ニューロンの細胞体が密集しており,白色の部位は白質と呼ばれ,ニュ ーロンの軸索が通っている部位である.表面には多くの皺のような脳溝とそれらに囲まれ て膨らんだ脳回がある.大脳皮質は表面部に位置している灰白質のところであり,多くの 精神機能が担われている.また,表面部だけでなく脳組織内部にも細胞体の密集した灰白 質があり,神経核と総称する.ヒトの脳には多くの溝があり,皮質の面積が大きいことを 意味する.大脳皮質は溝や形などの特徴から,前頭葉,側頭葉,頭頂葉,後頭葉の4つの脳 葉に区分できる(図2.2参照).これらの頭葉には,それぞれ異なった機能を持つ領野が存 在する.次節では,本研究に関わる部位の機能について述べる. 図 2.1 ヒトの大脳断面図 図 2.2 大脳皮質 4 第 2 章 脳機能 2.2 前頭葉[15] 大脳皮質の中で,前頭葉は中心溝と外側溝に囲まれた領域である.手運動には,主にこ の前頭葉の前頭前野,運動野と呼ばれる領域が関わっているとされている.前頭葉は一般 的に随意的な行動出力に重要であるが,その機能には単純な行動から複雑な行動の制御ま で階層性が見られる.階層性の高い行動ほど執行制御による柔軟性を持つ.中心溝のすぐ 前に位置する一次運動野やその前に位置する高次運動野(運動前野,補足運動野など)か らは,直接に脊髄の運動ニューロンに神経線維が投射しており,十分に習慣化された行動 (ルーチン行動)であってもそれを随意的に起こす時には常に関与する.それよりも前に 位置する領域は前頭前野と呼ばれる.前頭前野は,より高度で柔軟な行動(ノンルーチン 行動)を進化的に獲得した霊長類で大きく発達し,中でも人間は前頭前野が大きく発達し ており,大脳皮質の 30%もの領域を占める. 2.2.1 一次運動野 一次運動野は中心溝の前方に位置し,中心前回の領域である.体の各部の筋肉の動きを 支配,運動の指令を出す部位で,運動の出力を行っている.運動学習において重要な領域 である.一次運動野は体と活性化している脳の部位に一定のパターンがある体部位局在性 が分かっている.後述の運動野の小人(ホムンクルス)でそのことについて記述した. 2.2.2 運動前野,補足運動野 一次運動野の前方には運動前野,その内側には補足運動野が位置する.これらの高次の 運動野は障害物を避けて手を伸ばして物を掴む(運動前野) ,複数の動作を順序良く組み合 わせて行う運動を計画(補足運動野)する,こういった際に重要な役割を果たす. 2.2.3 運動野の小人(ホムンクルス) ペンフィールドらは脳腫瘍の外科手術の前に脳の電気刺激を行って,人間の大脳皮質の どこを刺激すると身体のどこが動くかを詳細に明らかにした.その結果を皮質の模型図の 上に書き込むと逆立ちをした小人のように見える(図 2.3).この図の体の各部分の大きさ は,運動野の相当領域の面積に対応するように描かれている.運動野の小人を立たせると, 口,顔,手の指が異様に大きいアンバランスな体形をしていることが分かる(図 2.4).単 純化すれば,一次運動野には筋肉を動かすためのボタンが並んでいると考えてよい.また, 体の左半分は右の大脳皮質に,体の右半分は左の大脳皮質に対応部分を持つ. 5 第 2 章 脳機能 図 2.3 ペンフィールドのホムンクルス 図 2.4 運動野の小人 2.3 国際 10-20 法 脳波計測のときに,センサーを頭部に配置する場所を決める国際標準の方法である.鼻 根 (ナジオン)と,後頭結節(イニオン)を結ぶ線の二等分点と,左と右の耳介前点を結 ぶ線の二等分点の重なる点を Cz と呼ぶ.これが頭部の中心となり,脳表では中心回と大脳 縦裂の交点付近となる.Cz とナジオンを結ぶ線および Cz とイニオンを結ぶ線を 5 等分し, 左右耳介前面点と Cz を結ぶ線を 5 等分する.同じ等分点を結ぶと等高線ができ,その交点 近傍に名称がついてある(図 2.5) .本研究でも国際 10-20 法を用いることで前頭前野の運動 領域と思われる部位の導出を行う. 図 2.5 国際 10-20 法の電極 6 第 3 章 近赤外分光法 第3章 近赤外分光法 本章では,まずNIRS装置の生理学的基礎となっている神経血管カップリング効果につい て述べる.その後に,NIRS機器で用いられる近赤外線の性質と測定法について紹介する. 3.1 ヘモグロビン ヘモグロビンはヒトを含む全ての脊椎動物や一部のその他の動物の血液中に存在する赤 血球の中にあるタンパク質である.酸素分子と結合する性質を持ち,肺から全身へと酸素 を運搬する役割を担っている.ヘモグロビンは酸素分圧の大きい場所では酸素と結合して酸 化ヘモグロビン(Oxy-Hb)となり,酸素分圧の小さい場所では酸素と解離して還元ヘモグ ロビン(Deoxy-Hb)となる.酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンを合わせたものを総ヘモ グロビン(Total-HB)と呼ぶ. 3.2 神経血管カップリング効果 脳の神経活動時には,神経血管カップリングにより脳血管が拡張し脳血流が増加する. 神経血管カップリングとは,神経活動時の酸素代謝およびグルコース代謝の亢進に伴い, 脳血管が拡張し脳血流が上昇するメカニズムである[15].これに従い毛細血管も拡張するの で組織に含まれる血液量が増加し,ヘモグロビンの酸化還元率も変化する.この現象は, 直接神経活動を計測することなく脳活動を捉えることが出来る NIRS,PET,fMRI などの神 経機能イメージング法の生理学的基盤であるが,そのメカニズムの詳細についてはまだ十 分には解明されていない.この脳血流の循環反応は,図 3.1 に示した血流速度の変化と血管 床面積の変化という 2 つのメカニズムによる. 細静脈などの小血管では,血管速度の変化が主体で血管床面積の変化の程度は小さい. そのため脳循環が増加すると Oxy-Hb が Deoxy-Hb を洗い流すような変化となり,Oxy-Hb は増加し Deoxy-Hb は減少する.これに対して毛細血管では,脳循環増加の際に血流速度の 増加を上回るほどに血管床面積が増加する.このため脳循環が増加すると Oxy-Hb は増加す るが,Deoxy-Hb は必ずしも洗い流されるとは限らない.血流増加と血管床面積増加のバラ ンスにより,増加・減少のいずれをも示すことがありうる. 7 第 3 章 近赤外分光法 毛細血管 小血管 動脈 静脈 動脈 血流速度の増加 Hb Conc. Hb Conc. 毛細血管床の増加 静脈 oxy-Hb deoxy-Hb oxy-Hb deoxy-Hb time time 図 3.1 脳血流変化のメカニズム 3.3 近赤外光 赤外領域は可視光と電磁スペクトルのマイクロ波の間に存在し,IR-A(near IR):700~1400nm,IR-B(mid IR):1400nm~3000nm,IR-C(far IR):3000nm~106nmの3つの領域に 分割される[16].現在,医療目的として利用されるのは主に近赤外光であるIR-Aである. NIRS機器も同様に近赤外光が用いられている. NIRS機器は近赤外光を生体表面に投射し,頭内部で散乱を繰り返した後,頭外部に出力 される光を受光部が吸収することで脳活動計測を行うことができるが,人の頭は脳組織以 外の頭部組織(頭蓋骨,帽状腱膜など)と脳組織(大脳皮質,白質など)で層が形成されており, 頭表面から大脳皮質までの距離は一般成人でだいたい30mmといわれている(図3.2)[17]. 図3.2 脳内部組織 8 第 3 章 近赤外分光法 また,減光度Optical Density(OD)はヘモグロビンによる光吸収だけでなく,それ以外の脳 組織による光の吸収・散乱,装置のアーチファクトによる減光などがあるため,光強度は 高い方が脳活動を計測しやすくなると考えられるが,電磁波が人体に与える影響を無視す ることはできない.人体に放射することができる電磁波の照射強度はInternational Commission on Non-Ionizing Radiation Protection(ICNIRP)[18],International Electrotechnical Commission(IEC)[19-20]などによって定められている.電磁波は帯域によって性質が異なる ため,脳機能計測装置(MRI,PET,NIRSなど)はそれぞれの帯域に応じた規格が定められて いる.また,それぞれの装置は主に医療用目的として開発され,薬事法等によって定めら れた基準内での使用が前提とされている.一般的に,赤外光は量子エネルギーが10eV以下 の非電離放射線とされ,電離放射線と違って発ガンや突然変異などの生体作用を及ぼすこ とはないとされている(図3.3)[21]. 図3.3 電磁波の周波数帯域 しかし,赤外光は分子の振動回転による熱の誘因と関係があるため,人体に対して使用 する際は安全基準が不可欠である.面積あたりの照射可能な最大パワーである最大照射照 度(Maximum Permissible Exposure: MPE)が網膜,虹彩,皮膚のそれぞれで定められている. われわれが使用していたNIRS機器(ETG-7100)を含め,多くのNIRS機器は照射光としてレ ーザー光を利用していたが,近年になって小型化,安全,消費電力削減などを目的として LEDの利用が活発になってきている[11-13].特徴の違いとして,レーザーはコヒーレント光, LEDはインコヒーレント光に分類される(図3.4),一般的に,コヒーレント光は単一の波長の みで構成され単色性が良いこと,波長と位相が一定で可干渉性が良いこと,光の拡散が小 さく指向性に優れているようなものをさす.その一方でエネルギー密度が高いので,イン コヒーレント光よりもMPEが低く定められている[18-21]. 9 第 3 章 近赤外分光法 図3.4 波の特性(左)コヒーレント光(右)インコヒーレント光 本研究では先行研究と同様に,安全・消費電力削減などを考慮し照射部にLEDを使用して いるため,インコヒーレント光の網膜,虹彩,皮膚に対するMPE値を以下に示す. 表3.1 各眼組織のMPE値 対象 角膜 皮膚 網膜 単位 MPE値 𝐸𝐼𝑅 = ∑3000 𝜆=780 𝐸𝜆 ∙ ∆𝜆 ≤ 18000 ∙ 𝑡 −0.75 (𝑡 ≤ 1000𝑠)(3.1) 𝐸𝐼𝑅 = ∑3000 𝜆=780 𝐸𝜆 ∙ ∆𝜆 ≤ 100(𝑡 > 1000𝑠)(3.2) −0.75 𝐸𝐻 = ∑3000 (𝑡 ≤ 10𝑠)(3.3) 𝜆=380 𝐸𝜆 ∙ ∆𝜆 ≤ 20000 ∙ 𝑡 𝐿𝐼𝑅 = ∑1400 𝜆=780 𝐿𝜆 ∙ 𝑅(𝜆) ∙ ∆𝜆 ≤ 𝐿𝐼𝑅 = ∑1400 𝜆=780 𝐿𝜆 ∙ 𝑅(𝜆) ∙ ∆𝜆 ≤ 50000 𝛼∙𝑡 2 6000 𝛼 (10𝜇𝑠 ≤ 𝑡 ≤ 10𝑠)(3.4) (𝑡 > 10𝑠)(3.5) 放射照度[𝑊 ∙ 𝑚−2 ] 放射照度[𝑊 ∙ 𝑚−2 ] 放射輝度[𝑊 ∙ 𝑚−2 ∙ 𝑠𝑟 −1 ] 𝐸𝜆 :分光放射照度[𝑊⁄𝑚2⁄𝑛𝑚],𝐿𝜆 :分光放射輝度[𝑊⁄𝑚2⁄𝑛𝑚⁄𝑠𝑟],𝑅(𝜆):火傷危険重み関数 ∆𝜆[𝑛𝑚]:波長,𝛼:視角[𝑟𝑎𝑑] 熱圧迫は波長に依存し,荷火傷危険重み関数𝑅(𝜆)は以下の式で定義され,式より波長が 高いほど,危険重み𝑅(𝜆)が減衰することが分かる. 𝑅(𝜆) = 10[(700−𝜆)⁄500] (3.6) 視覚𝛼は光源として活動的な領域の縦の長さ𝑙と横の長さ𝑤,そして光源から角膜までの距 離𝑟によって式3.7から求めることができる(図3.5). 𝛼 = 𝑑𝑠 ⁄𝑟 𝑑𝑠 = (𝑙 + 𝑤)⁄2 10 (3.7) 第 3 章 近赤外分光法 図3.5 眼と光源体の関係 実際,人体を対象として光源を使用する際は,角膜と皮膚に対しての場合は放射照度𝐸𝑒 , 網膜に対しては放射輝度𝐿𝑒 がそれぞれのMPE値を越えない範囲で,LEDを安全に適応するこ とが可能となる.放射照度𝐸𝑒 と放射輝度𝐿𝑒 は以下の式でそれぞれ求めることができる. 𝐸𝑒 = 𝐼𝑒 ⁄𝑟 2 𝐿𝑒 = 𝐼𝑒 ∙ 𝑅(𝜆)⁄𝑑𝑟2 (3.8) 上式の𝐼𝑒 は光源の放射強度[𝑊 ∙ 𝑠𝑟 −1 ]を表す.放射強度𝐼𝑒 などの光源の特性はデータシート に記入されている場合もあるが,大抵の場合は記入されていない.Christopherら[22]によれ ば,代替算出法として,出力パワーP[mW]のLEDが照らす光の面積A[mm2]より,およその 放射照度𝐸𝑒 が以下の式で求まることが示されている. 𝐸𝑒 = 𝑃⁄𝐴 [𝑚𝑊⁄𝑚𝑚2 ] (3.9) また,連続光𝐸𝑒 ではなくパルス光𝐸𝑒,𝑝𝑢𝑙𝑠𝑒 を使用する場合は,デューティ比𝐷による時間平 均の放射照度𝐸𝑒,𝑡𝑖𝑚𝑒 𝑎𝑣𝑔 がMPEを越えないように値を定める(図3.6).時間平均の放射照度 𝐸𝑒,𝑡𝑖𝑚𝑒 𝑎𝑣𝑔 の式を以下に示す. 𝐸𝑒,𝑡𝑖𝑚𝑒 𝑎𝑣𝑔 = 𝐸𝑒 ∙ 𝐷 = 𝐸𝑒 ∙ 𝑡𝑝𝑢𝑙𝑠𝑒 ⁄𝑡𝑝𝑒𝑟𝑖𝑜𝑑 11 (3.10) 第 3 章 近赤外分光法 図3.6 放射照度とデューティ比の関係 本研究では,日常生活にBCIとして使用するためのNIRS装置の開発を目標としているため, 実用的な使用を考えると計測時間つまり照射時間𝑡 > 10𝑠となる.しかし,皮膚に対するMPE は𝑡 ≤ 10𝑠のみしか定義されておらず,照射時間𝑡 > 10𝑠の場合は上規則にはあてはまらない. ICNIRPによると,光を10秒間皮膚に投射し続けた後に,皮膚に熱や痛みを感じない範囲で あれば,規定からは独立し怪我のリスクはないと示している[18].そこで本研究では,脳活 動が計測でき,かつ皮膚に痛みを感じない程度のLEDパワーでの実験を行った. 3.4 NIRS測定法 1997年,Jobsisによって近赤外領域(波長700nm~1,100nm)の光が生体組織に対して比較的高 い透過性があり,その波長領域の吸光特性は生体血液中の酸素濃度に依存することが示さ れた[23].図3.3は各ヘモグロビンの吸収係数に対する近赤外領域の波長依存性を表している. それ以降,半導体レーザーを用いた光検出技術の発達とともに,非侵襲的な生体計測装置 として実用化されてきている[24-27].1993年には脳内部の神経活動に起因する局所的な脳 酸素代謝変化が近赤外光の生体透過量変化として報告され[28-31],脳機能イメージング技 術にも幅広く応用されている[32-33].また,生体組織は強い光散乱媒質であるため,光散 乱媒質内部の吸光物質濃度の定量計測のための拡散光計測法が開発された.それぞれの計 測法は時間分解計測(Time-Resolved Spectroscopy: TRS)[34-36],周波数分解計測 (Frequency-Resolved Spectroscopy: FRS )[37-39],連続光計測(Continuous Wave: CW)[40-41]の3 つとされている.以下の表3.2と図3.7参照. 12 第 3 章 近赤外分光法 表3.2 拡散光計測法の種類 計測法 長所 時間分解(TRS) 周波数分解(FRS) 連続光(CW) 短所 利用例 ・空間分解能 ・サンプリングレート ・脳酸素濃度画像化 ・侵入度 ・サイズとコスト ・乳房画像 ・サンプリングレート ・比較的高い正確性 ・脳と筋肉の酸素測定 ・侵入度 ・乳房画像 ・サンプリングレート ・侵入度 ・パルスオキシメータ ・サイズとコスト ・空間分解能 ・機能的脳計測 図3.7 拡散光計測法原理(左)TRS(中)FRS(右)CW (𝐼: 光強度,𝜙: 位相,𝑀: 振幅) 本研究のNIRS試作機はBCIでの使用を目的としているため,機器の小型化・簡素化が必要 ととなり,CW計測法が適切であると考えられる.そこで,CW計測法の基礎となるModified Beer-Lambert law則(MBL則)の導出法を示す. 光拡散理論より,図に示す半無限均一媒体の幾何学条件で,一様な吸収係数𝜇𝑎 ,等価散 乱係数𝜇𝑠, にインパルス光(光散乱物質内の光速度: 𝜈)を照射したときに測定される光の時間応 答性𝐼(𝜌, 𝑡)は以下の式で表される. 2 5 𝑅(𝜌, 𝑡) = (4𝜋𝐷𝜈)−3 ∙ 𝑧0 ∙ 𝑡 −2 ∙ exp(−𝜇𝑎 𝜈𝑡) ∙ exp(− 𝜌2 + 𝑧02 ) 4𝐷𝜐𝑡 (3.11) ρは光源-検出器間距離,𝑧0 = 1⁄𝜇𝑠, ,𝐷 = 1⁄3𝜇𝑠, である.計測された時間応答特性𝐼(𝜌, 𝑡)を 解析することにより,吸収係数𝜇𝑎 を求めることができる[42].吸収係数𝜇𝑎 に対しては生体の 窓の波長領域において以下の式が成り立つ(図3.8). 𝜇𝑎 (𝜆) = 𝐶𝑜𝑥𝑦 ∙ 𝜀𝑜𝑥𝑦 (𝜆) + 𝐶𝑑𝑒𝑜𝑥𝑦 ∙ 𝜀𝑑𝑒𝑜𝑥𝑦 (𝜆) + 𝜇𝑎_𝑏𝑎𝑐𝑘 (𝜆) 13 (3.12) 第 3 章 近赤外分光法 𝜀𝑜𝑥𝑦 , 𝜀𝑑𝑒𝑜𝑥𝑦 はそれぞれOxy-HbとDeoxy-Hbのモル吸光係数𝐶𝑜𝑥𝑦 , 𝐶𝑑𝑒𝑜𝑥𝑦 はそれぞれOxy-Hbと Deoxy-Hb濃度,𝜇𝑎_𝑏𝑎𝑐𝑘 はヘモグロビン以外の物質の光吸収を示している.吸収係数とモル吸光 係数は波長によって異なる値をとるため,3波長の光に対する時間応答を計測することにより, 式3.12の連立方程式を解くことで,Oxy-HbとDeoxy-Hbの絶対濃度C[mmol]を求めることが可能 である.この方法がTRSである.一方,連続光計測の場合は式3.11の時間𝑡に対して積分を行うこ とで検出光強度𝐼(𝜌)を求めることができる.TRSの時間応答特性𝑅(𝜌, 𝑡)を吸収項とそれ以外 の項を式3.13にまとめる. 𝑅(𝜌, 𝑡) = 𝑓(𝜌, 𝜇𝑠, , 𝑡)exp(−𝜇𝑎 𝜈𝑡) (3.13) また,特定の波長の光に対する物質の吸収強度(OD),つまり物質により透過光が入射光 に対しどの程度減少するかを示す値であり,吸光強度は以下の式に与える. 𝑂𝐷 = 𝑙𝑛(𝐼0 ⁄𝐼(𝜌)) = − 𝑙𝑛 𝐼(𝜌) (3.14) 式(3.14)を𝜇𝑎 について偏微分を行うと次式のようになる. ∞ 𝜈 ∫0 𝑡𝑓(𝜌, 𝜇𝑠, , 𝑡) exp(−𝜇𝑎 𝜈𝑡) 𝑑𝑡 𝜕𝑂𝐷 𝜕 1 𝜕 = − 𝑙𝑛 𝐼(𝜌) = − 𝐼(𝜌) = ∞ = 𝜈〈𝑡〉 = 𝐿 , 𝜕𝜇𝑎 𝜕𝜇𝑎 𝐼(𝜌) 𝜕𝜇𝑎 ∫ 𝑓(𝜌, 𝜇𝑠 , 𝑡) exp(−𝜇𝑎 𝜈𝑡) 𝑑𝑡 (3.15) 0 ここで〈𝑡〉は平均飛行時間,𝐿は平均光路長を示す.式3.15より吸収変化Δ𝜇𝑎 を求めること ができるので,式(3.12)の絶対量を相対量に変換した以下の式に代入し, ∆𝜇𝑎 (𝜆) = ∆𝐶𝑜𝑥𝑦 ∙ 𝜀𝑜𝑥𝑦 (𝜆) + ∆𝐶𝑑𝑒𝑜𝑥𝑦 ∙ 𝜀𝑑𝑒𝑜𝑥𝑦 (𝜆) + ∆𝜇𝑎_𝑏𝑎𝑐𝑘 (𝜆) (3.16) 3波長についての連立方程式を解くことで,Oxy-HbとDeoxy-Hbの相対濃度変化量𝐿 ∙ ∆𝐶[mmol・mm]を求めることができる.以上がCW計測によるMBL則であり,頭部組織内血液 中のヘモグロビン濃度変化量を近似した値である.本研究では,このMBL則に基づいたヘ モグロビン変化量をLEDとPDを用いて電圧値として計測する装置を開発する.本章に続い て第4章では本研究で作成したNIRS試作機について述べ,第5章でタスク計測実験の結果・ 考察を述べる. 14 第 3 章 近赤外分光法 図3.8 ヘモグロビン吸収スペクトル 15 第 4 章 NIRS 試作機 第4章 NIRS試作機 第3章で示したように,LEDを用いることで光の放射照度と放射照度時間をさげることが でき,消費電力の大幅な低減が図れる.また,Beisteiner Rら[11],Raphaeら[12],Sawan M ら[13]より,照射部としてLED,受光部としてPDを使用することで,脳の賦活を酸化ヘモグ ロビンと還元ヘモグロビンの変化量として計測できることが報告されている.本研究でも 同様に小型化と低消費電力を考慮し,LEDとPDを用いてNIRS開発を試みた. 4.1 制御部 4.1節ではLEDのスイッチング制御とAD変換を行うArduinoの概要とNIRS機器の計測フロ ーについて説明を行う. 4.1.1 Arduino ArduinoはAtmel社のAVRマイコンや入出力ポートを備えたマイコンボードである.マイコ ンプログラミング用に開発環境Arduino(IDE)を提供しており,Processingプロジェクトがベ ースとなっているため難易度が下がり,ソフトウェア開発の初心者でも気軽に電子工作を 行えることを可能とした.現在では,初代Arduino Unoを含めて様々なタイプのArduinoボー ドが開発されており,使用者は目的に応じたボードを利用することができる.また,国内 外を含めユーザーやリソースが多いこと,他社Webサービスと連帯などの利点が多く,学生 の学習用ツールとしても広く用いられている.本研究では,Arduinoを使用して照射部と受 光部の制御とAD変換を行う. 図4.1 Arduino 16 第 4 章 NIRS 試作機 4.1.2 計測フロー 以下にNIRS計測フローの全体図を示す. 図4.2 NIRS計測フロー まず,Arduinoのパルス波によりLEDのON/OFFを行う.LEDのスイッチング周波数は10Hz, デューティ比は0.1である.LEDがONの時間と回数を減らすことにより消費電力と放射照度 の逓減を行う.LEDから出力された光は頭部の皮膚を透過し,頭部の組織内で散乱と頭部内 組織により吸収により入力光パワーが減衰する.その後,頭皮から出力された光をPDが吸 収することで光パワーを電流値に変換し,増幅器とフィルタ回路により増幅&ノイズ除去を 行う.PDが光を吸収した時のみ信号のArduinoがサンプリングを行うことで脳賦活を電圧変 化としてとらえることが可能となる. 4.2 照射部 拡散光計測で使用される光源のタイプを以下の表に示す. 17 第 4 章 NIRS 試作機 表4.1 拡散光計測で扱われる光源のタイプ[43] 光源 白色光 光パワー 波長帯域 低(<5mW) 柔軟かつ選択可能 (NIRフィルタ) Light emitting diodes (LEDs) レーザーダイオード 低中(<1 to 30mW) 中高(<1 to 30mW) 色スペクトル ±30nm帯域 各波長±1nm帯域 特徴 波長ごとの パワーが低い 低価格 高価 (制限あり) ETG-7100を含め多くのNIRS機器はレーザーダイオードを用いられている.コヒーレント光で あるレーザーダイオードの特徴としては,LEDと比べて光の波長領域が狭いため,波長ごとのパ ワーが高く光の集光性が高いということが挙げられる.光の散乱度合いが低いことから脳の血液 中の酸素濃度を安定的に計測することが可能となる./*また,拡散光計測において照射受光間距 離が●cmの場合の受光部が検知する光パワーは約数pWといわれている[].そのため,照射部の 光パワーは重要となる.*/ そのため,レーザー光を用いたNIRS機器は医療用目的などで広く利 用されている. 一方,LED光はインコヒーレント光に分類され,波長領域が広く集光性が低いという特徴があ る.しかし,コヒーレント光と比べて価格と消費電力が低い事や安全性の高さといったメリット から,ウェアラブルのような小型化NIRSにLEDが用いられることが先行研究においても多くみ られる[11-13].本研究でもBCIに用いるための小型化NIRS機器の開発を目標としているため,光 源としてLED(LS872NJ2: OPTRANA Corp.)を使用する.照射部の回路図を以下に示す. 図4.3 照射部回路図 18 第 4 章 NIRS 試作機 4.3 受光部 拡散光計測で使用される検出器のタイプを以下の表に示す. 表4.2 拡散光計測で扱われる検出器のタイプ[43] 検出器タイプ 速度 感度 Silicon photodiodes 中 (SPDs) (≤ 10kHz) Avalanche photodiodes 高 (APDs) (≥ 100MHz) Photomultiplier tubes 高 高 (PMTs) (≥ 100MHz) (≤ 820nm) Charge-coupled devices 低 (CCDs) (≤ 1kHz) ダイナミック レンジ 特徴 低 高(≤ 100dB) 高い汎用性 高 中(≤ 60dB) 成人頭部計測 中(≤ 60dB) 成人頭部計測 中(≤ 60dB) 同時多波長計測 可変 上記の表は,拡散光計測で扱われる検出器の種類を示している.深い生体内部の光学的 画像のような神経画像においては高感度性と速い応答性が必要となる.しかし,BCIとして 利用するNIRS機器の場合,脳賦活の変化速度と比較して応答性の高いPDを使用する必要は ない.また,消費電力が比較的低いSPDsを用いて広頭内部の血液中酸素濃度変化をとらえ ることに成功したという報告もある[44].そこで,本研究では浜松ホトニクス社のS11499を 検出器として使用する.S11499は800nm~1000nmの波長領域において高い光感度性を持つた め,波長870nmをピークにもつLS872NJ2は適していると考えられる.受光部回路全体の図を 以下に示す. 19 第 4 章 NIRS 試作機 図4.4 NIRS機器の受光部 先行研究より,脳内部を透過した光を吸収したPDから流れる電流値は非常に小さいため, まずプリアンプとしてトランス・インピーダンス・アンプによって増幅を行い,その後, 計装オペアンプを用いた差動増幅回路により増幅&フィルタを行う.本研究でも同様のプ ロセスを踏んだ後,2次ローパスで再度ノイズ除去行ない,ArduinoによるAD変換を行う. 全体のゲインはGain ≅ 4230dBであり,通過周波数は𝑓 ≤ 100𝐻𝑧である. 4.3.1 トランス・インピーダンス・アンプ 酸化・還元ヘモグロビン量の変化によって起きる光量変化はとても微弱であるため,PD に流れる電流変化も微弱である.そこで,トランス・インピーダンス・アンプをプリアン プとして用いることにより,PDの微小電流変化を使用可能な電圧信号に変換を行う.トラ ンス・インピーダンス・アンプ設計についてはTEXAS INSTRUMENTS社の資料[45]を参考 に行った.図4.5に一般的なトランス・インピーダンス・アンプ回路の例を示す. 20 第 4 章 NIRS 試作機 図 4.5 トランス・インピーダンス・アンプ回路図 図 4.5 の回路は PD から発生した微弱な電流を R2 で電圧に変換して出力する回路である. シミュレーションを行うために PD については PD の等価回路を示している.PD の等価回 路は赤色の鎖線で囲まれた部分のように構成され,定電流源 I1,並列接続される接合容量 (Cj : Junction Capacitance)と並列抵抗(Rsh : Shunt Resistance)によって構成される.端子間容量 (Ct)は接合容量(Cj)とパッケージの浮遊容量の和で表され[46],Ct については S11499 のデー タシートに記載されているが,Cj については記載されていないため,本研究では Cj = Ct =13[pF]と考える.また,Rsh については,10mV 印加時の暗電流(ID)から以下の式でもとめ られる[46]. 𝑅𝑠ℎ =0.01 / 𝐼𝐷 [Ω] (4.1) データシートから𝐼𝐷 = 6.0 × 10−12を代入することにより,𝑅𝑠ℎ = 1667[MΩ] が求まる. トランス・インピーダンス・ゲインは,R2によって決定されるので,入力電流をIin ,そ の時の出力電圧をV0として,以下の式より決定する. 𝑅2 = 𝑉0 𝐼𝑖𝑛 [Ω] (4.2) トランス・インピーダンス・アンプにおいて,負帰還安定性を確保するために C2 は必須 である.この値の決定には,参考文献に示される解析結果を利用する.C2 を求める式を以 下に示す. 21 第 4 章 NIRS 試作機 𝐶 +𝐶 𝑖𝑛 𝐶2 = √2π×𝑄2𝑗×GBW×𝑅 [F] 2 (4.3) Cin は OP アンプの入力容量によって決まる定数である.ここで,Cj>>Cin であれば𝐶1 + 𝐶𝑖𝑛 ≈ 𝐶1とみなすことができる.本研究では,この近似により定数計算を行う.GBW は, 使用する OP アンプの利得帯域幅積であり,AD8067 の場合 GBW = 300[MHz]である. Q は回路の安定性とセトリング特性を決める定数で,臨界制動条件であればQ = 1/√2 と なる.スピードと安定性を両立するために Q はこの値にするが,発振を防ぐためにQ ≤ 1に しなければならない.以上の定数を(式 4.3)に代入することによって C2 の値が求まる. 13×10−12 𝐶2 = √π×300×106 ×1.0×104 ≅ 1.2[pF] (4.4) C2 がこの値よりも大きければ回路は安定であるため,図では C2 = 2[pF]とする. C2 = 2[pF] のとき,Q ≅ 0.42となる. 4.3.2 差動増幅回路 LED光を吸収したPDから得られる信号にノイズがのることは,脳信号情報の計測を不可 能にする.CMRR(Common Mode Rejection Ratio:コモンモード除去比,同窓信号除去比)と は、二つの入力回路をもつ差動増幅器などに共通する同相信号(雑音成分)を除去できる 能力のことである。これにより,雑音信号が発生しても増幅器の出力に現れる同相雑音成 分は極めて小さなものとなる.以下に一般的な差動増幅回路の回路図を示す. 図4.6 差動増幅回路 22 第 4 章 NIRS 試作機 差動増幅回路の出力電圧𝑉𝑂𝑈𝑇 は以下の式で求められる. 𝑉𝑂𝑈𝑇 = 𝑅2 (𝑉 − 𝑉1 )[𝑉] 𝑅1 2 (4.5) 本研究では,差動増幅回路として BURR-BROWN 社の計装オペアンプ INA118 を使用し ている.INA118 は低消費電力、低オフセット電圧,低入力バイアス電流,高い CMRR(110d B at G=1000) という特徴に加えて,3 個のオペアンプを内部に持つことで様々なアプリケー ションに応用することができる.以下に INA118 の内部回路と基本接続図を示す. 図4.7 INA118内部回路図 INA118 のゲイン G は外部抵抗𝑅𝐺 によって決まり,ゲイン G によって周波数-ゲイン特 性,周波数-CMR(dB)特性,出力電圧-Common-Mode Voltage(V)特性が決まる.外部抵抗R G とゲインの関係式と INA118 特性を以下に示す. 𝐺𝑎𝑖𝑛 = 1 + 50 × 103 𝑅𝐺 23 (4.6) 第 4 章 NIRS 試作機 図4.8 INA118特性図 式 4.6 より外部抵抗R G が小さいほどゲイン G が高くなり,図 4.8 よりゲイン G が高いほ ど高周波帯域においてゲインの高い減衰性, CMR 特性の高さといった特徴が分かる. また, 入力コモンモードレンジ-出力電圧特性については,入力コモンモード電圧𝑉𝐼𝐶𝑀 (式 4.7)が ゲインに基づいたレンジ内に納まっていなければ,期待する出力が得られない可能性があ る.NIRS 試作機の外部抵抗𝑅𝐺 = 20Ω である為,ゲイン𝐺 ≅ 2500𝑑𝐵となり,コモンモード 除去比は𝑓𝑐 ≤ 100𝐻𝑧 において𝐶𝑀𝑅 ≅ 110dB が得られる. VICM = 𝑉𝐼𝑁+ + 𝑉𝐼𝑁− 2 (4.7) 4.3.3 Sallen-Key型トポロジー Sallen-Key型フィルタは多様性が高く,回路の簡易性の良さから多く利用されている.使 用例としては高次のローパス・フィルタ,ハイパス・フィルタ,バンドパス・フィルタが あげられる.本研究では2次ローパス・フィルタとして利用している.以下に2次Sallen-Key 型ローパス・フィルタの回路例と理論式示す. 図4.9 Sallen-key型 2次ローパス・フィルタ (𝜔0 )2 𝑉𝑜𝑢𝑡 =𝐾 ∙ 2 [𝑉] 𝑉𝑖𝑛 𝑠 + 2𝛼𝑠 + (𝜔0 )2 24 (4.8) 第 4 章 NIRS 試作機 ここで固有角振動数𝜔0,減衰𝛼,クオリティファクタ𝑄はそれぞれ以下の式で表される. 𝜔0 = 1 √𝑅1 𝑅2 𝐶1 𝐶2 1 ,𝑄 = 𝑅2 × 𝐶2 𝑅 × 𝐶2 𝑅1 𝐶1 (1 √ 1 𝑅1 × 𝐶1 + 𝑅2 × 𝐶1 + − 𝐾)√𝑅2 𝐶2 √ ,2𝛼 = 𝜔0 𝑄 (4.8) ゲイン𝐾については,上記の回路をバッファとして扱う場合は𝐾 = 1,非反転増幅として 扱う場合𝐾 > 1とすることができる.また,1次フィルタの周波数特性は決まっているが,2 次以上の周波数特性はクオリティファクタ𝑄(1⁄𝑄 = 2 𝜉,𝜉:減衰比係数)の伝達関数に応じ て周波数特性が変わるため,使用用途に応じた適切な特性を選択する必要がある.以下に 特性の例を示す. 臨界制振状態・・・減衰係数𝜉 = 1の時の特性.𝜉 < 1の場合オーバーシュートが見られ,応 答は速いが振動低になる.𝜉 > 1の場合は逆に応答は速いが非振動的となる. バターワース特性・・・フィルタの設計や構成が容易な最も一般的なフィルタ特性.通過 域の振幅特性が他のものと比べて平坦に設計できる.周波数-位相特性が平坦でないため, 遮断周波数付近の周波数成分を含むパルス波形を通すと歪む. チェビシェフ特性・・・通過域にリプル(振幅特性のうねり)を持たせることで,遮断周波数 周辺の減衰特性を急峻にしたもの.リプルの大きさは設計で決めることができるが,リプ ルと減衰経度はトレードオフの関係である.減衰傾度を大きく取りたい場合などに使われ, パルス波形を通すと歪む. ベッセル特性・・・振幅特性がバターワース特性に似ているが,過渡応答性を最適化する ように近似されている.減衰特性が低いため,ひずみを取り除く効果はあまり得られない が,通過域の周波数-位相特性が直線的に比例するため,波形を忠実に再現したい場合な どに利用する. 連立チェビシェフ特性・・・通過域と減衰域にリプルを許容することで,減衰傾度を急峻 にしたフィルタ.振幅特性は理想に近いが,回路構成が大きくて設計や調整が多くなるこ とが欠点である.AD コンバータのアンチエイリアシングフィルタなどに使用される. NIRS 試作機は LED のパルス光を頭に投射し,PD が受光したパルス光を増幅・フィルタ 処理を行う.PD が受光した光には Hb 変化の脳情報を含んでいるため,フィルタ回路の位 相特性が非線形であることは,出力波形が歪み脳情報を失う可能性がある.そのため LED 25 第 4 章 NIRS 試作機 のスイッチング周波数 10Hz に対して,カットオフ周波数𝑓𝑐 ≤ 100𝐻𝑧とした.加えて回路構 成をシンプルにすることを考慮し,本研究では臨界特性もつローパス・フィルタを使用す る.NIRS 試作機の Sallen-Key 型 2 次ローパス・フィルタの回路図を以下に示す. 図4.10 Sallen-Key型2次ローパス・フィルタ(臨界特性) 4.3.4 保護回路 保護回路は主にオペアンプや周辺回路に損傷を与えない安全な電圧範囲内に抑える目的 として使用される.NIRS試作機の増幅・フィルタ処理を行うオペアンプ(INA118,OPA277) の供給電圧は±15V.Arduinoのアナログポートに入力できる電圧範囲は0~5Vであるため, 増幅後の信号を直接Arduinoに入力することで過剰電圧によりArduinoが故障する恐れがあ る.そこで保護回路を間に挟むことで,増幅・フィルタ回路の供給電圧±15VをArduinoに対 応する電圧範囲0~5Vに変換を行い,Arduinoの安全稼動を確保する.以下に試作機の保護回 路を示す. 26 第 4 章 NIRS 試作機 図4.11 試作機保護回路 27 第 5 章 タスク計測実験 第5章 タスク計測実験 本章では NIRS 試作機によるタスク計測実験の説明を行う.本研究では BCI を目的とした NIRS 機器の開発を目指している.NIRS-Based BCI において,脳賦活のコントロールが他 の部位と比べてコントロールし易いという理由から,計測部位の対照となるのは一般的に 運動野である.本研究室でも同様に,右・左手タッピング運動による ON・OFF 可能な二択 スイッチ BCI の開発を行ってきた.その為,本研究の NIRS 試作機も運動野での脳賦活計測 が可能である必要がある.しかし,運動野の部分には髪の毛があり計測が容易ではない. そこで,最初に髪の毛がない前頭部を対象としたタスク計測実験を行い,試作機が脳賦活 を計測できるか確認実験を行った.次に運動屋での計測を試みた. 5.1 実験手続き 本実験では 20 代の健常な男性 4 名を被験者とした.被験者は椅子に座り,机上にあるパ ソコンのキーボード上に両手を置いた状態で実験を行った.タスク実行期間はタイプによ る数値の入力,レスト中は視覚情報統制のために注視点を見るよう教示を行った. 運動課題は前頭部が賦活されるといわれている 100 マス計算を課題として選択し,タス ク実行期間中にパソコン画面に表示された課題をできるだけ早く正確に解くことで最大努 力条件のもと実験を行った. 図 5.1 100 マス計算(タスク)[47] 図 5.2 に 1 試行の時間構成を示す.1 試行は前レスト 10[s],運動課題 20[s],後レスト 10[s] から構成される合 40[s](図 5.2)とした.レストとは,被験者が運動課題を行っていない安静 状態のことである. 28 第 5 章 タスク計測実験 図 5.2 1 試行の時間構成と実験シーケンス 5.2 測定位置 測定位置については国際 10-20 法に基づき決定した.測定領域は前頭部とし,測定位置 は図 2.5 より正中前頭部(Midline Frontal),電極記号 Fz とした. 先行研究より,照射受光間距離は 20mm から 70mm の距離で酸素濃度変化を検出できたとい う報告がある[48-49].そこで,本研究では照射受光間距離を 25mm の簡易プローブホルダの製 作を行った(図 5.3).ETG-7100 のプローブホルダと同様,LED と PD のプローブが皮膚に密 着しないよう隙間をつくった.図 6 が簡易プローブホルダ装着時の図であり,プローブを着け た際,LED と PD のプローブと皮膚の距離は約 3mm であり,LED のパワーは約 60mW である. 図 5.3 簡易プローブ装着図 5.3 脳賦活による NIRS 信号の傾向 一般的な CW 計測の NIRS 機器は,脳賦活に起因する血液の光素子の吸収量変化により Oxy-Hb と Deoxy-Hb の相対濃度変化を求めている.図 5.2 のような時間構成で運動課題を 行った場合の一般的な NIRS 出力波形の例を以下に示す. 29 第 5 章 タスク計測実験 図 5.4 脳賦活時の Oxy-Hb と Deoxy-Hb の推移 図 5.4 の 10-30[s]はタスク実行期間を示している.NIRS 信号は課題開始とともに Oxy-Hb 濃度変化量が増加,Deoxy-Hb 濃度変化量が減少する.そして,実行期間中は一定の状態を 保ち課題終了とともに Oxy-Hb 濃度変化量は減少,Deoxy-Hb 濃度変化量が増加することで 元の状態へともどる.NIRS-Based BCI では課題の開始と終了の相対濃度変化量を利用する ことでスイッチングの ON/OFF などの BCI に利用することが可能となる. 一方,本研究の NIRS 試作機を使ったタスク計測実験では脳賦活を電圧値変化として捉え ることとする.Oxy-Hb と Deoxy-Hb の濃度変化量は MBL 則により求められ,照射部が出力 した光素子量と受光部が吸収した光素子量の変化量を基としているため,脳賦活を電圧値 の変化として観察することが可能である.NIRS 試作機は受光部の増幅・フィルタ処理後に Arduino により AD 変換を行う.Arduino の AD コンバータは 10 ビットであるため,入力電 圧 0~5[V]を 0~1023 の数値に変換する.本研究では,その値を 0~500 の値に変換し,時間[s] -電圧[× 10−2 V] のグラフを出力することとする. 5.4 タスク計測実験結果(前頭葉) 各被験者の原信号(電圧値)の 2 試行分平均値を以下に示す. 30 第 5 章 タスク計測実験 図 5.5 被験者毎のタスク計測実験結果 表 5.1 被験者による平均値の推移 (電圧[× 10−2 𝑉]) 前レスト タスク実行期間 後レスト SUB1 371 308 337 SUB2 264 248 233 SUB3 306 272 287 SUB4 383 374 427 図 5.5 の 10-30[s]はタスク実行期間を示している.被験者によって程度は異なるが,タス ク期間中に出力波形の変化がみられる.全被験者において,タスク開始後に出力電圧値の 低下,タスク終了後に出力電圧の上昇する規則性がみられるため,本研究の試作機は脳賦 活を計測可能であると考えられる.図 3.8 の生体の窓より,波長 872nm での酸素化ヘモグ ロビンの分子吸光係数の値から,脳賦活がおこり血液中の Oxy-Hb 濃度が高くなると,電 圧は低下すると考えられる.表 1 より SUB2 を除いてタスク実行期間中のベースラインが レスト中のベースラインよりも低くなっていることが確認できる.また,全体のベースラ インが被験者によって異なるのは,図 3.2 に示される頭蓋骨など脳内部組織密度が個体によ って異なるため,光の透過率が被験者によって異なることが考えられる. ここで,上記の計測波形を BCI へと応用すること考える.日立製 NIRS 機器 ETG-7100 の計測出力波形(Oxy-Hb, Deoxy-Hb)と同様に,課題の開始と終了とともに NIRS 試作機の 出力波形(出力電圧)に変化が見られことが望ましい.同様な傾向が確認できれば,NIRS 試 作機を BCI へと応用できる可能性を示す.しかし,課題起因の電圧変化以外の信号(周期的 な波など)は課題の開始と終了の推定を困難とする.全被験者の結果に含まれる周期的な波 31 第 5 章 タスク計測実験 の原因として,太陽光や蛍光灯などの外的要因,もしくはタスクによる脳活動以外に起因 する脳信号の 2 つが考えられる. まず,外的要因について.NIRS 試作機のプローブホルダとプローブは,構造上 ETG-7100 のような適切な遮光が行えていない.そのため PD には,LED 光以外の蛍光灯などの光も 同時に吸収している可能性がある.確認を行うため,吸収した光に脳信号が含まないよう ファントム(人頭模擬)を用いて,蛍光灯などの外部影響がある場合とファントムをダンボー ルで覆い外乱を遮った場合の 2 通りでの計測を行った(図 5.6). 図 5.6 ファントム遮光実験 図 5.6 より,プローブとプローブホルダを覆い外乱を遮断した場合の方が,周期的な波の 振幅が低減できていることが分かる.遮光しない場合の振幅が𝑉𝑝𝑝 ≅ 40[× 10−2 𝑉] に対して, 遮光の場合の振幅は𝑉𝑝𝑝 ≅ 10[× 10−2𝑉]であり,周期 T ≅ 10[s]である.図 5.5 の被験者に見 られる周期的な波も同様にT ≅ 10[s]であることから,蛍光灯などの外乱が影響していると 考えることができる.今後プローブとプローブホルダの改善を行い,適切に遮光を行うこ とを考えている. 次に,タスクによって引き起こされる脳活動以外の反応について.NIRS 計測において 1Hz 以下の周波数帯域には, BCI で必要となる脳活動に対する血行動態変化だけではなく, 呼吸などの生理的要素から成る信号も同様に含み,それらは BCI の分類性能に影響を及ぼ す[12].生理的な信号は,高周波数(Hi Frequency: HF)と低周波数(Low Frequency: LF)に わけることができ,HF は心拍(~1Hz)や呼吸の(~0.3Hz)などが当てはまり,LF は Mayer Waves(≅0.1Hz)と呼ばれる血圧変化を信号源とする変動波と以下のような特徴を持つ 0.05Hz 以下の変動波が当てはまる[65]. 32 第 5 章 タスク計測実験 1. 決まった周期を持たない 2. 変化の方向性は一定ではない 3. 血圧,心拍,呼吸などの生理学的パラメータとの相関が認められない 4. 計測部位によっては非同期性である 5. 極低出体重児にも認められる 6. 脳賦活に伴う NIRS 信号変化と同程度あるいはそれ以上の振幅を示すことがある また,交感神経と副交感神経の緊張状態のバランスによって,心拍変動への HF と LF 変 動波それぞれの大きさが変わるといった特長もあげられる.これらの生理的信号は脳活動 に関わる信号との周波数帯域が非常に近く,フィルタ回路によって適切に取り除くことは 不可能であるため,市販されている NIRS 機器の信号にも同様な成分が含まれている.網 島らによる研究[65]では,近赤外光イメージング装置 OMM-3000(島津製作所)を用いてタス ク中の脳活動を計測し,ウェーブレット変換を行うことで,脳活動に関連する信号,計測 ノイズ,Mayer 成分,呼吸成分などに分類することに成功している.今後は実験を重ねる ことで,外乱と脳信号が試作機を用いた NIRS-Based BCI に与える影響度合いを調査する ことを考えている. 5.5 運動野計測の試み 一時運動野の位置は国際10-20法(図2.5)より,中心の左右であるC3,C4である.C3,C4 の位置は髪の毛の影響により,前頭部よりも計測が困難になることが考えられる. 図5.7 運動野プローブ装着図 髪の毛があることで,LEDとPDそれぞれと皮膚間の距離の増大,髪の毛に含まれるメラ ニン物質による光吸収の2つが考えられる.また計測の際,プローブをプローブホルダにセ ットする前に,光を効率よく皮膚に照射するために,麺棒などで髪の毛を掻き分けること ができるが,髪の毛による光の吸収をゼロにすることは不可能である.これらの原因によ 33 第 5 章 タスク計測実験 り,PDが吸収できる光素子の量は減ることが考えられるため,前頭部の受講部回路を変更 し増幅率を上げることとした.変更後の回路図を以下に示す. 図5.8 運動野用受光部回路 回路全体のゲインはG ≅ 9000dB,通過周波数は1.0−3 ≤ 𝑓 ≤ 1.02𝐻𝑧である.回路のゲイン は前頭部と比較して2倍ほどあるが,プローブホルダを装着し,頭皮に向けてLED光の投射 を行っても,PDがLED光を吸収することが確かめられなかったため,運動野タスク実験を 行うことを中止した. PDがLED光を吸収できなかった原因として,試作機のプローブ構造がPDの光吸収を効 率よく行うための措置が行われていないためであると考える.ETG7100のプローブ構造を 以下に示す. 図 5.9 ETG-7100 のプローブ 図 5.9 のプローブ先端は光ファイバを内蔵することにより,光を効率よく吸収することを 可能にしている.また,先端が細い事で髪の毛の影響を低減し,測定部位に関わらず頭皮 34 第 5 章 タスク計測実験 表面からプローブまでの距離を一定に保つことも可能としていことが挙げられる.本研究 の NIRS 試作機のプローブホルダとプローブは簡易的な物であり,装着としての機能しかも たないため,光を正確に効率よく照射・吸収することはできない.運動野計測については プローブとプローブホルダの改善を行った後,計測実験を行うことを考えている. 35 第 6 章 NIRS 試作機 BIC への応用(試み) 第 6 章 BCI 応用への試み 第 6 章では,前章で説明した前頭部測定実験から得られたデータを BCI へ応用すること を試みる.本研究室では右・左手タッピングによる ON/OFF 可能な 2 択スイッチ型 BCI の 開発を行った.手指運動などによる,運動野賦活を利用した BCI は,前頭部などの他脳部 位と比較して賦活のコントロールが容易といった点が挙げられる.そのため NIRS-Based BCI の研究においては運動野が測定領域とされることが多い.しかし,先行研究において運 動野以外の部位での BCI の成功例もいくつかみられる[60-64].そこで,本研究では前頭部 を計測領域とした NIRS-Based BCI の開発を試みることにより,本研究の NIRS 試作機を用 いた BCI への適応の可能性を示すこととする.一般的に,脳の神経活動時に起きる神経血 管カップリング効果は脳の全ての部位で起きるため,運動野についてもタスク時の賦活は 前頭部と同様な傾向がみられると考えることができる.そのため,本研究の NIRS 試作機が 前頭部で適応可能であることは,試作機を用いた BCI への応用の可能性を示すと考えられ る. 6.1 解析方法 図 5.5 ではタスク計測実験から得られた原信号の 2 試行加算平均均値を示した.第 5.4 節 でも述べたように,実験で使用したプローブとプローブホルダの原因だけでなく,個体間 で内部組織の厚みや吸光係数の違いにより,出力電圧のベースラインは異なる.そこで, NIRS 信号の傾向をとらえるために,10 点の移動平均,運動開始前までの平均値によるベー スライン補正を行った後の波形を以下に示す. 図 6.1 処理後の NIRS 信号 36 第 6 章 NIRS 試作機 BIC への応用(試み) 移動平均によりノイズが低減され,ベースライン補正により被験者間のタスク開始時の ベースをそろえることができる.上図の波形より,電圧値の増減から“タスク開始”, “タ スク終了” , “状態継続中”を推定し, “タスク開始”なら ON, “タスク終了”なら OFF, “状 態継続中” なら前の出力を維持とすることで ON/OFF 制御 BCI に応用できると考えられる. 各被験者間の電圧値の増減を捉えるために,最小二乗法(式 6.1)を用いて,1 秒分の窓データ を 1 サンプリングずつ移動させながら算出した(図 6.2) N j 1 aj kyk k j N j 1 (k ) 2 N j 1 N j 1 k y k j k j N j 1 ( k j k) k (6.1) 2 k j 図 6.2 被験者毎の電圧変化量 式 6.1 から得られた電圧の微分値を基に,“運動開始”, “運動終了”, “状態継続中”を推 定する BCI システムを構築する.本研究のようなスイッチ型 BCI では,脳機能計測により 得られた複雑な信号を機械学習により分類し,被験者の思考の推定をするのが一般的であ る[6] [12].図 6.2 より,課題の開始と終了の電圧値変化量を特徴量とする ON/OFF 型 BCI が可能であることが考えられる.5 章のタスク実験結果でも述べたように,被験者毎に脳賦 活による電圧値変化量が異なるため,岡坂らの研究[10]と同様に個体毎の脳賦活量(特徴量) に合わせた NIRS-Based BCI システムを開発することが適切であると考えられる. 37 第 6 章 NIRS 試作機 BIC への応用(試み) 6.2 反復計測実験 5 章のタスク実験では,1 試行当たり 40 秒間の測定を行い,脳賦活と連動した電圧変化 量の観察を行ってきた.しかし,日常生活において NIRS 試作機を BCI として使用すること を考えると,より長い時間での計測が必要となってくる.そこで,計測時間を 5 試行分(200 秒)に変更し,他については 5 章の同条件の元,タスク計測実験を行った.以下に被験者 1 名の 10 点移動平均,ベースライン補正を施した後のデータと最小 2 乗法により求めた電圧 値変化量を示す(図 6.3). 図 6.3 5 試行反復計測 上図より,タスクの開始と終了が電圧変化と連動しているタイミングは数箇所あるが, 反応に遅延がある,変化量が各タスクの開始・終了によって異なる,レスト中に変化量が 増加する部分があるなどシステムの誤推定となりかねない点が少なからずある.そのため, 試作機のハード面の修正を行った後,再度実験を重ねることを考えている. 6.3 2 プローブ計測実験 前節では長時間計測を目的とした反復計測の結果を示したが,誤推定になりかねない部 分がいくつかあった.また,一般的に NIRS システムの誤推定となる原因として,脳信号以 外の生理的信号があげられる.そのため,BCI の使用目的が車椅子のコントロールなど安全 性を必要とする場合は,システムの高い識別精度を得るために複数のプローブを用いて計 測することが良いと考えられる.そこで,前頭部計測のための受光回路(図 4.4)にアナログ スイッチ(ADG419:Analog Devices)を加え,タイミング切り替えにより増幅・フィルタ回路 の共通化を行った.回路図を以下に示す. 38 第 6 章 NIRS 試作機 BIC への応用(試み) 図 6.4 2 プローブ計測用受光回路 増幅・フィルタ回路を共通化することで,消費電力削減と機器の縮小化を行うことがで きる.測定位置を国際 10-20 法の前頭右(F4)を Probe1,前頭極左(Fp1)を Probe2 とし,他に ついては 5 章の同条件の元計測実験を行った.以下に被験者 1 名の 10 点移動平均,ベース ライン補正を施した後のデータと最小 2 乗法により求めた電圧値変化量を示す. 39 第 6 章 NIRS 試作機 BIC への応用(試み) 図 6.5 2 プローブ計測結果(上)10 点移動平均&ベースライン補正(下)電圧変化量 図 6.5 より両プローブともタスク開始後に電圧値の減少,タスク終了後に電圧値が上昇す るという傾向がみて分かる.また,測定位置によってタスクの開始と終了の電圧変化量が 異なることが分かる.Probe1 の変化量が Probe2 より大きい理由として,F4 の解剖学的部位 が運動野に位置し,一時運動野と近接しているためであると考えられる.今回のタスク実 験では 100 マス計算を解く際,タイプによる解答を行っていたため,一時運動野周辺が賦 活していたことが考えられる.プローブ数については BCI の使用用途に応じて,システム の識別精度を保ちつつ,個体に合わせた NIRS-Based BCI を設計することが適切であると考 える. 40 第 7 章 終章 第7章 終章 本研究は,NIRS のメリットである“扱いやすさ”に注目し,BCI に適した NIRS 機器の 開発を研究目標としている.本稿では,その基礎的検討して NIRS 試作機の開発,タスク計 測実験,試作機の計測データの BCI 応用への検討について述べた. 前頭部を対象としたタスク実験の結果より,実行期間中において全被験者の電圧値変化 に同様な傾向がみられたため,NIRS 試作機はタスクによる脳賦活を捉えられていることが 考えられる.また原信号の加工データより,課題の開始と終了の電圧値変化量を特徴量と する ON/OFF 型 BCI の可能性も示すことができた.このことは,単波長のみを使用した NIRS-Based BCI の可能性を示している.一般的な NIRS 機器は生体の窓の波長領域から,2 もしくは 3 波長使用し,光拡散理論式に基づいた MBL 則を解くことにより,Oxy-Hb と Deoxy-Hb の相対濃度変化量を求めている.そして,それらの脳賦活時の変化量を特徴量とした 機械学習を行い,識別器によって脳賦活のありなし推定を行うのが NIRS-based BCI のセオリ ーとなっている.しかし,本稿で得られた実験結果は単波長 NIRS-Based BCI の可能性を示 している.このことはシステムの簡素化,低コスト化,消費電力低減などが図れ,NIRS のメ リットである“扱いやすさ”が一段と増す事が考えられる. しかし,本稿の NIRS 試作機はハードウェア面で改善が必要である.試作機の回路は全てブ レッドボード上で回路を組み計測実験を行った.理由として,本研究は手指運動でコント ロール可能な NIRS-Based BCI を目標とし,様々なパターン(照射受光間距離,皮膚から PD と LED までの距離,計測位置, 増幅器,フィルタなど)での実験を行っていたため,回路の 変更が容易である必要があったからである.ブレッドボードのデメリットとして,①接触 抵抗がある,②物理的に安定しない,③電流量に制限があるなどがあげられ,本稿の実験 では少なくとも①②の問題が計測環境に影響を与えている可能性が考えられる.加えて, 本稿での実験で使用していたプローブとプローブホルダも簡易的なものであり,遮光が不 十分であるといった問題もあるため,ハードウェア面での改良を行った後,再度タスク計 測実験を行い,本研究の NIRS 試作機の BCI への応用を試みることとする. 41 謝辞 謝辞 本研究の遂行にあたり,多忙にも関わらず親切な御指導,御助言を賜りました高知工科 大学電子・光システム工学科星野孝総准教授に厚く御礼を申し上げます. また,本研究に関してご助言してくださいました高知工科大学電子・光システム工学科 岩下克教授,小林弘和準教授に対し深く感謝いたします. ひいては,研究活動全般において御協力,御指導して下さいました Soft Intelligent SoC 研究室の諸先輩方,同輩諸氏に心より感謝の意を表します. 最後になりましたが,本研究活動を温かく見守ってくれた両親,家族一同に深く感謝い たします. 42 参考文献 参考文献 [1] 櫻井 芳雄,八木 透,小池 康晴,鈴木 隆文.ブレイン-マシン・インタフェース最前 線,工業調査会,2007. [2] 高橋聖. “脳型情報処理を用いたヒューマンインターフェースの実現に関する研究” ,日 本大学理学部学術講演会論文集,平成 22 年度,S4-22,pp.57-60 [3] 岸悟志,奥村允,山中優希,永野洋平,長野明紀. “RI‐MAN の動作制御を行う NIRS を用いた BRI システムの構築” ,第 26 回日本ロボット学会学術講演会,ROMBUNNO.3L3-04 [4] Dandan Huang,Peter Lin, Ding-Yu Fei, Xuedong Chen and Ou Bai,” Decoding human motor activity from EEG single trials for a discrete two-dimensional cursor control”, Journal of Neural Engineering,Volume 6, Number 4 [5] Chambayil, B,Singla, R, “Virtual keyboard BCI using Eye blinks in EEG”, Wireless and Mobile Computing, Networking and Communications (WiMob),11-13 Oct. 2010, p466-470 [6] Yuanqing Li∗, Jinyi Long et al, “An EEG-Based BCI System for 2-D Cursor Control by Combining Mu/Beta Rhythm and P300 Potential”, IEEE TRANSACTIONS ON BIOMEDICAL ENGINEERING, VOL. 57, NO. 10, OCTOBER 2010 [7] 加納 慎一郎.”Brain-Computer Interface (BCI) におけるバイオフィードバック”,バイオ フィードバック研究,2009,38 巻,第 2 号,pp.27-33 [8] Coyle S, Ward T, Markham C et al, “On the suitability of near-infrared (NIR) systems for next-generation brain-computer interfaces”, Physiol Meas 2004, 25:815-922 [9] Sitaram R, Hoshi Y, Guan C, “Near infrared spectroscopy based brain-computer interface”, In Proc. SPIE 5852, Third International Conference on Experimental Mechanics and Third Conference of the Asian Committee on Experimental Mechanics 434: June03, 2005 [10] 岡坂 翔, 星野 孝総, “NIRS-Based BCI における状態推定手法の提案”, 高知工科大 学 特別研究報告, 2013. [11] Beisteiner R, Hollinger P, Lindinger G, Lang W, Berthoz A: Mental representations of movements. Brain potentials associated with imagination of hand movements, Electroencephalogr Clin Neurophysiol, 96(2), 183-93(1995 Mar) [12] Raphael Zimmermann, Laura Marchal-Crespo et al, “Detection of motor execution using a hybrid fNIRS-biosignal BCI: a feasibility study”, Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation 2013, 10:4 [13] Sawan, M., Salam, M.T., Le Lan, J., Kassab, A., more authors.: Wireless Recording System: From Noninvasive EEG-NIRS to Invasive EEG Devices. In: IEEE TRANSACTIONS ON BIOMEDICAL CIRCUITS AND SYSTEMS, VOL.7, NO.2, APRIL 2013 [14] セルシネ・エイム ホームページ. 43 参考文献 ”http://www.selsyne.com/aim/products/nowhadas/index.htm” 2011/02/03 [15] 廣安 知之,三木 光範,横内 久猛,田辺 竜也. “光トポグラフィ(NIRS)の基礎” http://www.is.doshisha.ac.jp/isreport/entry/1462 [16] Internatinal Commission on Illumination(1987) International Lightning Vocabulary. CIE 17.4. [17] Eiji OKADA, David T. Delpy, “Near-infrared light propagation in an ault head model. II. Effect of superficial tissue thickness on the sensitivity of the near-infrared spectroscopy signal”, Appl Opt. 2003 Jun 1;42(16):2915-22. [18] ICNIRP GUIDELINES, “ON LIMITS OF EXPOSURE TO INCOHERENT VISIBLE AND INFRARED RADIATION”, HEALTH PHYSICS 105(1):74-96;2013 [19] International Electrotechnical Commission, “Photobiological safety of lamps and lamp systems”, IEC 62471:2006/CIE S 009/ E:2002 [20] International Electrotechnical Commission, “Safety of laser products- Part 1: Equipment classification and requirement”, IEC 60825-1:2007 [21] Nikolaos Kourkoumelis at al, “Eye Safety Related to Near Infrared Radiation Exposure to Biometric Devices”, TheScientificWorldJOURNAL(2011)11,520-528 [22] Christopher J Soraghan, Tomas E Ward, Fianchra Matthews, Charles Markham, “Optical Safety Assessment of a Near-Infrared Brain-Computer Interface”, ISSC 2008,Galway,June 18-19 [23] Jöbsis FF: Noninvasive, infrared monitoring of cerebral and myocardial oxygen suffi ciency and circulatory parameters. Science, 1977, 198: 1264–1267. [24] Hazeki O, Tamura M: Quantitative analysis of hemoglobin oxygenation state of rat brain in situ by near-infrared spectrophotometry. J Appl Physiol, 1988, 64: 796–802. [25] Wray S, Cope M, Delpy DT et al: Characterization of the near infrared absorption spectra of cytochrome aa3 and haemoglobin for a non-invasive monitoring of cerebral oxygenation. Biochim Biophys Acta, 1988, 933: 184–192. [26] Matcher SJ, Elwell CE, Cooper CE et al: Performance comparison of several published tissue near-infrared spectroscopy algorithms. Anal Biochem, 1995, 227: 54–68. [27] Wolf M, Ferrari M, Quaresima V: Progress of near-infrared spectroscopy and topography for brain and muscle clinical applications. J Biomed Opt, 2007, 12: 062104. [28] Hoshi Y, Tamura M: Dynamic multichannel near-infrared optical imaging of human brain activity. J Appl Physiol, 1993, 75: 1842–1846. [29] Chance B, Zhuang Z, UnAh C et al: Cognition-activated low-frequency modulation of light absorption in human brain. Proc Natl Acad Sci U S A, 1993, 90: 3770–3774. [30] Kato T, Kamei A, Takashima S et al: Human visual cortical function during photic stimulation monitoring by means of near-infrared spectroscopy. J Cereb Blood Flow Metab, 1993, 13: 516–520. [31] Villringer A, Planck J, Hock C et al: Near infrared spectroscopy (NIRS): a new tool to study hemodynamic changes during activation of brain function in human adults. Neurosci Lett, 1993, 44 参考文献 154: 101–104. [32] Hoshi Y, Oda I, Wada Y et al: Visuospatial imagery is a fruitful strategy for the digit span backward task: a study with near-infrared optical tomography. Brain Res Cogn Brain Res, 2000, 9: 339–342. [33] Maki A, Yamashita Y, Watanabe E et al: Visualizing human motor activity by using non-invasive optical topography. Front Med Biol Eng, 1996, 7: 285–297. [34] Benaron DA, Stevenson DK(1993), “Optical time-of-flight and absorbance imaging of biologic media”, Science 259:1463-1466. [35] Chance B, Leigh JS, Miyake H, et al (1998), “Comparison of time-resolved and –unresolved measurements of deoxyhemoglobin in brain”, Proc Natl Acad Sci USA 85:4971-4975 [36] Hebden JC, Arridge SR, Delpy DT (1997), “Optical Imaging in medicine”, I. Experimental techniques. Physics Med Biol 42:825-840 [37] Franceschini MA, Toronov V, Filiaci ME, Gratton E, Fantini S (2000), “On-line optical imaging of the human brain with 160-ms temporal resolution”, Optics Express 6:49-57 [38] Jiang H, Paulsen KD, Osterberg UL, Pogue BW, Patterson MS (1995), “Simultaneous reconstruction of optical absorption and scattering maps in turbid media from near-infrared frequency-domain data”, Opt Lett 20:2128-2130 [39] Pogue BW, Patterson MS (1994), “Frequency-domain optical absorption spectroscopy of finite tissue volumes using diffusion-theory”, Optics Express 4:270-286 [40] Nioka S, Luo Q, Chance B(1997), “Human brain functional imaging with reflectance CWS”, Adv Exp Med Biol 428:237-242 [41] Siegel AM, Marota JJA, Boas DA (1999), “Design and evaluation of a continuous-wave diffuse optical tomography system”, Optics Express 4:287-298 [42] Shiga T, Yamamoto K et al, “Study of an algorithm based on model experiments and diffusion theory for a portable tissue oximeter”, Journal of Biomedical Optics, 1997, 2(2):154-161 [43] Gary Strangman, David A. Boas et al, “Non-Invasive Neuroimaging Using Near-Infrared Light”, Biol Psychiatry, 2002 Oct 1:52(7):679-93 [44] F. Chenier, M. Sawan, “A New Brain Imaging device based on fNIRS”, Biomedical Circuits and System Conference, 27-30 Nov.2007 [45] TEXAS INSTRUMENTS,”トランス・インピーダンス・アンプ設計の基礎” [46] 浜松ホトニクス,”光半導体素子ハンドブック第02章Siフォトダイオード” [47] 怪盗ねこぴー100マスもんだい,http://www.nekopy.com/studys/masu100/index.html [48] Liu, R., Liu, X., Scopesi, F., Serra, G., Sun, J.W., Rolfe, P.: Spatial Sensitivity of NIRS Tissue Oxygenation Measurement using a Simplified Instrument. In: 7 th Asian-Pacific Conference on Medical and Biological Engineering IFMBE Proceedings Volume 19, 2008, pp 377-380. [49] Shirley Coyle ea al, “A Mechanical Mounting System for Functional Near-Infrared Spectroscopy 45 参考文献 Brain Imaging Studies”, Opto IrelandOpto Ireland, 10.1117/12.604823 [60] Power SD, Falk TH, Chau T, “Classification of prefrontal activity due to mental arithmetic and music imagery using hidden Markov models and frequency domain near-infrared spectroscopy”, J Neural Eng 2010, 7:026002 [61] Bauernfeind G et al, “Development set up and first results for a one-channel near-infrared spectroscopy system”, Biomed Eng 2008m 53:36-43 [62] Falk T et al, “Talking NRS-BCIs outside the lab: towards achieving robustness against environment noise”, Neaural Sys t Rehabil ENg, IEEE Trans on 2011, 19:136-146 [63] Luu S, Chau T, “Decoding subjective preference from single-trial near-infrared spectroscopy signals”, J Neural Eng 2009, 6:016003 [64] Tai K, Chau T, “Single-trial classification of NIRS signals during emotional induction tasks: towards a corporeal machine interface”, Neuroeng Rehabil 2009, 6:39 [65] 星詳子 (2012) NIRS 信号のゆらぎ解析 出版社 1 : 82-85 46 NIRS-基礎と臨床-酒谷薫監修 新興医学