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補修後10年経過した鉄筋コンクリート造建築物の調査報告 (PDF:254KB)
日本建築学会大会学術講演梗概集 (北海道) 2004年 8 月 1073 補修後10年経過した鉄筋コンクリート造建築物の調査報告 正会員 正会員 鉄筋コンクリート 中性化 補修 鉄筋腐食 ○長井 義徳* 松林 裕二*** 正会員 斉藤 仁** 調査 接着強さ 1.はじめに で鉄筋位置を推定し、その近傍の断面修復部にコンクリート 鉄筋コンクリート造建築物は、耐久性、耐震性の優れた経 に達するまでのφ45mm コアで切込みを入れ、建研式接着力 済的な構造物として,戦後より多くが建設されている。これ 試験機で断面修復材とコンクリートとの接着強さを測定した。 らを適切に維持管理し、供用期間中の耐久性能を良好な状態 ③躯体コンクリートの中性化深さ測定:②と同様に、表面か に保つことが近年では特に重要視され要求されている。一方、 ら躯体コンクリート部及び断面修復部のφ45mm コアを採取 この性能保持のため、補修材料・工法に関する多くの研究が し、1%フェノールフタレインアルコール溶液を直ちに噴霧 実施され、実用化されているものの、実験的な暴露以外に実 して中性化深さを測定した。 構造物へ適用した後の耐久性についての調査は多くはない。 ④鉄筋腐食状況の観察:断面修復部,境界部及び無補修部の 本報告は、中性化及びかぶり不足が主劣化要因となり、鉄 筋腐食した鉄筋コンクリート造建築物に対して、躯体補修を かぶりコンクリートをはつり取り、鉄筋の腐食状況を目視観 察した。なお、鉄筋腐食状況は表2に示すグレードで表した。 行った後、10 年を経過した時点で、微破壊を含む調査を行っ た内容について報告する。 2.建物の概要 ①建物種類:陸上競技場 位置B(ゲート上裏部) ②所在地:大分県大分市 ③構造:鉄筋コンクリート造地上 4 階建(メインスタンド)他 位置C(バックスタンド壁) ④竣工: 1965 年(補修:1993 年,本調査:2003 年) ⑤鉄筋腐食補修工法の概要:表1に示す。 位置A(階段裏上部) 表1.鉄筋腐食補修工法の概要 工 程 補修材料 劣化部はつり - 清掃 - 図1.建物概要と調査箇所 下地処理 表面強化とアルカリ性の付与材 露出鉄筋防錆 防錆剤混入 SBR 系ポリマーセメントペースト 断面修復 防錆剤混入 SBR 系ポリマーセメントモルタル グレード 下地調整 防錆剤混入 SBR 系ポリマーセメントペースト Ⅰ 全く錆なし 仕上げ (a)変性ポリエステル樹脂,(b)吹付タイル Ⅱ 点錆はあるが、断面欠損なし 注)ひび割れ部は樹脂注入 Ⅲ 面錆はあるが、断面欠損なし 3.調査の概要 Ⅳ 部分的に小さな断面欠損あり Ⅴ 大きく断面欠損しているか,全体的な断面欠損 表2.鉄筋腐食グレード 建物の概要及び調査箇所を図1に示す。 鉄筋腐食状況 調査項目は、①外観目視調査、②接着強さ試験、③躯体コ ンクリートの中性化深さ測定及び④鉄筋腐食調査である。な 4.調査結果及び考察 お、調査は、供用中支障のない代表的な 2 箇所(位置A:仕 ①外観目視観察結果: 上げ(a)及び位置B:同(b))を定めて実施し、参考のために未 補修箇所は、鉄筋腐食によるかぶりコンクリートの欠損や 補修部(仕上げも無)を 1 箇所(位置C)選定して②(この ひび割れを含めて数百箇所以上であったが、本観察では、補 場合は引張強さとなる)及び③の測定を行った。 修部の 0.2mm 以上のひび割れは 4 箇所、無補修部分の新規 ①外観目視観察:建物全外壁を目視及び高性能カメラ等を用 ひび割れは 10 箇所であり、補修 10 年経過した劣化状況とし いて観察した。なお、手の届く範囲は打音検査を実施した。 ては、著しく少ない状況であるといえよう。また、一般的に、 ②断面修復材の接着強さ試験:補修時の資料及び鉄筋探査機 断面修復材料の熱膨張や収縮、その他の材料特性などに Inspection of reinforced concrete building which was repaired 10 years ago. ̶171̶ NAGAI Yoshinori, SAITO Hitoshi, MATSUBAYASHI Yuji 無補修 境界部 写真1.接着強さ試験状況 写真2.中性化深さ測定状況 断面修復部 写真3.鉄筋腐食観察状況 30 3.0 中性化深さ(mm) 接着強さ(N/mm2) ③躯体コンクリートの中性化深さ 2.0 1.0 測定状況及び各箇所の中性化測定 結果を写真2及び図3に示す。断 10 × 0 0.0 位置A 位置B 測定結果: 20 位置C 断面修復部 無補修部 図2.断面修復材の接着強さ 表3.鉄筋腐食状況の観察結果 位置 記号/鉄筋径/被り 部位 断面修復部 a/9mm/5mm 境界部 A 無補修部 b/9mm/7mm 断面修復部 c/9mm/5mm 断面修復部 断面修復部 断面修復部 a/16mm/24mm 境界部 無補修部 断面修復部 B 断面修復部 b/16mm/21mm 境界部 無補修部 断面修復部 c/16mm/20mm 無補修部 × × 位置A △△ 位置B 位置C 断面修復部 位置A 無補修部 図3.中性化深さ グレード Ⅱ Ⅲ Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅲ Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅲ Ⅱ Ⅱ Ⅱ 面修復部の中性化深さを見ると、 位置A及び位置Bともにその値は 0mm である。これは、仕上げ材が 施されていることに加えて、中性 化進行に対する抑制効果が高いポ リマーセメンペースト及びポリマ ーセメントモルタルを用いて補修 したためである。一方、コンクリート部を見ると、補修や仕 上げを行っていない位置Cの中性化深さの平均値は 16.7mm であり、補修を行わずに仕上げのみとした位置Aでは一部を 除いて 6mm 程度である。竣工後 38 年経過していることか ら躯体コンクリートの中性化速度係数を算出すると、その値 は 2.7(mm・d(-0.5))であり、この係数から補修時の中性化深さ を算出すると 14mm であると推定される。なお、仕上げ材料 の中性化抑制効果は不明であり、データのばらつきは大きい ことなどから、詳細な解析は困難であるが、適用された補修 工法による中性化抑制効果は、長期に渡って継続して発揮さ れていると言えよう。 ④鉄筋腐食状況の観察結果: 鉄筋腐食状況及び観察結果を写真3及び表3に示す。位置 A及び位置Bともに断面修復部の鉄筋腐食は著しく少ない。 また、断面修復部とはつりを行わなかった周囲も同様であり、 よっては、断面修復部と躯体との間に亀裂などが生じて再劣 化する場合があると言われるが、そのような再劣化は、調査 その境界部はわずかながら鉄筋腐食がある。これは、マクロ セルによるものとも考えられるが、経年による劣化進行状況 時には確認されなかった。 としてはさほど著しいものではなく、鉄筋腐食によるかぶり ②接着強さ試験結果: コンクリートのひび割れや剥落などに至る状況も確認されな 試験状況及び各箇所の接着強さを写真1及び図2に示す。 位置A及び位置Bの断面修復材料の接着強さは一部を除いて 1.5~2N/mm2 程度であり、補修 10 年経過後でも下地コンク リ ー トと 一体 化し てい る。一方 、無 補修 部C の平 均値 は 0.7N/mm2 程度と低い。これは、補修部では下地処理として 浸透性固化性能を有するアルカリ性付与材を用いていること かった。 5.まとめ 補修 10 年後の本調査結果は以下のように纏められる。 ①外観目視観察、中性化深さ測定及び鉄筋腐食観察から概ね 再劣化は見られない。 ②断面修復材の接着強さは維持されている。 から、補修部のコンクリート脆弱部が改善され、補修材料と <謝辞>本調査に際しては㈱ファスニング建設にご協力を頂 の接着性能が長期に渡って維持されているものと推察される。 きましたことを感謝致します。 *太平洋マテリアル 開発研究所 * R&D Laboratory, Taiheiyo Materials Corporation **太平洋マテリアル 中部支店 **Chubu Branch, Taiheiyo Materials Corporation ***太平洋マテリアル 開発研究所 工博 *** R&D Laboratory, Taiheiyo Materials Corporation, Ph. D. ̶172̶