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邵イツ
早稲田大学大学院国際情報通信研究科 博士論文審査報告書 論 文 題 目 Web 標準の進化に対応した クロスブラウザ Web データ生成法 Cross-Browser and Cross-Standard Web Data Generation 申 請 者 朱 槿 Jin Zhu 国際情報通信学専攻 情報ネットワークシステム研究 II 2012 年 3 月 近年、インターネットを利用した様々な情報通信サービスが開発されているが、特に World Wide Web(以下、Web という)をベースとしたサービスの進展が脚光を浴びている。Web ページ作成のオー サリングツールや Web ページ閲覧のブラウザには、Web ページ記述用マークアップ言語(HTML、XML など)とそれを修飾(表示)するフォーマット情報(CSS、XSL など)で書かれたデータ(以下、Web データという)を実際に画面に表示するための計算を行うプログラム:レイアウトエンジン(Layout Engine)が実装されている。 現在、レイアウトエンジンには多種類のものが存在しており、それらのレイアウトエンジンの仕 様や計算アルゴリズムが統一されていないため、オーサリングツールの編集画面の表示とブラウザ の表示が必ずしも一致しないという問題が発生している。 一方、Web 標準はユーザ間の情報共有を目的として策定されるので、Web データの作成に際して Web 標準に準拠すればアクセシビリティの向上や検索エンジン最適化にも繋がることが期待される。し かし、標準自体も技術の進展に伴い進化するため、仕様が大幅に拡張・修正されることもある。そ の結果、ある時点での標準に準拠したデータが標準自体の進化によって、新標準に非準拠のデータ となる可能性が生じる。従来のオーサリングツールでは、ある時点の Web 標準に準拠した Web デー タの効率的な作成に重点を置いているが、標準の進化に伴う既存 Web データのアップグレードにつ いては全く配慮していないか、配慮していても対応が十分でないなどの問題がある。 このような背景から、申請者は、ブラウザの差異(クロスブラウザ(Cross-Browser) )と Web 標 準の進化に対応可能で、且つ簡易で効率的に Web データを作成する手法の研究に取り組み、新たな 提案を行っている。 本研究では、先ず、Web データをブラウザなどで画面に表示されるコンテンツやレイアウトなどの Web ページの「見える部分(Visible Part)」と Web ページに記述される(X)HTML タグや CSS などの 「見えない部分(Invisible Part) 」に分離して扱うことを提案している。具体的には、 「見える部 分」をユーザが作成し、デザイン情報として単独で保存する。Web ブラウザ上で「見える部分」を表 示するためのソースコードである「見えない部分」については、デザイン情報と Web 標準情報及び Web ブラウザ差異情報をデータマッピングすることにより Web データを自動的に生成する手法であ る。次いで、提案手法に基づいて開発した試作システムを用いて、クロスブラウザと Web 標準の進 化に対応した Web データが生成できること、並びにユーザは専門知識を持たなくても、直感的なデ ザイン操作のみによって Web データが作成可能であることを実証している。このように、本研究は 今後益々の発展が予想される各種 Web サービスを支える極めて実用的な手法を確立しており、高く 評価される。 本論文は、国際情報通信研究科修士課程及び博士後期課程における申請者の一連の研究成果をま とめたものであり、全六章で構成されている。以下に各章の概要を述べるとともに、評価を加える。 第一章「序論」は本研究の背景と目的とともに、論文の構成について述べている。 第二章「Web データ作成の現状と課題」は Web データ作成に必要な技術、ブラウザの差異による Web データ作成の課題と Web 標準の進化による Web データ作成の課題について述べている。 本章では Web データをブラウザで画面に出力表示されたコンテンツ(テキスト、画像など)とレ イアウトなどの「見える部分」と、Web ページに記述された(X)HTML タグや CSS などの「見えない部 分」に分離して論じている。一般のユーザにとっては「見える部分」がより重要と考えられるが、 Web データがいかに表示されるかは最終的にはブラウザが採用するレイアウトエンジンに依存する。 現状では各社が開発したレイアウトエンジンの計算アルゴリズムが統一されておらず、表示結果が 異なる場合があるため、どのブラウザでも同じように表示可能とする Web データをいかに効率的に 作成するかが重要な研究課題であることを指摘している。また、Web 標準は Web データ制作の指針で あり、Web 標準に準拠した Web データはアクセシビリティが高いなど様々なメリットを持つ。しかし、 これらの標準自体も進化するので、ある時点での標準準拠のデータが、標準自体の進化によって、 新標準には非準拠のデータになる可能性が生まれる。本章では Web ページの内容(コンテンツ)と レイアウトデザインは変えないという前提で、既存の Web データを新しい標準に対応させ、且つア ップグレードを適宜行える仕組みの必要性を指摘している。 第三章「関連研究と既存 Web オーサリングツール」は既存 Web オーサリングツールの現状を概観 し、その問題点について述べている。Web オーサリングツールはテキストエディタ型、レイアウトエ ンジンベース型、Web ベース型の三つに分類できる。テキストエディタ型ツールは直接 Web データの ソースコードを編集できるため、自由度のある高度な Web データを作成できるが、大量のコーディ ング作業が必要になり、効率的な Web データ作成は実現できない。レイアウトエンジンベース型ツ ールの編集画面の表示は採用したレイアウトエンジンに左右されるため、他のブラウザでの表示を 反映できずに、共通性のある Web データは作成しにくいという問題がある。Web ベース型ツールでは、 ブラウザが採用しているレイアウトエンジンの種類によって編集結果に差異が出る可能性があり、 クロスブラウザの Web データ作成は実現が難しい。 本章では既存ツールが何れも、ある時点の Web 標準に準拠した Web データの簡易・効率作成に重 点を置いているのみで、Web 標準の進化に伴うアップグレード問題について、全く配慮していないか、 配慮しても十分でないという問題点を明確化した。 第四章「水平・垂直技術進化に対応する Web データ作成手法」はクロスブラウザ(Cross-Browser) (水平技術進化)と Web 標準の進化(垂直技術進化)に対応する Web データ作成手法を提案してい る。本章ではユーザが Web データの「見える部分」を異なるブラウザでも同じように表示すること を求めているという前提で、Web データの生成を論じている。すなわち、Web 標準が進化した場合に、 「見える部分」を変えないことを条件として、 「見えない部分」を新しい標準に合わせて作り直す手 法を想定している。従来の手法では Web データの「見えない部分」のソースコードを直接変更する ことにより、 「見える部分」における視覚的表現の編集を実現する。しかし、ソースコードの変更に 伴い、 「見える部分」も変わる可能性がある。そのため、 「見える部分」は変えずに、 「見えない部分」 だけを作り直す、Web データのバージョンアップ作業は従来の手法では簡単ではない。特に、Web ペ ージの視覚的表現が(X)HTML と CSS などの複数の Web データによって実現される場合はより煩雑と なる。 提案手法は「見える部分」と「見えない部分」の作成を分離することを基本にする。先ず、ユー ザ(Web ページの制作者)が Web データの「見える部分」を作成する。作成した「見える部分」をデ ザイン情報としてデータベースに登録し、保管する。次いで、デザイン情報と表示出力の作成時点 の Web 標準バージョン情報を Web データ自動生成エンジンに伝達し、デザイン情報をブラウザ差異 情報及び Web 標準情報とデータマッピングすることで、自動的に Web データを生成する。ブラウザ のレイアウトエンジン、Web 標準がバージョンアップされる毎に、マッピングルールを追加するだけ で、以前作成された Web データの「見えない部分」は新しい標準に従って自動的に再生成されるた め、ユーザの負担は無く、またユーザは専門知識を持たなくても、デザインだけを行えば、必要と される Web データが容易に作成可能であり、ユーザにとって極めて魅力的なシステムの提案といえ る。さらに、本章で導入されるデザイン情報の文法定義、さらにはデザイン情報とブラウザ差異情 報及び Web 標準情報とのデータマッピングの文法定義が示されており、今後の拡張に容易に対応で きる提案であることを確認できる。 第五章「実装と評価」は試作システムの実装と提案手法の有効性について考察している。Web ベー スの試作システムを開発し、クロスブラウザの Web データ作成を検証するための実験、Web 標準の進 化への対応を検証するための実験、システムのユーザビリティを検証するための実験を行い、提案 手法の有効性を実証している。 第六章「結論」は本研究のまとめ並びに今後の研究課題について述べている。 以上要するに、本論文はブラウザの差異(クロスブラウザ)と Web 標準の進化に対応可能で、且 つ簡易で効率的に Web データを作成するために、Web ページのレイアウトデザインを実際の Web デー タ生成と完全に分離するという新しい発想に基づく、極めて実用的な手法を提示している。 本論文で得られた知見は今後急速な進展が予想される各種 Web サービスを支える技術の進展に資 することが期待されるものであり、国際情報通信学の発展に寄与するところは極めて大きい。よっ て、本論文は博士(国際情報通信学)の学位を授与するに値するものであると認める。 2012年3月7日 審査員 (主任) 早稲田大学教授 工学博士 (早稲田大学) 浦野 早稲田大学教授 工学博士 (早稲田大学) 朴 早稲田大学教授 Ph.D. 早稲田大学教授 博士(工学)(日本大学) (イリノイ大学) 中里 金 義頼 容震 秀則 群