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N―242
日産婦誌61巻 7 号
ば,その薬剤を継続するが,指数に変化なく,無効と判断された場合には薬剤変更する.
更年期障害の程度や持続期間には個人差があるものの閉経後約5年程度で症状は徐々に沈
静化してくる.したがって,症状の経過をみながら,程度が軽快してくるようであれば薬
剤を減量するべきである.
おわりに
更年期障害は症状の程度に個人差があるが,重症化すると日常生活にも支障をきたすこ
とがあり,女性にとっては重大な問題である.一方,ある一定の期間を経過すると症状は
沈静化するため,管理の重要性が軽視されがちである.しかし,更年期障害はほとんどの
女性が経験する症候群であるので,一般の疾患群と同様に精査・治療する必要がある.更
年期障害の大きな病因の一つに卵巣機能の低下があり,治療のなかでは低下したエストロ
ゲンを補充する HRT が極めて効果的である.しかし,エストロゲンの低下のみならず社
会的あるいは性格的要素などさまざまな要因も含まれているため,薬剤投与の前に食事や
運動など生活習慣の是正が基本である.
《参考文献》
1.赤祖父一知,他.内分泌環境.産婦人科シリーズ,中高年婦人の産婦人科.森 一
郎(編)
,東京:南江堂,1984;32―44
2.Kupperman HS, Blatt MH, Wieabader H, Filler W. Comparative clinical evaluation of estrogenic preparations by the menopausal and amenorrheal indicies.
J Clin Endocrinol Metab 1953 ; 13 : 688―703
6)HRT
はじめに
HRT は従来,更年期障害の治療に行われてきたが,それ以外にも骨量増加や動脈硬化
抑制作用などさまざまな有益効果のあることがわかり,心筋梗塞の死亡率が高い米国では
その予防目的で多くの閉経後女性が HRT を施行していた.当時,本邦での HRT の頻度
は2%に満たず, 閉経後女性の QOL 向上のため HRT を推進する傾向にあった. しかし,
2002年に米国の NIH により行われた Women s Health Initiative
(WHI)
が報告され(図
1)
E-9-6)
-1)
,HRT のリスクがベネフィットを上回ると判断され,HRT の使用が制限さ
れるようになった.しかし,その後の研究や臨床試験結果が報告され,副作用の少ない HRT
の使用方法が具体化してきた.また,これらのエビデンスを基に HRT ガイドラインが今
年作成された.
本稿ではこれからの HRT のあり方について概説する.
1.HRT の方法
子宮摘出後の女性にはエストロゲン単独投与でよいが,子宮を有する女性へエストロゲ
ンを単独投与すると子宮内膜過形成の頻度が上昇するため少量の黄体ホルモンを併用する
必要がある.併用する場合,エストロゲン投与しながら4週に10∼12日間程度黄体ホル
モンを併用し,毎月月経を発来させる周期的投与法とエストロゲンと黄体ホルモンを連続
投与する方法がある.周期的投与の場合,不正出血は少ないが,毎月月経がある.一方,
連続投与の場合,月経はないが,不正出血が比較的高頻度に認められ,いずれも一長一短
である.
2.低用量の経口エストロゲン
WHI では,経口の結合型エストロゲン(CEE)
0.625mg と酢酸メドロキシプロゲステロ
ン(MPA)
2.5mg の投与により,心筋梗塞と脳卒中リスクの上昇が報告されている.一方,
CEE の経口投与量を減量すると心筋梗塞や脳血管疾患のリスクが低下し,経口投与量に
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
2009年 7 月
N―243
(%)
300
*
有意差あり
NS 有意差なし
*
111%
200
*
*
29%
41%
*
26%
100
37%
17%
NS
*
34%
8%
NS
*
−100
心筋梗塞
脳卒中 静脈血栓症
乳癌
大腸癌
子宮
内膜癌
大腿骨 他の理由に
頸部骨折 よる死亡
(図 E96)1) Women’
sHeal
t
hI
ni
t
i
at
i
veの試験解析結果
依存してリスクは上昇することがわかっている.したがって,経口エストロゲン量が心血
管疾患(CVD)
リスクには重要であると考えられる.最近の研究で,通常量の経口 CEE で
は LDL コレステロールは低下し,HDL コレステロールは上昇するが,中性脂肪(TG)
も
上昇し,LDL を酸化されやすい小型粒子に変化させ,粥状硬化への進展を促すことや,
血管炎症に促進的に作用し,プラークを不安化させる可能性が報告されている.一方,経
口 CEE を半量にすると,TG 上昇からの LDL 小粒子化や炎症促進作用はないことが確認
されており,また,経口エストロゲン量を減量しても更年期障害に対する効果や骨量増加
作用は温存されることもわかっている.従って,経口エストロゲン投与する場合には低用
量が選択されるべきである.
3.経皮エストロゲン
更年期障害の改善や骨量増加作用などのエストロゲンの好ましい効果は経口と同様,経
皮エストロゲンでも同様に認められる.
一方,WHI では経口 CEE で CVD リスクを上昇することが報告されたが,最近欧州で
の大規模臨床試験で経皮エストロゲン投与で経口の場合とは逆に心筋梗塞のリスクが約
2)
40%低下することが示されている(図 E-9-6)
-2)
.このことよりエストロゲンの投与ルー
トの違いで作用発現に大きな差があることが想定できる.実際に最近の研究によると,経
皮エストロゲンを投与すると,経口 CEE の場合とは異なり,TG はむしろ低下し,LDL
は酸化されにくく,粥状硬化へ進展しにくい大型 LDL に変化することや,血管炎症には
抑制的に作用し,プラークを安定化させる可能性が報告されている.
経口エストロゲンは静脈血栓・塞栓症リスクを上昇することがわかっており HRT の重
大な有害事象の一つである.この経口エストロゲンによるリスク上昇は最初の1年間で顕
著でその後,低下することも報告されている.一方,経皮投与では静脈血栓・塞栓症リス
クは低いことがわかっている.経口エストロゲンには胆囊疾患のリスクを上昇することが
知られているが,これも経皮投与ではリスク上昇の少ないことが確認されている.また,
乳癌も HRT の大きな有害事象である.乳癌リスクも投与ルートで差があり,経口の場合
にはリスク上昇するが,経皮の場合リスク上昇が少ないことが報告されている.このよう
に経口に比較して経皮エストロゲン投与に有害事象は少なく,メリットの大きいことがわ
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日産婦誌61巻 7 号
1.5
(相対危険度)
1.0
1.02
1.01
1.0
0.82
0.61
0.54
0.5
0.0
経膣
経皮
経皮
ホルモン療法 経口
経口
(−) エストロゲン エストロゲン エストロゲン エストロゲン エストロゲン
+
+
黄体ホルモン
黄体ホルモン
(Lokkegaard E et al., European Heart J, 2008)
(図 E96)2) エストロゲン投与ルートの違いによる心筋梗塞のリスク
かっている.
経口エストロゲンの場合,投与量を低用量化すると有害事象が少なくなることが報告さ
れたため,経皮エストロゲンでも低用量化するべきと考えられている.しかし,経皮エス
トロゲン量を低用量化することで有害事象を減少できたという報告はこれまでない.もち
ろん不正出血や乳房痛などのマイナートラブルが出現する場合は経口も経皮の場合も減量
するべきであるが,基本的に低用量とするべきは経口エストロゲンの場合である.
4.黄体ホルモン
WHI を含めこれまで報告されてきたほとんどの臨床試験で使用された黄体ホルモンは
MPA であった.しかし,MPA はエストロゲンの HDL コレステロール上昇作用や血管内
皮機能改善効果を相殺するが,天然型黄体ホルモンはこれらの悪影響のないことがわかっ
ている.これは合成型黄体ホルモンのテストステロン作用によると考えられる.しかし,
残念ながら本邦には天然型黄体ホルモンがなく使用することができない.
WHI では CEE+MPA の場合,乳癌リスクは26%上昇するが,CEE 単独では上昇しな
い.また,HRT と乳癌の関係を経時的にみた検討ではエストロゲン単独に比較し,黄体
ホルモン併用の場合に乳癌リスクが上昇することがわかっている.このように MPA は乳
癌リスクも上昇させると考えられる.
おわりに
WHI では HRT の有害事象ばかりが注目されたため,その使用が躊躇され,閉経後女性
の QOL が著しく低下した.しかし,最近の研究により低用量化の経口エストロゲンや経
皮エストロゲン投与で有害事象を最小限にし,エストロゲンの効果が期待できるようにな
り,エストロゲン投与には投与量や投与ルートが極めて重要であることがわかってきた.
また WHI サブ解析によると,閉経後早期での HRT の開始は心筋梗塞リスクをむしろ低
下することが示されている.このように有害事象の少ない HRT の使用方法がかなり具体
化してきた.今回作成された HRT ガイドラインはできるだけ最新のデータを取り入れ,
エビデンスを重視した内容になっており,禁忌症例やアルゴリズムなども含まれている.
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今後,HRT 開始の際には参考になると思われる.
《参考文献》
1.Writing Group for the Women s Health Initiative Investigators. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women : principal
results From the Women s Health Initiative randomized controlled trial. JAMA
2002 ; 288 : 321―333
2.Løkkegaard E, Andreasen AH, Jacobsen RK, et al. Hormone therapy and risk
of myocardial infarction : a national register study. Eur Heart J 2008 ; 29 :
2660―2668
〈若槻 明彦*〉
*
Akihiko WAKATSUKI
Department of Obstetrics and Gynecology, Aichi Medical University, Aichi
Key words : Postmenopausal women・Estrogen・Climacteric disturbance・HRT
索引語:閉経後女性,エストロゲン,更年期障害,ホルモン補充療法
*
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