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描画による日常記憶の想起促進
越智・小坂.qx 08.9.24 6:52 ページ83 83 描画による日常記憶の想起促進 越智 啓太・小坂 香織 要 旨 本研究では,日常的な場面を描いた写真の内容を想起させる場合に,その写真について絵を描くと,想起が 促進されるのかどうか検討した。205 名が参加した 2 つの実験において,参加者は,まず 1 枚の写真をみせられ た。その後,実験群の参加者はその写真の絵を描き,統制群の参加者はその写真についての文章を書いた。引 き続いて記憶テストを行った結果,自由再生,プローブ再生テストとも実験群のほうが優れていた。この研究 の意義について犯罪捜査との関連で議論した。 問 題 目撃者の想起を促進するための方法 犯罪捜査のためには事件の目撃者や被害者から 来事についての描画を行うと出来事の報告量が約 2 倍になることを,Gross & Hayne(1999)は,6 ヶ月前の出来事の想起においても再生試行に先だ つ描画が想起促進効果を持つことを示している。 より多くの正確な情報を聴取する必要がある。で これらの研究はいずれも子どもを実験参加者とし は,どのようにすれば多くの情報を引き出すこと たものであるが,もし,この手法が成人でも同様 ができるのであろうか。この問題に関して,いま に有効であれば,犯罪捜査場面における適用範囲 まで多くの研究が行われてきた。たとえば,催眠 は大きいと思われる。そこで,本研究では,成人 による想起の促進(越智, 2003)や認知インタヴュ を実験参加者とした実験で描画による想起促進効 ー(Geiselman, et al. 1984; 越智・増田, 2000)の 果が見られるか否かについて検討してみたいと思 研究である。 う。また,自由再生,プローブ再生などの質問形 この研究のひとつとして, Butler, Gross, & 式との関連についても調べてみたい。なお, Hayne(1995)は描画を用いた想起促進の研究を Gross らの一連の実験では,想起対象となる出来 行っている。この研究では,3 歳から 6 歳の子ど 事は,時間的に数時間にわたるイベントであった もを実験参加者として,消防署訪問という出来事 が,本研究は,目撃者証言の想起促進を念頭に置 を想起させる実験が行われた。その結果,想起試 いている。そこで刺激としては一枚の日常場面を 行に先立って,出来事についての絵を描いた場合 描いた写真刺激を用いることにした。 に正確な情報をより多く再生することができた。 その後,Gross & Hayne(1998)は,情動的な体 験を想起する場合に,再生試行に先立ってその出 本研究の実施にあたっては,平成 16 ∼ 18 年度日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究 C 課題番号 16530460 「虐待の疑いのある子どもに対する面接技法の開発」研究代表者越智啓太)の助成を得た。 越智・小坂.qx 08.9.24 6:52 ページ84 84 文学部紀要 第 57 号 実 験 1 は,直後条件で大きかった。次に,実際には,刺 激の中に存在しなかった情報について再生された 実験参加者:大学 2 年生女子 138 名。実験参加 項目をフォールスメモリー項目としてカウントし, 者はまず,直後条件(57 名)と遅延条件群(81 名) 分散分析を行った。この結果を Figure.2 に示した。 に分けられ,それぞれ,描画群と統制群に分けら 遅延の主効果[F(1,134)=0.701, n.s.] ,条件の主効 れた。直後条件では,描画群が 30 名,統制群が 果[F(1,134)=0.129, n.s.] ,条件と遅延の交互作用 27 名,遅延条件では,描画群は 38 名,統制群は [F(1,134)=1.71, n.s.]のすべてで有意差はなかっ 43 名であった。 手続き:実験は教室で,集団で実施された。実 験参加者には, 「これから,みなさんに 1 枚の写真 た。これより,描画を用いた場合,フォールスメ モリーを増加させずに多くの項目が再生されるよ うになることが示された。 を見せますので,よく見てください」と教示し, 教室前面のスクリーンに刺激となる写真を 20 秒間 呈示した。写真は,アメリカ人の家族がバーベキ ューをしている風景を撮影したものであり,アメ リカ生活についての写真集から選択したものであ る。呈示終了直後に描画群の実験参加者には,3 分間の時間を与え,白紙にいま見た刺激について 絵を描くように教示した。統制群には,同じ時間, 今見た刺激について思い出しておくように教示し た。その後,両群の実験参加者に,まず,見た刺 激写真について出来るだけ多くのことを思い出し て,自由再生するように教示した。それが終了し た後で,刺激図形についての 24 問のプローブ型の 再生テストを実施した。このテストは刺激の内容 について, 「一番手前にいた人のシャツは何色でし Figure.1 実験 1 における各群の正再生項目数 たか」などと具体的に問うものであった。遅延条 件の実験参加者については,刺激提示後,実験は 一旦終了し,1 週間後に同様の課題を行った。 結果 自由再生についての分析 まず,各条件の実験参加者の再生項目数につい て集計した。その結果を Figure.1 に示す。この結 果について,直後・遅延,統制群・描画群の 2 × 2 の実験参加者間要因の分散分析を行った結果, 遅延の主効果[F(1,134)=87.9, p<.01],描画群と 統制群の主効果[F(1,134)=68.3, p<.01],交互作 用[F(1,134)=11.1, p<.01]のすべてが有意となっ た。多重比較の結果,直後条件,遅延条件ともに 統制群よりも描画群の成績が優れていた。その差 Figure.2 実験1における各群のフォールスメモリー項目数 越智・小坂.qx 08.9.24 6:52 ページ85 描画による日常記憶の想起促進 プローブ再生についての分析 次に,プローブ再生試行について分析を行った。 85 生テストであると考えると,描画群は描画時と言 語再生時の 2 度にわたり再生テストを行っている まず回答を正答,誤答,無回答に分類した。正答 が,それに対して,統制群は,イメージ時は頭の 数に関する結果を Figure.3 にあげる。この結果に 中でイメージしただけであるために言語再生時の ついて,同様の分散分析を行った結果,正答数に 1 度しか再生を行っていない。また,統制条件で ついては,遅延の主効果[F(1,134)=42.0, p<.01] , は,実際に実験参加者がイメージ化を行っていた 条件の主効果[F(1,134)=6.98, p<.01],交互作用 か否かは外見的には判断することができない。そ [F(1,134)=7.77, p<.01]のすべてで有意な効果が のため,本実験の結果は,描画自体が再生量を促 見られた。これは,直後条件で描画群の成績が他 進したのではなく,再生試行を複数回行うことが に比べて優れていたことから生じていた。誤答数 再生量を促進した可能性がある。ハイパームニジ については,遅延の主効果[F(1,134)=2.70, n.s.] , アという現象が知られているが,これは複数の再 条件の主効果[ F( 1 , 134 )= 2 . 21 n.s. ],交互作用 生試行によって再生される項目が増加するという [F(1,134)=0.166, n.s.]のすべてで有意な効果が見 現象である。今回の実験では,この効果によって られなかった。プローブ再生については直後条件 見かけ上想起促進が生じた,という可能性も考え のみで描画群の成績が優れていることがわかった。 られる。そうだとすれば,描画自身の想起促進効 果はないことになる。そこで,第 2 実験を行い, ハイパームニジアの効果を取り除いた上で描画の 効果が見られるかどうか検討してみることにした。 実 験 2 方法 実験参加者:実験参加者は大学生女子 167 名 手続き:実験条件は,描画および言語統制群の 2 群であり,直後と 1 週間後にテストを行った。 両要因とも実験参加者間要因である。それぞれの 群の実験参加者は直後テスト条件で,描画群 43 名, 統制群は 42 名,遅延条件で描画群 47 人,統制群 35 名であった。「今から一枚の写真を提示します。 Figure.3 実験 1 における各群の正答項目数 (max = 24) よく見てください。 」と教示し,教室前面のスクリ ーンに刺激となる写真を 20 秒提示した。第 2 実験 考察 では,第 1 実験の結果の一般性をテストするため, 第 1 実験とは異なった刺激を記銘材料とした。写 本実験の結果,描画は,自由再生でもプローブ 真は,アメリカ人のおばあさんと数人の子どもた 再生でもフォールスメモリーを増加させることな ちが,広場で綱引きをしている写真であり,さま く,日常刺激の再生を促進することが出来ること ざまなスポーツを紹介する写真集から選択したも が示された。 のである。提示終了後,描画群の実験参加者には ところで,実験 1 では,描画群が目撃した事柄 白紙に今見た刺激について絵を描くように,統制 を描画したのに対して,統制群は,頭の中で出来 群の実験参加者には刺激について思いついたこと 事をイメージしただけであった。描画を一種の再 を何でも言語的に記録するように求めた。それぞ 越智・小坂.qx 08.9.24 6:52 ページ86 86 文学部紀要 第 57 号 れ時間は 4 分間であった。その後,両群の実験参 加者に写真の内容を出来るだけ多く,言語的に再 生するように求めた。引き続いて,刺激図形につ いての 26 問のプローブ再生テストを実施した。こ れは,このテストの内容について, 「一番後ろの人 の上着は何色でしたか」と具体的に問うものであ った。このうち,24 問は実際に刺激画像に写って いた刺激についての質問であったが,2 問につい ては,写真には写っていない,スカーフや帽子の 色についてたずねた質問が含まれていた。これは, 誤った質問に対しての被誘導性について調べる項 目であった。 結果 Figure.4 実験 2 における各群の正再生項目数 自由再生についての分析 各条件の実験参加者の自由再生課題での,再生 項目数について集計した。この結果を Figure.4 に 示す。直後条件・遅延条件,統制群・描画群の 2 × 2 の実験参加者間要因の分散分析を行った結 果,遅延の主効果[F(1,163)=170.3, p<.01] ,描画 群と統制群の主効果[F(1,163)=156.5, p<.01]に 有意差が見られた。交互作用[F(1,163)=.082, n.s.] は,有意ではなかった。遅延よりも直後条件で成 績が良く,統制群よりも描画群のほうが成績が良 かった。次に,実際には,刺激の中に存在しなか った情報について再生された場合をフォールスメ モリー項目としてカウントし,分散分析を行った。 Figure.5 第2実験におけるフォールスメモリー項目数 その結果を Figure.5 に示す。遅延の主効果 [ F( 1 , 163 )= 2 . 02 , n.s. ],条件と遅延の交互作用 果[F(1,163)=5.49, p<.05]に有意差が見られた。 [F(1,163)=1.97, n.s.]が有意ではなかったが,条 交互作用[F(1,163)=0.577, n.s.]には有意差は認 件の主効果[F(1,163)=7.92, p<.01]に有意差が認 められなかった。つまり,直後遅延条件ともに描 められた。これは描画群のほうが統制群よりも多 画群の成績が優れていた。誤答数は,全体的に少 くのフォールスメモリーが産出されたことを示し なかったが,直後試行では描画群が 0.97(sd 1.03), ている。 統制群が 0 . 73 (sd 0 . 82 ) ,遅延試行では描画群が 1.45(sd 1.30),統制群が 0.74(sd 1.04)となった。 プローブ再生についての分析 次に,プローブ再生試行について分析を行った。 分散分析の結果,条件の主効果[F(1,163)=7.235 p<0.01]が有意となり,描画群で有意に誤答数が 誤誘導質問でない 24 問のテストについて分析し 多かった。遅延の主効果[F(1,163)=0.983, n.s.] , た。結果を Figure.6 に示す。正答数については遅 交互作用[F(1,163)=0.396, n.s.]には,有意な差 延の主効果[F(1,163)=95.59, p<.01] ,条件の主効 は認められなかった。 越智・小坂.qx 08.9.24 6:52 ページ87 描画による日常記憶の想起促進 87 た,それと同時に絵の中に描かれている項目の情 報量についても少∼多までやはり 5 段階で評定さ せた。絵のうまさの平均評定値と自由再生課題の 正再生項目数との関連は,r=-.301(p<.05)であっ た(絵が下手なほうが再生テストの成績がよい)。 また,プローブ再生テストの成績との関連は,r=0.163(n.s.)であった。次に情報量評定値との相関 を分析したところ,正再生項目数との相関は,r=0 . 054 (n.s.) ,プローブ再生テストとの相関は, r=0.084(n.s.)でいずれも有意でなかった。Butler et al.(1995)の子供を用いた研究では,描画の質的 評価と再生項目数に r=0.65 の高い相関が見られた Figure.6 第2実験における各群の正答項目数 (max = 24) が,本研究ではこの関係が見られなかったばかり か,一部で負の相関が見られた。 考察 誤誘導質問についての分析 最後に,2 問の誤誘導質問について分析を行っ 第 2 実験では,ハイパームニジアの効果を統制 するために,統制群には 2 度の再生試行を行わせ, た。この問題では,誤った回答をしてしまった数 2 度目の再生試行の成績と,描画群の成績を比較 について分析を行った。2 問中平均何問について した。本研究の結果においても,描画群の成績は, 誤った回答をしたかを分析したところ直後試行で 再生試行,プローブ再生試行ともに優れていた。 は,描画群が 0 . 58 (sd 0 . 76 ) ,統制群が 0 . 76 (sd 第 1 実験の結果をあわせれば,描画試行が日常記 0.88),遅延試行では,描画群が 0.89(sd .72),統 憶の再生を促進する効果を持っていることを示し 制群が 1.26(sd 0.78)であった。分散分析を行った ている。ただし,第 2 実験では再生試行,プロー ところ,遅延の主効果[F(1,163)=10.832, p<0.01] , ブ試行ともに描画群でフォールスメモリー項目の 条件の主効果[F(1,163)=4.917, p<0.05]が有意と 産出や誤答が多かった。これは,描画群における なった。交互作用[F(1,163)=0.556, n.s.]に有意 正再生項目数の増加に比べれば,数値的にはわず な差は認められなかった。つまり,遅延試行のほ かなものであったが統計的には有意なものであっ うが質問に誘導されてしまうことが多く,また, た。この結果は第 1 実験では見られなかったもの 描画によって被誘導性を減少させることができる である。また,本研究では,誤誘導質問に対する ことが示された。 耐性がテストされたが,描画群のほうが誘導的な 質問にひっかかることが少ないことがわかった。 絵の上手さと再生項目数の関係 また,実験 2 の描画条件,直後試行で描かれた 耐誘導性は,日常記憶想起テストにおいてはひと つの重要な記憶成績指標であり,この結果も,描 描画 43 枚について,その絵のうまさと情報量が再 画が日常記憶促進に効果を持つことを示している。 生項目数に及ぼす効果について分析を行った。描 描画の上手さやその情報量と再生量に正の相関が 画実験に参加していない心理学専攻の大学生,大 ないことから,描画による促進効果は描画を行う 学院生 20 人(いずれも絵画の専門教育を受けてい という作業そのものによって引き起こされている ない)が評価者となり,この 43 枚の絵のうまさに 可能性が大きい。 ついて上手∼下手まで,5 段階で評定させた。ま 越智・小坂.qx 08.9.24 6:52 ページ88 88 文学部紀要 第 57 号 総合考察 このイメージ化を促進するのではないだろうか。 もちろん,描画を用いずに出来事のイメージ化を 本研究では,日常場面の想起において想起に先 することも可能である。しかし,頭の中だけでイ だって刺激状況を描画することが促進効果を持つ メージ化するのに比べて,描画を補助ツールとし のかについて検討を行った。その結果,自由再生 て用いるイメージ化のほうがより容易である。出 においては,直後試行でも遅延試行でも描画によ 来事のイメージ化は相当の認知的な資源を使用す る促進効果が見られた。プローブ再生では,実験 る。そのため,頭の中だけでイメージ化を行った 2 では描画促進の効果は直後,遅延試行ともに見 場合にはイメージ化可能な範囲が限定されてしま られたが,実験 1 においては直後試行のみにこの い,注意の焦点があたっていない部分のイメージ 効果が現れた。いずれの実験においてもフォール は別の部分をイメージ化しているときに保持でき スメモリーの報告については増加しないか,また ない可能性がある。実際,認知インタビュー場面 は増加してもわずかな量であった。誤誘導質問に では, 「さっきイメージが浮かんだと思ったが消え 対する耐性を記憶の指標にとった実験 2 でも描画 てしまって報告できない」といった内省報告がし による耐誘導性の増加が見られた。 ばしば生じる。これに対して,描画をイメージ化 これらの結果を総合すると日常記憶の再生に先 の補助ツールとして使用する場合,想起したイメ 立つ描画試行は日常場面の記憶の想起を促進させ ージを空間的にマッピングすることができ,全体 るということになる。 的なイメージを構成しやすくなると思われる。も では,この促進効果はなぜ生じたのか。Gross ちろん,イメージ自体を描画の中にうまく表現し らの一連の研究では,描画による想起促進の原因 ていくことは絵画のスキルを必要とするが,たと のひとつとして,描画試行を通じて子どもたちが えこのようなスキルが十分でなかった場合でも, 実験者の質問に対してどのように答えれば良いの いったん再構成されたイメージを想起させる手が かについて練習し,それが結果的に報告数の増加 かりを描画の中に空間的な情報とともに残せる可 につながるといった説明があげられていた。 能性がある。第 2 実験で描画のスキルが記憶に影 Gross らの実験のように子どもが実験参加者であ 響を与えていないことが示されたのはその点で興 る場合には,このようなメカニズムも考えられる 味深い。 が,本研究では実験参加者が成人であるため,こ なお,描画再生法に関しては,描画によってイ のようなメカニズムが想起促進の主な原因ではな メージ化することによって,実際にはなかった出 いと思われる。 来事を生じたとするエラーが増大する可能性があ 本実験で,描画促進効果を引き起こしたものと るのではないかということが指摘されることがあ してもっとも考えやすいのは,描画によるイメー る。本研究では,このようなフォールスメモリー ジ化の促進であろう。Geiselman, et al.(1984) はほとんど生じなかったが,子どもを実験参加者 は,目撃者の記憶想起促進において認知インタビ とした研究においてはこのような効果が示されて ューという方法が有効であることを示している。 いる研究もある(Strange, Garry, & Sutherland, これは,記憶研究の成果をもとに 4 種類の検索方 2003) 。描画に限らず,一般に出来事のイメージ化 略を組み合わせて目撃者に質問していく方法であ による想起の促進試行では,フォールスメモリー る。この方略の中でもっとも有効なものは,目撃 を増加させる可能性があると指摘される事が多い。 者に事件の時の状況を頭の中でイメージ化させる 確かにフォールスメモリー形成実験では,実際に 「コンテクスト復元」であった(Memon, Wark, 生じなかった出来事をイメージ化させるとそれが Bull, & Koehnken, 1997)。目撃した出来事のイメ 記憶に埋め込まれる現象が報告されている。しか ージ化は想起を促進するのである。描画試行は, し,このような現象は意図的に「起きていない出 越智・小坂.qx 08.9.24 6:52 ページ89 描画による日常記憶の想起促進 来事」のイメージ化を行わない限り生じにくいと 思われる。たとえば,笠原・越智(2006)は,記 銘した出来事の想起において,空想や想像を広げ ろ,というイメージ化促進教示によってもフォー ルスメモリーの報告はほとんど増加せず,むしろ, 正確な情報が得られる可能性があがることを示し ている。 このようなことも考え合わせれば,再生前に描 画試行を行わせることは実際の犯罪捜査場面でも 有効な想起促進手法になると考えられる。もちろ ん,現実的にこの課題を導入する場合には出来事 を思い出させることによる目撃者や被害者の心的 なトラウマの問題についても考慮しなければなら ない。 文献 Butler, S, Gross., J., & Hayne, H. 1995 The effect of drawing on memory performance in young children. Developmental Psychology, 31, 597608. Geiselman, R. E., Fisher, R. P., Firstenberg, I., Hutton, L. A., Sullivan, S. J., Avetissian, I. V. & Prosk, A. L. 1984. Enhancement of eyewitness memory: An Emprical evaluation of Cognitive Interview. Journal of Police Science and Administration 12, 74-80. Gross, J. & Hayne, H. 1998 Drawing facilitates children ’ s verbel reports of emotionally laden events. Journal of Experimental Psychology: Applied, 4, 163-179. Gross, J. & Hayne, H. 1999 Drawing facilitates children ’ s verbel reports after long delays. Journal of Experimental Psychology: Applied, 5, 265-283. 笠原洋子,越智啓太 2006 イメージ化強調方略による 目撃記憶の想起促進,犯罪心理学研究, 44, 9-17. 越智啓太 2003 催眠による目撃者の記憶の想起促進 催 眠学研究, 47, 23-30. 越智啓太・増田早哉子 2000 認知インタビューに よる日常記憶の想起促進 日本認知科学会テクニ カルレポート, TR-37 Memon,A.,Wark,L.,Bull,R. & Koehnken,G. 1997 Isolating the effects of the cognitive interview techniques. British Journal of Psychology, 89 88, 179-197 Strange, D., Garry, M. & Sutherland, R. 2003 Drawing out children ’ s false memories. Applied Cognitive Psychology, 17, 607-619. 越智・小坂.qx 08.9.24 6:52 ページ90 90 文学部紀要 第 57 号 《Summary》 Facilitation by drawing of eyewitness recollection of everyday events OCHI Keita and KOSAKA Kaori The aim of the present study was to examine whether the recollection of photographs depicting everyday events could be facilitated by drawing pictures of the photographs. In two experiments, 205 participants were presented with one photograph. Subsequently, participants in the experimental group drew pictures of the photograph, while participants in the control group wrote down sentences explaining the photograph. The results of following memory tests showed that performances of free recall and probed recall were better in the experimental group. The significance of the present study was discussed with reference to criminal investigations.