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Page 1 Page 2 磁気ディス勾基板の超高態率撃平還ボリシング 技術の
熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
磁気ディスク基板の超高能率超平滑ポリシング技術の開
発に関する研究
Author(s)
山口, 寛太
Citation
Issue date
2008-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/12109
Right
磁気ディスク基板の超高能率超平滑ポリシング
技術の開発に関する研究
2008年3月
熊本大学大学院自然科学研究科
山口寛太
磁気ディスク基板の超高能率超平滑ポリシング技術の開発に関する研究
一目 次一
第1章序章
1.1デジタル情報化時代におけるストレージ技術の重要性._
__1
1.2ハードディスク ......._.._.__....___..._....._.....
_..1
L2.1ストレージ分野におけるハードディスクの位置付け 。.
.._1
1.2.2ハードディスクの進歩.._._....._._....。......_.._.........._.
.._2
1.23 ハードディスクにおけるデータの保存と取り出し _
.9_5
(1)ハードディスクの構成 ......._....__.._.......__
.。_5
(2)ハードディスクにおけるデータの保存と取り出し原理
__6
1.3磁気ディスク基板の製造要件 ...__。...._........._._....._.._..
._6
1.3.1磁気ディスク基板の製造手順 .._.,.._....._..._.........
.._6
1.3.2磁気ディスク基板の品位 .,......_.__._.__.。....__.._...
._8
(1)磁気ディスク基板に求められる特性 ...._....._._......
.._8
(2)平滑性___,_____..___._...__._.
_..8
(3)図面ダレ _。__._.._。.___..._...._.._.........__......_
.._8
(4)基板形状 _ _ 。_ __..一.。....,,....._......_......…・.…・・
_10
14磁気ディスク基板のポリシング技術の現状 .__._..。._
_.ll
L4.1ポリシング方法._.____..___.__._._____
._11
1A2両面ポリシング盤___.____._...____._..
_11
1鳳3ポリシング液______.______._.___._...__.
_12
144ポリシャ.。 .. 。,
_13
15本論文の目的と概要 ........_...,._..._._.._.._ ._
序章の参考文献 。._........_........_...__.__.._._..__._...._..
_14
_.16
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.1はじめに ____..__9____._._______.___....
_。18
2.2実験装置・評価方法......_.._.._...._...。__.......,.__...。...
_19
2.2.1実験用ポリシング盤__.._.__.___.___..._.
_.19
2.2.2洗浄装置 ..._...._。...._......._._。.._..._._...._...._.._...
_.22
2.2.3評価方法___.____.__。______._.
_.23
(1)非接触式表面粗さ計測器(WYKOπ)PO3D)..,......._...
._23
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)...._._._.._......
_.24
Z2.4 評価パラメータ .___.__..__._.__._..__..__._
._25
(1)評価パラメータ .__.__.
_.25
(2)除去厚さ恥,除去速度舐 .._、 ..
_.25
(3)基板平滑度 ....。..._.....….
_.25
(4)基板端面形状 ._ _
_26
1
磁気ディスク基板の超高能率超平滑ポリシング技術の開発に関する研究
23ポリシング温度の検討.
2.3.1はじめに .
_27
2.32 実験方法および条件 ..._....._。_.。.
2.3.3実験結果及び考察 .
2.4ポリシング特性に及ぼすポリシング圧力・速度の影響...
241 i繍法及び条件
..27
.
2.4.2実験結果及び考察 .
_28
。..29
...32
_32
...33
2.5端面ダレ形成に及ぼすポリシング条件の影響 ........_
...36
2.5.1はじめに ...
...36
2.52二面ダレの生成要因 ._.。.._.,
_36
(1)ポリシャのモデル化 ._._........__.。.__......。._
...36
(2)基板端面でのポリシャの変形の観察
...37
(3)ポリシャの野州変形と除去
。.,37
(4)チャンファ部での基板の平坦化作用.._._.__...
...38
(5)ポリシャの弾性率が端面ダレに及ぼす影響_.._
...38
2.53実査鍵条件
...
...39
254端面ダレの生成に及ぼすポリシング圧力・速度の影響
...39
255盤面ダレ抑制ポリシング法の検討 .
_42
(1)はじめに
_42
(2)ホルダの製作 ,_.__......___.....。..._,_._ ...
(3)実験条件
.,.42
...44
(4)実験結果および考察 ..___.__.___.._._..
2.6第2章のノ』括.._...
第2章の参考文献 .....。...........__._.__...._.._..。.._.
..。44
_47
...48
第3章アルミ磁気ディスク基板のポりシャ寿命の検討
3.1はじめに 。.
...49
3.2実験条件 ...._.._
...49
3.3実験結果及び考察 ..._ ......_
...49
33,1ポリシング過程における基板除去速度の変化._
_50
33.2 ポリシャ寿命に及ぼすポリシング圧力・速度の影響
_56
3.4第3章の小罪..
...60
第3章の参考文献..
..,61
第4章ポリシャ寿命の検討に及ぼすポリシャ表面構造の影響
4.1はじめに ..
_62
4.2実験条件..
_62
4.3実験結果及び考察 _
...63
II
磁気ディスク基板の超高能率超平滑ポリシング技術の開発に関する研究
4.3,1 ポリシング過程における基板除去速度の変化 ___
..63
4.32 除去速度に及ぼすポリシング圧力の影響 _..
_68
生4第4章の小里 ....
..71
第4章の参考文献 ..._..._..__.,....
..72
第5章高能率両面超平滑ポリシング法
5.1はじめに .
..73
5.2新概念両面ポリシング加工法 ...._._.........__.....
5ユ1新概念両面ポリシング加工法
..73
..73
52.2 段差付き定盤を用いた方法 ._......._..
..74
5.2.3 ポリシャ成形法_.
..77
53ポリシング盤の試作._
..81
5.3.1装置概要 _..
−81
53.2 上下定盤の平行度_._.....
..83
5.3.3 圧力の設定 。
..83
5.3.4 ポリシング盤の冷却システム____.
..84
5.3.5 基板上下面の除去速度の均一化 _..._..
..86
5.4試作装置による両面ポリシング加工。.._.....
..87
5.4。1段差定盤における実験結果_..____.
..87
(1)実験聾条件
.....。
.。87
(2)実験結果 ......
,.88
(3)基板形状の検討 ._..
..90
54.2ポリシャ成形法による実験結果
_91
(1)i無条件
_91
......
(2)実験結果 ......_...。.
−92
5.5高能率両面超平滑ポリシング法におけるポリシャ寿命の検討
_93
5.5.1
_93
;薄襟イ牛
。。....__._. _....
552実験結果
_93
5。6第5章の小葉。___._
_95
第5章の参考文献___
_96
第6章超々高圧力ポリシング加工の可能性の検討
6.1はじめに ..___.___.._.__
_97
62超々高圧カポリシング盤の試作._.___.._
_97
6.2.1装置概要 ..._
_97
6.2.2 加圧機構 _。
_98
6.23 加圧特陛試験 ._.._._....。。
..98
63実験条件。.
..100
III
磁気ディスク基板の超高能率超平滑ポリシング技術の開発に関する研究
6.4実験結果及び考察 ._....__......_.........._._..,_........_.._.._._。_......_.........._......._.9..........._....。._.._。.100
6.4.1 ポリシング除去速度に及ぼす影響...._....._.._..__.._。..__._._..._.._._...._......._.._.._。_。_..._..100
6.4.2 表面粗さに及ぼす影響_...........__.__......_......._。...._.。....._._._..。._._........_.。_._..._._._......102
6.4.3超々高圧力ポリシング実験後のポリシャの観察 ....__._.。..._。.._,......_._................。..___.._.。.103
6.4.4 超々高圧力ポリシング加工における端面ダレの観察 ._._......_.....,...._.。.._....、_._......._.,...。__.104
6.5第6章の小括_____.______..___.___.__.∴____.___.___..____.__._____.._.._。106
第6章の参考文献__.___..______.______.._.____._.9_____._.______....___.___..107
第7章総括
71本研究の成果と概要_..._......_.._..,..........._...___._............._._.._.._......._......_.._.._.._._._。..__...108
謝
辞
rv
磁気ディスク基板の超高能率超平滑ポリシング技術の開発に関する研究
論文中の用語および記号
【使用記号】
【英語表記】
【日本語表記】
【単位】
P
ポリシング圧力
Poh曲h培P鮨essure
kPa
玲
ポリシング速度
Poh画㎎speed
m酒s
’
ポリシング時間
Pohs㎞9血1e
曲
除去厚さ
R㎝ov組d帥
脚
除去速度
R㎝OV組㈱
幽
艶
表面粗さ
Sur飴ce roughness
nm
艶
微小うねり
Shght undulation
欺
端面ダレ深さ
㎜
隔
当面山高さ
㎜
世
膨面ダレ半径幅
㎜
塊
7
皿
ポリシャ表面温度
Pohshcr temperature
℃
ポリシング抵抗
Pohsh㎏fb亜ce
㎏(N)
ポリシング荷重
PoHshhlg load
項粒濃度
CG戯胤of abrasives
階
ポリシング液供給量
Supply∬ux
調
基板回転トルク
Revolving torque
N㎜
基板半径
Subst㈱radius
㎜
V
第1章 序 章
第1章 序 章
1.1 デジタル情報化時代におけるストレージ技術の重要性1)2)3)
パーソナルコンピュータが牽引してきたデジタル情報機器は,ネットワークの進展とともにデジタル
情報家電の時代を迎え飛躍的な発展を遂げている.1990年代後半,Windowsの登場によりパソコン市
場は急成長を遂げたが,2000年代に入ると,パソコンの性能は消費者の求める水準からするとオーバー
スペック状態となり,市場は勢いを失った.しかしながら,年々飛躍的に向上する処理能力やストレー
ジ技術の進展は,身のまわりの製品に大きな変革をもたらし,現在では,家電からモバイル製品におい
てもデジタル情報を処理することが当たり前となった.携帯電話を例にとっても,当初は通話機能のみ
であったものが,デジタルカメラやデジタルオーディオプレーヤーとしての機能が付加され,デジタル
放送を受信する機能を持つものまで存在する.これらの機器で処理される現代のデジタルコンテンツは
多くのストレージ容量を消費すると同時に,従来のデータと比較して急激に増加する傾向がある.テキ
ストや画像といった比較的小さな容量のデータでは,従来用いてきた数十から数百メガバイトのストレ
ージ製品で対応できるが,オーディオやビデオデータなどでは数ギガから数百ギガの大きな容量が必要
となる.
Gordon BellらによるMyL挽B虻sプロジェクトのでは,一人当たりITBのストレージが必要になると
されていたが,現実はこれを上回る速度で進展している.ネットワーク性能向上は大容量ストレージを
不要にするといわれることもあったが,ネットワークのコストが安くなり,あらゆるものがネットワー
クにつながり,データがネットワークを介して加速度的に増殖するなか,高速・大容量ストレージは不
可欠なものとなっている.このような状況の中,記憶装置への要求は,大容量化,低価格化,高速化,
小型化,モバイル化など拡大する一方であり,今後のユビキタス情報化社会の進展にとって,ストレー
ジ技術がますます大きな役割を果たすと考えられる.
1.2 ハードディスク
1.2.1ストレージ分野におけるハードディスクの位置付け
ハードディスクは容量単位の価格が安価で大容量,ランダムアクセスが可能であり,アクセス速度も
比較的速いといった特長から,コンピュータの補助記録装置として利用されている。また最近では,デ
ジタル化が進む家庭用電化製品での利用も見られる.主流である3.5インチディスクの製品では,フラ
ッシュメモリや光ディスクなど他の記録媒体と比較して,圧倒的にビット単価は安く大容量の保存が可
能である.そのため,ビデオレコーダ,家庭用ゲーム機をはじめ,大きなデータ容量を必要とする製品
(数百ギガからテラバイトの容量を持つ製品)で今後も存在感を増していきそうである.また,パソコン
においても,主要記録媒体としての現在の地位はゆるぎないものである.それに対して,0.85インチや
1インチといった基板面積が小さい製品では,技術開発の進んだフラッシュメモリとの競合が見られる
ようになっている.ハードディスクの容量は内蔵される磁気ディスク基板の面積に比例するので,小径
のディスクでは十分な容量を得る事が難しい.これまで,ハードディスクが同じ容量のフラッシュメモ
一1一
第1章 序 章
りと比較して優れていたのは,ビット単価とデータ転送速度などであったが,現状では,ほとんど変わ
らない状態にある.ビット単価が同じであれば,外形寸法の小ささや消費電力の低さ,耐衝撃性,動作
温度範囲といった,主要な仕様のほとんどで劣っているハードディスクに勝ち目は無く,飛躍的な技術
革新が無い限り,携帯サイズの小型のモバイル製品市場における生き残りは困難であると考えられる5).
1.2.2 ハードディスクの進歩5)
ハードディスク装置がはじめて世に登場したのは米
IBM Corp.のIBM 305 RAMAC(図1,1)6)で,1956年のこと
である.RAMACとはRandom Access Method ofAccoun伽g
Contro1の略で,直径24インチ(約61cm)の巨大なアルミ合
金製のディスクを50枚格納していた.それでも総記録容
量は4.4MBであった.このIBM 350 RAMACの面記録密
度は,約2kBIIh2であった.
現在のハードディスクの元となったウィンチェスター
型(図1.2)ののハードディスクが登場したのは1973年であ
る.ディスクを交換型から固定型にしたことで,ディス
図1.1旧M350 RAMAC
クパックのような互換性確保の難しさを回避し,さらに
ヘッドとディスクを完全密閉したことで,空気中の塵や
埃の進入を防止し,信頼性が格段に向上した.また,ヘ
ッドの浮上方式が,ディスクの空気流で発生する圧力を
利用した動圧方式となったのもこの頃である.その後,
ディスクの直径は14インチ,8インチ,5.25インチへと
小型化が進み,1983年にRodime社から3.5インチハード
ディスクが,1988年にはPrairie艶ch社から2.5インチの
ハードディスクが発売され,これら二つが現在の主流と
図1.2ウィンチェスター(IBM 3340磁気
ディスク装置の内部)
なっている2)。
図1.3にハードディスクの面記録密度の推移を示す8)9).1956年に登場してから1980年代まで面記
録密度の向上は年率25%増であったが,1990年代にはいり,MR(Magneto Resisdve)ヘッド10)11)や
PRML12)13)などの技術により年率60%増に達した. MRヘッドは,磁気抵抗効果を利用して磁気信号を検
出するMR素子と,記録用の誘導型薄膜ヘッドを組み合わせた磁気ヘッドのことで,記録・再生に同一
のヘッドを用いていた従来のヘッドに比べて数倍の再生出力信号を得られる.PRMLは,既知の制御可
能な符号間干渉(波形干渉)を故意に導入することにより性能の良い情報伝送を実現するパーシャルレス
ポンス(PR)方式と,波形に雑音が含まれた場合でも最も確からしいデータ系列を再生する最尤(Ma㎞um
Likelihood)復号法の一種であるビダビ復号方式を組み合わせたものである.
一2一
第1章 序 章
103
1・・
回
心
。
@
/〆
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脚!
illl『BM334・面一) ・ぜ
麗
10−3・
年率25%アップ
10−4・
】α5
10−6
び堕
1BM 350 RAMAC
讐
1950
1960
1970 1980 1990 2000 2010年
図1.3 面記録密度の推移
1990年代,ハードディスクの出荷台数はパソコン市場の拡大と共に増加した.1995年に米Microso丘
Corp.のパソコンOS「Whldows95」が登場すると,パソコンは個人へも爆発的に普及し,1996年にはハ
ードディスクの年間出荷台数は初めて1億台を超えた.また,パソコンで扱うアプリケーションソフト
が増加し,テキストデータだけでなく,画像やオーディオデータなど扱うデータ量は急激に増加し,大
容量ストレージへの要求も急速に高まった.
1998年には,ハードディスクにGMRヘッド7)14)という新たな技術が導入された。 GMRヘッドは,
従来のMRヘッドの再生出力を数倍にすることができ,これにより面記録密度の向上を年率100%にま
で上昇させることができた.この頃になると,ハードディスクの低価格化が急速に進行し,毎年容量の
大きなハードディスクが登場し,はじめは高い価格が設定されるが,1年後には数分の一にまで下がる
という状況が続いた.また,ハードディスク内臓DVDレコーダや録画パソコンといったAV機器への
登用がはじまった.テレビ番組の録画を目的とした機器では,パソコンに比べると格段に記憶容量が必
要となり,しかも光ディスクなどの記録媒体と比べると転送速度が速く,ランダムアクセス性も高いた
め,ハードディスクの特長を生かすことができた.
2002年頃から,記憶容量の向上に加えて,小型化の傾向が見られるようになる。ディスクサイズ別の
ハードディスク容量の推移を概略的に図1.4に示す9)15).この頃,一般にオフィス用途のパソコンで必
要とされる容量である数十ギガバイトを,25インチ型のハードディスクでも十分実現できるようにな
った.デスクトップパソコンの小型化が進み,オフィスにおいてノートパソコンが主流となりはじめ,
パソコン向けのハードディスクでは,容量の大きさよりも小型・軽量で低消費電力であることが求めら
れるようになった16)1力.また新たに,ディスクサイズ1.8インチ以下の製品が携帯オーディオプレーヤ
ーなど小型モバイル製品へ登用されるようになり,生産量が急激に拡大した.
一3一
第1章 序 章
1000
0
3.5inch
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竃卜
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.≠霧2・5inch
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1
1994 1996 1998
2000 2002
2004 2006年
図1.4 ハードディスクのデータ容量の推移
1ビット
1ビット
トラック幅
”
”
拶凡;灘
瓢§鐘s難 饗鷲 阿s灘
繧、 灘
霧劉
胴雛
。≒馨i祭勲慧簸霊薫耀
(a)長手磁気記録方式
トラック幅
繹靴「
(b)垂直磁気記録方式
図1.5 長手磁気記録方式と垂直磁気記録方式の違い
2000年に入っても,面記録密度の向上は年率60%程度に維持されたが,さらなる高密度化をはかるた
めには磁性体の結晶粒子をさらに小型にする必要:があり,”熱揺らぎ”の問題を解決する必要があった.
そこで,本格的な開発が進んだのが垂直磁気記録方式18)である.従来の長手磁気記録方式と垂直磁気記
録方式の違いを図1。5に示す.長手記録方式では,媒体の表面に対して平行の方向に磁性層を磁化させ
て信号を記録するため,ビットの境目は反発しあう極同士が向き合い不安定になる.それに対して,垂
直磁気記録方式では,媒体の表面に対して垂直の方向に磁性層を磁化させて信号を記録するので,ビッ
トの境目が吸着しあう極同士が向き合うこととなり,高密度化しても安定な状態を維持できる.このた
め,平行に磁化する従来の長手記録方式に比べて”熱揺らぎ”に強く,記録密度をさらに高めることがで
きる.垂直磁気記録方式を採用したハードディスクは,2004年に発売が開始されている.
一4一
第1章 序 章
400
窪
彊300
当
薯
無200
4且
ヨ…IlOO
o
9
0
1992
1995
1998
2001
2004
図1.6 ハードディスク出荷台数の推移
ハードディスク出荷台数の推移を図1.6に示す19).ハードディスクの出荷台数は,パソコン出荷台数
の減少により2001年に初めて前年比で減少したが,堅調なパソコン需要とコンピュータ以外の機器へ
の搭載が始まり,それ以降,順調な伸びを示している.2005年度にはハードディスクの出荷台数は3.7
億台を超え,そのうち約15%が非パソコン向けに出荷されている.今後も数年は,年率10%程度の増加
が見込まれている.
デジタル磁気記録の物理限界は,40TBIIn2と言われており20),面記録密度は現在の100倍以上の向上
が可能であるとされている.しかし,垂直磁気記録方式の上限が見極められようとしている現時点にお
いて実現への道筋は見えておらず,これまでにない新たな技術の開発の必要性が高まっている.
1.2.3 ハードディスクにおけるデータの保存と取り出し
(1)ハードディスクの構成21)
図1.7にカバーを外した状態のハードディデ
spi・d】c m・t・・Head s・・spc・si・・
イスクの写真を示す.実際には,ハードディス
クは外部からの埃などの侵入を防ぐため密閉
状態にある.ハードディスクは,高速で回転す
る磁気ディスク表面上の磁気ヘッドによりデ
ータの読み書きを行う.ヘッドはボイスコイル
モータによりスイングするアームの先端に設
けられており,ディスクの回転に伴う空気流に
よりヘッドはディスク上を微小空間を隔てて
図1.7ハードディスク
浮上している.ハードディスクの記録密度を高
めるためには,ヘッドの浮上量を小さくし磁性層上に小さなサイズのピットを形成しなければならない
そのためヘッドの浮上量は年々減少しており,2007年現在では10㎜以下となっている22).
一5.
第1章 序 章
(2)ハードディスクにおけるデータの保存と取り出し原理7)
ディスクへの読み書きには磁気ヘッドが用いられている.従来は,読み込みと書き出しが一体となっ
たインダクティブ・ヘッドが用いられていた.しかし,単に電磁誘導の法則を用いて磁界を電気信号に
変換する従来の方法では,面記録密度が向上するにしたがって,トラック幅が狭くなり,再生信号電圧
が小さくなってしまう.そこで,磁界に応じて電気抵抗効果素子(MR素子, GMR素子)を用いてディス
クから発生する磁界を電気信号に変換する技術が用いられるようになり,現在の磁気ヘッドは再生ヘッ
ドの上に記録ヘッドを積層した構造となっている.
コイル
再生シールド
欝,
@
・舜しイ
@
辮1,
ヘッド移動
L雛極
綴
襲
崔.ll
〔⇒
慧
墾
GMR素子
記録層
記録層
赶ツ
基板
磁気ヘッド磁界
再生磁界
(a)記録ヘッド
(b)GMR再生ヘッド
図1.8 記録・再生ヘッドの構造
記録ヘッドの構造を図1β(a)に示す。記録すべき信号に合わせて変調された電流が,磁気ヘッドのコ
イルに流されると,ヘッド磁極内に磁束が発生する.この磁気ギャップからの漏れ磁界により,回転す
る記録磁性層の磁化を信号に合わせて,所定の方向へ磁化させることにより記録を行うことが出来る.
この過程において,書き込み用の信号電流とディスクの動くタイミングとはうまくシンクロされている
信号の再生は,記録とは正反対に,信号として記録されたディスク記録層磁化から発生する磁界を再
生ヘッドで検出する.再生ヘッド(GMRヘッド)の構造を図1.8(b)に示す.ディスク記録層の記録磁化の
向きが変化する領域(磁化転移)からは,再生信号としての磁界が漏れ出ている.再生ヘッドのGMR素
子は,記録磁化からディスク表面に漏れ出した信号磁界を受け,電気抵抗を変化させる.この電気抵抗
の変化を検出することによりディスクに保存した記録を読み出すことができる.
1.3 磁気ディスク基板の製造要件
1.3.1磁気ディスク基板の製造手順7)22)23)
ハードディスクに用いられる磁気ディスク基板には,大きく分けてアルミニウム合金基板とガラス基
板(以下,アルミ基板およびガラス基板と呼ぶ)が存在する.一般的に,耐衝撃陛に優れているガラス基
一6一
第1章 序 章
板は,ノートパソコンなどモバイル用途で優位であるとされ,2.5インチ以下の基板が使用される小型
の製品に多く搭載されている.一方,アルミ基板は量産性に優れており,35インチ基板をはじめとす
る大型・大容量の製品が主力となっている.2005年の時点でハードディスク全体の約7割がアルミタイ
プの基板で占められている.本節では,本研究で加工対象としているアルミ基板について,製造手順を
整理した.
ゴ
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・.霧一
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均質処理
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冷間圧延
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中間焼鈍
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ブランク用コイル
↓
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スタッキング
↓
プレス焼鈍
↓
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内外径加工
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.
前処理
旦
粗研二削
↓
洗浄
ユ
仕上研削
↓
洗浄
↓
検査
Nipメッキ
↓
焼鈍
↓
1次研磨
1
洗浄
↓
2次研磨
↓
仕ヒげ/冷間圧延
洗浄
↓
レベリング
↓
スリッ声風
↓
表面検査
図1.9 アルミ基板の製造工程
アルミ合金素材から磁気ディスク基板となるまでの製造工程を図1.9に示す.アルミの素材は,熱間/
冷間の各圧延工程を経てスリッターにより切断され,アルミ合金のコイルとなる.その後,コイルをデ
ィスクの形状に打ち抜き,プレス・焼鈍したものがブランクである.ブランクは更に,内外径を所定の
形状に加工され,研削加工を経てアルミサブストレート
伽ミ基板)となる蕊磁気ディスク基板1よこの灘覇灘繍懸羅疑
アルミサブストレートの表面にニッケルりんの無電解メ
保護膜
ッキ加工が施されたものが使用されており,メッキ処理後,
1次・2次研磨を経て洗浄・検査され,ニッケルりん無電
解メッキ磁気ディスク基板(以下,ニッケルりん基板と呼
ぶ)となる。
図1.10に実際にハードディスクに搭:載されるディスク
の断面構造の概略図を示す.実際の製品ディスクでは,
基板
Nipメッキ層の上に下地層・磁性膜・保護膜・潤滑膜の各
層が形成される.このうち,下地層・磁性膜・保護膜の各
一7一
図1.10 ディスクの断面構造
第1章 序 章
層は,連続してスパッタ加工される.アルミ基板では,スパッタに先立ってディスクの表面にテクスチ
ャ加工が施される.テクスチャ加工は,磁極の配向性をよくするために表面に細かい凹凸をつける処理
で,一般に研磨テープとダイヤモンドスラリーを用いて行われる.下地層はクロム合金からなり,実際
の磁気記録を行う磁性層の特性(保磁力など)のをコントロールする機能を有している.磁性層は,コバ
ルト・クロム・白金を主材料としてタンタルやボロンを添加したものにより形成される.保護膜は,酸
化防止とヘッドの接触などからの保護を目的として,DLC(Dialnond Like Carbon)の膜が形成される.こ
れらの膜をスパッタした後,研磨テープにより表面のバニッシュが行われ,クリーニングテープによる
洗浄が行われる.最後に,ディスクとヘッドの潤滑のため,ディップコートによりフッ素系の潤滑膜が
形成される.このようにして製造されたディスクは,グライドハイトや電気特性などが検査され,製品
としてハードディスクに実装されるディスクとなる.
一般的にアルミ基板からNipメッキ層までをサブストレートと呼び,本研究では,このサブストレー
ト製造の最終工程である,ニッケルりんメッキ表面の1次∠2次研磨工程の高効率化を目標としている.
1.3.2 磁気ディスク基板の品位
(1)磁気ディスク基板に求められる特性
一般的に,ハードディスク基板には,①非磁性材である,②耐衝撃性にすぐれる,③欠陥がない,④
粗さ・平坦度など必要な精度が得られる,⑤物理的・化学的に安定である,⑥熱膨張率が小さい,⑦低
コストで量産できる,などの特性が求められる⑳.ハードディスク用基板としてはアルミ基板とガラス
基板の2種類が存在するが,それぞれ優劣はあるものの,以上あげた両基板とも要求特性を満たしてい
る.先に述べたように,耐衝撃性については,ガラス基板が優れている.粗さ・平坦度など加工特性は
1996年頃まではアルミ基板が優位とされていたが,現在はほぼ同列とされている.量産性については,
アルミ基板が依然優れている25).
以下,本研究の目的である,テクスチャ加工前のニッケルりん基板表面に求められる品位について整
理する.
(2)平滑性
先に述べたように,ハードディスクは高速度化・大容量化が急速に進んでおり,磁気ヘッドの浮上高
さを更に低減しディスクの磁気記録密度を向上させる必要がある.ヘッドの浮上高さが微小となってく
ると,基板には非常に高い平滑性が求められる.磁気ディスク基板には,表面にピットやスクラッチな
どの微小欠陥が無いこと,ヘッドクラッシュの原因となる突起状の欠陥が無いことが求められる.さら
に,磁気ディスク基板の表面には,表面粗さから長波長のうねりまでの平滑度の向上が不可欠である.
現在,アルミ基板のテクスチャ加工に要求される表面粗さは0.3nm程度で,その基準表面となるポリシ
ング加工面には表面粗さで0.1㎜程度,うねりで05㎜程度が求められる26).
(3)垣越ダレ
磁気ディスク基板では,後述する両面ポリシング装置により表面平滑度の向上が図られるが,このと
き問題となるのが基板端面のダレ下がり(以下,端面ダレと呼ぶ)である.より大きな容量:を確保するた
一8一
第1章 序 章
めには,磁気記録が可能な面積をより周辺部まで広げる必要があり,平坦部を極力大きくとることが必
要となる.特に,1インチやL8インチといった小型の製品では,端面ダレの形成が記録可能面積の減
少に及ぼす影響は大きい.また,磁気ディスクと同じように,シリコンウェーバ製造におけるCMP
(Chemical Mechanical Polishing)工程においても,端面形状のダレ下がりを抑制することは,デバイス
の製造可能な領域を広げるため重要な課題の一つとなっている27).
このように,実用上の重大な課題であるにも関わらず,膨面形状のダレ下がりの原因等については,
解明されていない点が多い.また,その評価手法についても,確立された評価方法は存在しないといえ
る.ウェーバの端面形状の評価手法として比較的広く用いられているのは,Khnuraらが提案している
ROA(Roll−off Amount)という評価値である28).図1.11にROAの定義を示す.この評価値は,ウェーバ
が平坦と考えられる,ウェーバの物理的な先端から3∼6mm位置のウェーバ形状から基準平面を求め,
1㎜位置のウェーバ形状とその基準平面との距離として定義されている.ROAは,ウェーバ外縁部が
どれくらいダレているか,または盛り上がっているかを表す指標である.
Fitting line白1 re罰erenCe arc臼
遷
ROA
9
8
醤
お
0
Re{℃rence area
璽
3
6
Dist㎝ce爺。㎜physical edge[㎜]
図1.11 ROAの定義
ポリシング加工前のアルミ基板(表面粗さ伍・a:6.0㎜,微小うねり恥a:2.4㎜)の基板端面形状の測定例
を図1.12に示す.図からわかるように,ポリシング前の基板には基板端面が盛り上がった形状のもの
と,ダレ下がった形状のものがあり,同一の基板であっても測定箇所によって端面山・端面ダレがとも
に確認される場合もある.
nm
獅
癒
150
100
馨 50
0
nm
150
{00
50
0
−50
−50
−100
−100
一一
P50
・150
(b)端面ダレ
(a)端面山
図1.12 未加工基板の端面形状
一9一
第1章 序 章
(4)基板形状
一般的なポリシング加工前の3.5インチアルミ基板の形状を図1」3に示す.基板厚みは1.27㎜で,
外径は95mm,内径は25mmである.ニッケルりんメッキの厚みは14陣程度で,この後施される1次
/2次研磨加工により,両面それぞれ5μm程度除去される.図に示すように,基板の端面にはチャンファ
部と呼ばれる,平坦面とある角度を持った部分が存在する.チャンファ部の形状は,メーカーにより様々
であり,図中にその一例を示す.本研究では,角度45度のチャンファ部が外周端から150μmにわたっ
て存在するものを用いた.
X
θ
012mln
25。
015mm
45。
を.磯繕磁繕馨「.
慧雛 蓬§
慧 ・叢§
鳶
争
髪
諺獲蒙舞饗甥
駆
、
__._辺25mm___串
Edge chamfbr
L「r
図1.13板厚1.27mmのアルミ基板形状
一10一
第1章 序 章
1.4 磁気ディスク基板のポリシング技術の現状
1.4.1ポリシング方法
ポリシング加工は,ポリシング液とポリシャの組み合わせで,比較的容易に高平滑面が得られ,古く
から用いられている加工法である.ポリシング液は,砥粒を水などの溶媒に分散させたもので,酸やア
ルカリなどエッチング効果を付与したものも存在する.ポリシングのポリシャには,砥粒を一時的に保
持し材料除去を効率よく進行させる効果がある.ポリシング加工は,無数に存在するポリシャとポリシ
ング液の組み合わせにより加工特性が大きく異なり,磁気ディスクにおいても多くの方法が試みられて
きた.現在,磁気ディスク基板のポリシング加工に,一般的に用いられているポリシング液は,1次研
磨ではアルミナ砥粒のもの,2次研磨ではコロイダルシリカ砥粒のものが用いられる.ポリシャはスウ
ェードタイプのポリシャが使用されている.しかし,このようなポリシング液・ポリシャがなぜ選択さ
れたのかと問われると,長年の経験と実績によるところが大きく,ポリシング条件の設定方法について
明確に理論付けがなされているわけではないのが現状である。
磁気ディスクのポリシング加工は,両面ポリシング盤により行われる.大きいもので2メートルを超
える定盤に,数十から百枚程度の基板をセットし,条件を変えて1次/2次研磨が施される.
1.4.2 両面ポリシング盤
磁気ディスク基板のように,両面を高平滑に加工するものに対しては,平行平面の得られやすい,両
面同時ポリシング(4ウェイ方式)が有効である.代表的な両面ポリシング盤iの構成例を図1.14に示す29).
4ウェイ方式の両面ポリシング盤の主な要素は,上回転定盤・下回転定盤・キャリア・サンギア・イン
ターナルギアである.工作物は,外歯の歯車
が切られたキャリア内に複数枚保持され,逆
方向に回転している上下回転定盤間に挟み
込まれている.キャリアはサンギアおよびイ
Polishhlg plate
ンターナルギアと噛み合っており,それぞれ
のギアは逆方向に回転している。このため,
キャリアはサンギアの周りを自転しながら
公転し,キャリアに保持された基板は上下定
盤間を遊星運動し,両面が均∼にポリシング
Carrier
される.使用されるキャリアは,工作物に対
Intemal gear
するダメージを考慮して樹脂製のものを使
用するのが一般的であり,当然,キャリアの
厚みは工作物の厚みよりも薄いものが用い
られる.
図1.14 代表的な両面ポリシング盤の構成
一ll一
第1章 序 章
L43 ポリシング液
超精密ポリシングに使用される砥粒には,物性が均一であり,粒度または粒度分布が適正であること
が求められる.砥粒には天然に産出した砥粒材料を,所要の粒度に分級した天然砥粒と,天然材料を原
料として精製または合成した素材を整粒した人造砥粒がある.最近は物性の均一さの点で,人造砥粒が
広く用いられている.
アルミ基板には,一般的に1次研磨ではアルミナ砥粒(A1203)のものが使用され,2次研磨では,コ
ロイダルシリカ砥粒(SiO2)を用いたポリシング液が用いられる。本研究では,平均粒径80㎜のコロ
イダルシリ三門粒を使用した.使用した砥粒のSEM像を図1.15に示す.
図1.15 コロイダルシリカ砥粒のSEM写真
コロイダルシリカは多数の1次粒子が集合した凝集粒子である微粒子けい酸と異なり,個々に分散し
たユ次粒子の形態で存在する.コロイダルシリカの粒子表面にはOH一イオンが選択的に吸着され,その
外周にはNa+イオンあるいはNH4+イオンのような対応するイオンがある濃度勾配を持って存在してい
る.拡散2重層,又は電気2重層と呼ばれる電気的勾配によって粒子同士は互いに反発し合うため,凝
集することなくゾル状態を保つことができる。例えば50wt%の高濃度であってもスラリ状態を保ち多数
の砥粒を研磨面に作用させることができる.
シリコンのポリシングにおいては加工能率を上昇させるために,NaOH, KOH,有機アミン等の各種
アルカリを添加して使用することが一般的である.アルカリの添加により加工能率は著しく向上し,数%
の砥粒濃度で十分な能率が得られる.無機系のアルカリを添加する場合,コロイダルシリカが溶解して
アルカリを消費しpHが低下する傾向がある.粒子系の小さいコロイダルシリカは溶解速度が早く定常
的研磨特性を得るためには,アルカリを添加後数時間放置して使用することが望ましい.粒子系の大き
いコロイダルシリカはpHの低下傾向が比較的緩慢であるので,スラリのもつメカニカル性を強調した
ポリシングを達成することができる.
一12一
第1章 序 章
1,4.4ポリシャ
アルミ基板のポリシングには,1次/2次研磨で共にスウェードタイプのウレタンポリシャが用いられ
る.本研究では,表面構造の異なる二種類のポリシャを用いている.
図i.16に本研究で用いた,表面構造の異なる二種類のポリシャの表面及び断面写真を示す.図1.16(a)
に示す,一層構造のスウェードタイプポリシャ(以下,一層ポリシャと記す)の表層には,数百μmの
大きな空孔があり,その周りに薄い壁状の膜が存在する.そして,壁状膜内には,5μm以下の微小空孔
が見られる.また,壁状膜の最外表鍵層の部分には突起状ナップ部が見られる.一方,図1.16(b)に示
す,二層構造のスウェードタイプ(以下,二層ポリシャと記す)では,最表面層に比較的小さな規模の
空孔(小空孔)があり,その空孔のまわりには壁状膜があり,その膜内には微小空孔が存在する.最表層
の下は,大きな空孔(大空孔)をもつ第二層構造が存在する.
鐡灘
一層ポりシャ(断面)
一層ポリシャ(表面)
(a)一層ポリシャ
二層ポリシャ(断面)
二層ポリシャ(表面)
(b)二層ポリシャ
図1,16ポリシャのSEM像
一13一
第1章 序 章
1.5 本論文の目的と概要
近年,ハードディスクの大容量化・低価格化が急速に進んでいる.そのため,その構成要素である磁
気ディスク基板では,製造過程の高効率化が求められ,基板製造の最終工程となるポリシング加工にお
いても加工の高能率化が要求されている.ハードディスクの記1意容量を決定する磁気ディスクの磁気記
録密度を向上させるためには,磁気ヘッドの浮上高さを10㎜以下で安定させる必要があり,磁気ディ
スク基板表面の超平滑化が不可欠である.先の研究で,ニッケルリン無電解めっきされたアルミ基板の
超平滑面の形成には,コロイダルシリカ早撃を用いた超平滑ポリシング加工が有効であることが見出さ
れた.しかし,現在のコロイダルシリカ砥粒での加工速度は0.1μm!min程度が最大であり,高能率化と
いう点では大きな課題があった.
このような観点から,本研究ではコロイダルシリ革砥粒を用いた磁気ディスク基板の高除去速度ポリ
シング技術の開発を目的としている.過去の概括的な検討結果より30ン32),磁気ディスク基板のポリシン
グ加工の加工能率を現行のものよりも大幅に向上させる方策として,ポリシング圧力・速度を高圧力・
高速度に設定することが有効な手段の一つであることが確認されている.そこでまず,現状の高圧力・
高速度条件と比較して数倍の圧力・速度を設定可能な片面ポリシング装置を開発した.開発した装置を
用いて,超高圧力・超高速度条件の磁気ディスク基板のポリシング加工に対する効果を検討し,ポリシ
ング圧力および速度と除去速度との関係等を明確にした.また,さらに経済的な観点から,ポリシャ寿
命についても表面構造の異なる二種類のポリシャを例にとり検討を行った.次に,実用化の可能性を検
討するために,この超高圧力・超高速度ポリシングの両面ポリシング加工への適用を考えた.しかし,
一般的なポリシング装置では,超高圧力・超高速度のポリシング加工に耐えうる仕様を備えておらず,
その実現は困難であることがわかった.そこで,一般的な装置での歯車を用いた機構上の課題を解決し
た,新たな両面ポリシング技術を構築し検討を行った.
本論文は7章より構成され,各章の概要は以下の通りである.
第2章では,アルミ基板の高能率ポリシング加工に対する超高圧力・超高速度条件の効果を,コロイ
ダルシリカ叩網を用いた片面ポリシングにおいて検討し,その有用性を明らかにした.
第3章では,ポリシング過程における除去速度の変化を調べ,高除去速度のポリシング加工がポリシ
ャ寿命に及ぼす影響について検討した.検討は,表面構造が一層構造のポリシャを例にとり,ポリシャ
表面をSEMにより詳細に観察することで行った.その結果,除去速度の減少はポリシャ表面の摩耗や
綿布の堆積により引き起こされることがわかり,砥粒の堆積を条件別でみると,より高圧力の条件で堆
積が起こりにくいことを見出した.
第4章では,第3章で用いた一層構造ポリシャとは異なる表面構造を持つ二層構造ポリシャの寿命特
性を調べ,一層ポリシャと二層ポリシャの表面構造の違いによる寿命特性の差異を検討した.その結果,
ポリシャ寿命を引き起こす砥粒の堆積は二層ポリシャの奪合で起こりにくく,長寿命の加工が可能であ
ることがわかった.
第5章では,新しく開発した高能率両面超平滑ポリシング法について概要を述べ,高圧力・高速度の
ポリシング加工の,両面ポリシングへの適用可能性について検討した.新しく開発した方法では,一般
一14一
第1章 序 章
的な4ウェイ方式のポリシング装置で高圧力・高速度加工をする場合に問題となっている歯車を使用し
た基板回転機構に対して,ポリシャ表面に任意の形状の溝加工を施すことにより,ポリシャ表面と基板
表面との接触状態を適切に制御する独自の基板回転機構を有しており,一般的な両面研磨装置では加工
が困難であった,超高圧力・超高速度の両面ポリシング加工を可能にしている.本章では,考案した新
しい高能率両面超平滑ポリシング法を用いた,アルミ基板のポリシング特性について検討し,本技術に
おいて高能率な超平滑ポリシング加工が可能であることを確認した.
第6章では,第2章で有用性を確認した,超高圧力ポリシングの更なる可能性を検討するために,
300kPaの超々高圧力でポリシング加工を行った.その結果,一般的なスエードタイプのポリシャとコロ
イダルシリカ砥粒を用いて300kPaの超々高圧力においてポリシング加工が可能であることを見出した.
そして,第7章では,以上の各章で得られた主要な結論を要約し,総括している.
一15一
第1章 序 章
参 考 文 献
1)平成19年度ストレージ技術分科会事業計画,http:〃homejeita.o正jp/的ch/subcommi賃ee/storage.p〔廷
2)桑野雅彦編著:PCストレージ・デバイス活用大全, CQ出版社,(2003)
3)佐藤勝昭:光磁気ハイブリット記録,光ディスク懇談会,(2004)
4)Gord。n Bell, J㎞Ge㎜e11:ADigital L泌, Scien面。㎞e働,(2007)
5)技術の流れを読む・HDD編,醸p:〃t㏄ho龍nikkeibp.cojplarticle1NEWS1200508291108002
6)Computer Museum記憶装置の歴史, ht‡p:〃www.ibnL◎om加加/(日本BM)
7)岡村博司編著:ハード・ディスク装置の構造と応用,CQ出版社,(2002)
8)樋口龍治,森恭一:ハードディスク設備の展望,日立評論%L89(4),(2007)60
9)ハードディスク50年目の大変革,日経コンピュータ,(2004)126
10)松崎幹男:HDD用MRヘッド,映像情報メディア学会誌,51(6),(1997)777
11)真島恵吾ほか:回転ドラム搭載型MRヘッドの高密度記録再生特性,映情学技報,23(78),(1999)21
12)大沢寿ほか:高密度ディジタル磁気記録のための信号処理技術,電子情報通信学会論文誌,
Vb1」81−C−ll(4),(1998)393
13)大沢寿:垂直磁気記録のための信号処理技術の進展,信学技報,(2005)7
14)荒木悟:TMRヘッドの現状と展望, IDEMA Japan News Nα39,(2000)3
15)htΦ:〃wwwhtachigstcom!hd畝ec㎞ololoverview/(Hitachi Global Storage艶。㎞010gies)
16)青柳充彦,黒木賢二:1インチ型ハードディスクドライブ”マイクロドライブ”,日本応用磁気学会
誌Vbl.24(1),(2000)19
17)吉田武史:ハードディスク装置の消費エネルギーと省エネルギー対策,日本時計学会誌∼bL44(4),
23
18)Ybicllh・o TANAKA:Development of Pelpendicular Magnetic Recording Hard Disk Drive, IEICE T㏄㎞ical
RJeport MR2005−7,(2005)l
19)加藤良則,梅田秀俊,星野晃三:高容量磁気ディスク用アルミニウム合金基板,神戸製鋼技報Vb1.55
(2), (2005)81
20)寺田章:ハードディスクドライブのテクノロジ挑戦,日本応用磁気学会誌刃bL29(12),(2005)1013
21)吉田武史:ハードディスク装置の構造と構成要素の機能,日本時計学会誌『VbL47(1),60
22)樋口龍治,森恭一:ハードディスク製造設備の展望,日立評論VbL 89(4),(2007)60
23)加藤良則,梅田秀俊,岡田圭司,高木隆行:磁気ディスク用アルミニウム合金基板の技術動向と当
社の製造技術,神戸製鋼技報Vbl.54(1),(2004)19
24)江田伸二:次世代の超精密加工技術(下巻)第3章電子材料の超精密研磨加工,llO2
25)岡村康弘:改めてHDD用媒体の基板材料特性を比較する, IDEMA Jap鋤News No.59
26)小池一幸:HDD用磁気ディスク基板事業を振り返って,日本応用磁気学会誌,㍉bl.29(1),(2005)3
27)福田明ほか,CMP研磨プロファイルに及ぼすウェーハエッジロールオフの影響,2004年度精密工
学会秋季大会学術講演会講演論文集,497
一16一
第灌章 序 章
28)森本勉,戎井真:光干渉法によるウェーバの精密形状計測,神戸製鋼技報恥L55(1),(2005)45
29)ht‡p:〃www. speed㎞1.com加/index.ht囲(スピードファムクリーンシステム株式会社)
30)安井平司,佐藤郁,松永竜二,小林深:アルミナ砥粒による磁気ディスク基板の高平滑ポリシン
グに関する研究(第1報),精密工学会誌60(1),(1994)128
31)安井平司,佐藤郁,松永竜二,鈴木幸雄:アルミナ砥粒による磁気ディスク基板の高平滑ポリシン
グに関する研究く第2報),精密工学会誌,60(ll),(1994)1631
32)佐藤郁,安井平司,鈴木幸雄,小林深:磁気ヘッドスライダの極低浮上化に及ぼす基板の超平滑
ポリシングの効果,精密工学会誌,60(9),(1994)1268
・17一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2,1 はじめに
磁気ディスク基板は,求められる品位が年々厳しくなる反面,生産量が年間6億枚以上にま
で拡大しており,高精度で安価な加工技術の確立が求められている.磁気ディスク基板のポリ
シング加工条件・要件を図2コにまとめた.図に示すように,基板がポリシング加工を経て,
ハードディスクメーカに供給される製品基板となるためには,加工品位と加工価格を適正にす
る必要がある.加工価格は人件費と工具費からなり,効率化による人件費の削減と工具の超寿
命化が必要となる。本章ではまず,ポリシング加工工程の時間短縮を目標に,高能率のポリシ
ング加工技術について検討を行った.
加工品位
乎坦又
ツ平滑度
[面 レ
@1浄度
加工現象、、
・爪リシン
基 板
サの他
加工価
ル’
人件
Aポリシン・温ユ
H具
@. の 、.、、
@の
ポリシング加工
製 晶
研磨加工物
運動 件
アルミタイ
’・リシン
加工 牛
置
ガラスタイ
ッ.加工枚9
その他
結晶化ガラス
キャリア
強化ガラス
ボリシャ
一
その他
@
材 質
表面 ’
¥面加工
サの他
u 粒
{リシング液
、濃 度
その他
沂距ハ
サの
図2。1 磁気ディスク基板のポリシング加工
一18一
゙ 質
厚 さ
サの他
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
研磨加工におけるプレストンの式によると,研磨量はポリシャとの研磨距離と研磨圧力に比
例する.先の研究において,アルミ基板のポリシング加工において圧力・速度の研磨除去速度
に及ぼす影響を検討し,現在企業で行われているポリシング条件の範囲において適用可能であ
ることを示した1)一2).しかしながら,これまで用いた装置では,機構上の問題から,一般的に
行われている高圧力・高速度を上回るポリシング条件を設定することが出来ず,罪なる高能率
化を検討することは困難であった.そこで,加工プロセスのさらなる高能率化を目指し,新た
に加圧機構を改善した片面ポリシング盤を試作した.ここでは,この試作したポリシング盤を
用いて,アルミ基板を工作物として,従来検討を行ってきた,高圧力・高速度の条件を数倍程
度上回る,超高圧力・超高速度のポリシング加工特性を検討した.
2.2 実験装置・評価方法
2.2.1 実験用ポリシング盤
先の研究で使用した従来の片面ポリシング盤を図2,2に,新たに開発した片面ポリシング盤
の概略図を図2.3に示す,新たに試作した本装置は,一般的な高圧力・高速度条件を数倍程度
上回る,超高圧力・超高速度ポリシングにも対応している。加工原理は従来の装置と同様で,
ポリシング定盤に貼り付けたポリシャに,基板ホルダに取り付けた磁気ディスク基板を定圧で
押しつけ,ポリシャと基板ホルダとの相対回転運動で加工する方式である.従来の装置との最
も大きな違いは,ポリシング荷重の負荷方法を変更したことである.従来の装置では,片持ち
梁上に設置した基板ホルダ用回転軸に荷重を掛けていた.その方法では,負荷荷重も同時に回
転してしまい,大荷重を高速度で加工を行う場合問題となる.
Shaft
Weight
1{older motor
Polishing Plate
B,lt監
Plate motor
Arm
舳..璽.
物、
妻
父
Inverter
.厩
罫鄭
一
.汎
ノ/一
窯無毫灘
Balancing Weight
,.ノ
Substraもe holder
B・ltL、/
図2.2 従来の片面ポリシング盤概略図
一19.
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
Weight
Polishing Plate
輪
環
餅ご鞭i蜘
Universal joint
Holder motor
Plate motor
Substrate holder
雪
図2.3 片面ポリシング盤概略図
表2。1 片面ポリシング盤の仕様
Polishing Pressure
Min.P:2.4kPa
Plate revolution
MaxNp:1800min’1
Polishing speed
Max.粕:韮8m/s
Plate diameter
305mm
Driving motor
3.7kW
Holder motor
,
0.75kW
そこで,本装置では,荷重は4本の垂直軸を介して上下する非回転の四角形の荷重支持板で
受ける.支持板の中央には,テーパ軸受け外輪が取り付けられている.この軸受け外輪からの
荷重を伝達するテーパ軸受け内輪を持つ上部軸がある。この上部軸の下部には,球ベアリング
が取り付けられている.その球ベアリングを介して荷重を下音陣由に伝達する.下部軸は,基板
ホルダ回転用モータからの回転ベルトによって回転するが,上部軸は回転しない.これにより,
下部軸に取り付けられたユニバーサルジョイントに接続する基板ホルダが回転する.回転数は
回転用モータのインバータで制御できる.片面ポリシング盤の主な仕様を表2.1に示す.
加工部の概略図を図2.4に示す.前述したように,本装置ではポリシング定盤に貼付したポ
リシャに,基板ホルダで保持された磁気ディスク基板を定圧で押し付け,ポリシング液を問に
常時介しながら,ポリシャとホルダの相対回転運動により加工を行う.基板ホルダはホルダシ
ャフトにユニバーサルジョイントにより連結されており,ポリシング定盤の回転に追従した安
定した回転が得られる.
一20一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
Polishlng且
bstrate holde!・
Ca㎡er
Pollshlng Plate
図2.4ポリシング加工部
図2。5にポリシング抵抗の測定方法を示す.基板に定盤回転方向のポリシング抵抗が作用す
る。その作用力から生じる片持ち梁への曲げモーメントを,片持ち梁上に貼付したストレイン
ゲージにより検出し測定した.ポリシング抵抗測定において,基板ホルダへの負荷を伝えるシ
ャフトが荷重部から一体になっている場合に,ポリシング抵抗による曲げモーメントは拘束を
受ける。その拘束を避けるために,シャフトは片持ち梁上面付近において2段階に分割されて
いる.また,結合部での摩擦力を減少させるために,シャフト先端を半球状にし,点接触とし
ている.上シャフトにはベルト駆動による回転を与えていない.
iSha丘
S1■ain gauge
Moment 聯
。Belt凌
Substrate holder
導
叢蒙難羅舞紬
Polishing fbrce
Polishing Plate
図2。5 ポリシング抵抗装置概略図
.21一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.2.2 洗浄装置
ポリシング加工表面を高精度で計測・評価するためには,ポリシング後の表面付着物を可能
な限り完全に除去する必要がある.ポリシング後の磁気ディスク基板を洗浄せずに長時間放置
しておくと,表面に微小な付着物(パーティクル)がっきやすく,一端付着したものを後で除
去することは困難である.この微小な付着物の影響によって,実験により得られた精度が失わ
れ,基板の表面形状や端麗形状を正確に測定することが不可能となる。本研究では,製作した
簡易的な洗浄装置により基板の洗浄を行った.
洗浄装置の写真を図2.6に示す.この装置は,磁気ディスク基板の表面をポリビニルホルマ
ール樹脂製(PVA)のスポンジにより挟み込み,純水を流しながら基板とブラシを回転させて
洗浄する.PVAスポンジは,非常に緻密な気孔構造を有しており,水を含むと軟化する性質が
あり基板に対して損傷を与えることなく,基板表面に付着した粒子を取り除くことができるた
め,超精密洗浄に広く利用されている.
この簡易洗浄装置の仮洗浄機としての性能を調べるため,磁気ディスク基板を,ポリシング
後,①その場ですぐに仮洗浄したもの,②数十時間純水に漬けておいて精密洗浄(九州松下所
有の大型精密洗浄装置使用)したもの,および,③すぐ仮洗浄した後に精密洗浄をしたものの
3種類の基板を,それぞれX線光電子分析装置(ESCA−850:SHIMADZU)を用いて比較した.
その結果,②には,付着物としてシリカが確認されたが,①と③には,ほとんど差がなく,不
純物質の基板表面への付着を抑えられることがわかり,①の洗浄装置による仮洗浄が,かなり
高い洗浄レベルにあることが確認された.
糠騨畷羅欝難籔乱
.鑑餐 酬1・
℃1
{
匹ゴ
1■■■■■思議
図2.6 洗浄装置写真
一22一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.2.3 評価方法
(1)非接触式表面粗さ測定器(WYKO TOPO3D)
近年,ナノメータオーダの光学部品,薄膜フィル
ム,超研磨光学部品,ダイヤモンド旋削された部品,
磁気ディスク,磁気ヘッドなどの超平滑部品が開発
され,それに伴い,高分解能の測定機器が必要とな
ってきた.WYKO TOPO−3Dは,光学干渉法により
こうした要求を満足させる測定が可能である.また,
非接触であるので,測定の際にサンプルを傷つける
ことがないために,加工の最終的な表面形状だけで
なく,加工途中においても測定することが可能であ
る。WYKO TOPO−3D写真を図2.7に,主な仕様を
表2.2に示す.
2.2.4で後述するが,本研究では基板表面の平滑度
は,測定長240μmのRa値を表面粗さ伍a[nm】,測
図2.7WYKO TOPO−3D写真
定長4mmのRa値を微小うねり∬wa[nm】として,基
板の4ヶ所で各5点,計20点測定し,その平均値
で評価した.
表2.2 TOPO−3D仕様
×25
X40
マイケルソン
ミラウ
256×256
256×256
□4.1×4,1㎜
□256×256粋m
0.05nm
0.05nm
最小横分解能
16m
11n
光学的分解能
4.33μm
0.65μm
115トしm
225糾m
42.3μm
2.25黙m
倍率
干渉タイプ
エレメント数
測定範囲
最小高さ分解能
視野深度
最大表面粗さ
最大表面傾斜
最大ステップ段差
0.44。
15μm
.23一
6.92。
L】μm
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
(2)走査電子顕微鏡(日本電子 JSM−5800)
本研究では,図2.8に示す走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて,ポリシャ表面の観察を行っ
た,表2.3に,SEMの仕様を示す.
1
6
7
8
g
1
Q③4⑤
12311
o
o
①対物絞り
②二次電子検出器
③5軸モータステージ
④排気操作スイッチ
⑤鏡筒架台
⑥液晶表示部
⑦モノクロ表示ブラウン管
⑧カラー表示ブラウン管
⑨メイン操作パネル
⑩FDD
⑪POWER(CPUリセット)スイッチ
⑫撮影装置
⑬PHOTOコントロールパネル
⑭ビデオグラフィックプリンタ
⑮操作架台
図2.8 走査型電子顕微鏡(JSM−5800)
表2.3 SEMの仕様
2 次 電 子
分解能
3.5㎜(WD8㎜,加速電£〔30kV)
倍率
×18(WD48mm)∼×300,000
加速電圧
0,3∼30kV(0.1kVステップ可変)
R∼30kV(1kVステップ可変)
照射電圧
10−i2∼10−6A
その他
自動焦点合わせ,自動非点収差,補:正機能付
反 射 電 子
検出器
Sip−N接合型半導体検出器
像の種類
立体(SHADOW)像,聞凸(TOPO)像,組成(COMPO)像
増幅器
前置き増幅器,演算増幅器
映像出力
立体像,組成像,凹凸像信号
像極性
正,負
作動距離
5∼48mm
一24一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.2.4 評価パラメータ
(1)評価パラメータ
本研究で用いた主な評価パラメータとその測定方法を以下に示す。基板平滑度は,表面粗さ
研aと微小うねりπwaにより評価し,三面形状については,最大ダレ深さをDEと端面ダレ半
径幅∠Rxの二つの評価指標を用いた。
(2)除去厚さτp,除去速度κt
本研究では,ポリシング加工による研磨量と研磨速度の評価パラメータとして,除去厚さ
乃[μm]および,除去速度1(tいm/min]を用いた.除去厚さ乃は,ポリシング加工前後の基板重
量差を,電子天秤により除去量【mg】を測定し,基板の比重および表面積で除すことにより求め
る.除去速度1(tは,単位時間あたりの基板除去厚さを示しており,基板除去厚さ乃をポリシ
ング時間’で除すことにより求める.
(3)基板平滑度
ポリシング加工における重要な評価パラメータとして基板平滑度がある.基板平滑度の測定
には,非接触式表面粗さ計測器(WYKO TOPO−3D)を用いて行った.基板表面の測定長240ドm,
4mmのRa値をそれぞれ,表面粗さπra【nn1】,微小うねりπwa[nm】と定義した.基板平滑度の
各評価パラメータは,基板上の4点で各5箇所の測定を行い,それら20点の平均値によって
評価した.図2.9に,WYKO TOPO・3Dによる基板平滑度の数量的表現法を模式的に示す.
Slight undulation」7wa
〉
Su血ce roughness伍a
伍
飾
Measuゴ
Measuring length:4mm
Surface
/ Q
1
、
length:240
m
\
図2.9 基板表面平滑度の数量的表現方法
参考のために,一般的な両面ポリシング盤を用いて1次・2次研磨加工された,テクスチャ
加工前のアルミタイプ磁気ディスク基板を,この評価手法を用いて測定した.その結果,表面
粗さ伍aは0.35nn1程度,微小うねりπwaは0.49mn程度であった.
また,必要に応じて,原子間力顕微鏡(AFM)を用いた表面粗さの測定も行った.
一25一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
(4)基板端面形状
この端面形状のポリシングによる変化を検討するために用いた端面形状の数量的表現法を
図2.10に示す.図に示すように基板端面部は,基板表面である平坦部とその平坦部に対して
ある角度をもつチャンファ部によって構成される.使用した基板のチャンファ形状は,触針式
粗さ計により測定した結果,平坦部となす角約45。,幅約150μmであった.磁気記録に関係
するのは平坦部である。基板端面形状は,外周付近から約4nlm部分の2次元形状をWYKOで
測定することにより調べた.測定した結果から,まず,平坦部の断面プロファイルのY座標の
平均値を求めて基板基準表面(以下,基準面と記す)とする.そして,基準面からの測定可能
な最大ダレ深さをDE[nm]とし,または,盛上り最大高さ(以下,端面山高さと記す)を1)M[nm]
値として評価した.次に,基準面からのダレ下がり,または,盛上り始めの位置を決め,そこ
から基板外周間での距離を白面ダレ半径幅」Rx[mm]とした.なお, WYKOでは,0.58。以上の
急激な傾斜部分の測定は不能であるので,WYKOでの測定最外周端には,平坦部と約45。の
角度をもつチャンファ部は含まれないことを考え,測定最外周端は,厳密には,設計上の幾何
学的な基準面部とチャンファ部との接点よりもδ(」Rx)だけ外側となる.しかし,本研究で問
題とする1)E値は,高々2μm程度であるので,これを考慮して計算すると,δ(∠Rx)は4μm以
下になる.これに対して,実際の』Rxは少なくとも数十μmを超えるので,δ(」Rx)に比較して
非常に大きい.したがって,」Rxを基板外周からのダレ半径量としても問題はない.
Measuring le狙gth:4mm
十
Measurin len th:4mm
卦
」ノ∼x
0
Basic surfhce
十
Basic surface
∠)E
ムRx
Edge rolレdown type
Edge rolレup type
.一F‘’r
T
\
ヒ\、L
t
Edge cham魚「:150μm
Substrate
Basic surfhce
Measur{ng】ength:4mm
図2.10 端面ダレの定義
一26一
45。
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.3 ポリシング温度の検討
2.3コ はじめに
先の研究における概括的検討で,ポリシング圧力・速度を増大させることで,磁気ディスク
基板の超平滑ポリシング加工の加工能率を大幅に向上しうることがわかった.しかしながら,
高能率のポリシング加工では,ポリシャ温
度の急激な上昇が問題となる。
図2.11に,ポリシャ温度の上昇により
損傷したポリシャの写真を示す.図に示す
ように,ポリシャ温度の上昇は,ポリシャ
ゴ購灘、
強度の低下を招く.図に示すポリシャで,
ポリシャ表面が破壊に至ったのは,ポリシ
欝欝
ャ表面温度が約70度に達したときである.
ポリシャの破壊に至らない場合でも,ポリ
シャ表面温度が上昇すると,除去速度など
図2.11 ポリシング温度の上昇により損傷を受
加工特性に影響を及ぼすことが考えられ,
けたポリシャ
また定盤やホルダの熱膨張も予想される.
このため,温度上昇を抑制する方策の検討
が必要となる。
図2.12に,片面ポリシング加工における,加工による発生熱の流れを概略的に示す.図に
示すように,加工中の発生熱は,工作物やポリシャ・ポリシング液などを介して空気中または
ポリシング液温の上昇として外部に放出される.放出されないものは,定盤やホルダの温度上
昇として蓄積されると考えられる.本項では,ポリシング定盤内部に冷却水を供給し,定盤か
ら外部への放熱量を増加させることで,ポリシャ温度上昇の抑制を試みた.
点滅諜載灘灘難擁錘欝欝難難欝鷺難i轟詑・
旦
旦
難膠嚢霧戴霧
←灘難難灘
鱈
⇒畢
旦
灘餐議 三; ポリシャ
↓/ll
廃液
空気中
灘議姦酵
↓
空気中
図2.12
↓
空気中
片面ポリシングにおける発生熱の流れ
.27一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.3.2 実験方法および条件
表2.4に主な実験条件を示す.工作物には,定盤冷却の評価を行うため,2.5インチのガラ
ス基板を使用した.ポリシャは不織布タイプのものを,研磨平門には酸化セリウムを用い,砥
粒濃度は10wt%とした.ポリシング液の供給量は毎分20mlとし,ポリシャ上に滴下した.ポ
リシング定盤にはアルミニウム用い,先に示したように,中央から供給した冷却水が放射状に
定盤内を通過する構造となっている.なお,冷却水として水道水を用い,毎分6リットルを供
給した。ポリシャ表面の温度測定は,赤外線放射温度計を用いて行った。
表2.4 実験条件
Work piece
Glass magnetic disk substrate
i2.5inch type:φ65mm×φ20mm×0.685㎜)
Pollsher
Non−woven urethanfbam
Polishing nuid
Abrasives:CeO2(φ1.0μm)
bontent of abrasives Cg:10wt%
rupply fluxムg:20 ml/min
Polishing conditions
Polishing pressure P:40−100kPa
oolishing speed均:15−45 m/s
ポリシャ表面温度の上昇が見られた高圧力・高速度での加工中に,ポリシャ表面8箇所の温
度分布を調べ図2.13に示す.図より,回転するポリシング定盤が工作物を通過した直後のポ
リシャ表面,特に工作物の中央を通る③の地点でもっとも高温となることがわかる.このとき,
工作物の中央から外れた,①,②の地点では,中央を通った③の地点と10℃ほどの差が見られ
た。また,工作物中央を通過したポ
リシャは③の地点から⑧の地点へ
No.
℃
1
40
2
42
3
52
リシャ上で最も高温となる③の地
4
52
点を,ポリシャ表面温度7℃として
5
52
6
50
7
50
8
49
回転する過程で3℃ほど温度が下降
することがわかった。このような結
Polishing P璽ate
/ .!⑦一一\ \
果をふまえて,今回の実験では,ポ
評価した.地点③の温度は,わずか
\④一⑤一/,/
に回転した④,⑤地点における温度
とほとんど差がみとめられないこ
とから,加工部直下のポリシャ表面
図2.13 ポリシング加工中のポリシャ温度分布
温度と同等であると推測される.
一28一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.3.2 実験結果および考察
図2.14に,ポリシング速度3.Om/s,ポリシング圧力60kPaの高圧力・高速度の条件で加工
を行い,ポリシャ表面温度の変化を定盤冷却の有無により比較した.図をみると,どちらの場
合においても,ポリシング時間1分程度までに約25℃程度の急激なポリシャ表面温度の上昇
が見られ約50℃のポリシャ表面温度となる.その後,冷却を行わない場合ではポリシング時
間に比例してポリシャ表面温度の上昇が見られるのに対し,冷却を行った場合においては温度
上昇はほとんど見られず52℃程度の一定値を示している.両者の温度差は,5分経過時で約8℃
であり,定盤冷却によるポリシャ表面の温度上昇抑制の効果がみとめられた.
70
霧
ヌド
k=1」三論琵盃干』「
§・・
・漣轡肇黒庶】特=熱辮驚贈こr9鷺=↑
ii
妙
量
ド
ー▲一 Collvclltiona1
‘:
電60
婁
ユ
と◆一「ゴ幅crc・・ii・g
::匹F⊥
}
・
i
i
ォ.____..“...rj_._『.「._『
_____.,
Polishcr:Non。wovcn u帥cthan{bam
Abrasives=Ceα(ψ1.Oμ1n)
諮
Po盤shing prcssurc P:60kPa
Polishing speedレ翁:3.Om/s
20
0
i
1
2
3
4
}
5
Polishing time’mi11
図2.14 ポリシャ表面温度に及ぼす定盤水冷却の効果
ポリシング時間とポリシャ表面温度の関係を,ポリシング速度・圧力をそれぞれ変化させて
比較し図2.15に示す.なお,すべての条件で定盤冷却を行った.この図より,すべての条件
において,ポリシング初期で急激なポリシャ表面温度の上昇」7が見られ,一定の時間が経過
するとそれぞれの温度に収束する傾向を示していることがわかる.このように,ポリシャ表面
温度が早い時間に収束することは,定盤冷却の効果が明確に現れた結果であると考えられる.
また,ポリシング圧力・速度の影響をみると,より高圧力・高速度の条件で収束温度が上昇し
ていることがわかる。
一29一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
十 P:40kPa,%:3.0認s
一●一P:60kPa号玲:15m/s
一◆一 P:60kPa,レ急:3.0111/s
一羅一P:60kPa響ぬ:4.5m/s
_▲一 P:100kPa,陥:3ρm/s
垂沁,
O
20
l
膿鷲践1轡
2
3
Polishing time’min
図2.15 ポリシング条件がポリシャ表面温度の変化に及ぼす影響
これらポリシング条件の影響をより詳細に検討するために,ポリシング時間3分経過時の収
束したポリシャ表面温度を,ポリシング圧力別・速度別で比較し図2.16および図2.17に示す.
なお,両図には3分経過時のポリシング抵抗値もあわせて示す.ポリシャ表面温度はポリシン
グ圧力・速度に比例している.ポリシング抵抗をみると,ポリシング圧力に対しては比例して
増加しているのに対し,ポリシング速度を増加させても抵抗値はほとんど変化していない.
£
80
…哩
70
1高卑隼窄
弩
鐘
塁
お
薫
歪
q蜘[1_i。ノ.一一
60
50
「じ牛籍蕊1贈
40
30
300
250
200
8
150
姦
100
讐
暑
50
壱
畠
20
0
0
20
40
60
80
夏00
120
Polishing P蓄essure P kPa
図2.16 ポリシング温度と抵抗に及ぼすポリシング圧力の影響
.30一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
1;F響射三{il
お
ヨ
ミ
量・・一一幸一
晶、_晶_一一畷
葺30..._.一}一・._Ab・a・i・…C・0・(φ1・0圓
£
20
0.O
i
P・蕪曲9P・e・s・・eP・60kP・
筆
当
1
l.5
3.0
4.5
..50 量
α・
0
6.O
Poiishing speedレa m/s
図2.17 ポリシング温度と抵抗に及ぼすポリシング速度の影響
ここで,ポリシング抵抗の測定結果から,それぞれの条件での発熱量Qを式(2.1)より算出
し,ポリシャ表面温度の上昇量∠7との関係を図2.18に示す.なお,gは重力加速度である.
Q[J/s]=Ft[kg]× g[m/s2]× レra[m/s】
一一一一一一一一……(2.1)
この結果から,ポリシャ表面の温度上昇はポリシング抵抗と速度を掛け合わせた発熱量Q
に比例していることがわかる.なお,温度上昇を発生熱量で割った,∠7/Q[℃バV]を比較する
と0。047【℃/W]程度で,条件別の誤差は8%以内であった.つまり,加工中の発生熱量は,ポリ
シャ表面の温度上昇を引き起こし,その上昇温度は発生した熱量に比例する傾向を示している
と言える.
× P:40kPa,陥:3.Om/s
● ノ):60kPa,レa:L5n】ゾs
◆ P:60kPa,レa:3。Om/s
臓
P:60kPa,レa=4.5m/s
▲ P:100kPa,レa=3.Om/s
50
旨40
霧
’ζ 30
S叩ply縄ux乙g:20mllmin
_____.____..垂
γ一瑠…κ「
ミ
彗
運20
0
0
◆;
く
…
i ●
_レ_顯__
蓋
}
・_______L___.一,r
駒{ド…憧而
.___ぼ.
i _i×
…
&
巨 10
β
i
P。1i、h,,、N。距w㎝e。田。th書下 i
.Ab・asi・…C・0・(φ1.0糾m) 一∼一晶…一・.…
リゴ
i
げ
__
}
} のド ド り コ コ
り びロ
戟Q_「
一一一一一 ゥ…一…一ふ一一……一}一一一一一一セー一一一…一…一
200
400
600
800
i
l
1000
Generated heat flow g J/s
図2.18 各条件における温度上昇と発生熱量の関係
一31一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.4 ポリシング特性に及ぼすポリシング圧力・速度の影響
2.4.1 実験方法および実験条件
一般的な磁気ディスク基板のポリシング加工では,ポリシング速度1.5m/s,ポリシング圧力
10kPa程度が最も高圧力・高速度の条件である.今回検討を行うポリシング速度9.Omls,ポリ
シング圧力60kPaは,一般的な最高のポリシング条件の約6倍に相当する,超高圧力・超高速
度なポリシング条件である.本実験条件を表2.5に示す.工作物はアルミ基板を,ポリシャは,
一層ポリシャを使用した.実験は,除去速度が安定している定常ポリシング領域にあるポリシ
ャ状態を用いて実験を行っている.一層ポリシャの定常ポリシング領域については,3章にお
いて後述する.
表2.5 実験条件
Work piece
NiP plated aluminum magnetic disk substrate
i3.5inch t即。:φ95㎜×φ25㎜×127mm)
Po】isher
Pohshing伽id
Polishing conditions
Suede type
Abrasives:Colloidal silica(φ80nm)Supp量y flux乙g:20 mレn1董n
Polishing pressure P:15−60kPa
oolishing speedレ乞:1.5−9.O m/s
・32一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.4.2 実験結果および考察
ポリシング時間と除去厚さの関係を図2.19に示す.ポリシング条件は,ポリシング圧力を
10kPa,30kPa,60kPa,ポリシング速度を15m/s,6.Om/s,9.Om/sと変化させた.除去厚さはポ
リシング時間に対し比例して増加する傾向にあることがわかる.また,グラフの傾きは,ポリ
シング圧力10kPa,30kPaでは,6.Om/s,9.Om/sよりも1.5m/sの方が大きくなる.一方,ポリ
シング圧力60kPaでは,従来得られていた結果のように,ポリシング速度が大きい場合でより
大きなものとなる.
一●一掩=L5m/s 一▲一 殉=60m/s 一瓢一 引田9.01ηノs
5
P=60kPa
・樺.ボ」例。k賄
星L_/_⊥レー
マノ ●……レ;『ンゴ
一一
一一一一疵’一一一t一一…一・一
1穿でζ灘膿
灘
0
50
100
i50
200
Polishing time’min
図2,19
ポりシング時間と除去厚さの関係
除去速度とポリシング圧力,ポリシング速度の関係をそれぞれ図2.20,図2.21に示す.図
220では,上述した通り,ポリシング圧力10kPa,30kPaの場合,高速度にすると除去速度が
小さくなる.15m/sの場合では,除去速度はポリシング圧力に比例して直線的に増加するのに
対し,6.Om/s,9.Om/sの場合では,除去速度はポリシング圧力30kPaから急激に増加する.図
2.21をみると,ポリシング圧力10kPa,30kPaの場合では,ポリシング速度によらず除去速度
はほぼ一定の値をとっているのに対し,60kPaの場合では,ポリシング速度に比例して増加す
る.これらの結果は,ポリシング速度の増加により,ポリシング液の動圧が大きくなり基板が
ホルダとともに浮き上がり,加工に作用する荷重を軽減しているためではないかと推察してい
る.
一33一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
0.6
i;←
・一.一一一.一一と一一一一一一.一一一一一一毒
i一●一μ・F15mノ・i
麺
ミ
ミ
i 一▲・一
P一一/.杢.
ン翁=6.Om/s i
に塾侮。9.0㎡、i
夏。。
・..
ミ
P
}・ヒ…
..
}
AbrasiveS l Sio2(ψ80㎜)
l i も
Polisher:Suede type
公
;_一」一レ
Supply{luxム9:2⑰ml/1n重1ユ
室。.2
ー一一
き
ミ
¥一一一…払一一一一藩一…一
L〃
}
ミ
募
0.0
0
10
20
30
40
50
60
70
Pohshing Press【蹉e P kPa
図2.20 ポリシング圧力と除去速度の関係
0.6
碧
ξα4
i
器
l
i療㌍3・肋}
…は…㎜汁…}担†・f鯉峠
莞02
き
碧
0.0
0
丁 †一略 i▲
●一一6
i8 ●
2
4
6
10
Polishing speed ンa nVs
図2.21
ポリシング速度と除去速度の関係
したがって,図2.19,図220,図2.21の結果より,本研究での実験条件範囲では,ポリシ
ング圧力60kPaにおいて,基板の浮上が抑制されるか,または,除去速度に及ぼす基板浮上の
影響が小さく,ポリシング速度を増加させることで,高い除去速度を得ることができたと考え
られる.
一34一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
終末基板表面粗さ(∬ra)tにおよぼすポリシング条件の影響を図2.22に示す.なお,終末とは,
基板をポリシングし,平滑度が向上した後,最終的にそれ以上向上せず,その後のポリシング
過程では,同じ平滑度となる状態を意味するものである.また,各条件を比較した3D−WYKO
像を図2.23に示す.図よりわかるように,表面粗さは各条件により大きな差は見られず,0.3nm
程度を示している.このことから,今回検討した,超高圧力・超高速度ポリシング条件の範囲
においても,従来報告しているように,ポリシング圧力・速度の基板表面粗さへの影響は小さ
いと考えられる.
。.6
Ab…i・…Si・・(φ8・・m)}
塁
Polishcr:Su。dc typc i
S・pply創・・乙・2・・1ゐ・i・
§
0.4
馨
離
隔
雲
8
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0。2
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i
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i
ミ
一▲一P=30kPa i
{ ;Lニヒ學蛇
0.0
2
0
4
6
8
10
Polishing speed塩m/s
図2.22 各ポリシング圧力における,ポリシング速度と終末表面粗さの関係
囎。。、灘辞a鰍’豊。,417。、n
璽 S曲・・S重髄鰍i¢・
}丁
R万罰i翫笥Ra:0.47 nm
P・V:455 nm
淵
5.000
3.ooo
綴
1.000
−1.ODO
一:::罵
・3、ooo
−5,000
P=60kPa, Va=1.5mls
(a) P=10kPa,γa=1.5mls
擁s・伽S重・劇・・
旧’
R翁予輸rRa二〇.43nm
1
…
一 一 霧
P・V:453nm
(b)
δ
ロロ50◎0
P・V:4.04 nm
nm臥000
・・3.ooo
.・1.000
一・1、000
鐵霧霧
3.900
・↑.000
鍵.舞灘懇嚢 霧
・3.00G
−5.000
「’1・ooo
・3.000
・5.000
(c) P=10kPa, Va=9.Omls
図2。23
S闘r厳a㏄S重a書i樋藍03
Ra:0.38nm
3−OPIo重
(d) P=60kPa, Va=9.Omls
各ポリシング条件におけるWYKO 3 D像
一35一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.5 端面ダレ形成に及ぼすポリシング条件の影響
2.5.1 はじめに
1章で述べたように,ハードディスクの大容量化を実現するためには,磁気ディスク表面の
高平滑化による記録密度の増大と共に,磁気記録可能な表面積をなるべく周鄭重に広げる必要
がある.ポリシング加工による端面ダレは,磁気ディスク表面において磁気記録可能な領域を
十分に確保する上で大きな障害となっている。端面ダレの大きな要因の一つとして,端面部で
の圧力の集中あるが,特に,本論文で検討している,超高圧力・超高速度の条件において,当
然その野面形状を検討する必要がある.
本章では,超高圧力・超高速度の条件の端面形状に与える影響を調べた.また,実用的な観
点から,端面ダレを抑制する方策を提案し検討を行った.
2.5.2 端面ダレの生成要因
(1)ポリシャのモデル化
本研究では,一層・二層ポリシャという2種類のスウェードタイプのポリシャを例に検討を
行った.一層・二層ポリシャの断面構造をモデル化したものを図2.24に示す。ポリシャ断面
は,下から粘着層・ベース層・ナップ層の3層に分かれており,加工中のポリシング液保持に
関係するのは上層のナップ層の部分である.このナップ層の部分に注目すると,ナップ層は大
小さまざまな空孔とその空晶を構成する柱(以下,構成柱と記す)からなり,一層ポリシャで
は下層から表層までの空孔がひとつながりの構造であるのに対し,二層ポリシャでは,表層に
小さい空孔,下層に大きな空孔の二層構造となっている.ここでは,このような断面構造を持
つスウェードタイプポリシャを例に,男面ダレの生成要因を検討した.なお,モデル化に際し
単純化するために,構成柱はすべて同じ太さであるものと仮定した.
Nap layer
P霧
(a)一層ポリシャ断面
(b)二層ポリシャ断面
図2.24 ポリシャ断面構造のモデル化
.36一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
(2)基板端脳でのポリシャ変形の観察
ポリシング加工による面面ダレの発生は,ポリシャの力学的特性に大きく影響されることは
経験上よく知られていることである.二層ポリシャの表面に磁気ディスク基板を押し付けたと
き,ポリシャの変形を側面より観察し,図2.25に示す.なお,このとき基板に加える圧力を
二通り変化させている.図よりわかるように,加える圧力により異なるポリシャの弾性変形が
見られ,高圧力を加えた場合,深部から表層に至るまで大きく変形している.高圧力を負荷し
た場合の基板端面付近では,圧力により押しつぶされた領域が加圧されていない領域を引き込
むように変形している様子が観察できる.凸面ダレの生成要因として,この基板端部における
ポリシャの偏った変形が大きく影響していると推測される.
(a)圧力が小さい場合
門」勤.…一、
(b)高圧力を負荷した場合
図2.25 基板により押し込まれたポリシャ
(3)ポリシャの弾性変形と除去
モデル化したポリシャにおいて,単位面積の基板へ働く荷重を研,構成柱の数をη本とする
と,構成柱一本へ働く荷重ωは次式で表される。
ω
ω=〃「/η
馳
↑
一一一一一一一一一一一一一一(2.2)
また,構成柱を均一な弾性体と仮定すると(図
1
ん
1rj1
2,26),カωに対する構成柱一本の弾性変形量
±.
」1は,
∠jz=ω/た
_湿
「義灘ゴ纐灘 、’・繊i
懇
一一一一一一一一一一一一一一(2.3)
麟灘Pゴ灘画
と表される.ただし,たは構成柱のばね定数で
ある.構成柱の変形量は荷重に比例し,構成柱
に働くカはポリシャの変形量に依存している
と言える.
一37一
へ
図2.26 構成柱の弾性変形
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
(4)チャンファ部での基板の平坦化作用
基板二面チャンファ部でのポリシャの
未加工表面
変形に着目すると,基板の端面ではポリシ
Edge cham」語r
ャは大きく沈み込んでおり,その変形量は
基板端面の傾斜に沿って小さくなり,それ
ぞれの構成柱に働く力も減少していく.図
2.27に基板野面チャンファ部での圧力分
布を考慮した場合の,基板端面での加工後
に生成される新生表面をモデル化し示す.
図2.27 基板端部での加工後の生成新生表面
図に示すように,基板端面チャンファ部で
の圧力は小さく除去量も平坦部に比べて少なくなり,基板端面での傾斜は平坦化していくと考
えられる。
ここでは,基板の端面チャンファ部の比較的大きな弾性変形量の変化について考えたが,基
板端面ダレが生じた基板表面においても同様の平坦化作用が働いていると考えられる.しかし
ながら,基板岨面でのダレ深さは大きいもので数百ナノメートルであり,ポリシャの弾性変形
量が数十∼数百ミクロン程度であるのに比較してその影響はかなり小さい。
(5)ポリシャの弾性率が端面ダレ進行に及ぼす影響
ばね定数の違う2つのポリシャにおいて,
Substrate
ポリシャのばね定数をそれぞれ々1,島とし,
∠1
構成柱に働く力ωに対する変形量は次式
で表される.ただし諄く局とする.
δ
ω=ん1・∠1Z1=ん2・∠jz2 一一一一一一一一一一一一一一(2.4)
∠11,」12はポリシャの弾性変形量であり,
」11>」12である.
図2.28 端面ダレ部におけるポリシャの変形
ここで,図2.28に示すように二面ダレによりポリシャの変形量がδだけ少なくなると,構成
柱に働く力ωは減少する.この2っのポリシャにおいて端面ダレδを考慮したとき,構成柱に
働く力ωbω2を次式に示す.ただし,式(2.4)を用いてん1,々2を消去した.
ω1ニ々1(∠1Z1一δ)=ω(∠iz1一δ)/∠jz1 一一印一一一一一齢一一一一(2.5)
ω2・=々2(∠1Z2一δ)=ω(∠Z2一δ)/∠1Z2 一一一一一一一一一“一一一一(2.6)
式(2.5)式(2.6)において,∠11>∠12であるので甜〉ω1>ω2となる.このことから,ばね定数
が大きいポリシャほど同じ弾性変形量の減少に対する力の減少率が大きくなることがわかる.
つまり,ばね定数が大きい硬いポリシャほど,端面ダレの平坦化作用が大きいと言える.
.38一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.5.3 実験条件
主な実験条件を表2.6に示す.工作物にはアルミ基板を使用し,ポリシャには二層ポリシャ
を用いた.ポリシング条件は,ポリシング圧力・速度を変えて3通りの条件を設定し,端面ダ
レ形成に及ぼすポリシング条件の影響を検討した.
表2.6 実験条件
Work piece
Ni P plated aluminum magnetic d量sk substrate
i35inch卿e:φ95㎜×φ25mm×1.27mm)
Pollsher
Polishing烈uid
Pollshing condltions
Suede type(Sing畳e layef)
Abrasives:Colloidal sllica(φ80nm)Supply flux乙g:20 m1!min
Polishi紬g pressure 1》:15,60kPa
oolish掛g speed殆:1.5,6.O m/s
2.5.3 圧力・速度の影響
ポリシング条件を3通り設定し,ポリシング加工による基板日面形状の変化の過程を追跡し
た.WYKOの3次臥像を図2.29に示す.図は左から,〈μa:151n/s, P:15kPa>,〈ぬ:1.5m!
s,P:60kPa>,〈7a:6.Om/s,P:15kPa>の条件における,ポリシング過程における端面形
状の変化を観察したものである.すべての条件において除去が進むにしたがい端面がダレ下が
って加工されている.しかし,その進行具合には条件により差異が生じており,圧力・速度が
大きい条件でより大きな端面ダレが形成されていると言える.また,特にポリシング速度
6.Om/sの場合に最もダレの進行が顕著である.
・39一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
玲=L5m/s 1):15kPa
ぬ:1.5m/s 1):6◎kPa
μa:6.Om/s
匪
醗
図2.29 条件別基板端面形状の変化過程(WYKO3D像)
各ポリシング条件における除去厚さとダレ深さの関係を図2.30に示す.図からわかるよう
に一般的なポリシング条件である,速度7a:1.5m/s,圧力P:15kPaの場合では,端面ダレ深さは
加工によってほとんど変化が無く200nm以下で推移しているのに対し,ポリシング圧力,速
度を大きくした条件では,加工が進むにしたがって,ダレ深さは除去厚さに比例して大きくな
る傾向が見られる.また,最終的なダレ深さの増加量は,60kPaの超高圧の条件では150nm程
度であるのに対し,6.Om/sの超高速の条件では500nmと大きく,ダレ深さは圧力よりも速度の
影響を強く受ける傾向があると言える.
各ポリシング条件における除去厚さと端面ダレ半径幅の関係を図2.31に示す.図をみると,
ポリシング速度がL5m/sで圧力が異なる2っの条件においては,初期に大幅な増減が見られる
ものの,その後,安定して一定の値を推移しているのに対し,速度の速い場合では加工の進行
と共に継続して増加する傾向が見られる.しかしながら,二面ダレ半径量は条件によりそれほ
ど大きな違いは無く,L5mm∼25mmの問で推移している.
一40一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
3.0
25
繧
・
◇
◆
2.0
・ζイ
雫
1・5f
笥
妊_
1.0
ト
i
一◆一陥:15m/s,P:15kPa
Abrasive;SiO2(φ80nm)
05
◆
} ▲
Polisher:Suede一塊)e(Single量ayerγ、
一羅一7a:1.5m/s,P:60kPa
S叩ply登uxゐ9:20mレmh互
一▲一 フa:6.Om/s,P:15kPa
0
O
l
2
3
4
5
Removal depth 7やμm
図2.30 除去厚さとダレ深さの関係
600
一記一一1一一
一◆一 陥=15m/s,P115kPa
500
一醒一μa:15m/s,P:60kPa
..1..
一▲一陥:6.Onys,P=15kPa
400
i
藝
鷺
遣 300
・▲
200
?G7◆≒穫
2
i
ii
5
◇!◆i
Abrasive=Sio2(φ8011n、)
Polishcr:Sucdc−type(Sing】c laycr)
SUPPly f璽“x乙9:20n平レm重n
0
l
ンで十『..
i
}鐸
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_.__}薪._____._._._..「_
㎜1//1▲..
O
i
3
4
5
Removal depth 7やμm
図2.31 除去厚さと凸面ダレ半径幅の関係
このように超高圧力・超高速度のポリシング加工では,大きな除去速度を得ることができる
反面,特に深さ方向に大きな常器ダレが生成された.2.5.2節(4)で述べたポリシャの平坦化作
用は,端面ダレによるポリシャ変形量の減少を静的に考察したものである.しかしながら実際
の加工では,基板端面においてポリシャと基板は常に相対運動しており,ポリシャ変形の時間
的変化およびその変形速度が端面ダレの形成に大きく影響したと考えられる.
.41一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.5.4 端面ダレ抑制ポリシング法の検討
(1)はじめに
これまでの検討で,工作物をポリシャに定圧で押しつけて加工を行うポリシングでは,工作
物の端面で変形したポリシャの影響をうけ,端面ダレが形成されることがわかった.そこで本
節では,基板ホルダの形状を変えることで端面でのポリシャの変形を制御し,端面ダレを抑制
する方策を検討した.
(2)ホルダの製作
片面ポリシング盤におけるポリシング状態のモデルを図2.32に示す.加工中の基板は,基
板ホルダにより保持されており,基板とホルダの淵との間にはキャリアが設けられている.基
板・ホルダ・キャリアの位置関係は,基板が最も高くポリシャ側へ突き出しており,次いでキ
ャリア,ホルダの淵の順である.つまり,加工中の基板は図の赤い丸印で示した懇懇の部分で
ポリシャの変形の影響を直接受けており,この構造が端面ダレを大きくする主要因となってい
る.また,これは両面ポリシング加工においても同様である.
図2.32 片面ポリシング盤におけるポリシング状態のモデル
一42一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
そこで,ホルダ形状を変えることで基板端面でのポリシャの変形状態を変化させることを考
えた.図2.33にそのモデルを示す.図に示すように,ホルダの淵を基板よりも高くポリシャ
側に突き出させ,基板端面にポリシャが接触する前にポリシャを大きく沈み込ませることで,
通常のホルダにおいては基板野面を包み込むように変形していたポリシャを滑らかなに基板
端面と接触するようにする.こうすることで,端面ダレの主要因とされる基板端面でのポリシ
ャの無理な変形を抑制し,端面ダレを制御することを試みた.
図2.33 端面ダレ抑制ホルダのモデル
試作したホルダの概略図を図2.34に示す.このホルダでは,先ほど述べたようにホルダの
淵を基板よりもポリシャ側へ突き出させた構造となっている.基板を融融の黄色い部品でホル
ダ中心に固定することにより,基板とホルダとのクリアランスを一定に保ち,基板全周におい
て端麗の加工状態を均一にした.基板とホルダの淵との高さの差を130μm,半径方向のクリア
ランスを1mmとした.
Polishing pressure
旦
Substrate holder
/
Substrate
図2.34 端面ダレ抑制ホルダ
ー43一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
(3) 実験条件
主な実験条件を表2.7に示す.このホルダでは:負荷した荷重を基板だけでなくホルダの淵で
も受けてしまうので,基板にかかる圧力を正確に知ることは難しい。そこで,ホルダへの荷重
を約40kgfと設定して実験を行い,表にはポリシング圧力を示していない.ただし,このホル
ダを使用した実験による基板除去量は,通常ホルダで約15kPa程度の圧力をかけた場合とほぼ
同程度であった.
表2.7 実験条件
Work piece
NiPplated aluminum magnetic disk substrate
i3.5inch type:φ95mm×φ25mm×1.27㎜)
Polisher
Suede type(Slngle Iayer>
Polishing伽id
Abrasives:Colloidal sihca(φ80nm)Supply flux五g:20 ml/min
Polishing conditions
Polishing load 40kgf
oolishing speed殆:15m/s
(4)実験結果および考察
製作したホルダにおいて,ポリシング過程における基板端面形状の変化を追跡し図2.35に
示す.図はWYKOの2次元および3次元測定像である.未加工基板にみられた端面山が加工
の進行とともに高く成長しその裾野を伸ばしている.この結果は,端面ダレが深く進行した通
常のホルダとは全く逆の結果である.除去厚さと端面山高さおよびダレ深さの関係を図2.36
に示す.グラフの端面ダレ深さは,基準面からの深さである.除去量が大きくなるにしたがい,
端面山・端面ダレともに増加傾向にある.これは,通常のホルダを用いた場合と大きく異なる
傾向であり,ホルダの淵で基板門門まわりのポリシャを押しつけることにより,基板端面にか
かるポリシャの変形状態および圧力状態を変化させることができたと考えられる.また,端面
山が発生し大きく成長する傾向が見られるものの,山の頂点が基板の中心方向に移動すること
はほとんどなく,ほぼ同じ場所で高さと基板中心方向への裾野のみが大きくなっている.さら
に三面ダレについても,ダレ深さは大きくなる傾向を示すものの,山の頂点からダレの終わり
地点までの距離はそれほど変化していない.これにより,加工の全過程を通して基板三面にお
ける滑らかな圧力分布が保たれ,三面形成が安定して行われたのではないかと推察される.
除去厚さと二面ダレ半径幅の関係を図2.37に示す.端面ダレ半径は加工の進行に伴って大
きくなる傾向にあり,その増加量は約0.5nlmである.
一44一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
200
nm
nπ1
500
150
11Dl,
300
一
50
100
0
−50
−100
−100
800
1や=0陣
−150
mm
−2〔DI}
0
200
1
2
3
4
恥算0μm
−500
nm
nm
500
且50
300
100
50
100
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−100
・100
・300
−151,
mm
一2⑰0
0
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一・
T00
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㎜
500
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7P=1.49μm
一150
−300
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200
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3
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4
τコ1.49μm
nm
−500
nm
500
150
300
置oo
50
0
.一
P00
−50
一一
−100
恥=2.38μm__
一[50
一.300
mm
−2‘ND
0
200
P00
1
2
3
4
−500
㎜
500
150
300
100
50
100
0
・50
−100
−100
...1ほ)=356μm、
−150
−300
・200
0
1
2
3
4
−50D
図2.34 基板端面形状の変化過程(WYKO像)
一45一
第2章アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
200
150
\コニ髭_禦/1
墾
竃
100塾
50
一露一DM
,1卜〉◇弐_一
一◆一1)£
1
§
δ
100
Abrasjve:Sio2(φ80nm)
150
___◇_
・ Po且ishα:Suede一1ypc(Sing
Supply flux Lg:20mレ瓠n
200
1
0
2
3
4
Removal dep出7や脚
除去厚さと下面山高さおよびダレ深さの関係
図2.35
3.0
2.5
2.0
碧
雪
・一一・一…一….一一一…一
1
◆
1.5
i
◆ i
◆と血イ◆
i
?
1
.L...,..._.L...…..
1.0
r
i
Ab聡sive:SiO2(φ80nm)
0.5
Polisher:Suede−type(Sing】e layer){一一{.㎝一一
Supply flux Lg:20ml/min
l
0
0
l
1
2
1
3
4
Remova且depth 71)μm
図2.36 除去厚さと端面ダレ半径幅の関係
このように淵が突き出した形状のホルダによる実験において,通常使用しているホルダとは
異なる端面形状を得ることができた。このことは,基板端面でのポリシャの変形が端面ダレの
形成に大きな影響を及ぼしていることを裏付けるものであり,基板山面におけるポリシャの変
形を適切に制御することで端面ダレを最小限にとどめる加工が可能であると考えられる.
一46一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
2.6第2章の小括
一般的な磁気ディスク基板の高圧力・高速度ポリシング条件を数倍上回る,超高圧力・超高
速度条件での,高能率ポリシング技術を確立するために,高圧力・高速度に耐えうる片面ポリ
シング盤を試作した.試作した装置において,ガラス基板を用いた実験を行い,高除去速度ポ
リシングにおける定盤冷却の効果を検討し,超高圧力・超高速度においても,安定したポリシ
ング加工が可能であることを確認した.そこで,この装置を用いて,アルミ基板の超高圧力・
超高速度ポリシング加工特性を検討した.主な結果は,以下の通りである.
1)高圧力・高速度ポリシングでは,ポリシャ表面温度が高くなり,ポリシャ表面の損傷を招
くが,定盤水冷却法により,温度上昇を抑制でき,安定した加工が可能となる.
2)超高圧力・超高速度においても除去厚さは,ポリシング時間に比例して増加する.
3)ポリシング圧力60kPaでは,高速度にすると除去速度は大きくなるが,逆にポリシング圧
力10kPa,30kPaでは,高速度にすると除去速度は小さくなる.
4)ポリシング圧力と速度の表面粗さへの影響は見られない.
5)圧力・速度の増大により深さ方向に大きな端面ダレが進行する.
一47一
第2章 アルミ磁気ディスク基板のポリシング特性の検討
参 考 文 献
1)安井平司,佐藤郁,松永竜二,小林深:アルミナ砥粒による磁気ディスク基板の高平滑
ポリシングに関する研究(第1報),精密工学会誌,60(1),(1994)128
2)安井平司,佐藤郁,松永竜二,鈴木幸雄:アルミナ砥粒による磁気ディスク基板の高平滑
ポリシングに関する研究(第2報),精密工学会誌,60(11),(1994)1631
3)佐藤郁,安井平司,鈴木幸雄,小林深:磁気ヘッドスライダの極低浮上化に及ぼす基板
の超平滑ポリシングの効果,精密工学会誌,60(9),(1994)1268
4)安井平司,山口寛太;“磁気ディスク基板のポリシング温度の検討”,2006年度精密工学会
秋季大会学術講演論文集, (2006)255
5)安井平司,山口寛太,山崎穣,松川誠治:アルミ磁気ディスク基板の超高圧・超高速ポリ
シング特性一定常ポリシング領域長さに及ぼす影響一,2005年度精密工学会春季大会学術
講演論文集, (2005)1163
6)安井平司,松川誠治,山崎穣,山口寛太:磁気ディスク基板の超高圧ポリシング特性の検
討,2005年度精密工学会秋季大会学術講演論文集,(2005)815
7)安井平司,山口寛太,山崎町,松川誠治:アルミ磁気ディスク基板の超高圧・超高速ポリ
シング特性一定常ポリシング領域長さに及ぼす影響一,2005年度精密工学会春季大会学術
講演論文集, (2005)l163
8)He塁塞Yasui,Syoj i Kuribayashi,Se緬i Matsukawa, Yutaka Yamasaki, Kanta Yamaguchi:Po豊isher
Life in High Speed Ultra−Smoothness Polishing of NiP Plated Aluminum Magnetic Disk Substrate,
Proc. ASPE l gth Annual Meeting,(2004)737
一48一
第3章 アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
第3章 アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
3.1 はじめに
前章において,ポリシング圧力を既存の高圧力条件の数倍以上とした,超高圧力のポリシン
グ条件で,超平滑ポリシング加工の加工能率を従来の数倍に高めることが出来ることを示した
本章では,一般的に磁気ディスク基板の二次研磨加工に用いられている表面構造が一層構造
のスウェードタイプポリシャ(一層ポリシャ)を用いて,ポリシング過程における除去速度の
変化を調べ,高除去速度のポリシング加工がポリシャ寿命に及ぼす影響について検討した.
3.2 実験条件
実験装置は,2.2.1で示した,新たに試作した片面ポリシング盤を使用した.寿命試験は,
各基板の除去厚さがNip膜厚に達する前にポリシングを終え,基板を交換しながら行った.表
3.1に主な実験条件を示す.実験は,既存の最高ポリシング圧力と速度に対応する10kPa, L5m/s
に比較して,いずれも約6倍のポリシング圧力60kPaとポリシング速度9.Om/sまで行った.砥
粒はロロイダルシリカを使用し,ポリシャはスウェードタイプの一層ポリシャを用いた.
表3.1 実験条件
Work piece
MP plated aluminum magnetic disk substrate
i35inch type:ψ95㎜×φ25㎜x1.27mm)
Poljsher
Sucde type(Singlc量ayer)
Carrier
Thic㎞ess Ct:0.6mm
Polishing nuid
Abrasivcs:Colloidal silica(φ80nm)ConIent of abrasives Cg:5.Owt%
rupply fluxムg:20 m1/min
Po韮ishing conditions
Polishing Pressure・P:10kPa,60kPa
ooiishing speedレ乞:L5,9.O m/s
・49一
第3章 アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
3.3 実験結果および考察
3.3.1 ポリシング過程における基板除去速度の変化
図3.1にポリシング圧力10kPa,ポリシング速度1.5m/sでポリシングを行った場合のポリシ
ング時間と除去厚さの関係を示す.図より,基板除去厚さは,ポリシング初期に急速に増加す
るが,徐々に増加率を減少し,約50分後からは,ポリシング時問に比例して増加するように
なる.その後,約220分後からは,増加率が急激に小さくなる傾向が見られる.
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図3.1 ポリシング時間と除去厚さの関係
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図3。2 ポリシング過程における除去速度の変化
図3.2に,図3.1から求めた,ポリシング過程における単位時間当たりの除去厚さの変化を
示す.図より,幾分かのバラツキはあるが,除去速度の変化過程は,次のようになると言える.
一50一
第3章アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
ポリシング初期に急激に減少する第1段階(初期過渡過程),その後除去速度が一定に落ち着く
第2段階(定常過程),再度過渡的に減少する第3段階(後期過渡過程),最終的に,除去速度が
非常に小さくなる第4段階(寿命過程)の4段階に分類できる.
図3.3に,図3.1の除去厚さと同時に調べた,ポリシング過程におけるポリシング時間と終
末表面粗さ(伍a)tおよび終末微小うねり(丑wa)tとの関係を示す.なお先に述べたように,終末
とは,基板をポリシングし,平滑度が向上した後,最終的にそれ以上向上せず,その後のポリ
シング過程では同じ平滑度となる状態を意味するものである。図より,(1∫ra)tおよび(Hwa)tは,
ポリシング初期で幾分か大きいが,その後,定常過程になるまで小さくなり,定常過程で一定
となった後,後期ポリシング過渡過程以降で,再度,幾分か悪くなる傾向が見られる.しかし,
その変化は,それほど大きなものとは言えない.なお,測定精度を上げ,寿命時におけるポリ
シング面をAFMで観察した結果では,スクラッチが見られることもあり1),粗さ以外にも悪
い現象もあったことを付言する.
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図3.3 ポリシング過程における基板平滑度の変化
一51一
第3章 アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
図3.4は,上述のようなポリシング過程における除去速度と平滑度の変化の原因を検討する
ために調べた,ポリシング過程におけるポリシャ表面状態の変化を示すもので,ポリシャ表面
とその拡大および断面のSEM写真である.先に示したように,未加工時のポリシャ表層には,
三百ミクロンの大きな空孔があり,その周りに薄い壁状の膜が存在する.そして,壁轟轟内に
は,1μm程度の微小空孔が見られる.また,壁状膜の最外表面層の部分には突起状ナップ部が
見られる。ポリシング時間’=80minの定常ポリシング過程では,突起状ナップ部が除去され,
壁二二は巨視的に平坦面になる.また,微小空聾も明確に見られる.さらに,断面図からは,
巨視的空孔が明確に観察される.ポリシング時間’=220minの後期過渡ポリシング過程へ移行
する付近では,巨視的な空孔はまだ明確に観察されるが,その底にコロイダルシリカ砥粒が堆
積し始めている.壁状膜の表面は’=80minと同様,平坦面を呈するが,微小空孔はポリシング
用砥粒で,ほぼ埋められているのがわかる.ポリシング過程が寿命過程となるポリシング時間
’=340minを見ると,それまでの過程のポリシャ表面状態とは明らかに異なり,表面および断面
からのポリシャ表層状態の観察からわかるように,砥粒が,巨視的空論も埋め尽くしているの
が見られる.
以上の結果を基にすると,ポリシング過程におけるポリシャ表面状態の変化は,図3.5に示
すようなモデルになると考えられる.図に示すように,ポリシャ表面状態は,ポリシャの表面
t=Omin
t=220min
t=80min
t=340mモn
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Enlarged
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図3.4 ポリシング過程におけるポリシャ表面の変化
lPolisher:suede−type,Abrasive l SiO2,Lg=20ml/min,P=10kPa,Va=1.5m/s】
一52一
一。L惣]
第3章 アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
摩耗と,砥粒の堆積によって変化する.初期過渡過程において,突起状ナップ部が除去され図
3.5(b)に示すような表面が平坦化された定常過程となる.後期過渡過程では,砥粒の堆積によ
り除去速度が低下し,巨視的空孔が完全に埋め尽くされる図3.5(d)の状態となると,除去速度
は定常過程の1/10程度まで落ち込みポリシャ寿命に至る.
「olec
職事
一
Macroscopic
hole
(b)Beginning of2nd step
(a)Befbre polishing
(c)Beginlling of 3rd step
(d)Lifヒtime
図3.5 ポリシング過程におけるポりシャ表面の変化モデル
図3.6は,ポリシング過程におけるポリシング抵抗の変化を調べたものである.図よりわか
るように,ポリシング抵抗は,ポリシング除去速度と同様な変化をする.すなわち,ポリシン
グ抵抗は,ポリシング初期の前期過渡過程では大きく,前期過渡過程から定常過程まで減少後,
定常過程では一定値を示す。さらに,後期過渡過程になると再度減少し始め,寿命状態になる
と,非常に小さな一定値を示す.ここで,この現象を考察してみる.
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Supply fluxゐ9120ml加1in
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図3.6 ポリシング過程におけるポリシング抵抗の変化
一53一
第3章アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
初期過渡過程では,突起状ナップ部が除去され,ポリシャ表面の平坦化が行われる.このた
め,ポリシング作用に関わる砥粒数魂は増加し,一方,個々の砥粒に作用する荷重ωgは減少
すると考えられる.しかし,いずれの過程においても,ポリシング荷重〃に対して研=塊・
ωgが成立する.ポリシング除去速度ルfは,個々の砥粒による基板除去速度mgと魂の積であ
る.ここで,mgが球形の砥粒を基板に押し込んだ場合の砥粒移動方向に垂直な断面積Sgに比
例しているとすると,Sgはωgと比例関係にある2).これらから,次のような関係式が成立す
る.
ノレでQC IV』。7ηg㏄現・Sg◎⊂1V』L〃g=魂・(〃ア/1V』)=〃’一一一一一一一一一一一。一一一一_一一一一一一一一一(3。1)
すなわち,単純なモデルを考えると,除去速度Mはポリシング荷重〃にのみ関係し,ポリシ
ャ表面が変化しても除去速度は変化しない.しかし実際には,ポリシング初;期の方が定常過程
よりも大きな除去速度になる。そこでこのようになるのは,摩耗平坦化した定常過程のポリシ
ャ表面に比較して,初期ポリシャ表面では,突起状ナップ部や微小空孔があり砥粒の移動を妨
げるため,基板除去に大きな役割を果たすものと考えている.ポリシング抵抗は,個々の砥粒
による基板除去に伴って生じるポリシング抵抗の総和であり,このような除去速度の変化に関
係して変化していると言える.
次いで,ポリシャ寿命時におけるポリシング除去速度と抵抗については,図3。7に示すよう
な,空知が砥粒に埋め尽くされたポリシャと基板との接触状態モデルを考える.図において,
ポリシャ寿命時のポリシング荷重研は,ポリシャ平坦部で保持された絶粒群と空孔内の砥心
逸で支持されるとし,それらで支持する荷重を馬と耽で示している.この図より,次のよう
な関係式が成立する.
”7=Σωpi十Σωgi=%十肱
騨騨闘一一一一一一一・■■.一・國一旧■葡騨一一一一一一一・一・一一一一騨一一(3.2)
1㌃需万b十」Fセ=Σ協i十Σ菟i=μP。Σωpi十μ9・Σωgi=μP・〃∼》十μき・〃』圃一噛一一一一一一一一(3・3)
ただし,
瓦:ポリシング抵抗,
ゐi,ゐ:平坦部および空孔内の堆積した砥粒と基板との間に働くポリシング抵抗
ろ,尾:平坦部および空孔内の堆積した砥粒と基板との問に働く総ポリシング抵抗
怖,μg:平坦部と空孔部における砥粒と基板の平均摩擦係数
一54一
第3章アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
図3.7 ポリシャの寿命状態におけるポリシャと基板の接触モデル
ところで,ポリシャ寿命時において空孔部にある堆積した砥粒群は,溶媒が非常に少ない高
粘性流体状態にあると考えられる.このため,堆i積砥馬連の流動抵抗は,正常な状態のポリシ
ング液に比較して大きくなり,ポリシング荷重が作用した揚合,その一部を支持するようにな
る.しかし,液中にあるため,砥粒問での互いの拘束力はほとんど無いと考えられる.その結
果,ポリシャ平坦部と砥粒との接触摩擦力のような砥粒保持力が生じず,船津と基板が接触し
ても,除去作用はほとんど行わず,摩擦係数μgは極めて小さくなる.すなわち,整粒の堆積し
た空孔部では,ポリシング荷重〃の内の耽を支持するが,除去作用を行わず,式(3)の第2
項はほぼ零とみなせる。除去を行うのは,定常過程と同様,ポリシャ平坦部である.このよう
に考えると,定常過程においては,ポリシャ平坦部で全ポリシング荷重〃を支持するのに対
して,寿命時においては〃の一部である%しか支持しない.この結果,寿命時では,個々
の砥粒に作用するポリシング荷重が小さくなり,除去速度が大きく減少する。また,ポリシン
グ抵抗についても,瓦=Fp=μp・πp=怖・(〃L〃「9)となり,定常過程の場合の君=μp・πに比較し
て大きく減少する.
一55一
第3章 アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
3.3.2 ポリシャ寿命に及ぼすポリシング圧力と速度の影響
図3.8に,ポリシング圧力60kPa,ポリシング速度9.Om/sの条件でポリシングした場合のポ
リシング時間と基板除去厚さの関係を示す.このポリシング条件は,従来のポリシング条件に
比較すると超高圧力・超高速度ポリシング条件である.また,比較のために,ポリシング圧力
10kPa,ポリシング速度1.5m/sの場合も図中に示している.図より,ポリシング圧力60kPa,
ポリシング速度9.Om/sでの基板除去厚さはポリシング初期から大きな増加率で増加している。
ポリシング圧力10kPa,ポリシング速度15m/sで,総基板除去厚さが20μmに達するまでの時
間が約200分に対して,ポリシング圧力60kPa,ポリシング速度9.Om/sでは約40分と時間は
約5分の1程度となっている.また,圧力10kPa,速度1.5m/sの場合は,除去厚さが20μmを
越えると,除去厚さの増加率が極端に減少するのに対して,圧力60kPa,速度9.Om/sの場合は
増加率の大きな減少傾向は見られない.
図3.9は,図3.8の結果を書き換えて,基板除去厚さと除去速度との関係で示したものであ
る.図よりわかるように,圧力60kPa,速度9.Om/sでポリシングする場合には,同じ除去厚さ
でも,除去速度は4倍以上になるのがわかる。また,ポリシング初期の除去速度は大きく,そ
の後,定常過程まで除去速度が減少するのは,圧力10kPa,速度15m/sの場合と同じであるが,
圧力10kPa,速度1.5m/sの場合で寿命状態になっている除去厚さ20μmになっても,後期過渡
過程とはならずに,定常過程が続くのがわかる.そして,その定常過程の除去速度は,約
0.4μm/minであり,圧力10kPa,速度1.5m/sの場合の除去速度よりも格段に大きくなっている.
したがって,超高圧力・超高速度ポリシング法は,除去速度やポリシャ寿命の点で非常に有用
であると言える.
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Polishing time’min
図3,8 超高圧力・超高速度条件でのポリシング時間と除去厚さの関係
一56一
第3章アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
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註
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図3.9 超高圧力・超高速度条件でのポリシング過程における除去速度の変化
図3.10は,圧力60kPa,速度9.Om/sと圧力10kPa,速度1.5m/sで,除去厚さ20μm程度まで
ポリシング後のポリシャ表面を比較したものである.図よりわかるように,圧力10kPa,速度
15m/sの場合には,ポリシャ表面が白っぽい状態に変色しているのに対して,圧力60kPa,速
度9.Om/sの場合は,初期の黒い表面を持続しており,大きな差が見られる.
箪
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獣
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沼
壁上冷
〉艦駈/y
(a)P=10kPa,Va=1.5mls
(b)P=60kPa,Va=9.Omls
図3.10 ポリシング後のポリシャ表面
[Polisher:suede−type,Abrasive:sio2,τP=20μm1
図3.11は,図3.10で示した両ポリシャ表面をSEMで観察し,比較したものである.図より,
圧力10kPa,速度1。5m/sと比較すると,圧力60kPa,速度9.Om/sの場合は,図3.4で示したポ
リシング前に存在する壁状膜の最外表面層の突起状ナップ部は,ポリシングにより摩耗し,平
坦化されている.しかし,巨視的空孔は明確に残存しており,相判の埋め込みはそれほど見ら
れず,良好な表面状態を示している.一方,圧力10kPa,速度L5m/sの場合には,前述したよ
うに,ポリシャ表面の全てが,砥粒で埋め尽くされている.
一57一
第3章 アルミ磁気ディスク基板のボリシャ昇命の検討
Va=1.5mls,P=10kPa
Va=9.Omls,P=60kPa
(a)Surface
(b)Enlarged
塵嚇
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杁雛磯・.
き. 畠 .8
(c)Section
図3.11 ポリシング加工後のポリシャ表面の比較
lPolisher:Suede−type,Abrasive=SiO2,7〕p=20μm】
図3.10および図3。11では,同一除去厚み20μmにおけるポリシャ表面状態の比較を行い,
同一加工量での超高圧力・超高速度ポリシングの有用性を示した.この一方で,ポリシャ寿命
の発生には,ポリシャ表面へのコロイダルシリカ砥粒の堆積が関係すると考えられるので,そ
の堆積に及ぼすポリシング圧力と速度の影響を明確にすることは,超高圧力・超高速度ポリシ
ング特性を把握する上で重要と考えられる.図3.12に,圧力10kPa,速度9.Omlsの条件で,
ポリシング時間250min,除去厚さ11.4μmまでポリシングした場合と,圧力60kPa,速度1.5mls
の条件で,ポリシング時間300min,除去厚さが一桁高い除去厚さ約160μmまでポリシングし
た場合のポリシャ表面を比較して示す.図より, 圧力10kPa,速度9.Omlsの場合には,圧力
10kPa,速度1.5mlsの場合の寿命状態に近い表面状態を示している.一方,圧力60kPa,速度
1.5m/sの場合には,300minのポリシング時間で,大きな除去厚さを加工したにも関わらず,
ポリシャ表面は,初期に近い状態を維持している.このようなことより,超高圧力ポリシング
一58一
第3章 アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
条件はポリシャ表面状態を良好に維持させる効果が非常に大きいと考えられる.ポリシング圧
力が大きくなると,ポリシャのポリシング速度方向への変形(倒れ)が生じ,砥粒のポリシン
グ速度方向への流れを良くし,空孔内への沈殿を抑制することが影響していると推察される。
嚢
灘纒鞭
P=60kPa, Va=1.5mls
P=10kPa, Va=9.Om/s
【f=300min,τp=158.1μ,m 1
【f=250min,τp=11.4μm 1
図3.12 各ポリシング条件でのポリシャ表面の比較
図3.13は,圧力60kPa,速度9.Om/sの超高圧力・超高速度ポリシングを行った場合の基板
表面の平滑度を圧力10kPa,速度1.5m/sの場合と比較したものである。上段に表面粗さ,下段
に微小うねりを比較している.図よりわかるように,圧力60kPa,速度9.Om/sの超高圧力・超
高速度にポリシング後の基板平滑度は,圧力10kPa,速度1.5m/sの場合よりも幾分か大きくな
る傾向が見られるが,ほぼ同程度であり,大きな差は見られない.以上のことから,超高圧力・
超高速度ポリシング法は,高能率超平滑法として有用と考えられる.
羅 s・・慮撒s翰1願s 羅 s・・驚・・eS輔・Ii・・
3.DPIot Ra:0.36nm P−V,3.18㎜皿3.DPIot Ra:0.42㎜1 P・V:3.92nm
5000
5.000
憂
3.OOO
3,000
1.OOO
量
1,000
.肇.ooo
−1、OOO
.3.ooo
.3.ooo
−5.ooo
−5.㎜
[Surf註ce roughness]
醸 Su伽St舗融s 懸 S・㎡・。・S加佃i・s
3−oPlol Ra:0.76nm P・V:8.15nm
3.DP畳oI Ra:0,88nm
P・V:9.81nm
10.00
6,00
200
10.09
懸
600
2.oo
替
−2,00
−2.oo
ゼ.00
−600
−1000
噸100α
【Slight undulation]
(a)Va=1.5mls,P=10kPa
(b)Va=9.Omls,P=60kPa
図3.13 ポリシング圧力・速度が表面平滑度に及ぼす影響
【Polisher ISuede−type,Abrasive:SiO21
一59一
第3章 アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
3.4 第3章の小括
表面構造が一層構造のスウェードタイプポリシャとコロイダルシリカ砥粒を用い,高圧力・
高速度と超高圧力・超高速度条件で,アルミ磁気ディスク基板のポリシングした場合における
基板除去速度と平滑度の変化を,ポリシャ表面の変化とともに検討した.主な結果は,以下の
通りである.
1)ポリシング過程における除去速度変化は,初期過渡過程,定常過程,後期過渡過程,寿命
過程の4段階に分類される.初期過渡過程は,除去速度が大きいポリシング初期の状態から,
一定状態となる定常過程まで変化する過程である.後期過渡過程は,定常過程から,ポリシ
ャ表面上の空孔に砥粒が沈殿堆積することにより除去速度が減少し,最終的に寿命に至る過
程である.
2)超高圧力ポリシングにすると,砥粒の沈殿堆積が生じにくくなり,ポリシャ寿命は格段に
向上する.
3)ポリシング圧力60kPa,ポリシング速度9.Om/sのように,超高圧力・超高速度条件でポリ
シングを行うと,除去速度は数倍になる.
一60一・
第3章アルミ磁気ディスク基板のポリシャ寿命の検討
参 考 文 献
1)Helji Yasui, Syoji kuribayashi, Seiji matsukawa, Yhtaka Yamasaki, Kanta Yamaguchi:Polisher
Life in High Speed Ultra−Slnoothness Polishing of NiP Plated Alumi且um Magnetic Disk Substrate,
Proc. ASPE l gth Annual Meeting,(2004)737
2)安井平司:ガラス磁気ディスク基板の超平滑ポリシング(第1報)一除去速度と平滑度に
及ぼすポリシング圧力の影響一,精密工学会誌,70(9),(2004)1206
3)安井平司,山口寛太,松川誠治,山崎穣:アルミ磁気ディスク基板の超高圧力・超高速度
ポリシングにおけるポリシャ寿命の検討(第一報),精密工学会誌,Vb1.73(1),(2007)107
4)安井平司,松川誠治,山崎穣,山口寛太,久保田章亀:磁気ディスク基板のポリシングに
おけるポリシャ寿命の検討,2005年度精密工学会九州支部鹿児島地方講演会論文集,(2005)
l1
5)Heiji Yasui, Yutaka Yamasaki, Kanta Yamagllchi, Seiji Matsukawa, SyojiKuribayashi,
TakuyaNiki :Polisher Life ill Ultra・High Pressure and Ultra−High Speed Polishing of NiP Plated
Aluminum Magnetic Disk Substrate, Proc. ASPE 20th Annual Meeting,(2005)
一61一
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