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生工研ニュース
茨城県農業総合センター生物工学研究所
生工研ニュース
N o. 1 9
発行日/平成22年9月10日
編集・発行/茨城県農業総合センター
生物工学研究所
住所/〒319-0292
笠間市安居3165-1
TEL/0299-45-8330
ホームページ/
http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/
nourin/seibutsu/
街の本屋さんに行くと農業に関する本が沢山並んでいます。特に、新しく農業を始める人のため
の入門書が多いように見受けられます。経済不況の影響が大きいと思いますが、農業に関心を寄せ
る人が増えていることは確かなようです。
地球温暖化や生物多様性の保全、食料・資源・エネルギー争奪などの世界的な大きな潮流の中で、
貧困層が 10 億人を超え、格差がますます広がっています。また、食の安全・安心に関わる様々な
問題も身近なこととして多くの関心を呼んでいます。
一方、土になじみ有機農業に夢を託す若い人から、先端技術を駆使した植物工場や産官学が連携
したバイオマス活用大型プロジェクトなど企業の参入まで、幅広い動きが見られます。明るい未来
を築くために、低炭素社会に向けた自然エネルギーの活用、環境保全型農業の推進などに対応した
技術革新が求められています。
生物工学研究所は発足以来 18 年が経過し、これまでに 12 品目で 30 品種 6 系統を世に送り出
しました。また、育種を効率的に進めるための技術の開発や、生物農薬の開発にも取り組んできま
した。最近育成したメロン「イバラキング」
(仮称)やイチゴ「いばらキッス」
(仮称)
、コギク「常
陸シリーズ」は生産者や市場の評価が高く、現在、栽培技術の確立や現場への普及に向けて、農業
総合センター新品種育成普及プロジェクトチームや関係機関と連携して、取り組んでいるところで
す。
本県の農業は「茨城農業改革」8 年間の成果が稔り、農業産出額が全国第 2 位に返り咲き、東京
都中央卸売市場における青果物取扱高も 10%を占めて 6 年連続第 1 位
となっています。今年度はこれまでの取り組みを検証し、次年度以降の
計画を策定する重要な年です。これまではどちらかというと品質や収量
性などを重視して育種を進めてきた嫌いがありますが、これからは高温
に耐えられる、病気に強い、よい香りがする、加工適性が高いなど、新
たな要請にも応えられる品種、技術を開発して行きます。
新しい農業時代の要請に応えるために、現場の要望および消費・実需
ニーズの把握に努め、県民の皆様に喜んでいただける新品種や生物防除
技術の開発に一層力を入れて取り組んでまいります。ご指導、ご支援を
よろしくお願いいたします。
生物工学研究所長
佐久間文雄
茨城県のコギクは、沖縄県、奈良県に次いで全国第 3 位の出荷量があり、重要な花き品目の一つ
です。生産はコギクの需要が増加する 7 月東京盆、8 月旧盆、9 月彼岸のいわゆる物日が中心であ
り、年間約 3 千万本が出荷されています。
生産現場では、物日出荷に対応するため、100 を超える品種が栽培されています。そのため、
栽培管理が非常に煩雑であることが問題であり、優れた新品種の導入や適品種の選定により品種を
絞り込むことが重要な課題となっています。そこで、生物工学研究所では、物日出荷に対応できる
県オリジナル品種と、作期拡大を図るために物日前または後に出荷できる品種の育成に取り組んで
きました。今回、今までに育成した 3 品種に加えて、新たに常陸シリーズとして6品種を育成しま
したので紹介します。
常陸
常陸
常陸
サニールビー
サマースノウ
サマールビー
6月中下旬出荷向けで、
頂点咲きの品種です。濃い
赤紫色が特徴的です。
8月旧盆出荷向けの白色
品種で、頂点咲きで、光沢
のある照葉が特徴的です。
8月旧盆出荷向けの赤紫
色品種で、分枝数や花蕾数
が多くボリューム感に富
む頂点咲きの品種です。
常陸
常陸
常陸
オータムホワイト
オータムパール
オータムレモン
9月彼岸出荷向けの白色
品種で、分枝数、花蕾数が
多く、ボリューム感に富む
頂点咲きの品種です。
9月彼岸出荷向けの白色
品種で、切花長はやや短
く、頂点咲きで締まった良
好な草姿の品種です。
9月上中旬出荷向けのレ
モンイエロー系の黄色品
種です。頂点咲きで、ボリ
ューム感に富みます。
果樹・花き育種研究室 鈴木一典
茨城のイチゴに新しい仲間が加わりました。その名も「いばらキッス」
(仮称)。形の整った大きな果実と、甘味と酸味のバランスの良いジュ
ーシーな味が特長です。
茨城県のイチゴは作付け面積277ha で全国8位の産地です。産地
間競争の中、県内産地を活性化するために、茨城県でも特長のある県オ
リジナル品種の育成が求められています。生物工学研究所では、
(「とち
おとめ」×「レッドパール」)×「章姫」の組合せから、甘味に重点を
おいて選抜を重ね「いばらキッス」
(仮称)を育成しました。
平成22年4月22日に品種登録の出願公表となり、現在、県西、鹿
行の各農林事務所管内を中心に試験栽培を行っています。
表 いばらキッスの特性 (平成17年~19年平均)
収穫開始日 収量1) 1果重2)
硬度
糖度
(g/株)
(g)
(kg/Φ5mm) (Brix %)
いばらキッス
12/12
566
15.2
0.50
10.8
ひたち姫
12/12
487
15.4
0.43
10.5
とちおとめ
12/6
477
13.1
0.53
10.5
有機酸
(%)
0.77
0.66
0.81
各年11月~4月末までの調査 1)7g以上の果実 2)収穫全果実平均 野菜育種研究室 松本 雄一
本県のオオバは、行方市を中心として周年栽培が行われています。現地では栽培品種が統一され
ておらず、品質のバラツキが大きいことが問題となっています。そこで、県内の栽培に適し品質が
優れる品種の開発に取組み、オオバ新品種「ひたちあおば」
(仮称)を育成しました。
葉形は整ったハート型で、表面に光沢があり、葉の周りの切れ込みが細かく整っている等、見た
目の品質に優れています。また、香りが良く、苦味が弱い等の特長もあります。
平成 22 年 4 月 22 日に品種登録の出願公表となり、現在、行方市において試験栽培が行われて
おり、今後の普及が期待されます。
「ひたちあおば」の葉の形状
「ひたちあおば」の生育状況
野菜育種研究室 寺門 巌
遺伝子診断法でトマト黄化葉巻病を素早く診断する!
トマト黄化葉巻病は、ウイルス(TYLCV)によって引き起こされるトマトの重要病害です。この
病気は症状が生理障害と非常に似ているので、見た目で病気かどうかを診断することが難しいため、
発生に気付けずに被害が拡大してしまうことが問題になっています。このため、トマト黄化葉巻病
かどうかを素早く的確に判定できる診断法の開発が求められています。そこで、生物工学研究所で
は遺伝子診断技術を用いた新たな迅速診断法の開発に取り組みました。
遺伝子診断は、作物から
ウイルス検出操作
DNA抽出操作
DNA を抽出して、ウイルスを
までは、作物から DNA を抽出
する作業に複雑な操作が必要
成否判定
従来法
検出する操作を行います。これ
識別:種類A
すりつぶし
抽出
識別:種類B
洗浄
でしたが、
植物を紙に押し付け
精製
るだけで簡単に DNA を抽出
操作が複雑で難しい
何回も操作しなければならない
できるようにしました。
さらに
ウイルスの検出操作には、
ウイ
判定のために何回も操作を行
わなければなりませんでした
が、これらを一回の操作で行え
新規診断法
ルスの種類識別と診断の成否
DNA抽出操作
ウイルス検出操作
成否判定
種類識別
紙に葉を
押し付ける
る手法も開発しました。
このこ
一部をくり抜く
操作が簡単!
一回の操作でOK!
とにより簡単に素早く的確に黄化葉巻病を診断できるようになりました。
この成果により、黄化葉巻病の早期発見・早期防除ができ、さらに産地での発生実態解明にも役
立つので、産地ぐるみで黄化葉巻病の効果的な防除対策の実施が期待されます。
生物防除研究室 沼田 慎一
平成 22 年度人事異動
退職
転出
転入
新規採用
・生物工学研究所所長
冨田健夫
・流動研究員
泉川康博
・研究嘱託員
納谷康明
・研究調整監
本図竹司(農業総合センターへ)
・果樹・花き育種研究室室長
霞 正一(鹿島地帯特産指導所へ)
・生物工学研究所所長
佐久間文雄(園芸研究所より)
・研究調整監
飯田幸彦(農業研究所より)
・果樹・花き育種研究室室長
高津康正(農業大学校より)
・流動研究員
池本亜都奈
・研究嘱託員
小松拓真
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