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ディスクロージャーニュース 2013 / 4 vol.20

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ディスクロージャーニュース 2013 / 4 vol.20
RID
ディスクロージャーニュース 2013/4
vol.20
2013 / 4 vol.20
ディスクロージャーニュース
《金融商品取引法》
・平成25年3月期「有価証券報告書」の作成上の留意点
・訂正有価証券報告書の開示事例分析
・注記事項「重要な後発事象」の開示事例分析 その2
・次世代EDINETについて(その4)
・有価証券報告書の基礎(第19回)
・ディスクロージャー実務Q&A
・金融審議会報告書(投資信託法制の見直し)について
・金融審議会報告書(インサイダー取引規制)について
《国際会計基準》
・財務報告の利用者から見たIFRSの意義と課題
・IAS第16号、IAS第38号の概要
《会 社 法》
・経営判断の原則
・会社法コラム第53回
《I R》
・統合報告をめぐる最近の動向
・ESGディスクロージャーの現状(9)
《取 引 所》
不適当合併等に係る上場廃止審査について
《そ の 他》
本 社/〒171-0033 東京都豊島区高田3-28-8 Tel. 03
(3971)
3101代表
大 阪 支 店/〒541-0048 大 阪 市 中 央 区 瓦 町 3-6-5 Tel. 06
(6203)
5760代表
札幌営業所/〒060-0042 札幌市中央区大通西11-4 Tel. 011
(271)
9891代表
名古屋営業所/〒460-0003 名 古 屋 市 中 区 錦 1-20-25 Tel. 052
(221)
6901代表
(241)
0755代表
広島営業所/〒730-0031 広島市中区紙屋町1-1-20 Tel. 082
福岡営業所/〒810-0001 福岡市中央区天神2-14-2 Tel. 092
(712)
0012代表
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1,3
総合ディスクロージャー研究所
総合ディスクロージャー研究所
・金融商品取引法関連法令の改正日誌
・ディスクロージャーコラム
総合ディスクロージャー研究所
2013/03/28
14:16:29
RID ディスクロージャーニュース
2013/4 vol.20
Contents
■ 金融商品取引法
平成25年3月期「有価証券報告書」の作成上の留意点
1
訂正有価証券報告書の開示事例分析
10
注記事項「重要な後発事象」(四半期報告書)の開示事例分析 その2
26
次世代EDINETについて(その4)
53
有価証券報告書の基礎(第19回)
56
ディスクロージャー実務Q&A
69
公認会計士 山添清昭
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 手嶋大介
総合ディスクロージャー研究所研究員 金井陵策
総合ディスクロージャー研究所研究員 増田美和
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 新保秀一
総合ディスクロージャー研究所 黒須悠子
宝印刷㈱XBRL推進室課長 塩崎 直
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 新保秀一
総合ディスクロージャー研究所客員研究員 茨澤玲子
総合ディスクロージャー研究所研究員 増田美和
「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」 82
の最終報告について
宝印刷㈱執行役員ディスクロージャー研究一部長 平松 朗
金融審議会「インサイダー取引規制に関するワーキング・グループ」 89
の報告書について
宝印刷㈱執行役員ディスクロージャー研究一部長 平松 朗
■ 国 際 会 計 基 準
財務報告の利用者から見た国際財務報告基準(IFRS)の意義と課題
94
有形固定資産(IAS第16号)
、無形資産(IAS第38号)の概要
101
経営判断の原則
109
総合ディスクロージャー研究所顧問 橋本 尚
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 手嶋大介
■ 会
社
法
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 弁護士 六川浩明
会社法コラム第53回 アベノミクスと株主総会での対応
112
統合報告をめぐる最近の動向―その意義と実務上の留意点
116
ESGディスクロージャーの現状(9)
ディスクロージャーのグローバル化
―多言語によるディスクロージャーの現状から―
124
不適当合併等に係る上場廃止審査について
131
金融商品取引法関連法令の改正日誌
144
ディスクロージャーコラム
145
鳥飼総合法律事務所 弁護士 鳥飼重和
■ I
R
あらた監査法人 あらた基礎研究所長 安井 肇
ディスクロージャー研究二部 ESG担当 江森郁実
■ 取
引
所
事業創造大学院大学准教授 鈴木広樹
■ そ
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1
の
他
2013/03/25
18:47:54
金融商品取引法
平成25年3月期「有価証券報告書」の
作成上の留意点
山添 清昭
公認会計士 2.平成25年3月期「有価証券報告書」の主な改正点
1.はじめに
平成25年3月期の「有価証券報告書」を作成す
平成25年3月期の有価証券報告書に重要な影響
る時期が近づいて来ました。平成23年度税制改正
のある会計上・監査上の主な改正は、以下のとおり
において減価償却方法が見直され、日本公認会計士
ですので、ご確認ください。会計基準等の公表日ご
協会より「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」
との主な改正項目、適用時期及び平成25年3月期
が公表・適用されています。また、次年度以降の適
の適用ルールを【図表1】にまとめています。前期
用とされていますが、企業会計基準委員会より、新
以前より適用されている改正点もあります。その場
「退職給付会計基準」
、新「退職給付に関する会計基
合は、2年目・3年目の留意点として押さえてくだ
準の適用指針」が公表されています。平成25年3
さい。主な改正点を中心にまとめたものであり、改
月期の「有価証券報告書」を作成するためには、当
正点を網羅的にまとめたものでない点ご留意くださ
期、前期以前に公表された新会計基準を確実に押さ
い。
えておく必要があります。
そこで本稿では、まず、平成25年3月期「有価
証券報告書」に関連する主な改正点を整理していま
す。また、有価証券報告書を作成するにあたって留
意が必要と考えられる点についても記述しています
ので、ご参考にしてください。
本文において、意見にまつわる箇所は、筆者の私
見によるものであることを、最初にお断りします。
【図表1】平成25年3月期における会計・監査上の主な改正点
項 目
改正の主な内容
1.
「包括 利益の表
示 に関 する会 計 基
準」の導入
●改正3年目
★平成22年6月30日付、企業会計基準委員会より企業会計基準第25号「包括利益の表示に関
する会計基準」が公表・導入されました。
●「連結包括利益計算書」及び「連結損益及び包括利益計算書」に関する規定、様式が新設され、
同基準が適用される上場会社は、平成23年3月末より連結包括利益計算書の導入がされ、下
記のいずれかを選択・適用することになりました。
① 当期純利益を表示する損益計算書と、包括利益を表示する包括利益計算書からなる形式
(2計算書方式)
② 当期純利益の表示と包括利益の表示を1つの計算書(「損益及び包括利益計算書」
)で行
う形式(1計算書方式)
●適用時期は、以下のとおりです。
・連結財務諸表について、組替調整額等の注記を除き、平成23年3月31日以後終了する連結
会計年度の年度末から適用されています。
・組替調整額等の注記については、平成24年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末か
ら適用されています。
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項 目
●一部追加改正
改正の主な内容
★平成24年6月29日付、企業会計基準委員会より「包括利益の表示に関する会計基準」の一
部がさらに追加改正されました。
・改正包括利益会計基準は、現行の取扱いを変更するものではないため、公表日(平成24年6
月29日)以後に適用されています(包括利益会計基準16-3)
。
●主な改正点は、以下の2点です。
・包括利益の開示は、当面の間、個別財務諸表には適用しないということが、本改正基準で明
示されました(包括利益会計基準16-2)
。
・組替調整額の開示について、為替予約の振当処理は、実務に対する配慮から認められてきた
特例的な処理であることを勘案し、組替調整額及びこれに準じた開示は必要ないことが、本
改正基準で明示されました(包括利益会計基準31)ので、ご留意ください。
2.「 過 年 度 遡 及 会 ★平成21年12月4日付、企業会計基準委員会より企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤
計基準」の導入
謬の訂正に関する会計基準」
(以下、
「過年度遡及会計基準」という)が公表・導入されました。
●改正2年目
●会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積りの変更を「会計上の変更」とし、過去の
誤謬の訂正は、これらと性質を異にするものとして区別しています。
過年度遡及会計基準における用語
会計上の原則的な取扱い
① 会計上の変更
イ)会計方針の変更
遡及処理する(遡及適用)
ロ)表示方法の変更
遡及処理する(財務諸表の組替え)
ハ)会計上の見積りの変更
遡及処理しない
② 過去の誤謬の訂正
遡及処理する(修正再表示)
・会計上の変更について、「会計方針の変更」が正当な理由に基づくものか確認することが必
要です。
・
「会計上の見積りの変更」か「過去の誤謬の訂正」に該当するかについて、適切に区分して
いるかの確認が必要です。
●未適用の会計基準等に関する注記について
過年度遡及会計基準では、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基
準等がある場合には、一定の事項を注記するとし、
「未適用の会計基準等に関する注記」を
規定しています(過年度遡及会計基準第12項)ので、ご留意ください。
ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略できます。また、財務諸表提出会社が
連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表での記載は要しないとされています。
① 当該会計基準等の名称及びその概要
② 当該会計基準等の適用予定日(当該会計基準等の適用を開始すべき日前に適用する場合
には、当該適用予定日)
③ 当該会計基準等が連結財務諸表に与える影響に関する事項
●適用時期は、以下のとおりです。
・平成23年4月1日以後開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬
の訂正から適用するとされています。
・また、「未適用の会計基準等に関する注記」については、平成23年4月1日以後開始する事
業年度から適用されています。
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金融商品取引法
項 目
改正の主な内容
3.J-SOXのルー
ルの改正
●改正2年目
★平成23年3月30日付、金融庁企業会計審議会より「財務報告に係る内部統制の評価及び監
査に関する基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂につ
いて(意見書)」が公表されました。
●主な改正点は、以下のとおりです。
*「重要な欠陥」の用語の見直し
改訂前は、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備を表す用語として
「重要な欠陥」を使っていたが、今回の改訂で「開示すべき重要な不備」という用語に改
めることとなった。
*内部統制の効率的な運用方法を確立するための見直し
主として内部統制の経営者評価について簡素化・明確化の観点から以下の改訂が行われ
た。
① 全社的な内部統制の評価範囲の明確化、評価方法の簡素化
② 業務プロセスに係る内部統制の評価範囲の更なる絞込み、評価手続の簡素化・明確
化
③ サンプリングの合理化・簡素化
④ 持分法適用となる関連会社に係る評価・監査方法の明確化
⑤ 「やむを得ない事情」についての改訂
*効率的な内部統制報告実務に向けての事例の作成
*企業の創意工夫を活かした監査人の対応確保
●適用時期は、以下のとおりです。
平成23年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査か
ら適用されています。
4.監査人の監査報 ★平成23年7月8日付、日本公認会計士協会より監査・保証実務委員会実務指針第85号「監
告書の様式改訂
査報告書の文例」(最終改正平成24年7月4日)が公表され、会計監査人の監査報告書の様
●改正2年目
式が変更されました。
●主な改正に以下のものがあります。
① 監査報告書の記載区分を3区分から4区分に変更された。
・監査の対象
・経営者の責任
・監査人の責任
・監査人の結論
「監査の対象」以外は、それぞれ見出しを付して明瞭に記載することが求められる。
② 意見に関する除外及び監査範囲の制約に関しては、従来重要な影響として、一括して扱
っていたものを、今般の改正で、当概影響について「重要性」と財務諸表全体に及ぶの
かという「広範性」の2つの要素から判断することが明確にされた。
③ 追記情報について、
「強調事項」と「その他の事項」として、それぞれ区分して記載す
ることが求められる。
④ 監査意見の表明方法については、当期の財務諸表に対してのみ言及し、比較情報には明
示的に言及しない方法(対応数値方式)を採用することとなった。
●適用時期は、以下のとおりです。
平成23年4月1日以後開始する連結会計年度または事業年度から適用されています。
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項 目
改正の主な内容
5. 平 成 2 3 年 税 制
改 正 に よ る「2 0 0
%定率法」の導入に
伴い「減価償却に関
する当面の監査上
の取扱い」が改正
●改正1年目(当期
改正)
★平成24年2月14日付で、日本公認会計士協会より監査・保証実務委員会実務指針第81号
「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」が再度改正・公表されました。
●平成23年度税制改正において減価償却方法が見直され、平成24年4月1日以後取得する減
価償却資産の定率法の償却率は、定額法の償却率(1/耐用年数)を2.5倍した数から、定
額法の償却率(1/耐用年数)を2.0倍した数に改正されたことに伴い、所要の見直しがさ
れたものです。
●主な改正点は、以下のとおりです。
*平成23年度税制改正における減価償却方法
*平成23年度税制改正と減価償却方法に係る基本的考え方
*減価償却方法の選択
*新規取得資産についての取扱い
*既存資産についての取扱い
平成23年度税制改正後に選択し得る減価償却方法において、従来採用していた方法と平成
23年度税制改正後の法人税法に定める方法の組み合わせを示したうえで、それぞれの場合
における監査上の取扱いが示されているので、ご留意ください。
●過年度遡及会計基準において、減価償却方法の変更は会計方針の変更に該当しますが、会計
上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用しないとされていることから、本実務指針第
49項から第53項に規定した会計方針の変更については遡及適用されませんので、ご留意く
ださい(過年度遡及会計基準第19項、第20項、第62項)
。
●適用時期は、以下のとおりです。
平成24年4月1日以後終了する事業年度に係る監査から適用するとされています。
6.改正退職給付会
計基準の公表
●次年度以降適用
★企業会計基準委員会より平成24年5月17日付け、企業会計基準第26号「退職給付に関す
る会計基準」および企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」
が公表されました。
●①未認識数理計算上の差異、未認識過去勤務費用の処理方法の見直し、②退職給付債務・勤
務費用の計算方法の見直し、③開示の拡充など、重要改正が含まれています。
●適用時期等は、以下に示す2段階での適用が予定されています。
項目
適用時期
適用の際の取扱い
①下記②を除く ●平 成25年4月1日以後開始する ・過去の期間の財務諸表に対しては
すべて
事業年度の年度末に係る財務諸表
遡及処理しない。
から適用する。
・適用に伴って生じる会計方針の変
早期適用として、平成25年4月
更の影響額については、純資産の
1日以後開始する事業年度の期首
部における退職給付に係る調整累
から適用することができる。
計額(その他の包括利益累計額)
に加減する。
②退職給付債務 ●平 成26年4月1日以後開始する ・過去の期間の財務諸表に対しては
及び勤務費用の
事業年度の期首から適用する。
遡及処理しない。
計算方法の見直 ●なお、当該期首からの適用が実務 ・適用に伴って生じる会計方針の変
し並びに複数事
上困難な場合には、所定の注記を
更の影響額については、期首の利
業主制度の定め
条件に、平成27年4月1日以後
益剰余金に加減する。
など
開始する事業年度の期首から適用
することも認める。早期適用とし
て、平成25年4月1日以後開始
する事業年度の期首から適用する
ことができる。
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金融商品取引法
3.有価証券報告書の作成上の留意点
ください。
有価証券報告書に訂正を必要とするものがあると
なお、有価証券報告書の作成上のチェック項目や
認められたときには、訂正報告書の提出が求められ
留意点については、第三号様式記載上の注意や公益
ています(金融商品取引法24条の2第1項)
。有価
財団法人財務会計基準機構(FASF)の「有価証券
証券報告書を作成するに当たって、提出後に訂正報
報告書の作成要領(平成25年3月期提出用)」や宝
告書を提出することのないよう、作成にとくに留意
印刷株式会社の「有価証券報告書の作成要領」等を
する必要があります。
参考にしてください。
有価証券報告書を作成するためには、有価証券報
告書の全体像を把握しておく必要があります。まず
⑴有価証券報告書の記載項目
有価証券報告書の記載項目を確認していただきま
有価証券報告書の記載項目(主要タイトル)を【図
す。そのうえで、有価証券報告書の全体的チェック
表2】に示しますので、ご覧ください。また、作成
ポイントと定性的情報のチェックポイントを、作成
上のポイントについても右側に記載しています。実
上の留意点として示していますので、ご参考にして
際の有価証券報告書の作成に活用してください。
【図表2】有価証券報告書の記載項目
有価証券報告書・目次
主として連結情報
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5
作成上のポイント
第一部 企業情報
第1 企業の概況
1.主要な経営指標等の推移
2.沿革
3.事業の内容
4.関係会社の状況
5.従業員の状況
、
「第2 事業の状況」
、
「第3 設備
●「第1 企業の概況」
の状況」は、主として連結の情報で作成しますので、
ご留意ください。
また、これら箇所は、セグメント情報に関連づけて
記載することが求められている箇所がありますの
で、ご留意ください。
●関係会社の状況は、連結の範囲を確認する資料であ
る点にご注意ください。
第2 事業の状況
1.業績等の概要
2.生産、受注及び販売の状況
3.対処すべき課題
4.事業等のリスク
5.経営上の重要な契約等
6.研究開発活動
7.財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの
状況の分析
●「第2 事業の状況」の部分は、最近開示が充実して
きている部分です。とくに定性的情報である「業績
等の概要」、「対処すべき課題」、「事業等のリスク」
及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー
の状況の分析」に、注目して作成する必要がありま
す。後述の定性的情報のチェックポイントのところ
で作成の留意点を説明します。
第3 設備の状況
1.設備投資等の概要
2.主要な設備の状況
3.設備の新設、除却等の計画
●「第3 設備の状況」は、設備投資等の概要や今後の
設備の新設、除却等の計画などを示すものとして作
成されます。
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主として単体情報
連結
単体
有価証券報告書・目次
作成上のポイント
第4 提出会社の状況
1.株式等の状況
⑴株式の総数等
⑵新株予約権等の状況
⑶行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の
行使状況等 ⑷ライツプランの内容
⑸発行済株式総数、資本金等の推移
⑹所有者別状況
⑺大株主の状況
⑻議決権の伏況
⑼ストックオプション制度の内容
⑽従業員株式所有制度の内容
2.自己株式の取得等の状況
3.配当政策
4.株価の推移
5.役員の状況
6.コーポレート・ガバナンスの状況等
⑴コーポレート・ガバナンスの状況
⑵監査報酬の内容等
●「第4 提出会社の状況」は、主として単体情報(有
価証券報告書提出会社の情報)で作成されますの
で、ご留意ください。
●内部統制システムの整備状況については、
「コーポ
レート・ガバナンスの状況」の箇所に記載されます。
第5 経理の状況
●「第5 経理の状況」の冒頭には、連結財務諸表及び
財務諸表の作成方法等の記載が必要となります。
●当連結会計年度(当事業年度)に係る連結財務諸表
(財務諸表)は、当該連結財務諸表(財務諸表)の
一部を構成するものとして比較情報(当連結会計年
度に係る連結財務諸表(財務諸表)
(連結附属明細
表(附属明細書表)を除く。)に記載された事項に
対応 する前連 結 会 計 年度(前 事 業 年度 )に係る事
項をいう。)を含めて作成しなければならない(連結
財規第8条の3、財規第6条)とされていますので、
ご注意ください。
●前期より、過年度遡及会計基準が新たに導入され、
当期においても、連結財務諸表作成のための基本と
なる重要な事項(重要な会計方針)や注記事項の記
載に留意が必要です(【図表1】2参照)。
冒頭記載
1.連結財務諸表等
⑴連結財務諸表
⑵その他
2.財務諸表等
⑴財務諸表
⑵主な資産及び負債の内容
⑶その他
第6 提出会社の株式事務の概要
第7 提出会社の参考情報
1.提出会社の親会社等の情報
2.その他の参考情報
第二部 提出会社の保証会社等の情報
独立監査人の監査報告書
●監査報告書の様式が、改正されています。追記情報
の記載にも留意が必要です(【図表1】4参照)
。
内部統制報告書
確認書
●別途、内部統制報告書及び確認書の提出が必要で
す。
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金融商品取引法
⑵有価証券報告書の作成上のチェックポイント
有価証券報告書の作成上のチェックポイントとし
当期、前期以前に改正されているところを重点的に
チェックしておくことが重要です。
て、全般的チェックポイントと定性的情報のチェッ
有価証券報告書は、非常にボリュームがありま
クポイントを示しますので、有価証券報告書を実際
す。それぞれの担当者により、有価証券報告書の各
に作成する際にご活用ください。
部分は、段階的に作成作業が進められると思われま
①全般的チェックポイント
すが、作成の段階において、数字等の記載項目の照
有価証券報告書の訂正報告書の内容を見てみます
と、連結財務諸表や財務諸表の単純な合計計算誤り
や記載事項の漏れによるものが多くあります。この
合や記載事項相互間の整合性の突合せなどを完全に
行なうことが非常に重要になります。
また、改正点については、改定後の「第三号様式」
点は、作成時において計算チェック、クロスリフ
の様式の照合、同記載上の注意等の確認を完全に行
ァー等以下に示す手法によりかなりな部分の確認が
う必要があります。
基本的な留意ポイントですが、以下の【図表3】
可能であると考えます。
また、改正点を正しく反映していないことでの訂
正もかなりあります。平成25年3月期においては、
に記載したチェック項目が、有価証券報告書の作成
における全般的なチェックポイントです。
【図表3】有価証券報告書の作成上の全般的チェックポイント
チェック項目
1
有価証券報告書は、公表されている最新の第三号様式に基づいて作成していますか。また、第
三号様式のタイトルや様式など改正後のものに準拠されていますか。
2
財務諸表等の数値の計算チェックを網羅的に行なう必要がありますが、計算チェックは完全に
実施されていますか。
◎計算チェックの例示
・
(連結)貸借対照表、(連結)損益計算書、
(連結)株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・
フロー計算書等の各(連結)財務諸表の計算チェック。
・各附属明細表の計算チェック。
・主な資産及び負債の内容の計算チェックなど。
3
有価証券報告書の中で相互に記載される数値の照合(クロスリファー)は、完全に行われてい
ますか。
◎クロスリファーの例示
・
【主要な経営指標等の推移】
(ハイライト情報)と財務諸表数値、非財務情報(従業員の状況)
等との照合。
・【業績等の概要】に記載されている業績数値と財務諸表との照合。
・【連結財務諸表】、【財務諸表】の数値と附属明細表、主な資産及び負債の内容の記載数値と
の照合。
・【関係会社の状況】と連結財務諸表の連結の範囲の記載との照合。
・(連結)財務諸表に記載される注記番号と注記における番号の照合など。
4
改正後の会計基準に対応して連結財務諸表、財務諸表が作成されていますか。制度変更に基づ
く会計方針の変更記載や改正後の注記の開示に対応されていますか。
◎前期・当期改正されている会計処理等に特に注意する必要があります。
◎前期より、前期連結財務諸表、前期財務諸表は、比較情報としての記載が求められますの
で、注意が必要です。
◎最近改正された新会計基準や適用指針の適用時期に注意が必要です。
5
第三号様式の(記載上の注意)で記載が求められている項目や「作成にあたってのポイント」
で示されている留意事項について、記載漏れ・対応もれがないかをチェックされていますか。
◎平成25年3月期の主な改正点や記載上の注意・作成にあたってのポイントは、公益財団法人
財務会計基準機構作成の「有価証券報告書の作成要領」や宝印刷株式会社作成の「有価証券
報告書の作成要領」等が参考となります。
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チェック
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とくに、【業績等の概要】、【財政状態、経営成績
②定性的情報のチェックポイント
提出された訂正報告書の内容を見てみますと、
【株
及びキャッシュ・フローの状況の分析】
、
【事業等の
式の総数等】
、
【配当政策】
、
【役員の状況】
、
【コーポ
リスク】
、
【対処すべき課題】
、
【コーポレート・ガバ
レート・ガバナンスの状況等】
、
【提出会社の株式事
ナンスの状況等】などのそれぞれの記載事項の整合
務の概要】など、定性的情報についての訂正事例が
性を確認する必要があります。
多くあります。この中でも【配当政策】と【コーポ
有価証券報告書の定性的情報の該当箇所の相互間
レート・ガバナンスの状況等】の訂正事例が多く、
の整合性を考えながら有価証券報告書を作り上げる
具体的には、第三号様式記載上の注意で求められて
必要がありますし、作成の最終段階において、これ
いる記載項目の記載漏れを追加訂正するものが多く
ら定性的情報の整合性が保たれているかについて確
ありました。
認を行うことが重要であると考えます。
有価証券報告書に記載されるこれら定性的情報に
定性的情報の相互間の関連について、次の【図表
ついてのチェックのポイントは、各定性的情報に記
4】
「定性的情報の相互関連図」と合わせ以下に示
載する項目の内容・範囲を正確に理解し作成するこ
しますので、ご参考にしてください。下記の表の番
とと、各定性的情報の記載項目の相互間の整合性の
号は、【図表4】の番号と対応しています。
確認をすることであると考えます。
番号
確認のポイント
①→②
●【(連結)損益計算書】、
【連結包括利益計算書】
、
【
(連結)貸借対照表】
、
【
(連結)株主資本等変動計算書】【連
結キャッシュ・フロー計算書】等に記載されます財務データは、
【業績等の概要】において、分析的な記述
が求められます。すなわち、業績及びキャッシュ・フローの状況について、前年同期と比較して分析的に記
載し、なお、業績については、セグメント情報に記載された区分により記載することが求められています。
②→③
●【業績等の概要】に示された財務情報は、
【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】に
おいて、有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関して投資者が適正な判断を行うことが
できるよう、提出会社の代表者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する分析・検
討内容(例えば、①経営成績に重要な影響を与える要因についての分析、②資本の財源及び資金の流動性に
係る情報)を具体的に、かつ、分かりやすく記載することが求められています。
●また、
【事業等のリスク】において、重要事象等が存在する旨及びその内容を記載した場合には、
【財政状態、
経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】に、当該重要事象等についての分析・検討内容及び当該重
要事象等を解消し、又は改善するための対応策を具体的に、かつ、分かりやすく記載することとされてい
ます。
③→④
●有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、①財政状態、経営成績及びキ
ャッシュ・フローの状況の異常な変動、②特定の取引先・製品・技術等への依存、③特有の法的規制・取引
慣行・経営方針、④重要な訴訟事件等の発生、⑤役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、につい
て、
【事業等のリスク】おいて、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を一括して具体的に、
分かりやすく、かつ、簡潔に記載することとなります。
●また、提出会社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は
状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象(重要事象等)が存在する場合には、
【事業等のリスク】
に、その旨及びその具体的な内容を分かりやすく記載することとされています。
●したがって、【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の記載内容と【事業等のリスク】
の整合性が大切になります。
④→⑤
●【対処すべき課題】において、当期末現在における事業上及び財務上の対処すべき課題について、その内容、
対処方針等を具体的に記載することとされています。この【対処すべき課題】については、企業のリスクの
ハイライトをまとめて記載する前述の【事業等のリスク】の記述との整合性も求められます。
⑤→⑥
●最後に、提出会社の企業統治に関する事項について【コーポレート・ガバナンスの状況】にまとめられます。
【コーポレート・ガバナンスの状況】では、
【対処すべき課題】
、
【事業等のリスク】に記述された内容につ
いて実際に進めていく企業統治の体制がどのようになっているのか、会社の機関の内容、内部統制システ
ムの整備状況等について記述されますし、リスク管理体制の整備の状況についても記述が求められます。
●この【コーポレート・ガバナンスの状況等】については、原則として事業年度末現在で記載することが考え
られますが、制度の趣旨から考えて、提出日までに重要な事項がある場合にこれをフォローした記載とす
ることが望ましい(「有価証券報告書の作成要領」作成にあたってのポイントより)とされています。
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金融商品取引法
【図表4】定性的情報の相互関連図
① 財務データ
●【連結貸借対照表】
、
【貸借対照表】
●【連結損益計算書及び連結包括利益計算書】
、
【損益計算書】
●【連結株主資本等変動計算書】
、
【株主資本等変動計算書】
●【連結キャッシュ・フロー計算書】
●継続企業の前提に関する注記(連結)
(個別)
●連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項、重要な会計方針
●注記事項(連結)
(個別)
●【連結附属明細表】
、
【附属明細表】
② 【 業 績 等 の 概
要】
業績及びキャッシュ・フローの状況について、前年同期と比較して分析的に記載すること。記
載にあたっては、前年同期との数値比較に関する説明のほか、当該業績に至った背景、要因等
についてもできるだけ詳しく記載することが適当と考えられる。
なお、業績については、セグメント情報に記載された区分により記載すること。
③ 【財政状態、経
営成績及びキ
ャ ッ シ ュ・ フ
ローの状況の
分析】
a有 価証券報告書に記載した事業の状況、経理の
状況等に関して投資者が適正な判断を行うこと
ができるよう、提出会社の代表者による財政状
態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に
関する分析・検討内容(例えば、①経営成績に
重要な影響を与える要因についての分析、②資
本の財源及び資金の流動性に係る情報)を具体
的に、かつ、分かりやすく記載すること。
b【 事業等のリスク】において、重要事象等が存
在する旨及びその内容を記載した場合には、当
該重要事象等についての分析・検討内容及び当
該重要事象等を解消し、又は改善するための対
応策を具体的に、かつ、分かりやすく記載する
こと。
●連結財務諸表作成のための基
本となる重要な事項
●重要な会計方針
a有 価証券報告書に記載した事業の状況、経理の
状況等に関する事項のうち、①財政状態、経営
成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変
動、②特定の取引先・製品・技術等への依存、
③特有の法的規制・取引慣行・経営方針、④重
要な訴訟事件等の発生、⑤役員・大株主・関係
会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重
要な影響を及ぼす可能性のある事項を一括して
具体的に、分かりやすく、かつ、簡潔に記載す
ること。
b提 出会社が将来にわたって事業活動を継続する
との前提に重要な疑義を生じさせるような事象
又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を
及ぼす事象(重要事象等)が存在する場合には、
その旨及びその具体的な内容を分かりやすく記
載すること。
●【経営上の重要な契約等】
●その他リスクに関連する記載
●その他の重要なリスク
●重要な後発事象
⑤ 【対処すべき課
題】
当連結会計年度末現在における事業上及び財務上
の対処すべき課題について、その内容、対処方針
等を具体的に記載すること。
なお、基本方針を定めている会社については、会
社法施行規則第118条3号に掲げる事項を記載す
ること。
●重要な後発事象
●継続企業の前提に関する注記
⑥ 【 コ ー ポ レ ー
ト・ガバナン
スの状況】
*コーポレート・ガバナンスの状況には、上場会社の場合、おおよそ以下の記載が求められま
す。(⑴企業統治の体制(概要、内部統制システムの整備の状況、リスク管理体制の整備の
状況)、⑵内部監査及び監査役監査、⑶社外取締役及び社外監査役、⑷会計監査の状況、⑸
役員の報酬等、⑹株式の保有状況)
④ 【事業等のリス
ク】
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●【事業等のリスク】
●継続企業の前提の注記
●【財政状態、経営成績及びキ
ャッシュ・フローの状況の分
析】
●継続企業の前提の注記
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金融商品取引法
訂正有価証券報告書の開示事例分析
手嶋 大介
総合ディスクロージャー研究所研究員 金井 陵策
総合ディスクロージャー研究所研究員 増田 美和
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 はじめに
を対象として事例分析を行います。事例分析にあ
制度開示上求められている有価証券報告書及び
たっては、本紙vol.16で平成23年を対象に訂正
四半期報告書は、その開示上のルールが明確に定
報告書の分析を行っていますので、比較分析も行
められています。大半の開示対象会社はルールに
っています。
基づいて企業実態を報告書において説明していま
なお、本稿における意見の部分については、筆
すが、例えば新しいルールの認識漏れや認識誤
者の私見であることを予めお断りさせていただき
り、単純な人為的ミスにより報告書に誤りが生じ
ます。
ること、又は極めて稀であると考えますが、作為
的に誤った報告書を作成することが考えられま
1. 調査の前提について
す。その場合、会社は誤りを訂正し、正しい内容
⑴ 調査対象会社
の報告書を公表するために、訂正報告書を作成す
ることになります。
大半の開示対象会社はルールに基づいて開示を
行っているため、訂正報告書を作成する機会は多
平成24年6月1日から平成24年12月31日
までに、有価証券報告書に係る訂正報告書を
EDINETに提出している会社(268社)を対
象としました。
くないと考えられます。そのため実際に訂正報告
書を作成しなければならない事態に陥った際、ど
のような対応をとればよいか戸惑うケースが考え
られます。
⑵ 調査対象報告書
調査対象会社が調査対象期間に提出した有価
証券報告書に係る訂正報告書(589件)のう
そこで今回の事例分析では訂正報告を行わなけ
ち、平成24年3月期以降の有価証券報告書に
ればならない事態を防止するために、また実際に
係る訂正報告書(284件)を対象としました。
訂正報告書を作成することが避けられない場合の
なお、調査範囲の網羅性については、確保さ
対応を検討するために、訂正報告書の提出が行わ
れていないことを予めお断りさせていただきま
れた事例を分析します。どのような原因で誤りが
す。
生じ、どのような内容の訂正を行ったのかを分析
することで、有価証券報告書及び四半期報告書の
作成にあたって誤りが生じやすい事項を明らかに
します。
本紙1月号(vol.19)では、四半期報告書を対
象として事例分析を行いました。
今回は3月決算会社が有価証券報告書を提出す
るタイミングであることを鑑み、有価証券報告書
2. 調査結果について
⑴ 訂正報告書の提出時期
まず、有価証券報告書を提出した日から訂正
報告書を提出した日までの期間を調査しまし
た。訂正報告書の提出月別(6月提出から12
月提出)に分類し、集計した結果は以下のとお
りです。
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金融商品取引法
図表1
有価証券報告書提出日から訂正報告書提出までの期間
提出月
15日まで 30日まで 45日まで 60日まで 75日まで 90日まで 91日以降
6月
33件
7月
51件
41件
8件
8月
3件
1件
25件
9月
4件
10月
3件
11月
1件
12月
2件
合計
33件
100件
17件
8件
54件
5件
4件
5件
1件
1件
1件
5件
19件
13件
21件
30件
31件
22件
26件
合計
97件
46件
34件
18件
14件
5件
70件
284件
割合
34.2%
16.2%
12.0%
6.3%
4.9%
1.8%
24.6%
100.0%
(参考:前期結果)
合計
142件
39件
34件
17件
19件
15件
62件
328件
割合
43.3%
11.9%
10.4%
5.2%
5.8%
4.6%
18.9%
100.0%
主な特徴として、有価証券報告書提出日から
の提出で複数の記載項目にわたる訂正を行って
30日以内に訂正報告書を提出している件数が
いる点であり、詳細は⑷で検討します。⑷では
全体の約50%を占めています。これは前期結
10月から12月の間に提出された訂正報告書に
果も同様であり、有価証券報告書の提出後に確
ついて分析します。
認を行った結果、訂正事項を発見したためであ
⑵ 有価証券報告書の記載項目ごとの訂正件数
ると考えられます。なお、具体的にどのような
訂正を行っているかについては、⑶で検討しま
企業内容等の開示に関する内閣府令様式第3
す。⑶では6月から7月の間に提出された訂正
号の記載上の注意に定める記載項目ごとの訂正
報告書及び8月から9月の間に提出された訂正
件数は以下のとおりです。また、訂正報告書の
報告書について分析します。
提出時期別に訂正件数を集計しています。なお、
訂正箇所が10件以上となる記載項目について
また、91日以降に訂正報告書を提出してい
は、色付きにしています。
る件数も全体の約25%であり、件数が多くな
っています。こちらの特徴は1回の訂正報告書
図表2 平成23年6~12月及び平成24年6~12月 訂正報告書(内国会社)
項目
平成24年
8,9月 10~12月
合計
6,7月
8,9月 10~12月
合計
表紙
1
1
2
1
第一部 企業情報
9
18
27
1
3
第1 企業の概況
1 主要な経営指標等の推移
4
9
13
26
2 沿革
3 事業の内容
1
1
2
4
2
3
2
2
4 関係会社の状況
3
7
7
17
2
4
4
10
5 従業員の状況
1
2
2
5
3
3
2
8
第2 事業の状況
6
19
29
3
5
1 業績等の概要
2
5
10
17
4
2 生産、受注及び販売の状況
2
1
4
7
2
3 対処すべき課題
1
1
1
3
1
2
3
4 事業等のリスク
1
5
8
14
5
4
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平成23年
6,7月
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項目
平成23年
6,7月
平成24年
8,9月 10~12月
合計
6,7月
8,9月 10~12月
合計
5 経営上の重要な契約等
1
1
6 研究開発活動
7 財政状態、経営成績及びキャッ
シュ・フローの状況の分析
5
5
13
23
2
7
17
26
第3 設備の状況
2
4
2
4
8
1 設備投資等の概要
1
1
2
2 主要な設備の状況
3
2
5
2
3 設備の新設、除却等の計画
1
3
2
6
第4 提出会社の状況
1
1 株式等の状況
⑴ 株式の総数等
1
1
1
1
⑵ 新株予約権等の状況
1
1
2
⑶ 行使価額修正条項付新株予約権
付社債券等の行使状況等
⑷ ライツプランの内容
⑸ 発行済株式総数、資本金等の推移
1
2
1
2
2
3
5
3
1
1
⑹ 所有者別状況
4
1
5
3
2
⑺ 大株主の状況
4
1
1
6
5
3
1
⑻ 議決権の状況
2
1
3
1
⑼ ストックオプション制度の内容
2
1
1
4
1
⑽ 従業員株式所有制度の内容
2 自己株式の取得等の状況
1
1
2
3 配当政策
2
2
4
4 株価の推移
5 役員の状況
32
6
5
43
21
6
3
30
12
32
11
55
14
7
18
39
6 コーポレート・ガバナンスの状況等
⑴ コーポレート・ガバナンスの状況
2
2
1
1
⑵ 監査報酬の内容等
第5 経理の状況
冒頭記載
1
1
4
6
1
9
10
1 連結財務諸表等
⑴ 連結財務諸表
① 連結貸借対照表
1
2
8
11
1
1
14
16
② 連結損益計算書及び連結包括利益計算書
2
5
12
19
2
10
12
③ 連結株主資本等変動計算書
1
2
9
12
1
10
11
④ 連結キャッシュ・フロー計算書
1
2
9
12
2
12
14
(継続企業の前提に関する事項)
2
1
3
(連 結財務諸表作成のための基本と
なる重要な事項)
1
4
5
1
1
(連 結財務諸表作成のための基本と
なる重要な事項の変更)
1
1
(会計方針の変更)
1
(未適用の会計基準等)
(表示方法の変更)
1
1
(会計上の見積りの変更)
(追加情報)
1
2
3
1
2
12
2
1
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金融商品取引法
項目
平成23年
6,7月
(注記事項)
8,9月 10~12月
合計
6,7月
8,9月 10~12月
合計
(連結貸借対照表関係)
1
3
8
12
1
4
5
10
(連結損益計算書関係)
1
2
6
9
1
1
6
8
(連結包括利益計算書関係)
2
3
5
10
1
1
2
(連結株主資本等変動計算書関係)
1
1
2
1
1
(連結キャッシュ・フロー計算書関係)
2
2
2
4
6
(リース取引関係)
4
4
1
1
1
3
(金融商品関係)
2
8
10
2
3
7
12
(有価証券関係)
3
3
1
2
4
7
(デリバティブ取引関係)
2
2
1
1
1
3
(退職給付関係)
1
3
4
1
3
3
7
(ストック・オプション等関係)
1
1
2
(税効果会計関係)
1
10
11
1
2
12
15
(企業結合等関係)
1
1
2
1
2
3
6
(資産除去債務関係)
1
1
1
2
(賃貸等不動産関係)
1
4
14
19
1
1
(セグメント情報等)
2
5
17
24
1
2
9
12
(関連当事者情報)
1
7
8
2
2
2
6
(開示対象特別目的会社関係)
1
(1株当たり情報)
1
2
8
11
1
(重要な後発事象)
1
2
1
4
2
⑤(連結附属明細表)
2
2
4
(社債明細表)
(借入金等明細表)
(資産除去債務明細表)
⑵(その他)
1
2
7
10
3
2
9
11
1
3
1
1
1
2
1
2
10
12
2 財務諸表等
⑴ 財務諸表
① 貸借対照表
1
1
10
12
2
11
13
② 損益計算書
2
8
10
1
9
11
③ 株主資本等変動計算書
8
8
1
9
10
④ キャッシュ・フロー計算書(連
結財務諸表を作成していない場合)
1
1
1
1
2
(継続企業の前提に関する事項)
(重要な会計方針)
1
4
5
(会計方針の変更)
(表示方法の変更)
1
1
1
1
1
(会計上の見積りの変更)
(追加情報)
1
2
3
(注記事項)
1
2
7
10
1
3
6
10
(貸借対照表関係)
1
1
(損益計算書関係)
1
4
5
6
6
(株主資本等変動計算書関係)
(キャッシュ・フロー計算書関係)
(連結財務諸表を作成していない場合)
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平成24年
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項目
平成23年
6,7月
平成24年
8,9月 10~12月
合計
6,7月
(リース取引関係)
4
4
(金 融商品関係)
(連結財務諸表
を作成していない場合)
(有価証券関係)
3
3
1
(連結財
(デリバティブ取引関係)
務諸表を作成していない場合)
(退 職給付関係)
(連結財務諸表
を作成していない場合)
(ストック・オプション等関係)
(連結財務諸表を作成していない場合)
8,9月 10~12月
合計
1
1
1
1
2
3
(税効果会計関係)
1
8
9
(企業結合等関係)
1
9
10
1
1
(資産除去債務関係)
(賃 貸等不動産関係)
(連結財務
諸表を作成していない場合)
1
1
(セ グメント情報等)
(連結財務
諸表を作成していない場合)
1
1
2
2
2
(関 連当事者情報)
(連結財務諸
表を作成していない場合)
1
1
(1株当たり情報)
1
7
8
9
10
(重要な後発事象)
2
2
1
5
1
2
3
⑤(附属明細表)
3
6
4
13
1
1
(有価証券明細表)
5
(有形固定資産等明細表)
1
(社 債明細表)(連結財務諸表を
作成していない場合)
(借 入金等明細表)
(連結財務諸
表を作成していない場合)
(引当金明細表)
(資 産除去債務明細表)
(連結財
務諸表を作成していない場合)
⑵(主な資産及び負債の内容)
2
2
5
9
⑶(その他)
第6 提出会社の株式事務の概要
1
7
2
3
1
2
3
2
8
10
1
1
1
1
第7 提出会社の参考情報
1 提出会社の親会社等の情報
1
1
2 その他の参考情報
3
1
1
5
3
第二部 提出会社の保証会社等の情報
3
監査報告書
10
7
9
26
10
5
1
16
有価証券報告書の添付書類
67
5
7
79
56
11
7
74
上記項目に該当しない項目
2
3
204
160
339
703
170
145
合計
5
330
645
(注)1. 平成23年の⑤(連結附属明細表)及び⑤(附属明細表)は、内訳項目に分類していないため合計数のみ記載
しています。
2. 「上記項目に該当しない項目」は、特定の別記事業のみで使われる項目に係る事例です。一例として、「証券
会社における自己資本規制比率」などです。
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金融商品取引法
⑶ 有価証券報告書提出日から90日以内に訂正
今回の調査では、平成23年6月から12月と
報告書を提出している場合の傾向
平成24年6月から12月という2期間分の調査
結果を並べていますが、訂正項目ごとの件数の
「⑴ 訂正報告書の提出時期」において、有
特徴は類似しています。例えば、2期間とも
価証券報告書提出日から30日以内に訂正報告
10月から12月について、
「主要な経営指標等
書を提出している件数が全体の約50%を占め
の推移」や「財政状態、経営成績及びキャッシ
ていることを述べましたが、そのほとんどが6
ュ・フローの状況の分析」の訂正件数が多いこ
月及び7月に提出されています。3月決算企業
とや、6、7月について、
「監査報告書」や「有
の有価証券報告書提出のピークは6月下旬であ
価証券報告書の添付書類」の訂正件数が多いこ
るため、その直後に訂正事項を発見し訂正報告
とがわかります。
書を提出する、というケースが多いものと思わ
れます。
つまり、平成23年に訂正が多かった記載項
そこで以下においては、
「平成24年6月、7月」
目は、平成24年についても引き続き訂正が多
かったと言えます。当該記載項目は作成誤りが
とそれに続く「平成24年8月、9月」に提出さ
生じやすいと考えられるため、有価証券報告書
れた訂正報告書において、訂正された項目とそ
の作成に際して、注意が必要です。
の内容について分析していきます。
図表3 訂正の多かった上位5項目(6月、7月)
平成24年
(参考)平成23年
1
有価証券報告書の添付書類
56
1
有価証券報告書の添付書類
67
2
役員の状況
21
2
役員の状況
32
3
コーポレート・ガバナンスの状況
14
3
コーポレート・ガバナンスの状況
12
4
監査報告書
10
4
監査報告書
10
5
5
財 政 状 態、 経 営 成 績 及 び キ ャ ッ シ
ュ・フローの状況の分析
5
5
大株主の状況
有価証券明細表
3月決算の企業が有価証券報告書を提出して
訂正内容としては、添付書類自体の記載内容
から、概ね30日以内の期間にあたる「平成24
を訂正する「添付書類の訂正」と、有価証券報
年6月、7月」では、提出された訂正報告書が
告書提出時に添付されていなかった添付書類を
133件と、
「平成24年8月、
9月」やその後の「平
訂正報告書によって添付する「添付書類の添付
成24年10月~12月」と比較して、最も多く
漏れ」に大別されますが、その数は「添付書類
なっています。
の訂正」が7件、
「添付書類の添付漏れ」が49
訂正の多かった上位5項目は、
(図表3)のと
おりであり、そのうち「有価証券報告書の添付
件と、
「添付書類の添付漏れ」が大部分を占め
ています。
また、添付書類の種類ごとに集計したものが
書類」から「監査報告書」までの上位4項目は、
平成23年の同時期においても同じ順でした。
下記の表となります。なお、1社で複数の種類
の添付書類について訂正を行っている場合があ
「有価証券報告書の添付書類」は、前記(図
表2)のとおり、調査対象期間全体においても
るため、合計は提出件数56件と一致しており
ません。
最も訂正が多い項目となっています。
図表4 添付書類の種類ごとの集計
招集通知
決議通知
28
定款
28
インターネット開示事項(注)
16
11
(参考:前期結果)
招集通知
決議通知
45
定款
40
インターネット開示事項(注)
19
8
(注)連結注記表、個別注記表など
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招集通知や決議通知については、単独での添
ての添付書類の添付漏れというケースが多く見
付漏れは少なく、
「招集通知+決議通知」「招集
られます。これらは、有価証券報告書提出時の
通知+決議通知+定款」など、必要とされる全
操作ミスが主な原因であると推測されます。
事例1 添付書類の添付漏れ(招集通知、決議通知)
1【有価証券報告書の訂正報告書の提出理由】
平成24年6月20日に提出いたしました第76期(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)有
価証券報告書 に書類添付もれがありましたので、これを訂正するため有価証券報告書の訂正報告書を提出
するものであります。
2【訂正事項】
「第76回定時株主総会招集ご通知」および「第76回定時株主総会決議ご通知」を添付書類として追加
いたします。
3【訂正箇所】
添付書類をご参照ください。
対して定款やインターネット開示事項につい
いることや、インターネット開示事項について
ては、単独での添付漏れというケースの方が多
はそもそも添付書類として必要であるという認
くなっています。これは、定款については変更
識を持っていなかったことなどにより添付を失
がなければ5年ごとに添付すれば良いとされて
念したことが原因として考えられます。
事例2 添付書類の添付漏れ(インターネット開示事項)
1【有価証券報告書の訂正報告書の提出理由】
平成24年6月22日に提出いたしました第78期(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)有
価証券報告書に、金融商品取引法第24条第6項及び企業内容等の開示に関する内閣府令第17条第1項に
より添付することとされている書類である連結計算書類の連結注記表及び計算書類の個別注記表が添付さ
れておりませんでしたので、有価証券報告書の訂正報告書を提出するものであります。
2【訂正事項】
「第78期定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」を添付書類として追加いたしま
す。
3【訂正箇所】
「第78期定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」の添付。
(注)添付書類に係る規定及びインターネット開示事項についての詳細は、本誌2012年4月号(vol.16)
「有
価証券報告書の訂正報告書の事例分析」も併せてご参照ください。
「役員の状況」においては役員の略歴や氏名
の訂正、
「コーポレート・ガバナンスの状況」
での社名の訂正など、単純なミスによるものと
いえる訂正が多く見られました。
においては役員報酬の金額や『株式の保有状況』
事例3 役員の状況(
「略歴」の一部を訂正)
3【訂正箇所】
訂正箇所は を付して表示しております。
(訂正前)
役名
職名
氏名
生年月日
略歴
昭和45年4月
平成17年7月
監査役
●● ●●
昭和22年
9月8日生
平成18年6月
平成18年6月
平成20年6月
平成20年6月
平成24年6月
任期
所有株式数
(千株)
当社入社
当社監査部長兼
不動産開発部長代理
当社執行役員
(注)4
当社総務部長
当社監査部長
当社取締役
当社監査役(現任)
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金融商品取引法
(訂正後)
役名
職名
氏名
生年月日
略歴
任期
昭和45年4月
平成17年7月
監査役
●● ●●
昭和22年
9月8日生
平成18年6月
平成18年6月
平成20年2月
平成22年6月
平成24年6月
当社入社
当社監査部長兼
不動産開発部長代理
当社執行役員
(注)4
当社総務部長
当社監査部長
当社取締役
当社監査役(現任)
所有株式数
(千株)
4
事例4 コーポレート・ガバナンスの状況(「役員報酬の内容」を訂正)
3【訂正箇所】
訂正箇所は を付して表示しております。
第4【提出会社の状況】
6【コーポレート・ガバナンスの状況等】
(1) 【コーポレート・ガバナンスの状況】
⑤ 役員報酬の内容
(訂正前)
イ. 提出会社の役員区分ごとの報酬の総額、報酬等の種類別の総額及び対象となる役員の員数
役員区分
報酬等の種類別の総額(千円)
報酬等の総額
(千円)
ストック・
オプション
基本報酬
賞与
退職慰労金
対象となる
役員の員数
(名)
取締役
(社外取締役を除く)
103,870
100,016
1,360
―
―
3
監査役
(社外監査役を除く)
8,200
8,200
―
―
―
1
20,650
20,650
―
―
―
4
社外役員
(注) 報酬等の総額には、当事業年度内に退任した取締役1名が含まれております。
(訂正後)
イ. 提出会社の役員区分ごとの報酬の総額、報酬等の種類別の総額及び対象となる役員の員数
役員区分
報酬等の種類別の総額(千円)
報酬等の総額
(千円)
基本報酬
ストック・
オプション
賞与
退職慰労金
対象となる
役員の員数
(名)
取締役
(社外取締役を除く)
103,870
102,510
1,360
―
―
3
監査役
(社外監査役を除く)
8,200
8,200
―
―
―
1
20,650
20,650
―
―
―
4
社外役員
(注) 報酬等の総額には、当事業年度内に退任した取締役1名が含まれております。
「監査報告書」については、平成23年7月に
けられた区分である「強調事項」を追加する、
日本公認会計士協会より『監査・保証実務委員
誤って添付してしまった前期財務諸表に係る監
会実務指針第85号「監査報告書の文例」
』が公
査報告書を削除するなどの事例が見られまし
表され、3月決算の場合は平成24年3月期より
た。
適用となっています。これを受けて、新たに設
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事例5 監査報告書(前期に係る監査報告書を削除)
3【訂正箇所】
平成24年6月27日に提出した第10期有価証券報告書の監査報告書として、以下の書類を提出いたし
ました。
[監査報告書]
・当期連結財務諸表に対する監査報告書
・前期連結財務諸表に対する監査報告書
・当期財務諸表に対する監査報告書
・前期財務諸表に対する監査報告書
上記のうち、
・前期連結財務諸表に対する監査報告書
・前期財務諸表に対する監査報告書
については、不要であるため削除いたします。
以上の様に、
「平成24年6月、7月」に提出
す。作成担当者及び社内関係者の提出後のチェ
された訂正報告書においては、提出された有価
ックや、社外からの指摘により誤りが発見さ
証券報告書を閲覧することによって、容易に発
れ、訂正報告書の提出に至ったものと思われま
見できる内容が訂正される傾向にあると言えま
す。
図表5 訂正の多かった上位5項目(8月、9月)
平成24年
1
有価証券報告書の添付書類
2
3
(参考)平成23年
11
1
コーポレート・ガバナンスの状況
主要な経営指標等の推移
9
2
主要な経営指標等の推移
財政状態、経営成績及び
キャッシュ・フローの状況の分析
7
3
コーポレート・ガバナンスの状況
業績等の概要
5
役員の状況
関係会社の状況
32
9
7
監査報告書
6
3月決算の企業が有価証券報告書を提出して
から、概ね31日~90日以内の期間にあたる
5
役員の状況
附属明細表
6
において、招集通知及び決議通知の添付方法に
ついては、
「平成24年8月、9月」では、提出された訂正
(a)株主総会招集通知及びその添付書類の
報告書が73件と、3つの期間の中で最も少な
末尾余白に、定時株主総会において報告し
く、訂正された項目についても、突出して多い
ものがなくばらつきがあります。
その中でも多かったのは、
「平成24年6月、
た旨を記載して添付する方法
(b)株主総会招集通知及びその添付書類の
ほか、株主総会決議通知を添付する方法
7月」から引き続き「有価証券報告書の添付書
のいずれかによることが適当とされており、以
類」でしたが、その内容として特殊な事例とい
下の事例では、決議通知を作成・添付する代わ
えるものが数件見受けられました。
りに、
(a)の方法により招集通知に記載する
金融庁の「有価証券報告書の作成・提出に際
こととされている文面の追加を行っています。
しての留意事項について(平成17年3月期版)」
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金融商品取引法
事例6 添付書類の訂正
1【有価証券報告書の訂正報告書の提出理由】
平成24年8月30日に提出した第5期(自 平成23年6月1日 至 平成24年5月31日)有価証券報告書
について、金融商品取引法第24条第6項及び企業内容等の開示に関する内閣府令第17条第1項第1号ロに
規定する添付書類が、要件を満たすものではありませんでしたので、これを訂正するため、有価証券報告
書の訂正報告書を提出するものであります。
2【訂正事項】
添付書類「第5回定時株主総会招集ご通知」
3【訂正箇所】
添付書類「第5回定時株主総会招集ご通知」の末尾に、報告しようとする事項が定時株主総会において
報告された旨の文面を追加記載いたしました。
「主要な経営指標等の推移」
「財政状態、経営
平成24年6月1日から12月31日までに提出
成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」
「業
された訂正報告書の件数は284件(以下、「全
績等の概要」では、銀行や証券会社などの金融
件」とします)ですが、訂正項目数は645件
機関独自の開示事項である「自己資本規制比率」
ありました。全件のうち、10月から12月に提
や「ソルベンシー・マージン比率」の訂正が比
出された訂正件数は78件と全体の約25%です
較的多く見られました。
が、訂正項目数は330件と半数以上を占めて
います。このことから、有価証券報告書の提出
⑷ 有価証券報告書提出日から91日以降に訂正
報告書を提出している場合の傾向
「⑴ 訂正報告書の提出時期」において、有
後、長期間が経過してから提出される訂正報告
書は、複数の項目にわたって訂正をしている事
例が多かったことがわかります。
価証券報告書提出日から91日以降に訂正報告
訂正項目数全件に対して10月から12月に提
書を提出している件数が全体の約25%を占め
出しているものが多数を占めていた主な項目
ていることを述べましたが、その大半が10月
は、以下(図表6)のとおりです。
から12月に提出されています。
図表6
訂正項目
6~12月の件数
割合(%)
主要な経営指標等の推移
18
27
66.6
業績等の概要
19
29
65.5
財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの
状況の分析
17
26
65.3
連結貸借対照表
14
16
87.5
連結損益計算書及び連結包括利益計算書
10
12
83.3
連結株主資本等変動計算書
10
11
90.9
連結キャッシュ・フロー計算書
12
14
85.7
12
15
80.0
10
12
83.3
122
162
75.3
(税効果会計関係)
(2)
(その他)
計
定性的情報の3項目では70%弱ですが、経
社が7社あり、さらに1社で20項目以上訂正し
理の状況以降の定量的情報の6項目では80%
ている会社が6社に上るなど、1社が複数項目
以上を占めています。
にわたって訂正していることがわかります。
訂正内容は、数値の訂正が大半で、
「主要な
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10~12月の件数
19
次に、訂正項目ごとの特徴を調査しました。
経営指標等の推移」を始めとして、関連した複
まず「主要な経営指標等の推移」にある主要な
数の項目において数値の訂正が連動していま
科目の訂正が他の項目に連動しているか確認し
す。また、上記9項目の全てを訂正している会
ました。
「主要な経営指標等の推移」に訂正の
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ある18件の内、14件は「業績等の概要」につ
るものが多く見受けられます。続いて(2)
(そ
いても訂正しています。また、11件は「財政
の他)の訂正を確認しましたが、10件はいず
状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況
れも「当連結会計年度における四半期情報等」
の分析」についても訂正しています。ここでは、
の科目の数値の訂正でした。一例として、連結
営業利益、経常利益、当期純利益などを連動し
損益計算書での当期純利益の数値訂正と連動し
て訂正しているものが多いほか、キャッシュ・
て、その他の四半期(当期)純利益金額を訂正
フローの訂正も多く見られます。
するなど、連動した訂正がほとんどでした。
また同様に、
「連結貸借対照表」から(税効
さらに、訂正した内容を調査しましたが、全
果会計関係)までを確認しましたが、
「連結貸
借対照表」
、
「連結損益計算書」
、「注記事項等」
件と比較したものが以下(図表7)のとおりで
と連動しながら複数の科目の数値を訂正してい
す。
図表7
6~12月の件数
割合(%)
数値
訂正内容
10~12月の件数
260
389
66.8
文字
80
151
52.9
記載の追加
64
138
46.3
不要記載削除
7
11
63.6
日付
0
9
0
金額単位
0
3
0
411
701
58.6
計
10月から12月に提出した訂正報告書につい
したことなどによって、再監査を受けたためで
て、数値の訂正が多いことを指摘しましたが、
す。これらの事例のうち、訂正理由として「不
全体の数値の訂正389件のうち、260件が10
適切な会計処理」や「会計処理の誤り」と記載
月から12月に該当しており、数値訂正の70%
していたのは、8件ありました。
近くを占めています。そのため、10月から12
複数項目にわたって連動して訂正している主
月の期間にとりわけ数値の訂正が多かったとい
な事例は、以下(事例7~11)のとおりです。
うことがわかります。なお、その他の項目は
(事例7~9)は、「主要な経営指標等の推移」
と「業績等の概要」と「連結損益計算書」が連
50%前後を占めていました。
また、訂正箇所が複数に及ぶ会社が多いた
動した訂正であり、
(事例10、11)は、「財政
め、訂正報告書を提出する際に監査報告書を再
状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況
添付しているか調査しました。その結果、監査
の分析」と「連結貸借対照表」が連動した訂正
報告書を再添付していたのは全体で11件あり
です。なお、連動した訂正箇所には色付けをし
ました。そのうち9件が10~12月に提出して
ています。
いましたが、これは、不適切な会計処理が発覚
事例7 主要な経営指標等の推移
3【訂正箇所】
訂正箇所は を付して表示しております。
なお、訂正箇所が多数に及ぶことから上記の訂正事項については、訂正後のみを記載しております。
第一部【企業情報】
第1【企業の概況】
1【主要な経営指標等の推移】
(1)連結経営指標等
売上高
回次
第18期
第19期
第20期
第21期
第22期
決算年月
平成20年
3月
平成21年
3月
平成22年
3月
平成23年
3月
平成24年
3月
20,548,196
20,046,316
20,545,940
21,830,496
(千円) 12,914,154
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金融商品取引法
経常利益又は
経常損失(△)
(千円) △1,303,993 △1,106,373
559,998
427,775
△115,555
当期純利益又は
(千円) △1,316,174 △1,968,288
当期純損失(△)
384,941
127,906
△852,859
包括利益
(千円)
―
―
―
124,251
△827,549
純資産額
(千円)
2,327,342
440,063
826,698
740,395
△170,171
総資産額
(千円) 13,265,685
11,079,198
10,750,122
13,309,754
14,052,173
1株当たり
純資産額
(円)
281.73
50.61
100.08
88.3
△24.93
1株当たり
当期純利益
又は当期
純損失(△)
(円)
△159.32
△238.27
46.6
15.48
△103.27
潜在株式調整後
1株当たり当期
純利益
(円)
―
―
―
―
―
自己資本比率
(%)
17.5
3.8
7.7
5.5
△1.5
自己資本利益率
(%)
△42.7
△143.4
61.9
34.7
△325.9
株価収益率
(倍)
―
―
7.21
9.36
―
以下略
事例8 業績等の概要
1【業績等の概要】
(1) 業績
-中略 以上の結果、当連結会計年度の業績は、売上高は21,830百万円と前年同期と比べて1,284百万円
(6.3%)増収、営業利益は293百万円と前年同期と比べて429百万円(59.4%)の減益、経常損失
、当期純損失852百万円(前期は当期純利益127百万円)と
115百万円(前期は経常利益427百万円)
なりました。
事例9 連結損益計算書
②【連結損益計算書及び連結包括利益計算書】
【連結損益計算書】
(単位:千円)
前連結会計年度
(自 平成22年4月 1 日
至 平成23年3月31日)
当連結会計年度
(自 平成23年4月 1 日
至 平成24年3月31日)
売上高
20,545,940
21,830,496
売上原価
17,200,920
18,724,989
売上総利益
販売費及び一般管理費
3,345,020
2,621,700
※1
営業利益
3,105,506
2,811,635
※1
723,319
293,870
427,775
△115,555
127,906
△852,859
―中略―
経常利益又は経常損失(△)
―中略―
当期純利益又は当期純損失(△)
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事例10 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
(訂正後)
(1) 財政状態
当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ19億97百万円増加し、93億89百万円となり
ました。
流動資産は、前期比20億81百万円増加の79億50百万円となりました。これは主に、現金及び預金が
5億2百万円減少しましたが、未収入金が12億81百万円、受取手形及び売掛金が11億63百万円増加し
たこと等によるものであります。
固定資産は、前期比84百万円減少の14億38百万円となりました。
固定資産のうち有形固定資産は、前期比20百万円減少の75百万円となりました。これは主に、減価償
却によるものであります。
無形固定資産は、前期比35百万円減少の44百万円となりました。これは主に、(株)○○○○○との
資本提携の解消に伴うのれんの減少によるものであります。
投資その他の資産は、前期比27百万円減少の13億18百万円となりました。これは主に、長期繰延税
金資産が90百万円増加しましたが、投資有価証券が1億19百万円減少したこと等によるものであります。
流動負債は、前期比17億88百万円増加の38億47百万円となりました。これは主に、買掛金が9億51
百万円、未払法人税等が4億37百万円、その他流動負債が4億14百万円増加したこと等によるものであ
ります。
固定負債は、前期比26百万円減少の3億48百万円となりました。これは主に、退職給付引当金が11
百万円、役員退職慰労引当金が11百万円増加しましたが、長期借入金が50百万円減少したこと等による
ものであります。
純資産は、前期比2億35百万円増加の51億93百万円となりました。これは主に、その他有価証券評価
差額金が69百万円減少しましたが、利益剰余金が3億5百万円増加したこと等によるものであります。
事例11 連結貸借対照表
(訂正後)
(単位:千円)
前連結会計年度
当連結会計年度
(平成23年
6月30日)
(平成24年
6月30日)
資産の部
流動資産
-中略流動資産合計
5,868,884
7,950,775
1,346,363
1,318,455
1,523,425
1,438,909
7,392,310
9,389,684
2,058,818
3,847,134
375,302
348,629
2,434,121
4,195,763
4,958,188
5,193,920
7,392,310
9,389,684
固定資産
-中略投資その他の資産合計
固定資産合計
資産合計
負債の部
流動負債
-中略流動負債合計
固定負債
-中略固定負債合計
負債合計
純資産の部
-中略純資産合計
負債純資産合計
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金融商品取引法
(事例7~9)は、
「連結損益計算書」の営業
それぞれの社外取締役及び監査役について、提
利益、経常利益及び当期純利益の訂正と連動し
出会社との人的関係、資本的関係又は取引関係
て、
「主要な経営指標等の推移」及び「業績等
その他の利害関係を、具体的かつ分かりやすく
の概要」も訂正されている事例です。
記載することが求められています。
また(事例10、11)は、
「連結貸借対照表」
従来の実務では利害関係がある社外取締役及
の資産、負債及び純資産の訂正と連動して、
「財
び監査役についてのみ記載を行っていた会社が
政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状
多いと考えられますが、今回の改正により、そ
況の分析」も訂正されている事例です。これら
れぞれの社外取締役及び監査役について記載を
は、複数の科目の数値を連動して訂正してお
行うことが必要です。
り、91日以降に訂正していたものに非常に多
なお、当該利害関係の記載に当たっては、我
が国の金融商品取引所が開示を求める社外役員
い事例でした。
の独立性に関する事項を参考にすることができ
⑸ コーポレート・ガバナンスの状況に係る訂正
ると定められています。
前述の(図表2)のとおり、今回の調査結果
また、当該利害関係には、社外取締役又は監
では、
「コーポレート・ガバナンスの状況」に
査役個人と提出会社との利害関係だけではな
係る訂正が39件行われており、件数が多くな
く、役員又は使用人である(あった)会社と提
っています。
「コーポレート・ガバナンスの状
出会社との利害関係についても開示の範囲に含
況」は、前回の調査でも訂正件数が多く、比較
まれます。
的頻繁に訂正が行われる箇所でありますが、特
に今回は、有価証券報告書提出日前の平成24
ロ 社外取締役及び監査役の独立性に関する
年3月30日に金融庁より「企業内容等の開示
開示(開示府令 第二号様式 記載上の注
に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」
が公表されたことが要因の1つであると考えら
意(57)a(c))
社外取締役及び監査役を選任するための、提
出会社からの独立性に関する基準又は方針の内
れます。
以下では、まず開示府令の改正について概要
容を記載することが求められています。また当
をおさらいした上で、どのような内容の訂正が
該基準又は方針がない場合は、その旨を記載す
行われているか分析します。
ることが求められています。
ハ 社外取締役又は監査役を選任していない
① 開示府令の改正の概要
今回改正が行われた府令等は、「企業内容等
の開示に関する内閣府令」
(以下、開示府令)
と「企業内容等の開示に関する留意事項につい
場合の記載(開示府令 第二号様式 記載
上の注意(57)a(c))
社外取締役又は監査役を選任していない場合
には、その旨及びそれに代わる社内体制及び当
て」
(以下、開示ガイドライン)です。
該社内体制を採用する理由を具体的に記載する
イ 社外取締役及び監査役と提出会社との利
ことが求められています。
害関係の開示(開示府令 第二号様式 記
改正前の開示府令では、社外取締役又は監査
、開示ガイド
載上の注意(57)a(c)
役を選任していない旨を記載することは求められ
ライン5-19-3)
ていませんでしたが、改正により、まず選任して
社外取締役及び監査役を選任している場合、
いない事実を開示することが求められています。
② コーポレート・ガバナンスの状況のどの箇所について訂正しているか
図表8 コーポレート・ガバナンスの状況の訂正箇所
企業統治の
体制
5件
内部監査及び
監査役監査
社外取締役及び
社外監査役
1件
21件
役員の報酬等
6件
株式の
保有状況
7件
合計
40件
(注)複数箇所の訂正を行った会社(1社)があるため、合計は39件と一致しておりません。
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「コーポレート・ガバナンスの状況」に記載
ことができました。
する内容は多岐にわたるため、まず、どの箇所
(a) 提出会社と社外取締役及び社外監査役
について訂正を行っているか調査しました。そ
との利害関係について記載を追加又は修
正
の結果、社外取締役及び社外監査役の記載につ
いて訂正を行っている件数が半数以上であった
(b) 社外取締役又は社外監査役を選任する
ための提出会社からの独立性に関する基
ことがわかります。
準又は方針の内容について記載を追加
上述したとおり、今回社外取締役及び社外監
査役の記載について開示府令の改正が行われて
(c) 社外取締役を選任していない旨及びそ
の理由について記載を追加
いるため、件数が多くなったと考えられます。
以下③で具体的な訂正内容について分析しま
す。
まず、(a)は(事例12)のように、提出会
社と社外取締役及び社外監査役との利害関係に
また、株式の保有状況、役員の報酬等の記載
ついて記載を追加又は修正する訂正です。当該
についても件数が多くなっています。これらは
訂正は上述した開示府令の改正イに関連して訂
それぞれ、金額や会社名等の訂正が行われてお
正が行われたと考えられます。
り、開示府令の改正とは特段関連はないと考え
られます。
(事例12)では、役員又は使用人である(あ
った)会社と提出会社との利害関係について記
載を追加しています。他には、それまで利害関
③ 社外取締役及び社外監査役の記載について、
どのような内容の訂正を行っているか
分析を行った結果、社外取締役及び社外監査
係について何も記載をしていなかったため、当
該記載を一から追加記載している事例も見受け
られました。
役の記載に関する訂正は以下の3つに大別する
事例12
<社外監査役との関係>
当事業年度に在任した社外監査役3名はそれぞれ当社の株主でありますが、株主としての関係を除き、
現任社外監査役が役員若しくは使用人である、又は過去に役員若しくは使用人であった会社を含め、いず
れも当社と人的関係、資本的関係、取引関係その他の利害関係はありません。
(注)下線部が、訂正報告書により追加で記載された部分です。
続いて、
(b)は(事例13)のように、社外
た。
取締役及び社外監査役を選任するための提出会
独立性に関する基準及び方針に関する記載
社からの独立性に関する基準又は方針の内容に
は、改正前の開示府令において、明確には求め
ついて記載を追加する訂正です。当該訂正は上
られていなかったため、特に開示を行っていな
述した開示府令の改正ロに関連して訂正が行わ
かった会社が多いと考えられます。そして、開
れたと考えられます。
示府令の改正後についても、従来と同様に開示
(事例13)では、独立性に関する基準及び方
を行わなかったため、今回の訂正報告書におい
針に関する記載を一から追加記載しています
て、一から追加記載を行う会社があったと考え
が、訂正報告書を提出している他の会社につい
られます。
ても、同様に一から追加記載を行っていまし
事例13
なお、当社は社外取締役及び社外監査役を選任するための独立性に関する基準及び方針は定めておりま
せんが、選任にあたっては、証券取引所の独立役員の独立性に関する判断基準等を参考にするとともに、
一般株主と利益相反が生じるおそれがないことを選任基準のひとつと考えております。
(注)下線部が、訂正報告書により追加で記載された部分です。
そして、
(c)は(事例14)のように、社外
取締役を選任していない旨及びその理由につい
て記載を追加する訂正です。当該訂正は上述し
た開示府令の改正ハに関連して訂正が行われた
と考えられます。
(事例14)では、社外取締役を選任していな
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金融商品取引法
い旨の記載を追加しています。他には、社外取
いなかったため、当該記載を一から追加記載し
締役の未選任についてそれまで何も記載をして
ている事例も見受けられました。
事例14
当社は社外取締役を選任しておりません。当社は、経営の意思決定機能と、業務執行を管理監督する機
能を持つ取締役会に対し、監査役3名中2名を社外監査役とすることで経営への監視機能を強化しており
ます。コーポレート・ガバナンスにおいて、外部からの客観的、中立の経営監視の機能が重要と考えてお
り、社外監査役2名による監視及び監査が実施されることにより、外部からの経営監視機能が十分に機能
する体制が整っているため、現状の体制をしております。
(注)下線部が、訂正報告書により追加で記載された部分です。
コーポレート・ガバナンスの状況に係る訂正
報告書では、貸借対照表や損益計算書など財務諸
は、有価証券報告書の提出後に会社が開示府令
表本表について訂正しているケースが多く、さら
の改正に気付いて行ったケースも考えられます
に数値を訂正した場合、主要な経営指標等の推移
が、金融庁の有価証券報告書レビューによる指
や注記事項など訂正の範囲が広範になるケースが
摘に対応して行ったケースが多いのではないか
多いことがわかりました。
と考えられます。
また、共に平成23年から24年の2年間にわた
平成24年3月の開示府令の改正は、コーポ
って同様の項目に訂正が生じていることから、今
レート・ガバナンスの状況について行われまし
回分析した訂正項目について、今後、有価証券報
たが、平成25年3月期以降の有価証券報告書
告書を提出する際にも注意が必要です。
に係る開示府令の改正が行われた場合、同様に
訂正報告を行う場合、それが1箇所の訂正であれ
改正点について金融庁から指摘が行われる可能
複数箇所の訂正であれ、実務上非常に煩雑であると
性があるため、注意が必要です。
考えます。また訂正の重要性を鑑みて再度監査報告
書を受領する場合、さらにその煩雑さは増すと考え
おわりに
ます。
今回の調査では、会社が訂正報告を行わなけれ
現状、適切な財務報告を行うための体制を整え
ばならない事態を防止するという観点から、どの
ている会社が大半であると思いますが、意図しな
ような原因で訂正が生じ、有価証券報告書のどの
い誤りなどにより、訂正報告を行わざるを得ない
ような事項に訂正が生じやすいのかについて分析
状況が生じることも考えられます。そのため特に
しました。
そして、分析の結果、有価証券報告書提出日直
後の訂正報告書では、添付書類の添付漏れや単純
な記載誤りが多いことがわかりました。一方、有
今回の分析で訂正が多く生じている項目について
は、より十分に注意を払って業務に当たって頂け
れば幸いです。
以 上
価証券報告書提出日から時間が経過した後の訂正
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金融商品取引法
注記事項「重要な後発事象」(四半期報告書)
の開示事例分析 その2
新保 秀一
総合ディスクロージャー研究所 黒須 悠子
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 《はじめに》
ここで、監査・保証実務委員会報告第76号「後
前回2013/1 vol.19のディスクロージャーニ
発事象に関する監査上の取扱い」(以下、委員会報
ュースにおいては、3月年度決算の、第1四半期報
告第76号)によれば、後発事象には、修正後発事
告書(連結財務諸表作成会社、日本基準を採用、第
象と開示後発事象の以下の2種類があるとされてい
1四半期連結決算日平成24年6月30日、約2,200
ます。
社)における注記事項「重要な後発事象」の開示事
例分析を行いました。
今回は、これを踏まえて、ここ一年間(平成24
1.修正後発事象…財務諸表を修正すべき後発事象
修正後発事象とは、決算日後に発生した事象であ
年度における第1四半期、第2四半期、第3四半期)
るものの、その実質的な原因が決算日時点で既に存
の四半期報告書における「重要な後発事象」がどの
在しているため、決算日時点の状況に関連する会計
様な動きをしているのか、また、
「重要な後発事象」
上の判断・見積について追加的・より客観的な証拠
の分類に従うと、占める割合がどのように推移して
を提供する事象をいいます。よって重要な修正後発
いるのかを調査、分析するに至りました。
事象が発生した場合には、財務諸表の修正を行うこ
以下、前回の2013/1 vol.19のディスクロージ
ャーニュースと同様の記述を引用します。
とが必要となります。
2.開示後発事象…財務諸表に注記すべき後発事象
「後発事象とは、貸借対照表日後に発生した事象
開示後発事象とは、決算日後に発生した事象であ
で、次期以後の財政状態及び経営成績に影響を及ぼ
り、決算日時点の財務諸表には影響しないものの、
すものをいう。
」
(企業会計原則注解1-3「重要な後
翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼす事象をい
発事象の開示について」
)
。また、
「連結決算日後、
います。よって重要な開示後発事象が発生した場合
連結会社並びに持分法が適用される非連結子会社及
には、財務諸表に注記を行う必要があります。
び関連会社の翌連結会計年度以降の財政状態、経営
本稿で対象とするのは後者の開示後発事象です。
成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を
開示後発事象については、発生のタイミングが決算
及ぼす事象(以下「重要な後発事象」という。
)が
日(四半期決算日)後、監査報告書日(四半期レビ
発生したときは、当該事象を注記しなければならな
ュー報告書日)までである場合には、注記を行う必
い。」(連結財務諸表規則第14条の9)とされてい
要があります。
ます。
また、四半期報告書を開示するにあたっても、以
なお、本稿における、意見にわたる部分は、筆者
の私見であることを申し添えます。
下の様に同様の規定として、
「四半期連結決算日後、
連結会社並びに持分法が適用される非連結子会社及
Ⅰ 調査対象会社及び調査対象範囲
び関連会社の当該四半期連結財務諸表に係る四半期
3月年度決算の、第1四半期報告書(連結財務諸
連結会計期間が属する連結会計年度(当該四半期連
表作成会社、日本基準を採用、第1四半期連結決算
結会計期間における四半期連結累計期間を除く。
)
日平成24年6月30日、約2,200社 なお、前回
以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー
調査済み)
、第2四半期報告書(連結財務諸表作成
の状況に重要な影響を及ぼす事象が発生したとき
会社、日本基準を採用、第2四半期連結決算日平成
は、当該事象を注記しなければならない。
」
(四半期
24年9月30日、約2,200社)
、第3四半期報告書
連結財務諸表規則第13条第1項)とされています。
(連結財務諸表作成会社、日本基準を採用、第3四
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金融商品取引法
半期連結決算日平成24年12月31日、約2,200
で、
「重要な後発事象」として注記されている会社(該
社)
当事項なし等は含まず)
調査対象会社、各四半期とも約2,200社のなか
第1四半期報告書(連結財務諸表における注記)245社 (2013/1 vol.19のディスクロージャーニュー
ス参照)
第2四半期報告書(連結財務諸表における注記)261社
第3四半期報告書(連結財務諸表における注記)231社
を調査対象範囲としました。
なお、調査項目の網羅性については、確保されていないことを予め申し添えます。
第1四半期報告書(連結財務諸表における注
Ⅱ 調査結果
1.開示された重要な後発事象の内容(委員会報
告76号における開示後発事象の例示を参照)
⑴ 各四半期における後発事象の内容
記)245社
(2013/1 vol.19のディスクロージャーニ
ュース参照)
〈図表1〉
重要な後発事象の内容
件数
⑴ 資本の増減等に関する事象
① 重要な新株の発行
32
② 重要な資本金又は資本準備金の減少
13
③ 重要な自己株式の取得、処分、消却
49
④ 重要な株式交換、株式移転
8
⑤ 重要な株式併合、株式分割
4
小計
106
⑵ 子会社等に関する事象
① 子会社等の設立、解散、倒産
11
② 重要な子会社等の株式の売却
12
③ 株式取得による会社等の重要な買収
31
④ 子会社間の合併
9
⑤ 子会社の事業譲渡、譲受
3
⑥ その他
14
小計
80
⑶ 会社が営む事業に関する事象
① 重要な合併
1
② 重要な資産の譲渡
8
③ 重要な事業の譲受
1
④ 重要な事業の譲渡
3
⑤ 重要な会社分割
2
⑥ 希望退職者の募集
7
⑦ 重要な設備投資
6
⑧ 新規事業に係る重要な事象(出資、会社設立、部門設置等)
3
小計
31
⑷ 資金の調達又は返済等に関する事象
① 多額な社債の発行、買入償還又は繰上償還
② 多額な資金の借入
小計
⑸ その他
合計
20
4
24
21
262
(注)1社で複数にまたがるケースがあるため、合計件数は社数と一致しない。
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〈図表2〉
第2四半期報告書(連結財務諸表における注記)261社
重要な後発事象の内容
件数
⑴ 資本の増減等に関する事象
① 重要な新株の発行
17
② 重要な資本金又は資本準備金の減少
4
③ 重要な自己株式の取得、処分、消却
49
④ 重要な株式交換、株式移転 <事例1><事例2>
14
⑤ 重要な株式併合、株式分割 <事例3><事例4>
22
小計
106
⑵ 子会社等に関する事象
① 子会社等の設立、解散、倒産 <事例5>
14
② 重要な子会社等の株式の売却
8
③ 株式取得による会社等の重要な買収
45
④ 子会社間の合併 <事例6>
10
⑤ 子会社の事業譲渡、譲受
6
⑥ その他
17
小計
100
⑶ 会社が営む事業に関する事象
① 重要な合併 <事例7>
13
② 重要な資産の譲渡
7
③ 重要な事業の譲受
3
④ 重要な事業の譲渡
1
⑤ 重要な会社分割 <事例8>
6
⑥ 希望退職者の募集
8
⑦ 重要な設備投資 <事例9>
7
⑧ 新規事業に係る重要な事象(出資、会社設立、部門設置等)
1
小計
46
⑷ 資金の調達又は返済等に関する事象
① 多額な社債の発行、買入償還又は繰上償還
16
② 多額な資金の借入 <事例10><事例11>
6
小計
22
⑸ その他 <事例12><事例13><事例14>
20
合計
294
(注)1社で複数にまたがるケースがあるため、合計件数は社数と一致しない。
第3四半期報告書(連結財務諸表における注記)231社
重要な後発事象の内容
〈図表3〉
件数
⑴ 資本の増減等に関する事象
① 重要な新株の発行
21
② 重要な資本金又は資本準備金の減少 <事例15>
③ 重要な自己株式の取得、処分、消却
1
37
④ 重要な株式交換、株式移転
6
⑤ 重要な株式併合、株式分割
14
小計
79
⑵ 子会社等に関する事象
① 子会社等の設立、解散、倒産
13
② 重要な子会社等の株式の売却
7
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金融商品取引法
③ 株式取得による会社等の重要な買収
38
④ 子会社間の合併
6
⑤ 子会社の事業譲渡、譲受 <事例16>
4
⑥ その他 <事例17><事例18>
12
小計
80
⑶ 会社が営む事業に関する事象
① 重要な合併
11
② 重要な資産の譲渡
11
③ 重要な事業の譲受 <事例19>
4
④ 重要な事業の譲渡 <事例20>
3
⑤ 重要な会社分割
2
⑥ 希望退職者の募集
16
⑦ 重要な設備投資
2
⑧ 新規事業に係る重要な事象(出資、会社設立、部門設置等)<事例21>
1
小計
50
⑷ 資金の調達又は返済等に関する事象
① 多額な社債の発行、買入償還又は繰上償還
11
② 多額な資金の借入
4
小計
15
⑸ その他 <事例22><事例23><事例24>
30
合計
254
(注)1社で複数にまたがるケースがあるため、合計件数は社数と一致しない。
⑵ <図表1>~<図表3>の総括
以下、<図表1><図表2><図表3>を、まとめた形で示します。
重要な後発事象
〈図表4〉
第1四半期報告書
第2四半期報告書
第3四半期報告書
件数
件数
件数
(1)資本の増減等に関する事象
① 重要な新株の発行
32
17
21
② 重要な資本金又は資本準備金の減少
13
4
1
③ 重要な自己株式の取得、処分、消却
49
49
37
④ 重要な株式交換、株式移転
8
14
6
⑤ 重要な株式併合、株式分割
4
22
14
106
106
79
① 子会社等の設立、解散、倒産
11
14
13
② 重要な子会社等の株式の売却
12
8
7
③ 株式取得による会社等の重要な買収
31
45
38
④ 子会社間の合併
9
10
6
⑤ 子会社の事業譲渡、譲受
3
6
4
⑥ その他
14
17
12
小計
80
100
80
① 重要な合併
1
13
11
② 重要な資産の譲渡
8
7
11
③ 重要な事業の譲受
1
3
4
④ 重要な事業の譲渡
3
1
3
小計
(2)子会社等に関する事象
(3)会社が営む事業に関する事象
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⑤ 重要な会社分割
2
6
2
⑥ 希望退職者の募集
7
8
16
⑦ 重要な設備投資
6
7
2
⑧ 新規事業に係る重要な事象(出資、会社設立、部門設置等)
3
1
1
31
46
50
20
16
11
4
6
4
24
22
15
21
20
30
262
294
254
小計
(4)資金の調達又は返済等に関する事象
① 多額な社債の発行、買入償還又は繰上償還
② 多額な資金の借入
小計
(5)その他
合計
(注)1社で複数にまたがるケースがあるため、合計件数は社数と一致しない。
以下、円グラフで示します
<グラフ1>
<重要な後発事象の分類別割合 第1四半期>
第1四半期
9%
1. 資本の増減等に関する事象(40%)
8%
40%
12%
31%
106件
2. 子会社等に関する事象(31%)
80件
3. 会社が営む事業に関する事象(12%)
31件
4. 資金の調達又は返済等に関する事象(9%)
24件
5. その他(8%)
21件
合計
262件
<重要な後発事象の分類別割合 第2四半期>
<グラフ2>
第2四半期
7%
7%
36%
16%
34%
1. 資本の増減等に関する事象(36%)
106件
2. 子会社等に関する事象(34%)
100件
3. 会社が営む事業に関する事象(16%)
46件
4. 資金の調達又は返済等に関する事象(7%)
22件
5. その他(7%)
20件
合計
294件
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金融商品取引法
<グラフ3>
<重要な後発事象の分類別割合 第3四半期>
第3四半期
6%
12%
31%
20%
31%
1. 資本の増減等に関する事象(31%)
79件
2. 子会社等に関する事象(31%)
80件
3. 会社が営む事業に関する事象(20%)
50件
5. その他(12%)
30件
4. 資金の調達又は返済等に関する事象(6%)
15件
合計
254件
これらの円グラフ(グラフ1からグラフ3)を見
半期ともに「資本の増減等に関する事象」と「子会
てわかるように、分類別に占める割合は、多少の動
社等に関する事象」の両者合わせて、60%以上を
きはあるものの、第1四半期、第2四半期、第3四
占めているという結果でした。
⑶ 「資本の増減等に関する事象」と「子会社等に
に 関 す る 事 象 」 と「 子 会 社 等 に 関 す る 事 象 」 が
関する事象」の分析
60%以上を占めているため、これらのさらに詳細
各四半期のおける「重要な後発事象の分類別割合」
なる分析結果を以下に記します。
(グラフ1~グラフ3参照)の中で、
「資本の増減等
① 「資本の増減等に関する事象」
<図表5>
第1四半期
重要な後発事象
件数
割合
第2四半期
件数
割合
第3四半期
件数
割合
「資本の増減等に関する事象」
① 重要な新株の発行
32
30%
17
16%
21
26%
② 重要な資本金又は資本準備金の減少
13
12%
4
4%
1
1%
③ 重要な自己株式の取得、処分、消却
49
46%
49
46%
37
47%
④ 重要な株式交換、株式移転
8
8%
14
13%
4
8%
⑤ 重要な株式併合、株式分割
4
4%
22
21%
14
18%
106
100%
106
100%
80
100%
合計
以下、円グラフで割合を示します。
<グラフ4>
第1四半期報告書
資本の増減等に関する事象
4%
8%
12%
46%
30%
重要な自己株式の取得、処分、消却(46%)
49件
重要な新株の発行(30%)
32件
重要な資本金又は資本準備金の減少(12%)
13件
重要な株式交換、株式移転(8%)
8件
重要な株式併合、株式分割(4%)
4件
合計
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106件
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<グラフ5>
第2四半期報告書
資本の増減等に関する事象
4%
13%
46%
16%
重要な自己株式の取得、処分、消却(46%)
49件
重要な株式併合、株式分割(26%)
22件
重要な新株の発行(16%)
17件
重要な株式交換、株式移転(13%)
14件
重要な資本金又は資本準備金の減少(4%)
21%
4件
合計
106件
第3四半期報告書
<グラフ6>
資本の増減等に関する事象
1%
8%
18%
47%
26%
重要な自己株式の取得、処分、消却(47%)
37件
重要な新株の発行(26%)
21件
重要な株式併合、株式分割(18%)
14件
重要な株式交換、株式移転(8%)
6件
重要な資本金又は資本準備金の減少(1%)
1件
合計
これらの結果から、
「資本の増減等に関する事象」
79件
も多かったことが判明します。
の中でも、重要な自己株式の取得、処分、消却が最
② 「子会社等に関する事象」
重要な後発事象の内容
<図表6>
第1四半期
件数
割合
第2四半期
件数
割合
第3四半期
件数
割合
「子会社等に関する事象」
① 子会社等の設立、解散、倒産
11
14%
14
14%
13
16%
② 重要な子会社等の株式の売却
12
15%
8
8%
7
9%
③ 株式取得による会社等の重要な買収
31
39%
45
45%
38
48%
④ 子会社間の合併
9
11%
10
10%
6
7%
⑤ 子会社の事業譲渡、譲受
3
4%
6
6%
4
5%
⑥ その他
合計
14
17%
17
17%
12
15%
80
100%
100
100%
80
100%
以下、円グラフで割合を示します。
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金融商品取引法
<グラフ7>
第1四半期報告書
子会社等に関する事象
4%
11%
39%
14%
15%
17%
株式取得による会社等の重要な買収(39%)
31件
その他(17%)
14件
重要な子会社等の株式の売却(15%)
12件
子会社等の設立、解散、倒産(14%)
11件
子会社間の合併(11%)
9件
子会社の事業譲渡、譲受(4%)
3件
合計
80件
第2四半期報告書
<グラフ8>
子会社等に関する事象
6%
8%
10%
45%
14%
17%
株式取得による会社等の重要な買収(45%)
45件
その他(17%)
17件
子会社等の設立、解散、倒産(14%)
14件
子会社間の合併(10%)
10件
重要な子会社等の株式の売却(8%)
8件
子会社の事業譲渡、譲受(6%)
6件
合計
100件
第3四半期報告書
<グラフ9>
子会社等に関する事象
7%
5%
9%
48%
15%
16%
株式取得による会社等の重要な買収(48%)
38件
子会社等の設立、解散、倒産(16%)
13件
その他(15%)
12件
重要な子会社等の株式の売却(9%)
7件
子会社間の合併(7%)
6件
子会社の事業譲渡、譲受(5%)
4件
合計
これらの結果から、
「子会社等に関する事象」の
80件
多かったことが判明します。
中でも、株式取得による会社等の重要な買収が最も
⑷ 後発事象を注記事項として判断する時期
(2013/1 vol.19のディスクロージャーニュー
レビュー報告書日)までである場合には、注記事項
として開示することになりますが、いつの時点で注
ス参照)
記事項が発生したとされるのか?それに関しては、
開示後発事象に関して、その発生のタイミングが
概ね以下の様な取扱いになると考えられています。
決算日(四半期決算日)後、監査報告書日(四半期
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(委員会報告第76号参照)
<図表7>
事象発生時期
解 説
合意成立のとき
相手との合意が必要な事象については、合意成立時に後発事象が発生
したものとされる。
Ex.合併、事業譲渡、事業譲受等
取締役会等の決議があったとき
取締役会等の意思決定により実施することのできる事象については、
取締役会等の決議があったときに後発事象が発生したものとされる。
Ex. 増資、減資、自己株式の取得等
一定の事実が発生したとき、又
は発生を認知したとき
会社の意思にかかわりなく蒙ることとなった損失その他については、
事実が発生したときに後発事象が発生したものとされる。
Ex. 火災等による損害の発生、係争事件の発生等
また、
「重要な後発事象」に関する注記事項の、
記載の仕方や記載内容は定まった規定がなく、実務
上は、委員会報告第76号や、過去の開示事例を参
考にしているものと思われます。
<図表2>に従って、開示事例を紹介します。
2.開示内容の分析
前回の2013/1 vol.19のディスクロージャーニ
ここで、後発事象の記載は、明確な会計基準がな
ュースにおいては、第1四半期報告書の開示事例を
く、実務上は、委員会報告第76号や過去の開示例
紹介しました。したがって、ここでは、まず、第2
を参考にしているのが現状です。そこで委員会報告
四半期報告書の開示事例、次いで、第3四半期報告
第76号の区分を示し、その区分と各事例との相関
書の開示事例を掲載します。
関係を<図表7>をベースとして、<図表8>とし
て記します。
⑴ 第2四半期報告書の開示事例
(第2四半期報告書)
<図表8>
事象発生時期
合意成立のとき
解説及び対応事例№
相手との合意が必要な事象については、合意成立時に後発事象が発生したものと
される。
対応事例№
<事例2>
取締役会等の決議
があったとき
取締役会等の意思決定により実施することのできる事象については、取締役会等
の決議があったときに後発事象が発生したものとされる。
対応事例№
<事例1><事例3><事例5><事例9><事例10><事例13>
一定の事実が発生
し た と き、 又 は 発
生を認知したとき
会社の意思にかかわりなく蒙ることとなった損失その他については、事実が発生
したときに後発事象が発生したものとされる。
対応事例№
<事例4><事例6><事例7><事例8><事例11><事例12><事例14>
また、<図表8>の対応事例ごとに、網掛けで発
24年10月1日から四半期レビュー報告書日までを
生時期を示しました。
(Ⅰ資本の増減等に関する事
指す。なお、各々の事例において脚注で四半期レビ
象について以降の紹介事例を参照。また、第2四半
ュー報告書日を記載。)
期報告書においては、3月決算会社のため、平成
Ⅰ 資本の増減等に関する事象について
消却に関して紹介しました。
資本の増減等に関する事象に関して、前回の第1
第2四半期報告書の開示事例については、④ 重
四半期報告書(2013/1 vol.19のディスクロージ
要な株式交換、株式移転(14件)と、⑤ 重要な株
ャーニュース)では、件数の多かった、① 重要な
式併合、株式分割(22件)に関して紹介します。
新株の発行と、③ 重要な自己株式の取得、処分、
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金融商品取引法
④ 重要な株式交換、株式移転
(重要な株式交換の事例)
<事例1>
(重要な後発事象)
(簡易株式交換による完全子会社化)
当社は、平成24年11月13日開催の取締役会において、当社を株式交換完全親会社とし、いずれも当
社の連結子会社である×××株式会社(以下、
「×××」という。)および株式会社○○○(以下、
「○○○」
という。
)を株式交換完全子会社とする株式交換(以下、総称して「本株式交換」という。)を行うことを
決議いたしました。
また、当社は、×××および○○○との間で、本株式交換に係る株式交換契約をそれぞれ締結しまし
た。本株式交換は、当社については、会社法第796条第3項の規定に基づく簡易株式交換の手続により株
主総会の承認を得ずに、×××および○○○については、平成24年11月30日に開催予定の臨時株主総
会においてそれぞれ承認を受けたうえ、平成25年1月1日を効力発生日として行う予定です。
株式交換の概要は、以下のとおりであります。
1.本株式交換の目的
本株式交換により、×××および○○○を完全子会社化し、当社が両社の保有資産を機動的に有効活用
できる体制を構築することにより、当社グループとしてより一層の経営の効率化と意思決定の迅速化を図
ることを目的としております。
これにより、当社グループの財務の健全化、事業力の徹底強化を加速させ、企業価値の向上を図ってま
いります。
2.株式交換の方式および内容
当社を株式交換完全親会社とし、×××および○○○をそれぞれ株式交換完全子会社とする株式交換で
す。
×××の普通株式1株に対して当社の普通株式140株を、○○○の普通株式1株に対して当社の普通株
式11株をそれぞれ割当て交付いたします。
但し、当社が保有する×××の普通株式および○○○の普通株式につきましては、本株式交換による株
式の割当ては行いません。
3.株式交換の時期
株式交換効力発生日:平成25年1月1日(予定)
4.本株式交換に係る割当ての内容の算定の考え方
本株式交換における株式交換比率算定に際し、その公正性・妥当性を確保するため、当社はZ証券株式
会社(以下、
「Z」という。
)
、×××および○○○は△△公認会計士事務所を算定機関として選定いたしま
した。
Zは、当社の株式価値については、当社が東京証券取引所に上場しており、市場株価が存在することか
ら市場株価方式による評価手法を勘案して株式価値の算定を行い、×××および○○○の株式価値につい
ては、将来の事業活動の状況を評価に反映させるためディスカウンテッド・キャッシュフロー方式を勘案
してそれぞれ株式交換比率の算定を行いました。
一方、△△公認会計士事務所は、当社の株式価値については、市場株価が存在することから市場株価方
式を用いて算定し、×××および○○○の株式価値については、修正純資産方式を中心に算定いたしまし
た。
当社は、Zによる株式交換比率の算定結果を参考に、×××および○○○との間で慎重に協議・交渉を
重ね、本株式交換における株式交換比率について前記のとおり合意いたしました。
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月13日
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(重要な株式移転の事例)
<事例2>
(重要な後発事象)
(株式移転による親会社の設立)
当社と○○株式会社(以下「×××」という。
)は、平成24年10月1日をもって共同株式移転の方法に
より当社及び×××の完全親会社となる○○○○○株式会社(以下「共同持株会社」という。
)を設立し
て経営統合することについて合意に達し、平成24年4月27日付で上記の共同株式移転に係る株式移転計
画(以下「本株式移転計画」という。
)を作成し、併せて同日付で本株式移転計画に基づき経営統合を行
うことに合意する株式移転契約書を締結した。なお、本株式移転計画については、平成24年6月26日開
催の当社及び×××の定時株主総会において承認可決された。
これにより、当社と×××は、平成24年10月1日をもって、共同株式移転の方法により共同持株会社
を設立し、両社の発行済株式の全部を新たに設立する共同持株会社に取得させるとともに、当社及び××
×の株主に対し、共同持株会社が本株式移転に際して発行する新株式を割当て交付した。
なお、本株式移転に伴い、当社及び×××の株式は、平成24年9月26日にそれぞれ東京証券取引所(当
社、×××)
、大阪証券取引所(当社)
、名古屋証券取引所(当社)及び福岡証券取引所(当社)の上場を
廃止し、新たに設立された共同持株会社の株式については、平成24年10月1日に東京証券取引所に新た
に上場された。
(1)本株式移転による経営統合の目的及び理由
当社及び×××は、事業環境の構造的変化に対応し、厳しい競争に勝ち抜くため、両社の経営資源を結
集してこれを最大限に活用することにより、ステンレス分野における総合力(技術・開発力、販売力、収
益力)国内No.1メーカーとしての地位を確立するだけでなく、グローバル・ステンレストップメーカー
への飛躍に向けて事業基盤を強化する。
(2)本株式移転の要旨
① 本株式移転の方法
当社と×××は、平成24年10月1日をもって、共同株式移転の方法により共同持株会社を設立し、両
社の発行済株式の全部を新たに設立する共同持株会社に取得させるとともに、当社及び×××の株主に対
し、共同持株会社が本株式移転に際して発行する新株式を割当て交付した。
② 本株式移転に係る割当ての内容(株式移転比率)
会社名
当社
×××
株式移転比率
1.00
0.56
(注)1. 株式の割当比率
当社の普通株式1株に対して共同持株会社の普通株式0.1株を、×××の普通株式1株に対して共
同持株会社の普通株式0.056株をそれぞれ割当て交付する。なお、共同持株会社の単元株式数は
100株とする。
本株式移転により、当社または×××の株主に交付する共同持株会社の普通株式の数に1株に
満たない端数については、会社法第234条その他関連法令の規定に従い、当該株主に対し1株に
満たない端数部分に応じた金額を支払う。 2. 共同持株会社が本株式移転により交付した新株式数
普通株式 109,843,923株
(3)本株式移転により新たに設立する会社の状況
(1)商 号
○○○○○株式会社(英文名:△△△△△ Co., Ltd.)
(2)事 業 内 容
鉄鋼及び非鉄金属の製造、加工及び販売等を営む子会社等の経営管理並
びにそれに附帯関連する事業
(3)所 在 地
東京都○○区××三丁目4番1号
(4)代 表 者
代表取締役社長
CEO(最高経営責任者)
(5)資 本 金
300億円
(6)決 算 期
3月31日
○○ ○○
(現 当社 代表取締役社長
CEO(最高経営責任者))
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月8日
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金融商品取引法
⑤ 重要な株式併合、株式分割
(重要な株式併合の事例)
<事例3>
(重要な後発事象)
1.株式併合
当社は、平成24年11月6日開催の取締役会において、平成24年12月26日開催予定の臨時株主総会
に、株式の併合(10株を1株に併合)について付議することを決議いたしました。
また、株式併合と併せて定款一部変更(単元株式数を1,000株から100株に変更、発行可能株式総数
を2億3千万株から2,300万株に変更)についても付議することを決議しております。
(1)株式併合の目的
当社株式の発行済株式総数を適正な水準に調整することを目的として株式の併合を行うものでありま
す。
当社は、株主、投資家の皆さまに、様々な投資指標を通じて、会社の状況についてご理解を深めていた
だくことが重要と考えております。このような観点のもと、株式併合を行い発行済株式総数を適正化する
ことにより、1株当たりの利益・配当等の諸指標や株価を、当社の状況に即してよりわかりやすく表示さ
れるようにしようとするものです。この結果、当社株式が株式市場において適正に評価されるとともに、
当社グループ全体のイメージ向上に資するものになることと存じます。
また、全国証券取引所では「売買単位の集約に向けた行動計画」を発表し、全国証券取引所に上場する
国内会社の普通株式の売買単位を最終的に100株単位に集約することを目指しております。当社といたし
ましては、上場企業としてかかる趣旨を尊重し、上記の状況等を勘案した上で、株式併合の効力発生と同
時に当社の単元株式数を1,000株から100株に変更いたします。
(2)株式併合の内容
① 株式併合する株式の種類
普通株式
② 株式併合の方法
平成25年1月10日(木曜日)を効力発生日として、株主様の所有普通株式10株につき1株の割合をも
って併合いたします。ただし、本株式併合の結果、1株に満たない端株が生じた場合には、会社法第234
条及び第235条に基づき、一括して売却処分とし、その処分代金を端株が生じた株主の皆様に対して、端
株の割合に応じて分配いたします。
(3)1株当たり情報に及ぼす影響
本株式併合が前連結会計年度の開始の日に行われたと仮定した場合の1株当たり情報は、それぞれ次の
とおりであります。
前連結会計年度末
(平成24年3月31日)
1株当たり純資産額
当第2四半期連結会計期間末
(平成24年9月30日)
598円8銭
前第2四半期連結累計期間
(自 平成23年4月1日
至 平成23年9月30日)
1株当たり四半期純利益金額又は
1株当たり四半期純損失金額(△)
潜在株式調整後1株当たり四半期
純利益金額
672円99銭
当第2四半期連結累計期間
(自 平成24年4月1日
至 平成24年9月30日)
△18円13銭
73円71銭
-
55円27銭
(注)前第2四半期連結累計期間の潜在株式調整後1株当たり四半期純利益金額については、潜在株式は存
在するものの1株当たり四半期純損失であるため記載しておりません。
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月14日
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(重要な株式分割の事例)
<事例4>
(重要な後発事象)
当社は、平成24年8月29日開催の取締役会決議に基づき、平成24年10月1日をもって当社定款の一
部を変更し、株式分割、単元株制度の採用を実施致しました。
1.株式分割、単元株制度の採用及び定款の一部変更の目的
平成19年11月27日に単元株制度(売買単位)を100株に統一することを目的として、全国証券取引
所が公表した「売買単位の集約に向けた行動計画」の趣旨を受け、当社株式の売買単位を100株とするた
め、株式を分割するとともに単元株制度を採用することに致しました。
なお、本株式の分割及び単元株制度の採用に伴う投資単位の実質的な変更はございません。
2.株式分割の概要
(1)分割の方法
平成24年9月30日を基準日として、同日最終の株主名簿に記載又は記録された株主の所有する普通株
式を1株につき100株の割合をもって分割致しました。
(2)分割により増加する株式数
株式分割前の発行済株式総数
158,660株
今回の分割により増加する株式数
15,707,340株
株式分割後の発行済株式総数
15,866,000株
株式分割後の発行可能株式総数
45,140,000株
3.単元株制度の採用
単元株制度を採用し、単元株式数を100株と致しました。
4.株式分割及び単元株制度の効力発生日
平成24年10月1日
なお、これによる影響については、前連結会計年度の期首に当該株式分割が行なわれたと仮定して算出
しており、
「1株当たり情報」に記載しております。
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月6日
Ⅱ 子会社等に関する事象
重要な買収に関して紹介しました。
子会社等に関する事象に関して、前回の第1四半
第2四半期報告書の開示事例については、① 子
期報告書(2013/1 vol.19のディスクロージャー
会社等の設立、解散、倒産(14件)と、④ 子会社
ニュース)では、件数の多かった、② 重要な子会
間の合併(10件)に関して紹介します。
社等の株式の売却と、③ 株式取得による会社等の
① 子会社等の設立、解散、倒産
(子会社の設立に関する事例)
<事例5>
(重要な後発事象)
当社は、平成24年11月9日の取締役会において、中国に子会社を設立することを決議いたしました。
1.子会社設立の目的
本格的なグローバル化のため、中国で現地法人を設立し、当社進出をアピールするとともに、新たな市
場・お客様の信頼と期待を獲得することを目的としております。
2.子会社の概要
(1)商号 ×××××
(2)住所 △△△
(3)設立日 平成24年11月(予定)
(4)資本金 50百万円
(5)出資比率 当社100%
(6)事業内容 当社製品の販売、当社ブランドを提供するためのハード・ソフト・サービスの提供
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月9日
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金融商品取引法
④ 子会社間の合併
(子会社間の合併に関する事例)
<事例6>
(重要な後発事象)
連結子会社間の合併
当社は、平成24年8月7日開催の取締役会において、当社子会社である株式会社MとU有限会社を合併
することを決議し、平成24年10月1日に合併いたしました。
1.企業結合の概要 (1)合併当事企業の名称およびその事業内容 (吸収合併存続会社)
名称 株式会社M
事業内容 水産養殖用飼料の開発販売
(吸収合併消滅会社)
名称 U有限会社
事業内容 活魚及び海産物の販売
(2)企業結合日 平成24年10月1日
(3)企業結合の法的形式
株式会社Mを存続会社とする吸収合併方式で、U有限会社は解散いたしました。
(4)結合後企業の名称
名称 株式会社M (5)取引の目的を含む取引の概要
当社グループが事業展開しております養殖魚インテグレーション(生産から販売までの統合事業)を
担う両社を合併することにより、重複する経営資源の再構築による営業効率の向上と、生産性及び収益
性の向上を図るためであります。 2.会計処理の概要
本合併は、
「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号 平成20年12月26日)および「企業
結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号 平成20年12
月26日)に基づき、共通支配下の取引として処理しております。
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月5日
Ⅲ 会社が営む事業に関する事象
した。
会社が営む事業に関する事象に関して、前回の第1
第2四半期報告書の開示事例については、① 重要
四半期報告書(2013/1 vol.19のディスクロージ
な合併(13件)と、⑤ 重要な会社分割(6件)、⑦
ャーニュース)では、件数の多かった、② 重要な資
重要な設備投資(7件)に関して紹介します。
産の譲渡と、⑥ 希望退職者の募集に関して紹介しま
① 重要な合併
(重要な合併に関する事例)
<事例7>
(重要な後発事象)
(株式会社○○○との合併)
当社は、平成24年9月19日開催の取締役会において、株式会社○○○(以下「消滅会社」
)を吸収合併
することを決議し、同日付で締結された合併契約に基づき、平成24年11月1日付で吸収合併いたしまし
た。
1.吸収合併の概要
(1)被取得企業の名称及び事業の内容
名称 株式会社○○○
事業の内容 書籍・教材の制作及び販売事業等
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(2)企業結合を行った主な理由
当社グループにおきましては、平成24年4月より、長期利益の安定成長に向けた中期経営戦略をス
タートしており、事業基盤の強化や事業の効率化に注力しております。
消滅会社におきましては、当社への介護関連書籍・教材の制作及び販売事業等を通じて、ホームヘル
パーを中心とした、人材養成への貢献に取り組んでまいりました。
本合併は、消滅会社の事業を、当社教育部門に吸収し、教材開発等の内製化を進めることで、当社教
育事業の業務効率の向上と、質の高い人材養成に努めるとともに、迅速に利用者ニーズを反映させたよ
り良いサービス提供に繋げるものであります。
(3)企業結合日
平成24年11月1日(効力発生日)
(4)企業結合の法的形式
当社を存続会社、株式会社○○○を消滅会社とする吸収合併であります。
(5)結合後企業の名称
株式会社△△△
2.株式の種類別の合併比率及びその算定方法並びに交付した株式数
(1)株式の種類別の合併比率
消滅会社の普通株式1株に対して、当社の普通株式2,217.745株を割当てます。
(2)合併比率の算定方法
当社は、本合併の合併比率の算定にあたり、その公正性・妥当性を確保するため、当社から独立した
第三者機関である×××アドバイザリー株式会社に対して当社及び消滅会社の株式価値の算定を依頼い
たしました。その算定結果を参考に、消滅会社との間で協議・交渉を重ねた結果、合併比率を決定いた
しました。
(3)交付した株式数
普通株式443,549株(全て当社が保有する自己株式を交付しました)
3.被合併会社の概要(平成24年3月31日現在)
(1)商号
株式会社○○○
(2)事業内容
書籍・教材の制作及び販売事業等
(3)売上高
233,636千円
(4)当期純利益
60,215千円
(5)総資産
173,286千円
(6)純資産
170,445千円
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月7日
⑤ 重要な会社分割
(重要な会社分割に関する事例)
<事例8>
(重要な後発事象)
(会社分割による持株会社体制への移行)
当社は、2012年5月21日開催の取締役会及び2012年6月27日開催の定時株主総会の決議を経て、
2012年10月1日をもって当社の新設承継会社(完全子会社)として「ABC株式会社」を設立し、当社
の樹脂化成品事業、製紙用薬品事業及び電子材料事業を承継させ、ABC株式会社は社名を「XYZ株式会社」
に変更し、純粋持株会社体制へ移行しました。
1.対象となった事業の名称及びその事業の内容、企業結合日、企業結合の法的形式、結合後企業の名称
並びに取引の目的を含む取引の概要
(1)対象となった事業の内容
樹脂化成品事業、製紙用薬品事業及び電子材料事業
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金融商品取引法
(2)企業結合日
2012年10月1日
(3)企業結合の法的形式
当社を分割会社とし、当社は「XYZ株式会社」へ商号変更するとともに、新設する「ABC株式会社」
を承継会社とする分社型新設分割
(4)結合後企業の名称
分割会社:XYZ株式会社
承継会社:ABC株式会社
(5)取引の目的を含む取引の概要
昨年度の○○社設立により、当社グループの売上高規模は2012年3月期で715億円となり、2011年
3月期比で1.72倍へ拡大しております。特に、連単倍率については2.26となり、グループ会社の売上・
収益貢献の比率が増しております。
さらに、今後の事業展開を展望すると、樹脂・化成品以外の事業分野拡大や、さらなるグローバル対応
などが必要となり、その手段としてM&Aや現地法人設立などの実施によりグループ会社の増加や再編が
想定されております。
このように、グループ企業規模及びグループ企業数が拡大する一方、現在のグループ経営については、
従来どおりABC本体の組織で対応しており、内容及びリソース面からも見直すべき時期に来ております。
特に、グループ全体最適を見据えたグローバルな戦略策定が急務であるため、純粋持株会社による戦略
を踏まえたグループ企業管理、資金・人材の適正配分を図ることが必要と考え、今回の会社分割による持
株会社制への移行を決定いたしました。また、ガバナンスの推進と中立な観点での事業評価を実施してま
いります。
2.実施した会計処理の概要
「企業結合に関する会計基準」
(企業会計基準第21号 平成20年12月26日)
、
「事業分離等に関する
会計基準」
(企業会計基準第7号 平成20年12月26日)及び「企業結合会計基準及び事業分離等会計基
準に関する適用指針」
(企業会計基準適用指針第10号 平成20年12月26日)に基づき、共通支配下の
取引として会計処理を行っております。
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月8日
⑦ 重要な設備投資
(重要な設備投資に関する事例)
<事例9>
(重要な後発事象)
平成24年10月22日開催の当社取締役会において、データセンターサービスやクラウドサービスの需
要増に対応すべく、現在稼働している第2データセンターの同敷地内にⅡ期棟を建設することを決議いた
しました。
その設備投資の内容につきましては、以下のとおりであります。 (1)設備投資の内容
①設備の内容
データセンターならびに付帯設備一式(Ⅱ期棟)
②取得価額
3,057,000千円
(2)設備の導入時期
①着工
平成24年10月
②完成時期
平成25年10月
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(3)当該設備が営業活動におよぼす重要な影響
当該設備は、主に顧客企業へデータセンターサービスやクラウドサービスを提供する設備であることか
ら、情報処理サービスの収益増加に寄与いたします。
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月9日
Ⅳ 資金の調達又は返済等に関する事象
多額な社債の発行、買入償還又は繰上償還に関して
資金の調達又は返済等に関する事象に関して、前
紹介しました。
回の第1四半期報告書(2013/1 vol.19のディス
第2四半期報告書の開示事例については、② 多
クロージャーニュース)では、件数の多かった、①
額な資金の借入(6件)に関して紹介します。
② 多額な資金の借入
(多額な資金の借入に関する事象)
<事例10>
(重要な後発事象)
(金銭消費貸借契約)
当社は、平成24年11月12日開催の取締役会において、下記のとおり金銭消費貸借契約の締結につい
て決議しております。なお、平成24年11月13日付けで金銭消費貸借契約を締結し、同日50,000千円
の借入れを実行しております。また残額20,000千円については、平成24年11月20日に入金の予定で
あります。
(1)目的 :運転資金
(2)借入先 :○○○
(3)借入金額:70,000千円
(4)利率 :3.5%
(5)借入期間:平成24年11月13日~平成25年11月12日
(6)実行日 :平成24年11月13日 50,000千円
平成24年11月20日 20,000千円
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月14日
(コミットメントライン契約の締結)
<事例11>
(重要な後発事象)
コミットメントライン契約の締結
当社は、資金調達の機動性及び安定性を確保し、より一層の財務基盤の強化を図ることを目的として、以
下のとおりコミットメントライン契約を締結いたしました。
①契約先
:株式会社○○○銀行
②契約金額 :100億円
③契約締結日:平成24年10月31日
④契約期間 :平成24年10月31日~平成25年3月29日
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月7日
Ⅴ その他
においては、項目のみの列挙のみで留まっていまし
そ の 他 に 関 し て は、 前 回 の 第 1 四 半 期 報 告 書
た。そのため、第2四半期における事例をいくつか、
(2013/1 vol.19のディスクロージャーニュース)
紹介します。
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(厚生年金基金の代行返上に関する事例)
<事例12>
(重要な後発事象)
厚生年金基金の代行返上
当社は、確定給付企業年金法に基づき、○○○厚生年金基金の代行部分(過去分)について、平成24
年3月1日付で厚生労働大臣から過去分返上について認可を受け、平成24年10月19日に国に返還額(最
低責任準備金)の納付を行いました。これによる当連結会計年度の損益に与える影響額は175百万円であ
り、特別利益に計上する予定です。
なお、前連結会計年度において、特別利益として厚生年金基金代行返上益6,864 百万円を計上してい
ます。
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月9日
(構造改革に関する事例)
<事例13>
(重要な後発事象)
当社は、平成24年10月1日開催の取締役会において、「構造改革」を実施することを決議致しました。
1「構造改革」を実施する理由
当社グループは、平成23年度よりスタートしました第6次中期経営計画における売上高1,700億円、
営業利益率8%の目標を達成するために、今後拡大が予想されておりますエネルギー分野や産業機器分野
に向けて積極的な設備投資を行ってまいりました。
しかし、平成23年3月11日に発生致しました東日本大震災により東北地方と東関東における主要工場
が大きな被害を受け、早急に生産の復旧を行ったものの、その間のシェアの低下に加えて、中国・台湾の
競合メーカーの台頭により厳しい価格競争に見舞われることとなりました。
さらに、EU圏各国の財務問題に端を発した、世界的な景気の低迷が続いており、当社グループの業績
は急激に悪化してまいりました。
この急激な経営環境の大きな変化に対処するために、固定費の削減による損益分岐点の引き下げを中心
とした企業体質の強化と今後の高収益確保のための新製品による成長戦略をもあわせ「構造改革」を実施
致します。
2「構造改革」の目標
900億円の売上でも利益が出せる企業体質への変革
3「構造改革」の概要
①生産拠点の統廃合
国内・海外工場の一部閉鎖と縮小
②人員の削減
グループの正規社員・非正規社員の削減
③人件費の削減
役員・管理職・一般職の人件費の削減
④設備投資の原則凍結
新製品に関する投資は効率的に実施
⑤在庫の圧縮
キャッシュ・フローの改善
⑥事業の選択と集中
不採算事業及び将来の拡大が期待出来ない事業からの撤退
⑦新製品による成長戦略新製品開発のスピードアップを図り、高付加価値製品による企業成長を促進
なお、上記「構造改革」の具体的な諸施策は現在検討中であり、確定致しておりません。
4「構造改革」の実施による費用の見込み
構造改革の実施に伴い、当連結会計年度の第3四半期、第4四半期において費用又は損失が発生する見
込みであります。なお、現時点では統廃合を行う生産拠点や削減人数などについて検討中であるため、今
後の業績に与える影響額を合理的に見積ることは困難であります。
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(訴訟が絡んだ事例)
<事例14>
(重要な後発事象)
(控訴の提起) 当社が○○株式会社より平成22年4月14日付けで提起されていた特許権侵害差止等に関する第1訴訟
において、平成24年8月31日付けで東京地方裁判所より原告の請求を棄却する判決が言い渡されており
ましたが、同判決を不服として当社に対して控訴の提起(控訴状送達日:平成24年11月2日)がなされま
した。
(1)控訴の提起があった裁判所及び年月日
①控訴提起があった裁判所 知的財産高等裁判所
②控訴の提起日 平成24年9月13日
(2)控訴を提起した者(原告)
①名称 ○○株式会社
②所在地 ××県○○市○○区××町10番1号
③代表者 代表取締役社長 ×× ×
(3)控訴の内容
①原判決の取り消し
②当社サウンドLSI製品及びマルチ機能LSI製品による○○保有の特許権侵害を理由とする製造等の差止
及び損害賠償金2億5千万円の各請求
③第1、2審の訴訟費用の当社負担 (4)訴訟の提起から控訴の提起に至るまでの経緯 当該訴訟は、当社が製造・販売するサウンドLSI製品及びマルチ機能LSI製品が原告の保有する特許権を
侵害するとして、当該製品の製造等差止と損害賠償を求める旨の訴訟が提起され、これを争っていたもの
です。
当該訴訟は、第1訴訟と第2訴訟にて審理されておりますが、平成24年8月31日に東京地方裁判所より
第1訴訟につきまして「特許侵害の事実がない」ことを理由として、原告の請求を棄却する当社勝訴の判
決を受けておりました。
本件は、原告がこの判決を不服として知的財産高等裁判所に対し控訴を提起したものであります。 (5)今後の見通し
当社といたしましては、原告が主張する同社保有特許権に対する侵害の事実はないものと認識してお
り、第2訴訟も併せて引き続き裁判の場において当社の正当性を主張していく方針であります。
(注)四半期レビュー報告書日 平成24年11月9日
(2)第3四半期報告書の開示事例
<図表3>に従って、開示事例を紹介します。
なお、
(1)第2四半期報告書の開示事例でも述べ
た様に、実務上の指針としての委員会報告第76号
<図表7>をベースとして、<図表9>として記し
ます。
の区分を示し、その区分と各事例との相関関係を
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金融商品取引法
(第3四半期報告書)
<図表9>
事象発生時期
合意成立のとき
解説及び対応事例№
相手との合意が必要な事象については、合意成立時に後発事象が発生
したものとされる。
事例№
<事例23>
取締役会等の決議があったとき
取締役会等の意思決定により実施することのできる事象については、
取締役会等の決議があったときに後発事象が発生したものとされる。
事例№
<事例16><事例17><事例21><事例22><事例24>
一定の事実が発生したとき、又
は発生を認知したとき
会社の意思にかかわりなく蒙ることとなった損失その他については、
事実が発生したときに後発事象が発生したものとされる。
事例№
<事例15><事例18><事例19><事例20>
なお、第2四半期報告書と同様に、<図表9>の
Ⅰ 資本の増減等に関する事象について
対応事例ごとに、網掛けで発生時期を示しました。
資本の増減等に関する事象に関しては、これまで
(Ⅰ資本の増減等に関する事象について以降の紹介
紹介してこなかった残りの項目である、② 重要な
事例を参照。また、第3四半期報告書においては平
資本金又は資本準備金の減少(1件)について紹介
成24年1月1日から四半期レビュー報告書日までを
します。
指す。なお、各々の事例において脚注で四半期レビ
ュー報告書日を記載。
)
② 重要な資本金又は資本準備金の減少
(重要な資本金又は資本準備金の減少に関する事例)
<事例15>
(重要な後発事象)
(第三者割当の方法による第四種優先株式の発行)
当行は、平成24年11月30日開催の取締役会において、第三者割当による第四種優先株式の発行を決
議し、平成25年1月11日に払込が完了いたしました。
1.募集株式の種類及び数 株式会社△△△△銀行第四種優先株式 6,400,000株
2.払込金額の総額 32,000,000,000円(1株につき5,000円)
3.増加する資本金の額 16,000,000,000円(1株につき2,500円)
4.増加する資本準備金の額 16,000,000,000円(1株につき2,500円)
5.割当先 当行取引先等の165先
6.払込期日 平成25年1月11日
7.資金の使途 財務基盤の更なる強化及び公的資金返済に向けた資本政策のため
(資本金の額及び資本準備金の額の減少)
当行は、平成24年11月30日開催の取締役会において、資本金の額及び資本準備金の額の減少につい
て決議し、平成25年1月11日に効力が発生いたしました。
1.目的
財務内容の健全化と、既発の優先株式の買入消却のための早期の分配可能額の計上を図ることを目的と
して、会社法第447条第3項をもって読み替えた同条第1項の規定に基づき資本金の額を、同法第448条
第3項をもって読み替えた同条第1項の規定に基づき資本準備金の額をそれぞれ減少し「その他資本剰余
金」へ振り替えるものであります。本件は「純資産の部」における勘定の振替処理であり、現金及び預金
の減少を伴うものではありません。
2.資本金の額の減少の要領
上記優先株式第三者割当増資において払い込まれた結果として増加した資本金16,000,000,000円全
額を減少し、その他資本剰余金に振替えました。
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3.資本準備金の額の減少の要領
上記優先株式第三者割当増資において払い込まれた結果として増加した資本準備金16,000,000,000
円全額を減少し、その他資本剰余金に振替えました。
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月12日
Ⅱ 子会社等に関する事象について
業譲渡、譲受(4件)、及び、⑥ その他(12件)に
子会社等に関する事象に関しても、これまで紹介
ついて紹介します。
してこなかった残りの項目である、⑤ 子会社の事
⑤ 子会社の事業譲渡、譲受
(子会社の事業譲渡に関する事例)
<事例16>
(重要な後発事象)
当社の連結子会社である株式会社○○○○は、平成25年2月12日開催の同社取締役会において、同社
の物販事業を譲渡することを決議いたしました。
1.事業譲渡の理由
当社の連結子会社である株式会社○○○○が営む物販事業は、海外及び国内のキャラクタートイを中心
とした卸売業とともに、インターネット通販並びに東京都中央区の実店舗を通じた小売を行っており、特
に海外輸入玩具やアメリカンコミックの販売では強い支持顧客層を持つなど特徴的な事業展開を行ってお
ります。
当社グループは、平成24年6月に中期経営計画「アクセルプラン2012」を策定し、ファイナンス事業
及びコンテンツ事業を中核として展開する事業方針を打ち出しました。同計画に基づき、当社グループは
方針として経営資源の配分を同2事業に集中させることを決定しております。当該物販事業の運営、成長
に関して、当社グループからの支援は限られたものにならざるを得ないと考えたことから、新たな事業体
制を検討しておりました。
そのような背景のもと、株式会社○○○○は当該物販事業を△△△氏へ事業譲渡することといたしまし
た。同氏は複数の上場企業を含む企業グループの経営を手掛けられる経営者・資本家であり、物販事業の
顧客、取引先、従業員にとって最も良いパートナーとなっていただける方であると考えております。当社
グループの経営計画の実現及び物販事業の今後の成長の双方の観点から最適と考え、この度の決定に至っ
ております。なお、当該事業譲渡は△△△氏個人との契約となりますが、実際の譲渡については△△△氏
が新規設立予定の会社へ行う予定となっております。
2.事業譲渡の内容
株式会社○○○○の物販事業(インターネット通販・店舗による玩具、雑誌、関連商品の卸売・小売)
3.譲渡先
△△△氏
4.法的形式を含むその他取引の概要に関する事項
受取対価を現金等の財産のみとする事業譲渡
5.譲渡する資産・負債の項目(平成24年12月31日現在)
資産
項目
負債
帳簿価額
項目
帳簿価額
流動資産
34,459千円
流動負債
4,333千円
固定資産
4,300千円
固定負債
―
合計
38,759千円
合計
4,333千円
6.譲渡価額
32,000千円(消費税等を含む)
なお、譲渡損益につきましては、譲渡資産及び譲渡負債の帳簿価額と、この対価として株式会社○○○
○が受け取った現金との差額を事業譲渡損益として計上する予定であります。
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金融商品取引法
7.譲渡した事業が含まれていたセグメント区分の名称
物販事業
8.事業譲渡の日程
(1)取締役会決議日
平成25年2月12日
(2)事業譲渡契約締結日
平成25年2月12日
(3)事業譲渡日平成25年2月26日もしくは同日までに譲受会社の設立が完了していない
場合は、譲受会社の設立の日とする。
9.当第3四半期連結累計期間の四半期連結損益計算書に計上されている譲渡した事業に係る損益の概算額
売上高
営業利益
311,446千円
△11,254千円
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月14日
⑥ その他
(その他 子会社の増資引受けに関する事例)
<事例17>
(重要な後発事象)
子会社の増資引受けについて
当社は、平成25年1月26日開催の取締役会におきまして、連結子会社であるS株式会社の普通株式につ
いて、第三者割当増資にて引受けることを決議いたしました。
本増資引受けの概要は、以下のとおりであります。
(1)引受ける株式の種類及び数、引受価額、引受総額 ①株式の種類及び数 普通株式2,000,000株
②引受価額 1株につき金50円
③引受総額 100,000千円
(2)払込みのスケジュール
払込期日 平成25年3月29日(予定)
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月14日
(その他 法律に抵触する事例)
<事例18>
(重要な後発事象)
当社のシンガポールにおける販売子会社は、平成25年2月6日(現地時間)に、ベアリング(軸受)製
品の取引に関して、競争法違反の疑いがあるとして、シンガポール競争法委員会による立入検査を受けま
した。当社及び当社グループといたしましては、シンガポール競争法委員会による調査に全面的に協力し
ております。
なお、上記調査は現在も継続中であり、その結果として当社の経営成績等へ影響を及ぼす可能性があり
ます。
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月12日
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な事業の譲受(4件)、④ 重要な事業の譲渡(3件)
、
Ⅲ 会社が営む事業に関する事象について
及び⑧ 新規事業に係る重要な事象(1件)について
会社が営む事業に関する事象に関しても、これま
紹介します。
で紹介してこなかった残りの項目である、③ 重要
③ 重要な事業の譲受
(重要な事業の譲受に関する事例)
<事例19>
(重要な後発事象)
(事業譲受)
当社は、平成24年3月28日開催の取締役会において、△△△株式会社(以下「△△△」という。)から、
△△△のエコテクノロジーカンパニーが展開する○○○事業を譲り受けることを決議し、平成24年3月
30日付けで締結した事業譲受契約について、平成25年1月1日付けで事業資産及び同事業に関連する子
会社株式を譲り受けた。
(1)事業譲受の相手会社及び事業の内容
事業譲受の相手会社 △△△株式会社
事業内容
○○○に関する事業
(2)取得する会社の名称、事業の内容及び規模
取得する会社
×××株式会社
事 業 内 容
○○○等の販売、保守及び修理
規 模
資本金50百万円、売上高2,251百万円(平成24年3月期)
取得する会社
ABC株式会社
事 業 内 容
○○○等の販売、修理及びレンタル
規 模
資本金50百万円、売上高804百万円(平成24年3月期)
(3)取得する株式の数及び取得後の持分比率
×××株式会社
取得する株式の数
25,900株
取得後の持分比率
100%
ABC株式会社
取得する株式の数
1,000株
取得後の持分比率
100%
(4)事業譲受の目的
当社と△△△は、平成15年に新型○○○の開発及び一部部品の調達を共通で行うことに合意し、以後、
平成17年にプレス式○○○「G-PX」、平成19年には回転板式○○○「G-RX」を共同開発するなど、こ
れまでもパートナー関係のもとで同事業を進めてきた。
一方、国内の○○○市場は、近年の環境意識の高まりから分別が進み、ごみの排出量が年々減少してい
ることに加え、長期的には人口減少等の影響により、今後厳しさを増すことが予想される。
こうした状況を踏まえ、当社は、自動車をはじめとする主力事業への経営資源の集中に取り組む△△△
から○○○に関する事業を譲り受け、同事業の基盤強化を図ることとした。
(5)事業譲受日
平成25年1月1日
(6)譲受価額
12億円
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月5日
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金融商品取引法
④ 重要な事業の譲渡
(重要な事業の譲渡に関する事例)
<事例20>
(重要な後発事象)
当社は、××××事業を○○○に譲渡することで平成24年10月16日に同社と事業譲渡契約を締結し、
平成25年2月6日に事業譲渡が完了しました。
1.事業譲渡の理由
グローバル競争が激化する中で、当社が取り組む事業構造改革の一環として、××××事業を○○○に
譲渡し、経営資源をコア事業であるアルミ電解コンデンサ、フィルムコンデンサやエネルギー・環境関連
のパワーエレクトロニクス分野の新規事業に集中させて、企業体質をより強化することといたしました。
2.事業譲渡の概要
(1)事業譲渡先の名称
○○○
(2)事業譲渡部門の内容
当社の××××に関する事業
(3)事業譲渡部門の経営成績
売上高
事業譲渡部門(a)
平成24年3月期連結実績(b)
比率(a/b)
5,370百万円
107,658百万円
5.0%
(注)当社グループにおける報告セグメントは「コンデンサおよびその関連製品」の単一セグメント
としているため、売上高のみ記載しております。
(4)譲渡資産、負債の金額(平成24年12月31日現在の四半期連結貸借対照表を基礎としております。
)
総資産 5,832百万円 総負債 1,265百万円
(5)譲渡価額および決済方法
86百万米ドル(現金支払)
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月12日
⑧ 新規事業に係る重要な事象
(新規事業に係る重要な事象に関する事例)
<事例21>
(重要な後発事象)
当社は、住宅事業をより一層強化するため、市場開発部と不動産部を統合して住宅事業部を新設するこ
とを、平成25年1月30日開催の取締役会にて決議いたしました。これに伴い、従来の報告セグメントで
は「不動産事業」に含まれておりました不動産部につきましては、新たな報告セグメントでは住宅事業部
として「市場本部」に含まれることとなりました。
この変更は当社グループ内での事業区分の見直しであるため、連結財務諸表等全体の売上高、損益、資
産及び負債等に与える影響はありません。
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月12日
Ⅳ 資金の調達又は返済等に関する事象
Ⅴ その他
前回の第1四半期報告書(2013/1 vol.19のデ
その他に関して、第2四半期同様、第3四半期に
ィスクロージャーニュース)及び、第2四半期報告
おける事例をいくつか紹介します。
書を参照して下さい。
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(生産停止に関する事例)
<事例22>
(重要な後発事象)
当社は、平成25年2月5日開催の取締役会において、堺工場におけるカプロラクタムの生産停止を決議
いたしました。
1.生産停止の理由
当社は昭和30年に、繊維や樹脂用途として幅広く利用されるナイロンの原料である、カプロラクタム
の製造・販売を開始し、品質の高さと安定供給力に対する顧客からの高い評価をもとに事業を拡大し、宇
部、堺、スペイン、タイの4工場によるグローバルな供給体制を築いてまいりました。
ところが、昨年に入り、世界景気の減速により需要の伸びが力強さを欠くなか、中国を中心として新規
メーカーの参入や既存メーカーの増設が相次いだことで、カプロラクタム市況は大きく崩れ、一方で原料
となるベンゼンや副原料などの価格高騰もあり、カプロラクタム事業の採算は急速に悪化いたしました。 当社の製造拠点のなかでも堺工場のカプロラクタム製造設備は、製法や、LNGに依存する副原料・ス
チーム等のユーティリティにおいて、他の3工場と比べて製造コストが高く競争力に劣るため、かねてよ
り当社ではさまざまな収益改善策を検討、実施してまいりました。 しかしながら、昨今の事業環境の変化はこれら改善策によって対応可能なレベルを超えており、将来に
わたって採算改善が見込みがたい状況であることから、同設備については一定期間の操業後に停止し設備
廃棄することが、事業全体の競争力強化のためには最善との判断に至りました。また、同設備停止に伴い、
関連する同工場内の誘導品等の製造設備も合わせて停止し、廃棄いたします。
2.停止・廃棄設備の概要 (1)対象設備及び生産能力 カプロラクタム
100,000トン/年
アンモニア
200,000トン/年 液化炭酸
硫安
1,6 ヘキサンジオール
99,000トン/年
160,000トン/年 5,000トン/年 (2)停止予定日 平成26年3月末
3.当該事象の連結損益に与える影響額 当該事象により、平成25年3月期決算において、固定資産の減損損失及び現時点で見込まれる既存設備
の廃棄に伴う諸費用など合計126億円を特別損失に計上する予定です。 なお、このうち固定資産の減損損失26億円は、平成25年3月期第3四半期決算に織り込んでおります。
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月12日
(退職給付制度の改定に関する事例)
<事例23>
(重要な後発事象)
当第3四半期連結累計期間(自 平成24年4月1日 至 平成24年12月31日)
退職給付制度の改定
当社は平成25年4月1日より退職給付制度の改定を実施する予定であり、平成25年1月24日付けで労
使合意に至っております。現行の確定給付企業年金制度及び確定拠出年金制度を改定するとともに、確定
給付企業年金制度の一部を確定拠出年金制度に移行し、確定拠出年金制度が退職給付制度に占める割合を
これまでの20%から50%に引き上げることを予定しております。なお、本制度の改定による当連結会計
年度及び翌連結会計年度の損益に与える影響額は算定中であります。
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月5日
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金融商品取引法
(厚生年金基金の解散に関する事例)
<事例24>
(重要な後発事象)
1.(省略)
2. 厚生年金基金の解散
(1)解散の理由
当社及び連結子会社3社が加入する総合設立型の全国商品取引業厚生年金基金は、加入員の急激な減少
に伴い、掛金収入が大幅に減少する一方で、年金受給者は年々増え、掛金と年金給付費との年間収支差が
乖離し続けております。このような状況から、今後、基金の財政状況はますます悪化する恐れが非常に高
いこと、及び加入事業所を取り巻く事業環境が大変厳しく掛金負担の増加は困難な状況であることを理由
として、平成25年1月25日開催の代議員会において解散することを決議しました。
(2)解散に伴う特別損失の発生と業績に与える影響
同基金は、解散時に企業年金連合会に仮納付する代行部分の最低責任準備金見込額に不足が生じるた
め、不足分を特別掛金として加入全事業主が負担したうえで、平成25年3月に解散できるよう準備を進め
ております。
当社及び連結子会社3社は、各社負担分の特別掛金合計98,230千円の納入告知を平成25年1月28日
付で受け、納付期限平成25年2月8日までに当該特別掛金を基金に納付し、当連結会計期間におきまし
て、同額を特別損失として計上する予定であります。なお、最終的には1年から1年半後に、国の記録に
基づき最低責任準備金が確定され、清算調整されることとなります。
(注)四半期レビュー報告書日 平成25年2月12日
3.第1四半期報告書、第2四半期報告書、第3四半
発事象」の注記として記載している会社245社の
うち、11社という結果でした。
期報告書の全てに連続して記載している企業
第1四半期報告書、第2四半期報告書、第3四半
以下、企業№と各四半期報告書の記載内容につい
期報告書の全てに連続して記載している会社数は、
て記しました。<図表10>
第1四半期報告書(連結財務諸表注記)
、
「重要な後
企業№
1
第1四半期 記載内容
・抵当権設定
→
第2四半期 記載内容
・外務省の通達による受注減少
→
<図表10>
第3四半期 記載内容
・子会社の第三者割当増資
・株式の上場廃止
・重要な会社分割
・重要な資産の譲渡
・重要な資産の譲渡
3
・子会社の設立
・株式交換契約
・株式交換による完全子会社化
・株式取得による子会社化
・厚生年金基金の代行返上
及び退職給付制度の変更
4
・持分法投資損益の増大
・重要な株式併合
・第三者割当増資
・株式取得による子会社化
・子会社の事業譲受
・子会社の解散
・子会社の資産譲受
6
・多額な資金の借入
・新株予約権の取得
・新株予約権の行使
7
・無担保社債の発行
・無担保社債の発行
・無担保社債の発行
8
・自己株式の取得
・自己株式の消却
・自己株式の取得
・自己株式の取得
・重要な資産の譲渡
・自己株式の取得
・株式取得による会社の買収
・新株予約権の付与
・ESOP導入による自己株式の取得
・子会社に対する匿名組合出資金 ・株式分割
の追加出資金払込
・株式分割
・株式分割
2
5
9
10
11
・株式分割
(注)合計11社。なお、企業№はEDINETコード順。
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重要な後発事象は、決算日(四半期決算日)後、
監査報告書日(四半期レビュー報告書日)までに発
生したものであり、その事象が偶然にも、その期間
期まで、すべて株式分割の記載がされていました。
まず、株式分割のメリットですが、以下が挙げら
れます。
に発生したことは拒めません。すなわち、重要な後
第1に、発行済株式数を増加させ、取引を流布さ
発事象の発生、記載の連鎖に関する相関関係の有無
せることです。すなわち、市場で扱われている株数
とは繋がりにくいのではないかと思われます。
が多ければ多いほど「買い」や「売り」が市場で成
しかしながら、結果として発生した以上、連続し
立しやすくなると考えられます。
て記載された事に関して、なんらかの因果関係があ
第2に、株価を下げて購入しやすい価格にするこ
る事も可能性として考えられるのではないかと思わ
とです。例えば、1株10万円で保有している株が、
れます。
2株に分割されるならば、1株当たり5万円となり、
そこで、<図表10>の中で、連続的に記載して
いる開示事例のうち、任意抽出した企業について、
購入しやすくなる結果をもたらします。
第3に、株式分割後に株価が騰がるケースが多い
その発生、記載がどのように連鎖しているかを筆者
ことです。すなわち、株式分割により株価が買いや
の私見で解説を加えたいと思います。
すい価格になり、その対象銘柄を購入する機会が増
まず、企業№2ですが、第1四半期において、
「株
式の上場廃止」
、第2四半期において、「重要な会社
分割」や「重要な資産の譲渡」
、第3四半期において、
再び、「重要な資産の譲渡」を記載しています。
「株
えることにつながり、いわゆる「買い」が集まるの
で株価が騰がっていく場合が多いのが現状です。
以上の様なメリットを享受できるために、企業は
株式分割を行うことが多いと考えられます。
式の上場廃止」に関しては、吸収合併がうまく成就
ここで、企業№11の会社は、最近上場を果たし
出来なかったことが、その理由として記載されてい
たばかりの会社であり、公開後、間もない会社で
ました。
す。このような会社は、可能性のある限り、株価の
吸収合併の場合、引き継ぐ内容を制限することは
上昇を望んでいます。これが、結果として第1四半
できず、被合併会社の、良い部分も悪い部分も全て
期から第3四半期まで、続けて「重要な後発事象」
承継してしまいます。その性質として、包括承継が
の注記に現れたのではないかと考えます。
原則であり、消滅した会社の一切の財産を引き継が
なければなりません。
ここで、第2四半期の記載において、まず、「重
《おわりに》
今 回 の 開 示 事 例 分 析 で は、 前 回 の 2 0 1 3/1
要な会社分割」を行っています。企業№2の会社は、
vol.19のディスクロージャーニュース、注記事項
新設分割を行っていることが記載されていました。
「重要な後発事象」
(四半期報告書)の開示事例分析
新設分割の場合、合併とは異なり、引き継ぎたいと
(第1四半期報告書が対象)に引き続き、その2とし
ころだけを引き継ぐことが出来るという違いがあり
て、第1四半期報告書(四半期連結決算日平成24
ます。また、優良部門だけを分割して事業を継続で
年6月30日)
、第2四半期報告書(四半期連結決算
きる等のメリットもあります。
日平成24年9月30日)、第3四半期報告書(四半期
このように、吸収合併がうまく成就できず、上場
連結決算日平成25年12月31日)を対象とした、
廃止に追い込まれた結果、代替策として、新設分割
連結財務諸表注記事項を、様々なケース、視点で紹
を実施したのではないかと、考えられます。さらに、
介させて頂きました。
会社の体質を変えるための方策として、「重要な資
産の譲渡」として、土地や建物を譲渡して、会社の
これらの開示事例が、実務の一助となれば幸いで
す。
手元流動性を高めることが記載されていました。
次に、企業№11ですが、第1四半期から第3四半
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金融商品取引法
次世代EDINETについて(その4)
塩崎 直
宝印刷㈱XBRL推進室課長 (一般社団法人 XBRL Japan 副会長)
はじめに
平 成 2 5 年 1 月 1 8 日、http://www.fsa.go.jp/
search/20130118.htmlにて公開されている
「01_a_次世代EDINETタクソノミ(案)第三版の
概要(PDF132KB).pdf」にあるように、金融庁
は平成26年に次世代EDINETをスタートさせます。
次世代EDINETの総合運転試験に関する概要(金
より詳しくは、http://www.fsa.go.jp/search/
融 庁 説 明 会 を 含 む ) は、http://www.fsa.go.jp/
20130218.htmlをご覧下さい。4/1の沖縄を皮
search/20130130.htmlにて公開されています。
切りに、5/28の東海財務局開催までの2ヶ月に渡
「01_次世代EDINETの総合運転試験の概要(PDF:
るスケジュールとなっております。
477K).pdf」にて、説明会のスケジュールが4月
~5月の2ヶ月にわたることが記載されています。
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金融庁次世代EDINET「稼働後」の変化を、平成
って、より多くの提出者の有価証券報告書等による
25年1月18日金融庁公表資料と平成24年10月4
テストが行え、その結果次第で更なるタクソノミの
日公表資料の差分から予測します。
拡充が起こりえるでしょう。
なお、本稿の意見に関わる部分については、筆者
の私見であることを申し添えます。
第三版のタクソノミ拡充で特に本号で紹介するの
は「省略している旨」タクソノミの追加(厳密には、
金融庁資料の差分について
タクソノミが追加されたのは第二版)です。これは
平成24年10月4日発表資料と、平成25年1月
財規125条の2、または連結財規92条の2第1項の
18日発表資料の差分は、大きく2つに分類されま
規定により資産除去債務明細表を省略する場合のこ
す。
とではなく、主にセグメント情報の減損損失や、の
ⅰ:タクソノミの拡充
れん償却に関して「重要性が乏しいため、記載を省
ⅱ:運用方法の変更
略しております。」といった記載をしている場合に
ⅰ:のタクソノミの拡充については、パブリック
使うタクソノミです。
コメント等の意見を反映させた変更であり、平成
従来(第二版まで)のガイドラインでは、タクソ
25年5月~7月に行われる次世代EDINET総合運転
ノミとしては用意してあってもどのようなときに使
試験で用いられるタクソノミに極めて近いものとな
うべきかの説明が無く、単に「該当なし以外の要素
っていると言えるでしょう。
(第三版以降、次世代
を使うケース」として紹介されているだけでした。
EDINETの根幹に関わるような大きなXBRL上の構
これが第三版のガイドラインから「省略している
造の変化は無いと思われます)
旨等の要素を用いるケース」として明記されること
ただし、次世代EDINETタクソノミ(案)の、初
になり、混乱が多少避けられるようになることと思
版・第二版・第三版共に多くの提出者による作成テ
われます。
(ただし、ガイドラインそのものが多く
ストを行っておりません。
の提出者に読まれているとは言い難く、当社がお客
平成25年3月頃公表予定の次世代EDINETタク
様へ説明する際の根拠としてガイドラインの該当箇
ソノミ(案)第四版にて行われる総合運転試験によ
所を指し示すような運用をしているのが現状です)
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金融商品取引法
ⅱ:の運用方法の変更については、「同上」、「同
左」等の記載の廃止が推奨となりました。あくまで
おわりに
「XBRLのタクソノミ」
「XBRLの運用方法」は、
も「推奨」であり「強制」ではありませんが、当社
時代が変わるにつれ変化し続けるものです。タクソ
は次段落以降の理由により、
「強く推奨」する方向
ノミは、財規や様式の変更によって変化します。運
です。
用方法については、新技術の採用よって変化しま
平成25年3月現在のHTML(またはPDF)による
す。本号でお伝えした「同左」
「同上」廃止推奨の
有価証券報告書は、
「人間が目で見て情報を判断し、
件も、有価証券報告書が「データ化」する年ならで
必要な情報を加工する。
(あるいは、加工された必
要な情報を何らかの手段で入手する)」という使わ
れ方をしています。
はの変化と言えます。ただし、技術の進歩によって、
「同上」と記載しつつ「03-1234-5678」という
電話番号として意味のあるデータが取得出来るよう
平成26年の次世代EDINET稼働後の有価証券報
な日も来るかもしれません。この数年は、有価証券
告書は「人間が目で見て情報を判断する事も出来る
報告書の「利用のされ方」
、
「よりよく利用されるた
し、上場企業3,600社の特定の項目を串刺し比較
めの技術進歩」から目が離せない年になる事と思わ
するといった、データとして利用することも出来
れます。
る」という使われ方になります。
例えば、データとして有価証券報告書の【表紙】
ページの【電話番号】
(本店の電話番号ではなく、
事務連絡者の電話番号)を上場会社3,600社分抽
出する事を考えてみましょう。
この場合、事務連絡者の【電話番号】に「同上」
と記載されていた場合、電話番号として意味が無い
ことはおわかりかと思います。
(
「同上」という電話
番号は存在しません)
「同上」と記載されていても
運用できているのは、
「とある1社の有価証券報告
書を人間が目で見ていて、
『同上』が指す場所を判
断でき、
(少し上に本店の電話番号が書いてあるは
ずなので、探すことができ)目的の電話番号にたど
り着ける」からです。
3,600社分の事務連絡者の【電話番号】をデー
タ利用しようとして、
「同上」がある度にその会社
の本店の電話番号を調べ直すのは、二度手間です
が、XBRLの仕組みとして特定のデータ(この場合
は「同上」というデータ)が入っていたら、特定の
【電話番号】のデータ(この場合は本店の電話番号)
を持って来るといったことも、今のところ※出来ま
せん。
※こ の 問 題 は、 現 在XBRL International及 び
XBRL Japanにて議論されているところです。
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金融商品取引法
有価証券報告書の基礎(第19回)
新保 秀一
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 「有価証券報告書の基礎」、第19回目を解説いたします。今回は、第一部【企業情報】の第5【経理の状
況】における【注記事項】、16.【セグメント情報等】を解説いたします。
なお、本稿における意見にわたる部分は、筆者の私見であることを申し添えます。
第5【経理の状況】
づくセグメント情報の注記の記載が、平成22
16.
【セグメント情報等】
年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業
年度から適用されています。
⑴ セグメント会計基準の概要
マネジメント・アプローチとは、国際的な会
企業会計基準第17号「セグメント情報等に
関する会計基準」
(以下「セグメント会計基準」)
計基準において用いられる手法であり、以下の
が公表され、マネジメント・アプローチにもと
ような特徴があります。
Ⅰ 最高経営意思決定機関が経営上の意思決定を行い、また、企業の業績を評価するために使用する事業部、
部門、子会社又は他の内部単位に対応する企業の構成単位に関する情報を提供すること
Ⅱ 最高経営意思決定機関が業績を評価するために使用する報告において、特定の金額を配分している場合
のみ、当該金額を構成単位に配分すること
Ⅲ セグメント情報を作成するために採用する会計方針は、最高経営意思決定機関が資源を配分し、業績を
評価するための報告の中で使用するものと同一にすること
なお、これまでは、
「セグメント情報の開示基
測定方法が規定されています。また、セグメン
準」では、
「事業の種類別セグメント情報」
、
「所
ト情報の関連情報、固定資産の減損損失に関す
在地別セグメント情報」及び「海外売上高」の3
る報告セグメント別情報や、のれんに関する報
つのセグメント情報が開示されていました。これ
告セグメント別情報も規定されています。
らのセグメント情報の開示に関しては、セグメン
なお、事業セグメントとは、
「最高経営意思
ト区分が不十分であり、企業の恣意性が入って
決定機関が、各セグメントに配分すべき資源に
いたり、財務諸表利用者の期待を満たしていな
関する意思決定を行い、かつ、業績を評価する
いのではないかという見方や、企業の経営の多
ために経営成績を定期的に検討するものである
角化を適切に反映した情報開示となっていない
こと」と規定され、事業セグメントの中から、
のではないかという批判的な見方もありました。
量的基準に従って報告セグメントを決定し、開
以上を踏まえた上で、マネジメント・アプ
示することが求められています。
ローチにもとづくセグメント情報の開示に至り
ました。
「セグメント会計基準」においては、
セグメント情報として、事業セグメントの識
別、報告セグメントの決定やセグメント情報の
連結財務諸表規則 様式
⑵ 記載内容
まず、セグメント情報の注記の全体像を示す
と、以下の様になります。
項目名
様式第一号
【セグメント情報】
様式第二号
【関連情報】
様式第三号
【報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報】
【報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報】
【報告セグメントごとの負ののれん発生益に関する情報】
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金融商品取引法
③ 報告セグメントごとの売上高、利益又
Ⅰ【セグメント情報】
セグメント情報として、次の事項を連結財
務諸表規則様式第一号に定めるところによ
は損失、その他の項目の金額に関する情
報
り、注記しなければならない旨が規定されて
④ 報告セグメント合計額と連結財務諸表
います。なお、重要性の乏しいものについて
計上額との差額及び当該差額の主な内容
(差異調整に関する事項)
は、注記を省略することができます。
① 報告セグメントの概要
② 報告セグメントごとの売上高、利益又
は損失、資産、負債その他の項目の金額
① 報告セグメントの概要
報告セグメントの概要には、次に掲げる
事項を記載します。
の算定方法
記載事項
⑴ 事業セグメントを識別するために用いた方法(製品・サービス別、地域別、規制環境別又はこれらの組
合せその他の事業セグメントの基礎となる要素の別)
⑵ 二以上の事業セグメントを集約して一つの事業セグメントとしている場合には、その旨
⑶ 各報告セグメントに属する製品及びサービスの種類
② 報告セグメントごとの売上高、利益又は
損失、資産、負債その他の項目の金額の算
損失、資産、負債その他の項目の金額の算
定方法には、次の⑴~⑺に掲げる区分に応
定方法
じて、それぞれの場合に定める事項を記載
報告セグメントごとの売上高、利益又は
します。
区分
記載事項
⑴ 報告セグメント間の取引がある場合
当該取引における取引価格及び振替
価格の決定方法その他の当該取引の
会計処理の基礎となる事項
⑵ 報告セグメントの利益又は損失の合計額と連結損益計算書の利益計 差異の内容に関する事項
上額又は損失計上額(連結損益計算書の営業利益若しくは営業損失、
経常利益若しくは経常損失、税金等調整前当期純利益若しくは税金等
調整前当期純損失又は当期純利益若しくは当期純損失のうち、適当と
判断される科目の金額をいう。10.⑵において同じ。)との間に差異
があり、
「4.報告セグメント合計額と連結財務諸表計上額との差額
及び当該差額の主な内容(差異調整に関する事項)
」の記載から差異
の内容が明らかでない場合
⑶ 報告セグメントの資産の合計額と連結貸借対照表の資産計上額との 差異の内容に関する事項
間に差異があり、差異調整に関する事項の記載から差異の内容が明ら
かでない場合
⑷ 報告セグメントの負債の合計額と連結貸借対照表の負債計上額との 差異の内容に関する事項
間に差異があり、差異調整に関する事項の記載から差異の内容が明ら
かでない場合
⑸ 事業セグメントの利益又は損失の算定方法を前連結会計年度に採用 その旨、変更の理由及び当該変更が
した方法から変更した場合
セグメント情報に与える影響
⑹ 事業セグメントに対する特定の資産又は負債の配分基準と関連する その内容
収益又は費用の配分基準が異なる場合
⑺ その他参考となるべき事項がある場合
③ 報告セグメントごとの売上高、利益又は
グメントに配分すべき資源に関する意思決
損失、その他の項目の金額に関する情報
定を行い、かつ、業績を評価するために、
ここでは、最高経営意思決定機関が各セ
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その内容
最高経営意思決定機関に提供される金額に
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基づき、次に掲げる金額を記載します。
記載事項
⑴ 報告セグメントごとの利益又は損失及び資産の金額
⑵ 報告セグメントごとの負債の金額(負債に関する情報が最高経営意思決定機関に対して定期的に提供さ
れ、かつ、使用されている場合に限る。)
⑶ 報告セグメントの利益又は損失に関する金額のうち、次に掲げる項目の金額(報告セグメントの利益若
しくは損失の金額の算定に次に掲げる項目が含まれている場合又は当該項目に係る事業セグメント別の情
報が最高経営意思決定機関に対して定期的に提供され、かつ、使用されている場合に限る。)
① 外部顧客への売上高
② 事業セグメント間の内部売上高又は振替高
③ 減価償却費(のれんを除く無形固定資産に係る償却費を含む。)
④ のれんの償却額
⑤ 受取利息
⑥ 支払利息
⑦ 持分法投資利益
⑧ 持分法投資損失
⑨ 特別利益(主な内訳を含む。
)
⑩ 特別損失(主な内訳を含む。
)
⑪ 税金費用(法人税等及び法人税等調整額)
⑫ ①から⑪までの項目に含まれていない重要な非資金損益項目(連結損益計算書における利益又は損失
の計算に影響を及ぼすもののうち、キャッシュ・フローを伴わない項目をいう。)
⑷ 報告セグメントの資産に関する金額のうち、次に掲げる項目の金額(報告セグメントの資産の金額の算
定に次に掲げる項目が含まれている場合又は当該項目に係る事業セグメント別の情報が最高経営意思決定
機関に対して定期的に提供され、かつ、使用されている場合に限る。)
① 当連結会計年度末における持分法適用会社への投資額
② 当連結会計年度における有形固定資産及び無形固定資産の増加額
④ 報告セグメント合計額と連結財務諸表計
し、これらの差異調整に関する事項につい
上額との差額及び当該差額の主な内容(差
ては、③ 報告セグメントごとの売上高、
異調整に関する事項)
利益又は損失、資産、負債その他の項目の
次の⑴~⑸に掲げる項目に差異がある場
金額に関する情報、に係る注記事項と併せ
合において、差異調整に関する事項を記載
て記載することができ、この場合には、当
します。また、重要な調整事項がある場合
欄の記載を要しません。
には、当該事項を個別に記載します。ただ
差異調整に関する事項
⑴ 報告セグメントの売上高の合計額と連結損益計算書の売上高計上額
⑵ 報告セグメントの利益又は損失の合計額と連結損益計算書の利益計上額又は損失計上額
⑶ 報告セグメントの資産の合計額と連結貸借対照表の資産計上額
⑷ 報告セグメントの負債の合計額と連結貸借対照表の負債計上額
⑸ 報告セグメントのその他の項目(⑴から⑷までに掲げる項目を除く。
)の合計額と当該項目に相当する科
目の連結財務諸表計上額
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金融商品取引法
下この様式において「外部顧客への売上高」
Ⅱ【関連情報】
ここでは、次に掲げる事項を連結財務諸表
という。)のうち、連結損益計算書の売上
規則様式第二号に定めるところにより注記し
高の10%以上を占めるものについて記載
なければなりません。なお、金額については、
します。ただし、当該事項を記載すること
連結財務諸表作成のために採用している会計
が困難である場合には、当該事項に代え
処理基準にもとづく金額により記載し、重要
て、その旨及びその理由を記載することが
性の乏しいものについては、注記を省略する
できます。
また、単一の製品・サービスの区分の外
ことができます。
① 製品及びサービスごとの情報
部顧客への売上高が連結損益計算書の売上
② 地域ごとの情報
高の90%を超える場合には、その旨を記
③ 主要な顧客ごとの情報
載することにより当欄の記載を省略するこ
とができます。
① 製品及びサービスごとの情報
個別の製品・サービス、製品・サービス
の種類、製品・サービスの性質、製品の製
② 地域ごとの情報
次の⑴及び⑵に掲げる事項を記載します。
造方法、製品の販売市場その他の類似性に
ただし、当該事項を記載することが困難で
基づいて区分した顧客への売上高(セグメ
ある場合には、当該事項に代えて、その旨
ント間の内部売上高及び振替高を除く。以
及びその理由を記載することができます。
記載事項
⑴ 外部顧客への売上高を本邦又は本邦以外に区分した金額(本邦以外の外部顧客への売上高のうち、一国
に係る金額であって、連結損益計算書の売上高の10%以上を占めるものがある場合には、当該国に区分し
た金額)及び当該区分の基準
⑵ 有形固定資産の金額を有形固定資産の所在地によって本邦又は本邦以外に区分した金額(本邦以外の有
形固定資産の金額のうち、一国に所在している有形固定資産の金額であって、連結貸借対照表の有形固定
資産の金額の10%以上を占めるものがある場合には、当該国に区分した金額)
③ 主要な顧客ごとの情報
外部顧客への売上高のうち、特定の顧客
への売上高(同一の企業集団に属する顧客
への売上高を集約している場合には、その
売上高)であって、連結損益計算書の売上
高の10%以上を占めるものがある場合に
Ⅲ【報告セグメントごとの固定資産の減損損失
に関する情報】
【報告セグメントごとののれんの償却額及び
未償却残高に関する情報】
【報告セグメントごとの負ののれん発生益に
関する情報】
は、当該顧客の名称又は氏名、当該顧客へ
ここでは、連結貸借対照表又は連結損益計
の売上高及び当該顧客との取引に関連する
算書において、次の項目を計上している場合
主な報告セグメントの名称を記載しなけれ
には、報告セグメントごとの概要を連結財務
ばなりません。
諸表様式第三号に定めるところにより注記し
なければなりません。ただし、重要性の乏し
いものについては、注記を省略することがき
ます。
① 固定資産の減損損失
② のれんの償却額及び未償却残高
③ 負ののれん発生益
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⑶ 開示事例
【セグメント情報等】の開示事例を、N社で紹介します。
〈図表1〉
〈図表1〉
(セグメント情報等)
【セグメント情報】
1.報告セグメントの概要
⑴ 報告セグメントの決定方法
当社グループの報告セグメントは、当社グループの構成単位のうち分離された財務情報が入手可能で
あり、取締役会が経営資源の配分の決定及び業績を評価するために、定期的に検討を行う対象となって
いるものであります。
当社グループは、自動車関連事業を中心とした包括的な戦略を立案し、事業活動を展開しており、各
連結子会社を基礎とした商品・サービス別の事業区分に従い、「自動車関連事業」、「情報システム関連事
業」の2つを報告セグメントとしております。
なお、当連結会計年度より、
「不動産関連事業」の重要性が減少したため、
「その他」に含めており、
前連結会計年度のセグメント情報につきましても、変更後のセグメントの区分に組み替えて作成してお
ります。
⑵ 各報告セグメントに属する製品及びサービスの種類
① 「自動車関連事業」は、自動車、部用品の販売及び自動車整備、車検等の事業を行っております。
② 「情報システム関連事業」は、コンピュータのハードウェア、ソフトウェアの販売及び機器のキッテ
ィングに伴う導入支援サービス、保守サービス、データセンター等の事業を行っております。
2.報告セグメントごとの売上高、利益又は損失、資産、その他の項目の金額の算定方法
報告されている事業セグメントの会計処理方法は、
「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」
における記載と概ね同一であります。
報告セグメントの利益は営業利益ベースの数値であり、また、セグメント間の内部収益及び振替高は市
場実勢価格に基づいております。
3.報告セグメントごとの売上高、利益又は損失、資産、その他の項目の金額に関する情報
前連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
(単位:百万円)
報告セグメント
自 動 車
関連事業
情報システム
関 連 事 業
その他
(注)
計
合計
売上高
外部顧客への売上高
59,894
7,079
66,973
2,541
69,515
6
250
256
230
487
セグメント間の内部
売上高又は振替高
59,901
7,329
67,230
2,772
70,003
セグメント利益
計
798
233
1,032
225
1,257
セグメント資産
28,462
3,670
32,132
3,376
35,509
減価償却費
1,188
42
1,231
91
1,322
有形固定資産及び
無形固定資産の増加額
2,643
32
2,676
19
2,695
その他の項目
(注) 「その他」の区分は報告セグメントに含まれない事業セグメントであり、不動産事業及び人材派遣事業であり
ます。
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金融商品取引法
当連結会計年度(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)
(単位:百万円)
報告セグメント
自 動 車
関連事業
情報システム
関 連 事 業
その他
(注)
計
合計
売上高
外部顧客への売上高
142,996
7,539
150,536
1,826
152,362
セグメント間の内部
-
459
459
171
630
142,996
7,998
150,995
1,997
152,993
売上高又は振替高
計
セグメント利益
4,492
223
4,715
120
4,835
セグメント資産
52,927
3,843
56,771
3,426
60,197
減価償却費
2,794
62
2,857
77
2,934
有形固定資産及び
無形固定資産の増加額
6,083
161
6,245
56
6,302
その他の項目
(注) 「その他」の区分は報告セグメントに含まれない事業セグメントであり、不動産事業及び人材派遣事業であり
ます。
4.報告セグメント合計額と連結財務諸表計上額との差額及び当該差額の主な内容(差異調整に関する事項)
(単位:百万円)
売上高
報告セグメント計
「その他」の区分の売上高
前連結会計年度
当連結会計年度
67,230
150,995
2,772
1,997
セグメント間取引消去
△487
△630
連結財務諸表の売上高
69,515
152,362
(単位:百万円)
利益
報告セグメント計
前連結会計年度
当連結会計年度
1,032
4,715
225
120
-
△4
「その他」の区分の利益
セグメント間取引消去
全社費用(注)
△598
△652
658
4,179
連結財務諸表の営業利益
(注) 主に報告セグメントに帰属しない当社の管理部門に係るものであります。
(単位:百万円)
資産
報告セグメント計
前連結会計年度
当連結会計年度
32,132
56,771
「その他」の区分の資産
3,376
3,426
セグメント間取引消去
△103
△107
全社資産(注)
14,462
10,532
連結財務諸表の資産合計
49,867
70,622
(注) 主に当社の現金及び預金、投資有価証券及び報告セグメントに帰属しない当社の管理部門に係るものであり
ます。
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(単位:百万円)
報告セグメント計
その他の項目
その他
調整額
連結財務諸表計上額
前 連 結
会計年度
当 連 結
会計年度
前 連 結
会計年度
当 連 結
会計年度
前 連 結
会計年度
当 連 結
会計年度
前 連 結
会計年度
当 連 結
会計年度
減価償却費
1,231
2,857
91
77
79
74
1,402
3,009
有形固定資産及び
無形固定資産の増加額
2,676
6,245
19
56
10
46
2,706
6,349
(注) 有形固定資産及び無形固定資産の増加額の調整額は、主に報告セグメントに帰属しない当社の管理部門に係
るものであります。
【関連情報】
前連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
1.製品及びサービスごとの情報
セグメント情報に同様の情報を開示しているため、記載を省略しております。
2.地域ごとの情報
⑴ 売上高
本邦の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の90%を超えるため、記載を省略しておりま
す。
⑵ 有形固定資産
本邦に所在している有形固定資産が連結貸借対照表の有形固定資産の90%を超えるため、記載を省略
しております。
3.主要な顧客ごとの情報
外部顧客への売上高のうち、連結損益計算書の売上高の10%以上を占める相手先が存在しないため、記
載を省略しております。
当連結会計年度(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)
1.製品及びサービスごとの情報
セグメント情報に同様の情報を開示しているため、記載を省略しております。
2.地域ごとの情報
⑴ 売上高
本邦の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の90%を超えるため、記載を省略しておりま
す。
⑵ 有形固定資産
本邦に所在している有形固定資産が連結貸借対照表の有形固定資産の90%を超えるため、記載を省略
しております。
3.主要な顧客ごとの情報
外部顧客への売上高のうち、連結損益計算書の売上高の10%以上を占める相手先が存在しないため、記
載を省略しております。
【報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報】
該当事項はありません。
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金融商品取引法
【報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報】
前連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
金額的な重要性が低いため、記載を省略しております。
当連結会計年度(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)
(単位:百万円)
報告セグメント
自 動 車
関連事業
情報システム
関 連 事 業
その他
計
全社・消去
合計
当期償却額
100
-
100
-
-
100
当期末残高
1,753
-
1,753
-
-
1,753
(注) 平成23年4月1日付で、○○○○㈱及び××××㈱の株式を取得し、連結の範囲に含めております。これら
の事業展開によって期待される超過収益力から発生した「自動車関連事業」におけるのれんの当期償却額は90
百万円、当期末残高は1,716百万円であります。
【報告セグメントごとの負ののれん発生益に関する情報】
該当事項はありません。
〈図表1〉の開示例は、⑵記載内容で解説し
2.報告セグメントごとの売上高、利益又は損
た、連結財務諸表規則様式第一号に定めるとこ
失、資産、その他の項目の金額の算定方法
ろにより、以下の順に記載されています。
まず、事業セグメントの会計処理方法の記
【セグメント情報】
述がされています。次に、報告セグメントの
【関連情報】
利益は営業利益ベースの数値を示唆してお
【報告セグメントごとの固定資産の減損損失
り、この指標は、何らかの形で、N社の最高
に関する情報】
【報告セグメントごとののれんの償却額及び
未償却残高に関する情報】
【報告セグメントごとの負ののれん発生益に
関する情報】
意思決定機関が当該営業損益を意思決定や業
績評価に用いているものと考えられます。
また、セグメント間の取引価格、及び振替
価格については、市場実勢価格にもとづいて
算定していることが読み取れます。
下記、解説します。
3.報告セグメントごとの売上高、利益又は損
【セグメント情報】
1.報告セグメントの概要
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失、資産、その他の項目の金額に関する情報
ここにおいて要求される記載事項は、⑵記
ここでは、⑴報告セグメントの決定方法に
載内容 ③ 報告セグメントごとの売上高、利
おいて、N社の事業セグメントを識別するた
益、又は損失、その他の項目の金額に関する
めに用いた方法として、取締役会が経営資源
情報のなかでも解説してある通り、「最高経
の配分の決定及び業績を評価するために、定
営意思決定機関に対して定期的に提供され、
期的に検討を行うものを対象としています。
かつ、使用されている場合に限る。」との明
その結果、認識された報告セグメントとし
示があります。N社の場合は、この明示によ
て、
「自動車関連事業」
、
「情報システム関連
り、報告セグメントごとの負債の金額等は、
事業」の2つを掲げています。さらに、⑵各
この要件を満たしていないため、記載が省略
報告セグメントに属する製品及びサービスの
されているものと思われます。
種類において、認識された2つの報告セグメ
また、報告セグメントの区分は、集約され
ントである、
「自動車関連事業」
、
「情報シス
た事業セグメントの中から、量的基準に従っ
テム関連事業」
、それぞれの内容を説明して
て決定した報告セグメントとして捉えます
います。
が、この量的基準を満たしていない事業セグ
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しています。
メントは、
「その他」として記載することに
なります。また、脚注で「その他」に含まれ
N社の場合、管理会計上の値である報告セ
る主要な事業の名称を併せて開示しなければ
グメント計の金額に、調整項目を入れて、財
なりません。
務会計上の金額である、連結財務諸表の売上
高、連結財務諸表の営業利益、連結財務諸表
N社の報告セグメントは「自動車関連事業」
と「情報システム関連事業」の2つであるこ
の資産合計の金額に合わせています。また、
とが読み取れ、量的基準を満たしていない事
減価償却費や、有形固定資産及び無形固定資
業セグメントを「その他」として記載して、
産の増加額も同様です。
脚注において、報告セグメントに含まれな
い、事業セグメントの明示と、その名称であ
る、不動産事業及び人材派遣事業の明示がな
【関連情報】
1.製品サービスごとの情報
「セグメント会計基準」によれば、企業は、
されています。
セグメント情報の中で同様の情報が開示され
ている場合を除き、開示しなければならない
4.報告セグメント合計額と連結財務諸表計上
とされています。
額との差額及び当該差額の主な内容(差異調
N社の場合は、セグメント情報に同様の情
整に関する事項)
報を開示しているため記載を省略する旨が書
まず、3.報告セグメントごとの売上高、
かれています。
利益又は損失、資産、その他の項目の金額に
関する情報においては、マネジメント・アプ
ローチにもとづいた記載であるため、管理会
2.地域ごとの情報
計上の金額がベースとなっていると考えられ
地域ごとの情報に関する、重要性の判断基
ます。この管理会計上の金額を財務会計上の
準を、連結財務諸表規則様式第二号を要約す
金額に是正するために、差異調整として記載
ると以下のようになると考えられます。
区分開示の基準
省略可能又は記載不要
単一の国の外部顧客への売上高に分類した額 国内の外部顧客への売上高に分類した額が連
売上高
が連結損益計算書の売上高の10%以上であ 結損益計算書の売上高の90%超である場合
る場合
単一の国に所在する有形固定資産の額が、連 国内に所在している有形固定資産の額が連結
有形固定資産
結貸借対照表の有形固定資産の10%以上で 貸借対照表の有形固定資産の額の90%超で
ある場合
ある場合
90%を超えるため、記載を省略する旨が書
<売上高> N社の場合、本邦(国内)の
かれています。
外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上
高の90%を超えるため、記載を省略する旨
3.主要な顧客ごとの情報
が書かれています。
<有形固定資産> N社の場合、売上高と
主要な顧客ごとの情報に関して、重要性の
同様に、本邦(国内)に所在している有形固
判断基準を、連結財務諸表規則様式第二号を
定資産が連結貸借対照表の有形固定資産の
要約すると以下のようになると考えられます。
区分開示の基準
省略可能又は記載不要
単一の外部顧客への売上高(同一の企業集団
主要な顧客
に属する顧客への売上高を集約している場合
ごとの情報
には、その売上高)が、連結損益計算書の売
左記以外
上高の10%以上である場合
N社の場合、外部顧客への売上高のうち、
連結損益計算書の売上高の10%以上を占め
る相手先が存在しないため、記載を省略する
旨が書かれています。
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金融商品取引法
以上が、N社における標準的な開示事例でし
【報告セグメントごとののれんの償却額及び未
た。ここで、
【セグメント情報等】の開示事例を、
償却残高に関する情報】
もう1社、G社で紹介します。
〈図表2〉
N社の場合、平成23年4月1日付けで、2
社の株式を取得して、その結果生じた超過収益
力としてのれんの償却額、期末残高が記載され
ています。
〈図表2〉
(セグメント情報等)
【セグメント情報】
1.報告セグメントの概要
当社の報告セグメントは、当社の構成単位のうち分離された財務諸表が入手可能であり、取締役会が経
営資源の配分の決定及び業績を評価するために、定期的に検討を行う対象となっているものであります。
当社は、本社に取扱商品・サービスまたは対象業界別の事業部をおき、各事業部は取扱う商品・サービ
スについて国内及び海外の包括的な戦略を立案し、事業活動を展開しております。
したがって、当社は、事業部を基礎とした商品・サービス別のセグメントから構成され、
「繊維関連事業」
及び「非繊維関連事業」の二つを報告セグメントとしております。
「繊維関連事業」は主に化合繊糸、化合繊織物、肌着、靴下、婦人服及び紳士服を取扱い、
「非繊維関連
事業」は主に機械、化成品、理化学機器、紙管、ホビー、花火及び不動産管理等のサービスを取扱ってお
ります。
2.報告セグメントごとの売上高、利益又は損失、資産、負債その他の項目の金額の算定方法
報告されている事業セグメントの会計処理の方法は、
「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」
における記載と概ね同一であります。
報告セグメントの利益は、営業利益ベースの数値であります。
セグメント間の内部収益及び振替高は市場実勢価格に基づいております。
3.報告セグメントごとの売上高、利益又は損失、資産、負債その他の項目の金額に関する情報
前連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
(単位:百万円)
報告セグメント
繊維関連事業
非 繊 維
関連事業
連結財務諸表
計上額
(注2)
調整額
(注1)
計
売上高
外部顧客への売上高
93,460
22,564
116,024
0
105
105
-
116,024
セグメント間の内部売上
高又振替高
(105)
-
計
93,460
22,669
116,129
(105)
116,024
セグメント利益
1,611
822
2,433
(541)
1,891
セグメント資産
31,400
15,014
46,414
8,616
55,031
102
116
219
10
229
その他の項目
減価償却費
30
0
30
-
30
負ののれん償却額
52
-
52
-
52
持分法適用会社への投資額
76
57
134
13
147
有形固定資産及び無形固定
資産の増加額
(注)1 セグメント利益の調整額△541百万円には、セグメント間取引消去105百万円、各報告セグメントに配
分しない全社費用436百万円が含まれています。
セグメント資産の調整額8,616百万円には、当社の現金及び預金、投資有価証券並びに管理部門に係る
資産等8,681百万円及び報告セグメント間の債権の相殺消去等△65百万円が含まれています。
2 セグメント利益は、連結損益計算書の営業利益と調整を行っています。
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当連結会計年度(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)
(単位:百万円)
報告セグメント
繊維関連事業
非 繊 維
関連事業
連結財務諸表
計上額
(注2)
調整額
(注1)
計
売上高
外部顧客への売上高
98,709
23,018
121,728
0
109
109
-
121,728
セグメント間の内部売上
高又振替高
(109)
-
計
98,709
23,127
121,837
(105)
116,024
セグメント利益
1,624
827
2,451
(503)
1,948
セグメント資産
34,576
15,578
50,154
6,939
57,094
その他の項目
112
104
216
12
229
負ののれん償却額
減価償却費
-
0
0
-
0
負ののれん発生益
-
7
7
-
7
特別損失(減損損失)
46
31
77
-
77
持分法適用会社への投資額
46
-
46
-
46
有形固定資産及び無形固定
30
87
117
30
147
資産の増加額
(注)1 セグメント利益の調整額△503百万円には、セグメント間取引消去109百万円、各報告セグメントに配
分しない全社費用394百万円が含まれています。
セグメント資産の調整額6,939百万円には、当社の現金及び預金、投資有価証券並びに管理部門に係る
資産等7,013百万円及び報告セグメント間の債権の相殺消去等△74百万円が含まれています。
2 セグメント利益は、連結損益計算書の営業利益と調整を行っています。
【関連情報】
前連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
1.製品及びサービスごとの情報
セグメント情報に同様の情報を開示しているため、記載を省略しております。
2.地域ごとの情報
⑴ 売上高
(単位:百万円)
日本
74,018
アジア
北米
36,235
その他
3,950
合計
1,820
116,024
(注)売上高は顧客の所在地を基礎とし、国又は地域に分類しております。
⑵ 有形固定資産
本邦に所在している有形固定資産の金額が連結貸借対照表の有形固定資産の金額の90%を超えるた
め、記載を省略しております。
3.主要な顧客ごとの情報
(単位:百万円)
顧客の名称又は氏名
○○○ Ltd.
売上高
関連するセグメント名
13,215
繊維関連事業
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金融商品取引法
当連結会計年度(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)
1.製品及びサービスごとの情報
セグメント情報に同様の情報を開示しているため、記載を省略しております。
2.地域ごとの情報
⑴ 売上高
(単位:百万円)
日本
アジア
75,413
北米
40,180
その他
4,088
合計
2,046
121,728
(注)売上高は顧客の所在地を基礎とし、国又は地域に分類しております。
⑵ 有形固定資産
本邦に所在している有形固定資産の金額が連結貸借対照表の有形固定資産の金額の90%を超えるた
め、記載を省略しております。
3.主要な顧客ごとの情報
(単位:百万円)
顧客の名称又は氏名
売上高
関連するセグメント名
○○○ Ltd.
14,750
繊維関連事業
【報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報】
前連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
該当事項はありません。
当連結会計年度(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)
(単位:百万円)
繊維関連事業
減損損失
非繊維関連事業
46
全社・消去
31
合計
-
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【報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報】
前連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
なお、平成22年4月1日前に行われた企業結合等により発生した負ののれんの償却額及び未償却残高
は、以下のとおりであります。
(単位:百万円)
繊維関連事業
非繊維関連事業
全社・消去
合計
当期償却額
30
0
-
30
当期末残高
-
0
-
0
当連結会計年度(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)
なお、平成22年4月1日前に行われた企業結合等により発生した負ののれんの償却額及び未償却残高
は、以下のとおりであります。
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(単位:百万円)
繊維関連事業
非繊維関連事業
全社・消去
合計
当期償却額
-
0
-
0
当期末残高
-
0
-
0
【報告セグメントごとの負ののれん発生益に関する情報】
前連結会計年度(自 平成22年4月1日 至 平成23年3月31日)
該当事項はありません。
当連結会計年度(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)
当連結会計年度において、非繊維関連事業において7百万円の負ののれん発生益を計上しております。
これは、少数株主より株式を取得したことによるものであります。
〈図表1〉におけるN社の開示事例と、〈図表
でき、この場合には、当欄の記載を要しませ
2〉におけるG社の開示事例の大きな相違点は
ん。G社の開示事例は、この結果が反映された
以下にあります。
ものとなっています。
〈図表2〉では、
「調整額」として、差異調整
なお、平成24年6月30日までに提出される
に関する事項を、3.報告セグメントごとの売
3月決算の有価証券報告書(連結財務諸表作成
上高、利益又は損失、資産、負債その他の項目
会社、日本基準を採用、約2,400社)のうち、
の金額に関する情報に係る注記事項と併せて記
およそ70%が、こちらの、差異調整に関する
載する方法を採用しています。
事項を、3.報告セグメントごとの売上高、利
これに関しては、前述した、連結財務諸表規
益又は損失、資産、負債その他の項目の金額に
則様式第一号、④ 報告セグメント合計額と連
関する情報に係る注記事項と併せて記載する方
結財務諸表計上額との差額及び当該差額の主な
法を採用していました。
内容(差異調整に関する事項)の中で規定され
以上が第5【経理の状況】における【注記事
ているように、差異調整に関する事項について
項】、16.【セグメント情報等】でした。次回
は、
「報告セグメントごとの売上高、利益又は
は、17.【関連当事者情報】以降を解説いた
損失、資産、負債その他の項目の金額に関する
します。
情報」に係る注記事項と併せて記載することが
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金融商品取引法
ディスクロージャー実務Q&A
―最近の日本版ESOP導入の動向と
ディスクロージャーに与える影響(開示①)
―
茨澤 玲子
総合ディスクロージャー研究所研究員 増田 美和
総合ディスクロージャー研究所客員研究員・公認会計士 はじめに
「信託を利用した従業員への自社の株式の付与スキーム」についてどのような会計処理及び表示が適切であ
るかを検討テーマとするようにとの基準諮問会議からの提言を受けて、現在、企業会計基準委員会・実務対応
専門委員会において、日本版ESOPの会計処理の検討が行われています。前回の本実務Q&Aにおいては米国
版ESOPや日本版ESOPの成り立ちや直近の導入事例を取りあげましたが、今回から複数回にわたり、日本版
ESOPを導入した場合の有価証券報告書に与える影響を取りまとめていきたいと思います。
本実務Q&Aがディスクロージャー業務全般の一助になれば幸いです。なお、本稿におけます意見にわたる
部分は、筆者の私見であることを申し添えます。
Q1 従業員持株会を活用した日本版ESOPを導入しました。有価証券報告書の記載において、どのよう
な開示項目に影響を与えますか。
A ESOPとは従業員へ自社株式を給付する制度であり、日本版ESOPは、大別しますと、従業員持株会が一
定期間に取得予定の自社株式を信託が一括して取得し、信託(以下、ESOP信託という。)から従業員持株
会に売却する「従業員持株会活用型」と、信託が一括して自社株式を取得し、自社株式給付規程に基づき従
業員に自社株式が給付される「株式給付型」が存在しています。
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〈適時開示における各制度のスキーム例〉
事例1:従業員持株会活用型 東京応化工業㈱(平成24年2月23日公表)
3.ESOP信託の仕組み
【委託者】
当 社
株式市場
当社株式
信託管理人
銀 行
⑧信託収益の分配
の指図
⑥元本・利息返済
④金銭
⑦議決権行使等
借 入
④当社株式
③代金の支払い
②借入金
ESOP信託
③当社株式
⑨保証債務の履行 ②保証 ②保証料
⑤配当
①信託設定
【受託者】
当社持株会
④拠出金
【受益者】
当社持株会会員
(従業員)
①当社は、受益者要件を充足する従業員を受益者とするESOP信託を設定いたします。
②ESOP信託は、銀行から当社株式の取得に必要な資金を借り入れます。当該借入にあたっては、当
社がESOP信託の借入について保証を行います。
③ESOP信託は、上記②の借入金をもって、信託期間中に当社持株会が取得すると見込まれる数の当
社株式を、株式市場から予め定める取得期間中に取得いたします。
④ESOP信託は、信託期間を通じ、毎月一定日までに当社持株会に拠出された金銭をもって譲渡可能
な数の当社株式を、時価で当社持株会に譲渡いたします。
⑤ESOP信託は、当社の株主として、分配された配当金を受領いたします。
⑥ESOP信託は、当社持株会への当社株式の売却による売却代金および保有する当社株式に対する配
当金を原資として、銀行からの借入金の元本・利息を返済いたします。
⑦信託期間を通じ、信託管理人が議決権行使等の株主としての権利の行使に対する指図を行い、
ESOP信託はこれに従って株主としての権利を行使いたします。
⑧信託終了時に、株価の上昇によりESOP信託内に残余の当社株式がある場合には、換価処分のう
え、受益者に対し信託期間中の拠出割合に応じて信託収益が金銭により分配されます。
⑨信託終了時に、株価の下落によりESOP信託内に借入金が残る場合には、上記②の保証に基づき、
当社が銀行に対して一括して弁済いたします。
※当社持株会への売却によりESOP信託内に当社株式がなくなった場合には、信託期間が満了する前に
信託が終了します。
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金融商品取引法
事例2:株式給付型 ステラ ケミファ㈱(平成24年2月15日公表)
〈株式給付信託の概要〉
①株式給付規程の制定
当社
従業員
④ポイントの付与
議決権行使指図
みずほ信託銀行
(再信託:資産管理サービス信託銀行)
③株式取得
【当社株式】
退職︵受給権取得︶
信託管理人
②金銭の信託
退職者等
⑥株式の給付
①当社は、本制度の導入に際し「株式給付規程」を制定します。
②当社は、
「株式給付規程」に基づき従業員に将来給付する株式を予め取得するために、みずほ信託銀行株
式会社(再信託先:資産管理サービス信託銀行(信託E口)
(以下、
「信託銀行」といいます。
)に金銭を
信託(他益信託)します。
③信託銀行は、信託された金銭により、当社株式を取得します。
④当社は、
「株式給付規程」に基づいて従業員に対し、勤続や成果に応じて「ポイント」を付与します。
⑤信託銀行は信託管理人からの指図に基づき、議決権を行使します。
⑥従業員は、退職時等に信託銀行から、累積した「ポイント」に相当する当社株式の給付を受けます。
日本版ESOPを導入した場合、まずその内容を有価証券報告書の【従業員株式所有制度の内容】に記載す
ることとなります。平成24年3月期有価証券報告書の【従業員株式所有制度の内容】に日本版ESOPの内
容を記載していた会社は103社であり、その内訳は従業員持株会活用型88社、株式給付型18社となりま
す。なお、両方の制度を導入している会社は3社あり、それぞれにカウントしております。(図表1参照)
図表1 平成24年3月期の【従業員株式所有制度の内容】の開示状況
従業員持株会活用型
株式給付型
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事例3:従業員持株会活用型 ㈱野村総合研究所(平成24年3月期有価証券報告書)
事例4:株式給付型 ㈱ピーシーデポコーポレーション(平成24年3月期有価証券報告書)
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金融商品取引法
〈株式給付信託の概要〉
①株式給付規程の制定
当社
③株式取得
【当社株式】
信託管理人
議決権行使指図
受給権取得
信託銀行
⑤議決権行使
②金銭の信託
従業員
④ポイントの付与
従業員・退職者等
⑥株式の給付
実務においては、上記【従業員株式所有制度の内容】以外の項目においても、日本版ESOPについて説明
を付している状況が見受けられます。これは、日本版ESOP導入によりESOP信託が自社株式を保有する場
合に、ESOP信託が保有する自社株式の取り扱いが法形式上と会計上とで相違することに起因します。
すなわち、従業員持株会活用型であっても株式給付型であっても、従業員が自社株式を受け取るまで一時
的に信託が自社株式を保有することになりますが、信託が保有する自社株式は法形式上は自己株式とみなさ
れず配当も行われ議決権も有することになりますが、会計上はESOP信託と発行会社は一体とみなされ、信
託が保有する自社株式は自己株式として取扱われます。その結果、有価証券報告書作成にあたり、財務諸表
と定性的情報の関連性をどう取るのかという悩ましい場面が生じることとなります。特に市場から大量の自
己株式を買い付ける場合には新たに大株主に名を連ねるケースもあり、取り扱いの差異が無視できない状況
もあるものと思われます。
図表2は、平成24年3月期有価証券報告書を対象に、
【従業員株式所有制度の内容】以外の項目(
【経理
の状況】以前の項目に限る)において、ESOP信託に係る記述が行われた項目をとりまとめたものとなりま
す。
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図表2
項目
会社数
第1 企業の概況
1 主要な経営指標等の推移
25
2 沿革
1
第2 事業の状況
4 事業等のリスク
1
5 経営上の重要な契約等
2
7 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
第4 提出会社の状況
1 株式等の状況
7
⑹ 所有者別状況
46
⑺ 大株主の状況
37
⑻ 議決権の状況
71
2 自己株式の取得等の状況
61
3 配当政策
39
図表2を見ますと、
【従業員株式所有制度の内容】以外に日本版ESOPに係る記載が一番多いのは、議決
権の状況となっています。第4提出会社の状況は自社の株式に係る記載を行う項目が多いところから、他の
章に比べ記載件数も多い結果となっていますが、特に議決権の状況は日本版ESOPを導入した7割近い会社
がなんらかの記載を行っており、議決権の状況が財務諸表との関連のみならず、会社法における事業報告と
も関係が深いことから、その整合性に特に注意を払っている結果ではないかと考えています。
Q2 議決権の状況において、ESOP信託が保有する自社株式はどのように記載すべきでしょうか。
A 通常ESOP信託が保有する自社株式は、議決権の状況において完全議決権株式に区分されるものと考えら
れます。完全議決権株式はさらに自己株式等とそれ以外のものに区分して記載することが求められています
が、議決権を有しているという法的側面を重視し「完全議決権株式(その他)」に含めるべきであるのか、
会計上自己株式として処理がなされているという会計的側面を重視し「完全議決権株式(自己株式等)」に
含めるべきであるのかについて、規則上明らかにされておりません。
この点について、平成24年3月期有価証券報告書・議決権の状況においてESOP信託が保有する自社株
式についてなんらかの記載を行った71社の事例を分析しますと、図表3のとおりとなります。
図表3
記載区分
社数
完全議決権株式(自己株式等)に含めて記載
14
完全議決権株式(その他)に含めて記載
57
計
71
平成24年3月期における事例をみますと、ESOP信託が保有する自社株式を「完全議決権株式(その他)
」
に含めて記載している会社が多い結果となっています。
「完全議決権株式(その他)」に含めて記載した場合に、
財務諸表関連の数値と整合性が取れない状況が生じますが、「完全議決権株式(その他)」に含めて記載して
いる会社のうち9割以上の会社が、①【発行済株式】もしくは②【自己株式等】脚注にて、ESOP信託保有
の自社株式について説明を付しています。
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金融商品取引法
事例5:㈱山口フィナンシャルグループ(平成24年3月期有価証券報告書)
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事例6:シーケーディ㈱(平成24年3月期有価証券報告書)
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金融商品取引法
事例7:東京応化工業㈱(平成24年3月期有価証券報告書)
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事例8:㈱ナック(平成24年3月期有価証券報告書)
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金融商品取引法
事例9:㈱池田泉州ホールディングス(平成24年3月期有価証券報告書)
他方、ESOP信託が保有する自社株式を「完全議決権株式(自己株式等)」に含めて記載している事例を
みますと、
「完全議決権株式(自己株式等)」の「議決権の数(個)」欄は通常「―(バー)」となりますが、
ESOP信託が保有する自社株式は議決権を有していることから、ほとんどがESOP信託に係る議決権数を記
載しており、その脚注にて説明を付しています。
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事例10:㈱ディー・エヌ・エー(平成24年3月期有価証券報告書)
また、ESOP信託が保有する自社株式を「完全議決権株式(自己株式等)」に含めて記載する場合、②【自
己株式等】表中において、ESOP信託保有の自社株式をどう記載すべきあるのかについても論点があろうか
と思います。すなわち、②【自己株式等】においては自己株式等を自己名義による所有または他人名義によ
る所有に区分して記載することが求められていることから、ESOP信託が保有する自社株式をどちらに含め
て記載するべきか問題となります。この点についても特に明らかにはされておらず、事例ではどちらの記載
も見受けられるところです。
(図表4参照)
図表4
記載区分
社数
自己名義欄に記載
2
他人名義欄に記載
12
計
14
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金融商品取引法
事例11:㈱ダイドーリミテッド(平成24年3月期有価証券報告書)
事例12:日信工業㈱(平成24年3月期有価証券報告書)
事例13:シナネン㈱(平成24年3月期有価証券報告書)
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金融商品取引法
「投資信託・投資法人法制の見直しに関する
ワーキング・グループ」の最終報告について
宝印刷㈱執行役員ディスクロージャー研究一部長 平松 朗
(一般社団法人 日本IPO実務検定協会 代表理事)
はじめに
2.及び3.の通り)。
金融庁の諮問機関である金融審議会は、平成24
今後、最終報告に示された考え方に基づき、適切
年12月7日に「投資信託・投資法人法制の見直し
な制度整備等を進めるとともに、その制度整備等を
に関するワーキング・グループ」最終報告を公表し
踏まえた関係業界の取組状況について、自主規制団
た。本稿では、その概要を紹介する。文中意見に亘
体と連絡・協調しながら適切にフォローアップを行
る部分は私見であることを予め申し添える。
うこととしている。
1.経緯
2.投資信託制度
「投資信託及び投資法人に関する法律」
(以下「投
信法」という。
)は、昭和26年に「証券投資信託法」
⑴ 投資信託の現状と対応の方向性
① 現在の投資信託市場を巡る環境とその下での
として制定された。平成10年の改正では、ファン
経済活動等
ド設定における個別約款承認制から届出制への変更
販売手数料が重視されており、販売会社が顧
や投資法人制度の創設が行われた。現行の法律名と
客との関係を掌握している。投資家の投資意欲
なった平成12年改正により、主たる投資対象を不
に働きかけやすいよう新商品が次々と設定・販
動産等にも拡大し、不動産投資法人(J-REIT)の
売されてきた。株価低迷・低金利環境が長期化
創設が認められた。
し、海外資産、複数の収益源の組合せ、預金利
その後、抜本的な改正は行われていなかったが、
息等の定期的収入を重視する投資家に働きかけ
平成22年6月に閣議決定された「新成長戦略」、同
やすい高頻度・高分配金商品の開発が活発化し
年12月に公表された「金融資本市場及び金融産業
ている。また、外国運用業者が運用するファン
の活性化等のためのアクションプラン」
、平成24年
ドへの投資等(ファンド・オブ・ファンズ)が
7月に閣議決定された「日本再生戦略」において投
なされることが多く、商品性の複雑化の一因と
資信託・投資法人法制見直し、平成25年度までの
制度整備の実施が盛り込まれた。
平成24年1月には、金融審議会に対し、以下の
なっている。
② 上記の結果もたらされた影響と対応の方向性
観点から法制見直しが諮問された。
(下線は筆者。
第一に投資信託商品の開発・販売において必
以下同様。
)
ずしも投資家の資産運用ニーズが反映されてい
① 投資信託については、国際的な規制の動向や経
ないとの指摘があるため、商品開発・販売に当
済社会情勢の変化に応じた規制の柔軟化や一般投
たっての顧客(投資家)本位の目線が一層必要
資家を念頭に置いた適切な商品供給の確保等
であることが指摘された。第二に投資信託の累
増・小規模化による割高な運営コストを是正す
② 投資法人については、資金調達手段の多様化を
るために投資信託運営に係る業務効率の向上や
含めた財務基盤の安定性の向上や投資家からのよ
小規模化に通じるような業界慣行の見直しが必
り信頼されるための運営や取引の透明性の確保等
要との指摘がされた。第三に、商品の複雑化・
リスクの複合化が進行しているとともに、全体
平成24年3月からスタートした投資信託・投資
的な得失の把握が難しくなってきているため、
法人法制の見直しに関するワーキング・グループ
商品性やリスクに関する購入時の商品説明や、
(投信WG)の最終報告では、見直しの際の基本的
投資開始後に保有期間を通じた得失の説明の充
な考え方が提示された(最終報告の内容は、以下の
実が必要とされた。第四には、退職前後の世代
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金融商品取引法
は今後減少することが予測されることから、投
⒜ 書面決議を要する約款変更範囲の見直し
資信託市場の拡大を継続させるため、退職世代
現在、書面決議を要する約款の「重大な内
の余資運用だけでなく現役世代の資産形成へと
容の変更」について規定されている「商品の
いう視点も必要とされた。
同一性を失わせる」を「商品としての基本的
以上のような指摘に対応するためには、運用
な性格の変更」と改め、書面決議を要する約
会社と受託会社の受託責任の発揮、当局による
款変更範囲を限定する。
(投信法17①、投信
規制や適切な検査・監督、関係業界を中心とし
法規則29)
た自主的なモニタリングが必要と整理された。
具体的には、以下については、書面決議を
要しないこととするのが適当とされた。
・受益者の利益に資する約款変更(信託報酬
⑵ 規制の柔軟化
① 効率的な投資信託運営のための受益者書面決
議制度の見直し
投資信託の約款変更や投資信託間の併合を行
う場合には、当該投資信託の受益者による書面
の低減等)
・事務的事項に係る約款変更で受益者の利益
には中立的なもの
・法令改正に伴い、法令適合性を維持するた
決議が必要とされている。しかし、現実の実務
めに行わざるを得ない約款変更
と乖離し、却って制度が形骸化してしまってい
⒝ 書面決議を要する併合手続の見直し
ることから、真に受益者の承諾が必要な事項の
投資信託の併合の前後で「商品としての基
み書面決議の対象とし、手続自体の見直しも検
本的な性格」に相違がない投資信託について
討された。
は書面決議を不要とする。具体的には、以下
(注1)投資信託及び投資法人に関する法律
第16条 投資信託委託会社は、次に掲げる
の要件をすべて充足する場合は適当とされ
る。
場合には、あらかじめ、その旨及び
・併合後の投資信託に属することとなる財産
その内容を内閣総理大臣に届け出な
が併合前の投資信託約款に記載された投資
ければならない。
方針に反しないと認められること。
一 投資信託約款を変更しようとす
二 委託者指図型投資信託の併合
る場合
(受託者を同一とする二以上の委
託者指図型投資信託の信託財産を
・投資信託の純資産額が併合対象である他の
投資信託の総資産額に比して、一定倍率以
上であること
・併合前後の投資信託約款を比較して、実質
的な相違が「受益者の利益に資するもの」
、
一の新たな委託者指図型投資信託
「事務的事項に係る相違であって受益者の
の信託財産とすることをいう。・
利益には中立的なもの」又は「法令適合性
・・)をしようとする場合
を維持するために生じざるを得ないもの」
第17条 投資信託委託会社は、前条各号掲
げる場合(同条第一号に掲げる場合
に限られること。
⒞ 受益者数要件の撤廃
にあっては、その変更の内容が重大
投資信託においては、受益者の個性による
なものとして内閣府令で定めるもの
影響が極めて限定的であることに加え、受益
に限る。
)には、
・・・書面による決
権の内容の均等性が担保されていることに鑑
議を行わなければならない。
み、約款変更や併合手続の見直しを促進する
観点を踏まえ、書面決議の際の受益者数要件
(注2)投資信託及び投資法人に関する法律施
行規則
第29条 法第17条第1項に規定する投資
(議決権を行使することができる受益者の過
半数の投票が必要との要件)を撤廃すること
が提言された。(投信法17⑧)
信託約款の変更の内容が重大なもの
として内閣府令で定めるものは、
・・・
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(注)投資信託及び投資法人に関する法律 当該投資信託約款に係る委託者指図
第17条第8項
型投資信託の商品としての同一性を
書面による決議は、議決権を行使する
失わせることとなるものとする。
ことができる受益者の半数以上であつて、
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当該受益者の議決権の三分の二以上に当
令2条等に規定されている。これに対し、運用
たる多数をもつて行う。
指図以外の投資信託に付随するその他の事務
(基準価格算定事務等)の外部委託につき明文
⒟ 反対受益者の受益権買取請求制度の見直し
の規定がなく、委託できるか否か明確な規定が
受益権買取請求制度は、クローズドエンド
ないとの指摘があった。そこで運用指図権限以
型投資信託や解約日が限定されているオープ
外の権限の外部委託が可能である旨を明確化す
ンエンド型投資信託の場合、反対受益者換価
ることとされた。
手段として必要であるが、基準価格が毎日算
定され随時解約も可能なオープンエンド型投
(注)投資信託及び投資法人に関する法律
資信託においては、随時解約・買取が可能な
第12条
ことから買取制度を適用しないこととする。
投資信託委託会社は、その運用の指図を
(投信法18)
行うすべての委託者指図型投資信託につき、
当該指図に係る権限の全部を、第2条第1項
(注)投資信託及び投資法人に関する法律 第18条第1項
に規定する政令で定める者その他の者に対
し、委託してはならない。
重大な約款の変更等がされる場合には、
書面による決議において当該重大な約款
④ 運用財産相互間取引の容認範囲の明確化
の変更等に反対した受益者は、受益者に
現状、金融商品取引法上、「運用財産相互間
対し、自己の有する受益権を公正な価格
において取引を行うことを内容とした運用」は、
で当該受益権に係る投資信託財産をもつ
どちらかのファンドの投資者に不利益となるリ
て買取ることを請求することができる。
スクがあることから、原則として禁じられてい
る。ただし、取引対象が上場有価証券等で公正
② 同一投資信託における複数の報酬体系等の容
な価格で取引されることを条件に、例外的に以
認(継続検討)
下の取引は容認されている。
現在、投資信託の受益権は均等に分割されて
⒜ 一方の運用財産の運用を終了させるために
いなければならず、例えば、同一の運用方針の
行う取引など投資信託運営上やむを得ない取
下で信託報酬体系だけが異なる商品を組成する
引類型の場合
場合でも複数の投資信託を組成する必要があ
り、必ずしも効率的でない。
⒝ 双方の運用財産について必要かつ合理的と
認められる場合
仮に均等ではない複数のクラスの受益権の設
また、個別の運用財産相互間取引を行うこと
定を行う場合、受益者保護を担保する観点か
につき全ての投資家の同意を得た場合も容認さ
ら、種類受益権毎に実施する書面決議等の新た
れる。
な利害調整の仕組を併せて考える必要あり。 金融庁で発出している「金融商品取引業者等
新たな利害調整の仕組みの導入により、却っ
向けの総合的な監督指針」において(b)の「必
て運営コストが大きくなるとの指摘もあり、現
要かつ合理的と認められる場合」に該当する場
時点では、直ちに制度化を図るのではなく、引
合が類型的に例示されているが、
「必要かつ合
き続き具体的なニーズを確認した上で、検討を
理的」の範囲の例示を追加(例えば、社内のリ
行うことが求められる。
(投信法6①)
スク管理等の観点から投資制限を設定している
場合これを超過することを避けるために行う取
(注)投資信託及び投資法人に関する法律
引)することが適当とされた。 第6条第1項
委託者指図型投資信託の受益権は、均等
(注)金融商品取引法
に分割し、その分割された受益権は、受益
(禁止行為)
証券をもつて表示しなければならない。
第42条の2 金融商品取引業者等は、その行
う投資運用業に関して、次に掲げ
③ 外部委託に関する規制の明確化
運用指図権限については投信法12条、投信
る行為をしてはならない。ただし、
第一号及び第二号に掲げる行為に
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金融商品取引法
あっては、投資者の保護に欠け、
形で受益者に提供する。
若しくは取引の公正を害し、又は
・オープンエンド型投資信託の継続募集を行う
金融商品取引業の信用を失墜させ
場合の有価証券届出書と継続開示である有価
るおそれのないものとして内閣府
令で定めるものを除く。
証券報告書の統合を図る。
⒜ 運用報告書の二段階化
二 運用財産相互間において取引
運用報告書を運用状況に極めて重要な事項
を行うことを内容とした運用を
を記載した交付運用報告書と、より詳細な運
行うこと
用状況等を含めて記載した運用報告書(全体
版)に二段階化する。交付運用報告書は、原
⑤ 金銭設定・金銭償還の例外範囲の拡大
則として受益者に書面又は電子的な方法で交
現在、投資信託は金銭設定・金銭償還が原則
付する。全体版については、電子的方法を原
とされ、受益者保護に欠けるおそれがない場合
則としつつ、受益者から請求があった場合の
(機関投資家が一定の条件の下でETFを設定・
み書面による交付を義務付けることが適当と
解約する場合)に限り、現物設定・現物償還が
例外的に認められているが、以下も例外とする
された。(投信法14)
⒝ 運用報告書記載事項等の見直し
ことが適当とされた。
(投信法8)
交付運用報告書においては、他の投資信託
⒜ 現物設定・現物償還であるETFでは、権利
と比較可能な方式で当該投資信託の現在及び
落ち等の構成銘柄について金銭の代替を認め
過去の状況を記載する。グラフや図を活用し、
ること
平易かつ簡素な表現で文章による解説を行う
⒝ 投資に高い知識・理解力を有する機関投資
などわかりやすい表示を行う。全体版につい
家向けの投資信託の設定・償還につき、有価
ては、引き続き、必要な情報を詳しく記載す
証券等のうち時価評価が容易なものを用いる
場合は、受益者保護に欠けるおそれが少な
く、現物設定・現物償還を認めること
る。
⒞ 有価証券報告書等との関係
有価証券届出書と有価証券報告書の記載事
項の重複を解消する観点から、①組込方式又
⑥ その他
以下につき適切な措置を講じることが求めら
は参照方式を導入する、②有価証券届出書
「第一部 証券情報」に相当する情報を記載
れる。
した書面を、有価証券報告書と併せて提出し
・特定資産の価格調査制度に関し、金融商品取
た場合には、これらの書類を有価証券届出書
引所又は金融商品取引清算機関のルールや商
とみなす制度を導入する、が考えられるが、
慣行等に基づき、取引条件及び経済的価値の
②案により検討を進めるのが適当とされてい
算出方法が一定程度標準化され、価格調査に
る。
よらずとも価格の公正性を確保することが可
有価証券報告書の見直しについては、その
能であると考えられる類型の店頭デリバティ
提出により有価証券報告書の一部とみなすこ
ブ取引を制度の適用除外とする。
(投信法11
とができる報告書代替書面制度(金商法24
②、12②)
⑭、⑮)を柔軟に活用することにより、委託
・利益相反のおそれがある行為が行われた場合
会社の情報に関する記載重複を解消すること
の受益者等への書面交付の時期及び手法に関
が考えられる。例えば、認定金融商品取引業
し、例えば、利益相反のおそれがある行為を
協会である投資信託協会の規則に基づいて作
する度の電子的方法等による公告及び運用報
成され、ホームページ上で公表される委託会
告書への記載等により受益者等に報告するこ
社の情報に関する書面については、報告書代
とを認めること(投信法13①②、5②)
替書面として利用できるようにするといった
方向で対応することが適当、と具体的に提言
⑶ 一般投資家を念頭に置いた適切な商品供給の確
されている。
保
① 運用報告書の改善等
・運用報告書において運用状況を理解しやすい
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② トータルリターン把握のための定期的通知制
制限するような仕組みを構築することが考えら
度の導入
れ、適切なルールの整備が必要である。具体的
現在、投資家は、各期の投資信託に係る分配
には、
金等が記載された取引残高報告書を交付されて
・信用リスクの分散については、一定の定量的
いるが、購入時点から現在までの投資期間全体
な規制の枠組みを整備する
における分配金の額は自ら計算する必要があ
・デリバティブ取引を行う場合のリスク量制限
る。一定期間の累積損益の計算方式、通知方法
については、リスク量に係る計算方法を一定
等については業界において制度の実施を図るこ
ととする。
程度規格化し、その概要の情報を提供する
・我が国に持ち込まれる又は我が国の投資信託
に組み込まれる外国籍投資信託についても、
③ 販売手数料・信託報酬等に関する説明の充実
現在、投資信託の購入・保有に関する費用に
ついては、目論見書等において、販売手数料の
各国の法制の相違を踏まえつつ、原則として
同様の取扱いとする
という仕組が考えられるとした。
上限、信託報酬の料率と運用会社、販売会社及
び受託会社への配分率を表示することとされて
3.投資法人制度
いる。販売手数料、信託報酬等を含めた投資家
⑴ 我が国投資法人の現状と対応の方向性
の負担の対価として享受するサービスについて
投資法人制度は主としてJ-REITとして活用さ
の説明を充実させることにより、投資家のコス
れ、金融商品としての位置付けを高めてきた。他
ト意識を醸成し競争を促進することも期待され
方、J-REITの投資口は、安定的にキャッシュ・
る。
フローを生み出す不動産という原資産に裏付けら
れた商品ではあるものの、実際には、金融・資本
④ 販売・勧誘時等におけるリスク等についての
市場の影響を大きく受けている。そこで、資金調
情報提供の充実
達・資本政策手段の多様化を図る必要があると考
現在、法令において、交付目論見書にファン
えられる。
ドの目的・特色、投資リスク等を記載すること
また、スポンサー企業との利益相反取引に対す
とされており、投資信託協会の規則(「交付目
る適切な規律を含め、投資法人の運営や取引の透
論見書の作成に関する規則」3条等)において、
明性を確保する必要がある。
その具体的な記載内容や記載方法等が定められ
ている。今後は、リスクの定性的な説明に加え、
⑵ 資金調達手段の多様化を含めた財務基盤の安定
リスクの定量的な把握や比較が可能となるよう
性の向上
な表示をすることが適当とされた。具体的な記
① 資金調達・資本政策手段の多様化
載内容は、実務的な検討を通じ、引き続き整理
資金調達・資本政策手段の多様化の具体策と
を行うことが適当だが、ファンド相互間の客観
して、ライツ・オファリング、無償減資、自己
的な比較が容易になるように、当局及び業界に
投資口取得に関しては、導入に向けた制度整備
おいてある程度の統一化を行うことが求められ
を進めることが適当とされた。また、転換投資
る。
法人債、種類投資口は、高度な投資家間の利害
調整が必要となり、現行の投資法人のみなし賛
⑤ 運用財産の内容についての制限
成制度等を前提とする簡素なガバナンスの仕組
現在、運用財産の制限としては、内閣府令に
みのままでは、高度な利害調整は難しいとの観
よるデリバティブ取引に係るリスクの制限、投
点から時期尚早と判断された。
資信託協会の規則における投資対象等への一定
の制限に限られている。しかし、商品の複雑
② 簡易合併要件の見直し
化・リスクの複合化が進行しており、さらに、
現行制度では、存続投資法人の財務内容に対
大きな信用リスクを抱えた仕組債型の投資信託
する影響が大きい場合にも簡易合併が認められ
もある。このような複合化したリスクや信用リ
るため、一定の合併比率以下の場合にするな
スクは、説明・開示によりあらかじめ投資家に
ど、簡易合併の要件を見直す必要があるとされ
認識させることは困難であり、リスク量を予め
た。
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金融商品取引法
⑶ 投資家からより信頼されるための運営や取引の
透明性の確保
① 投資家の信頼を高める意思決定確保のための
⑷ その他の施策
① 海外不動産取得促進のための過半議決権保有
制限の見直し
仕組みの導入
現行制度では、事業支配を制限する趣旨か
・投資法人と資産運用会社の利害関係者との間
ら、投資対象会社の株式の議決権の過半数保有
の一定の重要な取引については、投資法人の
が投信法上禁止されている。実質的に投資法人
役員会の事前同意の取得を義務付けることが
が海外不動産を取得することと同視できるよう
適当である。この場合、監督役員については、
な場合について、海外不動産を取得するための
現行の資産運用会社の利害関係者でないこと
ビークル(SPC)の株式に係る過半数以上の
との要件に加え、スポンサー企業の利害関係
議決権保有を認めていくことが適当とされた。
者でないことを要件とすることが適当であ
る。
② 投資口発行差止請求制度の導入
・資産運用会社の利害関係者との取引について
現在、投資主が投資法人に対し直接的に投資
は、鑑定評価書の概要の開示項目の拡充を図
口の発行の差止めを請求できる制度は設けられ
るとともに、取得した物件の鑑定評価額の算
ていない。資金調達や資本政策手段の多様化を
出根拠に係るより詳細な情報を公表する必要
認める上で、投資家保護の観点から、差止請求
があるとされた。
制度の整備を行うことが適当とされた。
② インサイダー取引規制の導入
おわりに
投資法人特有の事情を考慮しつつ、上場投資
以上、最終報告の概要を紹介した。詳細は、最終
法人に係る投資証券の取引をインサイダー取引
報告本文はご精読いただきたい。また、金融庁から
規制の対象とすることが適当である。具体的に
公表されているWGの議事録、資料等を精査するこ
は、投資法人では、主として業務委託先である
とにより、問題意識、各委員の意見や報告書の集約
資産運用会社で物件取得に関する重要情報の取
過程などが明らかになるかと思われる。関心の向き
得・保有・管理が行われており、規制対象とす
には是非これらの検証をお勧めしたい。
る取引主体の範囲を定めるに当たり、資産運用
会社を「投資法人の契約締結先」との位置づけ
ではなく、投資法人自体と同様に取り扱うこと
が適当であるとされた。また、投資法人、資産
運用会社、スポンサー企業の関係者がその職務
等に関し、重要事実を知った場合及びこれらの
関係者からの情報受領者を規制対象とすること
が適当であるとされた。
さらに、重要事実については、
・投資口の内容及び条件の変化(例:公募増資
の発表)
・投資法人の財産の変化(例:大口テナントの
退去の発表、業績予想の修正の発表)
・投資法人の運営や業務の変化(例:倒産手続
の申立ての発表)
・資産運用会社の運営や業務の変化及びスポン
サー企業の交代等(例:スポンサー企業の異
動の発表)
といった情報について制度化を進めることが適
当とされた。
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金融商品取引法
金融審議会「インサイダー取引規制に関する
ワーキング・グループ」の報告書について
宝印刷㈱執行役員ディスクロージャー研究一部長 平松 朗
(一般社団法人 日本IPO実務検定協会 代表理事)
はじめに
こうした現状を踏まえ、平成24年7月、金融担
昨年12月25日付で金融庁金融審議会から「イン
当大臣より金融審議会に対し、我が国市場の公正
サイダー取引規制に関するワーキング・グループ」
性・透明性に対する投資家の信頼を確保する観点か
の報告書が公表された。本稿では、その概要につい
ら、以下の検討について諮問された。
て説明したい。文中意見に亘る部分は私見である。
① 情報伝達行為への対応
② 課徴金額の計算方法
1.経緯
インサイダー取引規制は、企業の内部情報を知り
③ その他近年の違反事案の傾向や金融・企画実務
の実態に鑑み必要となるインサイダー取引規制の
得る特別の立場にある者(内部者(インサイダー=
見直し
会社関係者、公開買付等関係者、第一次情報受領
この諮問を受けて、金融審議会にインサイダー取
者)が未発表の重要事実を知って取引を行えば、証
引規制に関するワーキング・グループが設置され、
券市場の公正性・健全性に対する信頼を損なうおそ
昨年12月25日付で公表された報告書「近年の違反
れがあることに鑑み、係る取引を禁止するものであ
事例及び金融・企業実務を踏まえたインサイダー取
る。
引規制をめぐる制度整備について」では、見直しの
最近のインサイダー取引事案をみると、会社関係
際の基本的な考え方が提示された。
者や公開買付等関係者から情報の伝達を受けた者
報告書は、以下の4本立てで構成されており、別
(情報受領者)が違反行為を行っている事例が多く
項にてそれぞれ簡単にその内容を紹介したい。なお、
(図表1)
、また、上場会社の公募増資に際し、引受
今後は、同報告書の内容を踏まえ、法令改正等に向
主幹事証券会社からの情報漏えいに基づくインサイ
けた検討が進められる予定である。
ダー取引事案も生じている。
(図表1)
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(金融審議会資料)
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① 情報伝達・取引推奨行為に対する規制等
② 「他人の計算」による違反行為に対する課徴金
の見直し
(注)米国・欧州では、一定の情報伝達行為が
規制対象となっている。米国では情報受領
者が取引を行った場合に規制対象が限られ
③ 近年の金融・企業実務を踏まえた規制の見直し
ており、フランス・ドイツでも、取引の有
④ インサイダー取引等の未然防止等に向けた取組
無にかかわらず一定の情報伝達行為を規制
対象としつつ、実務上、情報受領者が取引
み
を行った場合に限って制裁等が行われてい
2.情報伝達・取引推奨行為に対する規制等
前記のように情報受領者による違反事件が増加し
る。
また、欧州では一定の取引推奨行為も規
ているが、情報受領者によるインサイダー取引は、
制対象であり、米国においても被推奨者に
情報伝達がなければ生じることはないため、不正な
よる取引が行われた場合には規制対象とな
情報伝達をいかに抑止していくかが重要な課題とさ
り得る。(図表2)
れた。
② 取引推奨行為に対する規制
⑴ 情報伝達・取引推奨行為に対する規制
① 情報伝達行為に対する規制
情報伝達行為を規制する場合には、取引推奨
行為(未公表の重要事実の内容は伝えず、その
情報伝達行為(会社関係者(金融商品取引法
存在を仄めかし、または未公表の重要事実を知
(以下「法」という。
)第166条第1項)や公開
り得る立場にあることを示しつつ取引を推奨す
買付等関係者(法167①)が未公表の重要事
るなどの潜脱的行為)が行われるおそれがある。
実を伝達するなどの行為)は、未公表の重要事
内部情報を知り得る特別の立場にある者が内部
実に基づく取引が行われる蓋然性を高めるとと
情報を知りながら不正に取引推奨すれば、証券
もに、内部者に近い特定の立場にある者のみ有
市場の公正性・健全性に対する投資家の不信感
利な取引を可能とする点等で、証券市場の公正
を惹起するおそれがある。
性・健全性に対する投資家の信頼を損なうおそ
これらを踏まえれば、不正な取引推奨行為に
れがあり、適切な抑止策を設けることが必要と
ついても適切な抑止策を設けることが必要とさ
された。
れた。
(図表2)
(金融審議会資料)
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金融商品取引法
③ 規制対象となる行為
上場会社の通常の業務・活動(例えば、業務
より抑止効果の高い計算方法とする。
⒝ 注意喚起のための氏名公表
提携の交渉や投資家向け説明)に支障が生じな
仲介業者の役職員がその業務に関連し違反
いようにするとともに、金商法の目的も踏ま
行為を行った場合、課徴金の対象は、実際に
え、すべての情報伝達、取引推奨行為ではな
情報伝達・取引推奨を行った役職員ではな
く、証券市場・金融商品取引と結びついた不正
く、当該仲介業者となる。そこで、将来の取
な行為に限定するために、次の二つの要件をい
引相手となり得る証券会社や投資家等に対し
ずれも満たす行為に限ることとされた。
て注意を喚起し、違反抑制を図る観点から、
⒜ 主観的要件
当該役職員の氏名を明らかにする。
「取引を行わせる目的」等の主観的要件を
設ける。主観的要件とは、行為者が、どのよ
③ 重要事実の要求行為への抑止策(氏名公表措
うな意図・目的等でその情報伝達行為等を行
置)
ったかを、処罰の可否の判断基準としようと
機関投資家等の運用担当者等が、取引上の立
するもの。
場を利用して未公表の重要事実を要求する(証
⒝ 取引要件
券会社に対する「耳寄り情報」の提供要請等)
情報伝達・取引推奨されたことが投資判断
などにより、インサイダー取引を行ったような
の要素とならない場合にまで制裁等の対象と
事案については、違反行為において中心的な役
する必要性は必ずしも高くないため、不正な
割を担った者等の氏名を明らかにし、将来の取
情報伝達・取引推奨が投資判断の要素となっ
引相手となり得る証券会社や投資家等に対して
て情報受領者等により実際に取引が行われた
注意喚起をしていくことが適当とされた。
ことを要件とする。
3.「他人の計算」による違反制度に対する課徴金
⑵ 違反行為の抑止策(エンフォースメント)
① 違反行為の抑止策
の見直し
平成20年の金商法改正により、それまでの「自
不正な情報伝達・取引推奨行為に対する制裁
己の計算」による不公正取引に加え「他人の計算」
として、現行の不公正取引規制と同様のエンフ
による不公正取引が課徴金の対象とされた。
ォースメント手段(刑事罰・課徴金)を整備す
現行制度では、
「他人の計算」でインサイダー取
ることが適当である。課徴金については、現行
引が行われた場合、当該取引に係る「手数料、報酬
制度が違反行為による利得相当額を基準として
その他の対価の額」の課徴金を課することとなって
いることに鑑み、情報伝達や取引推奨を行うこ
おり、内閣府令では、①資産運用として違反行為を
とにより一般的に行為者が得られる利得相当の
行った場合、
「違反行為が行われた月の報酬額」に「運
ものとすることが適当とされた。
用財産の総額に対する対象銘柄の割合」を乗じた金
額、②①以外により違反行為を行った場合には、
「違
② 上場株券等の仲介業務を担う者(仲介業者)
への抑止策
しかしながら、最近の違反事例を踏まえると、現
より一般的に得られる利得相当額を課徴金額
行の計算方法では十分な抑止効果が期待できないた
とする。
め、見直しを行うことが適当とされた。そこで、
「他
・仲介業者は証券市場のゲートキーパーとして
人の計算」により違反行為を行う可能性がある者の
公共性の高い役割を担っていること等に鑑み
うち、資産運用業者については、相当の期間、運用
れば、仲介業者(及びその役職員)の違反行
報酬を継続的に得ることが可能であることを踏ま
為に対するエンフォースメント手段につい
え、現行の計算方法(違反行為の対価を課徴金額と
て、次のようなより実効性のある抑止が図ら
する)を見直し、一定期間(例えば3ヶ月)の運用
れることが必要とされた。
報酬額を基準とする計算方法に見直していくことが
仲介業者は、類型的に幅広い利得(売買手
数料、引受手数料等)があることを踏まえた、
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れている。
・仲介業者以外の者は情報伝達等を行うことに
⒜ 課徴金の計算方法
91 |
反行為の対価」の額を課徴金額とすることが定めら
適当とされた。
また、違反事実が認められたにもかかわらず、課
徴金額の計算のための計数が直接把握できないよう
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なケースについても適切に課徴金額を計算できるよ
留意しつつ、適用除外の対象とすることが適当
うな計算方法を検討することが適当とされた。
とされた。
4.近年の金融・企業実務を踏まえた規制の見直し
⑷ いわゆる知る前契約・計画に係る適用除外
重要事実を知る前の契約・計画(「知る前契
⑴ 公開買付者等関係者の範囲の拡大
被買付企業及びその役職員は、未公表の公開
約・計画」
)に基づく売買等の適用除外につい
買付事実等を公開買付者等からの伝達により知
て、現行制度では適用除外範囲の明確性の確保
り得る特別の立場にあると考えられるため、
「公
等から、適用除外となる類型を個別に定めてき
開買付等関係者」の範囲に加えることによって
たが、類型に当てはまらない取引であれば適用
規制対象とすることが適当とされた。
除外とされないため、実務上の支障が生じてい
た。そこで、以下の視点に基づいた基本的な考
え方を明確化し、より包括的な適用除外の規定
⑵ 公開買付け等事実の情報受領者に係る適用除
を設けるとともに、必要等に応じガイドライン
外
等により法令の解釈を事前に示していくことが
未公表の公開買付等事実を知った者について
被買付企業の株券等の買付けが禁止される趣旨
適当とされた。
を踏まえると、情報受領者による取引につい
① 未公表の重要事実を知る前に締結・決定さ
れた契約・計画であること。
て、一般投資家の取引に対する有利性が相当程
度解消されていると認められる場合や、情報受
② 当該契約・計画の中で、それに従った売買
領者の伝達を受けた情報が投資判断を行う上で
等の具体的な内容が定められているなど、裁
有用性を失っていると認められる場合には、情
量的に売買等が行われるものでないこと。
報受領者による買付けが許容される。
③ 当該契約・計画に従った売買等であるこ
と。
① 取引の有利性が相当程度解消されていると
認められる場合
公開買付開始公告、公開買付届出書に情報
受領者が伝達を受けた情報を記載した場合に
5.インサイダー取引等の未然防止等に向けた取組
み
金融庁・証券取引等監視委員会における取組み、
は、情報格差が解消されるため、情報受領者
金融業界における取組み、金融商品取引所における
による取引を可能とすることが適当である。
取組みを行うことが必要
② 情報が有用性を失っていると認められる場
合
おわりに
以上、報告書の概要を紹介した。詳細は、報告書
未公表の公開買付け等事実の情報受領者が
本文をご精読いただきたい。また、金融庁から公表
いつまでも取引できない不安定な状況に置か
されているWGの議事録、資料等を精査することに
れることのないよう、情報受領者が最後に伝
より、問題意識、各委員の意見や報告書の集約過程
達を受けてから相当の期間(例えば6ヶ月)
などが明らかになるかと思われる。関心の向きには
経過した場合には、情報受領者による取引を
是非検証をお勧めしたい。
可能とすることが適当である。
⑶ いわゆるクロクロ取引に係る適用除外
重要事実を知っている者の間での取引(「ク
ロクロ取引」
)に係る適用除外については、現
行制度では、会社関係者及び第一次情報受領者
との間の取引が適用除外の対象とされている
が、第一次情報受領者と第二次情報受領者との
間の取引についても、悪用が行われないように
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金融商品取引法
(金融審議会資料)
(参考文献)
「金融・資本市場制度等をめぐる現状と展望」(商事法務#1987)金融庁市場課長 古澤知之
「インサイダー取引規制の見直し」大和総研金融調査部主任研究員 横山 淳
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国際会計基準
財務報告の利用者から見た国際財務
報告基準(IFRS)の意義と課題
総合ディスクロージャー研究所顧問 橋本 尚
(青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授)
す、としている[FW. OB2, OB8]。利用者(顧客)
1.はじめに
財務報告基準(企業会計基準)は、財務情報(会
志向の財務報告基準のあり方、すなわち、利用者の
計情報)の作成者である企業や経営者のためにある
意思決定に役立つ財務情報とは何かを解明すること
のではなく、第一義的には、ディスクロージャーの
は、IASBをはじめとする基準設定主体が、財務報
本来の受益者である投資家などの財務情報(会計情
告基準を開発する上で、最重要課題であるといえよ
報)の利用者のためにある。2010年9月に国際会
う。こうした利用者の観点からの検討は、国際的に
計基準審議会(IASB)が公表した「財務報告に関
は当然の常識とされているが、わが国においては、
するフレームワーク」 では、現在の株主、潜在的
企業側、経営者側の意向が企業会計基準の設定プロ
な株主(投資家)
、融資者およびその他の債権者を
セスにおいて色濃く反映されてきたために、従来、
一般目的財務報告 の主要な利用者 と位置づけた上
長期間にわたって、ないがしろにされてきた感が強
で、
「一般目的財務報告の目的は、主要な利用者が
い。しかしながら、2011年8月25日開催の企業
企業への資源の提供に関する意思決定を行う際に有
会計審議会総会・企画調整部会合同会議の資料24
用な、報告企業についての財務情報を提供すること
「今後の議論・検討の進め方(案)
」の中にも「我が
である」として、
「個々の主要な利用者は、情報へ
国の国益を踏まえ戦略的思考・グランドデザインを
のニーズや要求が異なっており、場合によってはそ
形成する」にあたって、現時点で検討が必要である
れらが相反することもある」が、財務報告基準を開
と考えられる主要な11項目5の1つとして「投資家
発するにあたっては、主要な利用者の最大多数の
と企業とのコミュニケーション」が掲げられている
ニーズを満たす情報セットを提供することを目指
ことからも明らかなように、財務情報の利用者であ
1
2
3
IASB, The Conceptual Framework for Financial Reporting, Sep. 2010.
技術の進展により一般目的財務報告が陳腐化する時代が到来するかもしれない。新しい技術、たとえば、XBRL(拡張可能な事
業報告言語)により、将来的には、異なる利用者が個々の情報ニーズを満たすための異なる財務報告を組み立てるのに必要な情
報を、報告企業が作成または利用可能とすることが可能となるかもしれない。しかしながら、異なる利用者に異なる報告を提供
すること、あるいは利用者が自分用の特製の報告書を組み立てるのに必要とする情報のすべてを利用可能とすることは、コスト
がかかる。財務情報の利用者に自分用の報告書を組み立てることを要求することも、多くの利用者が現在よりも会計をもっとよ
く理解することが必要となるから、不合理かもしれない。したがって、現時点では一般目的財務報告は依然として、さまざまな
利用者の情報ニーズを満たすための最も効率的で効果的な手段である[FW BC1.5, BC1.6]。
3
IASBが、一般目的財務報告の主要な利用者を(報告企業の)現在の株主、潜在的な株主(投資家)、融資者およびその他の債権
者とした理由は、次のとおりである[FW. BC1.16]。
①現在の株主、潜在的な株主(投資家)、融資者およびその他の債権者は、財務報告の情報に関して最も重大な当面のニーズが
あり、その多くはその情報を直接提供することを企業に要求できない。
②IASBと財務会計基準審議会(FASB)は、その責務により、資本市場の参加者のニーズに焦点を当てることを求められており、
それには現在の投資者だけでなく潜在的な投資者や現在のおよび潜在的な融資者およびその他の債権者も含まれる。
③明示された主要な利用者のニーズを満たす情報は、コーポレート・ガバナンスが株主の観点で定義されている法域とすべての
利害関係者の観点で定義されている法域の両方における利用者のニーズを満たす可能性が高い。
4
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/soukai/20110825/02.pdf。
5
掲げられている11項目は、以下のとおりである。
○ 我が国の会計基準・開示制度全体のあり方
○ 諸外国の情勢・外交方針と国際要請の分析
○ 経済活動に資する会計のあり方
○ 原則主義のもたらす影響
○ 規制環境(産業規制、公共調達規則)、契約環境等への影響
○ 非上場企業・中小企業への影響、対応のあり方
○ 投資家と企業とのコミュニケーション
○ 監査法人における対応
○ 任意適用の検証
○ 国内会計基準設定主体(ASBJ)のあり方
○ 国際会計基準設定主体(IASB)のガバナンス
1
2
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国際会計基準
る投資家と作成者である企業や経営者との間の国際
が「採用すべき」と答えており、
「慎重に取り組む
財務報告基準(IFRS)に対する認識のギャップを
べきである」という答えも40.3%存在すること、
明らかにすることは、わが国におけるIFRSをめぐ
IFRSの採用についても、回答者の58.6%が「仮に
る議論に一石を投じることにもなると考える。もっ
米国が採用しなくても、わが国は採用すべきであ
とも、
「長期にわたってデータを収集してゆく過程
る」と、26.4%は「米国が採用した場合には、わ
で直面した最も困難な事象の一つは、投資家やアナ
が国も採用すべきである」と回答しており、「IFRS
リストによる積極的な意見表明が少なく、その意見
は採用すべきではない」との回答は、8.6%と少数
聴取には相当の努力が費やされなければならなかっ
となっていることから、アナリストはIFRSを支持
たことである」6 との指摘もあるように、投資家や
しているということができるとしている。
アナリストの意見を吸い上げることが至難の業であ
るということは、われわれも十分承知しているとこ
Q5. 国際会計基準(IFRS)の採用について
ろである。本稿においては、財務報告の利用者から
Q5⑴ 一般的に言って世界の各国(地域を含む、
見たIFRSの意義と課題を明らかにする上で重要な
以下同じ)が唯一の会計基準を採用すべきと思
足がかりを得るために、投資家から見たIFRSの純
いますか。
粋かつ率直な姿を浮彫りにしながら、IFRSをめぐ
る議論の現状と課題を明らかにしていく。
2.投資家から見たIFRS
上記の主要な11項目の1つの「投資家と企業と
のコミュニケーション」に関連して、2012年4月
17日開催の企業会計審議会総会・企画調整部会合
同会議において、公益財団法人日本証券アナリスト
協会の稲野和利会長が「投資家から見たIFRS」7と
題して、投資家の観点から見た企業会計へのIFRS
の適用の是非、今後の課題等について、参考人とし
て以下のような説明を行った8。
会計基準設定主体は、会計基準を開発する目的と
して、投資の意思決定における有用性の向上を掲げ
ており、このような設定主体にとって、投資家の代
A 企業活動の国際化が進展してお
49.3%
り、会計基準だけ各国独自に設定
する理由に乏しい。各国企業の比
較が容易になるというメリットも
大きく、採用すべきである。
B 唯一の会計基準を採用しても、
40.3%
監査等を含む適用・執行が異なる
可能性があり、慎重に取り組むべ
きである。
C 会計基準は各国の商習慣等を反
8.6%
映すべきであり、唯一の基準への
統一は好ましくない。
D その他
1.9%
Q5⑵ IFRSの採用
表としてイメージしやすいのが、プロのアナリスト
国際会計基準(IFRS)はすでにEU諸国等で
である。このようなプロのアナリスト集団としての
採用されているほか、世界で100ヵ国以上が
日本証券アナリスト協会は、意見発信に際して、会
採用または採用予定といわれています。米国は
員のコンセンサスを重視しており、5年に1回、会
2011年、わが国は2012 年にIFRSを採用
計基準全般に関する体系的なアンケートを実施し、
(アドプション)するかどうか決定する見込み
かかるアンケート結果をもとに常設委員会の企業会
で す。 仮 に わ が 国 が 採 用 を 決 定 し た 場 合、
計研究会で議論した上で意見書を作成する形をとっ
2015年または2016年頃にIFRSに移行する
ており、委員会主導で先進的、先鋭的な意見を発信
見込みです。IFRS採用について、どう考えま
する米国のCFA協会(CFA Institute)とは、意見
すか。
発信のモデルが異なっている。
IFRSを支持する理由としては、日本証券アナリ
スト協会が検定会員を対象に電子メールで2010年
6月に実施した「会計基準アンケート」
(回答者
690 名、回答率4.0%)に基づいて、「一般的に言
って世界の各国が唯一の会計基準を採用すべきと思
いますか」という質問に対して、回答者の49.3%
A 仮に米国が採用しなくても、わ
58.6%
が国は採用すべきである。
B 米国が採用した場合には、わが
26.4%
国も採用すべきである。
C IFRS は採用すべきではない。
8.6%
D その他
6.5%
http://www.fsa.go.jp/common/about/research/20120614.html, 57頁。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/soukai/20120417/01.pdf。
8
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/gijiroku/soukai/20120417.html。
6
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このようにアナリストはIFRSを支持してお
あるが、原則主義によって企業が異なる会計処
り、特に期待しているのは、比較可能性が向上
理を行うのは、そもそも、企業のビジネスモデ
することである。電機、自動車、医薬品などの
ル自体が異なることが最大の原因であり、逆に
グローバル企業においては、他国の競争相手と
いえば、細則主義によって、異なるビジネスモ
比較分析することが、アナリストやファンド・
デルの企業に対して同一の会計処理を強制する
マネジャーの常識であり、比較可能性が高いほ
ことは、企業に対して実態とは異なる姿を開示
ど、グローバルなボトムアップ・アプローチに
するように強いることにもなりかねない。アナ
よる株式投資が容易になる。米国証券取引委員
リストが知りたいのは、経営者が何を考えてい
会(SEC)のスタッフ・ペーパーでは、世界
るかということであり、開示内容の違いは、む
が唯一の会計基準を採用するメリットとして、
しろ、その重要な手がかりとなるものと思われ
資本コストの低下や経済成長への寄与といった
る。
現在のIASBは、世界の会計基準開発を託す
点も強調されている。
もちろん、現時点でIFRSがすべて正しいと
に値する基準設定主体であると日本証券アナリ
は言えないし、わが国として主張すべきところ
スト協会としては考えているところであり、
もあるが、それはIFRSを否定するという文脈
IFRS財団の評議員会やモニタリング・ボード
においてではなく、IFRSとの話合いによる擦
による監視も十分に機能していると感じてい
り合わせで解決を図るべきである。もっとも、
る。
アナリスト側も手放しでIFRSを礼賛している
他方、日本証券アナリスト協会から見た現在
わけではなく、IFRS採用には懸念も表明され
のIFRSの大きな課題は、純利益と包括利益に
ている。上記のアンケートでもIFRSを採用し
ついて厳密に定義しないままに、組替調整(リ
た場合の具体的な懸念として、過半数の回答者
サイクリング)を認めない基準を増やしている
が、IASBが政治的独立性を保持できず、欧州
という点である。同協会の立場は、完全リサイ
連合(EU)や米国等、わが国以外の国や地域
クリングを求めるものであり、この点ではわが
の意見で基準が作成される可能性や、国によっ
国の多くの企業関係者と同意見である。IFRS
て基準の適用や監査水準の相違によって、財務
を頑健な会計基準としていくためには、概念フ
報告の内容に大きな違いが生じる可能性を指摘
レームワークレベルで利益の定義を明確化する
している。
ことが不可欠である。
わが国のIFRS採用に関して、アナリストが
望むことを一言で大胆に要約するとすれば、最
Q5⑶ IFRSを採用した場合の懸念
仮に、わが国がIFRS を採用した場合、どの
ような点が懸念されますか。
(複数回答可)
A 現在の日本基準と大きく異なる
では全くの理想論であろう。企業規模や業務の
50.7%
る可能性のある上場企業については、アナリス
きず、EU や米国等、わが国以外
国際化の程度に関係なく、海外投資家が投資す
トとしては、IFRSを採用してほしいと望んで
いる。
の国や地域の意見で基準が作成さ
同様に、複数の会計基準が併存するのは困る
れる可能性があること。
C 世界各国がIFRS を採用しても、
するということであるが、これは当然、現時点
48.6%
基準が提案されていること。
B IASB が政治的独立性を保持で
終的には全上場企業が連結決算にIFRSを採用
50.7%
国によって基準の適用や監査水準
というのが、アナリストやファンド・マネジ
ャーの実感である。今後、IFRS採用企業が増
えれば、米国基準、IFRS、日本基準の3つの
の相違によって、財務報告の内容
基準間で調整作業が必要となり、作業負担の増
に大きな違いが生じる可能性があ
加は、避けられないところであろう。
ること。
D とくに懸念はない。
7.4%
E その他
4.8%
IFRSの導入は段階的に進める、というのが
現実的な対応であろうが、その一例として、段
階的な強制適用、採用過程の1つのアイデアを
原則主義のIFRSでは、企業の判断で会計処
提示しておきたい。これは全くのアイデア・
理が異なり、比較可能性が損われるとの批判も
ベースであるが、IFRSの適用を決定し、その
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国際会計基準
決定から5年ないし7年後に一部の企業に強制
いるとの印象を払拭できない。また、回答率を
適用を開始し、その後、5年ぐらいかけて、全
見ても、アンケートに対する未回答者が多いこ
上場企業へ強制適用を拡大する、というような
とが推察されるが、こうした未回答者は、どの
プロセスもあり得るのではなかろうか。その場
ような類型のアナリストなのか。そもそもアナ
合のポイントは、区分と時間であり、同一市場
リストといっても金融業務に従事していない者
に複数の会計基準が併存するのは、投資家の分
もいるし、また、本来業務の中でもセルサイド
析実務上の負担も大きいので、比較可能性を確
やバイサイド、ストラテジスト、ファンド・マ
保しやすいように、経過措置として、一時的に
ネジャー、セクターアナリスト等の属性によっ
IFRS採用企業と日本基準採用企業とで、市場
てもIFRS観は異なるものと思われる。投資家
を区分することも考えられよう。
という用語についてもしかりであり、一般の投
中小の上場企業はIFRSの開示負担に耐えら
資家か、アナリストか、あるいは、M&A関係
れないのでは、という懸念も当然あろうが、中
者か、投資銀行か、融資銀行か、国策銀行かな
小の上場企業は、業務内容があまり多様化して
どさまざまなものが想定され、どの領域の投資
いないと思われるので、IFRSを強制適用して
家なのか、あるいは、投資家全体なのかを明確
も開示負担は大きく増えないものと思われる。
にした上で議論すべきである。
従来、わが国の連結会計基準と個別会計基準
●近年、数多くの実証分析から、IFRS強制適用
は、ほぼ同一であったが、今後は、連結基準と
による経済効果が限定的であるということが確
個別基準の乖離が拡大していく可能性がある。
認されてきているが、どのような経済効果を期
その場合、日本基準で個別決算のみを公表して
待して、全上場企業強制適用を望んでいるの
いる企業とIFRSの連結決算を公表している企
か。本当に大部分のアナリストがこのような考
業との間では、業績の比較が困難となるかもし
え方を支持しているのか。IFRSの本質的な思
れないので、何らかの対応が必要と思われる。
想、たとえば、公正価値会計の拡大、損益計算
グローバル比較が可能なIFRSベースの連結
書を軽視するような思想、キャッシュ・フロー
開示が達成されるのであれば、アナリストも個
と乖離した見積り予測機能の拡大、さらには、
別開示の簡素化を受け入れる必要があろうが、
保守主義思想の排除等に関してどのように考え
順序としては、あくまでも連結決算へのIFRS
ているか。企業を対象とした強制適用は、一般
適用が先であり、その後に個別開示の簡素化を
的ではなく、世界的にはマーケットを対象にし
検討すべきである。
た適用が合理的であると思われるが、一部の企
近年では、企業も投資家も、国内か海外かと
業を対象とした強制適用をどのように実施しよ
いう垣根が低くなっているように感じられる。
うと考えているのか。わが国はすでにIFRSを
国内、海外の区別なく、投資家はどこの企業へ
任意適用しており、任意適用企業を増やす努力
でも投資し、そして、企業はどこの投資家から
をすることが先決ではないか。
でも資金を受け入れていくというのが真のグ
●アンケート集計結果と結論との間にかなりギャ
ローバル化であろう。IFRSは、そのようなグ
ップがあるのではないか。
「唯一の会計基準を
ローバル化の時代にあって、企業と投資家との
採用すべきと思いますか」というQ5(1)に対す
コミュニケーションを支える重要なインフラと
る回答で、49.3%は「採用すべき」であるが、
いえよう。
40.3%は「慎重に取り組むべき」であり、「好
ましくない」という回答の8.6%と合計すると
3.
「投資家から見たIFRS」に対する批判的見解
48.9%となり、採用すべきという回答と採用
上記のような投資家から見たIFRS観に関して
すべきでないという回答とほとんど変わらない
は、同日の企業会計審議会総会・企画調整部会合
のではないか。このデータを見る限り、アナリ
同会議において、以下のような批判的見解などが
ストの意見は、ちょうどきれいに半分に分かれ
示された 。
ていると考えた方がよく、そこからは、アナリ
●今般のアンケート調査は、2010年6月に実施
ストはIFRS支持という結論は導けないのでは
9
されているが、昨今の欧米の動向等、内外情勢
に変化が見られることから、情報が陳腐化して
ないか。
●アナリストはIFRS適用を願っている、広い範
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/gijiroku/soukai/20120417.html。
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囲で適用すべきである、という論調のように読
いというのが究極的な目標であり、これは揺る
み取れるが、そういうふうに考えていないアナ
ぎないところである。しかしながら、IFRSに
リストもおり、比較可能性の向上という表現自
対して必ずしも完全無欠で素晴らしい基準であ
体にも違和感がある。韓国視察の際に各方面か
ると思っているわけではない。わが国としては、
ら話を聞いたが、確かに他国の企業との大まか
IASBと意見をよく擦り合わせて、投資家にと
な比較可能性は向上したという指摘があった一
ってより便益の高いものを協力しながら作って
方で、IFRSは原則主義であるので、会計方針
いく必要があろう。アンケート調査の件につい
の選択肢が増え、それにより比較可能性が低下
ては、Q5については、Aが「採用すべき」、
したと考える企業も何社かあった。また、アナ
Bが「慎重に」ということで、「慎重に」に○
リストが望むことは、全上場企業へのIFRSの
を付けたが、これは反対という立場でBに○を
適用とあるが、同じアナリストとして、すべて
付けたわけではなく、監査や基準の適用という
の上場企業に必要とは到底思えない。中小企業
ことまで考慮すると、このアンケートの実施に
に対してIFRSベースの財務諸表を開示せよと
際して、そうした詳細な点についての情報提供
いうニーズもそれほどあるとは考えられない。
もなかったので、手放しにいいとは言えないと
同じ市場に複数の基準が併存することは困ると
いうことでBに○を付けた次第である。また、
いうが、IFRSも実際に韓国企業などを分析し
IFRSが作ろうとしている個々の会計基準につ
てみると、段階利益の定義が非常に曖昧なため
いての上位概念、具体的には、概念フレーム
に、結局、再計算が必要となり、IFRSになっ
ワークについての議論を尽くすことも重要であ
たからといってアナリストが楽になるとも思え
ると考えている。
ない。全上場企業の連結決算にIFRSを採用し
●比較可能性が低下するのではないかという点に
た方がいいというのは、金融機関に勤めている
ついては、原則主義における比較可能性は、少
アナリストの主たる見解ではないか。どの会計
し分けて考える必要があると思っている。狭い
基準を使っているかではなく、むしろ、その企
意味での財務の比較という意味では、比較可能
業、産業が中長期的に成長するかどうかという
性は低下する可能性はあるが、マネジメント・
点に関心があるのではないか。
アプローチといわれるように、もう少し経営全
●昨今の事業環境のグローバル化に伴い、企業側
体を大きく見ていこうとする場合には、財務
でもグローバル・スタンダードのニーズや重要
データに何を使っていくかということに経営者
性は、十分に認識されていると考えており、国
の意思が示されると思うので、広い概念では、
際的な会計基準の統一を目指したIFRSの開発
比較可能性が高まることになると考えている。
あるいは普及に積極的に関与していくことにつ
比較可能性を高めるということに対しては、大
いては、一定のコンセンサスが得られていると
きく捉える考え方を持っていないと、個々の枝
思っている。一方で、IFRS自体、まだいくつ
葉末節的なところでは差が出ることになってし
かの課題を抱えており、改善途上にあるという
まうので、比較可能性は低下するという短絡的
ことも事実であり、企業側としても、現時点で
な結論になってしまうのではなかろうか。
必ずしもベストな会計基準であるとは考えてい
●資本市場にいる者として、われわれは長い間、
ない。そのことが企業側の早期適用の障害にな
IFRSの流れに乗って、欧米に先んじられて、
っていると思われる。また、企業の収益性や成
彼らのベースでルールを作られることはかなわ
長性を評価し、投資してキャピタルゲインやイ
ないとの思いから、われわれの意見をしっかり
ンカムゲインを得ようとする機関投資家に対し
と言えるように、IFRSへの進出、乗合いを宣
て、適切な情報提供がなされているかに関して
言して、日本が主導権を取ろうという考えでき
は、IFRSの特徴である資産負債アプローチの
たと認識している。このまま行ったのでは、果
重視や包括利益を含む業績情報の変質により、
たして日本の資本市場が守れるか疑問である。
きわめて疑問であると考える。加えて、わが国
確かに、日本には立派な技術があるが、事業を
のIFRS強制適用については、米国の動向を非
行うには資本が必要である。高い資本コストで
常に重視すべきである。
はいかに技術があっても競争力が落ちる。重要
●やはりアナリスト側の意見としては、1つの会
なことは、IFRSに乗って、われわれベースの
計基準で世界の投資対象企業を分析していきた
主導権を取るということである。今や世界の富
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国際会計基準
の60%がアジアに集まっており、資本市場で
ンセンティブは強く働かないとはいえ、その回答率
はアジアの金の取合いが起こっている。何とし
は、調査の有効性や一般性が危惧されるほど低いも
てでも効率的な資本市場を提供して、産業を興
のであった。その意味では、意見発信に際して、会
し、競争力を勝ち取ることこそ国家戦略であ
員のコンセンサスを重視する同協会として、今後、
る。
どのような形で会員全体の意見を吸い上げ、意見発
●Q5⑴に関して、この数字が事実といえば事実
であるが、学術的に無視できない誤りがある。
信に反映させるかということは、大きな課題となろ
う。
アンケートの場合、選択肢、質問票に、選択結
もっとも、こうした点は、学術調査目的のアン
果にかかわる理由を文章として織り込んではな
ケートにも共通する課題であり、記名式の回答を求
らない。それでは、回答を誘導してしまうこと
めるべきか否かなど、回答率への影響と、後日、結
になる。まず質問すべきは、世界で単一の会計
果を回答者にフィードバックし、2次調査等による
基準の作成ができるか否かということであり、
追加的な質問の機会を確保し、深度ある議論を通じ
これをイエスかノーで聞き、次に、できる(イ
てさらなる精緻化を図ることとの兼合いで、常に葛
エス)と回答した者に対して、日本がそれを採
藤するところである。アンケートやインタビューに
用すべきか否かを聞き、その後で、その理由を
おいて、適切な質問事項や条件づけ、さらには、選
聞くという手順で質問しなければならない、と
択肢を設定することや適切な調査対象者を選択する
考える。その点で、Q5⑴のAの選択肢が、相
ことも重要であり、質問の意味を正しく理解できる
当ミスリーディングになっていて、アンケート
か、意図した回答に誘導するような文章が含まれて
調査としては、非常に好ましくないものとなっ
いないかなど、アンケートの文章の条件づけなどに
ている。アンケート調査結果としては、これも
ついても慎重に検討すべきである。
1つの事実ではあろうが、客観的で冷静な判断
折しも、2013年3月1日、モニタリング・ボー
の表れであるとは到底思えず、相当バイアスが
ドが2012年2月9日に公表したIFRS財団のガバナ
かかっているものと思われる。
ンス改革に関する最終報告書を踏まえて検討を進め
てきた、既存メンバーおよび新規メンバーをメン
4.むすび
バー要件に照らして評価する上でのアプローチにつ
利用者のニーズを満たす財務報告基準を開発する
いて合意に達したことが公表された。モニタリン
際には、利用者といっても現在株主以外は、財務情
グ・ボードのメンバーは、高品質の国際的な会計基
報(会計情報)の作成コストの負担者ではないので、
準の策定の支援をコミットしなければならないとい
利用者の意向を反映しようとするあまり、財務報告
う点は、法域の資本市場におけるIFRSの使用、な
基準が情報過多となることのないよう、コスト・ベ
らびに、法域からIFRS財団への資金拠出によって
ネフィットに十分配慮する必要がある。また、ディ
メンバーのコミットが示されることを要求する形で
スクロージャー制度における当事者を想定する場
具体化された。IFRSの使用を評価するにあたり、
合、一般的には、利用者(投資家やアナリスト)と
メンバーの国際的な会計基準へのコミットは、当該
いう括りを用いることに違和感はないものの 10、
法域におけるIFRSの強制又は任意適用により裏づ
IFRSをめぐる諸問題を議論する場合には、利用者
けられなければならない、という点についても、モ
(投資家やアナリスト)の中味を丁寧に区分けした
ニタリング・ボードは合意した。また、IFRSの使
上で、きめ細かな議論を展開する必要がある。特に
用により、該当する市場においてIFRSが顕著に使
アンケートやインタビューを実施する場合には、回
用されることとならなければならない、とされたこ
答者の属性を明確化することはきわめて重要なプロ
とで、メンバー国の資本市場におけるIFRSの顕著
セスである。
な利用にどの程度貢献しているかについても評価さ
そもそも学術調査目的のアンケートの回答数や回
れ る こ と に な る。IFRSの 使 用(Use of IFRSs)
収率がきわめて低調であることは、一般的な傾向と
に関しても、明確にコミットしていることが要件と
もいえるが、今般取り上げた日本証券アナリスト協
されたことで11、今後、わが国もIFRSの適用に向け
会のアンケート調査においても、一般に支持の声
て進むこと、および、最終的な目標として単一で高
は、不支持の声ほどにはあえて表明しようとするイ
品質の国際的な会計基準が国際的に受け入れられる
財務報告基準を開発するにあたっては、一定以上の分析能力を持った投資家を想定することが一般的である。
http://www.fsa.go.jp/inter/etc/20130301-1.html。
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ことを推進すること、について明確にコミットする
とともに、ピュアIFRS(IASBが開発したIFRSと
本質的に同列のもので、起こり得る例外は、一定の
基準もしくはそこから生じる一部が経済もしくはそ
の他の状況に関係していない、もしくは当該国の公
益に反する可能性がある、という場合に限定され
る)の採用が求められることになる。わが国の進む
べき道を正しく見極めるためにも、グローバル資本
市場の環境変化に適時、適切に対応しつつ、ディス
クロージャーの本来の受益者である利用者(投資家
やアナリスト)の声を正確に把握した上で、それを
ディスクロージャーの各当事者が真摯に受け止め、
利用者(顧客)志向の財務報告基準のあり方を探求
していくことが、今まさに求められているといえよ
う。
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国際会計基準
有形固定資産
(IAS第16号)、
無形資産
(IAS第38号)の概要
手嶋 大介
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 はじめに
国際財務報告基準(以下、IFRS)の適用を要求
または容認している国は、現在120ヶ国以上に上
ると言われています。我が国でも2010年3月期か
らIFRSの任意適用が認められ、IFRSに基づく財務
報告を行う会社が徐々に増えています。
(有形固定資産の定義)
財又はサービスの生産または供給に使用する
イ
ため、外部へ賃貸するため、あるいは管理目
的のために企業が保有するもの
ロ
IFRSの任意適用が認められるようになった当初、
一会計期間を超えて使用されると予想される
もの
IFRSには様々な誤解がありました。特に固定資産
そして、IAS第16号は別の基準で規定され
については、必ず時価評価しなくてはならないので
ている以下の資産を除く全ての有形固定資産に
はないか、定率法による減価償却は認められないの
ついて、適用されます(IAS16.2,3)
。
ではないか等の意見が聞かれ、実務に与える影響が
(IAS第16号以外で規定されている有形固定資産)
非常に大きいと考えられました。しかし我が国でも
IFRSに関する議論が頻繁に行われるようになり、
またIFRS導入を検討する会社が増加したことに伴
い、そのような誤解は徐々に解消されているように
感じられます。
イ
ロ
現在IFRSを任意適用する会社が増加しています
ハ
が、今後さらに増加することが期待されています。
ニ
そこで任意適用に当たり、どの会社にも関係があ
IFRS第5号に準拠して、売却目的保有に区
分された有形固定資産
農業活動に関連する生物資産(IAS第41号
「農業」参照)
鉱業権並びに、石油、天然ガス及び類似する
非生産資源
リース(IAS第17号)
り、検討が必要と考えられる有形固定資産(IAS第
なお、ロ及びハはIAS第16号の適用範囲か
16号)
、無形資産(IAS第38号)について概要を
ら除外されていますが、これらの資源を開発又
解説します。
は維持するために使用される有形固定資産につ
また、2012年12月4日に国際会計基準審議会
いては、IAS第16号の適用範囲としています
(IASB)から、IAS第16号及びIAS第38号の修正
(IAS16.3)
。また、ニは取得時の認識・測定
案が公表されており、こちらの内容についても解説
についてIAS第17号に準拠することになりま
します。
すが、それ以降の処理については、IAS第16
なお、本稿における意見の部分については、筆者
の私見であることを予めお断りさせていただきま
す。
号に準拠することになります(IAS16.4)
。
⑵ 有形固定資産取得時の認識・測定
① 有形固定資産の認識
有形固定資産は、当該資産に関連する将来
1.有形固定資産(IAS第16号)の概要
⑴ IAS第16号の適用範囲
IFRSではIAS第16号において、有形固定資
産の取得時の認識・測定、取得後の測定、減価
償却等に係る会計処理について定めています。
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の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、
かつ取得原価が信頼性をもって測定できる場
合に限り、資産として認識されます(IAS
16.7)。
なお、通常、棚卸資産として計上されるこ
IAS第16号では、有形固定資産について、以
とが多いと考えられる交換部品や保守器具に
下の2つの基準を満たす有形の資産と定義して
ついても、一会計期間を超えて使用されるな
います(IAS16.6)
。
ど有形固定資産の定義を満たしている場合は、
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有形固定資産として会計処理することが求め
資産が正常に機能するかどうかの試運転費用
られているため注意が必要です(IAS16.8)。
また、工具や金型のように、個々の資産と
しては重要ではないが、一会計期間を超えて
(資産を当該場所に設置し稼働可能な状態に
ホ
された見本品等)の販売により得られる正味
使用される資産を保有している場合がありま
す。この場合、個々の資産ごとに固定資産台
帳に記録し管理することは、実務上煩雑にな
するときに生産される物品(試運転時に製造
受取金額控除後)
ヘ
専門家報酬
ることが想定されます。ここでIAS第16号
なお、日本基準における取得原価は、購入
では、どのような項目が有形固定資産項目を
価格及び取得に要する付随費用、そして資産
構成するか定めていません。そのため個々の
除去債務から構成されるため、取得原価の考
資産ごとに有形固定資産として認識するか、
え方について、IFRSと日本基準は概ね同様
あるいは複数の資産を集計し、その総額をも
って認識するかについては、企業の個々の状
となっています。
③ 有形固定資産取得時の認識の終了
況に応じた判断が求められています(IAS
有形固定資産の取得時の認識は、有形固定
16.9)
。
資産を経営者が意図した方法で稼働可能とす
② 有形固定資産取得時の測定
るために、必要な場所及び状態におさめた時
IAS第16号では、明確に、資産としての認
点で終了します(IAS16.20)。
識基準を満たす有形固定資産項目は、その取
つまり、有形固定資産が使用可能になった
得原価で測定しなければならないと定められ
時点で、取得時の認識・測定が終了すること
ています(IAS16.15)
。そして取得原価は
になるため、有形固定資産を使用又は配置替
以下のものから構成されます(IAS16.16)。
えするための費用や、有形固定資産を用いて
なお、取得原価は、認識時点における現金
生産した生産物から生じた初期営業損失など
価格相当額で測定されます(IAS16.23)。
(取得原価の構成要素)
イ
購入価格(輸入関税及び還付されない取得税
を取得原価に含めることはできません。
⑶ 有形固定資産認識後の測定
① 原価モデル及び再評価モデル
IAS第16号は、認識後の有形固定資産の
を含み、値引及び割戻しを控除後)
測定について、原価モデル又は再評価モデル
当該資産を経営者が意図した方法で稼働可能
ロ
のいずれかを会計方針として選択することを
にするため、必要な場所及び状態に置くこと
求めています(IAS16.29)。なお、当該会
に直接起因する費用
計方針は、全ての有形固定資産について同一
当該資産項目の解体及び除去費用並びに敷地
の選択を行うことは求められておらず、有形
の原状回復費用の当初見積額のうち、それら
ハ
固定資産の種類ごと(例えば土地建物、機械
に係る債務が、当該項目の取得時に、又は棚
装置、器具備品など)に原価モデルか再評価
卸資産の生産以外の目的で特定の期間に当該
モデルかを選択することが求められていま
有形固定資産項目を使用した結果として、発
す。
生するもの
また、ロに直接起因する費用とあります
が、IAS第16号では、以下の例示を示して
います(IAS16.17)
。
(直接起因する費用の例示)
(原価モデル、再評価モデルとは)
原価モデル
有形固定資産項目は、取得原価から減価償却累計
額及び減損損失累計額を控除した価額で計上する
(IAS16.30)
有形固定資産項目の建設又は取得により直接
再評価モデル
生じる従業員給付費用
公正価値について信頼性をもって測定できる有形
ロ
整地費用
固定資産項目は、再評価実施日における公正価値
ハ
当初の搬入及び取扱費用
から、その後の減価償却累計額及びその後の減損
ニ
据付及び組立費用
損失累計額を控除した評価額で計上する(IAS16.
イ
31)
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国際会計基準
日本基準では、取得原価から減価償却累計
の消費パターンが異なる場合があります。そ
額及び減損損失累計額を控除した金額で測定
のような場合、個別に減価償却を行うことが
することが求められています。つまり、日本
適切であると判断されることがあります。
また、有形固定資産の残存価額、耐用年数
基準では、再評価モデルは認められておら
ず、原価モデルで会計処理を行っています。
及び減価償却方法は、少なくとも各事業年度
そのため、IFRSを任意適用する場合、それ
末には再検討を行い、変更があった場合には、
までの会計処理と同様に実務を行うため、原
会計上の見積りの変更として会計処理するこ
価モデルを採用する企業が多いと考えられま
とが求められています(IAS16.51,61)
。
日本基準では、構成要素ごとに区分して減
す。
再評価モデルを採用する場合、有形固定資
価償却方法を採用することや、減価償却方法
産の公正価値を評価する必要があります。当
等の再検討を行うことは求められていませ
該公正価値は、実務上、資産の市場価額にな
ん。そのため、IFRSを任意適用する場合、
ると考えられます。
追加の対応が必要になります。
IAS第16号では、公正価値評価を行う頻
⑷ 認識の中止
有形固定資産項目の帳簿価額は、以下の場合
度について具体的に定められていませんが、
帳簿価額が報告期間末日における公正価値と
に認識が中止(=貸借対照表から除去)されま
大きく乖離しないような頻度で、再評価を行
す(IAS16.67)。
うよう定められています(IAS16.31)。そ
のため、公正価値がほとんど変動しない有形
固定資産については頻繁に再評価を実施する
必要がなく、3年から5年ごとに再評価すれ
(認識中止の要件)
イ
ロ
ば足りる場合もあります(IAS16.34)。
資産の処分時
資産の使用又は処分から将来の経済的便益が
何ら期待されなくなった時
なお、再評価を行う際には、同じ種類(例
有形固定資産の処分など、認識の中止により
えば土地建物、機械装置、器具備品など)の
利得や損失が生じることが考えられますが、当
有形固定資産のうち一部のみを対象とするこ
該利得及び損失は、他の基準で異なる処理が求
とはできず、同じ種類に属する有形固定資産
められている場合を除き、認識中止時点の損益
全体を対象にしなければならないと定められ
として処理されます。なお、生じた利得
(gain)
ています(IAS16.36)
。
を収益(revenue)に分類してはならないと定
② 減価償却
められています(IAS16.68)。
IAS第16号は、有形固定資産を耐用年数
ここで、仮に有形固定資産の処分から生じる
にわたって、資産の将来の経済的便益が企業
正味の受取金がある場合、利得及び損失は、正
によって消費されると予想されるパターンを
味の受取金と帳簿価額の差額として算定されま
反映する方法で、規則的に減価償却を行うこ
す(IAS16.71)。
とを求めています(IAS16.50,60)。減価
償却方法の例として、定額法、定率法及び生
産高比例法が挙げられていますが、特定の有
2.無形資産(IAS第38号)の概要
⑴ IAS第38号の適用範囲
形固定資産にどの方法を採用すべきかについ
IFRSではIAS第38号において、無形資産の
て、特に言及されていません。
そのため、企業は個々の有形固定資産につ
係る会計処理について定めています。IAS第38
いて、将来の経済的便益の消費パターンを把
号では、無形資産について、以下の2つの条件
握し、どの減価償却方法を採用するか判断す
を満たす物理的実体のない識別可能な非貨幣性
る必要があります。
資産と定義しています(IAS38.8)。
なお、有形固定資産は、取得原価総額に対
して重要な構成部分ごとに、個別に減価償却
することが求められています(IAS16.43)。
例えば、航空機を取得した場合、機体部分と
エンジン部分で使用可能な期間や経済的便益
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取得時の認識・測定、取得後の測定、償却等に
(無形資産の定義)
イ
ロ
過去の事象の結果として企業が支配している
もの
将来の経済的便益が企業へ流入することが期
待されるもの
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可能な仮定を用いて評価することが求められ
そして、IAS第38号は別の基準で規定され
ています(IAS38.22)。
ている以下の資産を除く全ての無形資産につい
さらに、当該評価にあたっては、無形資産
て、適用されます。
の当初認識時点における入手可能な証拠に基
(IAS第38号以外で規定されている無形資産)
イ
ロ
ハ
ニ
うことが求められています(IAS38.23)
。
IAS第32号「金融商品:表示」で定義され
IAS第38号では、以下の無形資産の取得
ている金融資産
方法ごとに、取得時の認識及び測定に係る規
IFRS第6号「鉱物資源の探査及び評価」に
定を設けています。以下ではそれぞれの取得
基づく探査及び評価資産の認識及び測定
方法について解説します。
鉱物、石油、天然ガス及び類似する非生産資
源の開発及び採掘のための支出
(無形資産の取得方法)
イ
個別取得
ロ
企業結合の一環としての取得
ハ
政府補助金による取得
企業が事業の通常の過程で販売するために所
ニ
他の資産との交換による取得
有する無形資産
ホ
自己創設による取得
なお、イは主に以下のものが該当します。
(他の基準の適用対象となる無形資産の例)
イ
づき、外部証拠により重点を置いた評価を行
他の基準の適用範囲内の無形資産
(IAS第2号「棚卸資産」
、IAS第11号「工事
② 個別取得
契約」が適用される)
ロ
ハ
ニ
ホ
ヘ
無形資産を個別に取得するために企業が支
繰延税金資産(IAS第12号「法人所得税」
払った対価は、資産として認識されます(IAS
が適用される)
38.25)。
IAS第17号「リース」の範囲に含まれるリー
2.⑵①で無形資産の認識要件について述
ス
べましたが、個別取得の場合、企業は経済的
従業員の給付から生じる資産(IAS第19号
便益の流入を期待して対価を支払っているた
「従業員給付」が適用される)
め、認識要件である経済的便益の流入可能性
IAS第32号「金融商品:表示」で定義され
は、常に満たされるとみなしています。また、
ている金融資産
個別取得した無形資産の原価は、通常、信頼
企業結合で取得したのれん(IFRS第3号「企
性をもって測定できるため(IAS38.26)、
業結合」に基づき算定される)
個別取得の場合、無形資産の2つの認識要件
IFRS第4号「保険契約」の範囲に含まれる、
ト
を満たしていると判断されます。
保険契約に基づく保険者の契約上の権利から
個別取得された無形資産は、その取得原価
生じる、繰延新契約費及び無形資産
で測定しなければならないと定められていま
IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資
す(IAS38.24)。そして取得原価は、購入
産及び非継続事業」に従って、売却目的保有
チ
価格及び目的利用するために直接起因する費
に分類される(又は売却目的保有に分類され
用から構成されます(IAS38.27)
。
た処分グループに含まれる)
、非流動の無形
資産
⑵ 無形資産取得時の認識・測定
① 無形資産の認識及び測定
無形資産は、当該資産に起因する、期待さ
れる将来の経済的便益が企業に流入する可能
性が高く、かつ取得原価を、信頼性をもって
測定することができる場合に限り、資産とし
(個別取得した無形資産の測定)
イ
取得原価
(取得原価の構成要素)
イ
ロ
購入価格(輸入関税及び還付されない購入税
を含み、値引及び割戻しを控除後)
意図する利用のために資産を準備するために
直接起因する費用
て認識されます(IAS38.21)
。
なお、期待される将来の経済的便益の発生
可能性について、資産の耐用年数にわたって
存在することを示すために、合理的で裏付け
(直接起因する費用の例示)
イ
資産を作業環境に適応させることから直接生
じる従業員給付の原価
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国際会計基準
ロ
ハ
資産を作業環境に適応させることから直接生
じる専門家報酬
資産が適切に機能するか否かをテストする原
価
なお、日本基準における取得原価は、購入
(政府補助金により取得した無形資産の測定)
イ
公正価値
名目価格に、資産を使用するための準備に直
ロ
接必要とした支出を加算した金額
⑤ 他の資産との交換による取得
価格及び取得に要する付随費用から構成され
無形資産は、非貨幣性資産や貨幣性資産と
るため、取得原価の考え方について、IFRS
非貨幣性資産の組合せとの交換で取得される
と日本基準は概ね同様となっています。
場合があります。交換により取得された無形
資産は、以下の場合を除き、公正価値で認
③ 企業結合の一環としての取得
無形資産は、企業結合により取得される場
識・測定されます(IAS38.45)。なお、こ
合があります。その場合、当該資産の取得原
こでいう公正価値は、受領資産の公正価値が
価は取得日現在の公正価値となります(IAS
より明らかな場合を除き、引渡資産の公正価
38.33)
。
値を用いるとされています(IAS38.47)
。
IAS第38号は、企業結合により無形資産
➢ 交換取引が経済的実質を伴わない場合
を取得する場合、無形資産の認識要件である
➢ 交換されるいずれの資産の公正価値
経済的便益の流入可能性は、常に満たされる
も、信頼性をもって測定できない場合
とみなしています。また、企業結合により取
なお、公正価値を信頼性をもって測定でき
得した無形資産が分離可能であるか、又は契
ない場合には、無形資産を引渡資産の帳簿価
約その他の法的権利から発生している場合、
額で認識・測定します。
当該資産の公正価値を信頼性をもって測定す
(交換により取得した無形資産の測定)
るのに十分な情報が存在しているとしていま
す(認識要件である信頼性のある測定を満た
している)
。
そのため、企業結合による無形資産の取得
公正価値
例外
引渡資産の帳簿価額
⑥ 自己創設による取得
は、個別取得の場合と同様に、無形資産の2
無形資産は、企業が自己創設する場合があ
つの認識要件を満たしていると判断されま
ります。その場合、自己創設したのれんにつ
す。
いては、明確に資産として認識することが禁
(企業結合の一環として取得した無形資産の測定)
イ
原則
公正価値
④ 政府補助金による取得
無形資産は、場合によって、政府からの補
止されています(IAS38.48)。
一方、自己創設した無形資産については、
資産として認識することが認められています
が、認識要件を満たすか否かの判断が難しい
とされています(IAS38.51)
。そこで、IAS
助金により無償又は名目価格で取得される場
第38号は自己創設無形資産の認識について、
合があります(IAS38.44)
。なお、IAS第
追加的な規定及び指針を設け、無形資産取得
38号では具体的な事例として、空港の発着
に係る支出を研究局面に係る支出と開発局面
権、放送事業者の事業免許、輸入免許又は輸
に係る支出に分類して検討しています。
入割当枠、及びその他の制限された資源への
アクセス権などを挙げています。
まず、研究とは、新規の科学的又は技術的
な知識及び理解を得る目的で実施される基礎
政府補助金は、IAS第20号「政府補助金
的及び計画的調査と定義されています(IAS
の会計処理及び政府援助の開示」に従って、
38.8)。IAS第38号は、研究から生じた支
会計処理を行う必要があります。IAS第20
出を無形資産として認識してはならず、発生
号は、政府補助金により取得した無形資産に
時に費用処理することを求めています(IAS
ついて、以下のいずれかの方法で認識・測定
38.54)。
を行うことを求めています(IAS20.23)。
一方、開発とは、商業ベースの生産又は使
用の開始前における、新規の又は大幅に改良
された材料、装置、製品、工程、システム又
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はサービスによる生産のための計画又は設計
ついて再評価モデルを採用することができる
への、研究成果又は他の知識の応用と定義さ
のは、活発な市場がある場合のみとされてい
れています(IAS38.8)
。IAS第38号は、開
るため、再評価モデルを採用する企業は少な
発から生じた支出について、以下の要件を全
いと想定されます。
て立証可能な場合、無形資産として認識する
(原価モデル、再評価モデルとは)
ことを求めています(IAS38.57)。
➢ 使用又は売却できるように無形資産を
完成させることの技術上の実行可能性
➢ 無形資産を完成させ、さらにそれを使
用又は売却するという企業の意図
原価モデル
無形資産は、取得原価から償却累計額及び減損損
失累計額を控除した価額で計上する(IAS38.74)
再評価モデル
無形資産は、再評価日の公正価値から再評価日以
➢ 無形資産を使用又は売却できる能力
降の償却累計額及び減損損失累計額を控除した再
➢ 無形資産が蓋然性の高い将来の経済的
評価額で計上する(IAS38.75)
便益を創出する方法。とりわけ、企業
は、無形資産による産出物又は無形資
日本基準では、取得原価から減価償却累計
産それ自体の市場の存在、あるいは、
額及び減損損失累計額を控除した金額で測定
無形資産を内部で使用する予定である
することが求められています。つまり有形固
場合には、無形資産が企業の事業に役
定資産と同様に、日本基準では、再評価モデ
立つことを立証しなければならない。
ルは認められておらず、原価モデルで会計処
➢ 無形資産の開発を完成させ、さらにそ
理を行っています。そのため、IFRSを任意
れを使用又は売却するために必要とな
適用する場合、それまでの会計処理と同様に
る、適切な技術上、財務上及びその他
実務を行うため、原価モデルを採用する企業
の資源の利用可能性
➢ 開発期間中の無形資産に起因する支出
を、信頼性をもって測定できる能力
但し、上記の要件を全て立証したとして
も、内部で創出されるブランド、題字、出版
が多いと考えられます。
② 耐用年数を確定できる無形資産の会計処理
無形資産の償却は、耐用年数を確定できる
ものとできないもので会計処理が異なってい
ます(IAS38.89)。
表題、顧客名簿及び実質的にこれらに類似す
なお、日本基準では、耐用年数を確定でき
る項目は、無形資産として認識することはで
な い 無 形 資 産 と い う 考 え 方 が な い た め、
きません(IAS38.63)
。
IFRSを任意適用する場合、耐用年数を確定
自己創設した無形資産の取得原価は、無形
資産の認識基準を満たした日以降に発生した
できるか否かの判定という追加の対応が必要
になります。
支出の合計となります(IAS38.65)。なお、
耐用年数を確定できる無形資産は、償却を
過去に費用として認識した支出を戻し入れ、
行い、償却可能額を規則的にその耐用年数に
無形資産の取得原価に加えることは禁止され
わたって配分することが求められています
ています(IAS38.65,71)
。
(IAS38.97)。そして、償却は予想される資
(自己創設により取得した無形資産の測定)
産の将来の経済的便益の消費パターンを反映
取得原価:無形資産の認識基準を満たした日
イ
以降に発生した支出の合計(認識基準を満た
さない支出は、原則として全て発生時に費用
処理する)
⑶ 無形資産認識後の測定
① 原価モデル及び再評価モデル
する方法で行うことが求められています。こ
の考え方は有形固定資産の減価償却と同様で
す。
但し、有形固定資産とは異なり、当該消費
パターンを信頼性をもって決定できない場合
は、定額法を採用する必要があります(IAS
38.97)。
IAS第38号は、認識後の無形資産の測定
また、無形資産の償却期間及び償却方法は、
について、原価モデル又は再評価モデルのい
少なくとも各事業年度末には見直しを行い、
ずれかを会計方針として選択することを求め
変更があった場合には、会計上の見積りの変
ています(IAS38.72)
。なお、無形資産に
更として会計処理することが求められていま
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国際会計基準
す(IAS38.104)
。
③ 耐用年数を確定できない無形資産の会計処
耐用年数を確定できない無形資産について、
経済的便益の予想消費パターンの検討にあたっ
償却を行うことは禁止されています(IAS
て、資産の使用を含む活動から創出される収益を基
38.107)
。一方、償却を行う代わりに、毎
準にすることは適切ではないとされています。なぜ
年又は減損の兆候がある場合はいつでも、減
なら、創出される収益を基準とする方法は、資産の
損 テ ス ト を 行 う 必 要 が あ り ま す(IAS3 8.
経済的便益の予想消費パターンではなく、資産から
108)
。減損の会計処理はIAS第36号で定め
経済的便益が創出されるパターンであるためです。
られており、IAS第38号は、当該規定に基づ
例えば、1年後に販売する製品を前もって製造す
いて減損テストを行うよう求めています
る場合、創出される収益を基準に減価償却を行う
(IAS38.110)
。
と、販売が行われる1年後から減価償却が行われる
なお、耐用年数を確定できないという判定
可能性があります。製品の販売前であっても、有形
について、毎期継続して裏付けられているか
固定資産の経済的便益を消費し、製造を行っている
ど う か 見 直 す 必 要 が あ り ま す(IAS3 8.
のであれば減価償却を行う必要があると考えられま
109)
。仮に耐用年数を確定できるようにな
す。
った場合は、会計上の見積りの変更として会
計処理を行い、上記2.⑶②のように償却を
行う必要があります。
⑷ 認識の中止
無形資産は、以下の場合に認識が中止(=貸
借対照表から除去)されます(IAS38.112)。
(認識中止の要件)
ロ
す。ここで、今回の公開草案では、経済的便益の予
想消費パターンの考え方を明確にしています。
理
イ
ターンを反映する方法で行うことが求められていま
資産の処分時
資産の使用又は処分により、予定した将来の
経済的便益が期待できなくなった時
無形資産の処分など、認識の中止により利得
また、公開草案では、定率法の適用について追加
的な指針を提供しています。
資産の使用により産出される資産やサービスに係
る、予想される将来の販売単価の下落は、資産の技
術的又は経済的陳腐化に繋がり、将来の経済的便益
の減少の兆候である可能性があります。そのため、
当該将来の販売単価の下落は、定率法を採用する場
合に、関連性を有する可能性があることが明確にさ
れています。
なお、上記は公開草案であるため、最終的に基準
が修正された際に、上述した内容から変更される可
能性があります。
や損失が生じることが考えられますが、当該利
得及び損失は、他の基準で異なる処理が求めら
れている場合を除き、認識中止時点の損益とし
て 処 理 さ れ ま す。 な お、 生 じ た 利 得(gain)
を収益(revenue)に分類してはならないと定
められています(IAS38.113)
。
おわりに
本稿では、IFRSにおける有形固定資産及び無形
資産に係る会計処理の概要について、解説しました。
有形固定資産は、取得後の測定について、原価モ
デルと再評価モデルの選択適用が認められている点
ここで、仮に無形資産の処分から生じる正味
が特徴です。しかし、日本基準で再評価モデルが認
処分収入がある場合、利得及び損失は、正味処
められていないこと及び事務手続の煩雑さから、再
分収入と帳簿価額の差額として算定されます。
評価モデルを採用せず、原価モデルを採用する会社
が多いのではないかと想定されます。なお、原価モ
3.公開草案「減価償却及び償却の許容される方法
の明確化(IAS第16号及びIAS第38号の修正案)
」
の概要
2012年12月4日に国際会計基準審議会(IASB)
から、IAS第16号及びIAS第38号の修正案が公表
されています。具体的には、減価償却及び償却方法
の考え方を明確化する提案が行われています。
様であるといえます。
また、IFRSでは、減価償却方法の見直しなど、
日本基準では求められていない追加的な対応が必要
になる点にも注意が必要です。
無形資産は、取得時の認識・測定について、取得
方法ごとに規定が設けられている点が特徴です。ま
1.⑶②及び2.⑶②で述べたとおり、減価償却
た、取得後の測定について、有形固定資産と同様
及び償却は、資産の将来の経済的便益の予想消費パ
に、原価モデルと再評価モデルの選択適用が認めら
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デルの考え方は、日本基準における考え方と概ね同
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れていますが、無形資産についても、再評価モデル
を採用しない会社が多いことが想定されます。
さらに、IFRSでは、耐用年数を確定できない無
形資産の会計処理や償却方法の見直しなど、日本基
準では求められていない追加的な対応が必要になる
点にも注意が必要です。
2013年2月末現在、IFRSを任意適用する会社
が徐々に増加しています。これからさらに、IFRS
を任意適用する会社が増加するためには、IFRSへ
の理解を深め、導入への敷居を下げることが重要で
あると考えます。
有形固定資産及び無形資産は、多くの会社で検討
が必要になる項目であると考えられますので、本稿
がIFRSに関する理解の一助となれば幸いです。
以 上
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会社法
経営判断の原則
六川 浩明
総合ディスクロージャー研究所主任研究員 弁護士 (東海大学大学院実務法学研究科教授)
1 はじめに
かし、いかに取締役といえども、将来の経済情勢等
最高裁判決平成22年7月15日(判例時報2091
に関する予知能力などないのだから、意思決定当時
号90頁)は、A社が事業再編計画の一環としてB
において、必要とされる情報を収集し、そのうえ
社の株式を任意の合意に基づき買い取る場合におい
で、十分な議論を尽くし、合理的な内容の結論を決
て、A社の取締役に上記株式の買取価格の決定につ
定したのであれば、取締役の善管注意義務違反を問
いて善管注意義務違反はないと判示したが、その
うべきではないとも思われる。
際、取締役のいわゆる経営判断の原則について一定
の判断を示していると思われる。平成20年代にお
このような場合、我が国の裁判例はどのような傾
向を示しているのであろうか。
いても、取締役のいわゆる経営判断原則に関連して
判断を示しているいくつかの裁判例が現れているこ
3 下級審の裁判例
とから、簡単な整理をすることとしたい。
1.東京地判平成5年9月16日(資料版商事法務
114号172頁)は、「取締役の経営判断の当否が問
2 経営判断原則
取締役は、会社に対し、その任務を怠ったことに
な経営判断をすべきであったかをまず考えたうえ、
よ り 生 じ た 損 害 を 賠 償 す る 責 任 を 負 う( 会 社 法
これとの対比によって実際に行われた取締役の判断
423条1項)
。取締役と会社との関係は、委任に関
の当否を決定することは相当でない。・・・実際に
する規定に従うことから、取締役の任務懈怠(会社
行われた取締役の経営判断そのものを対象として、
法423条1項)とは、会社に対する善管注意義務違
その前提となった事実の認識について不注意な誤り
反及び忠実義務違反を意味することとなる。
がなかったかどうか、また、その事実に基づく意思
それでは、善管注意義務が尽くされたかどうか
決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なも
は、どのような基準に基づいて判断されるべきなの
のではなかったかどうかという観点から審査を行う
かが問題となる。
べきであり、その結果、前提となった事実認識に不
取締役は業務執行行為又は業務執行の意思決定に
注意な誤りがあり、又は意思決定の過程が著しく不
深く関わることとなる。例えば、取締役会において、
合理であったと認められる場合には、取締役の経営
Aという方針をとるべきであるのかBという方針を
判断は許容される裁量の範囲を逸脱したものとな
とるべきであるのかを議論し、Aという意思決定が
り、取締役の善管注意義務又は忠実義務に違反する
取締役会の機関決定としてなされた後―例えば1年
ものとなる」と判示した。
後―に、日本及び世界の経済情勢が大きく変化した
2.東京地判平成16年9月28日(判例時報1886
ことを理由に、或いは、取引先の経営方針の重大な
号111頁)は「取締役の業務についての善管注意
転換等により、Aという経営方針を決定したがゆえ
義務違反・・・の有無の判断にあたっては、取締役
に会社に損失が生じてしまったと仮定する。逆に、
によって当該行為がなされた当時における会社の状
1年前に、Bという方針を意思決定していれば、会
況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の
社の利益が結果的に増大していたはずであった。
下において、当該会社の属する業界における通常の
このような場合、取締役は、事後的かつ結果的に
経営者の有すべき知見及び経験を基準として、前提
みると、業務執行の判断が誤っていたのであるか
としての事実の認識に不注意な謝りがなかったか否
ら、当該意思決定に関与した取締役全員が善管注意
か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理が
義務違反として認められてしまうのであろうか。し
なかったか否かという観点から、当該行為をするこ
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題となった場合、取締役であればそのときどのよう
109
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とが著しく不合理と評価されるか否かによるべきで
(2)意思決定の内容の著しい不合理性がなければ、
ある。
」と判示した。
善管注意義務違反は認められない、というものであ
3.「判断の過程・内容が取締役として著しく不合
ると解される。
理なものであったか否か、すなわち、当該判断をす
上記下級審判例のいう「①経営判断の前提となる
るために当時の状況に照らして合理的な情報収集・
事実認識の過程(情報収集とその分析・検討)」は、
分析、検討がなされたか否か、これらを前提とする
上記最高裁判例では、
(1)意思決定の過程のなか
判断の推論過程及び内容が明らかに不合理なもので
に含まれているかもしれない。
あったか否かが問われなければならない。」と判示
する下級審判例が多い(東京地判平16・3・25判
6 適用場面例
タ1149号120頁・判時1851号21頁、東京地判
東京地方裁判所商事研究会編『類型別会社訴訟
平17・3・3判タ1256号179頁・判時1934号
Ⅰ 第三版』242ないし249頁(判例タイムズ社、
121頁等)。
平成23年)
)においては、次のような具体的適用場
4.これらの裁判例が示すいわゆる経営判断の原則
面に応じて経営判断原則を分析している。
においては、①経営判断の前提となる事実認識の過
1.取締役が新規事業に乗り出したが、これが失敗
程(情報収集とその分析・検討)における不注意な誤
し、会社が損害を被った場合
りに起因する不合理さの有無、②事実認識に基づく
取締役は、会社に対し、会社の資力及び規模に応
意思決定の推論過程及び内容の著しい不合理さの存
じて会社を存亡の危機に陥れないように経営を行う
否の2点が審査の対象とされている(東京地方裁判
べき善管注意義務を負っているのであり、新規事業
所 商 事 研 究 会 編『 類 型 別 会 社 訴 訟 Ⅰ 第 三 版 』
については、事業の性質、営業利益の額等に照ら
239頁(判例タイムズ社、平成23年))。
し、その新規事業によって回復が困難ないし不可能
なほどの損失を出す危険性があり、かつ、その危険
4 最 高 裁 判 決 平 成 2 0 年 1 月 2 8 日( 判 例 時 報
性を予見することが可能である場合には、その新規
1997号143頁)
事業をあえて行うことを避止すべき善管注意義務を
同判決は、銀行が大幅な債務超過となって破綻に
負うとする裁判例がある(東京地判平5・9・21判
瀕した会社に対し、もはや同社の存続は不可能であ
タ827号47頁・判時1480号154頁)。
るとの認識を前提に、既に多額の資金を融資し、大
2.取締役が投資・投機行為を行ったが、これが失
部分が未回収となっていた事業が完成する予定のと
敗し、会社が損害を被った場合
きまで同社を延命させることを目的として融資を行
取締役は、会社に対し、会社の資力及び規模に応
うことを決定した判断は、銀行の取締役に一般的に
じて会社を存亡の危機に陥れないように経営を行う
期待されるべき水準に照らし、著しく不合理なもの
べき善管注意義務を負うから、投資・投機行為を行
を言わざるを得ず、銀行の取締役としての善管注意
うについては、会社財産に対する危険性の大きさに
義務違反があったと判示した。
鑑み、投資・投機行為の必要性、その危険主や収益
性といった性質、会社自身の財務や営業利益の状態
5 最 高 裁 判 決 平 成 2 2 年 7 月 1 5 日( 判 例 時 報
等に照らし経営判断を慎重に行うべきものである。
2091号90頁)
その判断の際には、少なくとも、①当該投資・投機
同判決は「このような事業再編計画の策定は、完
行為が、例えば、違法な株価操作といった違法な目
全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来
的を有していないかを確認し、②専ら取締役や特定
予測にわたり経営上の専門的判断にゆだねられてい
の第三者の利益を図るために、一部の取締役の独断
ると解される。そして、この場合における株式取得
専行により当該投資・投機行為がされないように取
の方法や価格についても、取締役において、株式の
締役会での検討に付し、③運用すべき資金は余裕資
評価額のほか、取得の必要性、参加人の財務上の負
金か借入金か、運用対象である株式、不動産、金融
担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも
商品等の内容はどのようなものか等々についての正
総合考慮して決定することができ、その決定の過
確な情報を収集し、④会社の資金需要等から判断さ
程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役と
れる投資・投機行為の必要性、資金運用方法として
しての善管注意義務に違反するものではないと解す
考えられる選択肢の比較、リスクヘッジの方策等を
べきである。
」換言すれば、経営上の専門的判断に
取締役会で十分に検討し、その意思決定を慎重に行
ついては、
(1)意思決定の過程の著しい不合理性、
う必要があろう(東京地方裁判所商事研究会編『類
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会社法
型別会社訴訟Ⅰ 第三版』247頁(判例タイムズ社、
4.その他
平成23年)
)
。
親会社の取締役が、経営不振に陥った子会社等の
3.取締役が資産の廉価処分をして会社に損失が生
じた場合
「再建」や「清算」支援策を行う場合においても、
様々な要素が検討されることとなる。
(1)株式公開買付期間中に株式の市場価格が買付
(1)親会社の取締役が、経営不振に陥った子会社
価格を上回ることがあった場合において、公開買付
等の「再建」支援策を行う場合においては、経営不
けへの応募を撤回しなかった事案について、市場価
振に陥った子会社や関連会社を救済するため、債権
格が買付価格を1割程度上回るものであったこと、
放棄、無償又は非通例的な形での支援融資を行うこ
公開買付けに応じた理由が、公開買付けを行った企
とがある。その場合、子会社等の救済の必要性、再
業とは事業運営面で協力を得ていることなどから良
建策を選択することの合理性、再建策そのものの合
好な関係を維持することにあったこと、買付価格は
理 性 な ど が 検 討 さ れ る こ と と な る( 最 三 小 判 昭
直近3か月間の市場価格に約21%のプレミアムを
53・12・12、東京地判平7・10・26、東京高
加えた価格であることなどを勘案すると、市場価格
判平8・12・11資料版商事161号161頁、大阪
との差は許容される範囲内のものであると判断し
地判13・5・28等)。
て、公開買付けへの応募を撤回せずに、公開貸付け
(2)一方、親会社の取締役が、経営不振に陥った
による株式の売買を成立させるという選択をしたこ
子会社等の「清算」支援策を行う場合には、清算の
とが著しく不合理とはいえないとして、取締役の善
ための支援を行うことの判断の合理性、清算のス
管注意義務違反を認めなかった(東京地判平18・4・
キーム及び支援内容に関する合理性などが検討され
13 判タ1226号192頁。)
ることとなる(東京地判平8・2・8商事1426号
(2)取締役が仕入れに係る鋼材を仕入値より1割
判例1871、大阪地判平14・2・20判タ1109号
近く値引きして他に転売した事案について、銀行等
226頁、札幌高判平18・3・2判時1946号126
以外の金融業者から手形割引、貸付けを受けること
頁)
。
は、その割引料や利息の料率からみて危険が伴い、
健全な会社運営とはいえないが、銀行等には僅かの
以上
融資枠しか持たない弱小会社では状況によりいわゆ
る街の金融業者から金融を得ることや、これに代え
て会社資産を廉価処分し資金を調達することもある
程度やむを得ない場合があるし、企業経営者の企業
遂行決定については、長期的判断に基づいて一時の
損失をあえて甘受することも多く、そこには常に多
少の冒険は許されなければならないから、値引販売
をしたことがそれだけで会社に損害を与え、販売先
に利得を得させる意図を有したとか、取締役の善管
注意義務に違背した過失があるとはいえないとした
(大阪地判昭42・4・20判タ208号193頁・判時
498号64頁)。
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会社法
会社法コラム第53回
アベノミクスと株主総会での対応
鳥飼 重和
鳥飼総合法律事務所 弁護士 期待先行型のアベノミクス
安倍内閣が「3本の矢」を放った。
1の矢は、大胆な金融政策である。
動をし、成長分野への投資を促すための積極的な
予算措置をとることになると思われる。
特に、日銀法改正も辞さない姿勢を示すことで
2の矢は、機動的な財政政策である。
日銀を動かし、積極的に金融緩和を支持する人を
3の矢は、民間投資を喚起する成長戦略である。
日銀総裁に迎えることで、大幅な金融緩和を図ろ
この3本の矢が社会に歓迎され、大きな期待感
うという安倍内閣の強固な意志が市場を動かし、
を生み出した。そのことが、日経平均と為替に、
大幅な円安傾向になっていると思われている。
大きな影響を与えている。すなわち、日経平均株
ただ、為替は、ドル・円の関係という日米二国
価は、岩戸景気(1958年~1961年)に匹敵す
間での相対的な関係で決まるものである点を忘れ
るような上昇基調にある。為替でも、対ドル・対
てはならない。そうだとすると、
「円安」といっ
ユーロなどで、大幅な円安傾向にもなっている。
ても、日本の事情で円安になっているのか、それ
ただ、問題なのは、まだ、
「3本の矢」は現実
とも、主に米国の事情で、ドル高になる反面とし
には放たれていない点である。すなわち、1本の
ての円安になっているのかを押さえておく必要が
矢も放たれて的を射ていないのに、的を射てくれ
ある。
るのではないか、という期待感だけで、日経平均
この点に関しては、米国におけるシェールガス
株価は上昇し、為替は大幅に円安傾向になってい
等による雇用増加を伴う経済的上昇期待が背景の
る点である。
ドル高の影響で、その反面として円安となった側
岩戸景気の時は、経済が42か月成長を続けた
面があるのではないか、とも言われている。つま
中で、1958年12月から1959年にかけて、日
り、日本における金融緩和期待だけでの円安では
経平均株価が17週連続上昇したのである。その
ないということである。
意味では日経平均株価の上昇には、実体経済の裏
付けがあったのである。
ただ、現状の日本では、政府債務がGDPの2
倍に達し、貿易収支も赤字であり、経常収支も赤
ところが、今回の日経平均株価の上昇には、実
字になる可能性が高い厳しい現実が横たわってい
体経済の成長という裏付けは全くない。アベノミ
る。この点直視すれば、アベノミクスの3本の矢
クスに対する期待感があるだけである。期待通り
が見事に的を射ないと、アベノミクスは、現状で
の成果を上げてほしいところであるが、冷静に考
も過大である政府債務を、より過大に膨らませる
えると、四囲の現実の状況を考えると、成果を上
ことになる。その意味では、アベノミクスが旨く
げることはそう簡単ではないことは明らかであ
いくかどうかによっては、日本の南欧化というソ
る。結果として、期待を裏切られるかもしれない
ブリンリスクの問題となるものを秘めている。
危険は少なくはないのである。その意味では、今
回の日経平均株価の記録的な上昇には、バブル的
要素があるのは否定しがたい。
IMFのラガルド専務理事の最後の演説
2013年1月23日~27日に、ダボス会議が開
かれた。今年のダボス会議のテーマは、「弾力性
円安なのか、ドル高なのか?
のあるダイナミズム」であった。2008年9月の
アベノミクスの3本の矢である金融政策・財政
リーマン・ショックの後のダボス会議の公式テー
政策・成長戦略は、景気浮揚・デフレ脱却・新し
マを取り上げると、国際経済状況の変遷がよく分
い産業や市場の創設を的にしたものである。その
かる。そこで、リーマン・ショック後の2009年
ために金融緩和をし、公共事業などによる財政出
以降のダボス会議の公式テーマを以下に紹介す
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会社法
る。
2009年 危機後の世界をどう形成するか
現状は、アベノミクスへの期待感から、日経平
2010年 世界の状況をどう改善するか
均株価は上昇基調にあるため、ほとんどの企業で
2011年 新たな現実の共有すべき規範
は、保有株式の評価額は大きく膨らんでいる。同
2012年 大いなる変遷と新たなビジネスの構築
様に、対ドル・対ユーロなどでは円安傾向が続い
2013年 弾力性のあるダイナミズム
ている。その結果、3月期決算の輸出企業を中心
これらのテーマを概観すると、世界の現状が、
に、多くの企業で、業績の上方修正が行われるこ
時代の大転換期であることは明らかである。すな
わち、テーマの概観は、世界の政治経済構造が大
きな変わり目にあることを示している。
とになる。
しかし、冷静な目で見ると、アベノミクスは、
従来の国際金融の常識への挑戦という側面がある
今年のダボス会議で、IMFのラガルド専務理事
ので、現状の期待感が、そのまま実現するか、失
が最後の演説をした。意訳的に要点を言えば、以
望に変わるかは、不透明と言わざるを得ない。そ
下のとおりである。
うはいっても、安倍内閣では、アベノミクスにつ
「経済の崩壊にはならなかったが、危機の再来
いての考え方が一貫しており、その点が国民の支
には警戒する必要がある。2013年は、のるかそ
持を集め、内閣支持率が70%まで上昇している
るかの年となる。
点は、無視できない。また、今年夏に参議院選挙
金融政策に依存して、財政健全化や成長政策を
が控えていること、その選挙は、一度、国民から
なおざりにすると、停滞が長く続くことになる危
ノーと拒否された自民党の再生をかけたものであ
険がある。壊滅的な危機はないが、世界経済は霧
ることから、安倍内閣はアベノミクスの実現に本
の中にあり、復活するまでにはまだ険しさが続
気で取り組む点は期待できるかもしれない。
く。
」
つまり、世界経済についての見通しについて、
その意味では、今年の6月総会までは、アベノ
ミクスへの期待は、継続している可能性は十分に
楽観的になることなく、気を引き締めていく必要
ある。そうはいっても、株式市場でも、外国人の
があると述べているのである。
影響をもろに受けるグローバルな市場になってい
この演説の背景には、2013年1月に発表され
るから、アベノミクスへの厳しい判断に基づく投
たIMFの 経 済 見 通 し の 改 訂 が あ る。2 0 1 2 年
資行動をする外国人投資家が空売り攻勢をかけ
10月に発表された経済見通しを見直したもので
て、日経平均株価を押し下げてくる可能性もない
ある。
とはいえない。このことは、為替相場でも言える
2013年の先進国の経済見通しによると、わず
ことである。とくに、ヘッジファンドは、金融緩
か3か月後の見直しで、米国、英国、ドイツ、フ
和の影響を受けて、保有資産規模を拡大している
ランスなどほとんどの先進国では、2012年10
から、その資産を使ってレバレッジをかけて、更
月の見通しと比較して、下方修正されている。と
なる円安と株価下落を狙って、大規模な攻勢をか
ころが、日本だけ、見直しがなく、下方修正され
けてこない保証はない。
ていない。その理由は、IMFによれば、日本は景
あるヘッジファンドの代表者は、税収の24倍
気後退局面に入ったが、刺激策(アベノミクス)
となっている日本の政府債務の巨大な現状を見据
で短期的に成長する、ということのようである。
えて、本来なら日本は数年で破たんするところ、
IMFの2014年の経済見通しによると、米国、
2%のインフレターゲットを導入したので、破た
ドイツの2か国だけ上方修正されているが、日本
んの時期は早まった、と言っているのである。他
の他、フランス、イタリア、スペインは、下方修
のヘッジファンドの経営者は、日本を死刑囚にな
正されている。しかも、日本は、0.4%の下方修
ぞらえて、アベノミクスでは、過剰債務と高齢化
正で、スペインの0.2%よりも、大きな下方修正
の現状の中で成長をすることはできないと断言し
となっている。つまり、IMFは、アベノミクスの
ている。
経済効果の持続性に期待感をもたず、その効果は
日本人としては、これら言葉をそのまま受け止
短期的で、2014年には、その影響がそれほど残
めたくはないが、冷静に考えるべきときには、無
っていないと判断しているのである。つまり、ア
視できない言葉である。このような言葉から推測
ベノミクスに対する見方は思いのほか厳しいもの
できるのは、アベノミクスへの期待感が薄れて、
がある。
長期金利が上昇すると、世界のヘッジファンドが
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アベノミクスの不透明性と企業経営・株主総会
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日本売り、つまり、株式、国債、円を売り始める
このようなまっとうな企業の買収者は、まだ、
可能性があるということである。その帰結は、更
株主でないかもしれないし、現に株主になってい
なる円安と株安・債券安のトリプル安という最悪
る場合もありえる。その意味では、株主総会対策
のシナリオになる可能性もあるということであ
は、株主対策にとどまらない視野においても対応
る。
が必要になってくる。つまり、株主総会対応が、
日本企業の経営者は、このように、不安定な中
通常の株主総会運営の領域を超えて、高度の経営
で経営をし、株主総会への対応をしなければなら
問題・経営戦略の問題となりつつある現実を直視
ない現実を直視する必要がある。つまり、想定外
する必要がある時代に入ったということである。
のことをタブーとせず、想定外の最悪も想定し、
その意味では、アベノミクスは、株主総会に対す
それに備えておく必要があるのである。大きな変
る経営者・株主総会担当者の考え方を根本的に変
革期には、2年前の東日本大震災などのような想
える可能性を秘めているのである。
定外のことが多発するものであることを忘れては
株主から見れば、株主総会は、経営の概況の理
いけない。想定外のことが起きることを想定して、
解と将来の展望に関する経営者の姿勢・考え方を
それへの対応を準備し、万が一に想定外のことが
知りつつ、他方で、株主の要望をかなえる場なの
起きたときには、慌てず、平静な態度を堅持し、
である。この要望も、さまざまであるが、この要
原点に戻って対応することである。
望をある程度叶えて、多数の株主の支持を受け、
多数の長期的保有株主、換言すれば、多数のファ
不安定な状況の中での株主総会の捉え方
アベノミクスへの期待感がある状況の中で、株
ン株主を作り上げることが、最良の買収防衛とな
る時代になったとも言えるのである。
主総会を開催するときは、多くの企業での総会運
営はスムーズにいくことが多いと思われる。ただ、
株主総会の目的の見直しは必要か?
円安が進むと、輸入する原材料が高騰したり、燃
多くの企業では、株主総会の目的自体、見直す
料費が高くなる等の望ましくない問題が生じる企
必要はない。従来の日本の社会環境からみれば、
業も少なくない。ただ、このような問題は、従来
たとえ買収者がまっとうな企業であっても、それ
の株主総会の運営における対応で十分対応できる
による日本企業に対する敵対的買収に対し、日本
ものである。
社会は厳しい目が向くことになるからである。し
ところが、さらに、想定外に円安が進むと、中
たがって、相当な程度の安定株主比率を持ってい
国などの新興国で躍進著しい企業による日本企業
る企業であり、買収防衛策の用意している企業に
への買収問題に発展する可能性が現実味を帯びて
対しては、少なくとも敵対的買収の恐れはないか
くる。日本市場はそれ自体大きいし、日本企業に
ら、株主総会の目的は従来の考え方で良いと思わ
は素晴らしい技術があり、同時に、優秀な人材が
れる。すなわち、株主総会の目的は、法的観点に
豊富にいるから、円安が進むことは、日本企業を
よれば、主として、次の2つである。
買収するには、最良のチャンスの到来と考える新
⑴ 会社の概況の報告
興国企業の経営者が現れる可能性があるからであ
⑵ 会社提案議案の可決
る。
さらに、IR的なコミュニケーション型総会の観
このような面まで想定すると、株主総会をどの
点からすれば、次のように捉えることになる。
ような立場から捉える必要があるかを真剣に考え
⑴ 適法・適切な総会運営
る時期に来ていると思われる。従来型のスティー
過去の実務の集積から、総会運営を適法・適切
ルパートナーズのような濫用型の敵対的買収では
にするノウハウは確立している。このようなノウ
なく、凡そ濫用型とは縁遠い、まっとうな企業に
ハウを活用すれば、どのような総会でも、適法・
よる日本企業への買収が想定されるからである。
適切に乗り切ることができるのである。
今後は、新興国企業の躍進と円安が進む可能性が
ところが、最近、総会担当者の交代が多いた
ある状況から厳しい見方をすれば、安定株主比率
め、株主総会運営に関するノウハウが十分に承継
が低い企業では、万が一とはいえ、まっとうな企
されていない傾向がある。この点に関しては、十
業が買収者となってくることを想定し、場合によ
分なる注意が必要である。株主総会運営の適法性
っては、そのようなシュミレーションをする必要
の確保と運営の巧拙は、議長と総会事務局との連
がある。
携が鍵となり、そのためには、適法・適切な株主
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総会運営のノウハウの適切な活用が必要だからで
のである。原点を押さえることで、自社なりの株
ある。
主総会の形が見えてくるものなのである。
すなわち、株主総会の議事運営では、議長が
オールマイティであることから、この点を梃(て
こ)にした株主総会ノウハウが確立しているので
あり、そのノウハウを適時・適切に活用するに
は、議長と総会事務局との連携が必要になってい
るからである。リハーサルが重視されるべきなの
は、この議長と総会事務局との連携を十分図れる
ように練習するためである。
⑵ 株主との十分なコミュニケーション
IR重視の株主総会では、株主との活発な質疑応
答をとおして、株主とのコミュニケーションを図
ることが重視される。それによって、株主の支持
を集め、さらに、マスコミなどをとおしてのレプ
テーションを高める必要があるからである。その
背景には、近年、株主総会に対する社会的関心が
高くなり、マスコミも、株主総会に関する報道に
力を入れていることがある。
この点に関して言えば、平穏な株主総会が続い
ているため、最近の株主総会の準備に、若干、楽
観ムードが流れているように見受けられる面があ
る。これでは、本来のIR型の株主総会にはならな
い。本気で、IR型総会をやろうとするならば、株
主との質疑応答を適切に行うために、リハーサル
の回数と時間をある程度とる必要がある。さらに、
出席株主が十分に満足する質疑応答を考えるな
ら、リハーサルの他、議長や答弁担当役員の個別
練習が必要な場合がある。
⑶ 会社提案議案の可決
株主総会の究極の目的は、会社提案議案の可決
にある。会社提案議案が可決されないと、現経営
者が考える企業経営ができないからである。
安定株主比率が低下傾向にある現状を厳しく認
識し、確実に会社提案議案の可決ができるよう
に、周到に準備する必要がある。大株主の動向に
も注意をし、普段から、大株主とのコミュニケー
ションを図り、裏切られることのないようにして
おく必要がある。この点に関しては、油断大敵と
いうことを忘れてはならない。そうでないと、大
株主による株主提案・修正動議によって、現経営
陣が退陣に追い込まれることがあり得るからであ
る。
株主総会の原点である株主総会の目的を十分理
解すれば、総会運営に関するノウハウは、そこか
ら枝葉として派生するものであるから、それを具
体的場面で自由自在に応用できるようになれるも
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IR
統合報告をめぐる最近の動向
―その意義と実務上の留意点
安井 肇
あらた監査法人 あらた基礎研究所長 1.はじめに
検討していきたい。
税効果会計が導入されて久しい。繰延税金資産を
本稿は、筆者の個人的な見解であり、筆者の所属
計上するにあたっては、中期経営計画の確からしさ
する法人の公式的な見解ではないことを予めお断り
など、経理財務担当者にはそれまで説明責任がある
する。
とはいえなかった経営情報や将来キャッシュフロー
に関する分析・説明が求められることとなった。こ
(第1図)財務報告のマーケットバリュー説明力
れらは、企業としての経営意思の表明ではあるもの
の、将来にかかわる情報であり、必ずしもその通り
実現するわけでなく、経理財務担当者としても説明
に苦慮することが少なくないと思われる。
そもそも財務報告に将来情報がなぜ取込まれてき
たのかといえば、その背後には、財務計数のマーケ
ットバリュー(市場で計測された企業価値)に対す
る説明力の低下がある。第1図は、2011年9月に
IIRC(国際統合報告評議会)が公表した統合報告に
関する討議資料(注1)にもでてくるものだが、こ
れによると、S&P500のマーケット・バリューに
Source: IIRC. Towards Integrated Reporting
対する財務計数の説明力は、1975年には8割超あ
ったが、85年には7割弱、95年には3割強に、さ
らに2009年には2割を割込までに急速に低下して
いる。こうした事態に対して、財務報告の有用性を
少しでも確保していきたいという関係者の努力の一
端が注記情報の増加や将来情報のオンバランス化に
は秘められているともいえよう。
2.統合報告の背景と方向性(グローバルな見地に
立って)
⑴ 企業経営を取り巻く環境の劇的変化
ジェンキンズ・レポートから統合報告への流れ
の背後にあるのは、いうまでもなく、1980年ご
こうした動きの淵源は、1994年に米国公認会計
ろからの企業経営を取巻く環境の劇的な変化であ
士協会・財務報告に関する特別委員会が公表したジ
る。すなわち、実体経済面で、①新興国の台頭に
ェンキンズ・レポート(注2)に求められる。この
伴う世界経済の裾野の広がり、②それに伴う天然
レポートでは、財務諸表には計上されない経営資源
資源や食糧価格の上昇や自然環境・資源の有限性
の重要性が高まり、開示内容を財務情報にとどまら
に関する認識の高まり、③多くの先進国および一
ず経営情報にまで広げるべきであると述べている。
部の新興国における少子高齢化の進行、④リーマ
こうした方向性について、リーマンショック後に、
ンショック以降の世界経済成長エンジンの「西か
極めて短期化した市場の動き(いわゆるショート
ら東へ」の移行等である。技術動向をみると、⑤
ターミズム)の是正と金融資本市場の安定という大
コンピュータ活用による産業間にあった参入障壁
義の下に、簡潔で明瞭な形でこれを実現させていこ
の低下、⑥ITの「ドッグイヤー」的な進歩等に伴
うというのが統合報告をめぐる動きなのである。
う金融資本市場の急速な統合、⑦(特に今世紀入
本稿では、統合報告が出てきた背景を改めて整理
り後の)オンラインネットワークの広がりによる
するとともに、今後本邦企業が実務に即して統合報
「情報洪水」的現象などがある。さらに、2008
告へチャレンジしていく場合の留意点等について、
年のリーマンショックを端緒として、⑧監督規制
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IR
がそれまでの長期にわたった規制緩和的方向から
プルデンシャルのアニュアルレポートの150年
規制強化に向かって動いている。
超にわたる頁数の変化である。バックエンドの財
こうした企業経営をめぐる環境の劇的な変化に
伴い、企業が生存競争に勝ち抜いていくことの難
務情報中心に今世紀に入ってからの爆発的な頁数
の増加をよみとれる。
しさも高まっている。すなわち、優れたナレッジ
他方で、リーマンショックが生じて、欧米にお
も、短時間にかつグローバルな相手からチャレン
いては金融機関を中心にディスクロージャーに対
ジされ、知識自体が陳腐化してしまうリスクを高
する信認が大きく失墜した。その信認の回復過程
めている。特に為替変動によって国際競争力が大
において、企業報告は、金融資本市場のショート
きく影響を与える状況にあってはなおさらであ
ターミズムの是正等に資するだけでなく、その内
る。このことは、COSOフレームワークが92年
容として、過去のパフォーマンス結果に加え環境
の統合的枠組みから2004年のERMの枠組みに
や資源の有限性に対する対応にも触れる必要があ
至る過程で、組織目的に戦略が追加されたことに
るというのはごく自然な流れであろう。しかし、
も端的に表れており、企業や組織が永続的に存続
より重要なのは、劇的に変化し続ける外部環境に
していくためには、企業は外部環境の変化を的確
対して企業経営者がどう向き合おうとしている
に捉え、適時適切に戦略を入れ替えていく必要が
か、またそうした中で価値創造をどう持続させよ
あるわけである。
うとしているか、という点であろう。このように
考えると、IIRCが統合報告を短中長期の価値創造
⑵ あるべき企業報告の方向性
こうした企業を取巻く環境の劇的変化の中で、
過程の表現としている意味がよりよく理解できる
ように思われる。
企業経営者がどのような対応をしようとしている
また、上記のような企業環境の劇的変化の下で
のかを知ることは、企業内部にいる者でさえ容易
求められる企業報告の方向性をより一般的に示す
ではない。ましてや企業の外部に位置する投資家
と、企業は、自らの経営情報を①より重要なもの
にとっては、至難の業となってきた。少なくとも、
から、②より信頼のおける形で、③しかもタイム
法令で要求されている財務報告だけでそれが読み
リーに開示することが必要であると言えよう。換
取れるわけではないし、環境に関心の深い人が求
言すると、今企業が求められているのは、①発信
めるサステナビリティ報告書や、これにガバナン
する情報が多いことよりも、重要なものを簡潔明
スや社会的問題を含めたCSR報告書によっても、
瞭に示すこと、②情報の中身の正確性を情報生産
容易にわかるものではない。
過程のガバナンスを利かすこと等によって信頼性
それどころか、アニュアルレポートには、注記
を高めること、③瞬時にかつグローバルな取引が
情報があふれ、ボリュームばかりが増えて企業の
なされる時代における投資家等の意思決定をサ
実像を却ってわかりにくくしている。第2図は、
ポートできるような適時性、ということになる。
(第2図)アニュアルレポートの頁数の増加
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⑶ 統合報告と金融機関のリスク・ディスクロー
者の金融機関に対する疑念を払拭するために望ま
ジャーとの共通点
しい開示例を検討したものである。それはまた、
統合報告に財務計数のマーケットバリュー説明
バーゼルⅡ・第3の柱で求められた開示項目が具
力低下を補完する役割が期待されるとすれば、そ
体的な表現形式の相違から目下のところグローバ
れは企業が依拠している他の全ての開示フレーム
ルには比較可能性に乏しいことを是正する狙いも
ワークとの協業が必要となる。このような観点か
込められている。
ら、金融機関に義務付けられているリスク・ディ
言うまでもなく、金融ビジネスは、リスクをマ
スクロージャーに関して2012年10月29日に公
ネジして利益を生み出す業務であり、いわば金融
表された「銀行のリスク情報開示改善に関する報
機関の企業価値創造プロセスとは、リスクを適切
告書」
( 略 称EDTF< Enhanced Disclosure
に管理することとも言いかえられる。統合報告が
Task Force>レポート、注3)をとり上げてみ
短期・中期・長期の企業価値創造過程にかかるも
よう。
のなのに対して、EDTFレポートは現在抱えるリ
EDTFレポートは、2012年5月にFSB(金融
スクのより良い開示に関するものなので、EDTF
安定理事会、注4)の肝いりでスタートした銀行
レポートの内容は、金融機関が目指すべき統合報
のリスク情報開示を促進するための民間の検討機
告の一部を構成するもとの見方も可能である。
関(EDTF、注5)が取りまとめた報告書である。
そこで、統合報告とEDTFレポートに掲げられ
この報告書は、金融危機後金融機関は市場から
た原則をまとめると、第3表のようになる。両者
の信認を十分には回復していない中で、低品質の
ともに、将来志向であり、比較可能性とか、首尾
情報開示は、不確実性に伴うプレミアムを支払わ
一貫性、そして何といっても簡潔・明瞭でわかり
される可能性がある一方、投資家から高評価を得
やすさを重視していることが分かる。まさに、外
ればリスクマネーの供給を受けやすく、資本コス
部環境の劇的変化の時代が求める情報開示にかか
トの低下を通じたリスクテイク能力の拡大につな
る原則として⑵の末尾(前頁右下部)にとりあげ
がるという認識の下で、投資家その他の利害関係
た性格を有している。
(第3表)統合報告とEDTF Reportの類似性・相違点
(統合報告に関する 6 つの基本原則)
(Risk Disclosure に関する 7 つの基本原則)
①戦略的課題に注視し、将来志向であること
①明瞭でバランスがとれ、理解しやすいこと
②情報の結合性があること
②包括的で主要な活動やリスクを含むこと
③利害関係者の合理的なニーズ、関心、期待に
敏感であること
③重要な情報を表現していること
④価値創造能力の評価にあたって重要な情報を
簡潔に示していること
⑤信頼性の高いこと
⑥比較可能で首尾一貫していること
④リスクをどう管理しているかを
表現していること
⑤時間を超えて首尾一貫していること
⑥比較可能であること
⑦適時に提供されること
(IIRC や EDTF のレポートより PwC が作成)
⑷ IIRCとIASBとのMoU
「IIRCの仕事の重要な部分は、投資家とのコミ
IIRCでは、上記のようなFSBとの関係で近い作
ュニケーションのためのよりよいビジネス言語と
業を行っているだけでなく、IFRS(国際財務報告
しての統合報告を採用する条件を整えることであ
基準)を審議しているIASBとの間でも、13年2
り、その結果、より持続可能な価値創造、より効
月にMoU(Memorandum of Understanding)
率的な資本市場をもたらすことを狙っている。作
を締結した。その締結に当たりIIRCでは、以下の
業中の統合報告フレームワークは、財務報告、ガ
ようなコメントを出している(注6)。
バナンス報告、マネジメント・コメンタリー、サ
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IR
ステナビリティ報告書における新たな動向を取込
は、どのような要件を備えている必要があるの
むことで、企業報告の変化を加速化しようとして
か。この点、冒頭に掲げたジェンキンズ・レポー
いる。
」
ト以来、企業報告のあり方を検討してきたPwC
これに対し、IASBは、IIRCの提唱する企業報
(プライスウォーターハウスクーパース)では、
告の新しい展開を引続き支援するとともに、共通
以下の要素を含んでいて、PDCAサイクルが回っ
の利益の存在する重要な領域で協力すると約束
ていることが不可欠であると考えている
(第4図)
。
し、グローバルな企業情報開示の質及び一貫性の
すなわち、統合報告は、大きく分けて①テクノ
改善について、双方の組織に共通の利益が存在す
ロジーとか、マクロ経済等の外部要因、②戦略と
ることをアピールした。
それを支えるガバナンス、③経営資源や他のス
これらのことは、裏を返せば、グローバルな金
テークホールダーとの関係、換言すれば人・物・
融資本市場で生じているイノベーティブな状況や
カネや販売(納入)先や購入(仕入)先との間に
そこから生じている課題に対して、IIRCは統合報
形成された社会的関係、④実績パフォーマンスか
告の観点から、IASBは財務報告基準の観点から、
ら成る。そして、こうした情報について、①各々
⑶で採り上げたFSBは金融機関に対する規制監督
が期待される重要な要素を信頼できる品質でしか
の観点から挑戦しているとみることもできよう。
も一貫性のある形で提供していること、②外部環
境変化に合わせて定期的に見直され、常に改善が
⑸ PwCが考えている統合報告の方向性
統合報告が企業の基本的な報告書であるために
図られていること、を示していることが重要であ
ると考えている。
(第4図)PwCの統合報告モデル
Source:PwC レポーティング~企業を映す鏡として
3.本邦企業は統合報告をどう進めるか
⑴ 統合報告への取り組みにあたっての3原則
うな点に留意すべきであろうか。そのポイントと
思われるところを3点に整理してみたい。
2.で述べたような背景や展開を見せる統合報
告について、我が国においてもその作成を試みる
企業が増大してきた。特に、2012年11月1日
実感する
に東京で、IIRC主催の統合報告フォーラムが開催
先述のとおり統合報告は、企業を取巻く環境の
され、多くの参加者があり、統合報告に関する我
劇的な変化の下における持続的な価値創造過程を
が国企業、投資家の関心がにわかに高まってきた
簡潔明瞭に示すものである。もとよりIIRCでは投
ように思われる(注7)
。
資家というマーケットバリューの担い手をターゲ
それでは、統合報告に取り組む企業は、どのよ
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(ポイント1)明確に「目標」を定め、「効果」を
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ットとした検討を行っているが、作成された統合
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報告は様々な形で社内的にも好影響をもたらす。
ニュアルレポートの頁数は、公正価値評価の対象
他方で、先進国における統合報告は、市場主導で
が増大すれば財務部分だけでも、相当膨らむので
発展していくものでこれが完成形というものはま
印刷コストが大変である。それまで別途作成して
だない。従って、まずは統合報告になぜ取り組む
いたCSR報告書と一体化することで、コストの
のかを明確化し、毎年実利というか、成果があが
一部削減は可能となる。それで、株価等への影響
っていることを実感できるようにしておくべきで
を見つつ、統合報告上のCSR部分の記述量を調
あろう。
整していくのも一つの方法であろう。
幾つかの異なる事業部門を有している企業の場
(ポイント2)対話を継続する
合、統合報告の作成は、重要な社内情報の共有化
社内にせよ、社外にせよ、統合報告作成のター
に資する。これは、国内外に勤務し、異なる価値
ゲットが定まったら、そのターゲットとのコミュ
観や宗教をもつ全従業員が自社に対するより深い
ニケーションの継続が極めて重要となる。社内を
理解を醸成するのに役立つ。
タ ー ゲ ッ ト と す る の で あ れ ば、 こ の 対 話 は、
そのことを通じて、平時においては、コーポ
COSOフレームワーク上の「情報とコミュニケー
レートアイデンティティの強化が期待できよう。
ション」
に相当しよう。また、社外の投資家をター
これは、優秀な人材の社外流出の防止効果をもつ
ゲットとするのであれば、IRの現場等でなされる
かもしれないし、一人一人の従業員が社会から期
対話であり、それを受けた経営のPDCAサイク
待される行動へのベクトル合わせ、広い意味での
ルが重要となろう。変化のスピードが速いので、
コンプライアンス行動の指針にもなるであろう。
ターゲットの問題意識もまた刻々と変化しうる。
また、ある事業部門が資本コストを下回る利益
頻繁な対話により相手方の関心を常に探りなが
しかだせなくなってきた場合には、事業部門の再
ら、有効な統合報告を作成していくことが肝要で
編成が必要になる。その実施にあたっては、統合
ある。
報告によって従業員が他事業部門を深く理解して
いれば、異動に伴う不安感が抑制され、人的資源
(ポイント3)長い道程であると覚悟して進化を
続ける
のスムースな異動に資するであろう。
さらに、統合報告の重要な要素であるリスク情
先述の通り統合報告は市場主導で進むであろ
報は、通常財務経理部門にはなく、各事業部門に
う。なぜなら、規制にするとその内容はどの企業
蓄積されているだけで、体系化されていないケー
にも当てはまる最大公約数的なものとなって個性
スが少なくないであろう。統合報告策定過程にお
を発揮しにくいし、ひとたび規制がでるとそれを
ける情報の集約化は、様々なステークホルダーと
遵守しようとして益々個性が失われてしまうの
の企業実態をめぐる対話をよりバランスのとれた
で、統合報告の本来の役割を果たせなくなる可能
効果的なものとするのに資すると考えられる。
性が高いからである。従って、統合報告は、より
良い開示が具体的な成果をもたらし、マーケット
バリューで見た企業価値を向上させていく好循環
⑶ 社外的な目標設定
元来IIRCが統合報告の検討を始めた背後には、
の創出と、それに伴うデファクトスタンダード化
多くの投資家に企業の中長期的な価値創造過程を
の道を辿る公算が高い。従って、統合報告の完成
評価した市場行動を促したいという意図があっ
形への到達には相応の年月を要し、それまで投資
た。一口に投資家といっても、海外もあれば、国
家はじめ様々なステークホールダーの反応をみな
内もあり、機関投資家もあれば、個人もある。ビ
がら徐々に進化していくと考えておく必要があろ
ジネスの在り方によって、どういう株主構成が望
う。
ましいのかは、異なってくる。1つの統合報告を
以下、上記原則を1つ1つ検討していくことと
したい。
作成するのであれば、だれが最も大切にしたい株
主なのかによって当然作成方法は違ってくると思
われる。
⑵ 社内的な目標設定
統合報告の作成目的を社内的に設定する場合で
も、幾つかの考え方がありうる。
最も単純には、開示コストの低減に資する。ア
我が国企業の場合、一般的に留意すべきなの
は、すでに我が国が成熟国となり、しかも世界的
にも稀なハイスピードで高齢化している点であ
る。それゆえ潜在成長力は、1%を切るともいわ
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れている。それでも我が国企業の多くは、日本経
向について言及しているものの、ここでの市場に
済の潜在成長力と同じ程度の成長に満足すること
関する記述と戦略的な選択行動とを結びつけた報
なく、より高い成長目標をかかげている。しかも
告を行っている企業はわずか21%に過ぎない。
それは、世界の成長センターとなった東アジア等
これらは、相当注意深く開示をしない限り、企業
の成長に貢献しながら自らもしっかり成長しよう
の意図は十分には伝わらないということを物語っ
というモデルとなっている。しかし、投資家、特
ている。
に海外投資家からみた場合、その目標の実現性を
素直には受け入れ難い状況があるように思われ
る。
⑸ 長い道のりをかけた統合報告の進化
2013年4月16日には、統合報告の枠組みに
例えば、現在の海外販売比率を向う3年で1割
関する公開草案が示され、約3か月にわたってコ
増加させるとの記述があったとして、本当にそれ
メントを各方面から募り、本年中には統合報告の
が実現すると投資家を納得させるには、一般的な
枠組みに関するバージョン1が完成する時間軸
海外事業に随伴するリスクや進出予定国に固有の
で、IIRCの検討作業は進んでいる。市場主導で進
リスク等に関する認識、対応等を合理的に説明す
んでいく以上、2014年以降も統合報告は進化を
る必要があろう。
続けていくものと思われる。
特にここ数年、中期経営計画で示した利益目標
この点に関して、PwCでは、統合報告は次の
について、円高等外部環境変化があったにせよ十
ような経路を辿って進化していくのではないかと
分達成できなかった企業の場合には、なおさら丁
想定している(第5図)。すなわち、最初は、ア
寧な説明を要すると考えられる。このあたりは、
ニュアルレポートがCSR報告書、ガバナンス報
統合報告作成の有力な目標の1つになるように思
告書等の非財務情報の一部を包摂したり、合体し
われる。
たりするところから始まる(図上部左、中央)。
次に、統合報告の中で随所にCSR的な内容が埋
⑷ 対話の継続
め込まれ(図上部右)
、財務・非財務の詳しい内
ターゲットとなる相手との対話については、
「何
容とは別に統合報告の中でエッセンスが語られる
を伝えるか」以上に重要なのが「どう伝わってい
ようになる(図下部左)
。さらに、企業にとって
るか」という点である。企業の情報開示は、かつ
プライマリーな報告書として統合報告が作成され
ては法定の開示が主流であったことから、
「どう
る一方で、それとのリンクで企業責任に関する報
伝わっているか」を視野に入れるよりは、コンプ
告書やコンプライアンス報告書、あるいはWeb
ライアントに「何を伝えるか」という一人称のと
掲示情報が詳細を語るようになることが考えられ
ころに重点をおいていたと考えられる。ところが、
る(図下部中央)。
IR(インベスターリレーションズ)とか、CSR
最終的には、例えば、サステナビリティ報告書
報告書など自発的なものが多くなってくれば、適
においても、財務的な意味での企業価値創造との
切に伝わっていなければ、開示自体の意味が薄れ
関係が説明されるべき時代がこよう(図下部右)。
てしまう。その意味で、
「どう伝わっているか」
これは、新興国の追い上げ等を踏まえると、メセ
という二人称の部分の重要性が増す。統合報告も
ナ的なサステナビリティ活動を続けるのではな
当分の間は、市場主導の自発的とされているの
く、財務的な企業価値創造自体が環境に優しいと
で、この点が重要である。
いう活動になってくると予想されることに対応し
我が国の例ではないが、PwCがFTSE350を
ている。換言すれば、グリーン経済における企業
使って行ったベンチマーキング調査(注8)があ
の発展が、財務的な企業価値向上と環境への負荷
る。それによると、次のような点が明かになって
縮減とが両立していることに対応した開示形態に
いる。すなわち、例えば、95%の企業が財務報
なると予想されるのである。
告の「戦略」に関する章で戦略上の優先順位につ
いて報告している反面、わずか28%しかその戦
略を基礎として他の章の報告を行っていないた
め、残りの企業では投資家に的確に情報が伝えら
れていない。また、86%の企業が将来の市場動
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(第5図)PwCが想定する統合報告への進化形
Source: PwC
4.自発的開示と先進国企業の役割~結びに代えて
リーマンショック後に欧米から提案された厳しい規
以上述べてきた通り、統合報告への動きは、財務
制内容について、本邦メガバンクは当局とタッグを
報告と非財務報告との融合という側面だけでなく、
組んで、実体経済への影響を考慮して金融市場の安
法律による強制開示から自発的開示への動きでもあ
定と経済発展とのバランスのとれたものへと押し返
る。自発的開示には、市場からの評価を受ける契機
す役割を果たしたことは、記憶に新しい。
となるばかりでなく、それ自体開示内容を実現して
いく力の源泉となることもある。
例えば、企業のBCM(事業継続性管理)に関して、
統合報告の動きはまだ国際的にみて始まったばか
りであり、今後企業が投資家との継続的な対話を通
じてグローバルな枠組みが形成されていくであろ
大変興味深い研究がある(注9)
。すなわち、有価
う。我が国企業も、先進国企業として、こうした国
証券報告書において東日本大震災被災3県(福島、
際的なデファクトスタンダード作りに積極的な貢献
宮城、岩手)に事業設備を有すると判明した企業(金
をするとともに、その企業価値向上につながること
融、建設、機械を除く)で2011年3月期の決算で
が期待される。そうしたことを通じて、我が国企業
特別損失を売上高の1%以上計上した企業(被災企
の企業価値が市場で適正に評価されるとともに市場
業)の中で、2010年3月期の有価証券報告書や
のショートターミズムの是正につながることが望ま
CSR報告書でBCMに関する記述をしている先は、
れる。
記述のない先に比べ、大震災後に落ち込んだ株価の
戻りが速いことが判明した。また、記述している先
は、記述のない先に比べ、BCMに関する訓練等の
備えを十分に行っていたことも判明した。
このように自発的開示には相応の効果があるわけ
である。それだけではなく、法律上あるいは制度上
の義務付けは、自発的取組みの欠陥を補正する目的
等でなされることが多い。従って、新たなニーズへ
の対応は、自発的取組みの積重ねが重要である。そ
れによりデファクトスタンダードが出来上がる。
他方、先進国には、新しい事態に対応した新しい
有用な枠組みを創出する役割が期待されている。
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(注1)IIRC:Towards Integrated Reporting <communicating value in the 21st century>
http://theiirc.org/wp-content/uploads/2011/09/IR-Discussion-Paper-2011_spreads.pdf
(注2)AICPA:Improving Business Reporting<A Customer Focus, Meeting the Information
needs of Investors and Creditors>
(八田進二、橋本尚翻訳:事業報告革命<2002年、白桃書房>)
(注3)EDTF Report; http://www.financialstabilityboard.org/publications/r_121029.pdf 、本件
に関するFSBコメント; http://www.financialstabilityboard.org/press/pr_121029.pdf
(注4)FSB:G20サミットとバーゼル銀行監督委員会等との間に立って、国際金融監督規制に関する両者の
意思疎通を円滑に行い国際金融システムの安定に資する役割を果たす
(注5)EDTF:議長はHSBC、前ドイツ銀行、PIMCOの3人、主要行・投資家・アナリスト・格付機関・監
査法人等から約30名、日本からはMUFGがメンバーとして参加している
(注6)IIRC: 公 表 文 書(2 0 1 3 年 2 月 1 1 日、http://www.theiirc.org/2 0 1 3/0 2/1 1/journal-ofaccountancyintegrated-reporting-gains-steam-with-iirc-iasb-agreement/)
(注7)統合報告フォーラム等で討議された主な内容は、以下の通り。
① 近年、投資家の短期志向化は著しく、世界的なトレンドとなっている。機関投資家を中心に行動変
化に向けた動きは始まっているが、より大きな変化を導くための対策が必要である。また、現代経
済は、
「安定の危機」と「持続可能性の危機」という二つの危機に直面している。これらを乗り越え
るには、金融と経営を長期志向に導くことが必要であり、統合報告は、そのための有効な手段とな
ろう。
② 現在の企業報告は過去の財務結果の説明に焦点を当てすぎている。経営がどのような価値を、どの
ように創造していくのか、戦略的かつ簡潔な報告が求められている。企業内の統合的な思考
(Integrated Thinking)が特に重要であり、統合報告の基礎となる。統合的思考に基づく経営を導
くことができれば、統合報告の便益は大きい。
③ 統合報告が本当に経営に便益をもたらすものかどうか、慎重な検証が必要。統合報告フレームワー
クは概念的であり、具体化が必要。統合報告が企業の追加的負担につながることを懸念する声もあ
る。
④ 企 業報告の変革は市場主導で達成されるべきものであり、実務のイノベーションを基礎としたフ
レームワーク開発が進められるべきである。
⑤ 長期的思考による経営は、本来、本邦企業の強みとする領域である。そうした観点から、日本企業
による統合報告に関する国際社会への積極的な発信が期待される。
(日本公認会計士協会:お知らせ「統合報告ラウンドテーブル及び統合報告フォーラムを開催」
(2012年11月14日http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/jicpa_pr/news/post_1694.html)
(注8)PwC’
s survey of the narrative reporting practices in the FTSE 350 (2011/12))
http://www.mri.co.jp/SERVICE/rio2 0/rio2 0_seika_yaku.pdf#search='%E3%8 3%AA%E3%
82%AA%EF%BC%92%EF%BC%90%E5%90%88%E6%84%8F%E6%96%87%E6%9B
%B8'
(注9)加賀谷哲之「BCMの開示が株式市場からの評価に与える影響―東日本大震災の影響にみる有事価値関
連性」
(伊藤邦雄先生還暦記念論文集編集委員会編:企業会計研究のダイナミズム第18章<2012年、
中央経済社>)
(参考文献)
安井肇、久禮由敬:持続的な価値創造に資する統合報告への挑戦とその意義(一橋ビジネスレビュー60巻1
号、2012年6月)
企業会計 2012年6月号 統合報告特集
日本公認会計士協会経営研究調査会研究報告第49号‘統合報告の国際事例研究’(2013年1月)
経済産業省主催‘持続的な価値創造に資する非財務情報開示の在り方’に関する研究会報告書(2012年3月)
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2012fy/E002177.pdf
経済産業省主催‘企業における非財務情報の開示’に関する調査研究報告書(2012年3月)http://www.
bpfj.jp/act/download_file/8428429/95101661.pdf
PwC統合報告ウェブサイト:http://www.pwc.com/jp/ja/japan-service/integrated-reporting/index.
jhtml
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ESGディスクロージャーの現状(9)
ディスクロージャーのグローバル化
─多言語によるESGディスクロージャーの現状から─
江森 郁実
ディスクロージャー研究二部 ESG担当 はじめに
〈目次〉
日本企業のグローバル化は拡大の一途をたどって
はじめに
1 グローバルでの制度化の流れ
います。これまで成長市場の中心は中国と見られて
1.1 欧米
きていましたが、ここ数年でタイやマレーシアとい
1.2 アジア
ったその他アジア地域も高い経済成長を誇るように
2 日本企業の多言語でのESGディスクロージャー
なりました。有価証券報告書の記載を見ても、その
傾向が見受けられます。以下は「新興国」という記
の状況
2.1 Webでのディスクロージャー
載がある社数と、「中国」を連結注記のセグメント
2.2 CSRレポートの発行状況
情報の中で記載している社数の経年変化を見たもの
3 おわりに
です。
グラフ1:有価証券報告書における「新興国」「中国」の記載社数推移
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
新興国
中国
1959
1417
694
780
843
455
1
10
25
51
2003
2004
2005
2006
925
138
2007
967
982
503
466
2008
2009
981
1022
2010
2011
出典/開示Netより作成
日本企業は新興国に対し、高い成長性を見込んで
われます。
展開を進める一方、新たな経営リスクにも直面して
ESGディスクロージャーはその1つの方法だと思
います。直近では中国において、環境汚染や労使争
われます。グローバル化の進展を受け、多言語での
議といった課題や、政治リスクの顕在化を受けて、
ESGディスクロージャーが進んでいます。2011
その他アジアへの進出を図る企業も出てきていま
年にアップデートされたGRIガイドライン3.1版に
す。しかし、アジアにおいてそのミックスに変化が
おいても、
「コミュニティ」という報告カテゴリは、
あっただけで、依然として中国が大きな市場である
ことは変わりません。今後はよりグローバル基準で
「ローカルコミュニティ」という名称に変更されて
おり、その重要性が見受けられます。
のリスクマネジメントの重要性が高まっていくと思
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当誌2011年7月号でも一度、グローバル化に対
排出量の報告を義務化します。これに対し、英国
応した日本企業のESGディスクロージャー現状調
副首相は、地球の利益になるだけではなく、エネ
査を実施しましたが、そのトレンドはさらに進んで
ルギーの効率化やレピュテーションの向上によ
いると推察されます。前回調査においては少数の
り、長期的には企業にとってもコスト削減になる
CSR先進企業を対象に、特に中国に焦点を当てて
だろうと述べており、将来的に自国の企業の競争
実施しましたが、本稿においては多言語に範囲を広
力を高める施策として制度化を行っていると思わ
げて見ていきたいと思います。なお、本稿の中で意
れます。
見に関する部分は筆者の私見であることをあらかじ
一方アメリカでは、株主からの要求を受けた
めお断りいたします。
SEC(米 証券取引委員会)による制度化が多く
1 グローバルでの制度化の流れ
ESGリスクの顕在化やオポチュニティ増加を受
け、ESGディスクロージャーに関する制度化が始
見られます。規制の内容を見ると、株主保護の観
点から、主にリスク側面の開示が義務化される傾
向にあります。
2010年には、
「気候変動開示ガイダンス文書」
まっています。地域によって進め方は異なっており、
その特徴を確認していきます。
を公表し、制度開示書類である年次報告書及び四
半期報告の中で、気候変動情報を開示すべき状況
を解釈指針によって示しています。このほかにも
1.1 欧米
CSRという概念は元々ヨーロッパから始まっ
SECは、紛争鉱物(コンゴやその隣接国で産出
ており、現在も議論や制度化が先進的に進められ
される金、タンタル、スズ、タングステンの4鉱
ています。直近では、欧州委員会が2011年に「新
物)を製品に使用している企業に対して、報告義
CSRコミュニケーション」を発表し、この中で
務を課す最終ルールを可決しました。紛争鉱物は
はヨーロッパの大企業に対して、OECD多国籍企
暴虐行為など重大な人権侵害を行っている武装集
業ガイドライン、ISO26000、国連グローバ
団の資金源になっていると言われています。これ
ル・コンパクトのいずれか1つ以上に対してコミ
はアメリカ企業以外のニューヨークに上場してい
ットを求めています。義務ではありませんが、ビ
る外国企業も対応を求めており、日本企業でも影
ジネス上で影響が出ることが予想されます。日本
響を受ける場合があります。
企業においても、ヨーロッパの企業がコンペジ
ターであるグローバル企業は影響を受けることと
1.2 アジア
アジアにおけるESGディスクロージャー関連
なり、そのグループ企業やサプライヤー企業へと
波及することが推察されます。
イギリスでも議論が進んでおり、イギリス政府
の規制は、政府主導で進められている場合が多い
と思われます。証券取引所で設定されることが多
は2013年4月より、ロンドン証券取引所上場企
く、義務化に先がけて、ガイドラインを公表し、
業、約1300社に対して、GHG(温室効果ガス)
推奨から始める場合もあります。
表1:証券取引所の持続可能性に関する活動の概要
ガイドライン発行され
ているか?
報告は義務か自主的な
ものか?
持続性指標があるか?
日本
No
自主的
Yes
中国
Yes
義務
Yes
香港
Yes
自主的
Yes
台湾
No
義務
No
マレーシア
Yes
義務
No
シンガポール
Yes
自主的
No
タイ
Yes
自主的
No
インドネシア
No
自主的
Yes
韓国
No
自主的
Yes
フィリピン
No
自主的
No
ベトナム
No
自主的
No
出典/CSR Asia Weekly「持続性報告の義務化のもたらす効果」に「日本」を追加して作成
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中国については2011年5月、全ての国有企業
取 引 所 が 主 導 し て い る 例 はSustainable
に対して、CSRレポートの発行を既に義務付け
Stock Exchange Initiativeでも見られます。こ
ており、その反応としては肯定的に捉えられてい
のイニシアチブは2012年6月にリオデジャネイ
るとしています。香港証券取引所でも2012年に
ロ で 開 催 さ れ た、 国 連 持 続 可 能 な 開 発 会 議
ESGガイドラインを公表し、現段階では推奨に
(Rio+20)の中で、企業のESG情報を重視して
とどまっていますが、2015年を目途に「遵守ま
市場の透明性と健全性を確保することを宣言して
たは説明義務」とするとしています。
います。
表2:大手27証券取引所の状況
取引所名
NYSE Euronext
国
アメリカ、フラ
時価総額
独自の
上場企業数
(米ドル、
ESG開示
(2012年1月)
2011年11月) があるか
3418
15187.61
3440
上場企業向けの
サステナビリ
サステナビリテ
ティインデッ
ィガイダンスが
クスがあるか
あるか
GRI
○
未回答
5057.58
×
○
未回答
ンス、ポルトガ
ル、ベルギー、
オランダ、イギ
リス
Nasdaq OMX
アメリカ、デン
マーク、フィン
ランド、スウ
ェーデン、アイ
スランド
Tokyo Stock Exchange
日本
2288
3468.88
×
○
×
London Stock
イギリス、イタ
2864 3397.13 +
○
○
×
Exchange Group
リア
Hong Kong Exchanges
香港
1506
2480.18
GRI
×
○
Shanghai Stock Exchange 中国
932
2457.33
○
○
○
and Clearing
Toronto Stock Exchange カナダ
BM&FBOVESPA
ブラジル
Australian Securities
オーストラリア
3947
2014.47
×
○
○
372
1393.77
GRI
○
○
×
×
×
2078 1303.81 +
Exchange
Deutsche Börse AG ドイツ
742
1303.59
GRI
○
○
Bombay Stock Exchange インド
5115
1225.47
×
○
非開示
National Stock
インド
1641
1200.74
×
○
×
スイス
280
1122.74
○
検討中
×
3263
1096.2
○
○
未回答
韓国
1816
1091.5 +
○
○
○
Shenzhen Stock Exchange 中国
Exchange of India
SIX Swiss Exchange
BME Spanish Exchanges スペイン
Korea Exchange
1420
1044.6
○
非開示
非開示
南アフリカ
392
852.28
○
○
○
ロシア
284
770.61
×
×
未回答
シンガポール
772
665.73
○
計画中
○
Bolsa Mexicana de Valores メキシコ
476
441.41
×
○
非開示
Bursa Malaysia
937
431.09
○
計画中
○
Johannesburg
Stock Exchange
Moscow Interbank
Currency Exchange
Singapore Exchange
マレーシア
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IR
Indonesia Stock Exchange インドネシア
442
407.71
×
○
未回答
Saudi Stock Exchange サウジアラビア
150
347.49
×
×
未回答
- Tadawul
Bolsa de Santiago
チリ
266
290.37
×
×
×
The Stock Exchange
タイ
545
289.75
○
計画中
○
Istanbul Stock Exchange トルコ
264
232.69
○
計画中
×
Philippine Stock Exchange フィリピン
253
175.89
×
計画中
×
of Thailand
出典/Sustainable Stock Exchanges Initiative“A Report on Progress”より一部抜粋し、時価総額で
並び替え(筆者仮訳)
はグループ全体としての情報を一元的にまとめ、開
2 日本企業の多言語でのESGディスクロージャー
の状況
示しておくものです。もう1つが、ローカルコミュ
グローバルでのディスクロージャーには2種類の
ニティへのコミュニケーション対応として、リージ
ターゲットが考えられます。1つは投資家を始めと
ョナル情報を現地語で開示をするものです。内容は
したグローバルなステークホルダーに対して、アカ
その地域特性を色濃く反映したものとなります。
ウンタビリティを果たすために実施されます。これ
図1:ESGディスクロージャーのターゲット
グローバルな
ステークホルダー
(主に投資家)
グループ情報
ステークホルダーの
拡大により、グループ
情報の多言語化
英語
リージョナル
情報
リージョナル リージョナル
情報
情報
現地語
英語
企業評価をしてもらう
ために、リージョナル
でのエンゲイジメント
を開示する
現地語
リージョナルな
ステークホルダー
現地語
現地語
リージョナルな
ステークホルダー
リージョナルな
ステークホルダー
顧客、従業員、地域社会、行政等
出典/ディスクロージャーニュース 2011年7月号より再掲
日本企業はグローバル化にともなって、ステーク
いましたが、本稿ではCSRの先進企業に限らず、
ホルダーの範囲も大きく拡大してきました。多言語
代表的な日本企業全体のディスクロージャーの状況
でレポートを作成することは、実際のコミュニケー
を 見 て い き た い と 思 い ま す。 調 査 対 象 企 業 は
ションツールとして活用できることのほか、現地で
TOPIX100(2012年10月時点)に選出されてい
コミュニケーションを行っていることのエビデンス
る100社で、多言語でのディスクロージャーの現
ともなります。適切にコミュニケーションを図るこ
状を調査しました。
とは、リスクマネジメントにもつながってきます。
2010年版のレポートを対象とした前回調査は、
東洋経済CSRランキングの上位30社を対象として
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2.1 Webでのディスクロージャー
まずESG情報に限らず、コーポレート情報を
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Webでどの程度多言語で公開しているかを調査
36社となっています。本稿では日本語、または
しました。TOPIX100のうち、英語で公開して
英語のコーポレートサイトよりリンクがあるもの
いるのは91社、中国語は55社、韓国語やドイツ
のみ確認しています。その内容は現地子会社のも
語といったその他の言語でも公開しているのは
のの場合もあります。
グラフ2:多言語でのweb公開状況
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
91
55
36
英語
中国語
その他
出典/各社HPより作成。
英語版は91社の全てがグループまたは本社の
は主に英語で公開されており、それにリージョナ
コーポレートサイトの英語版として公開されてい
ルサイトが紐づく構成となっている事例が多くな
るものです。中国語版についても55社のうち、
っています。グローバルサイトは日本企業の場合、
31社はコーポレートサイトの翻訳版で、ビジネ
母国語である日本語もあわせて公開している場合
スネットワーク等からアクセスできる現地子会社
もあります。
の中国語サイトが確認できた企業が24社ありま
2.2 CSRレポートの発行状況
す。その他の言語については、4社がコーポレー
トサイトの翻訳版、コーポレートサイトから現地
TOPIX100のうち、多言語でのCSRレポート
子会社のサイトへのリンクがあったものは32社
等(サステナビリティレポート、社会環境報告書、
という構成となっています。
統合レポート等を含む)の作成状況を確認しまし
た。Web上で、PDFが確認できる企業は、日本
語版が95社、英語版が86社、中国語版が21社
TOPIX100のうち、
「グローバルサイト」とい
となっています。
う名称で総合的なコーポレートサイトを公開して
いる企業は、42社あります。グローバルサイト
グラフ3:CSRレポート等の作成状況
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
95
86
21
日本語
英語
中国語
出典/各社HPより作成
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IR
TOPIX100のうち、CSRレポート等を作成し
グラフ4:中国語版CSRレポート等のコンテンツ
ているのは95社でした。環境省「環境にやさし
い企業行動調査」によれば、CSRレポート等を
作成している上場企業は56.0%で、全体傾向と
比較しても、ほとんどの大企業がCSR情報を公
別編集
開していることが確認できます。未作成の5社で
6社
も、アニュアルレポートにCSR情報を掲載して
差異なし
9社
いる事例も見受けられ、ほとんどの企業が何らか
のESGディスクロージャーをしていることが分
一部編集
かります。
6社
このうち86社が英語版CSRレポート等も作成
しており、英語版は日本語版と内容に差異がある
形 で 作 成 さ れ る 事 例 は ほ と ん ど あ り ま せ ん。
出典/各社中国語版CSRレポートから作成
PDFで確認ができるのは86社ですが、HTMLの
みで開示している企業も5社あるため、91社が
中国の場合、リージョナルな課題が多くあり、
英語で何らかのESGディスクロージャーを行っ
表紙から構成まで全くの別編集になっているレ
ていることになります。
ポートは21社中6社で、少なくありません。そ
のボリュームは各社によってまちまちで、20ペー
中国語版CSRレポート等をPDFで作成してい
ジ前後の簡易的なものか、60ページ前後の報告
るのは、TOPIX100社のうち21社で、それに加
重視のもののどちらか両極に分かれる傾向が見ら
えてHTMLのみでESG情報を開示している企業
れます。
も21社あるため、合わせて42社の企業が中国語
中国におけるESGイシューはSyn Tao(中国
でESGディスクロージャーを行っていることに
のCSRコンサルティング会社)がESGリサーチ
なります。このHTMLのみで開示されている21
としてまとめており、これによるとESGの中で
社のうち、10社は英語版CSRレポートへリンク
は社会課題の割合が最も高く、個別テーマについ
をはっています。
ては、以下のようなランク付けがされています。
中国語版CSRレポート等の特徴として、内容
が日本語版と必ずしも同一ではない点にありま
す。内容で区分すると、中国のリージョナル情報
のみを盛り込んで日本語版とは全く異なった内容
のレポート、日本語版CSRレポート等の一部を
中国の内容に差し替えて編集し直したレポート、
日本語版CSRレポート等と同内容のレポートの3
種類が見受けられます。一部が編集されている場
合は、差異が発生するパートとして、トップコミ
ットメントや会社案内、従業員情報、地域貢献の
ESGイシューのトップ5(2010─2011)
1. 労働安全衛生
2. 汚職と詐欺
3. 環境・工業災害
4. 経営倫理
5. 製品安全
出典/Syn Tao“Revealing China’s ESG Issues”より筆者仮訳
日本語版CSRレポート等の完全翻訳の場合は、
ページ等が挙げられます。中国語版CSRレポー
フルレポート版よりもサマリー版のみが翻訳され
ト等をPDFで作成している21社を3つの分類に
る事例の方が多く見られます。網羅的な報告とい
すると以下の通りになります。
うよりは、重要テーマについてしっかりとコミュ
ニケーションを図る傾向が強いためだと推察され
ます。英語版はアカウンタビリティの側面が強い
と思われ、フルレポート版とサマリー版の一方の
みが翻訳される場合は、フルレポート版のみの事
例の方が多く見受けられます。
中国語以外の言語でCSRレポート等を作成し
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ているのは6社で、フランス語やドイツ語、韓国
3 おわりに
日本企業のCSRは社会、ガバナンス側面におけ
語での事例が見られました。これらは日本語版の
完全翻訳だと思われます。
る評価が低く、またISO26000への対応も進んで
いないと言われています。その要因はローカルコミ
調査対象企業が異なるため、2010年版を対象
ュニティとの双方向的なエンゲイジメントが図られ
とした前回調査と直接的な比較はできませんが、
ていないことにあると思われます。ISO26000の
コーポレートサイトのトップページから中国語
発行を受け、ステークホルダー・エンゲイジメント
ページへリンクされている事例は増加したと思わ
の重要性はさらに増しています。直近のトレンドで
れます。また、中国語版CSRレポート等作成し
ある「統合報告」も、投資家と行う長期志向でのエ
た場合に、当該言語のページにだけ掲載するので
ンゲイジメントを意図しているものです。ステーク
はなく、日本語または英語で公開しているコーポ
ホルダーがグローバル化、多様化する中において、
レートサイトにおいてもリリースを出したり、英
そのコミュニケーションの手段である言語も多様化
語サイトからもレポートが直接ダウンロードでき
しており、CSRレポートの多言語化もその手段の1
たりするように配慮している事例が多く見られま
つだと思われます。実際の企業活動においては、
す。これは、ローカルコミュニティとも現地語を
CSRレ ポ ー ト に 限 ら ず、 企 業 理 念 や コ ー ド ・ オ
用いてESGコミュニケーションを図っているこ
ブ・コンタクト、倫理方針等の社内文書は各国語に
とを示すためだと推察されます。
翻訳されている事例も増えている現状があります。
ブリティッシュテレコム(BT)では、エグゼク
具体的な事例として、トヨタ自動車では、海外
ティブサマリーを9カ国語で作成し、英語版のCSR
連結子会社等の地域・国別報告書を16ヵ国/地域
ページからダウンロードできるようにしています。
で発行し、日本語/英語版コーポレートサイトか
8ページのレポートでトップのコミットメントから
ら各現地子会社のホームページへリンクさせてい
KPIまで、重要なテーマに絞って作成されていま
ます。これらはリージョナルレポートとなってい
す。
ます。ファーストリテイリングでは、グループ
リージョナルなコミュニケーションを考えた場
CSRレポートを5カ国語で作成し、日本語/英語
合、それぞれのローカルコミュニティにおけるテー
のコーポレートサイトで直接ダウンロードできる
マの違いを考慮する必要はありますが、自社のビジ
ようにしています。パナソニックではコーポレー
ョン、マテリアリティテーマを伝えることも重要に
トサイトCSRページのニュースで、パナソニッ
なると考えられます。今後の課題として、ローカル
クインドがCSRレポートを作成した旨のリリー
コミュニティの情報ニーズに正しく応えるととも
スを出し、現地子会社ホームページへリンクさせ
に、統合報告の文脈の中で、自社のビジョンや戦略
ています。
をコミュニケーションしていく必要性が高まってく
ると推察されます。
〈参考資料〉
s ESG Issues”2011年
・Syn Tao“Revealing China’
・H ong Kong Exchanges and Clearing Limited “Environmental, Social and Governance
Reporting Guide”2012年
・Just means“The Rise Of Reporting In China: How State-Owned Companies Can Dig Deeper”
2013年
・あずさ監査法人「国連持続可能な開発会議(リオ+20)の成果とは?」2012年
・藤井敏彦「競争戦略としてのグローバルルール―世界市場で勝つ企業の秘訣」2012年
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取引所
不適当合併等に係る
上場廃止審査について
鈴木 広樹
事業創造大学院大学准教授 今回は不適当合併等に係る上場廃止審査について
④ 非上場会社からの事業の譲受け
解説します。平成15年から平成24年までの10年
⑤ 会社分割による他の者への事業の承継
間において、合併等による実質的存続性の喪失に係
⑥ 他の者への事業の譲渡
る猶予期間入りとなった東京証券取引所(以下、
「東
⑦ 非上場会社との業務上の提携
証」と言います。
)上場銘柄は、21銘柄あります。
⑧ 第三者割当による株式若しくは優先出資の
上場会社が組織再編行為等を行おうとする場合、検
討しなければならない事項が多数ありますが、この
不適当合併等に係る上場廃止審査も、検討を欠くこ
割当て
⑨ その他上記と同等の効果をもたらすと認め
られる行為
とができない事項の一つです。
なお、不適当合併等に係る上場廃止審査は各証券
なお、⑨に「その他上記と同等の効果をもたら
取引所において同様に行われていますが、本稿では
すと認められる行為」とありますが、①及び②と
東証の規則に沿って解説します。
同等の効果をもたらすと認められる行為として
は、非上場会社の子会社化などが、③及び④と同
1.不適当合併等とは
等の効果をもたらすと認められる行為としては、
先ず不適当合併等とは、上場会社が実質的存続
非上場会社からの事業上の固定資産の譲受けなど
性を喪失する組織再編行為等のことです。例えば、
が、⑤から⑧と同等の効果をもたらすと認められ
自社が存続会社として他社を吸収合併する場合、
る行為としては、他の者への事業上の固定資産の
他社よりも自社の規模が大きければ、通常、実質
譲渡、事業の休止、事業の廃止などが考えられま
的にも自社が存続会社であると言えます。しかし、
す。
自社よりも他社の規模が大きいと、形式的には自
社が存続会社ですが、実質的にも自社が存続会社
であると言えるか否かは疑わしくなってきます。
2.不適当合併等に係る上場廃止審査の目的
東証は、上場会社が吸収合併等を行う場合、そ
上場会社が形式的には存続会社だが、実質的には
れが不適当合併等に当たるか否かを審査し、不適
存続会社とは言えないとされる組織再編行為等を
当合併等に当たる場合は、次に上場会社の上場有
指して、不適当合併等と言うのです。
価証券を上場廃止にするか否かを審査します。こ
具体的には、上場会社が以下のような行為(以
の不適当合併等に係る上場廃止審査の目的は、い
下、この①から⑨の行為を「吸収合併等」と言い
わゆる裏口上場を防止するためです。裏口上場と
ます。
)を行った結果、実質的な存続会社ではな
は、非上場会社が上場会社と組織再編行為等を行
くなったとされた場合を言います(東証・有価証
うことによって、新規上場審査を免れて実質的に
券上場規程(以下、
「上場規程」と言います。)第
上場を果たすことを言います。
601条第1項第9号a、東証・有価証券上場規程
なお、裏口上場の防止が目的ならば、1であげ
施行規則(以下、
「施行規則」と言います。)第
た行為のうち①から④の行為を規制すればよく、
608条第8項第1号)
。
⑤から⑧の行為まで規制する必要はないように思
われます。⑤から⑧の行為も規制するのは、不適
① 非上場会社の吸収合併
当合併等に係る上場廃止審査の目的を拡大して、
② 非上場会社を完全子会社とする株式交換
裏口上場の防止にとどまらず、上場会社の実質的
③ 会社分割による非上場会社からの事業の承
存続性喪失自体を防止しようとしている(⑤から
継
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⑧の行為により上場会社が抜け殻になるようなこ
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4.実質的存続性審査の判断基準
とを防止しようとしている)からなのでしょうか。
一見したところそのように思われるのですが、実
実質的存続性審査においては、上場会社(③及
はそうではなく、⑤から⑧の行為の規制も、裏口
び④を除き、その企業グループを含む。)に関す
上場を防止するためのものなのです。⑤から⑧の
る以下の事項を総合的に勘案して、上場会社の実
行為が、①から④の行為による裏口上場の一環と
質的存続性の有無を確認するとされています(東
して行われることがあるため、それらも規制して
証・上場管理等に関するガイドラインⅣ1)
。
いるのです。
① 経営成績及び財政状態
② 役員構成及び経営管理組織(事業所の所在
3.不適当合併等に係る上場廃止審査の構成
地を含む。)
不適当合併等に係る上場廃止審査は、
「実質的
存続性審査」と「新規上場審査に準じた審査」の
③ 株主構成
2つの審査で構成されるものです。
「不適当合併
④ 商号又は名称
等に係る上場廃止審査」という1つの独立した審
⑤ その他当該上場会社に大きな影響を及ぼす
と認められる事項
査があるわけではないのです。
先ず実質的存続性審査とは、上場会社が吸収合
併等を行う場合に、それが不適当合併等に当たる
ただし、実質的存続性審査に係る軽微基準が定
か否かを審査するものです。そして、新規上場審
められており、先ず吸収合併等がそれに該当する
査に準じた審査とは、実質的存続性審査の結果、
か否かが確認されます。軽微基準の詳細について
吸収合併等が不適当合併等に当たるとされた場
は後述しますが、裏口上場防止の観点から一般に
合、一定期間内にあらためて上場会社が新規上場
は問題があるとは考えにくい態様が示されていま
審査基準に準じた基準に適合しているか否かを審
す。そして、軽微基準に該当する場合は上場会社
査するものです。
に実質的存続性があるものとして取り扱われ、該
当しない場合は更に詳細な審査が行われます。そ
の詳細な審査において、上にあげた①から⑤の事
項が総合的に勘案されることになるのです。
実質的存続性審査の流れ
審査開始
軽微基準に該当するか?
該当する
該当しない
実質的存続性
がある (上場維持)
実質的存続性
がない可能性
実質的存続性
がある (上場維持)
詳細審査
実質的存続性
がない 不適当合併等
を実行したら
猶予期間入り
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取引所
5.猶予期間とは
⑶ 吸収合併等の実行時点
実質的存続性審査の結果、上場会社に実質的存
東証は、上場会社が吸収合併等を行った時点
続性がないと認められた場合、吸収合併等を行っ
で「新規上場審査に準じた審査を受けるための
た日から、当該日以後最初に終了する事業年度の
猶予期間」に入ったこと及び猶予期間を東証
末日から3年を経過する日(当該3年を経過する
ホームページに掲載するなどして、投資者への
日が上場会社の事業年度の末日に当たらない場合
周知を図ります。
は、当該3年を経過する日の直前に終了する事業
年度の末日)までの間を「猶予期間」として、こ
の猶予期間内に上場会社は新規上場審査に準じた
審査を受けることになります。
⑷ 猶予期間
新規上場審査に準じた審査は、猶予期間に入
った後、上場会社からの申請に基づいて実施さ
猶予期間とは、上場廃止を猶予する期間のこと
れます。そして、東証は、審査を実施し、猶予
です。以前は、上場会社が吸収合併等を行って実
期間内に新規上場審査基準に準じた基準に適合
質的存続性を喪失した場合、原則として上場廃止
していると判断した場合、その時点で猶予期間
とされていました。平成11年の制度改正により、
を解除する旨を東証ホームページに掲載するな
そうした場合であっても上場廃止を一定期間猶予
どして、投資者への周知を図ります。
し、その間に新規上場審査基準に準じた基準に適
合すると認められれば、上場を維持することとさ
れたのです(新規上場審査基準に準じた基準に適
合すると認められなければ、上場廃止とされる)。
⑸ 猶予期間終了時点
東証は、猶予期間の最終日(吸収合併等を行
った日以後最初に終了する事業年度の末日から
3年を経過する日(当該3年を経過する日が上
6.不適当合併等に係る上場廃止審査の流れ
場会社の事業年度の末日に当たらない場合は、
⑴ 吸収合併等の決定・適時開示の2週間前まで
当該3年を経過する日の直前に終了する事業年
上場会社は、吸収合併等の決定・適時開示の
度の末日)
)までに、新規上場審査基準に適合
2週間前までに東証所定の概要書を作成して、
しているかどうかが確認できていない場合、そ
東証に対して事前相談を行うよう求められてい
の翌日から上場会社の上場有価証券を監理銘柄
ます。そして、東証は、上場会社からの事前相
に指定します。
談を受けて、実質的存続性審査を開始します。
なお、吸収合併等の決定・適時開示の2週間
前までに事前相談を行うよう求められているの
⑹ 猶予期間終了後、有価証券報告書日から起算
して8日経過時点
は、吸収合併等の決定・適時開示までに実質的
上場会社は、猶予期間が終了した後、最初の
存続性審査の結論が出ていることが望ましいと
有価証券報告書の提出日から起算して8日目
の考えによるのですが、実質的存続性審査は必
(休業日を除く)の日まで、新規上場審査に準
ずしも2週間以内に終わるとは限らないとされ
じた審査を申請して受けることができます(審
ています。
査料400万円(マザーズの上場会社及び上場
外国会社は200万円)が必要)。審査の結果、
⑵ 吸収合併等を適時開示した時点
東証は、実質的存続性審査の結果、上場会社
に実質的存続性がないと認められると判断した
133
めて申請することができます。
新規上場審査に準じた審査の結果が出るまで
点で「吸収合併等の実行時点から「新規上場審
の間は監理銘柄に指定され、審査の結果、新規
査に準じた審査を受けるための猶予期間」に入
上場審査基準に準じた基準に適合していると判
る可能性がある」旨を東証ホームページに掲載
断された場合は、上場維持となり、監理銘柄指
するなどして、投資者への周知を図ります。な
定が解除されます。適合していないと判断され
お、上場会社が吸収合併等を適時開示した後、
た場合は、上場廃止となり、整理銘柄に指定さ
実質的存続性審査が終了し、上場会社に実質的
れます。
その時点で同様の周知を図ります。
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いと判断された場合でも、期限内であれば、改
場合、上場会社が吸収合併等を適時開示した時
存続性がないと認められると判断した場合は、
133 |
新規上場審査基準に準じた基準に適合していな
猶予期間が終了した後、最初の有価証券報告
書の提出日から起算して8日目(休業日を除く)
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の日まで、新規上場審査に準じた審査を上場会
って、猶予期間が終了した後、新規上場審査に
社が申請しない場合は、上場廃止となり、整理
準じた審査を行っている場合は監理銘柄(審査
銘柄に指定されます。
中)に、その他の場合(新規上場審査に準じた
審査を上場会社が申請しない場合)は監理銘柄
なお、監理銘柄とは、上場有価証券が上場廃
(確認中)に指定されます。
止基準に該当するおそれがある場合に、その事
実を投資者に周知させるために指定されるもの
また、整理銘柄とは、上場有価証券の上場廃
です(上場規程第610条)
。上場廃止となるか
止が決定された場合に、その事実を投資者に周
どうかの審査を行っている場合は「監理銘柄(審
知させるために指定されるものです(上場規程
査中)
」に、その他の場合は「監理銘柄(確認中)」
第611条、施行規則第606条)。
に指定されます(施行規則第605条)
。したが
不適当合併等に係る上場廃止審査の流れ
時点・期間
吸収合併等の決定・適
時開示の2週間前まで
上場会社と東証の対応
〈上場会社〉
東証所定の概要書を作成して、東証に対して事前相談
〈東証〉
上場会社からの事前相談を受けて実質的存続性審査を開始
吸収合併等を適時開示
した時点
〈上場会社〉
吸収合併等に関して適時開示
〈東証〉
実質的存続性審査の結果、上場会社に実質的存続性がないと認められると判
断した場合、「吸収合併等の実行時点から「新規上場審査に準じた審査を受け
るための猶予期間」に入る可能性がある」旨を東証ホームページに掲載する
などして、投資者への周知を図る
吸収合併等の実行時点
〈上場会社〉
吸収合併等を実行
〈東証〉
「新規上場審査に準じた審査を受けるための猶予期間」に入ったこと及び猶予
期間を東証ホームページに掲載するなどして、投資者への周知を図る
猶予期間
吸収合併等を行った日から、当該日以後最初に終了する事業年度の末日から
3年を経過する日(当該3年を経過する日が上場会社の事業年度の末日に当
たらない場合は、当該3年を経過する日の直前に終了する事業年度の末日)
までの間
〈上場会社〉
新規上場審査に準じた審査を申請
〈東証〉
上場会社からの申請を受けて、新規上場審査に準じた審査を開始。猶予期間
内に新規上場審査基準に準じた基準に適合していると判断した場合、その時
点で猶予期間を解除する旨を東証ホームページに掲載するなどして、投資者
への周知を図る
猶予期間終了時点
〈東証〉
新規上場審査基準に適合しているかどうかが確認できていない場合、翌日か
ら上場会社の上場有価証券を監理銘柄に指定
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猶予期間終了後、有価
証券報告書提出日から
起算して8日経過時点
〈上場会社〉
この日まで新規上場審査に準じた審査を申請可能
〈東証〉
新規上場審査に準じた審査を上場会社が申請しない場合は、上場廃止を決定
し、上場会社の上場有価証券を整理銘柄に指定。審査が終了していない場合
は監理銘柄指定を継続
示 基 準 は 以 下 の 表 の と お り で す( 施 行 規 則 第
7.事前相談の要否
上述のとおり、不適当合併等に係る上場廃止審
査は、上場会社が東証に対して事前相談を行うこ
401条。吸収合併等に該当する決定事実に関す
る開示基準のみを示している)。
とによって始まるのですが、この事前相談は、吸
なお、概要書の提出期限は規則上「決定後速や
収合併等を行う全ての場合に必要とされるとは限
かに」とされていますが、上述のとおり、東証は、
らず、不要とされる場合があります。事前相談は、
吸収合併等の決定・適時開示までに実質的存続性
上場会社が東証に対して東証所定の概要書を提出
審査の結論が出ていることが望ましいとの考えに
することにより行うのですが(案件の内容に応じ
より、吸収合併等の決定・適時開示の2週間前ま
て、概要書の他に資料提出や報告・説明等も求め
でに事前相談を行うよう求めています(しかし、
られることがある)
、この概要書の提出が必要と
実質的存続性審査は必ずしも2週間以内に終わる
されるのは、適時開示が必要なものを行う場合に
とは限らないとされている)。
限られるからです(上場規程第421条、施行規
則第417条第6号e⒝・第7号c⒝・第8号e
吸収合併等に関する適時開示の開示基準
⒝・第9号e・第10号・第11号・第12号)。
・連結財務諸表作成会社の場合、※を付した開示
合併、株式交換、会社分割といった組織再編行
基準には連結財務諸表上の数値と個別財務諸表
為に関する適時開示には軽微基準が設けられてお
上の数値の両方を当てはめて、適時開示が必要
らず、全ての場合に適時開示が必要とされるた
か否かを判断(※を付していない開示基準には
め、それらを行う場合は必ず事前相談が必要とさ
連結財務諸表上の数値のみを当てはめて判断)
れます。しかし、その他の行為に関する適時開示
・IFRS適用会社の場合、
「経常利益」を用いた開
には軽微基準が設けられているため、適時開示が
示基準は適用されず、また、「当期純利益」を
必要な場合にのみ事前相談を行えばよいというこ
用いた開示基準は「親会社の所有者に帰属する
とになります。吸収合併等に関する適時開示の開
当期利益」に置き換えて適用
事実
新株式発行
開示基準
発行価額の総額が
1億円以上(注1)
1億円以上
自己株式の処分
処分価額の総額が
株式交換
全て開示
株式移転
全て開示
合併
全て開示
会社分割
全て開示
事業の譲渡
前期末における譲渡事業に係る資産の帳簿価額が
前期末における純資産
額の30%以上※
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当期又は翌期のいずれかにおける売上高の減少見
前期の売上高の10%
込額が
以上※
当期又は翌期のいずれかにおける経常利益の増減
前期の経常利益(注2)
見込額が
の30%以上
当期又は翌期のいずれかにおける当期純利益の増
前期の当期純利益(注
減見込額が
3)の30%以上
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事業の譲受け(注4)
資産の増加見込額が
前期末における純資産
額の30%以上※
業務提携
資本提携を伴う業務提
当期又は翌期のいずれかにおける売上高の増加見
前期の売上高の10%
込額が
以上※
当期又は翌期のいずれかにおける経常利益の増減
前期の経常利益(注2)
見込額が
の30%以上
当期又は翌期のいずれかにおける当期純利益の増
前期の当期純利益(注
減見込額が
3)の30%以上
翌3期間のいずれかにおける売上高の増加見込額
前期の売上高の10%
が
以上※
株式を取得する場合、取得価額が
前期末における純資産
携(注5)
額と資本金の額の大き
い方の10%以上※
株式を取得される場合、取得される株式数が
前期末における発行済
株式総数(注6)の5
%超
合弁会社設立(注5)
合弁会社の翌3期間の
期末における総資産の
前期末における純資産
いずれかの
予想帳簿価額に出資比
額の30%以上※
率を乗じたものが
予想売上高に出資比率
を乗じたものが
子会社取得
新子会社の資本金の額が
前期の売上高の10%
以上※
資本金の10%以上(注
7)
前期における新子会社との仕入又は売上取引高が
総仕入又は総売上高の
10%以上(注7)
新子会社の前期の
期末における総資産の
前期末における純資産
帳簿価額が
額の30%以上※
売上高が
前期の売上高の10%
以上※
経常利益が
前期の経常利益(注2)
の30%以上
当期純利益が
前期の当期純利益(注
3)の30%以上
新子会社取得の対価の額が
前期末における純資産
額の15%以上※(注
8)
子会社の売却
子会社の資本金の額が
資本金の10%以上(注
7)
前期における子会社との仕入又は売上取引高が
総仕入又は総売上高の
10%以上(注7)
子会社の前期の
期末における総資産の
前期末における純資産
帳簿価額が
額の30%以上※
売上高が
前期の売上高の10%
以上※
経常利益が
前期の経常利益(注2)
の30%以上
当期純利益が
前期の当期純利益(注
3)の30%以上
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子会社の設立
子会社の資本金の額が
資本金の10%以上(注
7)
子会社の翌3期間のい
子会社との仕入又は売
前期の総仕入又は総売
ずれかにおける
上取引高の見込額が
上高の10%以上(注
7)
期末における総資産の
前期末における純資産
帳簿価額の見込額が
額の30%以上※
売上高の見込額が
前期の売上高の10%
以上※
経常利益の見込額が
前期の経常利益(注2)
の30%以上
当期純利益の見込額が
前期の当期純利益(注
3)の30%以上
固定資産の譲渡
固定資産の前期末における帳簿価額が
前期末における純資産
額の30%以上※
経常利益の増減見込額が
前期の経常利益(注2)
の30%以上
当期純利益の増減見込額が
前期の当期純利益(注
3)の30%以上
固定資産の取得
固定資産の取得見込価額が
事業の全部又は一部の
翌3期間のいずれかに
休止又は廃止
おける
前期末における純資産
額の30%以上※
商号又は名称の変更
売上高の減少見込額が
前期の売上高の10%
以上※
経常利益の増減見込額
前期の経常利益(注2)
が
の30%以上
当期純利益の増減見込
前期の当期純利益(注
額が
3)の30%以上
全て開示
(注1)株主割当により発行する場合と、買収防衛策の導入又は発動に伴い発行する場合は、全て開示しなけ
ればならない(施行規則第401条第1号)
(注2)前期の経常利益が前期の売上高の2%未満の場合は、以下の①と②のいずれか大きい額に置き換える。
① 直前5期間の経常利益の平均(赤字は0として計算)
② 前期の売上高の2%
(注3)前期の当期純利益が前期の売上高の1%未満の場合は、以下の①と②のいずれか大きい額に置き換え
る。
① 直前5期間の当期純利益の平均(赤字は0として計算)
② 前期の売上高の1%
(注4)このほか、発行済株式又は持分の全部を所有する子会社からの事業の全部又は一部の譲受けに関して
開示が必要とされる(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第49条第8号ハ)
(注5)この開示基準に該当しなくても、業務提携の開示基準に該当すれば、開示が必要になる。
(注6)連結財務諸表提出会社の場合、直前連結会計年度末における発行済株式総数と直前事業年度末におけ
る発行済株式総数の両方を用いる。
(注7)連結財務諸表提出会社であっても、この基準には個別財務諸表上の数値のみを当てはめて、適時開示
が必要か否かを確認する。
(注8)新子会社取得の対価の額には、株式又は持分の売買代金、子会社取得に当たって支払う手数料、報酬
その他の費用等の額が含まれる。また、他に一連の行為として行われる子会社取得(実質的に一体のも
のと認められる子会社取得)がある場合は、その対価も合わせて適時開示が必要か否かを判断する。
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8.実質的存続性審査に係る軽微基準
渡して事業規模を小さくすれば、上場会社に吸
⑴ 相手が連結子会社であること
収合併されることにより裏口上場をすることが
先ず、吸収合併等を行う全ての場合において、
可能になってしまいます。
相手が連結子会社であれば、上場会社に実質的存
そのため、上場会社が、この行為を決定した
続性があるとされます(施行規則第608条第8
日以前3年間に相手の会社(その関係会社を含
項第2号a)
。そもそも企業グループ内での行為
む)との間で上記1①から⑧の行為若しくは相
であれば、実質的存続性の問題は生じないはずで
手の会社との共同による株式移転その他これら
す。
と同等の効果をもたらすと認められる行為を行
しかし、この軽微基準は悪用される可能性があ
っていないこと又は決定していないことを要す
ります。例えば、ある非上場会社を裏口上場させ
るとされています(施行規則第608条第8項
ようとした場合、先ず上場会社の連結子会社にそ
第2号b⒜)。
の非上場会社を吸収合併させた後、上場会社がそ
なお、非上場会社の吸収合併、非上場会社を
の連結子会社を吸収合併すれば、可能になってし
完全子会社とする株式交換と同等の効果をもた
まいます。
らすと認められる行為としては、非上場会社の
そのため、上場会社が吸収合併等を決定した日
以前3年間において、相手の連結子会社が、非上
子会社化などが考えられますが、それを行う場
合も同様にこの軽微基準を適用します。
場会社(連結子会社を除く)との間で上記1①か
ら⑧の行為若しくは非上場会社(連結子会社を除
②上記1③④の行為を行う場合
く)との共同による株式移転その他これらと同等
上記1③④の行為、すなわち、会社分割によ
の効果をもたらすと認められる行為を行っていな
る非上場会社からの事業の承継、非上場会社か
いこと又は決定していないことを要するとされて
らの事業の譲受けを行う場合において、事業の
います。
承継・譲受けの対象となった資産の額、その対
象となった部門等における売上高に相当すると
⑵ 相手の規模が小さいこと
①上記1①②の行為を行う場合
上記1①②の行為、すなわち、非上場会社の
認められる額、その対象となった部門等におけ
る経常利益金額に相当すると認められる額が、
それぞれ上場会社の直前連結会計年度(末日)
吸収合併、非上場会社を完全子会社とする株式
における連結総資産額、連結売上高、連結経常
交換を行う場合において、相手の会社の直前連
利益金額未満であれば、上場会社に実質的存続
結会計年度(末日)における連結総資産額、連
性があるとされます(連結財務諸表提出会社で
結売上高、連結経常利益金額が、それぞれ上場
ない場合は「直前連結会計年度(末日)におけ
会社の直前連結会計年度(末日)における連結
る連結総資産額、連結売上高、連結経常利益金
総資産額、連結売上高、連結経常利益金額未満
額」を「事業年度(末日)における個別財務諸
であれば、上場会社に実質的存続性があるとさ
表における総資産額、売上高、経常利益金額」
れます(連結財務諸表提出会社でない場合は「直
に、IFRS任意適用会社の場合は「連結経常利
前連結会計年度(末日)における連結総資産額、
益金額」を「親会社の所有者に帰属する当期利
連結売上高、連結経常利益金額」を「事業年度
益金額」にする。施行規則第608条第8項第2
(末日)における個別財務諸表における総資産
号c⒝から⒟)
。この軽微基準の趣旨は①と同
額、売上高、経常利益金額」に、IFRS任意適
用会社の場合は「連結経常利益金額」を「親会
じです。
この軽微基準も、①と同様に悪用される可能
社の所有者に帰属する当期利益金額」にする。
性を排除するために、上場会社が、この行為を
施行規則第608条第8項第2号b⒝から⒟)
。
決定した日以前3年間に相手の会社(その関係
上場会社の方の事業規模が大きければ、上場会
会社を含む)との間で上記1①から⑧の行為若
社の存続性が維持されると考えられるからで
しくは相手の会社との共同による株式移転その
す。
他これらと同等の効果をもたらすと認められる
しかし、この軽微基準も悪用される可能性が
行為を行っていないこと又は決定していないこ
あります。例えば、上場会社よりも規模が大き
とを要するとされています(施行規則第608
な非上場会社であっても、上場会社に事業を譲
条第8項第2号c⒜)。
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なお、会社分割による非上場会社からの事業
割当による株式若しくは優先出資の割当てを行
の承継、非上場会社からの事業の譲受けの場合
う場合において、上場会社が、それらの行為を
と同等の効果をもたらすと認められる行為とし
決定した日以前3年間に、それらの行為の当事
ては、非上場会社からの事業上の固定資産の譲
者(その関係会社を含む)との間で上記1①か
受けなどが考えられますが、それを行う場合も
ら⑧の行為若しくはその当事者との共同による
同様にこの軽微基準を適用します。
株式移転その他これらと同等の効果をもたらす
このように、上記1①から④の行為を行う場
と認められる行為を行っていなければ又は決定
合、相手の会社や部門等の事業規模が上場会社
していなければ、上場会社に実質的存続性があ
のそれよりも大きければ、上場会社に実質的存
るとされます(施行規則第608条第8項第2
続性がない可能性があるということになり、更
号d)。
に詳細な審査が行われることになります。とい
この場合、承継又は譲渡される事業の規模な
うことは、相手の会社や部門等の事業規模が上
どが問題にされるわけではありません。上述の
場会社のそれよりも大きい場合は必ず上場会社
とおり、上記1⑤から⑧の行為が規制されるの
に実質的存続性がないというわけではなく、そ
は、①から④の行為による裏口上場の一環とし
うした場合であっても上場会社に実質的存続性
て行われることがあるからです。そのため、裏
があるかもしれないということになります。実
口上場の一環として行われる行為でないことが
質的存続性の有無は、事業規模の比較によって
確認できれば、問題ないということになるので
だけでなく、あくまで上記4①から⑤の事項を
す。
総合的に勘案して、判断されるのです。
なお、上記1⑤から⑧の行為と同等の効果を
もたらすと認められる行為としては、他の者へ
の事業上の固定資産の譲渡、事業の休止、事業
⑶ 上記1⑤から⑧の行為を行う場合
上記1⑤から⑧の行為、すなわち、会社分割
による他の者への事業の承継、他の者への事業
の廃止などが考えられますが、それらを行う場
合も同様にこの軽微基準を適用します。
の譲渡、非上場会社との業務上の提携、第三者
実質的存続性審査に係る軽微基準の概要
行為の内容
1.非上場会社の吸収
軽微基準
次のいずれかに該当すること。
株式交換
⑴ 当該非上場会社が連結子会社で
あること。
ただし、当該連結子会社が、行
● 同等の効果をも
為決定(※2)以前3年間(※3)
たらすと認められ
において、非上場会社(連結子会
る行為を含む。
(※
社(※4)を除く。)と上記1①か
1)
※1:非上場会社の子会社化は、1
と「同等の効果をもたらす行為」
合併又は非上場会社
を完全子会社とする
備考
とする。
※2:当該行為を行うことについて
当該上場会社の業務執行を決定す
る機関が決定した日をいう。
※3:当該決定と同時の場合を含
む。
ら⑧の行為若しくは非上場会社
※4:当該3年間における上記1①
(連結子会社(※4)を除く。)と
から⑧の行為などの行為時点で当
の共同による株式移転その他これ
該上場会社の連結子会社であった
らと同等の効果をもたらすと認め
ものをいう。
られる行為(※5)を行っていな
いこと又は行うことについて当該
※5:原則として、適時開示が必要
な行為をいう。
連結子会社の業務執行を決定する
※6:連結財務諸表提出会社でない
機関が決定していないことを要す
場合にあっては、
「直前連結会計年
る。
度(末日)における連結総資産額、
連結売上高、連結経常利益金額」
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⑵ 当該非上場会社の直前連結会計
とあるのは「事業年度(末日)に
年度(末日)における連結総資産
おける個別財務諸表における総資
額、連結売上高、連結経常利益金
産額、売上高、経常利益金額」と
額(※6)
(※7)が、それぞれ当
する。
※7:IFRS任意適用会社である場合
該上場会社の直前連結会計年度
(末日)における連結総資産額、連
にあっては、
「連結経常利益金額」
結売上高、連結経常利益金額(※
とあるのは「親会社の所有者に帰
6)
(※7)未満であること(※8)。
属する当期利益金額」とする。
ただし、当該上場会社が、行為
※8:連結会計年度(事業年度)の
決定日(※2)以前3年間(※3)
期間が1年未満の場合は、1年間
に当該非上場会社(その関係会社
に換算した数値により比較する。
を含む。)との間で上記1①から⑧
の行為若しくは当該非上場会社と
の共同による株式移転その他これ
らと同等の効果をもたらすと認め
られる行為(※5)を行っていな
いこと又は行うことについてその
業務執行を決定する機関が決定し
ていないことを要する。
2.会社分割による非
※9:非上場会社からの事業上の固
次のいずれかに該当すること。
定資産の譲受けは、2と「同等の
上場会社からの事業
の承継又は非上場会
社からの事業の譲受
効果をもたらす行為」とする。
⑴ 当該非上場会社が連結子会社で
あること。
ただし、当該連結子会社が、行
け
為決定(※2)以前3年間(※3)
● 同等の効果をも
において、非上場会社(連結子会
たらすと認められ
社(※4)を除く。)と上記1①か
(※
る行為を含む。
9)
ら⑧の行為若しくは非上場会社
(連結子会社(※4)を除く。)と
の共同による株式移転その他これ
らと同等の効果をもたらすと認め
られる行為(※5)を行っていな
いこと又は行うことについて当該
連結子会社の業務執行を決定する
機関が決定していないことを要す
る。
⑵ 事業の承継・譲受けの対象とな
った資産の額、当該対象となった
部門等における売上高に相当する
と認められる額、当該対象となっ
た部門等における経常利益金額に
相当すると認められる額が、それ
ぞれ当該上場会社の直前連結会計
年度(末日)における連結総資産
額、連結売上高、連結経常利益金
額(※6)未満であること(※7)。
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ただし、当該上場会社が、行為
決定日(※2)以前3年間(※3)
に当該非上場会社(その関係会社
を含む。)との間で上記1①から⑧
の行為若しくは当該非上場会社と
の共同による株式移転その他これ
らと同等の効果をもたらすと認め
られる行為(※5)を行っていな
いこと又は行うことについてその
業務執行を決定する機関が決定し
ていないことを要する。
3.会社分割による他
次のいずれかに該当すること。
※10:他の者への事業上の固定資産
の譲渡、事業の休止、事業の廃止
の者への事業の承継
(上場規程第208条
第5号の適用を受け
⑴ 当該行為の当事者が連結子会社
て上場する場合を除
ただし、当該連結子会社が、行
く。
)
、他の者への事
為決定(※2)以前3年間(※3)
業の譲渡、非上場会
において、非上場会社(連結子会
社との業務上の提
社(※4)を除く。)と上記1①か
携、第三者割当によ
ら⑧の行為若しくは非上場会社
る 株 式( 優 先 出 資 )
(連結子会社(※4)を除く。)と
の割当て
は、3と「同等の効果をもたらす
行為」とする。
であること。
の共同による株式移転その他これ
らと同等の効果をもたらすと認め
● 同等の効果をも
られる行為(※5)を行っていな
たらすと認められ
いこと又は行うことについて当該
る行為を含む。
(※
連結子会社の業務執行を決定する
10)
機関が決定していないことを要す
る。
⑵ 当 該 上 場 会 社 が、 行 為 決 定 日
(※2)以前3年間(※3)に当該
行為の当事者(その関係会社を含
む。
)との間で上記1①から⑧の行
為若しくは当該当事者との共同に
よる株式移転その他これらと同等
の効果をもたらすと認められる行
為(※5)を行っていないこと又
は行うことについてその業務執行
を決定する機関が決定していない
こと。
』
(東京証券取引所、平
(出所)東京証券取引所上場部編『会社情報適時開示ガイドブック(2012年10月版)
成24年)748-749頁。本稿の内容に合わせて表現を一部修正。
9.上場規程第208条第1号、第3号又は第5号の
適用を受けて上場する場合
合の取扱い)の適用を受けて上場する場合(新設
上場規程第208条第1号(合併による解散の場
合併又は株式移転をする場合における当事者が全
合の取扱い)
、第3号(株式交換、株式移転等に
て上場会社である場合を除く)も、同様の上場廃
よる完全子会社化等の場合の取扱い)又は第5号
止審査が行われます。
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(会社分割による他の者への上場契約の承継の場
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上場規程第208条はテクニカル上場について
結子会社であれば、上場会社に実質的存続性があ
定めているものです。テクニカル上場とは、上場
るとされます(悪用される可能性を排除するため
会社が非上場会社と合併することによって解散す
の規定がある。施行規則第608条第8項第2号
る場合や、株式交換、株式移転により非上場会社
a)
。そして、第1号と第3号の適用を受けて上
の完全子会社となる場合に、その非上場会社が発
場する場合は、相手の会社の事業規模が上場会社
行する有価証券の速やかな上場を認める制度で
のそれよりも小さければ、上場会社に実質的存続
す。そうした場合、東証は、実質的存続性審査に
性があるとされ(悪用される可能性を排除するた
より上場会社に実質的存続性があるか否かを確認
めの規定がある。施行規則第608条第8項第2
し、実質的存続性がないと判断したら、新規上場
号b)
、第5号の適用を受けて上場する場合は、
審査に準じた審査を行い、新規上場審査基準に準
相手の会社の事業規模よりも、上場会社から相手
じた基準に適合しているか否かにより、上場維持
の会社に承継される事業の規模の方が大きけれ
ば、上場会社に実質的存続性があるとされます
か上場廃止かを決定します。
実質的存続性審査に係る軽微基準ついての考え
方も同様です。いずれの場合も、相手の会社が連
(悪用される可能性を排除するための規定がある。
施行規則第608条第8項第2号e)。
実質的存続性審査に係る軽微基準の概要
行為の内容
上場規程第208条第1
軽微基準
備考
※1:当該行為を行うことについて
次のいずれかに該当すること。
当該上場会社の業務執行を決定す
号(合併による解散の
場合の取扱い)又は第
3号(株式交換、株式
る機関が決定した日をいう。
⑴ 当該非上場会社が連結子会社で
※2:当該決定と同時の場合を含
あること。
む。
移転等による完全子会
ただし、当該連結子会社が、行
社化等の場合の取扱
為決定(※1)以前3年間(※2)
い)の適用を受けて上
において、非上場会社(連結子会
から⑧の行為などの行為時点で当
場する場合(新設合併
社(※3)を除く。)と上記1①か
該上場会社の連結子会社であった
又は株式移転をする場
ら⑧の行為若しくは非上場会社
ものをいう。
合における当事者が全
(連結子会社(※3)を除く。)と
て上場会社である場合
の共同による株式移転その他これ
を除く)
らと同等の効果をもたらすと認め
※5:連結財務諸表提出会社でない
られる行為(※4)を行っていな
場合にあっては、
「直前連結会計年
● 同等の効果をも
いこと又は行うことについて当該
度(末日)における連結総資産額、
たらすと認められ
連結子会社の業務執行を決定する
連結売上高、連結経常利益金額」
る行為を含む。
機関が決定していないことを要す
とあるのは「事業年度(末日)に
る。
おける個別財務諸表における総資
※3:当該3年間における上記1①
※4:原則として、適時開示が必要
な行為をいう。
産額、売上高、経常利益金額」と
する。
⑵ 当該非上場会社の直前連結会計
※6:IFRS任意適用会社である場合
年度(末日)における連結総資産
額、連結売上高、連結経常利益金
にあっては、
「連結経常利益金額」
額(※5)
(※6)が、それぞれ当
とあるのは「親会社の所有者に帰
該上場会社の直前連結会計年度
属する当期利益金額」とする。
(末日)における連結総資産額、連
※7:連結会計年度(事業年度)の
結売上高、連結経常利益金額(※
期間が1年未満の場合は、1年間
5)
(※6)未満であること(※7)。
に換算した数値により比較する。
ただし、当該上場会社が、行為
決定日(※1)以前3年間(※2)
に当該非上場会社(その関係会社
を含む。)との間で上記1①から⑧
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取引所
の行為若しくは当該非上場会社と
の共同による株式移転その他これ
らと同等の効果をもたらすと認め
られる行為(※4)を行っていな
いこと又は行うことについてその
業務執行を決定する機関が決定し
ていないことを要する。
上場規程第208条第5
次のいずれかに該当すること。
号(会社分割による他
の者への上場契約の承
継の場合の取扱い)の
適用を受けて上場する
場合(吸収分割に限る)
⑴ 当該非上場会社が連結子会社で
あること。
ただし、当該連結子会社が、行
為決定(※1)以前3年間(※2)
において、非上場会社(連結子会
● 同等の効果をも
社(※3)を除く。)と上記1①か
たらすと認められ
ら⑧の行為若しくは非上場会社
る行為を含む。
(連結子会社(※3)を除く。)と
の共同による株式移転その他これ
らと同等の効果をもたらすと認め
られる行為(※4)を行っていな
いこと又は行うことについて当該
連結子会社の業務執行を決定する
機関が決定していないことを要す
る。
⑵ 当該非上場会社の直前連結会計
年度(末日)における連結総資産
額、連結売上高、連結経常利益金
額(※5)が、それぞれ当該上場
会社からの事業の承継の対象とな
った資産の額、当該対象となった
部門等における売上高に相当する
と認められる額、当該対象となっ
た部門等における経常利益金額に
相当すると認められる額未満であ
ること
(※6)。
(吸収分割に限る。)
ただし、当該上場会社が、行為
決定日(※1)以前3年間(※2)
に当該非上場会社(その関係会社
を含む。)との間で上記1①から⑧
の行為若しくは当該非上場会社と
の共同による株式移転その他これ
らと同等の効果をもたらすと認め
られる行為(※4)を行っていな
いこと又は行うことについてその
業務執行を決定する機関が決定し
ていないことを要する。
(出所)東京証券取引所上場部編『会社情報適時開示ガイドブック(2012年10月版)
』
(東京証券取引所、平
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成24年)749-750頁。本稿の内容に合わせて表現を一部修正。
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その他
金融商品取引法関連法令の改正日誌 平成24年12月1日~平成25年2月28日
〈金商法ニュース Pick up〉
名称
公表日(情報元)
主な内容
備考
連 結 財 務 諸 表 の 用 語、
様式及び作成方法に関
する規則に規定する金
融庁長官が定める企業
会計の基準を指定する
件の一部を改正する件
(金融庁告示第88号)
H24.12.28
(金融庁)
平成21年12月金融庁告示第69号(連結財務諸表の用語、
様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定
める企業会計の基準を指定する件)の一部改正。
―
IASB(国際会計基準審議会)が平成24年7月1日から同
年10月31日までに公表した次の国際会計基準を、連結財
務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則第93条に
規定する指定国際会計基準とする。
○平成24年10月31日公表
国際財務報告基準(IFRS)第1号「国際財務報告基準の初
度適用」(改訂)
国際財務報告基準(IFRS)第3号「企業結合」(改訂)
国際財務報告基準(IFRS)第5号「売却目的で保有する非
流動資産及び非継続事業」(改訂)
国際財務報告基準(IFRS)第7号「金融商品:開示」
(改訂)
国際財務報告基準(IFRS)第9号「金融商品」(改訂)
国際財務報告基準(IFRS)第10号「連結財務諸表」
(改訂)
国際財務報告基準(IFRS)第12号「他の企業への関与の
開示」(改訂)
国際財務報告基準(IFRS)第13号「公正価値測定」
(改訂)
国際会計基準(IAS)第7号「キャッシュ・フロー計算書」
(改訂)
国際会計基準(IAS)第12号「法人所得税」(改訂)
国際会計基準(IAS)第24号「関連当事者についての開示」
(改訂)
国際会計基準(IAS)第27号「個別財務諸表」(改訂)
国際会計基準(IAS)第28号「関連会社及び共同支配企業
に対する投資」(改訂)
国際会計基準(IAS)第32号「金融商品:表示」(改訂)
国際会計基準(IAS)第34号「中間財務報告」(改訂)
国際会計基準(IAS)第39号「金融商品:認識及び測定」
(改訂)
今回は、掲載すべき情報が<金商法ニュース Pick up>のみのため、「改正金融商品取引法関連法令の概要」
はお休みとさせて頂きました。
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その他
ディスクロージャーコラム
過年度遡及会計基準~適用2年目に思うこと
早いもので、3月決算会社の年度決算の時期となりました。本年度は新しい会計基準の適用もなく会計的な
トピックは少ないのですが、そんな中、年間通じてひっきりなしに相談が舞い込む会計基準があります。それ
は、昨年度から適用されている過年度遡及会計基準です。
過年度遡及会計基準は会計方針の変更や前期損益修正が生じた場合に原則として過年度分をやり直すことを
要求する会計基準である事から、当初は実際にどこまで遡れるものなのか、その判断が難しい場面が多いので
はないかというのが最大の関心事でした。しかし実際に過年度遡及会計基準が適用となって、遡及修正の対象
となるのか、また遡及修正の対象とならない場合にその事実をどう表示すべきであるのかを考えさせられる場
面が実に多いことに気付かされました。
例えば固定資産除却損の表示区分です。従来は、ある程度の金額であった場合、もしくは金額を考慮せずに、
固定資産除却損を当たり前のように特別損失に計上してきた会社は少なくなかったのではないでしょうか。な
ぜ特別損失であったのかを考えますと、固定資産除却損が生じる原因のひとつである前期損益修正損という側
面を考慮していたものと思われます。ご承知の通り過年度遡及会計基準が適用されたことにより特別損益に前
期損益修正損益を計上することはできなくなりましたので、固定資産除却損の発生原因を分析する必要が生じ
ることとなりました。臨時損失であるのか否か、さらに営業活動上生じたものであるのか否か。特に後者の問
いについては、これまでの慣行や様々なケースにより生じている事を考慮しますと、一律に答えを出す事は難
しいように思います。
過年度遡及会計基準が適用されて2年、個人的にはまだまだ整理すべき事項が多いと感じています。
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【書籍案内】不適正な会計処理と再発防止策
㈱清文社より平成25年2月25日発刊 定価 3,780円 (本体3,600円)
(目 次)
第1章 不適正な会計処理
1. 金融商品取引法における規制
2. 証券取引所における規制
3. 財務諸表の訂正と監査証明
4. 日本公認会計士協会における基準等
5. 不適正な会計処理が発覚した場合の監査人の対応
第2章 告発事案
事案 1. ~ 5.
第3章 課徴金事案
事案 1. ~ 9.
第4章 行政処分のない事案
事案 1. ~ 12.
第5章 不適正な会計処理事案の計量分析
資料編 訂正報告書における不適正な会計処理の分析 (刊行にあたって)
総合ディスクロージャー研究所では、この度、「告発」「課徴金」「行政処分なし」の視点
で見る『不適正な会計処理と再発防止策』を刊行させていただきました。本書では、告発さ
れるのか、課徴金の対象となるのか、行政処分を受けないのか、虚偽記載が発覚した有価証
券報告書の処分がなぜわかれるのかについて、検討・分析しています。ご参考にしていただ
ければ幸甚に存じます。
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その他
【書籍案内】企業内容等の開示に関する法令集
宝印刷㈱より平成25年5月中旬発刊予定 定価 3,990円 (本体3,800円)
(目 次)
≪法令編≫
第1章
第2章
第2章の2
第2章の3
第2章の4
第2章の5
総則
企業内容等の開示
公開買付けに関する開示
株券等の大量保有の状況に関する開示
開示用電子情報処理組織による手続の特例等
特定証券情報等の提供又は公表
≪様式編≫
開示府令
内部統制府令
他社株公開買付け府令
自社株公開買付け府令
大量保有報告府令
電子手続府令
(刊行にあたって)
総合ディスクロージャー研究所では、これまで『金融商品取引法関連法令』を発行し、改
訂版を重ねてまいりましたが、この度全面改訂を行い、タイトルや装いも新たにし、『企業
内容等の開示に関する法令集』として刊行させていただくことになりました。当書籍は、よ
り多くの方々にご利用いただけるよう販売書籍とさせていただくことに致しました。ご参考
にしていただければ幸甚に存じます。
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RID ディスクロージャーニュース 2013/4 vol.20
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編集後記
本誌は今号で発刊より丸5年を迎え、vol.20号を発行することができました。
今後も誌面の充実に努めてまいります。
本誌の書名の冠である「ディスクロージャー」の分野は、制度開示と任意開
示に大別できますが、主たる目的は、株主や投資家を始めとする利害関係者に
資する情報を正確かつ迅速に提供することにあります。利害関係者からの要請
等に応える必要性が益々重要な課題となってきていますが、今後もこの潮流は
続くものと思われます。本誌では、お得意様の時宜に適った情報をご提供して
いくよう努めさせて頂きます。
今号では、会社が訂正報告を行わなければならない事態を防止するという観
点から「訂正有価証券報告書の開示事例分析」を掲載しました。事例分析の結
果から、添付書類の添付漏れや単純な記載誤り、財務諸表本表についての訂正
などが目立っています。有価証券報告書を提出する際の留意事項として、
「平
成25年3月期「有価証券報告書」の作成上の留意点」と併せてご活用頂ければ
幸いです。
加えて「注記事項「重要な後発事象」
(四半期報告書)の開示事例分析 その2」
において、事例の収集・分析を行い、特に事例を豊富に掲載しました。
また、
「統合報告をめぐる最近の動向―その意義と実務上の留意点」において、
統合報告への動きは財務報告と非財務報告との融合という側面だけでなく、法
律による強制開示から自発的開示への動きでもあるという議論を展開していま
す。本誌では、統合報告に関して引き続き掲載していく所存です。
最後に、制度開示及び任意開示共に、絶え間なく変化が続く状況にあります
が、本誌がその対応への一助になれば幸甚に存じます。
(編集委員 新井晶美)
RID ディスクロージャーニュース vol.20
2013年4月発行
編集・発行 総合ディスクロージャー研究所
宝印刷株式会社
(総合ディスクロージャー研究所事務局)
〒171-0033
東京都豊島区高田3-32-1 大東ビル3階
TEL 03-3971-3154
無断転載・複写を禁じます。
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RID
ディスクロージャーニュース 2013/4
vol.20
2013 / 4 vol.20
ディスクロージャーニュース
《金融商品取引法》
・平成25年3月期「有価証券報告書」の作成上の留意点
・訂正有価証券報告書の開示事例分析
・注記事項「重要な後発事象」の開示事例分析 その2
・次世代EDINETについて(その4)
・有価証券報告書の基礎(第19回)
・ディスクロージャー実務Q&A
・金融審議会報告書(投資信託法制の見直し)について
・金融審議会報告書(インサイダー取引規制)について
《国際会計基準》
・財務報告の利用者から見たIFRSの意義と課題
・IAS第16号、IAS第38号の概要
《会 社 法》
・経営判断の原則
・会社法コラム第53回
《I R》
・統合報告をめぐる最近の動向
・ESGディスクロージャーの現状(9)
《取 引 所》
不適当合併等に係る上場廃止審査について
《そ の 他》
本 社/〒171-0033 東京都豊島区高田3-28-8 Tel. 03
(3971)
3101代表
大 阪 支 店/〒541-0048 大 阪 市 中 央 区 瓦 町 3-6-5 Tel. 06
(6203)
5760代表
札幌営業所/〒060-0042 札幌市中央区大通西11-4 Tel. 011
(271)
9891代表
名古屋営業所/〒460-0003 名 古 屋 市 中 区 錦 1-20-25 Tel. 052
(221)
6901代表
(241)
0755代表
広島営業所/〒730-0031 広島市中区紙屋町1-1-20 Tel. 082
福岡営業所/〒810-0001 福岡市中央区天神2-14-2 Tel. 092
(712)
0012代表
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総合ディスクロージャー研究所
総合ディスクロージャー研究所
・金融商品取引法関連法令の改正日誌
・ディスクロージャーコラム
総合ディスクロージャー研究所
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