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第 4章 投資環境 - JBIC 国際協力銀行

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第 4章 投資環境 - JBIC 国際協力銀行
第4章
投資環境
Ⅰ.外資導入体制
1.外資に対する主な法規
(1)企業法
図表 4- 1 企業法
企業形態
根拠法
合弁企業
中外合資経営企業法
及び同法実施条例
合作企業
中外合作経営企業法
及び同法実施細則
独資企業
外資企業法
及び同法実施細則
外国の企業、又は個人と中国
外国の企業、又は個人と中 の企業などと経済協力、技術 外国の企業、又は個人によ
概 要 国の企業などとの合弁企業 協力の促進を図るため、共同 る中国での100%出資の企業
設立、経営に関する法規 で行う企業設立、経営に関す 設立、経営に関する法規
る法規
(注)各企業法は WTO 加盟に先行して 2000~2001 年に大幅に改正された。
この他「会社法」が存在する。
「中外合資経営企業法」
「中外合作経営企業法」
「外資企業法」は、
「会
社法」の特別法の位置づけであり、これら 3 つの法規に規定のない事項は会社法が適用される。改正
会社法は 2006 年 1 月 1 日から施行されている。
「会社法」の「最低資本金」
「監事会」などの規定は
外資系企業設立に際しても適用される。
現地法人を設立する場合、その他の進出形態と各手続きについては、P75 を参照のこと。
(2)税法
外資導入によって中国に設立された外資系企業は、1991 年に施行された「外国投資企業及
び外国企業所得税法」
「同法実施細則」に基づき企業所得税を納付していたが、2008 年 1 月
1 日に内資企業と外資企業の所得税法を統一した「中華人民共和国企業所得税法」
「同実施条
例」が施行されたことに伴い、外資企業に対する優遇政策も原則廃止されている。
(3)労働法
外資系企業と従業員の適法な権利を保障するため、1994 年に「外国投資企業労働管理規定」
が施行されていたが、WTO 加盟に伴い、内外格差是正のため、現在は内資企業と同様に「労
働法」が一律に適用されることとなった。また、2007 年 6 月に「労働契約法」が公布され、
2008 年 1 月 1 日から実施されている。
(4)企業会計制度
会計業務の基本法としての「会計法」の他に、外資系企業の会計業務を規定する制度とし
て、1992 年「外国投資企業会計制度」が施行されていたが、WTO 加盟に向け「企業会計制
度」が公布され、外資系企業にも同制度が 2002 年 1 月 1 日より適用されることになった。
これにより時価会計、
減損会計導入とキャッシュフロー計算書作成が義務付けられた。
なお、
2006 年に国際財務報告基準に即した「新企業会計準則」が公表され、中国国内の上場企業及
54
び銀行等の金融機関は強制適用となっている。2008 年 1 月から、外資系の銀行、財務公司、
金融リース会社、保険会社なども適用範囲となっている。また地方によって異なるが、上述
企業以外の大中型企業にも強制的に適用されている。
(5)外資投資方向指導規定・投資産業目録
外資系企業の投資ガイドラインとして、外資投資方向指導規定・投資産業目録が制定され
ている。2002 年 4 月より、新たな「外資投資方向指導規定」と「外資投資産業指導目録」
が実施され、2012 年 1 月より「外商投資産業指導目録(2012 年改訂)」が施行されている。
外資投資プロジェクトは、①奨励、②許可、③制限、④禁止の 4 種類に分類されている。
また「西部大開発戦略」に基づき、内陸部(中西部地区)への外国投資誘致のため 2000
年 6 月「中西部地区外資投資優位産業目録」が制定され、2004 年 7 月、2008 年 12 月に改
訂が行われた。同目録では中西部の 20 の省・自治区・直轄市ごとに実情に合わせて優位性
を持つ産業リスト(農牧業産品の高度加工、鉱物資源開発、交通インフラ建設、及び新型電
子デバイス開発等)が各々制定されている。
「奨励」に属するプロジェクト及び、
「中西部地区外資投資優位産業目録(中西部の 20 省
ごとに優位性を持つ産業リストを制定したもの)」のプロジェクトについては、投資総額の範
囲内で輸入する自社用設備(但し「外国投資プロジェクトの免税にならない輸入商品目録」
を除く)に対する関税、輸入増値税が免除される等の税優遇措置が受けられる。
55
<コラム 30. 最近の投資誘致当局の対応>
コラム- 30 最近の投資誘致当局の対応
外資誘致当局の対応にもここ数年、大きな変化が見られる。
1. 基本姿勢は「外資歓迎」
沿海地域の経済開発区、各地投資誘致機関では、表面的には「外資歓迎」の基本姿勢を
崩していない。中国への投資を検討するに際して、候補地の経済開発区、投資誘致機関を
訪問すると、担当者からは「歓迎」の意思表示がなされるのが通例である。中国への投資
を検討している日系企業はこうした表面的な「歓迎」の表明によって「投資に対する手ご
たえ」を感じる場合が多いが、誤解を避けるために中国側の真意を十分に斟酌することが
望ましい。
2.実態は「外資選別」
中国政府の外資に対する態度は明らかに「量」から「質」へと転換しており、
「全て歓迎」
から「選別」へと変化している。従って、表面的に「歓迎」の意向表明がなされたからと
いって、実際の投資が認可されるかは別問題と考えるべきである。
具体的な投資計画申請が、当局の審査段階で停滞、否認されるケースも現れており、事
前の当局との打ち合わせが益々重要になってきている。
3.中国側のメリット重視
今後中国への投資を検討する日系企業は次の点に注意する必要があろう。
① 進出候補地:中国で実施しようとする事業が、労働集約的な事業である場合、沿海部で
の認可取得は段々と難しさを増している。労働集約的な事業として進出する場合は、内
陸部または東北部を進出候補地として視野に入れることが望ましい。
② 投資規模:沿海部では投資規模も審査のポイントとして大きなウェイトを占めている。
一定規模以下の投資は歓迎されない場合がある。
③ 中国側のメリット:今後の中国投資では「中国側のメリット」は何かを十分説明する必
要があろう。
4.上海市の新政策
外資選別の傾向が強まるなか、上海市では「謄籠換鳥」政策が進行している。
「謄籠換鳥」
とは「籠を空けて鳥を入れ替える」という意味であり、既存の従来型企業の中・内陸部へ
の移転を推進し、新たに高付加価値のハイテク企業を誘致しようと言う政策である。上海
市では、この政策を推進する特別チームを設置し、労働集約型の従来型企業の中・内陸部
への移転を積極的に勧奨している。この特別チームには中・内陸部地域の工業区からも係
員が派遣されており、中・内陸部の工業区の宣伝も併せて実施している。
56
<コラム 31. 環境都市計画>
コラム- 31 環境都市計画
世界的な環境意識の高まり、省エネルギー、省資源の動きに呼応して、中国でも環境都市(生
態城)設立構想が進展し始めている。現状、環境都市設立構想を宣言している都市は 22 都市
であるが、非公式に宣言している都市を含めると 100 以上の都市が環境都市を標榜しているも
のと見られている。なお、こうした環境都市には、新都市の設立、既存都市の改造が含まれて
おり、具体的な計画は千差万別であるが、いずれも工場を中心とした環境配慮の生態工業園区、
環境配慮の居住型都市となっており、低炭素型の環境基盤整備がテーマとなっていることは共
通している。中国の環境都市の目標は「環境の健全化」「経済の持続的発展」「社会との調和し
た進歩」であり、
「良好な環境品質」
「資源の合理的利用」
「環境技術の活用」
「豊かな住民生活」
「効率の高い産業循環」
「サービス体制の充実」
「豊かな生活」
「管理機構の整備」を目標達成の
ための具体的手段と定めている。
環境都市では、再生可能エネルギーの活用、排水・廃棄物の無公害処理、環境回復と整備が
積極的に推進される。このため、中国政府としては、海外の先進的な環境技術の導入に積極的
であり、既にシンガポール、イギリス、スウェーデンなどの先端技術の導入が進んでいる。今
後、この分野では世界最先端水準にある日本企業にとっても大きな可能性を持った市場となる
ことが期待されている。
「環境都市」を宣言した主な 22 都市
所在地域
黒竜江省
都市名
現状
双鴨山市
計画中
大慶高新区
計画中(提携企業募集中)
吉林省
長春市
計画中
遼寧省
瀋陽市
土地取得のみ
北京市
豊台区
計画中(2008 年 6 月 13 日発表)
天津市
天津市
計画中
津南区
計画中
大島泰平鎮
土地取得のみ
濱海新区
着工開始
廊坊市
2008 年 6 月 19 日着工開始
廊坊市
計画中
黄驊
土地取得のみ
済南市
土地取得のみ
東営
土地取得のみ
河北省
山東省
57
江蘇省
無錫市
計画中
蘇州市
計画中
河南省
鄭州市
着工中(2003 年から 10 年)
上海市
崇明島
着工開始
浙江省
湖州市
土地取得のみ
四川省
都江堰
計画中
重慶市
重慶市
計画中
広東省
広州市
計画中
出所:日本総合研究所「中国環境都市」
<中新天津生態城計画>
1.天津濱海新区計画
2006 年 5 月国務院は「天津濱海新区開発開放に関する意見」を公布し、天津濱海新区計画が
開始された。本計画は、天津市とその周辺地域を中国北方及び環渤海湾経済圏の中心として優
先的に経済発展させようとするものである。天津濱海新区は、深圳経済特区、上海浦東新区に
続くもので、中国東北地区の近代化とそれに続く中西部地域の近代化を促進する狙いがある。
2.中新天津生態城(SINO-SINGAPORE TIANJIN ECO-CITY)
数多くある環境都市計画の中で、最大規模のものが中新天津生態城である。中新天津生態城
の概要は次の通りである。
① 国家レベルの環境都市計画。
② シンガポールとの共同開発。
③ 天津濱海新区の北寄りに位置し、天津港・天津空港に近く、天津旧市内から 45 ㎞、北京か
ら 150 ㎞にある。
④ 2008 年 9 月着工、開発面積 34 ㎢、2020 年の計画人口 35 万人、官民合わせた想定投資額
2,500 億元。
⑤ 環境目標は大気質、地表水質、騒音基準達成率、GDP 当りの炭素排出、1 人当りの公共緑
地、1 人当りの生活用水量、1 人当りのゴミ発生率、ゴミ回収利用率、バリアフリー施設率、
再生エネルギー利用率、新水資源利用率などの項目に関して目標と期限を定めている。
58
2.外資投資方向指導規定・同目録の概要
(2012 年 1 月 30 日改訂施行)
図表 4- 2 外資投資方向指導規定・同目録の概要
分類
奨励
プロジェクトの概要
主な業種・品目
経済社会の発展に重要な促進作用を有し、資源節約、環境保護、
産業構造の最適化に有益であり、政策措置により奨励・支援す
べき基幹技術、設備および製品。
奨励プロジェクトに対しては次の措置を実施する。
・ 投資管理部門は投資関連規定に基づき審査・承認、認可も
しくは届出を実施。
・ 金融機関は融資支援を実施。
・ 投資総額内の自家用設備は、条件を満たす場合、関連規定
に基づき関税を免除する。
・ 国の関連規定に基づき優遇政策を実施。
農林業、牧畜業、漁業、石油・天然ガス
等の採鉱業、農業副産物食品加工業、食
品飲料製造業、高級紙・板紙の生産、化
学原料・化学製品の生産、医薬品製造業、
自動車完成品及びその金型、エンジンの
製造、主要部品の製造及び研究開発、オ
ートバイの主要部品の製造、大型発電、
送変電設備の製造、デジタル TV 等や集
積回路の設計・製造等の通信設備・コン
ピュータ及びその他電子設備製造業、航
空輸送、国際海上輸送、国際コンテナ、
道路貨物輸送、一般商品の配送、現代物
流、研究開発センター、水利・環境及び
公共施設管理業 他
製造・加工技術が立ち遅れており、業種参入条件および関連規 貴金属の採掘・選鉱、出版物印刷、感光
定を満たしておらず、産業構造の最適化に適さず、既存事業に 材料の生産、医薬工業、レアメタルや非
制限
対する改善命令および新規プロジェクトに対する禁止を必要と 鉄金属の精錬、電信会社、通信・ネット販
する生産能力、製造・加工技術、設備、製品。
売、FC 経営、委託経営、特定品目(自動
制限類の新規プロジェクトは投資を禁止し次の措置を実施。
車、ガソリン等)の卸売、銀行・保険、証
・ 投資管理部門は審査・承認、認可もしくは届出を実施して 券会社・証券投資ファンド管理会社、法
はならない。
律、市場調査、信用調査・格付けサービ
・ 金融機関は融資を実行してはならない。
ス会社、土地の大規模開発、高級オフィ
・ 土地管理、都市計画・建設、環境保護、品質検査、消防、 スビルの建設・経営、不動産仲介、輸出
税関、工商などの部門は関連する手続きを実施してはなら 入商品検査 他
ない。
制限類の既存プロジェクトに対しては次の措置を実施。
・ 企業が一定期間内に改善措置をとった場合、金融機関が当
該企業に引き続き融資することを認める。
・ 国の関連機関は産業の最適化の要求に基づき分類指導を実
施する。
関連する法律・法規に適合せず、資源浪費、環境汚染、安全生 希少品種の養殖、栽培、遺伝子組み換え
産条件を備えていないなどの状況にあり、禁止すべき遅れた製 植物の開発、レアメタルや放射性鉱物の
造・加工技術、設備、製品。
採掘・選鉱、緑茶・特種茶の加工、
「中
禁止
禁止プロジェクトは投資を禁止し次の措置を実施。
国希少、絶滅危機保護植物リスト」等に
・ 金融機関は与信を停止し、既に実施した融資の回収を行わ 列記された漢方薬の加工、武器・弾薬の
なければならない。
製造、航空交通管制、郵便、出版、報道
・ 各地区・部門及び関連企業は規定に基づき、期限内に禁止 事業、社会調査 他
を実行しなければならない。
・ 禁止期間中、価格主管部門は電気供給価格の引き上げが可
能。
・ 国が禁止した生産加工技術、設備、製品は輸入、移転、生
産、販売、使用してはならない。
(注)1.外資の出資規制については、
「外資投資産業指導目録」の付属書で詳細に規定。奨励類、制限類を問
わず、特定の業種について合弁、又は合作による形態の規制及び外資出資比率の規制あり。
2.制限類は、5,000 万米ドル以上のプロジェクトでは国家発展改革委員会など中央の機関で審査され、
認可取得が難しく時間を要する。
(後記外商投資プロジェクトの審査手続きを参照)
59
3.中国への海外直接投資
(1)中国への海外直接投資の推移(実行ベース)
・ 中国への海外からの直接投資総額の推移(実行ベース)
投資額は、
1991 年の 43.7 億米ドルから 2003 年には 535 億米ドルへと 12 倍に増加し、
世界でトップクラスの直接投資受入国となった。その後、2004 年には 606 億米ドルと、
過去最高を更新したが、反日デモなどのマイナス要因もあり、2005 年は 603 億米ドルで
微減となった。しかし、2006 年は 630 億米ドルと投資額は回復し、最高額を更新した。
その後オリンピックに向け外商投資額が急上昇し、2007 年には 748 億米ドル、2008 年
には 924 億米ドルに達した。2009 年は金融危機のあおりを受け 900 億米ドルに落ち込
んだものの 2011 年には 1,160 億米ドルと過去最高を更新し、2012 年は 1,117 億米ドル
となった。
図表 4- 3 中国への海外直接投資の推移
(億米ドル)
1,1601,117
1,057
1,200
1,000
924 900
748
800
606 603 630
527 535
600
400
375
469
417 453 455 403 407
200
0
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011 (年)
出所:中国商務部、国家統計局
・ 投資国・地域別内訳動向(実行ベース)
2012 年の投資額順位は、香港(712.9 億米ドル)
、日本(73.8 億米ドル)
、シンガポー
ル(65.4 億米ドル)
、台湾(61.8 億米ドル)
、米国(31.3 億米ドル)、韓国(30.7 億米ド
ル)
、ドイツ(14.7 億米ドル)
、オランダ(11.4 億米ドル)
、イギリス(10.3 億米ドル)
などとなっている。
60
図表 4- 4 中国への国・地域別海外直接投資(2011・2012 年、実行金額)
(100 万米ドル、%)
順
2011 年
2012 年
位
国・地域
1
香港
77,011
66.4
香港
71,289
63.8
▲ 7.4
2
台湾
6,727
5.8
日本
7,380
6.6
16.3
3
日本
6,348
5.5
シンガポール
6,539
5.9
3.3
4
シンガポール
6,328
5.5
台湾
6,183
5.5
▲ 8.1
5
米国
2,995
2.6
米国
3,130
2.8
4.5
6
韓国
2,551
2.2
韓国
3,066
2.7
20.2
7
イギリス
1,610
1.4
ドイツ
1,471
1.3
29.5
8
ドイツ
1,136
1.0
オランダ
1,144
1.0
49.2
9
フランス
802
0.7
イギリス
1,031
0.9
▲ 36.0
10
オランダ
767
0.7
スイス
878
0.8
58.5
9,736
8.4
その他
9,605
8.6
▲ 1.3
116,011
100
合計
111,716
100
▲ 3.7
投資額
その他
合計
構成比
国・地域
投資額
構成比
伸び率
出所:中国商務部
・
日本からの投資推移
日本の対中直接投資は、1985 年~87 年の第一次、1991 年~95 年の第二次投資ブー
ムを経て、WTO 加盟前の 2000 年以降は第三次投資ブームとみなされている。
第一次ブーム時の進出目的は、日本から原料を持ち込み加工して日本に輸出する輸出
加工貿易形態が主流であった。
第二次投資ブームでは、多くの大企業が進出を始めたが、
依然として輸出目的の進出が中心であった。今回の第三次ブームでは、業種があらゆる
分野に広がるとともに、中国市場での販売を目的とした進出や、開発・研究機能を持つ
進出が顕著になってきた。
図表 4- 5 日本の対中直接投資(実行額)の推移
(100 万米ドル)
投資額
(実行額)
前年比
(%)
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
2011 年
2012 年
6,529
4,598
3,589
3,652
4,104
4,083
6,348
7,380
19.8
▲ 29.6
▲ 21.9
1.8
12.4
▲ 0.5
55.5
16.3
出所:中国商務部、中国工商行政管理局
61
近年の動向を見ると、2006 年は 2005 年の反日デモの影響もあり、65 億ドルから 46
億ドルへと大幅な減少となった。2007 年は 36 億ドルと落ち込み、オリンピックイヤー
である 2008 年も 37 億ドルとそれほど伸びずにいたが、先行きの不透明な日本・欧米市
場の状況や円高を背景に 2011 年には大幅増加の 63 億ドル、2012 年には過去最高水準
の 73 億ドルに達した。
(2)日本からの対中業種別投資
図表 4- 6 日本からの対中業種別投資(金額ベース)
(2012 年度)
その他
11.5%
サービス業
2.8%
食料品
2.0%
繊維
1.7%
木材・パルプ
3.2%
化学、医薬
6.4%
ゴム・皮革
2.0%
ガラス・土石
1.0%
金融・保険業
4.6%
鉄・非鉄・金属
6.8%
卸売・小売業
14.6%
一般機械器具
12.8%
輸送機械器具
21.0%
電気機械器具
9.6%
出所:日本銀行「国際収支統計」
図表 4- 7 対中業種別投資額の推移(2007~2012 年)
(億円)
食料品
繊維
木材・パルプ
化学、医薬
ゴム・皮革
ガラス・土石
鉄・非鉄・金属
一般機械器具
電気機械器具
輸送機械器具
精密機械器具
卸売・小売業
金融・保険業
サービス業
その他
合計
2008 年
397
86
105
467
68
151
589
741
1,085
1,019
93
794
80
137
888
6,700
2009 年
827
154
455
444
▲6
119
337
617
583
907
85
805
938
90
137
6,492
2010 年
107
70
249
464
253
45
446
865
364
854
36
924
818
292
497
6,284
出所:財務省・日本銀行「国際収支統計」
62
2011 年
173
431
276
823
179
240
1,012
1,426
796
1,162
217
1,506
590
179
1,036
10,046
2012 年
211
186
339
690
219
108
729
1,375
1,035
2,257
1
1,572
494
303
1,240
10,759
累計
1,715
927
1,424
2,888
719
663
3,113
5,024
3,863
6,199
432
5,601
2,920
1,001
3,798
40,281
2008 年から 2012 年の対中投資の産業別累計をみると、輸送機械器具への投資が 6,199
億円と最も多くなっており、2012 年は 2008 年と比較すると約 2.2 倍の増加となっている。
次いで卸・小売業への投資が着実に増加しており、
2008 年に 794 億円であったものが 2012
年には 1,572 億円と約 2.0 倍の増加となっている。
4.中国投資の魅力と留意点
(1)中国投資の魅力
・ 沿海部を中心とする大消費市場への期待(中間層・富裕層の形成、増加)
。
・ 内陸部、東北部発展政策を推進しており、今後の発展の大きな可能性を有している。
・ 部品・加工組立産業の集積向上(珠江デルタ、長江デルタなど)と地場企業の品質・技
術力向上により部品の現地調達が行いやすくなっている。
・ 理工系を中心とした優秀な人材活用のコストが相対的に有利。R&D 要員及びソフトウェ
ア開発への活用も顕著。
・ 整備された工業団地と急速に整備されつつあるインフラ(沿海部はインフラ問題なし)。
・ 知的財産権保護関連などの法制度の整備が急速に進みつつある。
・ 新しいマーケット開拓の可能性(サービス、物流、環境、など)。
図表 4- 8 中国とアジア主要都市・地域の賃金比較(月給)
(米ドル)
北京
上海
深圳
香港
台北
ジャカルタ
バンコク
ワーカー
466
449
329
1,619
1,143
239
345
エンジニア
743
835
650
2,263
1,456
433
698
中間管理職
1,445
1,456
1,302
3,580
2,002
1,057
1,574
199/月
203/月
237/月
3.61/時
654/月
226/月
9.85/日
最低賃金
出所:JETRO「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012 年度調査)
」
63
図表 4- 9 中国とインド投資コスト比較
(米ドル)
中国
インド
北京
上海
瀋陽
ワーカー賃金
466(月額)
449(月額)
315(月額)
276(月額)
188(月額)
398(月額)
エンジニア賃金
743(月額)
835(月額)
552(月額)
641(月額)
546(月額)
927(月額)
中間管理職賃金
1,445(月額) 1,456(月額) 953(月額)
1,395(月額)
名目賃金上昇率
ニューデリー
ムンバイ
バンガロール
1,289(月額) 1,738(月額)
2009 年 5.9%
2010 年 13.0%
2011 年 15.5%
2009 年 8.3%
2010 年 9.3%
2011 年 11.1%
2009 年 15.0%
2010 年 8.6%
2011 年 9.2%
2009 年 11.0%
2010 年 13.3%
2011 年 16.3%
2009 年 11.0%
2010 年 9.6%
2011 年 11.1%
2009 年 11.0%
2010 年 13.3%
2011 年 16.3%
72~87
143~167
76
55~91
52~60
27~38
119
44~46
22
29.4
44
20
25
25
25
30
30
30
45
45
45
30
30
30
17
17
17
12.5
12.5
14.5
工業用地購入
価格(㎡当り)
事務所賃料
(㎡当り・月額)
法人税(%)
個人所得税
(%・最高税率)
付加価値税(%)
出所:JETRO「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012 年度調査)
」
中国とインドの投資コスト比較は、単純比較では、北京、上海などの沿海部の投資コスト
は明らかにインドを上回っているものの、瀋陽など中国でも比較的投資コストの安い地域と
ほぼ同レベルと考えられる。
投資環境に関しての単純比較は危険であるが、インドの投資コストは中国の投資コストと
比較しても、それ程低いものではないとみられる。
(2)中国投資の留意点
① 政治・行政面
・ 共産党が国家の行政、立法、司法、及び情報・報道規制等全てに亘り、最終的に指導・
コントロールする一党独裁国家であり、かつ三権分立ではなく、行政機構である国務院
(内閣)
、及び司法機構である最高人民法院(最高裁判所)は全人代(国会)に従属する
下部機関である。従って三権分立を基本とした自由民主主義、人権が確保されている日
本、欧米諸国とは全く異質の政治体制(人民民主専制)であることを念頭に置いて投資
を検討する必要がある。
・ 特に最近では日本との歴史問題、尖閣諸島の領有権、排他的経済水域を跨ぐ海底天然ガ
ス油田採掘を巡る政治上の問題で利害が衝突し、短期的には解決困難な案件があり、事
態の推移によっては今後日系企業に対する許認可、入札等において行政上の差別的対応、
市民の反発、センセーショナルなマスコミ攻撃、或いは些細な事に端を発する労務問題
等が発生しやすい状況にあり、潜在的な経営リスクも懸念される。
64
・ 工業用地といえども、土地は原則国有であり、突然の政策変更により立ち退き、移転を
求められるケースも散見され、より一層慎重な対応が求められる。
・ 外資企業を特別扱いしない方針が明確になりつつある。輸出型企業の優遇策の大黒柱で
あった「増値税」還付政策も、2008 年下半期より還付率を相次いで引き下げている。生
産エネルギー消費が高く、汚染度も高い製品は、税金還付措置が撤廃され、その対象範
囲も広がっている。2010 年 7 月には鋼材、医薬品、化学製品、非鉄金属など 406 品目の
税金還付措置が撤廃されている。
2008 年 1 月には外資系企業と中国企業の法人税率を段階的に同じにする「企業所得税法」
が施行され、労働者の権利を強化する「労働契約法」が施行、8 月には外資系企業によ
る中国企業買収の規制を強化する「独占禁止法」が施行された。2009 年 11 月には、政
府調達で自国製品を優遇する「国家自主開発製品認定制度」が導入された。また、2010
年 12 月には、中国企業のみが対象であった都市維持建設税と教育費付加制度を、外資系
企業も徴収の対象にすることが決まった。また、2011 年 11 月には外国人からも社会保
険料を徴収する「中国国内において就業する外国人の社会保険の加入に関する暫定施行
弁法」が制定された。
・ 唐突かつ頻繁に変わる不安定な法令及び、実施までの猶予期間が短いことから、収益に
大きな影響を及ぼしたり実務上間に合わない事態が発生する。
② 経済・社会面
・ 内陸部では物流インフラの整備がまだ不十分、物流業者のサービスが、なお非効率。
・ 債権回収が難しく、裁判で勝訴しても地方保護主義などから強制執行が困難。
・ 経済成長に伴い、エネルギー(電力・水)供給が追いつかず、原料の石炭、鉄鉱石、鋼
鈑等が不足するなど需給のインバランスによる突然の供給不足の結果、工場の操業停止
の頻発、或いはエネルギーコストの上昇を招来するリスクあり。特に北方地域での砂漠
化、水不足は生産に大きなマイナス要因となる可能性もある。
・ 内陸部の豊富で安価な労働者が、一部の沿海地区では 2004 年春頃から不足してきており、
従来のような低賃金で成り立っていた労働集約的な産業の前提が揺らぎつつある。
・ 政府の汚職、腐敗及び貧富格差の拡大、農民への農地収用費未払い等に端を発する問題
が社会不安となる可能性もある。
・ 歴史問題などから、日本企業に対しては、企業の商品欠陥、サービスなどの手落ち、文
化の相違をナショナリズムで煽る等マスコミ・インターネットで意図的に狙われやすく、
反発を招く可能性もある。
・ 知的財産権への意識の浸透が不十分で、外国製品の模倣等の知的所有権侵害事件が多発。
技術、ノウハウが無断でコピーされやすい環境にある。法制度は急速に整備されている
が、運用面での対応の課題が残る。
・ 鳥・豚インフルエンザ等突然の感染病発生により、製品の納入遅れ、部材の調達不足、
人員派遣中止、生産停止等の事態が発生した事例があり、今後も突然のモノ・ヒトの遮
65
断を想定した生産・物流戦略が求められる可能性がある。
・ 環境問題に対する意識が向上してきており、進出に際しては環境保護面での対応が強く
求められるようになっている。
・ 「食の安全」問題が大きく取り上げられることが多くなっており、日常生活ではより一
層の注意が必要。
コラム- 32 32.
中国市場の課題―国際協力銀行による調査(2011
年 12 月)
<コラム
中国市場の課題―国際協力銀行による調査(2012
年 12 月)>
―日本の製造業 1,011 社を対象に実施調査(有効回答率 60.6%)―
中期的(今後 3 年程度)有望事業展開先国の得票率は中国が首位にある。有望理由と課題
の内訳は次のとおりである。
有望理由
第 1 位:現地マーケットの今後の成長性(回答率 73.4%)
第 2 位:現地マーケットの現状規模(46.8%)
第 3 位:組み立てメーカーへの供給拠点として(27.9%)
第 4 位:安価な労働力(26.6%)
第 5 位:産業集積がある(22.1%)
課題
第 1 位:労働コストの上昇(回答率 76.3%)
第 2 位:法制の運用が不透明(頻繁な変更等)(57.3%)
第 3 位:他社との厳しい競争(52.3%)
第 4 位:知的財産権の保護が不十分(42.3%)
第 5 位:為替規制・送金規制(35.7%)
出所:国際協力銀行
「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告―2012 年度海外直接投資アンケート結果
(第 24 回)
」
66
コラム33 対中投資の新しいリスク
<コラム
33. 対中投資の新しいリスク>
中国投資のリスクは次第に変化しており、常に最新のリスクに対応できる体制を整えておく
ことが必要である。現時点で事前に考慮しておくべき新しい中国リスクをまとめると次のよう
になる。
1.人民元切り上げのリスク
中国政府は対米貿易黒字の大幅な拡大による切り上げ圧力に応じる形で、2005 年 7 月 21
日から人民元のインターバンクレートの仲値を 1 米ドル=8.11 元とするとともに(切り上
げ幅は 2.1%)
、人民元の為替制度について「通貨バスケット制度を参考とした管理フロート
制」に移行した。その後、人民元は小刻みながら上昇を続け 2012 年 3 月末現在では 1 米ド
ル=6.29 元となっている。人民元の対米ドルレートのおよその推移は次の通り。
2005 年 7 月 21 日
8.11
2010 年 12 月末
6.62
2011 年 03 月末
6.55
2011 年 06 月末
6.47
2011 年 12 月末
6.30
2012 年 01 月末
6.31
2012 年 03 月末
6.29
2005 年 5 月から 2012 年 1 月までの切り上げ幅は、22.3%とかなり大幅な切り上げを実現
しているが、米国の経済状況の悪化が深刻化するに従い、中国に対するより一層の切り上げ
圧力が強まっており、今後の推移が注目されている。今後の中国投資に際しては、人民元の
より一層の切り上げリスクを考慮しておく必要がある。
2.鳥インフルエンザ等の疫病に関するリスク
かつて、中国では SARS が流行し大きな問題となったが、その後も鳥インフルエンザ感染
者は毎年発生しており、2011 年冬季には死亡者も発生している。中国の現在の衛生状況で
は、一旦鳥インフルエンザのような疫病が発生すると、流行を起こす危険性があると言わざ
るをえないし、中国政府の情報管理の問題もあり、依然として外国企業、外国人にとっては
大きなリスクとなっている。鳥インフルエンザウイルスの変質による人間への感染拡大が懸
念されている昨今、万が一、疫病が流行を始めると、工場の閉鎖、移動の制限が行われ、生
産、販売、物流が麻痺する状態となる可能性があり、対中投資に際しては予め対策を講じて
おく必要がある。
67
3.食の安全
2008 年の中国から日本に輸入された毒入り餃子事件は記憶に新しいところであるが、この
他にも食の安全を脅かす事件は後を絶っていない。中国政府も食の安全を重視し、色々と対
策を講じているものの、消費者を完全に納得させる状況に至っていないのが現実である。
食の安全に関する主な事件は次の通りである(Wikipedia「中国産食品の安全性」より)
2004年
偽粉ミルク、農薬汚染漬物、人毛醤油(人毛を原料とする低品質の醤油)
2005年
スーダンレット(禁止赤色染料)使用野菜
2006年
偽薬、発がん性ヒラメ
2007年
偽薬、段ボール肉まん、毒入りペットフード
2008年
毒入り冷凍餃子、殺虫剤入り肉まん、メラミン入り粉ミルク、ジクロルボス入り
野菜
2010 年 下水油(廃油から再生成した食用油)
2011 年 皮革タンパク入り牛乳、ガドミウム汚染米、残留薬品豚肉、禁止着色料使用蒸し
パン
4.環境汚染
中国の大都市での大気汚染、河川の水質汚染は大きな課題となって久しいが、最近の環境保
護意識の高まりを通じて、農村部においても、工場排水に起因する河川汚染が問題化してお
り、工場汚染水の垂れ流し中止を要求する近隣住民の直接行動も目立ってきている。
また、都市の大気汚染は依然深刻であり、北京市ではオリンピックで一時的に改善した大気
汚染が再び深刻な状況となっている。2011 年末には北京市はスモッグ(大霧)に覆われ、
視界が 50 メートルにまで悪化し、航空機の発着にも支障をきたした。北京市政府も汚染の
深刻さを認め「肺や心臓に不安のある人々はもちろん、健康体の人も屋外での活動を控える
ように」とのコメントを発表した。
5.対日感情のリスク
最近の中国ではかつてのような過激な反日行動は鳴りを潜めており、一般的に対日感情は好
転していると見られているが、いつ何時反日行動が再燃するかは予断を許さない。そもそも
中国人の反日感情は突然生じたものではなく、歴史的背景や教育による面があること、最近
では「反日」そのものが交渉カードの一つとなりつつあることなどを考慮しなければならな
い。中国投資に際しては、中国人労働者との些細な行き違い、勘違いから、対日感情に悪影
響を与えることのないよう注意が必要である。
68
Ⅱ.投資優遇措置
1.中国の経済圏
下記のほかに福建省の福州、厦門を中心とする閩江デルタ経済圏を挙げる場合があるが、
規模が小さく、他省への広がり、波及度合いがやや弱い。なお、環渤海経済圏には、京津経
済圏を包含する広義の環渤海経済圏もある。
図表 4- 10 中国の経済圏
環渤海経済圏
京津経済圏
大連・瀋陽・青島・煙台
北京・天津
西部経済圏
重慶・成都・西安
長江デルタ経済圏
上海・江蘇・浙江
珠江デルタ経済圏
広州・深圳・東莞
出所:中国まるごと百科事典・地図「中国経済~経済圏」
2.中国の外資誘致地域について
中国では、外資導入、産業育成、輸出振興などを目的とした様々な区域が国務院の認可に
より設置され、独自の税優遇制度が適用されてきた。
(1) 経済特別区(経済特区)
1980 年深圳、珠海、汕頭、厦門各市の一部、及び 1988 年海南島全島に外資導入
のため 5 つの経済特区を華南地域に設置し、経済的自主権を与え、外資系企業に対し
所得税の税率は 10~15%と大幅な税優遇措置を講じた。企業所得税は 2008 年 1 月 1
日より段階を踏んで 25%に引き上げられているが、
2008 年 1 月 1 月以降に設立した、
69
国が認定するハイテク企業に対しては、1~2 年目は免除、3~5 年目までは半分、と
分野別の優遇措置が続いている。
(2)
経済技術開発区
経済特区の成功により、対外開放を全国レベルで拡大し、外資導入を更に推進する
ため、1984 年に 14 の沿海港湾都市に経済技術開発区を設置した。特に生産性企業
と技術集約企業及び輸出加工企業の戦略的誘致に狙いを定め、経済特区並みの税優遇
措置を付与している。現在では、内陸部も含め全国に 90 箇所設置されている。2008
年 1 月 1 日より所得税を一律 25%に引き上げることになったが、内陸部に設立した
奨励類の外資系企業は 3 年間は 15%に据え置きするなど、内陸部の投資を奨励して
いる。
(3)
沿海経済開放区
1985 年、長江デルタ、珠江デルタ、閩江デルタの三つのデルタ地域が沿海経済開
放区として指定され、1988 年に遼東半島、山東半島、河北省渤海湾の秦皇島、唐山、
滄州及び広西壮族自治区の一部が加えられた。特に生産性企業、科学研究プロジェク
ト企業、及びエネルギー、交通、港湾関係、及び知識集約型プロジェクトに対し優遇
税制を適用している。
(4)
高新技術産業開発区(ハイテク産業開発区)
1991 年より外国のハイテク技術導入と国内企業のハイテク産業育成、推進を目的
として設置され、2010 年現在、全国に 83 箇所ある。各地域の主要大学も開発区内
に研究開発センターを設置し、区内企業と共同開発、ベンチャー企業の支援を行って
いる。ハイテク企業と認定されれば、税の優遇措置が適用される。
(5)
浦東新区
上海市内を流れる黄浦江の東側(浦東地区)を香港と並ぶ金融、貿易、経済センタ
ーの中核として開発すべく、1990 年に国家プロジェクトとして「浦東新区」を設置。
区内には IT 産業を中心とする張江ハイテクパーク、陸家嘴金融貿易区、金橋輸出加
工区、外高橋保税区などが設置され、経済特区とほぼ同様の税優遇策が適用され
(2008 年から段階的に撤廃)
、浦東新区は、外資導入に関し上海市と同様の権限を付
与されている。
(6)
保税区
保税区は、関税上は外国の位置付けにあり、輸出入、中継貿易、加工貿易、物流・
倉庫、商品展示業務が、保税(関税・増値税の支払いが保留されている)のまま展開
できる特殊なエリアで、生産型企業には 15%の優遇税率が適用され(2008 年から段
70
階的に撤廃)
、独資形態での貿易会社の設立が従来より認められている(2004 年 12
月より商業性企業の設立が外資に全面開放された)
。1991 年以降沿海部の港湾都市に
14 箇所設置された。
保税メリットを活かした貿易機能のほかに倉庫仕分け配送機能、及び交易市場を通
した国内販売の拠点機能を活用するため多くの外資系企業が進出している。
但し、保税区にもかかわらず、商品が区外から区内に搬入されても輸出と見做され
ず、搬入時点では増値税が還付されないなど実務上の問題点もある。
(7) 保税区物流園区
保税区と輸出加工区の機能を併せ持つ総合保税地域として 2003 年から設置が開始
された。現在までに 9 ヶ所が批准されている。「物流園区」では搬入された時点で増
値税が還付されている。
(8) 輸出加工区
輸出加工専用の保税区であり、2000 年より国務院に批准され、現在内陸部も含め
60 箇所設置されている。特徴としては、加工貿易に必要な保証金台帳が不要、区外か
ら搬入された時点で輸出と見なされ増値税が還付されるほか、24 時間オンライン通関
システムが可能などが挙げられる。
(9) 保税港区
「輸出加工区」
「保税物流園区」
「保税区」の機能を併せ持った「総合保税機能」を
有する地区というのが基本的な性格であり、保税物流園区の関連政策や税還付などの
優遇措置を受けられる。国際仕分、配送、調達、中継貿易、輸出加工などの業務が可
能であり、2010 年 10 月現在、以下 14 箇所の保税港区が設立済みである:上海洋山、
天津東疆、大連大窯湾、海南洋浦、寧波梅山、広西欽州、厦門海滄、青島前湾、深圳
前海湾、広州南沙、重慶江北寸灘、江蘇張家港、煙台、福州。
上記(1)~(9)はすべて国家級の開発区である。国家級の開発区以外に省級、市級、県
級の経済開発区が数多く設置されているが、北京、天津、上海等の直轄都市以外の市級以下
の開発区は、インフラ、外資企業に対する受入れ支援体制、当局の法律運用の透明性等で見
劣りする場合が多い。
71
<コラム 34. 上海洋山保税港区>
コラム34 上海洋山保税港区
上海市の東南、杭州湾に設置された「洋山保税港区」の概要を紹介する。
1.洋山保税港区は 2005 年 12 月に正式稼動した保税港区。
2.上海市の東南約 30km の杭州湾上の小洋山島に建設された「上海洋山深水港」と対岸の
「陸上区域」を東海大橋で連結している。
「上海洋山深水港」は大型コンテナ船の入港が
可能な水深 15m となっており(上海港、外高橋港は水深 10m 程度)、現在までに 220 万
TEU の取扱が可能となっており、最終的には埠頭数 30、年間 1,500TEU の取扱が可能と
なる予定。
3.保税港区の面積は 8.14 ㎡、うち港湾区域は 2.14 ㎡、陸上区域は 6.0 ㎡。
4.浦東空港まで 25km、虹橋空港まで 58km、2012 年末には上海市内と地下鉄で直結予定。
5.主要な税政策
①国外貨物は港区内では保税扱いとなる。
②港区内より国内に販売する場合は輸入とみなし、関税・増値税が課税される。
③国内貨物が港区内に搬入された時点で輸出とみなし、税金が還付される。
④港区内の企業間の取引には増値税・消費税が課税されない。
6.想定される主な業務
①生産加工、②中継貿易、③国際配達仕分け、④国際調達、物流センター、⑤保税保管、
⑥輸出・再輸入、⑦加工業務、⑧商品展示
出所:上海外聨発商務諮詢有限公司資料
<コラム
35. 始動する、長江中流域都市群(中三角)構想>
コラム- 35 始動する、長江中流域都市群(中三角)構想
華南の珠江デルタ、華東の長江デルタ、華北の渤海海の三大都市群に続き、長江中流域の武
漢・長沙・南昌間の三角地帯を、中国の経済発展における 4 番目の成長エンジンとして発展
させる「中三角」構想が始動した。域内の交通インフラの整備、経済取引の円滑化、規制緩和
等によって、中国の内需拡大政策につなげたいとする、同構想の進展が、同地域でのビジネス
展開を考える日本企業にとって、新たなビジネスチャンスとなり得るのか、その動向が注目さ
れる。
出所:JETRO 武漢資料より抜粋
72
3.新《企業所得税法》に規定された主要な優遇税制について3
(1)企業所得税が減免される産業およびプロジェクト
・
農業、林業、牧畜業、漁業
・
国家が重点的に支援するインフラストラクチャープロジェクト
・
条件に合致する環境保護、省エネルギー、節水プロジェクト
(2)優遇税率を享受できる産業およびプロジェクト
2008 年 1 月より、
外商投資企業および国内企業の基本法人税率は 25%に統一されている。
だが、条件に合致する小規模な低利益企業および国が重点的に支援する必要のあるハイテク
企業には優遇税率が適用される。
・
小規模低利益企業 :企業所得税率 20%を適用
非制限、非禁止業務に従事し、次の基準を満たすことが小規模低利益企業の条件とな
る。
図表 4- 11 優遇税率を享受できる小規模低利益企業の条件
・
課税所得額
従業員数
資産総額
製造業
30万元以下
100人以下
3,000万元以下
その他企業
30万元以下
80人以下
1,000万元以下
国家が重点的に支援する必要のあるハイテク企業:企業所得税率 15%を適用
(適用条件)
「コアとなる自主知的財産権」を保有し、且つ以下の条件を同時に満たすこと
① 製品(サービス)が「国家が重点的に支援するハイテク分野」の規定する範囲
に属すること
② 研究開発費用の売上高に占める割合が規定の比率を下回らないこと
③ ハイテク製品(サービス)の収入が総収入に占める割合が規定の比率を下回ら
ないこと
④ 科学技術者が企業の総従業員数に占める割合が規定の比率を下回らないこと
⑤ 「ハイテク企業認定管理弁法」
(下述(3)を参照のこと)が規定するその他の
条件
3
新法の主な内容や優遇の経過措置等の詳細については、「新《企業所得税法》の公布」(p46)を参照の
こと。
73
(3)ハイテク企業の認定について
2008 年 4 月 14 日付で「ハイテク企業認定管理弁法」
(国科発火[2008]172 号)及び附
属文書として「国家が重点的に支援するハイテク分野」が公布・施行されている。同弁
法により、ハイテク企業の認定条件が明確化された。
(適用条件)
ハイテク企業の認定にあたっては、以下の条件を同時に満たさなければならない。
①
直近三年間に自主研究開発、譲受、受贈、合併買収等の方式により、或いは五
年以上の独占許諾方式を通じて、主要製品(サービス)のコア技術に対する自
主知的財産権を保有していること。
②
製品(サービス)が「国家が重点的に支援するハイテク分野」の規定する範囲
に属していること。
③
大学専科以上の学歴を有する科学技術者が企業の当年度の従業員総数の 30%
以上を占め、うち研究開発者が当年度の従業員総数の 10%以上を占めること。
④
企業が科学技術(人文、社会科学を含まない)に関する新知識の獲得、科学技
術の新知識の創意的運用、或いは技術、製品(サービス)の実質的な改良のた
めに、研究開発活動を持続的に行い、且つ直近三会計年度の研究開発費用総額
が売上高総額に占める割合が以下の要求に合致していること。
・直近一年間の売上高が 5,000 万元未満の企業:同割合が 6%以上
・ 〃
5,000 万元以上 20,000 万元未満の企業:同割合が 4%以上
・
20,000 万元以上の企業:同割合が 3%以上
〃
そのうち、企業の中国国内で発生した研究開発費用総額が全ての研究開発費用
総額に占める割合は 60%を下回ってはならない。
⑤
ハイテク製品(サービス)収入が当年度の収入総額に占める割合が 60%以上で
あること。
⑥
企業の研究開発組織の管理水準、科学技術成果の転化能力、自主知的財産権の
件数、売上と総資産の成長性等の指標が「ハイテク企業認定管理作業ガイドラ
イン」
(別途制定)の要求に合致していること。
74
Ⅲ.事業展開の手続き
1.中国で事業展開する場合の形態
(1)進出形態一覧
図表 4- 12 進出形態一覧
直接投資
現地法人
合弁企業、合作企業、独資企業
支店
駐在員事務所
間接投資
委託加工、補償貿易、リース貿易、技術移転
(2)進出形態―合弁、合作、独資(100%外資)の比較
図表 4- 13 進出形態-合弁、合作、独資(100%外資)の比較
根拠法
組織形態
出資形式
権利・義務
契約期間
輸出義務
合弁企業
合作企業
・中外合資経営企業法
(79 年公布、90 年改正、
2001 年 3 月改正)
・同実施条例(93 年公
布、2001 年改正)
・中外合作経営企業
法(88 年公布、2000
年 10 月改正)
・同実施細則(95 年
公布)
・外資企業法(86 年 ・外国企業あるいは個人
公布、2000 年 10 月改 の中国国内におけるパ
正)
ートナーシップ企業の
・同実施規則(90 年 設立に関する管理辧法
公布、2001 年 4 月改 (2009 年 11 月公布)
正)
・外商投資パートナーシ
ップ企業登記管理規定
(2010 年 1 月 29 日公布)
・有限公司(株式会社の
形態もある)
・責任:出資額まで
・独立の法人格であ
れば有限公司
・共同管理による
(法人格のない)パ
ートナーシップ企
業
・合弁と同様
・協議により契約に
規定
・有限公司(認可によ ・普通パートナーシップ
るほかの形態が可能) 企業
・有限パートナーシップ
企業
・合弁企業に準じる
・出資物に制限なし
現金、現物、知的財産権、
土地使用権により出資
も可
・外商投資企業の場合は
現金出資が 30%を下回
ってはならない
・協議により契約に
規定
・合弁企業に準じる
・有限パートナーは労務
による出資が認められ
ない
・無期限(登記事項なし)
・通貨および現物、知的
財産権、土地使用権等の
通貨によって評価でき
かつ譲渡可能の非通貨
財産
・現金出資が資本金の
30%以上
・外国側の出資率 25%
以上
・出資比率に応じて投
資、経営、リスク、損益
を負担
・軽工業、サービス、不
動産、観光は 10~15 年
・重工業、農業、インフ
ラ関連は 20~30 年
・制約なし、同時に外貨
バランス義務も撤廃
独資企業(100%外資) パートナーシップ企業
・一般に合弁、独資 ・合弁企業に準じる
企業より短い
・経営期限の延長が可
能
・同左
・同左
75
・制限なし
合弁企業
国内調達
国内販売
利益分配
海外送金
解散・清算
メリット
デメリット
4
・国内優先購入義務は撤
廃
・認可を受ければ、自社
製品の製造を目的とす
るもの以外の調達が可
能4。
・政府許可を得た経営範
囲内の自社製品につい
て可能であったが、WTO
加入の際、自社製品以外
の販売も可能となった
・納税、累損補填、法定
積立金控除後、出資比率
に応じて分配
・利益の送金は保証され
る
・
「合弁企業法実施条例」
に準じる
・解散条件:董事会全会
一致の決議、政府認可が
必要
・債務:全資産で返済
・余剰資産:出資比率で
分配
・中国側の販売チャンネ
ル、人脈の活用
・独資による設立規制業
種に進出可
・経営、配当方針等の調
整難航
・中国側の設備、余剰人
員を使用する場合、非効
率
外商投資商業領域管理弁法 商務部
合作企業
独資企業(100%外資) パートナーシップ企業
・同左
・同左
・制限なし
・合弁企業に準じる
・合弁企業に準じる
・外商投資パートナーシ
ップ企業の経営範囲を
超えてはならない
・協議により契約に ・協議により契約に規 ・パートナーシップ契約
規定
定
により任意に設定でき
・合弁企業に準じる ・合弁企業に準じる
る
・合弁企業に準じる ・合弁企業に準じる
・「合作企業法実施 ・「独資企業法実施細 ・
「パートナーシップ法」
細則」に準じる
則」に準じる
に準じる
・解散条件:契約で
明記。政府の認可が
必要
・全資産:基本的に
無償で中国に帰属
(契約で明記)
・投下資本の先行回 ・経営のフリーハンド ・パススルー課税が採用
収 が 可 能 に な る な が確保される
されている
ど、中国側と共同で
・資本金規制がない
開発事業を行う場
・商務部の審査が必要な
合、本形態ならでは
く、手続きが簡素化さ
のメリットがある
れ、設立時間が短縮でき
る
・法的保証が曖昧
・国内での販路確保が
難しい
令「2004」8 号
76
<コラム 36. 合弁企業と合作企業>
コラム- 36 合弁企業と合作企業
1. 合弁企業は、中国企業と外国企業又は個人(香港、マカオ、台湾を含む)が共同出資
して、設立する有限責任の中国国内企業である。
出資比率は外国側の出資比率が 25%未満でも設立は可能だが、外国側が 25%以上出
資しなければ外商投資企業としての優遇措置は受けられなかった。2007 年 7 月公布の
「外商投資プロジェクトの輸入税収優遇政策の調整に関する公告」により、外資企
業の自家用設備の輸入に対する税制優遇が再投資プロジェクトに拡大され、25%の
出資比率制限も撤廃された。具体的には、
「外商投資産業指導目録」の奨励類、また
は「中西部地域外商投資優勢産業目録」に属する外商投資プロジェクトで、
「外商投
資プロジェクト非免税輸入商品目録」に含まれない自家用設備の総投資額の範囲内
での輸入に限定される。
合作企業も出資に関する事項は同じであるが、中国側の資源を活用しつつ外資 100%
の合作企業の設立が可能である。(後述)
2. 合弁企業では、派遣する董事の数、利益の配分、損失、リスクの分担など大半の権利・
義務が登録資本の出資比率に応じて決まるが、合作企業では出資比率に関係なく、契約
により利益の配分・損失分担だけでなく、資本の回収、董事の派遣人数なども自由に決
定できる。このため合作企業は「契約式合弁」ともいわれている。
3. 合作契約により、外国企業が合作期間前に投下資本を優先的に回収することが可能。
この場合、合作期間満了後は全固定資産が中国企業のものとなる。合弁企業ではこのよ
うな契約はできない。
4. 合作企業では、合弁企業の場合、現物出資または賃借りできない無償払い下げの土地
を工場と共に賃貸することができる。
5. 合弁企業では、中国企業が保有する土地・工場を活用するためには、中国側が土地・
工場を現物出資する場合が多く、一般的にその評価は外国企業が想定するよりも高く評
価され、かつその評価による出資比率に応じた利益配分、董事派遣を要求され、経営方
針が一致しない場合困難が生じることが多い。これに対し、合作企業では合作企業のプ
ロジェクトの条件として中国側から土地使用権・工場を賃借りし、(現物出資しないた
め出資持分なし)外国企業が 100%出資のまま経営を比較的自由に運営することも可能
になる。この場合、中国側に賃料相当の支払いを保証することにより、中国側の資源を
活用しつつ、中国側の経営への関与を抑え、実質的に独資に近い運営が可能となる。但
し、下述「6.」の通り、合作の場合に「契約により全てが決まる」
、つまり、独資法や
合弁法と比較して、「合作法および同関連法により、外資が守られる範囲は限定されて
いる」リスクには留意すべきであろう。
6. 合作企業では契約により全てが決まるが、法的保証が曖昧な部分もあり、締結内容に
ついては弁護士に相談の上、十分吟味していく必要がある。事例としては、ホテル、外
人用マンション、高級レストランなどの運営に利用される事例があるが、利用は少ない。
77
(3)その他の投資形態
① 委託加工貿易
外国企業が原材料を無償(設備の無償貸与を併せて行う場合もある)で提供し、中国の土
地・建物・労働力を使って生産し、加工賃のみを支払い、製品を引き取る方式を「来料加工」、
有償で原材料を供給し、原材料に加工賃を上乗せした製品価格を支払う方式を「進料加工」
(この場合、設備の無償貸与は行われない)という。
来料加工と進料加工の違い
・ ともに外国企業が中国にある加工企業と委託加工契約を結び、原材料を提供し、製品を
原則全量引き取る加工貿易の形態である。
・ 両者の違いは、来料加工が原材料を無償で提供し、
(更に設備を無償で提供する場合もあ
る)製品も無償で引き取り、加工企業に加工賃のみを支払うのに対し、進料加工は原材
料、製品の売買が有償で行われ、その都度資金決済が行われる点にある。
図表 4- 14 来料加工と進料加工の違い
(来料加工)
原料・設備(無償)提供
中国の加工企業
製品(無償)引取り
(「法人格の無い」
来料加工の場合、
主に郷鎮企業)
外国企業
加工賃のみ支払い
(進料加工)
原料(有償)輸出、決済
中国の加工企業
外国企業
(主に外国現地法人)
製品(有償)輸入、決済
78
委託加工の外国企業にとってのメリット、デメリット比較
図表 4- 15 委託加工の外国企業にとってのメリット、デメリット比較
来料加工
進料加工
直接投資
(独資の場合)
少ない
同左。但し来料加工よりは負
担が重い
プロジェクトに必要な資金
全額を負担
少ない
同左。但し来料加工よりはリ
スクが大きい
あり
手続き
簡単
同左
設立まで 3~4 ヶ月必要
品質
日本人スタッフが常駐しな
いため、十分確保できず、検
品体制が必要
同左。加工企業が自社現法の
場合は問題ない
日本人スタッフが常駐、指
導、管理するため、確保、維
持可能
同左
国内販売
原則できないが、事前認可を
取得すれば可能。但し、国内
販売枠に相当する原材料に
は、関税、増値税がかかる
自由(事前認可不要)
。税に
ついては、加工企業と同様の
扱い
技術水準
十分な水準の確保が困難。ま
た、技術、ノウハウが流出し
やすい
同左。加工企業が自社現法の
場合は問題ない
日本人スタッフが常駐、指
導、管理するため、十分な水
準の確保が可能
原料輸入時に納税し、製品輸
出時に還付されるため、税の
立替負担が発生。品目によっ
ては、不還付税額の負担が大
きい
進料加工の場合に同じ
増値税・関税
保税扱いにより納税なし。但
し、国内から原料を仕入れた
場合、増値税が発生しても控
除、還付ができず、コストア
ップ要因となる
「法人税のない」来料加工の
場合、加工企業が外資企業で
ないため受けられない
加工企業が自社現法で条件
を満たせば可能
所定の条件を満たせば可能
優遇税制
経営のコントロール
日本人が常駐しないため、十
分でない
加工企業が自社現法で条件
を満たせば可能
問題なし
投資資金負担
投資リスク
(注)
①加工企業は、認可取得により、
「加工貿易手帳」
(手冊)の交付を受け、輸出入にあたり、同手帳により照
合、消し込みが実施される。更に加工貿易による無償、免税を悪用した国内販売、密輸防止のため、
「加工
貿易銀行保証金台帳制度」の適用を受け、②で規定される類別に従い、増値税と関税の合計額に相当する
金額か、それに一定割合を乗じた保証金(または銀行保証)を差し入れる。
②制度の運用について、加工企業は税関局から 5 分類(AA,A,B,C,D)の管理分類の指定を受け、管理分
類および取扱い品目毎に、保証金差し入れの要否、及び差し入れが必要であればその金額が決定される。
AA 類(A類管理の適用期間が 1 年以上などの条件を満たす企業)の許可類は保証台帳制度の適用を受けず、
A 類(連続 1 年以上違反行為のない企業)
、B 類(C 類、D 類以外で大きな違反行為のない企業、新設企業)
、
及び C 類(1年に 3 回又は累計で罰金累計額、滞納税額 50 万元未満)の許可類製品、制限類製品の場合
は台帳の設置または保証金の差入れが要求される。禁止類製品及び D 類(重大な違反があった企業)は加
工貿易が認可されない。なお、保税区、輸出加工区内で委託加工する場合は、「加工貿易銀行保証金台帳
制度」は実施されず、税関手続きの利便性が図られている。
79
香港を経由した「委託加工貿易」
広東省でよく行われている「委託加工貿易」は「
(法人格の無い)来料加工」と呼ばれる形
態である。
図表 4- 16 来料加工の一般的形態
A社 中国側工場 (中国)
委
託
加
工
契
約
設製
備品
・ 全
原量
材輸
料出
免
税
輸
入
製
品
<無償>
原
材
料
A社 香港現法 (香港)
加
工
賃
支
払
・香港現法が、中国企業と委
託加工契約を締結し中国側
工場の運営権を譲り受ける。
・香港現法は、中国側工場を
実質自社工場として運営し、
来料加工形態による委託加
工生産を行う。
出所:ジェトロ香港センター
「中国華南・香港進出マニュアル」
こうした法人格のない来料加工工場を法人化させようとする動きが見られる。2008 年 9
月、広東省政府から出された「加工貿易転型昇級の推進に関する若干の意見」には、2012
年までに来料加工工場の法人化を完了する、としており、それを促進するための助成や優遇
策が深圳市や東莞市などの地方政府から出されている。2009 年 7 月 16 日には、財政部から
も「来料加工工場から法人企業に移管する際の輸入設備税収問題に関する通知(財関税
【2009】48 号)
」が発布され、既存の無償提供設備を新法人に移管する際に輸入税と輸入増
値税を免除し、新法人への現物出資を可能にするなどの施策が定められた。だが、こうした
政府の誘導にも関わらず、実際に法人化を行う来料加工工場は少数派である。深圳市を例に
とると、2010 年 12 月時点で、法人化済みの来料加工工場はわずか 10%ほどで、あとは「法
人化したくない(20%)」
「とりあえず様子を見る(65%)」といった工場ばかりである。東
莞市では 2010 年 1~9 月で 227 工場が法人格を取得したが、残りの約 7 千工場が法人企業
に移管しないまま運営を続けている。法人化を拒む工場側の理由を挙げると、法人化には新
規出資、設備移管、労務、税金、税関などでコストや手間がかかる、当面は法人化する理由
がない(国内販売をする気がない)
、来料加工特有のメリットを放棄したくない、などが挙げ
られる。
出所:中国企業転型昇級網
転廠
転廠とは保税で中国側へ輸出した原材料を、直接製品に加工して香港へ輸入するのではな
く、一部加工の後、保税のまま中国国内の他の工場へ転送して加工を継続し、最終製品を輸
出する制度である。単純な「来料加工」であれば、保税のまま中国へ輸出された原材料は、
80
すべて製品として香港へ輸入されなければならないが、実際の加工形態はそれ程単純なもの
ではなく、何段階もの加工工程を経て初めて最終製品として香港へ輸入される。こうした実
態に併せ、保税のまま複数回の加工工程を認めた制度が「転廠」と呼ばれている。
図表 4- 17 転廠の一般的形態
(
中
国
)
A社中国工場
加
工
賃
(
香
港
)
原
材
料
(
保
税
)
半
製
品
(
保
税
)
B社中国工場
加
工
賃
完
成
品
(
保
税
)
外貨決済
A社香港現法
B社香港現法
出所:ジェトロ香港センター
「中国華南・香港進出マニュアル」
②
補償貿易…外国企業は設備・原材料・資金を提供し、中国は製品で返済する方式。
③
ファイナンス・リース…設備をリースにより調達する方法で特に税制メリットはな
い。また、リース資産はレッシーの B/S に計上しなければならない。
(4)総投資額に対する登録資本の比率規制
・ 総投資額とは、投資プロジェクトにおいて今後想定される設備資金と運転資金の合計で
あり、総投資額=設備資金+運転資金=登録資本+借入金という関係が成立する。
従って中国への進出にあたり、まず総投資額(プロジェクト規模)をいくらにするかを
決定し、その額により最低資本金が下記の通り決定される。
・ 設立後に既存の投資総額を超えて工場拡張等の大型設備投資をする場合、改めてプロジ
ェクトの申請が必要になるが、その場合の登録資本の比率は、増加総投資額により最低増
資金額が決まる。
・ 借入限度額=総投資額―登録資本金であり、限度額を超える外貨借入を行う場合、営業
許可証上の総投資額の増額変更手続きにより、総投資額の増加に見合う増資が必要。
なお、親会社保証付きの人民元借入について、外貨の規定においては融資時点で「総投
資額-登録資本」枠に入らないが、保証債務の履行時にはカウントされる為、注意が必要
である。
<例>総投資額 200 万米ドル、登録資本 140 万米ドルにて現法を設立。5 年後に追加で 150
万米ドルの総投資を実行する場合の最低増加資本金は 105 万米ドル(=150×70%)であり、
出来上がりの総投資額 350 万米ドルに対応する最低資本金は 245 万米ドルとなり、下記資本
金比率規制の示す 50%にならないことに留意しなければならない。
81
図表 4- 18 総投資額に対する登録資本の比率規制
総投資額
登録資本:総投資額
登録資本の最低額
300 万米ドル未満
0.7:1
特になし
300 万~1,000 万米ドル
0.5:1
300 万~420 万米ドルの場合は 210 万米ドル以上
1,000 万~3,000 万米ドル
0.4:1
3,000 万米ドル超
1,000 万~1,250 万米ドルの場合は、500 万米
ドル以上
3,000 万~3,600 万米ドルの場合は、1,200 万米
1:3
特別のプロジェクト
ドル以上
商務部、関係部門と協議のうえ決定
(5)外商投資企業設立の審査権限及び許認可手続き
① 2004 年 7 月 1 日施行の「行政許可法」、及び同年 7 月 16 日に国務院より公布された「国
務院による投資体制改革に関する決定」に基づき、同年 10 月 9 日、「外商投資プロジェ
クトの審査確認暫定管理弁法」
(以下「審査確認弁法」)が施行された。
② 外商投資企業設立の手続きでは①プロジェクトの妥当性に関する審査確認、②会社設立
要件の審査認可の二つに分かれ、従来よりも審査手続きの簡素化、審査機関の明確化及
び投資金額の緩和が図られた。審査確認機関および権限について、数回にわたり修正が
行われている(
「外資利用業務の更なる改善に関する若干意見」2010 年 4 月、
「外商投資
プロジェクトに対する審査確認権限の委譲の遂行に関する通知」2010 年 5 月)。
③ 本法は固定資産投資を伴う生産型企業が対象であり、サービス業等には適用されない。
図表 4- 19 外商投資企業設立の審査権限及び許認可手続き
審査項目
プロジェクト
の妥当性
会社設立要件
地方の
審査限度額
変更前
変更後
審査認可制(中文:審査批准)
審査対象:「プロジェクト建議書」
及び「FS 報告書」
審査機関:発展改革部門(国、地方)
審査認可制(中文:審査批准)
審査対象:「契約」
、「定款」
投資総額 3,000 万米ドル未満
審査確認制(中文:核准)
(注)
審査対象:「プロジェクト申請 報告書」
審査機関:発展改革部門(国、地方)
同左
投資総額 1 億米ドル未満、
制限プロジェクトは 5,000 万米ドル未満
(注)審査確認制:プロジェクトの妥当性について審査内容が中国の下記政策・規定に合致している
かについて確認する制度で、従来の審査認可制で要求されていた FS(プロジェクトの採算)につい
ては作成の必要がなくなり、裁量性の余地が少なくなった。
①中国の国民経済・社会発展の中長期計画・産業構造調整政策、②公共の利益・国の独占禁止規定、
③土地利用計画・都市計画・環境保護政策、④国の規定する技術・行程基準、⑤国の資本項目管理・
外債管理に関する規定
82
機関
国務院
国家発展
改革委員会
省レベル発展
改革委員会
権限
備考
奨励類・許可類
:投資総額 5 億米ドル以上
制限類
:投資総額 1 億米ドル以上
奨励類・許可類
:投資総額 3 億米ドル以上
5 億米ドル未満
制限類
:投資総額 5,000 万米ドル以上
1 億米ドル未満
奨励類・許可類
:投資総額 3 億米ドル未満
制限類
:投資総額 5,000 万米ドル未満
国家発展改革委員会がプロジェクト
申請報告書を審査後に、国務院が審査
確認を行なう。
奨励類・許可類のうち、「政府による
審査確認プロジェクト目録」に基づ
き、国務院関連部門の新たな確認が必
要となるものを除く。
<コラム 37. 上海投資の最近の傾向と新しいビジネス>
コラム- 37 上海投資の最近の傾向と新しいビジネス
1.最近の傾向
2011 年の上海の日系投資は増資も含めて 645 件(増資 3 割、新規 7 割)
。契約ベース 20
億ドル(2010 年比 60%増加)
。2011 年上半期は出足が鈍かったものの、下半期に大きく
増加した。特徴としては、製造業から第三次産業への移行が顕著であることである。全体
の 83%は第三次産業、第二次産業は 16%、第一次産業は 0.1%であり、上海への投資は圧
倒的に第三次産業が多くなっている。
2.新しいビジネス
経済発展の著しい中国へは、新しいビジネスチャンスを狙って多くの日本企業が進出を
検討している。特に、経済発展の中心である上海には多くの日本のサービス産業が進出、
または進出を計画している。最近の動きとしては、
「老人介護ビジネス」「企業福利厚生代
行サービス」といった、日本でも新しいビジネスが進出しつつある。上海では急速に富裕
層が拡大しており、
「量より質」を求める傾向が強まっていることが、こうした新しいビジ
ネスチャンスを生む基盤となっている。
「日本で流行ったものは必ず上海でも流行る」とい
われている。今後は、この傾向がますます強まるものと予想される。
83
コラム- 38 駐在員事務所規制について
<コラム
38. 駐在員事務所規制について>
駐在員事務所形態での中国進出は、コストを含めたあらゆる面で有利な進出方法であると
認識され、駐在員事務所での進出を検討する企業も多くみられたが、2010 年頃より駐在員事
務所に対する規制が強化されていることもあり、現在では必ずしも有利な進出形態とは言え
なくなって来ている。駐在員事務所形態での進出を選択する場合は、メリット、デメリット
を十分に検討する必要がある。
1.規制強化の経緯
駐在員事務所(常駐代表機構)には従来より営業行為は認められていなかったが、実質
営業行為を行う事務所は課税対象とし、非営業性の本来の駐在員事務所は「非課税事務
所」としての認定を取得することによって、免税扱いとすることで長らく推移してきた。
しかし、駐在員事務所に対する課税が強化される動きの中で、2010 年の法改正により、
原則非課税事務所は認められないこととなり、既に「非課税事務所」としての認定を取
得している事務所も順次課税事務所に切り替えられることとなった。現在では、駐在員
事務所であっても課税対象収入を正確に計算し、四半期毎に申告を行い、企業所得税他
の税金を納税する義務を負う。
2.駐在員事務所の業務範囲
① 外国企業の製品あるいはサービスに関連する市場調査、展示、宣伝活動。
② 外国企業の製品の販売、サービスの提供、中国国内での購買、中国国内での投資に
関する連絡活動。
(2010 年 11 月 19 日公布「外国企業常駐代表機構登記管理条例」
)
3.課税方法
「外国企業常駐代表機構登記管理条例」の規定に基づいた計算方式に従い、課税額が算定
される。尚、多くの駐在員事務所に対しては、15%が利益率として適用される。
84
2.企業設立の手続き
(1) 合弁・合作企業の設立手続き(申請手続きは通常、中方企業が代表して行う。)
図表 4- 20 合弁・合作企業の設立手続き
パートナーの選定
中国側合弁パートナーとの
(予備)交渉
環境保護部門、計画部門、国土
管理部門と協議、プロジェクト
に関わる意見書等を求める
関係部門の意見書、確認書
国家又は地方の発展改革委員会
へ「プロジェク申請報告」を
提出→プロジェクト審査確認
プロジェクトへの確認書
①中外双方が共同して「プロジェクト申請報告」
を作成
(記載内容:a.プロジェクトの名称、経営期間、投
資者の基的状況 b.建設規模、内容、製品、採
用する技術、行程、市場、従業員採用計画 c.建
設場所、土地、水、エネルギー等資源に対する需
要、原材料の消費量 d.環境影響評価 e.製品の
価格 f.投資総額、登録資、各出資者の出資
額、出資方式、借入計画、輸入設備と金額)
②「プロジェクト申請報告」添付資料:
a.投資者の企業登録証、最新の財務諸銀行
の資信用証明書 b.投資意向書 c.銀行の融資
意向書 d.省級又は国家環境保護部門の環境影
響評価意見書 e.省級計画部門が発行した計画
用地選択意見書 f.省級又は国家国土資源管理
部門のプロジェクト用地事前審査意見書 g.国有
資産・土地使用権の出資には関連主管部門の確
認書
企業名称の仮登記
合弁契約・定款の交渉
契約書に署名、定款作成
商務部又は対外貿易経済
合作庁(局)に認可申請
設立批准書交付
(書類提出後3ヶ月以内)
設立申請必要書類の作成
①設立申請書
②日側法人登記謄本
③プロジェクト報告書及び確認書
④合弁契約書・定款
⑤合弁企業取締役会名簿
⑥名称登記
工商行政管理局へ登記手続
(許可証発給後1ヶ月以内)
営業許可証交付
(企業設立日)
(注)
2004 年 10 月 9 日施行の「審査確認弁法」に基づき、日中経済協会『中国投資ハンドブック』のフ
ォームを用い作成。なお、
「審査確認弁法」では F/S の作成、審査が不要になったが、従来の「中外
合弁企業法実施条例」では F/S の作成、審査認可が求められたまま、改定されており、実務上も F/S
の作成が要求されている。また、改定後の「プロジェクト申請報告書」の中味は収支計画が不要な点
を除けば従来の F/S 作成に必要な項目が要求されており、投資採算を判断するためにも事前に社内用
の F/S を作成し、検証しておくことが望ましい。
なお、2004 年 6 月 1 日施行の「外商投資商業領域管理弁法」に基づく、外国企業の卸・小売り企業
の設立では、
「審査確認弁法」が適用されず、F/Sの作成が義務付けられていることに留意。
85
補足1:社内用のF/S作成による事業収支検証について
① 調査項目…投資プロジェクトについて、投資規模、設備投資、資金調達、人員採用及び賃金
支払い、原材料調達、製品の生産・販売、物流、エネルギー使用、環境保護措置等について
5ヵ年程度の事業収支計画を策定し、投資プロジェクトが採算に合うかどうかについて経済
面、物流面また技術面、公害廃棄物による環境汚染等法律面で問題がないかを事前に分析、検
証しておくのが望ましい。
② 投資プロジェクトが奨励プロジェクトに該当する場合…購入設備は投資総額の範囲内でのみ
免税扱いになるため、合弁契約、及び定款における投資総額は将来の購入設備金額も織り込ん
で決定することが重要。設備投資計画では、購入する設備を輸入設備と中国内調達設備に分
け、名称、型番、数量、単価などを記載した設備リストを作成する。輸入設備リストは設備の
免税認定手続きに必要な書類となる。
③ 作成にあたっての注意事項…ベストシナリオではなく、原材料価格、賃金上昇、為替などの
リスクを織り込んだシナリオを前提に作成するのが望ましい。なお、原材料、製品で親子間売
買が発生する場合、価格設定は第三者との取引を想定した水準で設定しておく。
(親会社に有
利に設定している場合、現地税務当局から移転価格税制(次ページ参照)の適用を受けるお
それがある。)
補足2:合弁契約作成にあたっての留意事項
① 出資比率に応じた権益が確保できるのかどうか…董事の人数配分と董事会決議方法等
② 日本側に不利、又は不当に重い責任を課す内容になっていないかどうか…合弁企業の製品品
質水準確保責任、技術移転、製品の引き取り事項等の内容チェック
③ 事業が計画通り行かなかった場合の出口(撤退―出資持分譲渡、解散・清算)確保出資譲渡
④
⑤
⑥
⑦
⑧
について、董事会で中方が同意しない場合…中方が出資持分を適切な価格で引き取ること等
を条文に織り込む。
解散・清算に該当する事項として、計数で示せる明確な基準を設けておくこと…例:累積損
失が登録資本金の 1/2 を超えた場合は、合弁企業を解散する等
合弁企業が解散・清算事由に該当する場合…各出資会社は派遣した董事に董事会決議におい
て解散に同意させる義務を負わせる。もし同意しない場合…その董事を派遣している出資会
社は他の出資会社の持分を引き取らなければならない等の条文を織り込み、解散決議の円滑
な成立を確保しておく。
出資者は必要に応じ、外部監査、帳簿閲覧ができるよう条文を入れておくのが望ましい。
合弁契約では、もともと国籍、経営方針、企業背景の異なる企業同士が1つの投資プロジェ
クトに関し、それぞれの合弁当事者の責任と権利を定めるものであり、この合弁契約を反映
させた定款が合弁企業の拠り所となる。
合弁契約と定款に矛盾がある場合は、合弁契約が優先する。従って合弁契約の作成にあたっ
ては、下記に留意の上、各出資者の権利と責任及び意見が食い違った場合の処理方法等につ
いて極力曖昧さを避け、具体的に詳細に規定しておく必要がある。
補足3:合弁契約において必ず記載しなければならない事項(中外合資経営企業法実施条例)
必ず記載しなければならない事項は下記 13 項目となっている。
① 合弁当事者の名称、登記国、法定住所及び、法定代表者の氏名、職務、国籍
② 合弁企業の名称、法定住所、目的、経営範囲及び規模
③ 合弁企業の投資総額、登録資本、合弁当事者の出資額、出資比率、出資方式、出資の払い込み期
間及び、出資額の不払い、持分譲渡に関する規定
④ 合弁当事者の利益分配及び損失負担の比率
⑤ 合弁企業の董事会の構成、董事の人数配分及び正副総経理ならびにその他高級管理職の職責、
権限及び任用方法
⑥ 採用する主たる生産設備、生産技術とその調達先
⑦ 原材料の購入及び製品の販売方法
⑧ 財務、会計、監査の処理原則
⑨ 労務管理、賃金、福利、労働保険などの事項に関する規定
⑩ 合弁企業の経営期間、解散及び清算の手続き
⑪ 契約違反の責任
⑫ 各当事者間の紛争を解決する方法及び手続き
⑬ 契約の文書に用いる言語(注)及び契約の効力発生条件
任意の記載事項:用語定義、合弁当事者の責任及び任務、董事会の開催方法・場所・決議方
86
法、経営管理機構の責任と権限委譲、借入れ、技術移転、商標に関する事項等。
(注)「使用言語は日本語、中国語とし、双方の言語により作成された契約はそれぞれ同等の効力を有する」
の文言を入れておくことが好ましい。
<コラム 39. 移転価格税制>
コラム- 39 移転価格税制
移転価格税制とは、例えば日本企業が中国に現地法人を設立し、現地法人に原料を販売し、
現地法人が加工後製品を日本の親会社に販売する場合、親子間の原材料・製品の売買価格を
意図的に操作し、現地法人の利益を不当に減少させた場合に中国の税務当局から課税される
ことを指す。移転価格税制は中国に限らず、OECD ガイドラインにも規定があり、国際的な
税務上の基準となっている。
中国においても、新「企業所得税法」では第 42 条、第 43 条、第 44 条に規定がある。2009
年 1 月、新「企業所得税法」に合わせた新たな移転価格税制が発表され、2008 年より遡及
適用されている。2009 年 4 月付の通達(国税函[2009]188 号)によると、
「移転価格動機
文書を毎年の期限内(2008 年度については 2009 年 12 月末日まで、その後は毎年 6 月 20
日まで)に 5 年間提出させなければならない。またこのフォローアップ期間中に企業が APA
を申請する場合、税務当局は更正結果よりも課税所得が減少しないように留意しなければな
らない」ことが定められている。
具体的には、現地法人が購入する原料価格を市場価格(独立した企業間の売買価格)より
高くし、親会社に販売する製品価格を市場価格より低い価格とした場合、中国税務当局の認
定する市場価格と売買価格の差額について利益が発生しているものとみなされる。
他に親子間での取引では、親子ローンの金利及び労務提供費用についても同様に適用さ
れ、調査を受ける場合、税務当局は財務諸表のほか F/S 報告書、金銭消費貸借約定書等に基
づき調査する。
87
(2)独資企業の設立手続き
申請代行機関を通じて一連の申請手続きを行う。
図表 4- 21 独資企業の設立手続き
環境保護部門、計画部門、国土
管理部門と協議し、プロジェクト
に関わる意見を求める
関係部門の意見書、確認書
国家又は地方の発展改革委員
会へ「プロジェクト申請報告」を
提出→プロジェクト審査確認
①「プロジェクト申請報告」を作成
(記載内容:a.プロジェクトの名称、経営期間、投資者の基
本的状況 b.建設規模、内容、製品、採用する技術、行
程、市場、従業員採用計画 c.建設場所、土地、水、エネ
ルギー等資源に対する需要、原材料の消費量 d.環境影
響評価 e.製品の価格 f.投資総額、登録資本、各出資者
の出資額、出資方式、借入計画、輸入設備と金額)
②「プロジェクト申請報告」添付資料:
a.投資者の企業登録証、最新の財務諸表、銀行の資本
信用証明書 b.投資意向書 c.銀行の融資意向書 d.省級
又は国家環境保護部門の環境影響評価意見書 e.省級
計画部門が発行した計画用地選択意見書 f.省級又は国
家国土資源管理部門のプロジェクト用地事前審査意見書
g.国有資産・土地使用権の出資には関連主管部門の確
認書
プロジェクトへの確認書
合弁契約・定款の交渉
商務部又は対外貿易経済
合作庁(局)に認可申請
設立批准書交付
(書類提出後3ヶ月以内)
工商行政管理局へ登記手続
(許可証発給後1ヶ月以内)
営業許可証交付
(企業設立日)
(注)
企業名称の仮登記
設立申請必要書類の作成
①設立申請書
②投資者の企業登録証
③プロジェクト報告書及び確認書
④定款
⑤董事会メンバー名簿
⑥名称登記
登記主要項目及び必要書類
①企業設立批准証書の副本
②プロジェクト報告書及び確認書
③投資者の企業登録証
④投資者取引銀行が提出した資本信用証明と最近3年間
の資産負債表
⑤会社設立に関する申請登記表
⑥その他の専門項目に関する批准文件
2004 年 10 月 9 日施行の「審査確認弁法」に基づき、日中経済協会『中国投資ハンドブック』のフ
ォームを用い作成。なお、
「審査確認弁法」では F/S の作成、審査が不要になったが、従来の「中外
合弁企業法実施条例」では F/S の作成、審査認可が求められたまま、改定されており、実務上も F/S
の作成が要求されている。また、改定後の「プロジェクト申請報告書」の中味は収支計画が不要な点
を除けば従来の F/S 作成に必要な項目が要求されており、投資採算を判断するためにも事前に社内用
の F/S を作成し、検証しておくことが望ましい。
なお、2004 年 6 月 1 日施行の「外商投資商業領域管理弁法」に基づく、外国企業の卸・小売り企業
の設立では、
「審査確認弁法」が適用されず、F/Sの作成が義務付けられていることに留意。
88
(3)中国進出時(独資生産会社設立)の主要作業チェックリスト
図表 4- 22 中国進出時(独資生産会社設立)の主要作業チェックリスト(単位:月)
1
2
○
○
3
4
5
6
7
8
9
10
11
○
○
○
○
○
12
13
14
○
○
○
15
進出先・進出形態の決定
物件情報収集・検討
現地当局と打合せ
○
現地視察・規制等
○
物件仮契約
○
物件正式契約
○
事業計画
投資総額決定
○
○
社名候補の選定
人事関連確定
○
○
企業登記
本社の取締役会決議
○
環境保護部門等確認取得
○
発展委員会確認取得
○
会社名仮登記
○
外国人投資申告申請
○
○
○
○
営業許可証取得
○
資本金送金
○
その他諸登記手続
貿易
税関登記
○
銀行口座の開設
取引金融機関の決定
○
取引口座開設
○
公章(印鑑)の作成
社印、財務印の作成
○
銀行取引印の作成
○
工場建設
工事業者選定
○
建設申請・許可
○
着工・施工
○
各種確認検査
○
保険関連手続
○
89
○
現地社員の採用・研修
募集
会社諸規則作成
○
○
○
雇用契約書作成
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
社員研修
○
○
○
○
○
○
○
○
機械設備搬入
免税申請
運送業者手配
○
○
輸送・搬入
開業(操業)
現地調整・試運転
本格操業
○
広報
○
開業(操業)日の決定
式典準備
○
マスコミ広報活動
○
そ
の
派遣社員住環境整備
他
日本人会登録
○
○
○
会計法人の選定
○
(注)本チェックリストは、中国進出時(工場進出)の主要作業事項とタイムフローの目安を記載してあるが、進出形態
や政治・経済状況の変化などにより異なるので、参考資料として活用のこと。
90
3.事業展開上の留意事項
(1)土地使用権
① 土地所有・使用形態
図表 4- 23 土地所有・使用形態
保有者 国家所有(全人民所有)、集団所有
管理権者 中央/地方政府 中央/地方政府の土地管理局
管理権の付与
使用権の許可
使用権者 国有企業、外資系企業、民営企業、政府機関など
(注)企業は使用する土地の所有権を持つことはできず、土地使用権の購入が必要。
② 種類
割当土地使用権:行政割当による土地使用権。(無償供与の場合が多い。)
払下げ土地使用権:政府が土地使用者に、有償・有期限で払い下げる土地使用権。
③ 関係法
「土地管理法」
(99 年 1 月施行、2004 年 8 月改正)、「土地管理法実施条例」
(99 年 1
月施行)
、
「都市不動産管理法」
(95 年 1 月施行、2007 年 8 月改正)、
「国有土地使用権協
議払下げ規定」
(03 年 8 月施行)
、「厳格な土地管理を実施する緊急通知」(04 年 4 月 29
日施行)、
「土地市場管理粛正業務を厳格に実施する計画」(04 年 5 月 20 日施行)、
「建設
プロジェクト用地予備審査管理弁法」(04 年 12 月1日施行)、全国工業用地使用権譲渡
最低価格に関する通知(06 年 12 月 23 日施行)
、この他各省、市政府の公布する関連
条例がある。
④ 取得方法
独資企業:直接取得(中央/地方政府との土地使用権払下げ契約、中央/地方政府から
割当土地使用権を購入)
合弁企業:中国側パートナーが土地使用権を現物出資することが多い
⑤ 特徴
割当土地使用権
中国側が現物出資する場合は、譲渡・担保差入れ不可、資
産価値はゼロであることに留意。
有償払下げ土地使用権
譲渡・担保差入れ可、但し譲渡時に政府の許可が必要。
無償払下げ土地使用権
原則として譲渡・担保差入れ不可(但し、許認可権を有す
る政府が特別に認可した場合、譲渡等可のケースあり)
。
⑥ 期間 一般に 50 年、最長 70 年(工業用地 50 年、居住用地 70 年、商業用地 40 年)
91
<コラム 40. 最近の土地開発の規制強化と工場用地不足>
コラム40 最近の土地開発の規制強化と工場用地不足
①
政府は
2003 年7月以降、土地の乱開発、開発区への過剰投資を防止するため、国務院より
全国の開発区の整理粛正通知を出し開発区の調査見直しに着手、更に 04 年 4 月 29 日の「緊
急通知」により、土地の批准状況、使用目的、法令違反、計画違反、農民集団用地収用の補
償状況を厳格に査察し、一時的に農用地の転用一時禁止、土地使用権譲渡契約締結が一時中
断された。これにより 2003 年以降 04 年 12 月までに地方政府の違法な土地収用、開発は 4.2
万件に上り、そのうち立件、裁判中の案件は 3.2 万件に及ぶ。現在で全国 4,813 箇所の開発
区計画(主に省級、市級、県級)が縮小又は中止となった。このため、既に営業許可証を取
得した企業でも土地使用権売買登記の一時停止、或いは工場の建設途中で工事が一時停止さ
れる等、進出日系企業にも影響が出た。
② その後 04 年 12 月より開発区への土地供給が再開されたが、同月施行の「建設プロジェク
ト用地予備審査管理弁法」により土地使用に関する予備審査が厳格になった。
③ 従来は殆ど問題にされていなかった、各地方政府が規定する「投資密度」
(注)を厳格に適
用し始めたことにより、投資負担の増加要因となってきた。
(注)投資密度=投資総額÷使用土地面積の算式で示され、工業用地の購入にあたり、面積に応じて投資しな
ければならない総投資額のこと(使用面積単位:ムー、1ムー=666.7 ㎡)を厳格に適用。
④
土地開発規制の影響は現在も引き続いており、沿海部の経済開発区では工場用地不足が深
刻になっている。土地使用権の販売で収入を得ることができなくなってきた地方政府が、工
場用地を低価格で買い戻し住宅用地として高く売るケースも見られるようになり、立ち退き
を要求された企業とのトラブルも散見される。今後の投資プロジェクトに係わる土地使用権
の購入に関しては、まず進出候補地に工場用地の余裕があるかを確認する必要がある。なお、
沿海部の主要各都市では土地資源の有効活用から外資選別の動きを強めており、事前に当局
と十分な話し合いの必要がある。
⑤
なお、土地使用権を購入し、土地代を支払った後は、必ず「土地使用権証書」を入手し、
工場建設完了後、「建築所有権証書」を入手し、二つの証書を所管部門に提出し、最終的に
土地と建物の財産権を保証する「土地建物産権(房屋産権)証書」を入手しておかなければ
ならない。
92
(2)知的財産権保護、技術移転契約、環境保護などの基本法規と政策
① 「特許法」
、
「商標法」
、
「著作権法」、
「コンピューターソフトウェア保護条例」、
「反不正
当競争法」等 WTO 加盟に合わせ、法律面では先進国並みに整備された。
(詳細は本章Ⅷ.
知的財産権の保護を参照。
)
②
新技術導入に関する関係法令は、許認可を要求していた法令が撤廃され、2002 年 1 月
より「技術輸出入管理条例」が施行された。これに伴い、技術導入契約に対する審査、
認可が原則不要となり、ロイヤルティの比率、技術供与期間が審査されず、登記のみで
ロイヤルティの対外支払いが可能になった。
以前は、許可を得なければ導入契約期間が 10 年間を超えられなかったが、改訂後は
契約期間を当事者で自由に約定可能かつ、契約期間終了後の技術有償利用の道が開かれ
た(従来、契約期間終了後は技術譲受側が無償使用とされていた)。
③
環境保護関連法令では「環境保護法」、
「大気汚染防止改善法」、
「水質汚染防止改善法」、
「環境騒音汚染防止改善法」等が施行され、各市レベルで汚水、騒音、空気、緑化等の
環境保護基準が制定されている。
④
現地での工場建設に当たっては、事前に環境保護局の審査を受け、産業廃棄物の内容、
レベルによっては詳細な『環境影響評価報告書』を作成の上認可を受け、公害処理施設
は工場建設と同時着工を要求されることに留意する必要がある。
93
<コラム 41. 知的財産権保護の問題点>
コラム- 41 知的財産権保護の問題点
中国の知的財産権保護を巡っては、外国からの強い要望もあり、矢継ぎ早に関連法律の制定
を実行してきた。これにより、法制度の面では WTO「貿易関連の知的財産権協議」やその他の
知的財産権保護の国際条約におおむね一致する状況となっている。
しかし、現実の中国における知的財産権保護の実情は、決して楽観視できるものではない。
現状の問題点としては次の 4 点を挙げることができる。
・ 中国の知的財産権保護の法律運用体系は統一が取れていない。知的財産権保護は行政保護
と司法保護の 2 つから構成されるが、中国では知的財産権局、工商行政管理総局、新聞出
版総署、著作権局、文化部、農業部、林業局、公安部、税関総署、最高人民法院、最高人
民検察院などの部門に多岐にわたり、これらの部門が同時かつ各々に法律運用の職権を履
行している状況である。このような複雑多岐な管理ゆえに法律運用効率が極めて低い。
・ 商標権と著作権の侵害が最も深刻であるが、インターネットの急速な普及に伴い大量の海
賊版製品が、インターネットから直接ダウンロードでき、海賊版の取り締まり管理を一層
難しくさせている。また、コピー商品メーカの多くが小規模経営で、全国的に散在してお
り、これらの販売者に販売停止を強制させても数日後にまた別の社名で開業するなど、イ
タチゴッコ状態となっている。
・ これまで政府は国内製造業を保護するために、ある程度の知的財産権侵害を見過ごしてき
た。一部の政府関係者は、ニセモノ製品を税収と雇用の増加につながる重要な手段ともみ
なしてきた。
・ 中国では大衆の購買力が小さく、ニセモノや海賊版製品などの購入に対して法律の責任を
追及されないことも加わり、安いニセモノと海賊版製品を容認する消費者が多い。つまり、
個々の消費者の意識が低いことが大きな問題である。
また、2012 年 4 月、日本の人気アニメ「クレヨンしんちゃん」のイラストが無断で使用され
た裁判で、中国最高人民法院は日本側の主張を認め中国企業へイラストの使用禁止と賠償支払
いを命じる判決をおこなった。結果的に日本の主張が認められたものの、提訴は 2004 年であり、
判決確定まで時間がかかりすぎる点が指摘されている。
<取り締まり強化により廃棄されるコピー商品
<ニセモノで有名だった北京秀水市場。
現在は秀水大廈が建っている
(Chinadaily.com.cnより転載)>
(人民日報日本語版より転載)>
94
(3)企業会計制度
中国の企業会計制度の主な特徴は以下の通り。
会計法
会計法
会計年度
会計年度
・「会計法」、「会計検査法」、「企業会計準則」、
「企業会計制度」、「財務通則」外部から資金を
調達しない小企業と金融企業を除くすべての企業
に適用
・『新』「企業会計準則」、『新』「個別会計準則」
中国国内上場企業、金融企業(証券、銀行など)
について2007年1月(またはその以降)から強制適用
・西暦の1月1日~12月31日
・財務諸表は月次、四半期、半期、年度ベースを当局に
提出しなければならない。主な財務報告書と作成時期、
報告期限は次の通りである
財務諸表名称
作成時期
報告期限
貸借対照表
月次報告、年度報告
損益計算書
月次報告、年度報告
月次:月次終了後6日以内
キャッシュフロー計算書
年度報告
四半期:四半期終了後15日以内
資産減損引当金明細書
年度報告
株主持分増減変動表
年度報告
未納増値税明細表
年度報告
利益処分計算書
年度報告
半期:半期終了後60日以内
年度:年度終了後4ヶ月以内
出所:東洋経済新報社「中国税務・会計ハンドブック」
会計帳簿
会計帳簿
発生主義
発生主義
三項基金
三項基金
留意点
留意点
・全ての企業は貸借複式記帳法を採用。
・出納帳、総勘定元帳、補助元帳の主要帳簿と補助帳簿で構成
・日本と同様に、取引事実の発生に基づき損益を計上する方法。
・手続きの完全性、内容の完璧性、正確性、適時性が原則。
・外商投資企業は、所得税控除後の利益から三項基金
(準備基金、企業発展基金、従業員奨励福利基金)の
積立てが強制され、準備基金は独資企業の場合、税引き
後利益の10%以上資本金の50%になるまで積み立てが強制
されるが企業発展基金の積立は任意。
但し、2006年に財政部からの通達(財企[2006]67号)
により、「会社法」の改正施行日から、「従業員奨励及び
福利基金」の積立は任意に変更されている。
・『新』「企業会計準則」、『新』「個別会計準則」は日本と
大差なく、国際財務報告基準(IFRS)にも近い。
・2002年1月1日より外資系企業にも適用された「企業会計制度」
により、時価会計、減損会計が導入され、キャッシュ・フロー
計算書の作成が義務付けられた。
・証票・帳簿・諸表は中国語で記入が原則。
95
Ⅳ.金融事情
1.金融制度
(1)金融制度
図表 4- 24 金融体系
国 務 院
中国銀行業
監督管理委員会
政策性銀行
国
家
開
発
銀
行
中
国
輸
出
入
銀
行
中
国
農
業
発
展
銀
行
中国人民銀行
( 中央銀行)
国有商業銀行
中
国
建
設
銀
行
中
国
農
業
銀
行
中
国
銀
行
商業銀行
華
夏
銀
行
中
国
工
商
銀
行
中
国
民
生
銀
行
招
商
銀
行
興
業
銀
行
他
(2)邦銀の支店開設状況
中国保険
監督管理委員会
その他
中
国
光
大
銀
行
中
信
実
業
銀
行
交全
通国
銀
行
上
海
浦
東
発
展
銀
行
深
圳
発
展
銀
行
広地
東方
発
展
銀
行
都
市
合
作
銀
行
外国銀行
農
業
合
作
銀
行
中国証券
監督管理委員会
ノ ン バン ク
外
国
銀
行
支
店
自
動
車
フ
ァ
リ
ー
ス
、
信
託
投
資
公
司
イ
ナ
ン
ス
会
社 、
、
合
弁
銀
行
保険
証券
生
保
・
損
保
会
社
証
券
会
社
(2013 年 6 月現在)
図表 4- 25 主な邦銀の支店開設状況
大
連
三井住友
北
京
天
津
瀋
陽
○
○
○
○
三菱東京 UFJ
○
○
○
みずほ
○
○
○
青
島
上
海
蘇
州
○
○
○
○
○
○
○
無
錫
杭
州
武
漢
成
都
○
○
○
○
○
○
広
州
深
圳
重
慶
○
○
○
○
○
○
○
(注)支店の開設時期によっては人民元業務が未認可の場合もあるので要注意
中国での銀行口座開設
日本においては、銀行口座の開設は比較的容易であるが、中国では外資企業の銀行口座開
設は、事前に当局の認可を必要とする場合もあり、自由に開設ができない仕組みとなってい
る。
その他、預け入れ額の上限が設定されていたり、日本とは制度が根本的に違うことを認識
しておく必要がある。
96
補足:人民元業務の段階的開放時期と開放実績
図表 4- 26 人民元業務の段階的開放時期と開放実績
時期
2001/12
(加盟時)
~2002/12
~2003/12
~2004/12
~2005/12
~2006/12
開放地域
顧客範囲
上海、深圳、天津、大連
外資系企業と外国人個人に限定
広州、珠海、青島、南京、武漢
済南、福州、成都、重慶
中国企業を追加(計画通り開放済み)
昆明、北京、厦門、瀋陽、西安
(瀋陽、西安は当初計画より1年前倒し開放済み)
汕頭、寧波
全地域を開放
中国人個人を含む全て
出所:国家工商行政管理総局「WTO 中国加盟規定書付属文書」
(3)銀行取引
図表 4- 27 銀行口座の開設手続き
①銀行口座の開設手続き
(外貨口座の場合)
「資本信用証明書」取得
外貨登記(外為登記)
外貨資本金口座開設
資本金送金
外貨決済口座の開設
「資本信用証明書」は、親会社の内容、銀行取引
状況について証明するもの。日本の取引銀行が親
会社の依頼を受けて作成する。
「営業許可証」取得後30日以内に、地元の外貨管
理局に対して外貨登記を行い、「外貨登記証」の
交付を受ける。
外貨登記と同時に、外貨管理局に対して外貨資本
金振込専用口座開設を申請し、「口座開設通知
書」の発行を受ける。「外貨登録証」と「口座開
設通知書」を銀行に提示し、外貨資本金口座を開
設する。
親会社から資本金が送金後、銀行から「出資金入
金通知書」の発行を受けて、公認会計士に「験資
証明書」作成を依頼する。
「外貨登記証」、「験資証明書」を外為管理局に
提示し、外貨決済口座開設を申請する。「口座開
設通知書」を取得後、銀行あてに「外貨登記
証」、「口座開設通知書」を提示して、外貨決済
口座開設を依頼する。
97
(人民元口座の場合)
人民元の口座には基本口座と一般口座、借入専用口座がある。基本口座は原則 1 口座の
み開設可能で、一般口座は複数口座開設可能である。借入専用口座は中国内からの人民元
借入専用に使用される口座である。
人民元基本口座開設に必要な書類は各銀行によって異なるが一般的に次のものが要求さ
れる。
①
人民銀行発行の口座開設許可証
②
各銀行制定の口座開設申込書
③
署名・印鑑届
④
営業許可証
⑤
企業コード番号証
<人民元預資金利率表>
過剰流動性の深刻化、消費者物価指数(CPI)の高騰などを受け、2007 年 1 年間で 10 回
の預金準備率の引き上げや 6 回の貸出金利の利上げ等が実施された。2007 年 12 月 21 日に
預金・貸金の利率引き上げ後は安定していたが、2 年 10 カ月ぶりの 2010 年 10 月 20 日、突
然の利上げを実施した。その後も数回の金利引き上げを実施しており、直近では 2012 年 7
月に利上げを行っている。変更後の利率は次の通り。
図表 4- 28 人民元預資金利率表
預金
2011 年 4 月
2011 年 7 月
2012 年 7 月
利率
利率
利率
利率
0.40
0.50
0.50
0.35
(3 カ月)
2.60
2.85
3.10
2.85
(6 カ月)
2.80
3.05
3.30
3.05
(1 年)
3.00
3.25
3.50
3.25
(2 年)
3.90
4.15
4.40
3.75
(3 年)
4.50
4.75
5.00
4.25
(5 年)
5.00
5.25
5.50
4.75
(~6 カ月)
5.60
5.85
6.10
5.60
(6 カ月~1 年)
6.06
6.31
6.56
6.00
(1~3 年)
6.10
6.40
6.65
6.15
(3~5 年)
6.45
6.65
6.90
6.40
(5 年~)
6.60
6.80
7.05
6.55
普通
定期
貸金
2011 年 2 月
中国所在の邦銀支店においても、人民元預金・貸金は中国人民銀行発表の利率を基準利率として適用している。
貸出に際しては、基準金利に一定の利幅を考慮して具体的な金利が決定される。
98
出所:中国人民銀行
99
2013/1
2012/7
2012/1
3年~5年
2011/7
2011/1
2010/7
2010/1
1年~3年
2009/7
2009/1
2008/7
6カ月~1年
2008/1
2007/7
2007/1
2006/7
~6カ月
2006/1
2005/7
2005/1
2004/7
(%)
8.0
2004/1
2003/7
2003/1
図表 4- 29 過去 10 年の貸付金利の動向
5年~
7.5
7.0
6.5
6.0
5.5
5.0
4.5
4.0
<コラム 42. 人民元 CMS について>
コラム- 42 人民元 CMS について
人民元 CMS とは、各銀行支店が中国の中央銀行である中国人民銀行との間で構築している
資金決済システムである(キャッシュマネージメントシステム=CMS)。現在では、サービス
の差はあるものの、多くの日系銀行の支店が CMS を構築している。CMS を導入することに
より、進出日系企業は人民元での資金決済(送金)
、多通貨建て取引の入出金明細、口座異動
明細の照会等の資金管理業務を自社のパソコンを活用して行えるメリットがある。
金融機関
日系企業
送金指示
口座照会
LAN 環境
天津支店口座
人民元
CMS
上海支店口座
広州支店口座
サーバ
蘇州支店口座
ー
ERP
システム
サポート
杭州支店口座
中国人民銀行オンラインシス
テム(CNAPS)と直接接続
サービス業務内容
①
・
・
・
②
・
・
・
・
・
業務サービス…中国国内の人民元建送金
同一市内の交換所経由の文書扱い送金と「貸記証明書」の発行
CNAPS(電信送金)
店内振替
照会サービス
口座残高照会
入出金明細、口座異動明細照会
定期預金・借入金の明細紹介
当日・過去の為替相場照会
ドキュメンタリー輸出入取引の明細照会
企業会計システ
ムとのインター
フェース
送金指示
口座出入金照会
預金残高照会
借入金残高照会
レート照会
ドキュメンタリー輸出入明細照会
市内送金(文書扱)指定の場合は、
貸記証明書を銀行が代理発行
CNAPS ホスト
直接接続方式
CNAPS
銀行
銀行
企業会計
システム
企業端末
(人民元 CMS)
相手
交換所
出所:三井住友銀行資料
100
②人民元口座・外貨口座の種類
図表 4- 30 人民元口座・外貨口座の種類
(人民元口座)
口座内容
要否
開設時期
入金可能資金
最高限度額
出金可能資金
同一名義口座間の
資金移動(振替)
その他規制
口座開設
許認可機関
基本口座
必須
設立後すぐ
一般口座
人民元借入専用口座
必要に応じて
基本口座開設後
特に制限なし
―――
支払い一般(現金・小切手・
振込)
借入実行前
資本取引(中国からの借入金)
―――
入金累計は契約金額まで
支払い一般(小切手・振込)
可能
不可
外貨口座⇔人民元口座の両替を伴う資金移動は一定の制約あり
・原則 1 社 1 口座のみ開設可 ・現金の引出は不可
・借入契約毎に専用口座を開設
能
・口座開設後 3 営業日以内は出 (2010 年 5 月より原則必要)
・基本口座のみ現金の引出が 金不可
可能
・基本口座開設以外の銀行ある
いは基本口座開設銀行の別支店
で開設可能
企業所在地の中国人民銀行
不要
(外貨口座)
口座内容
要否
開設時期
入金可能資金
最高限度額
出金可能資金
同一名義口座間の資
金移動(振替)
その他規制
口座開設許認可機関
資本金口座
決済口座(基本口座)
外貨借入専用口座
外債専用口座
必須
必要に応じて
設立後すぐ
借入実行前
資本取引(資本金)
経 常 取 引 ( 貿 易 代 資本取引(中国内か 資本取引(中国外から
金・技術ノウハウ料 らの借入金)
の借入金)
等)
入金累計は登録資本
入金累計は借入契約金額まで
金額まで(増資は別途
―――――
手続が必要)
支払い一般(外貨送金・人民元への両替等)
・人民元への両替は ・人民元への両替は、
不可
外貨管理局の認可が必
・外貨送金は可能
要
・外貨送金は可能
各種外貨口座間の資金移動は不可(同一名義の決済口座間の移動は可能)
外貨口座⇔人民元口座の両替を伴う資金移動は一定の制約あり
・原則 1 社 1 口座のみ ・輸出代金について ・借入契約毎に専用 ・海外からの借入は、
開設可能
は先ず確認検査待ち 口座を開設
原則、総投資額と登録
・原則、企業所在地と 口座に入金され、銀
資本の差額(=投注差)
同じ省(又は市)内の 行オンライン審査で
まで
銀行で開設
輸出代金と税関記録
・借入契約締結、借入
・会計事務所による資 との一致を確認した
実行や元本返済、利息
本金の振込証明(験資 後、決済口座に入金
支払の都度、外貨管理
証明)手続後に出金が される
局の許可が必要
可能
・中長期借入の場合、
・人民元への両替には
投注差の枠を消化(返
事由書及び確証書類
済しても枠が復活しな
が必要(但し 5 万米ド
い)することに注意が
ル以下の両替は原則
必要
として次回の引出時
・他の口座と管理・手
までに資金使途の届
続方法が異なる
出が必要)
企業所在地の
原則自由(初回は外
不要
企業所在地の
外貨管理局
貨管理局報告)
外貨管理局
出所:三井住友銀行資料(2011 年 1 月現在)
101
(4)外資系企業の人民元・外貨の資金調達に関する規制
① 外銀からの人民元借入に対する現地規制
進出外銀のうち、人民元業務取扱い店舗でのみ借入れ可能。
―2005 年 12 月から
・親会社保証の履行時に当局への登記=外債登記が必要。
・原則として「投注差」
(総投資額-登録資本金)の範囲内で借入れ可。
―2006 年 12 月から
・人民元貸出地域制限が撤廃された。
図表 4- 31 日系銀行の在中国支店からの借入れ
日系銀行在中国支店
親会社
L/G
人民元融資
現地法人
合弁企業で、出資比率に応じ親会社保証等を行う場合、中国側の外貨保証枠取得が困難
なケースもある。
図表 4- 32 日系銀行保証による中国金融機関銀行からの借入れ
日系銀行日本国内支店
親会社
中国金融機関
現地法人
人民元融資
② 外銀(中国内の支店)からの外貨借入れ
・ 中国国内で借入れた外貨を人民元転することはできない。
―2005 年 12 月から
・ 親会社保証の履行時に当局への登記=外債登記が必要。
・ 原則として「投注差」
(総投資額-登録資本金)の範囲内で借入可。
102
図表 4- 33 日系銀行在中国支店からの借入れ
日系銀行在中国支店
親会社
L/G
円又はドル融資
現地法人
③ 親会社からの外貨借入れ(親子ローン)における現地規制
・ W/H TAX 10%がかかる。但し、日本国内で外国税額控除が受けられる。
・ 実行時に外貨管理局への外債登記が必要。
・ 外貨管理局の認可を得て、人民元転が可能。
―2005 年 12 月より
・ 親会社保証の履行時に当局への登記、つまり外債登記が必要。
・ 原則として「投注差」
(総投資額-登録資本金)の範囲内で借入可能。
図表 4- 34 親子ローン
現地法人
親会社
(5)外資系企業の金融面での注意事項
① 企業引受けの手形
手形法…96 年に実施されたが、現状では、銀行振り出し、引き受けの銀行為替手形、銀
行引き受け商業為替手形及び、銀行約束手形が中心であり、不渡り制度がない状況では
企業引き受けの為替手形はリスクあり。
② 輸入取引の送金手続き
・ 送金による輸入決済の場合、
「通関報告書(報関単)」、「照合書(核銷単)」、輸入決済関
係書類(契約書、インボイス、船荷証券)を銀行に提出、関係書類は契約書の当事者、
インボイスの宛名、船荷証券の荷受人、通知者が送金依頼人と一致する必要がある。
・ 銀行は「通関報告書」の2次確認を銀行と税関でつながれた専用の端末で行い、
「照合書」
は1枚目を外貨管理局、2枚目は輸入業者、3枚目が銀行保管となる。
・ 輸入核銷は毎月外貨管理局が実施、企業は月次で核銷表を外管局に提出し、
「通関報告書」
或いは特殊な決済の場合に必要となる「事前届出表(備案表)」を提出する。
出所:㈱パワートレーディング編「中国投資・会社設立ガイドブック」5.銀行実務より抜粋
103
③ 配当金の本国親会社宛送金手続き
・ 配当金の外国の出資者宛送金は外資系企業に関する法規(前述)で保証されている。
配当金の対外支払いは経常取引であり、外貨が不足する場合でも銀行で必要な外貨を購入
し、銀行に所定の書類を提出することにより送金可能、外貨管理局の審査認可は不要。
<配当送金に関する銀行への提出書類>
・企業所得税の納税証明書、公認会計士の監査報告書
・董事会による利益処分(配当)決議書、外貨登記証、会社設立時の験資報告書等
2.外国為替管理制度
① 経常取引:輸出入代金、役務提供の代金、配当金支払い、借入れ利息、リース料、
ロイヤリティ支払い等の無形資産の対価支払い、不動産賃料、コミッションの受け払
い等の経常取引は人民元の交換、海外送金は原則自由。
(但し一部の非貿易取引については、金額により外貨管理局の認可が必要)
② 資本取引:資本金払い込み、外貨借入れ及び返済、債権譲渡、不動産取引等が該当し、
外貨管理局の認可が必要。
③ 中国内での外貨決済:原則禁止
中国内での決済は、保税区など税関特殊監督管理区域を除き、原則として、人民元建て
であり、外貨建て決済はできない。
④ 外貨保有の制限:外貨収入があっても、一定限度額の外貨しか保有できない。
限度を超える外貨は人民元に転換する義務があり、金額査定は外貨管理局地方分局が行
う。但し、2006 年 4 月 13 日付け「経常項目外貨管理政策調整に関する通知」(匯発
[2006]19 号)により、残高限度額は前年度の「経常項目取引外貨収入の 80%」と「経
常項目取引外貨支払の 50%」の合計を限度とすることに変更され、残高保有限度額は大
幅に緩和された。また新規口座の場合、外貨管理局が査定するが、同通知により限度額
が 50 万米ドルにまで引き上げられている。限度額超過の場合、銀行で外貨を 10 営業日
以内に売却しなければならない。
⑤ 輸出入決済方法の外貨管理局届け出(2008 年より規制強化)
-輸入延払(90 日超のユーザンス決済)と輸出前受は対外債務として、輸入前払と輸出
延払回収(90 日超のユーザンス決済)は対外債権として登記の必要がある。
-輸入の届け出は不要、輸入代金は、企業が提出する取引説明書類等で、銀行が取引の
真実性を確認した後に対外送金可能。
⑥ 輸出代金の回収
-輸出企業は代金の予定回収日から 30 日以内に外貨管理局で輸出代金の回収報告を行
い、同局が回収照合を実施(核銷)
。
104
3.貿易管理制度
輸入関連法では「対外貿易法」
「外商投資企業輸入管理実施細則」
、輸出関連法では「対外
貿易法」
「輸出許可証管理規定」
「輸出商品計画割り当て管理に関する実施細則」など数多く
の法令・規定がある。
(1)対外貿易法…中国は貿易管理制度を WTO 協定に整合(①貿易権の開放、②輸入許可
管理に関する規制緩和、③国家貿易管理に関する規制緩和)させるため、「対外貿易
法」を下記の通り大幅に改定、2004 年 7 月 1 日より施行。これにより、内外企業及
び個人も含め対外貿易権が開放され、主管部門への審査・許可制が廃止され、届出制
(登記)により貨物・技術の輸出入が原則自由にできることになった。
但し、2004 年 6 月 1 日施行の「外商投資商業領域管理弁法」に基づく卸売り又は小
売りの認可を別途取得しなければ、輸入商品を国内で販売することはできない。
(2)輸入管理制度
・ 輸入禁止品目…中国の安全性、社会公共性、人命、健康、環境を害するもの等(
「輸出入
禁止物品表」
、
「輸入禁止の貨物目録」、
「機械電気製品輸入管理方法」
(2008 年 5 月 1 日
から実施)などの関連法に基づく)
。
(例)古着、麻薬、動物の死体、植物、武器、爆薬等
・ 輸入制限品目…特定産業の保護、供給不足または国内資源の保護、農林水産業で輸入が
必要なもの等で、①輸入割当管理品目と②輸入許可証管理品目に分かれる。
「2012 年輸入許可証管理商品目録」に基づき、47 税目(10 ケタ HS コード)のオゾン
層を消耗する物質は輸入許可証管理を実施され、放射性同位体は両用物質と技術輸入許
可証管理を実施される。
「機械電気製品輸入管理方法」(2008 年 5 月 1 日から実施)により輸入制限製品は輸入
割当許可証管理と輸入許可証管理を実施される。
「重点中古機械電気製品輸入目録」(2012 年 1 月 1 日から実施)の製品は輸入許可証管
理を実施される。
「農産物輸入関税割当管理暫定方法」(2003 年 9 月 27 日より実施)に基づき、小麦、
トウモロコシ、米、砂糖、綿花、羊毛などの商品に対して関税割当管理が実施される。
・ 自動輸入許可品目…重要な商品の輸入動向を把握するために設けられたもので、申請
に基づき直ちに「貨物自動輸入許可証」が発給される。
自動車、酒、煙草、ブロイラー、ボイラー、ブルドーザー
(3)輸出管理制度
・ 輸出禁止品目
(例)クロロフルオロカーボン(CFCs)5を冷却材とする工業用コンプレッサ、虎の骨、サイ
5
塩素とフッ素を含むフルオロカーボンで、完全にハロゲン化された物質。無色無臭で冷蔵庫の冷媒として
も使用される。
105
の角、クロロフルオロカーボン(CFCs)を冷却材・発泡剤とする家電製品など(「輸出
禁止貨物目録」に基づく)
・ 輸出制限品目
<商務部の通達に基づく割当により許可証を発効するもの>
(例)コメ、石炭、原油などの資源的性格の強いもの、一部の農産物、スズ鉱、亜鉛塊、
カセイソーダ、セメント等(「貨物輸出入管理条例」
「2010 年輸出許可証管理商品目録」
などに基づくもの)。輸出許可証管理商品は 49 品目。
<国際的な立場から自主的に輸出割当を実施するもの>
(例)化学繊維、豚毛、白黒テレビ、ベアリング、希土類、重水、松茸、アルミ塊等
<外国が中国に対して輸出割当を課しているもの>
(例)EU 向けマッシュルーム缶詰、英国向け日用品等
(4)関税制度
・ 関税…物品の価格(輸出の場合:FOB 価格、輸入の場合:CIF 価格)に税率を乗じた額
を関税として納めなければならない。税率は品目別に設定されている。
・ 関税の引き下げ…WTO 加盟交渉を背景に毎年大幅な関税率引き下げを実施。
(2001 年以降実施の変遷)
2001 年1月
3,462 品目引き下げ平均税率 15.3%へ
2002 年 1 月
5,332 品目引き下げ平均税率 12.0%へ
2003 年 1 月
3,019 品目引き下げ平均税率 11.0%へ
2004 年 1 月
2,414 品目引き下げ平均税率 10.4%へ
2005 年 1 月
平均税率 9.9%へ
2006 年1月
平均税率 9.9%で変わらず
2007 年 1 月
平均税率 9.8%へ
2008~2012 年 平均税率 9.8%を維持
コラム- 43 核銷制度について
<コラム 43. 核銷制度について>
中国では輸出入の資金決済に関し核銷制度が実施されている。
輸入核銷制度とは、輸入に関する資金支払いに際し、その正当性を外貨管理局または外為
指定銀行が確認を行う制度を言う。核銷が完了していない場合は対外支払いが認められな
い。輸出核銷制度とは、輸出業者が税関より入手する「輸出通関申告書」と輸出対価の入金
を確認後、銀行が発行する「輸出外貨回収照合確認書」を外貨管理局に提出することにより、
外貨管理局が「輸出通関データ」と外貨回収状況の照合・消し込みを行う制度である。
106
V.税制事情
1.中国の税制体系
(1)中国の税制
・ 中国の税法…憲法の規定に則し、全国人民代表大会(全人代)または全人代常務委員会
が批准し、公布・施行。
・ 税法の制定…財政部は施行細則、規則などを制定し、国務院の批准を経て施行。
・ 地方税の制定…省・自治区・直轄市の人民代表大会または全人代常務委員会が制定。
・ 税制改革…1994 年1月、①分税制の導入、②税目の簡素化、③所得税の一本化、④流通
税の改革(外資系企業のみに課されていた工商統一税を廃止し、中国企業、外資系企業
を問わず全ての企業を対象に増値税、消費税、営業税などの税制を新しく制定)
。
2007 年 3 月 新「企業所得税法」公布、2008 年 1 月 1 日より施行。
2007 年 12 月「個人所得税法」が改正、2008 年 3 月 1 日より施行。
2011 年 11 月「営業税を増値税として改正して徴収する試行案」公布、上海市で暫定試
行。
(2)中国の税制体系(企業所得税は、外商投資企業と中国国内企業で税法が分かれていた
が、2008 年 1 月から統一施行された。)
図表 4- 35 中国の税制体系
外資系企業
個
人
所
得
税
流通税
流通税
関営
業
税税
消増
費値
税税
財産行為税
財産行為税
耕国印 都
地内紙 市
占企税 建
用業
物
税
車 土
船 地
税 財
産
契 税
約
税
共
通
税
目
資産税
資源税
資
源
税
特別目的税
特別目的税
都
市
維
持
・
土
地
増
値
税
固
定
資
産
税
建
設
税
、
、
企
業
所
得
税
所得税法
所得税法
、
企業所得税法
企業所得税法
中国国内企業
・税率・・・25%
国内企業、外
資系企業とも
に25%で統一
・中国人、外国人、個人
事業主を個人所得税に
一本化
・外国人は4,800元控
除、課税率は累進法で3
~45%
・増値税・・・一般商品に17%課税(穀物、水道、ガス、
書籍・新聞、農業資材などは13%適用)
・消費税・・・たばこ、酒、化粧品、ガソリン、タイヤ、
オートバイ、小型自動車など(税率3~56%の範囲で
各種)
・営業税・・・交通運輸、金融保険、文化娯楽、不動産
業などサービス産業に従事する企業、個人に3~5%
課税(但し、カラオケ、ゴルフなどの娯楽業は5~
20%)
107
・都市維持・建設税・・・
教育費付加制度ととも
に、2010年12月より、外
資系企業にも適用
2.分税制
・ 分税制…国税(中央税)と地方税を明確に区別し、中央と地方の徴税機構を分離。
・ 中央税…消費税、営業税(鉄道、銀行、保険会社の本店からのもの)
、関税、税関を通
じて徴収された消費税および増値税、車両購入税。
・ 地方税…営業税(中央税以外のもの)、不動産税、車船税、煙草税、土地增値税、契約税、
印紙税等。
・ 共通税…増値税(中央:75%、地方:25%)、企業所得税(中央 60%、地方 40%)
、個人
所得税(中央 60%、地方 40%)、資源税(海洋石油資源税以外は地方税)等。
3.税制に関する注意事項
(1)国内企業と外資系企業の企業所得税法の統一
2007 年 12 月 31 日までは、外資系企業(外資の出資が 25%以上の企業)に対し、中
国国内企業に比し優遇された税制(30%の所得税率に対する 15%ないし 24%の税率適用
の優遇措置、さらに生産型企業には 2 免 3 減のタックスホリデー等)が付与されていた
が、2007 年 3 月の全国人民代表大会で新「企業所得税法」が可決。2008 年 1 月 1 日よ
り施行された(詳細は P.46 参照)。
(2)輸出に係る仕入増値税還付問題の経緯
・ 当初…94 年1月1日より増値税(消費税、基本税率 17%)が導入されたが、輸出物品の
増値税率は 0%と規定されており、輸出企業が原材料を国内から仕入れた場合に支払う
増値税(基本税率は 17%、但し穀物等の農産物、ガス、書籍等特定物品のみ 13%適用)
に対し、輸出時の増値税還付率も各々17%、13%とされ全額還付されるはずであった。
・ 税不還付の問題 …導入当初は、外資系企業には還付しない事態も発生(現在は還付され
ている)
。
95 年より外資系企業のうち 94 年以後設立された企業のみ増値税を還付したが、
その後増値税率が 17%のものは還付税率を 14%へ、96 年には更に 9%に引下げため、最
大で 8%の不還付が発生し、大きな資金負担が発生。このため外資系企業、中国企業とも
に輸出が伸び悩み、さらに 97 年に端を発したアジア金融危機により輸出不振が深刻化。
中国政府は輸出振興策として 98 年以降還付税率を引き上げ、99 年には特定の一次産品
等を除き、輸出については原則増値税率と還付税率が同じ 17%となり、不還付の問題は
漸次解消し、還付されるまでの期間(1年程度)をいかに短縮するかの問題になってい
た。
・ 輸出還付率の再引き下げ実施…還付率については 2004 年 1 月 1 日に大幅な改訂が行わ
れ、2005 年 1 月 1 日付で変更が実施された。また、2006 年 9 月には、還付制度を廃止
する品目、還付率を引き下げる品目、引き上げる品目を発表した。また併せて、これま
でに輸出増値税還付を取り消された品目及び今回取り消された品目を加工貿易禁止リス
トに組み入れることも発表した。2006 年 9 月の変更では、環境に悪い影響を及ぼすよう
な産業、エネルギー資源を多用するような産業に対しては、還付率の引き下げ、廃止を
108
行い、ハイテク産業など今後の中国の経済発展に有意義と見られる産業に対しては、還
付率を引き上げていることが特徴的である。これに加え、2007 年には貿易黒字が急増す
るなどマクロ要因も重なり、更に還付率の引下げが度重なり実施された。
<コラム 44. 「個人所得税法」改正>
コラム- 44 「個人所得税法」改正
2008 年 3 月 1 日より改正「個人所得税法」
(主席令第 85 号)および改正「個人所得税法
実施条例」が施行された。改正「個人所得税法」では、給与、賃金所得について、毎月の収
入額からの費用控除可能額が従来の 1,600 元から 2,000 元に引き上げられた。一方、
「実施条
例」で外国籍人員などに対する追加控除費用が従来の 3,200 元から 2,800 元に削減された。
結果、中国籍人員は控除可能額が 400 元増加したが、外国籍人員には変化なしとなった(外
国籍人員の費用控除額は 4,800 元)
。本改定は、食品価格を始めとする物価急騰によるインフ
レ懸念の中、貧富の格差是正を重視する、現政権の特色が表れたものと言えよう。
・ 還付までの長期立替問題…増値税の還付については、還付申請してから実際に還付され
るまでにかなりの時間を要していた。また税務局によって還付額の予算があり、地方に
より相当差がある。一般に新規設立された企業の場合、第一回の製品輸出より、12 ヵ月
間が税務局による増値税還付審査の対象期間となり、第 1 年目の輸出に伴う増値税の還
付申請は、少なくとも 1 年後となる。第 2 年目からは、一般的に半年毎に纏めて受け付
ける場合が多いが、受付日は税務局の通知により決定される。
従って、上記のいずれの還付方式でも還付申請してから約 1 年の資金負担を覚悟して
おく必要がある。特に「先納付・後還付方式」の場合は、輸出貨物を販売した時に売上
増値税が一旦課税され、その後に輸出に係わる税額が還付されるため、立替期間だけで
なく立替金額も大きくなることに注意しなければならない。
なお、95 年に出された通知により、還付できない税額の計算に仕入額を使用せず、輸
出 FOB 価格を用いて算出するため、輸出企業の負担は本来より大きくなってくること
に留意しなければならない。
しかし、2005 年 1 月の改正時に、還付財源について中央政府と地方政府との負担割
合が見直され、地方負担分が従来の 25%から 7.5%へと大幅に縮小された。これにより、
一部では還付の立替期間が大幅に短縮している地域もある。
109
<コラム 45. 一般納税義務者と小規模納税義務者>
増値税の納税義務者は一般納税義務者と小規模納税義務者に区分され、納税計算方法が異
コラム45 一般納税義務者と小規模納税義務者
なる。
2009 年 1 月より「増値税暫定条例」が改訂され、この 2 者を分ける基準値(年間売上高:
商業企業が 180 万元、その他企業が 100 万元)が引き下げられ、年間売上高:商業企業が
80 万元、その他企業が 50 万元以上で一般納税義務者として登録が可能となった。
またこれまで商業企業が 4%、生産型企業が 6%の税率が適用されていた小規模納税義務
者の税率が一律 3%に引き下げられた。
110
Ⅵ.労働事情
1.社員の採用、福利厚生など
(1)社員の採用
図表 4- 36 社員の採用
当該地の労働局・人事局
企業投資批准書、営業許可証、採用予定社員数、
職種、勤務年限、賃金案などを提出。
労働管理委員会(経済特区など)
採用方法:2通り
当該地の人材市場
①直接雇用:労働当局の指導のもと企業が独自に
採用テスト(書類審査、筆記試験、面接など)。
②間接雇用:役所、人材派遣会社から派遣。
採用契約手続き
試用期間
正社員は3~6ヵ月、試用期間中は労働契約の取消可能。
契約期間
期限付き契約
無期限契約
一定の業務完成まで期限付き
特定の制限はなく、1~3年の期間が一般的で、労働契約は
必ず書面で締結しなければならない。
30日以上前にまたは月額相当給与を払い、
相手方へ書面で通知し、契約解除。
契約解除
(2)賃金、社会保険・福利厚生など
・労働時間…週 40 時間制(1日 8 時間)
・人件費の構成
図表 4- 37 人件費の構成
本人手取り
その他
企業負担
賃
金
給与(基本給・職能給)
、奨励金、賃金性手当(残業手当など)
手
当
食事手当、夏季高温手当、服装手当、一人っ子手当、衛生手当、通勤手当など
賞
与
年 1~2 回、年間 1~2 ヶ月分(1 回は旧正月前支給が多い)
保険
福利費
労働
組合費
養老保険、失業保険、生育保険、医療保険、労災保険、住宅基金
(各地域により企業の負担比率は異なる)
全従業員給与総額の 2%(労働組合法)
・ 社宅…社宅を用意する企業もあるが、通勤バスを提供する例も多い。
・ 休暇…1995 年 5 月から完全週休二日制となり、法定休暇、年間休暇(規定上勤続年数に
応じて休暇を与える。
勤続年数 1 年以上 10 年未満は 5 日、10 年以上 20 年未満は 10 日、
20 年以上は 15 日)
、結婚・葬儀休暇、出産休暇、帰省休暇などの有給休暇が規定されて
いる。
(現在法定休暇は 11 日…元日1日、春節 3 日、清明節 1 日、労働節 1 日、端午節
1 日、中秋節 1 日、国慶節3日)
111
・ 社会保険…1994 年の労働法改正で、外資系企業にも養老保険、失業保険、生育保険(妊
娠・出産関連)
、医療保険、労災保険の 5 種の社会保険への加入が義務付けられている。
しかし、その実施運用は各地方政府に委ねられていることから、地方によっては保険制
度の一部が未整備であり、運用実施状況についても地域間格差があり、企業の社会保険
負担は、人件費総額の約 40%を占めている。また、2011 年 11 月には外国人からも社会
保険料を徴収する「中国国内において就業する外国人の社会保険の加入に関する暫定施
行弁法」が制定された。
・ 福利厚生…住宅費用積立支出が義務付けられているが、従業員福利奨励基金は会社法の
改正で、積立は任意になっている。社会保険同様、地方政府主体で導入されているが、
導入状況にはバラツキがある。住宅費用積立の企業負担は、上海市の場合は賃金総額の 7
~15%の範囲で董事会が決定する。
・ 企業の合計負担額…社会保険・福利厚生に関する企業の負担を合わせると、地域差はあ
るが賃金総額の 46~60%となることに留意する必要がある。
種
類
概
住宅費用積立制度
従業員福利奨励基金
要
「住宅公的積立制度」が一般的で、従業員個人名義の口座に企業と従業員
本人がそれぞれ基本給の一定比率を払い込む方式、積立資金は企業が管理
するが、個人に帰属し、企業の資産には計上されない。なお、製造業では、
企業内に住宅基金を積み立てて、自社の社宅購入、建設資金に充当する「住
宅基金制度」を採用している事例がある。
税引後利益の一部を従業員の非経常的な奨励(慶弔金、記念品など)
、集団
の福利活動(社内旅行、懇親会など)、また住宅補助や厚生施設・備品購入
などの福利厚生目的のために引き当てることができる。引当比率は企業が
任意に決めることができる(5~10%が一般的)
。
図表 4- 38 各都市の賃金比較表(2012 年 10 月時点)
(月額、元)
上海
北京
大連
広州
深圳
瀋陽
青島
ワーカー
2,837
2,493
2,058
2,495
2,079
1,991
1,776
エンジニア
5,273
4,689
3,570
4,442
4,104
3,486
2,906
中間管理職
9,191
9,121
6,841
8,044
8,220
6,016
4,523
法定最低
賃金
1,450
1,400
1,100
1,550
1,600
1,100
1,240
(注)法定最低賃金について、同じ市内でも地区によって金額が異なる場合は最も高い金額を記載
出所:JETRO「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012 年度調査)」
112
<コラム 46. 変化する中国の労働市場>
コラム- 46 変化する中国の労働市場
1.労働者不足の恒常化
世界の工場としての中国を支えていたのは、低賃金で質の良い多くの労働者であったとい
える。従前、中国に進出した日系企業では、10 人の募集を行うとその何倍もの応募があり、
労働者不足などは全く考えられないといった状況が長らく続いてきた。
こうした、労働者の供給は沿海地域の地場労働者というよりは、中部・内陸部から沿海部
に流出してくる出稼ぎ労働者が大きなウェイトを占めてきたと言え、この状況は現在も基本
的には変化しておらず、却って沿海部住民の高学歴化、富裕化にともない、労働者供給源と
しての役割が低下するに伴って、中部・内陸部からの出稼ぎ労働者に依存する割合が高まっ
てきたのが最近の傾向であると言える。
しかし、沿海部と中・内陸部の格差拡大が問題になるに従い、政府が中・内陸部への各種
優遇策を実施し、産業の移転を行ったことにより、中・内陸部から沿海部への出稼ぎ労働者
は急激に減少し始めている。これにより、まず華南地域で労働者不足傾向が顕著になり、こ
の傾向は次第に沿海地域全体にも波及しつつある。
日系企業では、労働者確保のため、中・内陸部へ直接採用に出向いたり、中・内陸部の学
校との提携を深めて優先的に卒業生を斡旋してもらうなどの方法を講じている。
このように、かつての豊富な労働力の活用を目的とする中国進出は大きな転換点を迎えよ
うとしている。
2.労働争議の頻発
2010 年に発生した、広州ホンダでの労働争議、また同年に大きな話題となったフォクスコ
ンの労働者自殺に端を発した大規模な労働争議などは記憶に新しいところである。
かつての中国では、安定した優秀な労働者というのが大きなメリットと言われてきたが、
最近では状況が大きく変化してきている。
こうした背景には、中・内陸部からの出稼ぎ労働者(民工)の労働者権利意識の拡大と沿
海都市部内での貧富格差の拡大が大きく影響していると見られている。かつての物言わぬ民
工が主張する民工へと変貌してきたということである。
最近の中国においては、ちょっとした労使間の行き違いがたちまちストライキに発展して
しまうケース、
「ゴネ得」とも思えるような賃上げ要求のストライキが思わぬことから発生し
てしまう状況となっており、労働者管理には以前にも増して難しい対応が求められている。
また、相次ぐ賃上げにより、中国の人件費は高騰を続けており、低賃金労働力利用を目的と
した進出は少なくとも沿海部では難しくなってきている。
113
労働争議受理件数の推移
労働争議受理件数(万件)
2008 年
96.4
2009 年
87.5
2010 年
128.7
2011 年
131.5
2012 年
140.3
出所:各年度人力資源・社会保障部発展統計公報
3.労働関係法の整備
2006 年 3 月に労働契約法が制定された。それまでの労働法は、労働者の権利保護という面
では不十分な内容であり、どちらかと言うと使用者側に有利な内容であった。これに対し、
労働契約法は、労働者の権利保護に重点をおいたもので、使用者側にとっては厳しい内容と
なっている。
労働契約法の制定後、各地方では同法の趣旨に添った各種条例の改定・整備が進められた
ことによって、中国の労働関係法体系はほぼ整備されたといえる。こうした、労働関係法の
整備は、労働者の権利意識の向上をもたらしており、近年の労働争議増加の一因となってい
るとも考えられている。
(
「労働契約法」の主要項目)
① 労働契約締結の義務化・書面化と罰則強化
② 期限の定めのない労働契約(無期限労働契約)締結条件を明確化
③ 固定期間労働契約(期限付きの労働契約)を 2 度継続した場合は、一定条件の下、無期限
労働契約となる。
④ 雇用開始日より満 1 年時に労働契約を締結しない場合は、無期限労働契約が締結されたも
のと見做す。
⑤ 労働契約の解除条件および整理解雇条件を整備。
114
<コラム 47.
日本人熟練技術者の流出>
コラム- 47 日本人熟練技術者の流出
長引く日本の不景気と人員削減。一方熟練技術を渇望している中国企業の意向が合致するこ
ともあり、中高年の日本人熟練技術者が中国企業へ転職する傾向が強まっている。長引く景気
低迷により日本企業の生産が海外にシフトするに伴い、日本国内での就労機会が減少するとと
もに、大幅な人件費削減を求められる日本企業にとって、中高年従業員は真っ先に削減の対象
となってしまう。また定年を迎えた熟練技術者の再就職が極めて厳しいという現実が、この傾
向を否が応でも助長している。一方では、日本で長年培われてきた熟練技術が、中国に流出し
てしまうという危機が問題視されつつある。
115
2.労働市場での中国特有の問題
・ 都市戸籍と農村戸籍…農村戸籍の者は都市戸籍への転換は困難なため、企業は原則とし
て臨時工としてのみ採用できるが、地元の労働当局で1年毎に雇用契約延長の手続きを
取る必要がある。最近では農村戸籍者の都市流入を緩和し、浙江省ではワーカー不足の
ため省レベルで農村・都市戸籍の撤廃を検討する動きも出てきた。国務院は 2012 年 2
月 23 日、
「積極的かつ着実に戸籍管理制度改革を推進することに関する国務院弁公庁の
通知」
(国弁発[2011]9 号)を発表し、戸籍制度をより一層改革する方針を打ち出した。
・ 内陸部からの出稼ぎ労働者及び熟練工不足の発生…2004 年春以降、沿海部特に広東省で
農村からの労働者不足が顕在化してきた。一部香港・台湾系企業の劣悪な環境、依然変
わらぬ低賃金での過酷な労働、内陸部への外資系企業の進出、及び農民の税負担軽減等
の原因から、特に労働集約的な業種では募集しても定員に達しないケースが続出してい
る。さらに、例えば深圳特区では 2007 年に最低労働賃金が 850 元、2008 年に 1,000 元、
2010 年には 1,100 元、2012 年には 1,500 元と上昇を続けており、ここ数年、全国的に
大幅な最低労働賃金の上昇がみられ、従って以前のように月給 600~800 元で雇用する
ことが困難な時代になった。更に新設企業数の急増、及び若者の技術離れにより、必要
な熟練工が不足する状態が発生している。
・ 労働組合(工会)…従業員は労働法により工会を組織し、参加する権利を有する。企業
別の組織全国組織は中華全国総工会。共産党の指導を受け、党から専従職員が派遣され
る場合、その給与は企業が負担する。
・ 労働争議
図表 4- 39 労働争議の種類
種 類
労働報酬に関する争議
保険・福祉に関する争議
労働保護に関する争議
職業訓練に関する争議
労働契約変更・解除・終了
に関する争議
代表事例
賃金の不払い、遅配、不当な賃金カット、低賃金に関するもの
養老保険、医療保険、勤務年数計算に関するもの
労働安全、労働環境、職業病や残業に関するもの
職業訓練に関するもの
労働契約の履行、内容変更に関するもの、除名、解雇や従業員の
無断離職に関するもの、労働契約の終了または更新に関するもの
(注)90 年代後半は生活の向上を求め、特に外資系企業で賃金引上げを要求する労働争議が多発したが、2000
年に入り国有企業改革の加速化を背景に、国有企業での争議件数が外資系企業を上回っている
(争議の処理方法)
① 労使交渉で解決を図る。
② 労使交渉で解決できない場合、企業内の労働争議調停委員会(労働者、使用者および工
会の代表から構成され、委員会の主任は工会の代表が担当)に解決を求める。
③ 調停不調の場合、労働局の行政調停(労働局が労働者または企業から直訴または陳情を
受けて労働仲裁委員会に持っていく前に行なう調停)、労働局を中心とする省・区・市政
府の労働争議仲裁委員会に持ち込む。
④ 解決に至らない場合、人民法院(裁判所)に提訴。
⑤ 争議発生の場合、工会はむしろ調停に出て解決を図る場合が多い。
116
コラム- 48 48.
労働契約法の制定について
<コラム
労働契約法の制定について>
「労働契約法」は 2007 年 6 月に公布、2008 年 1 月から施行された。
労働契約法では、貧富の格差が深刻になりつつある中国において、社会的弱者への配慮がな
されると同時に、労使関係で弱い立場に立たされがちな労働者の権利の強化が見られ、労働
者側の終身雇用を求める権利も増大された。また、これまで不要とされた契約満了時の契約
解除に伴う経済補償等も要求されており、本法の施行によって労務コストは増加することと
なった。
一方、これまで労働法における労働契約の記載内容が限定されていたため、各地で地方法
規として労働契約条例や労働契約規定がそれぞれに施行されていたが、本法の施行により全
国規模で重要事項の内容が統一された。法律の整備・規範化が進展し、全国で統一的な基準
での労務管理が可能となり、また整理解雇の条件が明確化された等、プラス面も挙げられる。
(
「労働契約法」の主要項目)
 労働契約締結の義務化・書面化と罰則強化
 期限の定めのない労働契約(無期限労働契約)を一定条件下で要求
 試用期間に関する規定を全国で統一
 研修費用の返還を明記
 機密保持と競業禁止に関する規定を全国で統一
 労働契約の解除条件および、整理解雇条件を整備
 期間の定めのある(固定期限)労働契約にも経済補償金を適用
 労務派遣労働者の雇用条件の強化
 集団労働契約を重視
 継続的な派遣労働者に対する、或いは、駐在員事務所での直接雇用は見送り
*「労働契約法」の原文(中国語)は、中国中央人民政府ホームページに掲載されてい
る。以下 URL を参照のこと。
(URL:http://www.gov.cn/jrzg/2007-06/29/content_667720.htm)
117
コラム49 上昇する最低賃金
<コラム
49. 上昇する最低賃金>
中国では、最低賃金の上昇が続いている。政府は第 12 次 5 カ年計画期間中、最低賃金基準
の引き上げ率を年平均 13%以上にする目標を発表している。
<最低賃金>
地域
最低賃金(元/月) 変更時期
北京
1,400 2013 年 1 月
武漢(中心地区)
1,100 2011 年 12 月
深圳
1,600 2013 年 3 月
天津
1,500 2013 年 4 月
青島
1,240 2012 年 3 月
蘇州
1,370 2012 年 6 月
無錫
1,320 2012 年 6 月
常州
1,320 2012 年 6 月
南通
1,320 2012 年 6 月
上海
1,620 2013 年 4 月
杭州
1,470 2013 年 1 月
寧波
1,470 2013 年 1 月
広州
1,550 2013 年 5 月
出所:各地方政府発表を基に日本総合研究所が取りまとめ
<コラム 50. 労働契約と労働契約法>
コラム- 50 労働契約と労働契約法
中国で労働に従事する者は、必ず雇用者との間で労働契約を締結することになっている。
これは、外国人、外国企業からの派遣者についても同様であり、外国人の場合、労働契約を
締結していないと、就労手続きの延長ができなくなることがある。
ここで、問題となるのは、日本本社採用の中国籍社員を中国に派遣した場合の契約形態で
ある。中国の労働契約法は労働者に極めて有利な内容となっているため、雇用者側からの一
方的な解除は大変難しくなっているのが実情である。
例えば、中国に派遣された中国籍社員と労働契約法に基づいた労働契約を締結し、その後
当事者が日本本社を退職し、日本本社との労働関係を解除した場合でも、中国における労働
契約は、独立して有効となる。つまり、派遣が解除されても、労働契約法で当事者は保護さ
れることになるわけで、労働契約の解除に際しては、本社からの派遣契約の有無に関わらず、
独立した対処が求められることになるため十分な注意が必要となる。
118
コラム51 外国人から社会保険料を徴収開始
<コラム
51. 外国人から社会保険料を徴収開始>
2011 年 10 月 15 日より施行された「中国国内において就業する外国人の社会保険の加入に
関する暫定施行弁法」に基づき、中国国内で就業する外国人より社会保険料を徴収する動き
が進行している。実際の徴収は各地方政府の意向と体制整備の状況次第といったところであ
るが、2012 年 3 月時点では、実際に徴収が始まった地域は確認されていない。北京市、上海
市では、実施に向けた準備が着々と進行している一方で、大連市のように当面徴収を見合わ
せる方針を表明している地域もある。
① 外国人が保険料を徴収されると予想される社会保険
・ 基本養老保険
・ 基本医療保険
・ 労働災害保険
・ 失業保険
・ 生育保険
② 外国企業の負担増
中国の社会保険は、保険料の一部を企業が、残りの部分を個人が負担することになってい
る。負担の割合は保険の種類、地域によって異なるが、単純に考えた場合、この企業負担
部分の費用が増加することになる。また、従業員の海外派遣制度の内容によっては、個人
負担部分も含めて最終的にすべて企業負担となる場合も考えられる。一部の試算では、外
国人従業員 1 人当たりの企業負担増は 5 万円以上とみられている。
③ 「社会保障協定」
現在、日本国政府と中国政府は両国間の「社会保障協定」制定に向けて協議を開始してい
る。これは、日本と中国での社会保険料の二重払いを回避することを目的としたものであ
る。
119
Ⅶ.物流事情
・ 1992 年以後の経済成長に伴い、物流に対する需要が急速に増大したため、高速・幹線道
路網の建設、鉄道の拡充、空港の新設、港湾の輸送能力アップが進められてきたが、な
お物流需要に追いつかず、輸送インフラが経済運営のボトルネックになっていた。
・ 1998 年以降輸送インフラへの建設・拡充投資が急ピッチで進められ、特に沿海部におけ
る高速道路、空港、港湾では徐々にボトルネックが解消しつつある。
・ 今後は中西部における交通インフラ整備、及び物流ソフト面(効率的な複合一貫輸送、
保冷輸送、貨物追跡システム、サプライチェーンマネージメントシステム)の水準引き
上げが課題である。
1.航空輸送
(1)概要
・ 4 大国際空港…… 北京空港、上海浦東空港、広州白雲空港の国内 3 大国際空港及び香
港空港は、中国での国際貨物の搬出入に最も利用されている空港で、
欧米・アジアへの定期路線が多く、それぞれ華北・東北地方、華東地方、
華南地方のハブ空港的な役割を果たしている。
・ 地方の基幹空港…瀋陽、大連、天津、青島、西安、南京、寧波、武漢、重慶、成都等。
但し、国際路線はアジアが中心となっている。
・ 4 大国際空港の運営状況…規模、運行管理体制ともに成田空港並みまたはそれ以上、
かつ現在も最新設備を誇る貨物ターミナルを保有、増設させている。
保管庫への搬入、仕分けなどはコンピュータで自動制御され、貨物の
ハンドリングの確実性が向上しており、利用面での問題はない。
(2)航空内外路線の推移
図表 4- 40 航空内外路線の推移
2003 年
2005 年
2008 年
2010 年
国際線
194
233
297
302
国内線
961
1,024
1,235
1,578
出所:国家統計局「中国統計年鑑 2009、2011」
(3)空港整備状況
現在は空港の設置増加よりも、輸送量の増加に対応するための大型空港への統合、滑走
路拡張、増設及びターミナルの増設に重点が置かれている。
図表 4- 41 空港整備状況
空港数
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
126
133
135
142
148
152
165
175
出所:国家統計局「中国統計年鑑 2009、2011」
120
図表 4- 42 日本への定期旅客機便のある空港
長春空港
長春空港
(成田、福岡、名古屋、大阪、仙台)
(成田・関空・名古屋・仙台)
瀋陽空港
(成田・関空・新千歳・福岡・名古屋)
ハルビン空港
(新潟・関空)
天津空港
天津空港(名古屋)
(名古屋、福岡、広島)
大連空港
大連空港
(成田、福岡、広島、大阪、
(成田・名古屋・関空・
名古屋、岡山、札幌、仙台、
仙台・富山・広島・福岡)
富山)

煙台空港(関空)
北京空港
北京空港
(成田、羽田、福岡、広島、名古屋、岡
(成田・羽田・名古屋・関空・
岡山・仙台・広島・福岡・新千歳)
山、沖縄、大阪、札幌、仙台、富山)


西安空港
(成田・名古屋・新潟・広島・福岡)


成都空港
成都空港
(成田、広島、名古屋、大阪)
(成田・関空・名古屋)

重慶空港
(成田・名古屋)



鹿児島・那覇)
上海虹橋空港(羽田)
上海虹橋空港(羽田)


上海浦東空港
上海浦東空港
(成田、福岡、福島、広島、長崎、
(成田・名古屋・関空・新千歳・
鹿児島、北九州、小松、新潟、
仙台・新潟・福島・小松・
名古屋、大分、岡山、札幌、仙台、
富山・岡山・広島・福岡・
沖縄、大阪、静岡、富山、松山)
北九州・松山・大分・長崎・


武漢空港
(福岡)
広州空港
広州白雲空港
(成田、福岡、大阪、
(成田・名古屋・関空・福岡・
名古屋、仙台)
北九州・仙台・新千歳)
南京空港
南京空港(関空)
(成田、名古屋、大阪)


桂林空港 (福岡)
昆明空港 (関空)


青島空港
(成田・名古屋・関空・福岡)


杭州蕭山空港
(成田・関空)


福州空港(関空)
厦門空港(成田・関空)
海口空港
(関空)

深圳空港(成田・名古屋・関空)
香港空港
香港空港
(成田、羽田、福岡、広島、鹿児島、名古屋、岡山、
(成田・羽田・関西・福岡・中部・新千歳・那覇)
沖縄、大阪、札幌、仙台)
(注)上記以外に、済南空港、無錫空港(いずれも大阪)がある
出所:各航空会社資料を基に日本総合研究所作成(2012 年 4 月現在)
2.海上輸送
(1)概要
中国の主要な対外開放港(国際港)
渤海沿岸・・・大連港、天津港、秦皇島港、青島港
華東地方・・・上海港、寧波港
華南地方・・・深圳港、広州港、香港港、厦門港、福州港等
天津~横浜及び広州~横浜まで 5~6 日、上海~横浜まで 3~4 日を要する。
但し、欧米への定期航路も有するのは天津港、上海港、深圳港、香港港、厦門港。
対外開放港は、輸出入貨物の船積み陸揚げ作業が可能及び旅客の出入国が可能な港であ
り、2006 年末現在、通関機能を有する港湾(沿海港、河川港)は全国で 124 港となっている。
中国の港湾の問題点としては次の点が挙げられる。
①1つの港(作業区)に1つのターミナル会社が原則で、競争原理が働かず、荷役業務が
保守的、効率性が悪い。
②ターミナルのコンテナの滞留状況によっては、荷主の費用負担により強制的に後背地
121
に貨物が移動させられることがある。
③ターミナル料金が判りやすい方法で開示されていない。
(2)主要沿海港の貨物取扱量推移と1万トン級バース設置数
図表 4- 43 主要沿海港の貨物取扱量推移と1万トン級バース設置数
港湾名
貨物取扱量(トン)
バース
1995 年
2005 年
2010 年
(1 万トン級)
上海
16,567
44,317
56,320
150
寧波-舟山
6,853
26,881
63,300
120
天津
5,787
24,069
41,325
95
大連
6,417
17,085
31,399
78
広州
7,299
25,036
41,095
60
青島
5,103
18,678
35,012
59
煙台
1,361
3,431
15,033
46
秦皇島
8,382
16,900
26,297
42
連雲港
1,716
6,016
12,739
38
湛江
1,885
4,647
13,638
31
スワトウ
716
1,736
3,509
18
出所:国家統計局「中国統計年鑑 2009、2011」
(3)港湾整備状況
・ 大連港:向かい合う煙台港を結ぶ渤海湾縦断鉄道フェリー計画が進行中。
・ 上海港:第 10 次五ヵ年計画で、
「洋山深水港区プロジェクト」構想に基づき浦東空港の東
南沖合い 30kmに浮かぶ島、大洋山、小洋山を埋め立て 30 バースを超える世界最大のコ
ンテナ港を建設し、総取扱い能力 2,500 万個で 2,000 万個の香港を凌ぐ計画で 2020 年に
完成予定。小洋山のターミナルと陸地は、陸地側にある芦潮港から片側 3 車線の海上道路
(連結橋)を架ける計画。第1期工事は 2005 年に完成し、島の半分と周辺の海を埋め立
て、長さ 1.6km のコンテナバースを設置し当初の取扱い能力は 20 フィート換算で年 220
万個の処理能力を持つ。
上海では現在、浦東新区の外高橋港が中心であるが、長江河口のため土砂の堆積が著し
く、大型のコンテナ船が稼動しにくく、拡張も困難なため、水深 15mの小洋山に建設す
ることとなった。
122
3.陸上輸送
(1)トラック輸送
①特徴
現 状…高速道路は、東北・華北、華東、華南、中西部など各エリア内の主要都市間は整備
されてきた。中部地区と沿海部間では上海-武漢-珠海、北京-武漢、西安―北京など
高速が開通しているが、一部には全面開通していない区間もあり、長距離運送では高速
運送が確保されていない。
問題点…一般道路を利用する長距離運送は日数がかかること、安全確保のため運転手を 2 人
交代で運転させるためコストもかかり、また過積載(特に地場業者の場合)や路面が悪
いことから商品の損壊リスクが高い。山間部の一般道路では盗難も発生している。
更に大都市部では、大型トラックの市内区域への日中通行制限を実施している地域が多
く、納期時間を守るために、日数に余裕を見る必要がある。
②高速道路網整備状況
現在、中国は世界でも高速道路網の発達した国である。
2011 年末の高速道路総延長は 85,000 ㎞を超えており、総延長距離では米国に次ぎ世界第
二位となっている。中国の高速道路は当初、日本の高速道路をモデルとして開発した経緯
もあり、道路の様式、標識の表示形式など、日本の高速道路に大変似かよった部分が多く
ある。現在、一部工事中の部分も含めて、国土の南北・東西が基本的に高速道路で結ばれ
ている。
【中国の高速道路整備状況】
中国の高速道路は、1992 年より計画的に整備が開始されたが、当初は「五縦七横計画」に
基づいて整備が推進された。その後、2005 年からは「五縦七横計画」を発展させ「7918
網計画」に基づいて整備が推進されている。
「7918 網計画」とは、北京から 7 路線の放射
状の高速道路、9 路線の南北縦貫高速道路、18 路線の東西横断高速道路を整備するという
計画である。
123
中国の高速道路整備計画の基本となっている「五縦七横計画」の路線は次の通りである。
(五縦路線)
同三線(黒竜江省同江市⇔海南省三亜市)、京福線(北京⇔福州)
、京珠線(北京⇔珠海)、
二河線(ニレンホト⇔雲南省河口市)、渝湛線(重慶⇔広東省湛江市)
(七横路線)
綏満線(綏芬河⇔満洲里)
、丹拉線(丹東⇔ラサ)
、青銀線(青島⇔銀川)
連霍線(連雲港⇔ホルグス)
、濾蓉線(上海⇔成都)、濾瑞線(上海⇔瑞麗)
衡昆線(衡陽⇔昆明)
【高速公路と快速公路】
中国では、高速道路について「高速公路」と「快速公路」を使い分けているケースがある
が、
「快速公路」とは主として北京、上海といった大都市の高速道路網に対して使用される
用語であり、
「高速公路」
「快速公路」のいずれも高速道路である。
<中国の高速道路網図>
出所:IHCC
Web Liborary
124
(2)鉄道輸送
① 特徴
・ 「五定列車」の運行…中国では、貨物列車による大きな都市間について定発着駅、定発
着日時、定路線、定列車便名、定運賃の 5 項目を定めた「五定列車」が全土で週 26 便の
コンテナ専用列車と週 44 便の普通貨物列車が運行されている。五定列車のコンテナ列車
を利用するコンテナ船会社が日本発主要沿海港経由税関のある内陸主要駅までの輸送を
行っている。
・ 鉄道クーリエサービスの運営…鉄道クーリエサービスが運営され、旅客列車の荷物車を
利用し、各都市にトラックを配置してドア・ツー・ドアサービスを実施している。現在
約 140 都市に支店営業所を設け、鉄道輸送とトラック輸送を機能的にリンクさせた中国
版の宅配便を全国範囲で展開している。
② 問題点
・ 一般に貨物列車は、国家の重要物資、食料を優先して運送するため到着日時が不安定、
取扱いが雑なため貨物損壊リスクが高い。陸上輸送のうち鉄道輸送の占める割合は
19.5%(2010 年輸送トン数ベース)にとどまる。
・ 主要幹線に光ファイバーを敷設し、貨物のトレースシステムを構築中だが、完成してい
ないため貨物のトレースができない。
・ 複線化率が 49.3%(2010 年)と低く、
単線が多いため貨物量に対して鉄道の輸送量が不足。
③ 鉄道網、運送体制の整備状況
・ 中国の鉄道は国営、鉄道部(鉄道省)が 14 の鉄道局を運営している。
・ 中国の鉄道網は全土の主要都市間ではほぼ開通。但し、複線化・電化が遅れており、大
量の高速輸送が課題となっている。
・ 近年は特に高速輸送のための電化工事が急ピッチで進んでいる。
・ 在来線・専用線を走る高速鉄道車両 CRH が 2007 年より導入され、北京、上海、天津、
武漢、西安などの大型都市を結んでいる。
・ 中長期鉄道網計画(2004 年認可、2008 年改訂)によると、中国鉄道部は 2020 年までに
総延長 1.6 万 km 以上の高速鉄道網を整備する計画を進めている。2008 年の北京-天津
区間の開通を皮切りに、武漢-広州、上海-杭州、上海-南京などの区間はすでに運行
されている。2011 年には北京-上海の高速鉄道が完成し、北京-上海が 5 時間弱で結ば
れた。
125
図表 4- 44 国家鉄道営業距離と複線化、電化距離の推移(単位:km、%)
2000 年
2005 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
総営業距離
58,656
62,200
63,637
63,975
65,491
66,239
うち複線距離
21,408
24,497
25,794
26,599
28,682
29,684
(比率)
(36.5)
(39.4)
(40.5)
(41.6)
(43.8)
(49.3)
うち電化距離
14,864
19,408
24,047
25,007
30,243
32,717
(比率)
(25.3)
(31.2)
(37.8)
(39.1)
(46.1)
(49.4)
出所:国家統計局「中国統計年鑑 2009、2011」
<北京駅(百年の鉄道旅行 HP より転載)>
【中国の高速鉄道網】
1990 年代から、中国では高速鉄道網計画が進展しており、現在では部分開通を含めて、多
くの路線が開通している。特に 2011 年 6 月に北京と上海を結ぶ高速鉄道(京濾高鉄)が
開通し、中国の二大都市が高速鉄道で結ばれたことは記憶に新しいところである。また、
中国の高速鉄道は世界各国の技術を導入して開発されており、日本の新幹線技術も一部導
入されている。しかしながら、早急な高速鉄道化は安全性の面での問題も露呈しており、
2011 年 7 月には浙江省温州市付近で衝突・脱線事故が発生し、多くの死傷者が発生したこ
とから、安全対策の充実が求められている。
【中国の高速鉄道の種類】
・ 旅客専用線:高速鉄道網計画の中心となる幹線で、計画では南北・東西にそれぞれ 4 路線
が敷設される。
(南北の 4 路線)
京濾線(北京⇔南京⇔上海)
、京港線(北京⇔武漢⇔広州⇔香港)
、
京哈線(北京⇔瀋陽⇔ハルピン)、杭福深線(杭州⇔福州⇔深圳)
(東西の 4 路線)
徐蘭線(徐州⇔西安⇔蘭州)
、濾昆線(上海⇔杭州⇔長沙⇔昆明)
、
青太線(青島⇔済南⇔太原)
、濾漢蓉線(上海⇔武漢⇔重慶⇔成都)
・ 都市間鉄道:主要都市間に敷設される高速鉄道。
京津線(北京⇔天津)などがある。
126
・ 高速化した在来線:在来線を改造して高速鉄道が走行できるようにした路線。
・ 西部開発新線:西部大開発計画に基づく高速鉄道。
・ 海峡西岸線:福建省の沿岸に沿って敷設される高速鉄道。
【現在開通している主な高速鉄道幹線】
京濾高鉄: 北京⇔上海
鄭西高鉄: 鄭州⇔西安
濾杭高鉄: 上海⇔杭州
武広高鉄: 武漢⇔広州
各高速鉄道路線は順次延長工事が進められており、一部区間開通また在来線へ一部乗り入れ
も実施されている。例えば、2011 年 7 月に事故が発生した路線は、杭福深旅客専用線の一部
開通区間(俑台温線)である。将来的には、沿海部、内陸部を含めて高速鉄道網が整備され
る計画である。
<中国の高速鉄道網図>
出所:上海エクスプローラ
127
4.税関と通関制度
(1)税関
中国に会社を設立し、製造設備、原料・部材を輸入する場合、或いは製品を輸出する場
合には、税関(中国では「海関」という。)の検査を受けなければならない。
税関では、①輸出入される貨物、物品の国境通過の管理、監視、②関税、その他の税徴
収、③密輸等の違法行為の取り締まりを行っている。
中国での事業が「奨励プロジェクト」に認定された場合、自社使用の輸入設備の免税(関
税、輸入増値税の免除)手続きも税関に申請することになる。
税関での手続きのためには、事前に会社の税関登記が必要。通常、会社設立後の手続き
として、口座開設と税務登記及び税関登記を直ちにしておかなければならない。
(2)通関制度
① 通関手続き
通関手続きは、税関に申請して通関(中国では「報関」という。)を行う企業とし
て登録された「通関企業」だけが取扱いが可能。実務は必ず資格(注)を持った「通
関員」のみが行うことができる。
(注)全国統一試験による国家資格。
実際の手続きを誰が行うかによって、下記三つの方式から選択することになる。
・荷主自社通関(自理報関)
・通関代理業者(代理報関企業)の利用
・通関専業者(専業報関企業)の利用
自社で通関員を雇用し、自社通関する会社もあるが、自社の通関業務が特定の通
関員に振り回される場合もあり、腕利きの通関員を多数確保している大手の通関業
者に委託するのが望ましい。通関代理業者が輸送業者、倉庫業者の兼営であるのに
対し、通関専業者は通関を専業とするものである。
② EDI 通関(EDI=Electronic Data Interchange:電子式データ交換システム)
現在主要港、空港では、ユーザーと税関をオンラインネットワークで結び、部分
的に EDI 通関が実現し、通関所要時間も短縮されてきている。但し、現状はまだ事
後的にオリジナル文書を提出して再確認を要することが多いようである。
③ 通関利用時間
開発区、保税区では 8 時~22 時までとなっているが、輸出加工区では、24 時間
通関が行われ、EDI 通関がほぼ完全に実施されているようである。
④ 通関の開始・完了の時間制限
輸入では、貨物到着後 14 日以内に通関を完了し、引き取らなければ 15 日目から
1 日に付き貨物価格の 0.05%の遅延料が課される。輸出通関では船積みの 24 時間前
から通関が可能になる。
出所:㈱パワートレーディング「改訂増補
中国投資・会社設立ガイドブック」
128
コラム- 52 52.
最近の日系物流企業の動向
<コラム
最近の日系物流企業の動向>
①
中国での生産については、物流が大きなネックとなっていることは過去も現在も同様であ
る。中国での改革開放政策の進展を受け、近時日系物流業者、商社の活動が活発化しつつあ
る。
②
報道によれば、某日系物流企業では、これまでは各地域の合弁子会社が地域毎の物流しか
対応することができなかったシステムを改め、中国全国一律の見積もり提示を可能としたり、
受注を行う「ワンストップサービス」を提供できるようになった。
③
また、中国での提携先、合弁先を増やすことによって、内陸部など従来手薄であった地域
の物流体制の充実を図る計画にあると同時に、各地域の提携・合弁先とのシステムを統一す
る方向に進んでいる。
④
更には、中国との相互依存体制が強化されつつある、広西チワン自治区等を経由したベト
ナム、ラオス、タイなど東南アジア諸国と中国を結ぶ物流体制の構築にも乗り出しており、
将来的には、中国内陸部―中国沿海部―東南アジアといった東アジア物流体制が構築される
ことになろう。
中国の高速道路(IHCC より転載)
中国の新幹線「和諧号」
(Wikipedia より転載)
129
<コラム 53. 中国での生活>
コラム- 53 中国での生活
日本人が中国で生活する場合、北京、上海といった大都市での生活と、内陸部での生活で
は生活レベル、注意すべき点など大きな違いがあるが、ここでは日本人が中国で生活する上
での共通する注意事項に言及する。
1. 住居
・ 大都市では外国人用マンションや一戸建て住宅が整備されており、住居にそれ程苦
労することは無いが、地方都市、内陸部では工場併設の宿舎やホテルに長期滞在す
ることが一般的である。
・ 地場のアパートへの入居も可能ではあるが、水周りなどの設備面及びセキュリティ
ーの面では問題があることが多い。
2.買い物
・ 大都市には日系や欧米系のスーパーマーケットが進出している場合が多いため、日
本で買い物をする感覚とそれ程違和感はないが、地方都市、内陸部などでは、地元
店舗、市場で買い物をすることとなる。
・ 地元店舗、市場などでの買い物は、衛生感覚の違いからなかなかなじめない場合も
ある。
・ 日系のスーパーマーケットでは日本食品も入手可能であるが、全般的に割高である。
3. 飲み水
・ 中国の水道水は「硬水」であるため、
「軟水」に馴染んでいる日本人が安易に飲用す
ると体調を崩すことが多い。
・ 飲用には市販のミネラルウォーターを利用するのが無難である。また、胃腸の弱い
人は、うがい等の場合もミネラルウォーターを使用することをお勧めする。
・ 大都市では、家庭用サイズのミネラルウォーターを定期的に配達してくれる業者も
普及している。
4.食事
・ 中国でも日本食ブームのため、ほとんどの都市には日本食レストランがあると言っ
ても過言ではない。しかし、中には日本食まがいの料理を提供したり、衛生上問題
のあるレストランもあるので注意が必要。
・ 中華料理は日本人には油がキツイ場合もあり食べ過ぎると胃腸を痛める場合もあ
る。また、最近では中華料理に生魚料理が出されることもあるが、胃腸の弱い人は
避けたほうが無難である。
5.治安
・ 中国は、東アジア諸国の中でも治安の良い国に分類される。しかし、従前に比べて
治安は目に見えて悪くなっているので、注意が必要である。
・ 殺人事件に巻き込まれるケースは稀であるが、強盗、コソ泥、引ったくり、置き引
きなどに遭遇する危険性は日常的に存在する。
130
・ かつては、中国の都市は深夜女性が一人歩きをしても安全と言われたが、現在では深
夜の女性の一人歩きは避けたほうが無難である。
・ 全体として、北方より南方の方が治安が悪い傾向がある。
・ 特に、旧正月前の時期は、治安が悪化する傾向が強い。
6.犯罪
・ 中国は社会主義国であり、犯罪に対しては本来厳格な国である。日本人の中には、外
国に来たという気の緩みから、犯罪とされる行為に及ぶ者も多く、警察(公安当局)に
検挙されるケースも多くなっているので、注意が必要である。
・ 中国公安当局は定期的に取り締まりを厳しく行っている。旧正月休暇前、国慶節休暇
前などの時期は取り締まりが強化される傾向が強い。
7.移動
・ 都市内部の移動は一般的にはタクシーかバスを利用することになる。タクシーは日本
に比べて割安である。但し、白タクや乗車拒否も頻繁にあるので注意が必要である。
・ 路線に精通すればバスを利用するのも便利である。但しバス内にはスリが多いので要
注意である。
8.教育
・ 現在、北京、上海、広州、蘇州、大連、天津、青島、杭州、深圳の各都市に日本人学
校が設置されている。日本人学校は、小学部と中学部からなっている。
・ この他、南京、無錫、寧波、瀋陽、深圳、珠海に日本語補習校が開校している。
(注)深圳には日本人学校と日本語補習校の両方が開校している。
・ 北京や上海といった大都市ではインターナショナルスクールが数多くあり、日本人学
校よりインターナショナルスクールを選択する日本人も多い。
<天津日本人学校>
131
Ⅷ.知的財産権の保護
1.知的財産権の被害状況
ジェトロ北京センターの日系企業へのアンケート調査(2011 年 2~3 月、在中国日系企
業のうち、北京・上海・広州 IPG グループ会員企業対象。回答 66 社)の結果によると、
「中国における知財問題のうち、最も困っているもの」として回答率が最も高かったのは、
「絶えることのないニセモノ事件の発生(取締りにキリがない状況。罰則強化要求含む)
」
で、63.6%に達した。これに次いでは、「模倣品の輸出、海関問題」が 47.0%と、半数近
くの回答となっている。以下、
「ノウハウ技術など秘密の漏洩問題」
(同 28.8%)、
「デザイ
ン侵害の増大」
(同 21.2%)
、
「特許権侵害の増大」
(同 21.2%)、「地方保護主義問題」
(同
19.7%)
、
「弁護士、弁理士問題(サービスの質、料金、誤訳問題など)
」
(同 18.2%)など
の回答率が高くなっており、知的財産権の侵害問題は、中国進出日系企業にとって相変わ
らず大きな問題となっている。
中国におけるニセモノ被害額(中国国内および中国国外への輸出によるものを含んだ損
失売上高)の年間総額についてみると、
「10 億円以上」と「1 億円未満」がともに回答率
が高く、
「1 億円以上 2 億円未満」も多い。
しかし、一方で、最近の中国の知財問題の解決(改善)状況について、
「改善傾向にある」
とした企業が 47.0%と一定の改善を認める企業も多くなっている。
図表 4- 45 中国におけるニセモノ被害額の年間総額
10億円以上
10.6%
5億円以上10億円未満
4.5%
2億円以上5億円未満
1.5%
1億円以上2億円未満
9.1%
1億円未満
10.6%
わからない
63.6%
(注)ニセモノ被害額は、中国国内および中国国外への輸出によるものを含んだ損失売上高
出所:ジェトロ北京センター「2010 年度中国日本商会 IPG 会員アンケート調査結果報告」
132
2.知的財産権に関する法制度と留意事項
・ 中国の知的財産権に関する法律…商標権、特許権、著作権等を保護するために、これに
対応する「商標法」
、
「特許法」
、
「著作権法」の基本法及びその実施条例等が 1982 年から
1990 年にかけて制定され、その後改正された。
・ 関連法律の改正…知的財産権の範囲、保護の程度、救済措置の面で先進国に比べて依然
不十分な点があり、2001 年 12 月の WTO 加盟に伴い WTO 協定の「知的所有権の貿易
関連の側面に関する協定(TRIPS 協定)
」の規定水準を満たすため関係法律を改正。
・ 主な改正点と今後の方向性…一連の改正で、法律上の保護措置はほぼ完成。今後はこれ
らの法律の解釈、運用及び知的財産権侵害行為に対する差し止め、保全措置、権利侵害
にかかわる商品等の没収、取り壊しについての所管行政部門の権限行使力、ならびに損
害賠償支払についての司法上の強制執行力が問われる段階になってきている。
・ 法律は完成したものの、中国の地方保護主義等の政治的な思惑から、実際の判決では、
まだまだ不十分又は納得のいかない判決結果となる場合がある。また逆に中国企業から
商標権侵害で訴えられるケースもあり、十分留意しなければならない。特に技術・製法
の特許登録に時間を要し、または登録審査が棚上げになっている事例も多く、登録して
も実際の適用は不十分な場合が多い。
・ 2009 年の特許法の改正で、発明の新規性の判断基準が、国内公知だけでなく、我が国と
同様に国際公知となったため、新規性の有無の判断が容易になった。
・ 商標の出願件数は増大しているが、現在作業が進んでいる商標法第3次改正によって、
審査期間が短くなるものと思われる。この改正によって商標法の手続きが大幅に変わる
ため、来年の施行に向けて注意が必要である。
133
図表 4- 46 知的財産権に関する法制度の主な改正点(2009 年 10 月)
項 目
改正内容など
・特許付与の基準を高くして、特許を受けられる発明創作は、国内外
において公衆に知られていないものでなければならないと定め、また
意匠特許の質を一層高めるために、平面印刷物の主に標識として用い
られるデザインに意匠特許権を付与しないと定めた。
・外国へ特許出願する際に、先ず中国へ特許出願しなければならない
という規定を削除して、同時に、中国で完成した発明創作について外
国へ特許出願する場合、事前に国務院特許行政部門による秘密保持審
査を受けなければならないと定めた。
・特許侵害の賠償には、特許権者が権利行使のために支払ったコスト
を含むことを明確にし不法行為に対する処罰を強化するとともに、訴
訟において、特許権者の損害、侵害者が得た利益及び特許の実施許諾
料の算定がともに困難な場合は、裁判所は特許権の種類、侵害行為の
性質と経緯などの要素に基づいて、1万元以上100万元以下の賠償金額
特許法
を判定することができるとした。
・提訴前の証拠保全に関する規定が追加され、特許権侵害行為を制止
するために、証拠が消滅し、又は後には取得しにくくなるおそれがあ
るときは、特許権者又は利害関係者は提訴前に裁判所に証拠の保全を
申請することができるとした。
・特許権侵害紛争において、侵害被疑者が、その実施した技術又は意
匠が従来の技術又は従来の意匠であることを証明できる場合、当該実
施行為は特許権を侵害する行為に該当しないという規定が追加され
た。
・行政審査のための情報を提供するために、医薬品又は医療装置を製
造しようとする機関等が特許医薬品又は特許医療装置を製造する場合
が特許権の侵害とみなさないとした。
出所:ジェトロ「北京知的財産権部資料 2010 年」
134
<コラム 54. 中国における知的財産権侵害の実態調査(2011 年 5 月
経済産業省)>
コラム- 54 中国における知的財産権侵害の実態調査
経済産業省は、中国における知的財産権侵害の実態調査を実施した。調査結果から概要を
ご紹介すると次の通りである。中国における知的財産権の侵害は、日系企業にとって依然と
して大きな問題となっている。
1.侵害の状況
①全体概要(調査回答企業の業種別内訳)
業種別
回答企業数
知的侵害ありと うち救済手段
回答した企業数
利用企業数
医療機器
10
0
0
化学品
30
10
5
化粧品
3
2
2
産業機械
14
12
9
自動車・二輪車(部品含む)
28
17
16
繊維品
6
3
0
電子・電機
21
16
12
日用品・雑貨
12
8
5
コンテンツ関係
3
3
3
その他
31
16
8
総計
158
87(55.1%)
60(69.0%)
②侵害状況(侵害対象知的財産権及び違反対象法律別件数)
2007 年度
2008 年度
2009 年度
発明専利権(特許権)
62
68
42
実用新案専利権(実用新案権)
1
4
2
意匠専利権(意匠権)
104
123
1558
商標権(総計比)
2,925(79.5%)
3,470(80.4%)
4,722(60.7%)
うち 類似商標
446
675
288
(商標権侵害に占める割合)
(15.2%)
(19.5%)
(6.1%)
著作権
141
188
184
反不正当競争法違反
124
204
1,204
製品品質法違反
319
256
71
その他
1
2
1
③インターネット上の侵害状況(侵害対象知的財産権及び違反対象法律別件数)
2009 年度
発明専利権(特許権)
2(4.8%)
実用新案専利権(実用新案権)
0(0.0%)
意匠専利権(意匠権)
1,483(95.2%)
商標権
1,272(26.9%)
うち類似商標
56(19.4%)
著作権
95(51.6%)
反不正当競争法違反
1,179(97.9%)
製品品質法違反
0(0.0%)
その他
0(0.0%)
135
2.日系企業の対応
企業が知的財産権を侵害された場合、最も多く利用している救済手続は、
「行政機関によ
る処罰」である。行政機関による摘発件数は 2009 年度には 3,034 件あり、そのうち、企
業が行政機関に侵害者の摘発を要請し摘発された件数は 2,733 件、行政機関の独自の判
断に基づく摘発件数は 301 件となっている。
行政機関による救済手続きに比べると、刑事手続きは極端に少なく、日本の警察に相当
する公安及び検察に対して刑事告発した件数は 36 件となっており、そのうち、公安によ
り立件された件数は 29 件と約 8 割であった。
一方、救済策手続きを行わなかった企業の主な理由としては、
「被害の実態が把握できず
手続きがとれない」
「効果が期待できない」との理由を挙げた企業が多くなっている。
3.中国当局の執行状況について
知的財産権侵害に対する中国当局の対応が、中国の法制度に照らして不適切と感じられ
た企業は 18 社であり、救済手続きを利用した企業全体(60 社)の 3 割に達している。
出所: 経済産業省「中国における知的財産権侵害実態調査(2010 年度)
」
136
3.知的財産権認定のための手続き
・ 中国において知的財産権を認定してもらうためには、著作権を除き、中国の所管行政当
局に出願、登録等の手続きが必要となる。
・ 商標権の場合、登録出願から登録証発行まで順調にいって約3年程度を要する。
・ 登録されたものだけが保護される。権利侵害のあった場合に、侵害した者に対し、民事
(差止め、損害賠償)
、刑事(懲役、罰金)上の制裁が科せられる。
コラム- 55 物権法の制定と知的財産権保護
<コラム 55. 物権法の制定と知的財産権保護>
2007 年 3 月の全人代で可決した「物権法」(2007 年 10 月 1 日より施行)では、知的財産
権保護強化についても規定されている。同法第 17 章では「商標専用権、特許権、著作権な
どの知的財産における財産権を担保に入れる場合、
当事者は書面による契約書を締結しなけ
ればならない。担保権は主管部門の登記を経た後に成立する。(以下略)」と規定している。
出所:JETRO 北京センター知的財産権室(現在は知的財産権部)資料
図表 4- 47 中国における知的財産権
知 的
財産権
関係法
(施行日)
商標法
(2001.12.1)
商標権
同実施条例
(2002.9.15)
特許法
(2001.7.1)
同上改正
(2009.10)
特許権
特許法実施細則
(2001.7.1)
同上改正
(2003.2.1)
著作権法
(2001.10.27)
著作権
著作権法実施条例
(2002.9.15)
所管行政
部 門
国家工商行政
管理局商標局
保護対象
社名商品商標、
サービスマーク、
団体商標、証明商標
発明権
国家知識産権局 実用新案権
意匠権(デザイン)
国家版権局
言語表現物、音楽、
美術、建築、図形、
映画、CPUプログラム等
認定手続き
保護期間
半永久但し
出願、初期審査・決定、
10年毎に更新
登録(広告)
登録必要
発明:20年
出願、初期審査、広告、
実用新案:10年
実質審査、登録・広告
意匠:10年
自然発生
(特別の登録行為不要)
法人:発表より50年
個人:死後50年
(注)いずれも審査認定期限の規定がなく、出願から認定取得までに 2~3 年を要しているのが実状
出所:JETRO 北京センター知的財産権室(現在は知的財産権部)
「知的財産権入門 2002 年版』
4.知的財産権の法的保護
中国において知的財産権を侵害された場合、2つの方法により保護措置を講ずることがで
きる。具体的には所管行政機関への紛争処理請求と、司法機関(人民法院)への訴訟がある。
(1)行政機関での紛争処理(登録商標が侵害された場合の手続き)
・ 国家工商行政管理部門に対し、被害者が侵害行為の停止を申し立てする。
・ 同管理部門が権利侵害行為の成立を認めた場合は、当局は直ちに侵害行為の停止を命じ、
侵害商品とその商品製造、登録商標の標識偽造に使用する道具を没収、処分し、かつ過
137
料に処すことができる。
・ 当事者がこの処理に不服がある場合、処理通知を受領した日から15日以内に中国の「行
政訴訟法」に基づき、人民法院に提訴することができる。
・ 権利侵害者が期限内に提訴せず、かつ同管理部門の命令を履行しない場合は、同管理部
門は人民法院に強制執行を申し立てすることができる。
・ 違法の疑いのある証拠または通報に基づき、他人の登録商標を侵害している疑いのある
行為に対して、下記職権が行使される。
コラム- 56 工商行政管理部門の調査に関する職権行使内容(商標法第
55 条)
<コラム
56. 工商行政管理部門の調査に関する職権行使内容
(商標法第 55 条)>
・関係当事者への尋問
・侵害行為に関連する契約書、領収書、帳簿の閲覧、コピー
・侵害行為に従事した疑いのある場所の現場検証
・侵害を証明する証拠物品に対する検査、封印、差押え
(2)司法機関(人民法院)への提訴
・ 北京、上海など主要人民法院に知的財産権専門法廷開設。
・ 訴訟により差押え、侵害品の押収、廃棄、罰金を課すことは可能。
但し、時間と費用がかかるのが難点。
・ 法律改訂により、訴訟前差止め制度が創設され、判決が確定する前に商標侵害
商品や特許権侵害商品の生産、販売を停止させる途が開かれた。
・ 人民法院の裁判官は各地方の人民大会で任免されるため、地方の地場企業に有利な判決
を下す地方保護主義の傾向がある点に留意する必要がある。
・ 損害賠償金の請求は訴訟によらなければできない。
(3)税関(海関)への差押え申請(2004 年 7 月より提出担保緩和と金額一部引き下げ)
税関総署に知的財産権保護登録を申請することにより、登録データは全国各地の税関
に伝達され、全国レベルで保護ネットワークが国境の水際で構築できる。知的財産権の
権利者の差押さえ申請、又は税関の職権により権利侵害の疑義がある貨物が輸出入され
ようとしていることを発見した場合、貨物の輸出入地の税関は当該権利侵害疑義貨物の
差押えが可能。税関への提出担保は、銀行の保証でも可能となった。
(4)知的財産権侵害に対する刑罰強化と訴追基準の引き下げ
2004 年 12 月 22 日より「知的財産権侵害における刑事案件の処理についての具体的
な法律運用に関する若干問題の解釈」が施行され、下記の通り訴追金額が引き下げられ
知財権の保護が強化され、刑罰が強化された。
更にこれまで著作権法の位置付けが不明確であった音楽、映像のインターネットでの
138
無断配信は「複製物の発行」と見做され、著作権法違反になることが規定された。
図表 4- 48 中国知財権管理体系と管理機関
中国知財権保護体系
法律体系
最
高
人
民
法
院
全
国
人
民
検
察
院
管理機関
工
業
・
情
報
化
部
農
業
部
国
家
知
識
産
権
局
模倣品取締体系
国
家
林
業
局
国
家
工
商
行
政
管
理
総
局
国
家
質
量
監
督
検
験
検
疫
総
局
国
家
公
安
部
国
家
食
品
薬
品
監
督
管
理
局
海
関
総
署
(出所:JETRO北京センター知的財産権室資料2006年より)
出所:JETRO 北京センター知的財産権室(現在は知的財産権部)資料
139
Ⅸ.中国進出に関するミニQ&A
<質問>
中国の法律でいわゆる一般法と特別法、及び国家性法規と地方性法規はどちらが優先し、
どのような関係にあるのか?
<回答>(2000 年 7 月 1 日に施行された「立法法」に基づく)
・一般法と特別法の関係、例えば「公司法」と「外資企業法」の場合、一般法である「公司法」
に定めていない事項については特別法である「外資企業法」が適用され、
「外資企業法」に規定
がない事項は「公司法」が適用される。
・同一機関が制定した一般法と特別法が合致しない場合は特別法を適用し、新たな法規と古い法
規が合致しない場合は新たな法規が優先する。
・国家性法規(全人代で制定される「法律」と、国務院及び各部・委員会の制定する「行政法規」
等が含まれる。)と地方性法規(各省、直轄市政府が制定する法規)の関係は、
「法律」の効力
が他の法規に全て優先し、次いで「行政法規」が「地方性法規及び規則」に優先する。
・国家性法規の中で、地方(省、市等)が定める法規によるとされた事項、或いは地方政府に授
権委任されている事項は地方性法規に基づき処理される。
<質問>
輸入設備の輸入増値税、関税が免税となるのはどのようなプロジェクトの場合か?
<回答>下記項目のいずれかに該当する場合
① 外商投資の新規設立または増資によるプロジェクトが「奨励類」に該当。
② 中西部の省・直轄市の「外資優先産業及び優先項目」のプロジェクトに該当。
③ 外商投資の設立する研究開発センターの設立。
④ 委託加工における無償の輸入設備及び進料加工契約による輸入設備。
⑤ ソフトウェア企業と集積回路生産企業、及び「国家ハイテク製品目録」の製品を生産する企
業が輸入する自家使用設備一式、及び集積回路技術。
⑥ 「奨励類」に該当する企業、外国投資研究開発センター、先進技術型企業、及び輸出型企業
の設備更新(注)
上記はいずれも投資総額の範囲内で輸入する自家使用設備で、
「外商投資プロジェクト免税不許可
輸入商品目録」に記載されている商品を除く。
(注)自己使用設備の他に、一体となった技術、部品、備品が含まれる。
140
<質問>
設立する会社の名称に関する規制にはどのような規制があるのか?
<回答>
・企業名称については「企業名称登記管理規定」及び「企業名称登記管理実施弁法」の規定があ
り、企業名称は通常、企業設立前に工商行政管理局に対し、優先順位をつけた複数の名称登記
を申請する。
・企業名称には一般的に「中国」
、「中華」
、「全国」等を用いることには制限があり(資本金の額
が大きい大企業のみ使用可能)、アルファベット、カタカナ等外国文字の使用が禁止されてい
る。また他社と類似の名称を登記することもできないため、必ずしも希望通りの社名がつけら
れることは限らない。なお、事前に類似名の有無を調査することは可能。
・企業名称には、①所在地名、②商号、③業種名又は業界名の3項目が必須。例:北京××商務
諮詢有限公司、など。
<質問>
董事会とはどのような組織か?
董事と総経理の兼任は可能か?
董事長と総経理の法的な関係はどうなっているのか?
<回答>
・合弁企業、合作企業の董事会は企業の最高の意思決定機関として関係法により設置が義務付け
られている。合作企業の場合、連合管理委員会でも可能とされている。
・外資(独資)企業法では、2006 年以降会社法に基づき会社機関を設置する必要がある。まず、
株主会の設置が必要となり(一人出資の外資企業は不要)、また株主人数、規模により董事会
の設置を設置しなくてもよいが、その場合、執行董事をおく必要がある。
・「中外合弁企業法実施条例」によれば、董事会は、少なくとも 3 名以上で構成し、毎年最低1
回開催し、董事の 2/3 以上の出席がなければ開催できないとしている。董事と総経理の兼任を
禁止する規定はなく、董事長と総経理の兼任も問題ない。なお、2006 年 1 月から施行されて
いる改正「会社法」では、有限責任公司の董事会は 3 名から 13 名で構成し、毎年最低 2 回開催
すると規定されている。
・総経理、副総経理等の高級管理職は董事会が任命、評価、解任する権限を持つ。
・合弁企業の場合、下記事項については出席董事全員の同意が必要となることに留意。
① 企業の定款変更
② 企業の中途終了、解散
③ 登録資本の増加、減少
④ 企業の合併・分割
上記以外の事項につき全員、2/3 以上、過半数の同意とするかは定款で定める。
141
・董事長は、企業の法定代表者であり、総経理は董事会で承認された事業計画に基づき、その
範囲内で行う日常業務の執行責任者という関係にある。従って、大口の借入、担保提供、設
備購入、資産売却等日常の業務範囲を超える契約については董事長の署名が必要であり、こ
の場合、総経理は董事長の授権委任状がなければ、その署名の有効性に問題があるので留意が
必要。
<質問>
会社所在地に日系銀行の支店がないが、遠隔地でも日系銀行の口座開設は可能か?
<回答>
① 外貨口座
規定上は、会社所在地の外貨管理局で報告し、開設銀行の支店所在地の外貨管理局の許可
を得れば開設可能。しかし、地域によっては、会社所在地の外貨管理局が報告を受け付け
ない実例や、支店所在地の外貨管理局も会社所在地の外貨管理局の意向を気にするため、
簡単に開設できないケースもある。
② 人民元口座
遠隔地に開設された人民元口座は、臨時口座と呼ばれ、開設に必要な書類は次の通り。
・営業許可証、設立批准証書、企業法人番号証、人民元基本口座開設許可証、現法の法定
代表者が遠隔地の臨時口座にかかわる法律責任を負う旨の同意書、口座開設地の銀行で取
得した「人民元基本帳戸管理カード(人民元 IC カード)
」
出所:SMBC コンサルティング―SMBC 経営懇話会
護士法人キャスト代表弁護士
中国ビジネス倶楽部「会社設立(総論)
」監修
弁
村尾龍雄
<質問>
中国に設立した現法から撤退するにはどのような手続きが必要か?
<回答>
撤退方法には、大きく分けて、会社を存続させたまま撤退を図る「出資持分の譲渡」による方
法と、会社を解散し、撤退する「清算」の二つがある。一般的には、手続きが比較的簡単でか
つ撤退時の回収額をより多く見込めるケースが多い「出資持分の譲渡」による撤退が主流とな
っている。しかしながら、現地に会社を存続することに問題がある場合、持分の買い手がない
場合には「清算」することになる。いずれの方法も、譲渡あるいは、会社の解散・清算につい
て董事会での全会一致による決議と、会社設立時の審査認可機関の認可得が必要。
① 出資持分の譲渡における留意事項
・ 他の出資者がある場合、他の出資者に優先購入権がある。但し、国有企業との合弁の
142
場合には、持分譲渡も国有資産の処分となるので、公開入札により応札を受けた上で、
持分譲渡契約を締結することとなる。
・ 日中の 2 社が合弁の場合、中国側が持分を買い取ると、外商投資企業から内資企業と
なってしまい、税の優遇措置がなくなってしまうことから、持分の評価が下がる。
・ 外商投資企業であった生産経営期間が 10 年未満の場合、優遇を受けた税額を期間に
応じて返還する必要がある。(清算の場合も会社存続期間が 10 年未満の場合、同様に
返還義務が発生。
)
② 解散・清算における留意事項
・ 合弁企業の場合、中国側が解散に反対するケースが多く、董事会の決議を得るため事
前の周到な準備が必要。
・ 会社の解散事由をあらかじめ合弁契約書、定款に明確に(例えば、累積損失が登録資
本金の 1/2 以上となった場合、或いは4期連続赤字を計上した場合など)規定してお
くことが必要。その上で会社が解散事由に明確に合致しているかどうかが認可取得の
ポイントになる。
・ 清算には、清算委員会のメンバーを最低3人選出する必要がある。自前で清算委員会
を組成できる場合には「普通清算」となり、法に則して親会社コントロールの基に遂
行できる。
自社で清算委員会メンバーを組成できない場合「特別清算」となり、審査・認可機関
から清算委員会メンバーが派遣され、かつ清算方案、清算報告書も実質的な審査・確
認が行われ、親会社のコントロールが及びにくくなる。
・ 従業員の解雇に伴う経済補償金(1年勤務で給与1か月分)が清算費用として発生。
・ 債権の回収見通しと財産の売却見通しを厳格に査定し、事前に或いは清算の途中で債
務超過になることが判明した場合は、人民法院(裁判所)に破産の申請を行わなけれ
ばならない。
・ 破産の場合、人民法院から清算委員会のメンバーから派遣され、親会社のコントロー
ルが聞かなくなり、手続きが面倒で時間が掛かる。
・ 破産回避のため、債務超過を解消するために、自社債権の放棄、又は追加資金の投入
を余儀なくされるケースもある。
<質問>
中国人の採用はどのように行えばよいか?
<回答>
・中国人を採用する場合、①縁故、②公募、③人材派遣センターの斡旋が考えられる。
・まず、縁故採用は、特別な場合を除き極力避け、公募で募集することが望ましい。以前は、採
用試験をする場合、事前に試験問題を労働局に申請し、許可を受けてからでないと試験が実施
143
できなかった。しかし、現在では自由に採用試験を行う事が可能となっている。外商投資企業
に応募してくる中国人は一般的には向上心が強く、また外商投資企業の給与は国内企業よりも
高いので、特に以前は求人募集をすると、沿海部ではワーカーを中心に、採用予定人員の何十
倍もの応募があった。現在は、内陸部にも企業の進出が徐々に増加していることもあり、以前
よりも応募者は減少傾向にはある。時間はかかるものの、ほんとうに優秀な人材を確保するた
めには、書類選考、筆記試験、面接を経て人選を行うべきである。また、公募方式が確立して
いれば、縁故採用の依頼に対しても断ることが可能となる。
・最近では、中国でも人材斡旋会社が設立され、総経理、副総経理クラスの優秀な人材を採用す
る場合にも利用されるようになっている。また、新卒者ではなく経験者を採用したい場合にも、
人材斡旋会社を利用することも一つの方法である。
<質問>
中国での現地法人出向者に対する個人所得税はどのように課税されるのか?
<回答>
・ 中国での住所の有無、滞在期間、高級管理職等により課税方法が異なる。
<一般人員の場合>
所 得 の 源 泉 と 中国内源泉所得
負担
中国外源泉所得かつ
中国外源泉所得かつ
中国内組織負担
中国外組織負担
滞在日数
中国内に住所あり
中
183 日以内
国
(通算又は累積)
内
納 税 年 度 に 183
住
日超 365 日未満
所
納 税 年 度 に 365
な
日以上 5 年以下
し
5 年超
課税
課税
課税
非課税(**)
非課税
非課税
課税
非課税
非課税
課税
原則課税(*)
原則課税(*)
課税
課税
課税
(*)所管税務局の認可を受ければ、中国外源泉所得について、中国の組織によって負担される部
分のみ課税所得とすることができる。
(**)但し、非課税は短期滞在者の免税規定が適用される場合のみ
<高級管理職の場合>
高級管理職とは、総経理、副総経理、部門長、部長等を指し、個人所得税は居住していて
も、いなくとも(常駐していない場合でも)、滞在日数に関係なく、中国における国内所
得(中国内組織負担)は、全額課税される。中国外所得(出向先負担)は中国滞在日数に
144
応じて日割りで算出、納税する。
出所:玄同社出版「中国ビジネス・投資 Q&A」水野真澄著
<質問>
この数年、中国では人材が不足し賃金が上昇していると言われるが、どの程度なの
か?
<回答>
・国家統計局のデータによると、2011 年度の出稼ぎ農民の数は 2 億 5,278 万人に達した。全体と
しては 2009 年(2 億 2,978 万人)比増加しているものの、沿海部では出稼ぎ労働者の減少から
深刻な労働者不足が生じている。出稼ぎ労働は沿海部まで移動するより、地元で職に就くか、
中部地域での就職を希望する傾向にある。2011 年の出稼ぎ労働者の平均月収は前年比 21.1%増
の 2,049 元に達している。
・主な都市の最低賃金は以下の通り(2012 年 4 月現在)
北京 1,260 元、上海 1,280 元、広州 1,300 元、深圳 1,500 元
<質問>
中国における商事紛争の解決方法にはどのようなものがあるか?
<回答>
・中国企業との取引の際に契約書を締結する際、紛争解決手段についてあらかじめ規定しておく
必要がある。しかし、中国側当事者に対して中国において債権の回収を求める場合、中国で効
力を有する紛争解決機関を指定しておかねばならない。日中間では、民事判決の相互承認協定
がないため、日本の裁判所が下した判決を中国で強制執行することができないからである。
・中国における紛争解決には、①裁判による紛争解決と、②仲裁機関による紛争解決がある。
・中国の裁判制度は、二審制である。外商投資企業が当事者となっているときは、中級人民法院
が第一審法院となり、上訴された場合は高級人民法院で審議終了するケースが多い。
・中国の裁判制度で日本と大きく違うのは、二審制であることと、当事者が中国の公民または企
業(外商投資企業も含まれる)である場合、人民法院が事件を立件してから6ヵ月以内に審理
を終結しなければならないことである。このため、日本で裁判を行うよりもはるかに早い解決
が得られる可能性が高い。
・一方、仲裁と比べた場合、裁判による紛争解決のデメリットとして、①当事者が中国の公民ま
たは企業(外商投資企業を含む)でない場合には紛争解決に時間がかかること、②裁判官の判
決に公正性および専門知識の欠如が疑われること、③使用言語が中国語に限定されることなど
が挙げられる。仲裁は一審で終結し審議期間も短く、案件が複雑でない限り1回で終了すると
いうこともある。
145
・ただし、仲裁を紛争解決の手段として選択するには、契約書において、①仲裁選択の合意(仲
裁で紛争解決をする旨の双方の合意がなされていること)、②仲裁事項の合意(仲裁で紛争解決
する契約事項の範囲が合意されていること)、③仲裁地および仲裁機関の合意(仲裁を行う場所
および仲裁機関について合意がなされていること)が必要となる。
<質問>
中国現地法人で、労働組合を組成する必要はあるのか?
<回答>
・
「労働組合法」第 10 条で「25 名以上の組合員を有する場合、基層労働組合委員会を設立しなけ
ればならない」と定めており、従業員が 25 名以上の企業は労働組合(工会)を設立しなけれ
ばならない。
・しかし、従業員側に組合設立の希望がない場合は、設立を猶予しても差し支えない。あくまで
も、組合の組成は従業員の意思である。
・また、中国の労働組合は、中国共産主義青年団(胡錦濤総書記の出身母体)や中華全国扶助連
合会と同様に特別な政治的地位を有する社会団体である、中華全国総工会の下部組織となって
いる点が特徴的である。しかし、各企業や工場で組成される労働組合自体は、現状、日本の組
合とは異なり親睦団体的な要素が強いことから、会社主導で組合を設立してしまう、という方
法もある。
・中国の組合は、賃上げ交渉の場合など、従業員の取りまとめ的な役割を担ってくれることもあ
り、企業と従業員との連絡役としての機能を果たす場合が多い。
・2008 年 1 月から施行されている労働契約法では、
「直接的に労働者の切実な利益に及ぶ重要事
項の制定、変更、決定には、労働者代表大会あるいは従業員全員の討論で草案及び意見を提出
し、工会または労働者代表と平等に協議し、確定しなければならない」旨が規定されるなど、
集団労働契約重視の姿勢が打ち出されており、今後、工会の役割は重要性が増すと考えられる。
<質問>
中国人労働者は残業、休日出勤を希望するのか?
<回答>
・出稼ぎ労働者は、短期間にできるだけ多く稼ぎ、故郷に錦を飾ることを夢見ているので、残業
や休日出勤を希望するし、残業や休日出勤のない工場は敬遠されることもある。
・中国の労働法では、就業時間や休日に関しての規定があるが、実際には、労働者の希望によっ
て、時間外勤務や休日出勤が日常的に行われているのが実態である。この場合、法律の規定に
基づき手当てを支払う必要がある。
・一方、都会の比較的裕福な労働者は、アフターファイブや休日を有効に活用したいとの希望が
146
強い労働者も多く、残業や休日出勤は嫌う傾向にある。
<質問>
中国の祝日と休日日調整。
<回答>
・中国の祝日は法律で制定されているが、なるべく長期休暇をとりやすいように、毎年休日日数
の調整が行われ、年末に翌年の予定が発表される。
・ 法定祝日と 2012 年から 2015 年までの日程は次の通りである。
2012 年
2013 年
2014 年
2015 年
元旦
1月1日
1月1日
1月1日
1月1日
春節
1 月 23 日
2 月 10 日
1 月 31 日
2 月 19 日
清明節
4月4日
4月5日
4月5日
4月5日
労働節
5月1日
5月1日
5月1日
5月1日
端午節
6 月 24 日
6 月 13 日
6月2日
6 月 20 日
中秋節
9 月 30 日
9 月 19 日
9月8日
9 月 27 日
国慶節
10 月 1 日
10 月 1 日
10 月 1 日
10 月 1 日
・2012 年の休日調整は次の通り。
「元旦」
:1 月 1 日~3 日、3 日間休日。但し 2011 年 12 月 31 日(土)は出勤日。
「春節」
:1 月 22 日~28 日、7 日間休日。但し 1 月 21 日(土)
、1 月 29 日(日)は出勤日。
「清明節」
:4 月2日~4 日、3 日間休日。但し 3 月 31 日(土)
、4 月 1 日(日)は出勤日。
「労働節」
:4 月 29 日~5 月 1 日、3 日間休日。但し 4 月 28 日(土)は出勤日。
「端午節」
:6 月 22 日~24 日、3 日間休日。
「中秋節」
「国慶節」
:9 月 30 日~10 月 7 日、8 日間休日。但し 9 月 29 日(土)は出勤日。
(注)2012 年は 9 月 30 日が中秋節となるため、10 月 1 日の国慶節と連続した休日となっている。
<質問>
「労働契約法」の制定以降、労務管理が難しくなったと聞いたが?
<回答>
・「労働契約法」は従来の「労働法」に比べて、労働者の権利保護の傾向が強まっている。
・無契約労働の制限や、解雇基準の厳格化などにより、従来のように採用、解雇の自由度が制限
されることになり、日系企業の中には「労務管理が難しくなった」
「解雇が困難になった」など
の意見が出ていることも事実である。
・しかし、考え方によっては無契約労働の制限や解雇条件の厳格化などは、労働者の権利保護の
観点から、当然の規定であるとも考えられ、むしろ日本のような先進国の労働者基準に少し近
づいたと考えるべきではないか。今後はより緻密な労務管理に心掛ける必要がある。
147
<質問>
中国での現地法人設立手続きは以前より簡単になったと言われるが、本当か?
<回答>
・外資系企業の進出手続き関連法規は一応整備されており、規定に従って申請手続きを行えばよ
いことになっている。
・しかし、実際には窓口担当者の考え方や当局の方針によって、申請手続がなかなか前進しない
ケースが頻繁に発生する。中国側からすれば「厳正」な審査も日本側からすれば「イチャモン」
と捉えられる場合もあり、日本と中国の認識のギャップが表面化してしまうこともある。こう
した傾向は特に地方の当局、担当者に多いように思える。
・また、沿海地域では、外資選別の色彩が濃くなっているので、中国の地方政府側も、沿海部で
は内陸部と比して、クールな態度が際立つ場面も発生している。
<質問>
外資系企業に対する税制優遇が廃止されたと聞いたが。
<回答>
・WTO 加盟以降、内外無差別の原則を実現するため中国政府は外資系企業に対する税制優遇の
廃止を検討してきたが、2007 年 3 月の全人代で新「企業所得税法」が成立し、2008 年 1 月 1
日より実施されている。
・その後、同「実施条例」や、その他関連通達が公布・施行され、優遇措置については原則、5
年間の猶予措置はあるものの、将来的には外資系企業、中国国内企業ともに企業所得税は 25%
に統一される。また、ハイテク産業と認定された場合は 15%の税率が適用され、中小零細企業
と認定された場合は 20%が適用される。この他国家が重要と認めたインフラプロジェクト及び
民族自治区内の企業には別途優遇措置が適用される。
・今後も関連法規が公布されると見られるが、将来的には、労働集約型産業が中国沿海部へ進出
するのは大変困難になっていくものと予想される。沿海部はハイテク産業、労働集約的産業は
内陸部へ、或いはチャイナ・プラス・ワンと言われる地域へと、それぞれ住み分けや事業再編の
動きが明確になっていくものと見られる。
<質問>
沿海部では既に製造業の進出は歓迎されないと聞いたが?
<回答>
・ 上海などの沿海部大都市周辺では、既に新規工場用地の開発が難しくなってきており、限ら
148
れた土地の有効活用が大きな問題となってきている。また、環境汚染が深刻化しつつあると
いう問題もあり、地域により例外はあるものの、化学工業などの大型の製造業の進出には必
ずしも好意的ではない。
・ 現状、最も歓迎されるのは、効率の良い、高付加価値の産業の進出である。従来型の製造業
は中・内陸部への進出を誘導されている。また、既存工場の中・内陸部への移転を勧奨する
動きもみられる。
<質問>
中部、内陸部への進出は沿海部より大きな困難を伴うか?
<回答>
・中部、内陸部といっても、最近では多くの外資系企業が進出しており、当局も対応に手馴れて
きており、かつてのような困難は見られなくなってきている。
・また、中部、内陸部の当局も積極的に外資系企業の誘致活動を実施しており、開発区などの工
業団地も十分整備されているので安心である。
・しかし、現地に進出した日系企業にヒアリングした結果では、必ずしも沿海部と同じようにス
ピーディーに会社設立手続きが進展しないこともあるようである。沿海部以上に当局担当者個
人の裁量の余地が大きく、それなりに個人的な対応も必要になるようである。
・また、国家レベル、省レベルの開発区のように組織がしっかりしている工業団地に進出した場
合は、工場操業後も沿海部と同じようにしっかりとしたアフターケアーを期待できるが、一般
地域、郷鎮レベルの工業団地に進出した場合は、対応が困難なケースも発生するようである。
<質問>
中国で労働争議が急増していると聞くが?
<回答>
・2010 年 5 月から 6 月にかけて、広東省にあるホンダ系列の工場 4 社で中国人従業員が賃上げ
を求めるストライキを起こし、稼動停止となった。その後、北京にある韓国現代自動車系の工
場でも大規模なストが起き、また、天津の豊田合成、広州のデンソーなどにも飛び火した。そ
の後も沿海部を中心に全国的にストが波及し、公表されているだけでも 2 ヶ月間で 30 件以上
におよぶという。
・中国では一般的な労働組合としての機能を果たしていないため、組織立った労使交渉が成立し
にくい。そのため十分な労使交渉が行われる前に、いきなりストライキという強硬手段に出て
しまうことが多くある。またインターネットによる情報が得やすくなっていることから、他工
場の給与額や他社で起こったストなどが瞬く間に全国的に知られることになる。
・「労働契約法」により労働者の権利が明確化されたこと、「労働争議調停仲裁法」によって、仲
裁費用が無料になったこと、インフレによる国民の不満が高まっていることなど、さまざまな
149
要素が合わさって、この時期に一気に噴出したものと考えられている。今後も労働争議が無く
なることはありえない。なぜなら中国の労働争議の引き金になった「労働者の権利意識」や「ネ
ット社会の伝播力」は今後ますます高まっていくに違いないからだ。
・2011 年以降は中国全土で大規模な労働争議は発生していないが、労働者意識の高まりから、賃
上げ交渉時の小規模な争議はむしろ頻発する傾向にある。
・労働争議に直面した場合は、慌てることなく専門家の支援を得ることが重要である。そのため
にも、日頃から相談できる窓口を確保しておくことが大切である。
<質問>
反日行動や日本製品不買運動についてはどうか?
<回答>
・2010 年 9 月に起きた尖閣諸島沖の漁船衝突事件を発端とする反日デモは、成都、西安、鄭州、
杭州、武漢など全国に広がった。それと同時に日本ブランド製品の不買運動にも火がついた。
だかこの時期だけに限らず、インターネット上の不買の呼びかけは常にあるといってよい。日
本や日本ブランドに対するコンプレックスや愛国心また歴史的な恨みといった感情が、常に水
面下でくすぶっているのである。
・反日デモの背後には政府に対する不満、役人の不正に対する不満が存在していた点も指摘され
ている。2010 年 10 月陜西省で発生した反日デモでは、反日スローガンの陰で「官僚腐敗」や
「不動産価格の高騰」など社会に対する不満の声があったという。
・中国の学校教育では引き続き「抗日」
「反日」教育が実施されており、中国人の意識の底にはこ
うした教育の影響が根強く存在していることも事実である。
・今後とも、民衆の社会に対する不満が「反日行動」という形で表面化してくることは十分に予
想され、油断は禁物である。
・中国に進出している日本企業の経営者は、日頃から従業員とのコミュニケーションを良好に保
ち、
「反日行動」に自社の従業員が巻き込まれないよう最善の努力を払っておくことが肝要であ
る。また、万一再度「反日行動」が発生した場合でも、冷静な対応が最も望まれる。
<質問>
「下水油」が横行しているとの報道がある本当か?
<回答>
・「下水油」とは中国では「地溝油」と呼ばれている、再生食用油のことである。
・製法は、下水溝、排水溝に沈殿した油カスを回収し、ろ過、沈殿、過熱などを加えることによ
り食用油として再生するものである。価格が極めて廉価であることから、ヤミで販売され、一
部の屋台、食堂などて使用されている。
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・中国の法律上は当然違法な油であり、当局も摘発に努めているが、なかなか根絶に至っていな
いのが現実である。
・
「下水油」の使用は、健康に大きな悪影響を及ぼす危険性も指摘されており、外食に際しては十
分注意するとともに、不衛生と思われるような屋台、食堂での飲食は避けたほうが賢明である。
・また、この他にも生産、加工過程で極めて不衛生と思われる食品も多く出回っていることから、
「安価」のみを判断基準とすることは回避すべきであろう。
<質問>
最近の中国沿海部大都市は日本と殆ど変わらなくなったか?
<回答>
・急速な経済発展に伴い、上海などの沿海部大都市での生活は、表面的には日本での生活と大き
く変わらなくなってきていることは事実。
・街を歩けば、到る所にコンビニ、珈琲ショップが開店しており、日本で手に入るものは、殆ど
が手に入る状態のため、多くの日本人は「日本と同じ」との感覚に陥りがちである。
・しかし、決して忘れてはならないことは「中国は社会主義国」であるということである。日本
では問題とならないような行動や、発言も、中国では違法となることが多く、場合によっては
公安当局に検挙されることにもなりかねない。社会主義国中国の国情をしっかりと認識した上
での謙虚な行動が求められる。
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