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- 138 - 2. 微細気泡装置によるアサリ漁場環境改善技術 2.1 技術の概要

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- 138 - 2. 微細気泡装置によるアサリ漁場環境改善技術 2.1 技術の概要
2. 微細気泡装置によるアサリ漁場環境改善技術
2.1 技術の概要
背景
有明海西部の長崎県諫早市小長井地先では、泥干潟上に覆砂漁場を造成し、アサリ養殖
が営まれています。
ここで収獲されたアサリは、
漁協直営店や県内外の販売所へ供給され、
販売されています。しかし、夏季に貧酸素水塊が襲来することから、それによるアサリの
へい死が問題となっています1,2)。
夏季の貧酸素水塊によるアサリのへい死は、近隣の地先や他県のアサリ養殖場において
も発生しています。貧酸素水塊のアサリへの影響は、水温やアサリ個体の生理状態によっ
ても異なりますが、一般的に溶存酸素濃度 1mg/L以下の状態で、早ければ 2 日後からへい
死が始まり、4 日以上継続するとほぼ全ての個体がへい死するといわれています。小長井
地先でも、平成 11 年から平成 22 年の間に貧酸素水塊の襲来によりアサリが大量へい死す
る事例が 8 回発生しており(表 2-1)、多大な漁業被害が生じました。
このような中、長崎県総合水産試験場はアサリのへい死対策の研究を進め、貧酸素水塊
の襲来をある程度予測できるようにし、さらに貧酸素水塊が襲来しても簡易なシートを設
置すれば防除できることを確認しました。そのような背景のもと、平成 20~24 年度に有明
海漁場造成技術開発事業にて実証実験を行いました3,4)。その結果をもとに、アサリを対象
とした貧酸素水塊対策の実際の運用を想定し、本マニュアルを作成しました。
表 2-1 長崎県諫早市小長井地先での貧酸素水塊とアサリへい死の発生状況
年度
貧酸素水塊の状況
時間
無酸素化の有無
アサリへい死状況
H15
32h
有り
へい死有り
H16
43h
有り
大量へい死※
H17
5h
無し
H18
15h
無し
H19
16h
有り
へい死有り
H20
29h
有り
大量へい死※
H21
0h
無し
H22
32h
無し
※大量へい死:生残率 50%未満
出典:長崎県総合水産試験場データ、有明海漁場造成技術開発事業データ
- 138 -
技術の特徴と主な効果
貧酸素水塊の対策として、「防除・緩和」や「地盤高の調整による回避」があります。
また、アサリを一時回収し、沖合のカキ筏に吊るして避難させる方法もあります。しかし、
沖合の筏に吊るす方法は、フジツボが付着し貝の開閉を妨げること、一定以上の大きさを
超えたアサリしか避難させられないこと、避難先の筏にてアサリを吊す容量に限りがある
こと、およびアサリの身が痩せてしまうといった課題があります。さらに、地盤高の調整
による回避では、覆砂や嵩上げを行うために大規模な工事を必要とし、その上、工事も長
期間に渡ります。
本マニュアルで説明する微細気泡装置によるアサリ漁場環境改善技術は、アサリ漁場を
防除幕※で囲い、防除幕内を微細気泡装置にて曝気する技術です(図 2-1)。この技術によ
り、貧酸素水塊がアサリ漁場へ襲来した場合でも、防除幕内の溶存酸素濃度を一定以上に
保ち、アサリのへい死を抑制することができます。防除幕で囲ったアサリ養殖漁場内は、
幕内の全域で貧酸素水塊の緩和をできるため、殻長サイズにかかわらずにアサリのへい死
を抑制できます。さらに、資材が揃っていれば、本技術の設置・運用に要する時間は比較
的短いため、漁場へ貧酸素水塊が襲来してくることが分かれば早急に対応することが可能
です。
※防除幕:本マニュアルで示す防除幕とは、強度のあるシートを指します(詳細は 146 ペー
ジを参照してください)。
100m
50m
図 2-1 防除幕と微細気泡装置を組み合わせた技術
- 139 -
2.2 適用条件
本技術は、夏季の小潮期に溶存酸素濃度 1mg/Lを下回る貧酸素水塊が襲来し、アサリの
へい死が生じる場所(生息密度 4.4kg/m2以上)にて効果を発揮します。したがって、このよ
うな場所であることが条件となります。また、初期費用が掛かることから、アサリの生息
密度がある程度高い(コラム参照)ことも条件となります。
例として、長崎県諫早市小長井地先では、4 年に 1 回の頻度で貧酸素水塊の影響による
アサリのへい死が生じています。この地先のアサリの生息密度は約 6kg/m2で、50%のへい
死が生じると、1 漁場(5,000m2と想定)あたりで約 30 トンにおよぶアサリのへい死が生じ
ます。本技術の適用面積は、最大で 50m×100m以内です。なお、本技術は、装置を載せる
船が必要であり、幕内に船を入れるために、小潮期の最干時に水深約 0.5m以上となる漁場
であることが条件となります。
2.3 実施方法
2.3.1 実施手順
本技術の実施手順は、計画、設置、稼働、回収、保守管理です(図 2-2)。実施にあたっ
ては、本マニュアルに従い装置を運用・保管してください。また、機器トラブル等が発生
した場合には、速やかに装置製造元に連絡し、補修・点検をしてください。
1.計画
・対策時期の決定
・材料の準備
・防除幕,微細気泡装置の制作・準備
2.設置
・支柱とガイドロープの設置
・防除幕と微細気泡装置の設置
3.稼働
・微細気泡装置の稼働
4.回収
・防除幕と微細気泡装置の回収
5.保守管理
・防除幕と微細気泡装置の保守管理
図 2-2 本技術の実施手順
- 140 -
2.3.2 計画
(1) 対策時期
貧酸素水塊は、一般的に夏季の小潮期に発生、襲来します。そのような小潮期に、本技
術の実施を計画してください。なお、具体的な貧酸素水塊の発生情報については、<有明
海の水質観測事例(公開情報)>から入手してください。
(2) 材料
50m×100m の面積で運用する場合の準備物は、表 2-2 を参照してください。
表 2-2 準備物一覧
品名
規格
微細気泡装置
数量(単位)
備考
1(式)
微細気泡装置
微細気泡発生器
船外機船
1(隻)
船外機
1(隻)
アンカー
4(個)
アンカー用ロープ
20m
4(本)
燃料タンク(燃料含む)
20L
2(個)
1.5×40m
8(枚)
防除幕
ブランチハンガー
沈子ロープ
600(個)
300m
結束バンド
防除幕
37(本)
350m
ライト
細引きロープ
1(本)
1,500(個)
支柱
ガイドロープ
ガソリン、12 時間程度分
1(本)
6(個)
4mm
共通
80(本)
防除幕と支柱の固定用
リング
37(個)
付着生物防除用
作業船外機船
1(隻)
潜水機材
2(式)
ペンチ
2(個)
ニッパー
2(個)
カッター
2(個)
- 141 -
(3) 微細気泡装置の製作・各部の説明
微細気泡装置の仕様は表 2-3、寸法図は図 2-3、各部の説明は図 2-4~図 2-6 を参照し
てください。
始めに、表 2-3 の仕様に沿った微細気泡装置の製作を、機器メーカーに依頼してくださ
い。
表 2-3 微細気泡装置の仕様(効果面積 5,000m2)
本体寸法
1,320×750×734mm
本体重量
240Kg
エンジン排気量
720CC
エンジン回転数
2,800rpm
燃料タンク容量
ガソリン 24L
ポンプ回転数
700rpm
ポンプ吐水量
200L/min
ポンプ圧力
2.0Mpa
微細エアー量
ノズル 6 本 総量 760L/min
図 2-3 微細気泡装置の寸法図(株式会社 森機械製作所社製)
- 142 -
微細気泡装置は大きく分けて、エンジンユニット、ストレーナー、微細気泡発生器、高
圧ホースの 4 つの部位があります。
キースイッチ操作口
エンジンユニット
ストレーナー
微細気泡発生器
高圧ホース
図 2-4 微細気泡装置の各部の説明 1
※注意
・微細気泡発生器と高圧ホースの内部にゴミ、砂等が混入していないかを確認してくださ
い。
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アクセルレバー
キースイッチ
オイルドレンプラグ
オイルフィルター
図 2-5 微細気泡装置の各部の説明 2
- 144 -
吐出口(高圧ホース接続部)
吸水口(吸水ホース接続部)
逃がしバルブ
高圧ホース接続部
微細気泡発生器
図 2-6 微細気泡装置の各部の説明 3
- 145 -
(4) 防除幕の規格
防除幕として使用するシートを購入してください。図 2-7 に示した防除幕のように、結
合するためのファスナーが取り付けられたシートを注文してください。参考として、防除
幕に適したシート素材の規格を表 2-4 に示します。この規格と同程度の強度を持つシート
が、防除幕に適しています。なお、購入する幕の高さは、幕を張るときの作業性から人の
胸の高さ程度の 1.5m が適しています。
ファスナー部
図 2-7 防除幕
表 2-4 使用する防除幕規格の目安
物性値
材質
ポリエチレン
質量
212g/m2
厚さ
0.36mm
縦
横
引張強度(N)
1,150
1,100
伸度(%)
16
16
引裂強度(N)
150
150
- 146 -
(5) 実施人数と時間
本技術を 50m×100m の面積で実施する場合の参考として、2.3.1 実施手順(140 ページ)
で示した実施手順ごとに必要な人数と時間(h)を示します(表 2-5)。
表 2-5 実施人数と時間の目安
実施内容
設置(1 日)
設置
(干潟干出時 1 日)
人数
時間
防除幕の準備
1~2 人
約 3~8 時間
支柱の設置
2~4 人
約 2~4 時間
ガイドロープの設置
1~2 人
約 1~2 時間
防除幕の積み込み
2~4 人
約 1 時間
微細気泡装置の積み込み
2~4 人
約 1 時間
防除幕の設置
3~5 人
約 1~2 時間
微細気泡装置一式の設置
2~3 人
約 1 時間
微細気泡装置の稼働
1~2 人※1
約 15 時間※2
防除幕の回収
3~5 人
約 1~2 時間
微細気泡装置の回収
2~3 人
約 1 時間
防除幕の保守管理
2~4 人
約 3~4 時間
微細気泡装置の保守管理
1~2 人
約 1 時間
設置(小潮時 1 日)
稼働(小潮時 1 日)
回収(1 日)
保守管理
※1 急な天候の悪化や、エンジントラブルの発生に備えて、人員 1~2 名を装置の近くに待機させてください。
※2 微細気泡装置は、アサリ養殖漁場が貧酸素状態となっている期間を通じて稼働させてください(貧酸素状
態の確認は<有明海の水質観測事例(公開情報)>を参照)。
- 147 -
2.3.3 設置
(1) 防除幕の準備
本技術を実施するときは、あらかじめ防除幕の上部に、ガイドロープへの固定用のブラ
ンチハンガーを取り付けます。また、幕の下部に結束バンド等で沈子ロープを取り付けま
す(図 2-8)。
ブランチハンガー
1.5m
結合部(ファスナー式)
防除幕
防除幕
1.5×40m
1.5×40m
結束バンド
結束バンド
底層
沈子ロープ
40m
防除幕
ブランチハンガー
結合部(ファスナー式)
沈子ロープ
図 2-8 防除幕
- 148 -
(2) 支柱とガイドロープの設置
漁場が干出している間に、支柱とガイドロープを設置します。
支柱は人力(2 名)により、実施漁場に一定間隔を空けて設置します(図 2-9)。なお、夜
間作業を考慮して、あらかじめ支柱の四隅などにライト等で目印を付けます。
次にガイドロープを、人力(2 名)により支柱に結びつけていきます(図 2-10)。このとき
は、1 名が背負子等にガイドロープを抱え、1 名が誘導しながら支柱に結びつけていくと作
業が効率的に進みます。ガイドロープは、1.5m 程度(防除幕の高さ)の高さで支柱に結びつ
けます(図 2-11)。
※ 50m×100m の面積の場合、
支柱 36 本程度使用(支柱の間隔は約 8~9m 程度)するのが目安です。
- 149 -
図 2-9 設置作業 1
図 2-10 設置作業 2
図 2-11 設置作業 3
- 150 -
(3) 防除幕の設置
防除幕の漁場への設置は、船で運搬し、支柱とガイドロープに結びつけます。使用する
船は、外機船で全長 8m 程度の大きさが適しています。
漁場で防除幕を設置しやすいように、幕を蛇腹状にたたみ、船に積み込みます(図 2-12)。
図 2-12 防除幕の積み込み
- 151 -
防除幕の設置には、水深が浅すぎず、深すぎない潮汐の際に行ってください(図 2-13)。
これは、船とガイドロープが同じ高さであると、設置しやすいためです。参考として、潜
水士が立って作業をでき、かつ船外機船も進入できる上げ潮時の水深 0.8~1.5m程度の深
度が適しています。
防除幕の設置は、船上作業員 3 名と潜水士 2 名の計 5 名で実施してください。
設置の方法は、船上の作業員が防除幕を海上に垂らしていき、潜水士がガイドロープに
ブランチハンガーを取り付け、
さらに細引きロープを用いて幕の上下を支柱に固定します。
この際に、潜水士は防除幕のよじれ等がないかを確認してください。
図 2-13 防除幕の設置作業
図 2-14 防除幕の設置
- 152 -
(4) 微細気泡装置の設置
設置に先立ち、微細気泡装置を陸上のクレーン付きのトラックから、小型クレーン付き
の作業船に積み込み、漁場付近まで移動します。なお、港から本技術の実施漁場までの距
離が短い場合は、直接クレーン付きのトラックから、船外機船に装置を載せても構いませ
ん。次に、微細気泡装置を作業船から、船外機船に小型クレーンを用いて積み替えます(図
2-15)。なお、微細気泡装置の転倒を防ぐために、必ず船外機船に装置を固定して使用して
ください。
図 2-15 微細気泡装置の積み込み
微細気泡装置と微細気泡発生器を積んだ船外機船は、1.5m(防除幕の高さ)より潮位が高
くなる時を選んで幕内に入れます。図 2-16 に示すように、微細気泡発生器のノズルを防
除幕内に船上から投入し、防除幕内全てに曝気された海水が行き渡るように、それぞれ対
称となるように配置します。次に、微細気泡装置を積み込んだ船外機船を設置区の中央に
配置します。その後、潜水士により 6 本の微細気泡発生器のノズルと微細気泡発生装置の
高圧ホースを繋ぎます(図 2-17)。全てを配置したイメージを図 2-18 に示します。
図 2-16 微細気泡発生器の設置
- 153 -
図 2-17 ホースと微細気泡発生器のジョイント
図 2-18 微細気泡装置の配置
- 154 -
2.3.4 稼働
微細気泡装置の稼働は図 2-19 に示すように、あらかじめ上部のフタを開け、正面窓抜
き部分奥にあるキースイッチをONにしてからエンジンを始動してください。
燃料としてガソリンを使用しますので、誤って海に流してしまった場合に備えて、オイ
ルを吸着させるマット(油吸着材)などをあらかじめ準備してください。油の流出等があっ
た場合、用意しておいた油吸着材を海域に投じて油の流出拡大を食い止めてください。な
お、流出量が多かった場合、漁協や海上保安部に連絡を取り、適切に対応をお願いします。
※注意
・エンジンを止めた後、必ずキースイッチが OFF になっていることを確認してください。
・エンジン始動、停止前には必ず逃がしバルブを解放してください。
・バルブをすべて閉じたままエンジンを始動すると、ポンプが損傷します。
・オイルは、100 時間おきに交換してください。
・オイル交換は、ガソリン用オイルを使用してください。
・交換するオイルの量は 1.5L です。
1.蓋を開ける
2 装置の稼働
稼働時の概要
図 2-19 微細気泡装置の稼働
- 155 -
2.3.5 回収
防除幕の回収は、設置時と同様、船上作業員 3 名と潜水士 2 名で行います。
回収の手順は、設置時とは逆の手順で、潜水士がブランチハンガーをガイドロープから
取り外し、船上作業員が船上に防除幕を引き上げます(図 2-20)。
2.幕を船上に引き上げる
1.ロープから幕を外す
図 2-20 防除幕の回収
微細気泡装置は、設置時と同様に潜水士が微細気泡発生器と高圧ホースをエンジンユニ
ットがある船外機に回収します。
1.ホースの回収
2.微細気泡発生器の回収
図 2-21 微細気泡装置の回収
- 156 -
2.3.6 保守管理
(1) 防除幕の保管
回収した防除幕は、生物などが付着しているため、水洗いをしてください。また、結合
部(ファスナー部)は必ず水洗いをして、塩分が残らないようにしてください(図 2-22)。
1.防除幕の洗浄
2.防除幕の保管
図 2-22 防除幕の洗浄と保管
(2) 微細気泡装置の保管
装置は回収後、微細気泡発生器と高圧ホースの海水を抜き、水洗いをしてください(図
2-23)。そのままにしておくと、海水に含まれる塩分が発生器の中に析出し、以後の使用に
支障をきたす可能性があります。水洗いの後、乾燥させてから保管してください。
1.吸水口へ水を入れ口内の洗浄
2.吐出口から水を出し洗浄
図 2-23 微細気泡装置の水洗い方法
- 157 -
コラム「長崎県小長井地先アサリ養殖漁場における実施事例」
貧酸素水塊によるアサリのへい死を抑制するために、長崎県小長井地先のアサリ漁場に
おいて微細気泡装置による曝気をしました3)。
○アサリへい死抑制効果
微細気泡装置によって曝気する区画を実験区、何もしない区画を対照区として、水中の
酸素濃度(溶存酸素濃度)の変化とアサリの生残の関係を調査しました。
平成 20 年度の 8 月 11 日から 13 日にかけて溶存酸素濃度は 1mg/Lを下回り、周辺漁場
にて貧酸素水塊によるアサリのへい死が生じました。実験終了時のアサリの生残率は、対
照区で 59%であるのに対して、実験区で 91%と非常に高い結果でした。このことから、本
技術には、アサリのへい死抑制効果があることを確認しました。
生残率(%)
100
80
実験区
60
対照区
40
生残率(%)
100
80
実験区(枠取り)
60
対照区(枠取り)
40
10
8
実験区
6
対照区
4
2
8/11
8/12
8/13
8/14
アサリ生残率と溶存酸素濃度の変化
- 158 -
8/15
18:00
12:00
6:00
0:00
18:00
12:00
6:00
0:00
18:00
12:00
6:00
0:00
18:00
12:00
6:00
0:00
18:00
12:00
6:00
0
0:00
溶存酸素濃度(mg/l)
12
また、潮が引いたのちのアサリ漁場の様子を下図に示します。何もしない区画では、底
質の表面に数多くのへい死したアサリの貝殻がみられたのに対して、
曝気を行った区画は、
そのような貝殻は極めて少ない状況でした。
微細気泡による曝気区
何もしていない区画
実験終了時の曝気区内と何もしていない区画の状況
○本技術の費用について
参考までに、今回の調査に要した費用は、微細気泡装置(耐用年数 5 年)や防除幕など一
式で約 505 万円となりました4)。これらの費用は、50m×100mの範囲で行うことを想定した
場合です。貧酸素水塊の襲来により、この金額以上の漁業被害が想定される場合、有効な
対策と考えられます。なお、フジツボの清掃をこまめに行うことで、支柱なども繰り返し
て使用できます。
<文 献>
1) 平野慶二,松田正彦,北原茂,品川明,日向野純也(2008):諫早湾内の諌早市小長井町
地先干潟の貧酸素化の実態とその対策.日本 水産 工学会学術講演会講演論文集 20,
p91-94.
2) 平野慶二,日向野純也,中田英昭,品川明,藤田孝康,徳岡誠人,向後恵一 (2010):諫早
湾のアサリ養殖場における夏季大量へい死対策.水産工学 Vol.47№1, p53-62.
3) 社団法人マリノフォーラム 21,芙蓉海洋開発株式会社,五洋建設株式会社,日本ミク
ニヤ株式会社.平成 20 年度有明海漁場造成技術開発委託事業報告書,東京.2009.
4) 社団法人マリノフォーラム 21,芙蓉海洋開発株式会社,五洋建設株式会社,日本ミク
ニヤ株式会社.平成 23 年度有明海漁場造成技術開発事業報告書,東京.2012.
- 159 -
3. 微細気泡装置によるカキ漁場環境改善技術
3.1 技術の概要
背景
有明海西部の長崎県諫早市小長井地先でのカキ養殖は、諫早湾内や沿岸域でカキ筏への
垂下方式で実施されています。ここで収獲されたカキは、県内外で販売されるほか、周辺
のカキ焼き小屋へも供給され、地元の観光名物ともなっています。しかし、この地先では、
カキのへい死が度々生じており、収獲が不安定となっています。
平成 18 年度、このような事態に対処すべく西海区水産研究所では、カキのへい死抑制
を目的として、筏に微細気泡装置を設置して曝気する技術開発を行いました1)。この技術
開発の成果として、カキ養殖水深帯での溶存酸素濃度が向上すること、また、8 月上旬ま
でカキの生残率が約 20%上昇したことが分かりました。
このような状況のなか、平成 20 年度から平成 24 年度に有明海漁場造成技術開発事業に
て実証実験を行いました2-5)。その結果をもとに、カキを対象とした貧酸素水塊対策の実際
の運用を想定し、本マニュアルを作成しました。
技術の特徴と主な効果
養殖筏に垂下されるカキの貧酸素水塊への対策としては、
「避難」と「曝気」が考えら
れます。避難では、カキ筏全体を貧酸素水塊の影響の無い海域に移動させる方法や、潮間
帯に避難させてへい死を防ぐ方法があります。曝気では、微細気泡による曝気や、揚水し
た海水を曝気する方法があります。
本マニュアル説明する微細気泡装置によるカキ漁場環境改善技術は、カキ筏に微細気泡
装置を設置して夏季の期間中で、曝気をするものです(図 3-1)。これにより、貧酸素水塊
が襲来したときでも、溶存酸素濃度を一定以上に保ち、カキのへい死を抑制することがで
きます。
微細気泡装置
図 3-1 微細気泡装置による曝気技術
- 160 -
3.2 適用条件
本技術は、夏季の小潮期に溶存酸素濃度 3mg/L を下回る貧酸素水塊が襲来し、カキのへ
い死が生じる場合であることを条件とします。また、重量のある装置を設置できる鋼製の
養殖筏を用いることも条件となります。なお、小潮期の流速が 1cm/sec 未満であることに
より、発生した微細気泡が筏周辺に留まり、効果が発揮されます。
3.3 実施方法
3.3.1 実施手順
本技術の実施手順は、計画、設置、稼働、回収、保守管理の順です(図 3-2)。実施にあ
たっては、本マニュアルに従い運用・保管してください。また、機器トラブル等が発生し
た場合には、速やかに装置製造元に連絡し、補修・点検を行ってください。
・対策時期の決定
1.計画
・材料の準備
・微細気泡装置の制作・準備
2.設置
・レールの設置方法
・微細気泡装置の設置
3.稼働
・微細気泡装置の稼働
4.回収
・レール、微細気泡装置の回収
5.保守管理
・レール、微細気泡装置の保守管理方法
図 3-2 本技術の実施手順
- 161 -
3.3.2 計画
(1) 対策時期
貧酸素水塊は、一般的に夏季の小潮期に発生、または襲来します。そのような小潮期に、
本技術の実施を計画してください。なお、具体的な貧酸素水塊の発生情報については、<
有明海の水質観測事例(公開情報)>から入手してください。
(2) 材料
運用する際の準備物は、表 3-1 を参照ください。
表 3-1 準備物一覧
品名
数量(単位)
レール
微細気泡装置
共通
レール本体
1(式)
レール固定用ロープ
5(本)
微細気泡装置本体
1(式)
ノズル
4(本)
ストレーナー
1(個)
燃料タンク
1(個)
足場用木材
15(個)
足場用ベニヤ板
1(枚)
固定用ターンバックル
4(本)
ペンチ
2(個)
ニッパー
2(個)
カッター
2(個)
ラチェット
2(個)
ウォタープライヤー
2(個)
- 162 -
(3) 微細気泡装置の製作・各部の説明
微細気泡装置の仕様は表 3-2、寸法図は図 3-3、および各部の説明は図 3-4 をそれぞれ
参照ください。
始めに、表 3-2 の仕様に沿った微細気泡装置の製作を、機器メーカーに依頼してくださ
い。
表 3-2 微細気泡装置の仕様
本体寸法
1,250×754×840mm
本体重量
210Kg
エンジン排気量
435CC
エンジン回転数
1,900rpm
燃料タンク容量
軽油 80L
ポンプ回転数
2,400rpm
ポンプ吐水量
450L/min
ポンプ圧力
0.14Mpa
微細エアー量
ノズル 4 本 総量 120L/min
図 3-3 微細気泡装置の寸法図(株式会社 森機械製作所社製)
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微細気泡装置は大きく分けて、エンジンユニット、ストレーナー、微細気泡発生器、高
圧ホース、燃料タンクの 5 つの部位があります。
ポンプ吐水口
燃料タンク
ポンプ吸水口
エンジン操作、オイル点検交換口
エンジンオイル補充口
高圧ホース
微細気泡発生器
図 3-4 微細気泡装置(各部の説明)
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(4) 実施人数と時間
本技術を実施する場合の参考として、
3.3.1 実施手順(161 ページ)で示した実施手順ごと
に必要な人数と時間(h)を示します(表 3-3)。
表 3-3 実施人数と時間の目安
実施内容
設置(1 日)
稼働
(3 日間程度)
人数
時間
レール・微細気泡装置の積込み
2~4 人
約 1 時間
レールの設置
2~4 人
約 1~2 時間
微細気泡装置の設置
2~3 人
約 1~2 時間
微細気泡装置の稼働・燃料補給
1~2 人
小潮期間中※
レールの回収
2~5 人
約 1~3 時間
微細気泡装置の回収
2~3 人
約 2~3 時間
レールの保守管理
1~3 人
約 1~2 時間
微細気泡装置の保守管理
1~2 人
約 1 時間
回収(1 日)
保守管理
※微細気泡装置は、カキ養殖漁場が貧酸素状態となっている期間中稼働させてください。また、必要に応じて
燃料補給を行ってください。
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3.3.3 設置
本技術を実施するときは、カキ筏での微細気泡装置の設置に先だって、筏上で微細気泡
装置を所定の位置へ移動させるためのレールを筏の中央部に設置し(図 3-5)、必ず筏に固
定します(図 3-6)。
図 3-5 レールの設置作業
図 3-6 レールの固定
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設置に先立ち、微細気泡装置を陸上の小型クレーン車などを用いて、小型クレーン付き
の作業船に積み込み、カキ筏まで移動します(図 3-7)。
図 3-7 微細気泡装置の積み込み
微細気泡装置の運搬前に、あらかじめ装置を設置する筏の中央部に木の板などで、足場
を作っておきます。小型クレーン付きの船を用い微細気泡装置をカキ筏まで運び、クレー
ンによりレールの上に移設します(図 3-8)。
図 3-8 微細気泡装置の筏への運搬
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次に、レールを利用し、微細気泡装置を筏の中央部まで運び、必ず装置が動かないよう
に固定してください(図 3-9)。
図 3-9 微細気泡装置の配置
微細気泡装置にホースを繋ぎ、ノズル部分(微細気泡発生機)をカキ連より深い位置の水
深帯へ設置します(図 3-10)。その後、ホース部分を筏にロープで結び、固定します。
図 3-10 ホースの配置例
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3.3.4 稼働
(1) 微細気泡装置の稼働
エンジンをかけるときには、あらかじめ上部のフタを開け、正面窓抜き部分奥にあるキ
ースイッチを ON にしてください(図 3-11)。また、貧酸素水塊が襲来すると危惧される 7
月~9 月は装置を設置したままとし、稼働させると効率的です。
【エンジン稼働の手順】
① エンジンオイル・燃料(軽油)の量を確認してください。
② ポンプに迎え水を注入してください。
③ キースイッチにてエンジンをスタートさせます。
④ 揚水確認後、エンジンの回転をあげて、ポンプ圧力を確認します(ポンプ圧
0.14Mpa)。
※注意
・エンジンオイル補充口とエンジン操作、オイル点検交換口は、稼働時には閉めて下さい。
低
アクセル
高
キースイッチ
OFF
ON
スタート
圧力計
図 3-11 微細気泡装置の稼働
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ポンプ迎え水口
(2) 燃料補給
燃料補給時には、必ずエンジンを止めてください。エンジンを止める時はアクセルを戻
してから、アフターファイヤー防止のために、約1分アイドリングをしてからキーをOFF
にしてください。キースイッチをOFFにするとエンジンは停止します。エンジン停止後に、
燃料タンクの蓋をあけ、軽油を入れます(図 3-12)。
燃料として軽油を使用しますので、誤って海に流してしまった場合に備えて、オイルを
吸着させるマット(油吸着材)などをあらかじめ準備してください。油の流出等があった場
合、用意しておいた油吸着材を海域に投じて油の流出拡大を食い止めてください。なお、
流出量が多かった場合、漁協や海上保安部に連絡を取り、適切に対応をお願いします。
※注意
・エンジンを止めた後、必ずキースイッ
チが OFF になっていることを確認してく
ださい。
図 3-12 燃料補給
(3) オイル交換
オイルは、稼働が 100 時間になるたびに交換してください(図 3-13)。
※注意
・オイルは、ガソリン用オイル 1.5L です。
図 3-13 オイルの交換
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(4) 台風発生時の対応
台風が発生した際は、微細気泡装置に波が被ることで故障する可能性があるので、装置
を一時的に避難させてください。
そのときは、微細気泡装置を撤去し、ホースはロープを使って、動かないように固定し
てください(図 3-14)。
図 3-14 台風時の一時避難のイメージ
3.3.5 回収
微細気泡装置の回収手順は、設置時とは逆となります。装置を船上へ移動させた後、レ
ール等を撤去してください。
3.3.6 保守管理
(1) レールの保管
レールは回収後、水洗いをしてください。また、錆が有る場合はサンダーなどを用いて
錆を落としたうえ、防錆材を塗装してください。
(2) 微細気泡装置の保管
微細気泡装置は、回収後、微細気泡発生器と高圧ホースの海水を抜き、水洗いをしてく
ださい。そのままにしておくと、海水に含まれる塩分が発生器の中に析出し以後の使用に
支障をきたす可能性があります。水洗いの後、乾燥させてから保管してください。
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コラム「長崎県小長井地先カキ漁場における実施事例」
貧酸素水塊によるカキのへい死を抑制させるために、長崎県小長井地先カキ漁場で微細
気泡装置による曝気しました。
○溶存酸素濃度の上昇効果
微細気泡装置によって曝気した筏の中で、幕で囲った中を曝気する区画を実験区幕内、
幕外の区画を実験区幕外、何もしない筏を対照区として、水中の酸素濃度(溶存酸素濃度)
の変化とカキの生残の関係性について調査しました。
平成 23 年度の 8 月 25 日から 29 日の間に、
溶存酸素濃度が 3mg/L を下回った時間を下表
に示します。5 日間の観測期間中、カキ連の最下層にあたる「下層」では、対照区で溶存酸
素濃度が 3mg/L 以下となった時間が約 21 時間であるのに対して、実験区幕内では 10 時間
と短い時間でした。このことから、本技術には、溶存酸素濃度を上昇させる効果があるこ
とを確認しました。
溶存酸素濃度が 3mg/L を下回った時間(8/25~29)
観測期間
範囲(溶存酸素濃度mg/L)
8/25 0:00
~
8/29 0:00
3.0~2.0mg/L
2.0~1.0mg/L
1.0mg/L以下
計
実験区幕外
上層
中層
下層
0.0
0.2
5.5
0.0
0.0
10.2
0.0
0.0
4.0
0.0
0.2
19.7
実験区幕内
上層
中層
下層
0.0
0.0
9.0
0.0
0.0
1.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
10.0
上層
0.0
0.0
0.0
0.0
単位:時間
対照区
中層
下層
0.8
6.0
0.0
11.0
0.0
4.3
0.8
21.3
実施事例
○本技術の費用について
参考までに、今回の調査における本技術の実施に要した費用は、一式で約 430 万円程度
(耐用年数 5 年)です。したがって、貧酸素水塊の襲来により、この金額以上の被害が想定
される場合、有効な対策と考えられます。なお、清掃をこまめに行うことで、幕なども繰
り返して使用できます。
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<文 献>
1) (独)水産総合研究センター,西海区水産研究所(2007):平成 18 年度貧酸素水塊漁業
被害防止対策並びに平成 18 年度有明海貧酸素水塊発生機構解明調査 合同報告会議
資料
2) 社団法人マリノフォーラム 21,芙蓉海洋開発株式会社,五洋建設株式会社,日本ミクニ
ヤ株式会社.平成 20 年度有明海漁場造成技術開発委託事業報告書,東京.2009.
3) 社団法人マリノフォーラム 21,芙蓉海洋開発株式会社,五洋建設株式会社,日本ミクニ
ヤ株式会社.平成 21 年度有明海漁場造成技術開発委託事業報告書,東京.2010.
4) 社団法人マリノフォーラム 21,芙蓉海洋開発株式会社,五洋建設株式会社,日本ミクニ
ヤ株式会社.平成 22 年度有明海漁場造成技術開発事業報告書(2),東京.2011.
5) 社団法人マリノフォーラム 21,芙蓉海洋開発株式会社,五洋建設株式会社,日本ミクニ
ヤ株式会社.平成 23 年度有明海漁場造成技術開発事業報告書,東京.2012.
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