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防災教育ソフトの現在
防災教育ソフトの現在 山口大学 工学部 瀧本 浩一 〒755-8611 宇部市常盤台 2-16-1 [email protected] 専門分野:防災システム工学 1.はじめに 「地震国」とも呼ばれる我が国において,幼い頃から防災意識・知識を高めておくことは重要である. このようなことから,筆者らは小・中学生を対象とした地震防災教育ソフトウェア「Quake Busters」等の 開発と小・中学校での評価,内容の修正を繰り返し行ってきた1).本稿では,現在開発を行っている地震防 災教育ソフトウェアの現状と評価についてご紹介する. 2.地震防災教育ソフトウェアの現状 表1 小学校高学年・中学生のカリキュラム 現在,開発を行っている小・中学生 向けの地震防災教育ソフトはハイパー テキストをベースとして,災害写真や CG,音声を用いて作成されている.学 習カリキュラムについては,小学校低 学年,小学校高学年,中学生の3つの レベルからなる.その一部として表1 に小学校高学年および中学生のカリキ ュラムの構成を示す.また,学習方法 については小学校低学年向けには,ポ ップアップ形式,小学校高学年・中学 生にはボードゲーム形式を採用した. 図1に小学校高学年・中学生用のメイン 画面を示す.これは,ルーレットを使 った双六であり, もどる もどる 図1 小学校高学年・中学生向けメイン画面 図2 小学校高学年・中学生向け学習画面 出目の分だけコマが進み止まったところで問題を出題するようになっている.学習内容は,図2に示す「ヒ ント」という形で,自由に見ることができるようにした.これにより,次々と出題される問題について自 ら進んで学習することで,自発的な学習を促すことが期待できる. 3.ソフトウェアの評価 (1)評価方法 開発したソフトを評価する場合,防災知識の変化を見る必要がある.しかしながら,現在のところそれ を定量的に調べる手法がない.そこで,教育工学の分野で数学や英語など一般科目の授業の評価に用いら れる以下の手法を導入した. ◎学習効果について ・ S-P 表,S-P 曲線 実力テストや授業後に行われる小テストなどの評価を行うもので,得点と問題正解者数の累積分布の関 係を表示したものである 2).防災ソフトの使用前後と学習中にクイズとして防災に関しての問題を出題し, 描かれた得点と正答者数の2つの累積分布曲線の位置や重なり具合により考察する. ・注意係数 学習内容の難易度が適切であるかや,学習者がまじめに学習したかをみる値で,この値が高い場合, 学習内容の見直しや学習者への注意が必要となる. ◎カリキュラム構成の評価 ・ IRS(Item Relational Structure Analysis) 学習者の学習項目に対する理解度の順に取り出し,学習項目間の関連構図をグラフで表す2). この順序を踏まえて学習項目の順序を再検討する. ◎システムの評価 ・ SS(Semantic Structure:意味構造)分析 SS分析はアンケート項目間の順序関連を求める方法であり,CAIのシステム面や内容の評価に用い られる 3) .本ソフト終了後に自動的にアンケートを表示し,回答してもらった結果を分析する.これに より,効果音といったシステムの改良が学習にどのような影響を与えるのかをみることができる. (2)評価の一例 宇部市内の小学生 27 名,中学生 10 名に本ソフトを使用してもらい,同時にSS分析を行うためのア ンケートと地震に対する意識調査のアンケートに答えてもらった.また,小学生については学習ソフト使 用後に地震防災の知識がどのように変化したかを見るために,使用後の1ヵ月後と,さらにその1週間後 にソフト中に提示したものと同じ問題をペーパーテストとして解答してもらった.さらにペーパーテスト の1ヵ月後に再度ソフトを使用してもらい,知識の変化を見た.なお,被験者を同じにするため,第1回 目のソフトの使用から第2回目のソフトの使用まで同じ児童にやってもらった. 図3に本ソフトによる学習前と学習後にやってもらった問題の,S−P 曲線の結果の一部を示す.図3(a) と(b)を比較すると,曲線の位置は右下に推移し,注意係数の高い問題の数は減少した.よって,小学校 高学年では学習効果があったといえる.小学校低学年もほぼ同様の結果であったが,中学生については学 習効果がやや低かった.この原因は,問題に不備があったことである.次に第 1 回目のペーパーテストの 結果を見ると,S 曲線および P 曲線ともに左上に推移しており,さらに第2回目のペーパーテストにおい ても両曲線ともやや右下に寄っているが,図3(b)に比べると左上に位置している.これらの結果から, ソフト使用後の時間の経過により,学習効果が薄れていることがわかった.小学校低学年についても同様 の傾向が見られた.ペーパーテストの 1 ヵ月後の,第 2 回目の学習での学習前後の S−P 曲線を比較する と,学習後に曲線の位置は右下に推移している.この変化は第 1 回目の学習前後と比べて大きいものであ った. 注意係数: ! 注意 !! 要注意 注意係数: ! 注意 !! 要注意 注意係数: ! 注意 !! 要注意 図3 S-P曲線の結果 (a)改良前 (b)改良後 図4 小学校高学年のSSグラフ また小学校低学年についても,同様の結果であった.よって,複数回にわたるソフトの使用によってより 知識を高めることができるといえる. 次に,改良前後の小学校高学年のSSグラフを示したのが図4である.ここで,図4(a)は,先に述べ たゲーム的要素を導入する前の従来のシステムでの結果である.図(a)と(b)の比較からわかるように,平 均評価値は大幅に上がっている.従来のソフトにおいて評価の低かった①や⑦の項目の評価値も 1.0 近く 上昇し,システム面の改良の効果が出たといえる. 5.おわりに 本稿では,地震防災教育ソフトウェアの現状と開発したソフトの評価について述べた.学習については, これまでの学習画面をただめくるだけの方法をやめ,ゲーム的な要素を取り入れて学習方法の改良を行っ た.また,評価方法については教育工学の手法を参考に知識の変化などをみる試みも行った. 今後は,より長期的に本ソフトを使用した際の防災知識の変化や児童・生徒等の防災知識形成過程を明 らかにする試みが必要である. <参考文献> 1) 瀧本浩一,三浦房紀:小・中学生を対象とした地震防災教育ソフトウェアの開発とその評価,土木学 会論文集,No.691/I−47,1999 2) 佐藤隆博:S-P 表の作成と解釈 ∼授業分析・学習診断のために∼,明治図書,p.9,1991. 3) 竹谷 誠:新・テスト理論∼教育情報の構造分析法,早稲田大学出版部,1991.4.30.