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④ 飼育実験による沿岸生物の行動・生理変化の把握 【目的】 (独)水産

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④ 飼育実験による沿岸生物の行動・生理変化の把握 【目的】 (独)水産
④ 飼育実験による沿岸生物の行動・生理変化の把握
【目的】
(独)水産総合研究センターが北部日本海の外海砂浜域を対象海域として、ヒラメを主対象
とした漁業生産予測モデルを作成し、簡便な物理環境・生物環境パラメータから適正な漁場
環境を評価する簡便な診断手法を提案する。対象海域である日本海は、水温が近年上昇傾向
にあって世界的にも4番目に高水温化している海域として報告されており(国連環境計画U
NEP、2009)、沿岸生物への影響が懸念される。一方、日本海砂浜域では規模の大きい低
水温の淡水湧昇が確認されており(菅原、2006)、高水温環境下では淡水湧昇が沿岸生物の
好適環境となりうる可能性がある。本課題では、ヒラメの漁場環境診断手法の開発を支援す
るため、ヒラメの漁業生産に重要な稚魚期の生息環境に着目し、ヒラメ稚魚を対象とした淡
水湧昇に対する反応行動試験と成長試験を行う。
-52-
【方法】
1.ヒラメの淡水湧昇に対する反応行動試験
1)供試材料
ヒラメ稚魚は試験に先立ち、塩分 34psu、20℃海水(以降、基準海水と定義する)を掛
け流しにした 1.5 トン水槽に収容し、市販の稚魚用飼料を一日当たり体重の2%与えて飼
育した。
2)試験システム
水温塩分反応行動システムを開発・製作して試験を行った。本システムは試験水槽、浸
漬槽、塩分・水温調節装置、定流量ポンプおよび画像記録装置で構成されている。
ガラスビーズ(0.2mm)を 75mm 高さまで敷いたドーナツ型の試験水槽(内径 300mm、
外径 500mm、高さ 150mm)は、底面が4つの区画に分かれ、各区画の側面には給水口が
設けられ、各区画の底面に設置した多孔質チューブにつながっている(図 1)。定流量ポ
ンプにより給水口に供給された試験水は、多孔質チューブを通り、ガラスビーズ層を均一
に鉛直上向きに流れる。従って、給水口へ供給する水を切り替えることによって、各区画
の水温・塩分を独立に調整することを可能とした。
試験水槽は海水を満たした浸漬水槽内に設置し、供給された水は浸漬水槽よりオーバー
フローさせ、排水した。なお、試験水槽の周囲にはヒラメ飛び出し防止ネット(5mm メッ
シュ,高さ 300mm)を設置した。
図 1.ヒラメ稚魚の淡水湧昇に対する反応行動試験のシステム構成
-53-
3)試験条件と解析方法
試験は小型サイズのヒラメ稚魚を用いた小サイズ稚魚試験と大型サイズを用いた大サイ
ズ稚魚試験の2試験を行った。試験月日および試験に用いたヒラメのサイズを表 1 に示す。
小サイズ稚魚試験では1試験につき水槽内に5尾のヒラメ稚魚を同時に収容し,大サイズ
稚魚試験では1尾のみ収容した。基準海水(20℃,34psu)を流した試験水槽に供試魚を収
容し、1時間後に3区画を高水温海水区に、1区画を低水温淡水区とし、22 時間観測を行
った。高水温海水区には 20,23,26,29,32℃,34psu の海水を供給し、低水温淡水区には 13℃,
0psu の淡水を供給した。試験水の流量は、海水・淡水ともに 0.15L/min/区画とした。試験
は各水温につき5回行った。
供試魚の水槽内における位置はデジタルカメラで1分ごとの間欠撮影をすることにより
記録した。小サイズ稚魚試験では、22 時間(1320 データ)について5尾のうち淡水区に滞
在していたヒラメ稚魚の平均尾数(淡水区滞在尾数)を求めた。大サイズ稚魚試験では、
ヒラメ稚魚が 22 時間(1320 データ)のうち淡水区に滞在した割合(淡水区滞在率)を求
めた。
表 1.淡水湧昇行動試験の試験月日および試験に用いたヒラメ稚魚の体長・体重
試験項目
小サイズ稚魚試験
大サイズ稚魚試験
海水温
20℃
23℃
26℃
29℃
32℃
20℃
23℃
26℃
29℃
32℃
試験月日
2012/6/11-15
2012/6/18-22
2012/6/25-29
2012/7/2-6
2012/7/9-13
2012/10/9-15
2012/10/1-5
2012/9/24-28
2012/9/17-21
2012/9/10-14
-54-
体長(mm)※
51.7±4.7
61.2±4.2
68.3±7.2
77.1±6.6
87.2±6.6
130±7.3
132±7.8
139±11
124±11
112±9.3
体重(g)
2.0±0.49
3.2±0.63
4.6±1.1
6.7±2.1
10±2.1
37±7.8
34±4.2
39±10
29±7.7
23±6.7
※平均値±S.D.
2.ヒラメの淡水湧昇に対する成長試験
1)供試材料
ヒラメの淡水湧昇反応行動試験と同様、ヒラメ稚魚は試験に先立ち、塩分 34psu、20℃
海水を掛け流しにした 1.5 トン水槽に収容し、市販の稚魚用飼料を一日当たり体重の2%
与えて飼育した。
2)試験システム
厚さ約 50mm の砂をひいた試験水槽(1500mm×750mm×300mm)を、トリカルネットに
より5区画に分け(1区画のサイズ:250mm×500mm×400mm)、各区画の上部にはヒラメ
の飛び出し防止用のフタを取り付けた(図 2)。試験水槽の砂中に埋めた多孔塩ビパイプ
(φ13mm,孔径2mm)から高水温の海水を流した。試験水槽は試験区と対照区の二つの
水槽を用意し、対照区には高水温海水のみを流し、試験区には円盤型エアストーンから低
水温の淡水を湧昇させた。なお、比重の軽い淡水を排水側より流すことで、淡水が水槽内
に及ぼす水温・塩分の影響を抑えた。試験区ではエアストーン上の砂面(湧昇エリア)と
多孔塩ビパイプ上の砂面(非湧昇エリア),対照区では多孔塩ビパイプ上の砂面(非湧昇
エリア)にそれぞれ水温ロガー(ストアウェイティドビット,オンセット社)を設置し、
連続観測を行った(図 2)。
1500mm
*2
750mm
海水
(高水温)
試験区
(淡水有)
*1
淡水
(低水温)
*3
250mm
500mm
海水
(高水温)
対照区
(淡水無)
砂面水温測定地点
*1:湧昇エリア(試験区)
*2:非湧昇エリア(試験区)
*3:非湧昇エリア(対照区)
図 2.ヒラメ稚魚の淡水湧昇に対する成長試験のシステム構成
-55-
3)試験条件と解析方法
行動試験同様に小サイズ稚魚試験と大サイズ稚魚試験の 2 試験を行った。試験時期およ
び試験に用いた試験開始時のヒラメのサイズを表 2 に示す。小サイズ稚魚試験では供試魚
を 15 尾ずつの 11 グループ、試験区と対照区にそれぞれ5グループずつ用い、残りの1グ
ループを測定し、試験開始前のサイズとした。なお、サンプリングは無作為に行った。大
サイズ稚魚試験は供試魚を各区画に1尾とし、試験開始前に体重・体長を測定した。小サ
イズ稚魚試験では海水温を 29℃とし、試験区に流した淡水の水温は 13℃とし、40 日間の
試験を行った。給餌は配合餌料を1日辺り試験開始時の体重の 2%(約 1g/区画)を朝夕2
回に分けて行った。大サイズ稚魚試験では海水温を 20,23,26,29,30,31℃と1週間ごとに上
昇させ、淡水温は 13℃とし(図 3)、47 日間の試験を行った。給餌は1日1回とし、オキ
アミ(約 0.6g)を 1 尾ずつ飽食するまで与えた。
試験終了時に体長・体重・死亡数を測定し、淡水湧昇による成長の差について比較した。
表 2.淡水湧昇成長試験の試験時期および試験開始時のヒラメ稚魚の体長・体重
試験項目
小サイズ稚魚試験
大サイズ稚魚試験
試験月日
2012/7/26-9/3
2012/10/7-11/22
体長(mm) ※
63.2±3.6
150±9.6
体重(g)
5.2±0.76
56±9.9
※平均値±S.D.
40
砂面水温(℃)
23℃
20℃
35
26℃
30℃
29℃
31℃
30
25
20
15
試験区(湧昇エリア)
10
試験区(非湧昇エリア)
5
対照区
0
0
5
10
15
20
25
30
35
試験経過日数
図 3.大サイズ稚魚試験における水温の推移
-56-
40
45
50
3.北部日本海砂浜域における水質調査
対象海域である北部日本海域の外海砂浜域(新潟県柏崎市の砂浜域)とその周辺河川に
おいて、淡水湧昇の確認のための水温・塩分・硝酸濃度の測定を、2012 年 8 月 29 日と 10
月 26 日に行った(図 4)。砂浜域の調査地点では、底層水・砂中水・間隙水を採水した。
底層水は汀線近くの海中底層より採取し、砂中水は砂浜の汀線上部で砂中より採取し、間
隙水は海底砂中より採取した。
●
A‐1
鯖石川
B‐1
●
C‐3
●
●
●
●
C‐1
C‐2
C‐4 ● 鵜川
C‐5
●
C‐6
1km
●:水温・塩分測定地点(8月29日)
●:水温・塩分・硝酸濃度測定地点(10月26日)
●:水温・塩分測定地点(8月29日)と水温・塩分・硝酸濃度測定地点(10月26日)
図 4.新潟県柏崎市とその周辺河川における水質調査地点
-57-
【結果】
1.ヒラメの淡水湧昇に対する反応行動試験
(1)小サイズ稚魚試験
小サイズ稚魚試験における、ヒラメ稚魚の淡水区滞在尾数を図 5 に示す。ここで図 5 に
ラインで示した 1.25 尾とは、4 区画のうち 1 区画を淡水湧昇区とし供試魚は 5 尾としたた
め、供試魚が区画の環境に関わらずランダムに滞在・移動した場合の平均滞在尾数に相当
する。試験水(高水温海水)の水温が 20℃,23℃,26℃では淡水区滞在尾数がそれぞれ 0.95
尾,1.4 尾,1.5 尾とこの水温間では有意差が認められなかった。しかし 29℃,32℃ではそ
れぞれ 2.3 尾,4.2 尾と有意に多くなっていた。以上の結果から、小サイズのヒラメ稚魚(52
~87mm)は海水温が 20~26℃の範囲では淡水区滞在尾数がランダム滞在・移動した際の
1.25 尾と同程度の値であり、行動に大きな影響は無いものと考えられる。しかし、海水温
が 29℃を越えると淡水湧昇区への選好性が認められ、32℃になるとその選好性が強くなる
と考えられる。
(2)大サイズ稚魚試験
大サイズ稚魚試験における、ヒラメ稚魚の淡水区滞在率を図 6 に示す。ここで図 6 にラ
インで示した 25%は、4 区画のうち 1 区画を淡水湧昇区としたため、供試魚が区画の環境
に関わらずランダムに滞在・移動した場合の平均滞在率に相当する。試験水(高水温海水)
の水温が 20℃,23℃,26℃,29℃では淡水区滞在率がそれぞれ 16.4%,38.2%,25.8%,36.4%
であり、各水温間で有意差は確認されなかった。32℃試験では、5 試験のうち 4 試験で試
験中に供試魚が死亡しており、生存していた 1 試験では淡水区滞在率が 90.7%と高い値で
あった。一方、死亡した 4 試験ではそれぞれの個体が死亡するまでの淡水区滞在率は 21.2
±9.5%(平均値±S.D.)と低い値を示していた。以上の結果より、大サイズのヒラメ稚魚
(112~139mm)は 20~29℃の範囲では淡水区滞在率がランダム滞在・移動した際の 25%
の前後の値であり、低水温淡水に対する選好性や忌避は確認されなかった。海水温度が 32
℃になるとヒラメの生存に大きな影響を及ぼすと考えられるが、低水温淡水の湧昇がある
ことにより生き残れる可能性が示唆された。
-58-
a※
b
c
c
c
1.25尾
図 5.試験水温による淡水区滞在尾数の変化
※:異なるアルファベットは試験水温間において有意差が確認された
N=1
※
25%
N=4
図 6.試験水温による淡水区滞在率の変化
※○は試験中に死亡した個体であり、死亡するまでの淡水区滞在率とする。
-59-
2.ヒラメの淡水湧昇に対する成長試験
(1)小サイズ稚魚試験
小サイズ稚魚試験における、ヒラメ稚魚の試験開始前と試験終了後の試験区・対照区の
個体の体長・体重と死亡数を表 3 に示す。試験後には両試験区とも体長,体重ともに試験
開始前に比べ増加が認められたが、試験区と対照区で差は認められなかった。死亡数は試
験区では 3.8 尾で対照区では 6.0 尾であったが、有意な差は確認されなかった(P>0.05)。
小サイズ稚魚試験ではいずれの区画においても区画内での成長のばらつきが大きかった。
これは 1 区画 15 尾のグループで試験を行ったため、個体間干渉が成長などに影響したと考
えられる。
(2)大サイズ稚魚試験
大サイズ稚魚試験における、試験水温に対する平均摂餌量の変化を図 7 に示す。試験区
では海水温が 20℃の時に比べ 23℃・26℃・29℃では摂餌量が有意に増加した。しかし、30
℃を越えると摂餌量は減少し始め、31℃では 5.6g/day と最大であった 29℃の 16.1g/day に
比べると 1/3 程度まで減少していた。一方、対照区では海水温が 23℃では 20℃の時よりも
有意に増加していたが、26℃から減少し始めた。さらに 29℃では 23℃に比べ摂餌量が有意
に少なくなっており、30℃,31℃ではそれぞれ 4.2g/day,2.2g/day とさらに減少した。試験
区間を同水温で比較すると、海水温が 29℃と 30℃では試験区の方が対照区に比べ、有意に
摂餌量が高い値を示していた。
ヒラメ稚魚の試験終了時の試験区・対照区の体長増加率・体重増加率を表 4 に示す。体
長・体重ともに淡水湧昇のある試験区の方が対照区に比べて増加率が高く、体長増加率は
有意に高くなっていた。しかし本試験では海水温を 20~31℃に変化させた 47 日間での増
加率を求めたため、海水温が 29,30℃のように摂餌量に有意な差が確認された海水温では
さらに明確な成長の差があったと考えられる。このことより、ヒラメ稚魚(160mm 以上)
は海水温が上昇すると、淡水湧昇があることにより摂餌量が多く成長率もよくなり、特に
水温が 29℃を越えるとその差が明確になる。
-60-
表 3.試験区・対照区における体長・体重の変化と生存個体数
体長(mm)
体重(g)
死亡数
標準個体
試験区
対照区
63±5.2
90±16
89±9.7
3.6±0.76
-
10.4±5.3
3.8±2.3
10.7±3.6
6.0±2.5
※
図 7.試験水温の変化に対する平均摂餌量の変化
※:異なるアルファベットは試験水温間において有意差が確認された
*:試験区と対照区において有意差が確認された
表 4.試験区・対照区における体長増加率と体重増加率
試験区
対照区
体長増加率(%)
28±6.2
18±6.5
体重増加率(%)
140±37
100±41
-61-
3.日本海北部砂浜域における水質調査
新潟県柏崎市の砂浜域における水温・塩分の測定結果を表 5 に示す。すべての地点にお
いて、底層の塩分は 31.2~32.7psu と高い値であり、淡水湧昇が確認されなかった。しか
し、周辺に河川流入の無い A-1 や鯖石川の河口に位置する B-1 では砂浜を掘っても水は出
てこなかったが、鵜川河口に位置する C-1,C-3 では砂中水が観測され、C-3 では 2.8psu
と低い塩分となっていた。さらに C-3 では間隙水の塩分も 11.6psu と低く、海底下の間隙
中にも淡水が混ざっていたことがわかる。砂中水の起源を明らかにするため、鵜川河口域
とその周辺砂浜域において硝酸濃度を測定した結果を表 6 に示す。一般に海水中の硝酸濃
度は河川水に比べ低く、C-3 においても海水・間隙水の塩分の高い水では硝酸濃度は検出
下限値(0.2mg/L)以下であり、C-4,5,6 ではそれぞれ 0.34,0.72,0.65mg/L と海水に比
べ高い値を示した。C-3 の砂中水は 8.6psu と 8 月 26 日の調査時よりは高くなっていたが、
硝酸濃度は 1.27mg/L と河川水の 2 倍程度高い値を示していた。海水の硝酸濃度は低いので、
砂中水に含まれる淡水は河川水由来ではないと考えられた。
表 5.柏崎市砂浜域の塩分・水温測定結果(8 月 29 日)
地点名
A-1
B-1
C-1
C-2
C-3
水温(℃)
底層水 砂中水 間隙水
28.3
×
29.4
×
30.6
30.4
30.5
30.8
×
31.2
30.3
30.3
27.1
-:測定をしていない項目
底層水
32.5
32.7
31.4
31.2
32.3
塩分(psu)
砂中水 間隙水
×
×
29.7
31.5
×
29.0
2.8
11.6
水深
(cm)
71
84
83
56
70
測定時刻
7時50分
9時
15時
13時40分
11時10分
×:砂中水が採集されなかった地点
表 6.鵜川河口とその周辺砂浜域の水温・塩分・硝酸濃度測定結果(10 月 26 日)
地点名 採取場所 水温(℃)
海水
20.1
C-3
砂中水
16.7
間隙水
19.0
C-4
表層水
16.4
C-5
表層水
14.6
C-6
表層水
14.3
塩分(psu)
31.0
8.6
26.5
9.8
2.4
1.3
-62-
硝酸濃度(mg/L)
不検出
1.27
不検出
0.34
0.72
0.65
【まとめ】
1)ヒラメ漁場診断モデルのパラメータ抽出に関する支援
体長が 52~87mm のヒラメ稚魚では海水温が 29℃を越えると淡水湧昇への明確な選好性
が確認され、32℃になるとその選好性が強くなった。一方、体長が 110mm 以上のヒラメ
稚魚では、海水温が 29℃まで上昇しても淡水湧昇への選好性は確認されず、32℃になると
淡水湧昇区を選好した 1 尾以外の 4 尾が試験中に死亡した。ヒラメ稚魚は全長 120mm(体
長 100mm 程度)までは水深 5m 域を主要な生息場とし(主に 6~7 月)、120mm を越える
と水深 10m 域付近に多く出現するとされている(主に 7~8 月)(今林 1980)。これらの
ことより、ヒラメ稚魚が沿岸域に出現する初夏~盛夏にかけて水温変化が大きい浅場に生
息する小型の稚魚は高水温に対して敏感であるが、浅場に比べ水温変化が小さい深場に生
息する大型の稚魚では水温に対する選好性・忌避性が弱い可能性が考えられた。大型サイ
ズの稚魚は淡水選好性が確認されなかったが、成長試験では海水温 29℃を越えると淡水湧
昇があることにより摂餌量が有意に多く、体長の増加率も大きくなっていた。
ヒラメ稚魚にとって 29℃以上の高水温環境下では、低水温の淡水湧昇は好適環境要因と
なりうることが示唆された。
2)ヒラメ漁場環境診断に関する支援
新潟県柏崎市の砂浜域における 8 月の調査では、底層水の水温が 28~30℃と高く、ヒラ
メ稚魚の小サイズで明確な淡水湧昇への選好性が確認された 29℃と同程度の水温であっ
た。水質調査では淡水湧昇が確認されなかったが、低塩分の砂中水や間隙水が確認された
鵜川周辺の砂浜域ではヒラメ稚魚が確認されている。このことからも、ヒラメ稚魚にとっ
て淡水湧昇が重要である可能性が示唆された。さらに日本海は、世界的にも4番目に高水
温化している海域とであると報告されており(国連環境計画UNEP、2009)、高水温化
による漁場環境影響が懸念される。このことからもヒラメ稚魚の生息場として淡水湧昇が
重要になると考えられ、日本海のヒラメ稚魚の生息環境を診断する場合、淡水湧昇の有無
というのが重要な指標の一つになると考えられる。
【参考文献】
今林博道(1980)生物群集内における稚魚期および若年期のヒラメの摂餌生態-Ⅰ 個体群
の種内関係. 日本水産学会誌,46(4) ,427-435
菅原仁人(2006) 秋田県象潟海岸域における地下水の湧出特性. 秋大地理,53,17-20
-63-
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