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インターネット環境下での点字による ソフトウェア開発及びその教育

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インターネット環境下での点字による ソフトウェア開発及びその教育
インターネット環境下での点字による
ソフトウェア開発及びその教育に関する研究
(課題番号 13680499)
基盤研究
平成13年度~平成15年度科学研究費補助金(C) (2)研究成果報告書
平成16年3月
研究代表者
(筑波技術短期大学
長岡
英司
教育方法開発センター(視覚障害系)教授)
は し が き
本書は平成13・14・15年度、科学研究費補助金による研究成果報告書である。
研究課題:インターネット環境下での点字によるソフトウェア開発及びその教
育に関する研究
課膚番号:13680499
研究組織:
研究代表者 長岡 英司(筑波技術短期大学教育方法開発センター
(視覚障害系)教授)
研究分担者 河原 正治(筑波技術短期大学情報処理学科 助教授)
黒川 哲宇(筑波技術短期大学一般教育等 教授)
研究経費:
平成13年度 1,900千円
平成14年度 1,600千円
平成15年度 600千円
計 4,100千円
研究発表:
(1)学会発表等
1)長岡英司:重度視覚障事者のソフトウェア開発技能の職業的有用性,職
業リハビリテーション,日本職業リハビリテーション学会,No.16,pp43
−51(2003.3)
2)長岡英司:視覚障害の補償−その進展を図るには,FIT2003情報科学
技術フォーラム講演論文集,情報処理学会&電子情報通信学会情報・シ
ステムソサイエティ(2003.8)
3)長岡英司:パソコンへのアクセスにおける点字ディスプレイ出力の利用
効果−音声出力と点字出力の利用比較実験−,日本特殊教育学会41
回大会発表論文集,p338(2003.8)
(2)ソフトウェア開発
1)点字表示機能付汎用テキストエディタ(2003.12)
目 次
1. 重度視覚障害者のソフトウェア開発技能の職業的有用性
1
2. パソコンへのアクセスにおける点字ディスプレイ出力の利用の有効性
−音声出力と点字出力の利用比較実験−
17
3. テキストエディタEB(Edit in Brai1le)の開発
57
4. 視覚障害者によるJavaプログラミング
75
この部分は以下の論文で構成されていますが、著作権者(著者、出版社、学会等)
の許諾を得ていないため、筑波技術大学では電子化・公開しておりません。
「重度視覚障害者のソフトウェア開発技能の職業的有用性」
職業リハビリテーション, No.16,pp43-51,2003
パソコンへのアクセスにおける点字ディスプレイ出力の利用の有効性
−音声出力と点字出力の利用比較実験−
長岡英司
筑波技術短期大学
要約:重度視覚障害者のパソコンアクセスにおける点字ディスプレイ出力の利
用効果に関する実験を行い、文字単位などの細部の正確な読み取りにおいて有
効なことや音声出力との併用で能率が向上することが明らかになった。
キーワード:パソコンアクセス、点字ディスプレイ出力、音声出力
1.日的
いまやパソコンは、人々の暮らしの中で重要な存在となっている。とりわけ、視覚障害
者にとっては障害補償に有効であり、その利用は社会参加に欠かせない。重度視覚障害者
のパソコンアクセスは、主に音声出力を介して行われている。しかし、能率や制度などの
点から音声出力のみでは不十分であるともいわれている。そこで、パソコンへのアクセス
に点字ディスプレイ出力を導入することの効果に関する実験を行った。本実験の目的は、
点字ディスプレイ出力の利用が有効である場面や、音声出力と点字ディスプレイ出力を併
用する効果などを明らかにすることである。
2.実験の概要と方法
〈実験の概要〉
元となるテキストデータ(原文)に施した変更を発見・復元する課題を、パソコン上で視
覚障害被験者に、音声出力のみの利用、点字ディスプレイ出力のみの利用、両者の併用の
3通りのアクセス方法で行わせ、処理時間と処理の精度を計測した。
〈方法〉
(1)実験用課題
Java言語で記述されたプログラムリスト(JISX0201 「情報交換用符号」に属する英字・
数字・記号からなる47行967バイトのテキストデータ)を原文とした(資料0)。復元課
題は、以下の10カテゴリとした。カテゴリごとに、等価な課題3題を各アクセス方法用と
して作成し、課題文は合計30とした(各課題の復元箇所は2-4箇所) (資料1-30),
[復元カテゴリ]
①英単語内の文字単位の復元(挿入・削除・置換)
②非単語(通常の単語でない)英字綴り内の文字単位の復元(挿入・削除・置換)
③文字ケースの復元
④英単語単位の復元(挿入・削除・置換)
⑤非単語英字綴り単位の復元(挿入・削除・置換)
⑥記号類の復元
⑦数字列の復元
⑧書式(改行や空自)の復元
⑨括弧類の対応関係の復元
⑩全角(2バイト)文字から半角(1バイト)文字への復元
(2)使用機材等
・デスクトップ型パソコン(WindowsXPこ109キーボード、外部スピーカ)
・点字ディスプレイ装置BN-46D
・スクリーンリーダPC-Talker
・点字出力機能つきテキストエディタEB (筆者とニュー・プレイル・システム(樵)と
の共同開発ソフト)
(3)実験実施上の要点
・実験は被験者ごと個別に行った。
・被験者が、実験開始時点において、使用機器の換作に習熟し、原文の詳細(記述内容、
音声出力による読み上げ方、情報処理用点字による表記形式など)を熟知しているよ
う、十分な準備を行った。
・ランダムに配列した30の課題(どの被験者も同じ配列)を、それぞれに定められたア
クセス方法で行わせ、課題ごとの処理時間を計謝するとともに、処理結果を保存した。
課題ごとに、開始から5分経過しても終了しない場合は、途中で打ち切りとした。
・被験者には、実験開始時に、課題ごとの復元箇所の数が2∼4であることは告げたが、
施されている変更のカテゴリなどについては知らせなかった。
3.結果と考察
(1)被験者
実験は被験者4人で行った。
被験者の属性は表−1の通りである。視覚障害の程度は、2人が全盲、2人が光覚であ
る。全員がパソコンを日常的に使用しており、主たるアクセス手段は音声出力であるが、
点字ディスプレイ装置の使用経験もある。程度に差はあるものの、全員がプログラミング
の経験を持つ。点字の使用には習熟しているが、情報処理用点字の使用経験は乏しかった。
(2)読み取りの精度
各被験者の課題ごとの復元結果を、次の方式で採点し、カテゴリ別に、各アクセス方法
での読み取りの精度を比較した。採点結果は、表−2の通りである。この採点方式では、
点数が高いほど読み取りの精度が高いと言える。
・正しく復元ができた箇所については +1点
・変更を見出したが正しく復元できなかった箇所については +0.5点
・変更を見出せなかった箇所については −1点
・変更がなかったのに書き換えてしまった箇所については −1点
採点結果の要点は、以下の通りである。
・「非単語つづり単位の復元」と「全角文字から半角文字への復元」でそれぞれ3人が、
音声出力のみの場合に最も結果が悪かった。
・「非単語つづり内の文字単位の復元」、「記号類の復元」、「書式の復元」でそれぞれ2人
が、音声出力のみの場合に最も結果が悪かった。
・「英単語内の文字単位の復元」で3人が、点字出力のみの場合に最も結果が悪かった。
・「非単語つづり単位の復元」で2人が、点字出力のみの場合に最も結果が良かった。
・「英単語内の文字単位の復元」と「非単語つづり内の文字単位の復元」でそれぞれ3人
が、音声出力と点字出力の併用の場合に最も結果が良かった。
これらのことから、記号類や非単語つづり、書式などを正確に読み取るためや、半角文
字と全角文字の別を正しく読み取るためには、点字出力の利用が有効であることが分かる。
また、単語の識別には音声出力の発音読みが有効であり(全員が音声出力を発音読み状態
に設定)、発音読みがなされないか、もしくは明確でない非単語つづりの読み取りには点字
出力の介在が有効であると言える。両者の併用は、音声出力で概要を先行的に把握し、必
要に応じて点字出力で詳細を確認するという読み方を可能にし、それが英字つづりの変更
の発見にとりわけ役立ったものと考えられる。
(3)処理の能率
処理時間の計測結果は、表−3のとおりである。アクセス方法別の1課題あたり平均処
理時間は、3人が音声出力と点字出力の併用の場合が、情報処理用点字にもっとも不慣れ
な1人は音声出力のみの場合が、もっとも短かった(全員が音声出力を最速に設定)。回を
重ねるにつれての慣れによる能率の向上が若干あったが、課題ごとのアクセス方法は概ね
偏りなく配列されており、平均処理時間の比較には意味があると言える。点字ディスプレ
イ装置のカーソルスイッチの利用が書き換え処理の能率向上に有効であったことが、被験
者からの意見聴取でわかった。
4.結論
実験に用いたテキストデータはやや特殊な内容であったが、得られた結果を一般化する
と、“読み上げや点字表記が適切であれば、単語単位などでの大筋の把握には音声出力の利
用が有効であり、文字単位などの細部の正確な把握には点字出力の利用が有効である”と
の結論に至る。点字ディスプレイ出力の導入は、音声出力との補完的な使い分けをもたら
し、結果としてパソコンへのアクセシビリティを向上させる。
〈参考文献〉
渡辺哲也:『視覚障害者のWindowsパソコンおよびインターネット利用・学習状況』,独立
行政法人国立特殊教育総合研究所,(2003)
表 1 被
験
者
の
属
性
被験者
A
M
S
Y
性別
男
男
男
女
年齢
22 才
17 才
20 才
19 才
視力
両眼
0
右
光覚、左
0
右
光覚 、左
0
両l眼
0
点字使 用歴
16 年
9年
15 年
13 年
情報処理用点字の使用経験
少 し有 り
なし
少し有り
なし
パソコン使用歴
8年
8年
3年
6年
点字ディスプレイの使 用経 験
有り
有り
有り
有り
C のソースコード C を半年
C などを
C を半年
を読んだだけ
約2 年学 習
程度学習
プログラミングの経験
程度学習
24
テキストエディタEB(Edit in Braille)の開発
筑波技術短期大学 長岡 英司
1.はじめに
視覚障害者によるソフトウェア開発はテキストベースで行われる。それゆえ、その作業
過程では、テキストエディタが重要な役割を果たす。EBは、視覚障害者のソフトウェア
開発環境を改善することを主目的に開発されたテキストエディタである。しかし、開発を
進め評価を行ううちに、このソフトウェアが一般的なテキストデータの処理においても十
分に役立つことがわかった。そこで、EBを、単なるソフトウェア開発用のツールではな
く、視覚障害者のための汎用の読み書きツールとして位置づけることとした。EBの開発
における基本的な方針は、点字の有効活用である。本稿では、EBの点字関連機能のあら
ましを紹介する。
2. EBの用途
EB (Edit in Braille)は、その名が示すとおり、 「点字で編集」ができるテキストエ
ディタである。すなわち、このエディタは、墨字(普通の文字)のテキストデータを、 PC
の画面上に通常に表示するとともに、ピンディスプレイ上に実時間で点字表示する。それ
ゆえ、キーボードで入力した墨字をすぐに点字で読み返せるほか、既存のテキストデータ
を点字で詠むこともできる。このエディタの点字表示機能とスクリーンリーダ(画面読み
上げソフト)の音声出力権能を併用すれば、日本語の漢字仮名混じり文をはじめ英文やプ
ログラムリストなどのテキストデータを、能率よく確実に入力・編集・閲覧できるように
なる。 EBは日本語Windowsの各版(98系、 2000、 XP)で使用でき、すべてのWindows
用スクリーンリーダとピンディスプレイ装置に対応している。
3.EBの開発
本ソフトウェアは、筑波技術短期大学教育方法開発センターとニュー・プレイル・シス
テム(株)が共同で開発した。同社は、視覚障害者向け及び点訳者向けのソフトウェアを開
発・販売する専業の会社で、これまでに、点字エディタや点字・墨字相互変換ソフト、点
字表示機能つきスクリーンリーダなどを製品化している。EBの開発では、筑波技術短大
が仕様や機能を提案し、ニュー・プレイル・システムがそれに基づいてソフトウェアを構
築した。また、筑波技術短大によるフィールドテストと評価の結果にしたがって同社がソ
フトウェアのエラー修正や機能の改良を行った。現在では、当初に計画した機能のほとん
どが実現しており、EBは今後、視覚障害者や盲聾者の情報アクセスの改善を図る取り組
みでさまざまに活用される可能性がある。
4.EBの特色
本ソフトウェアには、点字の処理などに関するいくつかの特色がある。その要点を以下
に略述する。
(1)複数の点字体系への対応
点字の実際の使用状況から、EBは複数の点字表記体系に対応しており、点字表示を各
表記体系に適宜切り替えることができる。
(2)適切な点字変換
設定可能な各点字表記体系において、墨字が正しい点字記号に変換される。また、墨字
データに変更が加えられると、点字表示がそれに応じて即座に更新される。そして、点字
変換においては、墨字データに関する情報の反映と点字としての可読性が十分に考慮され
ている。
(3)ピンディスプレイのセル数の違いへの対応
EBは国内で市販されているすべてのピンディスプレイ装置に対応している。ピンディ
スプレイ装置は表示セル数が機種によって異なることから、EBではテキストデータ上の
「点字表示窓」(現在点字で表示されている部分)の長さを自由に設定することができる。
(4)カレットの移動の容易さ
点字表示窓は、PCのキーボードとピンディスプレイ装置の操作キーのどちらからでも、
上下左右に移動させることができる。編集画面上のカレット(現在の注目点を示す縦棒)
は、点字表示窓とともに移動する。また、カレットは、ピンディスプレイ装置のカーソル
スイッチによって、点字表示窓内の任意の位置に自由にジャンプさせることができる。
(5)点字表示と音声出力の併用
EBでは、各スクリーンリーダの読み上げ機能をそのまま利用することができるので、
点字表示と音声出力を併用してテキストデータにアクセスすることが可能である。
(6)点字での印刷
EBは、テキストデータを直接に点字で印刷することができる。
5.EBの機能
本ソフトウェアは、テキストエディタとしての基本的な機能を備えている。その上に、
墨字のテキストデータに点字を介してアクセスできるようにするための機能を具備してい
る。本節では、この点字に関連する機能について、系統的に紹介する。
5.1墨字から点字への変換
点字表示機能や点字印刷機能において出力される点字は、
・変換元の墨字データを正確に読み取れるものであること、
・読みやすい表記であること、
などが求められる。そこで、EBでは、処理するテキストデータの内容に応じて、出力さ
れる点字の表記体系を適宜切り替えられるようにした。選択できる表記体系は、仮名や漢
字に対しては通常の日本語仮名点字、漢点字、六点漢字であり、英数字に対しては英語点
字の1級と2級、日本の情報処理用点字(小文字基本表記、大文字基本表記、ナチュラル
表記)及び北米コンピュータ点字である。これらはいずれも既存の表記体系であり、EB
では簡単なメニュー操作によって瞬時に点字表示の表記体系を切り替えることができる。
(1)点字の表記体系
わが国で用いられている点字の表記体系には、通常の日本語仮名点字、漢点字、六点漢
字、英語点字、情報処理用点字などがある。これらは、表記する内容によって使い分けら
れるほか、漢点字や六点漢字については、使用者の方針や好みで用いられる。以下に、各
表記体系について概説する。
A.仮名点字体系
日本語の表記には、通常は仮名点字体系が用いられる。仮名点字による表記は、発音の
とおりに行うのが原則である。また、読みの能率や精度を高めるために、言葉の区切りを
明らかにする文節分かち書きを行う。表1は、仮名点字体系の点字記号である。以下、仮
名点字体系の要点を示す。
<仮名の表現>
①清音:50音の点字記号は母音(あいうえお)が基本となっており、それに子音の点
が組み合わされて50音になる。
②濁音:清音の前に濁点(‥)をつけて2マスで表す。
③半濁音:清音の前に半濁点(‥)をつけて2マスで表す。
④拗音:清音(あ段、う段、お段)の前に拗音記号(‥)をつけて2マスで表す。
⑨拗濁音:拗音記号と濁点を組み合わせた拗濁音記号(‥)を清音に前置して2マス
で表す。
⑥拗半濁音:拗音記号と半濁点を組み合わせた拗半濁音記号(‥)を清音に前置し
て2マスで表す。
⑦数字:歓待(‥)を前置して表す。
<分かち書きの大原則>
自立語と自立語の間は区切って書き(1マスあけ)、助詞や助動詞などの付属語は前に
続ける。
(表1)仮名点字体系の点字記号
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B.漢点字
漢点字は、故川上泰一氏によって考案された漢字用点字体系である。漢字を、部首に基
づく方法で点字記号化した体系といえる。各漢字は、1マスから3マスの点字で表される。
最初のマスには、6点点字の1の点の上に始点があり、最後のマスには、4の点の上に終
点がある(したがって、1マスの漢字では、始点と終点の両方がある)。このことから、「漢
点字は8点点字」といわれる。第1・第2水準漢字を含む1万4千余の漢字の点字記号が
定められている。
漢点字では、漢字の字形を構成する要素を整理統合し、それぞれのカテゴリを代表する
基本的な漢字を1マス漢字にして、表2のとおりに6点点字の記号を割り当てている。そ
の他の漢字は、原則として1マス漢字の点字記号の組み合わせで表される。
(表2)1マス漢字の6点記号
C.六点漢字
六点漢字は、長谷川貞夫氏によって考案された漢字用点字体系である。漢字を、その読
み(音読みと訓読み)に基づく方法で点字記号化した体系と言える。各漢字は、通常の6
点点字3マスの組み合わせ(例外的に4マスの場合もある)で表される。第1・第2水準
漢字を含む1万2千余の漢字の点字記号が定められている。
漢字の点字記号の構成は、大略以下のとおりである。
① 音符号
最初の2マスの部分を音符号といい、これが漢字の音読みを表す。音読みがない漢字
については、便宜的な音読みが設定されている。
音符号の先頭のマス(1マス目)は、前置符号と呼ばれる。これには、表3にしめす
とおり、音読みの型などを表す8個の点字記号が割り当てられている。
音符号の2マス目は、音読みの先頭の仮名などを表す点字記号である。
(表3) 前置符号
② 識別仮名
音符号のあとに続く最後のマス(3マス目)は、識別仮名と呼ばれる。これは、訓読
みの先頭(または2番目以降)の仮名を表す点字記号、または部首を示す仮名の点字記
号である。この識別仮名によって、同じ音読みを持つ漢字のなかから一つの漢字が特定
される。
(訓読みの識別仮名を用いた例)
山‥‥‥
赤‥‥‥
日‥‥‥
関‥‥‥
記‥‥‥
(部首の識別仮名を用いた例)
宇‥‥‥
誕‥‥‥
借‥‥‥
適‥‥‥
D.英語点字
英語圏の国々で公式に用いられている英語点字には、1級点字と2級点字の二つの体系
がある。1級点字はUncontracted Brailleとも呼ばれ、英字と文章記号(句読点など)、
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及び大文字符・イタリック符などの点字特有の記号で構成されている。2級点字は
Contracted Brailleともよばれ、1級点字に190の略字・略語・縮語を加えたものであ
る。わが国においても、この二つの英語点字体系が用いられている。表4は、英字の点字
記号である。これらは、大文字符の有無によって、大文字にも小文字にもなる。表5は、
2級点字の略語・略字のうちの1マス略語と1マス略字である。
(表4) 英字の点字記号
(表5)1マス略語・1マス略字
E.情報処理用点字
情報処理用点字は、情報交換用符号JISXO201の図形キャラクタで記述される文書(プ
ログラムリストなど)を表記するための点字体系である。この体系では、基本的な文字(英
字・数字・かな)の点字記号は一般の点字とおおむね共通である。しかし、従来の体系と
は異なり、墨字と点字記号が多対1の関係にあることによる意味依存性やあいまい性が、
完全に排除されている。これを実現するために、図形キャラクタに属性を設定して分類し、
そのカテゴリに対応する「状態」を点字側に設けて、それを切り替える点字表記規則を厳
密に定めている。表6は、図形キャラクタの点字記号である。また表7の点字記号は、「状
態」が切り替わる箇所に挿入される「状態変更フラグ」である。この状態変更フラグの出
現頻度を減らせるよう、情報処理用点字では、表記するプログラムリストなどにおける大
文字と小文字の出現状況に応じて、「小文字基本表記」、「大文字基本表記」、「ナチュラル表
記」の三つのサブ体系の中から一つを選択できるようになっている。情報処理用点字によ
って、墨字と点字の完全な相互変換が可能になった。
(表6)図形キャラクタの点字記号
(表7)状態変更フラグ
(2)点字変換
点字への変換は、各表記体系ごとに用意された変換テーブルや変換辞書にしたがって行
われる。このうち、情報処理用点字への変換は、表8の状態遷移表に基づいて行われる。
これ以外の変換テーブルや辞書は、ニュー・プレイル・システム社が既存製品用に開発し
たものを利用した。
(表8) 状態遷移表
(3)点字表示の実時間更新
キーボードでテキストデータに変更を加えると、点字表示は、設定されている表記体系
の規則にしたがって即座に適切に更新される。表9は、情報処理用点字における更新の例
であり、更新の前後の点字表示を示す。
(表9)テキストデータ更新前後の点字表示
61
5.2 点字表示窓
EBの編集画面に表示されているテキストデータの、現在点字で表示されている部分を、
「点字表示窓」とよぶ。
(1)点字表示窓の幅の設定
EBは13機種のピンディスプレイ装置に対応している。それらの装置の点字表示部は、
いずれも1行で、長さは16セルから80セルである(1セルで点字1マスを表示)。EBで
は、ピンディスプレイ装置の点字表示部の長さにあわせて点字表示窓の幅を設定すること
ができる。その目的は、円滑な窓移動操作の実現である。すなわち、窓の幅を適切に設定
することにより、点字表示を「行折り返しあり」の状態にした場合の窓移動操作が容易に
なる。設定は点字のマス数で行い、最大は64マスである。墨字の字数とそれを点字化した
場合のマス数の関係は一定でないことから、窓の幅を墨字の字数で指定することは不可能
であり、窓の幅は字数としてはその都度変化し、画定的ではない。また、窓は、編集画面
上の墨字の複数行にわたることはない。
(2)点字表示窓の移動
点字表示窓は、PCのキーボードとピンディスプレイ装置の操作キーのどちらからでも
移動操僻ができる。
編集画面上のカレット(注目点)を移動させる操作をキーボードで行うと、窓は、カレッ
トに追従して移動する。たとえば、矢印キーの操作や、文字列検索などである。一方、ピ
ンディスプレイ装置の操作キーでも、窓を上下左右に移動させることができ、その場合は、
画面上のカレットもそれに追従して移動する。また、点字表示のモード設定によって、窓
の左右移動の操作の方法を切り替えることができ、これはEBの重要な機能である。墨字
行が窓の幅より長い場合、通常は、
・カレットが窓の左(右)端にある状態でキーボードの左(右)矢印キーを操作すると、
窓は行の端を越えない範囲で窓幅単位に左(右)に移動する。
・キーボードの上(下)矢印キーを操作すると、窓は画面表示の上(下)の行に移動す
る。
・ピンディスプレイ装置の左(右)キーを操作すると、窓は行の端を超えない範囲で窓
幅単位に左(右)に移動する。
・ピンディスプレイ装置の上(下)キーを操作すると、窓は画面表示の上(下)の行に
移動する。
一方、設定を「行折り返しあり」の状態に切り替えると、
・カレットが窓の左(右)端にある状態でキーボードの左(右)矢印キーを操作すると、
窓は窓幅単位で左(右)に移動する。
・キーボードの上(下)矢印キーを操作すると、カレットの位置にかかわらず、窓は窓
62
幅単位で左(右)に移動する。
・ピンディスプレイ装置の左(右)キーを操作すると、窓は行の端を超えない範囲で窓
幅単位に左(右)に移動する。
・ピンディスプレイ装置の上(下)キーでも窓は窓幅単位で左(右)に移動する。
このように、「行折り返しあり」の状態では、画面表示の1行のテキストデータが窓幅ご
との(複数の)点字行に分割され、キーボードの上下矢印キーまたはピンディスプレイ装置
の上下キーだけの操作で、窓をテキストデータ上で連続的に(跳び越す隙間なく)前進・
後退させることができる。
5.3 カレット
編集画面上のカレットは、挿入や削除などの編集操作の対象となる現在の位置(注目点)
を示す縦線記号である。
(1)カレットの点字表現
カレットは、常に点字表示窓内に位置する。その位置は、直後の文字の点字記号に加点
(3の点と6の点のそれぞれ下に位置する2点)を付けることによって示される(漢点字
表示の場合はマス内の8点すべてを凸にする)。その点字記号が複数のマスになる場合は、1
すべてのマスに下点がつく。これによって、墨字と点字の対応関係が明確になり、例えば、
仮名点字体系で表示されている場合に、変換元の墨字が漢字か否かなどが把握できるとい
う副次的な効果がある。また、点字記号に点字特有の前置記号や後置記号が隣接する場合
は、それらにも加点がつけられる。
一方、テキストデータを閲覧する場合などは、カレットの位置情報は不要であり、下点
がないほうが円滑な読み取りができることから、この下点による表示を省略することが可
能である。
(2)カーソルスイッチによるカレットの移動
ピンディスプレイ装置の新しい機種には、カーソルスイッチが装備されている。カーソ
ルスイッチは、使用者が点字表示部の各セルを選択・指定することを可能にする。EBで
は、カーソルスイッチが押下されると、対応するセルに表示されている点字記号の変換元
の墨字の直前にカレットが移動する。点字記号が複数マスの場合には、その記号を表示す
る複数のセルのどのカーソルスイッチでも、同じ結果が得られる。また、点字記号に点字
固有の前置(後置)記号が隣接する場合、前置(後置)記号を表示するセルのカーソルスイッ
チでも、当該点字記号に対応するカーソルスイッチと同じ結果になる。
5.4 音声出力
63
EBでは、各スクリーンリーダの音声出力機能をそのまま利用できるようにしている。
したがって、カレットの移動に伴う行や文字の読み上げ、仮名漢字変換時の候補文字の読
み上げ、アプリケーションメニューの項目やダイアログボックスのコントロールの読み上
げなどが通常通りに行われる。アプリケーションメニューの操作などは、点字表示を触読
して行うよりも音声出力の聴取による方が能率がよいことから、アプリケーションメニュ
ーやダイアログボックスには点字表示は対応していない。点字表示と音声出力はPCへの
アクセスの手段として互いに補完しあうものであり、テキストデータの入力t編集・閲覧
においても二つの併用によって能率と精度が向上する。
5.5 点字印刷
EBは、テキストデータを直接に点字印刷することができる。使用可能な点字プリンタ
は23機種であり、国内で市販されているほとんどすべての機種に対応していることになる。
1行の点字マス数や1ページの行数などのページ書式を設定できるほか、印刷に用いる点
字表記体系を、仮名漢字については通常の日本語仮名点字と六点漢字、英数字については
英語点字(1級、2級)、情報処理用点字(小文字基本表記、大文字基本表記、ナチュラル
表記)及び北米コンピュータ点字の中から選択できる。
6.おわりに
視覚障害者のPCアクセスではこれまで主に音声出力が用いられてきた。これは、テキ
ストデータの処理においても同様である。そのため、ソフトウェアの開発では、ソースプ
ログラムを能率良く作成できない、エラーの発見や修正を円滑に行えない、ドキュメント
を正確に作成できないなどの問題に直面してきた。
EBは、PCの利用場面で重要な部分を占めるテキストデータの処理作業において点字
を活用できるようにすることを目的に開発された。点字は視覚障害者にとって有効なコミ
ュニケーション手段である。音声出力との適切な併用によって、作業の能率と精度が向上
する。EBが、視覚障害者のソフトウェア開発環境を改善するとともに、PCへのアクセ
スにおける点字の活用を促進し、結果として視覚障害者のPC利用の質的向上がもたらさ
れれば幸いである。
<参考・引用文献>
1)『点訳のしおり』,社会福祉法人日本点字図書館.(2003)
2)福井哲也:『初歩から学ぶ英語点訳』,社会福祉法人日本点字図書館,(2003)
3)未田統 他:『川上漢点字』,日本漢点字協会,(2002)
4)『六点漢字ハンドブック』.六点漢字協会,(1994)
5)長岡英司:『情報処理用点字のてぴき』,社会福祉法人視覚障害者支援総合センター.
(1997)
64
表 2 1 マ ス 漢 字 の 6 点 記 号
●一
●−
糸
●●
家
●●
●−
1fr
ロ
−●
●−
黄
●−
●一
一●
●−
●●
−●
●−
●●
●一
木
●●
−●
●●
−●
−●
●●
一
●●
−
草
●●
●一
一●
●●
●●
−●
犬
−●
・
●一
一●
−●
●●
−●
子
●
●●
●
●−
手
ー
●
●●
●一
戸
●●
●−
●−
・
示
一
●●
−
●−
私
●●
●−
●●
●●
●●
●●
玉
ー●
●−
●●
方
目
・
−●
●
●
●●
門
ー●
−●
●
−
店
●一
一●
●・
一
一●
−●
●一
一
●●
−
金
●−
●一
人
●一
●−
●一
水
●●
●−
‘ 力
●−
●●
走
●−
●−
●●
進
●●
●●
女
●一
一●
●●
石
●
●−
●
●●
耳
●●
−
●●
●
車
−●
●−
病
−●
●●
行
●’
−
−●
月
性
−●
●●
●●
●一
一●
都
田
市
竹
●−
●●
分
●●
−●
●−
●−
系
●●
学
一●
ー●
比
ー●
−●
肉
●一
●●
日
●●
ー●
発
土
食
馬
●●
●●
ロ
ー●
●●
十
●●
●−
請
−●
●−
貝
数
・●
−
一
・
●
仁
氷
心
●●
●●
囲
ー●
−●
−●
−●
・
−
●●
●
宿
止
表 3 前 置 符号
前 置 符号
関係
ー
・
●
−
−●
●
2 音 節 日 が 「ン 」に な る 文 字
●●
ー●
2 音 節 目 が 「キ 」ま た は 「ク 」に な る 文 字
●一
一●
−●
ー●
2 音 節 目 が 「チ 」ま た は 「ツ J に な る 文 字
−●
−●
・
単音節の文字
2 音 節 目 が 「イ 」ま た は 「ウ 」に な る 文 字
拗 音 に な る文 字
−●
・
−●
漢 数 字 を表 す 符 合
●
●●
−
4 マス漢 字 を表す 符号
66
火
表 4 英字の点字記号
a .− b :
= c ●
● d !
: e !
;
f ;! g ;
; h ;; ● i! j i;
k 日: l i≡ m 日日 n 日蔓 0 日
至
p i: q …蔓 r ii s i: t i蔓
∪ :旨 V …三 W 至
… x :日 y 日…
2 ●
;−
;
表 5 1 マ ス 略 語
・1 マ ス 略 字
1 マ ス 略 語
b ut
●−
●−
C an
g°
●●
●●
●●
●−
細●
●−
●一
●●
●●
of
c h iId
m O re
SO
it
●●
do
●●
一●
●一
一●
f om
●●
●−
haV e
●・
−
●●
just
ー●
●●
k n o w le d g e
●−
●・
−
・
題
ik e
●−
●−
●−
no t
●●
−一
●
●
P e °P le
●●
●−
●−
q u ite
●●
●●
●−
ra th e r
●−
●●
●−
th a t
−●
●●
●−
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●・
−
・
●−
●●
●●
●−
●●
W m
−
・
●
●
●
ー●
●●
●●
●●
yO u
●●
ー
●●
●
aS
●・
−
●●
●●
th e
・●
−
●−
●●
th is
●●
−●
ー●
w ith
−・
●
●●
●●
●一
一●
O ut
●−
●●
−●
・
Sh 8“
●●
−●
S t=
−●
・
●・
−
eVe n /
●−
・
^
●●
●・
一
一
●●
●
V e lY
an d
b r
.w h ic h
●一
一●
−●
1 マ ス 略 字
and
●●
●−
●●
b r
●●
●●
●●
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●−
●●
●●
the
ー●
●−
●●
W ith
・
−●
●●
●●
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●一
一●
・
●●
●一
一●
l●
・
−
●●
−
gh
●−
●一
一●
●●
●●
ー●
Sh
●●
−●
●−
●●
−●
th
●●
−●
−●
−●
●一
一●
W h
●一
一●
・
−●
ー●
●−
−●
●●
b le
ed
8r
in g
er
°u
ー●
−
●●
●
67
OL
St
視覚障害者によるJavaプログラミング
筑波技術短期大学
長岡 英司
<要旨>
重度の視覚障害を持つ学生に点字教材を使ってJava言語を学習させ、プログラ
ミングを行わせた。プログラミング環境には、スクリーンリーダの音声読み上げ
に加えて、点字ディスプレイ出力を導入した。その結果、重度の視覚障害者もテ
キストベースのプログラミング環境でならインターネット関連の初歩的なプログ
ラムを作成できること、その過程で点字の活用が効果的であることが明らかにな
った。
<キーワード>
重度視覚障害、Java言語、プログラミング、点字、インターネット
1.はじめに
視覚障害者によるコンピュータプログラミングがわが国で本格的に行われるようになっ
たのは、今から約30年前である。1972年に、社会福祉法人日本ライトハウスが、諸外国
の状況を参考に、職業訓練として視覚障害プログラマーの養成を始めた。当時はまだパソ
コンはなく、バッチ処理方式の大型コンピュータの下で、COBOLやFORTRANなどの言語を
使ってプログラミングを行う環境であった。
その後、80年代になるとパソコンが登場し、アクセス支援のソフトウェアや周辺機器が
開発・整備されて、視覚障害者のプログラミング環境は次第に整った。80年代から90年
代にかけて標準的な基本ソフトであったDOSの下で、視覚障害者によるプログラミングは、
主にC言語を用いて盛んに行われた。それによって、情報処理技術者としての就業が進ん
だほか、視覚障害者自身によって有用な支援ソフトが多く開発された。
しかし、90年代半ばから普及した基本ソフトWindowsの下では、視覚障害者がプログラ
ミングを行うことが容易でなくなった。その主因はGUI(Graphical User Interface)で
ある。つまり、プログラミング環境がGUI化し、また、開発するソフトウェアもGUI方式
でなくてはならなくなり、視覚を必要とする度合いが増した結果である。
一方、Windowsの登場で一時期後退を余儀なくされた視覚障害者のパソコン利用は、ス
クリーンリーダの開発と改良によって再び盛んになった。そして、インターネットの普及
が、パソコンの利用をさらに促進した。DOS時代には視覚障害者のパソコン利用の主たる
目的は、墨字(点字ではない一般の文字)を独力で書くことであった。しかし、近年は、イ
ンターネットにアクセスするための端末としての利用が中心となっている。インターネッ
トは、情報へのアクセスの可能性を飛躍的に拡大するという意味で、情報障害者といわれ
てきた視覚障害者にとってとりわけ重要であり、情報化社会に参加するためのライフライ
75
ンともいえる。それゆえ、職業や学業をはじめ日常生活のさまざまな場面で視覚障害者が
より快適かつ確実にインターネットを利用できるようにする必要がある。そのための有用
な支援ソフトやアクセスツールを開発するには、DOSの時代にそうであったように、視覚
障害者自身がプログラミングに関われることが重要である。
このような背景から、視覚障害者がJava言語を用いてプログラミングを行うことの可能
性を検討した。
2.Java言語の利用
Javaは、インターネット環境の下で広く用いられているプログラミング言語である。
(1)Javaの歴史
Javaは、米国のSunMicrosystems杜が1991年に開発を始めたプログラミング言語であ
る。家電品などをネットワークに接続して制御するためのプログラムを開発する言語Oak
をベースに、技術者のJamesGoslingによって設計された。そして1994年ごろから、イン
ターネットのワールドワイドウエブ(LL)で活用されるようになり、その後急速に普及した。
(2日avaの特徴
Javaには以下のような特徴がある。これらによってJavaは高く評価され、広く用いら
れている。
a.インタプリタ型
コンパイルによって生成されるバイトコードが解釈・実行されるインタプリタ形式の言
語であるが、CやC+十と同等の高いパフォーマンスを有する。
b.オブジェクト指向
C++などと同様、オブジェクトベースの効率的なプログラム開発が可能である。
c.簡便性
C++言語と類似の構文であるが、ポインタ機能がないなど、複雑さが排除されている。
また、自動ガーベージ・コレクタ機能があるため、記憶領域の管理が不要である。
d.分散型
プログラムは、ローカルでもネットワーク経由でも実行可能である。また、TCP/IP用
の内蔵ライブラリが用意されている。
e.安定性
コーディングにおいて厳格な型指定が必要な上、コンパイル時と実行時に厳しいエラー
チェックが行われ、バグ原因の早期の検出が可能である。
f.セキュリティ
コンパイル時と実行時にコードやファイルアクセスの厳しいチェックが行われ、安全が
確保される。
76
g.プラットフォーム非依存
作成したプログラムコードは、複数種類のプラットフォームでそのまま動作する。再コ
ンパイルも必要ない。
h.移植性
他の言語と異なり、処理系に依存しない。
i.マルチスレッド
言語レベルでマルチスレッド機能をサポートしている。
(3)Javaの選定理由
Javaは、前述のように、CやC++などの利点を備え、同時にそれらの難点のいくつかが
解消された、使いやすい言語である。実際Javaでは、従来の言語でのプログラミング経験
が生かせるうえ、記憶領域の管理に関する煩雑さなどから開放される。また、機種や基本
ソフト、処理系に依存しないことは重要である。開発したプログラムは、Windowsをはじ
めとするほとんどの基本ソフトや、ネットワーク端末などJavaをサポートしている機器で、
そのまま動作する。さらに、インターネットへの対応が容易なことも大きな魅力である。
用意された機能を利用して、WWWの下でのさまざまな処理を実現することができる。そし
て、視覚障害者にとっての最大の利点は、従来型のコマンドライン方式で開発を行えるこ
とである。
Javaのプログラミングには、Java Developer’sKit(JDK)という開発環境を利用する。
JDKはJavaの開発元のSun Microsystems社が無償で配布している。配布されるコンパイ
ラとインタプリタは、いずれもコマンドラインのキー入力で起動する。また、ライブラリ
も、コマンドラインからアクセスできる。さらに、入出力機能が充実しており、処理結果
を音声や点字に変換しやすいなど、アプリケーションプログラムへのアクセスが容易であ
る。
現在の標準的な基本ソフトはWindowsである。このGUI方式の基本ソフトのもとで、視
覚障害者には確実に利用できる開発醇境がない。そのような状況にあって、Javaが持つ、
一般的には一時代前の古い方式の開発環境は、視覚障害者にとってきわめて貴重である。
言語としての優秀性とともに、この開発環境を持つことが、Javaを利用対象に選定した理
由である。
3.プログラミングの方法
非視覚的な方法でのJavaプログラミングについて概説する。
(1)概要
Windowsの操作やインターネットへのアクセスは、既存のスクリーンリーダの読み上げ
機能や点字変換機能を利用して行う。
77
JDKの操作は、主に音声出力を利用して行う。Windowsには、システムとのやり取りをコ
マンド入力によって行う機能がある。98系までは「DOS窓」、2000以後では「コマンドプ
ロンプト」と呼ばれる機能である。これらのウインドウ内の表示を読み上げさせる方法が
それぞれにあり、その下で、Javaのコンパイラやインタプリタを操作する。
コーディングは、テキストベースで行い、ソースコードの入力や編集・修正には、点字
表示機能付テキストエディタを用いる。
コンパイラからのメッセージやアプリケーションプログラムからの出力は、スクリーン
リーダの読み上げ機能やテキストエディタの点字表示機能を活用して読み取る。
(2)コーディング
ソースコードの入力と編集・修正には、そのために開発した、点字表示機能付テキスト
エディタEBを用いる。EBにはテキストデータを情報処理用点字でリアルタイムに表示す
る機能がある。また、既存のスクリーンリーダの音声読み上げ機能との併用が可能である。
音声による読み上げと情報処理用点字によるディスプレイ表示を併用することにより、ソ
ースコードの迅速で正確な入力や編集・修正が可能になる。
(3)コンパイルとデバッグ
Windows95及び98系が備えている「DOS窓」の読み上げには、専用ソフトウェアのVDM100F
を用いる。これは、PC−Talkerなどのスクリーンリーダの下で動作する。
一方、Windows2000とXPの「コマンドプロンプト」は、PC−Talkerなどの下で動作する
「コマンドプロンプトビューア」が読み上げる。また、XPの「コマンドプロンプト」につ
いては、スクリーンリーダJAWSの読み上げ機能も有効である。
コンパイラからのエラーメッセージなどはこれらの音声読み上げを利用して読みとるこ
とができる。しかし、エラーの件数が多い場合など、大量の出力に対しては、音声読み上
げでは対応しにくい。また、出力内容によっては、細部まで正確に理解できない場合があ
る。そのような場合は、出力を点字に変換して読み取る。ただし、スクリーンリーダの点
字出力は情報処理用点字に対応していないため、出力をファイルに保存し、それをテキス
トエディタEBの点字表示機能を使って読む。
(4)実行
アプリケーションプログラムは、コマンドラインでインタプリタを起動して実行する。
コマンドラインは音声読み上げがサポートしており、この換作には全く問題はない。
一方、アプリケーションプログラムからの出力については、以下の通りである。
・標準出力には、前述の音声読み上げや点字変換で対応することができる。
・処理結果をファイル出力させ、実行終了後に、その出力ファイルを音声や点字に変換
する方法もある。
78
また、アプリケーションプログラムからの入力要求や問い合わせ、そしてそれらに対す
る応答などは、原則として標準入出力を用いて行う。
(5)アプレットの作成と実行
Javaアプレットは、独立型プログラムと同様の方法で作成する。その動作確認は、テス
ト用のプログラムやApplet Viewerを使って行うが、現状ではアプレットからの出力を音声
や点字に変換することはできない。
4.視覚障害学生によるプログラミング
Java言語の学習とプログラミングを視覚障害者に行わせる実験を実施した。被験者は、
重度の視覚障害を持つ学生2名である。
(1)プログラミング環境
2名の被験者のプログラミング環境は以下の通りである。
コンピュータ:デスクトップ型パソコン(日本語109キーボード、液晶モニタ、外付け
スピーカ)
点字ディスプレイ端末:BN−46D
基本ソフト:WindowsXP
スクリーンリーダ:PC−Talkerおよびコマンドプロンプトビューア
Java処理系:JDK1.3.1
テキストエディタ:EB(Editin Braille)
(2)事例1
a.被験者
事例1の被験者は、筑波技術短期大学(以下「本学」)情報処理学科3年生のA(21歳)
である。Aは幼児期からの全盲で、盲学校入学時(6歳)から点字を使用している。高校
生のときにパソコンを使い始め、本学入学後にWindowsを本格的に学習した。普段はスク
リーンリーダの読み上げ機能を用いてWindowsを操作しており、本実験で使用したスクリ
ーンリーダにも措通していた。システムの設定、各種アプリケーションの利用、インター
ネットでの情報の収集や発信などに非常に習熟している。プログラミングについては、本
学の授業でC書語の基礎を学習した。
b.プログラミング実験
Javaの学習は、入門用の市販図書を本実験のために点訳して作成した点字書の、主にサ
ンプルプログラムを参照する方法で、基礎的な部分から段階的に進めた。情報処理用点字
の使用経験があったため、サンプルプログラムの読み取りには全く問題はなく、理解も確
79
実にできた。また、JDKと班の使用法は、実際にそれらを換作することによって習得し、
短時間でプログラミング環境を理解した。
その結果、ファイル処理プログラムや、インターネットにアクセスして基本的なデータ
をやり取りする初歩的なプログラムなどを、独力で作成できるようになった。
(3)事例2
a.被験者
事例2の被験者は、本学情報処理学科2年生のB(20歳)である。Bは、3歳のときか
ら右目の視力0、左目の視力0.01の障害状況にあり、小学1年(6歳)から点字を使って
いる。パソコンは、中学1年(12歳)の時に練習を始めた。現在はWindowsの操作に習熟
し、スクリーンリーダの読み上げ機能を使って、アプリケーションソフトやインターネッ
トを日常的に利用している。プログラミングについては、本学の授業でCとrubyを学習し、
簡単なプログラムを作成した経験がある。
b.プログラミング実験
Javaの学習は、Aと同じ点字書を使い、サンプルプログラムを理解してから類似のプロ
グラムを作成する課題を行うという方法で進めた。また、Javaのプログラミング環境で用
いたスクリーンリーダが、ふだんBが使用しているものとは異なる種類であったため、そ
の使用法の学習が必要であった。JdkとEBについては、実際の換作を繰り返すことで学習
した。
その結果、ファイルの処理やインターネットへのアクセスを行う初歩的なプログラムを、
独力で作成できるようになった。
(4)考察
被験者2名は、パソコンの使用やWindowsの操作に十分に慣れているうえ、わずかなが
らプログラミング経験があったため、短時間でJava言語の基礎を理解し、実際のプログラ
ミングを行えるようになった。
テキストベースのプログラミングでは、プログラミング環境とのインタフェースとして
テキストエディタが重要な役割を果たす。そのテキストエディタに点字表示機能を付加し
たことにより、音声読み上げだけの場合の非能率や不確実さが解消できた。音声読み上げ
と点字ディスプレイ出力を併用することにより、プログラムの正確なコーディングや、メ
ッセージ類の迅速で確実な読み取りなどが可能になった。
本実験により、重度の視覚障害者も、テキストベースのプログラミング環境においてな
ら、点字を活用して比較的能率よく、インターネット関連の初歩的なプログラムを作成で
きることが明らかになった。
80
5.今後の課題
Javaで作成したアプリケーションプログラムからの出力のうち、標準出力については、
音声や点字で対応できる。しかし、図形的な方式の出力への非視覚的な対応は、現在まだ
困難である。スクリーンリーダの改良や触覚図形提示装置の導入などによってこの間題の
解決を図る必要がある。
一方、コーディングやデバッグの過程に点字を導入し、能率が向上したが、視覚による
プログラミングとの能率の格差はまだ極めて大きい。コンパイラ、デバッガ、エディタ、
コーディング支援ツールなどを点字・音声機能の下で統合した、視覚障害者用プログラミ
ング支援システムの開発が、今後必要である。
さらに、インターネット上に流通する様々な形態の情報に視覚障害者が対応できるよう
にすることも重要である。そのために、マルチメディアへのアクセスを支援する方法を、
早急に確立する必要がある。
6.おわりに
適切な点訳による点字教材を用意すれば、重度の視覚障害者もJava言語を習得できる。
また、テキストベースのプログラミング環境でなら、インターネット関連の初歩的なプロ
グラムの作成が可能である。その際、点字の導入が、能率や精度の向上をもたらす。こう
した事実を基盤として、今後さらなる可能性を追求する必要がある。
<参考文献>
l)Sun Microsystems,Inc.:Javaプログラミング講座,株式会社アスキー(2000)
2)北山洋幸:Javaによるはじめてのインターネットプログラミング,株式会社技術評論社
(2002)
81
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