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身近に潜む細菌
身近に潜む細菌 研究者名 指導教諭 清水将行 長戸勝彦 中村昂平 林健三郎 伊藤広昭先生 1.研究の動機 自分たちの身の回りにどれくらい細菌がいるのか興味を持ち、身近な環境に潜んでいる 細菌や、自分たちの手や口に潜む細菌について研究してみようと思いました。 日常使っている石鹸で、CM などで見られるような洗浄や殺菌の効果がもたらされてい るのかにも興味を持ち、手洗いの効果や歯磨きの効果についても研究してみました。 2.研究の概要 実験 A 身近な環境に潜む細菌の数 ・ 環境の違いによる細菌の数の変化 ・ 時間帯の違いによる細菌の数の変化 実験 B 手に潜む細菌の数 ・ 素手の細菌 ・ 手洗いの効果、薬用石鹸、手術などに用いられる消毒液の塩化ベンザ ルコニュウムや一般消毒液、アルコールを使用した後の細菌の数の比 較 実験 C 口腔内に潜む細菌 ・ 洗浄前の口腔内の細菌 ・ 洗浄後の口腔内の細菌、水での歯磨き、歯磨き粉を使っての歯磨き、 口内洗浄液、うがい薬を使用した後の細菌の数の比較 3.研究の方法(概要) 実験 A いろいろな場所に時間を決めて寒天培地をおき、細菌を採取した。その寒天 培地を約35℃~40℃の温度で一日培養し、細菌の数を数えた。 実験 B 主に手の人差し指、中指、薬指の細菌を、素手、水洗い、石鹸<薬用石鹸>、 消毒液<塩化ベンザルコニュウムや一般消毒液>、アルコールを使用した 後に分けてそれぞれ採取し、実験 A と同様に培地を培養し、細菌の数を数 えた。 実験 C 人の歯(前歯、奥歯)の細菌を、洗浄前と歯磨き(歯磨き粉なし)、歯磨き (歯磨き粉あり)、口内洗浄液、うがい薬で洗浄後に分けて、それぞれ綿棒 で採取し、実験 A と同様に培地を培養し、細菌の数を数えた。 11-1 すべての実験で栄研化学株式会社の環境微生物検査用ぺたんチェック25<標準寒天 培地>を使用した。この培地では、嫌気性細菌以外のほとんどの細菌が培養できる。 4.実験内容 ≪実験 A 身近な環境に潜む細菌の数≫ 実験方法 いろいろな場所に時間を決めて寒天培地をおき、細菌を採取した。その寒 天培地を約35℃~40℃の温度で一日培養し、細菌の数を数えた。 実験 A‐1 どのくらい培地を部屋の空気にさらせば、測定ができるか知るために、1秒、 30 秒、1 分、10 分、30 分、1 時間空気にさらした。 ・2‐4教室…人のいない放課後の教室(二度実施) ・男子バスケット部室…放課後の男子バスケット部室 ・体育館…部活中の体育館 実験 A-1 の結果(培地当り) 1秒 2‐4教室 10分 30分 0 1 1時間 5 男バス部室 12 体育館 47 2‐4教室 50 45 40 35 30 6 4 2‐4教室 2 分 1時 間 30 分 10 1秒 2‐4教室 男バス部室 体育館 25 20 15 10 5 0 0 2 30分 ・1 秒から 10 分程度では、ほとんど細菌の数が増えず、30 分ほど空気にさらすと細菌 の増加が見られた。そこで、それ以降の実験では、30 分間培地を空気にさらして細 菌を採取することにした。 ・人のあまりいない放課後の教室より、人のたくさんいる体育館の方が多くの細菌が 付着する。 実験 A‐2 日中、人がいる教室で30分間に寒天培地に落下する細菌の数を調べる。 調査場所…2‐4教室中心付近の机の上 11-2 実験 A‐2の結果(培地当り) 7:50~8:20 10:30~11:00 12:25~12:55 6 8 12 2‐4教室 2‐4教室 14 12 10 8 6 4 2 0 2‐4教室 7:50~8:20 10:30~11:00 12:25~12:55 ・人が活発に活動する昼休みの方が朝や、授業中の教室より多く細菌が浮遊している。 実験A‐3 学校のトイレの細菌の数を調べる。 実験A‐3の結果 手すり 295/培地あたり 蛇口 101/培地あたり 細菌の数 350 300 250 200 細菌の数 150 100 50 0 手すり 蛇口 ・トイレは予想通り非常に汚かった。 11-3 ≪実験 B 手に潜む細菌≫ 私達の生活の中でもっとも身近である手に着目し、洗浄や殺菌するために普段行ってい る手洗いや薬用石鹸、ほかにも強力な消毒液を使用してそれらの効果を考える。 実験方法 細菌が増える人工的な栄養環境(培地・・・ペタンチェック使用)を必要な数だけ準備し、 いろいろな状態の手(→調査内容へ)を準備する。微生物の数が違うと予測される自分達の 手を培地にふれて、その培地を恒温器の中で保温する。手に細菌がついていた場合細菌の 集合体(コロニー)が形成されるので、その数を数える。 疑問と仮説 自分たちの生活の中では手を洗えばきれいになる、石鹸をつけて洗えばなおきれいにな る、というのはあたりまえであるけれど、はたして本当なのか。 実験①(予備実験) 素手の細菌、水洗い、石鹸洗いの効果 実験①―A 水洗いなしの素手 ①―B 水洗い ①―C 石鹸を使用しての水洗い 実験①の結果(培地当り) 被験者 1 被験者 2 被験者 3 実験①-A 62 15 17 実験①-B 23 11 実験①-C 94 極多 被験者 4 101 水洗いをしたら、素手のときより細菌が予想通り少なくなったが、石鹸を使用して手洗 いをしたら、驚くことに細菌が増えてしまった。実験中に手についた水気を取るためにテ ィッシュを使ったこと、石鹸洗いのときの時間が10秒程度でしかなかったこと、そもそ も使用した石鹸が汚染されていたのではないかということを仮定して、次の実験②を行っ た。 実験② ティッシュについている細菌、石鹸などの手洗い時間の効果 実験②―A ティッシュ ②―B 薬用石鹸を使用しての水洗い(2分) ②―C 薬用石鹸を使用しての水洗い(4分) 11-4 ②―D 一般消毒液(4 分) ②―E 塩化ベンザルコニュウム液(4 分) ②―F アルコール 実験②の結果(培地当り) 実験②ーA ティシュ 細菌の数 0 被験者1 被験者 2 被験者 3 実験②ーB 石鹸水洗い(2分) 900 392 実験②ーC 石鹸水洗い(4分) 852 547 実験②ーD 一般消毒液(4分) 実験②ーE 塩化ベンザルコニュウム液 実験②ーF アルコール 被験者 4 220 13 1 実験②について 10 00 9 00 8 00 7 00 6 00 被験者1 被験者2 被験者3 被験者4 5 00 4 00 3 00 2 00 1 00 11-5 実 験 ② ー F 実 験 ② ー E D 実 験 ② ー C 実 験 ② ー 実 験 ② ー B 0 実験②‐B 被験者 3 石鹸水洗い(2 分) 細菌の数 392 実験②‐C 被験者 3 石鹸水洗い(4 分) 細菌の数 547 実験②‐D 被験者 3 一般消毒液 細菌の数 220 実験②‐B 被験者 2 石鹸水洗い(2 分) 細菌の数 900 実験②‐E 被験者 2 塩化ベンザルコニュウム 細菌の数 11-6 13 結果と考察 ②―A ティッシュからの細菌の付着は見られなかったため、手を拭いたティッシュに は問題はないということがわかった。 ②―B、C 洗う時間を増やしてみたが、細菌の数はほとんど変わらないか人によって は減少どころか増えてしまうという結果になった。 ②―D 一般消毒液は、石鹸を使った水洗いよりは少なかったが、やはりなぜか水洗い より増加するという結果になった。 ②―E 塩化ベンザルコニュウム…ほとんど死滅させていた。 ②―F アルコール…塩化ベンザルコニュウムよりさらに少なかった。 実験①と②を通して、素手と比べたら、水洗いや消毒液には、細菌を減らす効果がみら れた。水洗いはすでに付着した細菌を洗い流したので細菌数が減少し、消毒液では細菌を 殺菌したので減少したと推察した。 では、なぜ石鹸を使用したときは細菌が増えてしまったのであろうか? インターネットの文献によれば、石鹸で洗った後に細菌が増えてしまうことがあるのは、 石鹸で洗うことによって手の表面の汚れ(石鹸によって洗浄される油汚れなど)に隠れて いた細菌が浮き出てきてしまうからだということだ。 したがって、私たちが普段細菌を洗浄するために行っていると思っている石鹸手洗いは、 油汚れなどは洗浄するが細菌の洗浄にはあまり効果がないようだ。効果的に殺菌するため には、石鹸洗いのあとにさらに消毒液洗いが必要であると予想される。また、消毒液がな いときは、石鹸洗いの後に、ていねいに水洗いをすることが効果的ではなかろうか。 この実験については後日実施する予定である。 ≪ 実験 C 口腔内に潜む細菌について ≫ 疑問と仮説 ① 口の中にいったいどれくらいの細菌がいるのか、またどんな種類の細菌がいるのか。 ② 歯を磨くことにより口の中の細菌の数に変化が見られるか。また、歯磨き時に歯磨き 粉や口内洗浄液、またうがい薬を使った場合、その数に変化が見られるか。 口腔内には300種類以上の細菌が住み着いており、歯垢 1 グラムには 1 億個もの細菌 がいると言われている。主に生息している菌はミュータンス菌、歯周病菌、連鎖球菌等。 虫歯や歯周病などの原因である(インターネットより) 。それらの多くの細菌は、歯磨き や消毒液で減少させることができるだろう。 実験C-1 口腔内で、歯の部位によって違いが出るか調べるため、前歯の裏表、奥歯の裏表の細菌 を左右、上下と分け綿棒で採取し、寒天培地で培養した。 11-7 実験C-2 1、4 人全員の上の前歯の表と、左奥歯の裏の細菌を綿棒で採取し培地に軽くなすりつけ た。 2、2人は3分間水だけで歯磨きし、同じ部位の細菌を採取した。 3、その後、歯磨き粉を使い3分間歯を磨き、同じ部位の細菌を採取した。 4、残りの2人は、口内洗浄液と、うがい薬を使って 30 秒間口をゆすぎ、同じ部位の細 菌を採取した。 それぞれ歯磨きの担当を、ア、イとし、うがい薬の担当をウ、口内洗浄液の担当をエと した。 実験C-1 の結果 (培地当り) 左奥歯 前歯 右奥歯 表 10 表 50 表 3 裏 10 裏 20 裏 4 表 4 表 12 表 2 裏 1 裏 3 裏 1 上 下 実験C-1 25 コロニーの数 20 15 左奥歯 前歯 右奥歯 10 5 0 表 裏 表 上 裏 下 口内細菌を培養してみると、空気中の浮遊細菌や体表についている細菌のコロニーとそ の形状、色、大きさが大変違うものが含まれていた。口内細菌のコロニーは、コロニーが とても小さく、色は薄く、密集していて、べたっとした感じで数えられないものが多かっ た。そこで、ここでは、体表に付着している細菌に類似の比較的コロニーが大きくなり、 11-8 数えやすい細菌のコロニーの数を比較した。 前歯の表が圧倒的に多かった。だが先に述べたように、この数は目に見えるまでの大き さになったコロニーの数を数えたのみで、必ずしも口腔内に存在する細菌の総数とは限ら ない。 実験 C-2の結果(培地当り) 左奥歯上表 前歯上裏 なし 350 257 水で歯磨き 300 250 歯磨き粉使用 250 150 320 185 水で歯磨き 300 122 歯磨き粉使用 250 120 なし 275 73 251 50 2 回目 245 41 なし 263 181 211 122 200 233 200 156 ア なし イ ウ エ うがい薬 1 回目 口内洗浄液 1 回目 2 回目 エ ウ イ ア 3 回目 なし 水で歯磨き 歯磨き粉使用 なし 水で歯磨き 歯磨き粉使用 なし うがい薬1回目 2回目 なし 口内洗浄液1回目 2回目 3回目 前歯 裏 左奥歯 表 0 100 200 300 400 歯磨き、口内洗浄液、うがい薬などすべて多少の細菌の数の減少は見られたものの、細菌 に対して殺菌効果があるとは言いがたい。また C-1の実験とは違い左奥歯の表のほうが 細菌は多かった。 11-9 考察 細菌の数について、前歯と奥歯で C-1と C-2で結果が異なったが、C-2の結果が 正しかったと思われる。それは、C-1は被験者一人のデータであり、たまたまの結果で あった可能性がある。C-2は被験者 4 人のデータであり、全員が前歯より奥歯の細菌が 多いという結果であった。調べた結果、奥歯はかみ合わせ面が複雑で、また、歯と歯の隙 間がないため、前歯より菌が繁殖しやすいということがわかった。 口内洗浄液、うがい薬で口をすすいだ場合は、調べた結果、両者とも汚れは落とすが、 殺菌成分がほとんど含まれていない、また歯周ポケット(歯と歯茎の間にできた隙間)に 存在する菌にまで成分が届かないらしい。そのため、このような結果になったと思われる。 5.まとめ 実験Aより人の活動している場所には多くの細菌が浮遊しており、実験Bより石鹸は細 菌の洗浄にはほとんど効果がなく、実験Cより歯磨きや口内洗浄液も細菌の洗浄にはほと んど効果がないことがわかった。石鹸などは汚れを落としているだけで殺菌効果はほとん どないようだ。それでもわれわれは健康な生活をしているということから、われわれは実 は細菌と共存しているということかもしれない。本当に殺菌するためには強い消毒液に体 をつけなければならないようだ。僕たちのこれからの生活では、細菌のことをもっと身近 な存在として考え、手洗い、歯磨きの方法を考え直す必要があるだろう。 ・ 6.感想 ・ 思っていたよりも自分たちの口や手など身近には細菌が多くて驚いた。実験結果をまと めるのが大変だったけれど、細菌について追究することができてよかった。(清水) ・ 初めに予想していた結果と違ってしまうことが多くて、調査を進めるのがとても大変だ ったけど、最終的には調査過程で出てきた疑問点を解決することができてよかった。人 間の体は細菌だらけだと思った。(長戸) ・ 最初は何について調べていいかわからず苦戦したが、全員でうまく作業を分担し、まと めも分担したことでひとりひとりの仕事が明確になって、スムーズにできた。(林) ・ 石鹸で洗っても細菌の数が減らず、逆に増えたことには驚きだった。自分の知らない世 界を知ることができてよかった。(中村) 7.参考文献 ・ やさしい微生物の基礎知識 井上真由美 オーム社 平成 9 年 3 月発行 ・ http://homepage3.nifty.com/mito-dental/page017.html ・ http://www.kdcnet.ac.jp/college/saikin/index.htm ・ http://www.city.toyohashi.aichi.jp/bu_fukushihoken/hokenjo/seikatsueisei/pdf/tearai .pdf#search='細菌の運び屋にならないために' 11-10