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環境と経済の統合指標による総合評価(PDF:433KB)
第4章 環境と経済の統合指標による総合評価 林 岳 増田清敬(滋賀県立大学) 山本 充(小樽商科大学) 高橋義文(北星学園大学) 1.はじめに 第 2 章 で は LCA 分 析 を 用 い て バ イ オ 燃 料 の GHG 削 減 効 果 を 計 測 し ,第 3 章 で は 産 業 連 関 分 析 を 用 い て バ イ オ 燃 料 の 経 済 波 及 効 果 ,雇 用 へ の 影 響 お よ び CO 2 波 及 効 果 を 定 量 的 に 評価した。これをもって環境面への影響と経済面への影響を評価したことになるが,これ らの影響の大きさを直接比較することはできない。特に第3章の分析で得られた経済波及 効 果 と CO 2 波 及 効 果 の 2 つ の 効 果 は ,バ イ オ 燃 料 の 効 果 の 中 で も 地 域 経 済 と 地 域 環 境 へ の 影響を計測したマクロ的な視点からの評価と言える。バイオ燃料の普及導入にはより高い 環境負荷削減効果とより高い地域経済効果の双方を達成することが求められるが,これら の効果が別個の手法により評価すると両者の関係を総合的に判断することができない。し たがって,バイオ燃料の総合的な評価を行うためには環境面と経済面の総合的指標を構築 し評価することが必要である。 そこで,本章ではバイオ燃料の環境面と経済面の影響の双方を統合するための指標を提 示し,これを用いて前章までに評価したバイオ燃料の効果を統合し,環境面と経済面の双 方を考慮したバイオ燃料の総合的評価を行う。 環境面と経済面を統合した総合的指標にはさまざまなものが提案されている。例えばエ コ ロ ジ カ ル・フ ッ ト プ リ ン ト や グ リ ー ン GDP,エ ネ ル ギ ー 効 率 ,環 境 効 率 指 標 な ど が 挙 げ られる。このうち環境効率指標とは環境負荷1単位あたりの生産額,付加価値額などを計 測する指標で,これを計測することで一定量の環境負荷排出によりどのくらいの生産額や 付加価値,利益を得ることができるかを見ることができる。本章ではこれらの総合的指標 のうち,環境効率指標を適用し,本稿のこれまでの分析で得られた結果を利用できるよう に改良し,環境面と経済面の双方を考慮したバイオ燃料生産の総合的評価を行う。以降, 第2節において既存研究を整理した後,第3節でバイオ燃料生産の環境指標として第2章 で 得 ら れ た 結 果 を 用 い て GHG 効 率 を 計 測 す る 。 続 い て 第 4 節 で は 第 3 章 の 分 析 で 得 ら れ た結果をもとに地域全体での環境効率を計測することを試みる。そして,第5節では環境 勘定体系を用いたバイオ燃料に関する指標の体系的な整理手法を提示する。 93 2.バイオ燃料の総合的指標の既存研究 バ イ オ 燃 料 の 諸 効 果 を 1 つ の 総 合 的 指 標 に よ っ て 評 価 し た 先 行 研 究 と し て は Hu et al. (2004)が 挙 げ ら れ る 。 Hu et al. (2004)は バ イ オ 燃 料 の LCA 分 析 を ベ ー ス に 経 済 面 , 環 境 面,エネルギー面の3側面を総合的に評価する指標を提示している。この研究では中国広 西 県 に お い て 通 常 の ガ ソ リ ン を 使 用 し た 車 両 と キ ャ ッ サ バ 原 料 の E85 を 使 用 し た 車 両 を 20 万 km 走 行 さ せ た 場 合 を 想 定 し , LCA 分 析 に よ っ て 得 ら れ た エ ネ ル ギ ー 消 費 お よ び 環 境負荷排出量に原料生産から車両の廃棄までにかかる総費用を組み込んだ新たな指標 ( EEE 指 標 ) を 構 築 し て い る 。 EEE 指 標 は 以 下 の 式 で 表 さ れ る 。 ⎡C ⎤ EEE = ⎢⎢ Env ⎥⎥[α C α Env α En ] ⎢⎣ En ⎥⎦ (1) こ こ で , C は ラ イ フ サ イ ク ル コ ス ト ( 総 費 用 ), Env は 環 境 負 荷 排 出 量 , En は エ ネ ル ギ ー 消 費 量 で , Env と En に つ い て は LCA 分 析 に よ っ て 計 測 さ れ た 各 種 環 境 負 荷 お よ び エ ネ ル ギ ー を ウ ェ イ ト 付 け し て 集 計 し た も の で あ る 。 α C , α Env , α En は そ れ ぞ れ 総 費 用 , 環 境 負 荷 排 出 量 ,エ ネ ル ギ ー 消 費 量 の ウ ェ イ ト で あ る 。し た が っ て ,EEE は 総 費 用 ,環 境 負 荷 排 出量,エネルギー消費量のウェイト付けした集計値となり,この指標が小さければ小さい ほ ど バ イ オ 燃 料 の 総 合 的 パ フ ォ ー マ ン ス が 高 い こ と を 表 す 。Hu et al. (2004)で は ガ ソ リ ン 使 用 車 に 比 べ , E85 使 用 車 の EEE 指 標 が 29%低 く な る と い う 結 果 を 導 き , こ こ か ら 費 用 面,環境面,エネルギー消費面の3側面を総合的に考慮した場合,バイオ燃料の導入は中 国において持続可能な輸送用燃料の発展に貢献するとの結論を導いている。 Hu et al. (2004)は バ イ オ 燃 料 の 個 別 の 指 標 を 統 合 し た 新 た な 総 合 的 指 標 を 提 示 し た 点 で先駆的な研究といえよう。しかしながら,この研究では以下の2つの点が問題点として 挙 げ ら れ る 。 第 1 に α C , α Env , α En の 設 定 が 恣 意 的 で あ る 点 で あ る 。 Hu et al. (2004)で は α C を 1.0, α Env を 0.6, α En を 0.8 と 設 定 し て お り ,こ の 数 値 設 定 の 理 由 と し て 広 西 県 は 開 発途上地域であり経済性がもっとも重視され,環境側面はそれほど重要ではないことを挙 げ て い る 。 し か し な が ら , な ぜ 環 境 面 が 費 用 面 の 3/5 の ウ ェ イ ト に な る の か と い っ た 明 確 な説明はなされていない点に問題がある。第2の問題点として,費用面がミクロ的な費用 と し て 取 り 扱 わ れ マ ク ロ 的 な 費 用 を 考 慮 し て い な い 点 で あ る 。す な わ ち 費 用 面 が 1km あ た りの金額で算出され,そこに考慮されている費用項目が広西県全体としてどのくらいの費 用負担になるのかといったマクロ的な考察がなされていない点である。 94 3 . GHG 効 率 の 計 測 に よ る バ イ オ 燃 料 の 評 価 ( 1 ) GHG 効 率 の 定 義 本 節 で は Hu et al. (2004)の 問 題 点 を 解 決 す る た め 指 標 に 以 下 の 2 点 の 改 良 を 加 え た 。 第1に費用,環境負荷排出量,エネルギー消費量の3項目だった評価視点を経済面と環境 面 の 2 つ に 絞 っ た 点 で あ る 。 第 2 章 で 紹 介 し た LCA 分 析 で は , エ ネ ル ギ ー 消 費 と し て 重 油,軽油,ガソリンといった化石燃料のほか,電力エネルギーや一部バイオマスエネルギ ーの投入を考慮しているが,バイオマスエネルギーを除いたいずれの燃料もエネルギー消 費量に環境負荷排出原単位を乗じて環境負荷排出量を計算している。したがって,エネル ギー消費量と環境負荷排出量の間には相関関係が存在する。このことから,本節ではエネ ル ギ ー 消 費 量 と 環 境 負 荷 排 出 量 を 1 つ の 指 標 と し て ま と め る こ と と し た 。第 2 に ウ ェ イ ト 付けの恣意性の問題を解決するため,経済指標と環境指標の比を取った効率指標を新たな 統 合 指 標 と し た 。こ こ で は 一 般 的 な 環 境 効 率 の 定 義 に 従 い ,E3 製 造 の み を 対 象 と し た と き に 発 生 す る 環 境 負 荷 と そ の 生 産 額 か ら 環 境 効 率 を 求 め る 。 i 財 の 一 般 的 な 環 境 効 率 Ei の 定 義 は , E i を i 財 生 産 に 伴 う 環 境 負 荷 量 , Vi を i 財 の 付 加 価 値 額 と し て 以 下 の 式 で 表 さ れ る (1)。 EEi = Vi (2) Ei 環 境 効 率 で は E i の 計 測 に つ い て も ,ラ イ フ サ イ ク ル で は な く プ ラ ン ト 内 に お け る 環 境 負 荷 の み を 計 測 対 象 と す る こ と が 一 般 的 で あ る 。 し か し な が ら , 本 分 析 で は LCA 分 析 を 既 に 実施していること,環境負荷の計測はプラント内に限定すべきものではなくライフサイク ルで適切であると考えられることから,ここで適用する環境負荷には第2章で計測した LCA 分 析 に よ る GHG 排 出 量 を 取 り 上 げ る 。 一 方 , 経 済 指 標 は E3 の 付 加 価 値 額 を 採 用 す る 。本 節 で の GHG 効 率 は GHG E 3 を E3 製 造 に 伴 う GHG 排 出 量( LCA ベ ー ス ), V E 3 を E3 の付加価値額として以下の式で定義される。 GHGE E 3 = VE 3 GHG E 3 (3) 同 様 の 定 義 で ,ガ ソ リ ン に つ い て も GHG 排 出 量 を 分 母 に ,付 加 価 値 額 を 分 子 に 取 っ た GHG 効 率 を 定 義 し , E3 と ガ ソ リ ン の GHG 効 率 性 の 比 較 を 行 う 。 この定義に従った環境指標に類似する指標として,第3章での分析の際に用いたバイオ 燃 料 部 門 の CO 2 排 出 原 単 位 が 挙 げ ら れ る 。CO 2 排 出 原 単 位 は バ イ オ 燃 料 の 生 産 額 百 万 円 あ 95 た り の CO 2 排 出 量 で 定 義 さ れ る が , 本 節 で 定 義 す る GHG 効 率 と は 以 下 の 点 が 異 な る 。 最 も 重 要 な 相 違 点 は 計 測 対 象 と な る GHG の 範 囲 の 違 い で あ る 。 CO 2 排 出 原 単 位 は バ イ オ 燃 料 の 原 料 生 産 か ら バ イ オ 燃 料 自 体 の 製 造 ま で の CO 2 を 計 測 対 象 と し て い る の に 対 し ,GHG 効 率 は LCA 分 析 を 基 礎 と し て い る た め ,生 産 さ れ た 燃 料 の 輸 送 や 消 費 に 伴 う GHG 排 出 も 計 測 対 象 と し て い る 。 ま た , CO 2 排 出 原 単 位 は 産 業 連 関 表 を 基 礎 と し て い る た め , 国 内 に お け る CO 2 排 出 の み を 対 象 と し て お り , 域 外 に お け る 原 材 料 生 産 に 伴 う GHG 排 出 , す な わ ち 原 材 料 の 移 輸 入 に 伴 う 環 境 負 荷 は 考 慮 さ れ て い な い 。 GHG 効 率 は 原 材 料 の 生 産 地 域 がどこであるかに関わらず,生産から消費まで一貫して計測対象としていることから, CO 2 排 出 原 単 位 は GHG 効 率 よ り も 対 象 と す る 範 囲 が 狭 い と 言 え る 。 第 1 表 に は CO 2 排 出 原 単 位 と GHG 効 率 の 計 測 対 象 範 囲 の 違 い が ま と め ら れ て い る 。 こ の こ と は バ イ オ エ タ ノ ールのように原材料を域内で調達する場合にはそれほど大きな問題とはならないが,例え ば ガ ソ リ ン の 場 合 は 海 外 の 油 田 で の 原 油 採 掘 時 に お け る CO 2 排 出 や 燃 焼 時 に 大 半 の CO 2 排 出 が 含 ま れ な い た め ,CO 2 排 出 原 単 位 は 過 小 評 価 に な る こ と を 意 味 す る ( 2 ) 。こ の ほ か CO 2 排 出 原 単 位 は GHG の う ち CO 2 だ け を 対 象 と し て い る が ,本 分 析 で の GHG 効 率 は CO 2 の ほ か , N2O も 計 測 対 象 と し て い る 。 第1表 CO2排出原単位とGHG効率の計測対象 CO2排出原単位 GHG効率 原料生産 原料生産 製品製造 (域外) (域内) ○ ○ ○ ○ ○ 消費 計測対象GHG ○ CO2のみ CO2,N2O 注 ○印は計測対象であることを示す. 次に,生産額と付加価値額の違いと指標の分母・分子が入れ替わっている点が相違点と し て 挙 げ ら れ る 。 CO 2 排 出 原 単 位 は 産 業 連 関 表 か ら 求 め ら れ る 粗 生 産 額 を 基 準 と し て い る が GHG 効 率 は 付 加 価 値 額 を 経 済 指 標 に 採 用 し て い る 。 さ ら に , CO 2 排 出 原 単 位 は 生 産 額 百 万 円 あ た り の CO 2 排 出 量 で あ り 分 母 に 経 済 指 標 ,分 子 に 環 境 指 標 が く る の に 対 し ,一 般 的な環境効率は環境負荷単位あたりの環境負荷量で定義され分母が環境指標,分子が経済 指 標 と , CO 2 排 出 原 単 位 と は 指 標 の 分 母 と 分 子 が 逆 と な る 。 こ の よ う に , 本 分 析 で 定 義 す る GHG 効 率 は CO 2 排 出 原 単 位 と は い く つ か の 点 で 異 な る 指標である。以下の計測結果は上記の相違点を踏まえて解釈願いたい。 ( 2 ) GHG 効 率 の 計 測 前 述 の と お り , 本 分 析 で 定 義 す る GHG 効 率 に は 指 標 の 分 母 と な る 環 境 指 標 と し て 第 2 章 の LCA 分 析 か ら 得 ら れ た GHG 排 出 量 を 採 用 す る 。 第 2 章 で 示 し た と お り LCA 分 析 の 96 結 果 ,十 勝 地 方 の バ イ オ エ タ ノ ー ル 生 産 に よ り 発 生 す る GHG は 62.7kg-CO 2 /GJ-fuel と な っ て お り , こ の 値 は 原 料 生 産 か ら 燃 料 消 費 ま で の 各 段 階 に お け る GHG 排 出 量 の 合 計 で あ る 。 し か し な が ら , 本 分 析 で 対 象 と す る の は E3 の GHG 効 率 で あ り , バ イ オ エ タ ノ ー ル の ほ か , 混 合 さ れ る ガ ソ リ ン の GHG 排 出 量 ( ラ イ フ サ イ ク ル ベ ー ス ) が 必 要 と な る 。 そ こ で ,第 2 章 で 比 較 対 象 と し た 船 崎 ・ 種 田( 1999)か ら ガ ソ リ ン の ラ イ フ サ イ ク ル ベ ー ス の GHG 排 出 量 を 引 用 し ,第 2 章 の 分 析 結 果 と 合 わ せ て E3 の GHG 排 出 量 を 算 出 す る( 第 2 表 )。 第2表 E3のライフサイクルGHG排出量の推計 バイオ エタノール 数量(KL) 10,490 熱量(GJ) 247,221 熱量単位あたりGHG排出量(t-CO2/GJ-fuel) 0.0627 ライフサイクルGHG排出量(t-CO2) 15,505 E3用 E3 ガソリン (合計) 339,178 349,668 11,736,052 11,983,272 0.0738 -- 865,814 881,318 出所:船崎・種田(1999),本稿第2章. 一方経済指標について,一般的な環境効率では付加価値額のほか生産量や生産額を経済 指標として分子に取ることがあるが,本節では産業連関表から算出される付加価値額を経 済 指 標 と し て 採 用 す る 。 付 加 価 値 額 を 採 用 す る 理 由 は , 付 加 価 値 額 が GDP と い っ た マ ク ロ経済指標に関連しており,この後の第4節の分析にも関連するためである。まず,バイ オ 燃 料 部 門 す な わ ち E3 の 域 内 生 産 額 は 第 3 章 第 4 節 に お け る 分 析 か ら 356 億 円 と 推 計 さ れ て お り (3), こ の 金 額 を ベ ー ス に 付 加 価 値 額 を 推 計 す る 。 第 3 章 第 4 節 で 用 い た 北 海 道 表 か ら バ イ オ 燃 料 部 門 の 付 加 価 値 率 を 適 用 し ,E3 の 域 内 生 産 額 に 付 加 価 値 率 を 乗 じ る こ と で E3 の 付 加 価 値 額 を 算 出 す る ( 第 3 表 )。 以 上 ,E3 の GHG 排 出 量 と 付 加 価 値 額 の 算 出 方 法 を 解 説 し た が ,こ れ と 同 様 の 方 法 に よ り , ガ ソ リ ン の GHG 排 出 量 と 付 加 価 値 額 も 算 出 し , E3 と の 比 較 を 行 う 。 第3表 E3の付加価値額の推計 E3の生産額(百万円) バイオ燃料部門の付加価値率 E3の付加価値額(百万円) 出所:本稿第3章. 注 数値はE3 34万9,668KLあたり. 97 35,597 0.566 20,132 (3)計測結果 第 4 表 に は E3 と ガ ソ リ ン の 生 産 に 伴 う GHG 効 率 の 計 測 結 果 が 示 さ れ て い る 。 こ れ を 見 る と , E3 の GHG 効 率 は 22,843 円 /t-CO 2 , 一 方 で ガ ソ リ ン の そ れ は 15,667 円 /t-CO 2 と な っ て お り ,E3 の ほ う が ガ ソ リ ン を 上 回 る 結 果 と な っ た 。こ れ は E3 の ほ う が ガ ソ リ ン よ り も よ り 少 な い GHG 排 出 で よ り 多 く の 付 加 価 値 を も た ら す こ と を 意 味 し , 経 済 面 と 環 境 面 の 双 方 を 考 慮 し た 総 合 的 指 標 で は ,E3 の ほ う が ガ ソ リ ン よ り も 優 位 で あ る こ と を 示 す ものである。 第4表 GHG効率の計測結果 GHG排出量(t-CO2/1万KL) 付加価値額(百万円/1万KL) GHG効率(円/t-CO2) E3 25,204 576 22,843 ガソリン 25,527 400 15,667 出所:本稿第2章,第3章. 注 ガソリンはE3 1万KLと発熱量等価である9904KLあたりの数値. 上記の結果は十勝地方におけるバイオエタノール生産を一般的な環境効率の定義に従っ て計測したものであり,一事業主体のプラントを中心としたいわばプラントレベルのミク ロ 的 な 効 率 性 評 価 の 結 果 と 言 え る (4)。 し か し な が ら , 第 3 章 で 計 測 し た 経 済 波 及 効 果 の 結 果からも示されるとおり,バイオエタノール生産を開始することによる影響は個々の事業 所レベルには留まらず地域経済に様々な影響をもたらす。したがって,環境効率の評価に ついてもプラントレベルから地域レベルへと拡張した概念により行うことが重要と考える。 次節では環境効率の概念を拡張し地域レベルにおけるバイオエタノール生産の環境効率性 評価を試みる。 4.地域レベルの環境効率による評価 (1)背景と環境効率指標の提示 本節では北海道を対象として十勝地方におけるバイオエタノール生産による環境効率を 地 域 単 位 で 評 価 す る 。 先 の 既 存 研 究 で 紹 介 し た Hu et al. (2004)は , LCA 分 析 か ら 得 ら れ たデータを基礎として用いていることから,本稿前節と同様,プラントレベルをベースと した環境効率を計測していると言える。そこで,本節では地域環境・地域経済への影響を 評価できるように前節で行った2点の改良に加え,さらに経済面の指標をライフサイクル コ ス ト で は な く 産 業 連 関 分 析 か ら 導 か れ る 誘 発 GDP 額 と す る 改 良 を 行 っ た 。 こ れ に よ り プラントレベルでの効果分析ではなくマクロ的な視点からの経済効果の評価が可能となる。 以 上 の よ う な 改 良 を 加 え た 総 合 指 標 と し て CO 2 効 率 を 定 義 し 分 析 に 用 い る ( 5 ) 。具 体 的 に 98 は ,本 分 析 に お け る CO 2 効 率 は CO 2 増 加 量 あ た り の 域 内 誘 発 GDP 額 と 定 義 す る 。す な わ ち , CO 2 効 率 は 1 t の CO 2 排 出 増 加 に よ り ど の く ら い の 経 済 波 及 効 果 が も た ら さ れ る か を 示す値である。 (2)分析シナリオと計測結果 第 3 章 で の 産 業 連 関 分 析 の シ ナ リ オ 設 定 と 分 析 に よ り 求 め ら れ た 経 済 波 及 効 果 と CO 2 波及効果の計測結果はそれぞれ第5表,第6表にまとめられている。また,経済波及効果 と CO 2 波 及 効 果 か ら 求 め ら れ る CO 2 効 率 も 第 6 表 に 示 さ れ て い る 。 こ れ を 見 る と , E3 の CO 2 効 率 は E3 で 31 万 3,400 円 /t-CO 2 ,ガ ソ リ ン の 場 合 で 13 万 2,000 円 /t-CO 2 で あ り , E3 の ほ う が ガ ソ リ ン よ り も CO 2 効 率 が 2 倍 以 上 高 い こ と が 示 さ れ た 。 第5表 分析シナリオの設定値 E3 E3販売量(KL) 発熱量換算値(GJ) 販売額(百万円) ガソリン販売量(KL) 発熱量換算値(GJ) 販売額(百万円) 0 0 0 9,904 342,704 908 ガソリン 10,000 342,704 917 0 0 0 第6表 経済波及効果とCO2波及効果および CO2効率の計測結果 CO2波及効果(t-CO2) 誘発GDP額(百万円) CO2効率(円/t-CO2) E3 2,296 720 313,393 ガソリン 1,254 163 130,196 前 節 に お け る GHG 効 率 と 比 較 す る と ,マ ク ロ 的 な 視 点 か ら 環 境 効 率 を 計 測 し た 結 果 E3 のガソリンに対する優位性はより高まっていることがわかる。この点をより深く考察する た め に GHG 効 率 と CO 2 効 率 の 相 違 点 を 整 理 し よ う( 第 7 表 )。ま ず 対 象 と な る GHG の 範 囲 が 異 な り , CO 2 効 率 は CO 2 の み を 計 測 対 象 と し GHG 効 率 は CO 2 の ほ か N 2 O も 計 測 対 象 と し て い る 。第 2 に GHG 効 率 が 第 2 章 で の LCA 分 析 の 結 果 を 基 礎 と し て い る の に 対 し CO 2 効 率 は 第 3 章 の 産 業 連 関 分 析 で 得 ら れ た CO 2 波 及 効 果 を 基 礎 デ ー タ と し て 使 用 し て い る 。 こ れ は GHG 効 率 が プ ラ ン ト レ ベ ル を ベ ー ス と し て , バ イ オ エ タ ノ ー ル の 原 料 生 産 か ら 燃 料 消 費 ま で に GHG を 対 象 と し て い る 一 方 で , CO 2 効 率 は 原 材 料 生 産 か ら バ イ オ エ タ ノ ー ル 生 産 ま で を 対 象 と し て い る 。 こ れ を 見 る と , CO 2 効 率 の ほ う が GHG 効 率 よ り も 対 象 と す る 範 囲 が 狭 く 思 わ れ る か も し れ な い が , CO 2 効 率 は 産 業 連 関 分 析 を 適 用 し て い る こ と か ら GHG 効 率 に 比 べ 原 材 料 生 産 に よ る 影 響 を よ り 広 範 に 捉 え る こ と が で き る の で あ る 。 第 3 に 経 済 指 標 に つ い て GHG 効 率 は 付 加 価 値 額 ,CO 2 効 率 は 誘 発 GDP 額 を 適 用 し て い る 。 国 民 経 済 計 算 の 定 義 と し て は GDP も 付 加 価 値 額 で あ る こ と か ら 本 質 的 に 両 者 は 変 わ ら な い が , CO 2 効 率 の 方 が 地 域 経 済 へ の 影 響 を よ り 広 範 に 網 羅 し て い る 点 が 異 な る 。 こ の よ う に GHG 効 率 と CO 2 効 率 を 比 較 す る と , CO 2 効 率 の 方 が よ り 広 範 な 影 響 を 捉 え る こ と が で き ,こ の こ と か ら も CO 2 効 率 は 環 境 面 と 経 済 面 を 考 慮 し た 統 合 指 標 で あ る と と も に 地 域 へ の包括的な影響を捉える指標と言える。 99 第7表 GHG効率とCO2効率の相違点 GHG効率 CO2,N2O 対象GHG 環境負荷の対象範囲 原料生産から燃料消費まで 原材料生産の後方連関効果 含まない 経済指標 付加価値額 CO2効率 CO2のみ 原料生産からバイオエタノール生産まで 含む 誘発GDP額 第 8 表 に は GHG 効 率 と CO 2 効 率 の 計 測 結 果 が 掲 げ ら れ て い る 。 こ れ を 見 な が ら 両 者 の 比 較 と 結 果 の 違 い の 要 因 を 考 察 す る 。ま ず 効 率 指 標 の 数 値 で 見 る と ,GHG 効 率 よ り も CO 2 効 率 の ほ う が は る か に 大 き な 値 と な っ て い る 。 こ れ は 前 述 の と お り CO 2 効 率 の 方 が GHG 効 率 よ り も 経 済 指 標 の 計 測 対 象 範 囲 が 広 い こ と が 影 響 し て い る と 考 え ら れ る 。E3 と ガ ソ リ ン の GHG 効 率 ま た は CO 2 効 率 の 比 を 見 る と , GHG 効 率 よ り も CO 2 効 率 の ほ う が 値 が 大 き く GHG 効 率 よ り も CO 2 効 率 の ほ う が E3 の 優 位 性 が 高 ま っ て い る こ と が わ か る 。 こ れ は マ ク ロ 的 な 評 価 を 行 う こ と に よ っ て プ ラ ン ト レ ベ ル で の 評 価 に 比 べ E3 の 優 位 性 が 高 ま る こ と を 示 し て い る 。こ の よ う な 結 果 が も た ら さ れ る CO 2 効 率 の 推 計 に 用 い た 経 済 波 及 効 果 の 大 き さ の 違 い に よ る も の と 推 察 さ れ ,E3 が 地 域 経 済 に 与 え る 影 響 が 大 き い た め と 考 え ら れ る 。こ の よ う な こ と か ら も 本 分 析 に お け る CO 2 効 率 は 単 純 に プ ラ ン ト レ ベ ル の 環 境 効 率では把握できない地域への影響を考慮しており,それにより環境効率の評価が大きく変 わることが明らかとなった。 第8表 GHG効率とCO2効率 (円/t-CO2) E3 ガソリン E3/ガソリン GHG効率 22,843 15,667 1.46 CO2効率 313,393 130,196 2.41 以上,本分析での結果をまとめると,環境面と経済面の双方を考慮する指標を適用して 評 価 し た 結 果 , プ ラ ン ト レ ベ ル の GHG 効 率 , 地 域 レ ベ ル の CO 2 効 率 と も に E3 の ほ う が ガ ソ リ ン に 比 べ 優 位 な 状 況 に あ る こ と が 示 さ れ た 。E3 の 環 境 効 率 が 高 い こ と は E3 が ガ ソ リンに比べ環境負荷の発生を抑制しながらより高い経済的影響をもたらすことを示すもの で あ る 。 し か し な が ら , 本 分 析 で の 環 境 効 率 で は GHG の み を 取 り 上 げ て 計 測 し て い る た め,他の環境負荷の動向は把握できない。したがって,同様の効率指標の計測を他の環境 負荷についても行うことが望ましい。また,環境面と経済面の総合的指標は環境効率指標 に限られるものではなく,ほかにも多くの指標が提唱されている。次章では環境指標以外 の総合的影響評価手法について解説する。 5.バイオ燃料評価のためのハイブリッド型環境勘定の構築 100 (1)はじめに 前節までの分析では産業連関分析の結果から環境効率を推計し,バイオエタノール生産 の環境面・経済面への影響を総合的に評価してきたが,環境指標の算定の基礎となる環境 面 の 影 響 を 捉 え る 手 法 に は LCA 分 析 や 産 業 連 関 分 析 に よ る CO 2 波 及 効 果 以 外 に も い く つ か の手 法 が 考 えら れ る 。そ の 1 つ の 手法 と し て マテ リ ア ル フロ ー 分 析 が挙 げ ら れ ,こ れ は 経済活動および人間活動によって地球上の物質がどのように動いているのかを把握する分 析手法である。これをバイオエタノール生産に適用することでバイオエタノール生産の導 入により発生する環境負荷物質を含めたあらゆる物質の動きの変化を把握することができ, 環境への複合的な影響を評価することができる。さらに,これを経済活動とリンクさせる ことにより複合的環境影響のほか経済指標との関連も分析でき,環境経済指標による総合 的な評価も可能となる。そして,このようなマテリアルフローと経済指標を統合するため に は そ の 情 報 基 盤 と し て 環 境 勘 定 を 作 成 す る こ と が 有 効 で あ り (6), 上 記 の 目 的 を 達 成 す る 環境勘定の構築には既存のハイブリッド型環境勘定を援用することができる。 そこで,本節ではバイオ燃料による複合的な環境影響を評価することを念頭に置き,ハ イブリッド型環境勘定を援用して環境経済指標による総合的指標の構築を目指して経済シ ステムへの物質の投入産出をマテリアルフロー勘定として明示する環境勘定フレームワー クを検討することを目的とする。このような環境勘定の構築により,経済システム内で流 動する物質量や再生・中間処理による廃棄物の減量化の状況など経済システムの物質使用 量の実態が明確化するため,資源生産性や環境効率性などの環境経済指標も導出でき物理 的次元での持続可能性をより適切なかたちで評価できるものと考えられる。さらには物理 的次元の情報に基づいた環境政策の立案に貢献できると考えられる。 (2)ハイブリッド型環境勘定とマテリアルフロー 地球の環境中において物質は様々な形態で存在し常にその賦存形態は変化している。た だし,物質は全体として増加も減少もしない。これは地球が宇宙に対して物質的に閉じた シ ス テ ム で あ る か ら で あ る ( 7 ) 。ゆ え に 地 球 上 の 環 境 中 に 賦 存 す る 物 質 量 は 常 に 一 定 で あ り , 例えば人工資本の蓄積は一方で自然資本の減耗(=量的減少)となる。 しかしながら,人工資本の維持には一定の自然資本の投入が不可欠なため,経済システ ムを恒常的に維持するためには環境との間で資源・エネルギーの交換が必要である。した がって,これに必要な資源・エネルギー量は経済システムの総自然資本投入量を規定する と言える。このことから考えると,この総自然資本投入量が環境の自然資本再生力の範囲 内に収まっていることが環境を持続可能な水準に維持するために必要な条件となる。それ ゆえ,経済システムの持続可能性を評価するためには自然資本投入量,人工資本量などの 物量情報すなわちマテリアルフローを把握することが必要で,その前段階として環境との 101 間でやりとりされる資源・エネルギー量を計測することが重要となる。 このような物量情報を把握するための手法の開発研究はこれまでも多数行われてきた。 日 本 で の 研 究 と し て は ,例 え ば 森 口 ・ 橋 本( 2006)は 日 本 を 中 心 と し た 世 界 の マ テ リ ア ル フローを推計しており,これをもとに環境省では日本のマテリアルフローを毎年公表して い る( 環 境 省 総 合 環 境 政 策 局( 2008))。ま た ,マ テ リ ア ル フ ロ ー 分 析 の 適 用 事 例 と し て 天 野 他( 2001)は マ テ リ ア ル フ ロ ー 分 析 か ら 全 国 都 道 府 県 ご と の 総 合 的 地 域 循 環 指 標 を 推 計 し て い る 。一 方 ,マ テ リ ア ル フ ロ ー 情 報 を 提 供 す る ツ ー ル と し て は 日 本 総 合 研 究 所( 2004) が環境勘定という形で日本国内のマテリアルフローを把握するための情報提供ツールを開 発 し て い る 。日 本 総 合 研 究 所( 2004)で 開 発 さ れ た 環 境 勘 定 は ハ イ ブ リ ッ ド 型 環 境 勘 定 と 呼 ば れ (8), 経 済 活 動 と マ テ リ ア ル フ ロ ー の 双 方 を 1 つ の フ レ ー ム ワ ー ク 上 で 把 握 す る こ と ができる有用なツールとなっている。 し か し な が ら ,こ の ハ イ ブ リ ッ ド 型 環 境 勘 定 で は 環 境 勘 定( EA)部 分 で 記 載 さ れ て い る 物量情報は経済システムから環境へ排出される汚染物質と環境から経済システムへ取り込 まれる資源・エネルギーに関するものである。すなわち,環境と経済システムの間で交換 される資源・エネルギーについては明示的に取り扱われている一方で,財の生産量や消費 量といった経済システム内部で流動する物質や固定資本形成や在庫増加といった経済シス テム内部で蓄積された物質量については明示的に取り扱われていない。前述のとおり経済 システムで持続的に財を生み出し経済システムを維持するためには環境からの資源・エネ ルギーの投入が必要である。したがって,経済システムが持続可能な水準に維持されてい るか否かを判断するためにはハイブリッド型環境勘定において経済システム内部で流動す る物質量と環境から取り入れる物質量の関係を分析し,経済システムの維持に必要な資 源・エネルギー投入量を適切に把握することが必要である。そして,このような経済シス テム内部の物質情報の提供をできる環境勘定フレームワークを構築することは経済システ ムの物質的制約を明示する意味においても意義あるものと考えられる。また,経済システ ム内部に流動する物質量と環境から取り入れる物質量を記載した環境勘定システムでは, マテリアルフローと環境負荷の関係についても明示することが可能となるので物質消費を 抑制する情報提供も可能となると考えられる。 (3)ハイブリッド型環境勘定の修正 それでは経済システム内部に流動する物質量を捉えられるような環境勘定システムをど の よ う に 構 築 す べ き だ ろ う か 。環 境 省 総 合 環 境 政 策 局( 2008)の マ テ リ ア ル フ ロ ー を 見 る とこの中での評価項目は第9表のとおりである。このうちハイブリッド型環境勘定での評 価項目に計上されていないのは製品,輸出量,中間処理による減量などの8項目で,これ らの項目のマテリアルフローは自然還元を除いて経済システム内部における物質流動と考 えることができる。この経済システム内部における物質流動は経済システム内部における 102 物 質 消 費 と 関 連 し て お り , 環 境 勘 定 を 含 む 国 民 会 計 行 列 ( NAMEA) に お け る 国 民 会 計 行 列( NAM)と の 関 連 が 強 い た め ,ハ イ ブ リ ッ ド 型 環 境 勘 定 に お い て は NAM と の 関 連 性 を 明 確 に 表 示 す る 必 要 が あ る 。 そ こ で , 本 分 析 で は 新 た に NAM の 縁 辺 部 に 環 境 勘 定 ( EA) との間にこれらのマテリアルフロー情報を計上する勘定であるマテリアルフロー勘定を挿 入して新たなフレームワークを構築する。第1図にはその大まかなフレームワークが示さ れている。この図の中で新たに追加された部分はアルファベットの E と F の部分である。 E の部分には経済活動の結果生み出される製品,輸移出財,廃棄物などが計上され,F の 部分には経済活動のために投入される原材料物質,エネルギーおよび天然資源,輸移入財 などが計上される。 第9表 マテリアルフロー分析の評価項目 投 入 産 出 海外資源(輸入) 天然資源 製品※ 国内資源 天然資源 再生資源 輸出※ 廃棄物 中間処理による減量※ 最終処分 自然還元※ 再生利用 エネルギー消費 総エネルギー消費量※ エネルギー消費に伴う環境負荷 食料消費 総食料消費量※ 食料消費に伴う廃棄物 経済内への蓄積 耐久消費財※ 固定資本形成※ 出所:環境省(2008). 注 ※はハイブリッド型環境勘定で評価されない項目である. 103 貨幣表示 海 外 勘 定 マテリアルフロー勘定 物的産出フロー 廃棄物 蓄 中 自 積 輸 間 然 純 出 処 還 増 理 元 E 環境勘定(EA) 物質勘定 環 環境テーマ勘 境 テ汚 自 土 汚 自 土 蓄 染 然 地 染 然 地 積 マ物 資 利 物 資 利 勘 へ質 産 用 質 源 用 定 のの の の の の の 影環 変 変 排 増 増 響境 化 化 出 加 加 C ー 国民会計行列(NAM) 勘所 定資 財貨サービス・ 定得 本 生産・消費勘定 調 支 達 出 勘 ー 総物質投入量 物 総天然資源等投入量 フ 的 物量表示 ロ 輸入 A 投 F エネルギー消費 入 物量表示 総食料消費 汚染物質の処理 自然資源の投入 B 土地利用の減少 A:国内および海外部門による国内環境への負荷と,国内部門による海外自然資源の復元 B:国内環境から国内および海外部門へのフローと,輸入による海外自然資源の減少 C:国内環境への蓄積と海外自然資源の変化 D:環境問題別の影響度 E:経済活動による物的産出フロー F:経済活動による物的投入フロー D 第1図 マテリアルフロー勘定を導入したハイブリッド型環境勘定フレームワーク 第1図をもとに,より詳細な勘定体系としたものが第2図である。これを用いて本研究 で 提 唱 す る フ レ ー ム ワ ー ク の 特 徴 を 解 説 す る 。 ま ず , NAM の 構 造 は 既 存 の ハ イ ブ リ ッ ド 型 環 境 勘 定 と 同 様 で あ り こ の 中 で 経 済 活 動 に 関 す る 指 標 を 貨 幣 評 価 で 表 示 す る 。 NAM の 周辺には経済活動の結果生じるマテリアルフローを記述するマテリアルフロー勘定が配置 され,経済から環境へ移行される物質のほか経済活動内部で流動する物質も記述される。 NAM の 左 側 に は 物 的 産 出 フ ロ ー が 配 置 さ れ , 経 済 活 動 に よ っ て 生 み 出 さ れ る 物 質 を 記 述 する。具体的には経済内部に流動する物質を廃物と財に分け,さらに廃物は廃棄物と環境 負荷物質,財は域内取引と域外取引に分けている。一方の表側項目は物的投入フローで, 経済活動に投入される物質を記述する部分である。こちらは廃棄物と財に分けられ財は域 内取引と域外取引に二分される。例えば生産や消費といった経済活動によって生み出され る 財 は A の 部 分 に 記 述 さ れ ,こ の う ち 輸 移 出 と し て 域 外 に 流 出 す る 分 に つ い て は B に 記 載 さ れ る 。 そ し て , 域 内 に と ど ま る 財 は 過 去 か ら の 蓄 積 で あ る 期 首 ス ト ッ ク C, 在 庫 ス ト ッ ク 増 減 D と 合 わ せ て そ の 一 部 が 経 済 活 動 に 投 入 さ れ る こ と に な り , NAM 下 部 の 物 的 投 入 フ ロ ー の E へ と 移 項 し ,残 り は 期 末 ス ト ッ ク F へ 計 上 さ れ る 。さ ら に ,経 済 活 動 に 投 入 さ れ る 物 質 E は 域 外 か ら 輸 移 入 さ れ る 物 質 量 G と 合 わ せ ,経 済 活 動 に 投 入 さ れ る 財 の 総 量 が 計算される仕組みである。 104 財貨 生産活動 最終消費 所得発生 サービス (活動別) (目的別) (付加価値項 (種類別) 目別) 1 2 3 4 期首ストック(種類別) OA 財貨・サービス(種類別) 1 生産活動(活動別) 2 最終消費(目的別) 3 所得発生(付加価値項目別) 4 輸入品に課 生産への純間 される税・関 接税の支払い 税等の支払 統計上の 不突合 7 8a 社会資本(種類別) 8b 廃棄 物 その他 8c 経常取引 9 資本取引 10 a 輸移出 固定資本減耗 各種税の 受取 国民純所得 d a' d' C 総生産量 A 在庫ストック増減 D 輸移出 b 域外からの 雇用者報酬 域外からの 財産所得と 経常移転 所得・富に課され る計上税の支払 純貯蓄 純資本形 成 域外からの 資本移転 域外への雇用 域外への財産所 者報酬 得と経常移転 輸移入 経常対外 収支 域外に対する 債権の変動 c 再生利用または中間処理 蓄 積 純 減 再生利用・ 中間処理 11 エネルギー 13a 天然資源 13b 食料 13c その他 13d エネルギー 14a 天然資源 14b 食料 14c その他 14d 財投入 EAへ (減量化量・除去量を控除し て) 中間投入財 最終消費 投入 財消費 E 財 ー 域 外 輸移入 期末ストック(種類別) B 廃棄物 廃棄物 環境負荷 環境負荷 発生量 減量化量 発生量 除去量 廃棄物 環境負荷 発生量 発生量 最終消費 6 資本(制度部門別) 総固定資本形成 粗付加価値(要 素費用表示) 税(種類別) 域 外 物 的 投 入 フ ロ 中間消費 最終消費 期首ストック 産出 5 環境保護関連(種類別) 物的産出フロー 財 廃物 廃棄物 環境負荷 域内取引 域外取引 発生量 減量化量 発生量 除去量 エネルギー 天然資源 食料 その他 エネルギー 天然資源 食料 その他 11a 11b 12a 12b 13a 13b 13c 13d 14a 14b 14c 14d 期首ストック 所得の分配・使用(制度部門別) 非 金 融 資 産 所得支出勘定 資本調達勘定 域外 非金融資産(種類別) 蓄積活動 所得の分配・使 税 (制度部門 環境保護 社会資本 経常取引 資本取引 用 (種類別) その他 別) (制度部門別) 関連 (種類別) 5 6 7 8a 8b 8c 9 10 中間投入財 最終消費 輸移入 財輸移入 G CA 期末ストック 第2図 マ テ リ ア ル フ ロ ー 勘 定 を 導 入 し た NAMEA フ レ ー ム ワ ー ク ( 詳 細 版 ) 注 マ テ リ ア ル フ ロ ー 勘 定 の 右 お よ び 下 に は 環 境 勘 定 ( EA ) が 付 く が , 図 中 で は ス ペ ー ス の 都 合 上 , EA 部 分 が 割 愛 さ れ て い る . 105 期末ストック F 一 方 ,経 済 活 動 に 伴 い 排 出 さ れ る 廃 棄 物 に つ い て は 物 的 産 出 フ ロ ー 部 分 の a と b の 部 分 に計上される。次に,発生した廃棄物は廃棄物処理業に投入物として投入され処理される ので物的投入フロー部分の c の部分に記述される。そして,廃棄物処理の結果減量化され た 量 は d の 部 分 へ 計 上 し ,最 終 的 に 環 境 中 へ 蓄 積 さ れ る 廃 棄 物 量 と し て 発 生 量 か ら 減 量 化 量 を 控 除 し た 値 が EA へ と 移 項 し 計 上 さ れ る 。 経 済 活 動 に 伴 う 環 境 負 荷 物 質 も 同 様 に 発 生 量 が a’に 計 上 さ れ る が ,廃 棄 物 と 異 な り 環 境 負 荷 物 質 が 廃 棄 物 処 理 業 の 投 入 物 と し て 扱 わ れるものではなく発生と同時に除去まで行われると仮定し,環境負荷物質を物的投入フロ ー に 計 上 す る こ と は 行 わ な い 。 そ の た め , 経 済 活 動 に お け る 発 生 量 か ら そ の ま ま 除 去 量 d’ を 控 除 し た 値 が 環 境 中 へ の 蓄 積 と し て EA に 移 項 し て 計 上 さ れ る 。 こ の よ う な マ テ リ ア ル フ ロ ー の 取 扱 い は 有 吉( 2008)に よ っ て 地 域 版 ハ イ ブ リ ッ ド 環 境 勘定として提唱されているものとほぼ同一のフレームワークとなっているが,有吉のフレ ームワークは廃棄物のフローを記述する目的で構築されているのに対し,本節で提唱する フレームワークは経済システム内に流動する物質全般を捉えることを目的としている点に 相 違 が あ る 。 な お , 第 2 図 は NAM と マ テ リ ア ル フ ロ ー 勘 定 の み 示 さ れ て い る が , マ テ リ ア ル フ ロ ー 勘 定 の 右 側 お よ び 下 側 に 通 常 の ハ イ ブ リ ッ ド 型 環 境 勘 定 と 同 様 の EA が 配 置 さ れ , EA の 部 分 で 経 済 活 動 か ら 環 境 中 へ 蓄 積 さ れ る 物 質 が 集 計 さ れ る 。 (4)ハイブリッド型環境勘定から得られる指標 一般に,環境勘定は経済活動や環境,マテリアルフローに関連した各種統計値を体系的 に整理するためのツールであるため,ハイブリッド型環境勘定を用いて環境分析を行うた めには勘定内で整理された情報を用いて,何らかの指標を作成することが必要となる。例 え ば 日 本 総 合 研 究 所 ( 2004) で は , 環 境 経 済 統 合 勘 定 ( SEEA) か ら 温 室 効 果 , 酸 性 化 な ど5つの環境テーマについてデカップリング指標を算出し,経済成長と環境負荷の増大が 切り離されているか(デカップリングが実現しているか)を判断している。また,山本他 ( 2008) で は 地 域 農 林 業 に NAMEA を 適 用 し , エ コ ロ ジ カ ル ・ フ ッ ト プ リ ン ト ( EF) を 算出して地域における農林業の持続可能性を評価している。このように環境勘定を構築す ることだけでなく環境勘定からどのような指標を推計するかも分析上重要な点であり,こ れは利用する数値や分析の目的によっても変わってくる。本節におけるハイブリッド型環 境勘定ではマテリアルフローを取り入れたことに特徴があることから,これに関連した指 標を推計することで本分析の環境勘定の特徴をさらに強調することができる。 マテリアルフローに関連した指標としては,資源生産性や環境効率指標,デカップリン グ指標などが考えられる。次節ではバイオ燃料を取り上げ,バイオ燃料の資源生産性・環 境効率性を分析することを想定しハイブリッド環境勘定からバイオ燃料の資源生産性もし くは環境効率指標を算出するためのフレームワークの改良点について論じる。 106 (5)バイオエタノール生産導入効果評価のための改良 第 2 章 で は LCA 分 析 に よ り 北 海 道 十 勝 地 方 で 規 格 外 小 麦 を 原 料 と す る バ イ オ エ タ ノ ー ル 生 産 に お い て , ガ ソ リ ン に 比 べ た GHG 削 減 率 が 約 15%に な る と い う 結 果 を 導 出 し た 。 こ の 分 析 か ら は , バ イ オ 燃 料 の GHG 削 減 効 果 を 向 上 さ せ る に は 燃 料 製 造 段 階 の み な ら ず 原 料 生 産 段 階 に お け る GHG 削 減 も 必 要 で あ る こ と も 示 さ れ て い る ( 9 ) 。 こ れ は バ イ オ 燃 料 のサプライチェーンにおける環境負荷削減がバイオ燃料の環境負荷削減に影響することを 意味する。つまり,バイオ燃料の環境負荷削減のためにはバイオ燃料部門だけを見るので は不十分で,サプライチェーンでの環境負荷削減も包括的に評価する必要があることを示 すものである。このように考えるとバイオ燃料の原料生産から消費に至るマテリアルフロ ーの各段階においてどの程度の資源生産性・環境効率性が実現されているかという情報を 引き出す環境勘定フレームワークを構築することが有用である。 ここに着目点を絞るとバイオ燃料のマテリアルフローとそれに関係する経済フローだけ を示す勘定を構築することになり,この場合はバイオ燃料勘定といったものになる。しか し,現状ではバイオ燃料勘定を構築することはデータの利用可能性などから現実的ではな いため,当面の対応としてはバイオ燃料部門をその他の部門と区別して分割表示しバイオ 燃料部門の資源生産性・環境効率性を求めることにしたい。 以上のような背景をもとに改良された勘定フレームワークが第3図である。第3図におい ては,バイオ燃料部門を独立させバイオ燃料生産に関わる数値を明示できるように改良さ れ て い る 。 こ の フ レ ー ム ワ ー ク を も と に 資 源 生 産 性 を 算 出 す る た め に は NAM 中 の 粗 付 加 価 値 と NAM 下 部 分 の マ テ リ ア ル フ ロ ー 勘 定 に あ る バ イ オ 燃 料 生 産 へ の 中 間 投 入 財 量 ( 第 3 図 中 の グ レ ー の 数 値 ) を 使 用 す る 。 ま た , 環 境 効 率 性 を 求 め る た め に は NAM 中 の 粗 付 加 価 値 と NAM 右 側 の マ テ リ ア ル フ ロ ー 勘 定 の 生 産 活 動 に 伴 う 環 境 負 荷 発 生 量 を 用 い れ ば よい。そして,もし仮に財の消費まで含めた環境効率性を算出したければ生産活動に伴う 環 境 負 荷 発 生 量 も 含 め て 計 算 す れ ば よ い 。 さ ら に , NAM の 経 済 指 標 を 介 さ ず と も , 物 質 投入量と廃棄物発生量からは物質投入あたりの廃棄物量などが計測され,投入された物質 がいかに効率的に財へと変換されているかが計測できる。 (6)まとめ 本節ではバイオ燃料による複合的な環境影響を評価することを念頭に置き,ハイブリッ ド型環境勘定を援用して環境経済指標による総合的指標の構築を目指して経済システムへ の物質の投入産出をマテリアルフロー勘定として明示する環境勘定フレームワークを検討 することを目的としてきた。本節で提示した新たな環境勘定フレームワークは経済システ ム内で流動する物質量など経済システムの物質の動きを明確にできるため,資源生産性な どの環境指標も導出でき物理的次元での持続可能性をより適切に評価できるものと考えら れ,こうした物理的次元の情報に基づいた環境政策の立案に貢献できると考えられる。そ 107 財貨 サービス (種類別) バイオ燃 その他 料 1-a 1-b 期首ストック(種類別) OA 財貨・サービス(種類別) 1 生産活動(活動別) 2 最終消費(目的別) 3 所得発生(付加価値項目別) 4 所得の分配・使用(制度部門別) 5 非 金 融 資 産 環境保護関連(種類別) 8a 資本取引 10 域 外 廃棄 物 再生利用または中間処理 エネルギー 天然資源 食料 5 資本調達勘定 域外 非金融資産(種類別) 蓄積活動 税 経常取引 資本取引 (制度部門 環境保護 社会資本 (種類別) その他 別) 関連 (種類別) 6 7 8a 8b 8c 9 10 物的産出フロー 廃物 廃棄物 発生量 バイオ燃 その他 11a-a 11a-b 最終消費 総固定資本形成 最終消費 除去量 バイオ燃 その他 12b-a 12b-b 財 域内取引 域外取引 エネルギー エネルギー 天然資源 食料 その他 天然資源 食料 その他 バイオ燃料 その他 バイオ燃料 その他 13a-a 13a-b 13b 13c 13d 14a-a 14a-b 14b 14c 14d 期首ストック 環境効率性 固定資本減耗 発生量 バイオ燃 その他 12a-a 12a-b 輸移出 廃棄物 発生量 廃棄物 発生量 各種税の 受取 減量化量 バイオ燃 その他 11b-a 11b-b 環境負荷 廃棄物 発生量 廃棄物 発生量 バイオ燃料 総生産量 総生産量 バイオ燃料 在庫ストック 在庫ストック増減 純貯蓄 域外からの 雇用者報酬 域外からの 財産所得と 経常移転 物質投入量あたり廃棄物 量 純資本形 成 域外からの 資本移転 域外への雇 域外への財産所 用者報酬 得と経常移転 輸移入 経常対外 収支 域外に対する 債権の変動 再生利 再生利用・ 用・中間 中間処理 処理 EAへ (減量化量・除去量を控除) 13a 13b バイオ燃 料 13c の投入 その他 13d エネルギー 域 外 14a 天然資源 食料 その他 期末ストック(種類別) 14b バイオ燃 料の輸移 入 14c 輸移出 所得・富に課され る計上税の支払 生産への純間 接税の支払い 資源生産性 11 バイオ燃料 輸移出 環境負荷 環境負荷 環境負荷 環境負荷 環境負荷 環境負荷 除去量 除去量 発生量 発生量 除去量 除去量 環境負荷 環境負荷 発生量 発生量 財投入 バイオ燃料 生産の 中間投入 最終消費 中間投入財 財投入 財消費 投入 輸移入 バイオ燃料 生産の 中間投入 最終消費 中間投入財 財輸移入 財輸移入 の輸移入 財 ー 物 的 投 入 フ ロ 蓄 積 純 減 4 国民純所得 輸入品に課される 税・関税等の支払い 9 3 統計上の不突合 経常取引 2-b 所得の 分配・使用 (制度部門別) 粗付加価値(要 素費用表示) 6 8c 2-a 所得発生 (付加価値 項目別) バイオ燃 料産出額 7 8b その他 中間消費 税(種類別) その他 バイオ燃料 最終消費 (目的別) 期首ストック 資本(制度部門別) 社会資本(種類別) 所得支出勘定 生産活動 (活動別) 14d 期末ストック CA 第3図 期末ストック バイオ燃料導入効果の分析のためのハイブリッド型環境勘定 注 マ テ リ ア ル フ ロ ー 勘 定 の 右 お よ び 下 に は 環 境 勘 定 ( E A ) が 付 く が , 図 中 で は ス ペ ー ス の 都 合 上 , EA 部 分 が 割 愛 さ れ て い る . 108 してこの環境勘定フレームワークをバイオ燃料の評価に適用することによってバイオ燃料 自体の資源生産性や環境効率性の評価ができ,さらにフレームワークを拡張することでバ イオ燃料のサプライチェーンの各段階における資源生産性や環境効率性も評価することが できる。 しかしながら,本節ではフレームワークの概念を解説するに留まっており,これを実際 に推計するためには細かな部門設定やデータ制約への対処などまだ多くの改良の余地が残 されている。これらは残された課題とし,今後実際の推計作業およびフレームワークの拡 張作業を進めながら随時改良していきたい。 6.おわりに 本章ではバイオ燃料の環境負荷削減効果と経済波及効果の双方を統合するための指標を 提示し,これを用いて前章までに評価したバイオ燃料の効果を統合することを目的として き た 。 そ の 結 果 , プ ラ ン ト レ ベ ル の GHG 効 率 , 地 域 レ ベ ル の CO 2 効 率 と も に E3 の ほ う が ガ ソ リ ン に 比 べ 優 位 な 状 況 に あ る こ と が 示 さ れ ,E3 が ガ ソ リ ン に 比 べ 環 境 負 荷 の 発 生 を 抑制しながらより高い経済的影響をもたらすことが示された。さらにマテリアルフロー分 析によりバイオ燃料による複合的な環境影響を評価することを念頭に置き,ハイブリッド 型環境勘定を援用した環境勘定フレームワークを提示した。 バイオ燃料の総合的な評価の方法は決して 1 つに限られるものではなく,これまでも 様々な手法が提示されている。本章で取り扱ったのはそのうちのごく一部であり本章で導 か れ た 結 果 は 必 ず し も 絶 対 的 な も の で は な い が , 環 境 効 率 に お い て E3 が ガ ソ リ ン よ り も 優位であるとの結果はバイオ燃料導入に一定の示唆をもたらすと考える。今後,ここでは 手法を提示するに留まったマテリアルフロー分析による評価やその他の手法を用いて再度 バイオ燃料の評価を行うことでその評価がより確固たるものとなるだろう。これらの事項 は本稿における分析での残された課題となる。 〔注〕 (1) 環境効率の分母には付加価値額のほか,生産量や生産額,利益などが用いられることが ある。 (2) 船 崎・種 田( 1999)に よ る と ,ガ ソ リ ン の 燃 焼 時 に 発 生 す る GHG は ラ イ フ サ イ ク ル 全 体 の GHG 発 生 量 の う ち 89%を 占 め る 。 (3) 十勝地方を対象とした分析と北海道を対象とした分析では使用した産業連関表が異なる た め ,各 部 門 の 付 加 価 値 率 も 異 な る 。本 節 の 分 析 で は ,十 勝 表 が 北 海 道 表 を ベ ー ス に 推 計 さ れ て お り ,よ り 広 い 範 囲 で あ る 北 海 道 表 の 数 値 を 適 用 す る ほ う が デ ー タ の 信 頼 性 が 高 い と 判 断 し ,北 海 道 表 の 付 加 価 値 率 を 適 用 し て 分 析 を 進 め る 。し た が っ て ,バ イ オ 燃 料 部 門 な ど の 域 内 生 産 額 も 北 海 道 表 に 適 用 し た 2003 年 の 数 値 を 採 用 す る 。 109 (4) ここでの「プラントレベル」とは,一事業主体のバイオエタノールプラントを中心とし た ラ イ フ サ イ ク ル を 捉 え て い る と い う こ と を 指 し ,プ ラ ン ト か ら の 環 境 負 荷 の み を 対 象 と しているという意味ではない。 (5) 第 3 節 で は 「 GHG 効 率 」 を 評 価 し た が , 本 節 で は 計 測 対 象 と な る GHG を CO 2 に 限 定 し て い る こ と か ら 「 CO 2 効 率 」 と 呼 ぶ こ と と す る 。 (6) 環 境 問 題 の シ フ ト の 発 生 を 環 境 勘 定 に よ り 明 ら か に し た 研 究 事 例 と し て 林・山 本( 2008) が あ る 。 林 ・ 山 本 ( 2008) で は 農 業 廃 棄 物 勘 定 を 構 築 ・ 推 計 し , 家 畜 ふ ん 尿 の 処 理 に よ り 水 の 環 境 負 荷 が 削 減 さ れ る 一 方 で 大 気 の 環 境 負 荷 は 増 大 し て い る こ と を 示 し ,環 境 問 題 のシフトが発生していることを明らかにしている。 (7) 地球と宇宙との間の物質のやりとりを敢えて挙げるならば,宇宙ロケットや人工衛星の 打 ち 上 げ や そ れ に 伴 う 不 要 物 の 宇 宙 へ の 投 棄 ,月 面 か ら の 物 質 の 採 取 な ど が あ る 。し か し な が ら ,こ れ ら に 物 質 量 は 地 球 の 物 質 量 か ら 比 べ る と 十 分 無 視 で き る も の で あ る と 考 え る 。 (8) 内閣府などは正式には「ハイブリッド型統合勘定」と称しているが,本稿では環境勘定 で あ る こ と を 強 調 す る た め ,「 ハ イ ブ リ ッ ド 型 環 境 勘 定 」 と 呼 ぶ 。 (9) 第 2 章 で は ,規 格 外 小 麦 を 原 料 と し て 十 勝 地 方 で 製 造 さ れ た バ イ オ エ タ ノ ー ル を E3 と し て 北 海 道 内 で 使 用 し た 場 合 ,燃 料 の ラ イ フ サ イ ク ル で 発 生 す る GHG の 98%が 原 料 生 産 段 階と燃料製造段階で発生するという結果が導かれている。 〔引用文献〕 天 野 耕 二 ,戸 辺 勝 俊 ,長 谷 川 聖 洋( 2001)「 日 本 全 国 の 都 道 府 県 に お け る 物 質 循 環 評 価 手 法 に 関 す る 研 究 」 , 『 環 境 シ ス テ ム 研 究 論 文 集 』 29, pp.215-223。 有 吉 範 敏 ( 2008)「 わ が 国 に お け る 環 境 経 済 統 合 勘 定 の 展 開 」,『 環 境 共 生 』 15, pp.55-65。 船 崎 敦 , 種 田 克 典 ( 1999)「 自 動 車 LCA の た め の イ ン ベ ン ト リ 作 成 の 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