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セーターの女性の心
日心第70回大会(2006) 幼児の色彩記憶変容に関する一考察 ノンターゲット色の影響について ○丸山 昌一( 科学技術振興機構 / 日本大学 ) ・ 厳島 行雄( 日本大学 ) key words:幼児・色彩記憶・記憶の変容 便宜的に 3 色ずつの 4 領域に分割した.まず,正解色を中 心として両側の 2 色を合わせた 3 色を一致領域(COA),そ の一致領域を中心として,相対的にブルー・グリーン系を 多く含む側の隣接する 3 色を寒色近接領域(CCA) ,同様に レッド・イエロー系を多く含む側の隣接する 3 色を暖色近 接領域(WCA) ,最後に補色を中心とした両側 2 色を含む 3 色を補色領域(CPA)とした.2 回目の再認テスト(再認フ ェイズ 2)で参加者の回答した色が,その 4 領域の中でどこ にあたるのかをターゲット別にグラフ化したものを Figure 1 に示す.これらのデータを基にターゲットごとのχ2 検定 を行った結果, ‘カーテン’ (χ2(3)=11.6, p<.01) , ‘テーブ ル(クロス) ’(χ2(3)=7.06, p<.10), ‘セーター’ (χ2(3)=14.8, p<.01), ‘コップ’ (χ2(3)=65.33, p<.01),とテーブルを除 く 3 者で有意な回答の偏りが認められた(テーブルは有意 傾向). 50 40 度数(人) 【問題と目的】 筆者らはこれまで幼児(保育園に通う 4 歳児と 6 歳児)を 対象として,事後情報効果による色彩記憶の変容や誘導抵抗 に関する検討を行ってきた(2003 年 日心大会発表,同年 法 と心理学会大会発表).それらの結果は,直後再生時には保育 士による事後情報の影響を顕著に示していた幼児の回答も, 3 日,7 日と保持期間を延長すると,次第に条件間の特性を示 さなくなり,最終的には両年齢群における全ての条件間で事 後情報の効果は消失することがわかった.このような変化は, その一方で正答率の上昇を伴っていないことから,彼らが事 後情報の影響を払拭したのではなく,幼児の記憶表象そのも のが未熟であることに起因する現象であると考えられる. しかしながら,幼児は全ての色彩に関する記憶を失ってい たわけではなく,一部のターゲットに対しては比較的明確な 回答傾向を保持していた.例えば,オリジナル刺激中のスト ーリー上で最も中心的な役割を持つターゲットに関しては, 全ての条件において高い正答率を示した.対して,相対的に 周辺的な刺激であったターゲットの中には,条件にかかわら ず,実際の色とは最も異なる補色が高頻度で回答されるもの もあった. このような回答の偏りには事後情報以外の要因が影響し ている可能性が否定できないため,本報告では,事後情報の 影響が最も希薄になったと考えられる,記銘から 7 日目に取 得した 6 歳児のデータに対し,回答された色彩の選択頻度に ついて再分析を実施した. 【方法】 《参加者》 保育園年長クラスに通う幼児 60 名(男子 31 名, 女子 29 名.年齢の幅は 5:10-6:9). 《材料》 オリジナル刺 激:スライド 13 枚構成で,部屋に入ってきた女性が,机に荷 物を並べるうちにコップを倒して割ってしまうというもの. 《実験計画》 事後情報群(タイプ A vs. タイプ B)と統制 群の,1 要因 3 水準被験者間計画.《手続き》 学習フェイ ズ:子ども達はクラス単位で,プロジェクター呈示されたス ライドを,1 枚につき 5 秒のペースで見る.再認フェイズ 1: 呈示から 3 日後,スライドに映っていた 4 つのターゲットが 何色だったかという再認課題を受ける.その際実験群には,1 名の保育士(サクラ)が同席し,先行して回答を行うが,保 育士の回答は事前の打ち合わせによってすべて決められてお り,4 ターゲットのうち 2 つは正解,残りの 2 つは補色を回 答するようにした(A・B 群間では正解と補色の項目を入れ替 える).再認フェイズ 2:更にその 4 日後,再認フェイズ 1 と同様の再認課題を,子ども単独で実施した.《回答》 子 ども達は後述のカラーサンプルから正しい色を指さし,その 色に割り当てられた番号を言うことによって,多項選択方式 の回答を行う.《カラーサンプル》 日本色研の PCCS に従 い,ターゲット色および同一のトーンを持つ色,全 12 色を選 出し,同じく PCCS の色相環図に従い円環状に配置した. 【結果と考察】 回答の偏りを見るために,回答に用いた 12 色の色環図を CCA COA WCA CMA 30 20 10 0 カーテン テーブル セーター コップ Fig.1 選択した色の領域 Fig. 1 を見ると,ストーリー上で中心的な‘コップ’では 正答率の高さが顕著であり,時間の経過や事後情報の影響 に左右されにくく,比較的記憶に残りやすいターゲットで あったことがわかる.主人公の女性が着ていた‘セーター’ も比較的高い正答率を示しているが,ストーリーの本筋と は直接関連のない(周辺的な) ‘カーテン’と‘テーブル(ク ロス)’では,実際の色と最も異なる CMA や,暖色系の WCA の選択率が高かった. このような両者の不可解なグラフパターンは,統制群の みのデータで同様のグラフを作成した場合のパターンと極 めて類似していることからも,事後情報以外の要因が被験 者の回答に影響していたと考えられる.本実験刺激中には, 主人公がオレンジ色のファイルケースを手にしているスラ イドが多く含まれており,そのオレンジ色はカーテンの色 環図で CMA に,テーブルの色環図では WCA と,それぞれ 最も選択率の高い領域に含まれていた.このことから,課 題とは直接関連のないノンターゲットの色が,周辺的なタ ーゲットの色彩情報に影響し,記憶の変容をもたらしたこ とが考えられる.今後はさらに,このような現象を実験的 に検証すると共に,それが生じる条件(誘目性や中心-周 辺性との関連など)についても検討を行う必要がある. (MARUYAMA masakazu, ITSUKUSHIMA yukio)