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Title Al合金の軸荷重下における高サイクル疲労強度および疲労 き裂

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Title Al合金の軸荷重下における高サイクル疲労強度および疲労 き裂
Title
Al合金の軸荷重下における高サイクル疲労強度および疲労
き裂進展特性に及ぼすレーザピーニング処理の影響( 本文
(Fulltext) )
Author(s)
越智, 保雄
Citation
[材料] vol.[59] no.[12] p.[932]-[937]
Issue Date
2010
Rights
The Society of Materials Science, Japan (社団法人日本材料学
会)
Version
出版社版 (publisher version) postprint
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/39122
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
12090-(p.932-937) 10.11.26 13:14 ページ 932
「材料」 (Journal of the Society of Materials Science, Japan), Vol. 59, No. 12, pp. 932-937, Dec. 2010
論 文
Al 合金の軸荷重下における高サイクル疲労強度および
疲労き裂進展特性に及ぼすレーザピーニング処理の影響
†
******
****
越 智 保 雄
松 村 隆
******
****
政 木 清 孝
柿 内 利 文
******
****
足 立 隆 史
● ● ● ●
*****
五十嵐 崇 亮
*****
佐 野 雄 二
*****
● ● ● ●
Effects of Laser Peening Treatment on High Cycle Fatigue Strength and
Fatigue Crack Behaviors under Axial Loading of Aluminum Alloy
by
*
**
Yasuo OCHI*, Takashi MATSUMURA , Takaaki IKARASHI , Kiyotaka MASAKI
Yuji SANO
*****
and Takafumi ADACHI
***
, Toshifumi KAKIUCHI
****
,
******
The axial fatigue tests with stress rations of −1.0 and 0.1 were conducted in order to investigate the effects of the
laser peening (LP) treatment on the fatigue strength and the fatigue crack behaviors in the rolled aluminum alloy
A7050 for aircraft structures. The LP treatment was effective for fatigue strength improvement in the fatigue lives
before 2~3 × 106cycles, but the treatment reduced the strength after the cycles at the both stress ratio conditions.
Fatigue cracks initiated at the surface on the higher stress amplitude levels, but the cracks initiated in the internal
positions on the lower stress levels. From the observation results of fatigue crack behaviors, it was clear that the LP
treatment could control the crack initiation and the propagation behaviors. The fatigue strength behaviors by the LP
treatment were evaluated by the stress intensity factor range including the residual stress induced by the LP treatment.
Key words : High cycle fatigue, Axial loading, Crack initiation, Crack propagation, Laser peening treatment,
Residual stress, Stress intensity factor, Aluminum alloy
1 緒 言
表面改質処理の一種であるレーザピーニング (LP) 処
本研究では,航空機用展伸 Al 合金 A7050-T7451 を用
いて 2 種類の応力比(R = −1.0 と 0.1)での軸荷重高サ
理は,材料表面の引張残留応力を低減し,高い圧縮残留
イクル疲労特性に対する LP 処理の疲労特性改善効果と,
応力を付与することが可能であり機械構造用部材の応力
平滑材と微小穴材から発生させた疲労予き裂からのき裂
腐食割れ防止や疲労特性改善手法として有効である.そ
発生・進展挙動に対する LP 処理による抑制効果につい
のため,これまで原子力設備の予防保全技術として適用
て調査・検討を行った.また,疲労破面観察より疲労破
1)∼ 7)
されてきた.
著者らはこれまでにオーステナイト系ス
壊起点の詳細な観察を行った.さらに,LP 処理によって
テンレス鋼,鋳造 Al 合金や展伸 AL 合金等に対して LP
導入された圧縮残留応力分布を考慮した応力拡大係数を
処理が回転曲げ疲労特性改善に有効であることを明らか
用いて,疲労破壊形態や疲労強度特性の変化等について
8)∼ 12)
その中で,航空機用展伸 Al 合金 A7050
にしてきた.
考察を実施した.
に LP 処理を施すことによって疲労強度や疲労き裂発
生・進展特性の改善に多大な効果があることを明らかに
2 実 験 方 法
2・1 供試材および試験片形状
12)
しかしながら,応力勾配のない軸荷重疲労におけ
した.
供試材は Al-Zn-Mg 系展伸 Al 合金 A7050-T7451 であ
る LP 処理の効果について検討した例は,Ti 合金に対し
る.Table 1 に化学組成を,Table 2 に熱処理条件をそれ
て I.Altenberger らの例 13)があるものの比較的少ないの
ぞれ示す.試験片は展伸圧延板より試験片軸方向と圧延
が現状である.
方向を一致させて採取し,Fig. 1 に示す砂時計型形状に
†
*
**
***
****
*****
******
原稿受理 平成 22 年 4 月 9 日 Received Apr. 9, 2010 © 2010 The Society of Materials Science, Japan
正 会 員 電気通信大学知能機械工学科 〒182-8585 調布市調布ヶ丘,Dept. of Mech. Eng. & Intelligent Systems, Univ. of ElectroCommunications, Tokyo, Chofugaoka, Chofu, 182-8585
電気通信大学大学院 〒182-8585 調布市調布ヶ丘,Graduate School, Univ. of Electro-Communications, Tokyo, Chofugaoka, Chofu, 182-8585
正 会 員 沖縄工業高等専門学校機械システム工学科 〒905-2192 名護市辺野古,Dept. of Mech. System Eng., Okinawa National
College of Tech., Henoko, Nago, 905-2192
正 会 員 岐阜大学工学部機械システム工学科 〒501-1193 岐阜市柳戸,Dept. of Mech. System Eng., Fuculty of Eng., Gifu Univ.
Yanagito, Gifu, 501-1193
正 会 員 ㈱東芝 電力・社会システム技術開発センター 〒235-8523 横浜市磯子区新杉田町,Power and Industrial System Res.
and Develop. Center, Toshiba Corporation, Isogo-Ku, Yokohama, 235-8523
富士重工業㈱航空宇宙カンパニー 〒320-8564 宇都宮市陽南,Aerospace Company, Eng. And Develop. Center, Fuji Heavy Industries,
LTD., Yonan, Utsunomioya, 320-8564
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† Al 合金の軸荷重下における高サイクル疲労強度および疲労き裂進展特性に及ぼすレーザピーニング処理の影響†
933
Table 1 Chemical composition of material. [wt.%]
Table 2 Heat treatment conditions.
Fig. 3 Process of laser peening treatment.
Fig. 1 Shape of fatigue specimen.
機械加工した後,試験片中央部にエメリー研磨,バフ研
磨を施し,鏡面仕上げとした.以下,この試験片を nonpeening (n.p.) 材と称する.その静的機械的性質は 0.2%
耐力 σ 0.2 = 465MPa,引張強度 σ B = 520MPa および断面
収縮率 φ = 13% であった.また,疲労き裂進展特性の調
査を目的として,試験片中央部に微小ドリル穴を付与し
た Hole 材を用意した.Hole 材は n.p.材と同様に Fig. 1
に示す試験片形状の機械加工後,中央部をエメリー研磨,
バフ研磨によって鏡面仕上げし,Fig. 2 に示すように中
央部に直径 0.3mm,深さ約 0.3 ∼ 0.5mm の微小ドリル
穴を付与した.
2・2 レーザピーニング(LP)処理
n.p.材の R 部全域に Table. 3 に示す条件で LP 処理を
施した.LP 処理条件は経験的に Al 合金に対して残留応
力効果が深くまで付与される条件で行った.以下,この
試験片を LP 材と称する.LP 処理の概要図を Fig. 3 に
示すが,試験片を回転させながら軸方向に移動させ螺旋
状に処理を施した.
Hole 材に対しては負荷応力振幅 160MPa(応力比 R =
−1.0)および 126MPa (R = 0.1) で軸荷重疲労試験を行い,
Fig. 4 に示すように試験片中央部の微小穴から疲労き裂
を発生させ,き裂長さ 2a = 約 1500μm および約 2500μm
まで成長させた時点で疲労試験を中断し,試験片中央部
に同条件で LP 処理を施した.以下,この試験片を HoleLP 材と称する.
Fig. 4 Schematic diagram of pre-crack.
2・3 疲労試験および測定方法
疲労試験には MTS 社製油圧サーボ疲労試験機を用い
て,応力比 R = −1.0 および 0.1,周波数 f = 30 ∼ 40Hz,
荷重制御,室温大気中で実施した.疲労試験中にレプリ
カ法によって表面き裂発生・進展挙動を調査した.また,
疲労破断後には破面観察を実体顕微鏡および走査型顕微
鏡 (SEM) を用いて行った.
また,LP 処理による試験片へのピーニング効果を調査
するために,LP 処理前後において,触針式粗さ測定器
による試験片表面の中心線平均粗さ Ra と最大高さ粗さ
Ry の測定とマイクロビッカース硬さ試験機による試験片
断面の硬さ分布測定を行った.硬さ測定の条件は荷重
25gr.,荷重保持時間 20 秒で実施した.さらに,X 線回
折法により n.p.材および LP 材の残留応力測定を実施し
た.測定条件を Table 4 に示す.試験片表面に付与され
た残留応力は繰返し荷重の影響で開放されることが知ら
れているので,LP 材に対して応力比 R = −1.0 において
応力振幅 σa = 300MPa と σa = 140MPa で疲労試験を行
い,疲労破断前に試験を中断した試験片に対しても残留
応力測定を行った.残留応力は試験片軸方向(z 方向)
と周方向(θ 方向)に対して測定を行った.
Table 4 Conditions of X-ray diffraction method.
Fig. 2 Shape and dimension of small drilled hole.
Table 3 Conditions of laser peening treatment.
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*越智保雄,松村 隆,五十嵐崇亮,政木清孝,柿内利文,佐野雄二,足立隆史*
3 実験結果および考察
3・1 LP 処理によるピーニング効果
3・2 疲労試験結果
軸荷重による疲労試験から得られた S - N 曲線を Fig. 6
まず,LP 処理に伴う表面粗さの測定結果を Table 5
に示す.ここで,図中の ∗ 印は内部起点型破壊によって
に示す.結果を見ると n.p.材では Ra = 0.35μm,Ry =
破断した試験片を表す.結果を見ると,応力比 R = −1.0,
2.90μm であるが,LP 材ではそれぞれ約 6 倍程度であり,
0.1 ともに破断繰返し数 Nf = 2~3 × 106 サイクル以下の低
LP 処理による粗さの増加が見られた.
寿命範囲(すなわち,高応力範囲)では LP 材の疲労寿
次にマイクロビッカース硬さ試験機による試験片表面
命が n.p.材の寿命より長く,LP 処理による疲労寿命の向
近傍の断面の硬さ分布の測定結果を Fig. 5 に示す.n.p.
上が確認された.しかしながら,それ以上の長寿命範囲
材の硬さは約 160Hv と一定であったが,LP 材の硬さは
では LP 材の疲労寿命は n.p.材より短寿命,低強度とな
試験片内部では n.p.材と同様に約 160Hv であるのに対し
り,R = −1.0 における 2.5 × 107 サイクル疲労強度は,
て,試験片表面近傍では約 175Hv であり,n.p.材と比較
n.p.材で σa = 約 160MPa に対して LP 材では σa = 約
して約 15Hv 程度硬化していた.また,この硬化層は試験
120MPa であり,LP 処理によって疲労強度が約 0.75 倍
片表面から深さ約 600μm であることが確認できた.ビッ
に低下した.また,R = 0.1 の条件でも同様に約 2.0 ×
カース硬さと残留応力の間には相関関係がある 10)∼ 12)こ
107 サイクル疲労強度が LP 処理によって 0.83 倍に低下
とから,LP 処理により表面層には圧縮残留応力が付与
した.
されているものと考えられる.
X 線回折による残留応力測定結果を Table 6 に示す.
n.p.材と LP 材の測定結果を比較すると LP 処理によって
疲労試験により破断した試験片破面を SEM 観察した
結果の一例を Fig. 7 (a), (b)に示す.観察の結果,表面
起点型破壊と内部破壊の 2 種類の破壊形態が観察され
残留応力値が σz は約−90MPa から約−190MPa,一方 σθ
は約−70MPa から−120MPa となっており,圧縮残留応力
が約 2 倍に増加したことがわかる.また,LP 材では残留
応力の値に異方性が顕著に現れていた.これは,本研究
での LP 処理が螺旋状に施されていたことに起因するも
のと考えられる.また,疲労試験により残留応力は一部
開放され,σa = 300MPa では σz = 約−120MPa,σθ = 約
−64MPa となり,σa = 140MPa では,σz = 約−180MPa,
σθ = 約−116MPa と減少しており,負荷応力が大きいほ
ど残留応力の開放量が大きいことがわかる.
Table 5 Surface roughness values of the n.p. and LP
treated materials.
Fig. 6 S -N curves.
Table 6 Values of residual stress of the n.p. and the LP
treated materials.
Fig. 5 Vickers hardness distribution of the n.p. and
the LP treated materials.
Fig. 7 Examples of fracture surface observations.
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† Al 合金の軸荷重下における高サイクル疲労強度および疲労き裂進展特性に及ぼすレーザピーニング処理の影響†
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た.表面起点型破壊は n.p.材の全寿命域と LP 材の Nf =
図より,n.p.材の R = −1.0 と 0.1 の場合を比較すると,
約 2 × 105 サイクル以下の短寿命域において観察され,
R = −1.0 のき裂進展速度の方がやや速くなっていること
内部起点型破壊はそれ以上の長寿命域において観察され
が分かる.また,n.p.材と LP 材のき裂進展速度を比較す
た.Fig. 7 (a)は表面起点型破壊の例,Fig. 7 (b)は内部
ると,LP 材の方が明らかに低速度となっており,LP 処
起点型破壊の例である.内部起点型破壊の起点深さは,
理による表面き裂進展の抑制効果が確認された.
全ての試験片において表面から 2mm 以上の試験片中心
続いて,予き裂を付与した後に LP 処理を施した Hole-
部付近に存在していたが,内部起点深さと応力振幅の間
LP 材の表面き裂進展挙動を Fig. 10 に示す.なお,Fig. 10
には相関は認められなかった.以上より,LP 材の破壊形
では LP 処理前の予き裂導入時の繰返し過程を実線で表し
態は表面起点型から内部起点型に遷移することが明らか
ている.また,図中には n.p.材にドリル穴を付与しただけ
となった.内部起点型破壊では,多くの場合 Fig. 7 (b)
の Hole 材の表面き裂進展曲線を比較として一点破線で示
に示すような微視組織割れのような平坦な部分が観察さ
す.図より,応力比や予き裂長さにより全寿命に対する
れたが,後述する Fig. 11 (b)に示すような微視的欠陥が
割合に差異はあるが,LP 処理後に表面き裂の進展が停留
観察された例も見られた.
していることが明らかである.すなわち,LP 処理には表
3・3 表面き裂進展挙動
面き裂進展抑制効果があると言える.特に,R = −1.0 で
n.p.材および LP 材の表面き裂進展挙動調査のために,
疲労寿命約 Nf = 4 × 104 サイクルとなる応力振幅におい
は,予き裂長さの違いに係わらず LP 処理後から N/Nf =
0.9 以上まで表面き裂進展は停留していた.
て,疲労過程における表面き裂進展挙動の観察をレプリカ
Hole-LP 材の疲労き裂進展挙動についてより詳細に検
法を用いて行った.得られた表面き裂進展曲線を Fig. 8
討するため,LP 処理により導入された残留応力を考慮
に示す.図より,R = −1.0,0.1 ともに n.p.材のき裂発生
し,予き裂先端の応力拡大係数範囲 ΔK の算出を試みた.
寿命は N/Nf = 0.50 付近であり,発生後徐々に進展し
予き裂形状を半楕円と仮定しその最深部での ΔK の大き
N/Nf = 0.90 を越えた後に急速に進展し破断に至ること
さを ΔKA,表面き裂先端部での ΔK の大きさを ΔKC と定
がわかる.また,LP 材の表面き裂は N/Nf = 0.72 以降で
義し,白鳥らの式 15)を用いてそれぞれの値を算出した.
は観察できたが,それ以前では,LP 痕のため観察不能で
その結果を Table 7 に示す.結果より,応力拡大係数範
あった.き裂進展曲線からき裂進展速度 da/dN と応力
囲 ΔK はいずれの条件でも ΔKA > ΔKC を満たしており,
拡大係数範囲 ΔK の関係を求めた結果を Fig. 9 に示す.
予き裂より進展する疲労き裂は内部方向へ優先的に進展
なお,ΔK の値は Murakami の式 14)を用いて算出した.
しやすいことがわかる.また,R = −1.0 の ΔKC/ΔKA の値
は予き裂長さに係わらず 0.28 と一定であり,R = 0.1 の時
の値 0.58 より小さく R = −1.0 の方が表面き裂進展抑制効
果がより大きいことがわかる.
3・4 考察
疲労試験結果より明らかになったように,表面起点型
破壊から内部起点型破壊への遷移,および低応力・長寿
Fig. 8 Surface fatigue crack propagation curves of the
n.p. and the LP materials.
Fig. 10 Fatigue crack propagation curves of the HoleLP materials.
Table 7 Stress intensity factor range ΔKA and ΔKc.
Fig. 9 Relations between da/dN and ΔK.
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936
*越智保雄,松村 隆,五十嵐崇亮,政木清孝,柿内利文,佐野雄二,足立隆史*
命域における n.p.材と LP 材の疲労寿命の逆転に関して,
LP 処理による残留応力分布を考慮した応力拡大係数範
囲 ΔK を用いて考察した.
Murakami によれば,表面に欠陥がある場合の ΔKs と
内部に欠陥がある場合の ΔKi は,それぞれ以下の式で与
14)
えられるとしている.
定して,
=
πd2/4 = 88.6μm とした.
ここで,上式の ΔK の値を求めるには試験片内部の残
留応力分布が必要となるので,n.p.材と LP 材の内部残留
応力分布を推定した.推定のために次の条件を設けた.
著者らのこれまでの残留応力分布測定結果 8), 9)を参考に
して,LP 処理の特徴である屈曲点の最大圧縮残留応力
(1)
は実測した試験片最表面の圧縮残留応力の 115% とした.
(2)
内部に存在する引張残留応力と表面近傍の圧縮残留応力
は平衡しているとした.また,実測したビッカース硬さ分
上式の
,
は微小欠陥,き裂および介在物
等の面積の平方根である.ここで,
の値は LP 材
布と残留応力分布の間に相関関係がある 10)∼ 12)ことから,
圧縮残留応力から引張残留応力へ遷移する深さを n.p.材
の表面き裂観察において,観察された主き裂の最小長さ
では 50μm,LP 材では 600μm と仮定した.以上の結果,
が 2a = 373.5μm であったことから,LP 材における主き
得られた軸方向残留応力 σz の分布を Fig. 12 に示す.
裂となるき裂長さを 2a = 400μm の半円き裂と仮定し,
= 354.5μm とした.観察した表面き裂の一例を
これらの値を用いて R = −1.0 の場合の式 (1), (2)の表面
の応力拡大係数範囲 ΔKs と内部の応力拡大係数範囲 ΔKi
Fig. 11 (a)に示す.また,SEM による破面観察におい
の値を計算した.ここで,式 (1),(2)中の σo は負荷応力
て,Fig. 11 (b)に示すような直径 d = 100μm 程度の微視
と応力繰返し後の残留応力の合算とし,ΔKs の残留応力
的欠陥の存在が確認される場合もあった.そこで,試験
は表面の残留応力値,ΔKi ではき裂起点深さでの推定残
片内部の起点付近にこのような欠陥が存在していると仮
留応力値を用いた.なお,各応力振幅 σa の残留応力の
値は Table 6 の結果から測定時の最大応力 σa = 300MPa
と最小応力 σa = 140MPa の間の値から内挿して求めた.
算出した ΔKs,ΔKi と破断寿命 Nf の関係を Fig. 13 に示
す.図より,n.p.材の場合は実験範囲内では常に ΔKs >
ΔKi となっていることがわかる.一方,LP 材では Nf =
1.5 × 105 サイクル付近で ΔKs と ΔKi が交差している.
ΔKs > ΔKi となる範囲では表面き裂が,ΔKs < ΔKi となる
範囲では内部き裂が進展しやすいことを表していると考
えられるので,Nf = 1.5 × 105 サイクル付近で破壊形態が
表面起点型から内部域点型へと遷移することを示してい
る.この結果は Fig. 6 の R = −1.0 における S -N 曲線におい
て,Nf = 1.5 × 105 サイクル付近以降で内部起点型破壊と
なっていることと一致する. また Fig. 13 より,R = −1.0 に
おいて LP 材の ΔKi と n.p.材の ΔKs の値が,繰返し数 Nf =
2 × 106 サイクル付近で逆転することが確認できる.すな
わち,Nf = 2 × 106 サイクルより短寿命となる範囲では
n.p.材の方が疲労破壊しやすく,Nf = 2 × 106 サイクルよ
り長寿命となる範囲では LP 材の方が疲労破壊しやすい
ことを示している.
Fig. 11 Examples of surface crack and internal defect.
Fig. 12 Estimated residual stress distributions.
以上より,Fig. 13 に示した応力比 R = −1.0 の場合につ
Fig. 13 Relations between ΔKs, ΔKi and Nf.
12090-(p.932-937) 10.11.26 13:14 ページ 937
† Al 合金の軸荷重下における高サイクル疲労強度および疲労き裂進展特性に及ぼすレーザピーニング処理の影響†
937
いては式 (1),(2)と繰返し荷重後の開放残留応力を推定し
nique using pulse laser irradiarion evaluation for type 304
て算出した ΔKs,ΔKi と疲労寿命 Nf の関係は Fig. 6 に示
stainless steel”, Journal of the Society of Materials Science,
した実際の実験結果と良く一致していたことから,式 (1),
(2)および残留応力の推定は妥当であったと考えられる.
4 結 言
本研究では Al 合金 A7050-T7451 の軸荷重高サイクル
疲労特性に及ぼすレーザピーニング (LP) 処理の影響に
ついて調査・検討を行った.得られた主な結果を以下に
示す.
(1)
応力比 R = −1.0 および 0.1 ともに,Nf = 2 ∼ 3 ×
106 サイクル以下の寿命範囲では LP 処理による疲労寿命
の向上が確認されたが,それ以上の長寿命域では LP 材と
n.p.(未処理)材の寿命が逆転し LP 材が低寿命となった.
(2)
疲労破面観察の結果,n.p.材は全て表面起点型破
壊であった.一方,LP 材は約 2 × 105 サイクル以下の低
寿命域では表面起点型破壊であり,それ以上の長寿命域
Japan, Vol.49, pp.193-199 (2000).
5 ) Y. Sano, M. Obata, T. kubo, N. Mukai, M. Yoda, K. Masaki and
Y. Ochi, “Retardation of crack initiation and growth in
austenitic stainless steel by laser peening without protective
coating”, Materials Science and Engineering A, Vol.417,
pp.334-340 (2006).
6 ) Y. Sano, K. Akita, K. Masaki, Y. Ochi, I. Altenberger and
B. Schltes, “Laser peening without protective coating as a
surface enhancement technology”, Journal of Laser Micro/
Nanoengineering, Vol.1, pp.161-166 (2006).
7 ) Y. Sano, N. Mukai, Y. Makino, M. Tamura, M. Obata, M.
Yoda, S. Shima and H. Kato, “Enhancement of surface properties of metal materials by underwater laser processing”,
Review of Laser Engineering, Supplementary Volume,
pp.1195-1198 (2008).
では内部起点型破壊であった.なお,内部起点型破壊で
8 ) Y. Ochi, K. Masaki, T. Matsumura, Y. Wakabayashi, Y.
は,多くの場合微視組織割れのような平坦な部分が観察
Sano and T. kubo, “Effects of laser peening on high cycle
されたが,微視的欠陥が観察された例も見られた.
fatigue property in austenitic stainless steel”, CD-ROM of
(3)
表面き裂進展挙動の調査より,LP 処理には表面
き裂進展抑制効果があることを明らかにした.また,予
the 12nd Inter. Conf. on Experimental Mechanics (ICEM12),
Bari, Italy, pp.1-8 (2004).
き裂材の表面き裂先端の応力拡大係数範囲を求め,LP
9 ) K. Masaki, Y. Ochi, T. Matsumura, K. Ikarashi and Y. Sano,
処理によってき裂は表面より内部方向に進展しやすいこ
“Effects of laser peening treatment on high cycle fatigue
とを示した.
and crack propagation behaviors in austenitic stainless
(4)
試験片内部の残留応力分布を考慮して,試験片
の表面と内部のき裂起点の応力拡大係数を推定すること
steel”, Journal of Power and Energy Systems, Vol.4, No.1,
pp.94-104 (2010).
で,n.p.材と LP 材の寿命が逆転すること,ならびに LP
10) K. Masaki, Y. Ochi, Y. Kumagai, T. Matsumura, Y. Sano
材の破壊形態が表面起点から内部起点へ遷移することを
and H. Naito, “Influence of laser peening treatment on
考察した.
high-cycle fatigue properties of degassing processed
本研究は(独)日本学術振興科学研究補助金(課題番号
18560073(H18 ∼ 19 年度)および 20560068(H20 ∼
AC4CH aluminum alloy”, Journal of the Society of Materials
Science, Japan, Vol.55, pp.706-711 (2006).
H22 年度))を受けた.また,X 線回折による残留応力
11) Y. Ochi, K. Masaki, T. Matsumura, Y. Sano, K. Akita and K.
測定は東京都市大学(現:日本原子力研究開発機構)の
Kajiwara, “Effects of laser peening on fatigue crack behaviors
秋田貢一教授にご協力いただいた.さらに,当時学部学
生の薗部祐介君に卒業研究として実験に協力いただいた.
以上の関係者の方々に記して謝意を表す.
参 考 論 文
in pre-cracked cast aluminum alloys”, Key Engineering
Materials, Vols.345-346, pp.255-258 (2007).
12) K. Masaki, Y. Ochi, T. Matsumura and Y. Sano, “Effects of
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degassed processed cast aluminum alloy”, Materials Science
and Engineering A, Vols.468-470, pp.171-175 (2007).
1 ) N. Mukai, N. Aoki, M. Obata, A. Ito, Y. Sano and C. Konagai,
13) I. Altenberger, Y. Sano, I. Nikitin and B. Scholtes, “Fatigue
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materials at ambient and elevated temperatures”, CD-
Nuclear Engineering (ICONE-3), Kyoto, Vol.III, pp.1489-
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1494 (1995).
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Research B, Vol.121, pp.432-436 (1997).
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14) Y. Murakami, “Stress Intensity Factor Handbook II”, p.657
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15) M. Shiratori, T. Miyoshi, Y. Sakai and G. r. Zhang, “Analysis of
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of Laser Engineering, Vol.26, No.11, pp.793-799 (1998).
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4 ) M. Obata, T. Kubo, Y. Sano, M. Yoda, N. Mukai, S. Shima
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and K. Kanno, “Development of stress improvement tech-
785 (1987).
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