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東南アジアのLNG輸入開始 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

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東南アジアのLNG輸入開始 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報
JOGMEC 石油調査部
坂本 茂樹
アナリシス
東南アジアのLNG輸入開始、
東アジア市場向けLNGフローの変化
はじめに
東南アジア・ガス消費国で数年来計画されてきた LNG 輸入が実現に向かいつつある。2 0 1 1 年 5 月、
タイ国営石油会社(PTT)が Map Ta Phut LNG 受入基地の商業操業を開始し、タイは東南アジアで最初
の LNG 輸入国となった。2 0 1 2 年にはインドネシア西部ジャワおよびマレーシア半島部 Port Dickson の
LNG受入基地が操業開始を準備中である。続いてシンガポールが2014年ごろからLNG輸入を開始する。
東南アジアは長期間、日本など東アジア市場向けの主要な LNG 供給地だったが、このようにこの地域
のガス需給は大きく変わりつつある。
本稿では、こうした東南アジアの LNG 輸入と LNG 需給とその背景を概観する。併せて、それに伴う
東アジア市場への LNG フローの変化に触れる。
1. 東南アジアの LNG 輸入開始
(1)
概況
Trada maritime が受注している。
東南アジアの LNG 受入基地計画(一部は既に操業開
ジャワ島など主要エネルギー消費地での LNG 気化ガ
始)、および液化基地の位置を図 1 に記す。ガスの供給
ス用途は、産業用と発電用燃料である。インドネシアで
地域だった東南アジアでは、経済発展とともにガス需要
は都市近郊でも石油系燃料を使用する発電所、工場(産
が増加して、域内生産では賄えない状況が想定され、複
業需要家)が多い。昨今の原油価格高騰によって石油系
数の LNG 輸入基地建設が計画された。
燃料コストが大幅に上昇しているので、相対的に安価な
国産ガス使用は経済合理的な判断ではある。石油系燃料
(2)
インドネシア・ジャワ島の LNG 受入基地
には政府予算からの補助金が使われて財政悪化の要因に
2 0 1 2 年 4 月、インドネシアで初めての浮体式 LNG 受
なっているため、政府には石油系燃料消費を抑えようと
入基地“Nusantara Regas Satu”がシンガポールの造船所
する意図が強い。
を出航してジャワ島西部のジャカルタ外港に入った(受
インドネシア国内市場で供給されるガスには $2 ~ 6/
け入れ能力 =3 0 0 万トン/年)
。インドネシア政府は「ガ
MMBtuの極めて安い価格が適用されている(用途によっ
ス政策」のなかで、LNG 輸出量を大幅に削減してガスを
て幅があり、肥料・発電用は安く、一般産業用は高い)
。
国内市場向けに優先配分することを明確にし、LNG 受
国内市場での供給価格は LNG 輸出価格(2 0 1 1 年の東ア
入基地建設計画を進めてきた。LNG 受入基地第 1 号とな
ジア伝統市場の購入価格 $1 3 ~ 1 8/MMBtu)に比べて大
る西ジャワ基地の完成は数度にわたって延期されてきた
幅に安いため、国内供給価格がどのように設定されるか
が、このたび、実現の運びとなった。
注目され、また同時に懸念されてもいた。同国業界筋に
西ジャワ LNG 受入基地は、国内カリマンタン島のボ
よると、ボンタン LNG の供給価格は英国ブレント原油
ンタン LNG と締結した 1 0 年間の契約に基づき、2 0 1 2
価格を指標として 1 1 %の係数が適用される模様である。
年 4 月下旬に初カーゴを受け入れた。同受入基地は試運
この価格フォーミュラは、欧州のガス長期契約価格
転を開始し、6 月に商業運転を開始する。同 LNG 受入基
フォーミュラに近い方式であり、良好な価格水準で合意
地 へ の LNG 国 内 輸 送 業 務 は、 商 船 三 井 と 現 地 企 業
されたと考えられる。
15 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
MYANMAR
LNG受入基地
(稼働中)
LAOS
LNG受入基地
(計画中)
THAILAND
CAMBODIA VIETNAM
Map ta Phun
BRUNEI
MALAYSIA
Malacca
Johor
Singapore
SINGAPORE
LNG液化基地
(計画中)
PHILIPPINES
Arun
North Sumatera
LNG液化基地
(稼働中)
Phillippin
Sea
Sabah
Brunei
MLNG
Summatera
Bontang
Kalimantan
Senoro
INDONESIA
Tangguh
New Guinea
Indian Ocean
West Java
Java
East Java
Abadi
出所:JOGMEC 作成
図1 東南アジアの LNG 受入基地、液化設備の計画
インドネシア政府は LNG 調達に際して輸入と国産
LNG の双方を検討してきたが、輸入 LNG 価格は高額で
あるため、当面は国産 LNG を国内市場向けに振り向け
る。ボンタンに次ぐ主力のパプア州タングー LNG(7 6 0
万トン/年)も発電公社 PLN 向けガス供給契約が調印さ
れ、2 0 1 3 年に LNG 供給を開始する。タングーには第 3
トレイン(3 8 0 万トン/年)の建設計画があり、完成後は
国内市場向け供給力が増強される。同国では新規ガス田
は 2 5 %以上の国内市場向け供給義務があり、同条項は
新規 LNG 案件にも適用される。
インドネシアでは、更に中部ジャワ、北スマトラ、南
スマトラに LNG 受入基地を建設する計画があるが、詳
細はまだ定まっていない。
(3)マレーシア:マレー半島部マラッカで LNG 輸入を
開始
マ レ ー シ ア も 2 0 1 2 年 に LNG 輸 入 と 国 内 市 場 で の
LNG消費を開始する。マレーシア政府は2012年6月4日、
出所:WGC 新聞
WGC2012 開会式における
写1 マラッカ LNG 再気化施設模型の被露
2012.7 Vol.46 No.4 16
東南アジアのLNG輸入開始、東アジア市場向けLNGフローの変化
クアラルンプールで開幕し
た第 2 5 回世界ガス会議開
会式において、同国初のマ
PM-301・302
JDA
50
100
km
PM-3
SONGKHLA
DA
MTJ
ラッカ LNG 受入基地の建
0
Jerneh
THAILAND
Lawit
Ma
lay
sia
-Vi
etn
Larut
設作 業 が ほ ぼ 完 了 したと
華々しく発表した。
併せて、
am
CA
A
Guntong
サラワク州沖合の洋上液化
事 業(FLNG、 液 化 能 力
Duyong
Kerteh
Gas Processing Plant
1 2 0 万トン/年)の FID が
2012年3月に既に実施され、
MALAYSIA
2 0 1 5 年の操業開始を目指
して準備中であることを公
表した。
同 国 の LNG 輸 入 は、 人
口と経済活動が集中するマ
レー半島部において、増加
する電力需要に対して、頭
打ち状態にあるマレー半島
部東 岸 沖 合 の ガ ス 供給力
(主要な発電燃料)
を補うこ
West Natuna‘B’
Natuna Sea
Kapar
Connaught Bridge
Genting Sanyen
Malacca
Gas Field
Oil Field
Gas Pipeline
Import line
PGU Loop
Gas Processing Plant
Industrial Gas-User
Gas-fired Power Station
Regasification Terminal(Planning)
KUALA LUMPUR
Panglima
Pahlawan
MALAYSIA
Johor
INDONESIA
SINGAPORE
出所:JOGMEC 作成
とを目的にしている。
マレー半島部の LNG 受入基地計画(マラッカ、
ジョホール)
図2 とガスパイプライン網
国 営 石 油 企 業 Petronas
の 子 会 社 Petronas Gas は
マレー半島マラッカ LNG
受入基地(3 5 0 万トン/年、
浮揚式)
の設備建設を 2 0 1 2
年 6 月にほぼ完了させ、7
月から操業を開始する。マ
ラッカ沖合(Port Dickson)
に受け入れバースが設置さ
れ、 浮 揚 式 LNG 受 入 設 備
によって LNG を受け入れ、
再気化が行われる。
Petronas は 2 0 1 1 年 5 月、
GDF Suez から LNG2 5 0 万
出所:Petronas
トンを購入する契約を締結
し、
2 0 1 2 年半ばからマラッ
図3 マラッカ沖合(Port Dickson)の受け入れバース
カ LNG 受入基地への受け
入れを開始する。Petronas
は更に 2 0 1 2 年 6 月、Statoil と LNG 中期売買契約に調印
LNG 生産開始を予定している。Petronas は GDF Suez、
して、7 2 万 5,0 0 0 トン
(1Bcm)
を 3 年半の期間内にマラッ
Statoil から短中期契約に基づいて LNG を輸入すること
カ LNG 受入基地に投入する計画を公表した。
により、2 0 1 4 ~ 2 0 1 5 年の GLNG 操業開始までの期間、
長期契約に基づく LNG 調達は、Petronas が 2 0 0 8 年に
LNG 調達をつなぐことが可能となる。
事業参加した豪州クイーンズランド州 CBM 液化事業
Petronasは、マラッカに続いて、半島部南端のジョホー
GLNG から購入する。GLNG は 2 0 1 4 年末~ 2 0 1 5 年の
ルに第 2 の LNG 受入基地を建設する。またサバ州に発
17 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
GSP
Sukhumvit Rd.
4th Pipeline
Road l-1
Road No.36
4th Pipeline
Inter connecting pipeline
Ta Guan Bay
LNG Terminal
Off-shore Pipeline no 1-3
出所:PTT アナリスト会議資料“LNG Business opportunities in Thailand”2012 年 1 月
図4 PTT の Map Ta Phut LNG 受入基地の諸設備①
出所:PTT アナリスト会議資料“LNG Business opportunities in Thailand”2012 年 1 月
写2 PTT の Map Ta Phut LNG 受入基地の諸設備②
電所向けガス供給を目的にして、小規模な LNG 受入基
PTT は 2 0 1 1 年 5 月末に東南アジアで初めてとなる
地設置を計画している。
Map Ta Phut LNG受入基地に試運転カーゴを受け入れ、
同年 9 月上旬に商業操業を開始した。以降 2 0 1 2 年 1 月
(4)タ イ:2 0 1 1 年に東南アジアで初めて LNG 受け
入れを開始
までに 1 1 カーゴを受け入れている。
PTT は 2 0 1 4 年まで、基本的に短期およびスポットに
2012.7 Vol.46 No.4 18
東南アジアのLNG輸入開始、東アジア市場向けLNGフローの変化
出所:PTT アナリスト会議資料“LNG Business opportunities in Thailand”2012 年 1 月
写3 PTT の Map Ta Phut LNG 受入基地の諸設備③
よる LNG 調達を行う。2 0 1 5 年以降は、長期契約に基づ
約でパイプライン・ガスを購入している。しかしこれら
いて安定的な LNG 調達を行う。PTT はまた 2 0 1 2 年 5 月
のガス生産国が自国市場向けガス供給を重視する政策に
中旬、カタールから 2 0 0 万トン/年の LNG を長期契約
転じていることに鑑みて、将来の安定的なガス調達のた
で購入することで基本合意した(2 0 1 3 年から開始)。リ
めに LNG 輸入を決めている。同国エネルギー市場局は
スク軽減のため、複数の LNG 供給者から調達する意向
2 0 0 8 年の入札を経て、BG グループに 3 0 0 万トン/年の
である。LNG プロジェクトに参加してバリューチェー
独占的 LNG 納入権(2 0 年間)を与えた。2 0 1 0 年に南西
ンを通じて調達を図るなどの、積極的な手法を取ろうと
部ジュロン地区に受け入れ能力 3 5 0 万トン/年の LNG
している。更に同社は長期的な LNG 調達を視野に置き、
受入基地建設を開始している。
海外の LNG 事業への参入機会を探っている。
シンガポール当局は、中長期的なガス需要増加を想定
PTT は 2 0 1 2 年 6 月現在、大型ガス田発見に沸くモザ
して、LNG 受入設備能力の増強を計画している。また
ンビーク Area 1(オペレーターは Anadarko)に権益を
BG グループが独占的納入権を持つ 3 0 0 万トン/年を超
保有する英国独立系石油会社 Cove Energy 買収の入札
える数量に対しては、再度入札を実施すると見られる。
に応じ、Shell と提示額を競っている。また、可能であ
シンガポールの LNG ハブとしての機能(LNG トレー
れば、在来型 LNG、非在来型 LNG の双方に参加したい
ディング)を期待する見方がある。しかし LNG は、①ボ
との意向を表明している。長期的には 2 0 2 0 年までに国
イルオフ・ガスが発生するため 2 ~ 3 カ月以上の貯蔵が
際エネルギー企業になることを企業目的に置いており、
不適切であり、②東南アジアの他の受入基地は LNG 生
国内市場向けエネルギー調達とともに、国際市場での取
産国(生産地)から直接 LNG タンカーを受け入れるので、
引においても LNG 部門を育成しようとしている。
シンガポールの LNG ハブとしての機能がどの程度必要
かんが
とされるか未詳である。
(5)
シンガポール等の LNG 輸入計画
シンガポールはマレーシアとインドネシアから長期契
19 石油・天然ガスレビュー
なお、ベトナム、フィリピンでも LNG 輸入計画があ
るが、まだ検討段階にある。
アナリシス
2. 東南アジアが LNG 輸入に至った要因:域内ガス需給の変化
かつては豊富な石油ガス資源を持つと見られていた東
域内で最も広く使用される発電用燃料はガスである。
南アジアであるが、域内エネルギー需給には徐々に変化
主要ガス生産国のなかでは、政策的に国産ガス利用を
が見られ、エネルギー消費地域としての特徴を強めつつ
推進してきたマレーシアとタイのガス発電比率が高い。
ある。その要因は、①電力需要増加に伴うガス消費量の
電力需要増加に伴って、ガス消費量も増加している。
増加、②ガス生産量の伸び悩みであり、補助金を使う安
ガスは世界の各地域市場で需給が完結する比率が高い
価なエネルギー価格設定もその一つになっている。
地域商品である。輸送方法が広域パイプラインか LNGに
限定されるため、地球規模での国際取引には制約が多い。
(1)
ガス需要増加と補助金問題
また、国内市場向けガス供給に統制価格を採る生産国
発展途上にある東南アジア経済は、電力需要の増加率
が多い。ロシアおよびイランをはじめとする中東の有力
が大きい。国によって発電用燃料に特徴はあるものの、
産ガス国では、ガスは極めて安価な価格で国内市場に供
給される。アジアでも統制価格を採る国が多い。シンガ
100
再生可能
%
水力
ガス
石油
ポールを除く多くの東南アジア緒国や中国はエネルギー
石炭
価格を統制している。東南アジアでは補助金を使ってエ
90
ネルギー価格を安く設定する国が多い。原油価格の高騰
80
に伴ってエネルギー補助金額が大きく膨れ上がり、国家
70
財政を圧迫して深刻な問題になっている。市場価格が適
60
用されるのはシンガポール、フィリピンなど一部の国に
50
とどまっている。
40
東南アジアのガス需給の大きな課題は、域内ガス需要
30
が増加傾向にある一方で、主要ガス生産国の供給力が低
20
迷していることである(タイ、マレーシア等)。東南アジ
10
アのガス生産国では、輸出資源としての石油資源の温存、
0
ブ
ル
ネ
イ
イ
ン
ド
ネ
シ
ア
マ
レ
ー
シ
ア
ミ
ャ
ン
マ
ー
フ
ィ
リ
ピ
ン
シ
ン
ガ
ポ
ー
ル
タ
イ
ベ
ト
ナ
ム
または石油輸入額を抑えるために、国産ガスを積極的に
国内消費向けに振り向ける政策が採られてきた。マレー
シア、タイは国産ガス利用推進策の成功事例であり、1
出所:WGC2012 レポート
図5
次エネルギー消費に占めるガス比率が特に高い(マレー
東南アジア主要国の発電用燃料比率
シア =3 7 %、タイ =4 0 %、2 0 1 1 年、BP 統計)。しかし
両国の国内市場向けガス供給量はともに横ばい状態にあ
5.0
インドネシア
マレーシア
Bcfd
り、2 0 1 0 年代後半には減少が進む見通し
タイ
シンガポール
である(近隣からのパイプライン・ガス輸
入を含む)。
インドネシアは国内市場向けを優先する
4.0
ガス供給政策を強化し、2 0 1 0 ~ 2 0 1 1 年
3.0
に LNG 輸出契約数量を大幅に削減した。
2.0
東南アジアでは、国内市場向けガス供給
11
10
20
09
20
08
20
07
20
06
20
05
20
04
20
03
20
02
20
01
20
00
20
99
20
98
19
19
19
19
19
19
97
ス価格が設定されてきた(同様に石油製品
96
0.0
95
を促進させる目的で補助金付きの安価なガ
94
1.0
年
にも補助金が適用される)。その結果とし
て国内のガス利用は促進されたが、安価に
供給されるガスの浪費も指摘されるように
出所:BP 統計
図6 東南アジア主要国のガス消費量推移
なった。特に域内ガス供給に陰りが見えて
きた昨今、このガス価格統制政策の矛盾が
2012.7 Vol.46 No.4 20
東南アジアのLNG輸入開始、東アジア市場向けLNGフローの変化
拡大してきた。
ギー価格の値上げが国民の反発を招き、政権崩壊に至っ
東南アジアのガス政策は、健全なエネルギー市場育成・
た事例もある。しかし域内ガス供給力に限界が見える今、
(エネルギー機関・ガス
ガス市場拡大を標榜する国際機関
関係国政府は適正な水準のガス価格引き上げに取り組ま
関連機関)からしばしばその非効率性を批判されてきた。
ざるを得ない。現に、インドネシア、マレーシアは、
その趣旨は、
「補助金付きの安価なガス供給は、①ガス生
2 0 0 7 ~ 2 0 0 8 年以降、徐々にガス価格を引き上げつつ
産者の投資意欲を損ね、その供給を阻害する、②安価な
ある。とりわけインドネシアでは、以前より社会が安定
ガス供給は消費者の浪費を招いて供給力以上に需要を増
してきたことから、エネルギー価格値上げは大きな混乱
加させ、健全な市場育成を妨げる」
というものである。
を招かずに受容されつつある。しかし政府が計画する期
経済の発展途上にある東南アジア各国政府当局にとっ
間内にガス価を市場価格に移行させることはなお難しい
ては、エネルギー価格決定を市場に委ねることは政治リ
のが現状だ。
スクを生む懸念があった。特にインドネシアでは 1 9 9 0
関係国政府にとって、補助金を削減しつつガス価格を
年代後半に、広く厨 房 用に使われる灯油を含むエネル
市場価格に近づけ、適正なガス需給を維持することは大
ひょうぼう
ちゅう ぼう
きな課題である。当然ながら、一般国民はこれ
まで慣れ親しんできた安価なエネルギー価格政
再生可能
100
水力
原子力
石炭
ガス
石油
%
策の変更に反対する。将来、東南アジア市場へ
のガス供給が順調に進展するかどうか、なお疑
90
問視されている。これは長期的にはエネルギー
80
源選択の問題につながる問題である。東南アジ
70
ア全域で、将来の発電用エネルギーに占める石
60
50
炭比率が拡大するとの見通しが有力であり、国
40
内でのガス利用促進策が大きな転換点を迎える
30
可能性が高い。
20
10
(2)東南アジアの LNG 輸入をめぐる背景
国
英
ア
国
米
a . マレーシア
ン
ド
ネ
シ
イ
タ
ア
以下に、
マレーシア、
タイの事例を取り上げる。
マレーシアはインドネシアと並ぶ東南アジア
イ
マ
レ
ー
シ
国
中
国
韓
日
本
0
出所:BP 統計
の伝統的な石油ガス生産国・LNG 輸出国であ
ほ てん
図7 アジア主要国の 1 次エネルギー消費比率
るが、近年ガス埋蔵量の補填が不十分でガス生
産量は横ばい状態にある。
サラワク州ビンツルのマレーシア LNG に原
7
ガス生産
Bcfd
ガス消費
料ガスを供給するサラワク・サバ両州のガス供
給力は、サラワク州沖合で新規ガス田発見があ
6
り(Kasawari、2 0 1 2 年 2 月発見)、サバ州沖合
5
深海油田(Kikeh, Gumusut 油田、2 0 0 2 ~ 2 0 0 3
4
年発見)で随伴ガスを期待できるなど、ある程
3
度の余裕がある。しかし主要国内市場のマレー
半島部にガスを供給する沖合ガス田群は既に生
2
産減退にある。マレー半島市場向けパイプライ
1
ン・ガス供給地域は、半島沖合油ガス田と隣接
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
20
05
20
06
20
07
20
08
20
09
20
10
20
11
0
出所:BP 統計
年
するマレーシア/タイ共同開発地域(MT-JDA)
に限定されており、これらの地域では近年大規
模ガス田の発見が見られない。中長期的には更
図8 マレーシアのガス生産・消費の推移
21 石油・天然ガスレビュー
に生産減退の進展が懸念される。将来の国内市
場向けガス田開発は、中小規模で高コストの条
アナリシス
Gas Field
Oil Field
MALAYSIA
FLNG
BLOCK K
BLOCK H
MURPHY
INDONESIA
Buluh
Rotan
Dolfin
MURPHY
B
LO
B
C
LO
K
G
C
K
J
St.Joseph
BLOCK CA1
BLOCK 2CBLOCK 2D
TOTAL DEEP
BLOCK CA2
PETROLEUM
BRUNEI
2,000m
MⅡ
Kikeh
Samarang
Gumusut
200m
Sabah
SK-316
FLNG
Kanawit
Kota
Kinabaru
Labuan
Mathanol Plant
Kasawari
MLNGⅠ
Erb West
Kinabalu
1,000m
Kumang
Kinarut
MLNGⅠ,Ⅱ
Miri
BRUNEI
SK-306
Sarawak
MALAYSIA
INDONESIA
Bintulu
出所:JOGMEC 作成
サラワク州ビンツルのマレーシア LNG と
図9 サラワク州 ・ サバ州ガス田、パイプライン
件の悪い案件が中心になってくる(高
。
温高圧、高 CO2)
Petronas は、マラッカおよびジョ
ホールにマレー半島市場向け LNG 受
入基地建設を進めている。
一方、
マレー
4,000
2,500
2,000
1,000
ラワク州沖合新規発見ガス田
500
(Kasawari)開発、マレーシア LNG 増
0
マレーシアはガス利用先進国の印象
年
20
12
20
13
20
14
20
15
20
16
20
17
20
18
20
19
20
20
20
21
20
22
20
23
20
24
20
25
20
26
20
27
20
28
20
29
20
30
持する方針である。2 0 1 2 年 2 月、サ
万トン)
。
LNG Import Capacity
3,000
1,500
建設、液化能力合計 2,4 0 0 万→ 2,7 6 0
Piped Gas Supply
3,500
シアはサラワク州の LNG 輸出量を維
強を相次いで表明した(第 9 トレイン
MMscfd
出所:Petronas
図10 マレー半島市場への PL ガス供給と LNG 受け入れ能力(見通し)
が強いが、エネルギーはなお統制価格
で 安 価 に 設 定 さ れ て い る。1 9 9 7 ~
1 9 9 8 年のアジア財政危機に際して、政府がそれまでの
ガス事業を独占する Petronas が負担している。
石油製品価格リンクで市場に委ねていたガス価を公定価
しかし、2 0 0 0 年代後半、原油価格高騰によってエネ
格に移行させた経緯がある。ガス価格の補助金相当額は
ルギーコストが上昇して補助金額が増加したことから、
2012.7 Vol.46 No.4 22
東南アジアのLNG輸入開始、東アジア市場向けLNGフローの変化
政府はエネルギー部門の補助金負担削減のためにエネル
タイは更に、隣国ミャンマーの Yadana、Yetagun ガス
ギー価格を引き上げ、
市場価格に近づけようとしている。
田(2 0 1 4 年に M9 鉱区ガス田からの輸入開始を計画)、
政府は、第 1 0 次計画・エネルギー政策のなかで、エネ
マレーシア ・ タイ共同開発地域(MT-JDA)からガスを輸
ルギーへの補助金を徐々に削減して、ガス価格を 2 0 1 5
入している。両国(地域)からのガス購入量も 2 0 2 0 年以
年までに市場価格とする目標を掲げている。徐々に補助
降は漸減する。国産ガス・パイプラインガス輸入から構
金 を 削 減 し て 撤 廃 す る ま で、6 カ 月 ご と に MR3
成される既存供給源からの供給量は 2 0 1 5 年ごろから減
(=US$0.9 1)/ MMBtu のガス価格値上げを行う計画で
少に向かうと予想される。
ある。
タイ政府・PTT はこうした前提の下に、不足するガ
これに先立ち、2 0 0 9 年 3 月には 3 5 ~ 8 0 %の大幅な
ス供給量を補うために LNG 輸入を決め、2 0 1 1 年 5 月に
ガス価格値上げが実施された。その後も段階的にガス価
LNG 輸入を開始した。現在、PTT 子会社 PTT-LNG が
格引き上げを実施している。マレーシア政府にとって、
Rayong 県 Map Ta Phut 産業港の LNG 受入基地(能力
計画に沿って今後のガス価格引き上げを実施できるかど
5 0 0 万トン/年)で LNG 輸入を実施している。
うかによって、高額の輸入 LNG を国内市場向けに導入
タイは 2 0 2 0 年ごろを目途に原子力発電開始を計画し
する政策の可否が決定される。
ていたが、2 0 1 1 年 3 月の東電・福島原発事故で、原発
域内のエネルギー供給状況と輸入 LNG の高価格から
建設計画は 3 年程度の遅延を生じる見通しである。需給
判断して、増加する電力需要をガス火力で賄うのは現実
見通し変更に伴うエネルギー不足は発生しないと見られ
的ではない。マレーシアの LNG 輸入は既存のガス火力
ている。こうした状況下で、LNG 受入基地能力拡張(5 0 0
発電所操業を賄う範囲にとどまり、増加する電力需要に
万→ 1,0 0 0 万トン/年)、第 2 LNG 受入基地建設の可能
対する新設発電所建設は主に石炭火力で対処すると見ら
性も議論されている。
れる。燃料炭調達は、世界最大の一般炭輸出国となった
タイ発電公社 EGAT は 2 0 1 0 年発電設備計画(PDP
隣国インドネシアからの輸入が可能である。
2 0 1 0)において、燃料別の発電量を想定している。
タイの発電用燃料はガス中心であり、2 0 1 0 年発電実績
b . タイ
のガス比率が 6 8 %の高率であった。将来の計画では、ガ
タイの天然ガス生産量は、Arthit、Bongkot などシャ
スによる発電量は2019年をピークに漸減を見込んでいる。
ム湾での主要ガス田増産によって 2 0 1 0 代半ばまで増加
代わって、輸入炭による石炭火力比率およびラオス等近
するが、
確認埋蔵量に基づく生産量はそれ以降漸減する。
隣諸国からの水力発電による買電量増加を計画している。
MMcfd
6,000
CAGR 5%
5,143
5,000
20% GSP
4,064
4,000
3,000
7% NGV
17%
4%
11%
14% Industry
68%
59%
2,000
Power
6,000
5,143
CAGR 5%
5,000
4,064
9% LNG
2%
20%
20% Import
79%
78%
71%
2010
2011
4,000
21%
3,000
2,000
Domestic
1,000
1,000
0
M9
LNG
Import
MMcfd
0
2010
2011
2012
2013
2014
2015 年
2012
出所:PTT 2010 年 11 月「ASEAN+3 天然ガス会議」
・供給見通し(右)
図11 タイの天然ガス需要(左)
23 石油・天然ガスレビュー
2013
2014
2015 年
アナリシス
Oil Field
Gas Field
Gas Pipeline
Gas-fired Power Station
LNG Receiving Terminal
LAOS
km
0
100
200
SIRIKIIT
MYANMAR
THAILAND
YADANA
Gawthaka
Zawtika
Kakonna
BANGKOK
Shwe
PyiHtay
Yetagun
Map Ta Phut LNG
CAMBODIA
INDIA
OCA
PLATONG
VIETNAM
Khanom
PAILIN
TH
A
IND ILA
ON ND
ES
IA
BONGKOT
MTJDA
出所:JOGMEC 作成
タイのガス関連設備(ガス田、パイプライン)と
図12 Map Ta Phut LNG 受入基地
MwH
350,000
Diesel
Renewable
Fuel Oil
Imported Power
Natural Gas
Imported Coal
Lignite
Nuclear
300,000
250,000
200,000
6%
6,000
19%
5,000
Nuclear
10
22%
20
20
出所:EGAT 2010 年版発電計画(PDP 2010)
図13 タイの燃料別発電量見通し
77%
0
30 年
20
17%
GSP
18%
Power
58%
15%
1,000
11%
7%
Industry
8%
2,000
24%
50,000
20
6%
14%
3,000
Natural gas
68%
0
NGV
4,000
36%
150,000
100,000
MMcfd
Gas demand forecast(CAGR during 2012∼2030)
:Total
∼1%
:Power
∼1%
:GSP
∼0%
:Industry ∼2%
5,422
:NGV
∼1%
58%
0年
8
6
4
2
0
8
6
4
00 002 004 006 008 010 012 01 01 01 02 02 02 02 02 03
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
20
出所:PTT 投資家向け 2012/Q1 分析資料
図14 天然ガスの用途別需要見通し
2012.7 Vol.46 No.4 24
東南アジアのLNG輸入開始、東アジア市場向けLNGフローの変化
Ktoe
180,000
CAGR 2.4%
CAGR 2.8%
160,000
%
R 3.9
CAGR 3.6%
140,000
120,000
3%
13%
2%
13%
14%
80,000
60,000
14%
38%
33%
40,000
20,000
38%
0
1%
6%
14%
106,263 Hydro/Import 4%
87,651
100,000
145,604
126,588
CAG
32%
Renewable 13%
Coal/Lignite 14%
Natural Gas 38%
163,812
Nuclear 2%
6%
15%
15%
17%
35%
33%
PTT によるタイの長期ガス需
要見通しは、この EGAT 発電計
画に対応している。ガス需要が
2 0 1 5 年ごろまで増加した後は、
発電、産業用ともに 2 0 3 0 年に至
るまでほぼ横ばいを見込んでい
る。このガス需要見通しに対応す
る1次エネルギー消費見通しでは、
Oil
31%
29%
27%
5 6 7 8 9 0 1 2 3
4
5 6年
4
1 2 3
0
9
03 004 005 006 007 008 00 01 01 01 01 01 01 01 01 01 01 02 02 02 02 02 02 02
2 2 2 2 2 2 2 2 2
2
2 2
2
2 2 2
2
2
2
2
2
2
2
20
2 0 1 0 年に最大のエネルギー供給
源であったガスは 2 0 2 6 年までに
最も大きく比率を減らす。代わっ
て供給量・比率を最も増やすのは
出所:PTT 投資家向け 2012/Q1 分析資料
石炭、次いで再生可能エネルギー、
エネルギー輸入(電力)と想定され
図15 タイの 1 次エネルギー消費見通し
ている。
3. 国によって異なる LNG 事業戦略:インドネシアとマレーシア
世界の LNG 供給国に占める東南アジア比率が縮小し
しかし、国内市場向けガス供給の対処に伴って、東ア
ている。ガス供給の多様化、
LNG市場のグローバル化(東
ジア市場向けの主要 LNG 供給国であるインドネシアとマ
アジア市場向け中心→世界各市場向け)の観点から見る
レーシアは対照的な LNG 輸出戦略を採ろうとしている。
と、ガス埋蔵量追加量が世界の他地域に比べて比較劣位
にある東南アジア比率の低下は自然な流れに思われる。
(1)インドネシア LNG 事業の現況
インドネシア政府は 2 0 0 0 年代後半に国内市場向けガ
ス供給に関する議論を重ねた結果、LNG 輸出を削減し
アラスカ他
ノルウェー
トリニダード・トバゴ
赤道ギニア
ナイジェリア
リビア
3,500
エジプト
アルジェリア
イエメン
オマーン
アブダビ
カタール
サハリン
豪州
ブルネイ
マレーシア
インドネシア
て国内市場向けガス供給に振り向けることを決めた。イ
ンドネシアは 1 9 7 0 年代~ 2 0 0 0 年代半ばまで、一貫し
て世界最大の LNG 輸出国だった。しかし 2 0 0 0 年代半ば
億m3
3,000
70
2,500
60
50
2,000
40
1,500
30
1,000
20
500
0
%
10
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011年
出所:BP 統計等
図16 世界の LNG 輸出の推移
25 石油・天然ガスレビュー
0
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011年
出所:BP 統計等
図17 世界の LNG 輸出に占める東南アジア比率の低下
アナリシス
には原料ガス供給が低迷して、2006 年に最大輸出国の地
率 =7 0 %)の共同調査を行う。こうした高 CO2 ガス田の
位を新興 LNG 大国のカタールに譲った。2011 年には、
商業生産が可能になれば、サラワク沖合に数多い高 CO2
カタール、
マレーシアに続く第3位のLNG輸出国となった。
ガス田開発への目処がつき、MLNG 向けフィードガス供
インドネシアは 2 0 1 0 ~ 2 0 1 1 年に、東アジア市場(日
給が更に拡充する。しかし開発・生産条件が悪いガス田
本、韓国、台湾)に対する LNG 長期契約量を大幅に削減
からのフィードガス供給比率が増加する場合、LNG 事業
して、LNG 主要供給国としての地位を降りる意図を明
のコストアップにつながることに留意する必要がある。
確にした。日本向け契約量は、以前の 1,2 0 0 万トン/年
MLNG は、2 0 1 5 ~ 2 0 1 7 年にかけて、東京電力・東
以上から、3 0 0 万トン/年への大幅削減になった(供給
京ガス・韓国 Kogas・台湾 CPC など東アジア主要 LNG
力があれば 3 0 0 万トンの追加オプションあり)
。ただし、
購入者との長期契約更改期を迎える。Petronas は東ア
ジャワ島の LNG 受入基地完成が数度にわたって遅れ、
ジア需要家との LNG 売買契約の継続を目指して、LNG
2 0 1 2 年 半 ば に よ う や く LNG 受 け 入 れ を 開 始 し た。
供給力の拡大・改善を強調し、買い主にアピールするな
2 0 1 0 ~ 2 0 1 1 年は国内の LNG 消費がなかったため、長
ど、着々と手を打ってきた。これまでマレーシアは、長
期契約終了後に生じた LNG 供給可能量は短期契約・ス
期売買契約を更改するには原料ガス供給力が不足すると
ポット販売で輸出を継続した。
見られて、契約更改には力不足とされてきた。ちなみに、
先に述べたように、インドネシアのガス転換は、石油
類似した状況を抱えるブルネイ LNG の日本側との長期
系燃料を使用する小規模な発電所・産業需要を中心に行
契約更改では、契約量は半減されて契約期間も短縮され
われている。石油系燃料はガスより更に高く、また輸入
ている。
品が多く補助金交付による国家財政負担が大きかったた
しかし 2 0 1 1 年 3 月の福島原発事故以降、東アジア
め、国内のエネルギー配分の観点からは合理的と考えら
LNG の需要見通しが上方修正され、LNG 需給見通しに
れる。インドネシア経済は、タイ、マレーシアに続いて
変化が生じた。併せて Petronas が新規ガス田を開発し、
工業製品輸出国の特徴を強めており、エネルギー輸出の
MLNG 液化能力増強を行うことから、Petronas の契約
依存度が下がっていることは事実である。
交渉にとっては追い風である。
め ど
しかし、これまでの長期間にわたって、世界最大の
LNG 輸出国として東アジア市場向け LNG 供給に果たし
てきた地位を簡単に放棄すべきだったのだろうか。かつ
(3)インドネシア・マレーシアの異なる LNG 事業戦略
の背景
ては国営石油会社 Pertamina が LNG 事業にある程度の
Petronas は産油国 NOC のなかでは自国の残存資源量
機能を持ってはいた。しかし 2 0 0 0 年代の改組後、自社
が少なく、自国での事業活動拡大に制約があるため、早
の経営政策を立てる機能が大きく低下し、LNG 産業を
くから事業の国際展開を図ってきた。また優位性を生か
石油企業の戦略的分野と認識できなかった側面が垣間見
せる事業分野として LNG 操業に自ら深く関わってきた。
える。隣国マレーシアの Petronas が LNG を成長分野と
Petronas の海外探鉱事業では大きな成功事例はまだな
して更に発展させようとする姿勢と、対照的である。
い。しかし LNG 事業では、東アジア購入者の間で、信
頼のおける LNG 供給者としての評価を築き上げてきた。
(2)
マレーシア LNG 事業の現況
エジプト LNG にも参入しており、カナダ西岸ではガス
マレーシアはマラッカ LNG 受入基地建設を完了させ、
生産者 Progress 社とともに東アジア向けの新規 LNG 事
2 0 1 2 年に LNG 輸入を開始する。しかし、サラワク州ビ
業立ち上げを計画している。Petronas にとって LNG 事
ンツルにあるマレーシア LNG(MLNG)は、依然、輸出
業は上流事業に次ぐ重要な事業部門であり、収益源であ
継続の意思を明確にしている。
る。将来の業容拡大のなかで LNG 部門に期待するとこ
MLNG を操業する Petronas は、2 0 1 2 年 2 月に相次い
ろは大きい。マレーシア政府にとっては、Petronas は
で、サラワク州沖合で新規に発見された大型ガス田
最 大 納 税 者 の 一 翼 を 担 い、Petronas の 発 展 に 占 め る
Kasawari の開発、MLNG 液化設備増強(第 9 トレイン
LNG 分野の重要性を十分に理解している。
3 7 0 万トン/年の増設)を発表した。中長期的には、サ
LNG 事業政策に対するインドネシアとマレーシアの
バ州沖合油田(Gumusut 等)随伴ガスを陸域パイプライ
スタンスの違いは、一義的には政府のガス政策の具体的
ンでビンツルに輸送して MLNG フィードガス用に用い
な実行方針の違いである。インドネシアは、LNG 輸出
るなど、着実なフィードガス供給体制を整えつつある。
量の大幅削減によって国内市場向けに国産ガス・LNG
更に Total とともに高 CO2 含有ガス田 K-0 5 開発(CO2 比
を振り向けようとする。当面は高額な輸入 LNG 購入を
2012.7 Vol.46 No.4 26
東南アジアのLNG輸入開始、東アジア市場向けLNGフローの変化
BLOCK CA1
Total DEEP
BLOCK 2C BLOCK 2D
BLOCK CA2
PETROLEUM
BRUNEI
2,000m
MⅡ
Gumusut
1,000m
Kasawari
SK-302B
Kumang
MLNGⅠ
FLNG
K05
Kanowit
SK-316
200m
NC8 SW
MLNGⅠ,Ⅱ
Miri
SK-306
MALAYSIA
Gas Field
Oil Field
INDONESIA
Bintulu
出所:JOGMEC 作成
図18 東マレーシア・サラワク州沖のマレーシア LNG と沖合ガス田群
控える。
これに対して、
マレーシアは主たる市場のマレー
式を保有する特殊法人に改組された。企業としての実力
半島市場向けに輸入 LNG を当てる一方で、サラワク州
は拡充しつつあるものの、いまだ収益性は弱い。既存
の MLNG 輸 出 量 を 維 持 し よ う と し て い る。 ま た、
LNG プロジェクト(アルン、ボンタン)のマーケティン
Petronas は LNG 購 入 先 の 豪 州 ク イ ー ン ズ ラ ン ド 州
グを担当しているとはいえ、全般的な LNG 事業への関
GLNG 権益 2 7.5 %を購入して事業参加した。
与の度は弱い。新規 LNG 事業(タングー、スノロ、アバ
次 に 両 国 の LNG 政 策 の 違 い に は、Pertamina と
ディ等)にも直接関与していない。
Petronas の企業としての成熟度が大きく関係している。
このように Pertamina は Petronas と異なり、インドネ
Petronas は、全ての国内油ガス田に自社権益を保有す
シアの LNG 産業の将来に直接関与する立場にない。イ
ることで安定的な収入を確保して主体的に企業経営を行
ンドネシアは 1 9 9 0 年代の政治的混乱期を経て、2 0 0 0 年
い、将来の企業成長ビジョンを自ら定めている。これに
代にエネルギー政策が大きく転換するにあたって、将来
対し Pertamina は必ずしも国内の有望な油ガス田に権益
のエネルギー成長分野として LNG 産業の重要性を適切
を保有しておらず、もともと収入基盤が弱い。国内市場
に判断して育成する視点が欠落していたと考えられる。
向けに十分な石油製品を供給するだけの原油処理能力を
将来のインドネシアの LNG プロジェクトは、政府の
持たないため、原油価格高騰下で国際市場から高い製品
監督の下にそれぞれの事業者に委ねられる。なお東南ア
を購入して安い公定価格で販売せざるを得ず、大きな欠
ジアでは最大の探鉱ポテンシャルを持つインドネシアで
損を生じている。まずは収益構造が不安定である。また
の新規発見とともに、LNG プロジェクトの健全な発展
2 0 0 1 年の石油ガス法改正で政府機能を失い、政府が株
を願う。
27 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
4. 東アジア市場への LNG フローの変化
(1)LNG フローの変化
く。そのなかで、中国はシェールガス商業生産の可
本 項 で は、 既述の東南アジア・ガス需給の 変 化 と
否によって LNG 輸入の必要量が大きく変動するた
LNG 輸入開始を念頭に置きつつ、東アジア市場向け
め、
長期的に最大の不安定要因となる
(2 0 2 0 年以降)
。
LNG フローの変化を考える。世界の LNG 需給は新たな
・東 南アジアの LNG 消費量は拡大するものの、長期
展開を迎えようとしている。
的な新設発電用エネルギーとしては石炭が選好され
a .LNG 需要サイド
ると見られ、アジア市場全体で東南アジアが占める
・まず、北米のシェールガス等非在来型ガスの好調な
比率は一部分にとどまる。
生産見通しにより、米国は将来の LNG 輸入市場の
機能を返上した。2 0 1 1 年に LNG 輸入比率で 6 3 %を
b .LNG 供給サイドも大きな変化を生じる
占めたアジア市場が引き続き最大の LNG 市場の位
・こ れまで最大の LNG 供給地域だった東南アジアの
置を維持する。
供給比率は徐々に低下する。これは本稿前段で議論
・ただし、今後はアジア市場内部の構成比率が、成熟
経済圏中心から、新興経済圏へと徐々に変化してい
したように、ガス新規供給力の低下と域内ガス需要
増加による。
・LNG の 最 大 供 給 地 域 と し て オ セ ア ニ ア( 豪 州、
ポルトガル 他
1%
イタリア
3%
トルコ
2%
ベルギー・
オランダ
英国
2%
8%
メキシコ・
中米
2%
米国・
カナダ
4%
クウェート・
ドバイ
1%
調に進展すれば 2 0 1 7 年)。
・更 に長期的には、北米、東アフリカが新規 LNG 供
給国として登場する(2 0 1 0 年代末~ 2 0 2 0 年代)
。
韓国
15%
・北米、東アフリカの新規 LNG 登場時期には(2 0 2 0
年以降)
、新規供給者間の競争が激化する可能性が
ある。豪州で投資未決定の後発 LNG プロジェクト
タイ
0%
は契約獲得競争が激しくなる結果、成立しない可能
性がある。豪州はコスト高、労働力不足の弱点を抱
えており、長期契約獲得が遅れるほど不利になる。
図19 LNG 輸入国の内訳(2011 年)
16,000
ウ ィ ン、Pluto) か ら 成 る 豪 州 の LNG 供 給 力 は、
ルに取って代わる世界最大の LNG 供給国になる(順
出所:BP 統計等
万トン 年
PNG)が台頭する。現在 3 プロジェクト(NWS、ダー
2015年から2020年にかけて飛躍的に増加し、
カター
南米
3%
日本
32%
スペイン
7% インド 中国 台湾
5% 5% 5%
フランス
4%
2011年LNG輸入量
(総量2億4,180万トン)
日本・韓国・台湾
インド
中国
東南アジア
14,000
12,000
万トン 年
東南アジア
中東(設備×50%)
オセアニア
その他
10,000
12,000
10,000
8,000
8,000
6,000
6,000
4,000
4,000
2,000
2,000
0
2011
2015
2020
出所:JOGMEC 作成
図20 地域別に見たアジア市場の LNG 需要想定
年
0
2011
2015
2020
年
出所:JOGMEC 作成
地域別に見たアジア市場向け
図21 LNG 供給の可能性
2012.7 Vol.46 No.4 28
東南アジアのLNG輸入開始、東アジア市場向けLNGフローの変化
が一長一短の様相を呈するが、コストアップ要因を
$/MMBtu
18
抱えるプロジェクトは、やや不利になる可能性があ
16
る(豪州の後発案件等)。長期契約獲得競争は既に始
14
12
まっており、契約が獲得できなければプロジェクト
10
が成立しない。
8
6
ドイツ
4
英国
2
米国
米国で LNG 輸出申請が数多く提出され(2 0 1 2 年半ば
東アジア(日本)
で 1 3 件 以 上、 申 請 液 化 能 力 合 計 1 億 ト ン / 年 以 上 )、
5月
3月
11
20
月
12
年
1月
9月
7月
5月
3月
20
11
年
1月
0
東アジアの LNG 価格フォーミュラ
(3)
Cheniere 社 Sabine Pass LNG がタリフ方式(H.H 市場価
格での原料ガス購入価格+固定タリフ)で長期契約を締
出所:NYMEX、ICE、IMF、日本財務省貿易統計をもとに推定
※米国:Henry Hub 先物価格(出所:NYMEX)
※英国:NBP 先物価格(出所:ICE)
※独:ロシア国境渡し天然ガス価格(出所:IMF)
※日本:平均輸入 LNG 価格(出所 : 財務省貿易統計他)
結したことから、東アジアの原油価格を指標とする
LNG 長期契約価格フォーミュラ変更への期待が高まっ
すうせい
ている。趨勢として、欧州大陸で市場価格によるガス取
引比率が上昇しているように、将来は他地域でも市場価
図22 市場別の LNG 価格・ガス価格
格による取引比率が増加すると考えられる。東アジアで
最近締結されたLNGポートフォリオ契約
(供給プロジェク
トを特定しない)では、価格要素に他地域の市場価格要素
(2)
時期によって大きく変化する LNG 需給
が部分的に使用されている模様である。しかし、その導
2 0 1 2 年夏季、日本は関西電力大飯原発再稼働にこぎ
入タイミングと程度に関しては冷静に考える必要がある。
つけたものの、なお電源不足から LNG 調達が逼 迫 して
・東 アジア向け LNG 供給は長期契約中心であり、事
ひっ ぱく
いる。LNG 需給タイトを反映して、2 0 1 1 年 4 月以降、
業採算と価格フォーミュラを確定してからプロジェ
東アジア LNG スポット指標価格が上昇して、欧州 LNG
クトが成立する。
スポット価格との価格差が拡大している。
・現 時点では、東アジア市場での新規 LNG 契約のほ
しかし、LNG短期需給(2 012年)
、中期需給(~ 2 015年
とんどが豪州案件であるので、2 0 2 0 ~ 2 0 2 5 年の
ごろ)
、長期需給(2 0 1 0 年代末以降)は大きく異なること
期間の東アジア向け LNG 供給の 4 0 ~ 5 0 %はオセ
に留意すべきである。 アニア LNG によって占められる。供給形態は、原
・2 0 1 2 年夏季、日本の原発停止で電源は既に不足し
油価格を指標とする長期契約フォーミュラによる。
ており、代替エネルギーを調達せざるを得ない。新
・他の既存 LNG 供給地域(東南アジア、中東)と新規
たに操業開始する長期契約による LNG 供給源は少
LNG 供給地域(東アフリカ、カナダ)の供給形態も、
なく、不足分はカタール、大西洋圏の非長期契約カー
基本的には原油価格を指標とする長期契約である。
ゴを短期・スポットで調達せざるを得ない。タイト
・米 国の LNG 輸出価格フォーミュラは、H.H 市場価
な需給を反映して価格は高止まりしている。
格を基本とする。したがって、米国でどれだけの
・2 0 1 5 年ごろまで、やはり新規 LNG プロジェクト稼
LNG 輸出が認可され、どの程度の輸出供給力が確保
働が少ないためにタイトな LNG 需給状況が続くと
できるかが問題になる。申請案件全体の 1/3 ~ 1/4
見られる。
程度が成立すると見るエネルギー専門家は多い
・2 0 1 5 年ごろから豪州新規プロジェクトが順次生産
を開始する。東アジア向け長期契約供給量が潤沢に
なってスポット価格は沈静化、欧州水準に近づく。
・長期的には(2 0 1 0 年代末以降に操業開始する案件)、
前項で述べたように、豪州未投資決定案件に加えて、
北米・東アフリカ LNG 案件の登場から長期契約獲
得競争が厳しくなる。東アフリカ、カナダ案件はア
ジア市場志向と見られ、長期契約を獲得しないと資
金手当ての目処がつかない。それぞれの地域の案件
29 石油・天然ガスレビュー
(→ 3,0 0 0 万~ 5,0 0 0 万トン/年)。
・ここでは米国の LNG 供給力を 4,0 0 0 万トン/年、う
ち 6 0 %が東アジアに供給されると仮定する。
4,0 0 0 万トン/年× 6 0 % =2,4 0 0 万トン/年が東ア
ジア市場向け
・本 項の 2 0 2 0 年時点のアジア LNG 需要= 2 億 3,0 0 0
万トン/年
・ア ジア LNG 市場における米国 LNG 比率= 2,4 0 0 万
/ 2 億 3,0 0 0 万= 1 0 %
アナリシス
・アジア LNG 向け LNG 供給のうち、1 0 %程度が米国
H.H 市場価格ベース
1 5 %を市場価格扱いとする)
、欧州大陸のガス調達は最
大供給元 Gazprom(約 2 5 %)のほかに、域内生産(オラ
ンダ、英国)、ノルウェー・北アフリカからの PL ガス輸
したがって、中期的に(~ 2 0 2 5 年ごろ)
、アジア市場
入、英国・ベルギー経由のカタール LNG 輸入など、代
への LNG 供給は大勢が原油価格を指標とする長期契約
替調達オプションが豊富だった。
ベースであり、米国市場価格に基づく取引比率は一部分
日本市場もガス調達の交渉材料となり得るオプション
にとどまると考えられる。なお、BG 等ポートフォリオ
を簡単に放棄すべきではない。既存の域内ガス生産は、
LNG 事業者による供給は、現在のようなスポット価格
ほとんどなくとも、実現可能性のあるいくつかのオプ
で供給される。
ションが考えられる:
この 1 0 %程度の市場価格比率は、決して侮れる数字
・メタンハイドレート商業生産の実現
ではない。LNG 需給緩和下では、長期契約価格条件の
・パイプライン・ガス輸入
引き下げ要因として機能する可能性がある。
(サハリン、韓国経由のロシア産ガス)
売買条件交渉では、当然ながら、買い手は安く買おう
・一定比率の原子力発電維持
とし、売り手は高く売ろうとする。日本を含む東アジア
(ガス需要規模のコントロール→ガス需給逼迫懸念
伝統市場はガス調達のオプションが LNG 輸入に限られ
ている。東アジア市場は
「プレミアム市場」
と言われ、代
替調達源がないから、言い値で売れる市場と見なされて
の緩和)
・エネルギー需要抑制・効率消費に係る手法開発・技
術改良
いる。購入側は売り手の好意を期待するのではなく、で
・液化設備建設技術改良(洋上液化技術を含む)
き る だ け 交 渉 材 料 を そ ろ え る べ き で あ る。2 0 0 9 ~
液化事業進出・技術供与
2 0 1 0 年に E.ON Ruhrgas など欧州大陸のガス購入者が
ロシア Gazprom から譲歩条件を引き出した際(購入量の
おわりに
本稿は、これまでの主要 LNG 供給地域だった東南ア
変化、新規 LNG 供給地域の登場、それに伴うフロー・
ジアが LNG 輸入国に転じようとしている現情認識から
購入形態の変化が起こりつつある。
始めて、東アジア市場向け LNG フローの変化を概観し、
この変化の方向性を引き続き、注視していきたい。
LNG調達価格の見通しを考えた。各地域でガス需給の
執筆者紹介
坂本 茂樹(さかもと しげき)
長野県生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。当時のテーマは低開発経済の開発論。
日本石油(株)
(現JX日鉱日石エネルギー(株))入社。 1991年から日本石油開発(株)で海外の石油ガス上流
資産管理・新規案件発掘業務に従事。 2004年10月からJOGMEC 石油企画調査部 上席研究員。
主要担務は、アジア太平洋地域の石油ガス開発状況・プロジェクト調査、世界ガス・LNG事業状況調査。
2010~2012年期、世界ガス会議(マレーシア・クアラルンプール開催)の準備を行う世界ガス協会ガス市場委
員会の東アジア・グループリーダー。
2012年7月からJX日鉱日石リサーチ勤務。
エリア・スタディーに興味を持っている(主に旧大陸)。
余暇は、週末の競技ボート練習、読書(歴史物・中国武侠小説)。
2012.7 Vol.46 No.4 30
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